道衛研所報 Rep. Hokkaido Inst. Pub. Health, 60, 71-74(2010) リアルタイム PCR による挽き肉製品中の肉種の識別定量 Identification and Quantification of Meat Species in Minced Meat Products by Real–time PCR 鈴木 智宏 孝口 裕一 加藤 芳伸 Tomohiro Suzuki, Hirokazu Kouguchi and Yoshinobu Katoh Key words:real–time PCR(リアルタイム PCR) ;species identification(種識別) ;quantification(定 量);meat species(肉種);minced meat product(挽き肉製品) 2007 年 6 月に道内で発覚した牛挽き肉偽装表示事件を の標準 DNA を調製するために,と畜検査場から牛,豚及 受けて,多くの食品検査機関が食肉中の肉種の混入を確認 び鶏のブロック肉を入手した. する肉種判別検査を実施するようになった.肉種確認検査 2.DNA の抽出・精製 で汎用されている検査法は,定性 PCR 法である.この手 牛挽き肉製品( 2 g)及び各種ブロック肉(150 mg)から 法は肉種に特異的な DNA 領域を標的として PCR で増幅 の DNA 抽出・精製は,それぞれ DNeasy Blood & Tissue Kit させ,電気泳動法によりその増幅させた PCR 産物の有無 (QIAGEN)及び Gentra Puregene Tissue Kit(QIAGEN)を をバンドとして確認する手法である.定性 PCR 法では, 用いて,付属のマニュアルに従って行った.なお,ブロック 極微量でも他の肉種混入の有無を確認することは可能であ 肉から抽出した DNA は,定量標準として用いるため,ブ るが,どの程度の量が混入しているのかについて定量的に ロック肉自体以外の肉種の混入を防ぐ必要がある.そこ 評価することはできない.つまり,牛,豚及び鶏肉などを で,DNA 抽出のためにブロック肉から採取する肉片試料 同じ加工ラインや調理器具を用いて製造した場合,意図せ は,家畜のと畜・解体・加工処理過程において他の肉種に ずに他の肉種が極わずか混入しても陽性と判定されてしま よる汚染の可能性がある肉の表面ではなく中心部から必要 う可能性がある.従って,加工ラインや調理器具の洗浄が 量を採取した.得られた DNA については,230,260 及 不十分な場合などによって生じた他の肉種の微量混入を判 び 280 nm の吸光度を測定し,DNA 純度と濃度を算出し 定するためには,混入量を正確に定量するリアルタイム た. PCR 法を用いる必要がある. 3.定性 PCR リアルタイム PCR 法は,標的とする鋳型 DNA の増幅 PCR 反応には,Promega 社製のウシ,ブタ,ニワトリ及 反応過程において 1 反応サイクルごとに増幅産物量を蛍光 びほ乳動物由来の DNA 検出用プライマーセットを用いた. 強度として測定する方法である.鋳型 DNA の様々な既知 PCR 反応液は最終濃度が,1 ×PCR 緩衝液,0. 2 mM 各 量を増幅させ,これらの蛍光強度(増幅産物量)がある一 dNTP,1. 5 mM 塩化マグネシウム,0. 4 μM 5’及び 3’ プ 定の値に達したときの各反応サイクル数と,それに対応す ライマーそして 0. 5 units AmpliTaq Gold DNA ポリメラー る鋳型 DNA の既知量との関係から検体中の鋳型 DNA 量 ゼ(Applied Biosystems)となるように混合し,挽き肉製 を定量することができる.既に,リアルタイム PCR 法に 品から抽出した DNA の濃度を滅菌蒸留水で 10 ng/μL に よりウシ,ブタ,ヒツジ及びニワトリなどの DNA 量を定 希釈調製した溶液 2. 0 μL(DNA として 20 ng)を加え, 量した報告がある1–5).そこで,これらの報告を基に肉種 全量を 20 μL にした. の混入割合の定量を試みた. PCR 反 応 は,95 ℃ で 10 分 間 保 っ た 後,95 ℃ 30 秒 間, 本報では,この手法を用いて定量した牛挽き肉中の豚及 55℃ 30 秒間(ブタは 60℃ 60 秒間),72℃ 30 秒間(ブタ び鶏肉の混入割合を明らかにしたので報告する. は 72℃ 60 秒間)を1サイクルとして 30 サイクル,最後 方 に 72℃ 5 分間の条件で行った. 法 4.リアルタイム PCR による定量 1.試 料 リアルタイム PCR 反応には,López–Andreo ら1)が報告 本実験には,食肉加工A社の豚及び鶏肉の混入した 4 種 したミトコンドリア DNA のシトクローム b を標的とする 類の牛挽き肉製品A~Dを使用した.