第54巻第5号平成23年8月1日発行(毎月1回1日発行) 情報管理 PRINT ISSN 0021-7298 ONLINE ISSN 1347-1597 JOHO KANRI Journal of Information Processing and Management 月号 August 2011 国際的にみた日本の 学術論文の質と量の動向分析 子どもたちの知のデータベース 『総合百科事典ポプラディア』をつくる エビデンスに基づく医療(EBM)の実践ガイドライン システマティックレビューおよびメタアナリシスのための優先的報告項目(PRISMA声明) 連載: 統計情報活用への招待 第2回 公的統計の作成ステップ vol.54 no.5 p.233-304 http://johokanri.jp/ 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management 国際的にみた日本の学術 論文の質と量の動向分析 233 根岸正光 243 飯田 建 254 卓 興鋼 吉田佳督 大森豊緑 267 浅田昭司 ■学術論文の国際的流通において,わが国研究者の論文の海外流出は依然 120 として大きな課題となっています。1994年~ 2009年の16年間にわたり 09 材料 110 動植物学 09 94 00 09 00 00 分野別IF指数 100 94 各種の時系列値を得て行われた大規模な統計調査をもとに,インパクト・ 09 化学 工学 94 09 0009 94 94 94 09 09 00 ファクターを応用した品質指標を用いて,わが国の学術論文の趨勢を分 物理 00 分子生 物学 薬学 野別,国別に質と量の両面から分析した結果を報告し,今後の検討課題 00 94 90 神経学 生物 09 09 94 94 を提言します。 00 00 00 臨床医学 80 94 70 -0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 海外誌日本論文数 子どもたちの知のデータベース『総合百科事典ポプラ ディア』をつくる ■小中学校での「調べ学習」の中で,子ども用の百科事典は重要な役割を果たして います。現在日本で唯一の子ども用百科事典である『総合百科事典ポプラディア』 の概略と製作の過程,学校図書館における利用状況について紹介します。またイ ンターネット版「ポプラディアネット」の特徴や,子どもたちによる紙媒体とネッ ト情報の利用について述べます。 エビデンスに基づく医療(EBM)の実践ガイドライン システマティックレビューおよびメタアナリシスのための優先的 報告項目(PRISMA声明) 特定 [Identification] データベース検索より特 定された文献レコード数 他の情報源から特定され た追加文献レコード数 選抜 [Screening] 重複が除外された後の文献レコード数 選抜されたレコード数 除外されたレコード数 適格性 [Eligibility] 適格性が評価されたすべ ての文献数 理由を付して除外された すべての文献数 採用 [Included] 質的統合に採用された文献数 量的統合に採用された文献数(メタアナリシス) ■近年,患者に良質な医療サービスを提供するために, 「エビデンスに基づく医療 (Evidence-Based Medicine: EBM)」の実践が重視されるようになり,その根拠と なる学術論文のシステマティックレビューおよびメタアナリシスの重要性が高 まっています。本稿は2009年6月に改訂された「PRISMA(システマティックレ ビューおよびメタアナリシスのための優先的報告項目)声明」の概要と展望につ いて概説します。 連載: 統計情報活用への招待 第2回 公的統計の作成ステップ 調査の企画 調査票の作成 調査の実施 (調査票の配布・回収) 調査票の検査・審査 調査票の集計 調査結果の発表 ■統計情報を正しく読み取り効果的に活用するためには,それらがどのようなス テップで作成されているのか,十分に理解しておく必要があります。本シリーズ 第2回では,公的統計の主な作成ステップを追い,各過程における工夫や問題点, 課題について実例を通して探ります。 目次 月号 August リレーエッセー: インフォプロってなんだ? 277 松谷貴己 279 加藤二子 私の仕事,学び,そして考え 第27回 視点: 技術戦略マップ 2)マップの作り方 レポート紹介: 2011年米国図書館の現況 アメリカ図書館協会の報告 エグゼクティブ・サマリー 集会報告: 講演会:震災後におけるsaveMLAKの活動について JSTサービス紹介: J-GLOBALがβ1.5へバージョンアップ 285 290 291 植松利晃 296 バゼル山本 登紀子 機関情報,特許情報の拡充や特許と文献の引用・被引用リンク の実現 この本!~おすすめします~: 「裏話」を知って「表」を見る 300 情報界のトピックス 304 編集後記 vol.54 no.5 JOHO KANRI 2011 Journal of Information Processing and Management Contents August A trend analysis on the quality and quantity of Japanese research papers in an international perspective 233 Editing The Encyclopedia Poplardia, a knowledge database for children 243 IIDA Ken Practice guideline of evidence-based medicine Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Metaanalyses (the PRISMA statement) 254 TAKU Kyoko YOSHIDA Yoshitoku OMORI Toyonori Series: 267 ASADA Shoji Relay essay: 277 MATSUTANI Takami Opinion: 279 KATO Niko Recent report: 285 Meeting: 290 From JST product portfolios: 