AdvancedTCA製品の開発 ~ AdvancedTCAに準拠した

Development of AdvancedTCA Products
- AdvancedTCA compliant, high performance CPU Blade and 10 gigabit Ethernet Switch Blade 千川康秀 *
若狭敦志 **
蓮井啓一 ***
池田 智 ****
Yasuhide Chigawa
Atsushi Wakasa
Keiichi Hasui
Satoshi Ikeda
*
**
***
****
ProDeS グループ プラットフォーム開発事業部 第一技術部
ProDeS グループ システムプロダクト事業部 第一技術部
ProDeS グループ システムプロダクト事業部 第三技術部
基盤技術グループ 実装技術部 第一実装技術部
当社では,NGN 時代を迎える通信インフラや,高機能・高信頼性が要求されるセキュリティ・医療シス
テムといった分野に最適な規格,AdvancedTCA に準拠した,組込み用ボードコンピュータで国内初の
CPU ブレード・スイッチブレード AM700 シリーズを 2004 年に発表した.本編では,さらに機能を拡張
した最新ブレードの特長や,システム利用形態について紹介する.また,AM700 シリーズの開発にあたっ
て使用した,当社の設計技術についても紹介する.
In 2004, PFU released the AM700 Series CPU Blade and Switch Blade. They are the
first embedded board computers in Japan compliant with AdvancedTCA, which is the
specification best suited to fields such as telecom infrastructures in the coming NGN (Next
Generation Network) era, and security and medical systems that require high performance
and high reliability. This paper introduces the features of our latest blades with further
enhanced functionality, as well as details of how they are utilized in entire systems. This
paper also introduces PFU's design technology, which was used for the development of the
AM700 series.
1
まえがき
当社では,「A d v a n c e d T C A 」(A d v a n c e d
Telecom Computing Architecture,以下 ATCA)
2
開発の背景とねらい
2.1 開発の背景
コンピュータの世界では ATX 互換機に代表される
の規格が制定された当初から,ATCA に準拠したブレ
ように,標準化が進んできた.標準化により,様々な企
ードの開発を行っており,2004 年には ATCA 準拠の
業から安価な互換製品を提供することが可能となった.
CPU ブレードとスイッチブレード,AM700 シリーズ
この動きは,工業用機器用のコントローラ市場,いわゆ
を発表している.
るエンベデッドコンピュータの世界でも広がってい
本稿では,今後急速に広まることが期待される
る参1),参2).当社においても AM シリーズを展開し,幅
ATCA の規格概要と,2007 年春に発表した,更に機
広いラインナップを取り揃えて,標準製品を求める要求
能を拡張した最新の AM700 シリーズについて紹介す
に応え好評を得ている.
る.
また,AM700 を開発するにあたって使用した,当
社の高速伝送プリント配線板設計技術,冷却設計技術に
組込み用標準規格の代表として,コンピュータ・メ
ーカーや部品メーカー等により策定された PICMG 注1)
がある.
ついて紹介する.
注1)PCI Industrial Computer Manufacturers Group の略
6
PFU Tech. Rev.,18, 1,pp.6-14(05,2007)
AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
当社においても,PICMG が定めた規格に基づく装
置,A M 1 0 0 (C O M - E x p r e s s 準拠),A M 5 1 0
(P I C M G 1 . 2 準拠),A M 5 3 0 (P I C M G 2 . 0 ;
CompactPCI 準拠)をラインナップしている.
を持たせるといったように,複数の機能を実装すること
も可能となる.
ATCA の規格概要を表−1に示す.ATCA の特徴
は,ブレードあたりの許容電力が大きいこと,高速・大
容量のデータ処理が可能なシリアルインターフェース接
2.2 開発のねらい
続が採用されていること,高信頼性を目的としたシステ
2002 年,PICMG では通信機用途に適した新規格
ム構成であることである.
として,PICMG3.0,ATCA を規格化した.本規格
信頼性と柔軟性に富んだ ATCA は,通信インフラ向
の特長は,これまでの標準規格と比べて,冗長構成とい
け用途だけではなく,高い信頼性や高度で多量のデータ
った高信頼性を重視した仕様を採用していることや,膨
処理が要求される医療システムやセキュリティ・システ
大なデータ処理を可能とする接続インターフェースを採
ムといったように,様々な分野においても最適である.
