ダウンロード - トランスポーター研究会

第一回トランスポーター研究会
プログラム・要旨集
2006 年 12 月 16 日(土)・17 日(日)
共立薬科大学芝校舎 1 号館
共催:
共立薬科大学
後援:(社)日本薬理学会
(社)日本薬学会
第一回トランスポーター研究会開催にあたって
トランスポーター研究会
第一回代表世話人
安西尚彦
第一回事務局長
崔
吉道
第一回トランスポーター研究会を開催するに当り、ご挨拶を申し上げたいと思います。
第一回ということで、この研究会が発足するに至った経緯を簡単に紹介させて頂きます。いく
つかの流れがありますが、一つは 2003 年 12 月 9 日に東京で行われたファルマスニップコンソー
シアム(PSC)の共同研究講演会です。講演をされました杏林大学遠藤仁先生、金沢大学辻彰先生、
京都大学乾賢一先生に従って参加していたのが、安西(代表世話人)
、崔(事務局長)、寺田(世
話人)でした。今春の仙台での薬学会で、この 3 名の中での話合いから本研究会の枠組みが出来
上がりました。次は、2004 年 10 月にスイスで行われた Gordon Research Conference です。この
会議には、安西、藤原(世話人)、松尾洋(幹事)、前田和(幹事)が出席しており、この 4 名で
2004 年 11 月 25 日に四谷に集まって始めた飲み会「四谷会」は本年 7 月の本研究会発足時の主体
となりました。もう一つが、2005 年 8 月スイスで行われた BioMedical Transporter という会議
です。安西、稲津(世話人)、楠原(世話人)、北市(幹事)
、加藤将(幹事)、前田和の 6 名が出
席しておりました。これら以外の数多くの国外・国内の学会での出会いも勿論本研究会の成立に
貢献しております。このように、分野を越えて研究者を集める会議が、如何に人的なネットワー
クの形成に貢献するかを示す端的な例とも言えると思います。
ところが残念なことに日本にはこれまでこのような機会がありませんでした。薬物動態の分野
を除く多くの学会では、残念ながら「トランスポーター」だけのセッションは存在すらしており
ません。
「トランスポーター」の分野が比較的新しい研究領域であることもその一因かもしれませ
ん。そんな中、「トランスポーター研究者が集まる機会が無いなら、自分たちで作ってしまおう」
と、10 名が発起人となり、2006 年 7 月 6 日新橋に集まり、第一回研究会の開催が決まりました。
第一回となる本会では、テーマを「トランスポーターの重要性と若手の交流」とさせて頂きま
した。この中で、
「重要性」を示すべく3つのシンポジウムを企画致しました。さらに現在日本薬
物動態学会の会長を務められ、日本の「トランスポーター研究」の今をリードしておられる東京
大学大学院薬学研究科教授の杉山雄一先生と、平成 17 年度より始まりました文部科学省特定領域
研究「生体膜トランスポートソーム」の領域代表者として、トランスポーター研究を牽引してお
られる杏林大学医学部薬理学教室教授の金井好克先生に、特別講演をお願い致しました。両先生
にはご多忙中にも関わらず、快く御講演をお引き受け頂きましたこと厚くお礼を申しあげます。
「若手の交流」という面での今回の特徴は、ミキサー(懇親会)を一番重視した点であります。
通常ではなかなか出会うことのない「異分野」の研究者同士が出会う機会を作ること、そのため
にはできるだけ多くの参加者を集めることを目指し、多くの分野からの参加を募って参りました
が、12月5日の時点で事前参加登録者 180 名を数えるに至りました。ご登録頂きました皆様に
深く感謝致します。と同時に、本会の主役は参加される皆様一人一人であるということを認識し
て頂き、本研究会を盛大に盛り上げて頂きたいと願っております。
先ほど一番重視しましたのはミキサー(懇親会)と申しましたが、学生の方々にもこれだけは
御負担頂こうということで、参加費の設定をしております。ポスター演題を前にリラックスした
雰囲気の中で交流を深めるのがよいのではないか、考えました。そして「あくまでも自分たちの
主体性を貫くため、企業の協賛は受けず、手弁当でやること」をモットーとしたため、今回のシ
ンポジウム講演者も全員参加費を払って頂いた中で講演をお願いしております。勿論運営スタッ
フも全くのボランティアです。御発表を快くお引き受け頂いた講演者の方々に心から感謝を致し
ます。御参加の皆様には講演者の熱意を感じて頂けるのではないかと思います。
そのシンポジウム講演ですが、今回は第一回ということで、講演者の方の専門をベースとしな
がらも、専門以外の方にも御理解頂けるように、Overview 的なものも含めてお話頂くようにお願
いしております。敢えて話の内容が高度にならないように押さえてありますので、詳細な内容を
希望される方々には少々不満の残るものかもしれません。ですがこの点は今後の会を数える度に
解消してゆくものと思われますので、継続した御参加をお願いしたいと思います。
現在までに 60 名の方が本研究会の世話人・幹事として参加して頂いておりますが、引き続き幹
事として参加して頂ける方を募っております。今回の研究会におきましても、お声をお掛けする
ことがあるかと思いますので、その際はよろしくお願い致します。
「来る者拒まず、去る者追わず」
の方針ですので、会を離れることもいつでも自由にして頂きたいと思います。
この研究会が基になって、新たな共同研究が生まれ、また知り合った中から時にはチームを組
んで大型の助成金に挑戦するなど、様々なことの契機となることができれば、開催を目指した者
として、これほど嬉しいことはありません。
「あの研究会でお会いしましたね」の一言からコミュ
ニケーションが始まるようなケースがあれば、今回の目的は十分達成されたと言えると思います。
助教授以下の中堅・若手が中心の研究会です。肩肘張らずに気軽に御出席頂きますれば幸いです。
皆様の積極的な御参加をお待ちしております。
第一回代表世話人
安西尚彦
第一回事務局長 崔
吉道
会場案内:共立薬科大学芝校舎
芝校舎詳細地図
JR 浜松町駅(山手線・京浜東北線)下車、徒歩 10 分
地下鉄
地下鉄
御成門駅(都営三田線)下車、A2 出口、徒歩 2 分
大門駅(都営浅草・大江戸線)下車、徒歩 6 分
第一回トランスポーター研究会プログラム
第一日: 12:00 ‒
受付開始・ポスター貼付
13:00 ‒ 13:05
開会挨拶
13:05 ‒ 15:40
シンポジウム1「SLCトランスポーターの重要性」
13:05-13:10
オーバービュー(座長)
東京大学大学院 関根孝司
13:10-13:30
内分泌疾患と SLC トランスポーター
東北大学大学院 阿部高明
13:30-13:50
神経疾患と SLC トランスポーター
東京医科大学
13:50-14:10
心疾患と SLC トランスポーター
京都大学大学院 松岡 達
14:10-14:30
アレルギー疾患と SLC トランスポーター
愛媛大学大学院 小笠原正人
14:30-14:40
ブレーク
14:40-15:00
腎疾患と SLC トランスポーター
東京大学大学院 山田秀臣
15:00-15:20
栄養学と SLC トランスポーター
徳島大学大学院 竹谷 豊
15:20-15:40
薬物輸送と SLC トランスポーター
京都大学大学院 寺田智祐
15:40 ‒ 15:50
ブレーク
15:50 ‒ 16:55
特別講演
稲津正人
15:50 ‒ 16:35 講演1:「トランスポーター研究の過去・現在・未来」
東京大学大学院 杉山雄一先生
16:35 ‒ 16:55 講演2:「特定領域研究トランスポートソーム」
杏林大学医学部 金井好克先生
16:55 ‒ 17:00、事務連絡
17:00 ‒ 17:15、ブレーク(会場移動)・ポスター貼付
17:15 ‒ 19:45、ポスター発表&ミキサー
(発表者説明時間、奇数番号 17:30-18:30、偶数番号 18:30-19:30)
19:45
解散、ポスター撤去(∼20:00 まで)
20:00
第一日目終了
第二日: 08:30 ‒
受付開始
09:30 ‒ 09:35
事務連絡
09:35 ‒ 11:00
シンポジウム2「ABCトランスポーターの重要性」
09:35-09:40
オーバービュー(座長)
東京大学大学院 楠原洋之
09:40-10:00
肝疾患と ABC トランスポーター
千葉大学大学院 関根秀一
10:00-10:20
癌と ABC トランスポーター
産業医科大学
10:20-10:40
脂質代謝と ABC トランスポーター
京都大学大学院 松尾道憲
10:40-11:00
薬物輸送と ABC トランスポーター
東北大学大学院 大槻純男
11:00 ‒ 11:15
ブレーク
11:15 ‒ 13:00
シンポジウム3「トランスポーター研究:最近の話題」
11:15-11:20
オーバービュー(座長)
共立薬科大学
11:20-11:40
トランスポーター結合蛋白質の同定
杏林大学医学部 安西尚彦
11:40-12:00
遺伝子改変動物を用いた結合蛋白質解析
神戸大学大学院 三木隆司
12:00-12:20
遺伝子改変動物とトランスポーター機能
東京医科歯科大 松上璃江子
12:20-12:40
トランスポーター研究の展開:植物
東京大学大学院 藤原 徹
12:40-13:00
トランスポーター研究の展開:線虫
東京大学大学院 紺谷圏二
13:00 ‒ 13:10
優秀発表賞受賞者表彰
13:10 ‒ 13:15
閉会の辞
終了
内海 健
崔 吉道
1
2
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5
6
7
8
9
10
○黄川田 隆洋
○川瀬 篤史
○橘 敬祐
○藤田京子
○士反伸和
○首藤 剛
○上山盛夫
○Asako Nakamura
○神山 伸
○中川貴之
11 ○中川貴之
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○何 新
○祖父江和哉
○鈴木敦詞
○石丸泰寛
○高野順平
○戸松 創
○水野隆文
○柴山良彦
○畠中貴弘
○津田真弘
22 ○降幡知巳
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○小林 綾
○竹内綾子
○小笠原健
○前田真一
○中川華月
○大垣隆一
29 ○三井慶治
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○山本浩範
○福田 英一
○Suzuki T
○八幡紋子
○丸山明子
○原田祉典
○唐沢 暁
○榎本理世
○本山直世
○沢辺恵子
○奥村礼二郎
○奥村礼二郎
○馬 建鋒
○黄倉 崇
○吉本尚子
○林 久由
○小松稔典
○樹下成信
○桑原直之
○菅原ゆうこ
○相馬義郎
○杉浦智子
○高田龍平
○西村友宏
○北市清幸
○辻田麻紀
○山田秀臣
○高橋美智子
○澁川義幸
○宮内正二
○秋丸国広
○藤木崇
○菊川 峰志
○荻原琢男
64 ○藤田朋恵
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66
67
68
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71
72
73
74
75
○田辺光男
○栗田志広
○渡邊泰秀
○設楽 悦久
○久光 隆
○鬼塚 朱美
○松尾洋孝
○十川千春
○白坂善之
○阿佐野霞
○長谷川元
ネムリユスリカのクリプトビオシス誘導における促進拡散型トレハローストランスポーターの役割
慢性関節炎発症時における核内レセプターの変動とビリルビン代謝に及ぼす影響
Scaffoldタンパク質ヒトPDZK1遺伝子の発現制御機構の解析
ABC トランスポーター・C サブファミリーの基質輸送と細胞内局在に関与する機能領域の特定
高等植物におけるMDR 様ABC タンパク質CjMDR1 のアルカロイド輸送機構
Calreticulin 発現抑制を介したクルクミンによるCFTR 蛋白質安定化
新規ショウジョウバエPAPS輸送体dPAPST2
Role of phosphorylation of ezrin in the membrane localization of NaPi-IIa in the renal proximal tubular cells.