291 UEMATSU Toshiaki My bookshelf: 296 BAZZELL YAMAMOTO Tokiko Guide to effective use of statistics Part2: Making of official statistics What I do, study, and think as an information professional (27) Strategic technology roadmap 2) How to make it The states of America's libraries, 2011: A report from the American Libraries Association: Executive summary Lecture meeting on activities of saveMLAK after the East Japan Earthquake J-GLOBAL has been updated to β1.5 A behind-the-scenes look at dictionaries 300 Topics of the information community 304 Editor's note NEGISHI Masamitsu 国際的にみた日本の学術論文の質と量の動向分析 国際的にみた日本の学術論文の質と量の 動向分析 A trend analysis on the quality and quantity of Japanese research papers in an international perspective 根岸 正光1 NEGISHI Masamitsu1 1 国立情報学研究所(名誉教授)(〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2)E-mail : [email protected] 1 National Institute of Informatics (2-1-2 Hitotsubashi Chiyoda-ku, Tokyo 101-8430) 原稿受理(2011-06-15) 情報管理 54(5), 233-242, doi: 10.1241/johokanri.54.233 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.233) 著者抄録 筆者はトムソン・ロイター社の引用索引関連データベースを用いて,2003 年に 2000 年時点におけるわが国の学術論 文の海外誌への掲載状況等の調査を行った。そこでは「海外流出率約 80%」という結果が得られ,国立情報学研究所 ではその「回復」のための事業を展開してきた。今般この種の指標に関する,より大規模な統計調査分析を実施し, 1994 年~ 2009 年の 16 年間にわたる各種時系列値を得ることができた。その概要はすでに報告したところであるが, さらに深く検討するべき種々の課題が浮上してきている。そこでまず本稿では,わが国の学術論文の品質の動向に注 目し,論文数の変動と合わせて,いわば質と量の両面から分析して現状を点検し,今後検討するべき論点の抽出を試 みる。なお,品質指標としては, 「インパクト・ファクター」に統計的処理を加え,不偏で比較可能な品質指標を編成し, 国別,分野別に時系列的な質と量の趨勢を明らかにし,各々の特徴について考察する。 キーワード 日本誌,日本論文,品質,ビブリオメトリックス,計量書誌学,インパクト・ファクター,SPARC Japan 1. はじめに 果発表の場としてどの程度「活用」されているのか, その計量的指標もなかった。 わが国の多くの学会では,研究成果の国際的発信 こうした状況に鑑み,IFの元にもなっているトムソ のために英文誌を発行してきているが,その努力に ン・ロイター社のデータベースを用いて,2000年時 もかかわらず,その国際的流通は必ずしも良好とは 点での日本研究者による論文の海外誌への掲載率(海 いい難い。その際,指標として「インパクト・ファ 外流出率あるいは進出率)の推計調査を2003年に行っ クター」 (I F)に言及されることが多いのであるが, た。その結果,わが国研究者による(英文)論文の そもそも日本の英文学術雑誌が,わが国研究者の成 約80%が海外の学術雑誌に掲載されており,わが国 233 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 http://johokanri.jp/ August Journal of Information Processing and Management の学会誌等への掲載は20%程度に過ぎないことなど が明らかになった なお, わが国学会誌の「国際化」の趨勢と, 空洞化等, 1)。国立情報学研究所ではその「改 懸念される問題点に関しては,別途情報知識学会に おいて報告したので合わせて参照されたい4)。 善」を企図して,折から米国大学図書館界で始めら れたSPARC運動に呼応する形で,「国際学術情報流通 2. 調査の全体的規模と方法 基盤整備事業」,通称SPARC Japanを開始した。 今般その事業の今後のあり方を検討するために, 上記の海外流出率を含めたより大規模な統計調査を ISI Science Citation Indexで以前から知られるトム 企画,実施した。その基礎的統計値は報告書にまと ソン・ロイター社では,その引用索引データベースの めて2010年12月に公表し,また,全般的な解説も講 加工統計として, 雑誌の引用度指標統計のJCR(Journal 演記録として公表したところである2),3)。その過程で Citation Reports,Science EditionとSocial Sciences さらに詳細に調査検討するべき課題,論点が多岐に Editionの2種あり)と,日本の著者の論文に関する引 わたることも明らかになったので,今後それらをテー 用度指標統計のNCR-J(National Citation Report for マ別に分析,報告していくことにしたい。 Japan,以下NCRと略記)を作成している5),6)。前者 は雑誌単位,後者は論文単位のデータベースである 本稿では,I Fを応用した,わが国の論文の「品質」 の推移,動向についての分析結果を報告する。