第38回 京都支部読書会報告

第38回
京都支部読書会報告
芳川
敏博(京都府城陽市)
内容:『試合』現代教養文庫、ジャク・ロンドン著 辻井栄滋訳の感想等の交流
日時:2007/05/12(土)13:00∼17:00
場所:立命館大学びわこ草津キャンパス(BKC)出席者:17名(レポート3名:渡辺
さん、山田さん、星野さんを含む)
前回に引き続き、短篇集『試合』を通読し、気に入った作品をひとつ取りあげ、自由に
感想や意見を交換し合った。
Ⅰ
連絡事項・報告
辻井先生から以下のようなお話しや連絡があった。
・ 次回の京都支部読書会は8月25日(土)に開催される。
・ The First And Last Chance Saloon の現オーナーである、キャロル・ブルックマ
ンさんを、5月3日、京都支部読書会の有志が奈良公園等を案内した。
・ 『語学と文学の間』大野晋著の紹介。文学は自分の視点から根底の問題を一般化し
ており、語学も同様である。
・ 「試合」(1905)の初版本紹介。数枚のカラー写真も含んでいる。各章の始め
に、骸骨の写真があり、死を象徴しているのではないか。
Ⅱ
感想・意見交流(敬称略、発表内容やコメントは要点のみ掲載)
出席者のエッセイを中心にまず最初に本人からの話し、そして、辻井先生を初め他の
出席者からコメントをして頂いた。
[中西]・・「ひと切れのビフテキ」を取り上げる。この作品を読んで、天命輪生を感じる。
老ボクサーのキングは、貧困のために実力や体力が低下しているが、生活のた
めに経験など持てる力を最大限に生かして頑張った。
(コメント)・自分に引き寄せて書くと一番よい。
・「生の掟」を思い出す。
[石井]・・「試合」が好きである。特に、若い二人の物語に興味がある。皆さんとお会いし
て、意見交流できるのを楽しみにしている。
(コメント)・皆さんは何かを持っているので、それを意見交流するのが読書会の意義
である。
・老化の心理状態は、「戸惑い」「混乱」「あきらめ」「受け入れ」という
段階を経て、変化するのだと思う。
[宮本]・・
「奈落の獣」について考えたい。タイトルとヤング・パッドの落差に興味を持ち、
取り上げた。この作品のテーマは、
「父が子供に期待すること」、「ボクシングの
不正」、「モードの女性として新しい生き方」であると思う。
(コメント)・もう少し焦点を絞って書くとよい。
[元山]・・「ひと切れのビフテキ」を取り上げたい。自分の人生から、次のような視点も含
めて考えたい。「落ち込んだ時には、行動する。
」「体力を節約する。」「ささ
やかなことの蓄積が大切である。」「自分の経験や知恵を生かしたい。」
(コメント)・・『試合』の中の4つの作品は、ロンドンが28歳から34歳までの一
番充実している頃に書かれたもので、読みごたえがある。
[芳川]・・「ひと切れのビフテキ」を取り上げる。この作品は、ロンドンが病気になった1
908年の翌年に書かれており、ロンドンが楽観主義から悲観主義に大きく転
換する転機になり、そのことがこの作品によく表れている。タイトルからすれ
ば、貧困がキングの敗因であるように思えるが、老化が真の要因である。老ボ
クサーキングがなぜ若いボクサーに負けたのか、そしてそこから何を学んだの
かの深層を考えたい。老ボクサーのキングが経験と知恵を利用して、
若さに対抗したが、その過程で若いボクサーはキングのテクニックを学習して
勝利をつかんだ。
(コメント)・英雄の光と影を感じる。学習という視点も興味深い。
[東村]・・
「メキシコ人」を考えたい。この作品を考えるヒントとして、年代ごとに、
「メキ
シコ人」、「アメリカ史」、「メキシコ革命」を関連付けたい。
(コメント)・数字を使ってみるのも、説得力がある。ロンドンは、メキシコ革命の取
材に行っている。もう少し、つっこんで調べてみるとよい。そして、作
品と結びつけることが大切である。
[栗林]・・まだ、どの作品を取り上げるか決まっていないが、日常の中で、生き方を考える
ことは大変参考になる。
(コメント)・出来る範囲で、前向きに参加して欲しい。
[山脇]・・
「試合」を取り上げたい。この作品は、
「お金」、
「運命」
、
「愛」を扱っている。ボ
クシングを扱っているが、きれいな作品である。
(コメント)・ジュネヴィーヴは下層階級の女性であり、ロンドンの貧しい人に対する
愛が表れている。
[宮沢]・・「ひと切れのビフテキ」を考えたい。老ボクサーのキングは、生活のために試合
をした。もし奥さんが働いていたら、それほど貧困にはならなくて、子供も犠
牲にならなくてよかったのではないか。
(コメント)・当時、「負け」と「勝ち」の差が大きかった。
・実在のトム・キングは老ボクサーになっても金持ちであった。
[寺村]・・「奈落の獣」を取り上げる。読むごとに異なった印象を受ける。この作品は、ボ
クシング界の不正を扱っている。父親はボクシング界の不正を暴きたかった。
また、息子にもそうしてもらいたかったのではないか。
(コメント)・マネージャーのスチーブナーの観点から考えるのも一案である。
・何度も作品を読んで、気楽に書き始めて欲しい。
[中藪]・・「試合」はロンドンお気に入りの作品である。前半は恋人同士のドラマで、次に
ボクシングの試合、そして、最後は、ジョーの急死と結婚直前の恋人同士の悲
劇を扱っている。読者と作者の一体感が、ロンドンの文体に表れている。
(コメント)・作者と作品は深く関連している。ボクシングの試合と結びつけて、人生
の成否を考えて欲しい。
[野口]・・
「メキシコ人」を取り上げたい。
「これで、革命は続けていけるのだ」という文章
をなぜ最後に持ってきたのかを追求したい。この延長線上に、光が見えてくる
からなのか。つまり、18歳のリヴェラがボクシングの試合に勝って、そのお
金でメキシコ革命を成功して欲しいという願いがあったのではないか。
(コメント)・作品を読む場合、書き出し、各段落の最初、最後の文章に焦点をあてる
のも大切なことである。
[西崎]・・
「試合」について考えたい。この作品は、人間の奥深い獣性をテーマにしており、
人間の本質が述べられている。また、女性と酒はボクシングの敵であるというロ
ンドンの理想が書かれている。
(コメント)・4つの作品とも、ボクシングという大きなフレームの中で書かれている
点に注目して欲しい。
今回の意見交流では、いろいろな方々が自分の視点で感想や意見を発表された。そのよ
うな意見はその人の人生経験が表れていて興味深かった。
『試合』の中の4つの作品は全て、
ロンドンの人生経験と関連付けられており、エッセイにまとめる過程を通じて、各自のよ
りよい人生観と結びつくことを期待したい。午後の会合の後、いつのもように懇親会があ
ったが、私には謎に包まれている。