平成 24 年度 男女共生グローバルサポーター事業 「女性リーダーコース フランス共和国班」視察報告書 平成 24 年 10 月 28 日(日)~11 月 4 日(日) 8 日間 小倉 久美子(郡山市) フランス共和国(French Republic) ◆概況 面積 人口 首都 言語 宗教 略史 : 約 54 万 4000 平方㎞(フランス本土 仏国立統計経済研究所) : 約 6500 万人(2012 年 1 月暫定値 仏国立統計経済研究所) : パリ : フランス語 : カトリック、イスラム教、プロテスタント、ユダヤ教 : 1789 年 7 月 フランス革命 1946 年 10 月 第四共和制発足 1958 年 10 月 第五共和制発足 2007 年 5 月 サルコジ大統領就任 2012 年 5 月 オランド大統領就任(任期 5 年) 政体 : 共和制(第五共和制) 元首 : フランソワ・オランド大統領 議会 : 二院制 下院 : 577 議席 任期 5 年 上院 : 343 議席 任期 6 年 連立与党 社会党 ヨーロッパ・エコロジー緑の党 急進左派等 政府 首相 : ジャン=マルク・エロー(社会党) 外相 : ローラン・ファビウス(社会党) 内政状況 (1)5 月 15 日、オランド新大統領が第五共和制第七代大統領に就任し、同日エロー首 相を任命、16 日には組閣が行われ、正式にオランド政権が発足した。 (2)オランド政権は、 「国民統合」 「公正」「若者」等を軸に、パリテ法(男女同率)の完 全実施を目標に社会民主主義路線の政策の展開を目指している。財政・経済危機を 念頭に置き、2017 年までの財政均衡回復を打ち出し、高所得者への所得税増税な 1 どの税制改革を中心とした 構造改革を進めつつも、その成果を受けた経済成長戦 略に当てるとしている。 (3)6 月には国民議会(下院)の選挙が実施され、オランド 大統領の支持母体である社会党会派が単独で過半数の 議席を獲得するなど左派が圧勝。第五共和制下で初め て大統領・内閣・上下両院・ほぼ全ての地方議会の実権 2012 年 5 月 31 日付 を掌握。 通貨 ユーロ(1 ユーロ=103 円 2012 年 10 月 31 日付外国為替相場) 朝日新聞 Ⅰ研修テーマ 持続可能な未来の創造のために ~「福島第一原子力発電所爆発事故と男女共同参画社会をフランスから学ぶ」 Ⅱ研修テーマ設定の理由 2011 年 3 月 11 日、1000 年に一度といわれる大地震と予想をはるかに超えた大津波に より何万もの命が奪われ、ふるさとがその様相をすっかり変えてしまったあの日。そし て翌日の 12 日、人類史上最悪の福島第一原発 1 号機で水素爆発。14 日には 3 号機が、 15 日には 4 号機が爆発。地震と相次ぐ人災。この 2 つが福島に住む私たちから「日常性」 を奪い取り、間もなく 2 年になろうとしている現在も、安全で安心して暮らせる福島は 戻っていない。 福島に住むことを選択した者も、ふるさとを離れ県内外に避難している約 16 万人の 人々も、不安や恐怖、悲愴感や諦観を抱きながらも、誰もが以前のように安全で安心な ふるさとが再生されることを心の拠り所にしながら日々の生活を送っている。 電力供給の 75%以上を原子力発電に依存しているフランスでは、放射能に関する調査 や情報提供はどのような形で市民になされているのか、また地震のない国といわれ、現 在稼動中の原発 58 基は世界第 2 位(1 位はアメリカ、3 位は日本 2012 年 1 月 1 日現在 日本原子力産業協会資料)のフランスだが、北部アルバザス地方のフェッセンハイムやロ ーヌ地方のカダラッシュは地震が起こりうる地域に指定されたこと、更に稼動中の原発 基はマグニチュード 6.5 の地震に耐えるだけの安全性を謳っているが、不測の事態に対す る備えや訓練はフランスではどうなっているのかを知ることにより、福島第一原発事故 と復興を目指しての日本の男女共同参画の在り方を再考したいと考えた。 Ⅲ研修先・研修内容 10 月 29 日(月) マルセイユ 女性の権利と平等の地方行政機関 Délégation régionale aux droits des femmes et a l’egalite(DRDFE) 男女就労や男女共同参画・DV 等の相談窓口となり不平等をなくす施策を講ずる機関 対応者 : アンソニー・モルチェさん(男女平等ネットワークコーディネーター) フランスの各地方に男女平等委員会(1975 年)があり、国 の男女平等の施策を推進している。その施策とは、 ①女性が高いポジションにつくこと。目標としては、県 議会議員の 30%、地方議会の 50%、管理職の 50%を 女性が占めることである。特に企業の女性管理職が 30% 以下なら、罰金を科する。 女性の権利と平等の地方行政機関にて ②女性が質の高い職業に就くこと。女性の大学進学率は 男性より高いが、一般職が多くエンジニア系に進む女性が尐ない。 ③企業内の平等(同一労働・同一賃金) : 同じ大学を卒業し就職した男女のその後のキャ 2 リアに差がないか監視したり、マンツーマンによるコーチング制度を推進している。 ④平等な教育 ⑤ワーク・ライフ・バランス ⑥女性の権利と健康の保持 : 女性の中絶を認め、ピルの使用を推進する。 マルセイユを含むアルプス・プロヴァンス地方は、従来女性の仕事と考えられてい たサービス業に就きパートタイマーで働く女性が多い。