JARI Research Journal 20130301 【研究速報】 乗用車のエアコン使用時の燃費に関する研究 Evaluation of Mobile Air Conditioner Impacts on Passenger Car Fuel Consumption 羽二生 隆宏 *1 Takahiro HANIU 松浦 賢*1 Ken MATSUURA Abstract In order to understand the essential requirements for measuring fuel consumption on the chassis dynamometer while operating a mobile air conditioner (A/C), the impacts of A/C use on fuel consumption were evaluated using eight passenger cars under several test cell environmental conditions and several air conditioner settings. The deterioration rate of fuel consumptions for JC08 hot mode varied from 5% to 50% when the test cell conditions and A/C settings were changed. In particular, the specific enthalpy in the test cell and the A/C blower level significantly impacted fuel consumption. In addition, it was observed that the fuel consumption (L/100 km) while the A/C was used was increased in accordance with A/C compressor load. 1. はじめに 我が国における二酸化炭素の排出量のうち約2 割は運輸部門から排出1)されているため,二酸化 炭素低減対策の一つとして,自動車の燃費向上が 期待されている.現在,自動車の燃費は,国土交 通省審査値としてJC08モード走行時の値がカタ ログなどに表示されている.この燃費は,シャシ ダイナモメータ上において,試験法で定められた 走行パターンを一定条件(標準大気状態,エアコ ンや電気デバイスの不使用など)のもとで走行し て測定している.このため,走行条件(気象,渋 滞など)や運転条件(急発進,エアコン使用など) が異なる実際の走行時の燃費値と差異が生じる場 合があることが知られている.なかでも,自動車 におけるエアコンの使用は,燃費に影響を及ぼす と考えられることから,各研究機関などからエア コン使用の影響が報告2)~4)されている.しかしな がら,いずれの調査結果も,特定の条件でエアコ ン使用と不使用時の燃費比較にとどまり,外気環 境やエアコン設定条件などを変化させて,その影 響を体系的に整理している報告例は少ない. 本報告では,エアコンを使用した場合の自動車 の燃費をシャシダイナモメータ上で公平に再現良 *1 一般財団法人日本自動車研究所 JARI Research Journal エネルギ・環境研究部 く測定する方法を検討するため,実験室環境条件 およびエアコン設定条件を変化させてエアコン使 用時の燃費を測定し,エアコン不使用時の燃費と の比較などからエアコン使用時の燃費への影響を 体系的に整理した. 2. 試験方法 供試車両は,エアコンが搭載されたガソリン乗 用車8台を用いた.供試車両の主な諸元をTable 1 に示す.エアコン使用時の燃費試験は,幅広い温 度湿度環境を再現できる環境シャシダイナモメー タを用いて,Table 2に示すパラメータを,試験目 的に応じて変化させ,環境条件およびエアコン設 定条件がエアコン使用時の燃費に及ぼす影響を調 査した. 実験室環境は, 実験室温度だけではなく, 空気中に含まれる水分の熱量(潜熱)の影響を考 慮する必要があるため,本研究では,比エンタル ピに着目し,実験室環境条件を設定した. 燃費の測定には,法定走行モードであるJC08 モードを使用した.試験前の暖機条件は,エアコ ンを作動した状態で60±2 km/hの定常走行で30分 間の暖機運転を行った.再現性良くエアコン燃費 試験を実施するためには,車室内の環境状態やエ アコンの作動状態(コンプレッサやエバポレータ - 1 - (2013.3) Table 1 ID Vehicle type A Passenger car Specification of test vehicles Engine Vehicle displacement mass (cc) (kg) 1,496 1,170 A/C System Number of A/C Compressor type Emission standard Automatic Single Fixed volume 2005 B Passenger car 1,498 1,150 Automatic Single Fixed volume 2005 C Passenger car 3,955 2,120 Automatic Single