池 の 魚 類 生 態 系 調 査 活 動 が生 み 出 す地 域 の 学 び の 場 一魚たちが教えてくれたこと一 松 山 豊 樹 奈 良教 育大 学物 理 学 教 室 2生 Learning Field PrOduced by an Activity of lnvestigating an Ecological System of Fish in a Pond -What We Learn from Fish- Toyoki Matsuyama Department of Physics, Nara University of Education 1. は じめに 本学 の立 地す る奈 良盆地 は大 和文化 の重要 な拠 点であ った 。そ こに点在す る野池 は農業用水 の 貯水 に利用 されて い た り、海 の な い本県 にあっては魚類 を育 む場 として、 古 くか ら住民 の生 活 と 密接 に結 びつ い て きた。近年益 々加速 され る世界規模 の環境破壊 の 中 で、地域住民が切実 に知 り たいのは 身近 な環境 で起 きて い る ことでは ないだ ろ うか。 我 々 は、 身近 な環境 の一 つ で あ る野池 で、 そ の管理 を行 って い る水利組合 と連携 し、地域 の住 民 と共 同で調査活動 を行 って来た。その調査 の学術的な成果 は、松 山 (2003)及 び松 山 。 田中 (2003) によって公 表 されて い る。 一 方、 この調査活動 は様 々 な教 育実践 の起爆材 となった。 時 として それは我 々の想定 を越 える 範 囲 に広 が って行 った。 そ こでの体験 を鑑み るに、ぜ ひ と も環境教育の実践 の 記録 として残 し、 今後 の発展 の糧 とすべ きであ る との考 えに至 った。以 下 では、 本学 の授業 を活用 した教 育実践、 大学 院生 の修 士 論文指導、地域 との連携 、地元住民 。高校 生 の協力 とい った観点 ご とに環境教育 の実践 を報告す る。 2.教 育実践 の試 み 野池、河川 は我 々の 身近 な環境 の変化 を体感 させ て くれ る格好 の フィール ドである。 さらに、 そ こで魚類生態系 の調査 を行 う こ とで、漫然 と見 て い る環境 の変化 の 中 に確 固た る法貝1が 存在す ることを見 出す こ とがで きる。それは将来の環境 をよ り良 い状態 に管理 して い くための指針 を与 えて くれ る。 客観 的デ ー タの採取 とそのデ ー タの科学 的分析 を通 して、未 来 を見 つ め る とい う教 育実践 の一 例 を提示 で きれば と考 える。 (1)総 合演習 新規総 合演習 の カ リキ ュ ラム 開発 が、我 々の活動 の 目標 の一つで あ った。 そ のため、当時す で に展 開 されて い た 総合演 習 「科学技術 の進歩 と人 間生 活」 (久 保、松 山、 中村 担 当)の 受講 生 か ら魚類 生 態系調査 に参加 して くれ る学生 を募 った。 また、 この情報 を聞 い て授業 とは全 く関係 の な い学生が飛 び入 り参加 を して くれ、学生 4名 、補助 の大学 院生 1名 、教官 1名 の計 6名 で調査 班 を編 成 した。安全性 を考慮 した とき、ち ょ う ど良 い 人数であった。 機材 の扱 い方 の指導 な どの事前 の準備 に、 通常 の時間割 で 1か 月 をかけた。初めての試みなので 55 安全性 にかな り留意 した のは言 うまで もない。本調査 は、何分 に も自然が相手 で天候 に左右 され、 また時 間を細切 れ に切 って行 うの は効率が悪す ぎるので、終 日調査 を 4日 間 に集 中 させ た。季節 的 に調査対象魚 は在 来魚、 中 で も鯉 を中心 に した。 