【デジタルメディア教室 Vol.156】 【特集】2015年を

2015 年を振り返って思ったこと
特集
デ ジ タ ル メ デ ィ ア 教 室
2015年はどんな1年だったでしょうか?
12月8日
(火)- 9日(水)
に開催したVR FORUM2015へは、
多くの方々にご来場頂き、ありがとうございました。この場を借
りて御礼申し上げます。3年ぶりの開催、イベントを節目としつ
つ、ビデオリサーチは新しい1年を迎える準備を進めています。
さて、恒例の本稿、2015年を振り返ると、
「何かとざわついた
1年」だったような気がします。戦後70年の節目の年、8月には
総理大臣談話が注目されました。ひと月後には安全保障関連法
案が可決。法案に反対する国会前の光景は、賛否、またムーブ
メントであったかへの評価はいろいろでしょうが、今年、公職選
挙法改正案で選挙権が20歳以上から18歳以下へ引き下げられ
たことと合わせて、特に若者と政治の関係の「変わる可能性」
は垣間見たような気はします。
年初17,000円台で始まった日経平均は、8月に中国経済への
不安を背景に一時大幅下落したものの、2万円をうかがうあた
りまで回復、年間を通じては上昇基調を保つようです。しかし、
不正会計問題や自動車・マンションでのデータ偽装など、名だ
たる企業で不祥事があったことも今年の「ざわつき」だったよう
に思います。
2019年ラグビーワールドカップ日本開催と2020年東京五輪
を目指して検討された新国立競技場は、建設費の高騰により予
定デザインが白紙撤回に、2020年東京五輪・パラリンピックの
エンブレムも盗用騒動により撤回と、これから大型イベントに向
かって盛り上がっていくには残念なニュースも世間をにぎわせま
した。そんな中、ラグビーワールドカップ一次リーグで、強豪南
アフリカに逆転勝ち、歴史的な勝利を挙げたのは、今年、もっと
も明るい話題のひとつだったのではないでしょうか。
1月ISLIによる日本人拘束事件や11月パリ同時多発テロ事件
など、過激派組織によるテロ行為が度々国内のニュースになっ
た年でもありました。
さて、そんな1年は、テレビ業界にとってはどんな年だったの
ソリューション推進局
テレビ事業推進部
石松 俊之
でしょうか。
恒例により、放送・通信・ITまわりを見渡して【10大トピック
ス】をあげて振り返ってみたいと思います。選出は個人的な見解
によるところが大きい点は、どうぞご了承下さい。
2
Video Research Digest 2015. 12・2016. 1
2 0 1 5 年 の 1 0 大トピックス
1. 日本の広告費
2. フジテレビ
6兆1,522億円
地上波テレビ
1兆8,347億円(前年比 2.4%増)
初の営業赤字(2015年 中間期決算)
3. BSデジタル放送15周年。機械式調査がスタート
4. 民放公式ポータル「TVer」がキャッチアップ配信をスタート(10月26日)
5. Netflix 国内サービス開始(9月2日。1日21時頃から配信)
6. 改正放送法施行(4月1日)
7. ローカル局の配信チャネル「ニッポンナビチャン」「ロコチャン」開始
8. ドローン元年
9. 国が携帯電話料金値下げ指示
10. 政治とメディアの攻防
概況 ~2014年のテレビ広告費と
2015年の出来事から
毎年2月に発表される電通「日本の広告費」
によれば、2014年の地上波テレビ広告費は1兆
8,347億円、前年比102.4%となりました。
「ソチ
オリンピック」
「ワールドカップ
ブラジル大会」
前年比 124%と昨年に引き続き成長を維持して
います。この運用型の成長領域も、パソコンから
スマートフォンやタブレットに移動、DSPの牽引
によるとことが大きかったようです。
2014年の総広告費は6兆1,522億円(対前年
102.9%)で3年連続で増加、マスコミ四媒体と
などスポーツ番組の好調、レギュラー番組の堅調
しても前年を上回る結果(2兆9,393億円
により番組広告(タイム)がプラスで推移し、ス
比 101.6%)となりました。
前年
ポット広告も消費税率引き上げ前の駆け込み需
要を取り込み、総じて年末まで好調を維持した
ようです。
媒体別の動向では、衛星メディア関連広告費
11月在京民放キー局の中間連結決算が出そ
ろい、フジテレビ初の営業赤字が報じられました
(讀賣新聞
11月7日朝刊他)。4月改編では10