マルセイユはひとり親家庭が 多く、交通公共機関も整備されていないことから就労できない女性も尐なくない。退 職後の女性の年金は男性の 1/2 にしかならない。そのため女性に特化した施策も講じ られている。地方議会は男女平等の意識が高く、特に男性が平等の施策を強力に推進 し、民間団体との連携も積極的に行っている。 10 月 30 日(火) マノスク ロクシタン L’OCCITANE 女性を多く雇用している化粧品関連の企業で、従業員の 55%、 管理職の 62%が女性である。 対応者 : カティア・ミケレットさん(持続可能な発展部門責任者) ①女性の管理職登用について 女性がトップ管理職になるにはまだまだ「見えない壁」 「ガラスの天井」があり、女性管理職の割合は 40%とパリテ(男 左:ミケレットさん 女同数)には届かないのが現状である。 右:通訳の鈴木さん ②女性の管理職登用への取り組みについて フランスでは、給与その他職業上での男女平等が法で定められている。又、上場企 業や一定規模の株式会社は取締役の 30~40%は女性を任命するよう求められており、 男女平等のためのアクションプランや男女の雇用及び職業訓練等につき男女の状況 を評価できる数量分析を含む報告書(男女比較状況報告書)の作成も義務づけられてい る。 ロクシタンでは、これらの法的事項を遵守すると共に、具体的には以下のような取 り組みを行っている。 ★コーチングシステムの導入 管理職としての行動の仕方、心構え、ネットワーク作りなどのノウハウの伝授な ど、管理職を目指す女性なら希望すれば誰でも無料で受けられる。トップ管理職 になることに対し萎縮しがちな女性が尐なくないことから、普段からより多くの 女性従業員が理事会や管理職会議に出席することを奨励している。 ★子育て期の男女の働き方 フランスでは、子供が 3 歳になるまで最長 3 年間、男女とも育児休業を取得でき る。女性は産前 6 週間、産後 10 週間の休暇があり、子供の出生順位、複産等の場合 には期間の延長がある。男性の場合、育児休業とは別に「父親休業」(出産時から 2 週間以内に 3 日、4 ヶ月以内に 11 日)があり、最近は取得率が高まってきている。企 業内では有給休暇の 100%消化が推奨されており、育児休業を取得する男性への冷た い視線は全くない。なお、育児休業中も昇給を実施するなど全面的に支持している。 ★託児所 企業内託児所はないが、近隣の託児所と提携している。日本と同様、フランス でも託児所は常に満員で、預けることが難しい状況にあるが、ロクシタンでは従 業員のための託児所の予約枠を確保している。託児所への送迎も男性従業員が積 極的に行えるような雰囲気作りに努めている。 ★多様な勤務形態 実際にお話しを伺ったカティアさんは管理職にありながら、2 週に 1 度水曜日(フ ランスの学校は水曜日と日曜日が休み)を休日とし、子供と過ごしている。子育て 3 等で短時間勤務にすることも可能だし、希望すればいつでもフルタイムに戻れる。 時短勤務・産休・育休の補充要員は CDD(有期雇用の契約従業員)で対応している。 ★ジェンダーのメンタリティー 会社が制度を整えても、従業員の意識を変えるのは容易ではない。男女平等に ついて進んだ取り組みをしており働きやすい職場だが、それでも人々のジェンダ ー意識を変えるにはまだまだ時間がかかりそうだ。 10 月 31 日(水) リヨン リヨン第一大学男女平等委員会 Mission égalité entre les femmes et les hommes de l’Université Lyon1 対応者 : フィリップ・リオタードさん(リヨン第一大学男女平等委員会委員長・スポーツ社会学教員) 2000 年「ヨーロッパにおいて男女格差をなくそ う」というリスボンヌ協約が締結された。そこで 男女格差について統計をとったところ、高等機関 におけるヨーロッパ各国の男女格差が判明し、フ ランスの進んでいる点ばかりでなく遅れている点 も歴然となった。2006 年ヨーロッパ議会が、女性 がもっと理系の分野に進むようにとのキャンペー ン“Science is a Girl’s thing.”をヨーロッパ全体 規模で展開し、男女のメンタリティーを変革する リオタードさんと一緒に 取り決めをした。 ①リヨン第一大学における男女平等教育の出発 2004 年に設立。当時は国民教育省に所属していたが、現在は大学の直属である。 2008 年男女平等に関する憲章が発布され、1 年後の大学学長会議で採択された。委員 長は監視と実施の両方を担っていて、学長に改善のための直言が出来る。現在フラン ス国内 50 大学に平等委員会がある。2011 年国内各大学の平等委員会が協議会を結成 した。 2012 年 「女性の権利省」 が出来たが、予算が尐なく思うような活動は出来ていない。 企業等からの助成金をそれに充当しているのが現状である。現在、リヨン第一大学 平等委員会はローヌ地域議会、地方議会にも出席し行政とも密接に連携している。 各大学が国から独立しているので、独自性を発揮するための施策も講じなければな らない。 お話しを伺ったフィリップさんは、1970 年代スポーツ界における性的暴力が現に 存在しているのに全く問題視されないこと、また、スポーツ選手の薬物使用や人間 の身体がメディアでどのように扱われているかに関心を抱き、ジェンダー学を研究 するようになり、平等局の一員になり活動してきた。 