脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン

脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン
目次およびクリニカルクエスチョン一覧
巻頭言
はじめに
急性期の尿路管理について
疫学
CQ1 脊髄損傷患者のうち本ガイドラインの対象となるような下部尿路機能障害を持つ患者は
どれくらい、いるのか?
診断
CQ2 脊髄損傷患者に対する病歴聴取で注意すべき点は?
CQ3 脊髄損傷患者において、下部尿路機能と関連が深い仙髄領域の神経学的身体所見は何か?
CQ4
脊髄損傷患者において膀胱造影は必要か?
CQ5
脊髄損傷患者の下部尿路評価法として、ウロダイナミクス(尿流動態検査)は有用か?
CQ6
排尿筋括約筋協調不全とはどのような病態か?
CQ7 脊髄損傷患者において、腎機能障害を早期に捉える鋭敏な臨床検査値は何か?
CQ8.脊髄損傷患者において、上部尿路障害/腎機能障害の危険因子は何か?
CQ9 脊髄損傷患者において、上部尿路機能/腎機能検査はどのように行うのがよいか?
治療
自排尿
CQ10
脊髄損傷患者の経尿道排尿にはどのような種類があり、それぞれの適応は?
CQ11 脊髄損傷患者の排尿障害に対する薬物療法(内服薬)は有用か?
清潔間欠導尿
CQ12
脊髄損傷患者の自己導尿にはどのようなカテーテルを使用するか?
CQ13
脊髄損傷患者の自己導尿可能な麻痺レベルは?
CQ14
繰り返し使用するカテーテルの適切な保管方法と交換時期は?
CQ15 脊髄損傷患者が自己導尿をする場合,導尿前に
(A) 手指の洗浄・消毒は必要か?
(B) 外尿道口周囲の洗浄・消毒は必要か?
CQ16 脊髄損傷患者での清潔間欠自己導尿法の適応と開始時期は?
CQ17 脊髄損傷患者での自己導尿の長期成績,合併症は?
CQ18 脊髄損傷患者での清潔間欠自己導尿法の適切な回数は?
失禁対策
CQ19 脊損患者において、抗コリン薬は尿失禁を改善するか?
CQ20 脊髄損傷患者においてバニロイド膀胱内注入は抗コリン薬抵抗性の尿失禁に有効か?
CQ21
脊髄損傷患者においてボツリヌス毒素膀胱壁内注入は抗コリン剤抵抗性の尿失禁に有
効か?
DSD
CQ22
脊髄損傷者の DSD に対してボツリヌス毒素の外括約筋内注入は有効か?
留置カテーテル
CQ23 脊髄損傷患者において、長期的な尿道カテーテル留置の適応と管理法は?
CQ24 脊髄損傷患者で長期的に膀胱留置カテーテル管理をしている場合、膀胱洗浄は必要か?
CQ25 Purple Urine Bag Syndrome は治療すべきか?
CQ26 間欠式尿道留置カテーテルは一般の尿道留置カテーテルと比べて合併症が少ないか?
膀胱ロウ
CQ27 脊髄損傷患者で、膀胱瘻の適応となるのはどのような患者か?
CQ28 脊髄損傷患者において膀胱瘻は尿道留置と比較して合併症が少ないか?
括約筋切開
CQ29
CQ30
CQ31
括約筋切開術の適応となるのはどのような脊髄損傷患者か?
括約筋切開後の長期成績は膀胱瘻のそれと比較して良好か?
脊髄損傷患者において、括約筋部ステント留置は括約筋切開術と比較して長期成績はど
うか?
その他の手術
CQ32
脊髄損傷患者においての尿路変向術の種類とその適応は?
CQ33
膀胱拡大術の適応と種類は
尿路感染症
CQ34 脊髄損傷患者における症候性尿路感染症の診断はどのように行うのか?
CQ35 脊髄損傷患者における症候性尿路感染症の治療はどのように行うのか?
CQ36 脊髄損傷患者の無症候性細菌尿(無症候性尿路感染症)は抗菌薬により治療すべきか?
CQ37
脊髄損傷患者において予防的抗菌薬投与を含む尿路感染症予防策は有効か?
その他
CQ38 脊 髄 損 傷 患 者 におけ る 自 律神 経 過 緊張 反 射( autonomic hyperreflexia, autonomic
dysreflexia)にどう対応するか?
CQ 39
脊髄損傷患者の夜間多尿にどう対応するか?
CQ40 慢性脊髄損傷患者では尿路上皮腫瘍(膀胱癌)が発症しやすいか?
CQ41
脊髄損傷患者の生活の質(QOL)は排尿法により差があるのか?
CQ43
脊髄損傷患者の尿失禁に対して人工括約筋は有用か?
CQ42
脊髄損傷者に多い膀胱結石に対する有効な予防方法はあるか?
アルゴリズム
各排尿管理法の長所、短所
Conflict of Interest (利益相反)開示
委員(あいうえお順)
井川靖彦(東京大学)
小川隆敏(海南市民病院)
柿崎秀宏(旭川医科大学)
木元康介(総合せき損センター):委員長
関戸哲利(筑波大学)
仙石
淳(兵庫県立リハビリテーション附属中央病院)
田中克幸(神奈川リハビリテーション病院)
田中
博(北海道大学)
永松秀樹(埼玉医科大学総合医療センター)
浪間孝重(東北労災病院)
百瀬均(星ヶ丘厚生年金病院)
森田肇(北海道中央労災病院せき損センター)
外部委員(あいうえお順)
大濱
眞(日本せき髄基金)
木下幸子(岐阜大学)
吉田雅博(日本医療機能評価機構)
松尾清美(佐賀大学)
巻頭言
本ガイドラインは、2005 年に発刊された「慢性期脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドラ
イン」を改訂したものである。残念ながら、2005 年版は「過活動膀胱診療ガイドライン」の付
録として掲載されたために認知度は低かった。認知度をあげるために 2008 年には、日本排尿機
能学会、日本脊髄障害医学会、せき損連合会の各ホームページ上で公開していただいたが、そ
れほど認知度は上がらなかった。そこで、今回の改訂に合わせて独立した本として出版するこ
ととした。外部委員である Minds の吉田雅博氏の助言もあり、クリニカルクエスチョン方式を
採用した。
改訂委員会の組織は、日本排尿機能学会と日本脊髄障害医学会からせき損患者の排尿障害に
長年取り組んできた臨床家を委員として選抜した。また今回、外部委員も前記 Minds の吉田氏、
リハビリテーション部門から幸田
剣氏、同じく吉田
側から佐賀大学の松尾清美氏、せき損連合会の大濱
輝氏、看護部門から木下幸子氏、患者
眞氏に就任していただき、助言をもらっ
た。
文献の検索は前回抽出した 65 論文に加え、その後に出版された論文(2000 年以降)を、英
語論文は spinal cord injury AND neurogenic bladder を keyword とし PubMed で検索し、
日本語論文は脊髄損傷と神経因性膀胱をキーワードとして医学中央雑誌で検索したものを委員
の木元と柿崎がタイトル/抄録を参考に選択した。さらに各委員が担当部門で、さらなる検索
を加えて追加、削除し決定した。
クリニカルクエスチョンは、各委員が分担して作成し、当初は 169 問を提示した。これを日
本排尿機能学会の評議員と日本脊髄障害医学会の評議員に送付し意見をもらった上で委員が討
議し、重複するものやクリニカルクエスチョンとしては不適切と考えられたものを削除し、さ
らに不足するものを追加し、最終的に 68 問とした。
論文のランク付けと推奨のグレードは表のように Minds のものを用いた。なお、十分なエビ
デンスがあるものの保険適応がない治療法に関しては、推奨度は A ではなく C1 とした。委員
が参集した会議は6回行った。その間、その後はメーリングリストを活用して討議した。この
ようにして作成したガイドラインは、日本排尿機能学会と日本脊髄障害医学会の HP 上に公開
し、学会員から意見をいただき、訂正追加の上決定した。これを日本泌尿器科学会診療ガイド
ライン小委員会(後藤百万委員長)に送り、承認を受けた。
このガイドラインが脊髄損傷患者の診療に関わっている多くの関係者に利用されることを心
より祈念するものである。
2011 年 9 月
脊髄損傷患者の排尿障害の診療ガイドライン委員会
委員一同
エビデンスのレベル分類
推奨グレード
はじめに
急性期の尿路管理について
本ガイドラインは主に慢性期の脊髄損傷患者の排尿管理について扱っている。しかし急性期
の排尿管理がその後の予後に大きな影響を与えること、急性期から泌尿器科医が介入できるよ
うな施設が少ないことを鑑み、急性期の排尿管理について、最初に別項を設けて解説すること
とした。
一次救急病院に搬送された脊髄損傷患者は、最初に尿道留置カテーテルを受けることになる。
その際には、必ずカテーテル(多くは 14Fr)から尿バッグまで一体型のものを愛護的かつ無菌
的に挿入する。脊髄損傷自体に対する手術や合併損傷に対する治療が一段落し、尿量のモニタ
ーが不要になった時点で尿道留置カテーテルの抜去を考慮する。できればこの時点で脊髄損傷
患者のリハビリに慣れたリハビリスタッフがいて、尿路管理に慣れた泌尿器医のいる病院(総
合せき損センターをはじめ、各地の労災病院など)への転院が望ましい。転院が難しい、ある
いは近くにそのような病院がない場合は、カテーテルを抜去し、スタッフによる清潔簡潔導尿
(無菌である必要はない)を開始すべきである。無菌間欠導尿である必要がない理由は以下に
述べるごとくである。
急性期脊髄損傷患者における無菌間欠導尿法の有用性は Guttmann らにより提唱された。これ
はすべて無菌操作による non-touch technique を用いるもので、導尿に必要な器具はオートクレー
ブ滅菌してパックにまとめられ、医師と看護師等の助手が滅菌手袋を装着し、男性患者では穴
あきの清潔シーツから出したペニスを清潔ガーゼにて包皮をむいた状態で保持し、消毒性溶液
で亀頭部を洗浄し、医師は潤滑剤の付いたカテーテルを鉗子で保持しながら挿入し、助手はカ
テーテルの後端を同じく鉗子で保持して他の部位に接触しないようにサポートし、滅菌した膿
盆内に尿を排出させるものである。これにより、尿の非感染率(退院時において 62.2%)の高さ
と水腎症、VUR、尿路結石、尿道皮膚瘻等の後期合併症の発生率の低さを示した 1)。これに対し、
Lapides らは非無菌間欠導尿法である清潔間欠導尿法でも細菌尿はきたしにくいとの観察結果よ
り、急性期・慢性期ともに清潔間欠導尿法で代用可能であると述べている
2)
。その後、29 名の
脊髄損傷患者を無菌間欠導尿施行群と非無菌間歇導尿施行群の 2 群に分けて比較した検討にお
いて、細菌尿の発生率は無菌間欠導尿施行群でより低率であったとの報告
3)
があるものの、46
名の入院脊髄損傷患者を無作為に分けた 2 群間では細菌尿および症候性尿路感染症の発生率に
有意差は認められなかったとの報告
4)
や、36 名の頚髄損傷患者に対する看護師による介助導尿
において無作為割付による亜急性期の 2 群間で症候性尿路感染症の発症率と発症するまでの期
間に有意差を認めなかったとの報告 5)がある。以上より、細菌尿の発生率の差に一定の見解は得
られておらず、症候性尿路感染症の発生率については両者間の差は認められていないといえよ
う。
その際、1回導尿量が 400ml を超えないように導尿回数を設定する。その後、早目に泌尿器
科コンサルトを受けるべきである。もし、漫然と尿道留置カテーテルを続けるのであれば、そ
の合併症について(CQ 参照)患者/家族に十分説明し、同意を得ておくべきである。
文献
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CQ1 脊髄損傷患者のうち本ガイドラインの対象となるような下部尿路機能障害を持つ患者は
どれくらい、いるのか?
日本国内に約8万人存在すると考えられ、毎年 5000 人の新規患者が全国で発生していると考え
られている。そのほとんどが本ガイドラインの対象となると考えられる。
脊髄損傷の発生率は、国や報告によって異なっているが、10〜46.2/百万人/年である1)。日
本においては、
新宮らの 1990 年から 1992 年の調査により、40.2 人/百万人/年とされている2)。
脊髄損傷患者の総数に関しては、身体障害者手帳の発行数から、18 歳以上で約8万人と推定さ
れている3)。男女比に関しては、4〜4.9:1 とされている1)、2)、3)。
日本においては、諸外国のようなきちんとした国としてのデータベースが確立していないた
めに、正確な数字が出せない。行政の今後の真摯な努力を求めたい。
文献
1)徳弘昭博、豊永敏博、住田幹男、真柄
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版
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脊髄損
金原出
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3)豊永敏博. 発生の状況
脊髄損傷の outcome
日米のデータベースより
医歯薬出版
2001
年、pp28-42(IVb)
CQ2 脊髄損傷患者に対する病歴聴取で注意すべき点は?
急性期の尿路管理法、その後の排尿方法(自排尿、導尿、留置カテーテル)、有熱性尿路感染症
の有無、尿失禁の有無、自律神経過緊張反射の有無、使用薬物、排便/性機能の状態は聴取し
たい(推奨グレード C1)。
先ず、受傷機転/受傷日/受傷レベルといった基本的な情報を得ておきたい。
尿路管理法については、International Spinal Cord Injury Data Sets(現在、日本語訳作成中)1)
の選択肢を参考にすべきであろう。それぞれを主な排尿管理法と補助的な排尿管理法かを記載
する(例:主に自己導尿、夜間のみ尿道留置)。
正常の排尿(受傷前と変わらない自排尿)なのか、反射失禁性排尿;随意的(叩打、引っか
き、肛門を拡張、他)
、不随意、膀胱圧迫;怒責(腹圧をかける、Valsalva 法)
、圧迫(Crede 法)
、
間欠導尿;自己導尿、介護者による、留置カテーテル;経尿道、恥骨上膀胱ろう、尿路変更、
なのか。
尿失禁の有無、その頻度、尿失禁に対して対応する器具(コンドーム型集尿器、オムツ・パ
ッド、尿路変更用のバッグ)を聞く。
有熱性の尿路感染症の既往があるか、あれば尿路感染症の種類(腎盂腎炎、前立腺炎、精巣
上体炎)
、治療に使用した抗生物質の名前と効果と副作用についての情報がほしい。尿路結石の
有無、あればその治療法を聞いておきたい。尿意の有無。これまでの尿路の手術の既往も聞い
ておきたい。
患者をとりまく生活環境についての情報も重要である。すなわち、同居者の有無、社会的支
援の状況、労災なのかそうでないのかなど。
排便障害の有無(下痢、便秘)と排便方法(下剤、坐剤、浣腸、摘便)は聴取したい。性的
活動期にある患者の場合、性機能障害について質問しておく。男性であれば、勃起障害/射精
障害の有無。女性であれば、湿潤障害/性交痛の有無を聞いておく。
他には、一般的な既往歴、合併症、使用中の薬剤を把握しておく必要がある。
必要に応じて排尿日記をつけてもらうと、導尿量や失禁のパターンなどの情報が得られる。
排尿日記は日本排尿機能学会の HP(http://www.luts.gr.jp/index.html)からダウンロードできる。
参考文献:
1 Biering-Sorensen F, Craggs M, Kennelly M, Schick E, Wyndaele JJ. International Urodynamic Basic
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Sakakibara R, Perkash I. Neurogenic urinary and faecal incontinence in 4th International Consultation on
Incontinence. (総説)
CQ3 脊髄損傷患者において、下部尿路機能と関連が深い仙髄領域の神経学的身体所見は何か?
肛門周囲の触覚/痛覚と肛門括約筋の随意収縮の有無である(推奨グレード B)。
ASIA(American Spinal Injury Association)の評価用紙 1)にあるごとく、S4-5 の支配する仙髄
領域の感覚(触覚、痛覚)が残存するかどうかは完全麻痺か不全麻痺かを鑑別する重要項目で
あるので、肛門周囲の触覚と痛覚の診察は重要である。また運動系として、やはり ASIA の評価
用紙にある S4-5 の支配する肛門括約筋の随意収縮の有無は非常に重要である。
総合せき損センターに受傷後 7 日以内に入院した胸腰椎損傷患者で、受傷6ヶ月後に自排尿
が可能であるかどうかを予測に関して、肛門括約筋随意収縮の自排尿可能に対する陽性的中率
は 97.6%(124/127)であり、陰性的中率は 84.5%(207/245)であった2)。同じく胸腰椎損傷患
者での検討で 3)、受傷早期における会陰部痛覚の自排尿可能性に対する陽性的中率は低いが
(22.2%;6/27)
、陰性的中率は高い(95.8%;23/24)
。
排尿筋括約筋協調不全(DSD)
(注:CQ6 を参照)との関係において、不全麻痺なのか、肛門
括約筋を収縮できるのかは非常に重要である。105 人の男性せき損患者のウロダイナミクスで確
認したデータ4)によると、不全麻痺では、DSD の軽度なタイプである1と2がほとんどを占め
るのに対して、完全麻痺では、タイプ2と重症なタイプ3である(統計学的に有意差あり)
。ま
た、DSD のタイプ1の患者では、肛門括約筋の随意収縮ができる患者が 60%であるのに対して、
タイプ2では数%、タイプ3では皆無であった(統計学的に有意差あり)。
ASIA の評価用紙には含まれていないが、肛門の緊張、肛門反射(肛門に入れた示指で肛門粘
膜を刺激すると肛門括約筋が収縮する。)、球海綿体筋反射(BCR:男性では亀頭部、女性では
クリトリスを刺激すると肛門括約筋が収縮する)も評価しておくべきであろう。同時に男性で
は、前立腺の大きさ、硬さ、硬結の有無も評価し、女性では、骨盤臓器脱の有無の評価も必要
である。
BCR(S2-4 を介する)に関しては、健常女性で、BCR は 81%で陽性で(出産による損傷に基
づくと考えられている)、BCR の消失はこの反射弓の異常を必ずしも意味するものではない。そ
れに対して健常男性では、98%が陽性であるので、BCR の消失は、この反射弓の異常と考えて
よい5)。
文献
1 American Spinal Injury Association. International Standards for Neurological Classification of Spinal
Cord Injury, revised 2002. American Spinal Injury Association: Chicago, IL, 2002
2
植田尊善、弓削
至. 麻痺の評価と予後—麻痺はどこまで改善するのか、そしていつ判断で
きるのか?—脊椎脊髄損傷アドバンス 芝啓一郎編
南江堂
東京
pp62-86 2006 年。
(V)
3 Schurch B, Schmid DM, Kaegi K. Value of sensory examination in predicting bladder function in
patients with Tas-L1 fractures and spinal cord injury? Arch Phys Med Rehabil 2003;84:83-89(V)
4 Schurch B, Schmid DM, Karsenty G, Reitz A. Can neurologic examination predict type of detrusor
sphincter-dyssynergia in patients with spinal cord injury? Urology 2005;65:243-246(V)
5 Blaivas JG, Zayed AAH, Labib KB. The bulbocavernosus reflex in urology: a prospective study of 299
patients. J Urol1981;126:197-199(V)
CQ4
脊髄損傷患者において膀胱造影は必要か?
膀胱変形・膀胱尿管逆流の有無とその程度の把握に必要である(推奨グレード C1)。
膀胱造影所見の分類としては小川分類を用いる事がすすめられる(推奨グレード C1)。
膀胱変形の程度は上部尿路障害と相関するが、膀胱造影所見から下部尿路機能障害の状態を正
確に予測する事は困難でありウロダイナミクスの代替とはなり得ず、膀胱造影を単独で施行す
るよりもウロダイナミクスと同時に施行(ビデオウロダイナミクス)した方が得られる情報量は
多く有益である(推奨グレード C1)。
グレード 2 以上の膀胱変形や膀胱尿管逆流を認めた場合には透視下のウロダイナミクスが施行
可能な施設への紹介を考慮すべきである(推奨グレード C1)
脊髄損傷患者における下部尿路評価としては形態と機能が同時に評価可能な透視下でのウロ
ダイナミクス(ビデオウロダイナミクス: CQ5 参照)が有用であり、レントゲン被曝を伴う膀胱造
影単独での施行は強く推奨できない。しかし、ビデオウロダイナミクスを施行可能な施設が限
られているのも事実であり、その場合には膀胱造影単独の施行もやむを得ないと思われる1)。膀
胱造影の方法としては経尿道的に挿入した 8~12Fr ネラトンカテーテルから造影剤入り生理食
塩水を滴下注入し、膀胱充満時の膀胱形態を下記に示す小川分類に従って記載する(%は脊髄損
傷患者 222 例での頻度)2、3)。
Grade 0 (45%): 円形ないし楕円形で膀胱壁は平滑
Grade I (32%): 円形または楕円形であるが膀胱壁の軽度の乱れを認めるもの
Grade II (11%): 軽度の仮性憩室をともなうもの
Grade III (12%): 高度の仮性憩室をともなういわゆる松かさ様膀胱
小川らの検討によれば、Grade II 以上の膀胱変形は損傷後 2 年以内に発生しており 3 年目以
降に悪化が生じる事は稀であった 4)。なお、尿路感染の頻度と膀胱変形の程度には相関を認めた
が 5)、損傷部位や損傷の程度、ウロダイナミクス所見との間には明らかな関連は認められなかっ
た
4)。Nordling
らの検討でも、膀胱の肉柱形成の頻度は神経因性排尿筋過活動例と排尿筋無収
縮例との間で有意差を認めず
6)、Ruutu
らの検討では、排尿時の尿道閉塞の有無で有意差を認
めた 7)。これらの結果は、肉柱形成の出現において、尿失禁時あるいは排尿時の尿道機能障害の
状況が重要である事を示唆している。高度の膀胱変形は上部尿路障害の出現に先行して認めら
れ 8)、
膀胱尿管逆流あるいは水腎症といった上部尿路障害は Grade 0 で 2%、I で 4%、II で 50%、
III で 56%に認められ 2、Grade III では尿管膀胱移行部狭窄による水腎症が増加する傾向が認
められた 5。尿管膀胱移行部狭窄に関しては、器質的狭窄のみが原因となる事は稀であり機能的
狭窄の関与も大きいと考えられている 9)。間欠導尿が普及した前後で評価すると Grade 2 以上
の膀胱変形が 60%から 13~19%まで低下していた 10)。
膀胱造影において膀胱変形とともに重要な所見として膀胱尿管逆流がある。脊髄損傷患者に
おける膀胱尿管逆流の頻度は 13~23%前後と報告され、この内、下部尿路の高圧環境が原因と考
えられるのは約半数である 11)。その他の原因としては、膀胱変形や尿路感染に加え 11)、尿管膀
胱移行部の機能に関与する交感神経の障害が挙げられる
無・程度との間には相関が認められ
12)。膀胱尿管逆流の程度と腎萎縮の有
13)、膀胱尿管逆流の有無とその程度の評価は、適切な排尿
管理法を決定し腎機能を維持する観点からも重要である。
以上の事から、特に損傷後 2 年以内に、膀胱造影所見上、Grade 0 あるいは I の状態を維持す
るような排尿管理法(積極的な間欠導尿の導入)を選択する事が重要であると考えられる 2)。
ま
た 、
ウロダイナミクスが施行困難な施設においては、膀胱造影上、グレード II 以上の膀胱変形や膀
胱尿管逆流が認められた場合には、ビデオウロダイナミクスが施行可能な施設に紹介するなど
の対処が必要であろう 2)。
神経因性膀胱患者における膀胱形態と上部尿路障害あるいは膀胱機能との関係という観点か
らは、近年、排尿筋無収縮を呈する神経因性膀胱患者における超音波検査を用いた膀胱重量の
算出や
14)、二分脊椎患者における超音波検査を用いた膀胱壁厚あるいは排尿筋厚の測定が有用
との報告がなされている
15-18)。今後、その非侵襲性、簡便性、無被曝性から脊髄損傷患者への
応用が期待される。
CQ4
図1: 膀胱形態の小川分類: 各グレードの説明は本文参照 . (文献18から引用)
文献
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CQ5
脊髄損傷患者の下部尿路評価法として、ウロダイナミクス(尿流動態検査)は有用か?
