風土改革 - スコラ・コンサルト

風土改革
組織風土と
トップのあり方
最終回の今回は、これからの時代に
風土改革を重要な に自分の勘で判断してしまい、制度を
ので、トップは、
「やはり俺が言わな
求められるトップの姿を、組織風土と
骨抜きにしてしまう。設備投資でも、
いとダメだ」と思い込んでしまう。悪
風土改革の関係から考えてみたい。風
現場の事情よりも社長の経験が優先さ
循環である。
土そのものは実務の現場に根づいてい
れるため、古くて効率の悪い機械を使
感覚の鈍化については、こんな話が
るため、当事者ではないトップは直接
い続けたり、夏に50度近くまで温度が
ある。ある会社で、接待と社内打ち合
風土に手をつけることはできない。し
上昇する現場でも、クーラーは贅沢品
わせに共用する会議室があった。ある
かしトップの言動や部下との関係のあ
だと設置せずにきた。つまりほとんど
日、来客前に社長が担当管理者とホワ
り方などは、組織風土に大きな影響を
の場合、社長が仕事の判断基準そのも
イトボードに板書をしながら顧客獲得
与えているのだ。
のなのだ。
の作戦を練っていた。社長は一度会議
「負の風土」は
トップがつくる!?
社長のいないところでは役員や管理
室を出て、社長室で準備を続けた。ほ
職、ベテラン社員の不平不満が出るが、
どなく来客が到着し、会議室に戻った
社長の前では決して意見を言わない。
社長は仰天した。ホワイトボードに板
特に創業者や創業家の後継者の場合
反論でもしようものなら過去の失敗事
書がそのまま残っていたのだ。社長は
は、トップを取り巻く人たち(多くの
例を持ち出されて、
「俺の言うことが
必死で平静を装い、板書を消したとい
場合は役員)が過去の長いつき合いか
わかってない」と子ども扱いを受ける。
う。一見、単なるうっかりミスにもみ
ら、トップがどういう考えの持ち主で、
職場では上の人間がこぼす愚痴が伝わ
えるが、実は社内ではいくつかの場面
どういう時に機嫌が悪くなるかまで知
って、
“この会社でできないことリス
で似たような前例がある。その背景に
り抜いている。トップから嫌われよう
ト”ができあがり、社員の思考・行動
は、仕事を自分と関連づけて考えられ
が自分の意思を貫く人もいないわけで
を縛っている。
ない社員の存在があるのだ。
はないが、その多くは組織を離れてい
こうした問題は会社の業績が良好な
トップの引退後、考えることを忘れ
く。多くの場合、トップの価値観・考
うちは軽視されがちだが、怖いのは役
た社員だけで運営される組織を想像し
え方が取り巻きの態度、行動を過度に
員を含めた社員が自分で物事を考えら
てほしい。実は全国の多くの中小企業
制約し、彼らを通して「負の風土」的
れなくなったり、仕事に対する感覚を
がこうした時期にさしかかっている。
要因が組織に浸透していくのである。
鈍らせていくことだ。
「思考能力をな
こうした状況こそが組織風土の問題な
ある中堅の機械メーカーは60年の歴
くした組織」ができあがってしまうの
のだが、多くのトップは人材の問題と
である。
してとらえ、社外に次期経営者や参謀
史を誇る老舗だが、ここ十数年間は売
上高250億円、社員数600人と横ばい
自分で考えなくなれば、トップの考
を求める。自分たちへの信頼のなさを
状態が続いている。75歳の2代目社長
えが咀嚼されないまま実務担当者に下
社外からの人材招へいという形で示さ
は勉強家で、管理職以上の社員につい
りてしまい、現場でにっちもさっちも
れた社員は、経営への信頼感をすっか
ては、短所から過去のミス、家計の状
いかなくなったり、言われた当人が確
りなくし、事態はさらにひどくなる可
況まで実によく知っている。だから、
認の問い返しをせず、実務段階でまっ
能性もある。
仕事を任せきれず細かなことにまで口
たく筋違いのことをやってしまうこと
を出してしまう。
がある。自分の言うとおりに現場が動
社員の評価制度も人事部門につくら
せるが、個人の評価については最終的
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MMP MAR. 2004
かないので、トップは細かく口を出す。
