総 務 業 務 概 況 試 験 検 査一 覧 究 研 査 調 第5章 行 政 試 験 検 査 結 果 調 査 研 究 研 究 成 果 研修広報等 付 録 1.企画総務部 企画総務1 一般試験研究 (平成15∼17年度、予算額132,000円) 公衆衛生情報に関する調査研究 −情報ドキュメントファイル・データファイルの編集・提供およびデータ検索の標準化に関する研究− 長谷川伸作(企画総務部) 収集・作成されたドキュメント情報のファイル化・データベース化および多元的利用を目的とし、XML化による 汎用化入力方法を確立し、表現形式を統一した文書作成化を試みる。 企画総務2 一般研究 (平成15∼17年度、予算額946,000円) 二・三・四類感染症の発生予防に関する調査研究 中野道晴(研究情報科) 、長野秀樹、伊木繁雄(ウイルス科) インフルエンザサーベイランスの検体採取、輸送システム構築のため、13医療機関に採取・輸送容器、綿棒、培地 を送付し、昨年比3倍の229検体の提供を受け、4.5倍の199株(AH3型84、B型115)を分離した。 企画総務3 応募研究(大同生命厚生事業団地域保健福祉助成金) (平成15年度、予算額500,000円) 感染症発生動向調査情報の即時双方向利用と可視的提供システムの開発 (研究期間:平成15年9月∼平成16年10月) 長谷川伸作、井上 【目的】 仁(鳥取大学メディア基盤センター) 、陶山昭彦( 放射線影響研究所) 感染症発生・流行の情報や伝播解析のための資料提供を目的に、感染症発生動向調査情報のデータベース 化と、遠隔地(各々の地域)からの求めに応じて感染症・地域単位・期間の数値データや加工された情報を自由に閲 覧できる即時双方向性利用(データベースとインターネットの連携)の技術基盤の整備を行う。流行状況を数値・図 表として、リアルタイムに入手し、現況を把握するシステムの構築を行う。地域に密着した患者発生変動の定量的予 測解析法ならびに警報・注意報発信プログラムの開発を行う。 【研究の実績】 多元的情報集約技術の開発と情報の迅速還元:全国および地方における患者発生データの収集・ 集計・解析の処理プログラム改良とそれを用いたデータ処理プロセスの構築を試み、通常の感染症発生状況はもとよ り、危機管理下の緊急時対応下においても、リアルタイムに発生動向を集約し、個別時系列、3-Dグラフ、発生地理 分布(地図表示)するシステムを構築した。① 感染症発生動向調査情報の迅速還元(北海道公衆衛生学雑誌,12, 6270, 1999)② 感染症発生動向調査情報の迅速還元と流行予測(情報処理学会論文誌:データベース,40, No.SIG6 (TOD3), 123-140, 1999) 感染症発生動向調査情報患者情報の解析:感染症発生動向調査患者発生報告データの 解析に統計手法を適用し、感染症発生状況・流行について客観的・体系的に論じた。今回、① 時系列解析による感 染症流行の長期趨勢および周期特性(コンピュータサイエンス,8, 27-40, 2003)② 感染症流行周期に影響を及ぼす 環境要因(情報科学技術研究集会予稿集,40, 115-120, 2003)について検討した。 感染症流行予測モデルによる 流行予測情報提供:先に開発したアルゴリズムに基づく感染症流行の要因の数的処理や時系列周期解析に基づいて、 感染症の発生傾向を捕らえ、流行注意報・警報発令を付加した短期的流行予測および年間増減を推測する長期的流行 予測を試み、流行予測の可能性を探った。(小児内科,37, 22-30, 2005) 即時双方向性利用のためのインターネッ ト・データベースサーバ連携システムの構築:今回、遠隔地から閲覧可能で、入力された条件(必要な区域単位、期 間)に応じて検索した結果をリアルタイムで動的にグラフとして提供するシステムを開発した。流行予測の提示方法 についても検討した(情報管理,46, 383-388, 2003) 【考察】 本研究の実施により、全国・他府県・地域間データの連携・解析を伴った「感染症発生動向調査情報」の 迅速かつ定期的な提供がなされるようになり、各疾病発生の経時変化、都道府県別、医療圏別間データ等の比較検討 が可能となる。感染症患者発生・流行等の迅速な把握ならびに情報の有機的活用が期待される。 ― 65 ― 2.健康科学部 健康科学1 重点領域特別研究 (平成15∼17年度、予算額4,352,000円) 室内空気質に関する予防医学的研究と化学物質過敏症の遺伝子診断法の開発 小林 智、小島弘幸、武内伸治(生活保健科) 、神 和夫(健康科学部) 室内空気汚染に伴う健康被害を防止するために、北大大学院薬学研究科、旭川医大健康科学講座と標記課題につい て共同研究を実施した。平成16年度は症状が発生した建物内の空気質の調査とバイオアッセイ系を用いた室内空気中 化学物質74種の生体影響評価を行った。また、化学物質過敏症の診断に有用なマーカー遺伝子の探索のために、健常 者と患者で発現している遺伝子を比較検討し新しい知見が得られた。 健康科学2 重点領域特別研究 (平成16∼17年度、予算額2,548,000円) 北海道における住宅等の室内空気質の調査と改善方法の検討 小林 智、小島弘幸、武内伸治(生活保健科) 、神 和夫(健康科学部) 平成15年7月に建築基準法が改正され、室内空気質に配慮した規制が始まった。法改正に伴う室内空気質の改善状 況と問題点を把握するために、北海道で新築された高気密住宅等の室内空気質、使用建材、気密性能、換気量の測定 を行っている。平成16年度は現場測定方法・分析法の検討、及び新築住宅37棟(居間、寝室)と学校3校各10∼12教 室について調査を実施し、解析した。 健康科学3 一般試験研究 (平成15∼17年度、予算額111,000円) 北海道における花粉症の予防に関する研究 小島弘幸、武内伸治、小林 智(生活保健科) 、神 和夫(健康科学部) 血中のヒト抗ハンノキ花粉IgE抗体および抗イチイ花粉IgE抗体を測定するため、花粉抽出抗原を利用した簡便で 安価な蛍光酵素抗体(ELISA)法を確立した。花粉症を含む19名の被験者について調べたところ、イチイ花粉抗体 の保有を認めなかったが、ハンノキ花粉抗体の保有を認め、この抗体価はシラカバ花粉抗体価と良く相関することを 認めた。このことから、ハンノキとシラカバ花粉には共通した抗原の存在が示唆された。 健康科学4 一般試験研究 (平成16∼17年度、予算額284,000円) ラットを用いた環境化学物質による内分泌攪乱作用に関する研究 小島弘幸、武内伸治、小林智(生活保健科) 北海道のゴルフ場などで多く使用されている有機リン系殺菌剤トルクロホスメチル(Tol)のエストロゲン様作用 についてラット子宮肥大試験により調べた。陽性対照物質であるビスフェノールA(200 mg/kg、皮下)投与で子宮 重量の有意な増加を認めたが、Tolは200, 400, 800 mg/kgのいずれの投与量においても子宮重量に影響を与えなかっ た。 健康科学5 応募研究(財団法人日本科学技術振興財団) (平成15∼17年、予算額1,103,100円) ジフェニルアルシン酸等の健康影響に関する調査研究 神 和夫(健康科学部) フェニルアルソン酸(PAA)はジフェニルアルシン酸(DPAA)とともに毒ガス由来の化合物である。PAAの超 高感度定量を目的として、水素化合物発生-超低温捕集-沸点別分離-ICPMS法の適用を試みた結果、PAAはNaBH4 と反応してフェニルアルシン(C6H5AsH2)を生ずることが初めて確認された。システムの最適化により、0.1N塩酸 1mL中、Asとして0.002ngのPAAの検出が約10分で可能になった。これは既報値の中で最も高感度の値であり、特に 塩濃度の高い試料中のPAA(及びDPAA)のpptレベルのスクリーニング法として用い得ると考えられた。 ― 66 ― 健康科学6 応募研究(文部科学研究) (平成16∼17年度、予算額1,000,000円) シックハウス症候群の病態の分子生物学的解析に基づく生化学的検査法の開発に関する研究 小島弘幸(生活保健科) 化学物質過敏症と診断された患者の血液から末梢血単核球を調製し、細胞内の遺伝子発現変化をDNAマイクロア レイ法を用いて網羅的に解析した。検査法の開発に繋がるマーカー遺伝子としての可能性を秘めたいくつかの遺伝子 を見出した。 健康科学7 一般試験研究 (平成16年度、予算額300,000円) 道内温泉の化学成分の質と安全性に関する調査研究 内野栄治、青柳直樹、市橋大山(温泉保健科) 当所で蓄積してきた温泉成分データを活用し、道内温泉の質・安全性の科学的評価や適切な温泉開発及び利用策の 提言を行うことを目的とする。1963∼2004年に当所で分析した1919件(約80,000項目)をデータベース化した。また、 火山周辺地域(有珠山、駒ヶ岳、登別地区)における温泉成分の経年変化を明らかにした。更に、公共用水域の水質 保全面からヒ素、ホウ素、フッ素を、北海道遺産に選定されたモール泉の関連で腐植質を取り上げ、それぞれについ て取りまとめた。(本研究は重点領域研究「温泉資源の多面的利活用に向けた複合解析研究」(H17∼19)に発展的に 移行した) 健康科学8 一般試験研究 (平成15∼17年度、予算額130,000円) 放射性物質の動態及び放射線の生体影響に関する調査研究 −道南地域における放射線量率の分布及び放射性セシウムの動態について− 佐藤千鶴子、横山裕之(放射線科学科) 、福田一儀(健康科学部) 地域別の空間放射線量率の分布および環境試料中の放射性セシウム含有量等のレベルを把握し、北海道全域におけ るそれらのマップ作成を目的とする。平成16年度には、道南の厚沢部町及び七飯町において、牧草地の空間放射線量 率を現地調査し、生牧草、土壌、原乳、飼料など環境試料(51試料)を採取して放射能分析を行った。 健康科学9 一般試験研究 (平成16∼18年度、予算額113,000円) 電磁界の健康影響に関する基礎的な調査研究 −超低周波領域の電磁界によるばく露量について− 横山裕之、佐藤千鶴子(放射線科学科) 、福田一儀(健康科学部)、本間 寛(衛生研究所) 日常生活における、超低周波領域の電磁界による平均的なばく露量を把握するため、平成16年度は13名の協力者に 携帯型の磁界測定器を1週間程度装着してもらって計測した。 