足立区職員措置請求監査結果 (足立区戸籍・区民事務所窓口の業務等委託に関する件) 平 成 2 6 年 1 2 月 足 立 区 監 査 委 員 第1 請求の受付 1 請求人 区内在住者 2 請求書の提出 1,392名 平成26年11月7日 3 請求の要件審査 本請求については、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。) 第242条の所定の要件を具備しているものと認め、平成26年11月17日に 受理の決定を行った。 4 請求の内容 請求人が提出した「住民監査請求書(足立区職員措置請求書)」(別紙)による 請求の要旨及び措置請求は、次のとおりである。 (1)請求の要旨 近藤区長が足立区を代表して、平成25年3月25日に富士ゼロックスシステ ムサービス株式会社(以下「富士ゼロックス」という。)と締結した「足立区戸 籍・区民事務所窓口の業務等委託契約書」及び平成25年11月11日付「承諾 書」並びに平成26年4月1日付「承諾書」(以下「本件窓口業務等委託契約」 という。)及び本件窓口業務等委託契約に基づく公金の支出は、以下のとおり違 法・不当な行為である。 ア 個人のプライバシーを侵害。 イ 戸籍法に違反。 【東京法務局の戸籍事務現地調査結果(平成26年3月17日)】 ウ 労働者派遣法に違反。 【東京労働局の是正指導書(平成26年7月15日)】 エ 近藤区長が東京労働局の是正指導を受けて、平成26年8月18日付で示し た「是正報告書」の「違反事項の対応策」では違法状態は解消されない。 近藤区長が是正内容を明らかにしたことは、本件窓口業務等委託契約が違 法であること及び違法状態は平成27年3月までは継続されることを自認し たものと看做しうる。 オ コストの増加とサービス低下 近藤区長は本件窓口業務等委託契約で「サービス向上、コスト削減」を図る と説明した。しかし、待ち時間の増加によりサービスは低下し、コストが増 加し、本支出は行政上実質的に妥当性を欠く。近藤区長は、6月3日の記者 会見で「区民を混乱させたことはおわびしたい」と謝罪した。また、 「戸籍の 1 外部化を実施した平成26年度は、1,188万円も余分に支出が必要。」と してサービス低下とコストが増加することを明らかにした。 カ 富士ゼロックスの個人情報漏えい事件 近藤区長及び執行機関は、本件窓口業務等委託契約の業者選定について、次 のとおり致命的瑕疵(欠陥)があるので、本件窓口業務等委託契約を解消すべ きである。 (ア)近藤区長は、これまで戸籍情報漏えい事件について足立区民に説明を全 くしていない。 (イ)近藤区長と執行機関は、戸籍情報漏えい事件について足立区議会に報告 しておらず、区民の代表である区議会及び区議会議員、足立区民を軽視し ている。 (ウ)本件個人情報漏えい事件について、業者選定委員会及び情報公開・個人 情報保護審議会にも報告しておらず、議論されていない。事業者の起こ した過去の事件・事故、その改善策についての評価が盛り込まれていな い。 (2)措置請求 ア 当該行為の防止及び是正 近藤区長は、本件窓口業務等委託契約に関して、一切の公金の支出、新たな 契約の締結、又は債務その他の義務の負担をしてはならない。 イ 足立区のこうむった損害を補填するための措置 (ア)近藤区長は、近藤弥生個人に対して、本件窓口業務等委託契約に基づく 違法・不当な公金の支出についての損害賠償を請求すべきである。 (イ)近藤区長は、富士ゼロックスに対して、本件窓口業務等委託契約に基づ いて受領した契約金を、不当利得として返還の支払を請求すべきである。 第2 1 監査の実施 監査対象事項 請求の主旨から、足立区の財務会計上の行為として、「本件窓口業務等委託契 約及び本件窓口業務等委託契約に基づく公金の支出」を監査の対象とする。 2 監査対象部局 区民部戸籍住民課,政策経営部政策経営課、政策経営部経営戦略推進担当課を 監査対象とした。 3 請求人の証拠の提出及び陳述 法第242条第6項の規定に基づく陳述は、平成26年12月1日に実施した。 請求人からは、次の証拠の提出があり、本請求についての補足説明があった。 甲1 本件窓口業務等委託契約書 2 第3 甲2 東京法務局長からの戸籍事務現地調査の結果について(通知) 甲3 戸籍事務現地調査結果に伴う事務改善について(回答) 甲4 富士ゼロック業務マニュアル(一部) 甲5の1 足立区長定例記者会見(ホームページ)平成26年6月3日 甲5の2 足立区長定例記者会見 甲6 足立区長定例記者会見報告書 平成26年6月3日 甲7 区民委員会報告資料【追加】 平成26年6月17日 甲8 東京労働局長からの是正指導書 甲9 区民委員会報告資料【追加】 甲10 外部委託反対署名に寄せられた区民の声 甲11 区民委員会報告資料【追加】 甲12 足立区特定委託業務調査委員会答申書 甲13 協力会社社員逮捕について(富士ゼロックス株式会社ホームページ) 甲14の1 公開質問書 甲14の2 郵便物等配達証明書 甲15 書面(富士ゼロックス) 平成26年6月3日 平成26年7月15日 平成26年8月19日 平成26年11月6日 監査の結果 本件請求については、合議により次のように決定した。 本件請求には理由がないと認める。 以下、事実関係の確認、監査対象部局の説明及び判断理由について述べる。 1 事実関係の確認 (1)本件窓口業務等委託契約の締結及び契約変更 足立区は、平成25年3月25日、富士ゼロックスと本件窓口業務等委託契約 を締結し、戸籍窓口及び区民事務所窓口業務等の委託を開始した。契約変更の経 緯は次のとおりである。 ア 平成25年3月25日 本件窓口業務等委託契約締結 契約金額 402,150,000 円 イ 平成25年11月25日 本件窓口業務等委託契約の内容を変更し、仕様 書に「第5章休養室利用」を追加。 ウ 平成26年4月1日 本件窓口業務等委託契約に伴う消費税額を8%に 変更した。 エ 平成26年9月29日 変更後契約金額 411,600,000 円 本件窓口業務等委託契約の内容を変更。 「判断基準書」 「業務手順書」等で定められていない事項の疑義照会につい ては、本件窓口業務等委託契約の仕様書から削除した。また、受託事業者へ の委託範囲を一部除外し、足立区が受付することに変更した。 3 変更後契約金額 384,222,000 円 オ 平成26年10月28日 本件窓口業務等委託契約の内容を変更。 住民異動窓口の受付・入力業務と、証明発行窓口のうち委任状・第三者請 求等の受付を足立区が行う仕様内容に変更した。 変更後契約金額 359,125,500 円 (2)東京法務局及び東京労働局からの通知の受理及び回答 ア 平成26年2月25日に東京法務局による戸籍事務現地調査があり、平成 26年3月19日に、平成26年3月17日付、2戸2第5号により東京法 務局長から足立区長宛「戸籍事務現地調査の結果について(通知)」を受理。 イ 平成26年3月31日付、25足区戸発第3175号により足立区長から 東京法務局長宛「戸籍事務現地調査結果に伴う事務改善について(回答)」 を通知。 ウ 平成26年5月26日に、平成26年5月23日付、2戸2第7号により 東京法務局長から足立区長宛「戸籍事務現地調査の結果について(通知)」 を受理。 エ 平成26年7月15日に、平成26年7月15日付、東京労働局長から足 立区長宛「是正指導書」を受理。 オ 平成26年8月18日付、26足区戸発第1467号により足立区長から 東京労働局長宛「是正報告書(中間報告)」を通知。 