要 望 書

平成 24 年 4 月吉日
こころの健康推進議員連盟
会長 石毛えい子
様
精神科早期介入の問題を考える会
ホームページ http://www.soukihantai.jp
メール [email protected]
要 望 書
「こころの健康を守り推進する基本法」の制定に反対します
謹啓
時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、昨年 12 月 1 日「こころの健康推進議員連盟」が組織され、「こころの健康を守り推進する基
本法」制定に向けて準備が進められています。しかし、私たち「精神科早期介入の問題を考える会」
は、この法案成立に多大なる危惧を抱くものです。
この基本法は『こころの健康政策構想会議』(平成 22 年 5 月 28 日、当時の厚生労働大臣長妻昭氏
に提出された提言書)の中に「要綱案」(
「こころの健康の保持及び増進のための精神疾患対策基本法
(仮称)
」)として詳しく書かれていますので、以下、反対の理由を、この要綱案に沿って述べさせて
いただきます。
(理由のさらなる詳細は、アドレスの HP 等を参考にしていただければ幸いです)
理由その1
精神科受診は自殺者を減らさない
『こころの健康政策構想会議』
(以下『こころ政策』と表示)の座長である東京都立松沢病院院長の岡
崎祐士氏は提言書の「はじめに」の部分で、この基本法が必要な理由として、現在の日本国民はここ
ろの健康の危機に瀕していると書いています。それを裏付けるものとして、14年連続で自殺者3万
人超、精神科受診者数が推計300万人超という数字を挙げていますが、この数字をもって、はたし
て日本国民のこころは危機的状況にあるといえるのでしょうか。
14年連続自殺者3万人超。確かにたいへんな数字ですが、これはよくよく考えてみれば、すでに
内閣府のほうで自殺対策として睡眠キャンペーンなどを積極的に展開し、精神科受診を促しているに
もかかわらず、3万人超という数字はこの14年間変化していないということでもあります。しかも、
モデル都市としてこの睡眠キャンペーンを推進した静岡県富士市の場合、キャンペーン後にかえって
自殺者が増加するという結果さえ出ています。さらに「自死遺族連絡会」の調査によれば、自死した
人の7割が自殺時精神科を受診していました。
つまり、精神科受診は自殺者を減らすことにはならない、ということです。
また、精神科受診者数300万人超という数字ですが、上記のようなキャンペーンを張っている以
上、受診者数が多くのなるのは当然です。さらに十数年前の「うつは心の風邪キャンペーン」によっ
て精神科の敷居が低くなった結果、病気ではないかもしれない人たちまでが気軽に精神科を受診する
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ようになった、その結果の300万人超という数字です。
したがって、受診者数の多さをもって即「こころの健康が危機に瀕している」と主張するのは、か
なり論理の飛躍があると言わざるをえません。
理由その2 「適切で高度な精神科医療」は現在の日本では期待できない
要綱案の「総則」の中で5つの「基本理念」が謳われています。その3に「適切で高質な精神科医
療の提供」とありますが、現在の日本に、
「適切で高質な精神科医療」というものはほとんど存在しま
せん。もちろん例外はありますが、その例外の医療が受けられる確率は相当低いものとなります。
世界中の国々で、精神科病院の拡大こそが、医原病・薬原病を拡大してきました。精神科病院を捨
てることこそが、イタリアではそれまでの精神医療を反省・転換する出発点となりました。世界最悪
とも言われる、35万床の医原病・薬原病大国日本の精神医療・メンタルヘルスをリードしてきたの
は誰なのでしょう?
間違いをストップできない専門家護送船団チームによって、「こころの健康政
策」をさらに足し算されたら、子どもたちはどうなるでしょう?