当然、部下は指示に対して忠実に動く
「変化の時代」に
求められるトップの姿
これからの時代、変化は当たり前で
エグゼクティブ講座
株式会社スコラ・コンサルト
チーフプロセスデザイナー
長野恭彦
経営課題としてとらえる
ある。企業であれ非営利団体であれ、
大手精密機器メーカーのカンパニー
みようと考え、
「顧客」
「ニーズ」
「コ
顧客のみならず、そこで働く社員・職
長の話も引用しよう。
ントロールする」に分けて、具体的に
員、株主などの要望は多様化・流動化
「私は長年米国でリーダーとして仕
表現してみた。われわれの「顧客」は
する。その影響で法制度も次々に改訂
事をしてきたこともあり、何でも自
誰だろう? 商用車の顧客は運送会社
されるなど、外部環境はどんどん変わ
分で決めて指示を出し、できなけれ
の社長であったり、購買責任者であっ
っていく。
ば担当者を変えてきた。部下の主体
たりする。場合によってはドライバー
組織では、現場に近いところで判
性を信じて任せるなんて自分の仕事
や整備士の可能性もある。また、顧客
断・実行・修正していくような迅速
を180度転換するに等しく、私にとっ
の顧客、つまり荷主である可能性も考
かつ柔軟な行動が欠かせない。そう
て人生の一大決心に近い。しかし、
えられる。
「ニーズ」や「コントロー
なると、社員が自律的に考えられる
皆が本気で望むのであれば私も本気
ル」についても同様に、部下と相談し
で考えたい」
ながら思いつくものをメモに書き出し
「思考能力を持った組織」づくりが必
要になる。
つまり、自律的な思考能力を持つ
てみた。
そこで課題として認識しなければな
組織のトップには、受け入れ難い意
メモをもとにやりとりを重ねるう
らないのは「考える力を持つ社員がど
見や提案を歓迎し、この種の気持ち
ち、社長の考えも次第に具体性を帯び、
れだけいるか」
「一緒に考え合える環
悪さを受け入れる姿勢が求められる。
一谷さんとの間でかなり具体的なレベ
境がどれだけあるか」である。
変わることを一方的に社員に求めた
ルまで共有化が図れていった。社長に
「考える」という行為は、あれこれ
り社員に元気がないと嘆くのではな
とってこうしたやりとりは煩わしいも
思いをめぐらせるだけでなく、判
く、トップの影響力と組織の能力に
のである。しかし、大事なことだとい
断・実行・修正に自ら取り組むこと
ついて真剣に考え、自分のどこをど
う理解があった。
を前提に、本気で考えるということ
う変えるべきかに思いをめぐらせる
だ。
ことが大切だ。
しかし、「思考能力を持った組織」
のマネジメントは実に難しい。ある中
堅製薬メーカー社長の言葉が本質を突
いている。
受け入れ難いものを受け入れよう
とするトップの姿勢と、自律的に考
える社員の存在が、最終的には、お
「思考能力を持った組織」の
トップと社員のあり方
最後に、「思考能力を持った組織」
客様の好評という成果に結びついた
のである。
これからの時代、風土の問題を抱え
「社員が自律的に考えられる組織で
における仕事の一例を挙げよう。某
た組織は社会的信頼が得られない。風
は、またそれを実現するために風土
自動車メーカー営業企画部門で部長
土の影響力を意識して問題解決力の高
を改革していく過程においては、私
を務める一谷さんは、社長から商用
い組織運営をめざしてほしい。
の長年の経験に照らし合わせると明
車ビジネスについて、
「顧客のニーズ
らかにNOと判断せざるを得ないよう
をコントロールする立場になるよう
な提案や意見がどんどん出てくる。
な事業展開をしてくれ」という指示
そのときに、私がそれらの提案に対
を受けた。漠然とした内容だったが、
してどういう姿勢をとるかで、風土
実際の顧客の声にもとづく指示には、
改革の成否が決まってくるのだと思
大きな危機感が感じられた。
います」
彼はまず、社長の言葉をかみ砕いて
【今回のポイント】
□トップも組織風土の一端を担ってい
る
□「思考能力を持った組織づくり」が
不可欠
□決め手は受け入れ難いものを
受け入れるトップの姿勢
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