夜空の星はなぜ光る

大阪市立科学館研究報告 17, 147-150 (2007)
プラネタリウム投影プログラム「夜空の星はなぜ光る」開発報告
江 越
航
*
概 要
当 館 では 2007 年 3 月 から 5 月 にかけて、「夜 空 の星 はなぜ光 る~星 の色 と光 のなぞ~」という内 容 で
プラネタリウム番 組 を投 影 した。この番 組 は主 に、当 館 所 蔵 の投 影 機 「バーチャリウムⅡ」のプログラム機
能 を利 用 して作 成 したものである。本 稿 ではその番 組 の内 容 、および今 回 使 用 したプログラミング方 法 を
中 心 とした製 作 過 程 について報 告 する。
話 題 を 中 心 に す るこ とを 考 えた 。しか し、一 般 の 来 館
1.はじめに
2007 年 3 月 1 日より 5 月 27 日まで、「夜 空の星はな
者 にとって、核 融 合 といった言 葉 自 体 が難 解 な概 念 で
ぜ光 る~星 の 色 と 光 のなぞ ~」と題 してプ ラネタリウム
あり理 解 が困 難 という意 見 が多 かったことから、今 回 は
の投 影 を行 なった。この番 組 の制 作 は主 として、当 館
これらの概 念 までは踏み込まないこととした。
所 蔵 の投 影 機 「バーチャリウムⅡ」のプログラム機 能 を
その代 わりに太 陽 の光 を反 射 して光 っている星 であ
利 用 している。バーチャリウムⅡではスクリプトを用 いる
る惑 星 についても詳 しく話 すこととし、今 回 の番 組 では
ことで、いろいろな写 真 ・動 画をドーム上 の任 意 の位 置
理 解の目 標は、次の2点とすることにした。
に置 いたり、移 動 ・拡 大 等 の操 作 をしたりすることがで
・星は惑 星と恒 星の 2 種 類 がある
きる。これによりさまざまな演 出 を行 なうことが可 能 であ
・恒 星は熱 いから光っている
これをもとに、番 組の構 成 を表1のように設 定 した。
る。この投 影 プログラムは筆 者 が初 めて作 成 を担 当 し
た番 組 であり、本 稿 では番 組 の内 容 、および今 回 使 用
したプログラミング方 法 を中 心とした製 作 過 程 について
3.演 出 方 法
報 告する。
3-1.演 出 の内 容
番 組 の演 出 としては、必 要 となる様 々な写 真 や動 画
2.番 組 の構 成
素 材 をデジタルデータの形 式 で用 意 しておいて、バー
2-1.概 要
チャリウムⅡのスクリプトファイルを用 いることでドーム上
プラネタリウムを投 影 するにあたり、番 組 の内 容 が
種 々の媒 体 により広 報 される。その際 の概 要 を次 のと
に配 置 し、移 動・拡 大・縮 小 ・フェードイン・フェードアウ
ト等の操 作を行なうことが主 になる。
おりとした。
また、番 組 の一 部 では全 天 周 の動 画 を再 生 した。こ
■ 概 要 「『 なぜ 星 は 光 っ ているの ?』『なぜ 明 る い星 、
れはライブラリとして販 売されている全 天 周 動 画 素 材 を
暗 い星 が ある の ?』『 星 の 色 の 違 いは 何 を 表 している
使 用 した。
の?』夜 空 に輝 く星 にはいっぱいのナゾがあります。そ
さらに映 像 以 外にも 3D 定 義されたオブジェクトファイ
んな星 の光 に隠 された真 実 を、『大 きい星 ・小 さい星 ラ
ル(.x 形 式 ファイル)も同 様 の方 法 で表 示 できる。「夜
ンキング』などを交えながら紹 介 します。」
空 の星 」のパートの最 後 で星 の大 きさを比 較 する場 面
2-2.主 題
においては、球 面 状 の.x ファイルを作 成 したものを利
「夜 空 の星はなぜ光る」というタイトルの番 組を作 成す
用 した。
るに当たって、当 初 は星 の内 部 エネルギー源 に関 する
「月 と 惑 星 」の パートの 最 後 では 太 陽 系 の 周 りを 惑
星 が回 っている様 子 を表 示 した。これはバーチャリウム
*
大阪市立科学館 学芸課
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に組み込 まれている表 示 機 能を用いたものである。
実 際に作 成 した番 組の一 部 を図1、2に示す。図 1
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江越 航
表 1 番 組 の構 成
○ イントロ
内容
演出
夜 空 には多くの星が輝 いており、またその明るさや色も
一 等 星 の写 真 を次 々に並 べて
さまざまである。星 はなぜ光 っているのか、なぜいろい
表示
ろな星があるのか。そんな疑 問を感じないだろうか。
