参考 1 調停において「聴く」(講義録)

参考 1 調停において「聴く」(講義録)
1
ここでは、聴くことが調停でなぜ大事なのかということを、心理学・社会学・哲学的
な観点、つまり、理論的にご説明したいと思います。
2
まず、調停の構造は、このような3者関係を原点とします。これは典型的には、両当
事者が同じ力量があり、当事者が各1名で、同席の場合ですが、現実の紛争は理想どお
りにはいきません。
当事者A
当事者B
調停人
3、4
「聴く」ことの力
哲学者の鷲田清一(大阪大学副学長)は次のように書く。
「哲学は、これまでしゃべりすぎてきた。
・・・ヨハネ福音書は「初めにロゴス(ことば)
ありき」とするが、語ることがまことの言葉を封じ込める。・・・哲学の思考は≪反省≫
という方法をとる。哲学的思考は、そのまなざしを、自己の内部へと向けて、自己のう
ちに沈潜する・・・しかし、哲学的思考が、だれの前で、だれに対してなされるものな
のかという問いを、自分に向かって立てなくなった・・・哲学を、反省という、他者が
不在な場所ではなく、他者との関係という場に置きなおしてみる・・・
ターミナルケアにおける現場での「わたしはもうだめではないのでしょうか」を
「そんなこと心配しなくてもいいんですよ」でも
「どうしてそんな気になるの」でもない、
「もうだめだ・・・とそんな気がするんですね」として Response する。
責任は、Response と関連する(Responsibility)
臨床哲学とはなにか、臨床という概念は哲学にとってどのような意味を持っているの
か・・・じぶんの言葉を受けてもらえる経験、じぶんのことばを聴いてもらえる経験が、
受苦者にとってはとても大きな力になるということ、その≪聴くことの力≫を少なくと
も信じて、臨床哲学の核に据えることができないかと思うのである」
(鷲田清一「聴くこ
と の 力 」 1999
年 7 月 ) 大 阪 大 学 文 学 研 究 科 臨 床 哲 学 講 座
(http://www.let.osaka-u.ac.jp/clph/)
5
善意の罠
カウンセラーである河合隼雄は、次のように指摘する。
「経験から言いましても、忠告
してそれが守られるということは非常に少ない。・・・忠告するのでもなく、叱るのでも
1
なければ、説教でもない。とにかく、ひたすら聴くのです。・・・僕がよいと思っても、
結果として悪くなることが世の中には一杯ある。
・・・一番最初の原因はなにかと言うと、
善意のかたまりです。世の中善意というものほど怖いものはありません」
(河合隼雄、カ
ウンセリング入門)。
6、7
分かりあえるための大前提
分かるとは何かは、大きな哲学的問題であるが、そのためには大前提がある。
「忙」しくすると、「心を亡くして」自分中心となる。一緒に、「忙しくしないで、一見
無駄に思える時間を、相手とできるだけ、過ごすこと」(原島博、東京大学大学院情報学
環教授)。聴くということは、その人とその間一緒にいることを保証する。
8、9
対人コミュニケーションの意味
なんのためにするかと問われると、複数の回答が考えられる。①相互理解機能、②親
密化機能、③自己洞察機能、④カタルシス機能、⑤不安低減機能があるとされる。
そして、ここで重視したいのは、自己洞察のメカニズムである。
人は、過去の経験を他者に語るとき、現在の自分の視点による過去経験の再評価が行
われ(予め考えてきたことをそのまま話しているのではない)、なおかつ聴き手に納得の
いく説明をすることから、取り入れられた聴き手の視点による過去経験の再評価が行わ
れる、・・・自己物語の変容が生ずる(榎本博明、名城大学人間学部教授)
10、11
視線
人と話をしているとき、相手が私の方にはちっとも目を向けないで、どこか違う方向
ばかり見ているとすれば「この人は私の話を真面目に聞いていないに違いない」と私た
ちは考える。
社会的上位の立場にある人は、下位の人を見ても、見なくてもよい。相手が目下なら、
窓の外を見ながら話を聞いてもいい。しかし、下位の人は、上位の人に話しかけられた
ときは、その人物を見なければならない。
ではどうすればいいのか。2メートルも離れていると、なんとなく相手の顔面を見て
いれば、相手は自分の目を見ていると感じてくれる。額のあたりとか、鼻先を見るよう
にしていれば、実は相手の目を見る必要がないのである(宇津木成介、神戸大学国際文
化学部コミュニケーション学科教授)
コミュニケーションで、また調停で視線やアイ・コンタクトが大切であるといわれる
所以である。
12
人に言葉をかける以前-① キネシクス(身体運動学)
挨拶「人に会ったり別れたりするとき、儀礼的に取り交わす言葉や動作」をいう。
言語のコミュニケーションは、
「交互・一方的・意図的」だが、ボディーランゲージは、
「同時・双方向的・無意識的」である。人と人との対面的場面でのコミュニケーション
が、多くの回路を媒介とする複雑なプロセスであり、言語はいかに重要であろうとも、
その回路の一つである(異文化コミュニケーションをする R.L.バードウィステルの指摘)。
2
人は、言葉をかける以前に、たいてい視線やしぐさのやりとりによる相互の認知があ
り、ことばはその一瞬後に始まる(野村雅一、国立民族学博物館教授)
つまり、調停ではこのようなことにも配慮することになる。
13
人に言葉をかける以前-② プロクセミックス(比較距離学)
知らない人が、ある一定の距離に入ってくると、耐えられなくなって逃げ出したくな
るという経験から、人間の存在は、皮膚に始まって皮膚に終わるのではなく、そのさら
に外に、空間-パーソナルスペース(個人空間)-を必要としている(E.T.ホール)。
そうすると、当事者間と調停人との距離や角度は大きな要素となる。
14
尊重と自尊心
葛藤は、期待を裏切られることから生じる。が、人に向ける期待は様々である。恋人
には、私的な経験を共有することを期待し、友達には、支持と理解を、同僚には、合理
的で節度ある助け合いを期待する。この対人期待に共通する人間関係は、「尊重-人をそ
の地位にふさわしい扱いをすること-されること」である。
期待したほどに尊重されないと、人は「傷つく」が、これは、私たちの「自尊心」「プ
ライド」が「傷つく」のである。他の人が私の意向を無視し、私という存在を軽視して
いるということである。多くの争いは、「利害の対立」「意見や価値観の不一致」によっ
て起こるが、これらは時に表面的である。発言や要求の内容もさることながら、
「その言
い方」「表現の仕方」が問題をこじらせている場合が多い(大渕憲一、東北大学大学院文
学研究科教授)。
15、16
コンテクスト(背景文脈)とコンテント(内容)
医療従事者が、自信なさそうな態度で、「大丈夫です」と告げても、患者は安心できな
い。ことばが伝える情報=「安心してください」より、態度によって伝わる=「私自信
がありません」の方が、影響力が大きいからである(斎藤清二、富山大学保健管理セン
ター教授)。調停人が空威張りする必要はないが、事態の変化について知識と能力があり、
それがその自信に結び付いているときには、当事者は安心をし、語り始める。
17、18
関係性
人間のコミュニケーションにおいては、言語というコードを共有することと同時に、
意味の伝達という点では、関係性こそが「文脈」を決定づける最大の要因であるが、現
在においては、関係性が希薄化し、匿名性が増大している(斎藤環、爽風会佐々木病院
精神診療部長)。コミュニケーションは関係性に依存すると同時に、関係性はコミュニケ
ーションに依存している。
したがって、まず、不安と不信を抱いている当事者には、信頼を醸成する関係性に配
慮をすることになる。それが、コミュニケーションを円滑化させる。
19
状況のタクソノミー(分類)
人と人とのコミュニケーションは、①自己と自己、②自己と他者、③他者と他者に分
けられる。①は、自分のなかの自分に「語りかける」「相談する」ことで、心の中の自分
3
が自分自身の状態を認知し、活動がうまくいくように操作するという、「メタ認知」であ
る。②は、通常の日常生活でのコミュニケーションというものである。③は、ピンとこ
ないが、他者と他者のコミュニケーションを観察する自己が存在する場合をいう(中島
義明、早稲田大学人間科学部教授)
。調停では、このいずれも生ずる。
20
モノローグとダイアローグ
「わたし」が「わたし」でありうる存在の根拠を、モノローグ(反省)にみた、デカ
ルトに対し、「わたし」というのは、自己充足しえず、自ら根拠付けることができない、
ダイアローグ(対話)的存在として、他者に呼びかけられ、それに応えるものとして「わ