健康科学10 重点領域特別研究事業 (平成14∼16年度、予算額3,5421,000円) 先天性銅代謝異常症(ウィルソン病)の包括的医療システムの構築 −3歳児健診を利用したウィルソン病スクリーニングの導入− 中山憲司、斉藤明子、西村一彦、桂 工学科)、市原 本間 英二(健康増進科)、鈴木智宏、孝口裕一、加藤芳伸(生物科学部遺伝子 侃(企画総務部企画情報室)、澤田幸治(衛生研究所) 、田村正秀(医療法人ひまわり会札樽病院)、 寛(衛生研究所)、小林邦彦、有賀 正(北海道大学医学部小児科)、藤枝憲二(旭川医科大学小児科)、高後 裕(旭川医科大学第三内科)、宍戸直美、中村正雄(旭川医科大学化学教室) 、田村 所超分子分光分野) 、寺井 【目的】 守(北海道大学電子科学研究 格(北海道医療大学医療科学センター) ウィルソン病(WND)は、遺伝性(先天性)銅代謝異常症である。本疾患では、日常生活において摂取 される銅(Cu)が正常に肝臓から胆汁中に排泄されずに多量に肝臓・腎臓・脳に蓄積し、幼児期に重篤な進行性肝 障害や中枢神経障害を生じさせると考えられている。その原因は、ATP7Bと呼ばれるCuの細胞内輸送を担う膜蛋白 質遺伝子の異常にある。WNDの発生頻度は、およそ3万人に1人と推定されている。しかし、WNDは、Cuと結合 するキレート剤を用いてCu排泄を促進することにより、肝障害や中枢神経障害等の重篤な症状を呈する前に治療が ― 67 ― 可能なことから、早期診断法の開発・導入が強く望まれている。 本研究は、WNDの早期診断法を開発し、道内各自治体で実施されている3歳児健診を利用したWNDスクリーニン グシステムを構築し運営することを目標とした応用的研究と、WNDの発症メカニズムの解明を目的とする基礎的研 究の2つの側面から実施された。 【方法】 WNDスクリーニングは、独自に開発した自動分析法を用いた。遺伝子検査では、ダイレクトシークエン ス法を応用した。また、DNA障害に関する研究では、コメット法と生体重金属測定手法を用いた。 【結果および考察】 WNDの早期診断法に関する現在までの研究から、幼児及び学童健診時の尿検体を用いた尿中 セルロプラスミン(Cp)濃度を指標とした方法が早期診断法として最も有望視されている。そこで我々は、平成14 年度にラテックス免疫凝集比濁法を用いた尿中Cp濃度自動分析法を開発し、簡便で効率的な尿検体分析を可能とし た。また、道央3市の協力のもと3歳児健診を利用したWNDスクリーニングシステムのモデルを構築した。そして、 平成15∼16年度では道内8市4町を対象にWNDスクリーニングを実施した。2年間で3歳児健診受診児の90.6%に あたる11,362人がWND検査を受診した。スクリーニングの結果、尿中Cp濃度低値を示した精密検査対象児の中から、 2名のCu代謝異常を呈する幼児が発見され、専門医療機関においてWNDの発症に備え経過観察がなされている。ま た、スクリーニングの事業化に関する検討も行い、各市町村の協力のもと、1人1,000円程度の受益者負担で検査が 可能とした。以上の結果から、3歳児健診を利用した尿中Cp濃度自動分析法によるWNDスクリーニングを完成させ た。 また、WND遺伝子検査法を確立し、WNDでの家系内検索の重要性を明らかにすると共に、発症前WND患者2名 を発見し、早期治療へと導くことに成功した。 基礎的研究では、WNDモデル動物(LECラット)を用いた実験により、WNDにおける急性肝炎発症時でのDNA 障害は肝細胞よりも腎皮質細胞で激しいことを明らかにした。 健康科学11 一般試験研究 (平成15∼16年度、予算額261,000円) 健康科学に関する研究−脂肪酸の高感度分析法の検討− 西村一彦、桂 【目的】 英二(健康増進科) 脂肪酸の高感度分析を目的とし、脂肪酸蛍光誘導体の逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で詳細 な分離挙動を解明するとともに、脂肪酸の同定に有効な脂肪酸分子量情報が得られる高速液体クロマトグラフ質量分 析法(HPLC/MS)の検討を行った。 【方法】 9-アンスリルジアゾメタン(ADAM)(フナコシ製)1mgを褐色バイアルに秤量し,メタノール1mlを 加え約0.1%ADAM反応溶液とした.反応溶液は用事調製をした。炭素数14∼22、二重結合数0∼6までの主要な13 脂肪酸標準品を蛍光誘導体化し、その分離挙動を検討した。HPLCにはL-7000シリーズ(日立製作所製)を、HPLC/MS にはAS2010(島津製作所製)を用いESIで分析をした。 【結果および考察】 メタノール100%からアセトニトリル100%へ移動相を変化させた時、脂肪酸ADAM誘導体はU 字型の保持曲線を示した。この時、不飽和脂肪酸に比べ飽和脂肪酸の保持時間増加が大きく、メタノール100%での 保持時間が近く、二重結合数に差がある脂肪酸ADAM誘導体で溶出順番の逆転が認められた。他の誘導体、遊離脂 肪酸でも同様の現象が確認できたことから脂肪酸部分が溶出逆転に影響を与えていると考えられた。また移動相中の 水含量を増加させた時、炭素数の多い脂肪酸の保持時間増加がより大きく、有機溶媒100%での保持時間が近く、炭 素数に差がある脂肪酸ADAM誘導体で溶出順番の逆転が認められた。 脂肪酸ADAM誘導体のHPLC/MS分析ではすべての脂肪酸ADAM誘導体から共通に検出されたm/z191と脂肪酸の 同定に必要な分子量情報が得られる[M+N]+のイオンが検出された。これらのイオンを用いることで脂肪酸を高感 度で分析可能となり、赤血球や豚抗酸菌中の微量な脂肪酸を分析することができた。 健康科学12 応募研究(財団法人北海道食品科学技術振興財団) (平成15∼16年度、予算額300,000円) 免疫機能におよぼす亜鉛摂取とたんぱく質摂取の相互作用 斉藤明子(健康増進科) 、原 【目的】 博(北海道大学農学研究科) 亜鉛欠乏およびたんぱく質欠乏はともに免疫機能を低下させる。これらの栄養素の軽度な欠乏が互いにど ― 68 ― う関連しているかを明らかにするにあたり、まず、両栄養素とも極端な体重増加の減少がみられない程度の欠乏とし たとき、細胞性免疫におよぼす両栄養素それぞれの影響および相互作用を検討した。 【方法】 4週令のSD系雄ラット用い、飼料中たんぱく質レベルを2段階(5および10%たんぱく質) 、亜鉛レベル を3段階(5、10、30mg亜鉛/kg)とした6種類の飼料にて、3週間飼育した。3週目に亜鉛とたんぱく質のみか けの吸収を求めた。飼育終了日、麻酔下で開腹、腹部大動脈より採血し、血清中の亜鉛、アルブミン濃度およびコル チコステロン濃度を測定した。また、脾臓リンパ球の増殖反応、胸腺リンパ球のサブポピュレーションを解析した。 【結果および考察】 本実験で設定したレベルにおいては、体重増加、臓器重量などへの影響はたんぱく質レベルに のみ依存し、亜鉛レベルの影響はみられなかった。しかし、脾臓重量では、両栄養素の交互作用がみられた。亜鉛の みかけの吸収は、飼料中の亜鉛含量およびたんぱく質含量により影響を受け、また、交互作用もみられた。たんぱく 質のみかけの吸収率は飼料中両栄養素含量の影響を受けたが、交互作用は認められなかった。 血清中アルブミン濃度は、飼料中たんぱく質レベルにのみ依存し、飼料中亜鉛レベルには影響されなかった。血清 中亜鉛濃度は、飼料中亜鉛レベル、たんぱく質レベルのどちらにも影響され、また、両栄養素の交互作用もみとめら れた。すなわち、低たんぱく質群内では、亜鉛レベルの影響はみとめられないが、標準たんぱく質群内では、飼料中 亜鉛レベル増加により、血清中亜鉛濃度は増加した。コルチコステロン濃度は、個体間のばらつきが大きく、飼料の 影響はみとめられなかった。 今回の実験条件は、胸腺Tリンパ球の分化に対して影響を及ぼさなかった。たんぱく質レベルの低下は、ダブルネ ガティブポピュレーションの増加傾向、ダブルポジティブの減少へ影響した。脾臓リンパ球は、低たんぱく質飼料群 で、有意に応答の低下がみとめられ、また、標準たんぱく質群では5mg/kg亜鉛群のみで有意な低下がみられた。 以上のことから、亜鉛の欠乏が予測されるとき、たんぱく質不足であると亜鉛を単独に摂取しても血中亜鉛濃度が 上がらないとともに、細胞性免疫の機能の回復には至らないことが推測された。 健康科学13 一般試験研究 (平成14∼16年度、予算額870,000円) 食品安全対策調査研究 道産農産物の安全性確保に関する調査研究 −農薬によるホルモン受容体を介した内分泌攪乱作用に関する研究− (−農薬によるホルモン受容体を介した内分泌攪乱作用の評価−) 小島弘幸、武内伸治(生活保健科) 、桂 英二(健康増進科)、新山和人(食品薬品部食品科学科) 【目的】 これまで我々は、食品の安全対策に関する調査研究の一環として、感度及び特異性の優れたレポーターアッ セイ法を確立し、北海道で使用されている農薬を含む200種類の農薬について、エストロゲン受容体(ERα)やアン ドロゲン受容体(AR)を介した内分泌攪乱作用を明らかにしてきた。本研究では、さらに、ERβ、甲状腺ホルモン 受容体(TRβ) 、レチノイドX受容体(RXRα)を介した作用を検出するためのレポーターアッセイ法を新たに確立 し、農薬200種類によるこれらの作用の有無を調べた。 【方法】 チャイニーズハムスター卵巣由来細胞に、ERβ、TRβあるいはRXRαの発現プラスミド、受容体応答 配列を組み込んだそれぞれのレポータープラスミドを一過性に導入した。受容体へのアゴニスト作用は、試験物質と する農薬を細胞に添加した後培養し、誘導されたルシフェラーゼの酵素活性を測定した。アンタゴニスト作用は、 ERβではエストラジオール、TRβではトリヨードチロニン、RXRαでは9シスレチノイン酸の一定濃度をそれぞ れ試験物質とともに添加して測定した。なお、試験物質の農薬を化学構造の類似性から9つの系統(有機塩素系、ジ フェニルエーテル系、有機リン系、ピレスロイド系、カーバメイト系、酸アミド系、トリアジン系、尿素系、その他) に分けて評価した。 