「精神科医療改革」を本気で唱えるのであれば、まずもって立ち遅れているのは、過ちの引き算です。
精神疾患の重症化の大半が、医原性・薬原性であったという気づきと、そこからの脱出のための臨床
の工夫、その入口へと、子どもも大人も安易に送り込まない生活の工夫ができるということ、それな
くして「適切で高質な精神科医療の提供」など、あり得ません。
多剤大量処方や電気ショックの問題のみならず、形式ばかりの「人権に配慮した入院手続き」とい
った虚妄によって、どれだけの独特の人生が、
「適切で高質な治療」といった名の下に破壊されてきた
ことでしょう。その反省と謝罪だけに専念するところから、出直すべきでしょう。
http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11066458357.html(被害事例)
http://www.soukihantai.jp/そして誤診へ/ (被害事例)
理由その3
診断は確かなのか?
一番大きな問題
上記のような精神科医療の実態にもかかわらず、この要綱案では、スクリーニングされた後の偽陽
性の問題(誤診の問題)についていっさい触れていません。しかし、これはもっとも大きな問題です。
病気ではない子どもを病気として治療する(当然薬物療法が主となります)ことの恐ろしさ。
子どもの脳は成長し続けています。脳に直接影響する精神科領域の薬はそのことを配慮していない
のです。妄想、幻聴があればそれだけで統合失調症とする安易な診断・処方(実際には、大半がトラ
ウマのフラッシュバックや解離や不器用なファンタジーを誤診)によって、多大な被害を受けている
事例はいまも後を絶ちません。この問題に目をつむったまま、「早期発見」「早期介入」を善とするこ
の法案が制定されれば、今後さらなる被害を生みだすことになるでしょう。
http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11136495664.html(その生徒、本当に精神疾患ですか?)
理由その4
精神疾患の予防・早期発見はまやかしである
基本理念2では「地域社会におけるサービス提供体制の整備(均てん化等)と予防・早期発見の重
要性」とあり、精神疾患の予防・早期発見を強調していますが、そもそもこの論理はすでに海外では
破綻しています。早期発見、早期介入によって精神疾患が予防できるという科学的証拠(エビデンス)
はないのです。
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にもかかわらず、予防のためと称して、重篤な副作用の可能性を孕む薬物を安易に投与する危険性。
しかも、思春期の子どもたちに対して、早期に精神疾患のレッテルを貼ることへの倫理的問題をこ
の法案ではまったく考慮していないのも、大きな問題です。
http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11057767643.html(海外の早期介入に対する危惧)
http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11045999083.html(三重県津市の例)
「統合失調症の予防的介入に関する倫理的問題――偽陽性問題と抗精神病薬使用の観点から」
大阪府立大学大学院 山崎真也氏の論文(ネットに公開されています)
理由その5
こころの健康相談・支援・啓発の拡大は、安易な受診促進・過剰医療(過誤)への窓
口を拡大してしまう
基本理念5で言われている「教育・啓発の重要性」ですが、現在すでにいくつもの啓発書が出てい
ます。しかし、その中に書かれている疾病説明はあまりに安易です。ほんのちょっとした症状をとら
えて「~という病気かもしれない」と誘導していますが、これは大きな問題であるばかりか、多分に
嘘を含んでいます(上記の妄想=統合失調症の図式そのものです)
。
また、このような啓発や、それに沿った相談・支援によって、精神疾患への差別偏見は果たしてな
くなるのでしょうか。それどころか、子どもや親、教師たちはこうした安易な知識・相談・支援によ
ってあおりたてられ、それは結局、周囲の人間を「監視役、安易・過剰な医療(過誤)への窓口役・
手配師役」にしてしまいかねません。そうした環境で学校生活を送る子どもたちははたして幸福と言
えるでしょうか。
http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11042078515.html(「こころの病気ハンドブック」に物申す)
http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11139966579.html(ゲートキーパー・教職員教育の実際)