ヒトPAPS 輸送体遺伝子の新規同定と機能解析
Na+依存性グルタミン酸トランスポーターに対する新規放射性標識リガンド[3H]ETB-TBOAの結合特性
培養細胞ーグリア共培養系におけるグリア型グルタミン酸トランスポーターGLT-1のクラスター化および
細胞内輸送の分子機構
オルファントランスポーター遺伝子OATN1ノックアウトマウスのメタボローム解析による輸送基質の解明
高浸透圧による水チャネル・アクアポリンの発現調節
III型Na依存性無機リン酸輸送担体Pit-1の骨芽細胞外基質石灰化での役割
イネの新たな鉄吸収機構
植物ホウ素トランスポーター:制御機構の解明と過剰発現による生育改善
シロイヌナズナ モリブデントランスポーターの機能解析
植物の鉛・ニッケル超集積におけるSLC / ABC トランスポーターの役割
メトトレキサートがMrp2、Bcrp およびOat の発現に及ぼす影響
Specific traffic regulation of amino acid transporter ATA2 in adipose tissue by insulin
膜小胞系を用いたH+/有機カチオンアンチポータMATE1の駆動力の同定
内因性核酸トランスポート活性を欠失したMardin-Darby Canine Kidney 細胞(MDCK-NTD22)の確立
とその有用性
ABCG1によるスフィンゴミエリン・コレステロール輸送の解析
Ca2+トランスポータによる心筋細胞の新たな容積調節機序
ヒト有機アニオントランスポーターOAT3遺伝子におけるCREB-1、ATF-1の役割
硝酸イオン輸送体の構造と機能の解析
Perfluorooctanoate(PFOA)の尿中排泄におけるOATs の役割
オルガネラ膜Na+/H+交換輸送体の相互作用因子の探索と機能解析
The budding yeast Na+/H+ antipoter Nha1p associates with lipid raft and requires sphingolipid
for its targeting to the plasma membrane
IIa 型ナトリウム依存性リン輸送担体の腎近位尿細管細胞特異的発現調節機構
ラット脳脊髄液pH 調節における脈絡叢の重炭酸イオン輸送機構
Proteome Analysis of Liver from Long-Evans Cinnamon Rats
Cimicifugoside のヌクレオシドトランスポート阻害作用の解析
硫黄同化・代謝系の制御因子SLIM1
培養細胞におけるセピアプテリンの取込みと排出の輸送系の解析
分断化したピロリ菌NhaA の集合と機能発現
エトポシド誘発腫瘍細胞アポトーシスのオウゴニンによる増強作用機構
神経因性疼痛におけるグリシントランスポーター阻害薬の寛解作用
テトラヒドロビオプテリンの再吸収:尿酸輸送体阻害剤ベンズブロマロンの効果
NCX3 による象牙質石灰化過程における象牙芽細胞の方向性Ca2+輸送
エナメル芽細胞の直接的なCa2+輸送はNCX1・3 によって仲介される
イネケイ素トランスポーター遺伝子の同定
オキシコドンの血液脳関門における血液側から脳側へのuphill 輸送の機構解析
シロイヌナズナの硫酸イオントランスポーターの機能分担
Na+/H+交換輸送体抑制剤であるアミロライドよるマクロパイノサイトーシス抑制機序
哺乳類MATE型トランスポーターの構造と機能
小胞型グルタミン酸トランスポーターの部位指定的突然変異導入による機能解析
Na+/H+ antiporter (NhaA)の構造機能相関
テトラヒドロビオプテリン輸送における核酸トランスポーターの関与
ABCトランスポータにおけるNBDゲーティングエンジンの動作機構
PDZK1によるPEPT1との相互作用および基質輸送機能への影響
核内受容体によるOSTα/βの発現調節機構
マウス小腸組織における有機アニオントランスポーターOATPの機能解析
SLCトランスポーターOCT3の発現調節と神経行動薬理学的変化
ApoAI-ABCA1並びに非特異的な搬出による細胞cholesterol搬出機構の解明
IRBIT specifically binds to and activates pancreas-type Na+/HCO3-cotransporter 1 (pNBC1)
イネの生殖成長および種子成熟に伴うトランスポーターの発現
NCKX2 のAsn572 残基はNa+-binding と干渉せずにCa2+とK+-binding pocket を構成する
輸送担体機能解析のparadigm としての光駆動性クロライドポンプ
非家系腎細胞癌における低分子イオントランスポーター遺伝子の多型解析
電位差形成的アスパラギン酸:アラニン交換輸送体 (AspT) の構造・機能解析
ヘテロダイマー型 多剤排出トランスポーター EbrAB:ヘテロダイマー形成は機能発現に必須か?
薬物の消化管吸収に及ぼすP-糖タンパクの関与と吸収部位特性
腎炎モデルでの尿中サイトカインの変動を伴うmdr1 、CYP3A遺伝子の小腸、肝での異なる発現量調節
およびシクロスポリンAの初回通過効果の低下
グリシントランスポーター阻害剤の慢性疼痛治療効果
魚類の腸上皮細胞による重炭酸イオン分泌と海水適応
心室筋細胞に対する新規Na/Ca交換体抑制薬SN-6の作用
薬物トランスポーターを介した肝取り込み過程で生じる薬物間相互作用の機序解析
Na+/H+交換輸送体のイオン輸送制御機構におけるダイマー形成の意義
生後発達にともなうリン酸トランスポーター(SLC34A3)の役割解明
神経系におけるセリントランスポーターAsc-1 及びSNAT2 の役割
ヒトノルエピネフリントランスポーターのC末端領域による機能発現制御
P-gp 基質薬物の膜透過性、親和性に及ぼすP-gp 発現量の影響
RNA editingはTransporter機能を変化させるか?
腎尿細管塩分輸送異常による糖尿病性腎症進展の可能性
ポスター作成要領
ポスターパネルの大きさは、幅 110 cm、高さ 170 cm です。下図を参照の上、
作成してください。
A欄には、事務局で用意したポスター番号が貼られています。
B欄に、演題、所属、氏名(発表者に○印をつける)を、
C欄に、発表内容を掲示してください。
発表者はポスター会場で備え付けの押しピンを用いてポスターを掲示してくだ
さい。テープ類の使用は出来ません。
20 cm
30 cm
80 cm
A欄
B欄
C欄
170 cm
110 cm
特
座長
別
講
演
第一回代表世話人
安西尚彦
講演1「トランスポーター研究の過去、現在、未来」
東京大学
杉山雄一先生
講演2「特定領域研究トランスポートソーム」
杏林大学
金井好克先生
特別講演1「トランスポーター研究の過去、現在、未来」
杉山
雄一
先生
講演者紹介
所属:東京大学大学院薬学系研究科
分子薬物動態学教室、教授、薬学博士
経歴:1974 年東京大学大学院薬学系研究科
博士課程在学中、教務職員として採用。’78∼’81 年
に米国 UCLA の Dr. Neil Kaplowitz 教授の下に留学。以後、
東京大学薬学部にて助教授を経て、’91
年に教授に就任、現在に至る。2004 年、東京大学大学院薬学系研究科に設立された 医薬品評価
科学 講座の教授を 2005 年から兼任。
研究テーマ:薬物トランスポーターを中心として、薬物速度論の手法を駆使し、生化学・分子生
物学的手法に基づく解析と統合化することで、薬物や内因性物質の体内動態およびその制御に関
する解明を行う。
趣味:ゴルフ、フォト、野球観戦(ジャイアンツ)。好きな女優:中越典子
特別講演2「特定領域研究トランスポートソーム」
金井 好克 先生
杏林大学医学部薬理学教室
輸送分子(イオンチャネル、トランスポーター、ポンプ)の研究は、個々の輸送現象の計測か
ら始まり、分子実体の解明に到達したものの、近年では個々の分子の機能のみからでは説明
できない多くの難問に遭遇しています。生体膜物質輸送の研究を発展させ、恒常性と環境適
応の生物学的基盤を解明するために、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「生体膜
トランスポートソームの分子構築と生理機能(領域略称:膜輸送複合体)」は、5 年間の研究期
間をもって平成 17 年度に発足しました。本特定領域研究は、複数の輸送分子がその調節分
子とともに集積して形成する分子複合体「トランスポートソーム」を生体膜物質輸送の機能単位
として捉え、その成り立ちと機能、生体膜との相互作用、生理機能・病態との関わりを明らかに
することを目的としています。具体的には、トランスポートソームの分子構築と機能を解析する
ことにより、分子構成、時空間的動態、複合体形成に関わる分子間相互作用ネットワーク等を
明らかにし、トランスポートソームを「実体」として把握する研究、トランスポートソームと細胞膜
や細胞骨格との相互作用を解析し、トランスポートソームが作動する「場」の役割を明らかにす
る研究、及びトランスポートソームの機能と局在の調節、シグナル系とのクロストーク、細胞、組
織、個体の機能、あるいはその破綻により生じる病態との関わりを追求する研究により、輸送分
子が単独でなく、トランスポートソームの中に分子複合体の一員として組み込まれて作動する
ことの意義を明らかにすること目指しています。若手研究者の活躍の場として貢献できることを
期待します。
領域ホームページ:
http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/user/medicine/pharmaco/transportsome/top.html
シンポジウム1
「SLC トランスポーターの重要性」
オーバービュー(座長)
東京大学
関根孝司
内分泌疾患と SLC トランスポーター
東北大学
阿部高明
神経疾患と SLC トランスポーター
東京医科大学
稲津正人
心疾患と SLC トランスポーター
京都大学
松岡
アレルギー疾患と SLC トランスポーター
愛媛大学
小笠原正人
腎疾患と SLC トランスポーター
東京大学
山田秀臣
栄養学と SLC トランスポーター
徳島大学
竹谷
薬物輸送と SLC トランスポーター
京都大学
寺田智祐
達
豊
シンポジウム1「SLC トランスポーターの重要性」
座長:関根孝司
紹介
所属:東京大学大学院医学系研究科
生殖・発達・加齢医学専攻
小児医学講座
助教授
経歴:1987 年東大医学部医学科卒業、1993 年杏林大学医学部助手、2000 年東大小児科講師、2004
年東大小児科助教授
研究テーマ:膜輸送体の研究、腎臓生理学、腎臓病学
内分泌疾患と SLC トランスポーター:有機アニオントランスポーターと内分泌
東北大学病院腎高血圧内分泌科
阿部高明
[email protected]
