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社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
選好判断に他者の視線方向が及ぼす影響
∼ 人は多数派の選好にどのように流されるか? ∼
布井 雅人 1
中嶋 智史 2
吉川 左紀子 3
1,2
京都大学大学院教育学研究科 〒606-8501 京都府京都市左京区吉田本町
京都大学こころの未来研究センター 〒606-8501 京都府京都市左京区吉田下阿達町 46
1
[email protected], 2 [email protected], 3 [email protected]
3
E-mail:
あらまし 他者の視線は選好判断に影響を及ぼすことが知られている.本研究では,他者の人数とその視線方向
が選好判断に及ぼす影響について検討した.刺激の呈示位置または逆方向に視線が動く 1 人の顔写真と,視線が繰
り返し対呈示され,毎回異なる人物が呈示される条件(複数人物条件)と全て同じ人物が呈示される条件(単一人
物条件)が設けられた.その結果,視線が向けられた刺激に関しては,その人数は選好判断に影響を及ぼさなかっ
たが,女性参加者において複数の人物から視線が逸らされた刺激を避ける傾向が見られた.これは,複数の人物か
ら視線を逸らされることが,その刺激が有益ではなく,魅力的でないことを示す手掛かりとして選好判断に利用さ
れたことを示唆している.
キーワード 選好,社会的影響,視線
The influence of others’ direction of the gaze on the preference judgment.
−How are we affected by the majority’s preference?−
Masato NUNOI1
Satoshi F NAKASHIMA2
and
Sakiko YOSHIKAWA3
1,2
Graduate School of Education, Kyoto University Yoshida-Honmachi, Sakyo-ku, Kyoto-shi, Kyoto, 606-8501 Japan
3
Kokoro Research Center, Kyoto University 48 Yoshida-Shimoadachicyo, Sakyo-ku, Kyoto-shi, Kyoto, 606-8501
Japan
E-mail:
1
[email protected], 2 [email protected], 3 [email protected]
Abstract Others’ gaze have an influence to preference judgment. We studied about the effect of others’ numbers and its
gaze direction to preference judgment. One stimulus was presented repeatedly with one person whose gaze directed to the
stimulus or averted from it. In one condition, stimuli were presented with different persons each time (multi-person condition),
and the other condition stimuli were presented with the same person every time (single-person condition). There were no effect
of others’ numbers to preference judgment with directed gaze, however, female participants avoid the stimuli which
multi-person averted its gaze. This result suggested that the multi-person’s averted gaze was used as the cue that the stimulus
was not informative or attractive.
Keyword preference, social influence, gaze
激への接触頻度と選好の関連を検討したもので,接触
1. 問 題
我々は,ある対象に対して様々な印象を抱く.選好
頻度の上昇に伴って選好の上昇が生じることが知られ
はその一つであり,接近・回避行動など多くの行動の
ている.さらに,接触頻度だけでなく,接触時の処理
根底をなすものとも考えられる.そのため,選好が形
方略の違いが選好判断に影響を及ぼすことも示されて
成される過程に影響する要因の検討は,重要な意味を
い る (布 井 ・ 吉 川 , 2008).
これらの視点は我々の選好を検討するのに十分と
持つものである.
これまでの研究において,選好に多くの要因が影響
は言えない.接触頻度や処理方略などの影響は,知覚
することが明らかにされている.中でも接触経験に関
者 (人 ) と 対 象 と の 間 の 2 項 間 で の 影 響 を 示 す も の で
する研究は,単純接触効果を中心に数多く行われてい
ある.しかし近年,他者が知覚者の選好判断に影響を
る
&
及 ぼ す こ と が 明 ら か と な っ て い る (Bayliss, Cannon &
D’Agostino, 1992). こ れ ら の 単 純 接 触 効 果 研 究 は , 刺
Tipper, 2006; Bayliss, Frischen, Fenske & Tipper, 2007;
(Zajonc,
1968;
Bornstein,
1989;
Bornstein
Copyright ©2009 by IEICE
Strick, Holland & van Knippenberg, 2008; Corneille,
対象への評価が高いことを示すと考えられるため,さ
Mauduit, Holland & Strick, 2009). そ の た め , 従 来 検 討
らにその評価への同調が生じやすくなると予測される.