カ 平成26年9月24日付、26足区戸発第1728号により足立区長から 東京労働局長宛「是正報告書(第二次中間報告)」を通知。 キ 平成26年10月17日付、26足区戸発第2056号により足立区長か ら東京労働局長宛「是正報告書(第三次中間報告)」を通知。 ク 平成26年11月17日付、26足区戸発第2394号により足立区長か ら東京労働局長宛「是正報告書(第四次中間報告)」を通知。 (3)足立区個人情報保護に関わる規定について 足立区においては、個人情報の適正な取扱いについて必要な事項を定めると ともに区の実施機関が保有する個人情報について、区民が、実施機関による管 理の状況について知り、その開示を求め、又はその適正な管理を要求する権利 を保障することにより、区民の権利利益の侵害の防止を図り、もって信頼され る区政の実現に資することを目的として、足立区個人情報保護条例(平成5年 足立区条例第57号)(以下「保護条例」という。)が制定され、平成26年7 月1日付で保護条例の一部改正が行われた。 保護条例の主な内容は次のとおりである。 ア 業務の委託(第16条) 実施機関は、個人情報を取り扱う業務(以下「個人情報取扱業務」という。) を委託(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関す る法律(昭和60年法律第88号)第26条第1項に規定する労働者派遣契約によ 4 るものを含む。以下同じ。)しようとするときは、あらかじめ委託の内容及 び条件について審議会の意見を聴くとともに、その委託契約において、個人 情報を保護するための必要な措置を講じなければならない。 2 省略 3 実施機関は、実施機関から個人情報取扱業務を受託(第1項の労働者派 遣契約によるものを含む。以下同じ。)したもの(以下「受託者」という。) 又は指定管理業務を行う指定管理者に対し、委託した個人情報取扱業務又 は指定管理業務の適正な遂行を確保するため必要があると認められるとき は、委託業務若しくは指定管理業務の実施状況の報告を求め、又は実施機 関の職員に受託者若しくは指定管理業務を行う指定管理者の事務所及び実 際に委託業務若しくは指定管理業務を遂行している場所に立ち入らせ、委 託業務若しくは指定管理業務の実施状況及び書類等の物件を検査させるこ とができる。 4 イ 省略 受託者等の責務(第17条) 受託者又は指定管理業務を行う指定管理者は、個人情報の漏えい、滅失及 びき損の防止その他の個人情報の適正な管理のために必要な措置を講じな ければならない。 2 実施機関が委託した個人情報取扱業務又は指定管理業務に従事してい る者又は従事していた者は、その業務に関して知り得た個人情報をみだり に他人に知らせ、又は不当な目的に使用してはならない。 ウ 罰則 第43条 実施機関の職員若しくは職員であった者、実施機関が委託した個人 情報取扱業務又は指定管理業務に従事している者又は従事していた者が、 正当な理由がないのに、保有個人情報(個人の秘密に属する事項を含むも のに限る。)を含む情報の集合物であって、一定の事務の目的を達成する ために特定の保有個人情報を電子計算機を用いて検索することができる ように体系的に構成したもの(その全部又は一部を複製し、又は加工した ものを含む。)を提供したときは、2年以下の懲役又は100万円以下の罰 金に処する。 第44条 前条に規定する者が、その業務に関して知り得た保有個人情報を自 己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 第44条の2 第43条に規定する者が、その業務に関して知り得た個人情報を みだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用したときは、1年以下の懲 役又は3万円以下の罰金に処する。 第46条 第16条第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、 又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、30万円 5 以下の罰金に処する。 第47条 個人情報取扱業務を受託した又は指定管理業務を行う指定管理者 として指定を受けた法人(法人でない団体で代表者の定めのあるものを含 む。以下この条において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、 使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第43条、第44 条又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は 人に対しても、各本条の罰金刑を科する。 2 監査対象部局の説明 (1)民間事業者である富士ゼロックスに戸籍業務を包括的に業務委託すること自 体がプライバシーの侵害であるとの主張については、次のとおり理由がない。 ア 本件窓口業務等委託契約においては、戸籍業務のうち、委託する業務の範 囲を明確に定めており、包括的に業務を委託するものではない。 イ 当区においては、平成20年1月17日に、内閣府公共サービス改革推進 室から出された「市町村の出張所・連絡所等における窓口業務に関する官民 競争入札又は民間事業者に委託することが可能な業務の範囲等について」及 び平成25年3月28日付法務省民事局民事第一課長の「戸籍事務を民間事 業者に委託することが可能な業務の範囲について(通知)」を踏まえ、民間事 業者に取り扱わせることが現行法上可能であると関係省庁が見解を示した範 囲において本件窓口業務等委託契約における委託業務の範囲等を定めている。 なお、本件窓口業務等委託業務を委託するに当たっては、次のような個人 情報の保護対策を行っている。具体的には、委託従事者の利用する端末の操 作履歴やパスワードを厳正に管理するとともに、保護条例の改正規定を平成 26年10月1日に施行し、当区が委託した個人情報取扱業務に従事してい る者又は従事していた者に対する罰則を強化した。さらに委託業務の適正化 を推進するために、平成26年4月1日、区長の附属機関として足立区特定 委託業務調査委員会(以下「調査委員会」という。)を設置し、調査委員会に よる調査等を行うことにより、個人情報保護の徹底に努めている。これまで、 調査委員会から利用履歴のチェックがなされていないとの指摘を受け、この 点については6月に改善し、それ以降は毎月抜き打ちで操作履歴をチェック している。平成26年11月18日の調査委員会の答申において、システム の利用履歴が残されていること、担当者のセキュリティー研修が行われてい ることが評価された。その他、答申の中で改善が必要と指摘されたことにつ いては、早急な改善に取り組み、改善策を講じた。 (2)戸籍法に違反しているとの主張について 請求人は、東京法務局から戸籍事務現地調査結果によって事務改善を求めら れた事項について、戸籍法に違反し無効であると主張しているが、次のとおり 理由がない。 6 ア 請求人は、当区が東京法務局から「区職員の審査前に民間事業者が受理決 定(処分決定)の入力行為を行うことになっている。」と指摘されたことを挙 げている。 しかし、これは、区職員の審査前に、富士ゼロックスにおいてシステム上 の入力行為を行い、その後、区職員が届書等で審査の上受理決定を行うこと としていた手順について、富士ゼロックスの仮入力後に、区職員が届書等で 審査とともにシステム上も受理決定入力を行うという業務手順に見直すよう 事務改善を求められたものであり、すでに改善している。 