下部尿路機能障害の診断、上部尿路障害の危険因子の把握、排尿管理法の決定に際して必要な
検査であり、慢性期に入った脊髄損傷患者は原則的に全例でウロダイナミクスの適応がある(推
奨グレード C1)。
可能であれば透視下のウロダイナミクス(ビデオウロダイナミクス)の施行を考慮する事が望ま
しい(推奨グレード C1)。
脊髄損傷患者に対しウロダイナミクスを施行し、International Urodynamic Basic Spinal
Cord Injury Data Set に含まれる項目(図 1)1)の判定を行う事で下記に示す様な情報が得られ、
脊髄損傷患者の下部尿路機能障害の診断と排尿管理法の決定に際して有用な検査と考えられる。
a.脊髄損傷レベルとウロダイナミクス所見: 脊髄損傷レベルや損傷の程度から想定される下部
尿路機能障害と実際のウロダイナミクス所見上の下部尿路機能障害のパターンが一致しない事
は稀とは言えず 2, 3)、特に、小児例あるいは胸腰椎レベルの損傷ではその傾向が強い。小児例で
は排尿筋過活動を示すのが頸髄損傷で 60%、胸髄損傷では 38%のみ、胸腰椎レベルの損傷では
30%が障害レベルから想定されるウロダイナミクス所見を呈さない 4, 5)。不完全脊髄損傷患者に
おいては、会陰部知覚あるいは球海綿体筋反射のいずれかが正常であっても 60%程度に下部尿
路機能障害が認められる 6)。また、脊髄の損傷レベルよりも下位の脊髄にも障害が及び障害高位
とウロダイナミクス所見が一致しない場合がある事も知られている(例: 頸髄病変の 17%で排尿
筋無収縮を認める)7)。さらに、複数レベルの脊髄障害では神経学的所見からウロダイナミクス
所見を予測する事は不可能と考えられる 8)。このため、小児・成人を問わず慢性期脊髄損傷患者
において、ウロダイナミクスは下部尿路機能障害の詳細な病態把握のための必須検査と考えら
れる。
b. 上部尿路障害に関するウロダイナミクス上の危険因子: 上部尿路障害(水腎症、膀胱尿管逆流、
腎盂腎炎など)を来す危険因子の把握はウロダイナミクスの重要な目的の一つであり、下部尿路
を「高圧環境」とする高圧の排尿筋過活動 9) (図 2)、膀胱コンプライアンス低下(20mL/cmH2O
〜10mL/cmH2O 未満)1, 10)、排尿筋括約筋協調不全 9) (図 2)、排尿筋漏出時圧高値(40cmH2O 以
上) 11, 12)の他、膀胱過伸展 9) (図 3)などをウロダイナミクス上の危険因子とする場合が多い。
C. ウロダイナミクス所見と排尿管理法の決定: ウロダイナミクス所見を基に、低圧で蓄尿でき
可能な限り尿失禁を回避し、かつ、排出時には高圧とならず残尿が少ない排尿管理法を立案す
る。具体的には、随意的排尿、反射性排尿、腹圧排尿(クレーデあるいはバルサルバ排尿)の安全
性の評価
13, 14)、間欠導尿の安全な
1 回導尿量決定(例: 膀胱内圧 20~40cmH2O 未満で導尿する
場合の導尿量の推定)15, 16)、薬物療法や外科的治療の必要性の判断を行う。自排尿可能な場合が
多いとされる不完全脊髄損傷患者においても、ウロダイナミクス所見上は自排尿(随意的排尿)
が安全とは言えない場合が少なからず存在するので、内圧尿流測定を含めたウロダイナミクス
は有用である 13)。
d. 下部尿路症状や上部尿路障害出現あるいは悪化時のウロダイナミクス: 脊髄損傷患者では高
圧環境がコントロールされない事による下部尿路症状や上部尿路障害の出現あるいは悪化は、
外科的治療を含めた積極的治療の対象となる場合がある。このため、ウロダイナミクスでその
原因となっている機能障害の精査を行う事は治療方針の決定に際して重要である 17, 14)。
脊髄損傷患者に対しては可能な限り透視下のウロダイナミクス(ビデオウロダイナミクス)が推
奨されているが
10, 14)。日本排尿機能学会員に対する郵送アンケート調査の結果(回答率
43%)で
は、脊髄損傷患者の下部尿路機能評価として必ず施行されている検査は、膀胱内圧測定という
回答が 52%、ビデオウロダイナミクスが 10%、膀胱内圧測定と何らかの画像検査が 27%、検査
施行なしが 8%であり 18)、ビデオウロダイナミクスの一層の普及が望まれる。なお、排尿管理法
を適宜是正し潜行性の上部尿路障害悪化を防止する目的で、特に排尿筋過活動の制御が不良な
場合や反射性排尿あるいは腹圧排尿で排尿管理されている場合には、年一回のウロダイナミク
スをすすめる文献もある 17, 14)。頸髄損傷患者では受傷後 5 年間は年一回のビデオウロダイナミ
クスと超音波検査を施行し、膀胱内圧が低圧なら以後 2 年毎の検査を、腰髄損傷患者では受傷
後 2 年は年一回のビデオウロダイナミクスと超音波検査を施行し、以後 2 年毎の検査をすすめ
ている文献もある
13)。ウロダイナミクスは時間と手間のかかる検査であり脊髄損傷患者全例へ
の定期的施行は本邦では非現実的と思われるが、必要に応じて積極的に施行する事が重要であ
る。
補足 I.脊髄損傷患者における典型的なウロダイナミクス所見(表 1)
仙髄よりも上位の脊髄損傷患者では排尿筋過活動や排尿筋括約筋協調不全が認められ(核上型
神経因性膀胱)、仙髄以下の脊髄損傷患者では排尿筋低活動や無収縮が認められる(核・核下型神
経因性膀胱)2,
19)。核上型、核・核下型とも膀胱コンプライアンス低下は重要な所見である。ま
た、a で述べた様に典型的な所見を呈さない場合も少なからず存在する 2, 19)。
補足 II. ウロダイナミクスとは
ウロダイナミクスには、排尿記録、尿流測定、尿道内圧測定、膀胱内圧測定が含まれるが 10, 19,
20, 21)、脊髄損傷患者におけるウロダイナミクスとは圧媒体として液体(通常は蒸留水か生理食塩
水)を用いる注入法による膀胱内圧測定の事を指す場合が多い。以下に注入法による膀胱内圧測
定の概略を脊髄損傷患者で留意すべき点を中心に記載する。
II-A. 注入法による膀胱内圧測定 (図 4)
マルチチャンネルウロダイナミクスと呼ばれる事もあり、膀胱内圧、膀胱周囲圧(直腸内圧で代
用、以後、腹圧と記載)、排尿筋圧(膀胱内圧から腹圧を引いた差圧)、括約筋筋電図、注入量、
排 尿 量 、 尿 流 率 を 同 時 に 測 定 す る 。 測 定 方 法 は 国 際 禁 制 学 会 か ら 報 告 さ れ て い る ”Good
Urodynamic Practice”に準拠する事が望ましい 21)。なお、脊髄損傷患者は自力での移動が困難
な場合が多く、移動時あるいは検査中の不慮の転倒や転落などが生じない様に十分に注意する
必要があるとともに、Th6 以上の脊髄損傷患者を検査する場合には、自律神経過緊張反射が生
じた場合に対処できる状況になっているか確認の上で検査を施行する事が望ましい 19, 22)。
II-B. 内圧測定の実際: 体位は仰臥位あるいは砕石位での検査となる事が多い。外部トランスデ
ューサーによる圧測定が一般的であり、患者の恥骨上縁レベルで大気圧とバランスさせて「0」
とする
21)。膀胱内圧は先端付近に注水用及び内圧測定用の孔を有する
6~12Fr のダブルルーメ
ンカテーテル(1 腔は注入用、1 腔は膀胱内圧測定用)を経尿道的に膀胱まで挿入して測定する 21)。
括約筋部尿道内圧を測定するための測定孔が先端から数 cm の所に開口しているトリプルルー
メンカテーテルを用いると括約筋部尿道内圧の同時測定が可能である 23,
24)。腹圧は直腸膨大部
付近に市販あるいは手製のバルーンカテーテル(ラテックスフリーの検査用手袋の指の部分を切
って 8~10Fr のネラトンカテーテル先端に輪ゴムでとめる)を留置して測定する。バルーンを緊
満させないように注意する
21)。脊髄損傷患者を含む神経因性膀胱患者では直腸が便で充満して
いたり、高圧律動性(15cmH2O 以上)の直腸収縮が存在したりする場合があるなど、腹圧の測定
は問題がある場合が多い
12, 25, 26)。膀胱内圧から腹圧を差し引いて算出される排尿筋圧の解析•
評価に際しては、この点を十分に考慮する必要がある。括約筋筋電図測定は、脊髄損傷患者に
おいて排尿筋括約筋協調不全などの括約筋機能の診断がウロダイナミクスの重要な目的の一つ
であるために必須である。しかし、その測定方法に関しては、表面電極を用いるべきか針電極
を用いるべきかに関する明確な結論は得られていない 27, 28, 30)。広く用いられている表面電極は
簡便な反面、括約筋活動の正確な評価を行う事は必ずしも容易ではない
33)(図
4, 5)。これに対
して、尿道括約筋に針電極を直接刺入する針筋電図は、表面筋電図よりも括約筋活動の評価に
すぐれているが
27)、尿道括約筋への正確な刺入は必ずしも容易でなく、検査中の固定が困難で
あり、知覚が保たれている患者では侵襲的であるなどの欠点がある
33)。膀胱内に注入する液体
は室温あるいは可能ならば 37℃程度に温めた蒸留水あるいは生理食塩水を用い 10, 22)、なるべく
緩徐な注入速度(10~30mL/分)で注入する。注入終了の目安としては、膀胱知覚が保たれている
場合には強い尿意が生じた時点、膀胱知覚が低下あるいは消失している脊髄損傷患者では注入
の上限は 500~600mL とし、間欠的導尿の最大量に達した時点、膀胱内圧上昇(排尿筋過活動や
膀胱コンプライアンス低下)に起因する尿失禁が認められた時点、膀胱内圧が 40cmH2O を越え
た時点、自律神経過緊張反射の徴候が出現した時点など、個々の患者の状況に応じて終了時点
を決定する 20)。また、脊髄損傷患者においては、可能であれば透視下でのウロダイナミクス(ビ
デオウロダイナミクス)を行い、下部尿路の機能と形態とを同時に評価することが望ましい 10, 19,
22)。膀胱変形や膀胱尿管逆流、尿道前立腺逆流(intraprostatic
reflux)、膀胱憩室や尿道憩室な
どの他に、排尿筋膀胱頚部協調不全*、排尿筋括約筋協調不全の診断にも有用である 19, 22, 30)。な
お、ウロダイナミクス時には予防的抗生物質投与が推奨される 14, 31)。
*排尿筋膀胱頚部協調不全(CQ6 の図 2 参照): 排尿筋過活動に同期して生じる膀胱頚部収縮であ
り、ビデオウロダイナミクスを施行しないと診断は困難である。Th12 以上の完全損傷ではほぼ
全例に認められ(全例排尿筋括約筋協調不全もあり)、四肢麻痺患者では完全・不完全損傷を問わ
ず自律神経過緊張反射を伴って全例に出現し、L1 レベルの損傷では交感神経障害を伴わない場
合に認められる 30。不完全対麻痺患者では認められない 30)。排尿筋括約筋協調不全とは必ずし
も同期しない。
II-C. ウロダイナミクス時の評価項目
International Urodynamic Basic Spinal Cord Injury Data Set1(図 1)と国際禁制学会から報告
された「下部尿路機能に関する用語基準」20 の中の注水法による膀胱内圧検査に関する項目に
従う。蓄尿時は、膀胱知覚、排尿筋活動(排尿筋過活動の有無)、膀胱コンプライアンス(図 6)、
膀胱容量、排尿筋漏出時圧、腹圧下漏出時圧、内因性括約筋不全*1 を評価する。排尿時は尿流
率および排尿圧を同時測定する内圧尿流検査を施行し、排尿筋活動(正常か低活動あるいは無収
縮か)、尿道機能(正常か排尿筋括約筋協調不全あるいは非弛緩性尿道括約筋閉塞*2 か)を評価す
る。
*1: 内因性括約筋不全: 仙髄以下の神経障害で認められる所見であり
20)、難治性尿失禁の原因
として重要である。Bradely らは脊髄円錐部以下の損傷 21 例中約半数で括約筋活動が全く認め
られなかったと報告している 34)。McCuire は、陰部神経障害のみの場合、女性では腹圧性尿失
禁が生じる場合があるが男性では尿失禁が生じる事は稀であると述べている
35)。一方、交感神
経の障害を有する場合には、陰部神経機能が残存していても尿失禁が生じ、副交感神経障害が
合併している場合の方が、機序は不明ながら尿失禁の頻度が高かったと報告している 35)。
*2: 非弛緩性尿道括約筋閉塞: 仙髄以下の神経障害において認められ、尿道のノルアドレナリン
に対する除神経過敏や陰部神経の除神経による括約筋線維化などがその原因と考えられている
ものの 36,
37)、詳細な発生機序は明らかでない。非弛緩性尿道括約筋閉塞が存在する場合には適
切な排尿管理法が選択されないと、高圧排尿や多量の残尿とこれに伴う膀胱過伸展を基盤とし
た膀胱変形や上部尿路障害が発生しうる点に留意する必要がある 9) (図 3)。
図1
ウロダナミクス基本データセット記入フォーム
施行日
年
月
日
□
不明
膀胱内圧測定時の膀胱知覚:
□
正常
□
亢進
□
減弱
□
無
□
不定
□
不明
排尿筋機能:
□
正常
□
□
低活動
□
無収縮
神経因性排尿筋過活動
□
不明
コンプライアンス:
低コンプライアンス(<10ml/cmH2O)
□
不明
排尿時尿道機能:
□
正常
□
□
尿道括約筋弛緩不全
□
N/A
□
DSD
不明
cmH2O
排尿筋漏出圧
□
N/A □
最大排尿筋圧
不明
cmH2O
□
有
□
無
N/A □
□
不明
ml
膀胱容量
N/A □
□
不明
残尿
□
N/A □
不明
CQ5
図2: 仙髄より上位の脊髄損傷患者における下部尿路及び上部尿路形態悪
化のパターン (文献9より引用)
CQ5
図3: 仙髄以下の脊髄損傷患者における下部尿路及び上部尿路形態悪化の
パターン (文献9より引用)
CQ5
A
B
膀胱内圧
腹圧
括約筋部尿道内圧
注水
排尿筋圧
筋電図
注水量
図4:
40歳男性。 T12完全損傷。受傷後 8年。体位:仰臥位、カテーテル: 7Fr トリプルルーメンカテーテル、注入速度: 15mL/分、初発膀胱
充満感: 117mL、初発尿意:なし、強い尿意:なし、最大膀胱容量: 123mL (カテーテル周囲からの漏れあり )。排尿筋括約筋協調不
全により造影剤は括約筋部尿道を越えないが (A, 矢印)、括約筋部尿道内圧の低下時に括約筋部を越えてカテーテル周囲から漏
れ出る (B, 矢印頭)。括約筋筋電図は肛門近傍に貼った表面電極で導出しているが本検査時にはシグナルが不良であった。
CQ5
図5: 表面電極による括約筋活動の評価
図4と同一の患者。表面電極を肛門直近の左右の皮膚に剥がれないようにしっかりと貼付け、尿などがかからないように密封。排
尿筋過活動に一致して括約筋活動が亢進しており (矢印)、排尿筋括約筋協調不全と診断可能。
CQ5
表1:
(文献19より改変)
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CQ6
排尿筋括約筋協調不全とはどのような病態か?
仙髄より上位の脊髄障害による神経因性膀胱において、(排尿筋過活動による)排尿筋収縮と同
時に尿道括約筋の不随意収縮が生じる状態を指す。
診断にはウロダイナミクスあるいはビデオウロダイナミクスが必要である(推奨グレード C1)。
排尿時膀胱尿道造影のみによる診断は困難であるが、ウロダイナミクスが実施困難な施設にお
いてはウロダイナミクスの代わりに施行しても良い(推奨グレード C1)。
国際禁制学会から報告されている「下部尿路機能に関する用語基準」によれば排尿筋括約筋
協調不全とは、「尿道または尿道周囲の横紋筋(括約筋)の不随意収縮と排尿筋収縮が同時に生じ
ている状態であり、尿流が途絶することもある」と定義されている 1)。
正常の状態では橋にある排尿中枢が排尿筋と括約筋との間の協調関係(尿道括約筋が弛緩した
後に排尿筋が収縮)を司っているが、脊髄障害では橋の排尿中枢と仙髄にある脊髄排尿中枢との
間の情報伝達に支障が生じる結果、この協調関係が崩れ排尿筋収縮時に括約筋が不随意収縮を
来す病態が生じると考えられている(図 1)2)。
Blaivas らの針筋電図を用いた検討によれば、排尿筋括約筋協調不全が認められたのは排尿筋
過活動を有する患者のみであり、排尿筋過活動を有する症例に限った検討では、排尿筋括約筋
協調不全が 30%で認められ、全例が仙髄より上位の脊髄障害を有していた 3, 4)。この結果から、
Blaivas らは、排尿筋括約筋協調不全という用語を「仙髄より上位の脊髄障害を有する患者(核
上型橋下型神経因性膀胱)において排尿筋過活動による排尿筋収縮と同時に起こる不随意の尿道
括約筋収縮」に限定して用いるべきであるとしている 3, 4)。一方、国際禁制学会の「下部尿路機
能に関する用語基準」では、排尿筋収縮を不随意収縮(排尿筋過活動)とは限定していない 1)。さ
らに、Koyanagi らは、仙髄よりも上位の脊髄損傷例では排尿筋無収縮例であっても 67%で排尿
企図時に尿道括約筋の活動が増強する事を報告しており、この病態も排尿筋括約筋協調不全に
含めるべきであるとしている 5)。こちらは、現在の ICS 用語基準に従うと「異常尿道機能: 尿道
過活動による閉塞によって尿道が開口できない状態」の範疇に含まれると考えられる 1)。Blaivas
らの提唱するものを狭義の排尿筋括約筋協調不全、
「用語基準」あるいは Koyanagi らの提唱す
る病態を含めたものを広義の排尿筋括約筋協調不全などと区別して用いる専門医もいるなど、
その病態の定義に多少の混乱があるのも事実である。専門医によって排尿筋括約筋協調不全の
定義が一定していないので、診断に際してはどのような病態に対して「排尿筋括約筋協調不全」
という用語を使用したのか明確に記載すべきである。
排尿筋括約筋協調不全の診断にはウロダイナミクスが必要である。ウロダイナミクス上、排
尿筋過活動(あるいは随意的排尿筋収縮)が生じると同時に括約筋筋電図あるいは括約筋部尿道
内圧測定で括約筋活動が不随意に増強した場合を排尿筋括約筋協調不全と診断する。ウロダイ
ナミクスが透視下に行われれば (ビデオウロダイナミクス)、排尿筋括約筋協調不全の診断率が
さらにが高くなる 7)。De らは排尿筋括約筋協調不全を有する脊髄損傷患者 49 例の検討を行い、
ビデオウロダイナミクス時に針筋電図と膀胱尿道造影所見の診断が一致したのは 28 例(57%)の
みで、11 例(22%)が針筋電図のみ、10 例(20%)が排尿時膀胱尿道造影のみで診断がつき、排尿筋
括約筋協調不全の診断には括約筋活動と括約筋部尿道形態とを同時に評価可能なビデオウロダ
イナミクスが有用である事を示している
7)。一方、CQ4
でも触れた様にウロダイナミクスを施
行可能な施設が限られている現実もあり、排尿時膀胱尿道造影のみで診断を下さざるを得ない
場合もあろう。排尿筋括約筋協調不全の定義
1)から言えば、排尿筋と括約筋の機能的側面を正
確に評価しているとは言い難い排尿時膀胱尿道造影のみでは診断には不十分である。しかし、
仙髄よりも上位の脊髄損傷例において、排尿時膀胱尿道造影上、
「蓄尿中は膀胱頚部が閉鎖して
おり、バルサルバあるいはクレーデ排尿ではない排尿中に、膀胱頚部〜近位尿道の拡張と括約
筋部尿道の狭小化あるいは閉塞がある 7」という典型的な造影所見が認められれば排尿筋括約筋
協調不全が存在する可能性が高い(図 2)。但し、レントゲン撮影のタイミングが括約筋収縮時で
なく弛緩時に当たったり、排尿筋過活動時の膀胱内圧がさほど高くない時点に当たったりする
と、膀胱頸部 〜近位尿道の拡張が軽度で診断困難な場合がある 8)。このため、診断精度を上げる
ためには排尿時の連続的な撮影が必要である 9)。また、高度の排尿筋膀胱頚部協調不全が存在す
ると、膀胱頚部
〜 近 位 尿 道 の 拡 張 が 認 め ら れ ず 診 断 が 難 し い ( 図 3)7 )。 尿 道 前 立 腺 逆 流
(intraprostatic reflux)所見の存在は括約筋部尿道の閉塞を示唆するが(図 4)、その原因としては
排尿筋括約筋協調不全と非弛緩性尿道括約筋閉塞が半々であると言われており、排尿筋括約筋
協調不全に特異的所見とは言えない
10)。小児の排尿筋括約筋協調不全の診断に際して提唱され
ている「括約筋部尿道径」に相当する指標は 9)、脊髄損傷患者においてはまだ報告されていない。
以上の事から、排尿時膀胱尿道造影所見のみから排尿筋括約筋協調不全を診断する際には、正
確な評価が難しい点を念頭に置く必要がある。
排尿筋括約筋協調不全の臨床的意義は、これが上部尿路障害の危険因子の一つである点にあ
る。仙髄より上位の脊髄損傷患者 269 例を対象として、排尿筋括約筋協調不全を、なし、間欠
的、持続的の 3 つに分類して検討した Weld らの報告では、膀胱内圧の 40cmH2O 以上の上昇や
上部尿路障害(膀胱尿管逆流、腎盂腎炎、クレアチニン上昇など)は排尿筋括約筋協調不全の有無
やその重症度(間欠的より持続的の方が重症)と有意に関係するという結果であった 11)。マイクロ
チップトランスデューサーを用いて 105 例の男性脊髄障害患者(95 例が脊髄損傷)について検討
した Schurch らの報告では、Blaivas 分類*のタイプ I は 15%、II は 78%、III は 8%であり、
排尿筋括約筋協調不全のタイプと損傷レベルとの間には相関を認めなかったが、完全損傷では
タイプ II または III が有意に多く、不完全損傷ではタイプ I が有意に多く、タイプ I では肛門括
約筋の随意的収縮が維持されている患者が約 60%と他のタイプより有意に多かった 12)。また、
66 例が 3 回のウロダイナミクス(3 回目は 1 回目から平均 4 年後)を施行されており、66%は同一
のタイプ、27%が悪化(タイプ I→II or タイプ II→III)、8%が改善(タイプ II→I or タイプ III→
II)した
12)。神経学的重症度と排尿筋括約筋協調不全のタイプには相関があり、また、経時的に
悪化を示す患者が存在する事から、排尿筋括約筋協調不全を有する患者では定期的ウロダイナ
ミクスの必要性が高いと考えられる 12)。
*Blaivas 分類 (図 5): 下記に示すのは Blaivas らによる分類(%は Blaivas らの報告時の頻度) 3)
であり、欧米の臨床研究には時々用いられているが、本邦で普及しているとは言い難い。
タイプ I(30%); 排尿筋過活動のピーク時に最大となる括約筋収縮
タイプ II(15%); クローヌス様の括約筋収縮
タイプ III(55%); 排尿筋過活動中持続する括約筋収縮
CQ6
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排尿筋圧
筋電図
図1: 排尿筋括約筋協調不全
68歳男性。C6完全損傷。受傷後 6ヶ月。 排尿筋過活動による排尿筋収縮 (↓)と同時に尿道括約筋の不随意収縮 (↑)が生じてお
り、典型的な排尿筋括約筋協調不全の所見が認められる。括約筋筋電図は針 (ワイヤー)電極で導出。
CQ6
図2: 排尿時膀胱尿道造影上の排尿筋括約筋協調不全
左: 68歳男性。C6不完全損傷。右 : 44歳女性。Th10不完全損傷。いずれも、膀胱頚部 ~近位尿道の拡張(矢印頭)と括約筋部尿道
の狭小化あるいは閉塞 (矢印)という排尿筋括約筋協調不全に典型的な所見が認められる。
CQ6
腹圧
括約筋部尿道内圧
­ ­ ­ ­ ­­ ­­­­
膀胱内圧
*
膀胱内圧
基線
括約筋部尿道内圧
基線
図3: 排尿筋膀胱頚部協調不全例の排尿時膀胱尿道造影
63歳男性。C7不完全損傷。受傷後 6ヶ月。膀胱内圧と括約筋部尿道内圧所見上、排尿筋過活動と排尿筋括約筋協調不全が認め
られる。しかし、 197mL
(*)での造影所見上、排尿筋膀胱頚部協調不全によると考えられる膀胱頚部閉塞 (矢印)のため、
排尿筋括約筋協調不全に特徴的な膀胱頚部 ~
72cmH2O, 括約筋部
尿道内圧は114cmH2O。
CQ6
図4: 尿道前立腺逆流 (Intraprostatic reflux)
排尿筋括約筋協調不全による括約筋部尿道の閉塞の結果、造影剤が尿道から前立腺に流入 (逆流)している(矢印, 文献13から引
用)。
CQ6
図5: Blaivasらによる排尿筋括約筋協調不全の分類 : 各タイプの説明は本文
参照. (文献3から引用)
文献
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A, Wein AJ. The Standardisation of Terminology of Lower Urinary Tract Function: Report
from the Standardisation Sub-committee of the International Continence Society. Neurourol
Urodyn 2002; 21: 261-274 (ガイドライン)
2)Watanabe T, Rivas DA, Chancellor MB. Urodynamics of Spinal Cord Injury. Urol Clin N
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a Detailed Electromyographic Study. J Urol 1981; 125: 545-548 (V)
4) Blaivas JG, Sinha HP, Zayed AAH, Labib KB. Detrusor External Sphincter Dyssynergia.
