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ボストン コンサルティング グループ
2004 SPRING
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シンガポール
香
海
港
ストックホルム
ヒューストン
シュツットガルト
イスタンブール
シドニー
ジャカルタ
台
北
クアラルンプール
東
京
リスボン
トロント
ロンドン
ウィーン
ロサンゼルス
ワルシャワ
マドリッド
ワシントン
メルボルン
チューリッヒ
●ニューラグジュアリー
(1)
ワンランクアップの消費
●ニューラグジュアリー
(2)
ベネフィットの階段
●ニューラグジュアリー
(3)
リテール金融の未開拓スペース
C O N T E N T S
プライシング:デフレ下の収益向上
●ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
1
●ニューラグジュアリー(2)
ベネフィットの階段
19
●ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
28
ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
さえも含まれる。ボストンコンサルティンググループ(BCG)では数百人の
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
一般消費者にインタビュー調査を実施し、加えて数百人について家庭や職
場の様子を観察し、世帯収入5万ドル以上の2,300人を超える消費者を対象
にアンケート調査を行った。その結果、回答者の96%が、1種類以上の商
品について通常以上の金額を払う意志があると答えた。アメリカには世帯
収入5万ドル以上の家庭が4,700万世帯あり、一世帯当たり平均人数は2.6人
であることを考えると、約1億2,200万人のアメリカ人がワンランクアップ
一般消費者市場で、通常より高い価格でもワンランクアップの商品・サ
ービスを購入する消費行動が目立つようになってきている。消費者が高価
格でも購入することをいとわないこれらの商品・サービス群を、私たちは
「ニューラグジュアリー」と呼んでいる。「ニューラグジュアリー」とは、
の商品・サービスを購入するだけの資力と欲求を持っていることになる
(図表1参照)。
図表1
消費者は優れた商品にはプレミアムを支払う
同じ商品カテゴリー内でも品質やセンス、消費者が思い入れを抱くような
回答者の割合(%)
魅力といった点で水準は高いが、まったく手が届かないほど高額ではない
「プレミアムを支払う意思のある製品カテゴリーが少なくとも一つはある」
96
商品やサービスを指す。今や多くの一般消費者がワンランクアップの商
「ある特定のカテゴリーに『払える限りの金額』をふりむけてもよい」
48
「節約することはできないほど大切な商品がある」
76
「景気が悪いときでも『手の届く贅沢品』を買う」
51
品・サービスを求め、それらを買うだけの経済力ももっている。その結果、
「価格が高ければ、売れる量は少ない」という今までの常識を覆して、従
来の一般消費者向け商品より高価格だが、従来型ラグジュアリーよりも大
量に売れているニューラグジュアリー商品群が成長している。ニューラグ
ジュアリー商品は、通常の価格と数量の関係を表す需要曲線のはるか上方
「自分にとってもっともたいせつないくつかのカテゴリーに集中的に支出を
ふりむける」
58
出所:ハリス・インタラクティブ・BCG共同調査(対象:世帯年収50,000ドル超の成人、2002年11月実施)
に、未知の領域を築いている。
消費者向け商品・サービスのさまざまなカテゴリーにおいて、次々とニ
ニューラグジュアリーの消費者はどんな人たちで、どのような商品・サ
ューラグジュアリーの勝者が出現したことにより、従来のリーダー企業は
ービスを購入しているのか。毎日あらゆる人々が、さまざまな商品カテゴ
押しのけられ、カテゴリー全体が変換されつつある。ニューラグジュアリ
リーでワンランクアップの消費を行っている。その理由もさまざまで、な
ーの波は、企業幹部に、消費者ニーズと商品・サービスの関係を見つめ直
かには意外な理由や、常識では考えられないような理由もある。私たちの
すよう迫ると同時に、自らのこだわりを追求しながら成長と収益性向上を
インタビュー調査の中で、おそらく最も驚くべきケースは、ワールプール
実現できる大きなチャンスを提供している。
の「デュエット」という洗濯乾燥機のユーザーたちだ。洗濯乾燥機といえ
ニューラグジュアリー現象は、数ドルから数万ドルにわたるあらゆる価格
ば、たいていの人には何の思い入れもない商品だろうが、彼らはデュエッ
帯の商品・サービスのカテゴリーで起きている。また、年収5万ドルから
トに夢中になっている。従来の洗濯乾燥機ならば600ドルもあれば買える
20万ドルに及ぶ幅広い所得層の消費者を巻き込んでいる。シングルマザー、
が、デュエットはセットで2,000ドル以上する。信じられない話だが、この
年金生活の夫婦、仕事をもった独身者、子供がいる家族、さらにはペット
ヨーロッパ・スタイルの開口部が前面に配された洗濯乾燥機について、彼
1
2
ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
らは次のような感想を口にする。「大好き」、「家族の一員だ」、「機械なの
るからなんです」と、ジェイクは最後
に仲良しの友達みたい」。
に言った。「世界最大の企業を経営する
これは作り話などではない。この人たちはメーカーの社員でも契約エー
人もいれば、世界で一番の金持ちもい
ジェントの宣伝担当者でもない。男性も女性もおり、人口属性上の特性も
るでしょうが、これよりいいクラブは
さまざまだが、「デュエットのおかげで幸せな気持ちになる」、「人間的に
買いたくても買えないでしょう。」そし
成長した気がする」、「ストレスが減った」、「子供たちを誇りに思えるよう
てわずかに笑みをこぼしながら、「コー
になった」、「自分が愛され大切にされていると感じる」、「洗練されたよう
スであなたたちみたいな人に勝つと気
に感じる」、などと繰り返し語った。私たち筆者二人合わせると消費者研
分がいい。対等だと思えるんです。僕は、
究歴は50年にも及ぶが、業界関係者も注目すべき点もない平凡な商品とみ
あなたたちに比べたら稼ぎはずっと少
なしている商品カテゴリーについて、これほど心からほとばしるような情
ないが、ずっと良い暮らし方をしてい
感に満ちた表現を聞いたことはなかった。5年前、ワールプールのブラン
ると思っています」と言った。ラウン
ド・マネジャーは、どんなに無謀な夢を描いたとしても、洗濯乾燥機がこ
ドが終わると(事実、彼は私たちに勝
のような高価格でこれほどの台数まで売れるとは想像だにできなかった。
った)、ジェイクは丁寧にクラブをピッ
今日でも、彼らはこの成功に驚きながら、需要に追いつこうとフル回転で
クアップトラックに積むと、「キャロウ
製造している。
ェイくん、今日もすばらしい一日をあ
キャロウェイ・ゴルフの創業者
イーリー・キャロウェイ。
手に持っているのは、販促用の大きな
ビッグバーサ・ドライバー。
りがとう」と言って帰っていった。
ニューラグジュアリーの消費者で、もう一人注目すべき人物、ジェイク
の例をご紹介したい。34歳になる彼は年収約5万ドルの建設作業員で、何
1989年にはキャロウェイゴルフは、ゴルフ用品メーカーのトップテン圏
よりもゴルフに熱中している。ジェイクは、1年かけてこつこつ貯金し、
外だったが、1990年に「ビッグバーサ」ドライバーを発表するや、3年も
キャロウェイのゴルフクラブ―3,000ドルもする高級なチタンヘッドのド
経ずに世界トップに躍り出た。
ライバー、パター、そしてウェッジのフルセット―を揃えた。普通のメー
カー品ならば、1,000ドルでそこそこのセットが十分買えたのにだ。シカ
数多くの商品カテゴリーで幅広い層の消費者をひきつけているニューラ
ゴがゴルフシーズンとなる8ヵ月間、ジェイクは午後2時にはコースに出ら
グジュアリーは、今や経済の重要な成長セグメントとなっている。23のカ
れるよう、午前6時からのシフトで働いている。勤務を終えると、平日は
テゴリーにおけるニューラグジュアリー商品・サービスの年間売上は合計
毎日のように18ホールを回る。そして、また信じられないことに、土日に
約3,500億ドルに達し、該当カテゴリーの年間総売上合計1兆8,000億ドルの
は2ラウンドずつをこなしている。彼はアマチュアゴルファーのなかでト
19%を占めている。しかも、年間10〜15%のペースで成長を続けている。
ップクラスに入る腕前だ。私たちは、彼と一緒にパブリックコースを1ラ
