科学技術指標2014より - 科学技術・学術政策研究所

*本コラムの引用を行う際には「文部科学省 科学技術・学術政策研究所 『科学技術指標2014』」とご明記願います。
第 4 章 研究開発のアウトプット
コラム:特許出願からみる企業規模別・業種別の研究開発動向
~NISTEP 企業名辞書を利用した特許分析の深化に向けて~
【図表 4-2-12】 企業別特許出願数分布
科学技術・学術政策研究所(以下、NISTEP と
(ローレンツ曲線)
略す)は、文部科学省の「政策のための科学」推
ジニ係数=0.96
1.0
進事業におけるデータ・情報基盤整備の中で、産
1.6%
0.9
業セクターに関する研究開発やイノベーションの
0.8
特
許
出
願
件
数
の
累
積
比
分析・研究への活用を想定した「NISTEP 企業名
辞書(以下、企業名辞書と略す)」を Web サイト(1)
で公開している。
企業名辞書は、国内営利企業(以下、企業と略
0.7
0.6
91.5%
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
す)に関する変遷名称・合併等の沿革や所在地、
0.0
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
緯度経度、規模、業種など多岐に渡る企業情報
企業数の累積比
資料:特許庁、「IIP パテントデータベース(20110331 版)」
科学技術・学術政策研究所、「NISTEP 企業名辞書」
参照:表 4-2-12
を含むデータベース(以下、DBと略す)であり、特
許データ、財務データ、各種企業調査データなど
(1)100 件以上の出願実績を持つ企業
他のDBと接続して利用することができる。
企業名辞書は、5,616 社(変遷名称を含めた数
特許データとの接続は、IIPパテントDB(2)との接
続テーブルを公開しており、これを利用することで、
は 7,430 社(4))のデータを保有し、前述の 100 件以
以下のような企業の特許出願に関する分析を容
上の出願実績を持つ企業も含んでいる。IIPパテ
易に行うことが出来る。
ントDB(20110331 版)における 1970 年以降の特
IIPパテントDBは特許庁の整理標準化データ(3)
許出願データは 1,145 万件存在するが、図表
に基づき作られるが、同一出願人の異なる表記
4-2-13 に示すように、うち、925 万件(80.8%)が出
(表記揺れ)が多数存在している。企業名辞書と
願人に企業を含む特許である。企業名辞書は、こ
接続するためには、表記揺れを修正し、さらに同
のうち 860 万件(企業出願特許の 92.9%)と接続が
名異企業を誤認しないよう同一性の判別や企業
なされている。
【図表 4-2-13】 IIP パテントDBと企業名辞書に
の名称変更・合併など沿革を考慮した「名寄せ」
おける特許出願数の構成
作業が必要になる。NISTEP では、地道な作業で
はあるがそれらを実施し接続情報の生成を行って
いる。
IIPパテントDB
国内営利企業の
出願
国内営利企業
925万件(80.8%)
企業出願特許と
企業名辞書との
接続
接続企業特許
その他
220万件
19.2%
図表 4-2-12 は、1970 年以降の企業の特許出
願について、企業を出願数の少ない順に並べ、
企業数の累積比を横軸に、出願数の累積比を縦
0%
軸として描いたローレンツ曲線である。ジニ係数
20%
40%
60%
非接続
企業特許
65万件
80%
100%
資料:図表 4-2-12 と同じ。
参照:表 4-2-13
0.96 が示す通り、企業の特許出願状況は大きな
図表 4-2-14 は、100 件以上の出願実績を持つ
偏りがあり、全出願企業の 1.6%に過ぎない 100 件
以上の出願実績を持つ企業(3,134 社)の特許が、
企業について、企業規模別構成比と業種別企業
全企業出願特許の 90%以上を占めている。
数・特許出願数を示している。上段の構成比から、
大企業だけでなく中小企業も約 40%含まれてい
ることが判る。それら中小企業の構成比率の高い
(1)http://www.nistep.go.jp/research/scisip/rd-and-innovation-on-ind
ustry
(2)(一財)知的財産研究所より公開される特許庁の整理標準化データ
をもとに特許統計分析用に開発されたデータベース
(3)特許情報の提供のために、SGML 形式又は XML 形式に整理標準化
したデータ
業種は生産用機械器具製造業であり、60%を超
(4)数字は 2014 年 5 月現在公開している版であり、次期公開を予定する
版では、変遷名称を含めた数は約 15,000 社となる見込みである。
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第 4 章 研究開発のアウトプット