J Urol 1981; 125: 542-544 (V)
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external urethral sphincter as a predictor of detrusor sphincter incoordination in children:
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in recognizing dysfunctioed voiding from external sphincter disorders. J Urol 1982; 128:
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Dyssynergia Type in Patients with Post-traumatic Spinal Cord Injury. Urology. 2000; 56:
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13)小川隆敏. 脊髄損傷の尿路マネジメント. 排尿障害プラクティス. 1996; 4: 26-34 (V)
CQ7 脊髄損傷患者において、腎機能障害を早期に捉える鋭敏な臨床検査値は何か?
筋肉量の低下している脊髄損傷患者においては、血清クレアチニン値は良い指標とはいえない。
したがって、血清クレアチニン値から算出する Cockcroft-Gault 式による推定 Ccr(クレアチニ
ンクリアランス)や eGFR(推算糸球体濾過量)も良い指標とはいえない(推奨グレード C2)。
24 時間 Ccr はばらつきが大きいものの、現在のところ標準的である(推奨グレード B)。しかし、
外来レベルでは現実的でない。スポット尿での尿タンパク2+以上3回連続というのは、腎機
能障害の有用な指標となる可能性がある(推奨グレード C1)。筋肉量に影響されない血清シス
タチン C は有望な指標と思える(推奨グレード C1)。
慢性脊髄損傷患者の死因として、腎不全はかつては1位であった1)。現在でも欧米では 4 位2)、
日本では3位3)の死因である。また、Ccr とタンパク尿(500mg/日以上)で脊髄損傷患者の腎機
能を 4 段階に分類し、後ろ向きに調査した研究によれば、腎機能の低下に伴い生存期間が短縮
することが明らかになっている4)。また、脊髄損傷患者の有熱性尿路感染症の治療に頻用される
アミノグリコシド系は腎機能障害の度合いに応じて用量を調整する必要があるが、その場合に
も、正確な腎機能把握が必須である。したがって、脊髄損傷患者においては、他の患者集団以
上に腎機能の評価が重要となる。
脊髄損傷患者においては、麻痺による筋肉の萎縮のために、筋肉によって産生されるクレア
チニンの量は大幅に低下している。したがって、糸球体濾過量は著明に低下しているにもかか
わらず、血清クレアチニン値は正常ということかあり得る5)。したがって、血清クレアチニン値
は、脊髄損傷患者の腎機能評価の指標としては有用でない。また、血清クレアチニン値をもと
に、年齢、体重の値から Ccr を推定する Cockcroft-Gault 式も、腎機能を過大評価することが示
されている6)。
また、近年、血清クレアチニン値を基に日本人の補正係数から算出する MDRD 法による推算
糸球体濾過量(eGFR)に関しても、イヌリンクリアランスとの比較から、脊髄損傷患者の腎機
能を過大評価することが示されている7)。
24 時間 Ccr に関しては、99mTc-DTPA クリアランスとの比較から、腎機能の良い指標とする
論文6)もあるが、再現性を見た実験では、同一患者での標準偏差が 25.9ml/分とあまりに大きく、
信頼性がないとする論文もある8)。がしかし、現時点では 24 時間 Ccr がベストな方法と言えよ
う。しかし、尿失禁による尿の取り漏れなどの問題があり、外来レベルでは現実的でないのも
事実である。
先述した予後評価の論文4)のようにタンパク尿は予後の評価に有用であるが、これも 24 時間
蓄尿となると、上記の 24 時間 Ccr 測定と同様の問題が発生してくる。ただ、308 人のせき損患
者のデータを後ろ向きに検討した論文によると9)、タンパク尿を1g/日以上か、スポット尿で3
回連続2+以上が続いた場合と定義した結果、タンパク尿は腎機能障害の診断に関して 24 時間
Ccr とよく相関していたので、このスポット尿3回連続2+以上という定義によるタンパク尿は、
外来で可能な腎機能評価の指標かもしれない。
最近になり、筋肉量に影響されずに腎機能が測定できるシスタチン C が脊髄損傷患者の腎機
能評価に使用され、Ccr とよく相関したという報告7)がある。日本でも脊髄損傷患者6人で検討
した結果、イヌリンクリアランスとの相関が良好であり、脊髄損傷患者の腎機能評価に有用で
あるとする報告がある7)。今後多数例での検討が必要であるが、有望な指標である。
文献
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25-year follow up. Comparison with status of the 20-year Korean War paraplegic and 5-year
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日本保険医学会誌 2006; 104:65-77(IVb)
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6)Macdiarmid SA, Mcintyre WJ, Bailey RR, Turner JG and Arnold EP. Monitoring of renal
function in patients with spinal cord injury. BJU Int 2000;85:1014-1018(IVa)
7)岡本日出数、水口正人、細谷龍男.
能マーカーである。
血清シスタチン C は脊髄損傷患者における優れた腎機
日本脊髄障害医学会誌
2009;22:162-163(IVb)
8)Sepahpanah F, Burns SP, McKnight B and Yang CC. Role of creatinine clearance as a
screening test in persons with spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil 2006;87:524-528
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9)Weld KJ, Wall BM, Mangold TA, Steere EL and Dmochowski RR Influences on renal function
in chronic spinal cord injured patients. J Urol 2000;164:1490-1493(IVa)
CQ8.脊髄損傷患者において、上部尿路障害/腎機能障害の危険因子は何か?
下部尿路機能や形態の障害による蓄尿・排出時の「高圧環境」が上部尿路障害/腎機能障害
を引き起こす。具体的には、排尿筋過活動、排尿筋括約筋協調不全(特に type3)、膀胱コンプ
ライアンス低下、排尿筋漏出圧高値や膀胱変形の進行などが危険因子とされる。また、脊髄損
傷レベルや損傷程度も危険因子となる。四肢麻痺は対麻痺に対して、完全損傷は不全損傷に対
して上部尿路障害/腎機能障害が高率とされる。さらに、尿路管理法の選択も上部尿路障害/
腎機能障害に影響を及ぼす。尿道留置カテーテルや反射性排尿は、清潔間欠導尿に比較して上
部尿路障害/腎機能障害の危険因子となる。
腎機能を含めた上部尿路合併症の予防は、脊髄損傷患者の慢性期尿路管理の主眼のひとつで
ある。上部尿路障害の存在は、腎機能障害を惹起する。脊髄損傷患者においては、下部尿路機
能・形態障害、脊髄損傷の部位・重症度および選択される尿路管理法の3つの側面から上部尿
路障害/腎機能障害の危険因子が検討されているが、ケースシリーズがほとんどでエビデンス
レベルは高くはない。
なお、本ガイドラインでは上部尿路障害は、水腎水尿管・膀胱尿管逆流・有熱性の上部尿路
感染症・上部尿路結石などの上部尿路の機能形態異常を呈する病態とした。また、腎機能障害
は、血清クレアチニン上昇、クレアチニンクリアンランス低下、蛋白尿増加や糸球体濾過量低
下などの腎実質の機能的異常と腎瘢痕や腎萎縮などの腎実質の形態学的異常を呈する病態とし
た。
1) 下部尿路機能や形態の障害からみた危険因子
蓄尿・排出を通じて高圧な下部尿路環境が上部尿路障害の危険因子となる。具体的には、ウ
ロダイナミクスのパラメーターである排尿筋過活動・排尿筋括約筋協調不全、膀胱コンプライ
アンス低下、排尿筋漏出圧上昇と膀胱造影における膀胱変形などが挙げられる。
排尿筋過活動および排尿筋括約筋協調不全:典型例としては仙髄より上位のいわゆる核上型
損傷でみられ、排出期の下部尿路高圧環境を引き起こす代表的病態である。100 例の排尿筋過活
動を有する脊髄損傷患者の経過観察で、上部尿路障害例の 55%で type3 の排尿筋括約筋協調不
全を認め、上部尿路障害の有無で最大膀胱反射圧(排尿筋過活動の最大値)に有意差(115cmH2O
vs 72cmH2O p<0.001)がみられた 1)。
膀胱コンプライアンス低下:典型例としては仙髄以下のいわゆる核・核下型損傷でみられ、
蓄尿期の下部尿路高圧環境を引き起こす代表的病態である。脊髄損傷患者 316 例の検討では、
低コンプライアンス膀胱を 12.5 ml/cmH2O 以下とした場合、膀胱尿管逆流症を有する患者の
86%、上部尿路異常所見を有する患者の 78%、腎盂腎炎の既往のある患者の 82%、上部尿路結
石の既往のある患者の 62%が低コンプラインンス膀胱を有していたとされている 2)。
排尿筋漏出圧:二分脊椎患者において排尿筋漏出圧が 40cmH2O 以上と未満の場合、膀胱尿
管逆流症がそれぞれ 68%・0%に尿管拡張がそれぞれ 81%・10%に認められたとされ、排尿筋
漏出圧 40cmH2O 以上は二分脊椎患者における上部尿路障害の危険因子として広く認知されて
いる 3)。脊髄損傷患者での排尿筋漏出圧の検討は少ないが、括約筋切開術施行患者 55 例におい
て、排尿筋漏出圧が 40cmH2O 以上と未満の場合、腎障害がそれぞれ 28%と 5%に認められた
との報告がある 4)。
膀胱変形:小川の分類による膀胱変形と上部尿路障害の関係の検討から、上部尿路障害は
Grade0 で 0%、Ⅰで 32%、Ⅱで 80%、Ⅲで 82%に認められ、GradeⅢの高度膀胱変形では水
腎水尿管が増加するとされている 5)。また、腎形態異常の出現時期と膀胱の高度変形の出現時期
との一致から、膀胱の変形についで腎の変形が進行するとの報告がある 6)。いずれも本邦での検
討であり、膀胱変形の進行は上部尿路障害/腎機能障害の危険因子とされる。
2) 脊髄損傷の部位・重症度からみた危険因子
尿道留置カテーテル管理例を除外した 140 例の脊髄損傷患者(四肢麻痺 87 例・対麻痺 53 例、
完全麻痺 100 例・不全麻痺 40 例)の検討で、水腎症を呈する患者の 75%と 92%が四肢麻痺と
完全麻痺患者であり、膀胱尿管逆流を認めた患者の 86%と 100%が四肢麻痺と完全麻痺患者で
あったとの報告があり 1)、水腎症や膀胱尿管逆流症などの上部尿路障害の発生率において四肢麻
痺は対麻痺に対して、完全麻痺は不全麻痺に対して危険因子とされる。
脊髄損傷患者 169 例で Cr-EDTA による糸球体濾過量を測定した結果、損傷レベルでは頸髄損
傷が、重症度では完全麻痺が急性期と慢性期を通じて最も糸球体濾過量が低下していたとの報
告があり 7)、腎機能障害に関しても四肢麻痺や完全麻痺は危険因子とみなすことができる。
3) 尿路管理法かみた危険因子
309 例の脊髄損傷患者の平均 18.7 年の経過観察で、上部尿路障害出現率は、尿道留置カテー
テル群・清潔間欠導尿群・自排尿群それぞれ 18.2%・6.5%・7.8%と尿道留置カテーテル群で有
意に高率とされる(p<0.01)8)。179 例の男性脊髄損傷患者の 10 年以上の経過観察例の Hazard
ratio による多変量解析でも、尿道留置カテーテルは他の尿路管理法に対して上部尿路障害の独
立した危険因子とされている 8)。また、腎機能障害の指標としてクレアチニンクリアランスある
いは尿蛋白陽性を用いた場合、多変量解析にて尿道留置カテーテルは腎機能障害の独立した危
険因子とされた 9)。さらに、平均 19.1 年の経過観察中の腎瘢痕を有する脊髄損傷患者 27 例の腎
瘢痕の進展と尿路管理法の検討では、15.6%で腎瘢痕が進展しその全例が留置カテーテル例であ
ったとの報告がある 10)。Cr-EDTA による糸球体濾過量を腎機能評価法とした研究では、清潔間
欠導尿継続例では有意な糸球体濾過量の改善が得られたとされる 7)。尿道留置カテーテル以外で
は、160 例の自排尿許可例・清潔間欠導尿例・反射排尿例では、上部尿路障害の発現率はそれぞ
れ 0%・7%・32%と反射排尿例で高率との報告がある 11)。以上から尿道留置カテーテルや高圧
な反射排尿の持続は、清潔間欠導尿継続に対して上部尿路障害/腎機能障害の危険因子とみな
すことができる。
文献
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CQ9 脊髄損傷患者において、上部尿路機能/腎機能検査はどのように行うのがよいか?
初期評価は下部尿路機能評価にあわせて施行する。その際に選択される上部尿路機能/腎機能
検査法としては、超音波検査・排泄性尿路造影・腎シンチグラム・CT 検査・生化学検査などが
ある。その後の経過観察においては、特に明らかな徴候がない場合でも、1年に1回程度の超
音波検査の施行が経済性・安全性と信頼性から現時点では最も妥当と考えられる。上部尿路合
併症の出現や増悪が疑われた場合には腎シンチグラムや CT 検査などの精査を考慮してもよい。
(推奨レベル C1)
脊髄損傷患者において上部尿路機能/腎機能検査は、生命予後のみならず尿路管理法決定の
重要な情報を与えるものであり、初期評価として下部尿路機能検査と同時に行うことに異論は
ないと思われる。上部尿路機能検査としては、排泄性尿路造影、超音波検査、腎シンチグラム、
CT 検査などがある。腎機能検査としては腎シンチグラムや血清クレアチニン・クレアチニンク
リアランス・蛋白尿などの生化学検査が行われている。生化学検査の信頼性については CQ7 を
参照のこと。すべての検査に長所と短所があり、初期評価においては複数の検査を組み合わせ
て正確な機能評価を行うことも許容される。しかし、その後の経過観察において上部尿路機能
/腎機能検査を定期的に施行すべきか、また行うとすればどれ位の間隔で施行すべきかに関し
ては十分なエビデンスのある明確な結論は得られていない。特に臨床徴候のない患者に対して
の長期経過観察においては、簡便性や経済性、安全性を勘案した検査の選択が大切となる。
まず、慢性期脊髄損傷患者において上部尿路機能/腎機能に関する厳密な定期検査は必要か
否かについても様々な見解がある。Nosseir らは 80 例の脊髄損傷患者に年1回の尿流動態検査
ならびに超音波検査と2年毎の血清クレアチニン測定による厳密な経過観察を基にした尿路管
理を約5年間行った結果、上部尿路機能の悪化例は1例もみられなかったとし、定期的評価の
重要性を指摘している
1)。一方、毎年定期検査を受けた脊髄損傷患者
101 例を対照とし、初期
評価以降平均 6.6 年間にわたり定期検査を受けなかった患者 59 例の腎機能(シンチによる腎血
漿流量)の比較で、両群間に有意差がなかったとの報告もある 2)。もちろん、この著者らも定期
検査が不要であるとの立場にあるにではなく、最初の数年は1年毎に連続的に定期検査を行い、
尿路機能が安定していれば、その後は検査間隔を延ばし、よりコストパーフォマンスのよい超
音波検査などにシフトしていくべきとしている。また、腎瘢痕を有する脊髄損傷患者 27 例 32
腎の平均 19.1 年の経過観察で、84%の腎瘢痕に進行はみられなかったとの報告がある 3)。しか
し、翻って云えば 16%では腎瘢痕進展が潜行していたことになり、知覚麻痺を有し自覚症状の
欠落しがちな脊髄損傷患者では、進行する上部尿路障害/腎機能障害は定期的な検査によって
のみ同定される可能性も無視はできない。従って、すべての慢性期脊髄損傷患者に対して厳密
な上部尿路機能/腎機能検査を長期間に渡って行っていくことは難しいが、上部尿路機能/腎
機能悪化の危険因子(CQ8 参照)を有する患者では、潜行する上部尿路障害/腎機能障害の可
能性を念頭においた経過観察が必要と考えられる。
本邦の実臨床レベルでの上部尿路評価の実態に関する泌尿器科医 333 名へのアンケート調査
がある 4)。その調査によると上部尿路機能のサーベイランスのために行う検査の第一選択は、超
音波検査 72%、排泄性尿路造影 26%、腎シンチグラム 0.3%、CT1.2%で超音波検査が最も多
かった。欧米での同様な調査に比べると腎シンチグラムの割合(20%)が本邦では低いようであ
る 5)。さらに、超音波検査を第一選択としている医師が、CT 検査を考慮する病態としては、結
石 57.8%、敗血症など重症尿路感染 35.6%、血尿 66.9%であった。また、サーベイランスの間
隔は、半年毎は 0%で、1年毎が 46%、1 年毎より長いが 50%、必要時に行うが 4%であったが、
回答者の 68%が本来は1年毎に検査すべきとしていた
4)。本邦の実臨床レベルの上部尿路機能
検査は、年1回程度の超音波検査が現時点では一般的といえる。
これまで広く行われてきた排泄性尿路造影に代わる上部尿路機能の検査法としては、超音波
検査や腎シンチグラムの有用性を指摘する報告が多い。75 例の脊髄損傷患者での排泄性尿路造
影と超音波検査における水腎症や腎瘢痕などの上部尿路所見検出能を比較した前向き研究では、
両検査の診断精度はほぼ同率で、超音波検査は下部尿管拡張の検出能は劣るが、排泄性尿路造
影では軽微ながら 26.6%で造影剤の副作用がみられたことから、腹部単純写真(KUB)を加え
た超音波検査は上部尿路機能の経過観察において、経済性と安全性を備えており、排泄性尿路
造影に代わる信頼性のある検査法であるとされている 6)。さらに、KUB については、腎領域の
可視化率は腸管ガスのため 50%以下であり診断的意義は少ないので、脊髄損傷患者の上部尿路
の定期検査として超音波検査と同時に KUB を撮影する意義は低いとの指摘もある
9-7)(レベル
Ⅳa)。超音波検査と腎シンチグラム(MAG3)での水腎症の検出率を排泄性尿路造影と比較し
た前向き研究の結果、超音波検査の感度・特異度は 96%・90%で、腎シンチグラムはそれぞれ
91%・84%であったと報告されており、血清クレアチニン上昇などの腎機能障害例にも施行可能
な超音波検査や腎シンチグラムは排泄性尿路造影に代わる上部尿路機能検査法であるとされて
いる 8)。以上から上部尿路機能検査法として超音波検査は有用と判断される。
文献
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CQ10
脊髄損傷患者の経尿道排尿にはどのような種類があり、それぞれの適応は?
