株主の皆様へ 代表取締役社長 松田 洋祐 02 平素より当社グループの経営にご理解・ご支援をいただき、誠にありがとう ございます。 おかげさまで、 2016年3月期は、 社長就任以来取り組んできた構 造改革とコンテンツ投資が徐々に結実し、 売上高と親会社株主に帰属する当 期純利益が過去最高を更新するとともに、今後のさらなる飛躍に向けて新た な取り組みを開始した一年となりました。 以下に各事業セグメントにおける成 果と進捗とともに、 今後の戦略・方向性についてご説明申し上げます。 各事業の概況 デジタルエンタテインメント事業 2016年3月期においては、国内におけるスマートデバイス向けのゲームが引き続き大きく伸張し、 グ ループ全体の収益をドライブしました。 2016年3月期上期にリリースした 「メビウス ファイナルファンタ ジー」 や 「キングダム ハーツ アンチェインド キー」 など、主力IP (Intellectual Property:知的財産) を 活用した新規タイトルが年度を通して好調でした。下期にリリースした 「星のドラゴンクエスト」、 「ファ イナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」 や 「グリムノーツ」 は、立ち上がりから非常に好調でした。 これら新タイトルの積み上げにより、 スマートデバイス向けゲーム売上高のデジタルエンタテインメント 事業全体に占める割合は、2015年3月期より拡大しております。国内スマートフォン向けゲーム市場 は、成長の鈍化と競争の激化が言われておりますが、常に新しいゲーム体験を提供することで、新たな タイトルが成果を得られるマーケットであることに変わりなく、新しいタイトルが売上ランキングの上位 に入ることも多々生じています。 デバイスが急速に進化し、 ユーザーの選択眼がますます厳しくなる中、 いかに新しいゲーム体験を提供するかが勝負の鍵となる、 ゲームコンテンツの真価が問われるマーケッ トになってきたと言えます。 当社としましても、 ビッグフランチャイズを活かしたものから全くの新規IPま で、様々なゲームスタイルのタイトルを投入することで、一層の成長を狙ってゆきます。 HD (High-Definition:ハイディフィニション) ゲームにつきましては、 2016年3月期は、 様々なタイト ルを提供いたしました。 「Rise of the Tomb Raider」 「JUST CAUSE 3」 、 「HITMAN」、 、 「ドラゴン キングダム ハーツ アンチェインド キー メビウス ファイナルファンタジー ©Disney Developed by SQUARE ENIX 星のドラゴンクエスト ©2015, 2016 ARMOR PROJECT/ BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved. ©2015, 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. 03 ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス ©2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Alim Co., Ltd. Illustration/ ©2014, 2015 YOSHITAKA AMANO 株主の皆様へ Rise of the Tomb Raider JUST CAUSE 3 ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ Tomb Raider ©2016 Square Enix Ltd. Just Cause 3 ©2015, 2016 Square Enix Ltd. All rights reserved. Developed by Avalanche Studios. Published by Square Enix Ltd. Just Cause 3 and the Just Cause 3 logo are trademarks of Square Enix Ltd. ©2016 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/ SQUARE ENIX All Rights Reserved. ©SUGIYAMA KOBO クエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ」、 「いけにえと雪のセツナ」 など、欧米スタジオのビッグタ イトルのシリーズ最新作や、 「ドラゴンクエスト」 シリーズの新しい遊びを提供するもの、 ターンベースの JRPG(Japanese Role Playing Game:日本スタイルのロールプレイングゲーム) を最新のテイスト で蘇らせた新規IPの開発など、 当社グループのゲームポートフォリオをより豊かにする作品を投入して まいりました。 