家庭環境が本来性形成に及ぼす影響 -児童期の両親間葛藤と青年期の愛着より- ○石川清子 (東京福祉大学大学院) キーワード:本来性特性・両親間葛藤・愛着スタイル Effects of Family Environment and the Development of Authenticity: Childhood Perception of Inter-parental Conflict and Adult Attachment Kiyoko ISHIKAWA (Graduate School of Psychology, Tokyo University of Social Welfare) Key Words: Authenticity, Inter-parental Conflict, Attachment Style 目 的 近年教育環境の中で顕著に見られる傾向として,子どもや 青年の希薄な対人関係の在り方(石本ら,2009;杉.浦, 2000) や自尊感情の低下(市毛・大河原,2009)があげられる。 この様な現象は日本特有なものではない。この状況を改善 する手がかりとして本来性(Authenticity)の在り方が研究さ れ(Kernis & Goldman, 2006), 更に,Wood, et. Al., (2008) は,心理的ウエルビーングと信頼感,被受容感との関係を検 証している。石川ら(2015)は,Wood らの尺度をもとに日本語 版本来性尺度を作成した。本来性は「他者影響感」 「自己疎外 感」 「本来的自己感」の3下位因子から構成されているとして, 人と人が折り合いをつけて生きていくためには自己の本来性 に目を向けることが必要であると指摘。 このように対人関係における問題は環境的要因に影響を受 け,さらに心理社会的な諸問題を作り上げる。その環境要因 の中でも重要なものが家庭環境である。野口・桜井(2009)は 両親間の不和を両親間葛藤という言葉で表現しているが,家 庭の不和が子どもに与える影響を指摘し,この様な環境で成 長した子供は青年期になっても心理的にネガティブな影響を 受けていると指摘している(萩原,2003)。また,青年が育った 家庭環境は彼らの愛着スタイルに影響を与え,ひいては成人 期の対人関係に影響を与えることはボウルビーによって提唱 されている(Hazan & Shaver, 1987)。本研究では,青年の本 来性の形成要因を検証するために,家庭環境として児童期の 両親間葛藤と青年期の成人版愛着スタイルとの関係より本来 性形成を検証した。 方 法 【調査期間と対象者】 北関東圏のA大学生,計250名(平均年 齢19.7歳)を対象に質問紙調査を実施した。 【質問紙内容】 質問紙は,日本語版本来性尺度(石川ら, 2014)・ECR-GO 日本語版(加藤, 2004)・CIPC 日本語版(森光・ 高橋, 2007)を採用し実施した。 結 果 と 考 察 家庭環境として両親間の関わり方を子どもはどのように受 け止めているのか。特に,対人関係スタイルとして両親の葛 藤をどの様に受け止めているのかに焦点をおいた。結果は, CIPC の下位因子すべてが本来性の「他者影響感」に影響があ り, 「恐れ」 「自己非難」は負の影響, 「葛藤の深さ」は正の影 響が認められた。また, 「自己疎外感」は, 「自己非難」に負の 影響を受けていた。更に、両親間葛藤と青年の愛着スタイル の関係では, 「見捨てられ不安」のみ「葛藤の深さ」に対し負 の影響を, 「自己非難」は正の影響を示していた(table1) 。 この結果より,両親間の葛藤は青年の愛着における「見捨 てられ不安」に否定的な影響を与えることの他,良い自分も 悪い自分も本来の自分として受け入れる「本来性」において も,自己に違和感を覚える自分の存在感や自分自身の姿で過 ごしたくとも,周りに振り回される自己を認識せざるを得な いといった因子に有意な影響が認められた。このような状態 が長期に続く場合,青年期のアイデンティティ形成や自己が 望むパーソナリティの在り方,および対人関係スタイルにお いても否定的な影響を与えるのであろう。 また,table2 に示すように,愛着スタイルは「見捨てられ 不安」のみが本来性の 3 因子全てに対して負の影響を示した。 従って,本来性の構造としては「見捨てられ不安」の愛着ス タイルである青年は,本来性そのものが持てないでいる状態 であると考えられる。良い自分も,本来の姿ではない自分も, 周りから影響を受けつつ折り合いをつけて生きている自分も 実感していない状態といえる。 特定の家庭環境の中で乳幼児期にはじまる愛着から青年期 の愛着スタイルへ,更にはパーソナリティとしての本来性に も影響を与えつつ子どもは青年へと成長していくのであろう。 よって,子どもが育っていく家庭内における対人関係スタイ ルの質が,人の強みである「本来性」形成において問われる 必要があるのではないか。 Table1 両親間葛藤を説明変数とする重回帰分析結果 基準変数 見 捨 て ら れ 不 安 親 密 性 の 回 避 本 来 的 自 己 感他 者 影 響 感 自 己 疎 外 感 葛藤の深さ -0.198 * 0.151 0.042 0.194 * 0.151 恐れ 0.096 -0.104 -0.068 -0.202 * -0.144 自己非難 0.471 *** 0.042 -0.03 -0.199 * -0.321 ** R² 0.155 *** 0.019 0.004 0.11 *** 0.061 ** *p<.05 **p<.01 ***p<.001 説明変数 Table2 説明変数 愛 着 ス タイル を説 明 変 数 とする重 回 帰 分 析 結 果 基準変数 本来的自己感 他者影響感 自己疎外感 見捨てられ不安 -0.167 * -0.417 *** -0.548 *** 親密性の回避 -0.03 0.067 -0.226 *** R² 0.03 * 0.18 *** 0.37 *** *p<.05 **p<.01 ***p<.001 引 用 文 献 石川清子・菅原嗣一・加部千尋・根岸良太(2015) パーソナ リティ特性としての本来性:発達段階における本来性の特徴 日本発達心理学会第 26 回大会 発表論文集、P5-048. Kernis, M.H.& Goldman, B. M.(2006).A Multicomponent Conceptualization of Authenticity: Theory and Research, Advances in Experimental Social Psychology, Vol. 38, pp.283-357. Wood, A.M., Linley, P.A., Maltby, J, Baliousis, M., & Joseph, S. (2008).The Authentic Personality :A Theoretical and Empirical Conceptualization and the Development of the Authenticity Scale, Journal of Counseling Psychology, Vol. 55, No. 3, 385-399.
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