イ 請求人は、当区が東京法務局から「民間事業者が実質的な不受理決定を行 っているに等しい」との指摘を受けたことを挙げているが、この点について は、本件窓口業務等委託契約書にあるとおり、公権力の行使に当たる受理・ 不受理の決定を委託していない。しかしながら、実際の業務(運用)において は、民間事業者が実質的な不受理決定を行っているに等しいとの指摘を受け たものである。 そこで、そういった疑義を解消するために、東京法務局の指摘に従い、届 書に不備がある場合等には富士ゼロックス社員から職員に引き渡し、以後職 員が対応することとした。 そして、上記いずれの指摘についても、東京法務局長からの戸籍事務現地 調査の結果通知には戸籍法に違反しているとまでは明確に記載されていない。 この指摘については、事務改善を実施し東京法務局から問題は解消された旨 の確認を得ている。 (3)労働者派遣法に違反しているとの主張について 請求人は、当区が、東京労働局から、平成26年7月15日付是正指導書に おいて、是正指導を受けたことをもって、本件窓口業務等委託契約が労働者派 遣法に違反し無効であると主張しているが、次の理由により無効とはいえない。 ア 請求人は「足立区当局は戸籍法違反を解消しようとすると労働者派遣法に 違反するという二律背反の事態に陥った。」と主張しているが、戸籍法に関す る問題と労働者派遣法に関する問題はそれぞれ独立した個別の問題であり、 上記(2)で述べた戸籍法に関する問題について事務改善を行ったことによ り労働者派遣法に関する問題が生じたという関係にはない。 イ 請求人は、労働者派遣法に関する問題について、監査請求書において、 「疑 義が生じた場合には職員にエスカレーションします。」とマニュアルが変更さ れたと主張しているが、正しくは、富士ゼロックスの委託業務に関するマニ ュアルにおいて「受付できない届出について、職員様へエスカレーションし お客様対応を依頼します。」と記載されており、この意味は富士ゼロックスが 委託業務でないものは職員へ引き渡すことを明確にする趣旨である。 ウ 東京労働局からの指摘事項については、足立区長の平成26年8月18日 付是正報告書のとおり、是正措置が採られている。具体的には、平成26年 7 10月1日付にて本件窓口業務等委託契約を変更し、仕様書から疑義照会を 前提とした規定を削除し、富士ゼロックスに対しても疑義照会を行わないよ う徹底した。加えて、委託範囲から疑義が生じ得る業務を除くことで、富士 ゼロックス社員からの日常的な疑義照会が生じない体制を整えた。ただし、 この点については、受託労働者の雇用に配慮して是正すべきとの東京労働局 からの指摘に従い、段階的に実施しており、平成27年4月1日までに完了 する予定となっている。以上の是正措置により、富士ゼロックスからの疑義 照会は行われなくなる。 (4)8月18日付「違反事項の対応策」では違法状態は解消されないとの点につ いて 請求人は、8月18日付「違反事項の対応策」によっても違法状態は解消さ れないとしているが、次のとおり違法状態は解消される。 ア 「請負契約とはいえず、労働者派遣法に違反する」との点について、請求 人は本件窓口業務等委託契約が民法上の「請負契約」に該当しないとして「異 様な契約」であると主張している。しかし、本件窓口業務等委託契約は、そ もそも請求人が述べる「請負契約」の形をとるものではなく、いわゆる「業 務委託契約」に当たる。業務委託契約は広く一般的に行われている契約形態 であって、それ自体が労働者派遣法に違反するものではない。したがって、 請求人は本件窓口業務等委託契約が請負契約とはいえず労働者派遣法に違 反すると主張しているが、違反事項の対応策により違法状態は解消されるの で、理由がない。 イ 「公権力行使を民間業者に委ね、戸籍法に違反する。」との点について、 請求人は、是正後も公権力の行使を民間事業者に委ねており戸籍法に違反す ると主張しているが、当区は本件窓口業務等委託契約書にあるとおり、公権 力の行使を富士ゼロックスに委託していない。実際の業務(運用)においても、 東京法務局からの労働法令以外の指摘については、事務改善を実施し、適切 な対策を講じている。 (ア)「戸籍法第10条の4による必要な説明を求めることは交付不交付に直 結している」との点については、本件窓口業務等委託契約において委託し ている業務は、交付のうち引渡し業務だけであり、公権力の行使となる交 付不交付の決定は職員が行っている。 (イ)フロアマネージャーが受付前に職員が行う事例かどうかを判断する点に ついても、単に届出を受け付ける窓口を案内するだけであり、公権力の行 使を行うものではない。 (ウ)「身分事項移記等の二次入力は戸籍業務の移記が高度で専門性を有し、 公権力の行使に当たる」としているが、今のところは国から通知もなく、 実際、東京法務局からも何ら指摘されていない。 (5)結論 8 以上のとおり、戸籍法違反については違反があると明確に指摘されたわけで はなく、また、労働者派遣法違反については違反事項の対応策により違法状態 は段階的に解消される。請求人の主張する平成26年8月18日以降の各「是 正報告書」によっても労働者派遣法違反、戸籍法違反であることは変わらない との主張に理由はない。 (6)本件窓口業務等委託契約が不当であるとの主張について 請求人は、不当である理由として、コストの増加とサービス低下を挙げてい る。 待ち時間の増加を理由にサービスが低下したということであるが、窓口業務 の委託を始めた時点では、受託事業者にも混乱があり待ち時間が増加したが、 今は改善している。また、本件窓口業務等委託契約により生み出した人員は区 政の喫緊の課題を所管する組織に投入している。一方、本件窓口業務等委託契 約は平成23年6月に区が策定した外部化ガイドラインに基づき、事業スキー ムを検討した。その際、コスト面よりも当時の課題であった「客溜りの拡張」、 「各種窓口数の増加」、「フロアマネージャーの設置」、「待ち時間の短縮」など の区民サービスの向上に重点を置いて検討を進めたものである。 初めての専門定型業務の外部化であったため、委託内容の見直しも想定され たことや、窓口業務の閑散期にサービスインすることなどにより、契約期間は 1年9か月とした。そのため、大幅なコスト削減は見込めず、次期委託契約の スキーム検討の中でその実現を目指したものである。 (7)足立区の損害について ア 本件窓口業務等委託契約は、戸籍法及び労働者派遣法に違反して無効であ るとしているが、次のとおり理由がない。 (ア)「戸籍法に違反して無効」との点について、請求人は戸籍法に関する事 務は法第2条第9項第1号に当たる第1号法定受託事務であること、戸籍 事務は国家的利害に大きくかかわるものであることなどから、そもそも業 務委託はできないと主張している。しかし、戸籍窓口業務は、平成20年 1月17日内閣府公共サービス改革推進室が出した「市町村の出張所・連 絡所等における窓口業務に関する官民競争入札又は民間競争入札等により 民間事業者に委託することが可能な業務の範囲等について」や、平成25 年3月28日法務省民事局民事第一課長が出した「法務省民一第317 号・戸籍事務を民間事業者に委託することが可能な業務の範囲について(通 知)」において外部委託化が可能とされているものであり、また、東京法務 局の事務改善の要望も本件窓口業務等委託契約を止めることまで求めるも のではない。 (イ)「労働者派遣法に違反して無効」との点について、上記2(3)ウで述 べたとおり、本件窓口業務等委託契約に基づく委託業務は東京労働局から の是正指導を踏まえて段階的に改善している。 