たし」の特異性が与えられ、その相互交流のなかで、不断に「わたし」が作り変えられ
る(バフチン)。
21
鏡に映る自己
日常生活の中で、人は他人によってどう見られ、認識され、どう評価されているか、
そのことを常に想像しながら自己自身を、まなざしている。他者という鏡に映された自
己は、自己アイデンティティーの形成に欠かせない。
22
無条件でそこにいること
変な言い方ですが「黙って向き合う」としかいいようがないんです。語れないものは
語れない。ただ、語りの場が開かれてくるとふと「私の時はこうだった」という当事者
でないと分からない話が出る。しかし聴く方は 99 パーセントが当事者でないので、そこ
からどう抽象化するか、一般に通じることばにできるかどうかを模索しています。それ
は誤解の積み重ねなんです。お互いに誤解しながらずっと分かったつもりできて、やっ
ぱり誤解だったと、振り出しに戻って対話を続けることしか、われわれにはできないの
かなと思っています(渥美公秀、大阪大学人間科学研究科助教授)
23
Empowerment
Webster の辞書には、「to give official authority or legal power to」とされ、「力をつ
けること」「力の付与」とされることが多いが、これは、中世の英国において教会が領主
に一定の権力を付与するという文脈で使われてきた。この考えでは、Empowerment は、
「誰かが誰かをトレーニングして力をつけさせること」となる。しかし、20 世紀に開発
援助の領域や、人権運動、女性運動で使われる Empowerment はこれとは全く異なる。
すなわち、
「エンパワーメントとは、人は皆生まれながらに様々のすばらしい力(パワー)
を持っているという信念から出発する考え方」
「私一人一人がだれでも潜在的に持ってい
るパワーや個性を再び生き生きと息吹かせること」
「全ての人が持つそれぞれの内的な資
源(リソース)にアクセスすること」であり、そのパワーの発揮やアクセスを妨げてい
る、外的抑圧と内的抑圧を減らしていくことで、本来の力を取り戻すことがエンパワー
メントである。
つまり、エンパワーメントは外部からパワーを与えたり、変革に向わせるものではな
く、
「内部から生じるが、外部からの働きかけも必要」なのである。そこで、facilitation
4
が必要となる(森田ゆり)。
24、25
Facilitation
エンパワーメントのプロセスでは、個人が自らをエンパワーしていくその過程を、他
者が促進(facilitate)していくことが重要である。このようなエンパワーメントという
プロセスが起きるためのファシリテーションとして、次のような態度や関わりが重要で
ある。①人間が問題を共有化できる場を作ること(場作り)、②教える・情報提供する、
という働きではなく、しっかり聴くこと(傾聴)、③ともに考え、お互いの知恵を共有す
ること(対話)、④「変化は可能である」と信じ、変革のための目標や行動計画が共有で
きるように働きかけること、⑤答えは彼らの中にあると信じる(内側にある潜在力への
信頼)、⑥自分も含めた全ての構成員が対等な立場で参加できるよう、お互いの関係性に
配慮し働きかけること(プロセスを捉え働きかける)
個人レベルでのエンパワーメントに関するファシリテーションは、カウンセリングに
おける Rogers(1951)のクライエント中心療法の考え方と共通する部分が多く、ファシリ
テーターの態度として参考となるし、最近では、ソーシャルワーカーにおけるエンパワ
ーメント・アプローチ等もある。グループレベルでの、グループ・ファシリテーターの
考え方では、グループの人間性が成長するためには、ファシリテーターとメンバーとの
関係性、メンバー同士の人間関係が重要で、グループ内での人間関係を捉える感受性を
高めるためには、Tグループを代表とした人間関係トレーニングの経験が役立つ。南山
大学人間関係研究センター
(http://www.nanzan-u.ac.jp/NINKAN/japanese_index.htm)
26
Mediation において聴くとは
① 第三者が
② 善意の罠にはまらず
③ その人と一緒に、無条件におり
④ 視線、動作、空間に配慮し
⑤ 人を尊重し
⑥ 自信をもって
⑦ その人を自らに映すことにより
⑧ その人の持っている力が自然に引き出される
ように受け止める作業をいう。
5
調停において
「聴く」
1
調停の構造
当事者
当事者
調停人
Mediator
2
「聴く」ことの力
哲学は、これまでしゃべりすぎてきた。・・・ヨハ
ネ福音書は「初めにロゴス(ことば)ありき」とする
が、語ることがまことの言葉を封じ込める。・・・哲
学の思考は≪反省≫という方法をとる。哲学的
思考は、そのまなざしを、自己の内部へと向けて、
自己のうちに沈潜する・・・しかし、哲学的思考が、
だれの前で、だれに対してなされるものなのかと
いう問いを、自分に向かって立てなくなった・・・哲
学を、反省という、他者が不在な場所ではなく、
他者との関係という場に置きなおしてみる・・・
3
「聴く」ことの力
• 臨床哲学とはなにか、臨床という概念は哲学に
とってどのような意味を持っているのか・・・じぶ
んの言葉を受けてもらえる経験、じぶんのことば
を聴いてもらえる経験が、受苦者にとってはとて
も大きな力になるということ、その≪聴くことの力
≫を少なくとも信じて、臨床哲学の核に据えるこ
とができないかと思うのである
• (鷲田清一、大阪大学副学長「聴くことの力」1999
年7月)大阪大学文学研究科臨床哲学講座
(http://www.let.osaka-u.ac.jp/clph/)
4
善意の罠
• 経験から言いましても、忠告してそれが守られる
ということは非常に少ない。・・・忠告するのでもな
く、叱るのでもなければ、説教でもない。とにかく、
ひたすら聴くのです。・・・僕がよいと思っても、結
果として悪くなることが世の中には一杯ある。・・・
一番最初の原因はなにかと言うと、善意のかた
まりです。世の中善意というものほど怖いものは
ありません
• (河合隼雄、カウンセリング入門)。
5
忙
6
分かりあえるための大前提
• 「忙」しくすると、「心を亡くして」自分中心と
なる。一緒に、「忙しくしないで、一見無駄
に思える時間を、相手とできるだけ、過ご
すこと」(原島博、東京大学大学院情報学
環教授)
7
対人コミュニケーションの意味
相互理解機能
親密化機能
自己洞察機能
カタルシス機能
不安低減化機能
8
対人コミュニケーションの意味
• 過去の経験を他者に語るとき、現在の自分の視
点による過去経験の再評価が行われ、なおかつ
聴き手に納得のいく説明をすることから、取り入
れられた聴き手の視点による過去経験の再評価
が行われる、・・・自己物語の変容が生ずる
• (榎本博明、名城大学人間学部教授)
9
視線
10
視線
• 人と話をしているとき、相手が私の方にはちっとも目を向けないで、
どこか違う方向ばかり見ているとすれば「この人は私の話を真面目
に聞いていないに違いない」と私たちは考える。
• 社会的上位の立場にある人は、下位の人を見ても、見なくてもよい。
相手が目下なら、窓の外を見ながら話しを聞いてもいい。しかし、下
位の人は、上位の人に話かけられたときは、その人物を見なければ
ならない。
• ではどうすればいいのか。2メートルも離れていると、なんとなく相
手の顔面を見ていれば、相手は自分の目を見ていると感じてくれる。
額のあたりとか、鼻先を見るようにしていれば、実は相手の目を見る
必要がないのである
• (宇津木成介、神戸大学国際文化学部コミュニケーション学科教授)
11
人に言葉をかける以前
キネシクス(身体運動学)
• 挨拶とは「人に会ったり別れたりするとき、儀礼的に取
り交わす言葉や動作」
• 言語のコミュニケーションは、「交互・一方的・意図的」だ
が、ボディーランゲージは、「同時・双方向的・無意識的」
である。人と人との対面的場面でのコミュニケーションが、
多くの回路を媒介とする複雑なプロセスであり、言語はい
かに重要であろうとも、その回路の一つである(R.L.バー
ドウィステル)。
• 人は、言葉をかける以前に、たいてい視線やしぐさのや
りとりによる相互の認知があり、ことばはその一瞬後に始
まる
• (野村雅一、国立民族学博物館教授)
12
人に言葉をかける以前
プロクセミックス(比較距離学)
• 知らない人が、ある一定の距離に入ってくると、
耐えられなくなった逃げ出したくなるという経験か
ら、人間の存在は、皮膚に始まって皮膚に終わ
るのではなく、そのさらに外に、空間-パーソナ
ルスペース(個人空間)-を必要としている(E.T.
