認知症患者の看護マニュアル 国立長寿医療センター看護部 高齢者看護開発チーム「認知症患者の看護」 2009 年改訂版 認知症患者の看護マニュアル <目次> Ⅰ.認知症の基礎知識 1. 認知症の定義と分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 2. 認知症の診断の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 3. 認知症のスケール (当院にて使用のもの添付)・・・・・・4~6 4. 認知症の治療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7~9 5. 認知症の症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9~12 Ⅱ.認知症の看護と基本的姿勢 1. 基本的姿勢と考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・13~16 2. 症状別対応について ・・・・・・・・・・・・・・・・・17~27 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 転倒 攻撃的行動(暴力行為) 拒食・拒薬 徘徊 コミュニケーション困難 譫妄 Ⅲ.国立長寿医療センターでの認知症医療・看護 1. もの忘れ外来 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 2. 脳機能病棟 認知症専門病棟・・・・・・・・・・・・・・・29 Ⅳ.資料 1. 簡易精神機能検査(HDS-R、MMSE)・・・・・・・・・・・ 30 2. 入院時認知症簡易スクリーニング 3. 譫妄・不穏アセスメントガイド ・・・・・・・・・・・ 31 ・・・・・・・・・・・・ 32 4. 認知症看護経過記録用紙記載要領・・・・・・・・・・・・ 5. 認知症看護経過記録用紙 33 ・・・・・・・・・・・・・・ 34 -1- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター Ⅰ 認知症の基礎知識 1 認知症の定義と分類 ◇定義:一旦正常に発達した知能が、後天的に器質的な脳の障害によって、広汎に継続的に 低下し、日常的な生活を営めない程度にまで衰退した状態。 ◆認知症と生理的加齢の物忘れの違い 生理的加齢 認知症 物忘れの仕方 経験した出来事の一部を忘れる 経験したこと自体を忘れる 病識 自覚あり なし 日常生活 支障はあまりない 支障著しい、支援を要す 経過 進行しない 進行する 見当識障害 少ない あり ◆原因疾患:原因疾患の種類や病期によって症状は異なる。また、原因疾患の治療や原因物質の 除去により改善する認知症もある。 原因 神経変性疾患 疾患名 アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症 脳血管障害 感染症 炎症 頭蓋内病変 代謝障害 内分泌異常 脳梗塞、脳出血、脳動脈奇形、モヤモヤ病 脳炎・慢性髄膜炎、神経梅毒、エイズ、クロイツフェルトヤコブ病、膠原病、 進行麻痺 など 正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍 など *頭部外傷でも生じる 肝障害、腎障害、糖尿病、甲状腺、副甲状腺機能低下、副腎機能、 電解質異常(Na、Ca、K、Mg) 低酸素性障害 心疾患、呼吸器疾患、一酸化炭素中毒 ビタミン欠乏症 ビタミン B1・B12、葉酸、ニコチン酸 中毒性疾患 薬剤(抗精神病薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、抗パーキンソン薬、抗コリン薬、 抗てんかん薬、抗腫瘍薬、副腎皮質ホルモン 精神科疾患 など) 、金属(鉛、有機水銀 など) うつ病(仮性認知症) ◆主な四病型 主な症状 アルツハイマー型 認知症(DAT(AD)) 脳血管性認知症(VaD) レビー小体型認知症 (DLB) 記憶障害・見当識障害が初期症状、実行機能障害 妄想(被害妄想など) 、抑うつ、徘徊、失禁 など 記憶障害、実行機能障害、運動機能障害、覚醒・認識・情動の変動、 抑うつ、意欲低下、人格の尖鋭化・易怒性 など 転倒傾向・尿失禁が初期症状 幻視、妄想(被害妄想・嫉妬妄想)、注意・覚醒レベルの変動、 パーキンソン症状、抑うつ、不安、転倒 など 視覚認知・視覚構成障害強い 前頭側頭型認知症(FTD) 脱抑制、無関心・無気力、常同行為、食行動異常、被影響性亢進 人格変化が初期症状、注意の転導性亢進(注意を向けるべき以外の ものに注意が移りやすいこと)・維持困難、易怒性、時刻表的生活 形成、失禁 など -2- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ◇経過・予後 原因疾患により経過・予後は異なる。 アルツハイマー型認知症などの脳変性性の認知症は不可逆的に進行し、認知障害は高度に至る。運動 機能も減退し無動・四肢拘縮し寝たきりとなる。肺炎などの合併症で死亡する。 2.認知症の診断の流れ 認知症の診断に必要な要素は、家族や介護者からの正確な情報、詳細な臨床観察や知的機能検査、 画像診断などである。 認知症の診断は除外診断である。 スクリーニングテスト ミニメンタルテスト(MMSE) 長谷川式等(HDS-R) ◇診断の流れ 初 診 治療 診断 病歴聴取 身体所見 病歴聴取(現病歴、既往歴、家族歴) 身体所見(体温、脈拍、血圧、呼吸) 生化学検査(基本検査項目) 画像診断(頭部CT、MRI、SPECT、PET) 生理学検査(脳波) 生理学検査 画像検査 仮の診断 神経心理検査 生化学検査 ◇画像診断 (看護技術 P13~15) CT:脳の形態上の変化を調べる検査 脳梗塞や血腫、水頭症、腫瘍など認知症の原因となり得る頭蓋内病変を検出する 最も簡便な方法である。短時間で検査できる。 MRI:脳の形態上の変化を調べる検査 頭蓋内の微細構造の変化の検出に優れ、海馬・扁桃核を観察することが可能である。 SPECT:脳の血流を調べることで、脳の働きをみる検査 局所の血流低下パターンの情報を得ることが認知症の鑑別の診断に有用である。 PET:ブドウ糖の代謝される様子を測定することで、脳の働きをみる検査 アルツハイマー型認知症においては血流低下よりも糖代謝低下のほうが強いため、より鮮 明に病変を検出することができる。 *PET はアルツハイマー型認知症の診療に保険適用されていない。 -3- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 3.認知症のスケール(当院使用のものについて以下説明)≪資料1参照≫ ◆長谷川式簡易知能評価スケール=HDS-R HDS-R は認知症のスクリーニングを目的とした評価尺度である。動作性を含まない 9 問から なる検査であり、短時間で施行可能な実用的で精度の高い評価尺度である。 HDS-R は以下の 9 問から構成されている。 問題 1:年齢 満年齢が正確に言えれば 1 点を与え、2 年までの誤差は正答とみなす(1 点)。 問題 2:日時の見当識 年・月・日・曜日を問う問題で、それぞれ別々に聞いても良い。それぞれの正答に対して 各 1 点を与える(4 点)。 問題 3:場所の見当識 今いる場所を問う問題で、それぞれ別々に聞いても良い。自発的に答えられれば 2 点を与え るが、正答が出なかった場合には「病院ですか?家ですか?施設ですか?」などのように 問い、選択できれば 1 点を与える(2 点)。 問題 5:3 つの言葉の記銘:3 単語の直後再生 「これから言う 3 つの言葉を言ってみてください。後でまた聞きますのでよく覚えておいて ください」と教示し、正答に対して 1 点を与える。もし、正答が出ない場合、正答の数を採 点した後に正しい答えを教え、覚えてもらう(3 点)。 問題 6:計算 100 から順に 7 を引かせる問題、 「100-7 はいくつですか?」 「それから 7 を引くといくつに なるでしょう?」と問う。各正答に対して 1 点を与えるが、最初の引き算の答えが誤ったも のであった場合にはそこで中止し、次の問題へ進む(2 点)。 問題 7:数字の逆唱 「私がこれから言う数字を逆から言ってください。」と教示する。正解に対して各 1 点を与え るが、3 桁の逆唱に失敗した場合にはそこで中止し、次の問題に進む(2 点)。 問題 8:3 つの言葉の遅延再生 「先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください」自発的に答えられたものに対し て各 2 点を与える。答えられない言葉があった場合には少し感覚をおいてからヒントを与え、 正解が言えれば 1 点を与える(6 点)。 問題 13:5 つの物品記銘 あらかじめ用意した 5 つの物品の名前を一つずつ言いながら並べて見せ、次にそれらを隠し て「順番はどうでもいいですから、今ここにあったものは何でしたか?」とたずねる。物品 は必ず相互に無関係なものを用い、各正解に対してそれぞれ 1 点を与える(5 点)。 問題 14:野菜の名前:言葉の流暢性 「知っている野菜の名前をできるだけたくさん言ってください」途中で言葉につまり 10 秒 ほど待っても野菜の名前が出てこない場合にはそこで打ち切る。 5 個までは 0 点、以後 6 個=1 点、7 個=2 点、8 個=3 点、9 個=4 点、10 個=5 点となる(5 点)。 *質問内容については、資料1(P7)参照 HDS-R の満点は 30 点で、点数が高いほど正答が多いことを示す。 得点のカットオフポイントは 20 点と 21 点の間に設定されている。つまり、20 点以下の場 合は認知症が疑われる。 -4- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ◆MMSE(Mini-Mental stat Examinatinon) MMSE は 1975 年に Folstein らによって作成された簡便な認知機能検査である。 現在認知症のスクリーニングとして国際的に最も広く用いられている。11 項目の質問のうち 4 つの動作性検査を含まれていることが大きな特徴の一つでもある。 問題 2:時間の見当識 「今日は何年の何月何日何曜日ですか?季節は何ですか?」を問う。 ゆっくりと一つずつ聞き、各正答に対して 1 点を与える(5 点) 。 