9 また、当区は富士ゼロックスから本件窓口業務等委託契約に基づく債務 の履行を受けているので、契約が違法・無効と判断されたとしても、それ により直ちに当区に本件窓口業務等委託契約に基づく支出に相当する損害 が生じるものではない。 イ 以上のとおり本件窓口業務等委託契約は、民法第90条に反する等により 無効となるものではない。また、本件窓口業務等委託契約は足立区長の合理 的な裁量のもとに締結されたものであり、不当ではない。したがって、本件 窓口業務等委託契約の締結・履行及び公金の支出は、足立区に損害を生じさ せるものではないことから、これらの行為を止める等の理由がない。 3 判断理由 請求人の主張は、「第1請求の受付」の「4請求の内容」のとおりであり、本 件窓口業務等委託契約の締結及びこれに基づく公金の支出は、違法・不当な行為 であるとして、次のことを求めている。 ・本件窓口業務等委託契約に基づく一切の公金の支出をしないこと。 ・新たに契約を締結し、又は債務その他の義務の負担をしないこと。 ・近藤区長は、近藤弥生個人に対して、本件窓口業務等委託契約に基づく違法・ 不当な支出について損害賠償を請求すること。 ・近藤区長は、富士ゼロックスに対して、本件窓口業務等委託契約に基づき受 領した契約金について、不当利得として返還の支払を請求すること。 以下このことについて判断する。 (1)違法主張についての判断 ア 民間事業者である富士ゼロックスに戸籍業務を包括的に業務委託すること 自体がプライバシーの侵害であるかについて判断する。 〔判断〕 平成20年1月17日付、内閣府公共サービス改革推進室から出された「市 町村の出張所・連絡所等における窓口業務に関する官民競争入札又は民間競 争入札等により民間事業者に委託することが可能な業務の範囲等について」 (以下「内閣府通知」という。)によると、民間事業者に取り扱わせることが できる窓口業務の範囲が別紙に記載されており、その中に戸籍業務が入って いる。合わせて、当該窓口業務を民間事業者に取り扱わせる際の留意事項に ついても明記されており、 「民間事業者に業務を取り扱わせる際には、市町村 の適切な管理の確保に留意してください。具体的には、民間事業者が業務を 実施する官署内に市町村職員が常駐し、不測の事態等に際しては当該職員自 らが臨機適切な対応を行うことができる体制とすること等が考えられます。」 と記されている。 さらに、平成25年3月28日付、法務省民一第317号により法務省民事 10 局民事第一課長名で法務局民事行政部長及び地方法務局長あて通知された文 書(以下「法務省通知」という。)において、先の内閣府通知の考え方が整理 されており、 「内閣府通知別紙に掲げられている事実行為又は補助行為は裁量 の余地がないものであり、市区町村長が契約時に包括的に業務内容を示した 上で業務を委託し、その実施に当たっては、内閣府通知で求められているよ うに、市区町村職員が業務実施官署内に常駐し、不測の事態等に際しては当 該職員自らが臨機適切な対応を行うことができる体制が確保されていれば、 市区町村長が当該事務を管掌しているものと評価することができることから、 このような形で業務請負契約を締結しても、戸籍法上問題は生じないものと 考える。」と記されている。 本件窓口業務等委託契約は、その履行場所を足立区役所本庁舎南館1階の区 民部戸籍住民課及び地域のちから推進部地域調整課中央本町区民事務所とし ており、受託者は、委託者である区の職員が常駐する事務室と隣接する執務 場所で業務を行っている。このことは、前述の内閣府通知及び法務省通知で 求められている「市区町村職員が業務実施官署内に常駐し、不測の事態等に 際しては当該職員自らが臨機適切な対応を行うことができる体制の確保」が なされていると判断できる。 また、内閣府通知には、個人情報の保護についても謳われており、業務を受 託した民間事業者及びその従業員に対しても罰則規定の対象とするなどの整 備を行う必要性について述べているが、足立区においては、保護条例の第1 1章に罰則規定を設け、実施機関が委託した個人情報取扱業務に従事してい る者又は従事していた者も処罰の対象としている。 よって、戸籍業務等の窓口業務を委託したとしても、それ自体がプライバシ ーの侵害であるとは認められない。 イ 戸籍法に違反して無効であるかについて判断する。 請求人は、以下のとおり主張している。 平成26年3月17日付、東京法務局長からの通知「戸籍事務現地調査の 結果について(通知)」(以下「調査結果」という。)を根拠に、「本件窓口業 務等委託契約が戸籍法に違反する。戸籍事務は、本来的法定受託事務であり、 戸籍事務に足立区長の「合理的な裁量」を観念する余地はない。」とし、本件 窓口業務等委託契約が無効である。 調査結果の具体的内容は次のとおりである。 (ア)受理決定等の処分決定について 戸籍法上の受理の決定は、市区町村長が、届け出られた届出等が民法及び 戸籍法所定の要件を具備していることを審査した上でなされなければなら ない。戸籍情報システムにより戸籍事務を処理する場合でも当然同様であり、 戸籍情報システム標準仕様書上も、審査をした上で受理決定をすることが予 定されている。しかしながら足立区の業務手順では、区職員の審査前に民間 11 事業者が受理決定(処分決定)の入力行為を行うことになっている。 (イ)窓口対応について 戸籍事務を民間事業者に委託することが可能な業務として、届書の受領及 び本人確認があるが、民間事業者が、窓口において書類の不備等を理由とし て届書を受領しない行為(届出人を帰してしまうなど)をすることは、民間 事業者が実質的な不受理決定を行っているに等しいので、民間事業者への委 託の範囲を超えているものと考えられる。 〔判断〕 足立区長は、調査結果を受理した後、平成26年3月31日付、東京法務 局長あて、「戸籍事務現地調査結果に伴う事務改善について」回答し、調査 結果において指摘された事項についての改善報告を行った。同年5月26日 に再度、東京法務局長名の「戸籍事務現地調査の結果について(通知)」を 受理しており、当該通知には、上記(ア)、(イ)に記載の事項に関しては、 「取扱いが見直されたことを確認し、指摘事項に係る問題は解消されたもの と認めます。」と記載されている。 また、本件窓口業務等委託契約が「本来的法定受託事務」であり、戸籍 法に違反して無効であるかについては、上記アで述べたように、内閣府通知 及び法務省通知により、戸籍事務を民間委託することは可能であるとされて いることを考慮すれば、本件窓口業務等委託契約が戸籍法に違反して無効で あると判断することはできない。 足立区長の裁量権については、前述の法務省通知において戸籍事務の民 間委託が可能であるとすることから、本件窓口業務等委託契約が、地方公共 団体の長の裁量権の範囲外にあるとはいえない。また、法第2条第14項及 び第15項に「その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努め るとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」 また、「その組織及び運営の合理化に努める」と規定されているが、本件窓 口業務等委託契約を締結した長の判断が社会通念に照らして著しく合理性 に欠き、長に与えられた裁量権を逸脱又は濫用しているとは認められないた め、当該規定に違反するとはいえない。 