が為されてきた知覚者と対象の 2 項関係に加え,その
以上は,対象に視線が向けられた場合において予想
対象と関わりを持つ他者も考慮した 3 項間における選
される影響である.しかし,対象と逆方向に向けられ
好判断への影響を検討することがより必要となってく
た視線は異なる意味を有し,他者の関心の低さや対象
ると考えられる.
の魅力の低さを示す可能性がある.そのため,多くの
ベイリスらの研究においては,選好判断への他者の
人が視線を向けないことは,ネガティブな評価が強い
影響として,他者の視線方向の影響が検討されている
ことを示すと考えられるため,その対象を避けるとい
(Bayliss et al., 2006). 彼 ら の 実 験 で は , 画 面 中 央 に 呈
う形での同調が生じると予測される.
示された顔写真の視線が左右いずれかに動き,その後
また,加えて,視線方向の効果における性差につい
左右どちらかの位置にターゲット刺激が呈示された.
ても検討する必要がある.例えば,ターゲット刺激の
その結果,参加者は視線が動いた方向に呈示された刺
検知課題において,ターゲット刺激が視線と同方向に
激を,視線と逆方向に呈示された刺激よりも好むこと
呈 示 さ れ た 場 合 の 反 応 時 間 の 促 進 (gaze cueing effect)
が明らかになった.さらに,視線の効果が表情の影響
は,女性の方が男性よりも大きいことが示されており
を受け,笑顔の際に視線方向にある刺激が好まれるこ
(Bayliss, Pellegrino & Tipper, 2005), 他 者 の 視 線 方 向 に
と も 示 さ れ て い る (Bayliss et al., 2007).
対する鋭敏さに男女差がある可能性が予測される.
このように視線方向が選好判断に影響を及ぼす原
因は,我々が他者の視線からその人の心的状態を読み
以上のように,他者の数が選好判断に及ぼす影響を,
取 る こ と が 可 能 な た め で あ る と 考 え ら れ る
視線方向との関連から検討することが本研究の目的で
(Baron-Cohen,
ある.
Campbell,
Karmiloffsmith,
Grant
&
Walker, 1995). 中 で も 他 者 の 視 線 方 向 は , そ の 人 の 関
心や有益な情報を示していると考えられ,視線が向け
2. 方 法
られた対象は,他者からのポジティブな評価が得られ
<参加者>
たものとして捉えられることになる.つまり,このよ
京 都 大 学 の 学 生 36 名 (男 性 18 名 ,女 性 18 名 ,平 均 年
うな視線が示す情報を用い,他者に同調した結果とし
齢 20.1 歳 ) が 参 加 し た .
て,選好判断に影響が生じると考えられる.
<刺激>
視線方向と選好判断に関する知見は,選好判断に他
顔写真を他者刺激として,日用品画像をターゲット刺
者が影響に影響を及ぼしていることを示すものである
激として用いた.
が,他者の視線方向の影響には他にも様々な要因が関
他 者 刺 激:20 人 の 日 本 人 女 性 の 顔 写 真 を 用 い た .各 写
連していると考えられる.その一つが他者の数による
真 は , 377pix×415pix の 大 き さ に 揃 え ら れ , 直 視 写 真
影響である.他者の人数の多少は,社会的影響の大き
に加え,それらから左右それぞれに視線の逸れた逸視
さを左右する要因であり,多数派の影響力の強さは
写 真 を Adobe Photoshop 2.0 を 用 い て 作 製 し た .こ れ ら
我々の日常経験でもしばしば感じることである.
の 顔 写 真 に 対 し て 予 備 調 査 (n=10) を 実 施 し , 情 動 価
アッシュは,集団実験における同調の生起について
(1:非 常 に ネ ガ テ ィ ブ ∼ 9:非 常 に ポ ジ テ ィ ブ ) お よ び
の 検 討 を 行 っ て い る (Asch, 1955). 同 調 は , 行 動 や 信
魅 力 度 (1: 非 常 に 魅 力 的 で な い ∼ 9: 非 常 に 魅 力 的 で
念が集団の基準に一致した方向に変化する現象である.