用していることである.今後も様々な分野において,コ
さまざまな調査報告において,ATCA の市場は 2008
ンピュータの性能の向上は必須の命題である.当社では,
年〜 2009 年には 10 億ドルを超える市場になるとの
この要求に答えるべく ATCA 準拠の製品を提供する.
予測がされている参3),参4).
3
4
ATCA 規格概要
AM700 シリーズ
ATCA では標準化されたシャーシのスロットに,外
ATCA のシステム構成で最も一般的なのはデュアル
形寸法などが規定されたボード(ブレード)を複数挿入
スター接続である.当社ではデュアルスター接続のシス
し,システムを構成する.スロット数は,16 スロット
テムにおいて,はん用に使うことが可能な処理ブレード
を最大に 14 スロット,5 スロット筐体が規格化され
として CPU ブレード(AM710)を,また,ブレード
ている.
間の接続に必ず必要となるスイッチブレード(AM730)
図−1に示すような規定されたシャーシのスロット
を開発した.
に,様々な機能をもったボード(ブレード)を搭載する.
例えば,回線信号の入出力を制御するブレード,セキュ
リティ機能を持つブレードなどを一つの筐体に同時に搭
4.1 AM710 CPU ブレード
CPU ブレードとは,基板上に CPU やメモリなど,
載できる.また強力なはん用プロセッサを持つ CPU
サーバ機能を実現するために必要な部品が搭載されてい
ブレードを複数搭載し,ブレードサーバを構成すること
るブレードのことである.
も可能であるし,一つの筐体にルータ機能とサーバ機能
4.1.1 製品概要
図−2に AM710 の外観を示す.
Intel 製 5000P チップセット,Dual-Core Xeon
CPU を搭載して従来モデルに対し大幅な性能強化を図
FAN ユニット
FAN ユニット
FAN ユニット
った A M 7 1 0 を新たに開発した.P I C M G 3 . x :
ATCA 規格に準拠したボードとしては,国内メーカー
セ
キ
ュ
リ
テ
ィ
ブ
レ
ー
ド
セ
キ
ュ
リ
テ
ィ
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
C
P
U
ボ
ー
ド
ス
イ
ッ
チ
ブ
レ
ー
ド
ス
イ
ッ
チ
ブ
レ
ー
ド
シェルフマネージャー
では他社に先駆けるものである.
C
P
U
ボ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
回
線
ブ
レ
ー
ド
シェルフマネージャー
19 インチ
表−2に AM710 の仕様概要を示す.
4.1.2 特長
(1)ATCA 規格準拠
ATCA 規格に忠実に準拠しており,標準規格製品と
して安心して使って頂ける製品となっている.
(2)次世代インターフェースをサポート
PCI Express, SAS(Serial Attached SCSI)等
●図―1 16 スロット AdvancedTCA シャーシのイメージ図●
(Fig.1-Conceptual diagram of a 16-slot AdvancedTCA
chassis)
PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)
次世代の高速インターフェースをサポートしている.
PCI Express は 500 MB/秒以上(PCI 比 3.7 倍)
,
7
AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
●表−1 ATCA の規格概要●
分
類
項
目
採
用
理
ブレード当り消費電力
最大 200 W
高性能半導体の多数搭載可能
ブレード間接続
バックプレーンをシリアルインターフェースで接続
高速.多量のデータ処理可能
Fabric インターフェース
多量なデータ処理対応を想定
Base インターフェース
各ブレードの制御処理への対応を想定
由
システム接続
(1)フルメッシュ接続
全てのブレードが相互に接続.
スイッチブレードを必要としない接続形態.もっとも冗長
はブレードを示す.
性が高くなるが,各ブレードのハード設計の難易度が非常
に高くなるため,現在はあまり一般的ではない.
(2)デュアルスター接続
二重化による耐故障性向上
スイッチブレード(中央)を介して接続,二重化
現在,もっとも一般的な接続.
Base インターフェースは本接続のみが規定されている.
システムの接続形態
システム管理
(3)デュアル・デュアルスター接続
耐故障性を更に向上
デュアルスターをさらに二重化
特に高い信頼性が要求されるアプリケーションで採用
IPMC コントーラによる管理
標準規格 IPMI(Intelligent Platform Management Interface)
各ブレードは IPMC を搭載し,IPMC は電源制御,温度
採用により,異なるベンダーのボードで構成されるシステ
や電圧などのヘルスモニタリング等を行う.システム全
ムであっても,管理が可能
体は冗長化されたシェルフマネージャーに搭載された
IPMC で一元管理する.