ホール)
13
尊重と自尊心
• 葛藤は、期待を裏切られることから生じる。が、人に向ける期待は
様々である。恋人には、私的な経験を共有することを期待し、友達に
は、支持と理解を、同僚には、合理的で節度ある助け合いを期待す
る。この対人期待に共通する人間関係は、「尊重-人をその地位に
ふさわしい扱いをすること-されること」である。
• 期待したほどに尊重されないと、人は「傷つく」が、これは、私たち
の「自尊心」「プライド」が「傷つく」のである。他の人が私の意向を無
視し、私という存在を軽視しているということである。多くの争いは、
「利害の対立」「意見や価値観の不一致」によって起こるが、これらは
時に表面的である。発言や要求の内容もさることながら、「その言い
方」「表現の仕方」が問題をこじらせている場合が多い。
• (大渕憲一、東北大学大学院文学研究科教授)
14
コンテクスト(背景文脈)
とコンテント(内容)
15
コンテクスト(背景文脈)
とコンテント(内容)
• 医療従事者が、自信なさそうな態度で、「大丈夫で
す」と告げても、患者は安心できない。ことばが伝
える情報=「安心してください」より、態度によっ
て伝わる=「私自信がありません」の方が、影響力
が大きいからである(斎藤清二、富山大学保健管理
センター教授)。
16
関係性
17
関係性
• 人間のコミュニケーションにおいては、言語という
コードを共有することと同時に、意味の伝達とい
う点では、関係性こそが「文脈」を決定づける最
大の要因であるが、現在においては、関係性が
希薄化し、匿名性が増大している(斎藤環、爽風
会佐々木病院精神診療部長)。コミュニケーショ
ンは関係性に依存すると同時に、関係性はコミュ
ニケーションに依存している。
18
状況のタクソノミー(分類)
• 人と人とのコミュニケーションは、①自己と自己、
②自己と他者、③他者と他者に分けられる。①
は、自分のなかの自分に「語りかける」「相談す
る」ことで、心の中の自分が自分自身の状態を認
知し、活動がうまくいくように操作するという、「メ
タ認知」である。②は、通常の日常生活でコミュニ
ケーションというものである。③は、ピンとこない
が、他者と他者のコミュニケーションを観察する
自己が存在する場合をいう(中島義明、早稲田
大学人間科学部教授)
19
モノローグとダイアローグ
• 「わたし」が「わたし」でありうる存在の根拠を、モノ
ローグ(反省)にみた、デカルトに対し、「わたし」と
いうのは、自己充足しえず、自ら根拠付けることが
できない、ダイアローグ(対話)的存在として、他者
に呼びかけられ、それに応えるものとして「わたし」
の特異性が与えられ、その相互交流のなかで、不
断に「わたし」が作り変えられる(バフチン)。
20
鏡に映る自己
• 日常生活の中で、人は他人によってどう見られ、
認識され、どう評価されているか、そのことを常
に想像しながら自己自身を、まなざしている。他
者という鏡に映された自己は、自己アイデンティ
ティーの形成に欠かせない。
21
無条件でそこにいること
• 変な言い方ですが「黙って向き合う」としかいいようがな
いんです。語れないものは語れない。ただ、語りの場が
開かれてくるとふと「私の時はこうだった」という当事者で
ないと分からない話が出る。しかし聴く方は99パーセント
が当事者でないので、そこからどう抽象化するか、一般
に通じることばにできるかどうかを模索しています。それ
は誤解の積み重ねなんです。お互いに誤解しながらずっ
と分かったつもりできて、やっぱり誤解だったと、振り出し
に戻って対話を続けることしか、われわれにはできない
のかなと思っています(渥美公秀、大阪大学人間科学研
究科助教授)
22
Empowerment
• Websterの辞書には、「to give official authority or legal power
to」とされ、「力をつけること」「力の付与」とされることが多いが、
これは、中世の英国において教会が領主に一定の権力を付与するという
文脈で使われてきた。この考えでは、Empowermentは、「誰かが誰かをト
レーニングして力をつけさせること」となる。
• しかし、20世紀に開発援助の領域や、人権運動、女性運動で使われる
empowermentはこれとは全く異なる。すなわち、「エンパワーメントとは、
人は皆生まれながらに様々のすばらしい力(パワー)を持っているとい
う信念から出発する考え方」「私一人一人がだれでも潜在的に持ってい
るパワーや個性を再び生き生きと息吹かせること」「全ての人が持つそ
れぞれの内的な資源(リソース)にアクセスすること」であり、そのパ
ワーの発揮やアクセスを妨げている、外的抑圧と内的抑圧を減らしてい
くことで、本来の力を取り戻すことがエンパワーメントである。
• つまり、エンパワーメントは外部からパワーを与えたり、変革に向わ
せるものではなく、「内部から生じるが、外部からの働きかけも必要」
なのである。そこで、facilitationが必要となる(森田ゆり)。
23
Facilitation
• エンパワーメントのプロセスでは、個人が自らをエンパワーしてい
くその過程を、他者が促進(facilitate)していくことが重要であ
る。このようなエンパワーメントというプロセスが起きるためのファ
シリテーションとして、次のような態度や関わりが重要である。
• ①人間が問題を共有化できる場を作ること(場作り)
• ②教える・情報提供する、という働きではなく、しっかり聴くこと
(傾聴)
• ③ともに考え、お互いの知恵を共有すること(対話)
• ④「変化は可能である」と信じ、変革のための目標や行動計画が共
有できるように働きかけること(変化の可能性を信じる)
• ⑤答えは彼らの中にあると信じる(内側にある潜在力への信頼)
• ⑥自分も含めた全ての構成員が対等な立場で参加できるよう、お互
いの関係性に配慮し働きかけること(プロセスを捉え働きかける)
• 24
Facilitation
• 個人レベルでのエンパワーメントに関するファシリテーショ
ンは、カウンセリングにおけるRogers(1951)のクライエント中
心療法の考え方と共通する部分が多く、ファシリテーターの態
度として参考となるし、最近では、ソーシャルワーカーにおけ
るエンパワーメント・アプローチ等もある。グループレベルで
の、グループ・ファシリテーターの考え方では、グループの人
間性が成長するためには、ファシリテーターとメンバーとの関
係性、メンバー同士の人間関係が重要で、グループ内での人間
関係を捉える感受性を高めるためには、Tグループを代表とし
た人間関係トレーニングの経験が役立つ。
• 南山大学人間関係研究センター
• (http://www.nanzan-u.ac.jp/NINKAN/japanese_index.htm)
25
Mediationにおいて聴くとは
当事者
Mediator
26
「聴く」トレーニング
1
「聴いてもらうと」変わるもの
安心し落ち着く
聴き手との関係ができる
聴き手の反応も手がかりに、自分を見つめることができる
対象や相手を、見つめることができる
自分を変える力を感じる
潜在(的解決)力が活性化する
2
聴くことはなぜ難しいか
善意や好意の
かたまり
人の役に立とうとする
自分の知識や能力で救おうとする
聴くことは予想外のエネルギーを要する
聴くよりも話すことの方が心理的に楽
序列がはっきりしているシチュエーション
3
聴くための条件
疲れているときには聴けない
パーソナル・ファンデ-ション
自分と利害ある話は聴けない
家族の話、職場の話
4
まず聴くこと
聴き上手は話さない
相づち以外はしゃべらない
相手の話しを素直に聴く
5
相づちをうつ
相づちの種類を豊かにする
ハイ
エエ
フン
そう
わかる
否定的
なるほど
肯定的
自分の相づちをチェックしながら聴く
6
相づちのトレーニング
ハイ
エエ
を使って
そう
なるほど
人の話を肯定的に受け止めてみましょう
7
くり返し
リピート
明快に
短く
要点をつかんで
相手の使った言葉で
8
くり返しのトレーニング
相手の使った言葉
をくり返してみることで、人の話を受け止めてみましょう
9
参考 2 「聴く」トレーニング(講義録)
1
ここでは、聴くことを実践してみましょう。
2
聴いてもらうと変わるもの
聴いてもらうと変わるものは、案外たくさんあります。安心し落ち着くこともその一
つで、聴き手と次第に人間関係(信頼関係)が醸成されます。聴き手の反応をてがかり
に、自分を見つめなおす機会ができることは、聴くことの変容力でもあります。そして、
そのような力を得た人は、相手や対象をもう一度別の自分から見直すことができるので
す(これを英語では Recognition といいます)。自分を変える潜在的な力がついた状態
(Empower された)になります。
3
聴くことはなぜ難しいか
人は善意や好意のかたまりです。人に役に立とうとする、また、自分の知識や能力で
救おうとしがちになります。また、聴くことは予想外のエネルギーを要します。そのた
