Vol.31, No.3(平成 22 年3月号) 白 金 耳 ごあんない ・来月の定期講習会 ・『Digital 白金耳』のご案内 赤木 征宏 定期講習会報告 ・『比較的稀な感染症 ~起炎菌を見落とさない~』 温井 正博 ばくとおやじの知識箱 ・ノロウイルス感染症 市村 佳彦 バイキン Quiz 坂本 雅子 (敬称は略させていただきました) 今月の定期講習会はお休みです。 -1- ん 講習会 な い あ テーマ : 『これだけは知っておきたい坑 MRSA 薬の基礎知識』 講 師 :星ケ丘厚生年金病院 薬剤部 森田貴子 日時:平成22年4月27日(火) 18:30~20:00 場所:大阪医療技術学園専門学校 (〒530-0044 大阪市北区東天満 2-1-30) 評価点:専門-20点(会員証をお持ちください) 参加費:会員500円、非会員3000円 連絡先:(財)大阪府警察協会大阪警察病院 赤木 征宏 e-mail:[email protected] バンコマイシンに代表される幾つかの坑 MRSA 薬です が、実際にはどのように使い分けされたり、効果を十 分に発揮させる為どのように投与量を調整したりする のでしょうか? 今回は星ケ丘厚生年金病院薬剤部の森田貴子先生 に、坑 MRSA 薬の使い方、副作用発現時の注意点、併用 禁忌などなど、我々が知っておかなければならない基 礎的な坑 MRSA の情報をご講演頂く予定です。皆様奮っ てご参加ください。 -2- 春暖の候、読者の皆様にはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 また、多くの皆様のお力添えのもと、大阪府臨床検査技師会学術部 微生物検査 部門機関誌『白金耳』が、めでたく Volume No.31を迎えることが出来ましたこ とを心から感謝申し上げます。 長きに渡り微生物検査情報誌として皆様のお手元にお送りさせていただいた 本誌ですが、この30年を一つの節目としてメール配信への全面移行を実施して いきたいと考えております。今後とも読者の皆様には、メール配信にて引き続き ご購読頂けますよう御願い申し上げますとともに、下記にお申し込み方法をご案 内申し上げます。 『Digital 白金耳』 ~申し込み方法~ ☆年間購読料 : 無料 ☆申し込み先 : 大阪警察病付属臨床検査センター 赤木 征宏 [email protected] ・ 上記の申し込み先メールアドレスに『白金耳購読申し込み』と題して、ご氏 名、ご所属、ご連絡先、ご送付先 e-mail を明記の上、送信下さい。登録完了 のメールを後日返信させて頂きます。 ・ 毎月、機関誌『白金耳』を PDF ファイルにて送付させて頂きます。PDF ファイ ルが閲覧可能なパソコン環境はご自身でご用意下さい。 ・ サーバーの維持管理等に金銭的な負担が生じない限り、原則無料にてご提 供させて頂きます。 ・ ご購読申し込みの後は、配信形態の変更、有料化、ご解約申し込み等の変 更が無いかぎり、年度を越えましても継続して配信させていただきます。 ※従来通りの印刷(モノクロ)をご希望される場合は、次ページをご確認ください。 -3- 『白金耳(モノクロ印刷)』 ~申し込み方法~ ☆年間購読料 : 3000円 平成22年度 Vol.31 No.4 ~ Vol.32 No.4 『白金耳』 ~申し込み方法~ ☆申し込み口座番号: 00940-3-141751 ・ 郵便振込は、郵便局にて下記の必要事項を御記入の上、お振込みを御願いい たします。郵便振替払込受領証を領収書に替えさせて頂きます。 ・ 毎月、機関誌『白金耳』を送付させて頂きます。 ・ 複数冊分の送付を御希望される方は、送料の都合により年間購読料が異なりま す。お手続き前に御確認ください。 ・ 御購読継続の方で、所属変更、住所変更等がある方はお知らせください。 ・ 年間購読となりますので、年度末にはご継続の手続きを御願い致します。 -4- 1月定期講習会報告 『比較的稀な感染症 ~起炎菌を見落とさない~』 市立豊中病院 温井正博 1 月 26 日に関西医科大学附属滝井病院の中矢秀雄先生をお迎えし、「比較的稀な感染症 ~起炎菌を見落とさない~」を題しまして、御講演いただきました内容を報告させていた だきます。 