【結果】 各受容体に応答する3種の高感度レポーターアッセイ法を確立した。農薬200種類の各受容体に対する作 用を測定した結果、33種類がERβアゴニスト作用、2種類がERβアンタゴニスト作用を示した。一方、試験した農 薬にはTRβおよびRXRαに対するアゴニスト・アンタゴニスト作用を認めなかった。 【考察】 我々は既に、多くの農薬がERαアゴニスト作用およびARアンタゴニスト作用を示すことを明らかにして いるが、今回の試験により、ERβに対する作用についてもERαと同様の傾向が示された。対照的に、ほとんどの農 薬はTRおよびRXRに対するアゴニスト・アンタゴニスト作用を有しないことが示唆された。このことは、内分泌撹 ― 69 ― 乱作用を有すると疑われる化学物質を探索する上で重要な知見と考えられる。今回確立したアッセイ系は、感度およ び特異性に優れているため、約10万種以上存在するとされる身の回りの化学物質から内分泌撹乱作用を検出するため の方法として有用であると考えられる。 健康科学14 民間等共同研究 (平成16年度、予算額300,000円) 遺伝子導入細胞を用いた内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の検出に関する研究 小島弘幸、武内伸治(生活保健科) 、飯田 【目的】 満(大塚製薬㈱診断事業部) レチノイドX受容体(RXR)はビタミンAの代謝物である9シスレチノイン酸(9cRA)がリガンドとな り、生物の発育、成長および恒常性維持に重要な役割を果たしている。最近、船底塗料や漁網の防汚剤として用いら れる有機スズ化合物がRXRを介してイボニシ貝の生殖異常を引き起こすことが報告された。このことから、環境化 学物質によるRXRを介した内分泌撹乱作用は、性ホルモン様作用と同様に極めて憂慮される問題と考えられる。今 回、我々は哺乳動物細胞を用いたRXR応答性レポーター遺伝子アッセイ法により、55種類の環境化学物質について RXRアゴニスト・アンタゴニスト活性の有無を調べた。 【方法】 チャイニーズハムスター卵巣由来細胞にヒトRXRα発現プラスミド、RXR応答配列(DR-1)を組込んだ レポータープラスミド及びコントロールプラスミドを一過性に導入した。試験物質として難燃剤・可塑剤・有機スズ 化合物など55種類あるいは9cRAを様々な濃度で添加後培養し、誘導されるルシフェラーゼの酵素活性を測定した (アゴニスト活性)。アンタゴニスト活性は、9cRA(2.5x10-7M)存在下で試験物質を添加し、ルシフェラーゼの発現 誘導を抑制する作用により評価した。 【結果】 4-ノニルフェノールに10-5Mの濃度で約35%のRXRアゴニスト活性を示した。さらに、有機スズ化合物の トリブチルスズ(TBT)、トリフェニルスズ(TPT)、トリシクロヘキシルスズは各10-7Mの濃度でそれぞれ、98%、 99%、50%のRXRアゴニスト活性を示した。他の難燃剤・可塑剤・PCBおよびフタル酸エステル類などの化学物質に はRXRアゴニスト活性を認めなかった。また、55種類の試験物質において、RXRアンタゴニスト活性を認めなかっ た。 【考察】 RXRはTBTやTPTに対して、とりわけ高い結合性を有していることが示唆された。RXRアゴニストによ る内分泌攪乱の機序として、エストロゲン合成酵素であるアロマターゼ遺伝子の発現抑制作用がin vitroで報告され おり、イボニシ貝の生殖異常に関与していると考えられる。これまで環境化学物質においてRXRアンタゴニスト活 性は報告されていないことから、この作用は薬剤などに限定されると考えられる。今回の試験に用いたRXR応答性 レポーター遺伝子アッセイ法は、約10万種類といわれる身の回りの化学物質からRXRアゴニスト・アンタゴニスト 活性を検出する方法として有用であることが示唆された。 健康科学15 一般試験研究 (平成12∼16年度、予算額521,000円) 放射性物質の動態及び放射線の生体影響に関する調査研究―貝類のベリリウム-7の動態についてー 福田一義(健康科学部) 、佐藤千鶴子、横山裕之(放射線科学科)、青柳直樹(温泉保健科) 【目的】 対流圏の上層部において宇宙線が関与して生成するベリリウム-7(Be-7;半減期53.6日)は、樹木の葉や 牧草の他にもホッキガイ、ホタテガイ、イガイ等の貝類から検出されている。当課題は、ホッキガイ及びホタテガイ を対象に、Be-7及びBeの取り込み部位とその量、濃縮係数、季節変動等の解明を目的とする。 【方法】 平成12年度から16年度までに、厚田郡厚田村において石狩湾産のホッキガイ、茅部郡森町において噴火湾 産のホタテガイを採取し、各5部位にわけて灰化処理し、元素分析(カリウム(K)、カルシウム(Ca)、Be)及び放射 性核種分析(Be-7、セシウム-137(Cs-137)、ストロンチウム-90(Sr-90)を実施した。ホッキでは貝柱、筋肉と足、 ひも、内臓、貝殻に、ホタテガイでは貝柱、ひもとえら、生殖腺、中腸腺、貝殻に分別し、貝1個当たりのそれぞれ の平均的な生重量及び部位別の全量を記録した。 元素分析は原子吸光分光光度計、Be-7とCs-137はゲルマニウム半導体検出装置、Sr-90は化学的な分離操作によっ て娘核種のイットリウム-90を単離してガスフロー型の低バックグラウンド放射能測定装置を用いて行った。 【結果及び考察】 ホッキガイのむき身(内臓を除く)及びホタテガイのむき身(中腸腺を除く)のBe-7含有量 (Bq/kg生)は、各々0.5∼1.3及び1.3∼4.0であり、ホタテガイの方がホッキガイよりもやや高いレベルで推移した。 ― 70 ― ホッキガイの内臓及びホタテガイの中腸腺と生殖腺は他の部位よりも高いレベルであった。 ホッキガイ及びホタテガイのむき身のBe含有量(μg/kg生)は、各々2.0∼6.3及び0.3∼0.6であり、ホッキガイの 方がホタテガイよりも高い。海水のBe濃度(μg/L)の測定値はないが、仮に2.5×10-4の値を適用してBeの濃縮係数 を算出すると、ホッキガイでは(0.8∼2.5)× 104、ホタテガイでは(1.3∼2.5)× 103であった。 Cs-137はホタテガイからは検出されないのに対してホッキガイの内臓と筋肉から検出されることがあったが、Sr90はホタテガイ及びホッキガイのどの部位からも検出されなかった。 貝1個当たりのBe及びBe-7については、ホッキガイでは筋肉と足及びひもの部位に、ホタテガイではひもとえら 及び生殖腺の部位にその大部分が取り込まれていることがわかる。なお、ホッキガイの内臓及びホタテガイの中腸腺 については、その占める重量は小さいもののBe及びBe-7の取り込み量は35%に達することもあり、可食部から除外 することによって摂取量は低減される。 貝1個当たりのBe及びBe-7含有量を比較すると、Be(ng/個)はホッキガイ(175∼275)>ホタテガイ(17∼87)、 Be-7(mBq/個) はホタテガイ(75∼248)>ホッキガイ(35∼70)との結果が得られた。その要因として、ホタテ ガイは海中に耳吊り状態で養殖されているのに対して、ホッキガイは浅海砂底に生息していて減衰したBe-7及び海 底に堆積したBeやCs-137を取り込んでいることによると推察している。 3.食品薬品部 食品薬品1 受託試験研究 (平成15∼17年度、予算額5,000,000円) 汎用農薬分析調査試験等の試験検査(残留農薬分析法開発) 新山和人、青栁光敏(食品科学科) 現在までに食品衛生法に基づく残留農薬基準が設定されている農薬について、GC/MS一斉分析法の適用のため、 35種の農薬について分析に関する基礎データの作成を行った。 食品薬品2 一般試験研究 (平成15∼17年度、予算額300,000円) 新たな抗酸化活性を有する道産食品・未利用天然資源の検索 林 隆章(薬品保健科) 平成16年度は、アルツハイマー病の脳におけるHNE生成について、in vitro における反応系を用いて検討した。 アルツハイマー病の特徴はアミロイドベータ蛋白の凝集・沈着とそれに密接に関与する酸化的障害(活性酸素生成、 蛋白の酸化、脂質過酸化)である。特に、脂質過酸化により生成するHNEはアルツハイマー病の発症における毒性 因子として提唱されている。本研究で、アミロイドベータ蛋白に結合した銅イオンがPLPC-OOHと反応してHNEが 生成されることを明らかにした。そのHNE生成はトリエンチンなどの銅キレーターで抑制可能なことが示された。 食品薬品3 一般試験研究 (平成16∼18年度、予算額300,000円) 北海道産薬用植物の化学的品質評価法に関する研究 −北海道産生薬の残留農薬実態調査及び調製加工中における成分変動に関する研究− 姉帯正樹、佐藤正幸、南 収(薬用資源科) 北海道産生薬の安全性の確保と品質の向上を図ることを目的として、生薬に残留する有機リン系農薬22種の分析法 を検討し、当帰などについて分析法を確立した。更に、調製法別に川 などについて成分定量試験を行った。 食品薬品4 応募研究(厚生労働科学研究(食品の安全性高度化推進事業) ) (平成16年度、予算額200,000円) ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究 高橋哲夫 食品経由のダイオキシン摂取量を把握するためにマーケットバスケット方式による調査を行った。当所では北海道 地域における調査試料の調製を行った。ダイオキシン類の分析は分析担当機関が行い、全国的な調査結果は研究報告 書として後日公表される予定。 ― 71 ― 食品薬品5 応募研究(厚生労働科学研究(食品の安全性高度化推進事業)) (平成16∼18年度、予算額50,000円) 日常食中の汚染物質摂取量調査 高橋哲夫 農薬、重金属などの食品汚染物質の摂取量を把握するためにマーケットバスケット方式による調査を行った。当所 では北海道地域における調査試料の調製を行った。汚染物質の分析は分析担当機関が行い、全国的な調査結果は研究 報告書として後日公表される予定。 