滋賀県多賀町の鍾乳洞「河内風穴」におけるテングコウモリ,

滋賀県多賀町の鍾乳洞「河内風穴」におけるテングコウモリ
Ogasrer Milne… Edwards,1872の 個体数 の年間変 動
MIJrlilpa reυ ο
,
阿
部
勇
治
多賀 の 自然 と文 化 の館
前 田 喜 四雄
奈良教育大学 自然環境教育 セ ン ター
ttilne― Edwards,
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1872 during year in Ka、 vachi no kaza‐ ana cave,Taga‐ Cho,Shiga Prefecture
Population dynarllics of Tube‐ nosed bats,■
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Yuli ABE
Taga Town h771useum for Nature and Culture
Kishio MAEDA
Center for Natural Environment Education,Nara University of Education
ABSTRACT
Population dynamics of Tube-nosed bats, Murina leucogaster Milne-Edwards, 7872 during
three years were studied in Kawachi no kaza-ana cave, Taga-Cho, Shiga Prefecture. In the cave,
the bats begin to gather at the first of February, and the population increases gradually, the
peak is from the last of April to the first of May. After that the population decrease suddenly
until at the first of June. It is unusual to observe this species in the cave, until at the last of
January. The maximum pululation of 2001 was 122 bats at five of May, and that of 2002 was 160
at 24th ot April.
Key words: Population dynamics, Tube-nosed bats, Murina leucogaster, Kawachi no kaza-ana
cave
は じめに
阿部 ほか (1994)に よる と、樹 洞 を昼 間 の 隠れ家 にす るテ ン グ コ ウモ リ、νレカ aん υ ″ sFer
“
Milne― Edwarsd,1872は 、洞穴内 で もよ く見 つ か るが、 単独 で い る ことが多 く、 10頭 を超 える群れ
はほ とん ど見 つ か ってい ない とい う。 また、 今泉 (1970)に よる と、1∼ 数頭が洞窟や廃鉱 で 発
見 され る ことが多 い とい う。
しか し、 1991年 5月 の初 め、 滋賀 県多賀 町 にある鍾乳洞 「河内風 穴」 で寺西敏夫氏 に よ り52頭
が観 察 された (前 田、 2002)ほ か、 1999年 4月 18日 に福 島県相馬郡 にあ る鍾乳洞 (名 称不 明)で
35頭 の群れ と単独個体 (数 不 明)が 観察 され (千 葉伸幸、2000)、 さらに2000年 3月 末に京都府瑞
穂町 にあ る質志鍾乳洞 で も30頭 が 観察 され る (前 田、2002)な ど、近年、本種 の ま とまった個 体
数 の観察例 が相次 い で い る。
また、 (寺 西、 1989、 1991)は 河 内風穴 にお い て確認 した本種 の個体数 を報告 して い るが、 これ
による と 4月 、お よび 5月 には洞 内 で確認 して い る (8∼ 9頭 :1981年 4月 29日 、1頭 :1982年
5月 2日 、7頭 :1988年 4月 10日
)が 、7月 、 11月 、3月