http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11132949037.html(メンタルヘルス教育の例)
理由その6
精神科特例廃止、医療保護入院廃止はそれぞれの法を廃止すればよい
基本理念の1において「精神疾患を有する者の権利及びその人権の尊重・差別の禁止」を強調して
います――その象徴としての「精神科特例の廃止」
「医療保護入院の廃止」ですが、これはもちろん重
要な項目です。
しかし、これらの廃止については、わざわざこの基本法を制定するまでもなく、それぞれ医療法特
例や精神保健福祉法を廃止すれば達成できるものです。
そもそも『こころの健康政策構想会議』は問題のすり替えである
『こころ政策』の中には次のような記述があります。
「すべての問題の基礎には、こころの健康の問題
がある」。自殺や虐待、ひきこもり、DV、不登校、いじめ、職場のうつ、路上生活者、高齢者の孤立
……こうした問題はすべて「こころの問題」であるというのです。
たしかに、サポートを必要としている人はいます。しかし、そのサポートがなぜ、即精神科医療サ
ポートへと連動していくのでしょう。これらの多くは本来、医療の問題ではなく、格差拡大や雇用の
不安定な社会の問題、学校の問題、職場の問題、労働環境の問題等々であるはずです。
それをこの『こころ政策』では、すべて個人的な「こころの問題」へと矮小化して、問題の本質を
すり替えています。
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精神医療につなげる(個人病理化)よりも、子どもをめぐる環境や親の暮らし、教員のゆとり、マ
ンパワーを調整する方向でサポートしていくとか、学校なり職場なり、そこでの困難や矛盾・問題性・
制度を問い返しながら、その状況そのものへの支援に光を当てていく(状況支援)など、本来なら疾
患の1次予防とされるべき施策は、『こころ政策』ではなく、そうした状況支援でしょう。
これとは逆に、この『こころ政策』をもう一度読み直してみると、これが訴えていることは、職場
や国にとって、病気になりやすい個体の問題性をより早く見つけ、その個体の問題性にすぐに対処し
なければ、職場や国にとって多大な経済的損失をもたらす。発見と介入さえ早ければ、問題個体は改
善しやすく、社会的損失は軽くなるという主張です。つきつめれば、精神疾患は前駆状態からしてす
でに個体に帰属し、そのような個体にはより早く対策を講じ、人権に配慮した「治療」で撲滅してい
きましょう、ということになります。
精神疾患への差別偏見をなくそうといいながら、実はこの取り組みそのものが精神疾患者をさらに
追い詰めることとなるのです。それはまさに優生思想につながるものです。
さらに、すでに中高生や教員向けに、一部地域の教育委員会・学校で採用・使用されている「ここ
ろの病気を学ぶ授業」というプログラムは、アメリカグローバル製薬資本「イーライリリー社」の日
本支社によって開発、配給されており、昨年の3月、「メンタルヘルスと学校教育~中学校でのメン
タルヘルス教育実現のために」というセミナーを、『こころ政策』事務局長でもある西田淳志氏と同
社社員が二人三脚で行っています。同社は、向精神薬の販売マーケティング戦略を、世界ではじめて
直接消費者をターゲットに展開して、抗うつ薬「プロザック」の世界的大ブームを巻き起こした製薬
会社として知られています。学校を向精神薬販売戦略のターゲットにすることは許されません。
私たちは『こころ政策』そのものを、まずあってはならないものと受け止め、そこから導き出され
ている「こころの健康を守り推進する基本法」制定に大きな危機感を抱いています。
この法案が制定されることで、どのような社会・状況が作り出されてしまうのか……。
議員各位におかれましては、この点に重々留意して、制定へ向けての行動を慎重に再考していただ
くよう強く求めます。上記の如く根本を倒錯した『こころの健康政策構想会議』に沿った法案が拙速
に制定されることで、逆に国民のこころの健康が危機にさらされることがないよう切に望みます。
謹白
※https://www.lilly.co.jp/responsibility/kokoro/default.aspx(イーライリリー「心の病気を学
ぶ授業」)
(セミナーについては、コンボお知らせメール便の「こころの元気+セミナーのお知らせ」を参照し
てください)
精神科早期介入の問題を考える会
谷光妙子 嶋田和子 広瀬隆士 高橋陽子 中川貴之 山崎真也
笠陽一郎
他
三吉譲
呼びかけ人,賛同人 97名(4月3日現在)
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