良好な排尿であることが確認されればそれを続ける(推奨グレード C1)、Crede/Valsalva 排尿
は勧められない(推奨グレード D)、反射性排尿は一定の条件のもとでは行ってもよい(推奨グ
レード C1)
1良好な排尿:最大排尿筋圧が 40cmH2O 以下で残尿が 100ml 以下の条件で自排尿を平均 19
年続けた結果、
腎機能障害の発生頻度は CIC で管理している患者と変わらなかった 1)ことから、
そのような条件を満たす患者は良好な排尿と考えられる。ただし、膀胱変形、VUR、DSD、低
膀胱コンプライアンス(20ml/H2O 以下)が存在すれば、上部尿路障害を起こす危険性が高い
ので、許可できない。
Crede 排尿/Valsalva 排尿:Crede 排尿は、膀胱に貯まった尿を恥骨上から(患者本人ま
2
たは介助者の)手で圧迫することにより、尿道から排出される方法である。Valsalva 排尿は横
隔膜/腹部の筋肉を自力で動かせるレベルの患者が腹圧を上昇させて、膀胱に貯まった尿を尿
道から排出される方法である。これらの方法は、上部尿路に圧を伝播させ、上部尿路障害を起
こすリスクが高い 2,3,4)ので勧められない。また、腹圧上昇によるソケイヘルニアや骨盤臓器脱、
痔疾の発症も懸念される 5)。
3
反射性排尿(男性患者のみ):膀胱の回復期から出現してくる不随意収縮を利用して経尿道
排尿をするものである。下腹部などの trigger zone と呼ばれる部位(患者によって場所は異な
る)を(患者本人または介助者が)手で叩くことにより、反射を惹起する。多くの患者で DSD
が存在するので、上部尿路障害を防ぐために外尿道括約筋切開術を施行してからこの排尿方法
に移行することが多い。ペニスにコンドーム型の集尿器を装着できる(十分な長さのペニスと
集尿器を装着を患者本人または介助者ができる)ことが原則である。自己導尿不能な高位頸髄
損傷患者が対象となるが、自己導尿可能なレベルでも、膀胱容量が極端に少なく失禁対策がた
たない患者や、水分摂取制限ができない患者も対象となる。集尿器の脱落、ペニスの皮膚障害、
長期になると反射が減弱してくることなどが問題である。
論文
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CQ11 脊髄損傷患者の排尿障害に対する薬物療法(内服薬)は有用か?
脊髄損傷患者の排尿障害に対する薬物療法としては、膀胱出口部(膀胱頚部、前立腺部尿道、
外尿道括約筋)の抵抗を低下させる作用を期待してα1受容体遮断薬が、排尿筋の収縮力の増
大を期待してコリン作動薬が使用されるが、前者は RCT で有効性を示せず(推奨グレード C2)、
後者の RCT の結果はまちまちで、重篤な副作用もある(推奨グレード C2)。したがって、薬物
療法は有用でない。
α1 遮断薬:
慢性脊髄損傷患者に対して、terazosin 5mg を 4 週間内服させた症例検討報告がある1)。しか
し、排尿障害に対する効果は記載されておらず、蓄尿機能である膀胱コンプライアンスと尿失
禁が投与後に改善した。しかし 22 例をエントリーし、5 例が脱落し、5 例がめまい、浮腫など
の副作用のため中止しており(脱落率:10/22=45%)、研究の質は低い。
日本において、naftopidil を使用したオープン試験がある。82 名の患者中 42 名が脊髄損傷患
者であった。Naftopidil 投与前と 75mg 投与後を比較して、最大尿流時膀胱内圧の有意な低下、
ウロフロでの最大尿流の有意な上昇、残尿の有意な低下を報告している2)。
RCT は3つのα1 遮断薬で施行されている。
神経因性膀胱患者 163 人(うち脊髄損傷患者は 88 名(54%))に対する alfuzosin 静注によ
る RCT では、alfuzosin 0.5mg, 1mg, 2mg, プラセボを静注し、前後の尿道内圧の変化を観察し
ている。alfuzosin は容量依存性に有意に尿道内圧を低下させている3)。副作用としては、実薬
群で 23—32%に、頭痛、めまい、低血圧、眠気などが出現している。これは静注である上に急
性実験であるので実地臨床とはかけ離れている。
また alfuzosin は日本では認可されていない
(外
国では前立腺肥大症の治療薬として認可されている)
。
日本での神経因性膀胱患者 136 人(うち脊髄損傷患者は 8 名(5%)
)に対する urapidil 内服
による RCT がある4)。urapidil 30mg, 60mg,プラセボを 4 週間内服した結果、60mg 群でのみ、
群内(群間ではない)で最大尿流、尿道抵抗、最大尿流時排尿筋圧が有意に改善した。副作用
は実薬群にのみ、1例と2例認められており、いずれも軽度のめまいなどで中止には至ってい
ない。
263 人の脊髄損傷患者に対して、tamsulosin とプラセボとの二重盲検 RCT がある5)。244 人
が4週間の投与期間を完了した。プライマリーエンドポイントは最大尿道内圧である。プラセ
ボ群と tamsulosin 0.4mg 群、同 0.8mg 群で有意差はつかなかった。ただ、続いて行われた
tamsulosin 0.4mg と 0.8mg を使用したオープン試験では、投与前後で最大尿道内圧は有意に低
下していた。副作用に関して、RCT ではめまいなどの副作用は実薬群とプラセボ群で差はなか
った。オープン試験でもその頻度は変わらなかった。
まとめると、α1 遮断薬はオープン試験において、脊髄損傷患者の神経因性膀胱による排尿障
害に対して、効果がある可能性を示したが、RCT ではプラセボに対して、他覚的なエンドポイ
ントで有意差を示せなかった。
コリン作動薬:
ムスカリン受容体に直接作用する bethanechol とアセチルコリンを分解するコリンエステラー
ゼ阻害薬 distigmine がある 6)。Review によれば、bethanechol で8つ、distigmine で3つ RCT
がある。ただし、そのほとんどは婦人科術後や外科術後のような末梢神経損傷後の排尿障害に
対するもので、脊髄損傷患者を対象とした研究はない。コリン作動薬単独の試験とα1 受容体遮
断薬との併用の試験がある。対照は無治療かプラセボである。プライマリーエンドポイントは
様々で、残尿量、尿流量、カテーテルの使用などである。3試験で有意な改善を認め、5試験
で差がなく、1試験では悪化していた。副作用としては、吐気、嘔吐、下痢、気管支れん縮、
流涎、発汗、視覚調節障害などがあげられている。また稀ではあるが重篤な副作用として、急
性循環不全/心停止もあげられている 6)。また distigmine の添付文書 7)には、警告として、
「本
剤の投与により意識障害を伴う重篤なコリン作動性クリーゼを発現し、致命的な転帰をたどる
例が報告されている」とある。
まとめると、コリン作動薬の RCT の結果はまちまちであり、重篤な副作用の懸念がある。
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7)ウブレチド錠 5mg 添付文書
CQ12
2010 年3月改訂
脊髄損傷患者の自己導尿にはどのようなカテーテルを使用するか?
脊髄損傷患者の自己導尿に使用されるカテーテルには、反復して使用する(reusable)タイプの
シリコン製カテーテル
と 1 回限りで使い捨てのディスポーザブル・ネラトンカテーテルの 2
1,2)
種類がある。更に、前者のオプションとして延長チューブ付きセルフカテーテル 3)や、一時的な
留置と抜去が可能な間欠式バルンカテーテル 4)があり、後者では親水性コーティング付きのカテ
ーテル 7-10)がある。(推奨グレードB)
①
間欠導尿用のセルフカテーテル(セルフカテ®(富士システムズ)
,セフティカテ®(クリエ
ートメディック),外径:9~20 Fr. 長さ:13~39cm)
:脊髄損傷患者に限らず,間欠導尿に用
いられる最も基本的なシリコンゴム製カテーテルで,代用膀胱に用いる多孔式のセルフカ
テーテル(外径:14~20 Fr.)が用いられることもある.使用後にカテーテルを内腔と外側と
もに水道水で洗い流し,消毒剤および潤滑液入りの保存液をいれたケースに収納するよう
になっている.保存液は1日1回交換するように指導する.通常、最も低コストな方法で
あり、発展途上国でも広く使用されている 2)。
②
延長チューブ付きセルフカテーテル(セルフカテ EX®(富士システムズ),外径:12, 15Fr. 長
さ:28, 33cm):前述の間欠導尿用セルフカテーテルに延長チューブが接続されており,直
接便器や少し離れた場所にある尿器等へ排尿できるようにしたもので,特に,男性頚髄損
傷患者などで車椅子上での自己導尿をする場合に有用である 3, 5).
③
ディスポーザブル・ネラトンカテーテル(外径:12, 14 Fr. 長さ:15~33cm(テルモ,ニプ
ロ)):1回毎に使い捨てのポリ塩化ビニル製カテーテルである.カテーテルの洗浄・消毒
が不要であるため,特に頚損患者や外出時の導尿に便利である.通常はゼリーなどの潤滑
剤が必要となる.また、頚髄損傷患者用にこのカテーテルに用いる総合せき損センター式
のマンドリン(自己導尿キット®(リブドゥコーポレーション)
)も販売されている。
④
親水性コーティング付きディスポーザブルカテーテル(スピーディカテ®(コロプラスト)
,
外径:6~14 Fr. 長さ:20, 39cm,スピーディカテ®コンパクト(コロプラスト)
,外径:8~
14 Fr. 使用時の長さ:14 cm,ポケットカテ®(テルモ)
,外径:8~14 Fr. 長さ:15, 28cm):
上記のディスポーサブルカテーテルの表面に親水性のコーティング処理をしたもので,潤
滑性に優れており,通常はゼリー等の潤滑剤を必要としない.これら親水性カテーテルは
非親水性カテーテルに比べて症候性尿路感染症の予防効果が高いことを示す報告がみられ
るが 7-10)、他の方法に比べてコストがかかる 10)。
⑤
間欠式バルンカテーテル(URO DIB®(ディヴインターナショナル)
,外径:12, 14 Fr. 長さ:
33cm)
:間欠導尿用セルフカテーテルと同様の形態のバルンカテーテルで,バルンカフは付
属のスポイドにて水を出し入れすることで自宅での留置・抜去が繰り返しできるようにな
っている.留置中に付属のスポイドをはずしておくことが可能なタイプ(URO DIB®,Dタ
イプ)もある.特に頚髄損傷患者などで夜間多尿に対してのナイトバルンとして,また,
仕事,外出,旅行,スポーツ競技などで導尿が困難な場合の昼間留置用のバルンカテとし
て用いられる
4, 5)
.原則として,1回の使用では半日までの留置が推奨されている 6).
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CQ13
脊髄損傷患者の自己導尿可能な麻痺レベルは?
運動機能が完全麻痺の男性頚髄損傷患者では,残存上肢機能が改良 Zancolli 分類にて C5B,同
様に女性頚髄損傷患者では,ベッド上開脚位であれば C6B1 までなら実施できる可能性がある
(それぞれ,左右差がある場合は下位のレベルにて).(推奨グレード C1)
① 運動機能の完全麻痺である ASIA 分類の A または B の男性頚髄損傷患者では,残存上肢機
能が改良 Zancolli 分類にて(図1,左右差がある場合は下位のレベルで)C5B(上腕二頭筋
が徒手筋力テスト 4 以上)までであれば,特殊なデバイスや延長チューブ付きセルフカテー
テル等を用いて外出時も完全自立で自己導尿をできる可能性がある
1, 2)
.しかし,これは患
者個人の適性により可否の分かれるところであり,多数の患者において実用的な自己導尿が
可能なレベルは C6B1(手根伸筋 4 以上,上腕三頭筋 0)以下であるという指摘もある 2, 3, 4).
②
ASIA 分類 A または B の女性の頚髄損傷患者では,十分な開脚が必要となるためにベッド上
での導尿が必要となり,自宅においては改良 Zancolli 分類にて(左右差がある場合は下位の
レベルで)C6B1 までなら実施できる可能性があるが 2, 3),外出時においては胸髄損傷レベル
以下でなければ実用的な自己導尿はまず不可能であり,多数の患者が間欠式バルンカテーテ
ルを用いている 5).
「改訂 Zancolli分類」(せき損センター式)
文献
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CQ14
繰り返し使用するカテーテルの適切な保管方法と交換時期は?
清潔間欠導尿に使われるカテーテルの最適な洗浄と保管の方法についての結論は出ていない
が,保存用消毒液を用いる場合には 0.02-0.05%塩化ベンゼトニウムや塩化ベンザルコニウムに
潤滑剤としてグリセリンを加えた溶液が推奨されている.(推奨グレード C1)
尿路感染症や尿道損傷の原因となるようなカテーテルの汚染や皮殻の形成,損傷等を認めた
場合は遅滞なく交換する必要があるが.一律にその交換時期を設定することはできない.
(推奨
グレード C1)
繰り返し使用する(reusable)カテーテルの交換時期は,国内メーカーの推奨によると約1ヵ
月であり,また1ヵ月に一度の受診を基本として医療保険の支払いが設定されていることもあ
り,我が国では,1ヵ月に1本ずつの交換頻度で行っていることが最も多いと思われる.尿路
感染症や尿道損傷の原因となるようなカテーテルの汚染や皮殻の形成,損傷等を認めた場合は
遅滞なく交換する必要があるが,これは尿中の細菌,上皮,結晶の量や,カテーテルの洗浄手
技等による保清の程度によって異なってくるため,一律にその交換時期を設定することは困難
である.
カテーテルの保管方法には乾燥させておく乾式保管と消毒液等に浸しておく湿式保管がある
が,Lapides らは使用したカテーテルを石けんと水にて洗浄後,プラスチック製のバッグ,コン
パクト,紙タオルで包むなどの乾式保管での非無菌的な間欠導尿法の有用性を示しており 1),ま
た,カテーテル使用直後に洗浄して乾燥させることがその付着菌を減ずる効果が最も高かった
とする報告もある 2).一方で,保存用の消毒液はカテーテルの付着細菌を減ずるために有効であ
ることが示され 3),清潔間欠導尿法で使われるカテーテルに関して乾式保管と比べて湿式保管の
有益性を示唆した報告もあるため 4),カテーテルの最適な保管方法については一定の見解に達し
ていないといえよう.HIPAC(Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee)の「カテ
ーテル関連尿路感染(CAUTI)予防のためのガイドライン 2009」でも,清潔間欠導尿法に使わ
れるカテーテルの最適な洗浄と保管の方法については追加研究が必要な未決事項とされている
5)
.ただし,特に頚髄損傷患者などでカテーテルの洗浄が不十分であったり,導尿操作中にカテ
ーテルを汚染することが多い症例では,カテーテルに消毒液を付着させておくことは有効であ
ると推測される.保存用消毒液には 0.02-0.05%塩化ベンゼトニウムや塩化ベンザルコニウムに
潤滑剤としてグリセリンを加えた溶液が推奨されている.1%ポビドンヨードグリセリン液はこ
れを用いた自己導尿中の脊髄損傷患者の尿感染率が無菌間欠導尿中の場合と有意差を認めず,
尿道炎や尿道狭窄の発生もなかったとの臨床上での有用性が示されているが 6),ポビドンヨード
やクロルヘキシジンを含む溶液はカテーテル先端を損傷する可能性があるとの理由でメーカー
は推奨していない.
文献
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臨泌 1987; 41: 961-964(Ⅲ)
CQ15
脊髄損傷患者における清潔間欠導尿法において,手指および外尿道口周囲の衛生はどの
ようにすべきか?
手指および外尿道口周囲の衛生状態を普段から良好に保つこと,および,導尿前の清浄操作
は必要と考えられる.
(推奨グレード:C1)
普段からの保清と導尿前の清浄操作が十分に出来ない患者における手指および外尿道口周囲
の消毒操作の有効性については更なる検討が必要である.
(1)手指の衛生について:
Lapides が non-sterile technique として清潔間欠導尿法 clean
intermittent catheterization の有用性を提唱した論文では,尿路感染症の予防には無菌操作である
ことよりも膀胱過伸展をきたさないことが重要であり,手指衛生としては導尿前の石鹸と流水
による洗浄で十分であるとしている 1, 2).脊髄損傷患者が清潔間欠導尿のためにおこなっている
手指衛生の方法としては,この非抗菌性または抗菌剤入りの石鹸と流水による洗浄,消毒液を
含ませた綿花等による清拭,擦式アルコール製剤の塗布による消毒などが挙げられるが,カテ
ーテル器具を挿入・操作する直前・直後に手指衛生を保つ操作を行うことは HIPAC(Healthcare
Infection Control Practices Advisory Committee)の「カテーテル関連尿路感染(CAUTI)予防のた
めのガイドライン 2009」で推奨されており
3)
,更にその「医療現場における手指衛生のための
ガイドライン」では,擦式アルコール製剤での手指消毒を石鹸と流水による洗浄よりも除菌効
果が高いことなどから,手指に汚染がない場合の手指衛生の第一選択としている 4). 自己導尿
を施行している脊髄損傷患者にとっての手指衛生の方法としては,多くの場合で Lapides が示し
たように手指洗浄で十分なのであろうが,残存上肢機能の問題から手指洗浄が十分出来ない頚
髄損傷患者などでは手指消毒が必要になってくるものと推測される.
(2)外尿道口周囲の衛生について:
間欠導尿中の脊髄損傷患者において,導尿前の外陰部の
清浄操作が症候性尿路感染症の発生率を減らすことが報告されている 5).また,自己導尿の際に
陰毛を膀胱内に混入させることでこれを核にした膀胱結石(陰毛結石)をきたしやすいことが
報告されており
6-8)
,導尿前の外尿道口周囲の清浄操作は外尿道口に付着した陰毛等の異物を混
入させないためにも有効であると思われる.本邦では通常,塩化ベンザルコニウム等を含んだ
清浄綿による清拭によってなされているが,脊髄損傷男性患者における会陰部皮膚の細菌叢に
対する除菌効果について,ポビドンヨード等による消毒操作は石鹸による洗浄操作と比較して
優位性は認められなかったという報告もあり 9),普段からの保清が不十分なケースにおける消毒
の有効性については更なる検討を要するところである.
文献
1)Lapides J, Diokno AC, Silber SJ, Lowe BS. Clean, intermittent self-catheterization
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CQ16 脊髄損傷患者での清潔間欠自己導尿法の適応と開始時期は?
自排尿では尿排出が不十分なために膀胱壁の過伸展や,膀胱内圧の上昇をきたし,尿路性器
感染症,膀胱尿管逆流または上部尿路障害の進展をきたすリスクのある場合,下部尿路症状や
自律神経過反射をコントロール出来ない場合などに第一選択の適応となる.
自己導尿の開始時期は,座位バランスがとれるようになれば早期に開始することが望ましい.
(推奨グレード C1)
自排尿のままでは尿排出が不十分なために膀胱壁の過伸展や,排尿筋括約筋協調不全等による
膀胱内圧の上昇をきたし,尿路性器感染症や上部尿路障害の進展をきたすリスクのある場合,
尿失禁などの下部尿路症状や自律神経過緊張反射をコントロール出来ない場合などに第一選択
の適応となる
1-3)
.膀胱機能障害のタイプとしては,排尿筋無収縮,排尿筋低活動,排尿筋過活
動に排尿筋括約筋協調不全を合併したもの(反射性膀胱)
,および低コンプライアンス膀胱のい
ずれにおいても前述の場合には適応となり 3, 4),特に,排尿筋過活動例や低コンプライアンス膀
胱では抗コリン薬との併用が好ましいとされる 4, 5).また,尿禁制の獲得のために導入する場合
もある 3).ただし,頚髄損傷患者などで残存上肢機能により導尿操作が不可能であったり,少量
の蓄尿により強度の自律神経過緊張反射をきたす場合や患者のモチベーションの問題で実施で
きない場合もある 3).
2005 年に日本排尿機能学会より出版された「慢性期脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドラ
イン」では,自排尿継続可能な「良好な排尿の条件」
,すなわち,
(1)残尿が 100mL 以下,
(2)
排尿時膀胱尿道造影にて膀胱変形や膀胱尿管逆流がない,
(3)DSD を示唆する所見がない,
(4)
膀胱コンプライアンスが 20mL/H2O 以上,を満たさない場合は清潔間欠導尿による尿路管理を行
うことを推奨している 6).しかし,このガイドラインは排尿障害専門の泌尿器科医以外の医療従
事者も対象としているため自排尿継続可能な条件が厳しく設定されており,また,十分な追試
はなされていないため自排尿可能なケースでも間欠導尿の適応としてしまう可能性があると思
われる.
清潔間欠導尿法は尿道留置カテーテル法にくらべて有意に尿路合併症が少ないので 7, 8),急性
期においても適切なタイミングで導尿できるのであれば可及的早期から医療者による間欠導尿
を開始することが理想的であるが,自己導尿の場合は患者が座位バランスをとれるようになっ
てからでないとその手技練習を始めるのが困難であり,現実的には,急性期を脱して回復期に
入り,特殊寝台(ギャッジベッド)を使ってでも座位がとれるようになった時点で早期に開始
することが望ましいと考えられる.
文献
1)Lapides J, Diokno AC, Silber SJ, Lowe BS. Clean, intermittent self-catheterization
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J Urol 2000; 163: 1228-1233(Ⅳ)
CQ17 脊髄損傷患者での自己導尿の長期成績,合併症は?
尿路性器感染症,膀胱結石,尿道損傷,尿道狭窄,水腎症(上部尿路障害),うつ状態等の精
神症状などが挙げられる.
合併症として最も頻繁なのは尿路感染症であるが,過去の報告では無菌尿の割合が 12~88%
とその罹患率には幅があり 1-3),対象の条件や評価基準等が異なるためにその正確な評価は困難
であるが 3, 4),本邦では有熱性尿路感染症の発生頻度は一人の患者あたり 3.9 年に 1 回 5),1 日
3 回以上導尿した場合には 10 年に 1 回の頻度 6)との報告がある.膀胱結石は一人あたり 80~215
年に 1 回の発生頻度で 5, 6),陰毛を核としたいわゆる陰毛結石が高率であるとの特徴がみられる
5, 7).その他,全経過中で精巣上体炎の既往がある患者の割合は
1~28.5%2-4, 8),尿道炎は 1~
13.2%2, 3),尿道狭窄症は 4.5~19%3, 8),上部尿路障害として grade2以上の水腎症を認めた割合
は 7.9%5)との報告がある.また,自己導尿を行っている脊髄損傷患者は一般健常者に比べてう
つ症状が出現する割合が高く,女性脊髄損傷患者は男性患者の 3.8 倍,間欠導尿を自立で出来な
い脊髄損傷患者は出来る患者の 4.6 倍うつ症状が出やすいとの報告もある 9).
