Ⅰ 反ユダヤ主義とユダヤ人 1、ホロコーストの背景 a)人類の最大殺戮の歴史 ア)トルコによる100万人のアルメニア人虐殺 イ)ソ連のスターリン時代の2000万人の粛清 理由:マルクス主義からみた人民の敵 ウ)中国での毛沢東時代の2000万人以上の粛清 理由:農民革命と文化大革命(1965-75)の混乱 エ)カンボジアのクメール・ルージュによる100万人の虐殺 オ)旧ユーゴスラビアの「民族浄化」死者・行方不明者20万 b)ナチズムによる虐殺 ア)非ユダヤ系ポーランド人300万人 イ)独ソ戦でのロシア人捕虜の餓死300万人 ウ)アウシュヴィッツでの人体実験 エ)ジプシー(ロマ) オ)ユダヤ人へのホロコースト600万人 c)ナチズムにおけるジプシー 虐殺数:1939-45年に25-50万人 理由:キリスト教社会の異端者、異種の血統 =劣等人種(非アーリア)、経済的寄生、不道徳 対象:90%を占める混血ジプシー 手法:断種→絶滅収容所でガス殺 d)ドイツ人の近親憎悪感情 ア)ユダヤ人へのホロコースト=前代未聞の行為 ⅰ)ヨーロッパの全ユダヤ人の三分の二が殺害 ⅱ)ヨーロッパのユダヤ文化の崩壊 イ)ホロコーストの特徴 ⅰ)対象のユダヤ人からのドイツ攻撃無 ⅱ)ユダヤ人の独への知的貢献大(ノーベル賞受賞) ⅲ)第一次大戦でのユダヤ人の独への忠誠心 ウ)ドイツ人とユダヤ人の共通点 勤勉、家族愛、理論的、独善的、自己中心的 エ)ドイツ人はユダヤ人に近親憎悪敵感情を保有 フロイト主張:類似者へのナルシズム→嫌悪感の増幅 19ー20世紀のドイツ人のホロコーストと酷似 e)反ユダヤ主義に利用されたニーチェの思想 ア)小説家ヴァッサーマン ユダヤ人嫌い→ドイツ人の病的妄想 イ)詩人・哲学者ニーチェ ⅰ)反ユダヤ主義を批判 ⅱ)道徳的な良心 ←近代の退廃的なイデオロギーの根源 (自由主義、合理主義、社会主義など) 人間の本性:ディオニソス的 (本能に忠実:陶酔・激情) ⅲ)ユダヤ人→道徳的な良心の誕生に貢献 本性への反抗→不誠実 ⅳ)ナチス:ニーチェ哲学を悪用 ユダヤ人弾圧・虐殺を正当化 2,キリスト教とユダヤ人 a)ユダヤ教と選民思想 ア)選民思想:ⅰ)ユダヤ人=神からの選民 正義と慈愛の世界の達成が使命 ⅱ)ドイツ人=神の世界計画の体現者 ◎2つの選民思想の両立は不可能 →ドイツ人によるユダヤ人の排除 イ)ヒトラーのユダヤ人非難 ⅰ)ユダヤ人の平等主義→苦痛と不寛容の原因 ⅱ)ドイツ人種の混合→アーリア人の純血を侵害 ⅲ)民主主義理論の創作→人間文化の基盤を破壊 b)ユダヤ教とユダヤ人 ア)ユダヤ教の基盤:全能の唯一神の信仰 神→宇宙を創造、人間→道徳律の擁護 イ)道徳律: ⅰ)殺人・姦通・窃盗の禁止 ⅱ)神への冒涜、邪心崇拝の戒め ⅲ)弱者、孤児、寡婦、奴隷、寄留者への支援 ウ)正義の要求:傲慢、不正、迫害の禁止 c)離散民としてのアイデンティティー 紀元前142年、ユダヤ人、独立国を再建 紀元後70年、エルサレムの第二神殿破壊→ユダヤ人流浪 4世紀以降、ローマ帝国のキリスト教化→ユダヤ人迫害 中世、ローマ教会・皇帝がユダヤ人保護、 「呪われた民族」の烙印 d)キリスト教から向けられる憎悪 