有機アニオントランスポーター(organic anion transporting polypeptide;OATP)は胆汁酸や
ホルモン、抱合型ステロイドなどの内因性化合物、ジゴキシン、スタチン類、ACEi/ARB、メトト
レキセートといった薬物やオピオイドなどのペプチド化合物の膜輸送を行う膜蛋白質である。
我々は今日までにヒトおよびラット有機アニオントランスポーター遺伝子 15 種類以上を単離し、
それまで存在すら疑われていた胆汁酸、甲状腺を含めた各種ホルモンの膜輸送機構を分子生物学
的に明らかにした。たとえば肝臓には水溶性スタチンを輸送する有機アニオントランスポーター
があるので水溶性スタチンは肝臓のみに取り込まれ、トランスポーターの無い筋肉には取り込ま
れにくい。水溶性スタチンにより横紋筋融解症が少ないのはその分布の違いによることが我々に
よって解明された。我々の研究からこれら有機アニオントランスポーターは甲状腺ホルモンの輸
送等各種内分泌機能に関与することや糖尿病、高血圧、高脂血症、腎不全や癌の治療における薬
物動態と組織送達に、また脂肪細胞におけるスタチンや経口糖尿病薬の脂肪細胞分化にも関与し
ていることも明らかとなってきている。
本発表では有機アニオントランスポーターと内分泌領域との関連性について発表する。
参考文献
1. Abe T. et al. Thyroid hormone transporters: recent advances.
Trends in Endocrinol. Metab. 13: 215-220, 2002
2. Mikkaichi T. et al. Isolation and characterization of a digoxin transporter and its rat
homologue expressed in the kidney. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101: 3569-3574, 2004
3. Tanemoto M. et al. PDZ-binding and di-hydrophobic motifs regulate distribution of Kir4.1
channels in renal cells. J. Am. Soc. Nephrol. 16: 2608-2614, 2005
4. Ohtsuka H. et al. Farnesoid X receptor, hepatocyte nuclear factors 1alpha and 3beta are
essential for transcriptional activation of the liver-specific organic anion transporter-2 gene.
J Gastroenterol. 41: 369-377, 2006
5. Adachi H. et al. Molecular characterization of human and rat organic anion transporter
OATP-D. Am. J. Physiol. 285: F1188-1197, 2003
講演者紹介
昭和 61 年東北大学医学部卒業、内科研修を経て昭和 63 年東北大学医学部病態液性調節学大学院
入学、同年東北大学遺伝子実験施設、平成 2 年京都大学医学部附属免疫研究施設(中西重忠教授)
を経て平成4年卒業(医学博士)。平成 5 年より日本学術振興会特別研究員 (PD 中途辞退)、平成
7 年より米国ハーバード大学医学部客員研究員ならびにヒューマンフロンティア財団長期研究員。
平成 9 年より東北大学医学部生体情報学助手、平成 13 年より東北大学医学部附属病院腎高血圧内
分泌科講師となり現在に至る。
その間、平成 13 年から平成 17 年まで科学技術振興事業団さきがけ研究 21 研究員を兼任。
専門分野:内科、腎臓学、高血圧、内分泌学、生化学
所属学会:日本内科学会、日本高血圧学会、日本腎臓学会、日本内分泌学会、日本心血管内分泌
代謝学会,日本肝臓学会、日本生化学会、日本薬物動態学会、日本分子生物学会
役員:日本高血圧学会評議員、日本内分泌学会代議員、日本薬物動態学会評議員、日本ステロイ
ドホルモン学会評議員、胆汁酸研究会代議員
資格:内科学会認定内科医、内分泌学会専門医・指導医、日本高血圧学会フェロー(FJSH)
研究テーマ:トランスポーターを用いた臨床応用と治療法の開発
メッセージ:日本発のオリジナルな研究をしましょう。
神経疾患と SLC トランスポーター
○稲津正人
東京医科大学・薬理学講座、予ේ医学研究寄ൂ講座
[email protected]
中枢神経系には多くのトランスポーターが存在し、神経伝達、神経細胞死、神経細胞の保‫܅‬等様々
な神経系の機能に関連しており、‫ؼ‬年、神経精神疾患の発症にグリア細胞の機能変化が大きく影
‫؜‬していることが示唆されている。中枢神経系には、およそ 140 億個の神経細胞とその 10 倍に
も及ぶとۗわれているグリア細胞が存在することが知られている。グリア細胞は、アストロサイ
ト、オリゴデンドロサイトおよびミクログリアの 3 種་からなり、脳機能維持に重要な細胞群で
ある。これらのグリア細胞は均一な細胞からなる集団ではなく、脳の各൉位で形態もその性ࡐも
異なり脳の発達過程でそれぞれの細胞が正しい位置に配置し、脳機能維持に関与していると考え
られている。最‫ؼ‬になって、神経細胞に存在するほとんどの受容体、イオンチャネルおよびトラ
ンスポーターがこれらグリア細胞に存在することが報告され、グリア細胞と神経細胞の間により
密接な相互作用があることが明らかにされてきている。神経伝達物ࡐトランスポーターは、シナ
プス間隙における神経伝達物ࡐの濃度を決定したり、伝達効率の持続や強さなどを調節する重要
な役割を担っている。特に、モノアミントランスポーターは、抗うつ薬、コカイン、アンフェタ
ミン་などの標的分子でもあり、その機能異常が精神神経疾患の病態に深く関与していることが
指摘されている。また、コリントランスポーターについては、アセチルコリン神経系におけるア
セチルコリン前駆体のコリン供給に関与していると考えられており、アルツハイマー病における
‫ݗ‬親和性コリントランスポーターの機能低下なども報告され、脳‫ݗ‬次機能における役割が注目さ
れている。以前より、これらの神経伝達物ࡐトランスポーターは、神経細胞にのみ存在している
と考えられてきたが、最‫ؼ‬我々は、グリア細胞にもモノアミントランスポーターなどが機能発現
していることを明らかにした。本シンポジウムでは、アストロサイトに機能発現しているトラン
スポーターの生理的役割および神経精神疾患との関わりについて概説する。
参考文献
1. Inazu M, et al.: Expression and functional characterization of the extraneuronal
monoaminetransporterinnormalhumanastrocytes.J.Neurochem.84(1):43-52,2003.
2. InazuM,etal.:Functionalexpressionofthenorepinephrinetransporterincultured
ratastrocytes. J.Neurochem.84(1):136-44,2003.
3. 稲津正人、他:中枢神経系におけるグリアモノアミントランスポーターの役割(総説)、日
本神経精神薬理学ߙ誌、23(4): 171-178,2003.
4. InazuM,etal.:MolecularandfunctionalcharacterizationofaNa+-independentcholine
transporterinratastrocytes. J.Neurochem.94(5):1427-37,2005.
5. InazuM,etal.:Functionalexpressionoftheorganiccation/carnitine transporter
2inratastrocytes. J.Neurochem.97(2):424-34,2006.
講演者紹介
所属:東京医科大学薬理学講座、講師、博士(医学)
経歴:1984年昭和大学薬学൉卒業、同年ポーラ化成工業(株)医薬品研究所勤務、’92年同研究
所、副主任研究員、同年カナダMcMaster University留学、’93年ポーラ化成工業(株)医薬品研
究所勤務、’97年東京医科大学薬理学講座、助手、’06年より同講座、現職。
所属学会:日本薬理学会(評議員)、日本神経科学学会、日本神経化学会、日本神経精神薬理学
会
研究テーマ:グリア細胞に発現する各種トランスポーターの機能ӕ析
メッセージ:ニッチ領域研究から生命科学にインパクトをÁ
心疾患と SLC トランスポーター
○松岡
達、竹内綾子、皿井伸明、野間昭典
京都大学細胞・生体機能シミュレーションプロジェクト、京都大学大学院 医学研究科 細胞機能
制御学、[email protected]
生理的学及び分子生物学研究の進歩の結果、心臓機能に関して膨大な知識が集積されてきた。
その結果、蛋白質機能の詳細が実験的に明らかになってきたが、細胞活動におけるその意義は多
くの場合ヒトの頭の中で推測するに止まる。また、蛋白質は直接的に、または膜電位・イオン・
ATP等を介して間接的に相互作用を行うので、複雑な機能的ネットワークを構成する。この複雑
な細胞機能を統合的に理解し、心筋細胞活動における個々の蛋白質の役割を定量的に明らかにす
る目的で、我々は実験データに基づく包括的心筋細胞コンピュータモデル(Kyoto model)を開発
している。このモデルにおいては、細胞膜イオンチャネル・トランスポータ、筋小胞体(リアノ
ジン受容体、Ca2+ポンプ)、クロスブリッジ(収縮要素)、ミトコンドリア(酸化的リン酸化反応
など)等をモデル化し、膜興奮(活動電位)、細胞内イオン(Na+, K+, Ca2+, Cl–)濃度変化、酸化
的リン酸化過程におけるATP産生とATPaseによるATP消費、及び細胞容積変化を再現することが可
能である(下図参照)。このモデルを用いて、SLCトランスポーター異常と心不全等の心機能異常
との関係を紹介するとともに、実験とコンピュータモデル解析を組み合わせたシステム生物学的
研究を紹介する。
ICaL
ICaT ICab IK1
Ca2+
Ca2+ Ca2+ K+
(+)
ATP
IKATP IKpl
K+
K+
IKr, IKs
K+
Ito
INa
IbNSC
II(Ca)
K+ Na+ Na+, K+ Na+, K+
INaK
INaCa
2K+ 3Na+
ATP ADP
(-)
ATP
3Na+ Ca2+
H+ H+ H+
Water
H+
H+
ATP ADP
ATP + Cr
PCr + ADP
2ADP
ATP + AMP
NADH
NAD+ O2 H2O
Ca2+
LA
ADP
Ca2+
Ca2+
ISRRyR
ATP
ADP ATP
O2
ISRU
Pi H+
Ca2+
IPMCA
Na+ K+ 2Cl- ClJNKCC1
IClb
ClClICFTR IVRCC
Kyoto model の概要
参考文献
1.
