ナビ 派 - 三菱一号館美術館

は
じ
め
ま
し
て
、
ナ
ビ
派
で
す
。
主催:三菱一号館美術館、読売新聞社、オルセー美術館
Introduction
」と は
派
ビ
ナ
「
19世紀末パリ、ゴーガンの美学から影響を受け、自らを新たな美の「ナビ(ヘブライ語で
“預言者”の意味)」
と称した前衛的な若き芸術家グループ。平面性・装飾性を重視した画面
構成により、20世紀美術を予兆する革新的な芸術活動を行った。
開催趣旨
1880年代末のパリ、
様々な新しい芸術表現が勃興するなか、
画塾アカデミー・ジュリアンで出会った若き
画家たちを中心に集い、前衛的な芸術活動を行ったグループが「ナビ派」
です。
ボナール、
ヴュイヤール、
ドニ、
セリュジエ、
ヴァロットンらを中心とするナビ派の画家たちは、
ゴーガンから影響を受け、
自らを
「ナ
フラット
ビ
(預言者)」
と呼んで、新たな芸術表現を模索しました。近代都市生活の諸相を平坦な色の面で表す装
飾性と、
目に見えないものを描く内面性――日常と神秘をあわせ持つナビ派の芸術は、一見控えめで洗
練された画面のうちに、20世紀美術への橋渡しとなる静かな革新性を秘めているのです。本展は、近年
国際的に評価が高まるこのナビ派の芸術を本格的に紹介する日本で初めての展覧会となります。
本展では、
オルセー美術館が誇るナビ派のコレクションから、
油彩約60点、
素描約10点など合わせておよ
そ70点が一堂に会します。
ナビ派研究を牽引するオルセー美術館・オランジュリー美術館総裁ギ・コジュ
ヴァル氏総監修のもと、
6つのテーマに従って、
ナビ派芸術の全貌と魅力を新たな視点から展覧します。
展覧
の見ど
つ
3
の
会
ころ
① フ ラン ス 近 代 美 術 の 殿 堂
オ ル セ ー 美 術 館 が 誇 る 「 ナ ビ 派 」コレ クション を 一 堂 に 。
ナビ派のコレクションは、印象派・ポスト印象派の収集と並んでオルセー美術館を代表するものです。
世界的にも第一級のこのコレクションから、
ナビ派を代表する珠玉の作品や新規収蔵品を含め70点がまとめて出品
される貴重な機会です。
② 国 際 的 に 評 価 が 高 ま る「 ナ ビ 派 」芸 術 を
日 本で初 めて本 格 的に 紹 介 。
ナビ派の芸術は、西洋近代美術史の中で欠くことのできない重要な「ミッシング・リンク
(失われた環)」のひと
つとして、こんにち国際的に評価が高まっています。本展ではこの芸術活動の全体像を国内で初めて本格的に
紹介します。
③ 1 9 世 紀 末 の 美 の 預 言 者 「 ナビ 派 」
― 2 0 世 紀 美 術 を 予 兆 する 知 ら れ ざ る 革 新 性 に 注 目 。
自らを
「預言者」
と呼んだナビ派は、
ゴーガンの影響のもと印象主義を超越し、20世紀のフォーヴや抽象美術を予兆
するかのような新たな表現を追求しました。
洗練された装飾性と、
深い内面性――これまであまり知られてこなかった
ナビ派の特徴と魅力の全貌を余すことなく紹介します。
2
知られざ
の特徴
つ
4
」
派
る「 ナ ビ
象徴主義
ゴーガンの総合主義に影響を受けたナビ
派の画家たちは、内面性の表現を探求し、
抽象化された形態や非現実的な色彩表現
によって目に見えないものを描こうとした。
モーリス・ドニ《テラスの陽光》1890年
油彩/厚紙 23.5× 20.5cm
© Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais /
Patrice Schmidt / distributed by AMF
主
日常的な
題
「親密派(アンティミスト)」
と呼ばれたボナールや
ヴュイヤールをはじめ、
ナビ派の画家たちは室内
や公園、子どもなど身近なテーマを好んだ。
ピエール・ボナール《猫と女性》1912年
油彩/カンヴァス 78× 77.5cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
平 面 性と
装飾性
フラットな色の面による構成や奥行きの排除、意匠化
や曲線の多用などがナビ派の造形的特徴である。浮世
絵などの日本美術からも大きな影響を受けた。
ピエール・ボナール《黄昏
(クロッケーの試合)
》1892年
油彩/カンヴァス 130.5× 162.2cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
神秘的な