問題 4:場所の見当識 「何県、何市、何病院(施設名) 、何階、何地方」などを問う。 順番にとらわれずに質問し、正答に対して各 1 点を与える(5 点) 。 問題 5:物品名の復唱:3 単語の直後再生 相互に関係のない物品の名称を復唱させる。正答に対して各1点を与えるが、この物品名は 問題5でもう一度想起させるため、間違いがあれば最高 6 回まで同じ作業を繰り返す(3 点) 。 問題 6:計算 100 から順に7を引かせる連続引き算を行う。5 回まで繰り返し、正答に対し各 1 点を与える (5 点) 。 問題 8:3 単語遅延再生 問題 3 で記憶させた 3 個の物品名を再び問う。正答ごとに 1 点を与える(3 点) 。 問題 9:物品呼称 腕時計を見せた上で、それが何かを問う。同様に鉛筆についても行なう正答ごとに 1 点を与え る(2 点) 。 問題 10:文章の復唱 文章を反復してもらう。1 回のみで評価する(1 点) 。 問題 11:3 段階命令 何も書き込んでいない紙を渡し、命令をだす。段階ごとに正しく作業した場合に 1 点とする (3 点) 。 問題 12:指示 患者に適した大きさの文字で書かれたボードを示し、それを読みその通りにするよう指示する。 従えた時(閉眼した時)のみ 1 点を与える(1 点)。 問題 15:文章作成 何もかかれていない紙を渡し文章を書くように指示する。自発的な文章でなくてはならず、 例文などを与えてはならない。意味あるものでなければならず、文法や読点が不正解でも良い (1 点) 。 問題 16:図形模写の 11 項目で構成されている 重なった 2 個の五角形を書き込んだボードを示し、それを模写してもらう模写は角が 10 個 あり、2 つの五角形が交差していることが得点の条件である(1 点) 。 *質問内容については、資料1(P7)参照 30 点満点で得点が低いほど認知機能障害が重度と推定される。得点のカットオフポイント は 23 点と 24 点の間に設定されている。つまり、23 点以下の場合は認知症が疑われる。 しかし、24 点以上であっても時間の見当識で 3 点以下、単語の遅延再生が低得点の場合、 認知症に移行することが高いとされている。 -5- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ◆看護職としての注意点:スケールの結果にとらわれて、患者さんの人格をも評価してしまわな いことである。スケールによる評価と一定の期間の高齢者の動作の一つひとつを比較点検するこ とと合わせて、認知症の状態変化を総合評価することが重要である。 ◆心理検査を実施する際の留意点 ①検査室の部屋の明るさ、静けさに配慮する。 ②出来る限り検査について正しく説明を行い、被験者の不安を取り除く。 ③被験者の視力、聴力などの感覚器官に配慮する。 ④課題を教示する時は、大きな声でゆっくりと分かりやすく話す。 なるべく一度に 2 つの指示は与えない。 ⑤検査結果のみならず、検査中の様子や課題の取り組み方にも注意する。 ⑥検査終了後は簡単なフィードバックを行い、検査後の不安を少しでも取り除く。 心理職でなければ実施できないということはないが、他職種が実施する場合でも心理査定に ついてよく理解した上で行なうことが求められる。 <参考文献> 1) 桑田美代子(監修):ナーシング・トゥデイ「病棟でできる!痴呆ケア」:痴呆性高齢者の心理と心理検査, 日本看護協会出版会,P19,2004 2) 大塚俊男ら(監修):高齢者のための知的機能検査の手引き,ワールドプランニング,P15~19,2005 3) 大塚俊男ら(監修):高齢者のための知的機能検査の手引き,ワールドプランニング,P35~38,2005 4) 繁田雅弘編:看護技術 認知症ケアの実践ガイド,メヂカルフレンド社,2007 -6- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 4.認知症の治療 認知症の治療には薬物療法と非薬物療法がある。それに加え、環境を整えることや、日常生活 のケア、精神的なケアさらには 介護者に対するケアも認知症の治療と考えられている。 ◇薬物療法 認知症の薬物療法で投与前に注意すべき点は、ある程度正確に内服できる環境にあるかどうか を確認することである。また、高齢者の薬剤に対する特性をよく理解しておく必要がある。 ◆高齢者の薬剤に対する特性 ・高齢に伴い、循環体液が少なく、相対的に脂肪層が多くなるため、薬が脂肪に蓄積され やすい。 ・脱水を引き起こしやすく、体液バランスを崩しやすいため、血中濃度が上昇しやすい。 ・消化器吸収が悪いため、薬の作用が発現するまでの時間を要する。 ・薬の分解、排泄機能の低下があり、代謝されずに体に残留することがある。 ・また一般に多種類の薬剤を投与されていることも多く、薬剤同士の相互作用が問題にな りやすい。 ◆高齢者への投与 身体症状と照らし合わせて副作用の少ない薬を少量から使用する また効果判定を適切に行い、投与する必要性を評価すること。 いたずらに投与期間を長くしないことも重要である。 ◆中核症状に対する治療薬 塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト) 適応 アルツハイマー型認知症 レビー小体型認知症に対する有効性が検討されている。 効果 認知機能障害の進行を遅らせる。 副作用 消化器症状:食欲低下、悪心、嘔吐、下痢、腹痛 精神症状:不眠、興奮、攻撃性、せん妄 中枢末梢神経系:頭痛、眩暈、動悸、血圧変動、パーキンソニズム 服用方法 3mg より使用、2 週間観察し、異常なければ 5mg へ移行する。 高度の障害が見られる場合は 10mg まで増量できる。 ◆心理・行動症状(BPSD)に対する治療薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、漢方薬) 心理行動症状が見られたときにはまず以下の点を確認する。 1.症状が出るのは一時期のみであることを患者さん、介護者に十分説明する。 2.症状が出現したらまず、身体合併症と薬剤をチェックする。 小さな脳血管障害は意外に多い。ちょっとした体の痛みが不穏につながる。 3.注意すべき薬剤は ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や眠剤、抗パーキンソン病薬 抗うつ剤、H2ブロッカー、抗ヒスタン剤、抗コリン剤、市販の風邪薬 4.プロの介護者の力を借りること。プロの介護者はほめ上手であり家族は患者の長所に眼 がいきにくい。 5.生活状況をつかんだ上で投与する。転倒の危険性や本当に薬をのめる状況にあるのか。 6.投与する際には少量から少しずつ増量し 3 ヶ月をめどに減量をめざす。 -7- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 抗精神病薬・・・幻覚、せん妄、行動障害(焦燥性、興奮、身体攻撃:叩く、蹴る、 言語的攻撃:悪態をつく、身体非攻撃的:落ち着かない、物を隠す) 認知症による不眠や不安に対しても有効なことがある。非定型抗精神病薬 の有効性は確認されているが、死亡率や脳血管障害の発生を高めるとの報 告がある。また保険上の適応がない。 抗うつ薬・・・認知症に伴う抑うつ、不眠 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 SSRI は前頭側頭型認知症の常同行動 に対して有効なことがある。 抗てんかん薬ではバルプロ酸やカルバマゼピンが、漢方薬では抑肝散が用いられるが、 これらの有用性はまだ確定していない。 ◆脳血管性認知症の薬物療法 脳血管障害の再発を防ぐ治療が中心 抗血小板薬 降圧剤による適切な血圧コントロール ◆睡眠剤 超短時間型・短時間型・中間型・長時間型があり睡眠障害の病態に応じて使い分けるが、 高齢者では中間型、長時間型は翌日への効果の持越しが懸念されるため使用は限定される。 ◇非薬物療法 ◆芸術療法(音楽療法、絵画療法など) ◆リアリティオリエンテーション ◆回想法 ◆確認療法 個々の患者さんに対しては意欲の向上、ムードの変化などの効果が期待できる。疾患群全体と して科学的な有用性が証明しづらいこと、芸術療法では方法よりも指導者によって効果が変わ ることなどが問題となる。最近は認知症の病型に応じた非薬物療法の有用性が検討されている。 ◇介護者に対する治療 認知症の介護者は、同じことを何度も聞かれる、目を離せない、介護者のペースでできない、 ありがとうといってくれないといった状況に対して、大きな介護負担を感じている。認知症の特 性として、より身近な者、最も熱心に介護している介護者に対して、認知症の症状がより強く出 現し、本人の残存する能力も発揮されないことが知られており、病識の欠如が追い討ちをかける。 介護者に対して次のような説明や教育また社会資源の紹介を行うことも重要である。 -8- 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター A.認知症の病態の説明 1.認知症という病気を理解してもらう。 2.いろいろな病型があってそれぞれ経過や症状が異なることを知ってもらう。 そのためには正確な診断が必要なことを説明する。 3.このような知識から患者のことをもう一度みなおし理解してもらう。 B.介護者へのカウンセリング C.認知症の介護教育 1.もの忘れがあっても安全で安心して暮らせるように支えること。 2.そのためにできる限りの治療や支援を行うことを本人と介護者に伝える 3.残された能力が十分あることを伝える。 4.家庭の役割分担、社会参加やデイサービスの利用をすすめる。 5.身体疾患を早めに見つける。 6.異常な言動を正常化しようと焦らないこと。 7.日常生活の指導 D.薬物療法の説明と指導 E.相談窓口の紹介 F.社会資源の紹介 1.介護保険 2.成年後見制度 5.認知症の症状 認知症の症状は中核症状(認知症機能障害)と心理・行動症状(BPSD)に大別される (図1参照) 。 図1中核症状と心理・行動症状 心理・行動症状 =BPSD 徘徊 記 焦燥:いらいらし ておちつきがない 憶 見当識障害 記憶判断力・実行機能障害 問題解決能力の低下 失語・失行・失認など 睡眠・ 摂食障害 覚醒障害 行動症状 桑田美代子:病棟でできる!