昔 か ら人 々 は 星 の 光 に 魅 了 され てき た 。天 動 説 の 時
「天 動 説」等 のスライドを移 動
代 には、恒 星 は天 球 にあいた細 かい穴 であり、天 球 の
外の明かりが漏れて見えるものと考えた。
星 はどのようにして光 っているのか。今 日 はそんな星 の
タイトル「夜 空 の星はなぜ光 る」
秘 密にせまってみよう。
○ 月と惑 星
身 近 に 光 る も の を 考 え てみ よう 。光 る も の に は 自 分 で
光 るもの の 写 真 を いくつか 並 べ
光 っているものと、反 射 して輝 くものに分 けることができ
る → 2 種 類 に分ける(図1)
る。
星 も 同 様 である 。まずは 月 を見 てみる。月 には 光 と 影
月の満 ち欠けの写 真
の部 分 がある。これは太 陽 の光 を反 射 して光 っている
月のクレーターの写 真
からである。
○ 太陽
土 星 も太 陽 の光 を反 射 して光 っている。木 星 も同 様 。
土 星の輪と影の写 真
これらの星 は惑 星 と呼 ばれている。惑 星 は、太 陽 の光
木 星と衛 星の影
を反 射して光っている。
太 陽 系の全 天 周 映 像
では太 陽 はどのように輝 いているのか。太 陽 まで飛 ん
太 陽 へ飛 んでいく(バーチャリウ
でいって、近くで見 てみよう。
ムの視 点 移 動)
最 近 、「ひので」という人 工 衛 星 が太 陽 を詳 しく観 測 し
「ひので」の太 陽 表 面の映 像
ている。太 陽が巨 大 な火の玉 であることが分かる。
温 泉の映 像と比 較(図 2)
近 くで見 ると、太 陽 は熱 く 燃 えたぎった巨 大 な火 の 玉
プロミネンス全 天 周 映 像
である。太 陽 が 光 っているのは、とても熱 く燃 えている
からである。
○ 夜 空 の星
では、夜 空 の星 も同 じように太 陽 の光 を反 射 して光 っ
太 陽 系 とドームの写 真 を重 ねる
ているのだろうか。太 陽 系 の大 きさをプラネタリウムドー
→ ズームアウトして日 本 地 図
ムの大 きさにたとえると、一 番 近 い星 でも岡 山 あたりに
に星の位 置を表 示
なる。
こんなに遠 くまで、太 陽 の光 は届 くのだろうか。隣 の星
青 色 巨 星の全 天 周 映 像
ま で行 っ てみ よう 。隣 の 星 も やはり 巨 大 な 火 の 玉 であ
る。惑 星 以 外 の星 は、実 はみな太 陽 と同 じように自 分
の力 で光っている。
ものは熱 く 熱 せられると光 る。加 熱 炉 で温 度 を上 げて
温 度 別 加 熱 炉 の写 真と明 るい
いくと、だんだんと光 るようになる。温 度 によって色 が変
星 の写 真を表 示 して温 度と色の
わる。星の色は星の温 度が違 いを表 わしている。
関 係の説 明
そして星 の 大 きさも様 々である。地 球 ・土 星 ・太 陽 ・ベ
星 の大 きさ比 較 の図 (スライドの
テルギウスではこんなに大 きさが違 う。現 在 はもっと大
大 きさを変 化 させて動 きをつけ
きい星 、明るい星 、重い星が見つかってきている。
る)
星 空 ランキングのスライドを表 示
○ エンディング
現 在 の人 類 は、宇 宙 に望 遠 鏡 を浮 かべて星 を観 測 す
ハッブルの写 真 による全 天 周 動
るようになった。そこではさらに驚 くべき宇 宙 の姿 が 明
画 素 材 を 使 用 して 演 出 → ク
らかになってきている。とても小 さな光 の点 に見 える夜
レジット
空 の星 は、実 は熱 く燃 えたぎっている巨 大 な火 の玉 な
のである。
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プラネタリウム投影プログラム「夜空の星はなぜ光る」開発報告
表 2 スライドを貼 り付 けるためのサンプルプログラム
######################
# サンプルプログラム
######################
0.0
show resume
scene initialize all
+0.5
+0.1
domef is empty
# domef という仮 想 的なオブジェクトを定 義
domef position 0 0 0
# domef をドームの中 心 部に配 置
domef attitude 0 20 0
# 正 面 方 向 、仰 角 20 度、回 転 角 0 度 で配 置
scene fixed domef
# domef オブジェクトを実 際 の投 影 舞 台 である scene に貼り付け
script slidesetDirectory v:\shows\07spr_yozora\slides\
