確率日雨量の不確定性と標本サイズとの関係 Uncertainty of Estimated Daily Rainfall for a Specific Return Period and Sample Size ○近森秀高∗ ・永井明博∗ ・常盤太一† CHIKAMORI, Hidetaka∗ , NAGAI, Akihiro∗ and TOKIWA, Taichi† Relative frequency 1. はじめに 農地排水計画や河川計画策定の際に必要となる確率水文量の推定値は,推定に用い る標本サイズにより大きく変動する。安全な排水計画策定のためには,信頼性の高い確率水文量 の推定に必要な標本サイズを知ることが重要である。ここでは,確率日雨量の推定精度と標本サ イズとの関係について検討し,信頼できる推定値を得るために必要な標本サイズを調べた。 2. 年最大日雨量データの模擬発生と標本抽出 ここでは,まず,岡山地方気象台における 1891 – 2001 年の 111 年間,および徳島地方気象台における 1892 – 2002 年の 111 年間の年最大日雨量 データにGumbel 分布および対数正規分布を適応し,これらの分布から得られる確率日雨量を真値 と仮定した。次に,これらの分布に従う乱数 100,000 年分を発生させ,これらの乱数の集合からあ らかじめ定めたサイズ(大きさ)の標本を繰り返し抽出した。得られた複数の標本それぞれに改め て Gumbel 分布および対数正規分布を適応して確率日雨量を求め,これらの値を真値と比較した。 抽出する標本サイズは,10 個から 200 個まで 10 個おきの 20 通りとした。なお,Gumbel 分布の 適応には Gumbel の方法,対数正規分布の適応には岩井・角屋の方法を用いた。 0.5 3. 推定した確率日雨量の分布 岡山の日雨 True value of True value of 100-yr daily rainfall 10-yr daily rainfall (160.9 mm/d) 量データに適応した Gumbel 分布に従う模擬 (114.0 mm/d) 0.4 100-yr daily rainfall 発生データから得られた標本について,この 10-yr daily estimated from rainfall esti100-yr sample 標本に改めて Gumbel 分布を適応して得られ 0.3 mated from 100-yr sample 100-yr daily rainfall た 10 年確率日雨量および 100 年確率日雨量 estimated from 0.2 10-yr daily 10-yr sample の相対度数分布をFig.1 に示す。同図には,標 rainfall estimated from 本サイズを 10 個および 100 個とした場合の 0.1 10-yr sample Class interval: 5mm 分布を示している。なお,階級幅は 5 mm と 0.0 した。この図で,10 年確率日雨量の場合を見 50 100 150 200 250 300 ると,10 個の標本による推定値に比べて 100 10-year and 100-year daily rainfalls (mm/d) 個の標本による推定値の分布は集中しており, Fig. 1 Relative frequency of estimates of 10-year 標本サイズが大きい方が推定値のばらつきが and 100-year daily rainfall. (Gumbel distribution, Okayama). 小さいことが推測される。また,いずれの標 本サイズの場合も最頻値が真値よりも大きい。100 年確率日雨量の場合も 10 年確率の場合と同様 の傾向が見られるが,推定値の分布範囲は 10 年確率の場合よりも広いことが分かる。 また,岡山の日雨量データに対数正規分布を適応し同様の検討を行った結果,Gumbel 分布を適 応した場合と同様に標本サイズが大きい方が推定値の分布幅が広くなることが分かった。ただし, 分布の最頻値は Gumbel 分布の場合よりも真値に近い値をとった。 徳島における日雨量データについて同様の検討を行った結果,確率日雨量は岡山よりも大きく なったが,推定値の分布等の傾向は岡山の場合と同様であった。 4. 標本サイズによる推定値の変化とその不確定性 岡山の日雨量データに適応した Gumbel 分布 による模擬発生データから得られた標本について,標本から推定された確率日雨量の平均・標準偏 ∗ † 岡山大学大学院環境学研究科,Graduate School of Environmental Science, Okayama University 須賀工業株式会社,Suga Co. Ltd. キーワード:確率水文量,標本サイズ,不確定性 差と標本サイズとの関係をFig.2 (a)に示す。