主題
ナビ派は日常的な場面を描く一方、
とくにランソン
やセリュジエらは、夢や眠り、宗教、魔術などの非現
実なテーマやモティーフを取り上げた。
ジョルジュ・ラコンブ《イシス》1895年
マホガニーに浅浮彫、一部多彩色 111.5× 62cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
Adrien Didierjean / distributed by AMF
3
Message
主 催 者 か ら の メッ セ ー ジ
2016年に開館30周年を迎えたオルセー美術館はこれまで、
そのコレクションを大幅に充実させると
ともに、大きな変容を遂げてきました。
ナビ派のスペシャリストであり、
ヴュイヤールのカタログ・レゾネ
の著者でもある私が館長となってから、当館の重点は、開館当初から人気を博していた印象派から、象
徴主義の作品へと移っています。
この学術的な方向転換により、新規購入のほか、2016年1月にはコ
レクターのゼイネブ&ジャン=ピエール・マルシー=リヴィエールからヴュイヤールの作品《八角形の
自画像》がオルセー美術館に寄贈されるなど、当館におけるナビ派コレクションが一気に充実してきて
います。
このようにして、
ドニ、
ヴァロットン、ボナール、
ランソン、セリュジエ、
ヴュイヤール、
リップル=
ローナイなどの主要作品が当館のコレクションに加わっていますが、
その多くは本展でも披露されます。
Guy Cogeval
ギ・コジュヴァル (本展総監修者)
オルセー美術館・オランジュリー美術館総裁。
レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ、
フランス芸術文化勲章コマンドゥールほか受章。
19世紀フランス美術、特にナビ派専門。
ヴュイヤールのレゾネ編纂のほか、
ヴュイヤー
ル展(2003-04年)、
ドニ展(2007年)、モネ展(2010-2011年)、
ドビュッシー展
(2012年)
、
ヴァロットン展
(2013-14年)
、
ボナール展
(2015-2016年)
など展覧会監
修や近代美術に関する著作多数。
2008年より館長として、
展示室の改修・コレクション
の増加・国際的連携の強化などオルセー美術館の改革に取り組む。
本邦初のナビ派展開催について
ボナールやヴュイヤール、
ドニやヴァロットン、
マイヨールなど、
「ナビ派」
の作家たちは、
パリの知的・文
化的な環境を享受しながら、
画家ゴーガンの造形性と観念性を巧みに融合した作品の影響下に、
画面の
平面性を強調しながら装飾性に富む絵画の創造を試みました。
「絵画が、軍馬や裸婦や何らかの逸話で
ある前に、
本質的に、
一定の秩序の下に集められた色彩で覆われた平坦な表面であることを思い起こす
べきだ」
という1890年にドニが残した言葉は有名です。
今回の
「オルセーのナビ派展」
は、
そうした19世紀末の一大美術運動であるナビ派を、
我が国で初めて
総合的に紹介する展覧会です。2010年の開館以来、三菱一号館美術館はその
展覧会プログラムと作品収集の両面において、
ナビ派とその時代の芸術に深く
関心を持ち続けてきました。それ故今回、印象派と並ぶ世界的収集であるオル
セー美術館・ナビ派コレクションの代表的作品が展示される本展を開催する
ことに、格別の喜びを感じております。線遠近法や明暗法による三次元空間の
再現を基礎にした重厚な西洋美術の伝統に決別し、優しく感覚的でありながら
思想性にも満たされ、具象性と抽象性を併せ持つ新たな美学の創造を目指し
たナビ派の作品を、
この機会に再発見していただければ、大変嬉しく存じます。
4
三菱一号館美術館 館長
高橋 明也 (本展監修者)
Message
本 展 企 画 監 修 者 が 紐 解 くナ ビ 派
Q -ナビ派が現在、世界的な脚光を浴びている理由は何だとお考えですか。
A
1980年代以来の数多くの展覧会や出版物等によって、印象派に対する一般の人々の親しみが深まり、人々は
印象派以外の19世紀末のフランス美術の活動にも知識を広げようとしています。
オルセー美術館は1993年
から1994年にかけて大規模なナビ派展を開催しました。
また近年、その豊富なコレクションを活用し、
ナビ派
画家の回顧展の開催によりナビ派の国際的な知名度の向上に重要な役割を果たしてきました。
大半の美術愛好家は、各画家の名前は知っていても、
ナビ派が発展を遂げた1890年代の活動全体や美学を