ある) を測定した.その結果をもとに表情はニュート
アッシュの実験においては,個別に回答を求めた場合
ラ ル か ら や や ポ ジ テ ィ ブ な 表 情 に 揃 え ら れ (M=5.62,
にはほぼ正解することができる安易な線分の長さ比較
SD=0.36),顔 の 魅 力 度 も 統 制 さ れ た (M=4.94, SD=0.71).
課題が行われた.それにも関わらず,他者が自身とは
ターゲット刺激:選好判断を行うターゲット刺激とし
異なる回答をした場合では,その明らかな誤答に流さ
て は , 日 用 品 画 像 80 枚 を 用 い た . 各 画 像 は Adobe
れた回答を行ってしまうという傾向が見られた.さら
Photoshop 2.0 を 用 い て ,295pix×210pix ま た は ,210pix
に,他者が 1 人の場合にはほとんど同調は生じず,他
×295pix に 揃 え ら れ た . 刺 激 は 予 備 調 査 (n=11) に お
者の人数を増やすことで同調率の増加が見られたこと
け る 好 意 度 評 定 ( 1: 非 常 に 好 ま し く な い ∼ 9: 非 常 に
から,同調の生起に他者の人数が影響を及ぼすことが
好ましい)で,ニュートラルと判断されたものが選択
示された.
さ れ た ( M=5.06, SD=0.38). ま た , こ れ ら の タ ー ゲ ッ
これらの知見より,選好判断への視線方向の影響に
も,他者の人数が影響を及ぼす可能性が考えられる.
ある対象に対して視線を向ける人が多いことは,その
ト刺激は,好意度が均一な 4 グループに分けられ,参
加者ごとに各条件に無作為に割り当てられた.
Fig1. 接触課題における1試行の流れ
<装置>
“J” の キ ー で 行 わ れ , 各 回 答 へ の 割 り 当 て は 参 加 者 間
刺 激 は Windows 上 の SuperLab Pro ( Cedrus 社 製
で ラ ン ダ マ イ ズ さ れ た . 接 触 課 題 は , 全 480 試 行 か ら
version4.0) に よ っ て 制 御 し , 17 イ ン チ の CRT モ ニ タ
なり,ターゲット刺激の呈示順はランダムであった.
上に刺激を呈示した.
また,各顔人物は全ての条件で等しく呈示され,その
<デザイン>
総呈示回数は同じであった.
視 線 手 が か り 2 (Cued/Uncued) ×人 物 の 数 2 (複 数 人 物
選好判断課題:接触課題の全試行終了後に,選好判断
/単 一 人 物 )×参 加 者 性 別 2 (男 /女 ) の 3 要 因 混 合 計 画 で
課題が行われた.選好判断課題では,2 枚のターゲッ
行われた.
ト 刺 激 が 画 面 上 の 左 右 に そ れ ぞ れ 中 央 よ り 200pix 離
他 者 刺 激 の 視 線 手 が か り (gaze cue) は ,タ ー ゲ ッ ト
れて呈示され,参加者は 2 枚のうち,より好きな方を
刺 激 の 呈 示 位 置 を 示 す 条 件 (Cued 条 件 ) と ,タ ー ゲ ッ
選択するよう求められた.2 枚のターゲット刺激は,
ト 刺 激 の 逆 方 向 を 示 す 条 件 (Uncued 条 件 ) の 2 水 準 で
同じ視線手がかり条件内の複数人物条件と単一人物条
操作された.また 1 つのターゲット刺激は,6 回呈示
件 の 刺 激 が ペ ア と し て 呈 示 さ れ た (Table1.) . 選 好 判
され,あるターゲット刺激と共に呈示される他者刺激
断 課 題 は ,全 40 試 行 か ら な り ,刺 激 の ペ ア 及 び ,呈 示
が ,毎 回 (6 回 ) 同 一 人 物 (単 一 人 物 条 件 ) か ,全 て 異
順はランダマイズされた.