め、話すことの方が心理的に楽ということもあります。そして、序列がはっきりしてい
るシチュエーションでは、序列が上の者は、聴くことはありません。善意の思いとし
ては、専門家の私のいうことは聞くべきだし、これを頼りに当事者も来ている
ということもあるでしょうし、時間は有限であり、費用もかかり、解決は先延
ばしにできず、第三者から侵害されるという思いもあるでしょう。そもそも専
門家が、助言をせずしてなぜ専門家足りうるのかという意見もあるでしょう。
しかし、紛争が深刻であればあるほど、それは最終的にはその当事者が自ら決
断し、解決していくしかありませんし、第三者の無責任な意見は不満を残しま
す。
4
聴くための条件
聴き手は話し手の何倍も疲れます。したがって、自分が疲れているときには聴くこと
が難しいのです。また、自分に心配があるときも聴けません。これを、Personal
Foundation といい、調停という「エネルギー」を要する作業をするためには、まず自分
を律しておくことが大事といえます。皆さんは、家族の話を聴けますか。とても聴きづ
らいのです。それは、その人や相手を知っているばかりか、自分も利害を有するからで
す。ここでは、聴くという調停の基本である、自分の感情を入れないでという原則が破
られるからです。自分と利害がない遠い話は客観的に聴けますが、自分と関係してくる
冷静になれないのです。もし、これを聴きすぎると、聴いた人が苦しんでしまいます。
そのため、深く、素直に聴けないのです。
5
まず聴くこと
では、次のことを確認しましょう。聴き上手は話しません。相づち以外はしゃべらな
い。そして、相手の話を率直に聴くことです。
6、7
相づち
1
相手の話を聴いていないと、相づちは打てません。また、話をよく聴いているよと
いうことを相手に伝える最良の方法が相づちを打つことです。相手の話に気持ちがつい
ていかなかったり、反論したいと思うと、相づちは打ち難いものです。プロのカウンセ
ラーは、相づちだけで持っているという人もいます。相づちと、適度なうなずきがあれ
ば、もっとよくなります。8、9
繰り返し
これは、相づちの高等戦術です。だらだらとオウム返しするのではなく、
「明快に」
「短
く」「要点をつかんで」くりかえします。相手の話から、キーワードを見つけ出し、これ
をくりかえすのです。
2
「聴く」とは
1
語源
Communication
、
共通の
同じものを持つ
COMMUNIS
2
コミュニケーションの仕組み
人とコンピューターとは違う
記号化
発信者
記
号
・
信
号
受信者
解読化
クロード・シャノン.1948
3
コミュニケーションの第一歩
ボールを投げる
Aさんの枠組み
Bさんの枠組み
4
多くの枠組みやスタイル
今の自分を作っているもの
•
•
•
•
•
•
先祖・家族
性別
地域
年齢
学歴・職歴
etc
5
人には誰でも好き嫌いがあるし、
価値観は違う
午後5時ころの電車の中です。前には男子高校生
が座っています。むしゃむしゃと、ハンバーガーを
食べ始めました
午前10時ころの電車の中です。前には女子高校生
が座っています。おもむろに手鏡を持ち出して、
メークをし始めました。
6
人によって、大切なものは違う
婚約して結婚の日取りも決まっている
AさんとBさん
ところが、結婚式の2週間前に、Aさんが突然
交通事故に遭って半身不随の状態に
あってしまいました。車椅子なしでは
生活できません。
私たちは、生きて行く過程で、どちらかを
選ばなければならないときが必ずあります
7
違っている枠組み(フレーム)や
スタイル
コミュニケーションエラーが生じ、苦労をする
違っているから、人は深くコミュニケーションする
違っていることを前提にコミュニケーションを実践する
枠組みが違っていること自体
は悪いことではない
8
まず自分を知る
自分の自己概念(枠組み)と合った経験をした時、
合った人と出あったとき、すんなりと
受け入れることができる
しかし、そうでないときは、すんなりといかない
自己概念を豊かにする
自己概念を揺さぶってみる
9
本来の力はある。
しかし、一人ではできない
自分の枠組みを一人で豊かにしたり、
一人で揺さぶることは難しい
自分以外の者の
促進行為
自分以外の者の助けが必要だ
調
停
人
の
技
法
積極的傾聴
(アクティブリスニング)
言い換え(パラフレージング)
枠組みを揺らす(リフレーミング)
要約する(リフレーミング)
10
自己概念を豊かにする
1つ目の方法
聴いてもらう
心の広い人(自己概念の広い人)が、よく
話を聴いてくれると、自己概念の変容にきっかけ
を得ることができる
積極的傾聴
他の人からのフィードバックを得る
11
フィードバック
アクティブリスニング
他の人に鏡になってもらって、その人(の鏡)
に自分がどのように映っているのかを
教えてもらう
鏡は評価をしない
しかし、鏡はその人を映し出す
12
聴く
• 相手が伝えようとする内容を正確に受けとめる
• 伝え手である相手の気持ちに関心を向け、その
気持ちをそのまま受けとめる
• (一旦)伝え手である相手の枠組みでとらえる
• 相手の発言や行動にきちんと反応する
• 相手の表情など、からだが出しているサインに目
を向ける
13
自己概念(枠組み)を揺さぶる
二つ目の方法
固定した自己概念(枠組み)ではなく、
今いる相手との関係で自己概念を
新しく作りあげる(変容させる)
自分を外(相手の立場)から見てみる
しかし、それはなかなかできない
14
枠組みを揺さぶる
リフレーミング
当事者が示したことを、
調停人が、別の角度から言い換えること
仲のいい友達が分かれる
時間まであと3時間となりました
もう3時間しかない
まだ、3時間もある
悲しい
楽しもう
15
言い換える
パラフレージング
当事者が示したことを、意味を変えずに
調停人が、別の言葉を使って言い換えること
主観的な表現を客観的な表現にする
あなたことばを、私ことばに言い換える
You Message
I Message
16
言い換えのトレーニング
1.二人ペアとなります。
2.一人が話し手、他方が聴き手となります。
3.話し手の方は、「最近気になっていること」について
ゆっくり話します。
あまり、深刻な内容や機微に触れる内容は避けて下さい。
4.聴き手は、一言一言を確実に受け取り、言い換えをして
返してみてください。
5.終われば、役割を入れ替えてみてください。
17
違い
意見は違っている。あなたの言うことはわからない
だから、同意できない
意見は違っている。でもあなたの言うことはわかる
でも、今は同意できない
意見は違っている。でもあなたの言うことはわかる
どちらかを決めるなら、あなたに同意してもいい
18
私たちの誤解
相手と自分とが、考え・意見が一致しないと
受け入れることができない
一致を求める
コミュニケーション
説得・強要のコミュニケーションになりがち
19
新しいコミュニケーション
(必ずしも)相手と自分とは、一致しなくとも
受け入れることができる
深いコミュニケーション
違いを尊重したコミュニケーション
20
感情
何かに接したときに、人の中に起こる
心の状態や、体の状態についての感じ
感情から目を背ける
感情を表す
感情的になる
21
感情を表す
初心者の友人が、高速道路に入って急にスピードを
あげている。怖くて、スピードを落とさせたい。
あなただったら、どうしますか
そんなにスピードを出すと危ないよ
スピード違反でつかまるよ
ぶるぶる震えながら、「私怖い」
わめきちらす
22
感情を受けとめる
感情的になる
第三者が翻訳する
Paraphrasing
感情を表す
23
話がうまくいかないとき
自分のたずね方に問題があるのに気づかず
次から次へと質問を投げかけていないか
訊く
聴き手は話し手の立場に立って、相手が
できるだけ具体的に話せるように、援助
するような形で語りかけよう
オープン・エンデッドクエスチョン
開かれた質問
24
質問の仕方のトレーニング
1.二人で組になります。
2.一方が話し手、他方が質問をする役割を演じます。
3.質問は、「前の日曜日には、どのように過ごしたか」
を聞くことにあります。
4.質問者は、話し手がYes.No(はい、いいえ)で答える質問
をして下さい。
話しても、Yes.No(はい、いいえ)でのみ答えてください。
25
二つの会話
閉じられた質問
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
母:今日は学校おもしろかった。
子:うん
母:体育の授業では何をしたの
子:鉄棒
親:うまくできたの
子:うん
親:それでは算数では何をしたの
子:テスト
親:できたの?
子:悪かった
26
二つの会話
開かれた質問
• 母:今日は学校どうだった
• 子:別にどうってことないけど・・・
• 母:でも、何かつまらなそうな顔をしているので気
になるんだけど
• 子:そう
• 親:何があったのか、具体的に話してよ
• 子:うん。今日ね、同じクラスの○○君が、ぼくを
いじめてきたの
• 親:いじめてきたって、どんなことをしてきたの?