よく理解している人々はほとんどいません。パリは芸術の中心地でしたので、
ナビ派はその結成当時から、豊か
な国際色を帯びていました。
スイス人のヴァロットンや、ハンガリー人のリップル=ローナイが、
フランス人中心
のこの運動に個性をもたらしたことも、
このような背景から説明できます。
ナビ派は独特の世界観を表現しました。
それは色彩豊かで装飾性に富む一方で、
アンティミスム
(親密主義)
の要素も兼ね備えており、
現代の感性にも多く通じるところがあります。
彼らの絵の魅力は、
そのスタイルとわか
りやすい画題、鋭敏な分析、時折見せるユーモア、そして美的な急進性にあります。
こうした特質はいずれも、文
化の壁を越えて全世界の美術愛好家に高く評価されています。
ナビ派の絵画の魅力は、近代生活から取られた
画題にもあります。
アール・ヌーヴォーを生み出したことで知られる世紀末のパリは今でも、一般大衆を魅了
してやまないのです。
Q -美術史におけるナビ派の重要性とは何ですか。
A
ナビ派の芸術運動は、
19世紀末の美的革新のコンテクストから捉えることができます。
すなわち、
現実を表現する
自然主義や印象主義の到来の後、
ゴーガンの象徴主義と色彩による革命が交差する地点に位置しているのです。
ヘブライ語で預言者を意味する語Neviimから派生した
「ナビ」
という言葉は、
画家たちが自らを新たな芸術の預
言者として位置づけるために選んだものです。
1890年から1900年にかけて開花したナビ派の芸術活動の主な
推進者としては、
ボナール、
ヴュイヤール、
ドニ、
ランソン、
セリュジエ、
ルーセル、
ヴァロットン、
リップル=ローナイ、
ラコンブ、
マイヨールなどが挙げられます。
ナビ派の活動は共通点を持ちながら相反する2つの傾向から成っています。
一方は内面の表現や日常生活に
対する優しさあるいは皮肉のこもった眼差しを中心に据えているのに対し、もう一方は「第4次元」、
すなわち
精神性や夢、
ポエジーの領域に主な関心を置いています。
印象派のムーブメントが多くのスキャンダルを引き起こしたのとは対照的に、19世紀末のナビ派による革命
は、
まるでさざ波のように、
パリの芸術界に静かに広がっていったのです。
5
Message
Q -日本初の本格的ナビ派展の魅力について、日本の皆様にメッセージをお願いします。
A
ナビ派と日本との間には、強い結びつきがあります。ナビ派の画家たちは日本美術、特に1890年にパリの
エコール・デ・ボザール(国立美術学校)
で開催された展覧会で見た浮世絵版画に、
大きな影響を受けました。
彼らは浮世絵から着想を得て、輪郭線と色の面による描写や奥行きの無い表現など、総合的かつ非描写的な
新たな様式を編み出しました。ナビ派の作品は形態の簡素化や鮮やかな色彩、子どもの世界に対する関心
など、
まさに現代の「かわいい」
という概念にも一致します。
順を追って6つの章をご覧になれば、ナビ派の画家による創作の代表的なテーマが把握できるように
なっています。本展では、ゴーガンの《「黄色いキリスト」のある自画像》や、ナビ派の結成の契機となった
セリュジエの《タリスマン(護符)》、
ヴュイヤールの見事な装飾画連作《公園》、
また、本来屏風として作られ
たボナールの《庭の女性たち》や2016年新規収蔵のヴュイヤールの《八角形の自画像》など、オルセー
美術館が所蔵するナビ派コレクションの傑作が数多く展示されます。
まさに理想的なナビ派展に相応しい作
品のみを厳選し、展覧します。
Isabelle Cahn(本展監修者)
イザベル・カーン
オルセー美術館絵画部門主任学芸員。
フランス芸術文化勲章シュヴァリエ受章。
19世紀後半フランス美術、
特にポスト印象派絵画専門。
オルセー美術館ではナビ派や新印象派、
ファン=ゴッホのコレクションを担当。
ヴァロットン展(2013-14年)、ボナール展(2015年)ほか多数の展覧会監修を務め、
マネ、
モネ、
ゴーガン、
セザンヌなどフランス近代美術に関する著作も多数。
6
La révolution de Gauguin
第一章 ゴーガンの革命
ゴーガンの芸術は、
ナビ派をはじめとする1880年代末の新たな芸術運動に対して大きな役割を果たしました。本章
では、
ナビ派が影響を受けたゴーガンやベルナールらの作例を紹介します。
ポン=タヴェンでセリュジエがゴーガンの
教えに従って描いた
《タリスマン
(護符)
》
は、
風景が大胆に単純化され、