一生お目にかからないかもしれないが、覚えておかなければいけない感染症 (生物テロ) (生物テロとして用いられる病原体) ・細菌:炭疽、野兎病、ペスト、ブルセラ、鼻疽、類鼻疽、Q 熱、発疹チフス ・真菌:コクシジオイデス ・ウイルス:天然痘、ベネズエラ馬脳炎 ・毒素:ボツリヌス、リシン、黄色ぶどう球菌 E-B、サキシトキシン、アフラトキシ ン、T-2 マイコトシシン 【炭疽】 〔症状〕 肺炭疽:潜伏期は 1~5 日、発病初期は発熱、咳、筋肉痛、倦怠感などの急性ウイルス 性上気道炎様症状を呈する。レントゲン所見は縦隔の肥大である。発病後 1 ~3 日以内で重症化し、呼吸困難にて死に至るため、早期の診断及び抗菌薬 投与が必要。死亡率は 90%以上。 皮膚炭疽:頭頚部、手、前腕に病変が生じる。かゆみが生じた後、丘疹が出現、1~2 日以内に水疱化し、その後、潰瘍を形成して中心が黒色を呈する。周囲は 浮腫状、痛みを伴うことは稀。約 10%程度が菌血症にいたる。死亡率は 20%。 -5- 〔診断〕 ・胸部レントゲン検査 ・血液培養、髄液培養(抗菌薬投与前に施行) ・病変部位からの組織や体液(皮膚病変の水疱、便等)の培養 ・病変部位の組織の病理学的検査や検体の塗抹検査 〔同定〕 ○ペニシリン感受性 炭疽菌は通常ペニシリンは感受性である。 (中には耐性のものも報告されている) ○コロニー性状 血液寒天培地では白~灰白色、非溶血で白金耳で拾ったときその形態は崩れにく い。ねばねばしている。 ○運動性は陰性 B.anthracis B.cereus B.mycoides B.thuringiensis 運動性 - + - + 根状集落形成 - - + - 結晶封入体 - - - + 莢膜形成 + - - - パールストリングテスト + - - - 5 % 血 液寒天 培 地 溶 - + + + 血 莢膜形成:血清加重曹寒天培地に接種し、5%CO2、37℃で Over night 培養。ギム ザ染色で鏡顕。 パールストリングテスト:10μ/ml ペニシリン加寒天培地に接種。 真珠のネックレス様形態を確認。 【ペスト】 〔症状〕 腺ペスト:ヒトペストの 80~90%を占め、クマノミの咬傷や稀に感染したヒトあるいは 動物の接触感染がある。リンパ節の壊死、膿様を形成しクルミないしアヒル の卵大に腫大する。臨床症状は、3~7 日の潜伏期の後、40℃前後の突然の発 熱に見舞われ、頭痛、悪寒、倦怠感、嘔吐や精神混濁などの症状が現れる。 無治療で死亡率 50~70%。 -6- 敗血症型ペスト:腺ペストの発展型で、急激なショック症状、昏睡、手足の壊死、紫斑 などが現れ、2~3 日以内に死亡する。 肺ペスト:敗血症型ペスト経過中に肺に菌が侵入して肺炎を続発し、ペスト菌エアロゾ ルを排出するようになると、ヒトからヒトへと伝播する肺ペストが発症する。 潜伏期は 2~3 日である。発病後 12~24 時間で死亡すうといわれている。強 烈な頭痛、嘔吐、39~41℃の発熱、急激な呼吸困難、鮮紅色の泡だった血痰 を伴う重篤な肺炎像を示す。 〔診断〕 ・臨床材料(血液、リンパ節腫吸引物、痰、組織等)からの病原体の分離同定。 ・抗原検出(エンベローブ fractionⅠ抗原に対する蛍光抗体法) ・遺伝子検出(ペスト菌特異遺伝子の PCR 法) 〔同定〕 ペスト菌は非運動性のグラム陰性の多形形態を示すが、組織内および新鮮培養菌など では約 1.5×0.7μm の両端の丸い楕円形の短桿菌で、ギムザ染色で特徴ある極染 色性が観察される。 Y.pestis Y.enterocolitica Y.frederiksenii Y.intermedia 運動性 - + + + マッコンキー培地の 発育 - + + + ウレアーゼ - + + + リジン - - - - アルギニン - - - - オルニチン - + + + 莢膜形成:37℃、48 時間培養。ギムザ染色で鏡顕。 発育適温は 28~30℃。他の一般的な菌よりも遅く、血液寒天で集落が明らかに認めら れるのは 48 時間培養後。溶血像は認められない。液体培養では沈殿発育する。 