慢性関節リウマチの病態と治療への応用

マンガ ライフサイエンス・第 14 回
応用編 その
その1
1.
慢性関節リウマチの病態と治療への応用
萩原 清文*作 多田 富雄**監修
6 年間にわたって連載してきたマンガシリーズもいよいよ応用編である.今回は慢性関節リウマチ(RA)の病
態をみながら治療への応用について眺めてみよう.RA は全身の関節を痛め,そして変形させることによって
患者の日常生活を蝕む疾患であり,他の疾患と同じく治療の開発に向けて切実な研究が進められている.
自己免疫疾患としての側面
RA においては何らかの「自己」の成分に対する免疫応答が起こっている.
(マンガ免疫学 第 5 回 「自己」への反逆の時,参照)
何らかの自己抗原の断片
?
H
!
?
自己反応性ヘルパーT細胞
H
やれ∼
抗原提示細胞
応用 a 攻撃される「自己」抗原の全貌はまだ明らかではないが,抗原提示細胞とヘルパーT 細胞との相互作
用を阻害するような「抗原特異的干渉療法」が考案されている(経口免疫寛容療法,T 細胞ワクチンなど)
.
細胞増殖性疾患としての側面
RA の病態のもう一つの側面として「滑膜細胞」がなぜか死に難くなって異常に増殖することがあげられる.
(マンガライフサイエンス 第 7 回「死の異常と疾患」参照)
滑膜細胞
軟骨
滑膜
ふえるぞ∼!
!
!
イタイヨ∼!
応用 a 死に難くなった滑膜細胞を死に易くする「アポトーシス誘導療法」が考案されている.
62(506)医薬の門
2000 年
− 生命のダイナミズム−
*東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科
**東京大学名誉教授
慢性炎症としての側面
RA の病変の主座である関節滑膜においては慢性的に炎症が生じている.この過程においては滑膜細胞が
出す「炎症性サイトカイン」が深く関与している.例えばTNF-αやIL -1 は血管内皮細胞に働きかけて接着
分子を発現させる.またIL - 8 は炎症性白血球を局所に呼び寄せる.さらにTNF-αやIL -1 は,滑膜細胞自身
に働きかけて軟骨を破壊するタンパク(matrix metallo proteinase : MMP)を出させるのである.
炎症性サイトカインを産生する滑膜細胞
IL-8
TNF-α
IL-8
IL-1
遊走
毛細血管
MMPの産生
着
接
MMP
ぎゃ∼
血管内皮細胞
ガハハ
炎症性白血球の浸潤
軟骨細胞の障害
応用 a 炎症の過程に関与する分子,すなわち炎症性サイトカイン,接着分子,MMP の働きを阻害する
.
方法が開発されている
(抗
.
TNF-α療法など)
RA の三つの側面それぞれに応じた治療への応用をみてきたが,いずれの治療法においても「安全性」を
確立することと,関節だけに作用する「特異性」を確立することが今後の課題である.
VOL. 40 NO.5
63(507)