が1,217億円、昨年に続き2桁に迫る伸びとなり
年間で最高の改編率、10月改編でも新番組が多
ました。
かったため、新たな視聴者獲得と定着が課題と
インターネット広告費は、1兆円時代に突入(1
兆519億円 前年比 108%)。内訳では、横ばい
なりやすく、実際、その影響が表れているように
も見えます。
傾向だった「枠売り広告」がスマートフォン向け、
ネット上の声(風評)を拾うと、新番組に限っ
キュレーションメディアなど新たなメディアの出
たことではありませんが、例えば政治的なこと
現で上昇、テクノロジーを駆使した「運用型」も
やネットに特有な世論に対して何らか同調的な
3
事象があると、上下左右、どこに振れてもバッシ
よいのか、事業拡大のためにスポットへの取り組
ングが起こったりして、とりわけフジテレビが一
みを強化した方がよいのか・・・機械式調査が始
部の過度な監視・ネガティブキャンペーンにさら
まったことで、そのような意味での節目も迎えて
されている、そんな印象も否めません。このこと
いるようにお聞きします。20周年に向かって、新
は、有形・無形の圧として、どこか番組を作りに
しい方向性の舵取りが注目されます。
くくしている面もあるように想像されます。
本稿の性格から個人的な想いをお許し頂くな
らば、かつて「カルトQ」を日曜22時台に編成し
民放公式ポータル「TVer」開始。
SVODの旗手Netflix日本参入。
たように、
『視聴者のリテラシーを問う番組』に
「見逃し視聴サービスについての検討を(在
フジテレビらしさを感じている世代として、そうい
京キー)5局で行うことで意見がまとまった」
った番組が、新しい年に起爆剤となることを願っ
と民放連
てやみません。
は2014年9月でした。そして、今年10月26日、
井上会長が定例会見で言及されたの
見逃し視聴(キャッチアップ)サービスを含む民
BSが開局15周年。
機械式調査がスタートし次のステージへ
2000年12月1日に開局したBSデジタル放送
は、今年15周年をむかえました。
年来、各局個別に見逃し視聴に取り組んでいた
ため、サービス内容の新規性は表現しにくくもあ
りますが、アプリダウンロードが早々に100万回
振り返れば、当初は音声サービスやデータ放
を突破、ワンストップの利便性は評価を得ている
送専門局などもありましたが、NHKが3波から2
ようです。視聴回帰や違法動画対策、タイムシフ
波に再編、追加帯域や再編もあって、この15年間
ト視聴を代替する受け皿、デジタルデバイスと
に「BSデジタル放送」というメディアはずいぶん
親和性の高い層へのテレビ番組のリーチ補完な
と変わりました。逆に2000年開局だった地上民
ど、目的、それへの期待の濃淡は様々だと思いま
放系5局は、3波共用機が当たり前になるまで普
すが、デバイスとメディアを取り巻く環境が大き
及でのご苦労も経験されているので、この節目
く変わる中、配信がテレビ局の重要テーマである
を迎えたことは一層感慨深いのではないかと思
のは間違いないでしょう。
います。
4
放公式ポータル「TVer」がスタートしました。14
今は無料広告モデルのみ扱う「TVer」に対し
ここ数年、BSは広告費の伸びも大きく、4月か
て、定額制動画配信の米国最大手 Netflixの日
らは機械式調査も始まったことで新しいステー
本市場参入は春先から注目を集めました。米国
ジを迎えたと言っていいでしょう。媒体特性とし
で宅配レンタルからスタートした同社は配信モ
て、視聴者は50才以上が中心、地上波よりも少
デルで急成長、米国で4200万人、世界で6500
し前倒しの20時台がピークで、個々の番組の見
万人の利用者を集め(第2四半期決算時)てい
られ方でも番組の尺(放送時間)に対して、見て
ます。Netflixの成長は、米国ではCATVの解約
いる割合が高い≒じっくりと視聴している傾向
行動(Code Cutting)の要因として語られるこ
があるようです。その特徴を維持し、守るために
とが多く、視聴行動を分析して番組開発に生か
番組広告(タイム)を中心とする今の営業形態が
すことも度々報じられています。オリジナル番組
Video Research Digest 2015. 12・2016. 1
「HOUSE of CARDS」でエミー賞の受賞もあ
を認めるのが、制度上の要点となっています。従
って、様々な見地から同社の日本市場参入に関す