ア)新約聖書のユダヤ批判 ⅰ)イエス裏切りの弟子ユダ=ユダヤ人 ⅱ)ユダヤ人=世俗的、肉欲的、放縦、守銭奴 イ)中世でのユダヤ人批判 ⅰ)第1回十字軍以降、「キリストの殺人者」 ⅱ)「血についての誹謗」 キリスト教の子供の血で種なしパン作成 ⅲ)線ペスト→ユダヤ人による井戸への投入 ⅳ)高利貸し(キリスト教では禁止) ⅴ)キリスト教世界滅亡を画策 e)マルティン・ルターの「助言」 ア)ルター:ドイツ宗教改革の父 ユダヤ人を痛烈に批判 ⅰ)シナゴーグ破壊、祈祷書の奪取、旅行特権廃止 ⅱ)ドイツ為政者にユダヤ人財産没収を嘆願 イ)ドイツ宗教改革 →ユダヤ人イメージを悪化 結果:ユダヤ人を「よそ者」集団と断定 中世ヨーロッパのキリスト教社会の脅威 ウ)ナチス、ルターのユダヤ人イメージを利用 3,ヨーロッパ社会におけるユダヤ人 a)スペインのユダヤ人狩り 「血の純潔」の法(中東系人種を排除) ⅰ)昔からのキリスト教徒:純潔 ⅱ)新参キリスト教徒:ユダヤ教からの改宗者←不純 中世スペイン:ユダヤ人→スペインへの同化、改宗 新参キリスト教徒の成功 スペイン人、ユダヤ人に嫉妬 カトリック教会、改宗者を差別 レコンキスタ運動(スペインからの異教徒の追放) 1492年、スペインからユダヤ人15万人とムスリムを追放 b)ポーランドでの活躍と排斥 中世のユダヤ人の排斥 (英、仏、独、スペイン、ポルトガル) ポーランド:経済の崩壊からユダヤ人による再建を期待 14世紀以降、多くのユダヤ人を受け入れ 18世紀末まで、ユダヤ人に自治を提供 1684年、ウクライナ農民によるポグロム ウクライナとポーランド南部で ユダヤ人大量虐殺 c)フランス革命とドレフュス事件 1791年、アンシャンレジームの全廃 →ユダヤ人に市民権を授与:ユダヤ人も平等 ユダヤ人側:近代社会を受け入れ (機会均等、移動の自由、宗教との分離) 1894年、ドレフュス事件 ユダヤ将校、独へ情報漏洩→仏軍への裏切り 仏での憶測:ユダヤ系金融資本の暗躍 フリーメーソンの支援 裁判:ドレフュスは無罪 結果:仏での反ユダヤ感情の存在を証明 4,反ユダヤ主義の波 a)ドイツの反ユダヤ主義(Anti-Semitism)者たち 1879年、急進的独記者ヴィルヘルム・マルの造語 第一次大戦前のドイツ、反ユダヤ主義の拡散 1894年、テオドール・フリッチュ、反ユダヤ主義書籍出版 『反ユダヤ主義者のための十戒』40版まで印刷 第一次大戦前、ポール・ラガルド、人種論的反ユダヤ主義 オイゲン・デューリング、差別的外国人法支持 アーリア(ゲルマン・北欧)人種優性論主張 英人ヒューストン・チェンバレン ヒトラーをドイツの救世主だと賞賛 b)第一次世界大戦の残酷な反動 第一次大戦前: ヨーロッパ一般、ユダヤ人市民権尊重 大戦中:ガリツィア、ロシアがスパイ・反逆者として処刑 ドイツ、東部戦線でユダヤ人の身辺調査を断行 大戦後:ポーランド、ユダヤ人の忠誠心に疑問→ポグロム 独で噂の流布、敗北はユダヤ人の裏切りの結果 c)ボリシェヴィキ革命後のロシア 1918-21年、反ボリシェヴィキ勢力による10万人ポグロム 理由:革命初期の指導者の多くがユダヤ人 ドイツ、共産主義革命への恐怖 