える。化学工業も中小企業数は多いが、大企業も
図表 4-2-15(B)は、ある業種の前年からの出願
多く存在することから比率は約 40%に止まる。下
数の増減が企業全体の出願数合計に対してどれ
段の業種別特許出願数では所謂、電気・情報系
だけ増減させたかを表す寄与度を示している。業
企業が頭抜けているが、近年はその様相に変化
種 i の寄与度はΔPi/P×100 で表し、P は前年の
が生じている(図表 4-2-15 参照)。
企業全体の出願数合計とする。なお、各業種の寄
与度の合計は、企業全体の出願数の伸びと一致
【図表 4-2-14】 100 件以上の出願実績を持つ企
業の企業規模と特許出願状況
企業規模構成比
大企業, 55.6
400
350
20%
40%
60%
80%
250万件
300
不明
小規模企業者
中小企業
大企業
250
企
200
業
数 150
100
50
化
学
工
業
路電
電
製子
子部
造
業
部品
品・
・デ
バ
デイ
バス
イ・
ス電
子
・回
は
ん
用
機
械
器
具
製
造
業
専 鉄 非 総
門 鋼 鉄 合
サ 業 金 工
属 事
ビ
製 業
ス
造
業
業
…
繊 窯 プ そ
維 業 ラ の
工 ・ ス 他
業 土 チ の
石 ッ 製
製 ク 造
品 製 業
製 品
造 製
業 造
業
150 特
許
100 出
願
数
50
16
25
14
特
許 12
出
願 10
数
の 8
伸
び
6
指
数 4
0
ゴ
ム
製
品
製
造
業
機
械
器
具
卸
売
業
30 万件
全産業(右軸)
金
属
製
品
製
造
業
輸送用機器
鉄鋼
電気機器
機械
情報・通信業
化学
2
0
注:1)企業規模の判別は中小企業基本法による。
2)「不明」は、倒産、生産等で存在しない企業であり、規模別データ
が取得できなかった企業を指す。
資料:図表 4-2-12 と同じ。
参照:表 4-2-14
特
許
20 出
願
数
15 合
計
1970
75
80
85
90
上
10 場
企
業
5
)
生
産
用
機
械
器
具
製
造
業
18
)
輸
送
用
機
械
器
具
製
造
業
ー
業
務
用
機
械
器
具
製
造
業
200
(
0
情
報
通
信
機
械
器
具
製
造
業
願の状況
(A)出願数の伸び(指数)
100%
特許出願数
(右軸)
電
気
機
械
器
具
製
造
業
【図表 4-2-15】 上場企業の主要業種別特許出
小規模企業者,
0.5
不明, 5.7
(
0%
中小企業, 38.2
する。
医薬品
95
00
0
05 2008年
(B)出願数の変化に対する業種の寄与度
30
医薬品
化学
機械
鉄鋼
電気機器
輸送用機器
情報・通信業
全産業
25
20
(2)上場企業
15
寄
与 10
度
5
%
0
さて、近年事業会社から持株会社に移行する
( )
企業が多数ある。日本標準産業分類に準拠した
出願数の算出では、それら企業の主事業とは別
-5
の業種に算出される。そこで、ここでは証券コード
-10
協会の業種データ(企業名辞書に掲載)を使って、
-15
1971
76
81
86
91
96
01
06
注:1)IIP パテント DB(20110331 版)における出願特許の収録状況から
2009 年以降は表示していない。
2)主要業種のみ表示している。
資料:図表 4-2-12 と同じ。
参照:表 4-2-15
上場企業を対象に分析を行う。
図表 4-2-15(A)は、2013 年 1 月末現在の上場
企業(3,544 社)を対象に、各業種の 1970 年の出
願数を基準に年ごとの出願数の伸びを示している。
電気機器は 1990 年をピークに伸びが減少し、
1990 年代半ば以降電気機器の出願数が頭打
ちの状況にあるとはいえ、上場企業全体の出願数
の伸び(マイナスも含む)に大きく寄与している図
1994 年以降はほぼ横這いの状況にある。鉄鋼に
式は変わっていない。他の業種は、僅かに輸送用
ついても 1990 年代半ばを境に右肩下がりの一方
機器の寄与が垣間見えるが、それ以外は軒並み
である。逆に、伸びの目立つのは輸送用機器であ
±3%の寄与度幅に収まっている。
り、バブル崩壊後の停滞はあるが、2000 年代のデ
電気機器の出願数減は、研究開発費の削減、
フレ期において伸びが加速している。対して、医
事業又は技術の成熟等の要因による発明数自身
薬品は今日に至るまで伸びが全く見られない。但
の減少や半導体・ソフトウェア事業などの分社化
し、ここには 2000 年以降設立の若い企業が 7 社
による出願の異業種分散など様々な要因が考え
含まれているが、所謂、創薬ベンチャーといわれ
られるが、今後の分析課題とする。
る企業の多くは含んでいない。
(中山 保夫)
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