痴呆ケア 心理症状 物取られ妄想:財 布などを盗まれ たと言う 中核症状 歩き回る 攻撃的行動 些細なことで声を 荒げたり、手を上 げたりする 譫妄:急に騒ぎだす 抑うつ状態 幻視・幻聴など: 実際にないもの が見える・聞こえ るという 異食など:食べ物 以外のものを口に 入れる 痴呆高齢者の捉え方 Nursing Today vol19 no.6 -9- P25 より改変引用 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ◇中核症状 中核症状(認知機能障害)は認知症の症状のうち障害の中心となっている記憶障害、見当識障害、 判断障害、思考障害、言葉や数のような抽象的能力の障害、実行機能障害など高次脳機能障害を 主体とする認知機能障害である。 1. 記憶障害(もの忘れ) 記憶は、記銘(覚える) ・保持(保存する) ・再生(呼び起こす)という3つの段階から 成り立っている。記憶障害とはそのいずれかが障害された状態である。 1) 記憶の時間的側面からの分類 ① 短期記憶:保持する時間が短く数分の単位で消える記憶(即時記憶) ② 長期記憶:短期記憶より保持する時間が長い記憶 近時記憶(一般的出来事の保持時間が数分から数日) 遠隔記憶(個人史や歴史的出来事など数週から数十年) *認知症は短期記憶から障害される。 2) 記憶の質による分類 ① 命題記憶:事実の記憶・陳述記憶 エピソード記憶(いつどこで何を体験したかと言う個人的な体験に基づく記憶) 意味記憶(単語、数字、概念、事実など社会全般に通用する知識) ② 手続記憶:技術の記憶・非陳述記憶 *手続記憶は、認知症が進行しても比較的長期に保持される。 2. 見当識障害 時間・場所・人物などその場の状況を把握・理解の障害をいう。たとえば「今何日なのか・ 何時なのか」 「自分が誰であるか、どこに居るのか、自分の回りにいる人が誰なのか」が 認知できない状態である。認知症では時間・場所・人の順に症状が進行することが一般的で ある。認知症以外でも脳の器質性疾患によっても生じる。 3. 失語・失行・失認 脳の障害された部位や進行によって発症が異なる。 1) 失語症 正常な言語機能を一旦獲得した後に、大脳の言語中枢や中枢連絡線維などの病変により 聞く・話す・読む・書く・計算するといった言語の操作能力事態に障害を来たした状態を いい、言語障害の一つである。 失語症は復唱、言語理解、自発言語などの障害の有無により、ブローカ失語、 ウェルニッケ失語、名称失語、全失語などいくつかの型に分類される。 ブローカ失語は言語が非流暢であることが特徴的で話し方がぎこちなくなる。 言葉数も少なく、話す文も短い。 ウェルニッケ失語は言語理解に障害があり、多弁であいさつや簡単な表現は 比較的流暢に話すが、錯語が多い。 健忘失語は語想起の障害があり、的確な名詞がでてこないことが特徴的で、 迂回表現を多く用いる。 全失語はすべての言語が重度に障害されている。実用となる言語がほとんど 完全に失われる。 - 10 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 2) 失行 障害された脳の部分により、後遺症として運動麻痺が残り、様々な日常的な行為が 出来なくなる状態や運動機能が損なわれていないにもかかわらず動作が遂行できなくなる 状態をいう。主に 4 つの類型がある。 構成失行 立方体や家、時計など空間認知や均等性要求される物の模写が困難になる。 積み木やマッチなどで作った図形と同じ物が作れない。 観念運動失行 すでに習慣となっている日常生活上の単純な動作を、流れのある実際の生活 上の単純な動作を、流れのある実際の生活場面では出来るのに、他者の口頭 の指示に従ってする事や、意図的に行なうことができない状態。 観念失行 それまで日常的に使用していた物品が正しく使用できなくなったり、2 つの道具 を組み合わせて使う複合的な動作が上手くできない状態 着衣失行 服を着る動作の障害。やがて服を脱ぐ行為にも支障をきたすようになる。 進行した状態で現れる。 3) 失認 視覚や聴覚に異常がないのにもかかわらず、目の前にあるものや聞いたものが何であるか が分からなくなる状態をいう。 視覚失認 見えているのにそれが何であるかを理解できない。 聴覚失認 音を聞いても何の音なのかが分からない。 触覚失認 自分の手で触れただけで何であるかの推測などができない。 身体(病態・疾病)失認 障害または疾病について認知が出来ない。 4. 実行機能障害 計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化するといった機能が障害される。 記憶障害、失語、失行、失認などが複合的に関与され、行動を開始すること、維持すること、 中止することが困難になる。 5. 問題解決能力の障害 予想外の出来事などが起こると、そのことに対処しきれず、混乱を起こしてしまう。 6. 判断力の障害 道筋を立てて考えることが出来なくなる。 <参考文献> 1) 見藤隆子ら:看護学辞典「記憶・見当識・失語症・失行症」,日本看護協会出版会,2006 2) 小山珠美ら:高次脳機能障害ナーシングガイド改訂版「高次脳機能障害の症状別アプローチ」 P202~242,2006 3) 六角僚子:認知症ケアの考え方と技術 自分の世界を生きる認知症の人,医学書院,P12,2005 - 11 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ◇周辺症状 普段私たちが認知症状と言っている症状のほとんどは「心理・行動症状」で、従来の「周辺症 状」と同じ意味である。国際的には BPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementia) が用いられ、「認知症の心理・行動症状」と訳され、「認知症において頻繁に見られる知覚、思考 内容、気分行動の障害」と定義される。認知症は脳の障害によって知的機能低下が起こる病気であ る。この知的機能の低下症状を中核症状といい、これらの症状によって生活上の障害(感情の変 化や行動の異常など)が出現している。 生活上の障害は環境により誘発されることが多い(図2参照)。 これらのことからも病院内の環境がいかに「心理・行動症状」が助長・増強されやすいという ことが分かると思う。現時点では、中核症状を改善させることは困難とされているが、 「心理・ 行動症状」は適切なケアによって改善される可能性がある。 図2 環境と周辺症状の関連 心理・行動症状 中核症状 意欲・自発性・気力 心 理 ・ 行 動 症 状 記憶障害・見当識障害 判断力の低下 問題解決能力 失語・失認・失行 誘因 妄想 幻覚 不安 不眠 徘徊 焦燥 多動 無気力 など 不穏 大声 暴力 せん妄 誘因 物理的環境 ・ 転居、入院・入所、転棟、転室など ・ 不適切な環境刺激(音・光・陰、風、圧迫感など) 社会的環境 ・ 家族や友人地域の人々との交流やその機会の減少 ・ 人間関係、文化などから受ける情動(不安・孤独、恐れ、 抑圧、過度のストレス)プライドの喪失 ケア環境 ・ 水分・電解質管理、便秘など身体症状(疼痛・掻痒感)へ の対応の遅れ ・ 薬の副作用、治療に伴う抑制 ・ ケア提供者の存在、言動、関わり方、考え方など 環境 運営的環境 ・ ケア体制、援助者の教育など 中島紀恵子:認知症高齢者の看護,認知症高齢者の看護援助,医歯薬出版,P81-82,2007 より引用 <参考文献> 1) 日本認知症ケア学会編:改訂 認知症ケアの基礎, P24-25,P52-55,ワールドプランニング,2007 2) 小山珠美ら:高次脳機能障害ナーシングガイド P233-236,P253,日総研,2006 3) 日本精神医学学会 編:総論 老年精神医学講座,ワールドプランニング,2004 4) 平井俊策他:老年期認知症ナビゲーター 株式会社メディカルレビュー社,2006 5) 中島紀恵子:認知症高齢者の看護,認知症高齢者の看護援助,医歯薬出版,P81-82,2007 - 12 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター Ⅱ.認知症の看護と基本的姿勢 1.基本的姿勢と考え方 ◆ 認知症ケアは尊厳を支えるケア これまで、認知症が進行すると認知機能障害により、自分が認知症であることを認識できなくなる という考え方が一般的であり、出現する身体的症状や障害への対応のみがなされてきた。 しかし、「2015 年の高齢者介護」報告書1)において、身体機能面のみならず、認知症高齢者の抱える 内的体験を理解し一人の人間として尊重し支える必要性が述べられた。 【2015 年の高齢者介護の本文(一部抜粋)】 痴呆性高齢者は、記憶障害が進行して行く一方で、感情やプライドは残存しているため、外界に対して 強い不安を抱くと同時に、周りの対応によっては、焦燥感、喪失感、怒り等を覚えることもある。(中略)最 もつらい思いをしているのは本人自身である。 本人なりの生活の仕方や潜在する力を周囲が大切にし、その人の人格を尊重してその人らしさを支える ことが必要であり、「尊厳の保持」をケアの基本としなければならない。 2015 年の高齢者介護―高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けてー,高齢者介護研究会報告より引用, 認知症ケアの基本は、その個人の尊厳が最大限に保たれることで、認知症の経過に変化を与える ことである。今まで軽視されてきた精神・社会面への支援がより重要であるとされている。 このように、従来の認知症高齢者の出現する症状にのみ対処する「対応型 ケア (業務中心のケア)」から認知症高齢者の質を重視した「尊厳を支えるケア」へ と転換し、たとえ認知症であっても一人の人として認められ、尊重されるべきで あるという『パーソン・センタード・ケア』の理念2)3)4)が認知症ケアの考え方の 主流となっている。 認知症看護において、認知症高齢者の尊厳は保たれているのだろうか?医療の現場に立ちはだかる のは、治療による制限やリスクマネジメントである。これらを無視して質の重視を図る事は困難である。 認知症看護にとって大切なことは、これらとどう融合させながら認知症高齢者の尊厳を保っていくのかを 検討していくことである。 転倒予防のためにとナースステーションに連れてこられ、長時間に渡り車椅子 に座っている認知症高齢者をよく見かける。安全管理上仕方がないことかもしれない。しかし、患者さん の立場に立って考えると、とっても窮屈な場所で、監視されていると感じているのかもしれない。あるいは 情けない人間だと落胆しているのかもしれない。このような患者さんの気持ちを理解し、5 分でも 10 分で も場所を変え、患者さんの気持ちを聴く時間を設けるなどの支援も必要ではないだろうか。 ◆ 「問題行動」から「心理・行動症状」へ 「問題行動」とは、誰にとっての問題なのか?「問題行動」はケアを提供する側が、認知症症状によって ケアが困難となるために「問題」としてきた行為として用いられていた。現在では、認知機能障害等が原因 で起こる行動上の障害であるという認知症高齢者の視点に立った考え方から「心理・行動症状」と呼ばれ ている。5)正しい用語を用いることも認知症高齢者の尊厳の保持となるといえよう。 - 13 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ◆ 「心理・行動症状」は認知症高齢者の「第 2 の言語」 認知症高齢者の行動一つ一つが意思の現れであり、時にそれは患者さんからの SOS 信号だったり する。「心理・行動症状」は、認知症高齢者にとっての「第 2 の言語」であり、そこに患者さんの真のニー ドが存在する。患者さんの行動の裏にある真のメッセージを汲み取とる努力をせず、表面化している訴 えや症状にのみ対応していては、真のニードは満たされず、心理・行動症状の悪化へと導くことになり かねない。「待っててね」「あとで」と後回しにする対応を最小限にとどめ、患者さんが言葉や行動で訴え ているその「時」に、患者さんと向かい合っていくことが大切である。 「説得」よりも「納得」を図る 認知症高齢者の認知機能低下に伴う言動に対し、鎮静を図ろうと試みることがある。このような場合、 患者さんを説得する説明になっていることがある。たとえ、認知症であっても高齢者には変わりなく、年 長者として尊重して関わることが大切である。患者さんにとって、納得できないことを援助されることは 苦痛にしかならない。認知症高齢者と関わる際、説得よりも納得を図るためのアプローチ能力が求めら れる。 【アプローチ方法の例】 何度も立ち上がり行動のある患者さんに対して、何がしたいのか、どうしたいのか「意思を確認し尊重す る」こと、患者さんの置かれている状況や訴えに「共感をもって理解する」こと、これから行なう援助に対して 患者さんに「相談する」こと、どのようにしたたらいいのかを患者さんと「話し合う(相互理解)」こと、患者さ んの訴えの理由に対して「一緒に行動」し解決を図るなどの働きかけがある。 「持てる能力」を奪っていないか 認知症という疾患ばかりに着目していると、改善の見込めない認知機能症状の為に「何もできない」 「やっても無駄」「時間がかかって仕方がない」とケアの諦めばかりが先行し、業務をスムーズに進行す ることに重きがおかれてしまいやすい(図1)。しかし、認知症があっても性格、生活歴、健康状態、社会 心理から成る「人」の部分に着目すれば、認知機能障害による限界はあっても、長年培われてきたその 人のもつ能力を発見し、見極め働きかけることができる 4)(図2)。 図1 図2 パーソン・センタードケアにおける 認知症高齢者の理解 従来の認知症高齢者の理解 認知症 脳神経障害 の 人 のある 認知症 性格(気質、能力) 性格(気質、能力) 生活歴 (人生歴) ) 健康状態 社会心理 脳神経障害 水野裕著;パーソン・センタード・ケアの理念,看護学雑誌12月号,2005より一部抜粋しアレンジ 人 性格(気質、能力) 生活歴 (人生歴) 健康状態 社会心理 水野裕著;パーソン・センタード・ケアの理念,看護学雑誌12月号,2005より一部抜粋しアレンジ MMSE が 0 点であっても歯ブラシやコップを一つずつ手渡せば、自分で歯を磨き、含嗽をすることが 出来たりすることもある。このように、ある一部分を介助すれば一連の動作ができたり、あるいはゆっく りと待っていればできたりと「持てる力」を見極めることで、認知症高齢者の可能性を引き出すケアへと 結びつけることができる。その人の持てる能力を維持・向上させることは、情緒面の安定や人間性・社 会性が回復し、認知症高齢者の尊厳の保持へとつながる。 - 14 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 認知機能は進行しても感情や自尊心は残る 認知症と聞くと一見、何もできなくなっていくように感じられるが、脳の機能面の低下は見られても 感情面での低下はみられない。むしろ、感情面が強くなる傾向にあり、感覚はより鋭くなる。 患者さんの嫌がるようなケアをしようとすると、何もしていないのに突然怒り出したり、抵抗しようとする ことがある。 これは、残された感覚機能を最大限に発揮し、看護師の有様(態度や姿勢)を通して自分のおかれ ている立場を把握し、何らかの意思を行動で表現しているのである。逆に言えば、患者さんの引き起こ す言動は、ケアする者が提供したケアの結果の表れと言える。 また、失敗したことを隠そうとしたり、突然来た来客や医師には無難な対応をしたりすることがある。 これは、残された自尊心を守ろうとするための一種の防衛機制であり、認知症であるからこそ、常に不 安を抱えながらも、「人として生涯認められていたい」、「社会の一員として存在していたい」という思いを 強く持っている。人生を積み重ねてきた一人の人として接することが重要である。 認知症高齢者を正しく理解する 認知症高齢者の持てる力を最大限に発揮した援助を行なうには、患者さんのありのままの姿を捉え る必要がある。その為に、中核症状を正しく捉え、そこから心理・行動症状に関連する様々な要因を把 握することが必要であり、(心理・行動症状の成り行きはp11 参照)それらを詳細かつ適切に「アセスメ ント」する力が求められる。認知症高齢者を正しく理解することが、患者さんの行動やその裏にあるメッ セージの理解へとつながる。 アセスメントに必要な項目の一例を以下に示す。5)6) 1) 認知症のアセスメント 10) 原因疾患の種類と程度、認知機能障害の種類と程度、精神症状、行動障害、日常生活への支障の内 容と程度、治療内容、服薬など 2) 身体機能のアセスメント 10) 加齢に伴う身体機能の変化、身体的疾患の種類と程度、治療内容、内服薬、バイタルサイン、栄養障 害、脱水、身体的苦痛(発熱、痛み、便秘、失禁など)など 3) ADLのアセスメント 7) 4) 心理・社会的状態のアセスメント 10) ① 生活背景:対人関係、日常生活の過ごし方、生活リズム、生活歴、学歴、 職歴、家族関係、人との関わり、経済状態、住環境状況など ② 性格傾向:気質、能力、コーピングスタイル、心理的防衛機制 ③ 介護者の状態:健康状態、意欲、負担感、家族構成、協力体制、認知症高齢者に 対する理解、介護についての考え方・介護力、就労、時間など ④ 社会資源の活用状況:サービス活用状況、要介護度など - 15 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 5) コミュニケーション能力のアセスメント6)8) 認知機能障害により言語障害が起きる為、言語的・非言語的コミュニケーションを効果的に活用する必 要がある。その為に、記憶障害・言語障害・視聴覚障害の程度の把握をし、患者の認知能力に合わせ たコミュニケーションの工夫が必要である。 一人で対応しようとしていないか 心理・行動症状に対して四六時中、一人で対応していたら、ケアする者の精神的ストレスが大きく なるばかりで、ケアへのゆとりも生み出されなくなる。その結果、不十分な対応が患者さんの心理・行動 症状の悪化を招くという悪循環をもたらす事にもなる。認知症ケアは一人ではできない。多くの心理・行 動症状は、患者さんに合わせて統一された継続したケアによって症状が落ち着く為 9)、チームの他のメ ンバーに対応を協力してもらう、受け持ち患者数や業務内容を考慮する、急性期であれば患者さんの 精神安静を図る意味で、状態が落ち着くまで家族に付き添いを依頼するなどの対策をとることも必要で ある。 ここで述べた、認知症高齢者看護の基本的姿勢は、すべてパーソン・センタード・ケアの視点に沿って書 かれた内容です。実際、できている対応やこれから参考にしていきたいと思った対応があったと思います。 大切なのは、自己のケアが認知症高齢者の尊厳を十分に配慮されたケアであったかを考え、可能な限りの 対応していくことです。対応が困難に感じた時にこそ、冷静に対応することが必要です。 この基本的姿勢を念頭においてp19 からの「2.症状別対応」を参考に認知症高齢者の尊厳が保たれた 看護の実践をして下さい。 <参考文献> 1)2015 年の高齢者介護―高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けてー,高齢者介護研究会報告書, http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/index.html,2003. 2) トム・キッドウッド著 高橋誠一訳:認知症のパーソンセンタードケア,筒井書房,2005. 3) 認知症介護研究・研修大府センター監:Evaluating Dementia Care The DCM Method その人を中心としたケアをめざしてーパ ーソン・センタード・ケアと認知症ケアマッピングー日本版 2 版,認知症介護研究研修大府センター,2006. 4) 水野裕著:認知症ケアに携わるすべての人のために パーソン・センタード・ケアの理念,看護学雑誌,69(10),P1212- 1217,2005. 5) 日本認知症ケア学会編:認知症ケア標準テキスト 認知症ケアの基本,P66,ワールドプランニング,2007. 6) 高崎絹子ら編:最新老年看護学,P243,日本看護協会出版会,2005. 7) 日本認知症ケア学会編:認知症ケア標準テキスト 認知症ケアの実際Ⅰ・総論,P70,ワールドプランニング,2007. 8) 北川公子著:Ⅱ認知症の人の日常生活の理解とケア 認知症の人とのコミュニケーションとそのスキル,看護技術,53(12), P31-34,2007. 9) 六角僚子著:認知症のケアの考え方と技術,P55,医学書院,2005. 10) 松下正明,金川克子監修:個別生を重視した認知症患者のケア,医学芸術社,2007 - 16 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 2.症状別対応について ① 転倒 事例1 下肢の力が弱いのにもかか わらず自分で動いてしまって 転倒の危険がある。 なぜ動こうとしてしまうのでしょうか? 認知機能の低下や適応力、判断力の低下も加わり新しい環境への不適応がおこります。自 分は「これはできる。 」と思って行動しても、実際には身体機能が伴わず転倒しやすい状況 にあると考えられます。