食品薬品6 一般試験研究 (平成14∼16年度、予算額129,000円) 抗がん剤によるがんの化学療法に関する研究 −新規抗がん剤開発のための基礎的研究− 兼俊明夫(食品薬品部) 、藤本 【目的】 啓(薬品保健科) アイヌ民族伝承有用(薬用・食用など)植物や本道において植栽可能な薬用植物の未利用部位などについ て抗がん活性物質の探索を行うことにより、本道に自生する植物資源の有用性の一端を科学的に検証するほか、新規 抗がん剤の開発のための基礎的知見を得ることを目的とした。 【方法】 本道に自生するアイヌ民族伝承有用植物などについて、植物採集・分類、抽出エキスの調製を行い、協力 研究機関である北海道大学大学院地球環境科学研究科が3種の肺がん細胞を用いて、抗がん活性を測定する。抗がん 活性が認められた植物については、活性成分の分画・単離を行い、さらに、活性成分の作用機作についても検討を行 う。 【結果および考察】 1.アイヌ民族伝承有用植物129種を部位別に分けて調製した243試料、および衛生研究所薬用植物園にて植栽されて いる薬用植物の未利用部位28種29試料、合計157種272試料についてエキスを調製し、3種類のヒト肺がん由来培養 細胞を用いて抗がん活性スクリーニング試験を行った。 2.アイヌ民族伝承有用植物では38種51試料に抗がん活性が認められ、アイヌ民族に伝承されている有用植物群には 抗がん活性などの薬理活性を有する植物が多く存在することを明らかにした。 3.薬用植物の未利用部位のスクリーニング試験で高い抗がん活性を示したオキナグサ(地上部)およびカラスビシャ ク(地上部)について大量分取を行い、オキナグサよりβ- ペルタチンを、カラスビシャクから2種のフェオフォ ルビド誘導体を、それぞれ活性成分として単離した。 4.アイヌ民族伝承有用植物のスクリーニング試験で抗がん活性を示したナナカマド(若葉・若芽)およびチシマア ザミ(地上部)の抗がん活性成分がカラスビシャクから単離された2種のフェオフォルビド誘導体と同じであるこ とを確認した。 5.2種のフェオフォルビド誘導体を含む活性画分による肺がん細胞の細胞周期に及ぼす影響を調べたところ、G1 期(第1休止期)においてアポトーシス(自発的な細胞死)を誘導するという作用機作が明らかとなった。 食品薬品7 一般試験研究 (平成14∼16年度、予算額2,856,000円) 食品安全対策調査研究 道産農産物における農薬残留と安全性等に関する調査研究 新山和人、青栁光敏、宇野豊子、久保亜希子(食品科学科) 【目的】 1998年5月に環境庁が内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質68種のリストを公表したが、このリス トに含まれる農薬のうち、北海道での使用量が多いと思われる農薬の使用実態および最終農産物への残留実態を明ら かにする目的で、平成11∼13年度に引き続き、3年間の調査を行った。 【方法】 農薬の使用実態調査は、アンケート方式により行った。対象とした農薬は除草剤4種(アトラジン、アラ クロール、トリフルラリン、メトリブジン)、殺虫剤6種(エンドスルファン、カルバリル、シペルメトリン、フェ ンバレレート、マラチオン、メソミル)、殺菌剤5種(ジネブ、ジラム、ベノミル、マンコゼブ、マンネブ)の15種 類である。3年間で8保健所管内延べ140農協に対し、使用状況に関するアンケートを送付し回答を得た。また、得 られたデータを集計した結果から、使用量が多いと考えられる農薬と農産物の組み合わせを選び、3保健所管内の6 ― 72 ― 農協から9種農産物の買い取りを行い、8種農薬について延べ341件の農薬残留調査を行った。 【結果および考察】 使用実態調査の結果、調査期間を通じて各農薬の使用量、使用対象農産物、使用時期等に関し て共通の傾向がみられた。またマンコゼブの使用量が、他の農薬に比較して顕著に多いことが判明した。 除草剤(トウモロコシおよびダイズ中のアトラジンおよびアラクロール)および殺菌剤(モモ中のジラム)の残留 実態調査を行ったが、何れも農薬は検出されなかった。平成11∼13年度の調査でも同様の結果を得ており、今回調査 した除草剤および殺菌剤は残留性が低いと考えられる。 殺虫剤については、7種農産物中の5種農薬の残留調査を行った。玄米中のマラチオン、バレイショ中のシペルメ トリンおよびフェンバレレート、キャベツおよびダイコン中のフェンバレレート、ダイコン中のカルバリルは残留が 認められなかった。リンゴおよびモモ中のカルバリル、ダイコンおよびキャベツ中のシペルメトリン、イチゴ中のメ ソミルなど一部残留が認められた。特に果実中のカルバリルは使用履歴があると必ず残留することが明らかとなった。 リンゴ中のカルバリルについて、農薬使用の条件が他の生産者と同じでありながら、農薬残留値が低い事例が見ら れ、農産物の農薬低減化の可能性が期待される。 食品薬品8 一般試験研究 (平成14∼16年度、予算額1,804,000円) 食品安全対策調査研究 水産加工食品中の有機塩素系農薬およびPCBの残留に関する調査研究 長南隆夫、平間祐志、橋本 【目的】 諭、上野健一(食品保健科) 魚介類中に残留する有機塩素系農薬およびPCBの残留調査は広く行われているが、消費量が多く、多種 類の魚介類を原料とする水産加工食品中のこれらの残留については、報告が少ない。そこで、道内で流通する水産加 工食品中に残留する有機塩素系農薬およびPCBを調査し、その安全性を検討した。 【方法】 平成14∼16年度に、札幌市内の食品販売店で購入した缶詰、練り製品、魚卵加工品等約20種の水産加工食 品(108試料)に残留する有機塩素系農薬18種(BHC、DDT、アルドリン、エンドリン、ディルドリン、ヘプタク ロル、クロルデンなど)およびPCBを調査した。試験部位は可食部とし、試験法は、公定法に準じた。 【結果】1.有機塩素系農薬は、缶詰、魚卵加工品、珍味、鯨加工品、鰻蒲焼などから検出され、検出率(検出限界 5ng/g)は24.1%、検出濃度は5∼660ng/gであった。検出された農薬はDDT、BHC、ヘプタクロルであった。 2.PCBは食用油脂を除く試料から検出され、検出率(検出限界2ng/g)は85.2%、検出濃度は2∼4,200ng/gで あった。アンコウ肝缶詰1試料のPCB濃度は、魚介類の暫定的規制値(3ppm)を超えたが、その他の試料のPCB 濃度はすべて規制値未満であった。 3.有機塩素系農薬とPCBの検出率および検出濃度を比較すると、PCBの検出率、検出濃度が有機塩素系農薬の それらより高かった。 4.煮干中に含まれるPCBの出汁への移行を検討したところ、移行率は0.2∼0.3%と低く、煮干中のPCBは出汁へ ほとんど移行しないことが判明した。 【考察】本調査研究で得られた有機塩素系農薬およびPCBの最大検出濃度(暫定的規制値を超えたアンコウ肝缶詰 のPCB濃度は除外)、国民栄養調査で得られた魚介類(水産加工食品を含む)摂取量から、農薬およびPCBの推定最 大摂取量を求め、それらの1日摂取許容量と比較して、水産加工食品の安全性を検討した。その結果、農薬および PCBの推定最大摂取量は、1日摂取許容量を大きく下回ることが判明し、調査した水産加工食品の安全性が確認さ れた。この結果は、水産加工食品の安全性評価に活用でき、道民の安全な食生活に寄与できる食品衛生上有用な知見 と考えられる。しかし、高濃度のPCBおよびDDTが検出されたアンコウ肝加工品および鯨加工品については、今後、 漁獲海域、鯨種、体重等を含めた検討が必要と考えられた。 食品薬品9 民間等共同研究 (平成16年度、予算額500,000円) Sweep Codistillation 装置を用いた脂質中のPCBとPOPsに関する迅速分析法の検討 平間祐志(食品保健科) 、大橋 【目的】 眞、藤井大将(エス・ジー・イージャパン㈱) ポリ塩化ビフェニル(PCB)や難分解性有機塩素系化合物(POPs)は魚類や畜肉、農産物に残留するた め、食品の安全性を確保するうえで、それらのモニタリングは重要である。従来の残留分析法には煩雑で長時間を要 ― 73 ― する前処理操作が必要であり、より簡便な前処理法の開発が望まれている。一方、脂質中の揮発性有機化合物の簡便 な抽出機器として、高温にした脂質に窒素ガスを通気して揮発性有機化合物を脂質から分離し、ミニカラムに捕集す るSweep Codistillation装置(SC装置)がエス・ジー・イー㈱ により開発されている。そこで、本研究では、この 装置を用いて牛脂、豚脂中のPCB及びPOPsを簡便に分析するための基礎的な検討を行った。 【方法】 牛脂、豚脂にPOPsまたはPCBの標準溶液を加え、POPsでは50ng/g,PCBでは10ng/gの濃度になるよう に試料を調製した。SC装置及び捕集管の最適条件を明らかにするために、試料0.6mLを注入し、加熱温度、窒素流 量、処理時間、捕集剤としてのフロリジルの活性度等について検討した。捕集管に捕集されたPCB及びPOPsを15% エーテル含有ヘキサン10mLで溶出し、1mLに濃縮後、内部標準物質を添加してGC/MSで定量し回収率を求めた。 【結果と考察】 牛脂に添加したPOPsについてSC装置の最適条件を検討した結果、加熱温度230℃、窒素流量100 mL/分、処理時間30分、フロリジルは130℃で活性化(無水)の条件が良いことがわかった。この条件でPOPs 23成 分について求めた回収率は、δ-HCHとtrans-H.epoxideがそれぞれ62, 170%と添加量からかけ離れた値を示したが、 それ以外は95∼132%(平均109%)の範囲で満足できる結果が得られた。豚脂を用いた試験結果も牛肉と同様の傾向 が見られた。trans-H.epoxide が大きな定量値を与えた原因は、油脂由来の妨害物質がSIMの選択イオンと重なっ たためであり、選択イオンの最適化によって解決できると考えられる。PCBについては62成分の異性体を対象とし てPOPsと同一条件で実験を行い、妨害物質を除去するために、硝酸銀シリカゲルカラムによる精製法についても検 討した。PCBを添加した牛脂をSC装置により処理し、硝酸銀シリカゲルカラムで精製すると妨害物質は除去され、 回収率は43∼139%(平均86%)であった。