HDゲームは、 当社グループのコンテンツポートフォリオの中核に位置するもので、 ここへの継続的な 投資が最新技術の獲得、 ブランド価値の増大等、様々な面で当社グループの企業価値向上につながる ものと考えております。 またHDゲームによりもたらされるIPアセットを多面的に活用することにより、 さ らなる収益機会を得ることができることからも、HDゲーム開発投資を継続的に行ってゆくことが重要 であると考える次第です。 MMO(Massively Multiplayer Online:多人数同時参加型オンラインゲーム) の分野におきまし ては、 引き続き 「ドラゴンクエストX」 と 「ファイナルファンタジーXIV」 が収益の安定化に寄与しておりま す。2016年3月期におきましては、両タイトルとも拡張ディスクの販売を行い、新たなコンテンツ投入を 行いました。MMOビジネスにおいては、 プレイヤーの維持が重要な収益指標となりますが、 この拡張 ディスク投入は、既存プレイヤーの維持のみならず、回帰プレイヤーや新規プレイヤーの獲得に大きく 貢献しました。2017年3月期は、 こういった拡張ディスクの販売を計画してはおりませんが、 引き続き お客様にご満足いただける運営に努めて、 プレイヤーの維持向上に努めてまいります。 アミューズメント事業 店舗運営においては、年度ベースで既存店前年同期比100%を上回り、好調を維持しました。 インバ ウンド需要は引き続き強く、特にアジアのお客様の来店が収益拡大に寄与しております。 また2015年 に導入した電子マネー決済サービスは、 お客様の利便性向上に大きく貢献し、導入店舗においては大 きな成果となっております。 また、 ゲーム機開発においても、 「ディシディア ファイナルファンタジー」 の 投入などで大きく話題をさらいました。 04 2017年3月期は、消費税増税は先送りが決定されましたが、英国のEU離脱問題により世界的な経 済状況が不透明さを増し、為替相場も従来の円安から一転、 円高基調になってきており、 インバウンド 需要も見通しが難しくなってきております。 このような中、 引き続き筋肉質な店舗運営に努めてお客様 にご満足をいただけるサービスを行うことにより、収益貢献してまいります。 ヴァーチャルな時代にこそリアル空間が意味を持ちます。従来の延長線上にない新しいリアル体験 を創出することにより、 「イマドキ」のアミューズメントを実現することが必要です。それにより当社グ ループのコンテンツポートフォリオがより一層豊かになる、 そのようなアミューズメント事業を目指して ゆきます。 ディシディア ファイナルファンタジー ©2015, 2016 KOEI TECMO GAMES/SQUARE ENIX CO., LTD.. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA 出版事業 2016年3月期は、前年同期比で減収減益となりました。2015年3月期はアニメ化作品が収益を大 きく牽引しましたが、2016年3月期は、 その反動減により減収減益となりました。 アニメ化によるコミッ ク拡販というメディアミックス戦略は有効であることから今後も継続してゆきますが、 アニメ化作品の 端境期にあたる2016年3月期と2017年3月期は 「仕込み」 の年であり、 それが結実するには、今なお 少し時間が必要です。 そのような中、 アニメ化作品によらない収益ベースを打ち立てて、一定以上の利 益水準を維持できたのは、大きな成果とみております。 良質な作品を発掘し、 それを大きく育てるという 基本的なサイクルを再度徹底し、2018年3月期以降の飛躍を目指してゆきます。 05 株主の皆様へ また、 出版事業は、新たなIPの畑です。常に新しい作品を発掘し、世に問うことのできる、有力なIPプ ラットフォームであります。 ここから生まれる新しいIPをどう展開してゆくかが戦略上非常に重要な論 点となります。漫画コンテンツのデジタル化はどんどん進展しておりますし、 またアニメ化作品は海外、 特にアジア諸国での人気が高く、 ライセンスの引き合いが多く来ております。2016年3月期は、 中国の 有力ゲームパブリッシャーであるNetEase社に対してライセンスを行い、 中国国内において当社グルー プの漫画コンテンツのデジタル配信を開始しました。 中国における漫画コンテンツの人気は高く、 その 中でも当社作品は高い評価をいただいております。配信を通じて認知を一層上げることにより、将来的 なゲーム展開等を通じて大きく収益化してゆきたいと考えております。 このように、 出版事業は従来のペーパーメディアにとどまらず、 デジタル化することにより国境を越え た大きなコンテンツビジネス展開が期待できる有望な事業です。 そのような視点でこの事業を評価し、 成長の重要なドライバーとなるように育ててゆきたいと考えております。 ライツ・プロパティ等事業 ライツ・プロパティ等事業は、2016年3月期においても安定的に推移しました。 ライツ・プロパティ等 事業は、 オリジナルプロダクトに対して補完的に機能し、 そのブランド価値をより一層高める意味で重 要な事業です。 もちろん、一部では他社版権のプロダクトも扱っておりますが、 それも、二次著作物を制 作する当社グループの能力を評価いただいてのものであり、 その制作能力の一層の向上にも大きく寄 与しております。