Donau 3000 KM

Donau
3000 KM
―― ド ナ ウ ――
流れに沿って⑶
Donau が 流 れ、 落 ち 着 い た 雰 囲 気 を か も し 出 し て い る。
1)Bayern Ingolstadt 市と名車 Audi
国道 B-16に戻り果てることも無い平らな道を東へ20km、
Ingolstadt 市が姿を現す。ここでは観光で紹介する特別なも
Ingolstadt 市に絡み紹介しなければならない事柄、それはド
イツ産名車 Audi との係わり合いである。Audi の主力工場
がここにある事からである。
今ドライブしている車は Audi A3という小柄な中型車で、
のは見当らない。15世紀に Bayern 地方ではじめての大学が
1900㏄の強力 D- エンジンを積んでいる。それよりも、30数
ここに創設されたこと、今も残る16世紀の城壁は当時南ド
年前にヨーロッパに足を踏み入れその翌年に購入した車が
イツで最大であったようだ。
Audi-100LS という1800㏄のサルーンで話はここまで遡る。
ミ ュ ン ヘ ン よ り 真 北80㎞ に 位 置 し、 旧 市 街 の 南 端 を
10年間という長き年月を約20万㎞、共にヨーロッパの地
を走り回り東はハンガリー、西はアイルランド、南はイタ
リーのサルジニア、北はデンマークと髭松の家族に旅行と
いう楽しみを与えた名車(?)である。
この Audi-100が Donau を眺めたのは、旧東欧圏のチェコ
スロバキアとハンガリーそしてオーストリアを旅したとき
であろう。記憶はさだかではないものの、スロバキアのと
ある町で Donau を渡りハンガリーへ、ブダペストで“ドナ
ウの真珠”を眺めたはずである。
Delft-Blue の青色が陽光に輝くと、その藍さはオランダ
Delft 焼のそれをしのぐ程鮮やかであった。この車はどこで
生まれたのであろうか、それはドイツ Bayern の中央に位
置する Ingolstadt 市の工場であった。この小都市の名前は
Audi 車より記憶させられた。
Donau と Ingolstadt 市の紹介よりも Audi 車との係わり合
いに話がとんでしまったようだ。Audi-A3は国道 B-16をさ
らに東進して Vohburg a.d.Donau へ立ち寄り暫くは川の姿
とは別れて、Kelheim 市(海抜343m)へと向かう。
Regensburg ま で30㎞、 こ の あ た り で 川 沿 い の 景 色
が 大 き く 変 化。Altmuehl 川 が 北 か ら 流 れ 込 む 手 前 で は
至 宝 の 渓 谷 美 を 見 せ て く れ る。 小 高 い 丘 に 立 つ 建 造 物
は Befreiungshalle と い う 名 で こ れ が Donau を 見 下 ろ す
Kelheim 市、ここで観光船がその姿を現す。
Donau 川 沿 い の 渓 谷 美( 峡 谷 )
、Bayern 平 原 を 緩 や か
に流れる姿よりこの景観を直ぐには想像しがたい。ここ
Weltenburg より数㎞、Kelheim までの Donau-Gorge は春夏
秋冬の異なる風情を提供してくれる。Weltenburg の修道院
と地ビールにも注目したいし、Kelheim よりの観光船にて
渓谷クルーズを楽しむのも一考であろう。
旅の友 Audi 車の紹介
SEAJ Journal 2007. 3 No. 107
25
Donau 3000KM、流れに沿って
Donau 川沿いにも歴史を物語る建造物を見ることができ
る。川を跨ぐ石橋、これは Donau に架かる最古のものらし
い。この橋を渡り市街にはいる直前の河岸にチョット気に
なる店、これもドイツ最古といわれているソーセージ屋(ヒ
ストリシュ・ブルストキュッへ)
。
Donau 川はここでバイエルの森とチェコ・ボヘミアの森
から南下してきた Naab 川と Regen 川を引き込み、北ドナ
ウと南ドナウに別れ中州を造るほどに川幅と水量を増すこ
とになる。川を利用しての観光船もここにきて、その姿を
多く見かけるようになる。
Regensburg 市より150㎞余東南に位置する Passau 市まで
の Donau 川沿いの雰囲気は宮本輝著“ドナウの旅人”で紹
介されていたとは知らず、Walhalla、Woerth、Straubing、
