窒素・炭素循環連結モデルによる土中の有機物分解の検討 509165 はじめに 森田 陽子 (土壌圏循環学教育研究分野) 過剰施肥による硝酸態窒素による地下水汚染などの問題解決のためには,土中の窒素 成分の移動予測は不可欠である。土中の窒素成分は,微生物による有機物の分解過程において 様々な形態(有機態,アンモニア態,亜硝酸態,硝酸態,ガス態)をとる.その分解過程では,分解 物と生成物の C/N 比に応じて窒素成分の有機化や無機化が生じる.そのため,土中の窒素の循環 モデルは,土中の有機物分解に伴う炭素循環モデルとの連結が必要である。 窒素・炭素循環連結モデル Fig. 1 の 2 種類の有 CO2 ③ 機物プールにおいて,有機態炭素は,バイオマスと 分解プール1 腐植の炭素画分,二酸化炭素に分解される(経路 1, 有機物 ① ❺ バイオマス ④ ② ❽ ❼ 尿素 有機物として分解される。一方,有機態窒素は,バイ アンモニア (NH4-N) ❾ オマスと腐植の窒素画分に利用され,分解と生成速 度は,C/N 比を用いて有機炭素の分解速度で表せる。 分解プール 2 有機物 ① ❺ バイオマス ❼ ❿ 硝酸 (NO3-N) N2 ガス 植物吸収 炭素循環 窒素循環 浸透 (溶質移動) Fig. 1 このとき,有機物の分解による窒素の供給量とバイオマス ❻ ❻ 2,3)。この反応は,一次分解反応であり,生成割合 は一定とする。バイオマスは,分解プール内で再び 腐植 ③ ② 窒素・炭素循環連結モデル と腐植の生成に必要な窒素の要求量に応じて,アンモニアの無機化と有機化が生じる(経路 7)。 モデルの検証 広瀬(1973)は,水田土に対して乾土 100g あたり炭素 400mg 相当の C/N 比の異な る様々な有機物を加え,70 日間の無機態窒素量と炭酸ガス量を測定した。水田土と加えた有機物を 2 種類の分解プールと考え,無機態窒素の生成量に基づき有機物の分解定数を決定した(Fig. 2)。 その際,窒素成分はアンモニア態窒素のみであり,70 日間で有機物は消失すると仮定して,腐植の 生成割合を調整して無機態窒素量の測定値と計算値を適合させた。分解定数は,セルロース含量 が高い C/N 比が大きい有機物ほど小さい。無機態窒素の測定量に対して,水田土のみの窒素生成 量を差し引くことで有機物からの窒素生成量を推定した。Fig. 3 は,窒素生成量の微分値として求ま る窒素の生成速度である。綿実粕では無機化のみが生じて無機加速度が減少するのに対して,ラジ ノクローバでは 4.3 日,稲わらでは 44 日まで有機化が生じて,その後無機化が生じたことがわかる。 0.0025 0.002 綿実粕 (CN=7.7) 0.02 ラジノクローバ (CN=11.3) 稲わら (CN=64.4) 0.001 ラジノクローバ (CN=11.3) 0.0005 0 20 40 60 時間(day) Fig. 2 無機態窒素量の実測値と計算値 有機化 稲わら(CN=64.4) ‐0.0005 0 0 無機化 綿実粕 (CN=7.7) 0.0015 窒素生成速度 無機態窒素量[ g/100g 乾土] 0.04 0 20 40 60 時間(day) Fig. 3 窒素の無機化(正)・有機化(負)速度の変化
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