前委員長の女性が退職するのを機に、その人からの勧め や周囲からの後押しもあり、女性ばかりの委員会のトップ に男性の自分が就任するのも面白いと考え、その任を受け 現在に至っている。フランス国内 50 大学の男女平等委員 会の中で委員長を務めている男性はフィリップさん 1 人で リヨン第一大学 ある。 ②活動について 対象 : 学生・大学教職員・一般市民 スタッフ : 研究者・大学教職員・学生 スタッフは無給で、それが活動の一つのネックになっている。民間団体とのネ ットワークを大事にし、それらの活動の後押しもしている。 場所 : 大学構内に事務所とドキュメントセンターを持っている。 4 予算 : 年間 1,500 ユーロ。プロジェクト毎に市・地方・国から助成金が出たり、大 学のイメージアップにつながるので大学から特別予算がつくこともある。 大学図書館にはジェンダーに関する蔵書が 4,500 冊あり、ヨーロッパ全域からの検 索が可能。 ③大学生に対する男女平等教育について 5 年前から「身体と性と文化」の講座を開設し、いろいろな学部の学生(年間 120 ~140 名)が受講していて、内 20%が男子学生で、イスラム教徒の女子学生もいる。 学生の大半は平等委員会の存在を知らない。DV について授業で触れ、アンケート を実施したところかなりのデート DV があることが判明したので、それらに関する リーフレットを作成し学生の目に付きやすい教室やカフェテリアに置いてある。し かし、フランス国内ではデート DV についてはまだ取り上げておらず、学生達から はステレオタイプの男女関係から脱却できたとの声が寄せられている。 女性の避妊・中絶・雇用も重要な課題だが、避妊・中絶に関しては医学部の教授たち からの反対が強い。理由として、1973 年まで中絶は法で禁止されていたのでその技 術を医師は身につけていないことも挙げられる。 10 月 31 日(水) ヴァランス 放射能に関する調査及び情報提供の独立委員会 クリラッド CRIIRAD Commission deRecherche et d’Information Indépendantes sur la Radioactivité フランスの放射能に関する独立した環境 NGO。チェルノブイリ原子力発電所事故を 受け、1986 年 5 月ミシェル・リヴァジ欧州議会議員の首唱により、市民の放射線防護 を第一の目標としている第三者機関で、マルクール原子力地区に近いドローム県ヴァ ランスに研究所がある。 なお、CRIIRAD は私のテーマと直結しているので詳細については独立した形で後述 したい。 11 月 2 日(金)パリ 在フランス大使館 対応者 : 北村参事官 フランスの概況についての説明を受けた。多くは本報告書の 1 ページに記載してい る。ここでは、フランスの経済と日本との関係について記す。 ①経済 ★フランス経済は内需主導で、緩やかな成長が特徴。一方、慢性的な雇用問題を抱 える。租税・社会保障負担率の高さや、各種規制の強さも特徴である。 ★2008 年半ばから景気が悪化し、2009 年通年では戦後最低のマイナス成長を記録し た。しかし同年半ばからは緩やかな回復基調に転じ、2010 年、2011 年と実質 GDP 成長率は+1.7%となった。(仏国立統計経済研究所) ★主要産業 : 化学、機械、食品、繊維、航空、原子力等 ★GDP : 2 兆 7760 億ドル (11 年 IMF) ★失業率 : 9.7% (11 年 IMF) ②日仏関係は良好で、議員交流も盛んである。経済関係も良好で、ルノーと日産自動 車の資本提携、トヨタ自動車のフランス北部ヴァランシエンヌ工場での生産等を始 めとして日仏企業連携も活発である。 しかし、両国の貿易総額に占めるシェアは未だ低い。2011 年の日本からフランス への輸出は 6,377 億円(我が国の輸出中 22 位)、フランスから日本への輸入は 9,436 億円(わが国の輸入中 18 位)である。 ★在留邦人数 : 29,142 人(2011 年 10 月外務省領事局統計) ★在日フランス人数 : 8,423 人(2012 年 10 月法務省入管統計) 5 11 月 2 日(金) パリ 女性の権利省 Ministeré Des Droits des Femmes オランド政権下、エロー内閣で 24 年ぶりに復活したのが 「女性の権利省」である。大臣に就任したのはモロッコ出身 のナジャット・バロー=ベルカムさん 34 歳で、内閣最年尐の 女性の権利省にて 女性である。 対応者 : カロリーヌ・ドゥ・ハースさん(大臣官房長官女性政策担当参事官) ①フランスはまだまだ男女が平等ではない。 フランス女性の賃金は男性より 27%低く、毎年 27,000 人が DV 被害を受けている。 女性のみが「育児」と「仕事」に追われる二重の日々を送っている。 ②女性の権利省は、各省庁に向け女性問題を提起し、調整や伝達を行っている。また、 国内向けの情報発信や啓発広報も行っている。 現在、男女平等推進に関わる施策のうち実際に守られているのは 30%程度である。 働く上での男女平等についての制度は整えられつつあるが、完全実施には遠い。DV に関しても件数としてあがってきていない被害も多い。これらを監視し、表面化しな い DV 被害への対策が女性の権利省の大きな任務である。 保育所の数も不足しており、希望者の 1/10 しか入所できない。