まるで抽象絵画のようです。
この実験的な作品はパリに持ち帰られ、
アカデミー・ジュリアンの学生であったボナール、
ドニ、
ランソンらがナビ派を
結成する引き金となりました。
ポール・ゴーガン
《「黄色いキリスト」のある自画像》
1890-1891年 油彩/カンヴァス
38×46cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF
ポール・セリュジェ
《タリスマン
(護符)、愛の森を流れるアヴェン川》
1888年 油彩/板
27×21.5cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
7
Femmes au jardin
第二章 庭の女性たち
ドニやボナールは、
「庭の女性」
という主題の作品を数多く手掛けました。
色彩の斑点によってアラベスク装飾のように
表された女性像は、
四季や人生における段階を象徴しています。
ボナールの連作
《庭の女性たち》
では、
引き伸ばされ
た細長い人物像の衣装が、
それらを取り囲む植物文様の装飾と見事に調和しています。
もともと屏風として制作され
た本作は、
ナビ派の新たな美学が、
何よりも装飾的な芸術に立脚していることがよくわかる作例です。
ピエール・ボナール
(左から)
①《庭の女性たち 白い水玉模様の服を着た女性》
160.3×48cm
②《庭の女性たち 猫と座る女性》
160.2×47.8cm
③《庭の女性たち ショルダー・ケープを着た女性》
160.5×48cm
④《庭の女性たち 格子柄の服を着た女性》
160.5×48cm
①-④ 1890-91年 デトランプ/カンヴァスに
貼り付けた紙、装飾パネル
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
①
②
③
アリスティード・マイヨール
《女性の横顔》
1896年頃
油彩/カンヴァス
73.5×103cm
© Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais /
8
Patrice Schmidt / distributed by AMF
④
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
Poétique de l’
intime
第三章 親密さの詩情
ナビ派の絵画の魅力は、その作品に深く入り込
んでいくような親 密 性です。
「 親 密 派(アンティ
ミスト)」とも呼ば れ たボナール 、ヴュイヤール
らは 、身 近 な 人 々をモデ ルとし、慣 れ 親しんだ
空間から着想を得て室内画を描きました。こう
した日常生活の場面はドラマチックに脚色され、
奇抜なトリミングや逆光による効果が 、示唆に
富んだ詩情を生み出しています。
また、
ヴァロットンが描く室内情景は、静けさの中
に秘密や苦悩、駆け引きや緊迫したドラマが満ち
ており、
奇妙な感覚や不安を呼び起こします。
フェリックス・ヴァロットン
《化粧台の前のミシア》
1898年 デトランプ/厚紙
35.9× 29cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
ピエール・ボナール
《ベッドでまどろむ女(ものうげな女)》
1899年
油彩/カンヴァス
96.4×105.2cm
© Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais /
Patrice Schmidt / distributed by AMF
9
Monologues intérieurs
第四章 心のうちの言葉
肖像画や自画像は、
ナビ派の芸術家同士の密接な交流や
友情を物語っています。
これらの肖像画は、
モデルの内面
が露わになるような視線や態度の描写によって見る者と
モノローグ
の間に直接的な関係を作り出し、夢や独白にふける人物
たちに共感を覚えずにはいられません。2015年、オル
セー美術館に新規収蔵されたヴュイヤール作《八角形の
自画像》
は、
まさに画家の革新的な美学を象徴する作品で
す。
黄色い髪、
オレンジ色の髭、
青い上着が織りなす鮮烈な
色彩はフォーヴィスムを思わせるほどで、芸術の新たな時
代を予告する前衛性に驚かされます。
エドゥアール・ヴュイヤール《八角形の自画像》
1890年頃 油彩/厚紙 35.9×28.1cm
