インドの商業的代理出産と代理女性・子供の権利 ○金沢大学 日比野由利 金沢大学 神林康弘 金沢大学 中村裕之 【目的・方法aim/methods】 インドや東南アジアなど、卵子提供や代理出産が容易であり安価で利用できる国々へと先 進国の人々が訪れ治療を受けている。特に、インド政府はメディカル・ツーリズムを推奨し ており、海外の利用者に対し医療ビザを発給し、インドの不妊治療のコストは先進国の 1/4 であること、あらゆる種類の最新の ART が利用可能であることを謳っている。インド女性に よる代理出産は、“wombs for rent”(子宮の貸与), “intrauterine adoption”(子宮内での 養子縁組)などと揶揄されることもしばしばあるが、2002 年以降合法化されビジネスとして 成立し、既成事実になっている。しかし、法的環境の不整合により、外国人の依頼者が子供 を連れて帰国できなくなるといった事態が生じ、社会問題となっている。第三世界での商業 的代理出産の実態、特に、代理女性や子供の保護、権利擁護がどのように行われているかを 明らかにするため、インドの ART に関するガイドラインや法案を検討するとともに、インド で代理女性の調査を行った。 【結果・結論results/conclusion】 2000 年、2005 年、2008 年、2010 年に公表されたガイドラインや法案から、代理出産の取 り決め事項や子供の権利に関する記述を抽出し比較した。2008 年 9 月に公開された法案では、 独身者が代理出産を依頼することが認められており、代理女性は子供に対する全ての権利を 放棄すること、子供の出生証明書は依頼者(遺伝的親)の名前となることが記載されている。 子供の保護者の確保については一定の配慮がなされているが、出自を知る権利は、完全には 認められていない。2008 年の法案では、中絶は代理女性の意志によるが、減数手術に応じな ければならないなど代理女性の身体的統合は完全には認められていない。2010 年 3 月に筆者 が行った調査によれば、外国人の依頼者の約半数は同性愛カップルであった。代理出産で得 た金銭は、家を買う、子どもの教育費に充てるなど、家族のために使用すると述べられた。 代理妊娠中の気持ちとしては、 「子どもを手渡す時を考えると悲しいが、依頼者が喜んでいる ので大丈夫」と、子供の引き渡しを自らに納得させる語りが得られた。法案は、インド国内 の ART クリニック及び精子バンクの義務と責任を定めたものであり、依頼者の利益や権利を 守り、利用の便宜を図るためのルールづくり、法的整備といえる。一方、法規制がなされれ ば、現在は容認されている同性愛者の利用は認められなくなるとの報道もなされている。商 業的代理出産の法規制が、どのようにツーリズムの促進/抑制をもたらし、代理女性・子供の 保護や権利にとってどのような意味を持つか、検討する必要がある。
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