SAS は 300 MB/秒(Ultra ATA 100 比 3.0 倍)
Dual-Core 対応の CPU を採用することにより,飛躍
の転送性能を持ち,通信インフラ等高い転送性能が要求
的なシステム性能の向上を果たしている.なお,FB-
されるアプリケーションに最適である.
DIMM の最大の効用は,チャネル当たりの DIMM 枚
これら次世代インターフェースはシリアル伝送を特
徴としており,少ない信号線で接続可能なためプリント
基板設計の容易化,信頼性の向上をもたらす.
(3)高性能・低消費電力
数や DRAM 個数を増やして,高速化しても大容量メ
モリの搭載を可能にすることである.
一方で,低消費電力を特長とした Xeon LV を採用
したことにより,CPU の消費電力は 40 W にまで押
従来の AM710 に比べ,FSB(CPU バス)で 2.0
さえ込まれている.この値は今日ある通常の Xeon に
倍(1 066MHz),メモリで 2.0 倍(533 MHz
比べて格段に向上しており,これにより熱設計の自由度
DDR2 FB-DIMM)周波数が向上している.また,
を高めることが可能となっている.
8
PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)
AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
(4)拡張性
ベンダー独自の要望の実現に対しては,R T M
(Rear Transition Module)を接続するための
Zone3 コネクタを装備している.本コネクタはバック
プレーンにつながれておらず,ベンダーの必要性に応じ
て機能拡張に使用することができる.
4.1.3 適用アプリケーション
AM710 は,特に高いシステム性能や高信頼性及び
高可用性が求められる通信機器,H P C (H i g h
Performance Computing)等はもちろん,セキュリ
●図―2 AM700 モデル 710 外観●
(Fig.2-Outside view of AM700 Model 710)
●表−2
ティ,医療システムといった,高度で高速なデータ処理
が求められる分野にも高い威力を発揮する.
AM710 仕様概要●
4.2 AM730 スイッチブレード
項
目
内
容
注1)
注1)
Dual-Core Intel
キャッシュ
L2-4 MB
間のデータ通信はスイッチボードを介して行われる.高
チップセット
Intel 5000P チップセット
速に大量のデータを処理しなければならない ATCA で
FSB
1 066 MT/s
は,スイッチの性能はシステムの性能を大きく左右する.
フ
ロ
ン
ト
パ
ネ
ル
I
/
O
バ
ッ
ク
プ
レ
ー
ン
LV プロセッサ
中核をなす.ATCA のシャーシに搭載されたブレード
CPU
主記憶
Xeon
スイッチブレードは ATCA システムのデータ通信の
FB-DIMM(DDR2-533 MHz)
当社では,開発当初から現在の規格で最もデータ容量を
4 スロットにより最大 16 GB まで搭載可能
大きく取れ,しかも標準化が進んで相互接続性に勝る
USB
2(USB2.0)
10 ギガイーサネットを Fabric インターフェースに選
シリアル
1(RJ-45)
択し,開発している.
1 AMC single-width,mid-size
4.2.1 製品概要
AMC
(×4 PCI Express,×2 SAS,デュアルギガ
A M 7 3 0 の外観を図−3に示す.A M 7 3 0 は
ビットイーサネット)
PICMG 3.0 及び PICMG3.1 準拠のレイヤー 2 スイ
2(10 / 100 / 1000Base-T)
ッチブレードである.AM730 は Base インターフェ
hot swap,out-of-service,health,
ースと Fabric インターフェースの両方を備え,それ
Ethernet ports status
ぞれがギガビットイーサネットインターフェースと 10
スイッチ
リセットスイッチ
ギガビットイーサネットインターフェースをサポートし
Base
Dual ギガビットイーサネット
ている.
LAN
LED
Fabric
IPMB
RTM
BIOS
対応 OS
Dual ギガビットイーサネット
AM730 の仕様を表−3に示す.