その需要には無限の可能性が秘められている。高価格商品がなかったカテ
ウンド回りながら、彼のクラブ「グレイト・ビッグバーサ」の技術的な違
ゴリーでも新たにニューラグジュアリー商品をつくることは可能だし、ニ
いや、性能のすばらしさについて、こと細かな説明を聞いた。
ューラグジュアリー商品によりすでに変貌を遂げたカテゴリーでも、さら
「でも、僕がこのセットを買った本当の理由は、リッチな気分を味わえ
3
にワンランク上へのシフトが再度起こりうるからだ。
4
ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリーの特徴
スイート・スポットの市場を占めている。既存商品よりも割高ではあるが、
30以上のカテゴリーで、大成功をおさめたニューラグジュアリー商品・
超高級品や従来型ラグジュアリー・ブランド品に比べると、かなり低価格
サービスを分析した結果、3つのタイプがあることがわかった。
だ。たとえば、バス&ボディ・ワークスのボディ・ローションは、8オン
ス入りボトルで9ドル(1オンス当たり1.13ドル)と、11オンス入りボトル
で3.29ドル(1オンス当たり0.30ドル)のワセリン・インテンシブ・ケアと
「手の届く超高級品」
このタイプはそのカテゴリー内の最高価格にあり、通常の商品に比べて
比べて、2.75倍高いが、同じカテゴリーの最高価格品に比べ、はるかに安
はるかに高い。しかし、カテゴリー自体が比較的低価格であるため、一般
い。超高級スキンケア・クリームの一つ、キールのクレーム・ド・コール
消費者の手の届く範囲にある。たとえば、「ベルヴェデーレ・ウォッカ」
は、8オンス入り24ドルで、バス&ボディ・ワークス製品より7割近く高い
は1本28ドルで売られているが、これは1本16ドルの「アブソリュート」に
し、これよりも高額のブランドが他にも数多く存在する。
比べ75%割高である。ニュートロのペットフードは、1ポンド当たり71セ
ントで、1ポンド45セントのアルポに比べ58%高い。だが、これらの商品
ニューラグジュアリー商品は幅広いカテゴリーと価格帯に広がっている
が自分にとって思い入れがあるたいせつなものならば、ベルヴェデーレも、
が、超高級品や従来型ラグジュアリー商品とも、マス市場向け商品とも異
ニュートロも、たいていの人にとって出せない金額ではない。
なる特徴を持っている。最も重要なのは、ニューラグジュアリー商品はど
れも感情・心理面に軸足を置き、消費者も他の商品と比べて、はるかに強
「従来型ラグジュアリー・ブランドの拡張」
い思い入れを持っていることである。1本30ドル程度の高級ウォッカのよ
従来、年収が20万ドル以上の富裕層にしか買えなかったブランドの廉価
うな比較的低価格な商品でさえ、消費者の感情に訴える明確な特性をもっ
版の商品・サービスが、このタイプである。たとえば、メルセデス・ベン
ている。これが家電製品や自動車といった高額商品になると、この思い入
ツはこの10年間で商品構成を劇的に変化させてきた。初心者向けのCクラ
れはさらに強く、長続きする傾向がある。一例を挙げると、BMWのドラ
ス・スポーツクーペの価格を継続的に下げることで(現在は約2万6,000ド
イバーは特に愛車への思い入れが強い。BMW取締役であるミヒャエル・
ル)、売上を着実に伸ばしている。同時に高価格車種も拡充することによ
ガナル氏によると、BMWの所有者は他の車に乗っている人に比べて、頻
り、ブランドイメージの維持に努めている。「マイバッハ」は、一般的なC
繁に洗車するそうだ。彼らは道路に駐車して立ち去る時も、振り向いてい
クラス・スポーツクーペの10倍以上に当たる、30万ドルを超える価格で販
とおしそうに自分の愛車を眺める。空港に降り立ち、駐車場に止めた愛車
売されている。このように従来型ラグジュアリー・ブランドの中にも、よ
を見つけると、お帰りなさいと温かく迎えてくれているように感じるとい
り手ごろな価格の商品も提供しながら、同時に消費者のあこがれ感も高め
う。対照的に、シャネルのハンドバッグやロールスロイスなど、きわめて
られるよう、巧みな商品・価格構成を図っている企業もある。
高価な従来型ラグジュアリー商品は、純粋な個人的思い入れよりも、むし
ろ選ばれた人だけに許されるステータスやクラス感に軸足を置いている。
また、従来のマス市場向け商品は、心理的絆よりも、価格、性能、利便性
「マステージ」
「マステージ」は、「マス」と「プレステージ」を組み合わせた造語だ
に重きが置かれている。フォードの中級車「トーラス」に乗っている人で、
が、そのカテゴリーで価格が最も高いわけでも、既存ブランドの延長線上
駐車した車をいとおしげに見つめているドライバーなど、めったにいない
にあるわけでもない。これらの商品は、「量産品と高級品の中間」にある
だろう。
5
6
ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
商品に対する思い入れは非常に重要だが、ニューラグジュアリー商品で
ると、消費者の購買行動が所得水
あるためにはそれだけでは十分とは言えない。「ベネフィットの階段」の
準から想定される範囲内に必ずし
全3段階で消費者の心をとらえる必要がある。第1段階として必要なのは、
も収まらない「消費のアンバラン
デザインまたはテクノロジー、あるいはその両面での技術的な差異だ。当
ス」が生じる。一例を挙げれば、
然、製品に欠陥がなく、約束通り機能することが品質上の前提として含ま
ディスカント・ストアのコストコ
れる。第2段階として必要なのは、このような技術的な差異が、機能的性
で買い物することもあるが、乗っ
図表2
ワンランクアップの消費をしたい
商品カテゴリー 上位10品目
回答者の割合(%)
1.
住居
69.1
2.
高級レストラン
65.7
3 . 台所用電化製品
57.8
4.
家具
57.4
5.
寝具類
57.0
能の向上に役立っていることだ。実際には何も改善されず、ただ製品の外
ているのはメルセデス・ベンツだ
見が変わり、あるいは変わったように見えるだけの「改善」を組み入れる
ったり、安いプライベート・ブラ
6 . 自動車
56.6
だけでは不十分である(アメリカの自動車メーカーは、このような小技を
ンドの台所洗剤を使っているが、
7 . 家庭用娯楽機器
54.9
8.
靴(スポーツシューズを除く)
52.7
長年使っていた)。最後の段階として必要なのは、技術面と性能面のベネ
ビールは値段の高いサミュエル・
9.
旅行・レジャー
50.4
フィットに、ブランド価値や企業理念などの要素も合わさって、消費者に
アダムスだったりといった具合で
10.
調理器具
48.8
思い入れを抱かせることだ。消費者は多くの場合、商品に対して一つの強
ある。
い思い入れを抱くものだが、たいていはそこに別の要因も絡んでいるもの
だ。
消費者が買うものをより厳選し、
「突出型消費」を行う商品カテゴリー
上位10品目
ワンランクアップとワンランクダ
「ベネフィットの階段」の全3段階を完璧に満たしたニューラグジュア
回答者の割合(%)
ウンの消費を使い分けるようにな
リー商品は、大ヒットする可能性が高い。スターバックス、ワイン・メー
るにつれて、
「ベネフィットの階段」
カーのケンドール・ジャクソン、ランジェリーのビクトリアズ・シークレ
を提供できない従来の中間価格帯
1.
住居
19.2
2.
旅行・レジャー
15.6
3 . 自動車
4.
14.6
寝具類
12.1
5 . リフォーム
11.9
ットなどの企業は、「ベネフィットの階段」を実現することで消費者の心
商品は、ますます消費者に顧みら
をつかみ、たちまちそのカテゴリーのルールを変換し、市場を支配するま
れなくなる。価格優位性もなく、
7 . 家庭用娯楽機器
11.2
でに成長している。そして、従来の需要曲線を書き換えてしまった。この
機能面あるいは感情面のベネフィ
8 . 高級腕時計・宝飾品類
10.2
ような現象が起きると、そのカテゴリーは二極分化することが多い。消費
ットもない商品を、わざわざ買い
9 . ペット用品(ペットフードを除く)
10.2
10.
9.9
者は買うものを選び抜くようになる。その商品が自分にとって大切であれ
求めはしないだろう。このような
ば、より高価なニューラグジュアリー商品にランクアップする。さほど重
商品を扱う企業は、低価格品には
要と思わないならば、低価格品やプライベート・ブランド(PB)を選択す
値段で対抗できず、ニューラグジ
るか、買わずに済ませてしまう。また、ニューラグジュアリーの購入に充
ュアリー商品には心理的魅力で太
てるために、他のさまざまな支出を切りつめる。このようにして家計が二
刀打ちできず、「V字の谷」に陥っ
極分化されていく。
てしまう。そして、売上、収益性、マーケットシェア、さらには消費者の
たいていのアメリカ人には、「突出型消費」の傾向が見られる。これは、
6.