Fixed volume 2005 D Passenger car 2,359 1,650 Automatic Single Fixed volume 2005 E Passenger car 658 940 Automatic Single Fixed volume 2005 F Passenger car 1,329 1,000 Manual Single Variable volume 2005 G Passenger car 1,997 1,410 Automatic Single Variable volume 2005 H Passenger car 2,260 1,840 Automatic Dual Fixed volume 2005 Table 2 Rear A/C 8.46 7.40 8 6.64 Operation Temperature Inlet mode Blower level Outlet mode Operation Blower level 6 4.80 4.99 4 0 Veh. Veh. Veh. Veh. Veh. Veh. Veh. Veh. H F G E D C B A Fig. 1 Fuel consumption on JC08 Hot mode without A/C use Veh.A, 25℃-FRS-LO Veh.B, 25℃-FRS-LO Veh.B, Lowest-FRS-LO Env. A (20℃-40%RH-30kJ/kg(DA)), Env. B (21℃-75%RH-50kJ/kg(DA)), Env. C (25℃-50%RH-50kJ/kg(DA)), Env. D (28℃-60%RH-65kJ/kg(DA)), Env. E (35℃-40%RH-75kJ/kg(DA)), Env. F (30℃-75%RH-80kJ/kg(DA)) ON, OFF 25℃, LOWEST FRESH(FRS), RECIRCULATION(REC), AUTO LO, MID, HI, AUTO FACE, AUTO ON, OFF LO, MID, HI, AUTO Veh.A, Lowest-FRS-HI Veh.B, 25℃-FRS-HI Veh.B, Lowest-FRS-HI 60 3. 試験結果および考察 3. 1 エアコン不使用時の基準燃費 エアコン使用時の燃費への影響を比較整理する にあたり,基準となる燃費として25℃環境下での エアコン不使用時のJC08ホットモード燃費を測 定した.各試験車両の基準燃費をFig. 1に示す.本 稿での燃費は,単位走行距離(100 km)あたりの 燃料消費量(L/100 km)を用いた.エアコン使用 時の燃費については,基準燃費に対する変化率で 整理し,正の変化率は基準に対して燃料消費量が 増加したことを示す. 3. 2 外気環境の影響 車両Aおよび車両Bを用いて,実験室の温度およ び湿度を変えて燃費を測定した.実験室内の空気 (外気)の比エンタルピと燃費変化率の関係をFig. 2に示す.凡例では,車両ID,温度設定(25℃ /LOWEST) ,外気導入設定(FRESH(FRS))お よび風量設定(LO/HI)を示す.エアコン設定条 JARI Research Journal 6.06 2 Deterioration rate of Fuel consumption (%) A/C setting Front A/C 9.79 10 Parameter Specific enthalpy (kJ/kg(DA)) JC08 Hot, A/C OFF 12.31 12 Parameter list Item Environmental condition Ⅰ : MIN ~ MAX 14 Fuel consumption, (L/100km) の作動状態)を安定させることが重要であると考 え,試験法よりも長い時間の暖機運転を行った. 走行抵抗は,標準大気状態(20℃環境)におけ る走行抵抗を設定し,環境条件を変化させた場合 も同一の設定で試験を実施した. 50 40 Blower HI 30 20 Blower LO 10 0 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Specific enthalpy in the test cell (kJ/kg(DA)) (*) Legend symbol: Vehicle ID, Temp. setting - Inlet mode - Blower level Fig. 2 Relationship between specific enthalpy and deterioration rate of fuel consumption 件を固定した場合,外気の比エンタルピが高くな るに従って燃費変化率が大きくなっている.これ は,外気の比エンタルピが高くなると,エアコン のエバポレータで冷却する熱量も増加し,エアコ ン負荷が増加したことによって燃料消費量が多く なったと考えられる.エアコン負荷の大きさを表 す指標として,モード走行試験中におけるエアコ ンのコンプレッサの作動時間割合をコンプレッサ 作動率として定義した.外気の比エンタルピとコ ンプレッサ作動率の関係をFig. 3に示す.