(PICMG 3.1,option 1)
Dual IPMB connection(Zone 1)
RTM サポート(Zone 3)
×4 PCI Express,×1 SAS
Phoenix TrustedCore BIOS
MontaVista Linux
Carrier Grade Edition(CGE)4.0
IPMC
IPMI1.5 準拠
RAS 機能
CPU 温度監視,電圧監視
供給電源
−48 V
外形寸法(mm) 280(D)× 30.48(W)× 355.6(H)
注1)Intel,Xeon は,Intel Corporation の登録商標である.
PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)
●図―3 AM700 モデル 730 外観●
(Fig.3-Outside view of AM700 Model 730)
9
AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
●表−3
4.2.2 特長
(1)ギガビットイーサネット/10 ギガビットイーサネ
ットサポート
分類
イーサネット
トイーサネットだけでなく,10 ギガビットイーサネッ
Base 1 ギガビット
トもサポートしている.このため,現在主流となってい
イーサネット
るギガビットイーサネットのみをサポートしたボードだ
サネットをサポートしたボードも使用可能である.
また,ATCA で規格化されている最大構成である
16 スロットすべてにおいてギガビットイーサネット,
10 ギガビットイーサネットの両インターフェースをサ
目
Fabric 10 ギガビット
AM730 の Fabric インターフェースは,ギガビッ
けでなく,将来普及するであろう 10 ギガビットイー
項
シリアル
フ
ロ
ン
ト
パ
ネ
ル
I
/
O
ポートするとともに,それぞれのインターフェースは,
AMC
LAN
2(XFP)
2(10 / 100 / 1000Base-T)
3(RJ-45)
(1 ギガビットイーサネット × 2 ポート,
10 ギガビットイーサネット × 2 ポート
10 / 100Base-T × 2 ポート
hot swap,out-of-service,health,
Ethernet ports status
Reset スイッチ
スイッチ
AM730 は Base,Fabric 用のバックプレーンイン
LED Mode 選択スイッチ
LED Port 選択スイッチ
ターフェース以外にも,外部装置と接続できるよう,前
Base
面に 1000BASE-T ポートと 10 ギガビットイーサネ
1 ギガビットイーサネット × 15 スロット
(16 スロットシャーシ使用の場合)
10 / 1 ギガビットイーサネット × 15 スロ
ット用光モジュール(XFP)インターフェースを備え
Fabric
ている.さらに RTM コネクタにもギガビットイーサ
追加することで,XFP インターフェース増設など,イ
容
max.SAS / SATA × 2 ポート)
LED
(2)豊富なインターフェース
ースを用意しているため,RTM 用オプションボードを
内
1 AMC single-width,mid-size
ワイヤーレートでのスイッチングが可能である.
ネットと 10 ギガビットイーサネットのインターフェ
AM730 の仕様●
バ
ッ
ク
プ
レ
ー
ン
ット(16 スロットシャーシ使用の場合)
(PICMG 3.1,option 9 / 1)
IPMB
Dual IPMB 接続可(Zone 1)
RTMサポート(Zone 3)
Fabric 10 / 1 ギガビットイーサネット ×
ンターフェースの拡張に対し,柔軟に対応できる.
3 スロット max.
RTM
また,AM730 は AMC(Advanced Mezzanine
Base 10 ギガビットイーサネット ×
2 スロット,1 ギガビットイーサネット
Card)スロットを備えている.この AMC スロットは,
× 4 スロット max.
標準で 2 チャンネルのギガビットイーサネットインタ
SAS / SATA × 2 スロット
ーフェースをサポートしているだけでなく,2 チャンネ
最大容量
128 Gbps(Base),400 Gbps(Fabric)
ルの 10 ギガビットイーサネットインターフェースを
VLAN
IEEE802.1Q ポートベース準拠
サポートできるように設計されている.
冗長
(3)冗長機能
2 枚の AM730 を使用することで,スイッチボード
の冗長化を図ることができる.また,スパニングツリー
プロトコル(STP,RSTP)やリンクアグリゲーショ
ス
イ
ッ
チ
機
能
QoS
スパニングツリープロトコル
(STP,RSTP),リンクアグリゲーション
IEEE802.1Q / p 準拠
IPv4 / IPv6 DiffServ
MAC アドレス
16 384 (Base)
ン機能を利用することで,リンクレベルでの冗長化も可
学習テーブル
16 384 (Fabric)
能である.