Takeuchi A, Tatsumi S, Sarai N, Terashima K, Matsuoka S, Noma A. Ionic mechanisms of cardiac cell
swelling induced by blocking Na+/K+ pump as revealed by experiments and simulation. J Gen Physiol.
2006;128(5):495-507.
2.
Matsuoka S, Sarai N, Jo H, Noma A. Simulation of ATP metabolism in cardiac excitation-contraction
coupling. Prog Biophys Mol Biol. 2004;85(2-3):279-99.
講演者紹介
所属:京都大学大学院 医学研究科・生体制御医学講座・細胞機能制御学、助手、医学博士
経歴:昭和 60 年鳥取大学医学部卒業。平成元年4月∼鳥取大学医学部付属病院医員(内科学第一)
。
平成元年9月鳥取大学医学研究科博士課程修了。平成3年6月∼米国テキサス大学サウスウエス
タンメディカルセンター、研究員。平成5年6月∼米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校心臓
血管研究所、研究員 。平成6年3月∼京都大学医学部、助手(生理学)、平成7年4月∼京都大
学医学研究科、助手
所属学会:日本生理学会、日本循環器学会、日本心電学会、Biophysical society
研究テーマ:心臓生理学。心臓機能をミクロレベルからマクロレベルまで統合的に解明すること
を研究の目標としている。
アレルギ−疾患と SLC トランスポ−タ−
○小笠原正人
愛媛大学大学院医学研究科システムバイオロジー部門薬理学分野
[email protected]
アレルギー反応においてはその反応に関わるサイトカインを含む多くの分子が同定されて
いるが、その中でヒスタミンは生体アミンとして1型アレルギー反応において重要な役割
を果たしていると考えられてきた。しかし近年リンパ球にもヒスタミン受容体が存在する
ことが明らかとされ、Th1/Th2 バランスの調節に関わっていることが示された。組織にお
けるヒスタミン濃度の調節はアレルギー反応において、あるいは非アレルギー状態におい
ても重要な要素と考えられ、その役割は新たな段階を迎えたと考えられる。ヒスタミンは
マクロファージや肥満細胞などの免疫系細胞で産生され、細胞外に分泌されたものは血管
や気管支平滑筋のヒスタミン受容体に働き炎症反応の一役を担う。一方ヒスタミン作用の
終息にはヒスタミン分解酵素であるヒスタミン N-メチル基転移酵素(HNMT)の働きが重要
である。HNMT は細胞生物学的検討で主に細胞質に存在し、一方ヒスタミンは容易には細
胞に取り込まれないためそのギャップを埋めるための仮説としてのヒスタミントランスポ
ーターの存在が推定されていた。近年 Organic cation transporter 2,3(OCT2, OCT3)は
ヒスタミンを細胞内に取り込むトランスポーターとして働くことが報告された。そこで
HNMT と OCT2,あるいは OCT3 との関係について検討を行った。HNMT によるヒスタミ
ンの代謝は OCT2 に依存することが明らかになり、そこで同様にヒスタミンを細胞内に取
り込む OCT3 遺伝子欠損マウスを用いて病態モデルを作成することによりその生体内での
役割を検討した。リポポリサッカライド(LPS)を用いて敗血症モデルを作成し、ヒスタミ
ンとの関係を検討した。OCT3 ノックアウトマウスにおいては、組織におけるヒスタミン濃
度の有意な上昇を認め、OCT3 は組織におけるヒスタミンのクリアランスに関わっていると
考えられ、Th1/Th2 バランスの調節にも関わっていると考えられる。
参考文献
1.小笠原正人、山内広平、前山一隆:ヒスタミン代謝における有機陽イオントランスポ
−タ−の役割、アレルギ−科、21(5):460-466,
2006
2.Ogasawara M, Yamauchi K, Satoh Y, Yamaji R, Inui K, Jonker JW, Schinkel AH,
Maeyama K : Recent advances in molecular pharmacology of the histamine
systems: organic cation transporters as a histamine transporter and histamine
metabolism. J Pharmacol Sci 101(1):24-30, 2006
講演者の紹介
所属:愛媛大学大学院医学研究科システムバイオロジー部門統合生体情報学講座薬理学分
野、助教授、博士(医学)
経歴:1994 年東北大学大学院医学研究科病態科学系専攻終了、1996 年 9 月より米国国立
衛生研究所客員研究員、2001 年 4 月愛媛大学医学部薬理学教室助手として赴任、2003 年
同大学薬理学講師、2005 年同大学薬理学助教授、2006 年より現職
所属学会:日本薬理学会(評議員)、日本生化学会、日本炎症・再生医学会、米国細胞生物学
会
研究テーマ:呼吸器疾患を中心とした生体アミンによる免疫反応の調節
腎疾患と SLC トランスポーター
東京大学医学部腎臓内分泌内科
山 田秀 臣
[email protected]
分子生物学の発展に伴い、多くのトランスポーターらが同定された。これにより最も恩恵を
受けた分野は腎臓生理学と言っても過言ではない。長年にわたる腎臓生理学の考察により、概
念としての数々のトランスポーターの存在が示唆されていた。驚くべきことは実際にクローニ
ングすると腎臓生理学で予想された通りの機能を持つトランスポーターであることが物証とし
て証明されたことである。その後はトランスポーターらが傷害された時に起こる疾患が容易に
想像できたため、多くの腎臓尿細管由来の遺伝子疾患が発見された。重要な疾患だけでも
Bartter、Gitelman 両症候群、尿細管性 Acidosis(distal and proximal type)、シスチン尿症、
ハートナップ病、遺伝性腎性糖尿、家族性低尿酸血症等々
と多数に渡る。
ではなぜ腎臓において各トランスポーターがこれほどまでに重要なのであろうか?この回答
として我々の腎臓の仕組みが関係している。ほ乳類の腎臓においてその多くのイオン、小分子
は腎臓の糸球体でいったんはすべてろ過される。そして体内に必要な物のみ、選択性を持ち、
体内に再吸収される形をとる。この一見無駄に見える働きは体内へ未知の毒素(物質)を蓄積
させないための進化と考える。だがこれには多大のエネルギーを要するものである。腎臓には
心臓から実に 20%の血液が流入し、180L/日の原尿を作りながら実際には 1.5L/日の尿しか出さ
ない。すなわち 99%以上の越された原尿を再び体内へ吸収するシステムを持っている。このシ
ステムを主に利用して重要な分子たちも体内へほぼ 100%吸収される。そしてこの働きを主に
担っているのがまさしくテーマである SLC トランスポーターである。実に SLC ファミリーの
26/40 が腎臓に関与していることからもその重要性が分かる。
クローニング、遺伝子異常そして疾患の同定までは前世紀の役割であった。まだ病態の重症
度の違いや、腎以外臓器の病態への説明など、まだまだ多くの疑問が山積みになっており、こ
れらの課題や最近の話題も含めてご紹介する予定である。
参考文献
1)分子腎臓病学:日本臨床増刊 64 巻増刊号 2, 2006
2)わかりやすい腎臓の構造と機能:中外医学社, 2000
ISBN4-498-12400-6
3)Shirakabe et al:IRBIT, an inositol 1,4,5-trisphosphate receptor-binding protein,
specifically binds to and activates pancreas-type Na+/HCO 3 - cotransporter 1 (pNBC1). PNAS
103 (25), 9542-9547, 2006
講演者紹介
所属:東京大学医学部附属病院
経歴:1993 年
腎臓内分泌内科、助手、博士(医学)
名古屋大学医学部卒業、 94
97 年名古屋大学医学部大学院(東京大学医学
部第一内科へ国内留学)、短期卒業(3 年)し 97
00 年ドイツ ZMNH(Jentsch 教授)留学、
同年帰国後国立国際医療センター勤務、 01 年東京大学医学部附属病院腎臓内分泌内科非常勤
医師、
04 年より同助手、現職。
所属学会:日本腎臓学会、米国腎臓学会(ASN)
、国際腎臓学会(ISN)
研究テーマ:ナトリウム重炭酸輸送体の機能解析、その Co-factors による調節機構の解明、
ClC チャンネル(現在は Cl-H antiporter としても知られている)とその病態について
メッセージ:講演でも紹介しますがトランスポーターは体内の多くの臓器の機構に関与してい
ます。是非とも腎臓以外の方々との交流を楽しみにしています。
栄養学と SLC トランスポーター
竹谷 豊
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・臨床栄養学分野
[email protected]
栄養素のほとんどは、消化管において吸収される過程、血液中から末梢組織の細胞に取り込まれる過程、腎
臓から再吸収される過程で細胞膜を通過するためにトランスポーターを介して輸送される。この際、大部分の
栄養素が SLC ファミリーのトランスポーターにより輸送される。生体内の栄養素代謝調節において、代謝酵素
がその基質や生成物により活性が調節されるのと同様に、これらのトランスポーターもその輸送基質あるいは
代謝物により活性が調節される。この調節機構は、生体にとって必要な栄養素レベルを一定に保ち、生体内の
ホメオスタシスを維持するために必須のものである。実際、トランスポーター本体の異常だけでなく、トランスポ
ーター活性を調節するホルモンなどの生理活性物質や栄養素による調節機構の異常は、さまざまな栄養素代
謝異常疾患を引き起こすことが古くから知られている。トランスポーターの輸送基質となる栄養素は、それ自身
がシグナル惹起因子となってトランスポーター活性調節に作用する場合と、なんらかのホルモンなどの生理活
性物質を介して間接的にトランスポーター活性を調節する場合がある。ホルモンによるトランスポーター調節機
構に比べ、栄養素による調節機構の多くは未だ解明されていないものが多い。栄養素の過剰摂取は生活習慣
病などの疾患を引き起こすが、その発症機構を考える上でも、栄養素がどのようにトランスポーター活性を調節
するのかを明らかにすることは重要である。本シンポジウムでは、栄養素によるトランスポーターの調節、栄養
素の代謝調節におけるトランスポーターの役割、さらには疾患との関わりについてディスカッションしたい。
(参考文献)
Takeda E, Taketani Y, et al. The regulation and function of phosphate in the human body. Biofactors.