来、ひとつの放送局が異なる放送エリアに、異な
る考察を見聞きしました。しかし、フジテレビと2
る番組を放送する形での統合を容認していたの
つの番組配信合意、芥川賞を受賞した「火花」
に比べると、制作費統一、県境での置局、マスタ
(又吉直樹著)の映像化権獲得はニュースとな
ーなどハード面の合理化、効率化が可能とされ
りましたが、9月2日のサービス開始は、大規模な
ますが、果たして視聴者ニーズに合致するのか、
プロモーションが組まれるでもなく、静かなもの
制度と実態のギャップは大きなままであるよう
だったように思います。
「日本でのユーザー獲得
に思います。
と期限の数値目標は定めていない」が同社の見
今年、RKB毎日放送が地方局では2番目(中
解で、直接お話しを伺っても、掲げた目標値に対
部日本放送が初)となる認定持株会社に移行す
して後で揶揄されるのを避ける方便ではないよ
ることを発表しました。実際の移行は2016年に
うに感じました。SVODでは携帯キャリアの定
なりますがこういった動きも、地域メディアの今
額サービス、huluなどのライバルと今後勢力図
後として注目されます。
がどうなるか?と思った矢先、Amazonがプラ
イム会員向けの映像配信を日本でも開始しまし
ローカル局に2つの新たな配信基盤
た。これは映像サービスそのものの対価を取る
でもなく、無料広告でもないモデルです。2016
BSの成長、キー局の配信加速、放送法改正、
年の配信領域はますます賑わうことになりそう
いずれもローカル局からは心穏やかに聞けない
です。配信領域が盛り上がる中、11月の末にはス
話題であるのは否めません。可処分時間を競う
マートフォン向け放送サービス「NOTTV」が、
ライバルが増え、また制度上、放送局の経営統
開局から4年ほどとなる来年6月末にサービス終
合が、感情論として頭越しに検討されている状
了とアナウンスされました。V-High帯域、次はど
況でもあります。そんな中、8月には2つのローカ
うなるのでしょう?
ル局の動画配信ポータルが提供開始となりまし
た。配信系へ取り組みは、GYAOなどでも展開
放送法改正
されていますが、今年8月には博報堂DY メディ
アパートナーズ系の「ニッポンナビチャン」
(8月
4月1日、改正放送法が施行されました。主な
4日)、電通系の「ロコチャン」
(8月24日)が地域
変更点は民放に関わる1)放送事業者の経営基
コンテンツの提供を開始しています。それぞれ地
盤強化計画の認定に係る制度の創設、2)認定
域創生、観光資源のプロモーション(インバウン
放送持株会社の認定の要件の緩和、NHKに関
ド対策)が背景にあり、稼ぐための配信というよ
わる3)国際放送の番組の国内放送事業者への
りも「放送局のコンテンツ制作力を地域経済へ
提供業務の恒常化等、4)NHKのインターネッ
の還元する」ことに軸があるように思いますが、
ト利用業務の拡大の4点です。経営強化基盤計
地域経済の活性化がその地域の広告需要も喚
画の認定を受けると、異なる放送エリアに同一
起して、好循環が生まれることを期待したいと思
番組を放送してもよい=放送エリア跨ぎの統合
います。地域情報という点では、CATVの攻勢
5
というのもあるようです。Synapse 4号(14年
化されました。一見、利用者の選択肢が広がる
12月)
「ローカル探訪」取材からですが、
「今後
話しですが、紆余曲折を経て、2年おきに端末を
は“1丁目”や“1km”など市町村よりもっと狭い
買い替えることで月々の負担額が安くなる現在
範囲の取材挑戦してみたいです」
(南海放送 も
の携帯電話販売の仕組みからは、ユーザーメリ
ぎたてテレビMC 寺尾さん)とありましたが、地
ットをあまり想像できません。するとこの9月、経
域情報メディアとして「メッシュの細かさ」の重
済財政諮問会議において安倍総理から「携帯料
要性は、今後高くなる可能性があるように思い
金等の家計負担の軽減は大きな課題である。そ
ます。
の方策等についてしっかり検討を進めてもらい
たい」との発言があり、事実上、携帯電話料金の
すでに意外と多く飛んでいるらしい
「ドローン」
値下げを要請するということがありました。
MVNOの格安SIMサービスが選び 放題な
米Amazonが購入商品の配送を「ドローン」
docomo、徐々にMVNO事業者が増えつつあ
で行う構想を見聞きしつつも、日本の生活者に
るKDDIでは、SIMロックを解除しなくても、