フィルター
アップリンク制御
リング
MAC アドレスベースフィルター
運用/管理
CLI,SNMP
4.2.3 適用アプリケーション
AM730 は高速・大容量のデータ転送能力が必要な
ファームウェア
ROM の二重化
ーバや基幹ルータ装置はもとより,ファイアーウォール,
IPMC
IPMI1.5 準拠
VPN,ゲートウェイ型ウィルス対策,コンテンツ・フ
RAS 機能
スイッチ温度監視,電圧監視
ィルターリングなどのセキュリティ装置にも最適であ
供給電源
−48 V
る.
外形寸法(mm)
280(D)× 30.48(W)× 355.6(H)
アプリケーションに適している.ハイパフォーマンスサ
さらに,マルチメディアサーバなどにも高い威力を
10
PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)
AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
発揮する.
X1
X2
光モジュール
X2
5
AM700 シリーズ開発の主な
ポイント
AMC
モジュール
(オプション
モジュール)
バックプレーン
⁝
X4
X2
オプションボード
X16
ATCA システムでは,長期間,一つのブレードを使
用する場合も多い.そのため AM700 シリーズの開発
オプションボード
X15
コネクタ
X2
⁝
バックプレーン
においては,現段階で最高の性能を有することが望まれ
た.高機能を実現するための部品を規格のサイズに納め,
所望の性能を実現するためには多くの課題があった.
一つは電気信号の伝送品質問題である.AM700 シ
リーズには,多くの高速インターフェースが使用されて
:10 ギガビットイーサーネット(XAUI 3.125 Gbps × 4 レーン)
:10 ギガビットイーサーネット(XFI 10.3125 Gbps)
:1 ギガビットイーサーネット(1.25 Gbps)
●図―4 AM730 のインターフェースの概略ブロック図●
(Fig.4-AM730 interface block diagram)
いる.CPU ブレードのメモリには 1 Gbps 注2)を超え
る FBDIMM が 4 スロット搭載されている.スイッチ
たビアの影響まで考慮しなければならなかった.
ブレードでは,10 ギガビットイーサネットの信号が縦
当社では,高度なシミュレーションによる解析を応
横無尽に張り巡らされている.中には 10 Gbps を超
用し,事前に検証された配線ルールに基づく配線を行う.
える電気信号をボード内に伝送しなければならない.ま
図−5に Gbps を超える要求に対応するプリント板設
た,ブレード間をバックプレーン経由で伝わる 1 Gbps
計手法の全体図を示す.AM700 シリーズの開発にお
を超える信号も多数存在する.具体的には,プリント板
いては,部品配置と電気的ルール設計や伝送路のインピ
の電気設計において,伝送波形品質の確保のために高度
ーダンス設計を行うだけでなく,高速配線の伝送損失,
な配線技術が必要となる.
クロストークの問題を事前に検証し,配線設計ルールを
次に,熱設計が上げられる.ブレードの機能を実現
する LSI,それを支える電源部品は発熱量も大きい.
発熱対策のための冷却設計への取組みも欠くことができ
なかった.
さらにはこれらブレードの機能を実現するために,
策定した.さらに高度な 3 次元解析により,ビアの最
適化も行った.以下に要点を紹介する.
(1)三次元解析
数 Gbps の信号をプリント配線板に伝送させる場合,
これまでは影響しなかった問題が顕在化する.コネクタ
短期間で製品に耐えうるファームウェアを開発する必要
のフットプリントやコネクタ自身,ビアの設計などがあ
があった.
げられる.本稿では,一例としてビアの設計について説
以下に AM700 シリーズの設計にあたり,採用した
技術ポイントを説明する.
明する.