な る 人 物 (複 数 人 物 条 件 ) か の 2 水 準 で 操 作 さ れ た .
視線手がかり,人物の数の各要因はそれぞれ参加者内
3. 結 果
要因であった.
<選好判断>
<手続き>
選好判断課題における複数人物条件刺激の選択率
実験は個別に行われ,接触課題,選好判断課題の 2 つ
を 従 属 変 数 と し , 視 線 手 が か り 2 (Cued/Uncued) ×参
から成っていた.
加 者 性 別 2 (男 /女 ) の 2 要 因 分 散 分 析 を 行 っ た (Fig2.).
接触課題:接触課題では,画面中央に直視写真,左右
そ の 結 果 , 性 別 ・ 視 線 手 が か り の 主 効 果 (性 別 : F (1,
いずれかに視線を向けた逸視写真が連続して呈示され,
34) = 4.24, p < .05; 視 線 手 が か り : F (1, 34) = 3.66, p
その左右いずれかにターゲット刺激が呈示された.タ
< .10)が 有 意 お よ び 有 意 傾 向 と な っ た . さ ら に , 交 互
ーゲット刺激の呈示位置は,刺激の中心が画面中央よ
作 用 が 有 意 と な っ た (F (1, 34) = 7.34, p < .05).下 位 検
り 340pix 左 右 に 離 れ た 位 置 で あ っ た .各 参 加 者 は ,呈
定 の 結 果 ,女 性 の Uncued 条 件 (M = 0.42, SD = 0.13) と
示されたターゲット刺激に対して情動価を含まない判
女 性 の Cued 条 件 (M = 0.53, SD = 0.12),男 性 の Uncued
断課題として,各刺激が丸みを帯びているか,角ばっ
条 件 (M = 0.54, SD = 0.11)の 間 に 有 意 な 差 が 見 ら れ た
ているかのいずれにより当てはまると思うかを出来る
(F (1, 34) = 10.68, p < .005; F (1, 68) = 11.13, p < .005).
だけ早く回答する形態判断課題を行った.参加者は課
こ れ よ り , 女 性 の Uncued 条 件 で は 他 の 条 件 よ り も ,
題遂行中,画面中央の注視点周辺に視線を固定し,目
を動かさないよう指示された.また,画面中央に呈示
Table1. 選好判断課題における比較ペア
される視線手がかりは無視するよう指示された.接触
人物の数
課 題 の 1 試 行 (Fig. 1) で は ,注 視 点 1000ms に 続 い て ,
直 視 写 真 が 1000ms 呈 示 さ れ た 後 , 画 像 の 視 線 が 左 右
複数人物
単一人物
いずれかに変化した.ターゲット刺激は,視線変化の
500ms 後 に 左 右 い ず れ か の 位 置 に 呈 示 さ れ た . 参 加 者
の 回 答 後 , ま た は タ ー ゲ ッ ト 呈 示 か ら 2500ms 経 過 す
る と ,顔 写 真 及 び タ ー ゲ ッ ト 刺 激 は 消 え ,1000ms の 間
隔 を お い て 次 の 試 行 が 開 始 さ れ た .反 応 は , ”F” 及 び
Cued
比較
Uncued
比較
視線
1
複数人物条件の選択率
0.9
0.8
Cued
Uncued
***
***
向の影響が,視線と逆側に呈示される対象に対して生
じ,よりネガティブな対象を避けるという形で利用さ
れることを示唆するものである.
一方で,視線方向に呈示された対象に関しては,参
0.7
加者の性別に関わらず選択の偏りが確認されなかった
0.6
ことから,本研究においては人数の効果が視線方向に
0.5
*
0.4
呈示された場合には見られなかったと考えられる.
このように,本研究で人数の効果が限定的にしか見
られなかった原因の一つとして,人数情報への意識的
0.3
気づきの有無ということが考えられる.本研究では,
0.2
各試行において顔写真は 1 人しか呈示されていない.