10 年確率,100 年確率いずれの日雨量の平均値も,標 本サイズが小さい場合は真値に比べてやや大きい値をとっているが,標本サイズが大きくなるに 従って次第に真値に近づいている。また,標本サイズが大きくなるに従ってエラーバーで示された 標準偏差が減少しており,これは推定値の不確定性の減少を示している。 Fig.2 (b) に対数正規分布を適応した場合を示す。この図では,推定値の平均は標本サイズが小 さい場合でも Gumbel 分布の場合に比べて真値に近い値をとっていることが分かる。標準偏差は, Gumbel 分布の場合と同様に標本サイズの増加に従って減少しているが,標本サイズが小さい場 合,例えば標本サイズが 10 個のとき,10 年確率日雨量の標準偏差はGumbel 分布で 19.1 mm/d で あるのに対し,対数正規分布では 14.0 mm/d と小さくなっていることが分かる。 5. 推定された確率日雨量の信頼性 確率日雨量に許容される誤差の評価は難しいが,ここでは, とりあえず真値との誤差 ± 10 % を許容範囲とすることにした。真値の± 10 % 以内の推定値の割 合と標本数との関係を Fig.3 に示す。この図は,岡山および徳島の年最大日雨量データに Gumbel 分布を適応し,これに基づいて模擬発生させたデータから標本を抽出し推定した確率日雨量につ いての検討結果である。 全国の気象台が所管する地上気象観測点では,少なくとも 40 年分の年最大日雨量データが利用 できる。そこで,標本サイズが 40 個の場合について調べると,誤差が許容範囲内である推定値の割 合は,Fig.3 (a) の岡山の結果では 10 年確率の日雨量で 79 %,100 年確率で 65 %,また,Fig.3 (b) の徳島の結果では 10 Daily rainfall (mm/d) 200 (a) Gumbel distribution Ave. 100-yr est. Ave. 10-yr est. Error bars show std. dev. 200 180 160 True value of 100-yr daily rainfall (160.8mm/d) 140 True value of 100-yr daily rainfall (150.8mm/d) 180 120 (b) Log-normal distribution Ave. 100-yr est. Ave. 10-yr est. Error bars show std. dev. 160 140 120 100 True value of 10-yr daily rainfall (114mm/d) 100 0 50 100 150 Sample size (year) True value of 10-yr daily rainfall (111.8mm/d) 80 200 0 50 100 150 Sample size (year) 200 Fig. 2 Statistics of 10-year and 100-year daily rainfall estimates and sample size (Okayama). 1.0 (a) Okayama 0.9 0.8 0.7 Gumbel Distribution 0.6 0.5 Return period: 10-year 20-year 100-year 0.4 0.3 0 50 100 150 Sample size 200 Ratio of estimates with uncertainty of 10% 1.0 Ratio of estimates with uncertainty of 10% %,100 年 確 率 で 58 % であった。 誤差が許容範囲内と なる推定値が全体の 90% 以上を占めるため に必要な標本サイズ(年 数)を調べると,10 年 確率日雨量の場合,岡 山で 70 年以上,徳島で 100 年以上,100 年確率 日雨量の場合は,岡山 で 120 年以上,徳島で 150 年以上となった。 同様の検討を,対数 正規分布についても 行った結果,10 年確率 日雨量の場合,岡山で 50 年 以 上 ,徳 島 で 80 年以上,100 年確率日 雨量の場合は,岡山で 120 年以上,徳島で 230 年以上のデータが必要 となった。 220 Daily rainfall (mm/d) 年確率の日雨量で 70 (b) Tokushima 0.9 0.8 0.7 Gumbel Distribution 0.6 0.5 Return period: 10-year 20-year 100-year 0.4 0.3 0 50 100 150 Sample size Fig. 3 Sample size and ratio of estimates with uncertainty of 10 %. 200
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