2017年3月期以降もオリジナルコンテンツをより豊かにし、 お客様の様々なニーズに 応えられる商品ラインナップの充実に努めてまいります。 06 これからの事業 展開について 当社グループを取り巻く事業環境は日々大きく動いております。 しかしながら、私どもが追求すべきも のは、常に唯一「世界中のお客様への最高のコンテンツ体験の提供」 であります。 それこそがまさに当社 グループの社会における存在意義であり、企業価値そのものであります。不断に変化する事業環境の 中でそれを柔軟に実現してゆくことこそが、株主の皆様より私ども経営陣に対して負託された義務であ ります。 このような認識のもと、今後の事業展開のテーマとして、①スマートデバイス向け有料ゲーム提 供の強化、②VR(Virtual Reality:仮想現実)/AR(Augmented Reality:拡張現実) への取り組 み、③新興市場(特にインド、 中東、南米市場) への取り組みの本格化を掲げます。 1. スマートデバイス向け有料ゲーム提供の強化 現在のスマートデバイス向けゲーム市場では、国内外問わず、基本プレイ無料のいわゆるF2P(Free to Play)型が中心であり、有料の買い切りゲーム (プレミアムゲーム) はほぼゼロに等しい状況です。 し かしながら、 当社グループは、 従来より新作も含めたプレミアムゲームをスマートデバイス向けに継続的 に提供しており、 グループ全体で見ると相応のレベルの収益となっております。 F2P型のゲームは、大きなダウンロード数に支えられたアクティブプレイヤーの厚い層から得られる 課金収益により大変な成長を遂げてきました。 開発投資が従来の家庭用ゲーム開発よりも相対的に低 く、 かつ大きな収益を見込めるとの認識から、多くの事業者が参入してきたわけであります。 その結果、 市場全体としては大きく成長はしたものの、大変な過当競争となりました。 また一方で、 スマートデバイ スの性能は著しく向上し、 かつお客様のF2Pゲームに対する選別眼も厳しくなった結果、 かつてのよう な低開発投資で大きなリターンを得られるマーケットではなくなっております。 ところが、 これをプレミアムゲームの視点から見ると、別の景色が広がってきます。初期開発投資とい う点では、F2Pゲームおよびプレミアムゲームは、携帯ゲーム専用機向けの新作のゲーム開発投資とほ ぼ同じか、場合によってはそれよりも高くなっており、 すでにローリスクの投資ではありません。 さらに F2Pゲームの場合、運営開発投資が継続して発生するという点でプレミアムゲームよりもハイリスクと なっております。 F2Pゲームは、基本プレイが無料であることから爆発的なダウンロード数を獲得し、分厚いアクティ ブユーザーに支えられて大きな収益を獲得することができますが、 プレミアムゲームの場合は、初期開 発費償却後も長期間にわたってご購入いただけるという利点があります。 もちろん、頻繁に繰り返されるOSのアップデートへの対応やユーザーの皆様に知っていただくため の継続的なマーケティング投資は欠かせませんが、 ゲーム専用機が下位互換性の問題から、 かつてプ レイしたゲームを再度プレイすることが難しかったのに比して、 スマートデバイスにおいては、長期にわ たって遊びたいゲームがすぐ遊べるという環境が実現します。 また、携帯型ゲーム専用機という視点で見たとき、現在のスマートデバイスは以前に比べて格段にス ペックも操作性も向上しており、 それは今後もとどまることはないものと思われます。世界的にみても、 07 株主の皆様へ 携帯型ゲーム専用機に比べて、 スマートデバイスのインストールベースは圧倒的であります。 スマホネイ ティブの世代にとっては、 オールインワンのゲーム機として市民権を確立しているものと言えます。 よって、私どもゲームメーカーにとっては、従来の携帯型ゲーム専用機向けに開発していたゲームを 汎用型ゲームデバイスとしてのスマートデバイスにこれら専用機に加えて供給するというのは、重要な 出口の一つとなりえます。 ゲームデザインの面から見ても、 スマートデバイスの操作性は、 ターンベース型のRPGやシミュレー ション型のRPGなどと親和性が高いと考えております。 ターンベース型のRPGは一つのスタイル・様式 であり、決して古いものではないと考えております。 こういったRPGの開発は、従来より当社グループの 得意とする分野であります。 携帯型ゲーム専用機に加えて、 こうしたスマートデバイス向けにRPGの新作を投入することにより、 プレミアムゲーム市場を開拓して、F2Pゲームに並ぶ一つの柱としたいと考えております。 そうすること で、広い意味での携帯型ゲーム市場をより豊かにし、 お客様のニーズに広くお応えできるものにしてゆ きたいと考えております。 スクールガールストライカーズ 乖離性ミリオンアーサー ©2014-2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. ©2014-2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. 