11月 中旬 であったため、夕刻 にはか な り気温が下が つて寒 く、結構 ハ ー ドな調査 となったが、 学 生 たちは熱心 に調査 に参加 して くれ た。おかげで全員が大型 の鯉 (50cmク ラス)を 捕獲 す る こ とに成功 した。 ほ とん ど生 まれて初め ての体験 で あ ったため、大喜 びであ った。 捕獲個体 の体長 と体重 を記録 し、標識 をつ けて放流 した。時期 的 にか な り捕獲 が 困難 だ ったた め再捕獲 はで きなか ったが、 資料 か ら体長 と体重 の相 関曲線 の作成 を行 った。 それ に よる と、 こ の池 の鯉 の栄養状態 は標 準 よ りは悪 い と言 う結果 となった。 平成 15年 度 には、新規 の総合演習「飛 び出せ │、 フイー ル ド探検隊」 をス ター トさせ た。 この 総合演習 は魚類生態系調査班 だけで な く、畑 での作物作 りの班、 ビオ トー プ作 りをす る班 の計 3 班 か ら編成 されて い る。授業 の展 開時期 も天候 ・ 気温 な どの 自然条件 に配慮 して後期 か ら前期 に 移 した。総合演習 の履修調整 で は、履修希望者 が大 き く増 えた。 しか し、他 の総合演習 の定員 を 埋 めるための調整作業 で、我 々の総合演習 には結 局 13名 が配置 された。そ の うち 2名 が魚類生態 系調 査 を担 当 した。 この年度 も前年度 と同様 の メニ ュー を課 したが、そ こで痛感 したのは学生 に よっては、調査作 業 に集 中 させ るこ とが極 めて困難 な場 合 があ る とい う点 で あ る。前 年度 は、非常 に良 く作業 に集 中 して くれ たが、そ の年 は、 調査 を持続 させ るの に苦労 が 多 か った。 この よ うな場合、学 生の調 査 へ の動機付 け を どの よ うに形成 した らよいの か と言 う課題 が残 った。 こ う した経験 を踏 まえ、 今後 もノウハ ウの一 層 の充実 を計 りた い。 (2)生 活科 生活科 は小 学校低学年 向け に設定 されてお り、生態学 の高度 な専 門性 よ り、取 りあえず は生 き 物 との触 れ合 い が優先 され る。 しか し、そ の触 れ合 い を実現 させ るため に、教 師側 は対 象 となる 生 き物 の生 態 につ いてか な りの知識 を持 っていな けれ ばな らない 。 さ らに、生 き物 を捕獲 した体 験が ほ とん どない生徒 に、授業 の 中 で ど うい う指導 を して い くべ きか、思 った よ り難 しい 問題 で あ る。今 回、本学 の生 活科 を履修分野 とす る学生対象 の本学 の前 田先生 の授 業 の 中の、 河川 での 魚類捕獲 の野外演習 に実際 に参加 させ て もらい状況 を具体 的 に見 聞 した。 前 田先生 の授業 で非常 にユ ニー クだ ったのは、魚類 を捕 獲す るための釣 具 を自作す る ところか ら始 めて い る点であ る。 竹 や ぶか ら竹 を採取 し、それに仕掛 け を付 けて釣具 とす る。 昔 の 人たち は、専 門 の釣具 メー カー もな く、 こ う して 自作 を行 い 、 また、道具 に改 良 を施 して独 自の漁法 を 生み出 して行 ったはず で あ る。 ただ、短 い授業時 間 ではなか なか 自前 の道具 で捕獲 を行 うのは困 難 な ようで、参加学生 はあ ま り捕獲 が うま くいか なか った ようであ る。最 後 は、 前 田先生御 自身 が川 に入 り手 づ かみで捕獲 して い た。 これには、一 同、大変驚 い た。 (3)附 属小学校 の生徒達 と共 に 近年、附属小学校 の生徒 が研究室 に遊 びに来 るよ うになった。 だ いたい顔 ぶ れが固定 して いる ので あ るが、4∼ 10人 が放課後 、 な だれ込 んで くる。 