0.1
そのため,ある対象に関する他者の人数情報は意識さ
0
れにくいものであった.実際に,人数の違いに気づい
male
female
参加者性別
Fig2. 複数人物条件刺激の選択率
(点線はチャンスレベルを示す)
た参加者がいなかったことも,人数情報への気づきが
低かったことを示している.しかし,人数情報への意
識的気づきの低い状況においても,視線が対象と逆方
向 に 向 け ら れ た 場 合 に は ,人 数 の 効 果 が 見 ら れ て い る .
ネ ガ テ ィ ブ な 対 象 は 素 早 く 検 知 さ れ る (Mogg &
複数人物条件刺激の選択率が下がり,単一人物条件刺
激の選択率が上昇したことが示された.
さらに,これらの選択が偏りを持ったものかどうか
を 検 討 す る た め に , 選 択 率 の チ ャ ン ス レ ベ ル (0.5) と
各条件の選択率間の t 検定を行った.その結果,女性
の Uncued 条 件 で の み 有 意 に チ ャ ン ス レ ベ ル よ り も 低
い と い う 結 果 が 得 ら れ た (t (17) = -2.61, p < .05).こ の
結 果 か ら も , 女 性 の Uncued 条 件 で は , 単 一 人 物 条 件
刺激がより選択されることが示された.
Bradley, 1999; Öhman, Flykt & Esteves, 2001) と い う こ
とから考えると,今回の結果はネガティブな対象を避
けるという反応がより潜在的に生じた可能性を示すも
のである.さらに,本研究において効果の見られなか
った,対象に視線が向けられた場合における人数の効
果は,人数情報への気づきがある場合では生じる影響
である可能性も考えられる.
また,本研究では女性参加者においてのみ視線方向
とその人数の選好判断への効果が見られた.これは,
女性において,注意シフトに視線が及ぼす影響が大き
4. 考 察
本研究では,他者の人数の違いがその視線方向によ
って選好判断にいかなる影響を及ぼすかについて検討
を行った.その結果,視線が向けられなかった対象に
対する女性参加者の選好判断においてのみ人数による
違いが見られ,複数人物から視線を向けられなかった
対象が,同一人物から視線を向けられなかった対象よ
りも選択されないという傾向が示された.これは,他
者の視線方向に対する同調が生じた結果であると考え
られる.他者が視線を向けていないことは,他者がそ
の対象に関心がないことを示しており,複数の他者が
同様の行為を示している場合には,より関心が持たれ
ていない,魅力的でないということを際立たせること
につながる.そして,そのことが,参加者にその対象
には魅力が無いのだと捉えられることにつながったの
ではないか.すなわち,対象に多くの人物が視線を向
け な い こ と が ,単 一 人 物 が 視 線 を 向 け な い 場 合 よ り も ,
その対象の魅力の一般的な低さを示す情報となり,そ
の多くの他者の評価に同調した結果,複数人物条件の
選択率が低くなったと考えられる.これらは,視線方
く な る と い う 視 線 へ の 鋭 敏 性 が (Bayliss et al., 2005),
注意シフト以外への影響においても見られることを示
すものである.
今回の結果から,他者の視線の数が選好判断に影響
を及ぼす可能性が示唆された.本研究では他者と対象
は常に一対一で呈示されたが,日常場面において他者
の人数の影響を受ける状況は,このような場面に限ら
ない.むしろ,同時に複数の他者から影響を受ける場
面が多くあると思われる.そのため,複数他者が同時
に影響を及ぼし得る状況における人数の効果の検討が
求められる.また,他者の視線認知に加え,自らの視
線が選好判断に影響を及ぼすことも示されている
(Shimojo, Simion, Shimojo & Scheier, 2003).こ れ ら を 総
合することで,視線と選好判断の関連性の検討が可能
になると考えられる.
5. 謝 辞
本 実 験 は ,グ ロ ー バ ル COE「 心 が 活 き る 教 育 の た め
の国際的拠点」の大学院生養成プログラム研究費の助
成を受けて行われた.また実験の実施において,ご協
力いただいた浅井七沙さん,黒澤彩加さん,天下谷恭
一さん,西田圭佑さん,二井美沙さん,前田智宏さん
に感謝いたします.
文
献
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