2. VR/AR 今年はVR元年と呼ばれて、VR機やその関連機器、VRコンテンツがいよいよ本格的に発売となりま した。 当社グループもこの分野には大変な関心を有しており、 すでに一部のプロジェクトにおいてVRコ ンテンツの開発を進めております。一方で、VRは体験しないとその面白さがわからないということから、 現在はメーカーやディベロッパーといったサプライサイドが主導する状況にあります。機器本体も含め て、現在のユーザーの初期投資負担は決して軽いものではないものの、 その体験はいまだかつてない 驚きをもたらすものでありますし、 またゲームにとどまらない様々な分野での応用可能性があることか ら、VRは大きなマーケットとなるであろうと考えております。 VR/ARを有効に活用することで、 当社グループのコンテンツ資産はより豊かになりますし、 またVR/ AR固有のコンテンツ開発も行ってゆく計画であります。 当社グループのコンテンツ提供は、家庭用ゲー ム機やスマートデバイスにとどまらず、 アミューズメントや出版物、 フィギュア等の有体物など多岐にわ 08 たっております。 こういったコンテンツ群に対してVR/ARという新しい技術を導入することで、 どう いった化学反応が生じるか、 クリエイターの力が大いに発揮されることを期待したいところであります。 またVR/ARと一口に言っても様々なものがあり得ますが、 当社としては、 やはり他社とは違う当社 グループらしさを活かしたコンテンツの提供を行うべきであると考えております。今後のHDゲーム機に おいては、 「VRモード」 が標準機能として要求されるでありましょう。HDゲームをVRコンテンツ化する ことにより、 より没入感のある新しいゲーム体験が得られます。 そしてその分野こそ当社グループの強み が一層活きる分野であると考えております。 またVR/ARに加えてAI(Artificial Intelligence:人工知能) の分野でも様々なイノベーションが起 こっております。先進的な研究成果をゲームAIに活かすとともに、 エンタテインメント分野で培ってきた ゲームAIがロボット開発等に応用されることも期待したいと考えております。 ロボットがB to BからB to Cに広がってくる暁には、 エンタテインメント性が必ず求められると考えております。 そういった分野 ではゲームAIの技術・知見が活きる可能性があります。 エンタテインメントの視点からロボットAI技術 に関わる可能性を模索してゆきたいと考えております。 3. 新興市場開拓 数年来、新興市場開拓を掲げてまいりましたが、残念ながら、 まだ十分な成果が出せておりません。 その間も新興市場は着実に成長しており、 当社グループの成長戦略においてこれらのマーケットの成 長を取り込むことが重要なテーマの一つであることは論を俟ちません。 中国は、 ゲーム、特にオンライン・モバイルの先進国であり、 日本、欧米と並ぶ主要なマーケットです。 デジタルエンタテインメント事業海外展開 今後、開拓を狙う新興市場 既に事業活動を行っている市場 09 株主の皆様へ コンテンツ事業の展開については現地企業とのパートナーシップを通じて行うのが有効であると考え ており、 今後も主要なプレイヤーとの協業により中国市場での展開を行ってまいります。 中東、南米(特にメキシコ、 ブラジル)は、消費市場として急成長しております。 こういった国々への ゲーム供給に当たっては、言語ローカライズは必須です。 これまでの当社グループの言語ローカライズ は、 いわゆるEFIGS(英語、 フランス語、 イタリア語、 ドイツ語、 スペイン語) を中心としておりましたが、 こ れからは人口の多い言語という点から、 中国語(簡体字)、 アラビア語、 ポルトガル語も必須であると考 えております。 当社グループの欧米スタジオは従前より多言語展開しておりますが、 日本スタジオのタイトル群につ いても、 こういった人口の多い言語のローカライズを常時行える体制を早急に整備すべきと考えて対応 している次第であります。世界戦略タイトルを言語ローカライズすることにより現地でのプレゼンスを あげてゆくことで、新興市場攻略の足掛かりにしたいと考えております。 以上、 2016年3月期の事業実績と2017年3月期以降の展望について述べてまいりました。2016年 3月期は、 売上高が初めて2,000億円を超え、 親会社株主に帰属する当期純利益も過去最高となりまし たが、 今後、 上述の施策を鋭意実施することにより、 さらなる売上・利益成長を目指してまいります。 また、株主の皆様への利益還元方針につきましては、連結配当性向30%を目途に、投資と分配のバ ランスを考慮しながら配当を中心に還元施策を実施してまいります。 VR/ARやAI等、新しい投資機会、事業機会が次々と現れております。 そういった機会を逃さず将来 の成長に資する投資をタイムリーに行うことが重要と考えている次第であります。 株主の皆様の変わらぬご支援をお願い申し上げます。 代表取締役社長 松田 洋祐 10
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