平成 20-24 年度文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 「疾患の抑制におけるゲノム安定性と環境ストレスの制御」 前半 3 年間の研究状況に対する外部評価 平成 23 年 1 月 18 日に本研究の中間評価に関わる外部評価委員会が開かれ、 同年 2 月 3 日にその所見が中山宏明委員長から福岡歯科学園の田中健藏理事長 に示された。その報告を以下に示す。 評価委員会の構成(五十音順) 九州大学名誉教授 大石正道(口腔外科学、免疫学) 仏国ナント大学教授 高橋正行(分子生物学) 九州大学名誉教授 中山宏明(細菌学、分子生物学)・委員長 九州大学歯学部教授 平田雅人(生化学) 記 評価会においては、まずリーダーである関口睦夫客員教授より、プロジェク トの狙い、研究組織の概要、研究の進捗状況とこれまでに得られた成果、およ び今後の運営方針等について、約 40 分にわたって包括的な説明を受けた。これ らの点に関する委員の評価は肯定的であり、表明された主な意見を挙げれば以 下のようである。 (1)「ゲノムの安定性」は、 「DNA 情報の安定性」と狭義に解釈すべきではなく、 ゲノムの支配下にある生体システム全体の安定性を意味すると解釈するのが適 当であり、その意味で個別の研究とプロジェクトのテーマの整合性は十分であ ると考えられる。(2)そのような研究が相互に独立に、しかも関連をもって進め られており、研究者の意欲と研究の効率を高める結果になっている。(3)資金の 一部が学内公募の研究に使用されていることも、研究の活性化に役立っている。 (4)資金が高価な研究機器の共同購入にも効率的に使用されている。(5)学内およ び国内外の研究者によるシンポジウムの開催も研究陣によい刺激をもたらして 1 いると推測される。 次に選抜された 4 名の計画研究担当教授から、質疑を含め各々30 分づつ研究 成果の詳細を聴取した。発表者と題目は次の通りである。 (1) 早川 浩 酸化ストレスと遺伝子発現 (2)日高真澄 発がんを抑制するアポトーシスの機構 (3)岡部幸司 疾患の制御における骨代謝 (4)沢 禎彦 環境ストレスに対する免疫応答 早川の研究は、目下盛んに行われている DNA に対する酸化損傷の研究ではな く、RNA を対象にしている点で、非常にユニークなものである。RNA の酸化損 傷は異常蛋白の生成につながり、生体の安定性を脅かすので重要であるが、研 究者は少なく、早川の独壇場の感があり、今後の発展がおおいに期待される。 日高の成果は、DNA 塩基のアルキル化による塩基ミスマッチが引き起こすア ポトーシスに関与する新規遺伝子の発見である。このようなアポトーシスは発 がん抑制に寄与している可能性が大であり、非常に興味深い。隆盛を極めるア ポトーシス研究の中でも、最先端に位置付けられるものである。 種々の環境ストレスに応じて破骨細胞が活性化されると、骨粗鬆症の発症に つながり、骨の脆弱化が引き起こされる。岡部らは、現在破骨細胞研究の主流 である分化関連諸因子の研究ではなく、イオンチャネルの機能に着目した研究 を推進しており、独創性に勝れていると考えられる。 沢の研究は、リンパ管内皮細胞で Toll-like receptor の発現が見られることを発 見し、体内に侵入した病原性因子の回収という重要な任務に当るリンパ管の機 能の一端を明らかにしたものである。リンパ管に注目する研究者は少なく、ユ ニークな業績と称して差し支えないと考えられる。 以上のように、発表された研究成果はいずれも高水準で、福岡歯科大学の研 究陣の充実ぶりを窺わせるものであった。ただ一層の向上のためには、国内外 を問わず異分野の研究者との交流が望ましいとの指摘があったことを付言する。 以上 2
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