微生物検査を行う技師としては一生経験することがないかも知れませんが、生物テロに関 わる感染症について知っておくことも必要かと思います。また、自施設で同定ができるか、 同定機器などのデータベースなども調べておくことも大切です。海外渡航者の不明熱に関 しては、まずデング熱、マラリア、腸チフスを考慮し、また、現在海外で何の感染症が流行し ているのかも知ることが必要です。 -7- 普段お目にかからない病原菌 ①リステリア脳髄膜炎 リステリア菌は環境中に存在する通性細胞寄生菌であり、汚染された牛肉、豚肉、 鶏肉、非加熱乳製品、生野菜の摂取により経口感染する。老齢者、新生児、妊婦、エ イズ患者、糖尿病などの免疫機能低下者に好発する。 発熱、筋肉痛、下痢、吐き気を起こし、重症感染では髄膜炎、敗血症を起こす。汚 染された食物を食べて 12 時間後ぐらいに発症する場合があるが、髄膜炎等、重症症 状が出現するには 1~6 週間かかる。患者の免疫状態、摂取菌量に左右される。 治療はペニシリン、アンピシリンが有効。セフェムは無効。 〔症例〕 4歳 女児 ALL の診断にて化学療法。寛解後、MTX 継続投与の為通院していた。翌年、頭痛、 発熱(39.5℃)、嘔吐を出現。時間外救急外来を受診。当日入院した。 細菌学的検査として、入院時、血液、髄液培養を施行。髄液のグラム染色でグラム 陽性短桿菌の貪食像を認めた。培養から Listeria monocytogenes を検出した。直ちに ABPC+ST 治療開始。6week 投与にて治療した。 〔性状〕 L.monocytogenes L.innocua L.seeligeri L.welshimeri 運動性(20~25℃) + + + + β溶血(ウマ血) + - W - CAMP テスト + - + - キシロース - - + + ラムノース + d - d VP + + + + 運動性:リステリア共通の性状としてブイヨン培養菌で「跳ね回る」ような運動性を示す。 髄液でグラム陽性小桿菌を認めればリステリアの可能性大。 (菌数が非常に少ない) 溶血性、CAMP テスト、特徴ある運動性が確認できれば同定 OK。 治療は ABPC+GM または ST。セフェムは無効。 カルバペネム、VCM も静菌的作用しかない。迅速な報告が必要。 -8- ②ノカルジア肺炎 ノカルジアは土壌などの環境に広く分布する好気性放線菌で一般に免疫機能の低下し た者に皮膚ノカルジア症、肺および全身性の内臓ノカルジア症を引き起こす。ノカルジ ア症は稀ではあるが、近年増加の傾向にある。肺ノカルジア症は一般には慢性の傾向を とるが N.asteroides や N.farcinica では急性に全身性の感染症を起こすことがある。N. farcinica は脳に転移する例が多いといわれている。 〔症例〕 70 歳代 男性。悪性リンパ腫と診断され抗腫瘍療法(CHOP)6 クール実施。治療開始 から6ヶ月後に間質性肺炎を併発し、パルス療法にて一旦改善したがステロイド減量中 に肺炎および腹部皮下腫瘤が認められた。 CRP6.69mg/dl、WBC11290/μl と炎症反応の上昇が認められた。 細菌学的検査として、グラム染色で喀痰、膿瘍から放線菌と思われるグラム陽性桿菌と 多数の好中球が見られた。炭酸ガス培養 2 日目にヒツジ血液寒天培地上に白色微小コロ ニーの発育を認めた。嫌気培養は陰性であった。Nocardia farcinica と同定。 ABPC から ST 合剤と CPFX に変更し、5 日間の投与の後、ST 合剤継続により改善した。 〔同定〕 N.asteroides N.nova N.farcinica N.otitidiscaviarum N.brasiliensis カゼイン分解能 - - - - + ヒポキサンチン分解能 - - - + + チロシン分解能 - - - - + キサンチン分解能 - - - + - クエン酸利用能 + - - d + 45℃での発育 - - + d - +:陽性(90%以上)、-:陰性(90%以上)d:(11~89%) -9- 培養菌の形態が分岐のあるグラム陽性桿菌で Ziehl-Neelsen 染色陰性、Kinyoun 染色陽性。 βラクタマーゼ陽性。 