中絶処置の出来る医 師が尐ないことも問題である。依然として男女の固定的役割分業意識や慣習も根強く、 国民の意識の変革は遅々として進まない。 教育・法律・女性の権利・治安に特化して改革を推進している。学校教育では、子供 達に低学年の段階から男女共に同じ遊びをさせ、同じ職業体験をさせる。教師の意識 変革のためジェンダーについての再教育を行う。今後は、国営のフランス・テレビジ ョンの放送規約の中にも男女平等に関するリテラシーを盛り込んでいくことを検討 中で、さまざまなメディアを活用した啓発に取り組んでいく。国のトップから意識を 変革することが最重要と考え、大臣クラスへの男女平等意識啓発の教育を実施してい る。 最後に、カトリーヌさんは、 「フランスは EU の中でも特に熱心に男女平等を推進 している国と思われているかもしれないが、実情はまだまだである。しかし、男女平 等の実現に力を注ぐという国のトップの強い意向もあるので根気強く取り組んでい く。それには、市民活動家と行政の連携が大事である」と話された。 11 月 2 日(金) パリ 全国家族手当金庫 Caisse Nationale de l’Allocations Familiales 対応者 : フィリップ・ステックさん(国際関係局長) フランスの家族手当の担い手は、国の社会保障制度の中 の家族部門である。この部門の中に多くの手当てを給付し ている全国家族金庫がある。国の管理は受けるが、独立し た公的機関である。家族部門の財源の 60%は雇用者から、 中央:ステックさん 40%が税金からである。 1965 年までは女性が働くことに対して男性側から反対があったが、「民法」の改正 により反対できなくなった。1970 年には家父長制が廃止され、1972 年には非嫡出子 も嫡出子と同じ権利を有することが法で定められた。1975 年には双方の合意による離 婚や中絶も認められ、ピルの使用も一般化した。1992 年以降、女性の就労率が高まり 女性向けの仕事(サービス業、介護職等)に就きながら子供を育てることが可能になっ た。現在一人の女性の出生率は「2」で、24~58 歳の女性の 83%が就労しており、女 性の 73%が「仕事と子供」の2つを望んでいる。 ①女性の就労と育児の面からのサポート 6 妊娠 7 ヶ月時 900 ユーロの補助手当給付。出産休暇は第 1 子と 2 子は 16 週間、 第 3 子 26 週間、給料はそのまま国から支給される。仕事に戻るかどうかは自由だ が、復帰する場合には子供は優先的に保育所に入所できる。第三者に保育を依頼す る場合、収入に応じた補助があり、祖父母の場合 180 ユーロの補助がある。父親育 休は 2 週間で、子供が 3 歳になるまで父または母の元で育てることを条件に育児手 当が毎月 570 ユーロ支給される。但しパートタイマーの場合は支給額が下がる。2 ~3 歳までの幼稚園は無料。 フランス女性の出生率が向上したのは、外国人や移民の影響と思われているかも しれないが、 「仕事と子供」の 2 つを望んでいる女性が増え、それを政策として支 持したからである。 ②ひとり親家庭に対するサポート 母子家庭は全体の 19%で、最低でも月 640 ユーロの補助がある。父子家庭も同様 である。また、シングルマザーで子供の父親が養育費を払わない場合には国からの 支援があり、70%のシングルマザーがこれを受けている。 ③貧困家庭への補助 かつては貧困家庭が全体の 27%を占めていたが、現在は 7%で、一人当たり月 420 ユーロの補助がある。 ④住宅手当 収入に応じるが、子供の数が多いほど支給額も多く、引越し費用等も認められる。 ⑤子供の数の多い家庭への補助 子供が 2 人なら月 400 ユーロ、3 人なら 750 ユーロ、4 人なら 1400 ユーロ支給。 ⑥身体障害者(約 90 万人)に対しては月 800 ユーロ支給される。 ⑦保育所・幼稚園の子供の受け入れに関するインターネットによる情報の提供 特化しているのは乳児受入対策で、年間保育所 1 万席 増設が可能になり、20 万席を目指している。 これらの手当ては家族政策の中の出産奨励ではなく、貧困 防止のためと強調された。 11 月 2 日(金) パリ 全国家族手当金庫 国民教育省 Ministeré de l’education nationale 対応者 : フランソワーズ・ラガルドさん(初等中等教育総局学校課副課長) ベルナッド・トマさん(国際局アジア・アフリカ課) 会議室にて ①フランスの義務教育の理念と課題 オランド政権発足以来、重要な討議がいろいろとなされ、 それに基づくプロジェクトやそれを推進するチームが編成さ れ活動を始めている。教育の現場でも男女平等の面から働き 左:フランソワーズ・ラガルドさん かけ、性別にとらわれない教育のあり方についての研究討議 右:ベルナッド・トマさん が進められている。男女平等の実現に向かい今後どのように 教育を進めるか具体策を講じているところである。 ②フランスの義務教育(6~16 歳高校 1 年修了時まで) 算数・国語等 7 科目を履修し、文化や人間性の教育、自立した社会人としての資 質を養っている。男女平等の理念は今後、文学、歴史の分野でも取り組まなければ ならない。現在実施している小学校からの文学、歴史教育等が性差別や女性問題の 解決につながっているかは疑問である。また、教員に配布される指導書が国家スロ ーガンである「自由・平等・博愛」に合致しているかどうかも問われるところだ。 ③移民の受け入れについて フランスは平等を重んじる国なので、人種・民族・国籍・居住期間・宗教等は全く 問題にならず、フランス人の子供と分け隔てなく誰でも受け入れている。それらの 7 受け入れに当たり、フランス語導入クラスや補充クラスを設けており、その指導に 当たるのは、外国人にフランス語を教える資格を持つ専門家である。体育や美術の ような実技科目についてはフランスの子供達と一緒のクラスで学んでいる。 ロムまたはロマと呼ばれるジプシーは季節によって各地を転々と移り住む民族 だが、その子供達の受け入れについても管轄する専門機関があり、教育委員会の中 にも専門の部署がある。彼らに対する教育は一時的なもので継続性は望めないが、 だからこそフランスでの教育は彼らのその後の人生をも考慮したものでなければ ならない。 教育委員会との連携も密で、年に 1 回はセミナーや会議を開催している。 陸続きのフランスではマイノリティーに対する教育は重要な意味を持っている。 ④学業不振者に対する支援 この 10 年、落第者は年々減尐し現在は 10%以下である。落第のメリットがあま りないこと、児童数の減尐により 1 学年 2~3 クラス、1 クラス 23~26 名という尐 人数学級になり、一人ひとりの生徒により肌理の細かい指導が可能になったことが その理由と考えられる。 落第者については、 昼休みや放課後の補習、長期休業中 1 週間の補習が年に 2 回、 いずれも 3~6 人の尐人数で実施され、一般教員とは別枠で養成された専門教員が その指導に当たっている。繰り返し学習で理解力も深まり、自信を取り戻す生徒も 出ている。 ⑤女性教員の管理職登用について 教員はフランス女性の憧れの職業で、小学校教員の 80%は女性であるが、管理職 についている女性の数は増加傾向にあるとは言うものの、まだまだである。 Ⅳ 持続可能な未来の創造のために ~「福島原子力発電所爆発事故と男女共同参画社会をフランスから学ぶ」 1CRIIRAD から福島原子力発電所爆発事故を見る 放射能に関する調査及び情報提供の独立委員会 CRIIRAD クリラッド Commission de Recherche et d’Information Indépendantes sur la Radioactivité 訪問日時:2012 年 10 月 31 日(水) 15:00~17:00 対応者:Rolland DESBORDES ローラン・デボルドさん 事務局長 元高校物理学教師。定年の 60 歳で退職。無給のボランティア だが、古い家に住み、ガーデニングを趣味とし、古い車を乗 り回し、子供達も成長したのでもうお金を稼ぐ必要がないので 問題はなく、CRIIRAD での活動は生きている証で、一人の科 学者として社会の役に立てることに喜びを感じているという。 デボルドさん (1)CRIIRAD 設立とその目的について 26 年前のチェルノブイリ原子力発電所事故の際、フランス政府は国民に事実を全く 報道しなかったためフランス国内の環境に大きな影響を及ぼした。そこで市民の立場 から、環境における放射能の汚染状況を調査するために、国やあらゆる行政機関から 独立した第三者機関 CRIIRAD を立ち上げた。 測定の結果、子供達が口にするようなチーズや牛乳までもがかな り汚染されていることが判明したが、その当時は汚染限度が高く設 定されていたため問題視されることはなく、基準値を上回る食品が 多く市場に出回っていた。これは安全性よりも経済性を優先した結 果なのではないかと思われる。福島も同様だったのではないか。 CRIIRAD は放射能反対の立場を取っているわけではなく、医療 に使用される放射能、核実験に使われる放射能、自然界に発生する クリラッド 放射能等、放射能に関すること全般にわたって調査研究している。 1897 年キューリー夫妻によって放射能が発見されたその当時は、それは身体に良い ものと考えられていたが、広島・長崎に投下された原爆から決してそうではないこと 8 が証明された。 その後の研究から、放射能と健康は決して両立しないことが判明し人類は放射能の 影響について楽観的に捉え過ぎていたと言わざるを得ない。 (2)CRIIRAD と日本との関係について 10 年前グリーンピース・ジャパンに招聘され青森県六ヶ所村を訪れ、原子力発電所 稼動前の状況調査をしたことが日本との最初の接点である。 福島第一原発事故後の 2011 年 3 月末イワタ ワタル(岩田 渉 東京在住 ミュー ジシャン)さんから依頼を受け、放射能測定機器を貸し出した。彼はその機器を持ち自 転車で福島に行き放射能数値を測定して回った。これが二度目の日本との関わりである。 事故直後は津波や放射能に関する正確な状況が把握できなかったため訪日できなか ったが、2011 年 6 月末(実際は 5 月 24 日~6 月 3 日)CRIIRAD の責任者と技術者の 2 名が福島を訪れ、各個人宅の土壌の放射線量を測定したり、ホットスポットを発見して 住 民 に 知 ら せ 感 謝 さ れ た 。 岩 田 さ ん は CRMS(CITIZENS’ RADIOACTIVITY MEASURING STATION)という測定所を福島に立ち上げ、それを知った福島のある母 親の会がそことコンタクトを取り、測定機器の使い方を学んだ。