21:345-355, 2004
Takeda E, Taketani, et al. A novel function of phosphate-mediated intracellular signal transduction pathways.
Adv Enz Regul 46:154-161, 2006.
講演者紹介
所属:徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・臨床栄養学分野、助教授、博士(栄養学)
経歴: 1994 年徳島大学大学院栄養学研究科博士前期課程修了、同年徳島大学助手、1999∼2001 年米国
テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター留学、2003 年徳島大学助教授、2004 年より現職。
所属学会:日本病態栄養学会(評議員)、日本ビタミン学会(評議員・編集委員)、日本栄養・食糧学会、日本
生化学会、日本骨代謝学会、米国骨代謝学会、国際骨代謝学会、国際腎臓学会など
研究テーマ:カルシウム・リン代謝調節機構とその破綻。最近は、高リン血症と生活習慣病発症機構に注目。
メッセージ:多くの研究分野からトランスポーター研究者が集まり、新しいアイデアが生まれることを期待してい
ます。
薬物輸送と SLC トランスポーター
○寺田智祐、乾
賢一
京都大学医学部附属病院薬剤部
[email protected]
薬物トランスポーターは小腸、腎臓、肝臓、脳などに発現し、生体に投与された薬物の体内動
態(吸収・分布・排泄)を制御している膜タンパク質の総称である。栄養物質の摂取に関わるも
のから、異物の解毒に関わるものまで、多様なトランスポーターが薬物トランスポーターとして
機能しており、それぞれが発現臓器や膜局在に応じた薬物動態学的役割を果たしている。薬物ト
ランスポーターの機能特性を特徴づけるキーワードとして、”diversity(多様性)”と”multispecificity
(多選択性)”が挙げられる。すなわち、diversity とは、
「一つの薬物トランスポーターファミリ
ーに複数のアイソフォームが存在し、一つの基質が複数のトランスポーターによって輸送される
こと」、また multispecificity とは、
「一つのトランスポーターが複数の基質を輸送すること」と考
えられる。この様な特徴故に、薬物トランスポーターは比較的少数の分子数で、膨大な数の医薬
品の体内動態を制御することが可能になるが、一方で、薬物相互作用を引き起こす原因や、ある
薬物の体内動態における各トランスポーターの寄与率同定の困難さの要因にもなっている。
ここ 10 年来、種々薬物トランスポーターの分子実体が明らかになり、機能・発現・調節など基
礎的な情報が多く得られるようになった。その結果、薬物トランスポーターの創薬や薬物療法な
どへの応用研究も盛んになりつつある。本講演では薬物トランスポーターファミリーのうち SLC
トランスポーターファミリーを取り上げ、それらの薬物動態学的意義について紹介する。
表.SLC 薬物トランスポーターの特徴
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Xu?Q%-vtDwxyz{|}ILu#~[^%-•€•de!2LOP“
M5:N
ƒ„X%-!R$S)TUV"<2:N
参考文献
1. 寺田智祐、乾
賢一:薬物トランスポーター研究の現状と将来.
臨床化学, 34(1), 20-26
(2005)
2. Terada, T. and Inui, K.: Peptide transporters: structure, function, regulation and application for drug
delivery.
Curr. Drug Metab., 5(1), 85-94 (2004)
3. Terada, T. and Inui, K.: Gene expression and regulation of drug transporters in the intestine and kidney.
Biochem. Pharmacol., in press.
講演者紹介
所属:京都大学医学部附属病院薬剤部、助手、京都大学博士(薬学)
経歴:平成11年3月
京都大学大学院薬学研究科博士後期課程修了
平成11年4月
平成12年3月
日本学術振興会特別研究員(PD)
平成12年4月
平成14年3月
京都大学医学部附属病院薬剤部・助手
平成14年4月
平成15年3月
米国ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病
院・リサーチフェロー
平成15年4月
現在に至る
京都大学医学部附属病院薬剤部・助手
所属学会:日本薬学会、日本薬物動態学会、日本医療薬学会、日本臨床薬理学会、日本腎臓学会、
日本膜学会、日本癌治療学会
研究テーマ:小腸および腎薬物トランスポーターの機能と発現制御
メッセージ:京大病院薬剤部では、乾教授が助手の頃から四半世紀にわたり薬物輸送研究に取り
組んできました。トランスポーター研究の老舗として、新たな伝統を生み出してい
きたいと思います。
シンポジウム2
「ABC トランスポーターの重要性」
オーバービュー(座長)
東京大学
楠原洋之
肝疾患と ABC トランスポーター
千葉大学
関根秀一
癌と ABC トランスポーター
産業医科大学
内海
脂質代謝と ABC トランスポーター
京都大学
松尾道憲
薬物輸送と ABC トランスポーター
東北大学
大槻純男
健
シンポジウム2「ABC トランスポーターの重要性」
座長:楠原洋之
紹介
所属:東京大学大学院薬学系研究科・分子薬物動態学教室・助教授
略歴:1997 年東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻修士課程終了、2003 年薬学博士。1998 年 1 月に
東京大学大学院薬学系研究科・助手、2004 年1月に同講師、2005 年 4 月から現職。
研究テーマ:医薬品の体内動態を制御することを目標に、腎排泄、血液脳関門・血液脳脊髄液関門に
おける薬物トランスポートシステムの解析を行っている。
研究室のホームページ:www.f.u-tokyo.ac.jp/ sugiyama/
肝疾患と ABC トランスポーター
○関根秀一、堀江利治
千葉大学大学院薬学研究院生物薬剤学研究室
伊藤晃成
東京大学医学部附属病院薬剤部
[email protected]
肝臓は生体内老排泄物や薬物の代謝産物などの異物の生体外への排泄に中心的な役割を担って
いる臓器であり、代謝酵素が豊富に存在するため薬物代謝過程で発生する活性酸素による酸化ス
トレスに曝され薬剤性肝障害の発症につながる。また C 型肝炎や肝硬変などの慢性肝障害におい
ても活性酸素が生成し、それが肝障害に寄与していることが知られている。これら肝障害時に発
生する活性酸素から細胞を守る内因性の抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)が低下すると、肝臓
の代謝・輸送系が障害を受け、肝機能を低下させる。中でも肝特有の細胞機能の一つである胆汁
排 泄 を 司 る 胆 管 側 膜 に 局 在 す る ABC ト ラ ン ス ポ ー タ ー で あ る MRP2(Multidrug
resistance-associated protein 2)、BSEP(Bile salt export pump)、MDR3(Multi drug resistance
protein 3)及び ABCG5/8 などは胆汁流生成の律速段階であり、その機能低下は胆汁うっ滞を生じ
黄疸として表在化する。またこれらのヒトにおける遺伝子欠損はそれぞれ Dubin-Johnson 症候群
(MRP2)、進行性家族性肝内胆汁うっ滞 2 型(BSEP)、3 型(MDR3)、シトステロール症(ABCG5/8)
の病態の原因となり、中には肝移植が必要となるほど重篤な場合もある。また、これら胆汁うっ
滞は細胞内にそれらの基質を蓄積させ、肝障害の増悪につながることから、肝障害時におけるこ
れらの胆管側膜における発現量及び、その制御機構を解明することは重要である。
胆管側膜におけるトランスポーターの発現は主に、転写因子を介した mRNA 量の変動を介した転
写―翻訳レベルにおける長期的な調節機構と mRNA の変動を伴わず、トランスポーターの細胞内ト
ラフィッキングやターゲッティングの異常による局在性の変化による短期的な調節機構の2種類
が知られている。今回は、酸化ストレスを誘発させた肝障害モデルにおいて、これら MRP2、BSEP
の転写調節因子を介した長期的な制御機構、局在変化を介した短期的な制御機構について、これ
までの報告や講演者らが得た成果などを紹介する。特に、講演者らが得た酸化ストレス暴露によ
る細胞内 GSH 低下時における短期的な MRP2 の局在制御と細胞におけるその生理学的な役割につい
て言及したい。
参考文献
1. Ji B, Ito K, Sekine S, Tajima A, Horie T.: Ethacrynic-acid-induced glutathione depletion
and oxidative stress in normal and Mrp2-deficient rat liver. Free Radic Biol Med.
37(11):1718-1729, 2004
2. Sekine S, Ito K, Horie T.: Oxidative stress and Mrp2 internalization. Free Radic Biol
Med. 40(12):2166-2174, 2006
講演者紹介
所属:千葉大学大学院
薬学研究院
生物薬剤学研究室、助手
経歴:2003 年千葉大学薬学部卒業、同年千葉大学大学院医学薬学府総合薬品科学専攻修士課程
学、2005 年より千葉大学大学院薬学研究院生物薬剤学研究室、助手。
所属学会:日本薬学会、日本薬物動態学会、日本薬剤学会
研究テーマ:胆汁排泄トランスポーターの局在制御機構の解明
入
がんと ABC トランスポーター
内海健
産業医科大学分子生物学教室
[email protected]
薬剤感受性を制御する多くの分子標的が登場し、薬剤による適切な個別化療法の新しい展
開が注目されている。特に ABC トランスポーターは多種類の抗がん剤の輸送排出をはじめ、
低分子異物に対する生体防御システムの重要な役割がある。抗がん剤治療においては ABC
トランスポーターのがんでの発現のみならず、薬物動態にかかわる肝臓、腸管での発現調
節、ストレス応答時の発現制御機構を解明する必要がある。今回は
[1]腫瘍細胞自体の ABC トランスポーターの発現制御--現在まで P-gp、MRP ファミリー、
BCRP など6種類の ABC 蛋白が抗がん剤の細胞外への排出に関わり、抗がん剤治療を抵抗
なものにしている。肝臓癌、大腸癌における ABC トランスポーターの発現と抗がん剤の感
受性について述べたい。
[2]ABC トランスポーター遺伝子発現には個人差がある--個人差には SNP を初めとする遺
伝的要因と環境変化による発現変化を明らかにすることが重要である。我々は薬物排出ト
ランスポーターの発現量や活性に影響をおよぼす遺伝子多型を多数同定し発現との相関を
明らかにした。また、MRP2 の発現が肝臓の炎症により影響をうけることも見いだした。
肝臓や腸管における MRP2 の発現制御の多様性について言及したい。
(3) 生体内では種々の酸化ストレスとトランスポーター--がん細胞や肝臓は常にストレス刺
激にさらされている。我々は最近ストレス応答性の転写因子 ATF4 の過剰発現株を作成し
た。これらの株は多剤耐性形質を示し、細胞内グルタチオン濃度が著明に上昇していた。
薬剤感受性関連因子の発現を見ると、グルタチオン合成酵素(γGCS)やグルタチオン転移酵素
(GSTpi)の発現亢進のみならず、薬剤排泄ポンプである BCRP や MRP2 の発現も亢進していた。
がんの抗がん剤治療を考える場合 ABC トランスポーターの関与は非常に大きく、さらなる
基礎的な研究の進展を進める必要がある。
参考文献
1. Hisaeda,K., Inokuchi,A., Nakamura,T., Iwamoto,Y., Kohno,K., Kuwano,M. and Uchiumi,T.
Interleukin-1ß represses MRP2 gene expression through inactivation of interferon regulatory
factor 3 in HepG2 cells:
Hepatology, 39: 1574-1582, 2004
2. Kohno K, Uchiumi T, Niina I, Wakasugi T, Igarashi T, Momii Y, Yoshida T, Matsuo K,
Miyamoto N, Izumi H. :Transcription factors and drug resistance.