高級レストラン
11.8
靴(スポーツシューズを除く)
「ワンランクアップの消費をしたい商品について
は詳細に知っている」
回答者の70%
出所:BCG調査
(対象:アメリカの年収100,000ドル以上の世帯)
関心までも失うことになる。生き残るためには、価格を下げるか、商品を
自分にとって重要な意味を持つカテゴリーに、突出した金額をつぎ込むと
一新してポジショニングを改める必要がある。さもなくば、市場から撤退
いうものだ(図表2参照)。ワンランクアップの消費と節約が同時に行われ
するしかない。
7
8
ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー拡大の背景
需要サイドの要因
ニューラグジュアリーを生みだし、その成長を促している要因は何だろ
需要側から見ると、数十年にわたり蓄積されてきた人口属性と慣習面の
うか。ワンランクアップの消費現象は、社会の変化と経済的要因が合わさ
変化が組み合わさってワンランクアップの消費の原動力となっている。最
った結果生じたと私たちは考えている。消費者の欲求やニーズと、企業側
も重要なことは、アメリカの世帯の可処分所得がかつてないほど高まり、
の能力や意欲がこのように合致するのは、第二次世界大戦後、郊外住宅地
プレミアム商品に費やす余裕が十分あるということである。アメリカの実
が拡大し、利便性の高い商品が台頭したとき以来だろう。その当時、工業
質家計所得は過去30年間増え続け、特に収入の最も多い層の伸び率が最も
製品に対する消費者の欲求は、産業側の製造能力と並行して高まっていっ
大きい。全米の人口を所得によって五等分した場合の上位20%(年収
た。物心両面の苦労を強いられた戦争が終わると、アメリカ人は自動車、
82,000ドル超)は、実質所得が70%近くも伸びている(図表4参照)。その
冷蔵庫、家庭用品を今までに例がないほど買い求めた。そして、航空機、
結果、この層に属する2,100万世帯が、自由裁量購買力の60%近くを支配
武器、軍服、日用品といった戦時用品のスピード生産で鍛えられた新たな
するに至っている。住宅所有も消費者の富の増大に寄与している。アメリ
能力のおかげで、アメリカ産業は十分需要を満たす態勢が整っていた。ア
カの平均的な住宅の資産価値は5万ドルで、アメリカ全体の住宅資産は7兆
メリカの人々は、戦争の痛みを忘れ、新たな力に支えられた繁栄を謳歌し
ドルである。富の増大に貢献しながら、あまり目立たないもう一つの要因
ようとしていた。
は、大型ディスカウンターのおかげで消費者が節約できるようになったこ
同じように、昨今のアメリカの消費者は感情が高まった状態にある。そ
とである。長年にわたり、量販店はコストを削減し、マージンを圧縮して
してアメリカの企業もまた、新しいスキルと能力を意のままに操ることが
きた結果、一般消費者の生活費の低減に貢献している。私たちの推定では、
できる。しかも、ニューラグジュアリーは以前の消費ブームのような一時
2001年にはこのような形で1,000億ドルが浮き、ニューラグジュアリーを
的な流行ではなく、需要と供給の両面にわたる長期的かつ根本的な変化に
購入する費用に充てられるようになったと推測される。
主導された動きである。したがって、ニューラグジュアリーの成長は今後
何年も続くと考えられる(図表3参照)。
アメリカ人の富の増加と並び重要なのは、女性が消費者として、また消
費に影響を及ぼす存在として支配的な役割を果たすようになったことだ。
図表3
図表4
「ニューラグジュアリー」を牽引する要因
アメリカの世帯収入の変化
需要サイド
実質家計所得の増加
独創的な起業家
住宅の資産価値上昇
ディスカウンターによる恩恵
女性の役割や家族構成
の変化
83.8
上位20%
心理的ニーズ、
流通の構造変化
商品カテゴリーの変換
センスや教育水準の向上、
経験の広がり
141.6
消費に対する意識の解放
9
上位40〜60%
上位80〜100%
69
39
33.6
36.4
42.4
26
20.8
22.0
25.3
上位60〜80%
柔軟なサプライチェーン・
ネットワークやグローバル
資源の活用
101.0
47.3
54.8
65.7
上位20〜40%
ニューラグジュアリー:
世帯収入中間値の1970年から
2000年までの増加率(%)
世帯収入中間値
(千ドル、
2000年価格)
供給サイド
1970年
1985年
2000年
7.8
8.9
10.2
出所:U.S. Census Bureau
10
22
30
ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
労働人口に占める女性の割合は、過去40年間で着実かつ格段に増加し、有
そして、消費者は自分の心理状
給労働に従事する既婚女性の割合はほぼ倍増している。働く女性の数が増
態をより強く意識し、自分のニー
加しているばかりでなく、彼女たちは従来よりも高額の所得を得ている。
ズを認識し、それについて語り、
仕事を持つ主婦の四分の一近くが、夫よりも稼ぎが多い。女性たちは自分
それを実現することに意欲的にな
のためにお金を使う権利があると感じている。私たちのインタビューのな
っている。私たち消費者は毎日、
かでも、彼女たちは再三にわたりこう話していた。「私が稼いだのだから、
特に影響力をもつメディアや著名
自分自身に使うことも含めて、好きなように使うわ。」
なオピニオンリーダーから、「夢を
図表5
ヨーロッパを訪れる
アメリカ人旅行者の増加
0
1955
1960
2
4
6
8
旅行者数(百万人)
10 12 14
1957年、ボーイングが
初の大陸間ジェット機707を導入
1965
1970
このように人口属性が変化した一つの結果として、伝統的なアメリカの
追い求めよう」、「心理的ニーズを
家族を見つけるのが難しくなっている。アメリカでは夫婦と子供が一緒に
満たそう」、「心からの楽しみを求
1974
暮らす伝統的なイメージの家庭は、全世帯のたった24%である。男女とも
めよう」、「自己実現しよう」、「自
1976
に晩婚傾向にあり、少子化も進んでいる。その結果、自分自身のために使
分を大切にしよう」、「自分のあり
1978
うお金が増えた独身者が増加している。そして家族構成が小さくなり、世
方に満足しよう」といったメッセ
1980
帯収入が増えたことにより、一人当たりの資産が増大している。晩婚傾向
ージを数え切れないほど受け取っ
1982
にもかかわらず、結婚生活が長続きしなくなり、初婚の50%、全体では3
ている。さらに、これらのメッセ
1984
分の1が、結婚後10年で離婚に至っている。離婚となれば、消費パターン
ージはニューラグジュアリー商品
1986
も大きく変わる。独身に戻ると、
「自己ブランド」
(対外的な自己イメージ)
とセットになっていたり、関連づ
を再構築するため、そして心の傷をいやすために、以前に増して自分のた
けられたりしていることが多い。
めにお金を使うようになる。女性の場合、離婚によって財産が減ることが
そのような商品をオプラ・ウィン
多いものの、離婚した女性は突出型消費の強力な担い手である。彼女たち
フリーが推奨し、マーサ・スチュ
1996
の話によると、自分を魅力的にし、別れた心の痛みをいやしてくれるさま
アートが販売促進し、サラ・ジェ
1998
ざまな商品に、不相応なほどお金をつぎ込むという。
シカ・パーカーは共演者とテレビ
2000
消費者像にも変化が見られる。一般消費者は高学歴化が進み、より洗練
ドラマ「セックス・アンド・ザ・
出所:Statistical Abstract of the United States
され、旅行経験が豊富で、一層冒険心にあふれ、目が肥えてきている。現
シティ」の中で使って見せている
在では、25歳以上のアメリカ人の半数以上が、大学教育を受けている。教
養のある消費者は、自分たちが使う商品そのものや当該商品カテゴリーの
1972
1978年、航空規制緩和法成立
1988
1990
1992
1994
図表6
「モノ」で心のスペースを埋める
4つの感情スペース
(図表6参照)。
かつてアメリカの「平均的な」
状況について知ろうと意欲的だ。そして海外旅行を通じて、他の国々、特
一般消費者像は、控えめで野暮っ
自分を
大切にする
人との
つながり
探求する
独特の
スタイル
にヨーロッパのスタイルやセンスに触れる機会が増えた(ヨーロッパを訪
たく、財産もささやかでさして影
自分のための
時間の確保
魅 了
冒 険
自己表現
れたアメリカ人旅行者は、1970年には300万人、2000年は1,100万人)。旅
響力もない存在だった。しかし、
家族の絆
学 習
自己ブランド化
行経験豊かな消費者は、海外で見つけたセンスやスタイルを、国内で買え
ここまで見てきたようなさまざま
時間の
有効活用
る商品でも楽しめればいいのに、と思うようになる(図表5参照)
。
な要因により、野望と相当な購買
心と身体の癒しと
自分へのご褒美
所 属
遊 び
シグナル
11
12
ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
力や影響力を持ち、洗練された眼識のある消費者へと大きく変わってきた
を含めた全小売店中最大だ。小売業が二極分化するなかで、伝統的百貨店
のである。
はそのはざまで行き詰まってしまっている。似たような品揃えの商品を似
たような形で展示するだけの百貨店は、買い物客に思い入れを抱かせたり、
供給サイドの要因
気分を高揚させたりすることはほとんどない。結果として、伝統的な百貨
ニューラグジュアリー進展の背景として、供給側の要因も需要側と同様
店の業績は下降し続けている。
に重要である。おそらく最も重要なのは、「アウトサイダー」が今まで以
ニューラグジュアリーを手がける企業は、経済や貿易のグローバル化に
上に市場に受け入れられるようになったことと、その役割であろう。「ア
よる恩恵も受けている。国際貿易障壁の緩和、世界的なサプライチェー
ウトサイダー」とは、そのカテゴリーの外側からアイデアやひらめきを持
ン・サービスを提供する企業の能力向上、海外輸送コストの低下などによ
ち込み、既存リーダー企業や業界の常識を否定し、既存システムの外側で
り、企業規模の大小を問わず、海外労働市場の活用や、調達、製造、組立、
新たな動きを仕掛けてくる起業家やイノベーターを指す。(そう呼ばれる
販売のための複雑なグローバル・ネットワークの構築・管理が可能になっ
のも初めのうちだけで、「アウトサイダー的手法」もいずれは確立された
た。
システムとして定着することが多いが。)
これらのイノベーターたちはたいてい、彼らの商品を買う消費者と同様、
こうした供給サイドの要因によって、ニューラグジュアリー企業は、新
商品開発のための資金調達や、より迅速な開発、より低コストでの生産が
伝統的企業の幹部たちと比べて、知識が豊富で、洗練されており、商品へ
容易に行えるようになった。そして、消費者需要の増大に応じて迅速に生
の思い入れが強い。そして従来型商品をつくるだけでは満足しない。たと
産拡大できるようになったのである。
えば、プレザント・T・ローランドが「アメリカン・ガール」というシリ