彼は、原発事故前は放 射能に関しては全くの素人だったが、機器の操作についても驚異的なスピードでマスタ ーし、現在ではミュージシャンを辞め、経済的に苦しい状況にあるにも拘らず 5 つの 測定所(現在は 10 ヶ所、内 1 ヶ所は東京)を持ち、その運営に情熱的に取り組んでいる。 2011 年夏、彼はフランスに渡り調査研究をした。2012 年 6 月には放射能に関するト ークショーを開催したが、その際 CRIIRAD の研究者が岩田さんを訪ねている。 2012 年夏、彼は福島の母親数人とフランスを訪れ、福島の子供達を期間限定でフラ ンスに避難させてもらうプロジェクトを企画し CRIIRAD にその受け入れを要請して きた。そこで、チェルノブイリ原発事故後、そこに暮らす子どもたちを受け入れた実績 を持つフランス国内の信頼できる組織の支援を得て、昨年夏無事実行できた。 (3)これからの福島について 私達が訪問するその直前までデボルドさんは、毎日新聞社パリ支局の日本人女性記 者のインタビューを受けていたのだが、その内容は、フランスは国内の原子力発電所 の稼動を停止した場合、その後それをどう解体していくのかだった。このインタビュ ー記事は日本で発表される予定である。(2012 年 12 月 7 日付毎日新聞に掲載された) これまで岩田さんと CRIIRAD が共同で調査研究してきた福島の原発事故について プレス用コミュニケとして共同発表の予定だが、原発から 5km しか離れていない所よ りも 80km 離れた所の方が放射線量数値が高いことがあるのに、「何故もっと幅広い地 域の住民をいち早く避難させなかったのか」が焦点になる。 放射能の恐ろしさは、今直ちにということもあるが、何十年後かにいろいろな形で 影響が現れてくることにあるので、今後も日本との関係を保ちながら情報を提供し続 けていきたい。 (4)質疑応答 Q:放射能と人間の共生は可能だと思うか。 A:不可能だ。各国の政策については専門家ではないのでコメントできないが、チェ ルノブイリや福島のような重大事故が起こりうるという危機意識を常に持ってい なければならない。 Q:日本では、年間被爆量が 1m シーベルト以下なら人体に影響はないと言われている が本当か。 A:これは国際的科学者が定めた数値で、これについて CRIIRAD はコメントする立場 にない。しかし、一度受けた放射能は見えない形で蓄積され、消えることなく毎 年加算されていく。広島では原爆が原因と思われる死者が 67 年後の今でも増え続 けていることが統計上からも明らかになっている。年間 1m シーベルトを超えた場 9 合、10 万人に 5 人が癌で死亡し、2 人が生殖系の重大な機能障害を引き起こすと 言われている。 Q:放射能汚染廃棄物の処理と人体への影響は。 A:汚染された土を「見えない、触れない安全な場所」に隔離することが一番だが、 汚染がゼロになるのに 100 万年かかる物質もあるのでどう処理したらよいか分か らず、答えを先延ばししているのが正直なところだ。 Q:マルクール核施設事故(2011 年 9 月)とメディアの取り扱いについて。 A:これは放射性の鉄の融合を行う原子炉で起こった事故で、作業員 1 名が死亡、1 名 が重態となった。作業工程の中には、直接触れたり壊したりと人の手でしか出来 ないことがたくさんあり、ロボット等の代替も不可能な中このような死傷者が出 るという最悪の事態になった。チェルノブイリや福島も同様な状況だっただろう。 この事故は福島の原発事故から僅か 6 ヶ月後であったこともあり、かなり大きく 報道された。かつて東海村でも同様の事故が起きたと聞いている。 Q:CRIIRAD の構成メンバーと活動について A:メンバーは 15 人。内 8 人は技術者で残りの 7 人は情報伝達を担っている。活動の 中心は、フランス国内の大気や土壌の放射能汚染の調査・分析で、これらの情報を 無料で開示している。人々が住んでいる地域の放射能測定が一番だが、重大事故発 生時の情報発信と批判・環境保護も重要な目的である。 フランスでは放射能汚染廃棄物と他の物質を混合して放射性レベルを下げそれ を建築現場で使用している状況があるので、それについての批判もしているが、未 だ法で規制されていない。 そこで無法状態にならないよう運動を展開し監視してい る。福島でも汚染された土をどこに持っていくかが課題である。 Q:CRIIRAD のフランス国民に対する影響力について。 A:活動を開始して 26 年が経過し、メディアにも広く周知され信頼できる情報の発信 機関として認知されてきている。現在会員数は 7,000 人で、年会費は 40 ユーロで ある。フランス国民全体から見ると会員はまだまだ尐数だが、CRIIRAD のような 存在がなければ無法状態になるのでとても重要な活動をしていると自負している。 Q:福島のような規模の原発事故が起こることを想定したハザードマップはフランス国 内にはあるか。 A:緊急事態時の避難については国がハザードプランを作り、体制を整えている。し かし、福島のようなことがフランスで起こったら、チェルノブイリの教訓からも、 政府は正しい情報を伝えないということを市民はよく分かっているのでおそらく 大パニックになることは間違いない。パニックだけですめばまだいい。福島やチ ェルノブイリで起こったように、危険な地域に住み続けることが最も怖い。この ことだけは決してあってはならない。