ピエール・ボナール
© Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais /
《格子柄のブラウス》
Patrice Schmidt / distributed by AMF
1892年
油彩/カンヴァス
61×33cm
© RMN-Grand Palais
(musée d'Orsay) /
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
ヨージェフ・リップル=ローナイ
《花を持つ女性》
1891年
パステル/ベージュ紙、
木枠に張ったカンヴァス
46×38cm
© RMN-Grand Palais
(musée d'Orsay) /
Hervé Lewandowski /
10
distributed by AMF
フェリックス・ヴァロットン
《ボール》
Enfances
ピエール・ボナール《ランプの下の昼食》1898年
1899年 油彩/板に貼り付けた厚紙 49.2×62cm
油彩/板 23.3×31.8cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
Adrien Didierjean / distributed by AMF
第五章 子ども時代
日常生活の注意深い観察者であったナビ派の画家たちは、子ども時代をテーマにした重要な作品を多く残していま
す。
ドニは自身の子どもたちの誕生や家族の肖像を描き出し、ボナールは「小さな大人」のように振る舞う子どもの
姿やその気高さをユーモラスに活写します。
ヴュイヤールの連作《公園》
は、前衛文芸雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』発
行人のアレクサンドル・ナタンソン邸のために制作され、パノラマ的な視点で子どもたちの世界を表現した傑作です。
ナビ派の画家たちは、無垢で可愛い子どもの姿だけでなく、幼少期特有の危うさや不安といった暗い側面も探求
しました。
エドゥアール・ヴュイヤール
《公園 子守》1894年 デトランプ/カンヴァス 213.8×73cm
(左から)
《公園 会話》1894年 デトランプ/カンヴァス 213.5×156cm
《公園 戯れる少女たち》1894年 油彩/カンヴァス 214.5×88cm
《公園 赤い日傘》1894年 デトランプ/カンヴァス 214×81cm
《公園 質問》1894年 油彩/カンヴァス 214.5×92cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
11
Mondes parallèles
第六章 裏側の世界
精神性、秘教主義、宗教、そして夢や非現実――印象派絵画が失った「目に見えない世界」
を描くことも、
ナビ派の
大きな関心事でした。
ドニは、妻マルトをモデルにした《ミューズたち》などの制作にあたり、自身のカトリック信仰
や古典的教養に基づいています。セリュジエやランソンらの象徴主義的絵画が想起させるのは、魔術や禍といった、
より一層怪奇的な側面です。ナビ派の画家たちは、
ランソンのアトリエに集って聖書や秘教的書物の読解を繰り
返し、創作のインスピレーション源としたのです。
モーリス・ドニ《ミューズたち》1893年 油彩/カンヴァス
エドゥアール・ヴュイヤール《ベッドにて》1891年 油彩/カンヴァス 74×92cm
171×137.5cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
© Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais /
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
Patrice Schmidt / distributed by AMF
ポール・ランソン
《水浴》
1906年頃
油彩/カンヴァス
85.5×120cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) /
12
Hervé Lewandowski / distributed by AMF
chronology
西暦
ナビ派関連事項
1886
ゴーガン、
第8回印象派展に出品。
1887
ベルナール、
アンクタンとともにクロワゾニスムの手法開始。
1888
モレアス