19
には見 つ け られて い ない (1984年 11月
4日 、1987年 3月 15日 、 同 年 7月 27日 、 1988年 7月 10日 )。 そ して、千 葉 (2000)お よび 前 田
(2002)の 報告で も、本種が観察 されたのはほぼ同 じ時期 にあたる 3月 末か ら5月 初 めにか けてで
ある
これ らの こ とか ら、 テ ング コ ウモ リは洞穴 を積極 的 に利用 してお り、利用状況 も季節的 に変化
して い る可能性 が あ る よ うに思 われ、 事実 を確認 した い と考 えた。 そ こで 、滋 賀県多賀 町 にあ る
河 内風穴 で、 テ ングコ ウモ リの個体数 の年 間変動 を調査 した ので報告す る。
調査場所 と方法
調査 を行 った河 内風穴 は、滋賀県犬上郡多賀 町河 内宮前 にある構造支配型 の鍾乳洞 であ る
(図
洞内 は横穴 主 体 の多層構造 とな ってお り、現在 までに確 認 されて い る総延 長 は3323m、 高低
差 は88mに 及 び、 関西地区 で最大規模 の鍾乳洞 である。 また、洞 口 (標 高265m)は エ チ ガ谷左岸
1)。
の斜 面 を少 し上が った岩壁 の基部 に開 口 してお り、そ の周辺 はスギの植林 とサ ワシバ 、 ゥ リハ ダ
カエ デな どか らなる二 次林 とな ってい る。 なお、 エ チ ガ谷 に面 した斜面 は、石灰岩が所 々露 出 し
た急 llkな 地形 となってお り、河内風穴 の洞 口付近 よ り上流 では水が伏流 しエチガ谷 は枯れ谷 となっ
て い るのが常 で あ る。
調査 は2000年 5月 か ら2003年 の 5月 まで の 3年 間にわた り、洞 口に近 い通称 “
大広 間 "と 呼 ば
れて いる崩落 に よってで きたホ ール を中心 に、 観光洞 として一 般 に公 開 されて い るエ リアで実施
された。
個体数確 認 は、 懐 中電灯 で洞壁 を照 らしなが ら肉眼あるい は双 眼鏡 を使 用 して行 なわれ、洞 内
図 1.河 内風穴 の位置 (矢 印)。 国土地理印発行 5万 分 の1地 形図 “
彦根東部 "を 使用 した。
(Fig l.The location of Kawachi no kaza ana cave(arrOw)plotted On l:50000-scale topo―
‖
Hikone to― bu",Geographical survey of Japan.)
20
graphic map of Japan
で懸架 して い た位置や洞 内 の気温 も記録 した。 ただ し、今 回 は洞 内 の全 体 の個体数 のみ につ い て
言及 した。 また、2000年 と2001年 の調査 は1か 月に最低 1回 を 目標 に試 み られ、特 に個 体 数 の増減
が著 しか った時期 は 1週 間 に 1回 か ら 2回 の調査 が実施 された。2003年 はそれ まで の調査 で コ ウ
モ リ個体 数 の変動がおお よそ把握 で きた と思 われたため、 観察 回数 を減 らした。 なお、 “
大広 間"
は天 丼 まで の高 さが最高でお よそ20mあ り、そ こに懸架 して い る コ ウモ リの個体数 を懐 中電灯 と
双眼鏡 を用 い て正 確 に把握す るには熟練 を要す る。 このため 、観察 を始 めた2000年 の観察個体 数
は実際 にそ こにい た全 ての個体 を確 認 で きて い ない可能性 が考 え られ る。
結果 と考察
河 内風 穴 での 3年 間 にわた る個 体数調査 の結果 を図 2に 示 した。 これか ら明 らか なように、本
種 の 複数個体 が確認 で きた のは、1月 な い し 2月 か ら 6月 中旬 にか けて で あ った。 まず、2月 な
い し 3月 に入 る と確認個体数 は10個 体 を超 える。そ の 後急激 に増加 し、 もっ とも多 くな るの は 4
月末か ら 5月 初 めにかけてであ る。その後、5月 末 に急激 に減少 し、6月 初 め にはほ とん ど見 ら
れ な くなる。 7月 か ら12月 にか け ては、 まれ に単独個体 が確認 され るのみであ る。
なお、確 認 した個体 数が もっ とも多 か ったの は2002年 に調 べ た160頭 (4月 24日 )で 、 つ い で