また、4塩素、5塩素、6塩素化物に含まれる毒性の強いnon-ortho coPCB(IUPAC No. 77,81,126,169)の回収率はそれぞれ139,136,83,78%であった。 以上の結果から、SC装置を脂質中のPCB及びPOPs分析時の前処理に用いることにより、試験溶液を簡便に調製 できること、妨害物質を除くためには、GC/MSの選択イオンの最適化、硝酸銀シリカゲルの併用などが有効である ことが判明し、簡便で精度の高い分析法を構築できる可能性が示唆された。 4.微生物部 微生物1 応募研究(文部科学省科学研究費基盤研究) (平成16∼18年度、予算額150,000円) 野生のニホンジカは人あるいは他の動物種の感染源となりうるか? 山口敬治、森本 洋、池田徹也(食品微生物科) 、鈴木正嗣(北海道大学獣医学部) 野生エゾシカの公衆衛生に対する影響を評価するため、2004-2005年北海道内で捕獲されたエゾシカ44頭の糞便に ついて、腸管出血性大腸菌O157:H7、サルモネラ、カンピロバクターの検査を実施した。3種の細菌はすべての試料 から検出されなかった。 微生物2 外部資金活用研究 (平成14∼17年度、予算額1,500,000円) 病原性変異蛋白質のウルトラハイスループット検査法の確立 −BSEのスクリーニングを目指して− 澤田幸治(衛生研究所) 、池田徹也(食品微生物科) 北海道大学電子科学研究所の田村教授のグループ等と共同で、1から数個の蛍光分子を検出できる超高感度検出シ ステム(FCS)のBSE検査への応用を目指している。検査マニュアルを整備すると共に、平成15年度に引き続いて FCSと従来法(ELISA法およびウエスタンブロット法)の比較を行った。 微生物3 応募研究(厚生労働科学研究) (平成16∼18年度、予算額1,500,000円) エイズ医薬品候補物質のスクリーニングを基盤とした、抗エイズ新薬開発に関する研究 伊木繁雄(ウイルス科) 、本間 寛(衛生研究所) HIVに対する新たな医薬品の開発を目的として企業・大学等から提供された50件の抗HIV薬候補物質を、HIV感 染MT-4細胞に作用させた。5日後、HIVによる細胞変性効果(CPE)を鏡検によって観察し、被検薬剤によるHIV 増殖抑制効果について調べた。その結果、有効と判定されるものが4件、更に分画することで有効となる可能性のあ ― 74 ― るものが6件存在した。 微生物4 一般試験研究 (平成16∼17年度、予算額400,000円) SRSV抗原検出キットを用いたウイルス性集団胃腸炎事例における検査迅速化の検討 三好正浩 吉澄志磨 石田勢津子(腸管系ウイルス科) 、奥井登代(微生物部) ヒト糞便401検体をSRSV抗原検出キットの検討に供し、従来法との比較を行った。その結果、従来法で陽性であっ た検体の61.7%において、陰性であった検体の73.3%において一致した結果が得られた。 微生物5 応募研究(厚生労働科学研究) (平成16年∼18年度、予算額500,000円) ウイルス性食中毒の予防に関する研究 吉澄志磨、三好正浩、石田勢津子(腸管系ウイルス科) 、奥井登代(微生物部) カキ養殖海域のノロウイルス(NV)およびA型肝炎ウイルス(HAV)汚染状況について調査を行ったところ、カ キ、海水ともにNVは流行期の2、3月のみ検出され、HAVは全ての調査期間で検出されなかった。カキ養殖海域流 入に関わる下水処理場において、NVがどの程度除去されるかについて検討したところ、NV除去率は処理場aで約10-1、 処理場bで約10-3であった。また、活性汚泥に大量のNVが吸着し沈殿していることが分かった。 微生物6 応募研究(厚生労働科学研究(新興・再興感染症研究事業) ) (平成15∼17年度、予算額2,500,000円) 食品由来感染症の細菌学的疫学指標のデータベース化に関する研究 長野秀樹(ウイルス科) 、木村浩一、駒込理佳、若森吉広(細菌科) 細菌性腸管感染症の広域化を未然に防止することを目的として、PFGEを基礎としたネットワークの構築が進めら れている。本年度はPFGEデータを用いたコンピューター解析に関する技術的な施設間差について検討した。 微生物7 一般試験研究 (平成13∼16年度、予算額2,7710,000円) 新興・再興感染症対策調査研究:北海道におけるライム病の疫学と診断法の導入に関する調査研究 本間 寛(衛生研究所) 、武士甲一(微生物部)、伊東拓也(衛生動物科) 、長野秀樹(ウイルス科)、 木村浩一、駒込理佳、若森吉広(細菌科) 【目的】 ライム病はダニ媒介性の細菌感染症で、感染症法では四類感染症に指定されている希少感染症ではあるが、 北海道においては注意を要する疾患である。本研究は北海道におけるライム病の野外調査、血清診断法の導入を目的 とした。また、平成13年から本年までの4年間に分離されたライム病ボレリアについて系統樹解析を実施した。 【方法】 マダニは、白フランネル布による旗ずり法により採取し、ボレリア属菌の分離を目的として、マダニの中 腸を摘出し、BSKⅡ培地で培養した。ネズミ類は箱罠により捕獲し、耳介と膀胱を分離材料としてBSKⅡ培地を用 いて培養した。ボレリア属菌が検出された試料中で、雑菌汚染が認められた試料については、フィルター法を用いて ボレリア属菌の純化を試みた。分離されたボレリア属菌からはDNAを精製し、rRNA領域の5S-23S intergenic spacer領域の塩基配列を決定後、菌種を同定した。 【結果および考察】 マダニからのボレリア属菌の分離については、静内町および白糠町で採取したシュルツェマダ ニ521匹から59株が検出された。両地域で捕獲した88個体のネズミ類からは、5株のボレリア属菌が分離された。 DNA試料が得られた11株について5S-23S intergenic spacer領域の塩基配列から、4株(8%)がBorrelia afzelii であり、6株(12%)がB. tanukii、40株(80%)がB. gariniiであったことから、調査地域では、B. gariniiが優位 種であると考えられた。 微生物8 一般試験研究 (平成16年度、予算額300,000円) ボツリヌス神経毒素に対する抗体の作製 駒込理佳、若森吉広、木村浩一(細菌科) 、武士甲一(微生物部) 【目的】 平成14年3月、抗ボツリヌス毒素血清を供給していた千葉県立血清研究所が、同年9月に閉鎖されること が決定され、抗毒素血清の国内確保が困難な状況となることが判明した。ボツリヌス中毒の診断には、抗毒素血清を ― 75 ― 使用したマウス試験が必須であり、また、抗毒素血清には使用期限が存在するため、このままでは、ボツリヌス中毒 の診断が不可能となり、適切な治療を施すことが困難になる事態が想定された。このため、当所において抗毒素血清 を確保する措置を取る必要があると判断し、A型からG型まで7種類あるボツリヌス毒素に対する抗毒素血清の安定 的生産体制を整え、ボツリヌス中毒発生時の診断体制を維持することを目的とした。また、従来の抗毒素血清作製に は、高価な培地で危険なボツリヌス菌を大量培養し、強い毒性を持つボツリヌス毒素を一定量精製した上、これを無 毒化してからウサギなどに免疫する必要があったので、本研究では、抗毒素血清を安全かつ容易に作製する方法の確 立を目指した。 【方法】 すべての型のボツリヌス毒素は、毒性部分と非毒性部分の結合体であるので、非毒性部分を遺伝子工学の 手法によって作り出し、これをウサギに免疫して抗毒素血清を産生させた。 【結果および考察】 遺伝子工学的手法を用い、危険度の高いボツリヌス毒素を利用せずに、安全、安価、かつ容易 に抗ボツリヌス毒素血清を作製する技術を確立した。これにより、強毒なボツリヌス毒素を扱う必要もなく、また無 毒化の操作も不要となり、一連の操作を安全かつ容易に行えるようになった。また、非毒性部分の産生には大腸菌を 用いてボツリヌス菌の培養を不要とし、安価で安定的に免疫を行えるようになった。この技術を使用し、A型および B型ボツリヌス毒素に対する抗毒素血清を作製した。 微生物9 一般試験研究 (平成14∼16年度、予算額1,692,000円) 食品安全対策調査研究−乳・乳製品製造工程の衛生管理法に関する調査研究− 山口敬治、森本 【目的】 洋、池田徹也(食品微生物科) 、玉手直人(現、倶知安保健所) 北海道において農家チーズ・農家牛乳に代表される小規模乳・乳製品製造業が年々増加している。製品は 近年のIT技術の発達や流通形態の変化により全国の消費者に分散流通している。そこで黄色ブドウ球菌を対象菌と し、1)製品の衛生状態を把握し、2)小規模製造業者が製造する乳・乳製品の安全を高めるために簡便、迅速、安価 な衛生管理法を開発し、3)小規模製造業者や行政機関による乳・乳製品の安全性を検証するための簡易な検査法を 検討することを目的とした。 【方法】 北海道で製造されるナチュラルチーズの黄色ブドウ球菌検査を実施した。チーズを4タイプ(フレッシュ タイプ、カビスタータータイプ、セミハードタイプ、ハードタイプ)に分類し結果を集計した。分離した黄色ブドウ 球菌株はPCR法を用いてA∼E、G∼Iの8種のエンテロトキシン遺伝子を検査した。市販の黄色ブドウ球菌簡易検査 培地とポリエチレン製ピペットを用いて検査未習熟者の検査をシミュレートし、平板培養法の検査結果と比較した。 市販ブドウ球菌エンテロトキシン検出キットを用いエンテロトキシン検出感度を上げるために、多量の試料を同一ウェ ルにアプライする方法を検討した。 【結果および考察】 北海道産ナチュラルチーズ535検体を検査した。92.9%のチーズからは黄色ブドウ球菌は検出さ れなかった。7.1%のチーズ中に黄色ブドウ球菌を、3.6%のチーズからエンテロトキシン遺伝子保有黄色ブドウ球菌 を検出したが、汚染菌数は食中毒発生菌量をはるかに下回っていた。黄色ブドウ球菌検出率はフレッシュタイプチー ズでもっとも高く、カビスタータータイプでもっとも低かった。特に、フレッシュタイプは手で整形するモッツァレ ラに検出率が高いなど、チーズタイプごとの衛生管理点が明らかとなった。市販の簡易検査培地を用いた結果は平板 培養法による結果の56∼104%の範囲であり、簡易検査培地とポリエチレンピペットを用いた方法は十分実用に耐え ることがわかった。