ポスター

平成23年9月3-4日 日本社会薬学会第30年会 東京大学安田講堂
SM-03
高齢者におけるサプリメントの使用実態と
医薬品との飲み合わせについて
○笹谷裕乃、 赤沢学
明治薬科大学 公衆衛生・疫学研究室
背景・目的
我が国において健康食品を含むサプリメントの使用は年々増加傾向にあり、特に高齢者の消費は多いと言われている。高齢者は薬物治療が必要な基礎疾
患を持つ患者も多く、高齢者を対象とした調査研究では、医薬品使用者の過半数がサプリメントを併用しているとの報告もある。
そのため、薬剤師が適切な服薬指導を行う上では、医薬品同士だけでなくサプリメントとの相互作用の情報を把握し、患者に情報提供する必要がある。しか
し、医薬品同士の相互作用は多くの情報があるものの、医薬品とサプリメントとの相互作用情報は乏しいため、サプリメントを服用している高齢者に服薬指
導を行う上での問題点を抽出することを目的とした。
結果
方法
○患者背景について[表4]
半数以上の患者がサプリメントを使用。使用割合
は65歳未満の方が高かった。性別では女性の方
が男性より多かった。
○データ
ブラウンバッグ運動では患者が持参した医薬品やサプリメントに関する情
報、患者背景や自己申告疾患などに関する情報がある。
今回は、広島県薬剤師会のデータ508件と土浦市薬剤師会のデータ51件、
計559件のデータを二次的に使用してサプリメントの使用実態について解
析した。
○評価方法
サプリメント使用者の患者背景(年齢・性別)を分析した。また、サプリメント
を60成分に分類し、それぞれの成分について使用人数をカウントした。更
に、自己申告疾患とサプリメントの使用人数について、人数をカウントし関
係性があるかを調べた。不適切な使用(飲み合わせ、不適切使用者、過
剰・欠乏投与)に関しては、あらかじめチェックリスト(表1~3)を作成して評
11%
価した 。
※自己申告疾患の分類(高血圧、高脂血症、糖尿病、心臓病、胃炎・胃潰
瘍、骨粗鬆症、気管支喘息、慢性気管支炎、膀胱炎、関節炎、腰痛、頭痛、
アレルギー、骨折、眼の病気、その他)
表1. サプリメントに添加されている成分と医薬品の相互作用が想定される主な事例
サプリメントに添加されている成分
ビタミン類
ビタミンB6
葉酸
11%
ミネラル類
ビタミンK(青汁、クロレラを含む)
ビタミンC
ビタミンD
カルシウム
マグネシウム
鉄
その他
中性アミノ酸
コエンザイムQ10
ニンニク
イチョウの葉
医薬品成分
フェニトイン
葉酸代謝拮抗薬
フルオロウラシル、カペタシタビンなど
ワルファリン
アセタゾラミド
ジギタリス製剤
活性型ビタミンD3製剤
ジギタリス製剤
ビスホスホネート製剤
テトラサイクリン系抗菌薬
ニューキノロン系抗菌薬
テトラサイクリン系抗菌薬
ビスホスホネート製剤
タンニン酸アルブミン
ビスホスホネート製剤
メチルドパ
テトラサイクリン系抗菌薬
ニューキノロン系抗菌薬
レボドパ
降圧薬
糖尿病治療薬
抗凝固薬
インスリン
抗HIV薬
抗凝固薬
医薬品分類
抗てんかん薬
ビタミン製剤
抗がん薬
抗血栓剤
利尿薬
強心薬
骨代謝改善薬
強心薬
骨粗鬆症・骨代謝改善薬
抗菌薬
抗菌薬
抗菌薬
骨粗鬆症・骨代謝改善薬
止瀉整腸薬
骨粗鬆症・骨代謝改善薬
降圧薬
抗菌薬
抗菌薬
パーキンソン病治療薬
糖尿病治療薬
抗ウイルス薬
影響
薬効の減弱
薬効の減弱
薬効の増強
薬効の減弱