また,検量線作成用 プライマー及び TaqMan FAM–MGB 標識プローブを用い ─ 71 ─ Table 1 Primers and TaqMan Probes Used in Real–time PCR Assay* Target species Cattle Pig Chicken Cattle and Pig Chicken F R F R F R FAM–MGB probe FAM–MGB probe Sequence(5’to 3’ ) CAAGAACACTAATGACTAACATTCGAAAG AAATGTTTGATGGGGCTGGA GAAAAATCATCGTTGTACTTCAACTACA GGTCAATGAATGCGTTGTTGAT TCGCCCTCACAATCCTTACAA CTGGGAGGTCGATTAGGGAGT CCACCCACTAATAAA TAATGGCACCCAACATT Primers and TaqMan probes were the same as in reference 1. * た(Table 1) .これらのプライマー及び TaqMan FAM– 最初に,ウシ,ブタ及びニワトリ DNA それぞれの希釈 MGB 標識プローブは,それぞれ北海道システムサイエン 系列が 0. 004 ~ 40 ng/μL となるように調製し,リアルタ ス及び Applied Biosystems 社の合成品である.リアルタ イム PCR の検量線の良否を検討した.ブタ DNA につい イム PCR 装置には 7900HT Fast Real–Time PCR System て各鋳型 DNA 初期量(初期濃度の百分率換算値)に対す る Ct 値(PCR 反応にともなって生じた蛍光が一定の強度 (Applied Biosystems)を使用した. PCR 反応液は 1 ウェル当たり全量 25 μL とし,López– に達するまでに要した PCR 反応サイクル数)をプロット Andreo ら1)と同様に最終濃度が,1×TaqMan Universal した検量線は,相関係数 1. 000 の直線を示した.しかし, Master Mix(Applied Biosystems) ,0. 3 μM 5’ 及 び 3’プ ウシ及びニワトリ DNA の検量線の相関係数は,それぞれ ライマーそして 0. 2 μM TaqMan FAM–MGB プローブと 0. 989 及び 0. 981 であった.Fig. 1 にウシ DNA の検量線 なるように混合した.さらに,挽き肉製品から得た DNA を示す.Fig. 1 では,鋳型 DNA 濃度が最も高い 40 ng/μL の濃度が 40 または 10 ng/μL になるように TE 緩衝液に の Ct 値は,他の 4 点のプロットの比例関係よりも大きく より希釈調製した溶液 2. 5 μL(DNA としてそれぞれ 100 ずれてしまう結果となった.ニワトリ DNA の検量線につ または 25 ng)を加えた.PCR 測定は 1 つの鋳型 DNA に いても同様であった.López–Andreo ら1)は,40 ng/μL の つき 3 ウェル併行で行った. 鋳型 DNA 濃度を含む検量線でも Fig. 1 に比べて良好な直 また,ウシ,ブタ及びニワトリ DNA それぞれについて 線関係を得ている.しかし,本研究では,40 ng/μL の高 の検量線作成のため,主に 2 つの 10 倍段階希釈系列につ 濃度域では曲線になる傾向が認められたため,40 ng/μL いて検討した.挽き肉製品から抽出・調製した DNA 濃 よりも低い濃度範囲での検量線の作成について検討した. 度 が 40 ng/μL のときは,0. 004 ~ 40 ng/μL(1ウェル中 キャリアー DNA を含む各肉種 DNA の希釈系列を 0. 0001 の DNA 量:0. 01 ~ 100 ng) を, そ し て 10 ng/μL の と き ~ 10 ng/μL とし,かつそれら検量線溶液それぞれの総 は,0. 0001 ~ 10 ng/μL( 1 ウ ェ ル 中 の DNA 量:0. 00025 ~ 25 ng)の希釈系列をそれぞれ用いた.0. 004 ~ 40 ng/μL の検量線溶液は,TE 緩衝液により段階希釈した.0. 0001 ~ 10 ng/μL の 検 量 線 溶 液 に つ い て は, 標 的 DNA の マ イクロチューブ内壁への吸着を防ぐために,キャリアー DNA と し て 10 ng/μL の サ ケ 精 子 DNA を 含 む TE 緩 衝 液により段階希釈して,各検量線溶液の総 DNA 濃度が 10 ng/μL となるように調製した.これら 2 つの希釈系列 において,PCR 装置のソフトウェア上で標的 DNA 濃度 40 及び 10 ng/μL のそれぞれが 100%となるように,他の 各濃度も百分率に換算して検量線を作成した.なお,PCR 反応条件は,López–Andreo らの方法1)に準じた. 結果及び考察 4 種類の牛挽き肉製品及び牛,豚及び鶏のブロック肉 から抽出・精製した DNA の 260 nm と 280 nm の吸光度 比(260/280) は 1. 8 ~ 1. 9,260 nm と 230 nm の 吸 光 度 比(260/230)は 2. 1 ~ 2. 2 であり,高純度の DNA を得 た.これらの DNA を定性 PCR 及びリアルタイム PCR の 鋳型として用いた. Fig. 1 Standard Curve for a 10–fold Serial Dilution of Cattle DNA Ranging from 0. 