はまだ遠い話しと思っていました。しかし、今年
利用者が工夫すれば通信料は下がります。政
はドローンに絡む事件(善光寺や首相官邸に落
府はMVNOの利用拡大を推奨しており、ある
下など)があって注目され、新語・流行語大賞
解説によれば、政府としては既存領域の競争は
のトップテンにも入りました。果たして生活者が
MVNOに任せ、大手キャリアには日本の成長領
自家用に購入するかは疑問なので、一般的な普
域として、次世代技術開発・対応の強化を求めた
及はB to B利用が主戦場となるのかもしれませ
いようです。確かに安くはない携帯電話料金で
ん。しかも、有名になる過程が事件、事故絡みだ
はありますが、注力領域への向かわせ方が、どう
ったことも否定できず、安全性確保等の観点か
も回りくどく思えてなりません。
ら、この12月にドローンの規制を含む改正航空
法が施行されたばかりです。事故や不適切な利
4月、自民党がテレビ朝日、NHKの幹部を呼
用の不安がある一方で、新たな物流の仕組みと
び、事情聴取するということがありました。前
して成長領域との声もきかれ、メディアでも、取
者は「報道ステーション」におけるコメンテータ
材(特に災害報道等)で活用する想定があるた
の不規則発言、後者は「クローズアップ現代」
め、民放連では使用者や飛行対象地域に関わる
での「やらせ」の疑いに対するものでした。政権
規制に対して5月と7月にコメントを発表していま
政党の事情聴取にはメディアへの権力の介入の
す。Eコマースとの関係、メディアとの関係、この
危惧も伴うためそれへの批判、逆に放送局へも
先も利用範囲と規制の兼ね合いを見ていく必要
応じるべきだったのか、という議論もありまし
がありそうです。
た。NHKの問題については、4月28日総務省が
厳重注意し、行政指導文書を出したことが報じ
政府が携帯電話会社に異例の
「料金値下げ」要請
今年5月、携帯電話のSIMロック解除が義務
6
Video Research Digest 2015. 12・2016. 1
られています。11月になってBPO放送倫理検証
委員会は、NHKに同問題で「重大な放送倫理違
反があった」と指摘すると同時に、総務大臣の
NHKに対する厳重注意と行政指導、自民党の
テレビの周辺の新しいサービスが本格的にな
事情聴取を批判する見解を表明しました。それ
り、人の目に触れる機会も多くなる、その意味で
に対してBPOへ「政府・自民党を批判するのは
2016年は、それらへの最初の評価が出そろう年
けしからん」とする意見が寄せられ、それも異例
になりそうです。
の事態だったようです。
今年、ISLIによる日本人拘束事件に対しては
冒頭で「ざわついた1年」と書きましたが、相場
親政府的、安全保障関連法案に対しては反政
の格言で、申年は「騒ぐ(申酉騒ぐ)」だそうで、
府的論調が目立ったと、相反するメディアに対
今年以上に落ち着かない年になるのかもしれま
する批評や批判が夕刊紙や有志会見としてあ
せん。トラブルに右往左往するのではなく、よい
り、それだからではありませんが、報道、マスメ
出来事、嬉しいニュースに舞い上がって落ち着
ディアの在り方が改めて問われた1年でもあった
かない、そんな年になることを願って、結びと致
ような気がします。
します。
皆様、よいお年をお迎え下さい。
2016 年にむけて
そして、2016年もどうぞよろしくお願い致し
ます。
何かが始まり、何かが終わるのは毎年のこと
ですが、番外でソニーがベータマックスカセット
テープの生産終了を発表しました。テープからデ
ィスクやフラッシュメモリへ、映像の記録メディ
アはこの10年あまりで大きく変わりました。
テレビ番組をリアルタイムで見られない時、家
庭で録画するのか、配信を利用するのか、テレビ
局の配信領域の拡大によって、番組録画や記録
メディアの行方もさらに大きく変わりそうです。
来年は、リオデジャネイロ・オリンピック・パラ
リンピックを照準に、衛星では最大3チャンネル
の4k試験放送と8k試験放送(1チャンネル)、
ケーブルテレビ、IPTVでも8kに向けた実験的取
り組みが予定されています。
(4K・8Kロードマッ
プに関するフォローアップ会合 第二次中間報告
より)
これらが一般家庭に普及するには、放送のデ
ジタル化の時と同様に、テレビ本体等々の受信
機と受信環境(アンテナやネット回線)の『置き
換え』の問題を抱えています。
7