よって、請求人の「本来的法定受託事務であり、戸籍事務に足立区長の 合理的な裁量を観念する余地はない。」との主張に理由はない。 ウ 労働者派遣法に違反して無効であるかについて判断する。 (ア)請求人は、 「足立区長は、平成26年7月15日付、東京労働局長名で通 知された是正指導書により労働者派遣法第24条の2に違反するとして是 正指導を受けた。是正指導の具体的内容は次のa、b、cのとおりであり、 労働者派遣法に違反している。また、同法に違反することで、本件窓口業 務等委託契約が無効である。」と主張している。 a 受託者である富士ゼロックスが、受託した業務の完了までの間に、あら 12 かじめ「判断基準書」 「業務手順書」等で定められていない事項について は、発注者である足立区に対してエスカレーションと称した行為により 疑義照会することが定められており、足立区が富士ゼロックスの業務に 関与することがあらかじめ想定された内容となっていること。 b 足立区と富士ゼロックスの間で行うエスカレーションについて、責任者 間で行う調整行為と評価することはできず、事実上の指揮命令となって いること。 c これらのことから、本件窓口業務等委託契約は、労働者派遣事業に該当 する。このため、足立区は、厚生労働大臣の許可を受けずに労働者派遣 事業を行っている事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けているこ とから、労働者派遣法第24条の2に違反する。 〔判断〕 足立区長は、本是正指導を受け、前記「1事実関係の確認」「(2)東京 法務局及び東京労働局からの通知の受理及び回答」のオ、カ、キ、クによ り、東京労働局長あて中間報告を行った。その内容は、疑義照会が発生し ないよう仕様書を変更するとともに、受託事業者への委託範囲を一部除外 して、足立区が受付することとし、平成27年4月までに足立区の職員を 戸籍住民課に随時配置していくなどである。 監査対象部局は、足立区長の平成26年8月18日付是正報告書のとお り、 「委託範囲から疑義が生じ得る業務を除くことで、富士ゼロックス社員 からの日常的な疑義照会が生じない体制を整えた。ただし、この点につい ては、受託労働者の雇用に配慮して是正すべきとの東京労働局からの指摘 に従い、段階的に実施しており、平成27年4月1日までに完了する予定 となっている。以上の是正措置により、富士ゼロックスからの疑義照会は 行われなくなる。」と主張している。これらのことを踏まえると、労働者派 遣法違反はあったものの、幾度かにわたる是正を通して、平成27年4月 までに労働者派遣法違反の状態は解消できるものと判断できる。違法状態 は今後も存続するものの、東京労働局からの意に沿った対応であることを 踏まえると、本件窓口業務等委託契約には、これを無効と判断すべき程の 違法性はない。 (イ)請求人は、 「本件窓口業務等委託は戸籍法及び労働者派遣法に違反をして おり、民法第90条の「公の秩序及び善良な風俗に反する事項」に当たり、 民法第91条の「法令上の公の秩序に関する規定」に違反して無効である。」 と主張している。 〔判断〕 判例では、労働者派遣法の違反のみでは、契約を無効としてはおらず、 公序良俗に反する程度に至った場合のみを無効としている。 「労働者派遣法 は行政取締法規であり、同法違反の行為には、厚生労働大臣による勧告や 13 公表の行政措置が講じられるにとどまるのであり(同法第49条の2)、ま た、派遣労働者保護の必要の観点からすれば、そのことによって直ちに、 本件請負契約や上記労働者派遣契約が労働者派遣法違反により公序良俗に 違反して無効であるということはできない。」(平成25年1月25日名古 屋高等裁判所判決)としている。 よって、本件窓口業務等委託契約は、行政取締法規違反があったとはい え、無効とまではいえない。 エ 8月18日付「違反事項の対応策」で違法状態は解消されないことについ て判断する。 (ア)請求人は、「本件窓口業務等委託契約は、請負契約とはいえず、労働者 派遣法に違反する。請負契約は「当事者の一方がある仕事を完成するこ とを約す」(民法第632条)ものであり、「区に引き継ぐ」などあらか じめ「仕事の完成」をしないことを規定する異様な契約形態である。本 件窓口業務等委託契約は、 「請負契約」の形をとった偽装請負契約である ことには変わらない。」と主張している。 〔判断〕 本件窓口業務等委託は、業務の性質上、民法第632条に規定する「請負」 の要素があることは否定できないが、民法第643条及び第656条に規定 する「委任」ないし「準委任」契約の要素が強く、混合的な契約形態である と判断できる。契約自由の原則により発注者側と受託者側で双方合意のうえ、 業務の完成を職員に引き渡すまでと定めた契約であり、典型的な請負契約以 外の形式をとったからといって、偽装請負になるというものではなく、東京 労働局からもこの点に関する指摘はない。 (イ)請求人は、次のa、b、cのとおり「公権力行使を民間事業者に委ね、 戸籍法に違反する。」と主張している。 a 戸籍法第10条の4による必要な説明を求めることは、証明書の交付 不交付の判断と直結しており、民間事業者が説明要求をすることは、公 権力の行使を民間事業者が行うことになり違法である。 b「フロアマネージャー」が戸籍法により公務員が扱う事例であるかどう か判断し、棲み分けをしている。この「事例の判断」を民間事業者が 行うことは違法である。 c 身分事項移記の二次入力は、高度で専門性を有する業務であり、民間 事業者が行う事項ではない。 〔判断〕 本件窓口業務等委託契約は、その仕様書の「第4章窓口業務内容」 「2業 務内容」において、 「審査・決定などの法令上職員が自ら責任を持って行う べき業務(公権力の行使に当たるもの)を除く」とし、契約締結時当初か ら、公権力行使については、業務委託の範囲外としている。契約変更後に 14 おいても、公権力行使に当たるものは委託していない。平成26年3月1 7日付、調査結果で指摘された内容について、平成26年5月23日付の 東京法務局長名の「戸籍事務現地調査の結果について(通知)」には、「取 扱いが見直されたことを確認し、指摘事項に係る問題は解消されたものと 認めます。」と記載されている。契約変更後は、公権力の行使となる交付不 交付の決定は区の職員が行っている。 フロアマネージャーの業務内容は、本件窓口業務等委託契約の仕様書「第 4章窓口業務内容」 「2業務内容」において、公権力の行使に当たるものを 除く「窓口案内業務」と記載されており、あくまで案内に留まるものと理 解できる。 身分事項移記等の二次入力が公権力の行使に当たるかどうかについては、 平成26年3月17日付、2戸2第5号による東京法務局長からの「戸籍 事務現地調査の結果について(通知)」に記載がなく、その他国等の関係機 関からの通知も存在しない。また、内閣府通知及び法務省通知には、民間 業務委託が可能な業務が記載されており、その中に「戸籍の届出」に関す る業務がある。当該業務のうち、公権力の行使にあたる戸籍記載後の決裁 処理等は、区の職員が行っている。 よって、本件窓口業務等委託契約において、公権力行使を民間事業者に 委ねてはおらず、戸籍法に違反するとはいえない。 (2)不当主張についての判断 本件窓口業務等委託契約が不当であるかについて判断する。 請求人は、 「本件窓口業務等委託契約によりコストが増加し、サービスが低下 していることを理由に不当である。」と主張している。 〔判断〕 「サービス向上、コスト削減」を掲げた本件窓口業務等委託契約は、足立区 にとって初めての専門定型業務の外部委託ということでスタートした。