「象徴主義宣言」
発表。
ゴーガンとベルナール、
ポン=タヴェンで綜合主義を確立。
セリュジエ、
ゴーガンの指導により
《護符(タリスマン)
》
を制作、
アカデミー・ジュリアンの仲間たちとともにナビ派を結成。
1889
ゴーガン、
「印象主義と総合主義の画家たち展」
を
カフェ・ヴォルピーニにて開催。
文化・政治
『パリ・イリュストレ』
誌、林忠正による日本特集号。
フランス領インドシナ連邦成立。
ビング
『芸術の日本』
。
ゴッホとゴーガンがアルルで共同生活。
エッフェル塔完成。
フランス革命100年記念、パリ万国博覧会開催。
モンマルトルに
「ムーラン・ルージュ」
開店。
パリで、
第二インターナショナル結成。
1890
ドニ、
「新伝統主義の定義」発表。
エコール・デ・ボザールにて、
「日本の木版画展」開催。ゴッホ没。
ゴーガン、
《「黄色いキリスト」
のある自画像》
を描いた後、
タヒチ滞在
(-93年)
。
サン=ジェルマン=アン=レーでナビ派による第1回展覧会開催。
1891
ル・バルク・ド・ブットヴィル画廊にて
「第1回印象主義と象徴主義の画家た
ち展」開催。
ヴァロットン、最初の木版画試作。
『ラ・ルヴュ・ブランシュ』
誌創刊。
モネ
《積みわら》
連作発表。
スーラ没。
露仏同盟成立。
オーリエ
「絵画における象徴主義」発表。
1892
1893
第1回薔薇十字会展開催。
サン=ジェルマン=アン=レーにてナビ派による第2回展覧会開催。
チャイコフスキー
『くるみ割り人形』。
ミュンヘン分離派結成。
露仏軍事協約締結。
ブリュッセルの
「20人会」
解散、
「自由美学」
として再出発。
ムンク
《叫び》。
ゴーガン、
タヒチより帰国。
デュラン=リュエル画廊で展覧会。
リュニエ・ポー、
制作座を創設。
『レスタンプ・オリジナル』の刊行開始。
ヴォラール画廊開廊。
シカゴ万国博覧会開催。
フランス、
ラオスを保護領とする。
デュラン=リュエル画廊でルドンの大展覧会開催。
カイユボット没。彼の印象派コレクションがルーヴル美術館
1894
この頃、
ランソンのアトリエにて、
ナビ派の定例会が火曜と土曜に開催。
に遺贈。
ラ・デペッシュ・ド・トゥールーズ社の事務所内にてナビ派の展覧会開催。
ドビュッシー
『牧神の午後への前奏曲』。
露仏同盟成立。
ドレフュス事件。
ヴォラール画廊でセザンヌの大展覧会開催。
1895
ビングの店
「アール・ヌーヴォー」
開設。
第1回ヴェネツィア・ビエンナーレ開催。
フランス、
ロシア、
ドイツが日本に遼東半島返還を要求
(三国干渉)
。
1896
デュラン=リュエル画廊でボナールの個展開催。
ミュンヘンで
『ユーゲント』誌創刊。
メルリオ
『絵画における理想主義の運動』。
アテネにて第1回国際オリンピック開催。
1897
「アール・ヌーヴォー」画廊でリップル=ローナイの個展開催。
1898
『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌事務所でヴァロットンによる木版連作
1899
1900
「アンティミテ」
展示。
デュラン=リュエル画廊でナビ派のグループ展開催。
ヴォラールがドニ、
ボナール、
ヴュイヤールの版画集出版。
ベルネーム・ジュヌ画廊でナビ派の展覧会開催。
この頃、
アール・ヌーヴォー様式がパリで大流行する。
ウィーン分離派設立。
ゾラ、
ドレフュス事件に対して
「私は弾劾する」
を発表。
ベルリン分離派結成。
ハーグにて第1回国際平和会議開催。
フランス、広州湾を租借。
パリ万国博覧会「フランス美術100年展」
開催。
フロイト
『夢診断』
パリにて第2回国際オリンピック大会開催。
13
ARTISTS
わる
つ
ま
に
ナビ 派
作家
13人の
anson
Paul R
ポール・ランソン
1861年、
リモージュ ― 1909年、パリ
ナビ派結成時のメンバー。象徴性に富む絵画を制作する一方、
ステンド
グラスやタピスリー下絵など装飾芸術にも携わる。
しなやかな曲線表現
には浮世絵やアール・ヌーヴォーとの密接な関係が見られる。1908年に
はアカデミー・ランソンを設立。
エミール・ベルナール
Bernar
Emile
d
ヨージェフ・リップル=ローナイ
ippleJózef R
Rónai
1868年、
リール−1941年、
パリ
1861年、
カポシュヴァール ― 1927年、
カポシュヴァール
ブルターニュ地方へ旅行し、色面を単純化し明確な輪郭線で縁取る