ーズの人形を作り始めたのは、姪に贈り物をしようと思ったところ、お店
ニューラグジュアリー成功への8つのカギ
に置いてある「キャベツ畑人形」などの人形にまったく満足できなかった
ニューラグジュアリーは、その企業の置かれた状況や考え方によって、
からである。史実に基づいたキャラクターと細かい部分まで正確に再現し
差し迫った脅威にもなれば、目の前のチャンスにもなる。主として脅威を
たアクセサリーが特徴のアメリカン・ガールの人形は1体84ドルで販売さ
感じるのは(あるいは感じるべきなのは)、伝統的な中間価格帯の商品を
れ、3億ドルのビジネスに成長した。
一般消費者市場に提供している企業だ。ニューラグジュアリー商品を提供
小売業の変化により、ニューラグジュアリー商品がアメリカ中どこでで
する競争相手が自社のカテゴリーに参入してくると、二極分化が急速に進
も入手できるようになったことも、ワンランクアップの消費現象に貢献し
み、その企業は「V字の谷」に陥ってしまう危険性が高い。一方、ビジネ
ている。ショッピング・モールが全米各地に数多くできたおかげで、高級
スチャンスが訪れる可能性が高いのは、停滞しているカテゴリーにワンラ
台所用品のウィリアムズ・ソノマやビクトリアズ・シークレットといった
ンクアップの商品で参入し、そのカテゴリーを変容させることができるビ
高級専門店が急速に店舗網を拡大できた。量販店も高級品の品揃えを充実
ジョンと資源を持ち合わせた起業家や企業だ。ニューラグジュアリー商品
させることによって、ニューラグジュアリー商品の拡大に大きな役割を果
を開発する企業は、きわめて迅速にアイデアから試作品を創り出す能力を
たしてきた。たとえば、コストコはいまや高級ワインの品揃えとその売上
備えている。時にはわずか1年で完成させることもある。彼らは最小限の
高では他社の追随を許さない。コストコでのフランスのボルドー産ファー
設備投資で当初は少量生産から始め、5年もあれば新事業を立ち上げてし
スト・グロース(一級格付け)・ワインの販売量は、ワイン専門チェーン
まう。そして将来、その事業を売却したくなっても、熱心な買い手が待ち
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ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
受けている。
統的ブランドであっても、技術面、機能面のベネフィットで差別化できな
起業家にせよ、既存大企業にせよ、旧来の商品開発手法や市場化手法で
くなれば、感情面での優位性を維持することはできない。
はニューラグジュアリーを生み出すことができないことは確かだ。商品カ
テゴリーや企業タイプを問わず、ニューラグジュアリーのリーダー企業は、
次の8つのカギを実践している。
5. ブランドの価格帯とポジショニングを拡大する
ニューラグジュアリー・ブランドの多くは、高価格帯へと拡大すること
で消費者のあこがれ感を煽ると同時に、低価格帯への展開も進めることで
1. けっして顧客を侮らない
手ごろ感や競争力を増し、需要を創出している。従来の高級ブランドでは、
消費者は、ワンランクアップの商品・サービスを買うだけの欲求や、興
最高価格品は最低価格品のせいぜい3〜4倍だったが、ニューラグジュアリ
味、知識、能力を備えていると信じる。たとえそれを証明するデータも、
ー商品では、最高価格品と最低価格品の間に5倍から10倍の差があること
実現するビジネスモデルもその時存在しなかったとしても。
が多い。ただし、どの価格帯の商品についても、明確な特徴や意味を慎重
に定義し、表現し、維持するとともに、全商品に共通するブランドのコア
2. 価格―数量の需要曲線を打破する
となるエッセンスを明快に打出している。
従来品の若干の改良や若干の高額化ではなく、画期的な新商品を充分な
プレミアムをつけた価格で投入する。高価格と大量販売を同時に実現する。
6. バリューチェーン(価値連鎖)をカスタマイズして、「ベネフィットの
階段」を提供する
3. 真の「ベネフィットの階段」を創出する
バリューチェーンを所有するよりも、バリューチェーン全体をコーディ
意味のない改良で顧客の目をごまかしたり、ブランドイメージ頼みでそ
ネートし、コントロールすることを重視し、バリューチェーンをオーケス
の場をしのごうとしたりしない。技術的改善により機能面のベネフィット
トレート(オーケストラのように全体をうまく調和させること)する達人
を生み出し、その結果、消費者は商品に思い入れを抱くようになる。「技
となる。ボストン・ビア・カンパニーの創設者、ジム・コッチは、「サミ
術面―機能面―感情面」の全3段階で消費者の心をとらえるのである。
ュエル・アダムス・ボストン・ラガー」の製造工程(19世紀の醸造法と20
世紀の品質管理手法を融合)を定め、原材料を厳選し、流通を管理した。
4. 絶え間ないイノベーションと品質向上により、完璧なブランド体験を
提供し続ける
しかし彼はホップを自家生産したり、大規模な自前の生産設備を建設した
りはしなかった。
ニューラグジュアリー市場は豊富な機会に恵まれている一方、不安定な
市場でもある。新たな競争相手が市場に参入し、イノベーションが最高級
7. インフルエンス・マーケティング(影響力のある人からの波及効果を活
品から低価格品へと波及するスピードが加速するにつれて、技術面や機能
用したマーケティング)を活用し、ブランドの伝道者を通じてヒットの
面における優位性の寿命はどんどん短くなるからである。今日、差別化さ
種をまく
れた高級品であっても、明日には月並みなブランドとなってしまう。ABS
ニューラグジュアリー商品では、そのカテゴリーのごく一部の消費者が
やオートロックなど、わずか数年前には高級車にしか備えられていなかっ
価値の大部分を創出する。ランジェリー、酒類といった頻繁にリピート購
たさまざまな性能が、今では8割近くの車に標準装備されている。また伝
入されるカテゴリーでは、上位10%の顧客が売上と利益の半分を占めるこ
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ニューラグジュアリー(1)ワンランクアップの消費
ニューラグジュアリー(1)
ワンランクアップの消費
とも珍しくない。ニューラグジュアリーのリーダー企業は、コア顧客を理
解するにあたって、アンケート調査やフォーカスグループといった旧来の
原題:Trading Up to New Luxury
消費者調査手法だけに頼るようなことはしない。むしろコア顧客を厳密に
定義したうえで、彼らとの直接的対話に時間をかけ、1対1で話を聞くこと
も多い。こういったコア顧客層に商品を浸透させるためには、これまでと
は違った形で新商品の販売・マーケティングを行う必要がある。例えば、
発売当初は特定の場所で特定層を対象に慎重な管理のもとに販売し、初期
購買者から頻繁にフィードバックを受け、口コミを仕掛けるといった具合
である。
8. アウトサイダーのように当該カテゴリーを攻め続ける
マイケル・J・シルバースタイン:
BCGシカゴ事務所 シニア・ヴァイス・プレジデント
ニール・フィスク:
元BCGヴァイス・プレジデント、現在バス&ボディ・ワークスCEO
本稿は、「Trading Up : The New American Luxury」マイケル・J・シルバ
ースタイン、ニール・フィスク著(邦訳:「なぜ高くても買ってしまうの
か」 杉田浩章監訳、BCG訳、ダイヤモンド社刊)の一部を抜粋し、加筆編
集したものである。
そのカテゴリーでリーダーになった後も、アウトサイダーのような考え
方をし、一匹狼のように行動し、常識を打破する発言をし、けっして自分
自身をインサイダーと考えないよう努める。
ニューラグジュアリーを実現し成功させるためには、大企業であれば
CEOや事業部長自身が、中小規模企業では起業家やイノベーターが、戦略
を策定し実行しなければならない。ニューラグジュアリーの核をなすのは
商品なので、商品開発や、サプライ・チェーンの責任者にとっても、ニュ
ーラグジュアリーは大きな課題を提示する。消費者の購買動機や購買行動
を深く理解する必要があるので、市場調査やマーケティングの担当者にと
っても重要な意味がある。ニューラグジュアリーは消耗品、耐久消費財、
サービス等を含むほとんどの消費者向け商品・サービスに携わる多くの
人々に対し、少なからぬ影響をすでに及ぼしているか、近いうちに及ぼす
だろう。今からでもこの波に乗るのは遅くない。
マイケル・J・シルバースタイン
ニール・フィスク
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ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
着のビクトリアズ・シークレット、スターバックス・コーヒー、歯漂白フ
ィルム「ホワイトストリップス」のクレスト、ベーカリー・カフェ・チェ
ニューラグジュアリー(2)
ベネフィットの階段
ーンのパネラ・ブレッド、BMW、家庭用品のウィリアムズ・ソノマ、ピザ
「ディジョルノ」のクラフト、アイスクリームのベン&ジェリーズ、ベルベ
デーレ・ウォッカ、ダイヤモンド・ペットフード、人形のアメリカン・ガ
ール、電化製品のサブゼロやバイキングなどがその代表例である。
「ニューラグジュアリー(1):ワンランクアップの消費」で述べたとお
快感を呼ぶブランド
り、いま消費者市場の常識を一変させる新しい現象が起こりつつある。消
ニューラグジュアリー商品・サービスを購入する人たちは、消費により
費者がどんな商品・サービスを重視し、どのように品質を定義し、苦労し
自らの生活を豊かにしようとし、自分を特徴づけたり、魅力的にしたりす
て稼いだ金を何に使うかという価値観が変わってきている。その結果、同
るためには、ブランドは必須のアイテムだと考えている。彼らは多くのカ
じ消費者がワンランクアップの商品も買えば、ワンランクダウンの商品も
テゴリーでワンランクアップの商品を手に入れようとし、そのためには他
買うようになってきた。特別な意味を見出した商品は、プレミアムを支払
のカテゴリーで購入する商品のランクを下げることもいとわない。ただし、
ってでも最高級品を手に入れ、そのブランドにロイヤルティを持ち続け、他
ランクを上げるときはもちろん下げるときにも、いかにもマスマーケット
人にも推薦する。一方、コモディティ商品は低価格品を探して買い、あり
向けといった大量生産品には手を出さない。そうした商品は、価格は安い
とあらゆる商品でコストコ現象が起こっている(注:コストコは、低価格
が価値も低く、お買得ということはめったになく、また欠点はないが特徴
を誇るアメリカの会員制ディスカウントチェーン)。
やワクワクする点もほとんどないということを知っているからである。
消費者は買い物をするたびに、次の3点を自らに問いかける。
1.その商品に、プライベートブランドや低価格品との価格差を支払うだ
消費者の頭の中には極めて精巧な計算機が備わっている。彼らはその計
算機を使って商品を評価し、価格が価値に見合っているかを分析し、コス
トが自身の心理的ニーズや購買力と釣り合っているかを判断する。消費者
けの価値があるか?