委託初 期の段階においては、サービスを受けるまでの待ち時間が増加したことは事実 であるが、その後、契約期間が経過していく中で足立区は改善に努めており、 サービスの質の向上とともに待ち時間の短縮も実現している。また、コストの 増加については、今後の委託契約のスキーム検討の中でその実現を目指すとい った執行機関の意見陳述から判断すると、本件窓口業務等委託契約は、足立区 長の合理的な裁量のもとに締結されたものであり、不当とまではいえない。 (3)業者選定時の致命的瑕疵(欠陥)の有無についての判断 請求人は、先述した「第1請求の受付」の「4請求の内容」の「(1)請求の 趣旨」のカのとおり、「近藤区長及び執行機関は、本件窓口業務等委託契約の業 者選定に致命的な瑕疵(欠陥)がある。」と主張している。 15 〔判断〕 請求人の主張するとおり、本件窓口業務等委託契約の業者選定等においては、 戸籍情報漏えい事件を取り上げておらず、このことに対する評価はなされてい ない。執行機関から事情を聴取したところ、その理由は次のとおりである。 ア 調査委員会の答申が出されるまでは、現在の個人情報保護対策に重点を置 いて審査していた。そのため過去の情報漏えいについては、選定における評 価基準に入っていなかった。また、応募事業者に申告義務もなかった。 イ 業者選定委員会では、応募事業者から提供された情報のみから審査されて おり、評価基準にもなかったことから、議論されていない。 以上のとおり業者選定の過程においては、本漏えい事件の報告、審議が行わ れていない。しかしながら一方では、富士ゼロックスからは、事件当時の平成 18年9月に「弊社協力会社社員逮捕に関するお詫びとご説明」の文書によっ て、協力会社社員の脅迫事件について足立区に報告されるとともに、 「戸籍シス テムのセキュリティ強化策について」 「戸籍システムのデータ流出防止対策(第 2次対策)の実施について」などの文書が通知され、個人情報の保護対策が強 化されている。 当時、評価基準になかった等の理由により、業者選定委員会等において、過 去の情報漏えい事件の報告、審議が行われていなかったことは適切さを欠いて いたものと認めざるをえないが、このことをもって、当該業者選定に致命的な 瑕疵(欠陥)があるとまではいえない。 以上、「3 判断理由(1)、(2)、(3)」から、本件窓口業務等委託契約には 無効とすべき理由はなく、当該契約に基づく公金の支出は、違法・不当ではない。 請求人の主張にいずれも理由がなく、措置の必要を認めない。 しかしながら、次のとおり意見を付す。 ① 平成26年11月18日付の調査委員会の答申書では、評価できる点はあ るものの、個人情報保護対策は決して十分ではないとされている。特に調査 委員会の委員の意見として、重点指摘を初めとして、複数にわたる個別指摘 がなされたことは、重く受け止めるべきである。先般策定された調査委員会 答申に対する改善策の確実な実行を図られたい。 ② 本件窓口業務等委託契約において、東京法務局や東京労働局からの指摘に みられるように準備不足が露呈し、区民に不信や不安を与えたことも事実で ある。今後、新たな専門定型業務の外部化を推進するに当たっては、細心の 注意をもって万端の準備を行い、区民の信頼を失うことのないよう十分に留 意すべきである。 16 資料(足立区職員措置請求書) 住民監査請求書(足立区職員措置請求書) 平成26年11月7日 (提出先) 足立区監査委員 殿 〔請求者の連絡先〕 〒120−0034 東京都足立区千住1丁目24番4号 広瀬ビル2階 北千住法律事務所 電話 03−3870−0171 FAX 03−3881−7471 請求者兼請求者ら代理人 弁護士 黒岩哲彦 (請求者は,後記の1,392人) 目次 はじめに 2頁 【陳述の要求】 2頁 【事実証明書】 2頁 【東京都足立区長に関する措置請求の要旨】 3頁 【1】 請求の要旨 3頁 1 請求の対象となる職員 3頁 2 対象となる財務会計上の行為 3頁 3 上記行為が違法である理由 5頁 4 上記行為が不当である理由 10頁 5 どのような損害が足立区に生じているか 11頁 6 求める措置の内容 13頁 【2】請求者 14頁 17 はじめに 足立区民1,392名は地方自治法第242条第1項の規定により,足立区長近藤 弥生が足立区を代表して富士ゼロックスシステムサービス株式会社に足立区戸籍・区 民事務所窓口の業務等委託をしたことについて,別紙事実証明書を添え必要な措置を 請求する。 近藤区長は法的検討も政策的検討も不十分なまま戸籍業務の外部委託を強行し,東 京法務局及び東京労働局から違法であると断定され,区民にはサービスの低下とコス ト増をもたらして,足立区民と足立区政に大きな混乱と被害を与え,足立区行政の信 頼を失墜させた。近藤区長の責任は重大である。 足立区監査委員が区民の意見をよく聞いて,日本国憲法・地方自治法・戸籍法・労 働者派遣法等の法と道理及び証拠に基づいて適切に判断をされることを期待するも のである。 【陳述の要求】 地方自治法第242条6項の陳述の機会を与えられたい。なお,請求者らは同項の 「証拠の提出」をする予定である。 【事実証明書】 「委託契約書」(件名「足立区戸籍・区民事務所窓口の業務等委託」及び平成25年 11月11日付「承諾書」並びに平成26年4月1日付「承諾書」「委託契約書」) 18 【東京都足立区長に関する措置請求の要旨】 【1】請求の要旨 1 請求の対象となる職員 足立区長近藤弥生(以下,「近藤区長」という) 2 対象となる財務会計上の行為 (1) 近藤区長が足立区を代表して,平成25年3月25日に富士ゼロックスシ ステムサービス株式会社と締結した「委託契約書」(件名「足立区戸籍・区 民事務所窓口の業務等委託」)及び平成25年11月11日付「承諾書」並 びに平成26年4月1日付「承諾書」に基づく公金の支出。 (2) 本件公金支出の内訳は,下記の平成25年11月11日付「承諾書」の「内 訳書」に記載の通りである。 【内訳書】 年度月 平成25年度4月 平成25年度5月 平成25年度6月 平成25年度7月 平成25年度8月 平成25年度9月 平成25年度10月 平成25年度11月 平成25年度12月 平成25年度1月 平成25年度2月 平成25年度3月 平成26年度4月 平成26年度5月 平成26年度6月 平成26年度7月 平成26年度8月 平成26年度9月 平成26年度10月 平成26年度11月 平成26年度12月 平成26年度1月 平成26年度2月 平成26年度3月 平成27年度4月 平成27年度5月 平成27年度6月 平成27年度7月 平成27年度8月 平成27年度9月 合計 月額 消費税 8,500,000 計 7,000,000 425,000 0 0 0 350,000 7,350,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 17,500,000 383,000,000 875,000 875,000 875,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 1,400,000 28,600,000 18,375,000 18,375,000 18,375,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 18,900,000 411,600,000 19 8,925,000 3 上記行為が違法である理由 (1)戸籍とプライバシー ア 戸籍からは,戸籍に記載された個人の年齢,氏名,出生・死亡年月日,そ の場所,身分行為(婚姻,離婚,死亡による婚姻解消,姻族関係の終了,養 子縁組,離縁,婚姻・離婚などの取消と無効,認知),未成年者の親権者・ 後見人,親権の喪失,推定相続人の廃除などがわかる。