「ク
ハンガリー生まれ。
アカデミー・ジュリアンでヴュイヤールやマイヨールら
ロワゾニスム」
を追求。その後ポン=タヴェンでゴーガンとともに総合主
と知り合い、後にナビ派の一員となる。太い輪郭線と色の面によるリトグ
義を生む。
後に伝統的な宗教美術へ回帰。
批評家としても活躍した。
ラフなどで知られる。1902年にハンガリーに帰国し、家族のいる室内画
やパステルの肖像画を制作。
ピエール・ボナール
Bonna
Pierre
rd
ケル=グザヴィエ・ルーセル
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ier Rou
1867年、フォントネー=オー=ローズ― 1947年、
ル・カンネ
1867年、
ロリ=レ=メッス ― 1944年、
レタン=ラ=ヴィル
ナビ派結成時のメンバー。
日本美術の影響による平面的で装飾的な作品
ナビ派結成時のメンバー。
はじめナビ派の仲間の影響を受け身近な題材
を描き
「日本かぶれのナビ」
と称される。1900年頃から南仏で明るい色
を描くが、療養のためパリ郊外へ移住後は、牧歌的な神話的主題を描く。
彩表現を確立していく。
ヴュイヤールとともに「アンティミスト」の代表画
1906年ドニとのセザンヌ訪問を機に、静穏さに満ちた優美な詩的表現
家とされる。
を追求する。
壁面装飾も多く手掛けた。
モーリス・ドニ
Mauric
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マルグリット・セリュジエ
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Margue
1879年、
ロン=ル=ソニエ ― 1950年、
シャトーヌフ=デュ=フー
ナビ派結成時のメンバーで理論的リーダー。1890年、
ナビ派の宣言とも
アカデミー・ランソンでポール・セリュジエにナビ派の理論や様式を学
いえる絵画理論を提示。宗教的主題の作品により
「美しきイコンのナビ」
ぶ。1912年にはその妻となり制作活動を展開。絵画のほか、刺繍、服飾
と呼ばれる。
イタリア旅行を経て古典的様式へと移行した。家族をモデル
デザイン、舞台美術、装飾壁画も手掛けた。夫の作品の評価向上のため
にした作品も多い。
にも尽力した。
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Paul G
in
1848年、
パリ ― 1903年、
アトゥオナ
(ヒヴァ=オア島、
マルキーズ諸島)
1888年にポン=タヴェンでベルナールと生み出した総合主義はナビ派
er
1864年、
パリ ― 1927年、
モルレー
1888年のポン=タヴェン滞在時にゴーガンから助言を受け制作した《護
符(タリスマン)》
がアカデミー・ジュリアンの友人たちに衝撃を与え、
ナビ
にも多大な影響を与えた。
一時、
南仏アルルでゴッホと共同生活した。
派結成の端緒となった。1900年以降、作品の中心的主題はブルター
晩年はタヒチに滞在し制作した。
ジョルジュ・ラコンブ
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Paul S
ポール・セリュジエ
ニュの情景から宗教的・神秘的主題へと変化した。
George
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フェリックス・ヴァロットン
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Félix V
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1868年、
ヴェルサイユ ― 1916年、
サン=ニコラ=デ=ボワ
1865年、
ローザンヌ ― 1925年、
ヌイイ=シュル=セーヌ
アカデミー・ジュリアンでセリュジエと知り合い、
ナビ派に参加。
「彫刻家
スイス出身。1892年にナビ派の一員となり
「異邦人のナビ」
と呼ばれる。
のナビ」
と呼ばれる。
ゴーガンの作品を熱心に研究すると同時に浮世絵
19世紀末の木版画復興に大きく寄与した。油彩による室内画や裸婦像
からも影響を受け、装飾的で色面を大胆に用いた絵画も描く。1905年
には強烈な色彩や独特の視点が用いられ、画家の鋭く冷淡な眼差しが
頃からは新印象主義に傾倒した。
表れている。
アリスティード・マイヨール