腎・尿路結石の恐れ
薬効の増強
腸管からのカルシウム吸収を促進
薬効の増強
薬効の減弱
薬効の減弱
薬効の減弱
薬効の減弱
薬効の減弱
薬効の増強
薬効の減弱
出血リスクの増加
表2. サプリメントと摂取に注意すべき利用対象者の組み合わせ
サプリメント素材
ウコン
鉄含有量の多い素材(クロレラなどを含む)
スギナ
アロエ
サイリウム
朝鮮人参
α -リポ酸
イチョウの葉
注意すべき対象者
胆石など
C型慢性肝炎、脂肪肝のある人
心臓または腎臓の機能不全
備考
症状の悪化
症状の悪化
症状の悪化
腸閉塞・原因不明の腹痛・虫垂炎・大腸炎・クローン病など 症状の悪化
の腸の炎症を伴う症状、痔疾、腎臓障害
(刺激性瀉下作用があるため)
腸に障害のある人
症状の悪化
血栓症患者、高血圧患者
症状の悪化
インスリン自己免疫症候群
症状の悪化(有害事象は日本人に多い)
手術前の患者
出血リスクの増加
○自己申告疾患とサプリメント使用人数の関係に
ついては、疾患ごとに確認されたサプリメントの使
用人数が少なかったため、特定の傾向は確認でき
なかった。
○サプリメントの不適切な使用について
チェックリストを用いてサプリメントと医薬品の不適
切な使用について調査した結果、重大な事項とし
て以下の2件が確認された。
1.イチョウの葉 [表1より]
抗凝固薬との併用により出血リスクが高まる恐れ
があるが、抗凝固薬服用患者134名中4名(3.0%)
が併用していた。
2.朝鮮人参 [表2より]
高血圧薬服用患者に対し、高血圧薬との併用で血
圧上昇の恐れがあるが、高血圧患者329名中6名
(1.8%)が併用していた。
その他の不適切使用に関しては、表1の医薬品分
類とサプリメントの相互作用に関しては、以下に示
す事例が確認された。
1例 葉酸とビタミン製剤、クロレラと抗血栓剤、
ビタミンCと利尿薬、鉄と止瀉整腸薬、
鉄と骨粗鬆症・骨代謝改善薬
2例 ビタミンDと強心薬、カルシウムと強心薬、
カルシウムと骨粗鬆症・骨代謝改善薬、
鉄と降圧薬、コエンザイムQ10と降圧薬、
コエンザイムQ10と糖尿病治療薬、
ニンニクと糖尿病治療薬
7例 ニンニクと抗凝固薬
表2の注意すべき利用対象者の飲み合わせに関し
ては、今回の調査では、朝鮮人参以外に不適切な
使用者は確認できなかった。
表3 サプリメント素材の欠乏・過剰摂取により起こると想定される主な有害事例
サプリメント素材
マルチビタミン・
マルチミネラル
ビタミンB
ビタミンD
ビタミンA
ビタミンE
葉酸
αリポ酸
コエンザイムQ10
マグネシウム
亜鉛
欠乏
筋肉疲労、倦怠感、肩こり、腰痛、肌荒れ、口内炎、
眼精疲労(動脈硬化の危険因子)
ビタミンD欠乏症
原因:アルコール中毒、低栄養、イオン交換薬服用
不足により、夜盲症、眼球乾燥症、失明に至る。
貧血、妊婦では先天性奇形の原因
※高脂血症治療薬のスタチン剤服用により減少
相対的にCa増加し、心筋梗塞による死亡率増加
味覚障害、糖尿病、男性生殖器の低下
過剰
過剰摂取により男性前立腺癌のリスク増大
高Ca血症:食欲減退、吐き気、のどの渇き、筋力低下、神経過敏、高血
圧、長期化により腎臓・血管・脳へのカルシウム沈着
高齢者では医原病としてふらつき、食欲不振
急性過剰症:吐き気、腹痛、頭痛、めまい、疲労感、皮膚落屑
慢性過剰症:関節痛、骨粗鬆症、皮膚乾燥、脱毛、肝脾腫、脳圧亢進
過剰摂取により死亡率上昇
発熱、皮膚症状、呼吸障害