41:2577-2586. 2005
Eur J Cancer.
講演者紹介
所属:産業医科大学分子生物学教室、講師、博士
経歴:1988 年大分医科大学医学部卒業、’93 年大分医科大学第一生化学大学院終了、同年
大分医科大学第一生化学
医学部第一生化学
助手、’93 年より米国 NCI-Frederick に留学、’96 年
助手、2005 年より産業医科大学分子生物学
九州大学
講師。
所属学会:日本癌学会、日本分子生物学会、がん分子標的治療研究会、米国癌学会(AACR)
研究テーマ:がん治療の分子基盤―転写因子から ABC トランスポーターまで
メッセージ:Simple is best, 実験は遊び心から
脂質代謝と ABC トランスポーター
○松尾道憲
京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻細胞生化学研究室
[email protected]
ABC(ATP-binding cassette)トランスポーターはよく保存されたヌクレオチド結合領域を1機能
分子あたり2つ持つ膜タンパク質スーパーファミリーで、ヒトには 49 種存在する。近年、多くの
ABCトランスポーターが脂質輸送を介して生体の脂質恒常性維持に関与することが分かりつつあ
り、高脂血症との関係からも注目されている。例えば、肝臓ではABCB4(MDR3)とABCB11(BSEP, SPGP)
がそれぞれホスファチジルコリンと胆汁酸を胆管へ排出し、小腸上皮ではABCG5 とABCG8 が植物性
ステロールとコレステロールを腸管へ排出する。脂質恒常性維持に重要なABCタンパク質の機能異
常は、様々な遺伝病、疾病を引き起こすことが分かっている。肺サーファクタントの分泌に重要
なABCA3 の変異は新生児肺サーファクタント欠損症、網膜でN-レチニルデンホスファチジルエタ
ノールアミンを輸送するABCA4 の変異は黄斑部変性症、ペルオキシソームに極長鎖脂肪酸を輸送
するABCD1(ALDP)の変異は副腎白質ジストロフィーを引き起こす。ABCB4, ABCB11 の変異はそれぞ
れ肝内胆汁うっ滞症Ⅲ型、Ⅱ型、ABCG5/ABCG8 の変異はシトステロール血症の原因となる。
マクロファージを含む末梢細胞では、ABCA1 と ABCG1 が肝臓へのコレステロール逆転送に働く。
ABCA1 の遺伝子変異は高密度リポタンパク質(HDL)が減少するタンジール病を引き起こし、ABCG1
ノックアウトマウスでは肝細胞とマクロファージに多量の脂質が蓄積する。我々は、ABCA1 がア
ポリポタンパク質 A-I(apoA-I)にコレステロールとホスファチジルコリンを排出し、生じた HDL
に ABCG1 がさらにコレステロール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリンを排出すること
で、過剰の脂質を取り除くことを明らかにした。
これらの知見を含めて、ABC トランスポーターの脂質恒常性維持における重要性を紹介したい。
参考文献
1. 植田和光、高橋圭、小林綾、松尾道憲: ABC タンパク質が脂質を動かす 蛋白質 核酸 酵素 51:
342-349, 2006
2. Kobayashi, A. et al.: Efflux of sphingomyelin, cholesterol, and phosphatidylcholine
by ABCG1. J. Lipid. Res. 47: 1791-1802, 2006
3. Takahashi, K. et al: Purification and ATPase activity of ABCA1. J. Biol. Chem., 281:
10760-10768, 2006
4. 植田和光、高橋圭、小林綾、松尾道憲: 脂質輸送と ABC タンパク質
2005
実験医学 23: 842-846,
講演者紹介
所属:京都大学大学院農学研究科細胞生化学研究室、助手、博士(農学)
経歴:2000 年
究所
京都大学大学院農学研究科修了、’00~’01 年
博士研究員
オックスフォード大学生理学研
Wellcome Trust Travelling Research Fellow、’01 年より京都大学大学院
農学研究科細胞生化学研究室
助手
所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会
研究テーマ:ABC トランスポーターの生化学的解析
メッセージ:ABC トランスポーターが関係しそうな話があれば、お気軽に声をかけてください。
共同研究大歓迎。
薬物輸送と ABC トランスポーター
○大槻純男
東北大学大学院薬学研究科、SORST・科学技術振興機構
[email protected]
薬物の作用の大きさを決める作用部位での薬物濃度は、吸収・分布・代謝・排泄で代表される各
薬物の体内動態によって決定づけられる。吸収・分布・代謝・排泄はすべて生体膜の透過過程を
含むため、各透過過程に存在する薬物輸送を行うトランスポーターは薬物の体内動態に何らか関
与をしており、そして間接的に薬効や副作用、薬物相互作用に影響を与えていることとなる。ABC
トランスポーターに関しても、すでに多くのサブタイプが薬物輸送を行い薬物動態に非常に大き
く関与していることが明らかになっている。このため、新薬開発の現場においても ABC トランス
ポーターによる薬物輸送は無視することはできなく、その意義はますます大きくなってきている。
現在までに ABCB1/MDR1、ABCC/MRP family、ABCG2/BCRP/MXR が薬物輸送に関わること
が明らかとなっている。これらの内、ABCB1/MDR1 がもっとも解析が進んでおり、その薬物輸
送への関与は血液脳関門において顕著である。血液脳関門は脳毛細血管内皮細胞が密着結合する
ことで形成されており、ABCB1/MDR1 は脳毛細血管内皮細胞の血液側の細胞膜に局在している。
従って、ABCB1/MDR1 は基質となる薬物を内皮細胞内から循環血液中に排出することによって、
薬物の血液から脳への移行を妨げている。ABCB1/MDR1 の働きは、単に血液から脳への薬物の
移行速度を低下させるだけではなく、定常状態における脳内の薬物量も低下することとなり、結
果、薬効の発現を制限している。胎児への薬物の移行に大きな影響がある血液胎盤関門では、
ABCG2/BCRP/MXR が機能している。また、小腸における吸収に関しては、小腸上皮細胞に発現
している ABCB1/MDR1 や ABCG2/BCRP/MXR が機能し、上皮細胞から小腸管腔へ薬物を輸送
することで吸収を制限している。同様に肝臓や腎臓においても複数の ABC トランスポーターが機
能して薬物の代謝や排泄に大きな影響を与えている。以上のように、どのようなトランスポータ
ーがどの臓器でどのように機能しているかは徐々に明らかになりつつある。しかし、一つの臓器
で単一のトランスポーターが機能しているのではなく、複数のトランスポーターが、おそらく協
調して、機能していると考えられる。今後、このようなトランスポーター群をどのように解析し
理解していくかが、薬物動態も含めて ABC トランスポーターの生体における役割を理解するため
に重要であろう。
参考文献
1.
Ohtsuki S: New aspects of the blood-brain barrier transporters; its physiological roles in
the central nervous system. Biol Pharm Bull. 27: 1489-1496 (2004)
2.
Shitara Y, et al.: Transporters as a determinant of drug clearance and tissue distribution.