いずれの 車両も外気の比エンタルピが高くなるに従って, コンプレッサ作動率が高くなっており,これに伴 って燃費変化率も大きくなったと考えられる. - 2 - (2013.3) Veh.A, 25℃-FRS-LO Veh.B, 25℃-FRS-LO Veh.B, Lowest-FRS-LO Veh.A, Lowest-FRS-HI Veh.B, 25℃-FRS-HI Veh.B, Lowest-FRS-HI MID-FRS 45 Deterioration rate of Fuel consumption (%) 120 Compressor working ratio (%) Env. C: 25℃-50%RH-50kJ/kg(DA) 50 100 80 60 40 40 35 30 LOWEST-REC 25 MID-REC 20 (*) Temp. setting 15 LOWEST-FRS MID-REC LOWEST-REC LOWEST 0 0 0 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Specific enthalpy in the test cell (kJ/kg(DA)) 100 500 600 Fig. 4 Influence of A/C setting on Vehicle F Relationship between specific enthalpy and Env. C: 25℃-50%RH-50kJ/kg(DA) 50 compressor working ratio Veh. G Deterioration rate of Fuel consumption (%) 45 LOWEST-FRS 40 35 25℃-FRS 30 25℃-REC 25 20 LOWEST-REC 15 10 25℃-FRS LOWEST-FRS 25℃-REC LOWEST-REC Impact of Temp. setting in FRS 5 0 0 100 200 300 400 Blower Mass flow (kg/h) 500 600 (*) Legend symbol: Temp. setting - Inlet mode Fig. 5 Influence of A/C setting on Vehicle G 25℃-FRS 25℃-REC 25℃-FRS-AUTO+REAR A/C 50 LOWEST-FRS LOWEST-REC 25℃-FRS-HI+REAR A/C 25℃-FRS-HI + Rear A/C 45 Deterioration rate of Fuel consumption (%) 3. 3 エアコン設定条件の影響 エアコンの設定条件として,温度設定,内気循 環/外気導入設定および風量設定を変え,常温環境 下(環境C:25℃-50%RH-50kJ/kg(DA))におい て,エアコン設定条件の影響を調査した. Fig. 4に車両Fにおけるブロワ風量と燃費変化 率の関係を示す.いずれの温度設定,内気循環/ 外気導入設定においても風量が増加するに従い燃 費が悪化する傾向にあった.風量が増加すると, エバポレータでの冷却量が増加し,エアコン負荷 が増大したと考えられる.次に,外気導入と内気 循環を比べると,内気循環の方が燃費変化率は小 さい傾向にあった.内気循環では,車室内の除湿 された空気がエバポレータを通過するため,空気 の比エンタルピが低くなり,それに伴いエアコン 負荷も低減し,燃費の変化が小さくなったと考え られる.温度設定を変化させると,外気導入時は 燃費変化率に変化がみられなかった.基本的な構 造であるマニュアルエアコンでは,吸入した空気 の温度に関わらず,空気はエバポレータにおいて 0℃付近まで冷却され,そして,ヒーターによっ て温度調整される.このため,温度設定を変化さ せた場合も,エバポレータでの熱交換量に差異は なく,エアコン負荷は変化しなかったと考えられ る.Fig. 5に車両Gにおけるブロワ風量と燃費変化 率の関係を示す.車両Fと同様に,風量が増加す ると燃費は悪化する傾向がみられた.しかし,温 度設定による燃費変化率の傾きには大きな違いが JARI Research Journal 200 300 400 Blower Mass flow (kg/h) (*) Legend symbol: Temp. setting - Inlet mode (*) Legend symbol: Vehicle ID, Temp. setting - Inlet mode - Blower level Fig. 3 MID-FRS MID 10 5 20 Veh. F LOWEST-FRS Veh. H 40 35 LOWEST-FRS 25℃-FRS-AUTO + Rear A/C 30 25 25℃-FRS 20 15 LOWEST-REC 10 25℃-REC 5 Env. C: 25℃-50%RH-50kJ/kg(DA) 0 0 200 400 600 800 Blower Mass flow [Front + Rear] (kg/h) 1000 (*) Legend symbol: Temp. setting - Inlet mode - REAR A/C operation Fig. 6 Influence of A/C setting on Vehicle H あらわれた.温度25℃の外気導入設定の燃費悪化 率は,風量が少ない領域で,温度設定のみが異な る温度LOWESTの外気導入設定の燃費変化率よ - 3 - (2013.3) りも小さかった.