多量の試料を同一ウェルにアプライする方法はエンテロトキシン検出感度を5倍向上させること ができ、機器整備を必要としないため、小規模乳・乳製品製造施設等で導入可能と考えられた。 微生物10 一般試験研究 (平成16年度、予算額308,000円) レジオネラ属菌及びその宿主アメーバに対する発育抑制物質に関する調査研究 森本 洋(食品微生物科) 、藤本 啓(薬品保健科)、姉帯正樹(薬用資源科) 、兼俊明夫(食品薬品部)、 山口敬治、池田徹也(食品微生物科) 【目的】 ここ数年国内では、温泉利用施設や福祉施設さらには病院内の入浴施設等において、レジオネラ属菌の感 染によるレジオネラ症の発生が相次いで報告され、社会的に問題となっている。本研究では、レジオネラ属菌に対す る新たな衛生対策を模索するために、道産植物の抽出物及び道内の温泉水を利用し、それらがレジオネラ属菌及び宿 ― 76 ― 主アメーバ類に与える影響を調べることを目的とした。 【方法】 Legionella pneumophila 血清群1(GTC296、以下L.p1)に対し、当所で薬用資源として保存している 道産植物抽出物208サンプル(各濃度10,000mg/L)と、過去においてレジオネラ属菌が検出されにくい道内のある温 泉水(ナトリウム−炭酸水素塩泉)1サンプルを利用して、寒天平板拡散法による阻止円の有無・大小により発育抑 制効果を調べた。さらに、特に発育抑制効果が強かった4種類の抽出物を利用して、道内で検出されたレジオネラ属 菌の宿主アメーバ4種類(Acanthamoeba、Naegleria、Hartmannella、Vannella)に与える影響を(抽出物濃度 各10,000mg/L)変法寒天平板拡散法で、水槽(40℃の湯)中に生存しているL.p.1に対する影響を(抽出物濃度各100 mg/L)0∼300分内の経時的な菌数測定により調べた。また、温泉水中にL.p.1を添加し、そこでの動態を経時的菌数 測定によって調べた。 【結果および考察】 道産植物の抽出物208サンプル中119サンプルにおいて、効果に差はあったがL.p.1の発育が抑 制され阻止円が認められた。温泉水では阻止円は認められなかった。特に発育抑制効果が強かった4種類の抽出物の うち、1種類がNaegleria、他の1種類がNaegleriaとHartmannellaの発育を抑制した。水槽(40℃)中に生存して いるL.p.1に対する影響では、抽出物添加前の菌数が1.6×104CFU/0.1mLだったのに対し、植物抽出物ごとに差はあっ たが、10分、30分、90分、300分以内にそれぞれ検出限界以下にすることが確認できた。なお供試温泉水は、L.p.1の 菌数に直接影響を与えることはなかった。 今回の調査研究により、将来レジオネラの衛生対策に有効利用できる可能性のある道産植物抽出物がいくつか認め られた。今後もスクリーニング作業の継続、有効利用法の検討を進める必要があると思われる。 微生物11 民間等共同研究 (平成16年度、予算額1,000,000円) ウイルス抗原検査の精度管理を目的としたインフルエンザ診断試薬の評価研究 長野秀樹、佐藤千秋、伊木繁雄(ウイルス科) 、奥井登代(微生物部) 【目的】 2003年初頭にはSARSの世界的大流行があり、2004年には東南アジア地域における高病原性トリインフル エンザによる死亡者が発生した。さらに、ここ数年、新型インフルエンザの出現が危惧されている。SARS患者との 鑑別という意味も含めて、インフルエンザ患者の早期探知が公衆衛生上重要である。そこで、今回、市販されている インフルエンザ検出試薬の評価を目的として比較検討を行った。 【方法】 インフルエンザ分離材料は、鼻汁あるいは咽頭ぬぐい液50件を用いた。これらの臨床材料から、MDCK、 CaCo-2細胞を用いてウイルス分離を実施した。また、同時に検出試薬キットを用いて陽性・陰性の判定を行い、分 離の結果と比較した。なお、供試診断キットは、 「キャピリアFlu A, B」 (ベクトン・ディキンソン社製)とアイディ ライン(苫小牧臨床検査センター社製)の2種類である。 Aソ連型インフルエンザウイルス、A香港型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルスの臨床株を用 いて、検出試薬の検出限界を求めた。さらに、インフルエンザウイルス以外の呼吸器ウイルスを用いて各検査キット の交差反応について調べた。 【結果および考察】 臨床検体を用いたウイルス分離成績と検査キットの成績とを比較したところ、アイディライン と分離の一致率は86.0%、キャピリアと分離との一致率は88.0%であった。また、それぞれの感度と特異性と算出す ると、アイディラインでは感度89.7%、特異性81.0%で、キャピリアではそれぞれ89.7%、85.7%であった。 それぞれのキットの検出限界を検討したところ、アイディラインでは8.0×103/テスト∼1.3×106/テスト、キャピリ アでは3.2×104/テスト∼1.3×106/テストであった。また、アイディラインについてはアデノウイルス、コクサッキー ウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、パラインフルエンザウイルスに対して反応せず、これらのウイル スに対する交差反応は認められなかった。 このように、今回比較に用いた2つの迅速診断キットは、臨床検体を用いたときの分離成績との比較および検出限 界において両者に違いは認められなかった。従って、両キットは同程度の性能を持つものと思われる。 ― 77 ― 微生物12 一般試験研究 (平成14∼16年度、予算額362,000円) RT-PCR法を用いたノロウイルス検査法の改良 吉澄志磨、三好正浩、石田勢津子(腸管系ウイルス科) 、奥井登代(微生物部) 【目的】 ノロウイルス(NV)には多くの遺伝子型が存在し、各遺伝子型間の塩基配列の相同性は非常に低い。ま た、新しい遺伝子型が年々増えている状況にある。そのため、NVについては共通プライマーの構築が困難であり、 既存プライマーにおいても全ての遺伝子型のNVを検出できるものは未だ存在しない。本研究では、既存のプライマー を改良すること、および塩基配列が保存されている領域に新たなプライマーを設計することにより、RT-PCR法に よるNVの検出率を向上させることを目的とした。 【方法】 北海道における過去10年間の胃腸炎集団発生事例から、NVのポリメラーゼ(pol)領域の塩基配列を基に して患者糞便47検体を選択した。これらの検体中のNV遺伝子についてpol領域後半からキャプシド(cap)領域全長 の約2.5kb分を増幅し、クローニング後塩基配列を決定した。得られた塩基配列を基に、既存プライマーの改良と新 規プライマーの設計を行った。 【結果および考察】 47検体の糞便から51株のNV遺伝子の塩基配列が得られた。これら51株についてcap領域の塩 基配列を基に遺伝子型別を行ったところ、GⅠ:11種類(GI/1,2,3,4,5,7,8,9,10,11,14)、GⅡ:12種類(GⅡ/1,2,3,4,5,6, 7,11,12,13,14,17)の遺伝子型に分類された。次に、51株およびデータベース上に登録されている20株の塩基配列を使 用して、pol領域とpol-capジャンクション領域に設定された既存のプライマーについて、塩基配列のミスマッチの有 無を調べた。その結果、pol領域2種類(P3、NV82) 、ジャンクション領域2種類(COG1F、G2-SKF)のプライマー において、3'末端側から2番目もしくは3番目にミスマッチのある株があり、塩基配列の変更が必要と考えられた。 また、GⅠのジャンクション領域に新しいプライマーを設定した。今回塩基配列を決定した51株のうち、GI:2株、 GⅡ:13株でpol領域とcap領域での遺伝子型が一致せず、組み換え型であると考えられた。これについては今後検討 していく予定である。 微生物13 応募研究(厚生労働科学研究) (平成16年度、予算額800,000円) ポリオ及び麻疹の現状とその予防接種の効果に関する研究 −2004年度の北海道におけるポリオウイルスの抗体価調査− 三好正浩、石田勢津子、吉澄志磨(腸管系ウイルス科) 、奥井登代(微生物部) 【目的】 本調査は、現行の経口生ポリオワクチンの効果および社会レベルの免疫状況を把握し、将来の不活化ワク チンへの移行もしくはワクチン廃止に向けた我が国のポリオコントロール体制の確立を目的として実施したものであ る。 【方法】 本調査には、2004年7∼10月に市立札幌病院にて提供者もしくは保護者の承諾のもと採取された血清を使 用した。血清は、提供者の年齢によって0∼1歳、2∼3歳、4∼6歳、7∼9歳、10∼14歳、15∼19歳、20∼24歳、 25∼29歳、30∼39歳および40歳以上の10区分に分類し各区分20名について採取した。 なお、0∼1歳、2∼3歳、4∼6歳、7∼9歳、10∼14歳および15∼19歳の区分については、ワクチン接種歴の ある者がそれぞれ5名、8名、10名、11名、10名および6名が含まれた。抗ポリオウイルス抗体価は、ポリオウイル スⅠ、ⅡおよびⅢ型標準株を用いた中和試験によって測定した。 【結果および考察】 0∼1歳の区分では、Ⅰ型、Ⅱ型およびⅢ型に対する抗体保有率は、それぞれ65%、80%およ び50%であった。定期接種の推奨期間が3∼18ヵ月齢であることから、ワクチン接種前の検体が複数含まれていたも のと推測された。一方、ワクチン接種歴のあった検体では、Ⅰ型およびⅡ型に対しては全て中和抗体を保有していた が、Ⅲ型に対しては、0∼1歳では全て中和抗体を保有していたもののそれ以降の区分では計8名が4倍以下であっ た。これらは、ワクチン接種後の中和抗体価の低下によって測定不可になったものと推測された。 予防接種法によって定められている接種期間が終了する年齢(7歳6ヵ月)における抗体保有率は、Ⅰ型が95%、 Ⅱ型が90%、Ⅲ型が75%であった。また、それ以降の区分では、Ⅰ型は25∼29歳および30∼39歳の区分で80%以下に 低下するものの、その他の区分では90%以上を維持しており、Ⅱ型はほぼ100%であった。