平成 23 年 10 月 26 日受理した福智町職員措置請求について、地方自治法第 242 条 第 4 項の規定により監査を行った結果を別紙のとおり公表します。 平成 23 年 12 月 2 日 福智町監査委員 渡 辺 文 彦 福智町監査委員 沼 口 富 生 住民監査請求監査結果報告 第1 1. 監査の請求 請求人 請求人の住所、氏名 2. 省略 請求書の提出日 平成 23 年 10 月 26 日 3. 請求の内容 請求内容については、請求人から提出された「福智町職員措置請求書」を要約し 転記する。(事実証明書については省略) (1) 請求の趣旨 旧赤池町立病院跡地に関する売買契約及びその履行は、下記理由によりいずれも 違法又は不当な契約の締結、履行にあたるので、契約の解除ないし履行を差し止め るよう求める。 (2)請求の理由 本件契約内容の決定手続には、以下のとおり違法又は不当な事由が存在し、かか る内容に基づいてなされた公売手続自体も違法又は不当な契約の締結に該当する。 ① 経緯 ア.平成 22 年 12 月 21 日、旧赤池町立病院跡地の売却に関して、公募による売 却の広報への掲載に関する起案が作成され、翌 22 日には町長が決裁をした。 その書面には、場所・所在(物件番号の地番、面積、㎡あたりの金額等)が記 載されていた。 イ.その後、平成 22 年 12 月 27 日、町長は、A不動産鑑定所に不動産鑑定を依頼 し、平成 23 年 1 月 5 日に鑑定書が作成されたが、鑑定内容は先に町によって設 定された売却代金額と同内容であった。 ウ.不動産鑑定に依拠しつつ、さらに売却代金額を減額する内容の「町有地売却 単価計算式」が作成され、売却価格が決定された。 エ.同内容のまま、2 月号『広報ふくち』上で、平成 23 年 2 月 7 日から同月 16 日までを募集期間として公募がなされ、買受に関する当選者が決定した。しか し、公募に関する広報が予告期間もおかずに公募の直前に行なわれ、かつ公募 期間も短かったため、物件番号Aは買受希望者 2 名、物件番号Bは買受希望者 1 名のみという状況であった。 オ.また、公募及び当選者の選定等が進められている中にあって、町長から議会 に対し公売に関する議題の提案等は一切なかった。 カ.そして物件番号Aは、平成 23 年 9 月 6 日に当選者との間に売買契約が締結さ れ、代金支払期日が平成 23 年 10 月 31 日と定められた。なお物件番号Bは、当 選者は選定されているものの未だ売買契約は締結されていない。 ②公有地の売却は公正な手続きで進められ、内容も適正なものでなければならない こと 地方財政法 2 条は「地方公共団体は、その財政の健全な運営に努め」なけれ ばならないと定めている。公有地売却は地方自治体の財産処分であるから、正 当な対価を伴わずになされる公有地売却は、自治体の健全な財政運営に多大な 影響を及ぼすのみならず、ひいてはその自治体の住民全体に関わる問題といえ る。 したがって、公有地売却の際は、公正な価格決定のため、複数の不動産鑑定 を行なうなどの慎重な手続きを経ることが当然であり、特に従前高額な費用を 投じて整備等を行なったことのある公有地であれば、その要請はさらに高まる といえる。また売却価格の決定がなされた後にも、十分な公募期間を設け、応 募者の正当な競争による適正な売却金額となるよう努めなければならない。 ところが、本件では以下のとおり、上記の要請に反する方法で売却代金の決 定手続きが進められ、売却代金が不当に廉価なものとなっており、違法又は不 当である。 ③売買代金の決定手続きの違法ないし不当 ア.売却代金決定の過程の不自然さ 平成 22 年 12 月 21 日時点で既に、起案された書面上に土地売却代金額が記載 されており、その直後に依頼した不動産鑑定でも、売却価格が同額となるよう な鑑定がされている。その後も、同鑑定に依拠した形で、さらに売却金額が低 額となるように公売手続きが進められている。 以上から、既に売買代金について内部的な決定があった上で、辻褄を合わせ るために外部に鑑定評価を依頼したことは明らかであり、公正であるべき公売 内容の決定手続きに違法又は不法事由があることは明白である。 イ.単独見積もりであること 本件病院跡地は、平成 17 年に約 2,200 万円を支出して病院本館棟の解体工事 がされ、平成 18 年に約 462 万円を支出して整備工事がなされている。従前、多 額の費用が支出された土地を売却する際には、公正な価格設定のため、複数の 不動産鑑定を行なうなど、慎重な手続きが必要といえる。しかし本件では、単 独見積もりの不動産鑑定しか存在しない。