オートエアコンでは,エバポレ ータの冷媒温度の冷却を抑制させてエアコン負荷 を小さくさせるような省動力制御を行う場合があ る.オートエアコンを搭載する車両Gでは,省動 力制御の効果により,温度設定の違いにより燃費 変化率が大きく異なり,燃費変化率が小さくなる エアコン設定条件があることがわかった.車両H では,リアエアコンの作動が燃費に及ぼす影響に ついても調査した.Fig. 6に車両Hにおけるエアコ ン設定の影響を示す.リアエアコン使用時は,フ ロントエアコンの温度設定を25℃,外気導入設定, 風量AUTOまたはHI設定として,リアエアコンの 風量を変化させた.リアエアコンの風量が増加す るに従って燃費変化率は更に大きくなる傾向にあ った. 3. 4 コンプレッサ作動率と燃費変化率 固定容量コンプレッサを搭載した6台の車両の コンプレッサ作動率と燃費変化率の関係をFig. 7 に示す. 外気環境やエアコン設定を変化させると, コンプレッサ作動率は変化し,コンプレッサ作動 率増加に応じて燃費変化率も大きくなることがわ かった.コンプレッサ作動率と燃費変化率は,い ずれの車両においても一次式で近似することがで き,決定係数R2は0.9以上と高かった.コンプレッ サ負荷は直接的にエアコン使用時の燃費に影響を 及ぼすことがわかった. 本調査の範囲内では,様々な環境条件やエアコ ン設定条件下におけるエアコン使用時のJC08ホ Veh. A 60 Deterioration rate of Fuel consumption (%) Veh. A: 50 Veh. E: 40 Veh. B: Veh. H: 30 Veh. C: Veh. B Veh. C Veh. D Veh. E y = 0.4988x - 1.8475 Veh. H JC08H 2 R = 0.9845 y = 0.4519x - 2.1483 ットモード燃費は,エアコン不使用時の燃費と比 較して5~50%程度変化することがわかった.設定 条件によって燃費変化率が大きく異なることから, 公平な測定を行うためには,設定条件を検討する 必要がある. 4. まとめ 本研究では,ガソリン乗用車8台を用いて,環 境条件およびエアコン設定条件を変化させ,エア コン使用時の燃費への影響を調査した.以下に結 果をまとめる. ①実験室温度20℃から35℃,相対湿度40%RHか ら75%RHにおいて,エアコン設定条件を変化さ せた場合,エアコン使用時の燃費変化率は, JC08ホットモード燃費に対して5~50%程度 まで変化した. ②外気の比エンタルピが高くなるに従い,エアコ ン使用時の燃費が悪化する傾向にあった. ③エアコン設定条件の中では,風量設定の影響が 大きく,風量が多くなるに従い,エアコンの冷 房負荷が増加し,燃費が悪化する傾向にあった. ④エアコン使用時の燃費は,エアコン負荷の大き さを表す指標として定義したコンプレッサ作動 率の増加に応じて変化する傾向にあり,コンプ レッサ作動率と燃費変化率は,試験車両ごとに 一定の関係となった. ⑤エアコンを使用した場合の自動車の燃費は,設 定条件などにより大きく異なるため,車両間の 公平な比較を行うためには,統一的な評価条件 の検討や測定再現性の検討など,さらに調査が 必要である. 参考文献 1) 国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィスウ R2 = 0.9383 y = 0.403x - 3.8632 ェブページ, http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html R2 = 0.9235 y = 0.3797x - 3.149 2) J. Steve Welstand, et. al.:Evaluation of the Effect of 2 R = 0.9607 y = 0.3136x - 1.6659 Air 2 R = 0.9008 Conditioning Operation and Associated Environmental Conditions on Vehicle Emissions and 20 Fuel Economy,SAE Technical Paper 2003-01-2247 Veh. D: 10 (2003) y = 0.2402x - 0.378 R2 = 0.9361 0 0 20 40 60 80 100 Compressor working ratio (%) 120 3) 村上雅彦ほか,ガソリン車排出ガス中の有害成分排出 に対するエアーコンディショナー負荷の影響,東京都 環境科学研究所年報(2006) Fig. 7 Relationship between Compressor working ratio 4) 西尾唯ほか,エアコン使用時の燃費評価に関する考察, 自動車技術会学術講演会前刷集,No. 66-08(2008) and Deterioration rate of fuel consumption JARI Research Journal - 4 - (2013.3) JARI Research Journal - 5 - (2013.3)
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