また、「危険」という自覚が持てないことも転倒につながる要因と 考えられます。 また、認知症でみられる「多動」という症状に着目して関わりを考えてみてはどうでしょ うか。 「多動」とは、中核症状である記憶障害、見当識障害、実行機能障害などを基盤とし、 不安感、不快感、焦燥感、などの心理的、身体的、環境要因により、身の置き所のなさと緊 張から精神的活動性が高まり、落ち着きがなくなる周辺症状です。 どのように対応したらいいでしょうか? ① 患者さんが安心感を得られる工夫を! 何度も起きあがろうとしたり、落ち着きのない様子がみられる「多動」についても、私た ちが「この人は何がしたいのかな?」と本人に対し意思確認を行い、対応するという関わ りが必要です。 「その人が行うこと、言うことにはすべて潜在的意味がある。 」ととらえた 関わりが大切です。自分の意思や苦痛をうまく表現できない患者の表情や身振りに注意を 払い、相手のメッセージを受け止める努力をしてみましょう。 ② 転倒・転落の予防対策を行いましょう! 転倒・転落の予防のために院内の「転倒・転落アセスメントチャート」に基づき、対策を とって下さい。ベットサイドには「排泄時 NS コールの説明を」のポスターを置き、スタ ッフや家族へもアピールし、みんなで患者さんの安全を守っていきましょう。 ③ 基礎疾患を考えましょう! 認知症のなかでも「レビー小体病」はアルツハイマー型認知症に比べ、パーキンソニズム を呈するため、転倒による事故発生が多いといわれています。 ④ 転倒多い場所・原因を知る! 当院での転倒の多い場所の第一位は「病室」、何がしたかったのかという目的の一位は「排 泄」という結果がでています。病室での環境整備、排泄パターンの把握、排泄行動の観察 など行動を予測した援助方法を工夫しましょう。 - 17 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ② 暴力行為 (攻撃的行動) 事例1 事例2 体位変換・おむつ交換などケア時、手で払い のけられたり、殴られたりしてしまう。 治療行為に必要な酸素を装着する と手が出て殴られてしまう。 なぜ、手がでてしまうのでしょうか? 事例 1:記憶障害や見当識障害から、病院に入院したことが理解できないかも知れません。お むつに排尿していても尿意が分からず、排泄したことすら忘れていたり、看護師に「何かされ るかも知れない」と警戒心を持たせてしまっているかも知れません。また、何の言葉かけもな く体に触れたりして、相手の自尊心を傷つけてはいませんか。排泄の介助は患者さんにとって 羞恥心につながるケアです。羞恥心のあまり手がでてしまうことは考えらませんか。 事例2:認知症の方は、症状や部位、苦痛などを的確に訴える事ができません。 「怒りっぽくな った。行動が落ち着かない。 」という行動は、その背景にあるもの(認知症の症状、環境の変化、 薬の副作用、身体疾患等)を見極める必要があります。安静の必要性を理解出来ないために、 効果的な治療、安静保持ができず回復が遅れる可能性があります。しかし、状況が理解出来な い訳ですから、行動を無理におさえようとしても、不安と混乱を助長させるばかりです。酸素 チューブも患者さんにとっては異物です。治療行為に必要な酸素だからといやがるのを無理に 装着していませんか? どのように対応したらいいでしょうか? 事例1:①患者さんの同意の有無を確認してケアを行いましょう!相手が興奮していると、つ いこちらも興奮してしまいます。まずは心を落ち着けましょう。そして、ケアを行う時は、 まずは相手の意思を確認して同意を得てから行うように心掛けます。耳の遠い患者さん、目 の見えにくい患者さんもいます。相手の存在している五感を通して働きかけ、コミュニケー ションを図っていくことが必要です。何も分からないまま身体に触れることは、誰でも不安 な気持ちで一杯になることでしょう。 ②ケアをされる患者さんの立場を自分と置き換えて考えてみましょう! 排泄援助は羞恥心をともなうものです。少しでも羞恥心が軽減されるような援助を考えてみ ましょう。おむつを外したら交換するまでの間、タオルを当て陰部を隠しておく、おむつ交 換時もまわりに他者がいることも考慮し、耳元で患者さんだけが分かるように声のトーンを 配慮する、ジェスチャーで表現するなども検討してみましょう。 事例2:患者さんの負担が最小限になる治療の相談を!「今は治療が第一」という状況であれ ば、主治医の鎮静の指示のもとで、必要な治療を行います。病状が落ち着けば速やかに離床 をすすめていきましょう。治療のみで患者さんを看ていると、廃用症候群により ADL が低下 します。そんなときは、患者さんにとって医療行為の負担が最小限となる方法を医師と相談 してはどうでしょうか。24 時間の持続点滴ではなく、「夜間の点滴ロック」でも可能か医師 に相談してみてはどうでしょう。患者さんにとっては、24 時間点滴で体動が抑制されること は、睡眠の妨げになりひいては行動症状の出現につながるものなのです。 ②身体的苦痛だけでなく精神的苦痛、不安の表現方法ということも!酸素チューブをはずして しまう行動の裏側に、この行為を行うことで「誰かがそばにきてくれる。」という淋しさから くるこのような行動につながるケースもありました。苦痛や不安を的確に表現しにくい認知 症の患者さんだからこそ私たち医療者が身体・精神をいろんな側面から的確にアセスメント し、関わっていく事が必要なのではないでしょうか。 - 18 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ③ 拒食・拒薬 事例1 嚥下には問題が無いのに食事を 食べなくなった。 事例2 食事後の薬を「後で飲む」と言って 時間がたっても薬を飲まない。 なぜ食事を食べないのでしょうか? 認知症は日常生活行動に障害が出現する病気です。 食事を食べない原因として、認知機能の低下による見当識障害や記憶障害や失認、失行、実 行機能障害、判断力・理解力の低下などによる食事の認識や食事方法の喪失、失語による嚥 下機能の低下、知覚・感覚機能の低下による視覚、視野障害、味覚、食感の変化などが考え られます。また、心理・行動症状の助長や憎悪の可能性も大きいと考えます(表1、表2) 。 どのように対応したらいいでしょうか? ①記憶に対する対応をしてみましょう!時間の記憶が無くなり、食事がいつなのか分からなく なります。スケジュールなどを作成してみたり、 「さっき食べましたよ」ではなく、 「次の食 事は○○時です」と伝えた上で、お腹が空いているのかどうか聞き、空いていればなにかお やつを渡してみる、話や散歩などで気を逸らせることをしてみてはいかがでしょうか? ②食事方法を考えましょう!声かけや手に食事器具をつかんでもらう、一口だけスプーンを患 者さんの手に持たせ介助してみるなど、きっかけさえあれば食べ始めることが出来る可能性 もあります。食事前に習慣としていることが無いか家族へ聞いてみるのもよいでしょう。 また、食べ方が分からない認知症の方でも、それを知られる事を恐れます。そのために食 べないといった手段をとることもあります。食べること、食べる物の理解はできても食べ方 が分からなければ手で食べてしまうこともあります。その時は、それが今の出来る能力と捉 え、見守り、少しずつ手順を思い出すのを待ちましょう。認知症の方は何かを理解する事に 時間を要します。根気よく待つことも大切です。適切に食べる方法が分からず早食いや詰め 込みなどがある場合は、手を止める、小茶碗・小スプーンにし小分けするなど食器を工夫す る必要があります。 ③環境を整えましょう!注意力が散漫で指示が入らず、理解が得られないことがあります。 落ち着きのないとき、トイレは済ませているでしょうか?それとも何か気になることがある のでしょうか?まず、注意が散漫になる原因を考える必要があります。それでもいろいろな 事に注意が向き食べられない場合は、一人で集中して食べられる環境を用意する必要があり ます。その上で、症状が憎悪、助長する場合は医師に報告、相談してみましょう。 ④食事に関する情報収集を!食事介助をするとき好みを聞いたりしていますか?本人の嫌い な物、好きな物をリサーチすることは、意思表示が困難な認知症患者さんの食事介助をする 上で大切なことです。嫌いな物を一番に口に入れる、薬が混ざった苦いご飯を一番に促す、 食事介助するタイミングが悪いなどで、食事を受け入れなくなってしまうことがあります。 何がきっかけで食べられなくなるかが分からないため、食事介助も慎重に行なうべきです。 ⑤専門分野へ相談を!嚥下機能の低下が考えられる場合は当院の摂食・嚥下の認定看護師 (南3階・西病棟)へ相談をしましょう。 - 19 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター なぜ薬を飲まないのでしょうか? 認知機能障害による理解力、判断力の低下により、 病気の理解と薬の必要性が理解できなくなります。また、見当識、記憶の障害により病気で 病院に入院していることや、治療していることも忘れてしまうと、自分の知らない人(看護 師)が知らない薬を勧めても内服できないのは当然です。さらに心理症状である不安、気分 障害、猜疑心などがあると不安が増強し、さらに猜疑心が増強し、殺されるのではないかな ど妄想まで出現し、拒薬の助長や憎悪へ発展してしまいます。 どのように対応したらいいでしょうか? ① 入院前の内服はどのようにしていたのかを確認する必要があります。まず、いつ内服して いたのか?食後すぐなのか、少したってからなのか?それとも食事中なのか?どのように 内服していたのか?粉と粒では別々に内服していたのか?オブラートを使用していたの か?何かに混ぜて内服をしていたのか?出来るだけこれまでの内服方法を継続させるこ とが必要だと考えます。 ② 食事に混ぜて食べる事は拒食につながる可能性もあります。できるなら始めに説明をし、 食事後に内服してもらうように心がけましょう。苦い薬や水分での内服が困難な場合は食 べやすくするために、食事やゼリーなどに混ぜることも必要になることがあるかもしれま せん。その時はスプーン 1~2 杯で済むようにするなどの工夫が必要です。 ③ 医師と相談して出来るだけ薬の整理することも考えてみてはいかがでしょうか? (例えば毎食後の薬を朝と夕へ変更するとか、夕と就前の内服をどちらかにまとめるな ど)また、気分障害などの場合は人や場所を変え、時間を遅らせるなどあらゆる手段を試 してみてください。 