いわば個人の出生か ら死亡に至るまでの身分関係の変動が逐一,系譜的に記録されているため, 戸籍の記載内容が漏洩すると,本人のみならず,家族のプライバシーまでわ かることになる。戸籍抄本からは,当該の者1人だけの各事項がわかり,戸 籍謄本からは,戸籍に記載された家族全員の各事項がわかる。戸籍は個人情 報の固まりである。 イ 最高裁判所第1小法廷平成20年3月6日判決は「憲法13条は,国民の 私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定して いるものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関す る情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解さ れる」として,プラシバシーの権利が国民の基本的人権であることを認めた。 ウ 足立区当局は個人情報保護対策について「改正された足立区個人情報保護 条例において,罰則適用を厳罰化」「特定委託事務調査委員会を設置し,外 部有識者によるチェック機能の充実を図る」など「個人情報保護対策に万全 を期す」(平成26年9月,第3回定例会答弁)などと述べている。 しかし,これにより過去に行った情報漏洩のようなケースを防げないこと は足立区当局が認めている通りである。 戸籍事務の外部委託に従事した労働者の構成は,134名中,正社員が6 名,契約社員が56名,パートが33名であり,残りは退職者などであり(9 月現在,9月区民委員会),多くの短期雇用者が重大な個人情報に関わるこ とになり,民間に委ねることによりリスクが高まることは明らかである。 エ 民間業者である富士ゼロックスシステムサービス株式会社に戸籍業務を 包括的に業務委託すること自体がプライバシーの侵害である。 (2)戸籍法に違反【東京法務局の戸籍事務現地調査結果(平成26年3月17 日)】 東京法務局は,民間事業者が届出の受理決定をしているとして見直しを指 示した。具体的内容は次の通りである。 ア 受理決定等の処分決定について 戸籍法上の受理決定は,戸籍事務管掌者である市区町村が,提出された届書 等の書類を適法なものとして判断してこれを受領することを認容する行政処 分である。受理の決定は,市区町村長が,届け出られた届出等が民法及び戸籍 法上所定の要件を具備していることを審査した上でなされなければならない。 しかし,足立区の業務手順では,区職員の審査前に民間事業者が受理決定(処 20 分決定)の入力行為を行うことになっている。 イ 窓口対応について 民間事業者が,窓口において書類の不備等を理由として届書を受領しない行 為(届出人を帰してしまうなど)をすることは,民間事業者が実質的な不受理 決定を行っているに等しい。 (3)労働者派遣法に違反【東京労働局は是正指導書(平成26年7月15日)】 富士ゼロックスシステムサービス株式会社は,東京法務局の戸籍法違反との 指摘を受けて,マニュアルを平成26年4月14日に改め,「疑義が生じた場 合には職員様にエスカレーションします」とした。 ところが,この「エスカレーション」について,東京労働局は,業務委託を 装いながら実態は足立区が民間業者を指示する派遣労働だとして偽装請負で 是正指導をした。足立区当局は戸籍法違反を解消しようとすると労働者派遣法 に違反するという二律背反の事態に陥った。 是正指導の具体的内容は次の通りである。 ア 受託者である富士ゼロックスシステムサービス株式会社が,受託した業務の 完了までの間にあらかじめ「判断基準書」「業務手順書」等で定められていな い事項については,発注者である足立区に対してエスカレーションと称した行 為により疑義照会することが定められており,足立区が富士ゼロックスシステ ムサービス株式会社の業務に関与することがあらかじめ想定された内容とな っている。 イ 足立区と富士ゼロックスシステムサービス株式会社の間で行うエスカレー ションについて,責任者間で行う調整行為と評価することはできず,事実上の 指揮命令となっている。 ウ 従って,労働者派遣事業に該当し,足立区は,厚生労働大臣の許可を受けず 労働者派遣事業を行っている事業主から,労働者派遣の役務の提供を受けてい ることから,「労働者派遣の役務の提供を受ける者は,派遣元事業主以外の労 働者派遣事業を行う事業主から,労働者派遣の役務の提供を受けてはならな い」と定めている労働者派遣法第24条の2に違反している。 (4)近藤区長の平成26年8月18日付「是正報告書」の「違反事項の対応策」 ア 近藤区長は東京労働局の是正指導を受けて,近藤区長は8月18日付「是正 報告書」で「違反事項の対応策」を示した。 ① 「判断事項」「業務手順書」等で定められていない事項の疑義照会につい ては契約書(仕様書)の業務内容から削除する。 ② 受託事業者の委託範囲を一部除外し区が受付することで,疑義照会が発生 しない委託内容に変更する。 ③ 是正時期については本年10月に着手し,平成27年4月までに段階的に 解消する。 イ 「違反事項の対応策」は,外部委託から足立区の直営に戻す業務は次の通り 21 であるとしている。 ① 窓口証明(住民票写し,戸籍等抄本,受理証明書等)の委任状・第三者請 求等の交付。 ② 住民異動窓口(転入,転居,転出等)の受付,入力。 ③ 戸籍届出窓口(婚姻・出生・死亡等)の受付,疑義の発生する届出(外国 人関係等の届出)の一次入力,受理案内,証明書出力,審査終了後修正した ものの処理業務。 ウ 「違反事項の対応策」は,外部委託を続ける業務は次の通りであるとしてい る。 ① 証明窓口の受付,入力・証明書出力,照合,交付(引渡し)。 ② 住民異動窓口の国保・就学等の処理,交付(引渡し)。 ③ 戸籍届出窓口の「疑義の発生しない」届出の入力,身分事項移記等の二次 入力,付帯業務(通知作成・送付・人口動態等)。 (5)8月18日付「違反事項の対応策」で違法状態は解消されない。 ア 請負契約とはいえず,労働者派遣法に違反する 近藤区長の平成26年10月17日付「是正報告書」の「仕様書」によると, 「届出入力納品後,修正等が発生した場合には,区に引き継ぐこと。」 「住民異 動届等の受付業務において,論理的な矛盾及び疑義が発生した場合に区に引き 継ぐこと。」等としている。 請負契約は「当事者の一方がある仕事を完成することを約す」(民法第63 2条)ものであるところ,この「仕様書」は「区に引き継」いで,あらかじめ 「仕事の完成」をしないことを想定している異様な契約形態である。 本件外部委託契約は「請負契約」の形をとった偽装請負契約であることには 変わらない。 イ 公権力行使を民間業者に委ね,戸籍法に違反する ① 「違反事項の対応策」は「証明窓口の受付,入力・証明書出力,照合, 交付(引渡し)」は外部委託を続けるとしている。戸籍法第10条の4は「市 町村長は,第十条の二第一項から第五項までの請求がされた場合において, これらの規定により請求者が明らかにしなければならない事項が明らかに されていないと認めるときは,当該請求者に対し,必要な説明を求めるこ とができる。」としている。同条の「必要な説明を求める」ことは証明書の 交付不交付の判断と直結をしている。