いろいろ研究室 内 を物 色 し様 々な質問 を浴 びせ て くる。物理学実験 の コンピュー タ演習 に参加 した りも した。 調査活動 が始 ま って しば ら くしたあ る 日、 この生徒 たちに衝撃が走 った。その ころ魚 に付 ける 標識 の魚 に与 える影響 や、標識 の脱落 まで の期 間な どを調 べ る水槽実験 を行 って い た。研 究室 に 大型水槽 を設置 し、 ライギ ヨとブラ ックバ ス を飼育 して い た。それ を生徒 たちが見 つ け たのであ る。 もう、大騒 ぎで、特 に一 見異様 な姿 を した ライギ ヨは大人気 であった。それか ら興 味深 い こ 56 とが起 きた。 ライギ ョや ブラ ックバ スの餌 は、基 本的 に生 きた小魚で あ る。生徒 たちは、 日の前 で ライギ ョや ブラ ックバ スが生 きた小魚 を丸飲 みす るシー ンを目撃 して しまったので ある。 生 き 物が生 き物 を補食 す る光景 に衝撃 を受 けた よ うで、「か わいそ う」が最初 の感想 だった。「食物連 鎖」 の説明 を し、 普段 自分 たち も意識 して い な いが生 き物 の命 を奪 って食物 を得 て い ることを話 す と、生徒 たちは何や ら神妙 な顔 で考 え込んでい た。 聞 くと見 るとでは大違 いで、 習 って頭 で知 っ ている ものの 、 日の前 の捕食 シー ンは最 も明示 的であ る。相 当なイ ンパ ク トを生徒 たちに与 えた よ うで ある。 その他 に も、飼育 中に死亡 した ライギ ョの解剖 を本 学 の松 井研 究室 の大学 院生 の指導 の下、 附 属小学校 の生徒 たちに見 て もらった。 本調査活動 を行 って い る大 学 院生や調査 に協力 して もらっ ている高校 生 に、 ライギ ョの生 態 の説明 を して もらった。参加 メ ンバ ー を見 た と き、通常 で はあ り得 な い組 合 わせ の 人たちが和気調 々で交流 して い る。そ こには何 の 強制 もな い。 これが、本 当 の教育 なのだろ うな との感 を強め、 私 自身教 え られ る思 いで あ った。 (4)修 士論文指導 魚類生態系 の調査 と未来予測 を、 今 回、教育学研究科理科教育専攻 の大学 院生 の修士論文 の課 題 に設定 し、そ の修論指導 を行 った。そ の成果 は前述 の ように松 山 。田中 (2003)に 譲 る。 修± 1回 生 では非線形科学 の基本 的手法 の習熟 に務 めた。ゼ ミ形式 で、 非線形現象 を数理 モ デ ル によって解析す る手法や、 よ り具体 的 に、 採取 したデ ー タを コ ンピュー タを援 用 して統計処理 す る方法 を学 ばせ た。 フィール ドの状況 を見 なが ら修± 1回 生 3月 頃か ら、実 際 にフ ィー ル ドに 出てデ ー タの採取 を開始 した。調査 は天候 に依存す るが 週 に 3回 以上 のペ ースで デ ー タ採取 が行 われた。一 日のス ケ ジュール は、 魚 の活性 に依存 して調整 され る。 寒 い時期 は水温 の 高 い昼過 ぎ の 時間帯 、暑 い時期 は水温 が下が った朝夕 の 時間帯 に調査の ピー クを持 って きた。朝 は早 い時 で 4時 か ら、夕刻 は 日没 まで調査 を実施 した。デー タは、そ の 日の うちにパ ソ コ ンに入力 を済 ませ た。ねば り強 くデ ー タ採取 を続 けたが、7月 後半か ら 8月 前半 には、 暑 さのせ い で外来魚 の活性 が 一 時落 ち るが、 この 間 に外来魚 の主 食であ るモ ツ ゴの個体 数調査 を実 施 した。 2回 生 の 9月 後 半 で外来魚 は反応 しな くな り、以 降、調査対象 の主 力 を在来魚 に移 した。 