文献
1)Guttmann L, Frankel H. The value of intermittent catheterisation in the early management
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CQ18 脊髄損傷患者での清潔間欠自己導尿法の適切な回数は?
個々の患者において,膀胱壁の過伸展や不随意収縮をきたさない有効膀胱容量と尿産生量から,
1回導尿量を貯めすぎないような導尿回数とそのタイミング,および飲水量を設定することが
重要である.(推奨グレード C1)
膀胱壁の過伸展による血流低下や膀胱内圧の上昇が尿路感染症をきたす最も重要な機序であ
るとの考えから十分な回数の導尿が勧められており
1-3)
,1日導尿回数は平均4~6回必要であ
るとの報告がある 4).実際に症候性尿路感染症,膿尿,膀胱結石,尿道狭窄症の発生率は導尿回
数が多いほど低くなり 5, 6),脊髄損傷患者における膀胱形態および膀胱コンプライアンスも,悪
化例において有意に導尿回数が少なく,1回導尿量の多いことが示されている 7).しかし実際に
は,生活に支障の少ない範囲で効率よく尿路感染症を予防できる適切な導尿回数が望まれるた
め,個々の患者において尿流動態検査や膀胱造影により膀胱内圧の上昇や不随意収縮をきたさ
ない有効膀胱容量と尿産生量により,1回導尿量を貯めすぎないような導尿回数と導尿実施の
タイミング,および場合によっては飲水制限も含めた飲水量の設定が重要と考えられる.
文献
1 ) Lapides J, Diokno AC, Lowe BS, Kalish MD. Followup on unsterile, intermittent
self-catheterization. J Urol 1974; 111: 184-187.(Ⅴ)
2)Lapides J, Diokno AC, Gould FR, Lowe BS. Further observations on self-catheterization.
J Urol 1976; 116: 169-172.(Ⅴ)
3)Wyndaele JJ. Complications of intermittent catheterization: their prevention and
treatment. Spinal Cord 2002; 40;: 536-541.(Ⅴ)
4)Igawa Y, Wyndaele JJ, Nishizawa O. Catheterization: Possible complications and their
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5)小澤秀夫,西山康弘. 脊髄損傷患者における間歇自己導尿の導尿回数と合併症の関係につ
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CQ19
脊損患者において,抗コリン薬は尿失禁を改善するか?
抗コリン薬は脊髄損傷患者の尿失禁を改善する効果がある(推奨グレード A).しかしながら
尿失禁の治療に要する抗コリン薬の投与量は一般に非神経因性膀胱に必要とされる量よりも高
用量である可能性がある(推奨グレードB).オキシブチニンの膀胱内注入療法は経口投与と比
較し,同等の効果があり,かつ副作用が少ない(推奨グレード C1).しかしながら本邦におい
ては膀胱内注入療法の保険適応はなく,実施する際には十分な説明と患者の同意が必要である.
脊髄損傷患者を対象とした試験,または大部分が脊髄損傷からなる症例を対象とした試験に
おいて尿失禁に対する抗コリン薬の有効性が証明されている 1.2.3.4.5.6).何れの報告も排尿筋過活
動を伴う症例を対象としたものであり,尿道括約筋機能障害に伴う尿失禁に関しては抗コリン
薬の有効性は証明されていない.
脊髄損傷患者における尿失禁の原因として,排尿筋過活動および膀胱コンプライアンスの低
下に伴う蓄尿時膀胱内圧の上昇と膀胱容量の減少がある.抗コリン薬は膀胱内圧測定における
最大膀胱容量と反射性収縮を生じる容量を増大させ,また排尿筋過活動時の最大排尿筋圧の低
下と膀胱コンプライアンスを増大させる効果がある 1.2.3.4.5.6.7.8.9).
脊髄損傷あるいは他疾患に伴う神経因性排尿筋過活動への有効性に関しては,オキシブチニ
ン 3.4.5.6.7.9.10.11.12.13),プロピベリン 1.3.13.14),トルテロジン 2.15.16.17.18),トロスピウム(国内未承認)
8.9),でそれぞれ示されているが,ソリフェナシン,イミダフェナシンについては現在までのと
ころ神経因性排尿筋過活動を対象とする研究は報告されていない(表1).
神経因性排尿筋過活動の治療に要する抗コリン薬の投与量は一般に非神経因性の過活動膀胱
に必要とされる量よりも高用量である可能性がある 2.5.6.19).患者自身が効果と副作用の観点から
投与量の増減を選択した研究では,トルテロジン
2),オキシブチニン貼付剤(国内未発売)5),
オキシブチニン徐放剤(国内未発売)6.19),では通常投与量を超える量を患者は選択した.また
通常量の抗コリン薬に対し反応が不良だが副作用は問題とならなかった症例を対象とした検討
では,抗コリン薬の倍量投与が有効であるとの報告や
20),1種類の抗コリン薬の倍量投与に加
え,他の抗コリン薬を加えることで治療効果が増強したとする報告がある
21).これら高用量の
抗コリン薬を用いた検討はオキシブチニン徐方薬を用いた報告以外は間欠導尿による排尿管理
をしている症例を対象としたものであり,副作用としての残尿の増加は問題とならない症例の
検討であることに注意する必要がある.また抗コリン薬は膀胱に存在するムスカリン受容体以
外に,全身に存在するムスカリン受容体にも作用するため口腔内乾燥,便秘,羞明などの副作
用を比較的高率に認める
22.23).その他に中枢神経系への副作用として,せん妄や認知機能障害
の危険性があることが高齢者を対象とした研究において報告され
24),高用量の抗コリン薬を高
齢者に投与する際には十分な注意が必要である.
オキシブチニンの膀胱内注入療法は経口投与と同様の効果が得られ,副作用の発現率が低い
ことが報告されている
25).オキシブチニン膀胱内注入療法はカテーテルを通して膀胱内にオキ
シブチニン溶解液を注入するが,脊髄損傷患者の多くは排尿管理として間欠導尿を行っている
ため,この治療方法の良い適応と考えられる.膀胱内注入するオキシブチニンの量は一回 5mg
として一日 1〜3 回の注入で有効であったとする報告や 26.27),オキシブチニン 0.3mg/kg を一日
投与量の標準として3分割投与し,効果不十分な場合に一日投与量を 0.9mg/kg まで増量する検
討では,増量による良好な効果が報告がされている
28).またオキシブチニンの経口投与に加え
て膀胱内注入を併用することで尿失禁を含めた自覚症状と膀胱内圧所見の改善を得たとする報
告もある 4).小児例を含めてオキシブチニン膀胱内注入療法に伴う副作用の発現率は経口投与と
比較して低いことが報告されているが 25),二分脊椎症の小児にオキシブチニンを一日 0.1mg/kg
から 0.2mg/kg を膀胱内注入した結果,幻覚,注意欠陥や認知障害などの中枢神経系の副作用を
認めたとする報告もあり注意が必要である
29).オキシブチニン膀胱内注入療法は脊髄損傷患者
の尿失禁に対して有効な方法であるが,本邦では未承認の治療法であり,十分に患者に説明し,
合意の上で行うべきである.
推奨度
抗コリン薬
A
オキシブチニン
プロピベリン
B
トルテロジン
保留
トロスピウム(国内未承認)
ソリフェナシン
イミダフェナシン
文献
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白岩康夫,山口修,深谷保男,佐藤昭太郎,上原徹,岡田耕市,平賀聖悟,島崎淳,安田
耕作,村山直人,遠藤博志,山城豊,香村衛一,並木徳重郎,高野学,河辺香月,松村敏
之,松木克之,岸本孝,滝本至得,岡田清巳,川添和久,清滝修二,布施卓郞,宮崎一興,
石堂哲郎,久住治男,長野賢一,上野精,小林克己,三矢英輔,近藤厚生,蒲谷氏峰生,
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CQ20 脊髄損傷患者においてバニロイド膀胱内注入は抗コリン薬抵抗性の尿失禁に有効か?
バニロイドの一つであるレジニフェラトキシン(Resiniferatoxin; RTX)の膀胱内注入療法
は,脊髄損傷患者の神経因性排尿筋過活動を抑制し,臨床的にも抗コリン薬抵抗性の尿失禁を
改善させる効果があることが小規模の無作為比較試験によって確認されている.しかしながら,
ボツリヌス毒素壁内注入療法と比較すると有効性が劣るとの報告があり,また,我が国におい
ては保険適応もないことから標準的な治療としては推奨できない(推奨グレードC2).一方,
カプサイシンは,膀胱内注入した場合,RTX に比べて,急性刺激作用が強いため,副作用の観点
から RTX に比べて劣るとする見解が優勢であるため,推奨できない(推奨グレードC2).
臨床的に膀胱内注入療法に用いられるバニロイドには,カプサイシンとレジニフェラトキシ
ン(Resiniferatoxin; RTX)がある.歴史的には,まず,カプサイシンが先行して使用された.
1992 年,Fowler ら1)によって初めて報告されて以来,主に脊髄損傷や多発性硬化症に伴う神経
因性排尿筋過活動による尿失禁に対する有効性を示す報告がなされてきた.de Seze ら2)は,溶
媒である 30%エタノール液をプラセボとして用いた無作為二重盲検比較試験(RCT)を行い,カプ
サイシン膀胱内注入療法は脊髄性排尿筋過活動に対して有意な抑制効果を示すこと,ならびに,
治療に伴う急性刺激症状はプラセボでも同様に起りうることを報告した.一方,RTX 膀胱内注入
療法は,1997 年,Cruz ら3)によって初めて報告され,カプサイシンと同等の効果が期待でき,
かつ,カプサイシン療法で認められる急性刺激症状が起らない長所が指摘された.その後,RTX
膀胱内注入療法は,小規模ではあるが2つのプラセボ対照 RCT によってその有効性が確認され
ている4),5).RTX とカプサイシンの膀胱内注入を比較した RCT は2編報告されているが,1編
は RTX の方が,有効性において優り.かつ,注入直後の副作用として生じる膀胱刺激症状も軽
微であったとの報告であり6),他の1編は,カプサイシン溶液の溶媒をアルコールではなく糖質
とした場合には,RTX とカプサイシンの両者の間に,有効性,副作用ともに有意な差はないとす
るものであった7). RTX 膀胱内注入とボツリヌス毒素膀胱壁内注入とを比較した RCT は1編の
みであるが,両者ともに臨床的に有効であるが,ボツリヌス毒素の方が,投与後6,12,1
8ヶ月のいずれの時点においても,臨床効果と尿流動態検査上の効果のいずれについても優っ
ていたとの報告であった8).Lazzeri ら 9)は,RTX10nM を膀胱内注入し,3ヵ月後の判定で有効
であった 18 例に対して,反復投与試験を行い,平均 27.88±10.95(11-49)か月の観察期間で,
平均 4.33±1.60(2-8)回の注入療法を行い,平均の治療間隔は 9.61±2.99(4-16)か月であった
と報告している.本邦における RTX 膀胱内注入に関する報告は症例報告に限られるが 10),11),副
作用は軽微で,尿失禁改善率は 29%(4/14 例)と 75%(6/8 例)と報告されているが,現状では保険
適応がないため,標準的な治療としては推奨できない.
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CQ21
脊髄損傷患者においてボツリヌス毒素膀胱壁内注入は抗コリン剤抵抗性の尿失禁に有
効か?
脊髄損傷患者の DO(Detrusor Overactivity:排尿筋過活動)に対するボツリヌス毒素
(Botulinum toxin A)の膀胱壁内注入は DO を抑制し、抗コリン剤抵抗性の尿失禁に有効であ
る。しかし、有効期間が3 〜9 か月であることや、高額で保険適応ではないことなどの問題があ
る。(推奨グレード C1)
脊髄損傷患者の NDO(Neurogenic Detrusor Overactivity:神経因性排尿筋過活動)に対し
て、抗コリン剤が第一選択として投与されることが多いが、その副作用(口腔乾燥や便秘)の
ために継続できなかったり、投与量を増加させても抗コリン剤の種類を変更しても有効性が限
定的な場合がある。このような場合の治療法のひとつとしてボツリヌス毒素膀胱壁内注入が有
効であることが報告されている。ボツリヌス毒素は Clostridium botulinum により産生される
毒素であり、神経終末からのアセチルコリンの放出を選択的にブロックし、排尿筋への副交感
神経伝達を抑制する。
2000 年に Schurch らがはじめて 31 例の脊髄損傷にともなう NDO に対して、A型ボツリヌ
ス毒素 200~300 単位を膀胱壁内に 20~30 カ所注入し、有意に膀胱容量の増加と排尿筋圧の低下
を認めたと報告した 1)。その後、多くの報告がなされ、尿失禁の回数の減少、導尿量の増加、最
大排尿筋圧の低下、DO 出現時の膀胱容量の増加とQOLの改善が確かなものとなっている 2-4)。
しかし、最大の問題は、その有効期間が3〜9か月と短く、くりかえし注入をおこなわなけれ
ばならないことにある。そして、本邦では保険未収載であり、現時点ではおこなうことができ
ない現状にある。
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CQ22
脊髄損傷者の DSD に対してボツリヌス毒素の外括約筋内注入は有効か?
DSD をもつ脊髄損傷患者に対して、ボツリヌス毒素の外括約筋への注入は排尿の改善のため
に考慮されるべき治療法である。(推奨グレード C1)
DSD(detrusor sphincter dyssynergia:排尿筋括約筋協調不全)とは、排尿筋収縮中に内外
括約筋が不適切に収縮したり弛緩不全をおこしたりする状態のことであり、核上型脊髄損傷の
大多数にみられる病態である。ボツリヌス毒素は神経筋接合部(neuromusucular junction)に
おいて、アセチルコリンの放出を抑制し、3〜6か月の間、筋収縮を低下させる。ボツリヌス
毒素の外括約筋への注入は外科的括約筋切開術に匹敵する方法であり、Dykstra(1988)がはじ
めて報告した。その後、徐々に報告数が増加し、その効果が確かなものになってきている。経
会陰的に穿刺して針を外括約筋に進め、100 単位のボツリヌス毒素を注入する方法が一般的であ
る。注入により尿道内圧の低下、残尿の減少が報告されているが、その効果の持続は3〜6か
月と限定的であり、再注入が必要である。本邦での報告はなされていない。
1) Dykstra DD, Sidi AA, Scott AB, Pagel JM, Goldish GD. Effect of botulinum A toxin on
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CQ23 脊髄損傷患者において、長期的な尿道カテーテル留置の適応と管理法は?
脊髄損傷患者に対する長期間の尿道カテーテル留置は推奨できない(推奨グレードD)。できる
だけ早期に抜去して、可能であれば間欠導尿などの他の代替管理法に移行すべきである(推奨
グレード C1)。長期留置する場合は、カテーテルの閉塞が生じる前に定期的に交換すべきである
(推奨グレード C1).尿道留置カテーテルの太さは、尿道の血流障害を避けるため、内腔ができ
るだけ広い細径のものを選択すべきである(推奨グレード C1)。
長期的な尿道カテーテル留置は、尿路性器感染症、膀胱結石、尿道損傷、瘻孔形成、膀胱頸
部や尿道括約筋の糜爛などの合併症の頻度が高い
1), 2)
.したがって、社会的にやむを得ない場
合を除いて、可能な限り、合併症の少ない間欠導尿などの他の代替管理法に早期に移行すべき
であり、長期間にわたる尿道カテーテル留置は推奨できない。尿道留置カテーテルの適切な管
理は合併症を防止するのに不可欠である 1)-4)。尿道留置カテーテルは、カテーテルの閉塞が生じ
る前に定期的に交換すべきで,通常の交換間隔は2~4週程度である 2)。尿道合併症を避けるた
めに、細径(男性では 12-14Fr、女性では 14-16Fr 程度)で、内腔ができるだけ広く、バルーンの
大きさが小さい(5-10ml)カテーテルを使用すべきである
1), 2), 5)
。男性では、カテーテルによ
って尿道が圧迫されて、膿瘍、瘻孔形成・医原性尿道下裂などが発症しないように、カテーテ
ルと陰茎は下腹部に固定しておくことが重要である
1), 2)
。尿路性器感染症の防止目的で、膀胱
の定期洗浄や予防的な抗菌薬投与を行うことは推奨されない 1), 2), 6) . 蓄尿袋の頻回の交換や蓄
尿袋内への消毒薬の注入も尿路感染防止には有効ではない 6).
文献
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CQ24 脊髄損傷患者で長期的に膀胱留置カテーテル管理をしている場合、膀胱洗浄は必要か?
脊髄損傷患者で膀胱留置カテーテル管理をしている場合、定期的な膀胱洗浄は必要とはいえな
い。しかし、カテーテル閉塞を反復する場合は行ってもよい(推奨グレード C1)。
長期的に膀胱留置カテーテルで管理されている患者にとって,カテーテル内腔への結石結晶
沈着による閉塞は主要な問題である.閉塞が解除されないと,深刻な腎盂腎炎,敗血症へと発
展する危険がある.今日使用されている留置カテーテルはいずれもこの結石結晶沈着による閉
塞の問題を避けられるものはなく,この問題の解決策や予防法も確立されていない 1).このカテ
ーテル内腔への結石結晶沈着の主因は Proteus mirabilis を代表とするウレアーゼ(尿素分解
酵素)産生菌の感染とされており,この感染によって,尿のアルカリ化,結晶析出とバイオフ
ィルムの形成,さらには膀胱結石形成へと進展すると考えられている 1).脊髄損傷患者において,
受傷後1年間に膀胱結石を罹患する危険は,慢性的に経尿道的にまたは恥骨上膀胱瘻から留置
カテーテル管理を受けている患者では,カテーテルフリーで排尿管理されている患者と比べて
9倍高いと報告されている 2).Sabbuba ら 3)は,カテーテル内腔への結石結晶沈着を認めた患者
の膀胱内を内視鏡で観察したところ,61 名中 38 名(62%)に膀胱結石を認め,膀胱結石を認め
た患者の 90%に Proteus mirabilis 感染を認め、さらに,カテーテルと膀胱結石から分離された
た Proteus mirabilis の genotype は個々の患者において同一であったと報告した.膀胱結石の
中に Proteus mirabilis が存在することは,この細菌が尿路に定常的に存在することを担保す
ることになる.膀胱結石の中に存在する細菌は一般に抗菌薬に抵抗性を示すため,カテーテル
内腔への結石結晶沈着による閉塞を反復する場合は,膀胱鏡で膀胱結石を早めに見つけて摘出
すべきである
1), 4)
.一旦 Proteus mirabilis の感染がカテーテルを留置された尿路に確立され
ると,結晶を伴ったバイオフィルムによるカテーテル閉塞の反復と膀胱結石形成へと発展する.
これらの一連の悪循環を防止するには,早めに Proteus mirabilis 感染を検出し,カテーテル
の交換と適切な抗菌薬の投与によって尿中から細菌を排除するべきである 1).飲水摂取量を増や
してクエン酸を摂取することは,カテーテル内腔への結石結晶沈着による閉塞を防止する効果
が期待されるが
1), 5), 6)
,定期的な膀胱洗浄によって膀胱結石形成を予防しうることを支持する
根拠は認められなかった.他方、腸管を利用した膀胱拡大術もしくは禁制代用膀胱造設術後の
定期膀胱洗浄は膀胱結石の合併率を低下させる効果があることが示唆されている 7)。
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irrigation protocol. BJU Int 2004; 93: 585-587 (V).
CQ25 Purple Urine Bag Syndrome は治療すべきか?
Purple Urine Bag Syndrome とは、膀胱カテーテル留置中の蓄尿袋が紫色に着色される現象を指
す。これのみでは治療の対象とはならない(推奨グレードC2)。
Purple Urine Bag Syndrome(紫色蓄尿バッグ症候群)は,Barlow ら
1)
によって最初に報
告された、蓄尿袋が紫色に着色される現象(図)を指す。この現象は、慢性便秘を有し、長
期膀胱留置カテーテル管理の離床の困難な高齢者に見られることが多い。Dealler ら
2)
は,
その着色物質がインジゴ青(一般的にはこれがインジゴと呼ばれている))やインジゴ赤
(インジルビン)であることから,トリプトファン代謝にかかわる生合成経路に注目し,
その発生機序を推論している。すなわち,必須アミノ酸の 1 つであるトリプトファンは,
腸管内において腸内細菌によりインドールに分解される。インドールは腸管から吸収され、
無害なインジカンに代謝されて尿中に排泄される。そこに尿路感染が合併していると,尿
中の細菌によりインジカンは加水分解を経てインドキシルに変換される。インドキシルは
2 分子が縮合し,酸化されるとインジゴ青となる。一方,インドキシルは酸化によりイサ
チンに変換され,その 2 分子が縮合してインジゴ赤(インジルビン)になる。これらの反
応には,いずれも細菌の関与が必須であり、Providencia stuartii 、Klebsiella pneumoniae
および Enterobacter agglomerans などが、インドキシルからインジゴやインジルビンに変
換する酵素活性を有する。このような経路で産生されたインジゴ青やインジゴ赤は,蓄尿
バッグや接続チューブ類を構成するプラスティックポリマーに付着しやすいため,Purple
Urine Bag Syndrome が生じるものと考えられている。Purple Urine Bag Syndrome 自体は、
治療の対象とはならないが、慢性便秘や排尿管理に対する適切な対応が重要である 3)。
図:Purple Urine Bag Syndrome(紫色蓄尿バッグ症候群)の蓄尿袋(東北労災病院・浪間
孝重先生ご提供)
文献
1)
Barlow GB, Dickson JA. Purple urine bags [letter]. Lancet
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2)
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CQ26 間欠式尿道留置カテーテルは一般の尿道留置カテーテルと比べて合併症が少ないか?
昼間間欠導尿(CIC)を行い、夜間のみ間欠式尿道留置カテーテルを使用する排尿管理法は、尿
道留置カテーテルに比べて、有熱性尿路感染症や膀胱結石の頻度が少ない傾向が示唆されてい
る。CIC 管理中の患者で、夜間多尿に伴って尿失禁を認める場合は、膀胱過伸展を避ける目的で、
夜間のみの間欠式尿道留置カテーテルの使用は選択肢の 1 つとなりうる(推奨グレード C1).