生化学的性状は 45℃発育(+)、カゼイン分解能(-)、ヒポキサンチン分解能(-)、 チロシン分解能(-)、キサンチン分解能(-)。 薬剤感受性試験は IPM 感受性、TOB 耐性、KM 耐性。 以上の結果から Nocardia farcinica と同定。 ノカルジアは分岐のあるグラム陽性桿菌で一度見れば忘れない。 培養菌は特徴のあるかび臭い臭気を発する。一度嗅げば忘れない。 治療は ST が第一選択剤。ペニシリン系は N.nova 以外無効。 ③クリプトコッカス敗血症 Cryptococcus neoformans による真菌性敗血症で Cryptococcus neoformans var. neoformans と Cryptococcus neoformans var.gatti が起炎菌となる。原発巣は肺炎である ことが多い。 Cryptococcus neoformans var.neoformans は鳥糞中にあり、窒素の存在下によく発育 する。Cryptococcus neoformans var.gatti は熱帯、亜熱帯のユーカリ樹から分離され る。 髄膜炎を発症すれば頭痛、発熱、嘔吐、意識障害、人格変化、記憶障害などを認める。 頭蓋内圧亢進に伴う片麻痺などの局所神経症候、痙攣などを呈することもある。 [症例〕 40 歳代 男性。両鼠径部のしこりに気がつくが2年程放置していた。突然頚部リンパ節 が腫脹し、その翌月に当院受診。悪性リンパ腫(NHL)縦隔、脾臓、骨転移の診断にて CHOP 療法開始。入院 7 日目 38.5℃熱発。 意識レベル JCS1。クリプトコッカス敗血症の診断にて現在、L-AMB、FLCZ 投与中。 細菌学的検査として、尿、血液、喀痰培養を実施。培養 4.5 日目に血液培養陽性。グラ ム染色で酵母様真菌を検出。同時にディフ・クイック染色で莢膜確認。培養で Cryptococcus neoforman を検出。 グラム染色 ディフ・クイック染色 - 10 - ファンギフローラ染色 グラム染色と比較してディフ・クイック染色では莢膜の存在が明瞭であり、 容易に Cryptococcus neoformans と推定することができた。 検出感度はファンギフローラ染色が優れていた。 ④アカントアメーバ角膜炎 Acanthameba は淡水や土壌に広く存在する原生生物であり、アカントアメーバ角膜炎 は、ほとんどの例で背景に外傷またはコンタクトレンズの装用があり、通常健常角膜におい ては感染が成立しないと考えられている。もっとも多いのが、ソフトコンタクトレンズ装 用者が使用期限を守らなかったり、レンズケアに水道水を使用した場合で、上皮障害をき っかけに汚染されたレンズから感染する。近年、増加している。 初期症状は毛様充血、角膜輪郭浮腫、疼痛があり、角膜ヘルペスに似た上皮障害、混濁 がある。病期が進行すると角膜中央に楕円形の白色病変が強くなり、さらに混濁も進行する。 細菌等と混合感染すると角膜穿孔する場合 がある。 治療は病巣掻爬、抗真菌薬内服、点眼の 3 者併用療法が基本。瘢痕が強い場合や穿孔を きたした場合は角膜移植。ただし、アメーバが残存すると再発するため、十分に除菌した 後に移植を実施する。 〔症例〕 20 代 女性。2週間交換のソフトコンタクトを使用していたが、期限を守らずに使用し ていた。 右目充血、眼脂を認め、近医受診。アカントアメーバ角膜炎疑いにて本院紹介受診。 VRCZ+GFLX 点眼+VRCZ 点眼+創傷処置開始。 細菌学的検査では鏡顕にてシストを認めた。培養検査では栄養体の検出はできなかった。 〔検出方法〕 ・検査材料は角膜擦過物、レンズケース、保存水等が対象となる。 ・顕鏡の染色法は PAS、ギムザ、パーカーインク KOH 法、パパニコロウ染色、ファ ンギフローラ染色等が用いられる ・培養法は死菌大腸菌を用いた NN 寒天培地(栄養素が入っていない培地)で 1~6 日、30℃培養。培養 2~3 日で栄養体が確認できる。 ・検出率は 30~60% ・18SrDNA 遺伝子の解析による検出。 - 11 - ⑤アメーバ赤痢 原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)を病原体とする大腸炎のうち、赤 痢症状(粘血便、下痢、しぶり腹、腹痛)を示すものを本来、アメーバ赤痢と呼ぶ。新 感染症法では E.histolytica 感染を全てアメーバ赤痢と定義し、5 類感染症全数把握疾 患に定義されている。近年は性意識の変化により STD の症例が増加している。原虫の 感染は、赤痢アメーバシストに汚染された飲食物などの経口摂取やオーラルセックスに より成立する。シストは胃を経て小腸に達し、栄養型となり分裂を繰り返して大腸に達 する。栄養型原虫は大腸粘膜面に潰瘍性病変を形成し、粘血便を主体とする。大腸炎症 例のうち 5%ほどが肝膿瘍など腸管外病変を形成する。 〔症例〕 30 代 男性。血便を主訴に近医受診。内視鏡検査で大腸に多発性びらん、潰瘍を認める。 病理検査にて non-specific colitis と診断。潰瘍性大腸炎の治療(ペンタサ、プレドニン) するも改善せず、当院を受診した。内視鏡検査実施。顕鏡にて赤痢アメーバ栄養体を検 出。赤痢アメーバ A/FA100 倍陽性。受診のおよそ1ヶ月前に風俗店に通っていた。 グラム染色 コーン染色 - 12 - 検査材料との関連 ~Curvularia 属によるアレルギー性副鼻腔真菌症~ 〔症例〕 12 歳 男児。頭痛、鼻閉鼻汁出現。近医にて上顎洞炎の診断。一時は軽快していたが、 再び頭痛、鼻閉鼻汁、頬痛出現。当院にて手術施行するも、翌月から左鼻痛を認め再手 術。しかし痛みは改善しなかった。再手術の際、採取した左副鼻腔の組織が細菌検査に 供された。一般細菌は発育せず。培養 7 日目にサブロー培地に黒色真菌の発育を認めた。 黒色真菌を検出した場合、基本的には環境中 に多数存在するため、検出された場合は汚染菌 の可能性を考える。 しかし、材料が中枢神経の場合、親和性の強 い黒色真菌症の可能性があるため迅速な報告が 必要の場合がある。 今回の症例では、副鼻腔組織という無菌材料だ った為、直ちに主治医に直接面会し、汚染の可 能性も伝えたうえで再検査を依頼した。再検査後 Curvularia を検出した。 Curvularia 属は海外では Bipolaris 属と並び角膜真菌症、アレルギー性副鼻腔炎の主要な 病原真菌である。 検査材料を考慮して、汚染菌と判断して無視しないようにするべきである。 薬剤耐性菌 ~多剤耐性サルモネラ~ 〔症例〕 生後 35 日 男児。下痢、嘔吐、発熱(37.8℃)を認めたため、出生した産院を受診し たが、発熱が続く為、当院小児科受診。腸炎の診断にて入院となり、FOM 投与。2 週間後、軽快退院。 入院時データは WBC3730、CRP2.5mg/dl、BUN9mg/dl、TP4.9g/dl、ALB2.8g/dl、 T-Bil4.1mg/dl、AST21IU/l、ALT18IU/l。 入院時便培養から Salmonella spp.2+検出された。 - 13 - 薬剤感受性試験結果 薬剤名 MIC(μg/ml) SIR 薬剤名 MIC(μg/ml) SIR ABPC 256 R TC 128 R CAZ ≦0.5 S CP >128 R CTX ≦0.5 S ST >2 R IPM/CS ≦0.25 S FOM ≦1 S SM 512 R LVFX 8 R GM 16 R CPFX 16 R KM 32 I NFLX 32 R 欧米において多剤耐性(ABPC、TC、CP、SM、ST)Salmonella Typhimurium DT104 が治 療上大きな問題となっていた。さらにキノロン耐性を加えた耐性サルモネラの出現が危惧 されていた。 今回の症例での検出菌も Salmonella Typhimurium(O4:i:1,1,2)と世界的に問題と なっているサルモネラと同じ血清型であったため、DT104 との関連を調べるため、感染症 研究所にファージタイピングおよびキノロン耐性遺伝子の検索を依頼した。キノロン耐性 度は細菌 DNA の QRDR(キノロン耐性決定領域)の点変異の数で決定する。 <キノロン耐性遺伝子解析結果> ・gylA(Ser83Phe;TCC→TAC) ・ (Asp87Asn;GAC→AAC) ・gylB 変異なし ・parC(Glu84Lyn;GAA→AAA) 3 点の変異を検出した報告例はなかった・ ファージタイプは Salmonella TyphimuriumDT12 であった。 こんな検体でました ~お尻からお餅?~ 〔症例〕 60 歳 男性。食事療法、投薬のため開業医に通院。一ヶ月から「健康のため」に蕎麦 湯を飲み始め、10 日前から白い固形物が糞便虫に複数出現するようになった。寄生虫 と思い洗浄した固形物を持参して内科受診。 - 14 - (なぞの固形物の特徴) ・楕円形、淡黄色。表面は滑らかで突起物や模様認めず。便臭なし。 ・表面のグラム染色は GPC、GNR、GPR 多数。培養では、E.faecalis、E.coli、 K.pneumoniae を検出。 ・内部は白色。混合物は認めない。グラム染色、培養は細菌を認めず。 ・有機溶媒に不要、ヨウ素デンプン反応陽性。加熱すると炭化して、餅を焼いた臭い。 臨床への報告は・・・ ・検体はデンプン質の均一な固形物。お餅もようなもの。 ・便臭はないが表面に腸内細菌が多数付着していたので、便中に出現したことは十 分考えられる。 ・次回検査のとき、固形物を洗浄せずにそのままの状態で提出。 しかし、その後患者は来院しなくなり、カルテに患者自身が排泄物について作成した詳 細な報告書が添付してあった。患者の不可解な行動。⇒捏造された検体 詐病または虚 偽性障害 詐病:実利を得る為に意図的に症状がつくりだされるもの。懲役、軍務、仕事の回避、 薬物入手、補償金の獲得が目的。 虚偽性障害:意図的だが目的は本人にも不明。無意識に患者になりたい要求が行動と なるもの。社会的役割がとれなくなり(定年退職等)心理的危機状態に 陥った人に見られることが多い。 不思議な検体は「捏造検体」の可能性を考慮して対応するべきである。 (今回の講演を聞いて) 今回のご講演は、中矢先生の長年の経験話も交えた内容で、我々の現場において大 変有用なお話ばかりでした。 生物テロ関連の微生物に関しては、出会うことがないからどうでもいいのではなく、 微生物検査を携わる技師として基本的な知識は持っておくことが必要であり、そして、 海外で流行している感染症についても調べておくことも大切かと思いました。また、 普段お目にかからない微生物や、不思議な検体に遭遇した場合、検査室ではどのよう に検査を進めていき対処すべきなのかを考え、マニュアルとしてまとめておくべきだ と思いました。 - 15 - 『ノロウイルス感染症』 大阪赤十字病院 市村 佳彦 晩秋から春先にかけて、乳幼児や小学生などの低年齢児や高齢者、施設入所者等に良く見 られる病気の一つが嘔吐下痢症です。冬季の嘔吐下痢の代表ウイルスとしてはノロウイルス、 ロタウイルスがあります。 集団の嘔吐下痢症の犯人としてよく問題となるノロウイルス(小型球形ウイルス:《別名》 ノーウォーク様ウイルスもしくはノロウイルス)について記載します。 名前の由来 昭和43年(1968年)に米国のオハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団発生 した急性胃腸炎の患者のふん便からウイルスが検出され、発見された土地の名前を冠してノ ーウォークウイルスと呼ばれました。 昭和47年(1972年)に電子顕微鏡下でその形態が明らかにされ、このウイルスがウ イルスの中でも小さく、球形をしていたことから「小型球形ウイルス」の一種と考えられま した。その後、非細菌性急性胃腸炎の患者からノーウォークウイルスに似た小型球形ウイル スが次々と発見されたため、一時的にノーウォークウイルスあるいはノーウォーク様ウイル ス、あるいはこれらを総称して「小型球形ウイルス」と呼称していました。 ウイルスの遺伝子が詳しく調べられると、非細菌性急性胃腸炎をおこす「小型球形ウイル ス」には2種類あり、そのほとんどは、いままでノーウォーク様ウイルスと呼ばれていたウ イルスであることが判明し、平成14年(2002年)8月、国際ウイルス学会で正式に「ノ ロウイルス」と命名されました。もうひとつは「サポウイルス」と呼ぶことになりました。 症状 主症状は嘔気、嘔吐及び下痢です。血便は通常ありません。