Eur. J. Pharm. Sci. 27: 425-446, 2006
講演者紹介
所属:東北大学大学院薬学研究科薬物送達学分野、助教授、博士(薬学)
経歴:1996 年東京大学大学院薬学系研究科修了、96 年アメリカ・カリフォルニア大学サンディ
エゴ校及びバークレイ校留学、99 年より東北大学大学院薬学研究科科学技術振興事業団研究員、
99 年より東北大学大学院薬学研究科助手、00 年より同教室講師、03 年より同教室助教授、現職
00 年から 06 年まで東北大学未来科学技術共同研究センター助手、講師、助教授を兼任
04 年 平成 16 年度日本薬学会奨励賞受賞
05 年 フランス・アルトワ大学客員教授
所属学会:日本薬学会、日本生化学会、日本薬物動態学会、日本神経科学会、日本薬剤学会、米
国神経科学会(SFN)
研究テーマ:脳関門の輸送分子機構と中枢疾患への関与機構の解明
シンポジウム3
「トランスポーター研究:最近の話題」
オーバービュー(座長)
共立薬科大学
崔
吉道
トランスポーター結合蛋白質の同定
杏林大学
安西尚彦
遺伝子改変動物を用いた結合蛋白質解析
神戸大学
三木隆司
遺伝子改変動物とトランスポーター機能
東京医科歯科大学
松上璃江子
トランスポーター研究の展開:植物
東京大学
藤原
徹
トランスポーター研究の展開:線虫
東京大学
紺谷圏二
シンポジウム3「トランスポーター研究:最近の話題」
座長:崔 吉道
紹介
所属:共立薬科大学 薬剤学講座、助教授、博士(薬学)
経歴:1966 年茨城県生まれ。1989 年金沢大学薬学部卒業、’91 年金沢大学大学院薬学研究科修
了、’94 年金沢大学大学院自然科学研究科修了、’94 年より金沢大学薬学部助手、その間’97.9∼’99.8
米国タフツ大学医学部 Postdoctoral Fellow、2000 年より金沢大学大学院自然科学研究科助手、
’ 04 年より共立薬科大学助教授(現在に至る)
所属学会:日本薬学会、日本薬物動態学会(国際化対応委員、DMPK 誌 Editorial Board、電子
投稿ワーキンググループ、ビジョン・シンポ実行委員長)
、日本薬剤学会(将来ビジョン委員)、
日本医療薬学会、日本DDS学会、日本生化学会、日本癌学会、AAPS (American Association of
Pharmaceutical Scientists)、ISSX (International Society for the Study of Xenobiotics)
研究テーマ:個の医療・ドラッグデリバリーのための分子薬物動態学的研究、トランスポーター
を中心とした個人間変動要因の解明
メッセージ:若者は何故 3 年で辞めるのか?何事も泳ぐように浴びるようにどっぷり浸かり兎に
角やり遂げなければわからない!レールのことは忘れよう。
トランスポーター結合蛋白質の同定
○安西尚彦
杏林大学医学部薬理学教室
[email protected]
ヒトゲノムDNAのドラフトシークエンスが決定された現在、ゲノム科学のターゲットは遺伝子の配
列から遺伝子の機能同定や遺伝子間の相互作用の仕組みを理解しようという「機能解析」を目指
すポストゲノム研究へと移行した。
「機能」の解析対象はタンパク質である。これまでにタンパク
質の多くは生体内で他のタンパク質と恒常的ないし一過性に会合することが知られ、その複合体
の形成は本来の機能発現に、あるいはその機能の制御に重要と考えられている。このため、包括
的なタンパク質機能解析(プロテオーム解析)はポストゲノムの最大の課題の 1 つと言える。近
年イオンチャネルやリセプターを始めトランスポーターを含む膜蛋白質も、細胞膜内において単
独で存在するわけではなく、その細胞内部分を介しPDZドメイン蛋白質を初めとした多種多様な細
胞内蛋白との相互作用により調節されていることが、神経細胞の中で高度に発達したシナプスを
始め、上皮細胞を含む多くの細胞において明らかにされている。膜蛋白質に関するタンパク質間
相互作用の解析は、これまではその簡便性の点から酵母ツーハイブリッド(Y2H)法が利用されてい
るが、最近の高感度な質量分析計を用いたプロテオミクスの登場により、タグ蛋白質を用いた複
合体構成成分の網羅的解析も進んできている。これらの方法により同定されたトランスポーター
を取り巻くタンパク質間相互作用は、輸送活性制御、多量体形成、トラフィッキングやターゲテ
ィング、細胞内輸送などの点で新しい知見を得ることにつながる。今回は、講演者が得意とする
Y2H法を用いた解析により明らかにされたタンパク質間相互作用が、どのようにトランスポーター
研究の展開につながるか、自験例を中心に紹介する。特に有機酸・尿酸トランスポーター結合蛋
白質として同定されたPDZK1 が、複合体形成を介し古典的生理学で想定された腎尿細管のNa+依存
性尿酸輸送ユニットという生理機能の理解に貢献したこと、そして新規トランスポーター結合タ
ンパク質同定から「細胞膜から核へのシグナル伝達」への可能性などに言及したい。
参考文献
1.安西尚彦、他:Yeast Two-Hybrid 法によるイオンチャネルの細胞内調節因子の同定法、日薬
理誌、122: 331-337, 2003
2.Anzai N, et al.: The multivalent PDZ domain-containing protein CIPP is a partner of
acid-sensing ion channel 3 in sensory neurons. J Biol Chem. 277: 16655-16661, 2002
3.Anzai N, et al.: The multivalent PDZ domain-containing protein PDZK1 regulates transport
activity of renal urate-anion exchanger URAT1 via its C terminus. J Biol Chem. 279:
45942-45950, 2004
4.Anzai N, et al.: Integrated physiology of proximal tubular organic anion transport.
Curr Opin Nephrol Hypertens. 14:472-479, 2005.
講演者紹介
所属:杏林大学医学部薬理学教室、専任講師、博士(医学)
経歴:1965 年東京生まれ。1990 年千葉大学医学部卒業、同年千葉大学医学部附属病院第一内科
入局、’95 年北里大学医学部生理学教室、助手、’99 年フランス CNRS 分子細胞薬理学研究所留
学、’01 年より杏林大学医学部薬理学教室、助手、’04 年より同教室、学内講師、’06 年より現職。
所属学会:日本生理学会(評議員)
、日本薬理学会、日本腎臓学会、日本内分泌学会、日本痛風核
酸代謝学会、日本臨床薬理学会、日本生化学会、日本分子生物学会、日本病理学会、日本ビタミ
ン学会、日本トキシコロジー学会、日本予防医学会、日本癌学会、日本リウマチ学会、日本肝臓
学会、米国生理学会(APS)、米国腎臓学会(ASN)、国際腎臓学会(ISN)
研究テーマ:有機酸・尿酸トランスポーターの輸送機能解析とその調節メカニズムの解明
メッセージ:信条はポジティブ・シンキング。自称「人間 PDZ タンパク質」。リサーチも研究者
の human-human interaction から!
遺伝子改変動物を用いたトランスポーター構成分子の機能解析:ATP感受性K+チャネ
ルでの経験
○三木
隆司、清野 進
神戸大学大学院医学系研究科細胞分子医学
E-mail address: [email protected]
Yeast-two hybrid 法、最近ではプルダウン-質量分析法などで同定されたタンパク質間相互作用
は、免疫沈降法などの生化学的な結合や、培養細胞へ発現させた際の両者の共局在などで確認さ
れる。チャネルやトランスポーターなどの膜輸送タンパク質の場合は、哺乳類培養細胞へ遺伝子
を共発現し、パッチクランプによりそのチャネル特性の変化を、またトレーサー実験によりトラ
ンスポーター特性の変化を調べることで分子機能を検討することが可能である。
それに加え、生理的重要性を示すには遺伝子ノックアウト(KO)動物の応用は極めて有用であり、
2 つのタンパク質の変異体が同じ表現型を示すことが、最も説得力のある証明となる。本講演で
は、ATP感受性K+チャネル(KATP)チャネルの構成分子の遺伝子改変動物の解析を例に、複合体
となって機能する構成分子のKOマウスの表現型はどのように一致し、またどのように異なるかを
紹介したい。
KATPチャネルは、ABCトランスポーターであるスルホニル尿素受容体(SUR)と内向き整流性K
+
チャネルメンバーであるKir6.xの 2 つのサブユニットから構成されるヘテロ 8 量体である。
Kir6.x サブユニットはKir6.1 とKir6.2 の 2 つのメンバーからなり、SURサブユニットには
SUR1、SUR2A、SUR2Bなどのメンバーが同定されている。再構成系の電気生理実験から、この
2 つのサブユニットの異なる組み合わせで、種々の組織で見られる異なった電気特性を有す
るKATPチャネルが再構成されることが明らかになった。
KATPチャネルの生体での役割を明らかにする目的で、チャネル構成分子の遺伝子改変マウス
(Kir6.2-/-、 Kir6.1-/-、SUR1-/-、SUR2-/-)が相次いで作製された。これらのマウスの解
析結果の比較は、各組織のKATPチャネルの役割を明らかにする上で極めて有用であった。例え
ば、膵β細胞のKATPチャネルを構成するSUR1 とKir6.2 のKOマウスは、どちらもほぼ同じイン
スリン分泌異常を示した。一方、Kir6.2-/-とSUR2-/-ではインスリン感受性の亢進が見られ
たが、SUR1-/-では正常であった。この原因を解析したところ、Kir6.2 とSUR2 で構成される
骨格筋のKATPチャネルの閉鎖がインスリン依存性糖取り込みを亢進していることが明らかに
なった。一方、膵β細胞機能を詳細に調べると、Kir6.2-/-とSUR1-/-ではcAMPによるインス
リン分泌応答が異なり、前者では分泌を増強するものの後者では増強しない。この原因の一
つとして、SUR1-/-ではSUR1 と相互作用するcAMP-GEFII(cAMPによるPKAによらないインスリン
分泌に関与)が足場を失い、分泌増強が障害されている可能性も考えられ、今後の解析に期待
したい。
参考文献
1. Miki, T., Nagashima, K., Tashiro, F., et al. (1998) Defective insulin secretion and enhanced insulin
action in KATP channel-deficient mice. Proc Natl Acad Sci USA 95, 10402-10406.
2. Miki, T., Liss, B., Minami, K., et al. (2001) ATP-sensitive K+ channels in the hypothalamus are essential
for the maintenance of glucose homeostasis. Nature Neurosci. 5, 507-512.
3. Miki, T., Suzuki, M., Shibasaki, T., et al. (2002) Mouse model of Prinzmetal angina by disruption of the
inward rectifier Kir6.1. Nature Med. 8, 466-472.