004 ng/μL(0.01%)to 40 ng/μL(100%) The solid line is a fit through the data points. The dashed line, included for comparison, represents a perfect correlation. ─ 72 ─ Table 2 Q uantification of Beef, Pork and Chicken in Minced Meat Products A−D by Real–time PCR Product A B C D Beef 81 60 18 13 Amount(%) Pork Chicken 16 0. 24 0. 84 <0. 001 60 0. 010 32 <0. 001 反応性を確認した.鋳型 DNA には,他の肉種の混入や汚 染がなく,容易に入手できる肉種としてウシ,ブタ,ニ ワトリ及びヒツジそれぞれの DNA 10 ng/μL 溶液(DNA として 25 ng)を用いた.その結果,ウシ DNA 定量プラ イマー及び TaqMan プローブセットにおいて,ブタ DNA Fig. 2 Standard Curve for a 10–fold Serial Dilution of (0. 001%) Cattle DNA Ranging from 0. 0001 ng/μL (100%) to 10 ng/μL 10 ng/μL が鋳型の場合でも,ウシ DNA として 0. 05%が 検出され,ブタ DNA との交差反応が認められた.しか し,交差反応性はそれほど高くはないため,実用的には定 量に大きな影響を与えないと思われた. DNA 濃度が 10 ng/μL となるように調製した場合の検量 さらに,上記の手法を基にして 4 種類の牛挽き肉製品 線では,Fig. 2 に示すような結果が得られた.この図はウ A~D中のウシ,ブタ及びニワトリ DNA 量の割合を定 シ DNA の検量線であり,各鋳型 DNA 初期量(初期濃度 量した結果を Table 2 に示す.また,Fig. 3 にこれら牛挽 の百分率換算値)と Ct 値との間に良好な直線関係が認め き肉製品A~Dの定性 PCR による増幅産物の泳動パター られた.また,ブタ及びニワトリについてもウシと同様の ンを示す.Fig. 3 の製品A及びCでは,ウシ,ブタ及び 直線関係を持つ検量線が得られた.このときの検量線の ニワトリ DNA の増幅バンドが,そして製品B及びDで 傾き及び相関係数は,ウシ DNA がそれぞれ-3. 512 及び は,ウシ及びブタ DNA の増幅バンドがそれぞれ検出さ 1. 000, ブ タ DNA が-3. 600 及 び 0. 998, ニ ワ ト リ DNA れた.Table 2 の製品Aの肉種の割合は牛 81,豚 16 及び が-3. 500 及び 0. 997 であった. 鶏 0. 24%,そして製品Cでは牛 18,豚 60 及び鶏 0. 010% また,本研究のリアルタイム PCR に用いたプライマー であり,鶏の割合はA及びCともに微量であった.一方, 及び TaqMan プローブセットの標的以外の肉種との交差 製品Bの割合は牛 60 及び豚 0. 84%で豚の割合は微量であ Fig. 3 Qualitative PCR Analyses of DNA, Amplified with Species-specific Primers for Mammalian (Lane 1), Cattle (Lane 2), Pig (Lane 3) and Chicken (Lane 4), from Minced Meat Products A-D Lane M: 100–bp DNA ladder. ─ 73 ─ り,そして製品Dでは牛 13 及び豚 32%,鶏は両製品とも 文 に 0. 001%未満であった.Table 2 に示したように,リア ルタイム PCR によって挽き肉製品に使用されている原材 料とその割合を明らかにすることができた. 食品表示は製品の安全・安心・信頼を確保する上で重要 な役割を持っている.そこで,本研究のようにリアルタイ ム PCR 法により食肉製品中の肉種とその割合を定量的に 評価することは,食品表示の適正化に寄与できると考え る. 献 1)López–Andreo M, Lugo L, Garrido–Pertierra A, Prieto MI, Puyet A:Anal. Biochem., 339 (1) , 73–82(2005) 2)Laube I, Zagon J, Spiegelberg A, Butschke A, Kroh LW, Broll H:Int. J. Food Sci. Tech., 42 (1) , 9–17(2007) 3)Laube I, Zagon J, Broll H:Int. J. Food Sci. Tech., 42 (3), 336–341(2007) 4)Tanabe S, Hase M, Yano T, Sato M, Fujimura T, Akiyama H:Biosci. Biotechnol. Biochem., 71 (12) , 3131–3135(2007) 5)Köppel R, Ruf J, Zimmerli F, Breitenmoser A:Eur. Food Res. Technol., 227 (4) , 1199–1203(2008) ─ 74 ─
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