Deggendorf そして Passau への旅は続く。
Weltenburg よりの渓谷美
2)Bayern 州の東、バイエルンの森を背に大
きな蛇行を始める Donau
Regensburg 市、ここは Bayern 州都ミュンヘンより北東
に120㎞程。車でアウトバーンを小1時間、ホップランド
Regensburg 市を過ぎ川沿いに進むと左岸は小高い丘に
なっており、しばらくして丘の上に古城と白く輝く宮殿風
の建物が姿を現す。Donausrauf の街より丘の上へ登るとア
テネのパルテノン神殿を模した Walhalla 宮殿がその姿をみ
せる。
Walhalla 宮殿を紹介しておこう。何でもやりたがり屋の
(ビール造りに欠かせないホップのドイツ最大の生産地域)
Ludwig-I 王が造らせた建造物で概観はギリシャ風神殿、中
の中を走らせれば到着する。Donau 川は Quelle より500㎞を
にはドイツが派出した118人偉人の胸像と記念の各種プレー
流れてこの地に辿り着く、海抜にして340m、水源より750m
トが本人 Ludwig-I の石造を中心に飾られている。
程下ることになる。
ここでの圧巻は宮殿回廊から見下ろす Donau 蛇行の眺め
Regensburg(直訳で“雨の砦”
)の歴史は古く、古代ロー
であろう、雄大さを満喫できる。Regenburg よりの観光船
マ時代より Donau 川と共に栄え2000年以上になる。中世に
も眼下に見ることができ、船着場より長い階段を高さ100m
はヨーロッパ主要会議がいく度か開催されてもおり、街中
程一気に登ると Walhalla 宮殿の回廊に到着することになる。
を歩くと帝国議会博物館や大聖堂・歴史博物館にてその雰
囲気を感じることができる。
Regensburg Donau に架かる石橋
26
SEAJ Journal 2007. 3 No. 107
ヴァルハラ宮殿
Donau 3000KM、流れに沿って
宮殿より Donau の蛇行を
Walhalla 宮殿を後にしばらく川沿いに車を走らせると、
Straubing 市郊外の流れ
Regensburg よりおよそ50㎞南東にある Straubing 市、市の
川の大きな蛇行により Donau は視界よりかなり遠のく。小
北を流れる Donau の姿は今までと違う深みを感じさせるの
さな村を幾つか過ぎるが、どの村にもこじんまりとした
である。
Bier-Garten が道路沿いに見られるのが何となく嬉しい。
Straubing 市は Donau 川の南岸に開けた古き Bayern の
Woerth a.d. Donau 村、Regensburg より25㎞東にある小
都市である。旧市街マルクト広場を中心に15〜18世紀に
さな町。街中は車で1〜2分で通過してしまうような田舎
たてられた幾つかの教会が街の華やかさを盛り立ててい
町である。でも名前からして気になることもあり街を過ぎ
る。毎年8月に開催される Gaubodenfest はミュンヘンの
て振り返ると、丘の上の城が何かを誘いかけている。
Oktoberfest に継ぐ賑やかさとか。
小説“ドナウの旅人”の名舞台となっていることも知らず、
水量と川幅を増して成長してきた Donau の流れは、東バ
Burg & Schloss の眺めを写真に収めしばしの休息。再度訪
イエルン(Nieder Bayern)の平原の幾つかの町や村を育み
れての街と城(Schloss)を探索したのは数ヵ月後の小雨ぱ
南東へと進む。Mariaposching という小さな村を訪れたが、
らつく秋の一日で、小説“ドナウの旅人”を読んで後のこ
川辺には水鳥が遊ぶ自然の姿と対岸への渡し舟という長閑
とである。
なる風情を味合わせてくれた。
Bayerischer Wald の 丘 陵 に 押 し や ら れ、Donau 川 は 南
このあたりより Bayerischer Wald と背後のボヘミアの
東に大きく蛇行すると共ににその川幅を更に広げていく。
ヴェルト村の城
SEAJ Journal 2007. 3 No. 107
27
Donau 3000KM、流れに沿って
合流後の Donau の流れに大きな変化が現れる。水量を増
した流れの姿は今までにない荒々しさを見せ、その流れの
勢いは付近の地勢と自然環境を大きく左右する程になる。
やがて見る穏やかな Donau の流れは谷間をぬう10数㎞の大