同時 に調査 デ ー タの解 析 を開始 し、1月 半 ばには結果 を出す に至 った。 この課題 は、生態 学、非線形数理科学、物理学、環境科学、等 々のい くつ もの専 門分野 にまた が り、非 常 に総合 的 な課題 で あ る。その意味 で、 各専 門 の教官が密 に連携 で きる、教 育学研 究科 の利点 を最大 限に利 用で きる課題 で あ る と考 える。 また、近 年 の初等、 中等教育 での教科 の総合 化 の需要 に即 した課題 で あ り、 モ デ ル ケー ス として大 変有意義 な研 究 で あ る と考 える。多教科 を 横 断 した学際的な研究 は、益 々、重要 度 を高め る もの と思 われる。その ような研 究課題 を開拓 し て い く必要がある。 3.地 域 との連携 環境教育 を実践す る上 で欠 くこ とので きな い重要 な要 素 の一 つ が この地域 との連携 であ る。今 まで述 べ て きた成果 も、実 は、 この地域 との連携 な くして実現 しなか った。特 に、 野外生態系調 査では地域 住民 の 方 々 に大 変お世話 になった。 (1)水 利組 合、 自治会 の協力 まず は、調査池 の選定 で あ る。 野池 は農業用水 の貯蓄 のため に地 域 の水利組合 で管理 されて い る。 決 して学術研 究 を 目的 とした存在 では ない。 水量、水 質 は、 農業が最適 に営 める よ うに季節 に応 じて調整 されてお り、場 合 に よっては、池 の水 を完全 に抜 い て しま うことが あ る。そ うなっ 57 た ら生態系 は完全 に破壊 され て しまう。継続 的な生態 系調査 を行 うために は、 単 に調査 の 許可 を 得 るだけでな く、地 域住民 に調査 の学術 的意義 に賛 同 して もらう必要があ る。その意味で、池 の 選定 にあたっては、か な り慎重 に事 を運 んだ。最終段 階 で、 奈良市 内 の鹿野 園町 と東 九条町 に所 在す る野池 に絞 り込 み、 水利組合 との交渉 に当た った。その際、大変お世話 になった の が、鹿野 園町水利組合 の木本馨組合長 と東 九条町水利組 合 の竹村健組合長 であ る。両組合長 とも非常 に協 力 的 であった。 当初、2つ の野池 の調査 を同時進行 させ る こ とも考 えたが、人員 と機材 の不足 か ら無理 と判 断 し、諸条件 を熟慮 の上、 最終 的 に東 九条 町 の野池 を選定 した。以後、竹村組合 長 に は、並 々 な らぬお世話 になって しまった。 (2)釣 り人 たち こ う して始 まった調査 中、数多 くの 地域住民 の方 々 と交流す ることがで きた。 まず は、釣 り人 たち との交流 であ る。我 々が メイ ンター ゲ ッ トとした外来魚 は、 フ イッシ ュ イー タ魚 と呼 ばれ、 生 きた小魚 を主食 とす る。その習性上、 ルアー と呼 ばれ る疑似餌 で ない と捕獲 で きない 。 (当 初、 網 を投 入 して捕 獲 しようとしたが、池 の水 中 に不法投棄 され た大型 ゴ ミが多す ぎて、そ の方法 は 無理 であ った。)こ ち らか ら、積極 的 に場所 を移動 してポ イ ン トに ルアー を投 入 し、 ル ア ー で生 き魚 をイ ミテ ー トして魚 に食 いつ かせ る とい う動 的 な釣 りであ る。一 方、 日本 で古 くか ら親 しま れて来た釣 りは、 ヘ ラブナ釣 りに代表 され るよ うに、 一 カ所 に腰 を据 え、撒 き餌 を打 って魚 を寄 せ、 場 を静 まらせ て釣 る とい う静 的な釣 りで あ る。動 と静、 そ の特性 の違 いのため、従 来、両者 間 にほ とん ど交流 が発 生 しなか った。