政府要人用を除いては、フランス国内にも 核用シェルターは設置されていないので、避難指示が出たら市民は近くの体育館 のような場所に集められるだろう。しかし、避難して 1~2 日で体育館の大気は外 の大気と同程度に汚染されることになるはずだ。このことは福島でも見られた。 Q:2012 年 3 月、日本ペンクラブのメンバーがチェルノブイリを訪問し、未だ甲状腺 癌が発生していることに驚いたという。この現実を前に福島に復興はあるのか。 A:福島はあまりにも土壌汚染が広範囲に広がっていて 30km 圏内は除染が出来ない 状態にある。チェルノブイリの原発事故は 1 基だけだったが、福島は 3 基なので 放射能が大気中に拡散した危険性ははるかに高い。しかもまだ収束していないの でチェルノブイリと比較できる段階ではない。いつ何が起きるか予断を許さない のが福島である。 Q:CRIIRAD の活動をフランス政府はどのように評価しているか。 A:全く好意的でなく、政府から独立した第三者情報発信機関ということから敵対視 されている。電力会社 WDF と AREVA の株をフランス国が保有していることもあ り、放射能の危険を広く周知させようとする CRIIRAD とは常に対立し、敵視され 10 ている。 Q:チェルノブイリと福島の放射能レベルは同程度と言われているが、本当か。 A:福島の原子炉の中がどうなっているか何も分からない状況なのでコメントできな い。それに、チェルノブイリは火災で、福島は爆発。もし、事故直後にチェルノ ブイリと福島の放射能を測定していたとしても、全ての科学者がそれらの数値に 同意することはなく、又数値もさまざまに異なり信用できないだろう。 僅かな救いは、福島は原発が海沿いだったため大気が海のほうに流れたことだ。 Q:福島の海水汚染の調査はしたか。 A:していないが、砂浜、貝、海草の汚染は相当ひど いと推測できる。魚は回遊するので、たとえ調査 しても正確な数値はつかめない。 Q:放射能を研究している科学者達はフランスの原発事 故をどう見ているのか。 デボルドさんを囲んで A:キューリー夫妻、ベクレルもフランスで活躍した が、フランスという国は放射能と結婚したようなものだ。研究所は数多あるが、フ ランスの科学者は「閉じられ硬直した世界」で生きていて、何の発言もしない。イギ リスやアメリカの研究者は開かれた世界にいることが、彼らと話しをしてみるとよ くわかる。 Q:福島の専門家の意見は「安心だ」というのと「危険だ」という両極に分かれている。ど ちらが正しいのか。 A:そのように議論を戦わせることはいいことだ。土壌を自分で計測して真実を知り 常にリスクを意識し、自己判断する以外ない。 Q:放射能は確かにプラス面もあるが、故郷を奪い何世代にもわたって生命を損傷する のだから、原子力に代わる新しいエネルギーを考えるべきか。 A:組織としては放射能に反対するものではないが、一市民としては原発には反対で ある。起きるはずのない重大な原発事故が過去 3 回(チェルノブイリ、スリーマイ ル島、福島)も起こり、リスクがあまりにも大きすぎる。フランスで初めての原発 が建設される時、反対のデモ行進があったが、そのデモに参加していた友人の一 人が憲兵に射殺されるという事件にも遭遇している。このこともあり、個人とし ても世界の人々のためにも原発には反対である。40 年来放射能について研究して いるが、汚染廃棄物やその処理、放射能に汚染された所で生きるということに対 する解決策はいろいろあろうが、いずれも不完全で満足できるものではない。 Q:福島に生きる人々に対する前向きで具体的な考え方はあるか。 A:心に何らかの疑念を抱いていると内部から侵食されてゆくので心身によくない。 科学的な対処法、たとえば CRIIRAD から測定機器を借りるとかして、自ら調べて 真実を見極めることだ。そして本当に汚染が深刻ならば他の場所に避難すること も選択しなければならない。 「市民には知る権利がある。被害を受けないためにも知りましょう。」これは CRIIRAD の標語だが、知ることによって被害を免れることが出来る。無知は悪 徳である。 (5)岩田 渉さんについて デボルドさんのお話の中に何回となく登場した岩田さんのことを知っている者はフ ランス班の中には皆無だったので、帰国後いろいろと調べてついに岩田さんご本人と 直接電話でお話する機会を得ることが出来た。彼の活動について尐し述べたい。 ★2012 年 3 月 22 日 市民放射能測定所「CRMS」 (CITIZENS’ RADIOACTIVITY MEASURING STATION)を福島市に設立。原発事 11 故以降、日本に住み続ける者は、放射能と向き合っていかなければならないが、被爆 に対する国際的なコンセンサスにおいても安全な数値は存在しないため、今後被爆を 避け、または低減するための努力が各個人に求められる。従って市民が自らの手で自 らを守るための測定を行い、放射線防護の知識を身につけ、各個人が自ら判断するた めの道具を提供する第三者機関として設立し、現在は福島県内に 9 ヶ所、東京に 1 ヶ 所の測定所を持つ。 ★活動 ・外部線量、食品・水・土壌の測定、体内汚染の測定、モニタリングポストの設置 ・データの収集と公開 ・国内外の専門家との連携とその分析・解釈の集約及び発表 ・各所への測定所設置 ・測定方法とそのトレーニング ・外部及び内部被爆に関する情報の提供 (6)CRIIRAD と岩田さんの関係 2011 年 4 月末、岩田さんが主催する「測定器 47 プロジェクト」という市民団体と 連携を密にし、業務用放射能測定器と実務的な簡易式測定機器を、それらの機器の市民 向け使用説明ビデオと共に送付。