• 子:ぼくのかばんを隠したの・・・
27
Communicationに驚く
誰もが日常的に行っていることが
こんなに深いことを知って驚く
コミュニケーションが持っている落とし穴
を知って驚く
驚きを次につなげよう
28
Mediator
Communicationの問題を越えるためにお手伝いをする
Active Listening
聴く
Reframing
枠組みに揺さぶりをかける
言い換える
Paraphrasing
展開しやすい質問をする
Open-Ended Question
29
ある婦人科外来でのこと
患者Aさんが、怒って怒鳴っています。「もうこの病院では、
男性従業員はすべて首にして下さい」「こんな病院はつぶれたらいい」
ただ、ひたすら耳を傾けながら聴く
聴く
言い換える
Aさんは、恥ずかしい思いをされたということですね。
I Messageに換える
開かれた質問
そのときの様子をもう少しお教えいただきますか。
30
Mediationの第1段階
申立人
相手方
Mediator
31
Mediationの第2段階
申立人
相手方
Mediator
32
Mediationの第3段階
申立人
相手方
Mediator
33
参考 3 「聴く」とは(講義録)
1
コミュニケーションの構造や要素を探ってみて、調停の技法がそれとどのように関わ
っているかを説明しましょう。
Communication という言葉は、COMMUNIS というラテン語を語源としており、「共
2
通の」「同じものを持つ」という意味があり、コミュニケーションは、違う人が、共通の
ものを持つことを目的に行われる相互作用と考えることができます。
3
しかし、同じ、情報を伝えるとしても、コンピューターと人とは大きく違います。
彼は、Bell Laboratories にいた 1948 年に記念碑的な論文「A Mathematical Theory of
Communication」を著し、今日では情報理論として知られるようになった分野を創始し
たことで広く知られています。この論文の中で彼は「通信の基本的な問題は、一点にあ
るメッセージを別のもう一点に正確に、あるいは近似的に再製することにある」との考
えを表明し、ある情報を送信するのに 1 と 0 の組み合わせを送るだけで十分であること
を数学的に示した。これはすべて今日のインターネット、光通信、無線通信などのデジ
タル通信技術の基盤となっているのです。しかし、私たちはコンピューターと違うので
す。
4
Aさんがボールを投げるというのはコミュニケーションをする時の「発言をする」で
す。発話です。発話には二種類あって、一つはバーバルと言って言葉で発音すること、
顔であるとか表情であるとか、身振り(ジェスチャー)とかで発するのはノンバーバル
と言います(思っているよりも後者にいる意味の伝達が大きい)。Aさんの枠組みは「赤
くて、四角い」。この人が投げるボールは、Aさんは「赤い四角のもの」として投げてい
ると思っています。ところが受け取る方は違う枠組みの場合があります。「黒い丸」で受
け止めると、Aさんは赤い四角で投げたのに、Bさんは黒い丸で受け止める。枠組みを
英語で言うと、フレームです。すでに、繊細な方は、リフレーミングという調停技法と
関連するのではと考えるでしょう。リフレーミングというのはこの枠組みを揺らすこと
を意味します。人は、自分の枠組みで、コミュニケーションをしています。自分の枠組
みに気づかない。AもBも、それぞれの経験であるとか、人生を経た中で、いろんな枠
組みをもってコミュニケーションをしています。同時に皆さん自身も枠組みをもってい
ます。それをまず気づかなければならない。前にいる当事者でだけではなく、まず、私
がもっているのです。
Aさんは犬が嫌いです。Bさんは犬が好きです。Bさんの犬が鳴きました。Aさんが
うるさいと言っています。この A さんのうるささは、B さんが共有出来るでしょうか。
或いは、Mediator は犬が嫌いだとします。そうすると、犬が好きだと言っている、その
犬の可愛さというのは本当に分かるでしょうか。これは全て枠組みです。枠組みという
のは価値、伝統、地域性、地位から由来します。調停では、それを否定するわけではあ
りません。
1
深夜帰ってきた夫に奥さんが言います。「今日は早いのね」と。ご主人からすると、嫌
味なんじゃないかと思う、しかし、奥さんは本当に「今日は早く帰ってきて嬉しい」と
いう表現であったりするのです。そういうものが実は紛争の元なのです。そういうもの
を私達が知らないままで対話に関わることはできない。だから、コミュニケーションの
構図をしっかり理解しようということです。そこから、Mediation の技法は自然と出てき
ます。
5
枠組みが違っています。人は一人ずつ違うように、枠組みも違っています。
「私は誰?」
という問いです。皆さん考えて下さい。先祖・家族、性別、地域、年齢、学歴・職歴等、
様々なものが私たちの枠組みやスタイルを基礎付けています。
自分を知ります。自分というのは、
「私は誰?」ってことです。自分の自己概念・・枠
組みと合った経験をした時、「そうだ。あなたと私はよく似ている。価値観であるとか枠
組みであるとか」・・そうした人に出会った時は、その時の話は比較的にすんなりと入り
ます。例えば、同じ職業の方同士で話をすると、比較的コミュニケーションがうまくい
ったりするのも、この一つです。或いは出身地が同じ人達、地元を共有出来て、自己概
念の一部を共有しているのです。そうでない時は、すんなりとはいきません。その時に
は、自分の枠組み自身を揺さぶってみる。これが、自分で出来ればいいのですが、でき
ないときに、無理なくしようとするのが、リフレーミングです。
6
トレーニングでは、自分達がそれぞれ枠組みの元にあることを理解することから始ま
ります。そのことを理解しないと、人が枠組みにはまっているということを理解できな
いと思います。自分に気付く、これが Mediation のトレーニングの最初です。
先ずもって、対話の中に入ろうとしている私達自身が枠組みにこんなに縛られている
ということを気づかなければなりません。午後 6 時頃の電車の中です。前には男子高校
生が座っています。ムシャムシャとハンバーガーを食べ始めました。
「いいなあ」と思う
人と、「いやだなあ」と思う人と、実はいます。込んだ地下鉄などではどうでしょうか。
いやだと感じる人もいます。匂いがするし、人についたら困る、食べているのは行儀が
悪いと。他方、自分の高校生の時を考えると、クラブからの帰りにお腹が空いて、ハン
バーガーを食べたかった、それを今見ていると、非常に健全な感じがします。すごく、
微笑ましい。
午前 10 時頃の電車の中で、前には女子高校生が座っています。おもむろに鏡を出して
化粧を始めました。これを嫌いな人は多い。それはなぜかというと、まず、午前 10 時頃
の女子高校生に問題があります。元々化粧というのは、自分の母親のことを考えると、
鏡台の前で人に見せないような秘め事として実は母親が化粧をしていました。そういう
世代に生まれ育った人にとっては、人前でメークをするというか、前に他人がいるのに、
鏡だけみている姿をみていると、腹が立ってくるみたいなところはあります。
これは、実は好き嫌いであって、主観です。迷惑をかける行為は別ですが、迷惑をか
ける行為の一種かも知れませんが、これも好き嫌いです。人によって少し違います。実
2
は社会にはこのようなことが多くあります。
7
何が大事なのかということにも人によって違いがあるということです。
婚約をして結婚の日取りも決まっているAさんとBさんがいます。ところが、結婚式
の2週間前にAさんが突然交通事故に合って、半身不随の状態になってしまいました。
車椅子なしでは生活出来ません。どうしましょうか。特にBさんはどうしましょうか。
この時に幾つかの選択肢があります。Aさんとのこれまでの関係を考えて、このまま結
婚をする-結婚をして彼の車椅子を後ろを押す、という選択肢もあるでしょう。しかし、
これをきっかけとして、自分としてはもっと違う生活を考えて別れるという選択もある
でしょう。ただ、その選択肢のどちらがいいのかというのは、実は誰も決められないわ
けです。
医療でもそうです。あなたは7割助かるかもしれないけど、3割駄目な可能性がある。
この手術を受けますかという時に、どちらを選ぶのか、自分としてどちらを自分の生活
として選ぶのかというのは、どうしてドクターが決められるか。決められないではあり
ませんか。それは、個人がそれを背負うからその人達が決められる。しかし、私達は何
らかの形で支援・・サポートすることは出来ます。決めることはサポートできます。そ
ういう大事なものは、人によってかなり違います。
8
枠組みが違っています。人は一人ずつ違うように、枠組みも違っています。そのこと
を全然否定しません。法律というのは、時にはその枠組みと対立します。私達は否定し
ません。しかし、違っている枠組を持つ者のコミュニケーションですから、エラーが生
じます。奥さんとご主人の間でも、何十年連れ添っても違います。苦労します。面白い
のは、人は違っているからコミュニケーションをするのです。そして、違っていること
を前提にコミュニケーションを実践出来れば、つまり、AとBは違っているのだけれど
も私達は対話をすることはできる、もしかすると、この違いを共有しながら、コミュニ
ケーションを出来るかも知れない。
9
自分の自己概念と合った場合は、その人の話は受け入れやすいのですが、そうでない
場合はすんなりといかないのです。そこで、自己概念を豊かにする、自己概念を揺さぶ
ることが必要となります。
10
しかし、これを一人ですることはできるが、難しいことがある。そこで、自分以外の
人が必要となります。これはここでいう、調停人だけではなく、紛争の相手方すら、自
分の枠組みを豊かにするための援助者となり得るのです。第三者のこの手助けの方法が、
調停人の技法なのです。
11
その内の、まず、
「聴く」ということに焦点を当てましょう。自己概念が豊かになる時、