そ れ どころか、釣 り場 で トラブ ルが 発 生 す る事 が耐 えな か った。 場 を静 めて、 さあ、釣 るぞ とい う ときに、す ぐ側 に ル ア ーが バ ンバ ン投 げ込 まれた り、 逆 に釣 れそ うなポ イ ン トをヘ ラブナ釣 り師 が大挙 して 占拠 し一 日中動 か ないためル アー を投入 で きない、等 々。今 回 の調査池 に も、 ヘ ラブナ釣 り師たちが た くさんいた。 しか し、学術的調 査で あ る事 を説明 した ところ、 実 に協力 的 に調査 を支援 して くれ た。 特 に、 この池 に15年 以上毎 日の よ うに通 って い る リー ダー格 の 甲斐 さんか らは、様 々 な貴重 な証言 を得 ることがで きた。毎 回、 調査 開始前 に挨拶 を交 わ し、そ の 日の状況 を教 えて頂 い た。 間近 へ のルアー投 入 を快諾 して頂 い た り、数 々の ポ イ ン トを教 えて頂 い た り、 大型魚が ヒ ッ トした とき取 り入 れ の補助 を して頂 い た り、数知 れ ず お世話 になった。何 も知 らない他 の釣 り人が、 ヘ ラブ ナ釣 り師 とルアーマ ンの この ような友好 関係 を見た ら、首 を傾 げ るこ とであろ う。 ただ、その後、水利組合 に よ り池 は我 々の調査 を除 い て全面釣 り禁止 とな り、 以後 、池 で出合 う こ とはな くな った。 (3)ボ ラ ンテ イアたち 調査池 にはそ の他 に も様 々 な人 々が 訪 れては、我 々の調査 に関心 を示 して くれ た。 特筆す べ き は、地元 の小学生、 中学生、高校 生、それ に不定期 な仕事 を して い る若者 たちである。釣 りとい う一 種 の遊技 に楽 しみ を求 めて池 に来て い る彼 らに とって、そ の傍 らで捕獲魚 に標識 を付 けた り 体重 、 体長 を計 った り、記録写真 を取 った りして い る我 々 は、 当初 、異様 だ ったに違 い ない。事 情 を説明 し、彼 らが捕獲 した魚か らも、デ ー タを取 らせ て もらった りす る うちに、単 に釣 る以上 の意義が少 しずつ彼 らの中にも芽生 えて来た ようである。 つい には高校生 には標識 の付 け方、 デー タの採取 の仕方 を教 え、機材 も一 部貸 し出 しして調査 に協力 して もらった。小学 生、 中学 生 には、 安 全面 か ら池 へ は保護者 と来 ることや、釣 りをす る上 での マ ナ ー を指導 した り した。池 での彼 ら とのつ き合 い は、実 に単純 明快 であ る。大 人だ、子供 だ、教官 だ、 学 生 だ、 は釣 りの前 で は一切 関係 な くな る。釣 った 者が ヒー ロー なのである。以後、彼 らはある若者 を リー ダー に我 々の調査 をサ ポ ー トす る強力 なボ ラ ンテ イア・ テ ーム となって い る。 一 年 目の調査終 了時 には、本学学部 58 生、大 学 院生、そ して このボ ラ ンテ ィア・ テ ームが合 同 で池 の清掃活動 を行 った。 調査活動 を通 じて愛着 を持 った池 を彼 らは黙 々 と掃 除 して い た。 彼 らは、 この よ うな調査 を行 ってい る当研 究室 に興 味 を持 った らしく、研究室 を訪れて来 るよ うにな った。そ して、物理学 の話 を聞 い て いった り、大学 院生 に コンピュー タの使 い方 の指導 を 受 けた りした。彼 らの中には、必ず しも恵 まれた環境 にない子等 もい た。 家庭 や学校 にい ろ い ろ 大 きな問題 を抱 えて い た りす るのである。詳 し くは述 べ られない が、彼 らと相 当深 い ところ まで 話 を した こと もあ った。 