表1 認知障害による摂食行動への影響 認知機能障害 食への影響 認知症症状と問題 記憶障害 によるもの ・いつ食事を食べたか分からない ・次の食事がいつなのか分からない ・食べる方法や手順を忘れる ・食事の時間を繰り返し聞く ・手で食べる、食べ始めない 食器類が上手く使えない 失認 空間認知障害 によるもの ・食事器具や食事がどこにあるのか分 ・食べ始めない。手で食べる からない 食器類が上手く使えない ・食べ物だと理解できない ・食べない、吐き出す、異食 ・ケア拒否 言語障害 によるもの ・食事の好みを意思表示できない ・嫌いな物を口から吐き出す ・食事時の色々な指示を理解できない 嫌いな物を進められると拒否する 実行機能障害 によるもの ・社会的に認められない食事時の行動 ・盗食 ・早食い ・消化器症状(下痢など) ・食事を口に詰め込む ・食物による窒息 Jacqueline Kindell 著,認知症と食べる障害,P3,医歯薬出版株式会社,2005 より引用 - 20 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 表2 非認知的障害による摂食行動への影響 周辺症状 食への影響 落ち着かない状態によるもの ・食卓に座っていられない ・食事に集中できない ・エネルギー要求量の増大 攻撃性によるもの ・他人の手助けを受けいれない ・食卓に座ることの拒否・食事摂取の拒否 ・食事介助者に食べ物を投げる うつ病によるもの ・食欲不振・拒食 ・食べる動作が遅く、長時間を要する 妄想によるもの ・食物や食事を出す人に対する妄想的想像に起因する拒食、例 えば「食物に毒が入っている」と思い込む 幻覚によるもの ・幻覚のために食事に集中できない。例えば「食卓に虫がいる」 Jacqueline Kindell 著,認知症と食べる障害,P3,医歯薬出版株式会社,2005 より引用 <文献> 1)六角僚子:認知症ケアの考え方と技術 認知症の人の日常生活を支える援助技術,P72-84,医学書院,2005 2)岡村真由美:認知症患者のケアで困っていること 与薬を拒否する,P43,Expert Nurse,2006 3)Jacqueline Kindell 著,認知症と食べる障害,P3,医歯薬出版株式会社,2005 - 21 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ④ 徘徊 事例 「家に帰りたい」と廊下を 歩き回り、病棟から出て行こ うとする行動が繰り返し見 られる なぜ徘徊をするのでしょうか? 徘徊している患者さんをみて、ただ歩いていると見てはいませんか?徘徊と聞くと一見、何の目 的もなく歩き回っているように感じられますが、実は何らかの理由が存在し、患者さんにとって目 的のある行動である場合が多いと言われています。しかし、患者さん本人は認知機能障害によ り、なぜ歩いているのかを言語化できなかったり、歩いているうちに忘れてしまうために、周囲にそ の理由を伝えることができず、歩き回る理由が周囲には理解されないことが多いのです。このよう な認知機能障害が原因となっているだけでなく、気分や情動の障害や不安感や緊張感からも徘 徊することがあります。1)2) 事例の患者さんの場合、入院したことを認知機能障害によって理解できず、見知らぬ場所にい るという強い不安感、孤独感が徘徊につながっていた可能性があります。あるいは、トイレの場所 が分からず、家に帰れば排泄できると、ひたすら捜し歩いていたのかもしれないし、便秘など身体 に不快があり、どうにかしてほしいという思いから徘徊していたとも考えられます。このように、 様々な要因が徘徊いう行動に結びついているため、先ずは、徘徊の要因(表3)を知ることが大切 となります。 どのように対応したらいでしょうか? ① 徘徊している患者さんの気持ちを汲み取りましょう!事例のような「家に帰りたい」という訴え は、入院当初や夕方になると聞かれることがあります。こんな時、「バスもタクシーもないから 帰れないの」と説得しようとしていませんか?訴えを頭ごなしに否定すると感情的になり、徘徊 が悪化することになりかねません。誰でも訴えを頭から否定されれば腹が立ちます。その感情 を上手く表出できないのが認知症患者さんなのですから、徘徊という行動にでてもおかしくな いのです。家に帰れば徘徊が落ち着くとは限らないため、先ずは患者さんの「家に帰りたい」と いう気持ちを汲み取ることが大切です。そして「こちらでも食事を用意していますので、食べて いって下さい」と説明し、少し談笑の時間を持つことで、気分を変えることができればと思いま す。物を探すための徘徊の場合も同様に、相手の「探している」という気持ちを理解し、「一緒 に探させて下さい」と言い一緒に探しながら、休息を促し一時中断させると気分が変わり、徘 徊が落ち着くことがあります。 ② 要因に合わせた対応を! 徘徊の要因は様々ですが、「不安」や「寂しさ」などの心理的ニード や「空腹」や「排泄」などの生理的ニード、便秘や痛みなどの身体症状が要因になっていること があります。徘徊していたら、まずはさりげなくトイレに案内してみたり、可能であればお茶や 軽食を勧めてみるなど、生理的ニードへの援助をしてみてはいかがでしょか?また、不安感や 緊張感が強い場合は、静かな場所で話をゆっくりと聞いたり、お茶を勧め気分を落ち着かせ る、患者さんの興味のある話をする等、患者さんの感じている感情に共感しながら一緒に同じ 時を過ごすことをおすすめします。身体症状に対しては、排便のコントロールや水分補給、疼 痛コントロールなど原因となる症状の緩和を図りましょう。 - 22 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ③徘徊中も適度に声をかけ、患者さんの居場所を確保しましょう!離棟につながらないから歩き っぱなしでいいと安心していませんか?離棟につながらない徘徊の場合であっても離棟しない からと安心してはいけません。離棟の危険の有無に限らず、患者さんによっては一人で徘徊し ているうちに、孤独感や不安感、焦燥感が増して徘徊が悪化することがあります。徘徊中に声 をかけたり、一緒に歩いたりと、患者さんが「自分はここにいてもいいんだ」と感じ、安心して徘 徊ができる環境(居場所の確保)を整えましょう。また、患者さんは入院加療が必要な状況にあ るため、歩きすぎて疲労している場合は、休息を促すことも心がけましょう。 歩き続けることで疲れ、転倒したというケースも報告されていますので注意しましょう。 特に、前頭側頭型認知症やピック病の患者さんの場合、前頭葉障害のために行動が抑制でき ず、徘徊することがあります。この場合、無目的で常同的な徘徊であるため、無理に徘徊を抑 制せず、適度に休息を取り入れることを習慣化させる援助が必要となります。 ④安全の確保をしましょう!患者さんは、認知機能が低下により適切な判断や対処行動をとるこ とが困難となっています。徘徊しても安全な環境を整えましょう。また、離棟の危険が高く、安全 の確保が難しいのであれば、西病棟へ相談しましょう! 表3 徘徊の要因 1.認知障害によるもの 自分がどこにいるのか分からない、時間が分からないなどの見当識障 害のため、状況を正しく認識できず困惑したり不安にかられて徘徊し てしまう 2.幻覚・妄想などの精神症状に基づくもの 幻聴や被害妄想などの精神症状から不安感や興奮状態を呈し、徘徊し てしまう 3.身体状況に基づくもの 便秘などの身体症状を言語化できず徘徊してしまう 4.欲求によるもの 家族や知人に会いたい、あるいは食べ物を探す、トイレの場所が分か らないため徘徊してしまう 5.無目的なもの 漠然とした不安感があり、自分の居場所を求めて歩き回る 6.新しい環境に対する不安、不満、違和感 施設への入所など、新しい環境に対して慣れていないために不安感な などによるもの どを抱き徘徊してしまう 7.過去の生活の中で生活している 過去と現在とを混同し、混乱をきたして徘徊してしまう 8.常同的なもの 目的はないが同じ場所を繰り返し歩き続ける 岡田良子:老年期痴呆の治療と看護,南江堂,p66-68,2002.より引用 <文献> 1) 日本認知症ケア学会編:認知症ケア標準テキスト 認知症ケアの実際Ⅱ・各論,P70,ワールドプランニング,2007. 2) 中智美著:Ⅱ認知症の人の日常生活の理解とケア 認知症の人の BPSD(行動・心理症状)への看護アプローチ①:徘徊,看護技術,53(12),P67-71,2007. 3) 岡田良子:老年期痴呆の治療と看護,南江堂,p66-68,2002. - 23 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ⑤ 事例1 同じ事を何度も言ったり 聞いたりする 事例2 辻褄の合わない話をする 話を聞いてくれない コミュニケーション困難 なぜコミュニケーションが困難になるのでしょうか? 認知症には失語によって、言語的コミュニケーションが困難となる場合があります。さらに、記憶 力の低下や判断力・理解力の低下による情報処理の困難さや記憶・見当識障害による語彙の減 少、流暢性の低下、言葉の意味理解などの障害によってコミュニケーションが難しくなります。 事例1では、近時(分、秒単位)記憶障害があるため自分が言ったことを忘れ、忘れるという不安 が強いために人に聞いて安心を得ようとします。この時、人が忙しそうにしていても不安が強いほ ど、付きまとい、同じ言葉を繰り返すことになります。人のことを考えないわけではなく、自分の不 安を何とかしたいと思うが故の行動なのです。 事例2で考えられる障害は言葉の意味理解、視覚、聴覚障害による言葉の読み取りに関する 能力の低下、失語による文法障害などが考えられます。看護者自身が「認知症だから『コミュニケ ーションなんて図れない』とか『何も分かっていない』と思っていないか」と自分に問いかけてみまし ょう。コミュニケーションすべてが出来ないわけではありません。私たち人間には、雰囲気を読み 取る能力や感情による表現能力など、経験の中で積み重ねてきた能力もあるのです。そのような 能力は認知症の患者さんにも残っている可能性があります。そして経験から得た能力は最後まで 残されている方が多いのです。 コミュニケーションは一方的に出来ることではありません。また、話す事だけがコミュニケーション でもありません。まず効果的なコミュニケーションを図るためには、認知症患者さんのコミュニケー ション能力を知ることが重要な手がかりとなります。 どのように対応したらいいでしょうか? 事例1:同じ事を繰り返し言う患者さんに対しては「さっきも言ったでしょう?」という言葉は何の解決 にもなりません。