発熱はないわけではありませ んが、その頻度は低く、あまり高い熱とはならないことが一般的です。小児では嘔吐が多く、 成人では下痢が多いことも特徴の1つです。嘔吐・下痢は1日数回からひどい時には 10 回以 上の時もあります。吐物には胆汁(緑色)や腸の中のものが混じることがあります。感染後 (ウイルス曝露後)の潜伏期間は数時間~数日(平均 1~2 日)であり、症状持続期間も数時 間~数日(平均 1~2 日)です。元々他の病気がある等の要因がない限りは、重症化して長期 に渡って入院を要することはまずありませんが、特に高齢者の場合は合併症や体力の低下な - 16 - どから症状が遷延したり、嘔吐物の誤嚥などによって二次感染を起こす場合があるので、慎 重な経過観察が必要です。 治療法 ノロウイルスに対する特効薬はありません。症状持続期間は比較的短期間ですので、最も 重要なことは経口あるいは経静脈輸液(点滴等)による水分補給により、脱水症となること を防ぐことです。 感染経路 ●経口感染 ノロウイルスに汚染された飲料水や食物による感染(食中毒)です。特に生カキを食 し た後に発症することはよく知られています。しかし生(なま)でなくても、よく火の通って いないカキやアサリ等の 2 枚貝を内臓ごと摂取することが原因の場合もありますし、また最 近では調理従事者や配膳者がノロウイルスに汚染された手指で食材をさわる(ノロウイルス に感染している者がよく手を洗わずに素手で食材をさわる)ことによって、サラダやパンな どの貝類とは関係のない食材による集団食中毒も報告されています。 ●接触感染・飛沫感染 接触感染とは、文字通りノロウイルスで汚染された手指、衣服、物品等を触る(接触する) ことによって感染する場合をいいます。この場合も最終的には接触後汚染された手指や物品 を口に入れる(舐めるなど)ことにより、ノロウイルスが口の中に入ってしまい、感染しま す。 ●飛沫感染 通常の呼吸器感染による場合とは異なりますが、ノロウイルスによる飛沫感染とは、ノロ ウイルス感染症を発症している患者の吐物や下痢便が床などに飛び散り、周囲にいてその飛 沫(ノロウイルスを含んだ小さな水滴、1~2 m 程度飛散します)を吸い込むことによって感 染する場合をいいます。嘔吐物や下痢便を不用意に始末した場合にも、飛沫は発生しますの で、その処理には充分に気を使うことが必要です。また、嘔吐物や下痢便が放置されていた り、処理の仕方が誤っている場合に、ウイルスを含んだ有機物(乾燥した嘔吐物や下痢便の かけら)やほこりが風に乗って舞い上がり、そばを通った人が吸い込んだり、その人の体に 付着して、最終的には口の中にウイルスが入り、飲み込むことによって感染する場合があり ます。このような感染は、施設内での集団感染の原因になることがしばしばみられますが、 特に病院の外来や、場合によっては病棟などではいつでも発生する可能性があり、注意が必 要です。 - 17 - 予防方法 ☆手洗い トイレの後、食事の前、調理の前、おむつ交換の後、嘔吐(おうと)物や下痢便の処理の後 等では、流水・石鹸による厳重な手洗いが必要です。また、嘔吐(おうと)・下痢症状のあ る方とのタオルの共用は避けましょう。 ☆嘔吐(おうと)物・下痢便の処理 ノロウイルス感染症の場合、その嘔吐(おうと)物や下痢便には、ノロウイルスが大量に含 まれています。そしてわずかな量のウイルスが体内に入っただけで、容易に感染しますので その処理については十分注意が必要です。 1)発見 ノロウイルスの流行期に吐物や下痢便を発見した場合、できる限り子どもや高齢 者の方を遠ざけてください。その場所がトイレであれば処理が終わるまでは使用し ないようにしましょう。 2)処理 放置しておけば感染が広がってしまいかねず、速やかに処理する必要があります。 マスク・手袋(この場合の手袋は清潔である必要はなく、丈夫であることが必要で す)をしっかりと着用し(処理をする方の防御のためです)、雑巾・タオル等で吐 物・下痢便をしっかりと拭き取る。拭き取った雑巾・タオルはビニール袋に入れて 密封し、破棄する(破棄しない場合は、水洗い後しっかりと消毒を) 拭き取りの際に飛まつが発生しますので、無防備な方々は絶対に近づけないように しましょう。