小澤ら 1)は、何らかのカテーテルを用いた排尿管理を継続している 114 名(男性 91 名, 女性
23 名)について、間欠自己導尿(CIC-dry: 33 名), 間欠自己導尿+尿失禁を含む自排尿(CIC-wet:
16 名), 間欠自己導尿+夜間のみ間欠式バルーンカテーテル留置(図;CIC+夜バルン: 20 名), 膀
胱瘻(22 名), 尿道カテーテル留置(尿道カテ: 24 名)に分けて、有熱性尿路感染症, 膀胱結石な
どの合併症の頻度を比較した。平均 41 カ月の経過観察期間で、有熱性尿路感染症の頻度は,
CIC-wet(3.36 回/100 カ月), 尿道カテ(2.96 回), 膀胱瘻(1.26 回), CIC+夜バルン(0.57 回),
CIC-dry(0.42 回)の順であり, CIC-dry に比較して CIC-wet と尿道カテが有意に発熱の頻度が高
かった. 膀胱結石の頻度は, 尿道カテ(1.11 回/100 カ月), 膀胱瘻(1.05 回), CIC+夜バルン
(0.96 回), CIC-wet(0.61 回), CIC-dry(0.21 回)の順で, CIC-dry に比して尿道カテは有意に膀
胱結石が発症する傾向を認めた。以上より、有意差はないものの、CIC+夜バルンは、尿道留置
カテーテルに比べて、有熱性尿路感染症や膀胱結石の合併症の頻度が少ないことが示唆されて
いる。また、CIC-wet と CIC+夜バルンの直接比較では, いずれの合併症でも有意差は得られな
かったものの, 有熱性尿路感染症で CIC-wet が CIC-dry よりも有意に発熱頻度が高く,CIC+夜
バルンは CIC-dry と有意差が得られなかったことから, 夜間に導尿できず, 尿失禁を生じると
合併症の危険性が上昇する可能性が示唆され、CIC 施行症例は尿失禁および自排尿を避けるよう
に排尿管理をすることが有熱性尿路感染症の予防につながると指摘している。しかしながら、
他に、両管理法を直接比較して合併症の頻度を検討した報告はなかった。
図:間欠式バルーンカテーテル
文献:
1)小澤秀夫、上松克利、大森弘之、近藤厚生、岩坪暎二、高坂哲. 間欠式バルーンカテーテ
ルの長期安全性の検討。日泌尿会誌 2005;96: 541-544(Ⅲ)
CQ27 脊髄損傷患者で、膀胱瘻の適応となるのはどのような患者か?
膀胱瘻による排尿管理が適応となるのは、主として C6 レベル以上の頚髄損傷患者で、自己や介
護者による間欠導尿(CIC)が困難な場合や尿道括約筋切開による失禁排尿を希望しない場合
に選択することが多い(推奨度グレード C1)。
CIC が可能なのは、
障害部位が C5 の一部と C6 以下のレベルの脊髄損傷患者で
(CQ14 参照)、
それより上位の損傷では座位バランスの保持やカテーテルの把持、尿道口への挿入などの操作
は事実上不可能に近い。このため、このようなケースでは家族などの介護者により導尿を行う
か、経尿道的に尿道括約筋を切開して失禁の形での排尿を行うか、膀胱瘻による尿路管理が選
択される。
介護者による CIC は尿路管理法としては優れているが、介護者の時間的・肉体的負担が大きく
継続が困難な場合が多い。また尿道括約筋切開は、低圧でカテーテルを使用しない排尿が可能
となるが、尿失禁にともなう尿臭や陰部皮膚の炎症・びらん、尿の汚染による褥瘡の悪化など
の問題がある。膀胱瘻は膀胱結石発生の頻度が多いが
1)2)、それ以外に重大な尿路合併症が少な
く、尿路管理成績も良好なことから 2)3)4)5)、高位の頚髄損傷患者においては標準的尿路管理法の
一つとして、選択されることが比較的多い 5)。
そのほかの適応として、下肢の著明な痙性により CIC が困難な場合や尿道狭窄など経尿道的な
カテーテル挿入が困難な場合がある 4)。また女性の場合、尿道が短いことから、尿道留置で管理
されることが男性に比較して多いが、尿道のトラブルが頻発する場合は膀胱瘻による管理を選
択することがある。また膀胱瘻は尿道とその周囲組織の合併症予防のため、受傷後早期に一時
的に置く場合と永続的に膀胱瘻で管理する場合がある。
文献
1)
森
厚憲、中林留美子、岡田小百合、山内綾子、田中克幸. 膀胱瘻設置患者の退院後の排
尿管理に関する現状~脊髄損傷者 110 名のアンケート調査結果から~
日リハビリ看護学会集
2009;21:260-262(IVb)
2)
Mitsui T, Minami K, Furuno T, Morita H, Koyanagi T. Is suprapubic cystostomy an
optimal urinary management in high quadriplegics? Eur Urol 2000;38 : 434-438(IVb)
3)
Feifer A, Corcos J. Contemporary Role of Suprapubic Cystostomy in Treatment of
Neuropathic Bladder Dysfunction in Spinal Cord Injured Patients. Neurourol and Urodyn
2008; 27:475–479(IVa)
4)
Sugimura T, Arnold E, English S, Moore J. Chronic suprapubic
catheterization in the management of patients with spinal cord injuries: analysis of upper
and lower urinary tract complications. BJU Int 2008; 101:1396-1400(IVa)
5)
討
浪間孝重、中川晴夫、大沼徹太郎. 脊髄損傷症例に対する恥骨上膀胱瘻造設術の臨床的検
日脊障医誌
2003;16:180-181(IVb)
CQ28 脊髄損傷患者において膀胱瘻は尿道留置と比較して合併症が少ないか?
膀胱瘻は尿道にカテーテルを留置しないため、尿道やその周囲組織の合併症が発生する可能性
が低く、尿道留置と比較して尿路性器合併症は少ないと考えられる(推奨グレード C1)。
膀胱瘻も尿道留置も、膀胱内にカテーテルを留置するという点では同様で、膀胱および上部
尿路に発生する合併症として水腎症や膀胱尿管逆流、膀胱炎・腎盂腎炎などの尿路感染症や膀
胱結石、膀胱癌が発生することがある
1)2)。脊髄損傷患者では長期間にわたる尿道留置のケース
は少ないため、膀胱瘻と尿道留置における尿路性器合併症の頻度の比較検討はほとんど行われ
ていないが、膀胱から腎にかけての合併症の頻度は両者に大きな差はないと考えられる。尿道
留置ではこれらの合併症に加えて、尿道とその周囲組織の合併症として尿道炎、前立腺炎、精
巣上体炎などの尿路性器感染症や尿道皮膚瘻が発生する可能性がある。一方、膀胱瘻ではこの
ような合併症は発生しにくく
1)3)、カテーテルの挿入部皮膚に肉芽組織の増生がみられることが
ある程度である。膀胱瘻は CIC と比較しても尿路合併症の頻度は膀胱結石を除き差がみられな
いとの報告もあり 4)、重大な合併症は尿道留置と比較して少ないものと考えられる。
文献
1)
Sugimura T, Arnold E, English S, Moore J. Chronic suprapubic
catheterization in the management ofpatients with spinal cord injuries: analysis of upper
andlower urinary tract complications. BJU Int 2008; 101:1396-1400(IVa)
2)
森 厚憲、中林留美子、岡田小百合、山内綾子、田中克幸. 膀胱瘻設置患者の退院後の排尿
管理に関する現状~脊髄損傷者 110 名のアンケート調査結果から~
2009;21:260-262(IVb)
日リハビリ看護学会集
3)
Feifer A, Corcos J. Contemporary Role of Suprapubic Cystostomy in Treatment of
Neuropathic Bladder Dysfunction in Spinal Cord Injured Patients. Neurourol Urodyn 2008;
27:475–479(IVa)
4)
Mitsui T, Minami K, Furuno T, Morita H, Koyanagi T. Is suprapubic cystostomy an
optimal urinary management in high quadriplegics? Eur Urol 2000; 38 : 434-438(IVb)
CQ29
括約筋切開術の適応となるのはどのような脊髄損傷患者か?
1)間欠導尿の実施が不可能な男性症例で集尿器をつけるのに十分なサイズのペニス
を有する
2)排尿筋(外尿道)括約筋協調不全による膀胱内の高圧状態の結果、上部尿路障害
や腎機能障害の危険性が高くなっている症例
3)排尿筋括約筋協調不全の結果、自律神経過緊張反射を有する症例
上記1)を満たし、かつ2)あるいは3)に該当する患者が適応となる。(推奨レベ
ル C1)
括約筋切開術の適応を明らかにすることを目的とした RCT は存在せず、括約筋切開術に関す
る論文は全て症例集積研究(レベルⅤ)である 1-11)。これらの論文における括約筋切開術の適応
についてみると、ほとんど全ての論文で排尿筋括約筋協調不全が挙げられており、次いでその
結果として惹起される膀胱内の高圧状態(DLPP 高値で示されていることが多い)と自律神経
過緊張反射が加えられている。尿路感染を伴う高度の残尿を適応としている報告も少なくない。
これらの症例集積研究のいくつかでは、後方視的に手術失敗例を解析することで括約筋切開
術の適応について検討しており、ある程度の参考になる。本術式の成否の基準をどのように定
めるかによっても異なるが、術前の UDS において排尿筋の収縮開始から最大排尿筋圧に至るま
での時間が長い症例 3)や排尿筋反射時の最大膀胱内圧が低い症例 9)で、術後に満足な結果が得ら
れないと報告されている。また、神経生理学的検査での腰仙部知覚神経の入力障害を、本手術
失敗の危険因子であるとしている報告 3)がある。
本治療法は不可逆的な手術であるので、術前に十分な説明を行っておくことが求められる。
文献
1) Nanninga JN, O’conor VJ, Rosen JS. An explanation for the persistence of residual
urine after external sphincterotomy. J Urol 1977;118:821-823(V)
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endoscopic shincterotomy for post-traumatic neurogenic bladder: a prospective study. J
Urol 1996;155:277-280(V)
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2007;177:1026-1029(V)
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of external sphincterotomy in a spinal injured population. J Urol 2009;181:705-709(V)
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patients with spinal cord lesions undergoing sphincterotomy:is success predictable?
Urol Int 2009;83:386-391(V)
CQ30
括約筋切開後の長期成績は膀胱瘻のそれと比較して良好か?
評価基準により異なるため、一概には優劣をつけられない。両者の長所と短所を熟知し、
それぞれの症例における尿路管理上の課題に合った方法を選択することが重要である。
(level C1)
括約筋切開と膀胱瘻の長期成績を比較した臨床研究は、RCT はもとより、より低レベルの研
究も存在しない。なぜなら、両者はともに頚髄損傷患者の尿路管理法ではあるが、その長所と
短所は異なる次元のものであり、その選択に際して目的とするところが全く異なるからである。
両者の長期合併症に関する文献をみると、括約筋切開術では治療効果の減弱に対する再手術
に関するものが多く報告されているのが特徴的であり、Noll ら1)は 30%、Fontaine ら2)は 8.1%
と報告している。Pan ら3)は初回の括約筋切開術を施行した 84 例中 30 例(35.7%)で 2 回目
の括約筋切開術が必要であったと報告し、適切な尿路管理のためには括約筋切開術を 1 回限り
の処置と見なすのではなく、本来経過に応じて複数回の施行を要する処置であると考えるべき
であると結論付けている。
一方、膀胱瘻の長期合併症に関する文献では、膀胱結石、カテーテル閉塞に関するものが多
く、膀胱結石の発生頻度は 18~65%、カテーテル閉塞の発生頻度は 36~38%とそれぞれ報告さ
れている4)。しかし、これらの長期合併症はカテーテルの定期的な洗浄やカテーテル交換の頻度
によってある程度予防することが可能であり、膀胱瘻自体の合併症というより膀胱瘻管理法全
体の合併症と捉えるべきである。
文献
1) Noll F,Sauerwein D, St ӧ hrer M. Transurethral sphincterotomy in quadriplegic
patients:long-term follow-up. Nuerourol Urodyn 1995;14:351-358
2) Fontaine E,Hajri M,Rhein F,Fakacs C,Mouel MAL, Beurton D. Reappraisal of endoscopic
sphincterotomy for post-traumatic neurogenic bladder:a prospective study. J Urol
1996;155:277-280
3) Pan D,Troy A,Rogerson J,Bolton D,Brown D, Lawrentschuk N. Long-term outcomes of
external sphincterotomy in a spinal injured population. J Urol 2009;181:705-709
4) Feifer A, Corcos J. Contemporary role of suprapubic cystostomy in treatment of
neuropathic bladder dysfunction in spinal cord injured patients. Neurourol Urodyn
2008;27:475-479
CQ31
脊髄損傷患者において、括約筋部ステント留置は括約筋切開術と比較して長期成績はど
うか?
永久型尿道ステントの括約筋部ステント留置は括約筋切開と長期成績は同程度である。
(推奨グ
レード C1)
一時型尿道ステントは大部分が 2 年以内に除去が必要になり、長期留置には適していない。
(推
奨グレード C2)
括約筋切開術には出血や勃起不全といった合併症があり、また不可逆的な処置であるために、
括約筋部ステント留置が代替処置として試みられるようになった。このため、括約筋部ステン
ト留置の対象患者は括約筋切開術とほぼ同様である。ステントによって括約筋部尿道を開存し
た状態に保ち、尿道抵抗を下げて排尿時膀胱内圧を下げるとともに、残尿を減少させる。排尿
は反射排尿になるので集尿器の使用が前提となり、男性患者に限られる。
尿道ステントには永久型と一時型がある。永久型は細いワイヤーでできたメッシュ状の円筒
形で、留置後は時間とともに尿道壁に埋没し 6 ヶ月までに大部分が尿道粘膜に被覆される。口
径が大きく、カテーテル操作や膀胱鏡も可能である。尿道粘膜に被覆された後でも除去は可能
であるが、
簡単ではない。
製品としては UroLume® (American Medical Systems)、Memotherm® (Bard
Co.)、Ultraflex® (Boston Scientific Co.) があるが、現在本邦で使用可能ななものは Memotherm®
のみであり、しかも排尿筋外尿道括約筋協調不全に対しては保険適応がない。一時型は尿道内
に露出するタイプで容易に除去できるが、原則としてカテーテル操作や膀胱鏡はできない。現
在使用可能な一時型ステントは Memokath® (Pnn Medical) があり、排尿筋外尿道括約筋協調不全
に対しても保険適応がある。
永久型尿道ステントでは UroLume®と括約筋切開術を比較した RCT1)がある。観察期間は 24
ヶ月で、同程度に有用であると結論している。尿流動態検査については両者とも最大排尿筋圧
は低下し、膀胱容量は不変であるが、残尿の有意な減少は括約筋切開では 24 ヶ月まで続いたの
に対して、尿道ステントでは術後 3 ヶ月のみであった。両者ともに水腎、膀胱尿管逆流は大部
分で消失し、自律神経過反射は半数以上が改善した。半数以上に細菌尿は持続するが症候性尿
路感染症はわずかであった。合併症として括約筋切開では輸血を要する出血、再閉塞、勃起不
全、尿道ステントではステントの移動、膀胱頚部閉塞がみられたが、頻度には差がなかった。
入院期間は尿道ステントが有意に短かった。UroLume®と括約筋切開術には 2 つの非ランダム化
比較試験 2), 3)があり、いずれも 2 年程度の観察期間で尿流動態検査所見と臨床症状の改善、合併
症の頻度も両者で差がなかった。
長期試験としては、UroLume®で 160 例を前向きに 5 年間観察した報告 4)があり、尿流動態検
査所見と臨床症状の改善は 5 年後も持続し、勃起・射精は術前と変化なかった。合併症として
はステント除去が 15%に必要で、ステントの移動は 3 ヶ月以内に 12%にみられ、留置後 3 年目
まで認められた。このほか、血尿 33%(輸血例なし)
、膀胱頚部閉塞 29%(膀胱頚部切開 13%)、
尿道狭窄 8%であった。既往に括約筋切開がある症例とない症例とで成績に差はなかった。
Memokath®29 例と UroLume®18 例を平均 67 ヶ月経過観察したケースシリーズ 5)ではステントの
移動が 28%にみられ、8.5%でステントを除去している。合併症の頻度は Memokath®48%、
UroLume®33%で Memokath®が高いが有意差はない。UroLume®の平均 12 年の経過観察 6)では、
10 年以上たっても最大排尿筋圧の低下は持続するが、長期観察した 7 例中 5 例で膀胱頚部閉塞
が生じ、膀胱頚部切開を行っている。
Ultraflex®は観察期間が平均 17 ヶ月、2.2 年の 2 つのケースシリーズ
7), 8)
があり、留置後に尿
流動態検査所見と臨床症状はともに改善している。2 次的な閉塞とステントの移動が少ないとさ
れるが、括約筋切開や他のステントとの比較試験はなく、長期経過観察の報告もない。
永久型尿道ステントの括約筋部留置は括約筋切開と比較して 2 年間では同程度に有効である。
長期成績では括約筋切開との比較試験はないが、同程度に有効と考えられる。括約筋切開の失
敗例でも有効なこと、入院期間が短いこと、除去可能で可逆的であることが利点と考えられる
が、合併症としてはステントの移動と膀胱頚部閉塞が問題となる。
一時型である Memokath®は括約筋切開術との比較試験はない。すべて後向きのケースシリー
ズ
9-12)
で、留置後に残尿が減少し、臨床症状は改善するが、長期の経過観察ではステントの移
動、自律神経過反射、尿路感染症、結晶付着、閉塞などにより、2 年以内に 50-90%が除去さ
れている。別のタイプの一時型尿道ステント(Nissenkorn stent(発売中止)、Diabolo(Porges、
本邦未発売)
)を用いた 147 例の後向きの検討 13)では、受傷後早期に一時的な尿路管理のため留
置して平均 10 ヶ月の短期間で除去しているが、ステントの移動が 29%にみられた以外には合併
症が少なく有用であった。一時型尿道ステントは長期留置では合併症が多いが、受傷後早期の
短期間の留置に限定すれば使用できる可能性がある。
文献
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CQ32
脊髄損傷患者においての尿路変向術の種類とその適応は?
尿路変向術は大きく「禁制型」と「非禁制型」に分類されるが、その目的とするとこ
ろは大きく異なる。
禁制型尿路変向術は、尿道からの尿失禁を防止し、かつ間欠自己導尿による排尿の
自立を目的として行なわれることが多い。術式としては、Mitrofanoff 法に代表される
腹壁導尿路造設術が一般的であり、症例によっては膀胱拡大術や尿道スリング手術が
併用される。
一方、非禁制型尿路変向術は、合併症などのために従来の尿路管理法を変更せざる
を得ない場合に行われ、本人や介助者の負担が少なく、かつ尿路を低圧に保つことを
目的として行なわれる。術式には、固有膀胱を利用しない方法としては回腸導管造設
術が一般的であり、固有膀胱を利用する方法としては ileovesicostomy や cutameous
vesicostomy がある。この中で回腸導管造設術については、尿路結石形成やそれに伴
う尿路感染症などの長期合併症の危険性が高く、特に慎重な適応決定が必要である。
(推奨グレードC1)(推奨グレードC2:回腸導管造設術)
脊髄損傷患者に対する尿路変向術の長期成績についての報告は少なく、またそのほとんどが
少数例についての症例集積研究であり、経過観察期間もせいぜい5年までである。
従来、脊髄損傷患者に対する排尿管理は上部尿路障害や尿路合併症の予防に重点が置かれて
きたが、その中で非禁制型尿路変向術は他の排尿方法で適切に管理できない症例に対して、the
last resort として選択されて来た。多くの場合、術式として回腸導管造設術が採用されたが、
手術侵襲の大きさに加えて尿路結石形成や尿路感染小などの合併症が多く、その後の間欠(自
己)導尿法の普及による脊髄損傷患者の排尿管理法の進歩に伴い、非禁制型尿路変向術の適応
は減少した 1)。しかし、上肢機能障害や介助力などの条件によっては非禁制型尿路変向術を選択
せざるを得ない症例が存在することも事実であり、近年は固有膀胱を利用した術式についての
いくつかの報告が見られる 2-5)。
一方、1980 年に Mitrofanoff が発表した虫垂を利用した腹壁導尿路造設術は、間欠自己導尿
法の適応拡大に大きく貢献し、その後も種々の腹壁導尿路造設術が考案されるようになった。
医療における QOL 重視の流れの中で、脊髄損傷患者の排尿管理においても尿禁制や排尿の自立
が重要視されるようになった。上肢機能障害や体型、下肢開脚制限などの理由で尿道からの自
己導尿が不可能な患者においても、腹壁導尿路造設術を行うことで排尿の自立が得られる可能
性があり、近年その有用性に関する報告が散見される 6-8)。
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CQ33
膀胱拡大術の適応と種類は
脊髄損傷による神経因性膀胱で、低コンプライアンズ膀胱となり(すなわち膀胱変形をきたし)、
これに対する抗コリン薬などの保存的治療方法に抵抗性であり、上部尿路障害をきたしている
症例、もしくは尿失禁のために社会生活に著しい障害をきたす症例が適応となる。
消化管利用膀胱拡大術(augmentation enterocystoplasty)は、一般に遊離した回腸を膀胱の一部
として利用し低圧大容量の膀胱を形成する手術であり、有効性は高いが手術侵襲も大きい。自
家膀胱拡大術(autoaugmentation)は、膀胱の筋層を除去し粘膜だけにする手術であり、手術
侵襲は比較的小さいが、膀胱拡大の有効性も比較的低い。
排尿筋過活動および排尿筋括約筋協調不全により、膀胱が高圧環境にさらされると、低コン
プライアンス膀胱となる。これに伴い、一定の頻度で膀胱尿管逆流や尿管下端の狭窄による水
腎症・腎機能障害がおこり、また尿失禁をきたすが、多くの場合には抗コリン薬内服で改善す
ることができる。しかし一部の症例では保存的治療が無効であることがあり、このような場合
には膀胱拡大術の適応がある。術後の排尿方法としては、生涯にわたり間欠導尿をおこなうこ
とが必須である。
術式としては、回腸を利用した腸管利用膀胱拡大術がおこなわれることが多い。この手術によ
り、低圧大容量の膀胱を作成することができるが、消化管の一部を遊離し利用することが必要
であるため、侵襲が大きい手術である。この手術は、二分脊椎症による神経因性膀胱で多くの
症例が重ねられ、長期成績がよいことが報告されている 1-4)。最近では、脊髄損傷者においても、
同様に長期成績が良いことが報告されつつある 5-8)。
このほかに、膀胱の筋層を切除し粘膜のみを残す、自家膀胱拡大術(autoaugmentation)がある。
腹膜外の手術であり消化管を遊離する必要がないので、低侵襲であることが利点であるが、膀
胱拡大の効果が前者に比べて低く長期成績が不良であるとの報告もある。9,10)
膀胱拡大術の晩期合併症としては、膀胱結石・上部尿路結石・慢性下痢などがあげられるが、
開腹して消化管を切断縫合する長時間の手術であるだけに、イレウスなどの合併症の可能性も
念頭におくべきである
5-7)。また、少数の報告例があるのみであるが、拡大した膀胱からの発癌
のリスクも否定できない。
この手術を行う症例では、膀胱尿管逆流症およびこれによる水腎症を合併することが多く、
膀胱尿管逆流防止術を同時に行うことが多かったが、最近では膀胱拡大術単独で、すなわち低
圧大容量の膀胱を得ることだけでも、膀胱拡大術単独で膀胱尿管逆流は改善あるいは消失する
ことが知られている 11,12)。
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CQ34 脊髄損傷患者における症候性尿路感染症の診断はどのように行うのか?