最後 には、 この研究室来れ るな ら奈良教育 大学 に入 るため に頑張 ってみ て も良 い とい う嬉 しい言葉 を聞かせ て くれ た。 本調査活動 が生み出 した胸 を張れ る大 きな成果 の 一つで あ る と確信す る。 4.ま とめ 今回 の調査活動 は、 魚類生態系 、特 に各種魚類 の個体数 を把握す るのが 第 1の 目的であ った。 ところが、人 々が集 い、協力が生 まれ、そ して池端や研 究室 に全 く自発的に学 びの場 が誕生 して しまった。池 は工夫次 第 で格好 の教材 になる。 これが魚 たちが教 えて くれた こ とである。 最後 に、 もう一 つ 学 んだ こと、実 に残念 で はあ るが 目を背 けては い けない現実 を述 べ て結 び と した い。池 には ビン、 カ ン、 ペ ッ トボ トル をは じめ、冷蔵庫等 の家電 品、 自動車用 バ ッテ リー、 物干 し竿、消 火器、 タイヤ、 自転車、 バ イク、等 々莫大 な量 の ゴ ミが不法 に投 棄 されて い る。前 述 の よ うにボ ラ ンテ ィアの清掃活動 を行 ったが絶望 的な量 の ゴ ミであ る。バ イクな どは泥 に埋 も れてお り、大型 重機 で もな い と除去 で きな い 有 り様 で あ る。 これ ら全 て は、 当然 の こ となが ら 我 々人間が した こ とであ る。 調査 の きっか け となった外 来魚 問題 に しろ、魚 を移動 させ た人間が 元 凶であ る。世 界規模 の環境破壊 に しろ、そのほ とん どは人 間が引 き起 こ した こ とであ る。頭 で は分か って い るが、実 際 に池 を掃 除 して ものす ごい量 の ゴ ミを 目の 当た りに した とき、愕 然 とす る。 自然 を破壊 し多 くの種 を絶減 に追 いやった人類が、今度は、 自らの 身にそ の危機が迫 っている。 環境 問題 と銘打 って、その事実 を空洞化 させ てはな らな い。環境教育 の実践 もまたそ の事実 か ら 出発す べ きで あ る。 謝辞 本研究 は、平成 14年 度奈 良教育大学学長裁量経費 プ ロ ジェク ト「地域 と連携 した奈良盆地 の 野 池 。河 川 の魚類生態系調査 と環境教育教材 の 開発」 の一 環 として行 われた ものです。本 プ ロ ジェ ク トを支援 して頂 い た大久保哲夫前学長、本 プ ロ ジェク トに参加 し助言 を して頂 い た奈良教育大 学 附属 自然環境教育 セ ンターの前 田喜四雄先生、生物学教室 の松井淳先生、理科教育教室 の松村 佳子先 生、物理 学教室 の 中村 元彦先生 に感謝致 します。野外生態学 の 初歩か ら具体 的な調査機材 につ い てな どい ろい ろ とア ドバ イス を頂 い た奈良教育大学 自然環境教育 セ ンターの 鳥居春 己先生 に感謝致 します。 調査 にボラ ンテ ィアで協 力 して くれ た、優 くん、 たか、か ず、大 山君、蔵前君、 はや と、 竹 内 君、稲葉君、大 串 さん、安 田 さん、土井 さん、絵美 さん、千頭 さん、 名 も知 らない高校 生、地元 住民、そ の他 た くさんの 人 々 に感謝致 します。 最 後 に、過酷 な条件下で共 に野池魚類 生態 系 の調査 を行 い、常 日頃、議論 の相手 を務 めて くれ た田 中淳君 に感謝致 します。 参考文献 松 山豊樹 。2003.連 続 的標識再捕獲 の時系列解析 に よる個体数推定 の新手法 .奈 良教育大学紀 59 然科学 ),52(2):1-5。 松 山豊樹 ・ 田中淳。2003.外 来魚が移入 された野池 の魚類生態系調査 と数理生態学 的手法 に よ 要 (自 る未来予測 .奈 良教育大学紀要 (自 然科学 ),52(2):7-18。 60
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