ユダヤ人=共産主義者の陰謀という俗説 →キリスト教文明の破壊を画策 d)イギリスのバルフォア宣言 シオニズム運動(パレスチナでユダヤ国家樹立が目標)隆盛 ア)1917年11月:英首相バルフォア、 パレスチナでのユダヤ国家樹立を承認 イ)ナチス・愛国者・反ユダヤ主義者の対応: シオニズム(ユダヤ人のドイツからの移住)を歓迎 ウ)アルフレート・ローゼンベルク 20年代にユダヤ人世界征服説を提唱 5,戦間期ヨーロッパでの処遇 a)新興国での異端者 第一次大戦後: オスマン、ロシア、オーストリア、ドイツの帝国崩壊 中東欧で小国の乱立:排他的民族主義と独裁政権 狭隘な民族主義→ユダヤ人を差別 具体例:ア)大学入学でのユダヤ人割り当て導入 イ)雇用で差別 ウ)大恐慌後に一般ユダヤ人の貧困化 エ)民族主義的反ユダヤ主義の拡大 b)ポーランドにおけるユダヤ人の立場 ア)戦後のポーランド:反ユダヤ主義に一定の歯止め ヒトラー政権獲得後、反ユダヤ感情の増幅 イ)新生ポーランドの国内事情:不安定な多民族国家 ◎ユダヤ人問題=少数民族問題 非ポーランド人←忠誠心弱、国益に無関心 ⅰ)中産階級にとってユダヤ人は危険な競争相手 ⅱ)農民や商人にとってユダヤ人はよそ者 ⅲ)教会にとってユダヤ人は道徳性の破壊者 ウ)ルーマニア、ハンガリー、スロヴァキアでも同様 6,無力なユダヤ人 a)脆弱だったユダヤ共同体 ア)ユダヤ人:反ユダヤ主義への対応が緩慢 理由:個人主義→組織的な政治活動に不向き イ)ヒトラー政権奪取後: パレスチナへの合法的な移住計画のみを英に打診 ウ)パレスチナのユダヤ人: アラブと対立、英の温情に依存 エ)アメリカのユダヤ人: 世界一裕福で強大なユダヤ人共同体 米政府のユダヤ人移住規制への抵抗力無 オ)イギリスのユダヤ人:アメリカと同様 b)ドイツ占領下のポーランド(39年9月以降) ア)ポーランドのユダヤ人口:300万人以上(欧州最大) ⅰ)現状:内部対立で有効な反ユダヤ主義政策無 ⅱ)ブンド(ユダヤ人労働者総同盟)が抵抗 ⅲ)ポーランド人:ユダヤ人に敵意・冷淡・ナチスに協力 イ)歴史家エマヌエル・リンゲンブルム: ポーランド反ユダヤ主義分子の多さを悲観 ウ)ユダヤ戦闘組織司令官:モルデハイ・テンネンバウム: ポーランド人の独への協力→ホロコースト実現に不可欠 エ)ユダヤ人救済会議の創設者ソフィア・コサック: ホロコーストに沈黙→精神の高潔さの喪失を非難 大国、国際的ユダヤ組織、カトリック教会の沈黙 →ホロコーストを助長 c)イェドヴァブネの事件 ア)41年7月、イェドヴァブネ(ポーランド東部)事件 ポーランド人住民:ユダヤ住民1600人を虐殺 ドイツ人:傍観、事件を撮影 原因:住民の認識→ユダヤ人=共産主義者 反ソ感情のはけ口→ユダヤ人虐殺へ イ)本質的な事件の原因 ⅰ)急進的な民族主義←反ユダヤ主義内在 ⅱ)ユダヤ人からの財産収奪は正当という気運 ウ)ビアウィストク地方(ポーランド東部) ポーランド人による小規模ポグロムが多数発生 反ユダヤ主義→傲慢な暴力に転換 →ヒトラーのホロコーストを助長
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