従って民間業者が説明要求をするこ とは公権力の行使を民間業者が行うことになり違法である。 ② さらに「フロアマネージャー」が実際には全ての受付の前に,戸籍法によ り公務員が扱う事例であるかどうかを判断し,棲み分けをしている(9月区 議会委員会)。この「事例の判断」を民間業者が行うことは違法である。 ③ また違反事項の対応策」は「身分事項移記等の二次入力」は外部委託を続 けるとしている。 22 「身分事項移記」について,戸籍法施行規則第39条【重要な身分事項の 移記】は次のように規定をする。 「 新戸籍を編製され,又は他の戸籍に入る者については,次の号に掲げ る事項で従前の戸籍に記載したものは,新戸籍又は他の戸籍にこれを記載 しなければならない。 1. 出生に関する事項 2. 嫡出でない子について,認知に関する事項 3. 養子について,現に養親子関係の継続するその養子縁組に関する事項 4. 夫婦について,現に婚姻関係の継続するその婚姻に関する事項及び配偶 者の国籍に関する事項 5. 現に無能力者である者についての親権,後見又は保佐に関する事項 6. 推定相続人の廃除に関する事項でその取消しのないもの 7. 日本の国籍の選択の宣言又は外国の国籍の喪失に関する事項 8. 名の変更に関する事項 2 前項の規定は,縁組又は婚姻の無効その他の事項によつって戸籍の記載 を回復すべき場合にこれを準用する。」 この「戸籍業務の移記」は,高度で専門性を有する業務であり,民間業者が行 う事項ではない。 (6)結論 ア 近藤区長が,平成26年8月18日に是正内容を明らかにしたことは,本 件外部委託契約は違法であること及び違法状態は平成27年3月までは継続 されることを自認したものと看做しうる。 イ しかも,平成26年8月18日以降の各「是正報告書」によっても労働者 派遣法違反,戸籍法違反であることは変わらない。 4 上記行為が不当である理由 (1)コストの増加とサービス低下 近藤区長は本件の戸籍業務の外部委託で「サービス向上,コスト削減」を 図ると説明した。しかし,サービスは低下し,コストは増加した。 ア 待ち時間の増加 待ち時間が増えて,区民へのサービスは低下している。足立区民から「待 ち時間が増えた」とのとの苦情が多数に寄せられている。「足立区政の外部 化を考える会」には,「2月に入籍,6月に養子縁組。ともに一日がかり。 午前8時に窓口に行って,午後4時に帰宅。」,「仕事の都合で練馬区から転 居。転入届と新しい住民票をもらうだけなのに2時間以上かかかった。」等 の声が寄せられている。足立区の「区民の声」 「窓口アンケート」にも, 「発 券から住民票記載事項証明の交付まで約2時間かかった。」 「待ち時間(受付 から終了まで)が長すぎる。」 「時間がかかる。もう少し早い対応をお願いし ます。」などとの苦情が多数寄せられている。 23 近藤区長は,待ち時間問題について,平成26年6月3日の記者会見で「区 民を混乱させたことはおわびしたい」と謝罪をし, 「区民を長時間窓口に待た せてしまった。」 「反省しなければならない。 (平成25年)11月25日の記 者会見で『最大待ち時間の半減。』と説明したが,「待ち時間」を明らかにし ていなかった。 「待ち時間」は,発券機から券を取り出して窓口の呼ばれるま での時間。手続きに入って,手続きが終了するまでの時間を計測しなかった。 行政の怠慢でお詫びする」等とした。 イ コストの増加 近藤区長は,6月3日記者会見で「戸籍の外部化を実施した平成26年度 は,1188万円も余分に支出が必要。」として,コストが増加することを明 らかにした。 (2)戸籍業務の外部委託は, 「サービス向上,コスト削減」との導入の目的自体 が存在しないことが明らかになった。従って,本支出は行政上実質的に妥当 を欠くものである。 5 どのような損害が足立区に生じているか。 (1)違法な契約の締結・履行及び公金の支出 本件委託契約は,戸籍法及び労働者派遣法に違反して無効である。 ア 戸籍法に違反して無効 戸籍法は「戸籍に関する事務は,市町村長がこれを管掌する。2 前項の 事務は,地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に 規定する第一号法定受託事務とする。 (1条)」としている。戸籍事務は日本 国民の国籍及び親族法上の身分関係を登録・公証する事務であり,私法法規 の具体的な適用を使命とするものであり ,全国的に統一的な処理を確 保する必要がある。そこで,戸籍法3条1項は,「法務大臣は,市町村長が 戸籍事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる。」とし, また,同条2項は,「市役所又は市町村役場の所在地を管轄する法務局又は 地方法務局の長は,戸籍事務の処理に関し必要があると認めるときは,市町 村長に対し,報告を求め,又は助言若しくは勧告をすることができる。この 場合において,戸籍事務の処理を適正に確保するため特に必要があると認め るときは,指示することができる。」として,法務大臣及び法務局・地方法 務局の長による戸籍事務に対する関与を規定している。戸籍事務は国家的利 害に大きくかかわる「法定受託事務中の法定受託事務」ともいうべき本来的 法定受託事務であり,戸籍事務に足立区長の「合理的な裁量」を観念する余 地はない。戸籍法の規定は本来的法定受託事務として,私法上の効力に影響 を及ぼす効力規定である。 イ 労働者派遣法に違反して無効 労働者派遣法が労働者供給事業と区別して合法化したのは,労働者派遣法 の規制に適合して行われる労働者派遣事業のみであり,労働者派遣法に違反 24 して行われる労働者派遣事業は労働者供給事業に当たり,職安法及び労働者 派遣法が重畳的に適用される。 労働者派遣法に適合する労働者派遣事業のみを認めるとの趣旨から,労働 者派遣法の規定は取締規定であるとともに私法上の効力に影響を及ぼす効 力規定でもある。 ウ 本件委託契約は戸籍法及び労働者派遣法に違反をしており,民法第90条 の「公の秩序及び善良な風俗に反する事項」に当たり,また民法第91条の 「法令上の公の秩序に関す規定」に違反して無効である。 近藤区長は違法な契約の締結・履行及び公金の支出により,足立区に総額 金4億1600万円の損害を生じさせた。 (2)不当な契約の締結・履行及び公金の支出 本件戸籍業務の外部委託は,サービス低下とコスト増加をもたらした。近 藤区長は不当な契約の締結・履行及び公金の支出により,足立区に総額金4 億1600万円の損害を生じさせた。 6 求める措置の内容 監査委員は,近藤区長に対し,地方自治法第242条4項に基づき,次の措置 を講ずべきことを勧告すべきである。 (1)〔当該行為の防止及び是正〕 近藤区長は本件「足立区戸籍・区民事務所窓口の業務委託」契約に関して, 一切の公金の支出,新たに契約を締結し,又は債務その他の義務の負担をし てはならない。 (2)〔足立区のこうむった損害を補填するための措置〕 ア 足立近藤区長は,近藤弥生個人に対して,本件「足立区戸籍・区民事務所 窓口の業務委託」契約にもとづく違法・不当な公金の支出についての損害賠 償を請求すべきである。 イ 近藤区長は,富士ゼロックスシステムサービス株式会社に対して,上記委 託契約に基づいて受領した契約金を,不当利得としての返還の支払を請求す べきである。 以上 【2】 請求者 区内在住者 1,392人 (注)措置請求書本文については原文のまま掲載し、 事実証明書は省略した。 25
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