これに対しⅢ型は、4∼ 6歳の区分から20∼24歳の区分まで漸減傾向を示し、25歳以降は65∼85%の範囲でありⅠ型およびⅡ型に比べ低い傾 向がみられた。Ⅲ型に対する抗体価は、Ⅰ型およびⅡ型よりも全体的に低く測定されており、それらの低下が低い抗 ― 78 ― 体保有率につながった可能性があると推測された。また、20歳以降の抗体保有率の増加は、定期接種によって得た免 疫に加えて、社会活動の変化から野生株に感染したもしくは生ワクチン服用者との接触によって免疫が賦活化された 結果であると考えられた。 微生物14 民間等共同研究 (平成14∼16年度、予算額600,000円) ウィルソン病の病態ならびに治療効果に関する研究 ―モデル動物を用いた検討― 奥井登代(微生物部) 、林 【目的】 正信、遠藤大二(酪農学園大学獣医学部)、中山憲司(健康増進科) LECラットは肝臓に銅が蓄積し、急性肝炎を発症するヒトのウイルソン病のモデル動物であるが、急性肝 炎が慢性化したラットは肝癌を発症することが知られている。一方、我々はLECラットが放射線感受性であることを 認め、その原因の一つとして細胞周期の進行を調節している遺伝子発現に何らかの異常があることを示してきた。本 研究はLECラットにおけるその高い発癌性に対する酸化ストレスの関与を明らかにすると共に酸化ストレスによって 生じたDNA損傷やLECラットのストレス応答経路の肝癌発生との関連性を明らかにすることを目的とした。 【方法】細胞はLECラット由来線維芽細胞を用いた。酸化ストレス物質として短波長紫外線(UVC)、中波長紫外線 (UVB)、リボヌクレオチドレダクターゼの阻害剤であるヒドロキシウレア(HU) 、DNAポリメラーゼの阻害剤であ るアフィジコリンおよび温熱処理を用いた。感受性の指標としての生存率はコロニー形成法によって求めた。アポトー シスはTUNEL法を用い、フローサイトメーターで検出した。胸腺細胞は単離後、アポトーシス誘発とX線照射誘発 アポトーシスを検出した。対照としてWKAHラット細胞およびWKAHラット胸腺を用いた。 【結果および考察】LECラット細胞はUVCに対する感受性はWKAHラット細胞と同様であったが、UVBに対して WKAHラット細胞に比べ高い感受性を示した。また、WKAH細胞ではUVCおよびUVB照射によるアポトーシスの 誘発が認められなかったが、LEC細胞においてはUVCおよびUVB照射後、アポトーシスの誘発が認められた。LEC 細胞はHUおよびアフィジコリンにも高い感受性を示したが、これらによる細胞死はアポトーシスに起因しないこと が示された。温熱処理によってもLEC細胞はWKAH細胞に比べ、高い感受性を示したがその原因はアポトーシスで あることが示された。単離したLECラットの胸腺細胞において in vitro 培養によるアポトーシス誘発はWKAH 胸 腺細胞より有意に高く、X線誘発アポトーシスについてもLEC胸腺細胞ではWKAH胸腺細胞より高い誘発率を示し た。これらの結果、LEC ラット細胞は種々ストレスに対して高い感受性を示したが、ストレス応答経路については それぞれ異なることが示唆された。 5.生物科学部 生物科学1 一般試験研究 (平成16∼18年度、予算額300,000円) 各種齧歯類に虫卵感染により形成されたエキノコックス(多包虫)シストの抗原性の研究 八木欣平、山野公明、高野敬志(感染病理科) 、川瀬史郎(生物科学部) ビーグル犬への感染実験を行い、糞便中から根室株多包条虫の新鮮な虫卵を得た。その虫卵を用いてコトンラット、 スナネズミおよび各種系統マウスに感染を行い、虫卵の定着率、シスト重量および原頭節の形成数を測定し、抗原を 得るための実験系を確立した。 生物科学2 一般試験研究 (平成16∼18年度、予算額300,000円) 病原性を有する原虫類の遺伝子技術を用いた同定方法の開発と遺伝子型についての研究 高野敬志、八木欣平、山野公明(感染病理科) クリプトスポリジウムを中心とした原虫の遺伝子解析を試み、遺伝子型を特定できる検査態勢を確立したと同時に 野生動物の寄生状況を明らかにする調査を開始した。 ― 79 ― 生物科学3 一般試験研究 (平成16∼18年度、予算額300,000円) 食品に混入する異物の分析と対策に関する研究 高橋健一、浦口宏二、伊東拓也(衛生動物科) 過去3年間の食品混入異物の特徴を取りまとめるとともに、これまでに異物として検出された毛および双翅目昆虫 について、同定方法や混入種の特徴について分析を行った。 生物科学4 一般試験研究 (平成15∼17年度、予算額124,000円) 遺伝子情報及びエピジェネティックな変化に基づく診断法の開発 工藤伸一(生物科学部) 、佐藤千秋、伊木繁雄(微生物部ウイルス科)、奥井登代(微生物部) 、吉澄志磨、 三好正浩(腸管系ウイルス科) DNAメチル化、ヒストンのアセチル化によるエピジェネティックな遺伝子調節機構を薬剤でコントロールするこ とで、これまで分離の困難であったウイルスに感受性をもつ培養細胞の作成を試みた。 生物科学5 部計上研究 (平成15∼17年度、予算額6,139,000円) 四類感染症エキノコックス症の予防と臨床に関する包括的研究 本間 寛、澤田幸治(衛生研究所)、高橋健一、浦口宏二(衛生動物科)、八木欣平、山野公明(感染病理科)、 佐藤直樹(北海道大学医学部付属病院) 、中野道晴(企画総務部研究情報科) ①媒介動物対策:都市部のキツネの感染率調査、根室半島における駆虫薬の野外試験およびキツネと野ネズミの生 息調査を行った。②検診事業:ELISA法の発色法を検討し、高感度・短時間法の条件を設定した。札幌と道東の患 者を中心に、病態と治療の経過を確認し、今後の治療方針を検討した。③患者発生動向調査:患者データベースの構 築用に43調査項目を登録する入力用フォーマットを用い、平成16年度分のデータを入力した。 生物科学6 応募研究(厚生労働科学研究) (平成15∼17年度、予算額1,000,000円) 保健所における即日告知のためのHIV検査態勢の構築(HIV検査体制の構築に関する研究) 工藤伸一(生物科学部) 、長野秀樹、佐藤千秋、伊木繁雄(微生物部ウイルス科)、奥井登代(微生物部) 、 石田勢津子、吉澄志磨、三好正浩(微生物部腸管系ウイルス科) 保健所における無料匿名検査の利便性が求められていることから、HIV抗体の有無を短時間で判定できる迅速診断 キットを用いたHIV検査を保健所に導入し、即日告知できる検査体制の検討を行った。 生物科学7 応募研究(文部科学研究) (平成15∼17年度、予算額1,000,000円) 抗エキノコックス抗体陽性者等におけるミクロスポリジア感染の血清免疫学的研究 (プロテオーム解析に基づくミクロスポリジア感染の免疫学的研究) 工藤伸一(生物科学部) 、八木欣平、山野公明、高野敬志(感染病理科) エキノコックス症診断法の精度管理に及ぼすミクロスポリジア感染の影響を交差反応なども含めて調査分析するた め、必要とされる血清の保存を行い、ELISA法等の解析法の開発をすすめた。 生物科学8 応募研究(文部科学研究) (平成16∼17年度、予算額500,000円) 後発酵茶風味成分の特徴と遺伝子による茶の分類について 加藤芳伸 日本の栽培茶31品種をAFLP-PCR法を用いて識別することを試みた。Eco RI-ACAとMse I-CTCのプライマーセッ トを用いることによって31品種を識別できることを明らかにした。 ― 80 ― 生物科学9 重点領域特別研究 (平成14∼16年度、予算額1,1340,000円) 人工湿地の生態系を利用した有害金属含有酸性排水の処理技術の開発研究 高野敬志(感染病理科) 、伊藤八十男(健康科学部飲料水衛生科) 【目的】 北海道には休鉱山が数多く存在し、有害金属を含んだ酸性の鉱山廃水が流出している場合がある。現在、 廃水の一般的な処理には、薬剤や中和にかかる費用負担が大きく、そのため、負担を軽減できる処理方法の開発が求 められている。人口湿地は、水質浄化に利用されており、低費用で維持管理の必要がないとされる。人工湿地による 有害金属含有酸性水の処理の開発を目的とし、実験的に造成した人口湿地において、実際に酸性水を流入させ、水質 浄化に関わる基礎資料を得ることを目的とした。 【方法】 酸性水中に多量に含まれる溶存マンガンの除去を行うため、溶存マンガンを酸化して固定できる能力を持 つマンガン酸化真菌の分離を行った。硫酸マンガンを含んだペプトン培地上で、酸性水を遠心分離して収集した懸濁 物を塗抹し、培養を行った。培養中に褐色の真菌のコロニーが生成したものにつき、コロニーの一部を新しい培地に 移植し、細菌の混在がなくなるまで移植を続けることにより菌を単離して株を確立した。単離した株は、形態観察お よび遺伝子解析を行うことにより、種の鑑定を試みた。 【結果および考察】 本研究中、マンガン酸化真菌は3株単離した。形態観察では、3株とも有性世代は認められず、 不完全菌と推定された。3株のITS1および5.8Sリボゾーム RNA、更に18S リボゾームRNA遺伝子の領域の塩基配 列を決定した結果、2株は子嚢菌、1株は担子菌の種と近縁であることが明らかになった。この中の1株(子嚢菌近 縁種)は、pHが6程度の酸性域でマンガン酸化能が強いことが確かめられた。この真菌により、溶存マンガンを酸 化マンガンに固定して析出させることが可能であることから、酸性水の溶存マンガンの除去に有効であることが示唆 された。 生物科学10 民間等共同研究 (平成15∼16年度、予算額548,000円) 河川水より取水した農業用水路に付着する藻類の発育環境に関する研究 高野敬志(感染病理科) 、石川 靖(環境科学研究センター) 、田中雅文( 北海道農業近代化技術研究センター) 【目的】 平成14年に石狩川を水源としている深川市内の灌漑用水路において、緑藻(アオミドロ:Spirogyra sp.) が用水路壁に付着した状態で大発生し、その一部が剥がれ落ちて流れ出した結果、灌漑施設の導水障害が起きた。更 に、その藻類は水田の中でも発生し、農業従事者から水田に対して種々の影響が生じるのではと懸念されている。