2.その商品には価値や信頼性があるか?
はもはや、高額なものがすなわち良いものだなどとは思っていない。しか
3.その商品・サービスを使用することで自分のセンスやライフスタイ
し彼らの計算機で高すぎるという結果が出ても、商品に相当大きな感情面
ル、教養、冒険心を周囲の人たちに印象づけることができるか?
のベネフィットがある場合には、購入する。一方、商品の価格と価値を比
ストレスが多く心が休まらない世の中にあって、その商品・サービス
べ、非常に割安だという計算結果が出た場合にも、購入を決める。いずれ
は自分を快い気分にしてくれるか?
の場合も、心理的・感情的な満足感や納得が重要なのである。
こういった動きのなかで、消費者に真の機能面、感情面のベネフィット
以下に典型的なニューラグジュアリー・ブランドであるBMWの自動車と
を提供したニューラグジュアリー企業は、需要曲線を超越し、「高利多売」
アメリカン・ガールの人形の例を見てみよう。両ブランドともプレミアム・
を実現している。カテゴリーの常識を覆して消費者の心をつかんだニュー
セグメントを対象にし、次のような共通の特性をもっている。
ラグジュアリーの旗手たちには、アウトサイダーも多く見られる。高級下
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・ロイヤルティとリピート購買率が業界最高
20
ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
・小売の現場までブランドの哲学が徹底されている
造を始めた。彼らはアウトサイダーとして自動車業界に参入したため、マ
・神秘的なマーケティング
ーケティングにおいても既成の手法を踏襲することはなかった。彼らが重
・見る人を驚かせるイノベーションを次々と繰り出す
視したのはロイヤルティ、リピート購買率、品質向上、自動車工学上の最
・最高級の材料・部品のコストを補うだけの大きな価格プレミアム
先端のイノベーションである。彼らの車造りの基礎には、スピードとドラ
イビングに関する純粋な美学がある。
BMW―平均からの脱出
BMWの最高マーケティング責任者によると、彼らのターゲット顧客は、
BMWは技術―機能―感情の三層から
「よく働き、よく遊ぶ」人たちだという。「こうした人たちは真剣に楽しも
成る「ベネフィットの階段」を、特にうま
うとします。彼らは運転を楽しみ、たいへんエネルギッシュです。彼らに
く実現している企業である。同社は航空
とって品質は非常に重要であり、そのためには金を惜しみません。車で通
機エンジンのメーカーとしてスタート
勤する人の中には、ドライブに適した道があれば職場まで回り道をすると
し、第1次世界大戦中にダイムラーに代
いう人もいます。ドライビング環境において完全な心の安らぎを感じてい
わってフォッカー戦闘機にエンジンを提
ます。守られているという安心感があり、活力がわいてくる。彼らは、同
供するようになった。ダイムラーのエン
等の所得水準の人々よりも、頻繁に洗車をします。当社の経営訓の一つに、
ジンは速力が低く、また故障しがちであ
った。一方BMWのエンジンは大戦後期
に採用されてからすぐに、航空機エンジ
『我々の仕事の質を判断するのは顧客である』というものがあります。私た
あなたは愛車に恋していますか?
それとも、ただの移動手段?
ちの生存権を握っているのは顧客なのです」
BMWは「本物」にこだわる企業であり、ブランドの基本精神に忠実であ
ンとして最も大きな信頼を寄せられるよ
る。厳しい設計原則に従って、最高級の部品を使い、デザイン変更のたび
うになった。BMWのエンジンを搭載すれば飛行可能高度が上がり、急降下
にきわだったイノベーションと改善を行っている。同社の車は、同じ製品
の速度が増した。現在のBMWはこうした伝統の上に成り立ち、その遺産は
セグメントの中で最も高価な車だが、彼らが追求しているのは従来のラグ
戦略のあらゆる面に引き継がれている。
ジュアリーではない。BMWの魅力はまずエンジンにある。同社のエンジン
「究極のドライビング・マシン」を自任する自動車を製造するBMWは、
は同種のものの中でも設計上最も複雑で、最も馬力がある。
現在世界で最も収益性の高い自動車メーカーである。取締役の一人は彼ら
ダラスに住む形成外科医のテッドは、典型的なニューラグジュアリー消
の会社をこう表現する。「BMWが製造しているのはラグジュアリー・カー
費者で、BMWに魅力を感じるタイプの消費者だ。彼の妻もまた医師で、夫
ではなく、 プレミアム・カー です。設計に携わるのは自動車を愛する人
婦には二人の子供がいる。テッドが初めてBMWを買ったのは1996年のこと。
間です。他の自動車メーカーは、 目に見える 特徴に腐心しますが、私た
ボディ・カラーはシャンパン、インテリア・カラーはベージュの7シリーズ
ちは最高の車を作ります。私たちはドライバーの代弁者です。アンチロッ
だった。「最初はレクサスを見に行ったんだ」とテッドは言う。「ところが
ク・ブレーキやトラクション・コントロールを開発したのも当社です。
セールス担当者は試乗車を時速30キロほどで運転した。それからBMWの販
BMWの車なら、5年経っても古くは見えません。当社のデザインは長持ち
売店に行ってみたら、BMWのセールス担当者はレクサスやベンツを販売し
するのです」
ていたこともある女性だった。彼女は、BMWがパワフルでホットだという
航空機エンジン、そしてオートバイの製造を経て、BMWは高性能車の製
21
ことをよく知っていた。妻も試乗したんだが、戻って来た時には彼女はす
22
ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
ごく興奮していたよ。本当にすごいスリルで、まるで宙を飛んでいるよう
転する人は、単なるBMWの所有者ではない。彼らはエンジンの音を聞き、
だった。ハイウェイの出口で時速130キロで走っている時に急ブレーキをか
走りを感じ、運転を体験し、それを伝え歩く伝道者なのである。彼らは自
けても、ぴたりと止まった。ブレーキのききは完璧だった。シックス・フ
分の車に愛情を抱いている。BMWの顧客は、車に対する気持ちを次のよう
ラッグズ(アメリカの遊園地チェーン)のジェットコースターに乗ってい
に表現している。
「夢のような走り」
、
「車との一体感」
、
「私の車はカーブを
るような感じだが、乗り心地はもっと良い。これまで4台のBMWに乗った
見るとにっこりする」、「チータになった気分」
。
が、これからもBMW以外の車に乗る気はないよ」
新型7シリーズは、BMWの設計上の優位性を示す典型である。何しろこ
アメリカン・ガール―遊び、学び、夢
の車にはコンピュータ制御の安全・情報システムが搭載され、シートは20
ニューラグジュアリー・ブランドの中でも最もうまくいっているものの
とおりの調節が可能だ。他にもアクティブ・ロール・スタビライゼーショ
多くは、潜在的不満の中から生まれている。つまり標準的な商品で妥協し
ンや、いわゆる「ステップ」が無いエレクトロニック・ダンピング・コン
なければならないという我慢を強いられた消費者が、妥協を打破するブラ
トロール、パークディスタンス・コントロール、6速オートマチック・トラ
ンドの創業者となるわけである。プレザント・ローランドはもともとは小
ンスミッション、タイヤ空気圧監視システムが装備され、さらに急ブレー
学校の教員で、教材の執筆もしていた。その彼女が姪に人形をプレゼント
キを踏むとヘッドライトの角度を調節して視界が広くなるようにしている。
しようとしたとき、まさにそういう体験をした。おもちゃ屋の棚はバービ
また耐破損性がある安全ガラスや、音声操作ナビゲーション、雨を自動的
ー人形とキャベツ畑人形に占領され、彼女はどちらも好きにはなれなかっ
に感知して作動するワイパー、フロントガラスの凍結を防ぐ温かいウイン
た。それらマスマーケット商品の素材、部品、デザインが気に入らず、も
ドウォッシャー液、さらにはマイクロフィルターを使った換気システム、ヒ
ちろん教育的価値も見当たらなかった。
ル・ディセント・コントロール、メーデー・システム(緊急時には自動的
そこでローランドは、もう少し良いものをつくろうとアメリカン・ガー
にBMWのロードサイド・アシスタンスのオペレーターにつながる)が備え
ルを創業した。ただし彼女は人形メーカーをつくったつもりはない。アメ
られている。またBMWがここ10年間で他社に先駆けて導入を決めた技術に
リカン・ガールが売っているのはむしろ歴史や教育、娯楽、子供に力を与
はコーナー・ブレーキ・コントロール、高性能サイドエアバッグ、横転時
えること、本物の良さや想像力であり、それらを最高の職人技と素材に包
乗員保護システムなどがある。7シリーズに搭載されている4.4リットルV8
んで消費者に提供しているのである。アメリカン・ガールの主要コレクシ
エンジンは325馬力であり、停止した状態から時速約100キロに加速するの