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1870年、
グランヴィル ― 1943年、
パリ
ポール・ゴーガン
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Aristid
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エドゥアール・ヴュイヤール
Edouar
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1861年、
バニュルス=シュル=メール ― 1944年、
バニュルス=シュル=メール
1868年、
キュイゾー ― 1940年、
ラ・ボール
1895年からリップル=ローナイを通じてナビ派の画家たちと交流し、
ナビ派結成時のメンバー。
日常生活や室内、親しい人物を装飾的な画風
装飾的な絵画やタピスリーを制作。眼病を機に本格的に彫刻に専念。
で描き、ボナールとともに「アンティミスト」の代表画家とされる。1900
1905年の《地中海》
をはじめ、普遍的な美の象徴として裸婦彫像を多数
年以降は劇場の舞台装置やシャイヨー宮等の大規模な装飾事業、著名
制作した。
人の肖像画制作等に携わった。
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Information
オルセーのナビ派展:美の預言者たち ―ささやきとざわめき
会期:2017年2月4日
(土)
∼5月21日
(日)
開館時間:10:00∼18:00
(祝日を除く金曜、
第2水曜、
会期最終週平日は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜休館
(但し、
3月20日、
5月1日、
15日は開館)
主催:三菱一号館美術館、
読売新聞社、
オルセー美術館
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
お問い合わせ:03-5777-8600
(ハローダイヤル)
展覧会サイト:http://mimt.jp/nabis
美術館サイト:http://mimt.jp
入館料: 当日券 一般 1,700円/ 高校生・大学生 1,000円/ 小・中学生 500円
前売券 一般 1,500円
※大学生以下、
ペア
(一般)
は前売券の設定はありません ※ペア券はチケットぴあでのみ販売致します。
[前売券]
以下の期間、
以下の場所にて発売いたします。
2016年10月19日(水)∼2017年2月3日(金)/
ローソンチケット、
チケットぴあ、
セブンチケット、
イープラス、
チケットポート関東各店
三菱一号館美術館チケット購入サイトWEBKET
2016年10月19日(水)∼2017年1月9日
(月・祝)/Store1894
(三菱一号館美術館内・休業日は美術館に準ずる)
*チケットポート、
Store1894では絵柄入りのチケットを販売しています。
詳細は展覧会サイトへ。
(表紙)
ピエール・ボナール
《 格子柄のブラウス》
(部分)1892年 油彩/カンヴァス 61×33cm
© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distrbiuted by AMF
本展はパリのオルセー美術館の学術協力のもとに企画され、
数多くの名画が特別に出品されます。
Exposition organisée et réalisée avec la collaboration scientifique et les prêts
exceptionnels du Musée d'Orsay, Paris
[交通案内] 三菱一号館美術館
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〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2
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幸
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り
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