第2講 古代ギリシア・ローマの経済思想 共同体の経済と市場の経済 経済の旧い見方は、「共同体の必要を充 足する配慮」を意味していた 1 源流としての 古代ギリシア・ローマ * 大学で学ぶ学問の多くは主に近代西洋で成 立したものが多い。その起源をさぐると、さらに 古代(BC500-AD300年)のギリシアやローマで生 まれた学術に行きつく。 * いまでも学名などにラテン語(古代ローマs の言語)が用いられている。 * 哲学者アリストテレス(384-322BC)は「学 者のなかの学者」「万学の祖」と呼ばれた。 * 古代西洋の経済はどのような仕組みで動いて いたか? 2 1.地中海地域 古代経済の特徴 部族制の農業社会⇒市場交易は補足的 都市の成立: 3 民族移動がしばしば起こり、「蛮族」 が侵入し征服がおこった。防衛のための集住 大河川のもとの穀倉地域(エジプト、メソポタミ ア)、平地(ペルシア)のように大帝国は形成さ れず、独立性の強い都市国家にとどまった ⇒遠距離交易、植民都市建設 都市住民の給養の必要性 奴隷制(家内奴隷、債務奴隷、戦争奴隷、被征服 民)の普及 家(オイコス)共同体を基本にした経済 経済 (エコノミー)は、オイコス(家)+ノモス(と りきめ、法、やりかた)、つまり、家長が家を賢 明に管理すること、またはその規則 家族、奴隷、家畜、財産を賢明に管理して構成員 のニーズを充足すること この考えが、都市経済にも適用された(アリスト テレス、クセノフォン) 都市経済にとってのニーズ(食料、水、燃料、奴 隷、防衛)⇒都市(ポリス)のエコノミー 4 都市における市場の発展 アゴラ(交易の場=市場であると同時に政治の場) 貨幣的取引と金融業の発展 遠距離交易と植民地・従属地支配による利得 奴隷獲得のための征服戦争 ニーズの充足のための経済(オイコノミア)と区 別された金儲けのための取引(クレマスティケ) の区別 奴隷、外国居留民、市民の地位の格差 5 アリストテレスの経済思想 家の管理の延長としての政治経済 <取得の技術>オイコノミケー と<金儲けの技術>クレマスティケーの区別 市場における交換の考察 比例的な正義 普遍的な計量基準としての貨幣 6 ローマの法思想 所有権の絶対 厳格な家長制 支配(ドミニウム)=所有 抽象的・絶対的な「権利」(半分呪術的) 所有権、債権、契約など現代の法思想の源流 しかし、雇用の概念は存在しなかった (奴隷制 の存在。「家畜あるいは奴隷の賃貸し」はあっ た) 貨幣的な市場と絶対的な家父長家族の組合わせ 7 「経済」の2つの意味 8 実質的な経済 形式的な経済 社会=共同体の存続 効率性の達成 エコノミー=ニーズの エコノミー=節約 充足 共同体と制度 具体的な財と環境 主体は個人 市場と貨幣 経済に対する見方 伝統的な見方:経世済民:為政者が配慮すべき人 民の生活 古典的な見方:利潤をもとめて投資し生産をおこ なう資本主義の経済 新古典派的な見方:市場経済:合理的な経済人が 市場で取引きをおこなう経済 20世紀:組織と市場の双方からなる経済 社会経済学的な見方:自然環境の制約のもとに、 歴史的に形成された社会構造と制度のなかにある 進化する経済 9 古代ローマの都市経済 恒常的な戦争=遠征 貨幣経済と過酷な法支配 農業社会の解体ー都市プロレタリアの成立 富裕な門閥貴族の支配 大土地経営(ラティフンディウム)と奴隷制 独裁官から皇帝権力へ ローマ市民権の普遍化・キリスト教の浸透 奴隷制の実質的崩壊 10 帝国分裂・解体と都市の衰退 統一的支配の限界:軍事・行政制度の限界をこえ た 民族大移動により都市経済のネットワークが寸断 11 される 奴隷制が維持不可能になる 地方への退去 農奴制への移行 キリスト教会が文化を保持 課題 アリストテレスのいうように、ニーズにも とづいた取引(オイコノミケー)と金もうけのた めの取引(クレマスティケー)は区別できるか? Q1. 西洋古代においては奴隷制があった。現代 では奴隷制はあるだろうか? 古代における奴隷 にあたるものは何か? それは奴隷制とどこで区 別されるのか? Q2. 12
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