したがって、売却代金決定手続きに おける違法又は不当が存在する。 ④公売手続及び契約締結の違法ないし不当 上記のような決定手続きに引き続き、公募期間が 10 日間という極めて短期間 な公募しかされないまま、決定内容どおりの結果となるように、公売手続きが 進められている。短期間の募集では、公募を目にしてからでは買受に間に合わ ず、公募以前から買受の準備をしていた者しか買受できない事態も考えられる。 したがって、市民による公正な競争による適正な売却金額の決定という公有 地公売における要請に反するかかる公売手続き自体も違法又は不当であり、そ れに基づく売買契約も違法又は不当な契約締結に該当する。 ⑤売却代金が違法又は不当に廉価であること 売却価格の算定には、多額の費用を投じて建設された残存する利用可能なリ ハビリ棟について、利用を前提とした公募をしているにもかかわらず、リハビ リ棟の存在を理由に売却価格を減価しており、明らかに不当である。また、周 辺の固定資産評価の標準値の価格を 0.7 で割り戻すと約 1 万 3,900 円となり、 売却価格が固定資産評価額から算出した価格よりも低額となっている。 町による密室での内部的な意思決定に基づいて算出された売却金額は、実質 的にも違法又は不当に廉価というべきであり、少なくとも上記の問題点を有し ているものであるが、売却価格の問題点については、請求人において現在公正 な不動産鑑定を依頼中であり、追って資料を提出する予定である。《平成 23 年 11 月 12 日に請求人より提出される》 ⑥町長自身の「白紙撤回」の発言に反すること 平成 23 年第 3 回定例会(同年 9 月 13 日)会議録によれば、浦田弘二町長自 身が「議会のほうで公募の仕方、あるいは条件、あるいは売却の費用、そうい ったものについて御指摘をいただき、そのことについては、配慮が足りなかっ たかなという思いで反省をいたしております」 「 町立病院跡地の売却については 白紙ということで対処をしてまいりたいと思います」旨の発言をしている。か かる発言が、本件病院跡地の公売手続きに違法又は不当な問題が存在すること を自認するものであることは明らかであり、少なくとも従前の決定のまま契約 の履行を進めることは許されないといえる。 ⑦結論 したがって、請求人らは福智町監査委員に対し、地方自治法第 242 条 1 項に 基づき、住民監査を求めるとともに、標記の契約の解除ないし履行を差し止め るよう求めるものです。 (3)要件審査 本件請求は、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号。以下「法」という。)第 242 条の所定の要件を備えているものと認めた。 第2 1. 監査の実施 監査対象事項 本請求において、監査の対象とすべき旧赤池町立病院跡地(福岡県田川郡福智町 赤池 240 番地の一部)に関する売買契約及びその履行は、違法又は不当な契約の締 結、履行にあたるのか否かを監査対象事項とした。 2. 監査対象機関 福智町長 3. 副町長 財政課 請求人の証拠の提出及び陳述 法第 242 条第 6 項の規定により、請求人に対し証拠の提出及び陳述の機会を設け たところ、平成 23 年 11 月 12 日に追加の補足資料が提出され、平成 23 年 11 月 17 日に請求人から陳述を受けた。なお、陳述には請求人 4 人が出席した。 陳述の要旨は次のとおりであった。 (1) 売買代金を決定する過程の不自然さ及び売却地の廉価 (2) 売買地に存在する建物(リハビリ棟)の無償譲渡 (3) 公募手段の不十分さ等 以上の理由により、本件土地売買契約及びその履行は、違法、又は不当な契約の 締結、履行であるとの主張であった。 4. 関係人の調査 法第 199 条 8 項の規定に基づき、関係人より旧赤池町立病院跡地に関する発言、 売買契約の経過、事務処理等に関し調査を行った。 第3 監査結果 本件請求については、合議により次のように決定した。 「本件請求は、理由がないものとして棄却する。」 以下、その理由について述べる。 1. 事実関係の確認 請求人の請求書及び事実証明書、監査対象機関及び関係書類の調査を実施した結 果、次の事項を確認した。 (1)本件土地の整備費用 平成 17 年に赤池町立病院本館棟解体工事費として 22,848,000 円、平成 18 年に 整備工事費として 4,620,000 円を支出していた。 (2)旧赤池町立病院跡地売却に関する公売手続き ①公募による売却に伴う広報への掲載について、平成 22 年 12 月 21 日に起案され、 同年 12 月 22 日決裁、平成 23 年 2 月 7 日施行となっており、書面には金額が掲載 されていた。 ②不動産鑑定評価書には、 「平成 22 年 12 月 27 日付けでご契約致しました」との文 言が入っており、発行日付が平成 23 年 1 月 5 日となっていた。また業務委託請書 は、着工平成 23 年 1 月 4 日、完了平成 23 年 1 月 10 日となっていた。 ③平成 23 年 2 月号の広報紙に、町有地売却に関する公募内容が掲載された。申込 期間は 2 月 7 日~16 日だった。 (3)不動産鑑定評価書の内容 リハビリ棟に対する減価がされていた(建付減価:‐20%)。それ以外にも、造 成費減価や工事期間減価を確認した。 (4)本件土地の売却金額の決定 不動産鑑定結果を基に売却金額を決定した。 (5) 当選者の決定 物件Aは 2 名の応募者があり、物件Bについては 1 名だった。当選者は、福智町 土地活用審査委員会にて決定した。 (6)土地売買契約書を締結するまでの経過 ①売却先決定後、担当課が分筆作業のため現地調査を行ったところ、新たなずい道 も発覚した。 ②掘削などの調査をしたため、当初計画していた契約時期より遅れた。 ③新たなずい道が発覚したため、その部分も無償及び減額をし新たに売却金額を計 算し直した。 ④平成 23 年 9 月 6 日付で、土地売買契約書を締結した。売買代金は 12,694,500 円 であった。 (7)町長の発言 平成 23 年第 3 回定例会(平成 23 年 9 月 13 日)で、公募の仕方、条件、売却の 費用において配慮が足りなかったとして、売却について白紙として対処する旨を発 言していた。 2. 監査委員の判断 本件請求における請求人の主張は、契約の解除ないし履行の差し止めを求めるも のである。契約は平成 23 年 9 月 6 日に締結されており、解除ないし履行の差し止 めをするには、民法第 90 条に定める公序良俗違反がある場合、または民法第 540 条以下に定められている契約の解除に該当する事由が必要であると考える。 したがって、請求人が主張するそれぞれの点について、契約の解除ないし履行の 差し止めができる違法性又は不当性が存在するのか判断することとする。 (1) 売買代金の決定手続きについて ①請求人は、平成 22 年 12 月 21 日に起案された広報紙 2 月号に掲載する町有地公 募の起案文書について、不動産鑑定結果が出ていないにも関わらず金額が記載され ており、既に売買代金について内部的な決定があったと主張している。 しかしながら、起案文書が実際起案された時期は、不動産鑑定結果が出た後であ り、1 月上旬だった。日にちを遡って起案日とした理由は、広報紙の原稿〆切日に 間に合わせることが目的だった。 日付を遡って起案日とした行為には、正確な書面作成という点から問題はあるが、 このことが契約の効力そのものに影響を及ぼすものではないと考える。 ②請求人は、公正な価格設定のため複数の不動産鑑定を行い、慎重な手続きが必要 だったと主張している。 不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を担当する専門家としての地位を『不動産の 鑑定評価に関する法律(昭和 38 年法律第 152 号。以下「不動産鑑定評価法」とい う。)』によって認められている。このため、不動産鑑定評価法には、不動産鑑定士 の責務として、良心に従い、誠実に不動産鑑定評価を行い、不動産鑑定士の信用を 傷つけるような行為をしてはならないと規定されているとともに、不当な鑑定評価 等を行なった場合の懲戒処分や法の規定に違反した場合の罰則規定が設けられて いる。こうした不動産鑑定評価法の趣旨から、不動産鑑定士による鑑定評価は、的 確かつ誠実に行なわれているものと判断される。 また、町有地売却金額の決定にあたって、不動産鑑定士に評価を依頼する場合、 複数の不動産鑑定士に依頼しなければならないとする規定はない。 以上のことから、複数の不動産鑑定を依頼しなかったことが、違法又は不当に該 当するとは認められない。 (2) 公売手続及び契約締結について 請求人は、公募期間の短さを主張している。 町有地を公募によって売却する際、公募期間を何日間としなければならないとす る規定はない。以上のことから、公募期間の短さが、違法又は不当に該当するとは 認められない。 しかし、地区によっては広報紙配布が遅い地域もある。このことを考慮すると、 より長い公募期間を設定したほうが適切であったと判断する。 (3) 売却代金について ①請求人は、リハビリ棟の存在を理由に売却価格を減価しており、不当であると主 張している。 平成 20 年にも本件土地の鑑定評価を同じ鑑定士に依頼しており、今回の鑑定評 価とは違う内容であった。 