まず、言ったことを忘れてしまっているだけならば、根気よく答えることが必要で すが、大体の繰り返しの言葉には裏側があります。そして、それが何かを探ることが解決の糸口 になります。例えば「次のご飯は何時?」と繰り返す患者さんに対し、「○時ですよ。どうしてです か?」と聞くと「ご飯支度をしようと思って」と答えます。さらに話を聞いていくと「息子がおなかを空 かせているから」と言われ、家の事を心配しているようにも聞こえますが、実際、本人が一番空腹 であったりします。 この時、その人に繰り返し「○時です」と答え続けても、全く解決しないことがお分かりいただけ ると思います。これまで、認知症患者さんに「なぜ?」「どうして?」と聞いてはいけないと思われて きましたが、現在では認知症患者さんの行動には目的や根拠があるとされています。 それらを表現する能力に障害はあるかもしれませんが、話す事、意思の表現ができる患者さんに 対しては聞いてみることも手段の一つだと考えます。 - 24 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 事例2:コミュニケーションが一方的になっている可能性があります。まずは認知症患者さんが表現 するコミュニケーション(コミュニケーション手段表4)を理解し、それに合わせてコミュニケーション を図ってみてください。まずはバイタルサインの測定中、患者ケアを行なっている間は患者さんの ことだけを考え、コミュニケーションを図る時間に変えてみませんか?少しずつでも患者さんとの 効果的なコミュニケーション(効果的コミュニケーション表5)が図れれば信頼関係が早期に築け るでしょう。 当たり前のことが当たり前に必要であるといわなければならなくなっているのが、認知症の看 護です。何も言わなくても分かってくれると思わず、分かってくれるように何度でも語り合いましょ う。そして分かり合いましょう。 表4 コミュニケーション手段 言語的 コミュニケーション 全 体 の メ ッ セ ー ジ 話し方、声、言語 の 10% 非言語的 コミュニケーション 全 体 の メ ッ セ ー ジ 表現:話す速度、声の高低、抑揚 の 93% 身体の位置:聞き手との距離(目の高さ) 身体の向き 身振り:手の動き 接触:触れるときの優しさ 表情、アイコンタクト:関心、情緒、共感を表す 外観:服装、ヘアスタイル、化粧、匂い 環境:住宅、音楽、友達の選択 Mary Jo Santo Pietro:痴呆を生きる人とのコミュニケーション・マニュアル,P2,じほう,2004 より引用 表5 効果的なコミュニケーション 効果的コミュニケーションを行なうことは 1 時間を節約する 繰り返し聞く行動が減ることにつながれば時間の短縮になる 2 失敗を未然に防ぐ 失敗を回避できる指示が理解できたら失敗が防げる 3 気持ちを落ち着かせる 4 破局的行動を防ぐ 看護師と患者さんの互いの気持ちを落ち着かせ、破局的行動を 防ぎ、看護師はストレスを軽減することも出来る 5 無力感を防ぐ 6 孤立感を防ぐ 7 個人的絆を深める 8 自尊心を高める 9 ストレスを軽減できる 10 軽費を削減する 看護師や患者さんの互いの事について(抱えている問題や背景、 好き嫌い)などを知り合うことによってお互いに認め合える存 在となり、自尊心をも高めることができる これらの事が、患者さんだけでなく、看護師のストレスも軽減 することにつながる Mary Jo Santo Pietro:痴呆を生きる人とのコミュニケーション・マニュアル,P5,じほう,2004 より引用 <文献> 1)中島紀恵子:認知症高齢者の看護 認知症高齢者とコミュニケーション,P49-55,医歯薬出版株式会社,2007 - 25 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ⑥ 譫妄 起こしやすい間違い 入院して間もない患者さんに対し、よく間違えられるのが、本当は譫妄を起こしているのにスタ ッフによって認知症と誤って認識されてしまうことです。一旦、患者さんを認知症と思い込んでしま うと譫妄であるかの観察を怠ってしまいがちになります。まずは認知症であるか、それとも譫妄で あるかの判別が必要です。 <一般患者さんの場合> 老化による機能低下+譫妄となる要因=譫妄による認知機能低下 <認知症の場合> 認知症による認知機能低下+老化による機能低下+譫妄となる要因 =譫妄による認知機能の低下(特に、心理行動症状の悪化) 認知症であっても、譫妄となる要因が発生することで譫妄を起こします。認知機能が低下してい る認知症患者さんは一般の高齢者よりもさらに譫妄を起こしやすい状況にあります。 認知症患者さんの譫妄では主に心理・行動症状の悪化や新たな心理・行動症状の出現があり ます。しかし、これらは、一般的な譫妄同様に要因が除去されることで軽快します。 そのため、認知症患者さんが譫妄を起こした際に、認知症が進んだと捉えるのではなく、起きて いる症状は一過性のものである可能性が高いことを理解し、心理・行動症状の緩和のための援助 をすることが望ましいといえます。 基本は認知症看護 一般の高齢者であっても認知症高齢者であっても、患者さんが譫妄を起こした際に、スタッフが 患者さんをどう捉え、対応するかによって譫妄消失後の患者さんに影響を与える場合がありま す。例えば一般の高齢者患者さんが譫妄を起こしたことで、認知症だと思い込まれ「負担であ る。」「厄介である。」と思われたり、認知症が悪化してさらに何もできなくなったと判断されること が、患者さんに疎外感や不安感、絶望感を与えることになりかねません。 このような状況は療養意欲の減退を招くだけでなく、人として患者さんの尊厳を侵すことにもつ ながります。一般高齢者であっても認知症高齢者であっても譫妄が起きたとき譫妄かどうかをじっ くりと観察し見極め、一人の人として対応すること勤めましょう。 P15~P18 「Ⅱ認知症の看護と基本的姿勢 1.基本的姿勢と考え方」参照 - 26 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 事例 肺炎で入院し、酸素と点滴が開始される。日中は安静にしていたが、夕方 ごろより落ち着かなくなり、ルートを自己抜去することが続いた。肺炎が治 まると、同時にルートを自己抜去する行動はなくなった。 ① まずは全身状態の観察を!自己に起きている状態が理解できず、息苦しさなどの症状を訴 えられず、コミュニケーションも困難であると、譫妄となって症状が現れることがあります。 病状が悪化しても訴えることが困難な認知症の患者さんの多くは、譫妄となって症状が 現れていることがあります。身体疾患が原因となっていることも多いため、まずは全身 状態を観察してみましょう。身体疾患が原因の場合、状態の安定と共に譫妄も落ち着き ます。そのときは、まず治療優先に考えましょう。 ② 環境の配慮をしましょう!入院するだけでも環境の変化はあり、精神的なストレスとな っています。さらに見慣れた人や物から離れて生活するため不安も大きくなります。 できるだけ落ち着ける環境の配慮(接する態度、時間、見慣れた物、人や物の位置、な ど)をしましょう。家族の協力も必要なときがあります。しかし、譫妄は本人だけでな く、周りへも影響します。家族やスタッフの理解が鍵です。医師からの説明で家族がど の程度理解し、協力を得られるか事前に情報を得ておくことも必要です。 ③ 入院初日が肝心!入院して譫妄になる話しは良く聞きます。特に入院して譫妄となりや すいのが認知症患者さんです。入院時、安心した環境を作るためにも、患者さんに接す る時間(落ち着いて話せる時間、場所)をできるだけ多くとり、また患者さんが良く知 る人物を知っておくことが、後に役立つことになります。知らないところに来て知らな い人に囲まれ、不安でいっぱいの時、自分のことを良く知り、また、自分の良く知る人 のことも知っている人が現れたらどんなに心強く、不安も軽減されることでしょう。 ④ 「転倒」「攻撃的行動(暴力行為)」「拒食・拒薬」「徘徊」「コミュニケーション困難」に関連する 譫妄は症状別対応についての P19~P28 を参照ください <参考文献> 1) 日本老年精神医学学会 編:総論 老年精神医学講座,P40,ワールドプランニング,2004 2) 平井俊策他:老年期認知症ナビゲーター,P180,株式会社メディカルレビュー社,2006 3) 日本老年精神医学会 BPSD 痴呆の行動と心理症状,P40, アルタ出版,2005 - 27 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター Ⅲ.国立長寿医療センターでの認知症医療・看護 1.もの忘れ外来 もの忘れ外来 2001年4月に開設、毎日午前・午後(木曜日は午後のみ)に神経内科医4名、精神科医2名 老年科医2名が診療にあたっている。診療は完全予約制で一日平均約16名の診療を行っている。 もの忘れを主訴に受診された場合、認知症かどうかの鑑別が重要である。初診時には患者・家族からの 病歴聴取、一般身体所見、神経学的所見、ミニメンタルテスト(MMSE)を行い、45~60 分を要する。 再診時には画像を含めた検査結果の説明とその時点で考えられる診断を告げ、治療方針について相談 する。この際にも 30 分~45 分の診療時間を設定し、患者・家族への指導を行っている。 以下にもの忘れ外来の初診時のフローチャートを示す。 患者初診 ↓ 病歴をとる 既往歴: 高血圧、糖尿病、頭部外傷、うつ病、 使用中の薬剤 現病歴: 教育歴: 家族歴: 認知症、ダウン症、パーキンソン病など ↓ 初診時診察 神経学的所見、一般身体所見、MMSE ↓ 血液検査 血算、血液生化学、甲状腺機能、ビタミンB1 B12、HbA1c、梅毒検査 ↓ 画像検査、神経心理学的検査予約 ↓ 患者再診 ↓ 検査結果の説明 ↓ 治療方針の説明・家族への教育 初期診断が終了し、治療方針が決定した後はかかりつけの医師に紹介し、地域の診療所と連携 を取っている。 - 28 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 2.脳機能病棟(認知症専門病棟):南 1 病棟 当病棟は認知症を持つ患者さん(特に心理・行動症状のある方・離棟の可能性のある方)を対象と しています。パーソンセンタードケアを理念とし、認知症を持つ患者さんが良い状態で入院生活が送 れるように心がけています。病棟の構造は一般病棟と大きな変わりはありませんが、患者さんが安心 できる環境づくりを目指しています(参考:PEAP 日本語版3) 。 