私の枠組みが揺れる時は、一体どういう時かというと、心の広い、その人自身、自己概
念が広い人がよく話を聴いてくれる時には、枠組みが揺れると言われています。これは、
カウンセリングと同じなのです。カウンセリングの場合は、本人がおっしゃったことを
否定したり、価値観から選択・評価するのではなくて、丸ごと聴くわけです。そして、
3
しっかりと聴いていますという言葉や態度を返してあげる。これをフィードバックと呼
びます。鏡のように返してあげる。
「今、おっしゃったことはこういうことじゃないです
か」とリピート(繰り返す)する。確認をしながら聴く。
「おっしゃったことは、隣の方
の、ピアノの音がうるさい。そういう時に、本当に腹が立った。そういうことなのです
ね」というような形です。調停の技法からいえば。この A さんと B さんが Mediator に
聞かれることによって、フィードバックされることによって揺れていくことになります。
12
フィードバックというのは、他の人に鏡になってもらって、その人の鏡に自分がどの
ように映っているのかを教えてもらうというわけです。これを私達はミラー効果・・
Mirror Effect・・鏡面効果と言います。実際には、精神分析・・精神療法科はほとんど
このミラー効果だけでやります。カウンセリングも同じです。そうすると、鏡は評価し
ません。「鏡よ鏡よ世界で一番美しい人は誰?」と言った時に、「あなた」と言わないわ
けです。鏡は判断や評価はしない。私達は鏡になるのだったら、鏡は評価しないし判断
しないのです。
13
聴くということです。相手が伝えようとする内容を正確に受け止めようとします。伝
え手である相手の気持ちに関心を向けて、その気持ちをそのまま受け止めます。
(一旦)
伝え手である相手の枠組みでとらえます。犬が好きだ、犬が嫌いだと言っている人達の
ストーリーを、その人のストーリーとして、そのまま受け止めるということです。よく
やりますのは、阪神ファンの人に阪神の悪口を言って、
「私は巨人のファンなのですけど、
お話を聞いていただけますか」というようなことをやります。これは、なかなか聞けな
いものです。自分の好き嫌いに関わっているようなところの人達の話は聞けないという
があります。それから、相手の発言や行動にきちんと反応します。おっしゃったことに
ついては、「ああそうなんですか」と私もどんな感じがするか、しっかりお伝えします。
相手の表情など、からだが出しているサインに目を向けます。そして、大事なことは、
聴くことは相手の成長、そして自分の成長に関わること。調停の大事なことは、私は NPO
の方にはよく言いますが、私達も変わるのだ、Mediator も変わるのだ。Mediator が固定
的な場面でいるわけではないのです。Mediator もその中で、私達も成長していくのだと
いうこと。こういうものを「聴く」ということだと知っていただきたい。
14
自己概念を揺すぶってみるということ、例えば、自分だったら相手の立場から見てみ
るということをやります。英語でいう時には、
「あなたを相手の靴の中に入れて考えてく
ださい」とこういうような言い方をします(Put oneself into sb’s shoes.)
15
枠組みを揺さぶるということも、この一つです。当事者が示したことを、調停人が別
の角度から言い換える、別の角度というところに、新しい視点という、調停人の見方が
入ることになります。「仲のいい友達と別れる時間まであと3時間となりました」。これ
をもう3時間しかないと思うと、悲しく、残りの3時間もじめじめと過ごすこととなり
ます。しかし、まだ、3時間もあると考えると、それを今精一杯楽しもうという、肯定
的な考えを導くことができます。
4
16
言い換えるのです。当事者が言っていることを、意味を変えずに、調停人が別の言葉
を使って言い換えることです。ここでは、①主観的な表現を客観的な表現とする、②人
を責める表現は、その人の私ことばに換える、③受け手の評価を加えない、ことに注意
しましょう。
17
(ここで言い換えのトレーニングの実施。
)
18
違いについて考えましょう。そこで、Mediation の大事なことです。
「あなたのいうこ
とはわからない。だから、同意が出来ません」というのは、これは、あまりよくありま
せん。次のレベルがあります。「意見は違っている。そうだけど、あなたの言っている、
あなたの見方自身は分かる。でも、今は同意できない」という場面もあります。もう一
つは「意見は違っている。でも、あなたのいうことは分かる。どちらかを決めるなら、
あなたに同意してもいい」という、これがいわゆる、合意・和解が成立したということ
です。
けれども大事なことは、私達は、後ろ2者は Mediation から見れば、価値は同じだと
いうのです。紛争解決機関をやる時に、本当は解決したいし、合意に到達したいです、
Consensus をとりたいですよね。そこで、紛争を止めさせたい。だけど、そう思って
Mediation をやるとすごいプレッシャーがかかります。そして、結局は元の木阿弥のよう
な形で当事者を説得してしまいます。私達は、調停人の方々にこう言うのです。
「合意で
きなくてもいいじゃないの。プロセスをしっかりしようよ。私の意見は違っている。あ
なたと違っているということをしっかり、お互いに伝え合えるような場面をつくるよう、
その上で、でも、あなたのいうことは分かるということまで行ければ」と。そこまで、
しっかり、深くコミュニケーションしよう。その結果、合意できるかどうかというのは、
それはその時の様子によって違うじゃない。もしも、できなかったからといって、それ
はあなたのやったことは無駄になってないよとこういう言い方をします。トランスフォ
ーマティブ Mediation という一つの流儀では、
「合意ができなくても Mediation はサクセ
スなのだ」こういう言い方をします。まさに、プロセスにどう関わったのか、お互い違
うところ(当然同じところ)を理解し合えたのか、理解しようとしたのか。そういう小
さい、しかし大きいところから、やって行く・・これが実は Mediation のプロセスだと
私は思います。これは決して合意を取らなくていいと言っているわけではありません。
その結果、合意ができればそれに越したことはないと言えます。しかし、合意を取る為
に、Mediation をするというやり方はプレッシャーがかかって、結局人の話を聞かないで
説得をしてしまうということから、私達は敢えてここは同じ価値だと言います。
19
私達は誤解をちょっとする時があります。相手と自分とが、考えとか意見が一致しな
いと受け入れることができない。そうすると、一致を求めるコミュニケーションをしま
す。「あなたは私の意見が分かれ」と言います。そうすると、説得とか強要のコミュニケ
ーションになります。これは、A さんと B さんの関係もそうだけども、Mediator もそう
なのです。
5
20
新しいコミュニケーションというのは、必ずしも相手と自分とは一致しなくとも受け
入れることができるというものです。そのためにはしっかりと深いコミュニケーション
をします。「突き合う」という・・角と角を突き合わせるようなコミュニケーション。そ
して今のような枠組みが違うのだということを理解したようなコミュニケーションをし
なくてはいけない。では、一体どうやってやるのか。これが、当事者ではできないとこ
ろを私達が支援するという形でやります。
21
私達は、裁判の中では感情というものを削ぎ落としました。法廷であの時の思いを言
いたいと証人の人が言いました。法律家はこう言います。
「今、そういうことを聞こうと
しているのじゃなくて、事実がどうあったかということをきちんと裁判官の方を向いて
言いなさい」と。つまり、裁判というのは、感情の部分を削ぎ落として、現実というこ
との中で、何が正しいのかということを法的に判断するのです。しかし、そうではない
じゃないですか。皆さんがやろうとしている紛争は感情がしっかりと入っている人間の
紛争じゃないですか。そうすると、この感情の問題から目をそむけて絶対できない。し
かし、感情は難しい。嵐のようなものです。本当に私達が制御できるようなものではあ
りません。感情というのは、定義は、「何かに接した時に、人の中に起こる心の状態とか
体の状態についての感じ方」といいます。感情は、実は非常にこれは表現することは、
難しい。すぐに感情的になります。感情的になって相手方を責めて、相手方を同じよう
に傷つけようとします。紛争の当事者はそうだと思います。それか、感情から目をそむ
けて、さも感情的じゃないような形で関わる。本当はこの人達の方が難しいのですが。
感情はしっかりと表す仕方がもっともいいといわれています。
22
私達の Mediation のトレーニングでは感情をどう表現するのかということをやります。
例えば、こういう場合どうですか。初心者の友人が高速道路に入って急にスピードを上
げています。怖くてスピードを落とさせたい。あなただったらどうしますか。こういう
問いがあります。ありますよね。大学に入った、大体夏休みごろですが、車の免許を取
った奴が父から車を買ってもらって「お前も乗れよ」と。
「俺は嫌なのだけども」と。
「嫌
なら付き合わない」と強制されて車に乗ったら、知らない内に高速道路に入ったり、ト
ンネルの中に入ったりするわけです。怖いですよね。トンネルの中に入ったのはいいの
だけども、ワイパーがチャカチャカするのです。まだ、ワイパーと前照灯の左右の機器
すら知らないのです。それに水や石鹸まで出てきたりすることがあります。怖いです。
こんな時にどうやって感情を表すのか。そういう時、一つの方法はわめき散らす。もっ
と危ないです。それから、感情から目をそむけて、
「そんなにスピードを出すと危ないよ」
という言い方。理屈です。或いは、
「スピード違反で捕まるよ」とこういう言い方をしま
す。しかし、そうなってくると、「そんなにスピードを出すと危ないよ」と言われても、
「俺の能力はそんなんじゃないよ」と今度は理屈で返ってきます。或いは、「スピード違