不動産鑑定士による不動産の鑑定評価は、統一的基準である不動産鑑定評価基準 等に従って行なわれる。平成 20 年の鑑定評価書では、集会所・託児所・宅老所・ リハビリ施設としての敷地利用が最有効使用との判断がされており、それに伴う鑑 定評価額が決定されていた。 平成 23 年の鑑定評価書では、戸建住宅としての敷地利用が最有効使用との判断 がされており、そのため、建付減価や工事期間減価等の減額計算がなされていた。 不動産の鑑定評価にあたっては、不動産鑑定評価基準等以外によるべき客観的な 基準はなく、個々に不動産鑑定士が取引事例や経験等に基づき判断することとなる。 本鑑定においては、平成 20 年に不動産鑑定をしたにも関わらず未だ売却できて いないとの事由で、不動産鑑定士の判断により、今回は売却しやすい戸建住宅とし ての鑑定評価結果を出したものであった。 以上のことから、不当に売却価格を減価しているとは認められない。 しかし不動産鑑定士に依頼する際、公募の条件等を伝えておらず、不動産鑑定士 との間に十分な意思疎通ができていたかは疑問である。 利用条件等を伝えることにより、鑑定評価書の内容が変わるかどうかは、不動産 鑑定士の個々の判断によるが、公募で利用条件を設けている以上、不動産鑑定士に 依頼する際には、伝えるべきであった。 ②請求人より追加の補足資料として、別の不動産鑑定士による不動産鑑定評価書が 提出されたが、先に述べたように、不動産鑑定士は専門的な知識に基づき個々に取 引事例や経験等に基づき判断し、不動産鑑定評価書を提出するため、どの鑑定評価 書が正しいかの判断は不可能である。 ③本件では、売却先が決定後、分筆作業で現地を訪れた際に新たなずい道が見つか り、それに伴う減額計算がなされた。そのため売却面積に伴う売却金額に変更が生 じ、当初予定していた売却金額よりも減額となった。 しかし、そのように売却対象不動産に、後に埋設物等が見つかったために、代金 を減額すること自体は正当な理由があり、このことが契約の解除ないし履行の差し 止めができる違法又は不当であるとは認められない。 ただし、本来売却を決めるにあたっては、詳細な調査を行った後に売却すべきで ある。事例として、売却後に埋設物等が見つかり、瑕疵担保責任及び説明義務違反 として、損害賠償を請求されたこともある。 このようなことから、今後町有地を売却する際は、詳細に調査を行い瑕疵がない ことを確認してから、公募をすべきである。 (4) 町長の「白紙撤回」発言について 平成 23 年第 3 回定例会(平成 23 年 9 月 13 日)において、町長は「売却につい ては白紙ということで対処をしてまいりたいと思います。」と発言している。 このことを理由として、請求人は従前の決定のまま契約の履行を進めることは許 されないと主張しているが、平成 23 年 9 月 6 日に既に契約は締結されており、契 約を解除するには、前記のとおり民法第 90 条公序良俗違反、また民法第 540 条以 下に定められている契約の解除に該当する事由が必要である。よって、一度締結さ れた契約を町長の発言により解除することはできず、また締結された契約は履行さ れなければならない。 ただし、町長は町政の最高責任者として、その発言については町民に対し重い責 任がある。 3. 意見 本件請求を受け監査を実施した中で、改善すべき事項が存在したため、特に意見 を付すこととした。 公文書の起案について、2 月広報紙に急ぎ掲載するため、日にちを遡って起案し たことは問題であり、このことが住民に不信感を与える大きな要因となった。公文 書の作成にあたっては、その内容を十分に検討し正確に作成すべきである。 公募については、十分な周知期間、および多くの方へ平等に知らせるための周知 方法改善を求める。 不動産鑑定は、町が不動産の売買を行なう際に、売買予定額を設定するため、参 考に用いるものである。本件売却地のように公募条件を設けている以上、不動産鑑 定士に公募条件を伝え、鑑定結果についても内容の精査を十分行なうべきである。 土地活用審査会は、委員構成が町役場内部のみとなっており、透明性・公平性の 確保・土地の有効利用の観点から、有識者、議会等、外部からの委員を参入させる べきである。 町民の財産である町有地等を処分する際は、町民に不利益・不信感が生じないよ うに、十分検討し精査すべきである。 最後に、町長の発する言動により、職員の士気は左右され、町民の町政への不信 感が生まれる場合もあり、多方面に多大なる影響を及ぼすものである。よって町長 に対し、責任ある町政運営を強く望むものである。
© Copyright 2024 Paperzz