講演者紹介
所属:神戸大学大学院助教授医学系研究科細胞分子医学、助教授、博士(医学)
経歴:1963 年千葉県出身。1988 年千葉大学医学部卒業、同年千葉大学医学部附属病院第二内科
入局。’97 年、同助手(高次機能制御研究センター発達生理分野)。2001 年、同助教授(遺伝子実
験施設)’03 年、同助教授(細胞分子医学)。’03 年より現職。
所属学会:日本生理学会、日本生化学会、日本分子生物学会、日本内科学会、日本糖尿病学会、
日本内分泌学会、米国糖尿病学会(ADA)
研究テーマ:糖、エネルギー代謝の制御機構。
メッセージ:自称「ねずみのお医者さん」。最近マウスの気持ちが読めるようになってきました。
遺伝子改変動物とトランスポーター機能:グルタミン酸トランスポーターGLAST・GLT1
○ 松上璃江子
東京医科歯科大学難治疾患研究所形態機能解析室
[email protected]
記憶や学習に関わり、最も主要な興奮性神経伝達物質として知られるグルタミン酸のシグナル伝達機
構は、シナプス発達期以前の発生期(胎生期)においても神経幹細胞分裂・細胞移動・細胞生存等に関
与し、またその伝達機能不全が重篤な発生障害につながる可能性が薬理学的培養実験(in vitro)の結
果から示されてきた。さらに生理環境下(in vivo)における脳発生期グルタミン酸シグナル伝達機構
の役割解明を目的として、グルタミン酸受容体機能欠損マウスやグルタミン酸放出機能欠損マウスが精
力的に解析された。しかし、数多いグルタミン酸受容体サブタイプ間の代償機能や神経伝達物質間の補
償作用が生じてしまうために、完全なグルタミン酸シグナル欠損モデルの作出は困難を極め、これらの
機能欠損マウスに発生異常は見られなかった。つまり、現在まで、in vivoでの脳発生におけるグルタ
ミン酸シグナル伝達機構の役割と、その重要性は不明瞭な命題として残されてきた。
そこで我々は、シグナル欠損モデルでの問題点を克服するため、上述のストラテジーとは逆に、グ
ルタミン酸トランスポーターの欠損によって細胞外グルタミン酸濃度を上昇させた「グルタミン酸受
容体過剰刺激モデルマウス」を作製し、脳形成におけるグルタミン酸の役割を解析することに成功し
た。通常、グルタミン酸は細胞外に放出されてシグナル伝達を終えると、グルタミン酸トランスポー
ターにより速やかに回収され、細胞外のグルタミン酸は低濃度状態に保たれる。しかし、我々が作製
した GLAST 遺伝子と GLT1 遺伝子を破壊したマウス(GLAST(-/-)&GLT1(-/-)マウス)では、細胞外グル
タミン酸の回収が行われず、高濃度化した細胞外グルタミン酸によって、グルタミン酸受容体が常に
過剰刺激された状態にある。成体脳の場合、グルタミン酸が細胞外に放出されたまま過剰に存在する
と神経細胞死をもたらすことが知られているが、この GLAST(-/-)&GLT1(-/-)マウスの胎子脳の解析で
は、細胞死は見られず、大脳皮質・海馬・扁桃体・嗅球など多くの部位で顕著な脳形成障害が認めら
れた。さらに GLT1・GLAST の胎子脳での発現部位と、GLAST(-/-)&GLT1(-/-)マウスの脳形成障害部位
との間には相関関係が見いだされ、2種類のサブタイプが共存する部位では特に重篤な発生異常が見
られた。これらの研究結果から、正常脳発生のためには、GLT1 と GLAST による厳密なグルタミン酸過
剰シグナル防御機構が必要不可欠である事が明らかになった。
<参考文献> Matsugami T. R., et al.: Indispensability of glutamate transporters GLAST and
GLT1 to brain development. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 103:12161-12166, 2006
<講演者紹介>
所属:東京医科歯科大学難治疾患研究所形態機能解析室
略歴:’04 年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程満期修了、’04-‘06 年理化学研究所脳
科学総合研究センター神経構築技術開発チームリサーチアソシエイト、‘06 年5月より現所属。
研究テーマ:
「グルタミン酸トランスポーター変異マウスの脳形成異常の解析に関する研究」
「グルタミン酸シグナル制御障害モデルを用いた脳高次機能障害の病態解明」
トランスポーター研究の展開:植物
○藤原 徹
東京大学生物生産工学研究センター植物機能工学、SORST, JST
[email protected]
植物は独立栄養生物として生態系に有機物を供給している。人類を含めた動物の生存は植物な
くしてはあり得ない。植物には動物などのトランスポーターと共通性の高いものも多く存在して
いるが、独自のトランスポーターや制御系もみられ、独自の進化の過程で獲得されたことを物語
っている。
植物の栄養源は土壌中の無機元素である。これらの無機元素のほとんどはイオンとして吸収さ
れるが、その土壌溶液(土壌の中に存在する水相)中の濃度は一般に低く、低濃度の栄養素を効
率良く吸収するための仕組みを植物は持っている。土壌からの無機元素の吸収に関わるトランス
ポーターは Km 値がμM レベル程度のものが多い。また、イネ科植物は鉄の吸収に、シデロフォア
と呼ばれる鉄をキレートする能力のある化合物(mugineic acid、ムギネ酸)を根から分泌し、土
壌中の鉄を可溶化させたのち吸収するという、興味深い仕組みが知られており、このムギネ酸と
鉄の結合体を吸収するトランスポーターも知られている。
我々のグループではホウ酸のトランスポーターを生物界に先駆けてモデル植物シロイヌナズナ
から同定することに成功した。我々の発見に基づいて、ヒトのホウ酸トランスポーターが同定さ
れた。また、我々は最近、モリブデン酸のトランスポーターも同定した。ホウ酸トランスポータ
ーを過剰発現させることで、ホウ素が少ない培地でも生育する植物を作出することに成功した。
また、ホウ酸のトランスポーターが培地中のホウ素濃度に応じてエンドサイトーシスを経て分解
されることを明らかにした。
この分野の日本における研究は盛んで、岡山大学の馬らよりイネからケイ酸のトランスポータ
ーが同定された。東京大学の西澤らによって、ムギネ酸合成能を高めることで、イネに鉄欠乏耐
性が付与できることが示されている。岡山大学の松本らは、酸性土壌で問題になる毒性イオン、
アルミニウムに対する耐性を植物に付与するリンゴ酸トランスポーターを同定している。これら
の成果は分野では日本の研究が世界をリードしていることを示している。
植物は動物とは異なり、プロトンを膜電位の維持や駆動力に用いている。今後、このような独
自の輸送系やその制御機構の解明が進められることによって、植物の理解や植物生産性の改善だ
けでなく、生物学一般としても重要な知見が明らかにされていくであろう。
参考文献
1, Takano J and Wada M et al.: The Arabidopsis major intrinsic protein NIP5;1 is essential for efficient boron
uptake and plant development under boron limitation. Plant Cell 18: 1498-1509, 2006
2, Miwa K ,Takano J et al.: Improvement of seed yields under boron-limiting conditions through overexpression
of BOR1, a boron transporter for xylem loading, in Arabidopsis thaliana. Plant J. 46: 1084-1091, 2006
3, Ma JF et al.: A silicon transporter in rice. Nature 440: 688-691, 2006
4, Takano J et al.: Endocytosis and degradation of BOR1, a boron transporter of Arabidopsis thaliana, regulated
by boron availability. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 12276-12281, 2005
5, Sasaki T et al.: A wheat gene encoding an aluminum-activated malate transporter. Plant J. 37: 645-653, 2004
6, Takano J et al.:Arabidopsis boron transporter for xylem loading. Nature 420: 337-340, 2002
7, Takahashi M et al.: Enhanced tolerance of rice to low iron availability in alkaline soils using barley
nicotianamine aminotransferase genes. Nat. Biotech. 19: 466-469, 2001
講演者紹介
所属:東京大学生物生産工学研究センター植物機能工学部門、助教授、博士(農学)
経歴:1964 年大阪市生まれ。1987 年東京大学農学部卒業、1992 年東京大学大学院農学研究科博
士課程修了(博士(農学))、同年、東京大学農学部助手、2003 年東京大学生物生産工学研究セン
ター助教授、現在に至る。この間、1989 年米国ワシントン大学 visiting scholar, 1992 年米国
カリフォルニア大大学デービス校研究員、1994 年米国コーネル大学研究員等。
所属学会:日本土壌肥料学会、日本植物生理学会、日本農芸化学会、日本分子生物学会、日本植
物細胞生物学会、米国植物生理学会
研究テーマ:現在は植物における物質輸送とその制御機構の解明、および応用。
メッセージ:植物は見てもいじっても食べても良いもの。植物は愛情を正直に受け止めてくれる。
私たちの生活や心を豊かにする植物を元気にすることを通じて、生物学全般、ひいては人類に貢
献したい!と考えつつ、好きな植物を家でも大学でも楽しんでいる。畑のある家に住みたい。
トランスポーター研究の展開:線虫
線虫を利用したトランスポーターの膜局在化制御因子の同定と機能解析
○紺谷圏二、小藤智史、横田典子、堅田利明
東京大学大学院・薬学系研究科・生理化学教室
[email protected]
現在までに数多くのトランスポーターが同定され、その組織分布や基質認識などに関する研究
が進められている。小腸や肝臓などの上皮細胞には多様なトランスポーターが発現しているが、
それらが固有の機能を発揮するためには個々のトランスポーターが上皮細胞の特定膜領域(管腔
側や基底膜側など)に局在化することが不可欠である。よってトランスポーターの機能を考える
上で、それらの膜局在化メカニズムを明らかにすることは非常に重要である。我々の研究グルー
プでは線虫を利用してトランスポーターの膜局在化に関与する因子群のスクリーニングを行って
おり、それらを手がかりにトランスポーターの膜局在化機構の分子メカニズムを明らかにしたい
と考えている。
ABCトランスポーターはバクテリアからヒトまで幅広く保存されたトランスポーターであり、線
虫には 60 種類のABCトランスポーターが存在する1)。最もよく知られたABCトランスポーターの
一つであるP糖蛋白質(MDR1/P-gp)は線虫にもそのホモログが存在する。線虫におけるP糖蛋白質
PGP-1 はヒトなどと同様、腸上皮細胞の管腔側(アピカル膜)に局在化しており、種を越えて共
通したアピカル膜局在化機構が存在すると想定される。そこで我々はPGP-1 を題材として、その
アピカル膜局在化に関与する因子群のスクリーニングを試みている。線虫は遺伝学的スクリーニ
ングが可能であり、体が透明なのでGFP融合蛋白質の発現や細胞内局在を解析できるという利点を
有している。そこで我々はまず、PGP-1 のC末端にGFPタグが付加されたPGP-1-GFPを発現するトラ
ンスジェニック線虫を作製した。この線虫株を用いることにより、PGP-1 の細胞内局在を生きた
個体のまま容易に解析することが可能となった。
現在、スクリーニングの方法としては2通りの方法を用いている。ひとつは近年開発された
Feeding RNAi library を用いたスクリーニングである。線虫は大腸菌を食べて成長するが、餌で
ある大腸菌にあらかじめノックダウンしたい遺伝子に対する double-strand RNA(dsRNA)を発現
させておき、それを摂取した線虫で RNAi を効かせることができるという非常に簡便で優れた方法
である。予備的な実験から、いくつかの遺伝子をノックダウンした場合に PGP-1-GFP の局在に異
常が起こることが明らかになった。もう一つの方法は、トランスジェニック動物を EMS などの突
原変異誘発剤で処理し、PGP-1-GFP の細胞内局在に変化が生じた変異体を単離する方法である。
本発表では以上の2種類のスクリーニングより得られた最近の知見について紹介したい。
参考文献
1 ) Sheps JA, et al.: The ABC transporter gene family of Caenorhabditis elegans has
implications for the evolutionary dynamics of multidrug resistance in eukaryotes.
Genome Biol. 5:R15 (2004)
講演者紹介
所属:東京大学大学院薬学系研究科・生理化学教室、助教授、博士(理学)
略歴:1995 年東京工業大学大学院博士課程修了、同年日本学術振興会特別研究員、1996 年三菱化
学株式会社、1997 年日本学術振興会未来開拓学術研究リサーチ・アソシエイト、1998 年東京大学
薬学部・生理化学教室、助手、2002 年カリフォルニア大学サンタバーバラ校(Dr. J.H. Rothman
研究室)に留学、2005 年より現職。
所属学会:日本薬学会、日本生化学会、日本分子生物学会
研究テーマ:トランスポーターの細胞内局在を制御する分子機構の解明、新規低分子量G蛋白質
の生理的役割の解明
メッセージ:これまでに培ってきた生化学的・細胞生物学的手法と、線虫を利用した遺伝学的解
析をうまく組み合わせた研究を展開したいと考えています。トランスポーターに関する研究はま
だ着手したばかりであり、皆様のいろいろな御助言を頂ければと思います。