2001年 の 122頭 (5月 5日 )で あった。 また、2003年 は 4月 26日 に確 認 した 103頭 が もっ とも多 い
確認個体数 で あ る。 一 方、2000年 は観察 を開始 した 5月 7日 に もっ とも多 い個体数 (36頭 )を 記
録 して い るが、 他 の観察年 の最高個体数 よ りか な り少 ない。そ の理 由 としては、2000年 は 5月 7
日までに個体数 の変動傾 向が減少 に転 じてい た可 能性や、集 まって くる個体数そ の ものが少 なかっ
た可 能性 も考 え られ る。 また、本種 は観察 の 難 しい岩 の亀裂や隙 間 の よ うな場所 に潜 んで い るこ
と、お よび数 の把握 に困難が伴 う天丼部 の非常 に高 い位置 に懸 架 して い る個体が多 く、2000年
5
月 は調査 を始 めたばか りで この よ うな場所 に潜 んだ り、懸架 して い る個体 の観察 に習 熟 して い な
か ったため、見落 として い た可能性 もあ る。
以上 に よ り、本種 の河 内風穴 にお け る利用状況 につい て、7月 か ら12月 にか け ては時 お り単独
個体 が観 察 され、2月 に入 る と個体数が増加 し始 め、 4月 末か ら 5月 初 めにか け て もっ とも多 く
お よそ 100か ら150頭 になるが、その後現象す る とい う年 間変動があ るこ とが 明 らか となった。
ところでMaeda(1978)は 、 ユ ビナ ガ コ ウモ リ、 Miniopterus fuliginosusが 利用 して い た洞 穴 の
洞 内温度 は、新潟 の例が 11∼ 14℃ 、高知県 の例が 16℃ 、大分県の例が 15∼ 18℃ と報告 している。 こ
れ らに比 べ 、河 内風穴 の洞 内温 度 は、一 年 を通 じて多 くの場合 8度 ∼ 10℃ 前後 (最 高 12.0度 、最
と非常 に低 い (テ ング コ ウモ リが懸 架 して い る洞 内 3か 所 で測定 の 結果 ;詳 細 につい
ては懸架 して い る詳細 な場所 とそ こでの個体数 な どとあ わせ て公 表予定 )。 晩春 か ら夏 にかけて、
本種 も含 め 国内 に生息 して い る小型 コウモ リ類 は繁殖活動 を営 んでい るが、 出産 し、子育 て をす
低 0.3度 )、
るには河 内風穴 の洞 内温度 は低す ぎる と想像 され る。 本種 の洞穴 の利用状況 に年 間変動 が あ る と
い う理 由につい ては現在 の ところ不 明 であ るが、晩春 か ら秋 にか け ての 間、河 内 の風穴が本種 に
利用 されて い ないの は この よ うな低 い洞 内温 度が 関連 して い る可 能性 が考 え られ る。 また、浦野
(2002)は 大阪府箕面市 の川浦鉱 山廃坑 、大阪府野勢町 の豊 能鉱 山廃坑で4月 に本種 を確認 した こ
とにつ い て、冬 眠期が長 い ためか もしれ ない と述 べ て い る。 しか し、洞 窟 の 利用 時期が い わゆる
冬季 よ りもむ しろ晩春 か ら初夏 にか け て とい う本結果 か らは、本 種が主 に冬 眠 のためのね ぐらと
して河 内風 穴 を利用 して い る とは考 え難 い。
なお、 この集 まって くる個体 の性 別、齢別、成獣雌 の場合 の交尾済みか否 か な どの個体群構成
は捕獲 しなけれ ば判 明 しない ため、 今後 の課題 とし、 ここで は、2月 ∼ 5月 初 め にかけてテ ング
コウモ リが洞穴 内に集合す る傾 向が ある とい う事実 の指摘 に留 め る。
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謝
辞
寺西敏夫氏 には、 長年 にわたる コウモ リ類調査 の未公表 デ ー タを見せ て い ただ き、 この調査 の
きっか けを作 っていただいた。 また、河 内観光協会 の 藤本栄恵子氏 には河 内風穴で の調査 にあた
り便宜 を図って い ただ い た。以上 の方 々 に深 く感謝 い た します。
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