その後薄めた塩素系消毒剤(100~1000ppm:家庭用漂白剤で は50倍程度にうすめたもの)で吐物や下痢便のあった箇所を中心に広めに消毒を 行ってください。 3)汚れた衣類など おう吐物や下痢便で汚れた衣類は、マスクと手袋をした上でバケツやたらいなどで まず水洗いし、更に塩素系消毒剤(200 ppm 以上)で消毒することをお勧めします。 いきなり洗濯機で洗うと、洗濯機がノロウイルスで汚染され、他の衣類にもウイルス が付着します。もちろん、水洗いした箇所も塩素系消毒剤で消毒してください。 ☆症状がおさまった後 症状がおさまった後でも、数日間ウイルスは便便などから排出されますのでしばらく は注意が必要です。 引用HP… http://www.torikyo.ed.jp/akasaki-j/norouirusu.html http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-b.html - 18 - 阪大微生物病研究会 【問題】 坂本 雅子 次の1~4のヒントを参考に、該当 するウイルスの模式図を選んで下さ い。 1.直径 80~100nm で規則正しい正三角形が連なる正 20 面体構造をとる。エンベロープを持 たず、49 種類の血清型が知られているが、呼吸器疾患、咽頭結膜熱、眼疾患などを起こす。 2.直径 80nm の長い紐状で、一本鎖のマイナス鎖 RNA を持つ。マールブルグ病とエボラ出血 熱のウイルスがある。 3.直径 100~140nm の球状、円筒状のコア内に同一の一本鎖の RNA2 本と逆転写酵素が含ま れる。ウイルス粒子の表面には糖タンパクと脂質からなるエンベロープがあり、その突起 部分で細胞のCD4レセプターに結合して細胞に侵入する。構成タンパクの比較によりⅠ 型とⅡ型に大別される。 4.大きさ 125~250nm のスパイクで覆われたエンベロープを持つ。スパイクには赤血球凝集 活性とノイラミニダーゼ活性を持つ HN タンパクと細胞融合やウイルスの細胞内侵入に関 与する F タンパクの 2 種類の糖タンパクからなる。麻疹ウイルスやムンプスウイルスが含 まれる。 A B C D - 19 - 腸管感 染症はそ の原因と なる病原 1 2 3 4 (B) (D) (C) (A) 『白金耳』も今年に入り Volume No.31となり、次号から『Digital 白金耳』を配信する 運びとなりました。30年という長きにわたり続いてきたこの機関誌ですが、ここ数年、印 刷媒体としての限界を常々思っておりました。せっかくの写真や表がカラーでお届けできな いジレンマ、HP上での閲覧において購読者との非購読者との差別化が出来ていない現状。 カラー印刷にして年間購読料を上げるか?HPにおいて購入者だけ閲覧可能なパスワード設 定を行うか? 「そもそも『白金耳』は無料で配布されていたもので、微生物検査に関わる知識や技術を、 多くの技師の方に知ってもらうためのもの」・・・部門員皆で話し合った結果です。 HP上で閲覧のパスワード設定もしません。サーバー管理費等が必要にならない限りは、 無料配信を維持する。この30年を一つの転機とし、今後も『白金耳』が皆様にとって有益 な情報誌である事を願っての新たな第一歩だと考えております。長きにわたりご購読頂いて おりました皆様には、無料化に当たってのご不満等もあるやも知れませんが、何卒ご理解い ただき、今後とも『白金耳』をご愛読いただけますようお願い申し上げます。 赤木 【白金耳】 征宏 2010.3.5 Vol.31. No.3. 2010.(平成 22 年3月号) 発行日:平成22年3月10日発行 発 行:大阪府臨床検査技師会 学術部 微生物検査部門 表 紙:井邊 幸子 発行者・編集:赤木 征宏(財団法人 大阪警察病院) 〒543-0035 大阪市天王寺区北山町 10-31 TEL: 06 - 6771 – 6051 e-mail: [email protected] 許可なく転載および複写はご遠慮下さい - 20 -
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