尿培養での有意な細菌尿に加え、膿尿と尿路感染症を示唆する症状を有し他に明らかな原因が
認められない場合に症候性尿路感染症と診断する (推奨グレード C1)。
通常の診療では尿培養の結果が判明する前に臨床診断を下し治療を開始する必要があるため、
膿尿に加え尿路感染症を示唆する臨床症状を認める場合、他に明らかな原因が同定されなけれ
ば症候性尿路感染症と診断しても良いと思われる (推奨グレード C1)。
症候性尿路感染症の鑑別診断としては、肺炎や褥瘡感染などの感染症の他、うつ熱、静脈血栓
塞栓症などの非感染性疾患も挙げられる(推奨グレード C1)。
尿路閉塞の診断目的に超音波検査を施行する事がすすめられる(推奨グレード C1)。
脊髄損傷患者では症候性尿路感染症の発生頻度は 22〜45%と決して低率ではなく
1)、院内感
染症全体の 40%に上るとともに、この内 2〜4%が菌血症に至り、細菌尿を有さない患者に比べ
て死亡率が 3 倍になるとされる 2)。
脊髄損傷患者における診断上の問題として、間欠導尿あるいは留置カテーテルによる排尿管
理を受けている患者では膿尿や細菌尿が認められる事が多く、通常用いられる「細菌尿と膿尿」
という診断基準を当てはめ難い点が挙げられる
3, 4)。文献的には、
「有意な細菌尿に加え膿尿か
つ/または尿路感染症を示唆する症状(表 1)を認める場合」を症候性尿路感染症としている場合が
多い 5)。有意な細菌尿の定義は、間欠導尿施行患者では 102CFU/mL 以上、男性でコンドーム型
集尿器使用患者では 104CFU/mL 以上(清潔排尿検体)、留置カテーテル患者または恥骨上穿刺尿
では検出可能以上である
3, 4)。但し、
「有意な細菌尿」の有無は尿培養結果を待たないと判定出
来ず、尿培養結果が確定する前に臨床診断を下し治療を開始する実際の診療にそのまま適用す
る事は難しい。膿尿に関しては、400 倍視野(HPF)で 10 個以上の尿中白血球の存在は尿路への
細菌の浸潤を反映するとされるが
6)、脊髄損傷患者での有意な膿尿に確立された基準は無く、
HPF で尿中白血球数が 5 個以上あるいは 10~20 個以上などまちまちである 1, 5)。このため、特
に表 2 に示す様な危険因子 3,7~10)を有する患者においては、尿路感染症を示唆する臨床症状に加
え膿尿を認めた場合、症候性尿路感染症を念頭に鑑別診断を進め、他に明らかな原因が同定さ
れなかった場合には症候性尿路感染症として治療を開始する事が現実的である(図 1)。なお、56
例の間欠導尿で管理されている脊髄損傷患者を対象とし、症状と尿路感染症の関連を検討した
報告では、混濁尿の正診率が最も高く(83%)、陽性的中率(61%)と感度(66%)も 2 番目に高いとい
う結果であった。なお、発熱は特異度(99%)と陰性的中率(94%)が最も高かったが、感度(7%)は
極めて低く、自律神経過緊張反射も特異度 99%に対して感度は 0%であった。尿中白血球は感度
(83%)と陰性的中率(94%)が最も高かった。尿の悪臭は正診率(79%)が 2 番目で感度(48%)は 3 番
目であった 11)。
脊髄損傷患者の症候性尿路感染症の鑑別診断としては、実際の診療上、発熱を来す感染性・
非感染性疾患が問題となる。急性期脊髄損傷患者 48 例、慢性期脊髄損傷患者 40 例における発
熱(37.7℃以上)の原因は、呼吸器感染症がそれぞれ 24%、9%、尿路感染症が 10%、32%、深部
静脈血栓症が 5%、0%、肺塞栓が 3%ずつ、薬剤性発熱が 0%、1%、褥瘡感染が 0%、5%、胃腸
炎が 2%ずつ、原因不明が 55%、47%であった
12)。脊髄損傷患者の発熱に関しては、従来、原
因不明とされていたものの中に静脈血栓塞栓症がある程度の割合で含まれていたと考えられて
おり、鑑別に当たって留意する必要がある
13)。脊髄損傷患者は知覚障害を有する場合が多いた
め、鑑別に当たっては詳細な理学的所見をとる事が何よりも重要で、これに加えて血液検査と
尿検査、胸腹部レントゲン検査、腹部超音波検査、下肢血管エコー検査、血液培養などを行い、
褥瘡感染や呼吸器感染症、腸管疾患、うつ熱、静脈血栓塞栓症などを症候性尿路感染症から鑑
別する
12~14)。特に、腹部超音波検査は被爆が無く簡便に施行可能な利点を有し、症候性尿路感
染症の初期評価として施行した場合、膿腎症や結石を含む何らかの尿路異常を大部分の症例で
認めたとする報告もあるため、是非とも施行すべき検査である 15, 16)。
脊髄損傷患者における尿路感染症の局在診断は容易とは言えず、漠然と「有熱性/症候性尿
路感染」として治療されている場合も少なくない。症候性膀胱炎は、尿路感染症を示唆する症
状の内、発熱や悪寒、あるいは腎部不快感や疼痛を認めず、膀胱部の疼痛や尿混濁、尿の悪臭、
尿失禁やカテーテル周囲からの尿漏出などの症状を認める場合を指すと考えられる 9)。腎盂腎炎
は、女性の場合には有熱性尿路感染症を持って診断を下す事は妥当と考えられる。一方、男性
の場合には腎盂腎炎と急性細菌性前立腺炎あるいは精巣上体炎/精巣炎を鑑別する必要がある。
とは言え、実際の診療上、男性慢性脊髄損傷患者で腎盂腎炎と急性細菌性前立腺炎とを鑑別す
る事は必ずしも容易ではない。文献的には、前立腺特異抗原(感度: 68%、特異度: 100%) 、尿中
α1 ミクログロブリン(感度: 96%、特異度: 56%)、DMSA(発熱中の検査で感度と特異度はともに
100%)など 1, 17, 18)がこの 2 者の鑑別に有用であったとする報告がある一方、小児急性腎盂腎炎
の診断や腎瘢痕予測のバイオマーカーとして注目されているプロカルシトニンの脊髄損傷患者
での有用性は不明である
19)。本邦の慢性脊髄損傷患者においては、腎盂腎炎では誘因となりう
る尿路合併症が 46%で認められたのに対し、前立腺炎では特に認められない場合が多く、尿路
合併症を有さない患者に限定した場合、前立腺炎は腎盂腎炎の約 2 倍の頻度で生じていたとい
う点は局在診断を考える上で念頭に置くべきであろう
20)。なお、腎盂腎炎の診断には
CT も有
用であり、感度と特異度がそれぞれ 87%、88%と超音波検査の 74%、57%よりも優れている 21)。
高い空間分解能を有する CT は上部尿路の器質的異常の精査に威力を発揮するので、初期治療へ
の反応が不良な腎盂腎炎症例においては CT の積極的な適応があると思われる
21)。さらに、男
性脊髄損傷患者の 30〜40%が最低 1 回の精巣上体炎/精巣炎を生じるとされ、この感染症が決
して稀ではない点を認識しておくべきである 10,
27)。このため、有熱時には、陰嚢皮膚の発赤を
伴う精巣上体や精巣の腫大と強い圧痛(知覚障害のために圧痛を認めない場合もある)の有無を
診るために理学的所見の一貫として外陰部の診察を必ず施行すべきである。
表 1: 尿路感染症を示唆する症状
膀胱や腎臓部分の不快感や疼痛(知覚障害例では認められない)
尿混濁
尿の悪臭
尿失禁やカテーテル周囲からの尿漏出
痙性悪化
気分不快や全身倦怠感、食欲不振
自律神経過緊張反射(T6 以上の損傷)
発熱や悪寒(損傷部位以下では身震いが生じないので悪寒は軽度な事も多い)
表 2: 尿路感染症の危険因子
頸髄損傷
完全損傷
排尿筋過活動に排尿筋膀胱頚部協調不全と排尿筋括約筋協調不全を伴う場合
膀胱コンプライアンス低下
尿道留置カテーテル
腹圧排尿
間欠導尿(男性の精巣上体炎)
図 1 症候性尿路感染症の診断と治療の流れ
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CQ35 脊髄損傷患者における症候性尿路感染症の治療はどのように行うのか?
脊髄損傷患者の症候性尿路感染症は複雑性尿路感染症として治療する(推奨グレード C1)。
膿腎症(感染性水腎症)や尿閉を伴う症候性尿路感染症では尿路閉塞の解除や感染尿のドレナー
ジを速やかに行う必要がある(推奨グレード C1)。
症候性尿路感染症は治療適応があり、複雑性尿路感染症として治療する。原則として尿培養
検体の採取は抗菌薬投与前に行い、留置カテーテルは尿培養採取と抗菌薬治療開始前に交換す
る 1, 2)。尿培養の結果が出るまでは過去の尿培養と薬剤感受性、脊髄損傷患者で頻度の高い起因
菌(大腸菌、エンテロバクター、緑膿菌、アシネトバクター、腸球菌、プロテウス、クレビシエ
ラ、セラチア、ブドウ球菌など 3, 4)などを考慮した上で経験的抗菌薬投与を開始し 2)、起因菌と
その薬剤感受性判明後は薬剤耐性菌出現を防止すため抗菌スペクトラムの狭い抗菌薬を選択す
る 5。
膿腎症や尿閉などの尿路閉塞を伴う症候性尿路感染症患者では、敗血症への移行を防止する
ために尿管ステントや腎瘻、尿道留置カテーテルや膀胱瘻などにより可及的速やかに尿路の減
圧と感染尿のドレナージを行う事が必須である 2, 6)。
脊髄損傷患者の症候性尿路感染症に対する抗菌薬の至適投与期間は明確でない 3, 5, 7)。ある特
定の薬剤に対する 3 日間あるいは 14 日間投与の比較試験では、長期的(45〜51 日)細菌学的治癒
率は後者が有意に高率(3% vs 27%)であり、6 週までの症状再燃率は後者が有意に低率(23% vs
0%)であったという結果が示されてはいる 8)。同様の臨床試験を全ての抗菌薬に対して局在診断
別に施行する事は現実的では無く、このような臨床試験の結果に基づいて投与期間を検討する
事が現実的であろう。
膀胱炎に対しては、初回感染であれば経口セフェム系薬剤を最低 7 日間、反復感染であれば
経口ニューキノロン系薬剤を 10〜14 日間程度投与する 9)。腎盂腎炎に対しては、38℃以上の発
熱を認める場合には第二〜第三世代セフェム系薬剤、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系
薬剤、カルバペネム系薬剤の注射用抗菌薬を 3〜5 日間投与後に、経口ニューキノロン系薬剤、
新経口セフェム系薬剤、経口β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬剤を注射用薬との合計
が 14 日間となるように投与する。38℃未満の発熱であれば当初から上記の経口薬を 14 日間投
与する
9)。急性前立腺炎あるいは精巣上体炎に対しては、38℃以上の発熱を認めるなど重症な
場合には第二〜第四世代セフェム系薬剤の注射用抗菌薬を 3 日間、尿培養結果に基づき感受性
のある注射用抗菌薬をさらに 2〜4 日間、その後に経口ニューキノロン系薬剤を 2〜4 週間投与
する。重篤感が認められず中等症〜軽症と考えられる場合には当初から経口ニューキノロン系
薬剤を 2〜4 週間投与する 9)。
通常、治療開始後 24〜48 時間で症状や臨床検査所見に改善傾向が認められる場合が多い。改
善傾向が認められない場合には尿培養の再検や尿路の器質的異常(膿腎症、腎膿瘍、気腫性膀胱
炎、前立腺膿瘍など)の検索あるいは他の感染巣の検索を行う必要がある 7, 10)。
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CQ36 脊髄損傷患者の無症候性細菌尿(無症候性尿路感染症)は抗菌薬により治療すべきか?
症候性尿路感染症の予防につながるという明確なデータが無く、また、薬剤耐性菌を増加させ
るなどの問題があるために、無症候性細菌尿(無症候性尿路感染症)は抗菌薬による治療の適応
とはならない(推奨グレード D)。
米国感染症学会からの 2005 年版成人無症候性細菌尿の診断・治療ガイドライン
1)、2009
年
版成人カテーテル関連尿路感染症の診断・予防・治療ガイドライン 2)、あるいは最近のレビュー
3)のいずれにおいても脊髄損傷患者の無症候性細菌尿のスクリーニング及び治療は推奨されて
いない。但し、多数例かつ長期経過観察された良質な臨床試験のデータがないのも事実である 4)。
カテーテルフリーの脊髄損傷患者の無症候性細菌尿に対して 7〜14 日間あるいは 29 日間の抗菌
薬投与を行っても、治療終了後 30 日までにそれぞれ、93%、85%の患者で細菌尿が再発し 1)、
再感染菌は薬剤耐性が増強していた 1, 3)。間欠導尿施行中の患者においては、抗菌薬あるいはプ
ラセボ投与との間で症候性尿路感染症発生率や細菌尿再発率に差がなく、無症候性細菌尿に対
する抗菌薬投与あるいは無治療との間でも症候性尿路感染症発生率は同等であった 1)。いずれに
しても無症候性細菌尿の治療によるコスト及び薬剤耐性菌の出現は大きな問題であると考えら
れるので、安易な抗菌薬投与は慎むべきである。なお、例外的に予防的抗菌薬投与を考慮すべ
き状況としては、細菌尿を有する患者で侵襲的な尿路処置を行う場合、免疫抑制状態、症候性
尿路感染を頻回に反復する場合などが挙げられる 4)。
文献
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CQ37
脊髄損傷患者において予防的抗菌薬投与を含む尿路感染症予防策は有効か?
脊髄損傷患者に対する予防的抗菌薬投与は無症候性細菌尿を減少させるが症候性尿路感染は減
少させず、大部分の患者に対する予防的抗菌薬投与は支持されない(推奨グレード D)。
現時点では、尿路感染症予防策としてその有効性が明確でかつ推奨しうる方法は無い。
脊髄損傷患者における予防的抗菌薬投与は、間欠導尿開始時(1 年間予防投与し、尿路感染症
が 1 回以下なら終了)1, 2)、あるいは、反復性尿路感染症がある患者で上部尿路障害を有する場合
2, 3, 4, 5)などに考慮される。しかし、症候性尿路感染症の減少につながるとするに足る明確な根
拠はなく耐性菌が 2 倍に増加する
3)など、コストや薬剤耐性菌出現の問題からルーチンに使用
する事は推奨出来ない 3, 6)。Morton らは、年間 3 回以上の尿路感染症を有する間欠導尿施行中
の脊髄損傷患者 38 例を対象として、最低 2 年、1 週間に 1 回、高用量の異なる抗菌薬を交互に
服用させた結果、介入前は 9.4 回の症候性尿路感染症/人年であったものが介入後には 1.8 回の
症候性感染症/人年に、抗菌薬服用期間も 110 日から 14 日に減少し、多剤耐性菌の新たな定着
も認められなかったと報告している 7)。このように良好な結果を示す報告はあるものの、予防的
抗菌薬の効果に関するメタ解析によれば予防的抗菌薬は無症候性細菌尿を減少させるが症候性
尿路感染症は減少させず、大部分の症例に対する予防的抗菌薬投与は現時点では支持されない 8)。
今後は、予防的抗菌薬投与によって利益を享受しうる患者群を特定する事が必要である
8)。短
期・長期カテーテル留置患者においても、細菌尿あるいは尿路感染症減少目的に外科的治療を
受ける患者を含め予防的抗菌薬投与をルーチンに用いるべきではない 9)。
その他の尿路感染症の予防策に関しても、十分な根拠を有する予防策は無いのが実情である。
排尿管理法別の尿路感染症予防効果に関するランダム化比較試験は無いが、排尿管理法は唯
一の最も重要な変容可能因子であることも事実であり、留置カテーテルの早期抜去や間欠導尿
の間隔遵守などは重要であり 3)、患者教育によって間欠導尿施行患者では尿路感染症の発生率に
低下傾向が認められたとする報告もある 10)。
留置カテーテルに関しては、良好な尿のドレナージを得るのに必要な最も細径のものとし、
バルーンは 5mL 程度 2,
11)、短期及び長期留置とも閉鎖システムの使用が推奨され 2, 9)、尿のド
レナージが阻害されない様な管理を行う 9, 11)。陰部の衛生管理の細菌尿あるいは尿路感染症防止
効果に関する明確な根拠は無い 9)。また、細菌尿防止に対する消毒薬塗布の有効性は証明されて
おらず 3,
4, 9),
カテーテルへの消毒液付加の有用性も証明されていない 4, 9)。留置カテーテル交
換の間隔に関しては、定期的交換が無症候性細菌尿や尿路感染症を減少させるとするに足る十
分な根拠は無い 9)。細菌尿や尿路感染症あるいはカテーテル閉塞頻度の減少を目的とした消毒液
や生理食塩水による定期的洗浄も推奨されない 9, 12)。
クランベリー抽出物は尿の酸性化による細菌増殖抑制(但し、尿 pH には変動がなかったとす
る報告も多い 13,
14, 15)、細菌の尿路上皮への付着阻害、バイオフィルム量減少 16)、抗炎症•抗酸
化作用を有すると考えられている 17)。しかし、症候性尿路感染症に対する治療効果は無く 2, 17)、
症候性尿路感染症の予防効果に関しても投与を推奨するに足る十分な根拠は乏しい
18)。Methenamine
2, 9, 13, 14, 17,
hippurate/mandelate(=antiseptics)も近年の研究では予防効果はないと考え
られている 3, 9, 11)。
間欠導尿用のカテーテルとして、親水性カテーテルは細菌尿と長期的尿道合併症(尿道狭窄な
ど)を低下させるが
2, 18)、ルーチンに使用すべきかに関する結論は出ていない 9)。前部尿道の定
着菌をバイパスする目的でのイントロデューサーチップ付きのカテーテル使用は、入院中の脊
髄損傷患者の尿路感染症を減少させるとされる
18)。再使用可能なカテーテルでは、消毒液中で
非感受性菌の増殖が認められたとするデータがあるなど
19)、その維持管理方法について一定の
見解は無いのが実情である 9)。留置カテーテルの材質として、脊髄損傷患者において尿路感染症
防止の観点から推奨しうる材質はない 3)。塗銀抗菌性カテーテルは、細菌尿の発生を減少あるい
は遅延させる効果はあるものの症候性尿路感染症を減少させる点に関する十分なデータは無い
9)。なお、膀胱瘻は、尿道炎、尿道周囲膿瘍、前立腺炎、精巣上体炎/精巣炎、精巣膿瘍のリスク
が尿道留置カテーテルに比べて低いとされる 18)。
他に非病原性大腸菌 83972 を用いた”bacterial interference”や 20)、尿路病原性大腸菌の付着
機序を標的とするワクチンなどの開発も行われていおり 2, 3, 18)、前者では少数例の臨床試験では
あるが症候性尿路感染症の頻度減少効果が示されている 20, 21)。
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CQ38 脊 髄 損 傷 患 者 におけ る 自 律神 経 過 緊張 反 射( autonomic hyperreflexia, autonomic
dysreflexia)にどう対応するか?
自律神経過緊張反射の原因を確認し、可及的すみやかにその原因を除去すると同時に自律神経
過緊張反射によって生じる突発性高血圧などの治療を行う。(推奨グレード B)
自律神経過緊張反射は、主として第5~6胸髄レベルより高位の脊髄損傷患者にみられる自律
神経の異常反射で、麻痺部に生じるさまざまな刺激が引き金となって発生する 1)2)3)4)5)。
原因として麻痺部の疼痛刺激や管腔臓器の膨満に起因するものが多く
1)4)、特に尿閉やカテー
テルの閉塞、内視鏡・膀胱内圧測定・膀胱造影などによる膀胱充満がもっとも多い 1)。膀胱充満
の刺激は膀胱から第2~4仙髄を経由して脊髄を上行して脳に至るが、この刺激は第5胸髄~
第2腰髄のレベルから出る交感神経枝を介して麻痺部の血管を収縮させる。血管の収縮により
血圧が上昇すると、頸動脈洞や大動脈弓の圧受容器が反応して心拍数の減少、動脈の拡張によ
り血圧上昇を抑制するが、脊損では脊髄の損傷レベル以下に抑制の命令が伝わらず、麻痺部の
血管拡張がみられない
1)4)。このため、血圧上昇を抑制できず、一方で非麻痺部には血管の拡張
による症状が出現する。また、迷走神経を介して徐脈発作もみられる 1)。
自律神経過反射の原因はさまざまで、膀胱充満以外に便秘による腸管の拡張や尿路感染症、
尿路結石、カテーテル留置自体あるいは挿入・抜去などの操作、褥瘡、皮膚炎、骨折、熱傷、
陥入爪、妊娠、分娩、手術、射精、性交、高温・寒冷環境、衣服などによる体の圧迫、痔瘻、
咬虫症、深部静脈血栓症、人工射精時の振動・電気刺激などがある 1)2)3)4)。
臨床症状も多彩で、突発性の高血圧、頭痛、徐脈、非麻痺部皮膚の発汗・立毛・発赤、鼻閉、
胸内苦悶、悪心、嘔吐などがみられる。また全身の違和感(「ざわざわした感じ」などと表現さ
れる)を訴えることもある
1)2)。一方、血圧の上昇があるにもかかわらず、他に自覚症状のない
自律神経過反射もある 6)。
いずれにせよ自律神経過緊張反射による突発性の高血圧は脳出血や不整脈など生命を脅かす
重大な合併症を来す可能性があり 1)2)3)7)8)、早急な原因診断と治療が要求される。
反射が出現した際の緊急時の対応としては、血圧を低下させるため、体位を座位とし、必要に
応じて降圧剤を投与する。併行して原因精査を行い、原因に応じた治療を行う 1)2)4)。先述したよ
うにこの異常反射の原因の多くが膀胱充満によることが多いので、カテーテルを留置していな
い場合は尿閉の有無、カテーテル留置中の場合は閉塞の有無をまず確認すべきである 1)。もし異
常がみられない場合は他の原因の有無について確認を行う。手術を行う場合には、事前に麻酔
医に術中の自律神経過緊張反射の可能性について周知しておくべきである。
自律神経過緊張反射の予防のため、カテーテル管理や排便の管理、褥瘡・尿路感染の予防な
どについて日常的に留意すべきである 1)。膀胱を充満させて行う検査時には高血圧を惹起する可
能性があるので、検査中は血圧をモニターすることが望ましい 1)。カテーテル交換などの操作時
に反射が起こりやすい場合は、カテーテル表面に局麻剤を含有するゼリーを塗布することで反
射を軽減できることもある 1)。それでも頻繁に症状がみられる場合は神経ブロックや薬物療法を
行う
4)
。薬物療法としてα1 遮断薬を使用することがあるが、自律神経過緊張反射の予防に有
効とはいえないのが現状である
4)。
自律神経過緊張反射は膀胱内圧の上昇がトリガー
となることが少なくないので、膀胱の反射性収縮を抑制して膀胱内圧を低圧に
維持するため、抗コリン剤を使用することがある。また自律神経過緊張反射の
症状に対しトフィソパム(グランダキシン)が有効なことがある。
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CQ 39
脊髄損傷患者の夜間多尿にどう対応するか?