反でつかまるよ」と言うと、「この辺はネズミ捕り、やってないから大丈夫なのだ」とこ
ういう言い方をします。そこで、感情を表すトレーニングでは、感情の表し方というの
6
は、実はブルブルと震えながら「私、怖い」と表す、というようなトレーニングをやり
ます。この表現の仕方、
「私、怖い」というのを実は、これを私達は、アイ(I)メッセ
ージと言います。「私は怖い」という言い方をします。ユウ(YOU)メッセージで言う、
「あなたが悪い」というのは、あなたが主語です。アイメッセージでは「私は怖い」と
いう言い方です。こういう感情の表し方があります。ところが、紛争の当事者はできま
せん。「あなたが悪い」と言います。
「隣の人が悪い」と言います。
23
感情的になります。私達がそれを Paraphrasing します。Paraphrasing という言い方
は、翻訳すると考えたらいいと思います。感情的になった表現をアイメッセージに変え
てあげるということです。こういう仕方で感情を表すようにします。
「あんたが悪いのだ」
と言う時に、
「あなたはその時に怖い思いをしましたね」。これは、実は Paraphrasing・・
アイメッセージに変えるのです。アイメッセージに変えるということは、「私は怖い」と
Aさんが仮に言うと、Bさんは「あんたは怖くない」と言えないのです。アイメッセー
ジというのは、スコンと落ちるのです。お腹の底に落ちる。
「あなたが悪い」と言ったら、
「私は悪くない」とこうなります。
「私は怖い」ということは、しょうがないことなので
す。これが、対話の第一歩なのです。感情を受け止めるというのは、実はとっても難し
いです。最初、本当にズーッとそれを言われて、ただうなずきながら聴くというだけで
すが、こういう方法も実はあります。もうちょっといきましょう。調停のスキルがどの
ようなものかということを、コミュニケーションの構造からお伝えします。
24
話がうまくいかない時って、あるじゃないですか。自分の尋ね方に問題があるのに、
次から次へと質問をしている時です。これが、さっきの「訊く」です。聴き手は、話し
手の立場に立って、相手ができるだけ具体的に話せるように援助するような形で語りま
しょうという、これを、オープン・エンドクエスチョンといいます。オープンエンド(デ
ィド)というのは、お尻が開いているということです。つまり、イエス、ノーで答えら
れないこと。よくあるのは離婚の調停で男性調停委員が、最初に、「あなたは、もうこれ
からご主人と離婚する気なのですか、どうですか」とこういう訊き方です。こういう訊
き方は、とっても失礼だと思います。なぜかというと、その離婚の調停とかでお越しに
なっている人は、昔はうまくいっていた時期もあったわけです。それを私達は避けられ
ない。つまり、アンビバレントというのですが、彼のことはまだ信頼できるという部分
と、裏切られたという部分が裏表になってあるところを、私達は切ろうとしているので
すから。イエス・ノーでこれをクローズの質問。だけど、私達、法律家はクローズの質
問をし過ぎなのです。「どうしましょう。イエスなのですか。ノーなのですか。あるので
すか。ないのですか」とこういう質問をします。こういう質問は Facilitative な、対話促
進型の調停にはふさわしくない。少なくとも、最初の内はふさわしくないと言われます。
私達の問い掛けの仕方自身を考えてみようということをします。
25
(ここで質問の仕方のトレーニングの実施)
26
子供さんとお母さんがいます。
(母)今日は学校おもしろかった?(子)うん(母)体
7
育の授業では何をしたの?(子)鉄棒(母)うまくできたの?(子)うん(母)それで
は算数では何をしたの?(子)テスト(母)できたの?(子)悪かった・・・これはず
ーっと、はまっていきます。実は今の家庭での会話というのは、こういう会話になって
いるとよく言われます。
27
これをオープン・エンドクエスチョンでやってみましょう。
(母)今日は学校どうだっ
た?(子)別にどうってことないけど・・・(母)でも、何かつまらなそうな顔をしてい
るので気になるんだけど(子)そう(母)何があったのか、具体的に話してよ(子)う
ん。今日ね、同じクラスの○○君が、ぼくをいじめてきたの(母)いじめてきたって、ど
んなことをしてきたの?(子)ぼくのカバンを隠したの・・・これは一つの例ですけど、
オープン・エンドクエスチョンというのはその人達の本当のニーズであり、その人の思
いをどんどん引き出す力を持っています。私達は、だから、スキル-スキルとか言った
ら何だか人を騙すみたいな感じがするかも知れません-、或いは、トレーニング-訓練
という言葉が非常にイメージが悪いものと考えていますが-、私達はコミュニケーショ
ンのことをしっかり考えて私達がどうすれば、人を支援することができるのかというこ
とを考えてやります。私達は主役ではありません。当事者の人達が主役です。今日1時
間ほどやった中で、誰もが日常的に行っていることです。今、やったことは。
28 こんなに深いということを知って驚くといいましょうか。それから、コミュニケーショ
ンが持っている落とし穴を知って驚く。このことを私達が自分のコミュニケーションと
して知らなければ、人の支援はできません。この驚きを次につなげましょう。
29
そうすると、Mediator 或いは、Mediation というのは、コミュニケーションの問題を
越えるためのお手伝いをする。少なくとも、お手伝いなのです。だから、今日 ADR の定
義をと考えると、コミュニケーションの問題がある人達を、その問題を越えるためのお
手伝いをする作業を Mediation と、こう言っていただいてもいいと思います。大事なこ
とは「聴く」です。
「聴く」というのは、実はとっても難しい作業です。思っているほど、
簡単ではありません。三つか四つしか、実は狭義の技法はありません。枠組みに揺さぶ
りをかける。これを Reframing と言います。つまり、皆フレームに寄り添って自分の好
き嫌いであるとか、そういうことに寄り添ってしか話ができない時、ちょっと揺さぶっ
てあげるのです。それから、感情を受け止めるということで、Paraphrasing をしてあげ
る。Paraphrasing は、もっとニーズを出すというような時にも使いますけど、私は感情
を受け止めるために使うという表現をしています。それから、展開しやすい質問をする
と い う の は 、 Open-Ended Question と 言 い ま す 。 だ か ら 、 最 近 Reframing と か
Paraphrasing とか Open-Ended Question という言葉に換えて、私は枠組みに揺さぶり
をかける、或いは感情を受け止める、展開しやすい質問をするという比較的日本語で説
明をするようにしています。
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ある婦人科外来での苦情の受け止め方から、その人のニーズを探るまでの作業をして
みましょう。ある女性が産婦人科のお医者のところにクレームを付けました。「もう、こ
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の病院は閉院した方がいい。この病院は男性の職員は全員辞めさせて下さい。辞めさせ
ないのなら、私はあなたのところの悪口を周りに言い回ります。」とこうやってクレーム
が付きました。よくある事件で、Mediator がこんな時に、入る時にはどうするかという
と、「おっしゃっていることは、病院はもうこのままでは維持できない。そして、すべて
の人達をその女性の職員にして欲しい。そういうふうにおっしゃっているのですね。そ
れは、何かその時に恥ずかしい思いをした。つまり、あなたは恥ずかしい思いをしたの
ではありませんか」とこう受け止めます。聴き、そして、言い換え、話しやすい展開の
質問をするのです。
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さて、調停の場面です。申立てをしてきました。申立てをした人とは皆さんのところ
に、先ず相談にお越しになる人です。申立人と相手方と Mediator のあなたの三者で座り
ます。仮に三者で座られたとしましょう。ここにはいろんな条件があります。申立人は
Mediator の方に向かって、
「私の言い分を聴いてください。私の言い分は正しいですから、
Mediator さん、理解してください。理解していただいたら、Mediator さんの権限で相手
方を説得してください」とこういうものです。それを、私達はしっかりと受け止めます。
これは、日本でもアメリカでも同じです。アメリカは最初から、相手方と喋れるかとい
いますと、そんなことはありません。ちゃんと、Mediator の方を向いて、「Mediator さ
ん、私は正しい、正義の争いです。相手は間違っていますから、私の言い分をちゃんと
理解してください。証拠はここにあります」と言います。Mediator は、しっかり聴きま
す。これは第1段階です。
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同じように少し入れ替えると、相手方は同じように、
「違います。相手のいうことは間
違っています。私の言っていることが正しいのです。Mediator さん、分かってください。
お宅は私の言い分が分かったら、相手方を説得してください」と。言い方はいろいろあ
りますが、そういうような形で進みます。ところが、これがジグザグに進むわけです。
これが、単純に第1、第2と進むわけじゃなくて・・。
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ところが、おもしろいことに、ここでしっかり、Mediator が聴いたとしますと、次の
段階で、実は対話が生じます。この段階です。この第1段階で、こうやって申立人が言
っていると、相手方は「お前の言っていることは嘘や。お前は俺のことを何か傷つけよ
うとしているのか」といろんなことが出てきます。不規則発言が出ます。当たり前です