父母や市民との緊密な協力を通じて福島県内の 100 以 上の地点で測定を行っている。 2福島第一原子力発電所爆発事故と男女共同参画社会のありかた 福島第一原発事故を契機に「原発大国フランス」も緩やかにではあるが、再生エネルギ ーの拡大に取り組み「脱原発依存」の道を歩み始めている。だが、廃炉に伴う放射性物 質を含んだ解体物の行き場や、供給が不安定な再生エネルギーの弱点解消など道のりは 長く容易ではなさそうに思えるのは日本のこれから、そして福島のこれからと重なって くる。今後廃炉に向かって進もうにも、その解体作業の安全確保と解体物の保管場所と 保管方法等の課題は、今まさに福島県が直面している問題で、世界中の英知を結集して も、いまだ完全なるものに到達できず、一向に復興が進まない状況にある。 原子力発電については長いこと「安全・安心・クリーン」というイメージを抱かされ てきた日本国民にとって、それらの課題をどのように解決すべきか全くの無知といって も過言ではない。そして無知であることがどれほど福島の人々を苦しめてきたかをもう 一度振り返って見なければならない。 震災によるさまざまな環境の変化に加え、見えない被災「放射能汚染」による不安は 福島の人々の家族関係や交友関係にも大きな影響を及ぼし「絆」という合言葉とは裏腹 に「分断」を引き起こし、精神的にも追い詰められ孤立感を深め、大きなストレスを抱 えたまま多くの人が県内外で生活している。 放射能ストレスは個人の努力によって対処しきれるものではなく、今後何十年にもわ たって向き合っていかなければならない。私たちに今強く求められているものは、 CRIIRAD の訪問時にも指摘されたように、情報を収集し真実を見極め、自分で判断する ことである。しかし、さまざまな、それも両極の情報が洪水のように氾濫している中で、 上述したように「安全・安心・クリーン」だったはずの原発の事故に対して、十分な知 識に基づき、適確な判断が出来る人が果たしてどの程度いるのだろうか。 それなのに、日常的な場面、例えば毎日の食べ物、買物、子育て、出かける場所等に ついても、個人のレベルでは判断のつきかねる放射能に関して、常にいろいろな選択を 迫られるのは女性である。そして家族のケア役割を担わされている女性にとって、判断 の一つ一つが家族の将来を左右すると考えると、その責任の重さは計り知れないものに なる。 「母親なんだから、妻なんだから、嫁なんだから」という固定的性別分業意識が一 層女性たちを追い詰めている。 震災直後から、私は被災者のお手伝いをさせて戴き、現在は内閣府による「東日本大 震災被災地における女性の悩み・暴力(集中)相談事業」の電話相談員として、県内はもと 12 より全国に散らばっている福島県民の女性の声を聞かせていただいている。それらの声 に共通しているのは、 「福島が大好き、福島で暮らしたい」ということである。あらゆる 事に対して、判断・行動・それに伴う責任を求められその重さに押し潰されそうになり ながらも「辛い、助けて」と言う言葉にならない内なる叫びを受け止めることの出来な い現在の社会が女性をますます孤立させ、精神的な病を抱えるようになってしまった女 性もいる。これは決してその女性の個人的な責任ではなく、そのような状況に追い詰め ている社会の責任である。これらの女性のそばに寄り添い、その悲痛な叫びに耳を傾け、 あるがままに受け入れ、労わることが出来るのは周りにいる多くの人たちだ。これ以上、 地域や家族をばらばらにさせてはいけない。 「うさぎ追いしかのやま」で始まるこの歌があの当時の私たちの心にあんなにも深く 静かに染み入ったのは何故だろうか。それは、ふるさと福島は県民全てにとって「いの ちの根っこ」だったからではないだろうか。そのいのちの根っこをもっともっと逞しく 確かなものにするために今やるべきことは、男女がそれぞれの「個」を尊重しあい、他 と協調しあうことにより、ふるさと福島を再生し、新生することにあるのではないか。 Ⅴ終わりに 男女平等が最も進んでいる国の一つといわれるフランスでも、 真のパリテにはまだまだ程遠く従来の女性役割の呪縛から解放さ れない女性も多いということを本研修を通して知り、乳幼児の頃 から男女平等が当たり前の環境(家庭・地域社会)に育ち、学校教 育においてそれが強化され、さらに職場や社会生活全般にわたっ てその理念が不動のものとして根付いて始めて、誰もが望む男女 平等の社会が実現するのではないかと強く感じた。今、福島はい ろいろな意味で国内外から注目されている。物的復興はもとより、 男女平等の先駆者としてもふるさと福島は新たに生まれ変わるチ ャンスなのかもしれない。 ※ 参考資料: 「原発になお地球の未来を託せるか」 清水 修二著 自治体研究社 エッフェル塔の前で 「母と子のための被ばく知識」 崎山比早子・高木学校共著 新水者 「現代フランスを知るための 62 章」 三浦信孝・西山教行編著 明石書店 http:/www/criirad/org//actualites/dosseir2011/ japon bis/en anglais/criirad11-47ejapan.pdf 13
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