ビアの影響は,数 Gbps を超えた帯域から影響が顕
著化する.不用意なビアを用いると,伝送品質の大きな
5.1 高速シリアルインターコネクト設計
低下を招く.ビアの影響が顕在化するのは,次のように
高速配線の多い AM730 を例に説明する.図−4の
考えるとわかりやすい.Gbps 帯域の信号は数 mm の
概略ブロック図に示すように,AM730 には多数のイ
波長しかないため,これまでは波長に対して十分に短か
ーサネットが配線されている.これらは 1 Gbps を超
った基板厚み方向への広がりが無視できなくなるためで
えるシリアルインターコネクトとなっているだけではな
ある.そのため,数 Gbps の伝送設計には,厚み方向
く,バックプレーンやモジュールコネクタを通したデー
も考慮できる三次元解析が必要となるのである.図−6
タ転送も必要とされている.これら多数の高速シリアル
に AM730 におけるビア設計条件を策定するために用
インターコネクトを実現するためには,従来に無いプリ
いた三次元解析の一例を示す.図−6は差動信号のビア
ント板設計技術が必要であった.特に,10 Gbps を超
の断面で見た図で,○で囲んだ部分に余分なエネルギー
える XFI においては,従来は信号品質に影響しなかっ
の放出がみられる.XFI のような 10 Gbps を超える
伝送では,信号の品質を保つために,図示したようなエ
注2)Gbps :データを転送するスピードの単位,1 Gbps は 1 秒
間に 1 ギガビットのデータを転送する.
PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)
ネルギーの損失を極力抑えるビアの設計を行った.
11
AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
Gbps 超用途
プリント板設計
(Gbps 〜)
高速度用途
プリント板
設計(〜Gbps)
Gbps 配線シミュレーション
・インピーダンス
・伝送損失
・クロストーク
・ISI
→Pin Assign,ビア,配線層,配線条件,コネクタ選定
基板材料,接続方式選定など
回路設計
↓
論理検証
・実測高精度モデリング
・3 次元解析モデリング
→コネクタ,ビア,基板配線,
ケーブルなど
・実験基板による検証
Gbps 配置・配線設計
・タイミング,配線制約,熱
・クロストーク,バスグループ
・トポロジ・配線制約(等長・・・)
高品質配線基板
●図―5 高速インターフェースの設計手法●
(Fig.5-High-speed interface design methodology)
の大小はプリント基板に使用する材料の誘電正接に依存
ビアホール
する.伝送損失の小さい材料は,一般的材料である
FR4 に比べて高コストとなる傾向がある.
AM700 の設計では,配線による伝送損失,各種ノ
イズによる伝送損失等のシミュレーションを含めた事前
設計を行い,伝送品質が満足でき,しかも高コストとな
らない材料を選択した.
(4)クロストーク設計
AM700 のように,多くの Gbps の帯域の信号を伝
送するシステムでは,伝送線路間のクロストークも信号
品質を阻害する原因となる.クロストークの原因は,信
●図―6 ビア条件を求めるための三次元解析例●
(Fig.6-Example of three-dimensional analysis to obtain a via
condition)
(2)インピーダンス設計
号線の電流変化によって生じる磁界による電磁結合や,
浮遊容量による容量結合が原因であるが,Gbps 帯域
では,信号の伝播モードにも影響を受ける.
AM700 ではクロストークを抑えるため,信号配線
システムの伝送線路においては,インピーダンスの
の線幅,間隙および配線層を考慮し,信号品質に影響を
整合性が重要である.インピーダンスの整合がとれてい
与えるクロストーク量を事前に検証することで,後戻り
ないと,その接続点では反射が起こり,信号品質を阻害
のない配線設計を実現した.
する.特に Gbps の帯域では,一度反射をおこしたエ
ネルギーがさらに別の不整合点で反射をおこし,長時間
5.2 熱設計
にわたって伝送品質を低下させる.いわゆる I S I
AdvancedTCA は,ボード当たりの最大発熱量は
(Inter Symbol Interference :符号間干渉)問題で
200 W まで許容されている.また冷却するための風量
ある.不整合を防止するためには,その要因について,
はシェルフの搭載位置により若干の差はあるものの,ボ
十分な考慮とシミュレーションによる検証が必要であ
ード当たりに換算すると 80 × 80 mm サイズのファ
る.
ンの風量に相当する.言い換えれば,1 台の PC でフ
AM700 の設計では,配線ルールの設計,
(1)項で
ル搭載した発熱量が約 200 W で,冷却は 80 mm 角
説明したビアの設計,配線層の選定,コネクタフットプ
ファンを実装したケースがあり,総発熱量・冷却風量に
リントの設計等の事前検証を行った.
着目するとボード当たりは 1 台の PC に相当する.し
(3)伝送損失設計
一般的にプリント基板では,周波数が高くなると,
単位線長あたりの伝送損失が大きくなる.この伝送損失
12
かし発熱密度は体積が小さいボードの方が遥かに高い.