藻 類の異常発生を防ぐため、その発生時期、発生場所、藻類の成長特性を解明することを目的とした。 【方法】 平成15年度は深川市内の農業用水路およそ10地点で、農業用水路壁に付着した藻類を剥ぎ取り、種組成と 量を計測した。原水となる石狩川の河川水を採取し、河川水中の藻類の種組成と量を計測した。 平成16年度は15年度の内容に加え、石狩川の数地点で採水を行い、実験室内で培養を行って藻類の成長速度を調べ、 藻類増殖能力を調べる試験(AGP試験)を行った。 【結果および考察】 平成15、16年の調査では、用水路中に大規模なSpirogyra sp.の発生はなかった。河川中の試 料についてもSpirogyra sp.は多く認められず、Spirogyra sp.の発生源の特定には至らなかった。Spirogyra sp.に 入れ替わり、ラン藻のユレモ等(Oscillatoria sp.またはPhormidium sp.)が用水路壁に皮膜を作るなど比較的多く 発生したものの、用水の導水障害を起こすことはなかった。Spirogyra sp.に入れ替わって、シャジクモおよびホソ バミズヒキモ等の大型藻類または水草が用水路底に繁茂した。これは、緑藻よりもそれらに適するように用水路内の 環境が変化したと考えられた。用水路内に流れ込む排水等の影響が原因として考えられるため、それらを踏まえた対 策を考える必要があると考えられた。 生物科学11 一般試験研究 (平成14∼16年度、予算額3240,000円) ストレス関連遺伝子のDNAマイクロアレイによる網羅的解析に関する研究 加藤芳伸、鈴木智宏、孝口裕一(遺伝子工学科) 【目的】 ストレス等による障害は、関係する遺伝子の数が多いために特定の遺伝子の異常だけで診断することが困 難である。そこで、われわれは酸化ストレスに着目して、ストレスを負荷(活性酸素誘導)した肝細胞における遺伝 子発現をDNA マイクロアレイを用いて網羅的に解析し、酸化ストレスにより発現量が変動する遺伝子群を同定する ― 81 ― ことを試みることとした。また、ストレスシグナルを効果的に核内に伝達させるために核内受容体遺伝子を組換えた 発現ベクターを培養細胞に導入し、ストレスを調べるための実験システムを調製することとした。 【方法】 1)酸化ストレスを負荷した細胞からtotal RNAを抽出・精製した後、cDNAを調製した。対照区のcDN AにはCy3標識、試験区のcDNAにはCy5標識を行い、蛍光標識したcDNAを等量混合して、DNAマイクロアレイ (NIEHS製)にハイブリダイゼーションした。遺伝子発現の解析は、アレースキャナー(NIEHS製)を用いて行っ た。2)培養細胞よりRNeasy Mini Kit(QIAGEN製)を使用してtotal RNAを抽出・精製した後、RNA PCR Kit (AMV)Ver.2.1にてcDNAを調製した。このcDNAを鋳型として、特異的プライマーを用いて甲状腺ホルモン受容 体(TRa1とTRb1)の遺伝子をPCR法で増幅した。TR-DNAをクローニングした後、pGL3ベクターに組換えて HepG2細胞に導入して、遺伝子活性試験を行った。 【結果および考察】 1)酸化ストレス(活性酸素誘導等)を負荷したヒト肝培養細胞及びラット肝細胞における遺 伝子発現を酸化応答や免疫応答に関係する1980個の遺伝子を張り付けたDNAマイクロアレイを用いて解析したとこ ろ、93個の遺伝子の発現が促進又は抑制されることが確認された。変動遺伝子の内訳として6個の遺伝子の発現が強 化され、87個の遺伝子の発現が抑制されていることが認められた。特に、酸化ストレスは酸化還元酵素や細胞内情報 伝達系の遺伝子発現に強い影響を及ぼしていることが明らかになった。これらの遺伝子の中で、グルタチオン転移酵 素、シトクローム酸化還元酵素等が顕著な変動遺伝子として同定された。2)TRb1DNAを組換えたpGL3ベクターを 作製し、それをヒト肝細胞由来HepG2細胞に導入してストレスの影響を調べるための実験システムを調製した。遺 伝子活性試験の結果、この培養細胞では、甲状腺ホルモンT3 の検出感度が2倍に高められていた。さらに、神経細 胞でのストレスの影響を評価するための一環としてヒト甲状腺ホルモンa1受容体遺伝子のクローニングもあわせて行っ た。 生物科学12 応募研究(秋山記念生命科学振興財団) (平成16年度、予算額500,000円) エキノコックス症診断用組換え抗原の開発と評価 孝口裕一、鈴木智宏(遺伝子工学科) 、山野公明(感染病理科)、本間 【目的】 寛、澤田幸治(衛生研究所) エキノコックス症の血清学的診断には、幼虫組織から抽出調製された抗原が用いられているが、まれに近 縁の寄生虫との交差反応がみられたり、ロット間の品質に差が出るなど、いくつかの問題が残されている。本研究は 遺伝子工学的技術を用いて品質の安定した、より高い検査精度を持つ組み換え純化抗原の生産を目的として行われた。 【方法】 多包虫シストcDNAライブラリーから選別された、患者血清に強陽性反応を示す4種類(Antigen B、 EmII/3、有鉤条虫の免疫原性タンパク質様タンパク質およびアクチンフィラメント断片化タンパク質)の抗原候補 遺伝子を基に、 それらの遺伝子の全長およびいくつかの部分領域をコードするDNA断片をPCRにより増幅し、 pThioHisベクターに組み込み計12種類の発現プラスミドを構築した。構築した発現プラスミドを大腸菌Top10株に 導入し、0.5mM IPTG共存下32℃で3∼4時間タンパク質の発現を誘導した。発現した組換え抗原タンパク質は、 アフィニティークロマトおよびFPLCにより精製し、患者血清との反応性をウェスタンブロット法により分析した。 【結果および考察】 発現を試みた12種類の抗原タンパク質のうち、8種類の組み換え抗原タンパク質を調製するこ とができた。優れた抗原として知られるEmII/3は5種類の領域に分けた組換え抗原として得た。そのなかで、C末端 側の約20kDa部分に相当する組換え抗原は、10件の多包虫患者血清全てに陽性反応を示した。その他の4種類の組換 え抗原は、血清診断に応用できる可能性を示したものの、その感度は比較的低く、今後反応性の高い組換え抗原との 組み合わせや血清の種類との関係において効果的な利用法を検討することとした。また、アクチンフィラメント断片 化タンパク質の前半に相当する組み換え抗原は、多包虫患者血清10件のうち9件と良好に反応し、充分血清診断に応 用できる可能性を示した。一方、単包虫患者に対する診断用抗原として広く研究が進められているAntigen Bは、多 包虫患者試料10件中強陽性2件および弱陽性4件とその反応性は比較的低いと考えられた。有鉤条虫の免疫原性タン パク質様タンパク質に類似する組換え抗原は、ほとんど患者血清との反応を示さなかった。今後、最も反応性の高かっ た組換え抗原を用いてイムノクロマト法への応用を検討する。 ― 82 ― 生物科学13 重点領域特別研究 (平成13∼15年度、予算額29,950,000円) 遺伝子操作・細胞融合技術によるエキノコックス症診断用抗原の生産 川瀬史郎(生物資源管理科)、佐藤千秋(ウイルス科)、山野公明(感染病理科)、鈴木智宏、孝口裕一(遺伝子 工学科)、久保亜希子(食品薬品部食品科学科)、澤田幸治(衛生研究所)、八木欣平(感染病理科)、加藤芳伸 (遺伝子工学科)、三上大人、佐藤 わり会札樽病院) 、本間 【目的】 圭(生物資源管理科)、古屋宏二(感染症研究所)、田村正秀(医療法人ひま 寛(衛生研究所) エキノコックス症は、平成15年改正の「感染症法」で四類に分類された。近年、感染キツネの都市部を含 めた全道への拡大、飼い犬の感染と道外への移動等、エキノコックスを取り巻く環境に変化がみられる。このような 状況下、野外の感染源動物対策やヒトの血清検査システムの構築等、道のエキノコックス対策事業に関わってきた当 所のこれまでの研究成果を基盤に、新たな視点からの検査法改良を目的として本研究課題を実施した。 【結果】 ①現在の血清検査の術式を総括し、多包虫組織からの抽出抗原の調製法及びそれを用いた検査法、判定法 の改良を行った。特にウェスタンブロット法においては複数の抗原に対する抗体反応を複合的にみる判定法を確立し た。これにより、典型的な症例のみならず非典型例の検出にも実績を上げ、既に日常の血清診断に活かされている。 ②抽出抗原の主要成分であるタンパク質抗原について、多包虫組織(シスト・原頭節)から抽出したRNAをもと に2種類のcDNAファージライブラリーを構築した。ランダムクローニングや陽性血清を用いたスクリーニングから 得たantigen Bのサブユニットやantigen II/3の全長cDNAクローンなどの構造解析を行った。この解析結果は、ラ イブラリーが多くのクローン分離と解析を可能とする充分な多様性を持つことを示した。また、患者血清に強陽性反 応を示す4クローンを候補とし、実際に組み換えタンパク質を生産して検査に応用するべく検討した。その結果、 Em II/3のC末端側とAFFPのN末端側に相当する組み換えタンパク質の患者血清に対する高い感度と特異性を確認し た。 ③もうひとつの抽出抗原主要成分である糖関連抗原に対しても、タンパク質抗原を補完する意味から、マウスをモ デルとして免疫遺伝学的に検討し、系統の違いで応答が異なることを確認した。さらに、マウスの脾臓に抗原を直接 接種する方法で、従来法では得難いクラス・サブクラスの抗体を含め、様々なエピトープを認識する単クローン性抗 体を作製した。これらをサンドイッチELISA法に試用し、感染ラット血清を用いた系では良い結果を得た。 ④種の同定を含めた確定診断を目的として、患者病巣から得られた材料について遺伝子診断を試みた。ミトコンド リアDNA内の3カ所の遺伝子領域の比較から多包虫と単包虫の区別を可能とし、その有用性を確認した。 本課題の成果は、一部を既に実用化し、他の一部については関連の課題において実用化のための検討を加えている。 (平成15年度未報告分) ― 83 ―
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