ね。この段階でも同じです。この段階でも申立人から、不規則発言が出ます。ところが、
ほぼ、30 分ずつしっかりと聴きましたら、相対として 30 分と考えて下さい。しっかりと
Mediator が自分で聴かないで、つまり、質問もしないで、しっかりと受け止めてもらい
ます。そうすると、おもしろいように、二人で対話するようになります。これは、ちょ
っと騙されてみないとわからないかも知れません。なぜ、こうなのかというのは、こう
いう問いなのです。私達は生まれてから、自分の話を人が茶々を入れないで、途中で
Interrupt しないで、介入しないで、30 分間しっかり聴いてもらった経験が、皆さんあり
ますか。或いは、人の話を自分が Interrupt つまり、介入しないで・・「ここはどうなの
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ですか。ああなのですかと言わないで、人の話を 30 分間聴いたことがありますか」と聞
いたらないのです。消費者相談員の方々にこうやって言うのです。「あなた方は人の話を
聴いたことがありますか」と。そうしたら、「一日中、電話で聴いています」・・聴いて
いません。ほとんど、喋っています。私達は、聴かれた経験もないし、聴いた経験もな
いのです。そうすると、よく言われるのは「聴くと時間がかかるのじゃないのですか」
と。そうなのです。それは、質問をするから、長いのです。むしろ、しっかりと受け止
めてあげるということをすれば、実は話が改善してきます。これは、ちょっと実践しな
いと分かりにくいかもしれませんね。調停はどんな時にサクセスか。つまり、成功かと
いうと、ここで私の好きな言葉があります。この最初の時は、調停人がやはり、コント
ロールします。「私が聴きます」といって、「ここではちゃんと、お話し合いをしましょ
う」と Introduction をして、
「こんなふうにやりましょう。ここは、皆さんが主役ですよ」
というような形をして、Facilitative します、エンパワーします。ここでは、Mediator
が少し二人の対話がないですから、主役的、或いは少しやっていくということになりま
す。ところが、Mediation は対話が回復した時にサクセスは何か・・調停人が消えるので
す。調停人がきれいに消えた時、きれいに消えた方が調停は成功だと。ちょっと、かっ
こいいですよね。私達は最後まで調停に私が主役ですとするわけじゃないのです。調停
人は、最後は消えるのです。ちょっと、比喩的で、表現としては分かりにくいかも知れ
ません。しかし、私達は、元々、ここに対話がない時に支えようとしたわけです。対話
が回復すれば、私達はいなくても、実はいいわけです。だから、対話を回復した時に、
私達がきれいに消えること・・これがサクセスなのです。
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頻発する調停上の問題
1
1.出てきた相手方当事者が、呼び出された
ことに不平を言う
(不満そうに)「なんでこんなところに呼出を
受けるのか。私は何も悪いことしていませ
ん。」
2
2.本人が来ずに、代理人が来た場合
(適切な代理権を証明した法律家が来た場
合)
「聖徳紡績の聖徳代表取締役の代理として
参りました、弁護士の明石(あかし)でござ
います。」
3
3.当事者があらかじめ書いてきたものを読
みはじめる
(調停の場で主張することをあらかじめ書いて
おいた紙を取り出して、棒読みする)
「私が主張したいことは以下のとおりです。第
一に、契約では、1月末日の納期をもって支
払いをするとしているのに、実際の納期の
期限よりも2日遅れて納品されたということで、
支払する義務はないと思っております。(延々
と続く)」
4
4.法的な解決がついている紛争を持ち出し
てきたとき
(調停人に向かって)
「調停人さん、この紛争は、以前東京地方裁
判所の民事第100部で裁判上の和解が成
立して解決しているはずですが」
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5.当事者の一方が同席で話し合うことを拒
否する
「相手の顔を見たくないので別々に聞いてい
ただけませんか」
6
6.当事者の一方が、第三者を同行した
「今回の件の相談をしている、○○会社の
○○さんですが、一緒に入っていいですか。
企業コンサルタントをしておられて、私の
相談相手なのです」
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7.同席で話をし始めるにあたり、どちらから
話すかにつき、双方が争いあった
カードをひいた人(当事者役A)は、もう一人
当事者役(B)の人を指名して、二人で、調
停人に向かって以下のように言って下さい:
当事者A:「私から話を聞いてください」
当事者B:「いえ、私から話を聞いてください。
なぜ相手からお話を聞くのですか。」
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8.同席で一方が話す時に他方がこれを妨
害する発言をする
カードをひいた人(当事者役A)は、もう一人
当事者役(B)の人を指名して、二人で、以
下のように言って下さい:
当事者A:「私は○○と先方が言ったのでこう
やったまでです。それに…」
当事者B:「いや、嘘言っちゃいけませんよ。
私は、○○と言ったのですよ!」
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9.同席で、当事者の一方が、相手方ではな
く、調停人に向かって専ら話す
(調停人に向かい、相手を無視するようにし
て)「調停人さん私の言い分を聞いてくださ
いよ。相手は、××という具合にあくどくて、
私は○○という具合に正しいのですよ。」
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10.同席で当事者が相手の発言に怒る
(イライラしたように)貧乏ゆすりをして、急に
立ち上がる。
(声をあらげて)(机を「バン」と叩く)
「どうしてそんな理不尽なことを言うのですか。
あなたが○○と言ったからこうして来てい
るんでしょう?」
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11.同席で当事者が感情的になる
もう一人、当事者役を指名してください。
「こんなに私が傷ついていることに・・・(しば
し言葉を失う)。(下を向きながら)私の気
持などどなたもお分かりにならないのです
ね・・・」
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12.話が同じところを回る
(一度話したところを、またも繰り返して話す)
「私が相手方と出会ったのは、約20年前の商
工会議所でした。そのころは、まだ景気も
よく、みんなで今後の経営について仲良く
話したものでした。・・・・」
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13.当事者の一方が調停からの離脱を示す
「今日は時間がありませんので、帰ります。」
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14.当事者の一方が、調停人に情報・意見・
アドバイスを求めた
調停人に向かって、こう質問する
「調停人さん、これは、法的にはどうなるので
すか。不法行為責任が相手方にはあるん
じゃないんですか?」
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15.当事者が調停人の交代を申し出た
調停人に向かってこう質問する
「調停人さん、今までどのくらい調停されたこ
とがあるのですか。え、まだ1年?(ぶつぶ
つと「頼りないな」とつぶやく)この事例と同
種のな事案を解決したことのある、もっとベ
テランの調停人さんにしてもらえませんか
ね。」
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16.別席(コーカス)で当事者から秘密の話
を示された
調停人役の人に、まず、「これは、別席のコー
カスの場です」と言って下さい。
その上で、以下のように言ってください:
「調停人さん、ここだけの話ですが、○○会
社は多大な負債を抱えているらしいんです
よ。だから、今回もこんなずさんな仕事をし
たんでしょう、きっと。」
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17.当事者から、別席での相手とのやり取
りを聞かれた
調停人役の人に、まず、「これは、別席のコー
カスの場です」と言って下さい。
その上で、以下のように言ってください:
「調停人さん、相手方は、別席の席でなんて
言ってましたか?」
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18.調停の途中で、法律家に相談したいの
で、中断して欲しいと言われた
「今日のこの調停で話したことを持ち帰って
弁護士と相談したいので、今日は結論が
出せません。」
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19.決めても、履行することを全く考えてい
ないと感じるとき
(履行する気が全くないように言う)
「はいはい、分かりました。悪いのは全部私
です。合意すればいいんでしょ。サインだっ
て何だってしますよ。」
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20.合意はするものの、書面化することを拒
む場合
調停人に対してこう言う:
「内容的には理解し、合意しますが、書面ま
で作成する必要ないのではないですか。」
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