資料 - 国立遺伝学研究所

発生遺伝研究部門�広海研究室�
教授:広海健�([email protected])�
助教:浅岡美穂 ([email protected])
助教:林貴史 ([email protected])�
Hiromi Lab URL:
http://www.nig.ac.jp/labs/DevGen/
hiromi.html 研究テーマ:�器官構築の発生遺伝学�
�器官構築においては、幹細胞から生み出される細胞がそれぞれ特異的細胞運命を獲得して決まった位置に配置し、互いに
コミュニケーションを取ることによって、高度な機能を持つ「回路」を構成します。私達は主としてショウジョウバエを用い、これ
らの発生現象の基本原理の発見と理解を目指しています。�
現在の研究テーマ
1)軸索内のパターンはどのようにして作られ,いかに使われるか?�
2)生殖幹細胞とその維持に必要な幹細胞ニッチ(微小環境)はどのように作られるか?
3)器官を構成する多様な細胞は、均一な未分化細胞の集団からどのようにして産み出されるのか?
4)生物にみられる様々な特徴的形態はどのようにして作り出されるのか?
神経回路網の形成機構�
���
細胞内パターニングによる軸索ガイダンス �
神経細胞B�
Netrin�
神経細胞A�
Netrin受容体 (Frazzled)�
第2のNetrin受容体�
図1�軸索上に提示されたNetrinによる軸索誘導�
神経細胞Aの軸索上に局在するNetrin受容体が分泌性リガン
ドであるNetrinを捕捉し、神経細胞Bの軸索を誘導するため
の位置情報を提示している。 Nature 406, 886-889
(2000)
図2�細胞自律的な軸索の区画化�
神経回路内では多くのガイダンス分子受容体が軸索の特定
の領域に局在している(左)。このような軸索内の局在パターン
は単離培養された神経細胞でも形成される(右)。
Neuron 64, 188-199 (2009)
Bar = 10 µm�
�神経回路網の複雑で緻密な構造はどのようにして作られるのでし
ょうか?私達は、軸索内パターニングという新しい細胞生物学的現
象に着目し、この問題に取り組んでいます。神経細胞は、軸索先端
の成長円錐で周囲の分子環境(ガイダンス分子)を認識することに
よって、標的細胞に至る道筋を選びます。私達は、ガイダンス分子
の受容体が、細胞表面、とくに神経軸索上の特定の領域に局在し
ていること(軸索内パターニング)に着目し、分子環境形成の新し
いモデルを提唱しています。�
�これまでに、分泌性ガイダンス分子Netrinの受容体の軸索内局
在が軸索誘導に重要な役割を果たしていることを示しました(図1)。
また、in vitroの培養系を用いて、ガイダンス分子の軸索内局在が
細胞自律的に形成されることを見出しました(図2) 。このことは、
神経回路の構築に個々の細胞の自律的なパターニング能力が関
与するという視点を示唆しています。さらに、軸索上での分子の動
態を解析することによって、軸索がいくつかのコンパートメント(区
画)に分かれていることが明らかになりました。神経軸索は、電気
信号を伝える単なるケーブルではなく、区画化されることによって
神経回路の緻密化や高度化に寄与しているのかもしれません.�
�現在、軸索内区画の形成機構および区画への分子の配置機構を
解析しています。�
幹細胞の形成機構� 生殖幹細胞をモデル系として
胚の生殖巣�
体細胞�
成虫の卵巣小管�
前半部の
始原生殖細胞�
生殖幹細胞�
後半部の
始原生殖細胞�
シストブラスト�
ニッチ
細胞�
�
図1�始原生殖細胞の細胞系譜追跡実験
�胚の生殖巣中には、発生運命の異なる2種類の始
原生殖細胞がある。前半部にある始原生殖細胞は
幹細胞になる (stem-cell precursorsである)が、後半
部の始原生殖細胞は直接、卵細胞への分化過程に
入る。
卵細胞
ニッチ細胞
発生の進んだ
卵細胞
生殖巣
図2�生殖巣前半部の体細胞で発現する膜タンパク質Aは生
殖幹細胞形成に必要である
a, b) 膜タンパク質AのmRNAは胚の生殖巣前半部の体細胞
特異的に発現する。(左: 前. 青,赤: 膜タンパク質AのmRNA, 緑:
始原生殖細胞)c) 膜タンパク質A をコードする遺伝子の機能を
ノックダウンすると、生殖幹細胞が形成されない卵巣小管が
見られる。(緑: 体細胞, ピンク:生殖系列の細胞)
�幹細胞は組織の発生や新陳代謝、再生に重要な役
割を果たしています。私たちは、ショウジョウバエ卵
巣の生殖幹細胞をモデル系にして幹細胞の形成機
構を研究しています。細胞移植技術や分子生物学
的、遺伝学的手法を用いて、「幹細胞への発生運命
決定機構」,
「幹細胞形成時期まで
stem-cell
precursor の未分化性を維持する機構」, 「ニッチ (幹
細胞の維持に必要な微小環境) の形成機構」の解