きな蛇行を過ぎてからとなる。
このあたりで宮本輝著小説“ドナウの旅人”の舞台とな
る風景が再び登場する。Winzer 村そして Windorf 村、流れ
も穏やかになった Donau 川の対岸 Vilshofen の町を右手に
眺めつつ国道を Passau 市に向けて、川沿いに快適なドライ
ブが続く。
バイエルンとボヘミアの森を
Passau 市、素性を異とする3本の川が集まり、日本的に
言えば中洲を形成するがごとくに川に囲まれ造られた美し
森を抱く山塊の豊かな眺めが楽しめる。ローカル道路より
い街である。3本の川の水を集めた風景を街道沿いに眺め
高 速 道 路(Auto-Bahn) に 戻 り Deggendorf 市 へ 向 か う が
るのはかなり困難、観光船の船上からの鑑賞がうたい文句
Donau を跨ぐ橋は大きくその長さも相当なものになってき
になっている。
ている。
Donau(Schwarzwald)
、Inn(Swiss GR/Austria Tirol)
、
3)Isar と Inn の流れを引き込みドイツ Donau
の終着 Passau へ、
Deggendorf 市、ミュンヘンより高速道路のドライブでお
Ilz(Boehmerwald)の3本の川は、ここ Passau 市にて合流
する。ここがドイツ領内を650㎞余流れて下ってきた Donau
川沿いの最終都市となるが、Inn 川を渡り間もなくそこに
オーストリアの国旗が翻る。
よそ1時間(120㎞)にて到着する古くより水陸の交通要所
Passau の歴史は7〜8世紀に遡るが、17世紀の大火災が
として栄えてきた町である。市の南を流れる Donau は暫く
街を大きく作り変えて今の旧市街をバロック様式に仕立て
して Bayern 地方の主要都市を眺めてきた Isar 川の流れを
ている。聖シュテファン大聖堂が旧市街の中心となり北は
取り込む事になる。
Inn 川南は Donau 川の河岸へと町が広がる。
Isar 川はその水源をオーストリアチロル(Karwendel 地
方)に求め、バイエルン南部の Bayerische Alps の水を集め
て州都のミュンヘンと NiederBayern の都 Landshut を育み
300㎞弱を流れ下って Donau とここで合流することになる。
Inn 川が Donau に合流
Donau 河岸には Rathaus(市庁舎)をはじめ Passau ガラ
ス博物館
(ボヘミアガラス展示)
そして Linz まで下る観光船、
これらを Donau 対岸の丘の上にあるオーバーハウス城壁と
Isar 川が Donau に合流
28
SEAJ Journal 2007. 3 No. 107
マリア・ヒルヒ修道院より一望に見下ろしてみよう。
Donau 3000KM、流れに沿って
4 − 2 Inn 川 は そ の 源 を ス イ ス GR 地 方 イ タ リ ー と
の 国 境 に 聳 え る Bernina 山 塊(4000m) と し て、 名 勝 地
St. Moritz より始まりスイス Engadin の谷を東北上しオー
ストリーチロル地方を流れ下る。州都 Innsbruck を過ぎ
Kufstein にてドイツバイエルン地方に入り、バイエルン平
原を流れ下る Passau 市までの全長517km の美しき大河であ
る。
Passau 市の Donau と城
Donau 写真紀行としてドイツ国内を Donau 川に沿って数
多くの都市とその風情を写真にて紹介してきた(川の流れ
と街の発展とその歴史は切っても切れない深い関係があり、
興味をひく)
。隣国オーストリアでの Donau 写真紀行を続け
て紹介していく。
4)
Donau 川の2大支流(バイエルン地方を流
れる)Isar 川、Inn 川
4 − 1 Isar 川 は そ の 水 源 を オ ー ス ト リ ア・ チ ロ ル
Karwendel-gebirge の Eiskarlspitze としバイエルンアルプ
スを背にバイエルン平原を北東に流れる。Mittenwald/BadToerz/Muenchen/Freising/Landshut の 街 々 を 育 て295km
の流れはやがて Donau へ。
まつもと
しゅんご
(元広報部会 松本 俊吾)
SEAJ Journal 2007. 3 No. 107
29