インスリン自己免疫症候群
※空腹時ではほとんど吸収されない
下痢、高Mg血症
吐き気、嘔吐、胃腸症状、発熱、倦怠感、不安感、免疫障害
表3の欠乏・過剰投与により起こると想定される有
害事例については、高血圧患者でビタミンDを服用
している患者が4名、骨粗鬆症患者でビタミンAを服
用している患者が1名確認できたが、これがサプリ
メントの過剰投与によるものかどうかは断定できな
い。
表4. 患者背景
人数 使用者
患者全体
550
294
58%
年齢構成 65~74歳 202
57%
75歳以上
性別
57%
65歳未満
54
65%
女性
375
61%
男性
184
52%
表5. 成分別のサプリメント使用人数
サプリメント名
グルコサミン
使用人数
63
野菜(青汁など)
46
コラーゲン
45
ヒアルロン酸
40
ブルーベリー
33
マルチビタミンマルチミネラル
32
コンドロイチン
31
酢
28
ビタミンC
27
ニンニク
27
EPA・DHA
21
カルシウム
18
卵黄
18
ウコン
17
セサミン
17
MSM・サメ軟骨
13
ビタミンE
13
イチョウの葉
13
コエンザイムQ10
12
ロイヤルゼリー
12
ビタミンB
10
プロポリス
10
乳酸菌
9
朝鮮人参
8
ビタミンA
7
ビール酵母
7
果物
6
漢方薬
6
大豆タンパク
6
アガリクス
6
プロテイン
6
ビタミンD
5
鉄
5
β カロテン
5
DNA核酸
5
ダイエット食品
5
葉酸
4
アミノ酸
4
アロエ
4
α リポ酸
3
発芽玄米
3
クロレラ
3
ルテイン
3
GABA
2
食物線維
2
桑の葉
2
タウリン
2
豆鼓エキス
2
フコイダン
2
ブドウ種子
2
セレン
1
マグネシウム
1
亜鉛
1
マンガン
1
ヤクルト菌
1
ミミズ末
1
他
57
考察
今回の調査では、どのような患者がどのようなサプリメントを使用しているか、また、医薬品とサプリメントの不適切使用の実態を整理することができた。そし
て、特に例数は少ないが、有害事象につながる恐れのある医薬品とサプリメントの飲み合わせも発見できた。なお、一部の不適切な使用例に関しては、薬剤
師が服用時期を指導するなど、サプリメントの使用に関する指導、介入している事例も見られた。
しかし、自己申告疾患や特定の医薬品の使用と、サプリメントの使用に関する関係性を明らかにできなかった(例えば、腰痛を訴えている患者が、鎮痛剤とコ
ンドロ イチンなどのサプリメントを併用しやすいなど) ため、今後はより多くの情報を集めたデータ収集、解析が必要であり、薬剤師の利用できる医薬品とサ
プリメントの相互作用情報が不足していることを考慮し、今後もより多くの高齢患者を対象とした使用状況を引き続き調査し、不適切使用を発見・報告していく
必要があると考えられた。
そのためにも、薬剤師が患者に服薬指導を行う際に確認しやすい医薬品とサプリメントの要注意飲み合わせリストを作成するなど、情報提供を行う際に手助
けとなるような研究につなげていきたい。
参考文献 健康食品・サプリメントの事典 医歯薬出版株式会社 鈴木洋著
健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて (厚生労働省 日本医師会 (独)国立健康・栄養研究所)
ブラウンバッグ運動(http://plaza.umin.ac.jp/~brownbag/index.html)