ョンは、時代設定が異なる8種類の人形である。その中で一番新しいのはア
にわずか5.9秒しかかからない。
メリカ・インディアン、ネズパース族の少女カヤで、1764年という時代設
BMWは、ブランドの核となるアイデンティティを堅持するとともに、洗
定である。モリーという第2次世界大戦中の中西部で暮らしている少女もい
練されたセグメンテーションを行うことによって、プレミアム・セグメン
る。それぞれの人形について書かれた本や、時代考証的にも正確な付属品
トでのポジションを拡大している。同社は、2001年の景気低迷の中でも納
(衣服、家具、おもちゃ)を見れば、子供たちは歴史を文字通り手にとるこ
車台数を10%伸ばし、2002年もシェアを大幅に拡大し、10%近い成長を達
とができるわけである。
成している。最低価格と最高価格の差が7倍近くに及ぶ価格帯の商品を展開
アメリカン・ガールの大ファンの8歳の女の子サマンサは、彼女と同じ名
して、一般消費者の手の届く範囲にありながら、同時により高いあこがれ
前のサマンサという人形を親友だと思っている。サマンサ人形は、アメリ
感を抱かせるようにブランド・ポジショニングを拡大している。BMWを運
カン・ガールのコレクションの中で売上高首位だ。9歳の孤児であるサマン
23
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ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
サは、お祖母さんと一緒に20世紀初頭のニューヨークで暮らしているとい
ングとブランドに関する常識を多くの側面で覆す。価格上限、価格帯、ブ
う設定になっている。全6巻に及ぶエピソードもある。そのためこの女の子
ランド拡張性、消費者の洗練度、市場安定性、ラグジュアリーが一般消費
サマンサも、人形のサマンサの生い立ちや、彼女が辛い経験をしてきたこ
者市場に浸透するまでにかかる期間といった要素に関する従来の前提は、
とをよく知っている。
「サマンサにお洋服を着せたり、お世話するのが大好
ニューラグジュアリーの出現とともに崩壊する。この戦いに勝利するには
き。彼女の洋服とお揃いの服も持ってるの。
」ところがある日、人形のサマ
新しい戦略が必要である。
ンサは、弟に窓から投げ落とされて怪我をしてしまった。サマンサの母親
伝統的企業、特に中間レベルの商品で中流市場の消費者をターゲットに
がアメリカン・ガールに電話をして尋ねると、修理をするので同社に送っ
している企業にとっては、ニューラグジュアリーは絶好の機会にもなるし
てくれるように言われた。サマンサは
脅威にもなる。この難しい局面を乗り切るには、新しい枠組みや、新たな
ん
人形の病院
で
人形のお医者さ
の手当を受け、戻ってきたときにはまるで新品同然で、しかも腕には
患者識別用ブレスレットまではめていた。
サマンサの母親がアメリカン・ガールを知ったのは、娘の友達の母親に
種類のリーダーシップが必要である。より豊かな想像力と定説への挑戦。
より大きな勇気と常識の打破。より旺盛な創造力と漸進主義からの脱却。
とてつもない価格差で市場に参入してきたニューラグジュアリー企業を見
勧められたからだ。いまでは彼女が他の友人たちに、
「この人形は歴史の勉
て、多くの経営幹部は、「あんな価格で十分な売上をあげられるものか!」
強にもなっていいわよ。子供に読書をさせたいとか、世界的視野や歴史的
と断言するものだ。しかし、技術―機能―感情面の「ベネフィットの階段」
価値観をもってほしいと思うなら、アメリカン・ガールの人形と、セット
を備えていれば、それも可能となる。ニューラグジュアリーは、想像力に
になっている本を買うといいわ」と力説する。これぞ母親の口コミによる
富むリーダーに、成長や収益性、夢を実現する方法についての新たな考え
マーケティングである。
方を提供するのである。
アメリカン・ガールの価格は85ドル前後で、一般的な人形の4倍から8倍
今日のように不透明な状況下では、ニューラグジュアリー戦略に踏み切
する。しかし多くの母親は、困難に遭いながらも努力して成功をおさめる
るには勇気が要る。需要が低下し、価格圧力が高まるなかで、多くのブラ
架空のヒロインを通して、娘が喜んで多くのことを学ぶ機会を持つのであ
ンド・マネジャーの関心は、マージンを守るために何とかして製品コスト
れば、その価格でも高くないと考える。アメリカン・ガールは非常に高い
を削減できないかという方策に向かっているに違いない。しかしそればか
顧客ロイヤルティを誇っており、少女たちは、もともとのコンセプトの延
りでは、自らの積極的選択であるかどうかは別として、結果的に顧客のラ
長線上に新しい商品が次々と開発・発売されることを強く望んでいる(た
ンクを落としていくことになるだろう。
とえば月刊誌は、現在65万部の発行部数がある)。返品率は2%以下で、顧
ビジョンとリーダーシップを備えたリーダーなら違う道を選ぶだろう。
客の多くから高い満足度を得ている。現在アメリカン・ガールは、シカゴ
彼らは次のようなことを自問して考える。
「製品の品質やデザインを向上さ
のミシガン・アベニューに軒を連ねる小売店の中で最も業績が良い。年間
せるためには、どのような投資をすればいいだろう?」、「高価格帯市場に
売上高は3億7000万ドルであり、今後も2桁成長が続くと見込まれる。
拡大する一方で、中価格帯市場でのプライス・ポジションを強化するには
どうすればいいだろうか?」、「自社ブランドが顧客にもたらす感情面での
常識の壁を打ち破る
魅力を最大限活用するにはどうしたらよいか?」、「景気低迷の中、どのよ
ニューラグジュアリーとは、単なるマーケティング戦略ではなく、まっ
うにして投資を増加させようか?」。
たく新しい事業観、世界観である。ニューラグジュアリーは、マーケティ
25
26
ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
ニューラグジュアリー(2)ベネフィットの階段
今回ご紹介した一連のニューラグジュアリーに関する考察が、読者の皆
様にとっても事業の再成長へのヒントになれば幸いである。
マイケル・J・シルバースタイン
ニール・フィスク
ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
原題:The New Luxury: Trading Up and Trading Down
マイケル・J・シルバースタイン:
BCGシカゴ事務所 シニア・ヴァイス・プレジデント
ニール・フィスク:
元BCGヴァイス・プレジデント、現在バス&ボディ・ワークスCEO
いまや一般消費者は、さまざまな商品・サービスのカテゴリーで、自分
にとって重要だと思えばワンランクアップの商品を購入している。彼らが
高価でも価値を認め、喜んで購入する商品・サービス群を、私たちは「ニ
ューラグジュアリー」と呼んでいる。消費者にとって重要であるにもかか
参考文献:
Trading Up: The New American Luxury マイケル・J・シルバースタイン、
ニール・フィスク 著(邦訳:「なぜ高くても買ってしまうのか」 杉田
浩章監訳、BCG訳 ダイヤモンド社)
わらず、ワンランクアップの消費意欲を満たす機会をほとんど提供してい
ないカテゴリーの一つが、金融サービスである。一般消費者のなかで比較
的裕福な層は、より良い資産管理方法を求めており、イノベーティブな商
品やより高水準のサービスにならプレミアムを支払ってもいいと考えてい
る。ところが彼らのこうしたニーズにうまく応えている金融機関はほとん
どないのが実情である。そのためこのような消費者は、自分たちは金融機
関にとっては二流顧客としかみなされておらず、大金持ちが受ける諸々の
サービス―プライベート・バンキング、広範な投資機会、投資相談、優遇
金利・利回りなど―からは締め出されていると感じている。
確かにこういった比較的裕福な一般消費者層は、従来のプライベート・
バンキングの顧客ほどの資産家ではないが、ある程度まとまった資金は持
っている。現在アメリカで年収5万ドルを超える世帯が4,700万世帯あり、
年収7万5,000ドル超の世帯は2,700万世帯にのぼる。持ち家数は7,300万戸
で、その資産価値も上がっている。株式市場は2000年から2002年にかけて
下降局面にあったが、購入時より値上がりしている有価証券も膨大にある。
さらに今後10年間で、相続によって相当な額の資産が動くと考えられる。
このような状況のなかで消費者は、より良い金融サービスを求め、必要と
している。資産をただ管理するだけではなく、ポートフォリオの多様化や
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28
ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
