「グローバル化に伴う経営、事業形態の変化と生産性三原則」

 巻 頭 言
グローバル化に伴う
経営、事業形態の変化と
生産性三原則
生産性の向上は、究極において雇用を増
大するものであるが、過渡的な過剰人員に
対しては、国民経済的観点に立って能う限
とする。
②労使の協力と協議
生産性向上のための具体的な方法につい
ては、各企業の実情に即し、労使が協力して
これを研究し、協議するものとする。
③成果の公正分配
生産性向上の諸成果は、経営者、労働者お
よび消費者に、国民経済の実情に応じて公
正に分配されるものとする。
全国労組生産性会議では、
「発展のための原点
三原則制定時から大きく社会は変化し、改めて生
産性運動の推進の必要性が問われている。以下、
グローバル化に伴う経営、事業形態の変化と生産
性三原則について所見を述べたい。
1、グローバル化の変化
1980 年代以降、
「グローバル化」によって、急激
に日本社会の産業構造が変化してきた。一口に
「グ
ローバル化」といっても、いくつかの形態や発展
段階があり変化している。それぞれの段階で課題
を抱え、その克服をしながら進展してきている。
ア 海外進出の一般化。 1980 年代の海外進出は
大企業の経営戦略だったが、円高など様々な要
因で中小企業にも広がって、海外進出は企業戦
略として一般化している。こうした状況を受け
て、国内産業の空洞化が深刻な状況を迎えよう
としている。
2
が対話を続けていくとの不断の努力が必要であ
国に進出していることから、現地の貧困に根ざし
る。
さらに複合的課題として、全世界的にサプライ
日本郵政グループ労働組合
中央副執行委員長
増田 光儀
イ 海外進出先の変化。 日本企業の進出先とい
えば、欧米マーケットに売り込むために欧米先
進国だったが、現在は安価な労働力が確保でき
る中国や東南アジアなどの新興国となってい
る。欧米系企業だけでなく現地企業も加わり、
過激な競争となっている。
ウ 雇用・人事面にも変化。 当初日本人派遣者か
らスタートしたが、現地での積極的な従業員・
幹部候補の採用が行われている。年俸制や単年
度契約などを適用し雇用の流動化と専門性を
エ 企業の再編。 海外進出に伴って、現地法人と
の企業合併、M&Aなどにより、企業再編が進
み、企業形態が大きく変化している。企業のグ
ループ化が進み、幅広い業種を持つ企業グルー
プを構成している。
2、グローバルリスク
今日的にグローバル化による労使の課題を大き
く整理すると、
「グローバルリスク」と言われるも
のは6つに大別できる。①製品の安全性。中国の
労使双方が生産性運動の原点(生産性三原則)
に立ち返り、中長期的視点のもと、現状を検証し
課題について的確に対応する必要がある。
チェーンが合体し複雑化したことで、一度どこか
生産性とは、不断の改革による進歩への人間の
で問題が起きれば、一企業にとどまらず、全世界
信念である。生産性運動は付加価値の創出ととも
的に大きく影響する。東日本大震災、タイの洪水
に「労働の尊厳」
(働きがい・生きがい、
雇用の安定、
による部品調達が混乱をきたしたことも指摘され
合理的な労働条件等)を守ることにつながる。こ
た。
のことを労使および政府は改めて確認しなければ
3、多国籍企業の社会的責任と国際ルール
進出先での文化、生活習慣の認識、児童労働や
高めた人事管理方法へと刷新している。
回帰の生産性運動」をテーマに議論がされている。
問題。多くの企業が安価な労働力を求めて、新興
発生している。
り配置転換その他により、失業を防止する
よう官民協力して適切な措置を講ずるもの
しても建設的な労使関係作りが必要であり、労使
た、賃金問題、男女格差、児童労働などの問題が
(1955 年に制定)
「生産性運動三原則」
①雇用の維持・拡大
ュリティ。④公正取引。⑤労働安全衛生。⑥人権
強制労働などの人権問題を抱えることなどの不安
から、国連、ILO、OECD などが、企業行動を規
制する国際ルールをまとめている。
①国連 「保護・尊重・救済」企業と人権の枠組み
(ラギー・フレームワーク)
ならない。
国際ルールもこの視点から作られているものと
いえる。
5、まとめ
さらに、労働組合のグローバル化として特に 3
つの視点が大切だといえる。
その第1は、現地における労働組合組織の確立
②国連 企業が人権、労働基準、環境に関する普
である。個別の労働条件、最低賃金、雇用問題、社
遍的な原則を実践することを求めている(グロ
会保障問題、安全衛生、差別、男女平等などにつ
ーバル・コンパクト)
いて、労使間の日常交渉・協議が行われることが
③ ILO 多国籍企業および社会政策に関する原則
の三者宣言
④ OECD 多国籍企業行動指針。雇用・労使関係
や環境等についての責任ある企業行動。
⑤ ISO26000 社会的責任に関する手引き。
JIS も同様な手引きを出している。
⑥「グローバル枠組み協定」
UNI など国際労働組合組織が、多国籍企業
労使の間で「中核的労働基準の遵守」
「労働基
本権の尊重」を柱とする協定の締結を進めてい
る。日本では、
高島屋とミズノが締結している。
4、生産性三原則の再認識
餃子農薬混入事件、粉ミルク事件など、こうした
グローバル化が進展する時代において、産業・
問題が起きれば、たちまち企業閉鎖に追い込まれ
企業の底力を高め、健全な企業活動を再構築する
る。②環境問題。中国の大気汚染、東南アジアの
には、公正と効率を重んじる真の生産性運動の推
水質汚染の問題などがある。現地の法律・基準に
進が必須である。
大切であり、健全な建設的な労使関係作りに現地
への指導を親会社である企業労使が行うことが必
要といえる。
第2は、建設的労使関係と生産性に関する取り
組みである。企業業績について共通な関心を持つ
ことで、生産性運動は欠かせない。持続する企業
経営は、労働条件の向上と雇用確保には欠かせな
いものである。建設的な労使関係づくりと生産性
運動の定着は欠かすことのできない視点だ。
第3の視点は、国際労働運動の役割の重要性で
ある。個別紛争はその現地エリアの環境に大きく
影響される。地域対話を重ねて、雇用、経済危機、
環境などマクロ的な共通認識での取り組みが必要
である。連合、APRO、国際産業別組織などの働
きかけが必要である。
日本郵政グループでも、JP サンキュウグロー
バルロジスティック㈱が存在する。また昨年9月、
適合しても、日本の基準に満たないものが許容さ
それには、相互信頼に基づいた緊張感のある健
れていいのだろうか。企業モラルが強く求められ
全な労使関係のもと、すべての働く者が参加でき
設立され、海外物流部門に新天地を求めている。
る。また、タイの大洪水の問題など、地球規模の
る運動展開が欠かせない。敵対する労使関係の中
前述したような基本的認識に沿った課題に対し
自然災害や社会問題化している課題に企業がどう
にあっては、労働組合や働く者が生産性向上に協
て、JP 労組もグローバル化した企業の労使とと
向き合えばいいのかも問われている。③情報セキ
力することは、当たり前のことではない。なんと
もに対応が求められる。
中国上海市に「郵便(中国)国際物流有限公司」が
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