# デフォルトのディレクトリパスの設 定
# スライドオブジェクトの定 義
+0.5
sl1 is slideh
# sl1 という名 前のスライドオブジェクトを定 義(正 方 形 画 像の場 合)
sl1 slideset is v:\shows\koudan\slides\scene3.sls
# ここでスライドをロードするので、この次のスクリプトの実 行まで時 間をあける
+1
sl1 slideset frame 1
# スライドのコマ番 号を指 定(.sls ファイルの行 数)
# コマ番 号 で 0 を指 定すると真っ黒 のスライドになる
+0.1
sl1 intensity 0.01
# スライドの明るさ定 義。最 初は暗くしておく
sl1 position spherical 0 0 100
# スライドの位 置を指 定
# spherical キーワードが極 座 標 。3 つの数 字は水 平 経 度 、垂 直 緯 度 、距 離
# スライドは同じ距 離 、同 じ座 標に 2 つ以 上おかない。
sl1 face domef
# スライドを domef の方 向に向ける
# これにより、オブジェクトが常にドーム中 心に向く
sl1 scale 100
# スライドの大きさ指 定(距 離との兼ね合 いで大きさも変 わる)
domef add sl1
# スライドを domef オブジェクトに貼り付ける。
# 以 上 でスライド準 備 完 了
+0.5
show pause
# 一時停止
+0.1
sl1 intensity 100 duration 2
+3
show close
# 2 秒 間かけてスライドの明るさを 100%にして表 示
# 終了
script end
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江越 航
は「月 と惑 星 」のパートの光 るものと光 らないものの例 、
図 2は「太 陽 」のパートの「ひので」の太 陽 表 面 の映 像
を表 示した部 分 である。
3-2.スライドの貼り付け
スクリプト作 成 にお いて基 本 となるのは、スライドをド
ーム上 に貼 り付 ける手 順 である。スライドはドーム上 の
任 意 の位 置 ・大 きさ・角 度 で配 置 することができる。た
だしドームは球 面 状 であるため、適 当 に配 置 すると場
所 によって画 像 の 角 度 が 思 った方 向 を 向 か ず、見 栄
えが悪 くなる可 能 性 がある。このため基 本 的 なスクリプ
トの手 順 に ついて、表 2 にま とめた。ここではまず 始 め
に domef というドーム中 心 部 にあって正 面を向いている
仮 想 的 なオブジェクトを定 義 している。そして作 成 する
スライドは、この domef というオブジェクトの方 向を向くよ
うに定 義する。こうすることによって、ドーム上 のどこにス
ライドを配 置 しても、中 心 方 向 を向 いて正 立 したスライ
図 1 光 るものと光らないもの
ドが表 示されることになる。
3-3.画 像 の加 工
写 真 は投 影 用 に加 工 する必 要 がある。また、説 明 の
ための文 字 スライドを作 成 する必 要 もある。これらの作
業には主に Photoshop を利 用 した。また、全 天 周 動 画
素 材の切り出 しは After Effect を利 用 して行った。
複 数 のスライドをドーム上 で動かして表 示 する場 合 、
スライドが重 なった部 分 が黒 抜 きとなって見 栄 えが悪 く
なる。これを避 けるためには、画 像 を 透 明 化 する 作 業
が必 要になる。このため、Phtoshop でアルファチャンネ
ル(透 過 度 情 報 のチャンネル)を持った画 像 を作 成 し、
透 明 画 像を書き出して対 処 した。
4.おわりに
今 回 番 組 作 成 に用 いた以 上 の内 容 は、職 場 の同 僚
諸 氏 に教 えていただいた手 法 をまとめたものである。し
かし、プラネタリウムの番 組 はこれだけでは完 成 しない。
コンソールからボタンで制 御 するためには、光 学 式 プラ
ネタリウムであるインフィニウムの制 御 、統 合 制 御 システ
ムである TRAX のプログラミング等も必 要となってくる。
今 回 はこれらの作 業 まで手 が回 らなかった。また実 際
に解 説 してみると、内 容 をうまく説 明 できない部 分 や、
前 後 の つながりが 悪 い部 分 がある。次 回 の 番 組 制 作
では今 回の経 験を踏 まえて改 善を図っていきたい。
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図 2 「ひので」が観 測 した太 陽 の映 像