刺激的で面白い投資を可能にし、そして言うまでもないことだが、資産を
ば女性の影響力が増し、家族構成も変わった。平均寿命が延び、また教
増やしてくれるような金融機関があれば、プレミアムを支払ってでも取引
養・教育の水準も上がった。(「ニューラグジュアリー(1):ワンランク
きしたいと思っている。
アップの消費」の図表3参照)
2人の子供の母親である37歳のリサの例をみてみよう。夫のバリーは通
現在アメリカでは25歳から54歳までの女性の76%が就労し、彼女たちの
信会社に勤務し、リサ自身はパートタイムで秘書の仕事をしている。夫婦
就労時間と収入は増加している。しかも多くの女性が、収入がある夫もし
の年収は合わせて14万2,000ドルほどである。彼らが所有している2ベッド
くは恋人と暮らしている。また出産年齢が高くなり、少子化も進んでいる。
ルームのコンドミニアムは、約6万ドルの純資産価値があり、預金額は2万
その結果、世帯の可処分所得は従来よりぐっと増えた。しかし往々にして
2,000ドルで、他にリサの父の遺産で買った10万ドルの譲渡性預金(CD)
彼らは投資運用手段に不案内で、余剰資金は、彼らがよくわかっている唯
がある。いまの彼女の希望は、都市部を離れ、郊外の一戸建て住宅に住む
一の投資手段である住宅へと流れることになる。キッチン設備、バスルー
ことだ。幼い子供たちが遊べるような裏庭があり、家の周りには赤ん坊を
ム、ホームシアター、設備の良いランドリールーム。そういったものが、
連れて歩けるような静かな通りがあればいい。しかし、一戸建てを購入す
彼らにとっては安全で賢い投資先なのである。
ることが財務的に正しい選択なのか、夫婦の資金力でどれだけの頭金が用
アメリカの就労女性の大半を占めるのは独身者である。私たちの推定に
意できるのだろうか、といった不安もある。それに、CDはこのままにし
よると、25歳から29歳までの独身女性の収入合計は3,740億ドルを超える。
ておいたほうがいいのだろうか、それとも売却して証券を買うべきなのだ
しかも彼女たちの場合、必需的支出はほとんど家賃と公共料金だけと言っ
ろうか、さらにはもっと利回りの良い運用方法はないのだろうか、といっ
てもいい。したがって、適切な方法で魅力的な投資商品を持ちかければ、
た疑問も抱えている。
彼女たちは貯金や投資に資金をまわすかもしれない。ところが実際には、
「父が死んだ時、10万ドルをどのように投資運用したらよいかを銀行に
相談しました。すると彼らは、マネー・マーケット・ファンドかCDはど
うですかと言ったのです。どちらもそれほどいいとは思いませんでしたが、
衣服や装飾品を含む消費財や、外食、旅行といったライフスタイルに関わ
るサービスに支出されている場合がほとんどである。
有利な金融サービスの探求に熱心で、資金的余裕のある消費者として、
CDのほうが安全かなと思ってCDにして、塩漬けになってしまっています。
高齢者と退職者の存在も重要である。アメリカの60歳超の人口は約4,600
銀行は、私が自分のお金をどうしようと本当はどうでもよかったのです。
万人である。彼らは前世代と比べると良好な健康状態を保ち、まだ20年以
彼らから見れば、10万ドルははした金です。相談はわずか2分ほどで終わ
上元気でいたいと思っている。そこで彼らは資産を増やし、収入を得るた
りました。いま銀行に行っても、その時の担当者、いわゆる投資カウンセ
めのアドバイスを必要としている。また、次世代への相続に関するノウハ
ラーは私の顔さえ覚えていません。確かに私たちは金持ちではありません
ウもいろいろ知りたいと思っている。
が、かといって貧乏というわけでもありません。もし何か良い商品を提供
してくれる銀行があれば、迷わず乗り換えるでしょう」
アメリカには15歳から18歳のティーンエイジャーが約2,000万人いるが、
彼らも自分自身で多額の支出を管理したり、親の支出に対して重要な影響
を及ぼしたりしている。若年層の銀行口座数は増えつつある。親たちは、
消費者の構造変化
サマー・キャンプ、休暇旅行、特別授業、習い事に加え、大学や大学院の
ニューラグジュアリーが拡大している背景には、実質収入の増加や不動
学費といったさまざまな出費の一助とするためにも、子供に早いうちから
産価値の上昇はもちろん、いくつかの基本的な社会的趨勢がある。たとえ
十分な資産形成をさせたいと望んでいる。さらには、将来子供たちが大人
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ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
になってから、子供を育て、家を持つための備えも必要となる。
いまの消費者は、子供から老人に至るまで年齢を問わず洗練されている。
V字の谷
思い入れの強い商品・サービスへのワンランクアップの消費が増加する
教育水準が向上し、また一般的な金融サービスや有利な金融機関に関する
一方で、消費者は、それ以外のカテゴリーでは節約もしている。平均的な
情報が、以前とは比べものにならないほど多く手に入るようになった。彼
商品・サービスしか提供していない企業にとっては危険な兆候だと言え
らは、自分が購入する商品の特性や、自分にとってのそれを買う意味をき
る。BCGの調査に回答した消費者の96%は、自分にとって重要で、より高
ちんと理解したいと思っている。彼らは、金融商品を提供する金融機関の
い金額を支払う意志のあるカテゴリーが少なくとも1つはあると答えてい
担当者との間に協力関係を築きたいと思っているのであって、ただ現金を
る。一方それほど重要と思っていないカテゴリーでは、プライベート・ブ
渡して、「専門家にお任せします」と言うつもりはない。
ランド(PB)を選んだり、買わずにすませたりしているという。金融サ
ービスに対しても同じである。富裕な消費者であれば、世帯の財産はゴー
消費者をワンランクアップの消費に駆り立てるのは、強い思い入れであ
ルドマン・サックスやモルガン・スタンレーのようなフル・サービスの金
る。数千人の消費者を対象にBCGが行った消費行動に関する調査の結果、
融機関に預けるだろうが、個人の株取引はディスカウント・ブローカーを
消費者がプレミアムを支払ってまでニューラグジュアリー商品を購入する
通じて行うだろう。
のは、その商品に対して思い入れをもてる場合だけだとわかった。確かに
こういった消費行動が拡がった結果、平均的消費者というものは、もは
消費者は、技術的、機能的な面でも、高価格品に対して低価格品よりも大
や消滅したといえる。基本的な人口属性と消費行動を調べても、ほとんど
きなベネフィットを期待する。しかし実際に決め手になるのは、間違いな
関連性は見られない。たとえばメルセデス・ベンツを所有している裕福な
く心理的要素である。
共働き夫婦でも、ウォルマートでピクルスを買ったりする。また、収入が
消費者の購買行動の裏には、4つの「感情スペース」を満たそうとする
比較的少ない消費者でも「突出型消費」―1つないしは2つの自分にとって
心理が働いている。これは金融商品の購入にもあてはまる。一つめは「自
重要なカテゴリーに、収入とは不釣合いな額を集中的に注ぎ込むこと―を
分を大切にする」で、自分の心身の健康や癒し、安全、自分の時間の有効
行う。たとえばゴルフに熱中している年収4万5,000ドルの建設作業員が、
活用などに関わる感情スペースだ。二つめは「人とのつながり」で、友人
3,000ドルもするキャラウェイのゴルフクラブセットを買うために、他の
や家族とのつながりを深めることに関わる感情スペース。三つめは「探求
支出を切り詰めることもある。
する」で、新しい知識と経験を求める感情スペース。四つめは「独特のス
ニューラグジュアリーで成功を収めるには、顧客に真の価値をもたらす
タイル」で、自分の価値観や興味を表現することに関わるスペースだ
「ベネフィットの階段」を提供しなければならない。そのためには、実際
(「ニューラグジュアリー(1):ワンランクアップの消費」の図表6参照)。
は小手先のマーケティング小道具に過ぎない
機能強化
や
追加機能
金融サービスは、これら4つの感情スペース全てに関連している。金融専
などではなく、真の技術的改善や顧客にとってのベネフィットが必要であ
門家の多くが言っているように、消費者向け商品・サービスのなかでもマ
る。技術面のベネフィットは、機能面の性能向上に寄与しなければならな
ネーは最も心理的要素が強い。自尊心、達成感、安心感、安全性、世代間
い。つまり技術の改善が、商品・サービスの使い易さ、使い心地の向上に
の継承、といった問題に深く結びついているわけである。
つながらなければならない。そして最後の段階として、こういった技術面
や機能面のベネフィットが、ブランド価値や企業理念などの諸要因と合わ
さって、消費者に思い入れを抱かせることが必要である。そうすれば消費
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ニューラグジュアリー(3)