明を目指しています。�
細胞の運命決定�
器官は様々な細胞により構成されています。特に神経系は多種多様な細胞から成り立っており、
それぞれの細胞は組織の決まった位置に正確に配置されています。私たちはこの神経系を構成
する細胞の運命決定過程を中枢神経系や複眼を用いて調べています。複眼は個眼という構成単
位が多数集合することにより形成され、個々の個眼は10種類、20個程度の細胞から成り立って
います。そしてこれらの細胞は、もとは互いに等価な未分化細胞から発生することが知られていま
す。そこで私たちはこの細胞の多様化の過程、つまり等価な未分化細胞の集団からどのように
して高度に秩序立った機能的な器官が作りだされるのか、そのメカニズムを研究しています。
生物学的形態の決定機構�
私たちは以前に、組織内における細胞の形態が細胞膜の張力や接着性といった膜の物理的性
質に基づいて決定されていることを示しました。そこで現在はより一般的に、それぞれの器官、
あるいは生物個体そのものといった生物学的形態がどのような原理に基づいて決定されている
のかについて調べています。器官や個体の形態が決定される際には組織内の物理力に加えて
細胞の増殖速度も重要な役割を担っていると考えられます。そこで現在は生物の形態が物理
����図3�複眼の表面構造とその模式図。
力や増殖速度によりどのようにして決定されるのか、その具体的な機構を調べています。
複眼では種々の細胞がそれぞれ特定の場所
に配置されている。個々の細胞の形態は主に
細胞膜の物理的性質により決定されている。���
最近の主要な論文
 Katsuki, T. et al. Intra-axonal Patterning: Intrinsic Compartmentalization of the Axonal Membrane in Drosophila
Neurons. Neuron 64, 188-199 (2009).
 Hayashi T., Xu C. and Carthew R. W. Cell-type-specific transcription of prospero is controlled by combinatorial signaling
in the Drosophila eye. Development 135, 2787-2796 (2008).
 Suto F. et al. Interactions between Plexin-A2, Plexin-A4, and Semaphorin 6A Control Lamina-Restricted Projection of
Hippocampal Mossy Fibers. Neuron 53, 535-547 (2007).
 Williams, D. W. et al. Local caspase activity directs engulfment of dendrites during pruning. Nature Neuroscience 9,
1234-1236 (2006).
 Hiramoto, M. and Hiromi, Y. ROBO directs axon crossing of segmental boundaries by suppressing responsiveness to
relocalized Netrin. Nature Neuroscience 9, 58-66 (2006).
 Kanai, M. I., Okabe, M. and Hiromi, Y. seven-up controls switching of transcription factors that specify temporal
identities of Drosophila neuroblasts. Dev. Cell 8, 203-213 (2005).
 Hayashi, T. and Carthew R. W. Surface mechanics mediate pattern formation in the developing retina. Nature 431,
647-652 (2004).
 Asaoka, M. and Lin, H. Germline. stem cells in the Drosophila ovary descend from pole cells in the anterior region of the
embryonic gonad. Development 131, 5079-5089 (2004).
 Hiramoto, M. et al. The Drosophila Netrin receptor Frazzled guides axons by controlling Netrin distribution. Nature
406, 886-889 (2000).