南 1 病棟の方針 1.温かい思いやりの心を持って患者様と向き合 います。 2.安全で安心して治療を受けていただけるよう 環境づくりを目指します。 3.暮らしの中でご自分でできることを広げる お手伝いをさせていただきます。 南 1病 棟 見 取 り 図 食 堂 ・ラウ ン ジ パーテーション スタッフステーション パーテーション 浴室 =病室 出 入 り口 - 29 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター Ⅳ.資料 ≪資料1≫ 簡易精神機能検査(HDS-R、MMSE) 氏名 性別 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 検査日 男 女 教育年数 平成 年 年 月 利き手 質問内容 お名前は? お年はいくつですか?(2 年までの誤差は正解) 今日は何年の何月何日ですか? 日 曜日 左 右 年 月 日 曜日 (時計を見せながら)これは何ですか? (鉛筆を見せながら)これは何ですか? これから 5 つの物品を見せます。それを隠しますので何があったか言ってくだ さい。(相互に無関係なもの) 知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。 (途中で詰まり、10 秒間待ってもでない場合はそこでうち切 る。 0-5=0 点 6=1 点 7=2 点 8=3 点 9=3 点 10=5 点) (何か文章を書いてください。) (次の図形を書いてください) 合計 眼を閉じてください 15 文章→ 16 模写 - 30 - 歳 検査者 HDS-R 今の季節は何ですか? 私たちが今いるところはどこですか?(自発的に出れば 2 点、5 秒おいて、家で すか?病院ですか?施設ですか?の中から正しい選択をすれば 1 点) ここは何病院ですか? ここは何階ですか? ここは何県ですか? ここは何市ですか? ここは何地方ですか?(例:東海地方) これから言う 3 つの言葉を言ってみてください。後でまた聞きますのでよく覚 えておいてください。(以下の系列のいずれか 1 つで、採用した系列に○印をつ けておく。) 1:a)桜 b)猫 c)電車 2:a)梅 b)犬 c)自動車 100 から順に 7 を引く(5 回まで) 。 (93) あるいは「フジノヤマ」を逆唱させる。 (86) (79) (72) (65) 私がこれから言う数字を逆から言ってください。 (6-8-2、3-5-2-9 を逆に言ってもらう。3 桁逆唱に失敗したら、うち切る) 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってください。(自発的に回答があれば 各 2 点、もし回答がない場合以下のヒントを与え正解であれば 1 点) a)植物 b)動物 c)乗り物 次の文章を繰り返す。 「みんなで、力を合わせて綱を引きます」 (3 段階の命令) 「大きい方の紙を持ってください」 「それを半分に折りたたんでください」 「私に返してください」 下に書いてある文章を読んで、その指示に従ってください。 11 年齢 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 0 1 MMSE 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 評価内容 自己認知 時間の見当識 場所の見当識 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 0 1 0 1 a:012 b:012 c:012 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 記銘 集中・計算 記銘 0 3 1 4 2 5 0 3 1 4 2 5 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 0 0 1 1 言 語 機 能 文の復唱 文字の理 解・記憶 文字の理 解 物品呼称 視覚記憶 0 1 0 1 /30 再生 言 言語の流 語 暢性 機 能 作文能力 構成 /30 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 認知機能障害の有無を簡単に判断できるスクリーニングテストを以下に掲載するので、活用してい ただきたい。 ≪資料2≫入院時認知症簡易スクリーニング 1.お年はおいくつですか 1)正確に答えることができる(2 年までの誤差は可) 。 2)年齢を答えることができず誕生日を言おうとする。 3)年齢も誕生日も言うことができない。 2.今から 3 つの言葉を言うので私の後で繰り返して言ってください。(梅・犬・自動車) 2 回繰り返しても 3 つ覚えられない 3.今日は何月何日ですか? 今の季節は春、夏、秋、冬のどのあたりですか? どちらも答えることができないか、月と季節がくいちがう。 4.さっき覚えてもらった 3 つの言葉はなんでしたか? 全く思い出せないか、1 つだけ思い出せる。 * 赤字の所見が一つでもあったときには認知症の疑いとし、 HDS-RやMMSEなどのスクリーニングテストを行う。 - 31 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター ≪資料3≫ 譫妄・不穏患者のアセスメントガイド 入院時は環境の変化により譫妄になりやすいため、事例の対応のところでも述べたように、でき るだけ落ち着ける環境を調整することが重要です。場合によっては、家族の協力も必要なときがあ ります。そのため、医師からの説明を家族がどの程度理解し、協力を得られるか、可能な限り症状 が出現する前に情報を得ておく必要があります。 入院時に、下記の「譫妄・不穏患者のアセスメントガイド」を使用し、チェックを行い、家族に 説明しておくことで、急に譫妄が発症しても家族のご理解や協力を得やすいと思います。 ぜひ御活用下さい。 【入院時】 □①入院患者の転倒・転落アセスメントシート認知症群に属する □②以前の入院で不穏・譫妄になったことがある □③入院時認知症簡易スクリーニングでチェックあり (認知症看護マニュアル P8 参照) □④ライン類が挿入されている □⑤睡眠障害がある □⑥緊急入院である □⑦治療のため安静が強いられている ①~③のうち1項目以上のチェックあり もしくは ④~⑦のうち3項目以上のチェックあり ◎説明・確認事項 日付 サイン ・家族等に高齢者の入院による譫妄・不穏について説明 □( / )( ) ・入院中に不穏・譫妄状態になった場合の付添いが可能か確認 □( / )( ) □( / )( ) (上記を説明したことと付添いの可否と時間帯についてカルテに記載する) ・必要時、身体拘束の可能性について説明を行い、承諾を得る - 32 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 認知症看護経過記録用紙記載要領 ≪資料4≫ 1:用紙の利用法 ① 一日 1 枚の記録用紙とし、状態の経過を追って把握できるようにする。 ② 睡眠状態と睡眠に影響された行動のアセスメントを行う ③ 排泄行動の状態・間隔から排泄障害へのアセスメントを行う ④ 内服の服用時間と、睡眠・精神状態から睡眠・休息のアセスメントを行う ⑤ 患者さん個々の行動を把握し、認知症の症状のアセスメントを行う ⑥ 看護の介入や、ケアの関わりなどが患者にどのような影響を与えているかを分析する。 ⑦ 看護問題に合わせてサマリーの部分でどのような関わりを行い、どのくらい影響された かをアセスメントし、分析することで統一した看護の介入へ役立てる。 2:記載方法 ① 一日A4 用紙一面一枚の記録とする。 ② 一時間毎の枠組みとし、各項目に合わせて記載する。 ③ 1~9 時、9~17 時、17~1 時、間の枠組みの中で各勤務帯の担当看護師が記載する。 ④ vs:各勤務帯のバイタルサインの記載 (フローシートは使用しない) ⑤ Bs:血糖測定をしている場合、測定時間の枠に記載する。 (インシュリン処置の場合内容 を記載する) ⑥ 食事:( )に食事内容を記載し、各勤務帯の枠に食事量を記載する。 ⑦ 尿:排尿を確認した時間枠の中に排尿時間(分)を記載する。失禁していた場合は排尿 時間(分)を○で囲む。Ex;15:30 に失禁していた場合・・・15 時の枠に 30 と記載する。 ⑧ 便/便処置:尿同様、時間枠に排便時間を記載する。便の性状・量も記載する。(排便量 について拳大を 1.0 とし、記載する)排便処置をした場合内容を記載する。 ⑨ 内服:服用時間を時間枠に記載 ⑩ 睡眠:浅眠状態= 熟睡状態= ⑪ 認知症症状:認知症症状チェック表を参考に症状を記載し有症状の場合時間枠の中に+ で記載する。 ⑫ ケア、処置、関わり:実施されているケア・処置・関わった内容を記載し時間枠の中に +で記載する。 ⑬ サマリー:#に対して看護計画に沿って看護記録を記載する。 Ex:どのような対応をし、それに対して反応はどうだったか?など ⑭ 身体症状の悪化、経過記録が必要な場合などは、経過記録用紙を使用し、経過を追って 事柄を記載する。(認知症患者記録用紙には別紙参照と記載する) - 33 - 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 平 成 年 月 日 ( ) 時 間 vs (時間) 1 2 3 4 5 ( )T P BP 6 7 Spo2 8 氏 名( 様 ) 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 ( )T P BP Spo2 ( )T P BP Spo2 BS 食 事 ( ) i n ( ml/日) 尿 ( ml/日) 便 ( 便 処 置) 便の性状・量 内 服 (服用時間) 睡眠 認 知 症 症 状 ケ MC(義歯確認) ア ヒップ プ ロ テクター ・ 離床センサー 処 排泄介助 置 陰部洗浄 ・ 関 わ り そ の 他 サ マ リー サイン ( ) サイン - 34 - ( ) サイン ( ) 認知症(dementia)患者の理解 国立長寿医療センター 平成 21年 7 月 1 日発行 国立長寿医療センター H20 年度 高齢者看護開発チーム 「認知症患者の看護」 監修:外来診療部長 鷲見 幸彦 - 35 -
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