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ニューラグジュアリー(3)
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者は、ブランドに尊敬と信頼を抱くようになり、そのブランドが提供する
金融機関の中にはニューラグジュアリー現象を無視し続けるところもある
体験を楽しみ、商品を高く評価するはずだ。
だろう。そうした企業は他社に先を越され、機会を逸してしまうに違いな
消費者が買うものをより厳選し、ワンランクアップとワンランクダウン
い。そして遠からず、最も価値の高い顧客の多くを失うことになる。最後
の消費を使い分けるようになると、「ベネフィットの階段」を提供できな
は値下げ競争に巻き込まれ、彼らの商品・サービスはコモディティと化し
い、従来の中価格帯の商品・サービスは、ますます顧みられなくなる。消
てしまうだろう。
費者の目が肥え、しかも選択肢の幅が大きく広がったいま、どんな価格帯
一方、この現象を再成長へのまたとないチャンスととらえ、一段上の成
にしろ、何の変哲もない商品が消費者に受け入れられる可能性は極めて低
長と収益性を手に入れようとする金融機関もあるだろう。そのためにはコ
い。価格優位性も機能面のベネフィットも、ましてや感情面のベネフィッ
スト削減を図るのではなく、むしろコスト・ベースを20%ほど引き上げて、
トもない商品は、はなから相手にされないだろう。したがってこのような
商品イノベーションや、品質向上、ブランド構築に投資する必要がある。
商品を供給している企業は、「V字の谷に陥る」危険性が高い。価格では
この投資により、ニューラグジュアリーのターゲット顧客層にとっての商
低価格商品に歯が立たず、心理的魅力ではニューラグジュアリー商品に及
品価値は倍増するだろう。ニューラグジュアリーへの変革の過程で、新し
ばず、売上、収益性、市場シェア、そして消費者の関心も失ってしまうの
いサプライヤーとの実り多いリレーションが築けたり、新たに有利な流通
だ。彼らの選択肢は3つしか残されていない。1つ目は、商品・サービスの
チャネルが開けたり、社内に強い使命感が醸成されたりする可能性もある。
余分な部分を削り落とし、価格を下げること。2つ目は商品・サービスを
ニューラグジュアリーの機会をうまく事業に結びつけることができた金
再生させ、ポジショニングを改め、価格設定を変えて、ニューラグジュア
融機関は、「価格とボリュームは反比例する」という常識を打ち破り、同
リー商品・サービスを創り出すこと。そして3つ目は、市場から撤退する
業他社と比べて不釣合いに大きい売上と利益を上げることができる。ニュ
ことである。消費財でも金融サービスでも、スイート・スポットはもはや
ーラグジュアリー商品・サービスは、従来の一般消費者向け商品よりも高
中間価格帯には存在しないのである。
価格だが、旧来のラグジュアリー商品よりも大量に売れる。その結果これ
らの商品群は、従来の需要曲線のはるか上方に新たな領域を形成している。
ニューラグジュアリーの機会
金融業界でも、ニューラグジュアリー企業は市場や経済の好転を待つので
BCGが行った消費者調査によると、世帯年収5万ドル以上の世帯の大半
はなく、自らプライシング力をつくり出してゆく。そして景気下降局面で
は、財務状況に不安を感じ、銀行などの金融機関の対応に満足していない。
の安売りや、安易なプロモーションにより、価格コントロール力を失って
そして、自分たちのニーズを理解してくれ、長期にわたって信頼関係を築
しまうような真似はけっしてしない。
くことができる金融機関を見つけたいと切望している。すでにニューラグ
ただしプライシング力を得るには、しかるべき戦略と、経営幹部のコミ
ジュアリー金融商品の開発に着手している銀行は、アメリカではまだごく
ットメントが必要だ。戦略面では、それぞれの顧客のニーズに合わせたサ
わずかである。専門的金融サービスを受けるために必要な最低残高を引き
ービス、商品イノベーション、洗練されたプライシング、顧客ロイヤルテ
下げたり、全顧客が利用できる商品の幅を広げたりしたところはまだまれ
ィの獲得強化などに取り組まなければならない。消費財業界のニューラグ
だ。残念ながら多くの金融機関は、実質的に意味のある新商品を投入する
ジュアリー企業が実証した成功のカギは、金融業界にも適用可能だと私た
わけでもなく、ただマーケティング費用を増やしただけで、誠意ある金融
ちは信じている。
機関として消費者の信頼を得られるものと期待している。
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ニューラグジュアリー(3)
リテール金融の未開拓スペース
金融業界のニューラグジュアリー成功のカギ
5. インフルエンス・マーケティング(影響力のある人からの波及効果を活
以下にニューラグジュアリーの潜在顧客を引きつけ確保し続けるための
6つのカギをあげる。
用したマーケティング)を活用する
顧客をブランドの伝道者にする。満足している顧客は、必ず最も強力な
推奨者になる。こうした推奨者をつくり出すためには、従来よりも具体的
1. けっして顧客を侮らない
にターゲットを明確化したブランド構築やセグメンテーションを行う必要
最も大切な顧客と、多くのチャネルを使って定期的に対話を行い、自社
がある。
の商品・サービスが彼らにとって魅力的でニーズに合っているか確認す
る。従来の市場調査手法は役に立たない。また迅速かつ柔軟に仮説を試行
―検証するパイロットを行う必要がある。パイロットは、容易に展開や規
模拡大ができるよう設計する。
6. アウトサイダーのように当該カテゴリーを攻め続ける
業界の常識に挑戦する。銀行は長きにわたり、商品だけに注意をはらっ
てきた。金融機関が成功をおさめるには、重要な顧客との間に複数のチャ
ネルを活用して深いリレーションを築かねばならない。消費財業界と同様、
2. 顧客の不安や助けを求める声に応える
金融業界でも、ニューラグジュアリー企業はアウトサイダーのように考え、
多くの消費者が、自分の財務面の能力に自信がなく、銀行と親密なリレ
異端者のように行動し、因習打破主義者のように自らのビジョンを語らな
ーションを持ちたいと思っている。彼らのニーズに応えることができれば、
ければならない。間違っても自分をインサイダーだと思ってはならない。
顧客ロイヤルティが生まれ、大切な顧客と一生涯にわたる関係を築くこと
ができる。
いまのところ、ニューラグジュアリー現象が内包するポテンシャルにつ
いてきちんと認識している金融機関はごくわずかである。今こそ、成長や
3. 真の「ベネフィットの階段」を創出する
収益性向上、ブランド再生につながる計り知れない機会をとらえるために、
真の技術―機能―感情面のベネフィットを顧客に提供する。小手先のマ
経営資源を投じ、本気で取り組むべき時ではなかろうか。
ーケティングでごまかそうとしてはならない。より多くの消費者がワンラ
ンクアップの消費を行うようになるにつれて、金融機関は自社商品のベネ
フィットを一層明確に伝え、消費者と心理的絆を築けるよう注力しなけれ
マイケル・シルバースタイン
ばならない。
ジョン・ローランダー
ブルース・M・ホーリー
4. イノベーションと品質向上を持続的に行う
原題:Trading Up: An Open Space in Financial Services
プレミアムを課す以上、真に優れた商品・サービスを提供し、高い品質
基準を維持しなければならない。さらに、「今日のイノベーションは、明
日の標準機能」であることを忘れず、常にイノベーションを生み出し続け
なければならない。最も高い価値をもたらす顧客は、 平均的な
サービ
スしか提供しない企業とは長く取引を続けたりしない。
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リテール金融の未開拓スペース
マイケル・J・シルバースタイン:
BCGシカゴ事務所
シニア・ヴァイス・プレジデント
ジョン・ローランダー:
BCGニューヨーク事務所
シニア・アドバイザー
ブルース・M・ホーリー:
BCGニューヨーク事務所
ヴァイス・プレジデント
参考文献:
Trading Up: The New American Luxury
マイケル・J・シルバースタイン、
ニール・フィスク
著(邦訳:「なぜ高くても買ってしまうのか」
浩章監訳、BCG訳
ダイヤモンド社)
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杉田
バックナンバーは、弊社ホームページでご覧いただけます。
http://www.bcg.co.jp/
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(
)
2004年5月発行