また PC の場合,CPU などの高発熱部品はファンと
ヒートシンクを組み合わせたクーラにより局所的に冷却
PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)
AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
している.しかし,ATCA はスロット幅が狭いため,
ファンを搭載することが難しく,ヒートシンクのみで放
熱しなければならない.
AM710 の CPU ブレードは,80 mm 角サイズの
ファンに相当する風量で CPU,チップセット,メモリ
など全ての部品を動作保証温度範囲内まで冷却すること
が求められる.
吸気の空気温度は 40 ℃,CPU の発熱量は 1 個当
たり 40 W,2 個で合計 80 W 発熱する.冷却設計で
は 4 つの CPU コア全てが動作している発熱量を想定
する.CPU の表面温度は動作周波数により違いはある
●図―7 AM710 の熱解析モデル●
(Fig.7-AM710 thermal analysis model)
が,約 80 ℃以下に抑えなければならない.温度上昇
は約 40 ℃以下,熱抵抗で表すと 1.0 ℃/W 以下にな
る.風量から風速を算出すると平均風速約 1.5 〜 1.8
m/s である.
基板の配線密度が高いため,ヒートシンクを固定す
る穴数を最小限に留める必要があり,CPU とチップセ
ットは 1 つの櫛型ヒートシンクにまとめて冷却する案
を採用した.冷却検討には熱流体シミュレーションを使
い,放熱性能を満足するヒートシンクの材質とサイズ,
部品の配置を検討した.図−7に熱解析用モデルを示す.
また表面温度の解析結果を図−8に示す.
●図―8 AM710 の熱解析結果●
(Fig.8-AM710 thermal analysis result)
CPU,チップセット,メモリなどの温度が動作保証
温度範囲であることを検証した.
次に AM730 のスイッチブレードであるが,吸気温
度は同じく 40 ℃.基板上の高発熱部品は分散して配
置されているため,各々にピン型ヒートシンクを採用し
た.図−9にスイッチブレードの熱解析モデルを示す.
高発熱部品は解析精度を高めるため,詳細な熱解析モデ
ルを定義し,冷却性能の検証を行った.表面温度の解析
結果を図−10に示す.
以上のように,ボードの設計段階から熱流体シミュ
レーションを使い,部品配置,最適なヒートシンクサイ
●図―9 AM730 の熱解析モデル●
(Fig.9-AM730 thermal analysis model)
ズを検証し設計を行っている.
6
今後の展開
標準化によるコストメリット,開発スピードの向上
が期待できる ATCA の需要はこれから高まっていくこ
とは容易に予想できる.事実,Intel をはじめとしたさ
まざまなメーカーが ATCA 準拠のブレードの提供を発
表している.また,通信事業者では ATCA を用いたシ
ステム開発がすでに開始されている.NGN(Next
Generation Network)時代を迎えるシステムでは,
PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)
●図―10 AM730 の熱解析結果●
(Fig.10-AM730 thermal analysis result)
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AdvancedTCA 製品の開発〜 AdvancedTCA に準拠した,高性能 CPU ブレード及び 10 ギガビットイーサネットスイッチブレード〜
コンピュータと通信機器の融合という意味でも ATCA
は非常に有用である.
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むすび
AM700 シリーズの販売により,ATCA の市場は新
たな時代を迎えた.これから ATCA 製品はこれまでク
ローズされていた市場を開放し,本格的な技術競争の時
代を迎えていく.
当社は,ATCA の市場においてトップを目指し,
参考文献
参1)−:通信機器はオープンに「安くて高品質」を求める,
日経エレクトロニクス,2006. 3. 27, pp. 100-103.
参2)−:複数の専用装置を一台に集約 NGN 時代の通信基盤
を目指す,日経コミュニケーションズ,2006. 10. 1, pp.
100-104.
参3)−: David W. Yen に聞く通信業界の動向,2004 年 10
月,サンマイクロシステムズ,
http://jp.sun.com/solutions/telecom/features/
feature08.html
参4)−: ADVANCEDTCA の市場普及と成長期待,2005/
12/27,株式会社データリソース,
http://release.japan.zdnet.com/release/abstract.html?
release̲id=00006285
ATCA システムを支える各種ブレードを提供すること
で,NGN 時代を迎える情報化社会の拡大と浸透に今後
も積極的に取り組んで行く.
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PFU Tech. Rev.,18, 1,(05,2007)