脊髄損傷患者の夜間多尿の原因としては、抗利尿ホルモン(ADH)分泌の日内変動の消失、
交感神経系の調節障害のための座位時の起立性低血圧と臥位時の静脈還流の増加などがあげら
れる。水分制限、昼間の下肢圧迫ストッキング、デスモプレッシン、間欠バルーンなどの対応
が提案されているが、十分なエビデンスがある訳ではない。
脊髄損傷患者の夜間多尿は尿失禁や膀胱過伸展のリスクを高め、夜間就寝中に数回間欠自己
導尿を余儀なくされることにより、睡眠障害や QOL の低下をきたすことがある。脊髄損傷患者
の中でもとくに頚随損傷患者が夜間多尿をきたしやすく、また慢性期に比べ回復期にその傾向
が強いことが指摘されている 1、2)。
健常者では抗利尿ホルモン(ADH:antidiuretic hormone)の分泌は夜間に上昇し尿量は減少
するが、脊髄損傷患者ではこの日内変動が認められないために夜間多尿をきたすとの報告が多
い 3)。また交感神経系が障害される頚随損傷患者では、車いす上で座位になると起立性反射が障
害されているために下肢に血液がプーリングされて循環血液量が低下する。そのために頚随損
傷患者では急性期から回復期にかけて重度の起立性低血圧をしばしば合併することになる。夜
間臥位になると細胞外液が再配分されて循環血液量は増加するため夜間多尿をきたす 4)。
脊髄損傷患者の夜間多尿への対応として、多飲多尿に対する水分制限による飲水指導 5)、昼間
の下肢圧迫ストッキング着用 4)などがあげられるが、それらの効果が不十分な場合にはデスモプ
レシンの投与が試みられることがある 3、6)。またこれらの方法が効果を発揮しないときに、間欠
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CQ40 慢性脊髄損傷患者では尿路上皮腫瘍(膀胱癌)が発症しやすいか?
慢性脊髄損傷患者では一般の非脊髄損傷者に比較して、膀胱癌の罹患率は高く、診断時すでに
筋層浸潤癌のことが多く予後不良とされている。組織型では扁平上皮癌の占める割合が高率で、
発癌の危険因子として長期の尿路カテーテル留置などが挙げられている。
慢性脊髄損傷患者の膀胱癌罹患率に関する大規模な前向きのコホート研究は行われていない。
従来の報告では、その粗罹患率は 2.3%〜10%とされ、危険度は一般の非脊髄損傷者の最大 460
倍とされてきたが 1)2)、尿路管理法の変遷のためか最近の症例対照研究では、0.11%〜0.57%程
度と報告されている 3)5)。それでも年齢調整罹患率を用いた historical コホート研究によると、
相対危険度は一般の非脊髄損傷者の 15.2 倍とされている 4)。しかし、同様な年齢調整罹患率を
用いた他の症例対照研究では統計学的有意差はみられなかったとの報告もある 5)。本邦では労災
の慢性脊髄損傷患者に発生した膀胱癌は脊髄損傷と因果関係があるとされ、労災保険の適応疾
患となっている 6)(レベルⅥ)
。
診断時の臨床病期は、通常では非筋層浸潤癌が 70%を占めるのに対し 7)(レベルⅥ)、慢性脊
髄損傷患者の膀胱癌では T2 以上の筋層浸潤癌の割合が 60%〜79.4%と高率とされている 3),5),8)。
従って、その予後も不良で、1年生存率 61%、5 年生存率 38%との報告もある 9)。
また癌の組織型にも特徴がみられる。通常の膀胱癌では 90%が尿路上皮癌であるのに対し 7)、
慢性脊髄損傷患者の膀胱癌では扁平上皮癌の割合が 19%〜46.9%と高いとされ、慢性炎症との
関連が指摘されている 3),5),8)。
多変量解析の結果、慢性脊髄損傷患者の膀胱癌では、長期の尿路カテーテル留置(膀胱瘻含
む)が最大の危険因子とされていが、尿道留置と膀胱瘻での発癌率の相違を詳細に検討した報
告はない 4)。一方、間欠導尿によるカテーテル使用は発癌の危険因子とはされていない 4)。その
他には、慢性尿路感染症、膀胱結石,年齢、喫煙などが報告されている
3),4),8),10)
。また、膀胱
癌を疑う兆候としては、肉眼的血尿を指摘する報告が多い 5)8),10) 。
診断法では、膀胱鏡所見および生検が最も診断精度が高い。慢性脊髄損傷患者で 10 年以上の
尿路カテーテルの留置歴など危険因子を持ったものには年1回の膀胱鏡検査を推奨している報
告もある 8)。ただし、膀胱鏡の施行に際しては、症例によっては自律神経過緊張反射の誘発に留
意する必要がある。尿細胞診については、感度 73%10)から感度 0%11)まで報告がまちまちで、
その有用性は未解決の課題でありさらなる検証が必要と考えられる。
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6) 厚生労働省監修:労災医療,労働福祉共済会,神奈川 2005;511-514(Ⅵ)
7)日本泌尿器科学会:膀胱癌診療ガイドラン,東京 2009;1-16(Ⅵ)
8)Kalisvaart JF, Katsumi HK, Ronningen LD, Hovey RM. Bladder cancer in spinal cord injury
patients. Spinal Cord 2010;48:257-261(Ⅳb)
9) West DA, Cummings JM, Longo WE, Virgo KS, Johnson FE, Parra RO. Role of chronic
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Urology 1999;53:292-297(Ⅳb)
10) Hess MJ, Zhan EH, Foo DK, Yalla SV. Bladder cancer in patients with spinal cord injury.
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11) Davies B, Chen JJ< McMurry T, Landsittel D, Lewis N, Brenes G, Getzenberg RH. Efficacy
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and survivin in bladder cancer surveillance over 5 years in
patients with spinal cord injury. Urology 2005;66:908-911 (Ⅳa)
CQ41
脊髄損傷患者の生活の質(QOL)は排尿法により差があるのか?
排尿法が QOL に与える影響に関して言及した報告では、検討対象や QOL の評価方法にばらつ
きがあり、また結果も異なるため現時点では脊髄損傷患者の QOL が排尿法により違いがあるの
かは不明である。随意排尿が可能な患者の QOL は他の排尿方法を行っている患者の QOL と比
較し優れているとする報告があるが、この結果には脊髄損傷による麻痺の程度そのものが影響
している可能性がある。
過去の報告において脊髄損傷患者の QOL 評価に使用された質問票は The Satisfaction With
Life Scale(SWLS)、The Craig Handicap Assessment and Reporting Technique(CHART)、
QualiveenⓇなどがある。SWLS は主観的幸福感を評価するものであり、現在の生活に対しての
満足感を評価する 5 つの質問からなる1)。CHART は障害者が体験する社会的不利を評価するた
めの質問票であり、身体的自立、移動能力、仕事や学業、趣味などの時間の過ごし方、他者と
の関係である社会的統合、経済的自給からなる2)。QualiveenⓇは下部尿路機能障害のある脊髄
損傷患者の QOL を評価するためのツールとして開発された疾患特異的質問票であり、Coloplast
社により商標登録されている3)。「現在の膀胱の問題」について悩み事、制約、心配事、感情
の 4 つの項目からなる 30 の質問で構成されている3、4)。その他に包括的健康関連尺度である
SF-36 やその短縮版である SF-12、尿失禁の影響を評価する King’s Health Questionnaire
(KHQ)などが用いられている5)。
排尿法と脊髄損傷患者の QOL との関係を評価した報告は幾つかあるが、対象に随意排尿が可
能な良好な下部尿路機能の患者を含めた検討と含めていない検討がある。随意排尿例を含めた
検討では、随意排尿は反射性排尿や圧出排尿、間欠導尿やカテーテル留置と比較して SF-36 の
全ての下位尺度において QOL が最も良好であり、身体機能と精神的健康感、身体関連スコア(身
体機能、身体機能の障害による役割制限、痛み、の各スコアの合計)
、精神関連スコア(社会機
能の制限、精神機能の障害による役割制限、精神状態、の各スコアの合計)はそれぞれ他の排
尿法と比較し有意差を認めた6)。KHQ による検討でも同様に随意排尿群は全ての下位尺度にお
いてスコアが最も良好であり、身体的活動の制限、個人的人間関係、心の問題において他の排
尿法よりも有意に優れていた6)。QualiveenⓇを用いた検討においても随意排尿は膀胱瘻以外の
排尿法と比較し 4 項目全てにおいて最も良好な QOL スコアを示した4)。このように随意排尿が
可能な例において QOL が高いことが報告されているが、脊髄損傷の状態が大きく異なる患者群
での比較であり、結果には脊髄損傷による麻痺の程度が影響していることが考えられる。
一方、随意排尿症例を含まない検討では排尿法別に SWLS に有意な差を認めなかったとする
報告や7)、カテーテルを用いない排尿を自排尿と定義した検討では、膀胱瘻は自排尿、間欠導尿、
自排尿と間欠導尿の併用と比較し、QualiveenⓇの心配を除く他の 3 項目において有意に優れて
いた8)。この結果は膀胱瘻が他の排尿法と比較して尿失禁が少ないことが QualiveenⓇの結果に
反映されたと考えられる。Liu らの報告においても尿失禁の有無が SF-36 の精神状態と精神関
連スコアにおいて有意に影響することが報告されている6)。その他に脊髄損傷患者の QOL に関
する検討として、排泄行為を自立して行うことが可能な例と介助を要する例との比較では
SWLS スコア、CHART スコア、SF-12 の身体項目の総スコアは自立した例が有意に優れてい
たとの報告がある9)。
脊髄損傷患者の QOL には年齢、性別、損傷レベルや障害の程度、教育や仕事、経済的環境や
家族を含めた介助の状況など様々な要因が影響することは想像に難くない。また選択し得る排
尿法は脊髄損傷の状態と下部尿路の機能に大きく依存し、またそれぞれの排尿法により起こり
得る合併症も異なる。よって QOL の観点からのみ排尿法の優劣を考えることは出来ない。
文献
1) Diener E, Emmons RA, Larsen RJ, Griffin S. The Satisfaction With Life Scale. J Peres
Assess 1985;49:71-75.
2) 青柳紀代、高橋秀寿、原行弘、柴崎啓一、里宇明元、千野直一. —脊髄損傷患者の社会的不
利に影響を与える要因−Craig Handicap Assessment and Reporting Technique(CHART)
による予備的検討−リハビリテーション医学.1999;36:599-606.
3) Costa P, Perrouin-Verbe B, Colvez A, Dider JP, Marquis P, Marrel A, Amarenco G,
Espiac B, Leriche A. Quality of life in spinal cord injury patients with urinary
difficulties. Eur Urol 2001;39:107-113.
4) 仙石
淳. 脊髄損傷患者の尿失禁と QOL. 日本パラプレジア医学会雑誌. 2002;15: 26-27.
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5) 本間之夫、後藤百万、安藤高志、福原俊一. 尿失禁 QOL 質問票の日本語版の作成. 日神
因膀会誌. 1999: 10: 225-236.
6) Liu C-W, Attar KH, Gall A, Shah J, Craggs M. The relationship between bladder
management and health-related quality of life in patients with spinal cord injury in
UK.
Spinal Cord 2010:48:319-324. (Ⅳb)
7) Brillhart B.
Studying the quality of life and life satisfaction among persons with
spinal cord injury undergoing urinary management.
Rehabili Nurs 2004:29 :122-126.
(Ⅳb)
8) 森田肇、柴田武、村山雅英. 尿失禁の現状と QOL に対する満足度調査. 日本パラプレジア
医学会雑誌.2002:15 : 28-29. (Ⅳb)
9) Hicken BL, Putzke JD, Richards JS. Bladder management and quality of life after
spinal cord injury. Am J Phys Med Rehabil 2001:80:916-922(Ⅳb)
CQ42
脊髄損傷者に多い膀胱結石に対する有効な予防方法はあるか?
急性期から回復期の膀胱結石の発生率を低下させるためには、急性期になるべく早く留置カテ
ーテルを抜去することが有効である(推奨レベル C1)。慢性期においては、留置カテーテル交
換の間隔を短くすること(推奨レベル C1)、適度な水分摂取量を維持すること(推奨レベル C1)、
間欠導尿時に陰毛を巻き込まないように注意すること(推奨レベル C1)、膀胱洗浄をおこなう
こと(推奨保留)、があげられるが、いずれも科学的根拠を示す論文に乏しい。したがって、す
べての患者に対して一律に推奨するものではなく、個々の症例の膀胱結石の既往、身体状態、
生活環境などを総合的に勘案し、実践するべきである。
いずれにせよ、カテーテルを使用している場合には膀胱結石の発生率が高いことは明らかであ
るので、レントゲン、エコー、CT などの画像診断で定期検査をおこなうことは必須であると言
ってよい(推奨レベル C1)
脊髄損傷者では、膀胱結石の発生率が高い。膀胱結石の発生率については多くの報告があり、
対象や集計方法によりさまざまであるが、おおむね 8~25%の症例に膀胱結石が発見される 1-6)。
特に受傷後 1 年以内の発生率が高く、回復期の患者の約16%に膀胱結石が発見される 1,5)。慢
性期の脊髄損傷者での膀胱結石は、間欠導尿に比べてカテーテル留置症例に多く発生し、18
~20倍になる
1,3)。膀胱瘻カテーテル留置例での膀胱結石10年非発生率はおよそ60%であ
る 7)。結石の成分は、リン酸カルシウムとリン酸マグネシウムアンモニウムの混合結石が85~
96%と多く、尿路の常在細菌や異物が膀胱結石の原因であると言うことができる 5,8,9,10)。
結石の予防方法としては、まず受傷早期のカテーテル留置期間を短くすることが、受傷から1
年以内の膀胱結石の発生率を下げると推測される 5)。
留置カテーテル交換の期間については、多数例での検討がなく、明確な基準を提示することは
できない。繰り返し膀胱結石を発症する症例や、カテーテルに結晶がよく付着する症例では、
カテーテルの交換期間を短くすることで膀胱結石の発生を防止できるという報告がある 7)。
飲水量を多くし、尿量を多くすることにより、カテーテルに付着する結晶を減らすことができ、
結果として膀胱結石の発生を予防することになる 11)。
そのほかに、間欠導尿の患者で生じた膀胱結石を摘出してみると、結石の中央に陰毛を発見す
ることはしばしば経験することである。間欠導尿の患者では導尿時に陰毛を膀胱内に迷入させ
ないように注意することは有効であろう 12)。
膀胱洗浄が膀胱結石の発生率を下げるか否かについて検討した論文はない。膀胱内に沈殿した
結晶成分や症結石を除去することで、結石の発生を予防できる可能性はある。長期留置カテー
テルにおいて、膀胱洗浄にはカテーテルの詰まりを予防したり解除する目的では有用であり、
否定されるべきではない。
文献
1) Chen Y, DeVivo MJ, Lloyd LK. Bladder stone incidence in persons with spinal cord injury:
determinants and trends, 1973-1996. Urology 2001;58:665-670(Ⅳa)
2)Favazza
BJU Int 2006,l 97,790 (Ⅳa)
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spinal cord injury. Scand J Urol Nephrol 2007;41:115-119(Ⅳb)
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spinal cord injured patients. J Urol 2003;170:1734-1737(Ⅳa)
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and bladder stones in individuals with spinal cord injury. J Spinal Cord Med
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11) Michael C. Current opinion in urology 2006;16: 93-99(Ⅵ)
12) Chen Y, Roseman JM, Fukhouser E, DeVivo MJ.
Urine specific gravity and water
hardness in relation to urolithiasis in persons with spinal cord injury. Spinal Cord 2001;
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CQ43
脊髄損傷患者の尿失禁に対して人工括約筋は有用か?
括約筋機能不全に起因する難治性の腹圧性尿失禁に対し、人工括約筋は有用な治療法である
(推奨グレード B)。ただし、保険収載されていないため高額の治療費がかかる。先進医療「人
工括約筋を用いた尿失禁治療」認定施設において手術を受けることが可能である。
括約筋機能不全に起因する腹圧性尿失禁はしばしば難治性であり、慢性脊髄損傷患者の QOL
にとって大きな障害となる。人工括約筋は膀胱頚部や男性の球部尿道を圧迫するためのカフ、
圧力調節バルーン、コントロールポンプにより構成される。圧力調節バルーンにより規定され
る圧(60~90cm 水柱)が持続的にカフに伝わり、膀胱頚部や男性の球部尿道を圧迫することに
より尿失禁を防止する仕組みとなっている。排尿時には、コントロールポンプを作動させてカ
フを緩めた上で、自排尿が可能な患者では自排尿、自排尿が不可能な患者では間欠導尿を行う。
コントロールポンプ作動後数分でカフは元の状態に戻り、尿失禁を防止する。
人工括約筋の長期成績として、70~90%の確率で尿禁制が得られると報告されている 1),2)。た
だし、人工括約筋装置の不具合により、35~43%の頻度で装置の修復が必要となり、感染その
他の理由により装置の摘出を余儀なくされる事態が2~22%の頻度で起こるとされている
1),2)。
このため、人工括約筋の適応決定においては、慎重な姿勢が必要である。人工括約筋は以下の
3点をすべて満たす場合にのみ適応となる。
①排尿筋過活動や低コンプライアンス膀胱などの膀胱蓄尿機能障害がないか、あるいは薬物
治療その他によりこれらの膀胱蓄尿機能障害が十分にコントロールされている
②尿失禁の原因が括約筋機能不全に起因することがウロダイナミクスにて証明されている
③コントロールポンプを操作するための手指の機能が十分である。
文献
1)Patki P, Hamid R, Shah PJR and Craggs M: Long-term efficacy of AMS 800 artificial
urinary sphincter in male patients with urodynamic stress incontinence due to spinal cord
lesion. Spinal Cord 2006; 44: 297-300(Ⅴ)
2)Bersch U, Göcking K and Pannek J: The artificial urinary sphincter in patients with
spinal cord lesion: Description of a modified technique and clinical results. Eur Urol 2009;
55: 687-695(Ⅴ)
脊髄損傷における
排尿障害の
診療ア ルゴ リ ズム
評価
評価
なし
超音波
なし
良好な排尿
あり
排尿管理法
長所
短所
・異物を用いない
・排尿が自立する
・手術や処置が不要
・ある程度の上肢機能が必要
・導尿のための器具と場所が必要
・状況によらず継続することが要求される
・時間が遅れると自律神経過緊張反射の危険性がある
・異物を用いない
・手術や処置が不要
・導尿のための器具と場所が必要
・状況によらず継続することが要求され介助者の負担が
大きい
・時間が遅れると自律神経過緊張反射の危険性がある
尿道括約筋切開術後にコンドーム
型集尿器で管理
・介助者の負担が少ない
・異物を用いない
・自律神経過緊張反射の危険性が低い
・手術が必要
・非可逆的である
・集尿器での管理が必要
括約筋ステント留置後にコンドーム
型集尿器で管理
・介助者の負担が少ない
・自律神経過緊張反射の危険性が低い
・手術が不要
・可逆的である
・異物感染および結石形成の危険性
・ステント滑脱に対して入れ替えを要する可能性
・集尿器での管理が必要
恥骨上膀胱瘻カテーテルでの
管理
・管理が容易で介助者の負担が少ない
・排尿管理の自立性が高い
・造設手技が比較的容易で低侵襲
・可逆的である
・定期的なカテーテル交換が必要
・カテーテルトラブルおよびそれによる自律神経過緊張
反射の危険性
・尿路感染および結石形成の危険性が高い
・膀胱癌発生の危険性がある
・介助者の負担が少ない
・異物を用いない
・自律神経過緊張反射の危険性が低い
・適応症例の範囲が広い(禁忌が少ない)
・手術を要する(特に腸管利用術式では侵襲が大きい)
・非可逆的である
・ボディイメージが障害される
・ストマトラブルの可能性あり
・介助者の負担が少ない
・異物を用いない
・排尿が自立する
・手術を要する(特に腸管利用術式では侵襲が大きい)
・非可逆的である
・ある程度の上肢機能が必要
・導尿のための器具と場所が必要
・導尿を継続することが要求される
間欠自己導尿法
介助者による間欠導尿法
非禁制型
尿路変向術
禁制型
(腹壁導尿路造設)
排尿管理法の長所と短所
氏名
所属
研究費・奨学寄付金等
講演謝金等 その他
井川靖彦
東京大学
日本学術科学研究補助金
アステラス製薬
なし
アステラス製薬
ファイザー
ファイザー
持田製薬
杏林製薬
キッセイ薬品
小川隆敏
海南市民病院
柿崎秀宏
旭川医科大学
文科省科研費
アステラス製薬
アステラス製薬
キッセイ薬品
キッセイ薬品
ファイザー
ファイザー
小野薬品
大鵬薬品
グラクソ・スミスクライン
なし
アストラゼネカ
小野薬品
大塚製薬
第一三共
グラクソ・スミスクライン
武田薬品
日本新薬
中外製薬
旭化成ファーマ
あすか製薬
日本化薬
塩野義製薬
バイエル薬品
木元康介
関戸哲利
総合せき損センター
筑波大学
なし
文科省科研費
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
浪間 孝重 東北労災病院
なし
なし
なし
百瀬 均
星が丘厚生年金病院
なし
なし
なし
森田 肇
北海道中央病院
なし
なし
なし
小野薬品
仙石 淳
兵庫県立リハビリ
田中 克幸 神奈川リハビリ
田中 博
北海道大学
永松秀樹
埼玉医科大学
利益相反(最近 5 年間に年間 50 万円以上の受け取りがあったもの)