これ が,これを雑誌名をキーにして突き合わせることに に関しても上記講演記録に簡略な解説があるが,本 より,J C Rから発行国,年次,分野別等に雑誌全体の 稿では新たな統計分析の結果を示し,論点について 値を得る一方,N C Rで当該誌の日本の論文数を集計 言及する。 し,その差分として海外論文の指標も計算できる(具 表1 表1 統計用データベースの諸元 雑誌種類数 年 234 世界計 世界論文数 日本誌 世界計 日本論文数 日本誌 世界計 日本誌 計 65,923 2,461 10,660,407 300,078 1,104,626 234,090 1994 3,038 126 502,408 16,303 55,128 14,328 1995 3,182 130 517,882 16,317 56,024 14,136 1996 3,354 136 538,881 16,886 60,379 14,815 1997 3,488 135 546,473 16,269 62,363 14,160 1998 3,779 143 572,592 16,960 65,997 14,042 1999 3,875 146 587,463 17,577 68,733 14,318 2000 3,992 150 604,334 18,328 71,965 14,711 2001 4,112 152 618,027 17,981 71,390 13,879 2002 4,206 156 635,866 18,248 73,351 14,538 2003 4,269 158 668,727 19,057 74,447 14,571 2004 4,407 159 727,032 20,028 76,050 14,994 2005 4,531 160 767,047 20,333 75,401 15,067 2006 4,674 165 786,730 20,649 73,646 15,031 2007 4,796 171 824,541 20,972 73,383 15,123 2008 4,945 173 860,183 21,554 73,122 15,088 2009 5,275 201 902,221 22,616 73,247 15,289 国際的にみた日本の学術論文の質と量の動向分析 体例は参考文献3)の3頁を参照されたい)。このア で,日本人研究者にとってはほとんど無縁の雑誌と イデアにより2003年に調査を実施し,その有効性を いったものであろう。統計用データベース内での日 確認できたので,今回はさらに大規模に1994年から 本論文の頻度分布は表2のとおりであり,どこまでの 2009年までの16年間にわたる時系列統計調査を試み 雑誌を統計対象にするかは,調査目的に応じて検討 たわけである。 する必要がある。 まず前段階での統合処理により,J C Rの2種,16年 本稿ではIFを応用して日本論文の品質の動向を検証 分から114,874誌(年単位のべ数,雑誌種類実数では しようとするのであるから,日本人研究者が投稿先 11,574誌),N C Rからは115万767論文(その掲載雑誌 として考える「国際誌」としての安定性が高いと見 種類実数は9,929誌)に関するデータを得た。この統 られる,年間5件以上の雑誌に限定して統計調査を行 合化済NCRとJCRとを雑誌名をキーとして,個別具体 うことにした。すなわち,日本でも国際誌としてよ 的点検調査も行いつつ突き合わせた結果,日本論文 く知られていると見られる雑誌についてのみ統計す が年間1件以上掲載された雑誌が16年間でのべ65,923 ることになり,この基準では日本論文数の94.1%が算 種類,それらにおける掲載論文数は1,066万407件, 入される。 そのうちの日本論文数が110万4,626件という規模の 統計用データベースを作成した(表1)。 なお,N C Rには国際共著論文を含めて,著者所属 機関の所在国として1か所でも「日本」が現れる論 文はすべて収録されている。本稿ではこれらをすべ て「日本論文」として計上し,国際共著論文につい てもこれを国別に案分集計するような操作はしてい ない。すなわちその分,論文数シェアなどでは日本 に「有利な」統計になっている部分がある。もっとも, 論文品質の指標として論文当たり被引用数を計算す る場合,被引用数の方も案分するので結果は非案分 時と同じ値になる。国際共著論文の国別案分統計に よる「目減り」効果は別のデータで以前にも計測し たことがあるので,本稿に示した結果を踏まえつつ, 今後の研究課題としたい。 この統計用データベースを用いて,既報では,デー タベース全体,すなわち日本論文が年間1件以上掲載 された雑誌についての諸統計と,同じく年間2件以上 の掲載誌に限定した統計結果を示した2)~4)。本稿で はこの基準を日本論文が年間5件以上の雑誌に限定し て,より厳しい「国際誌基準」による統計を行うこ とにした。 J C R収載の上記114,874誌のうちの42.6%では日本 論文がゼロで,これらは例えば米国の実質的「国内誌」 表2 雑誌別日本論文数の頻度分布 表2 雑誌別日本論文数の頻度分布 各年日本 のべ雑誌 日本論文 累積% 論文数別 数 数 1 14,468 14,468 100.0% 2 8,267 16,534 98.7% 3 5,686 17,058 97.2% 4 4,285 17,140 95.6% 5 3,346 16,730 94.1% 6 2,724 16,344 92.6% 7 2,267 15,869 91.1% 8 1,911 15,288 89.7% 9 1,693 15,237 88.3% 10 1,447 14,470 86.9% 11 1,255 13,805 85.6% 12 1,179 14,148 84.3% 13 1,001 13,013 83.1% 14 892 12,488 81.9% 15 870 13,050 80.8% 16 773 12,368 79.6% 17 666 11,322 78.5% 18 601 10,818 77.4% 19 608 11,552 76.4% 20 535 10,700 75.4% 21-50 6,770 214,402 74.4% 51-100 2,649 185,867 55.0% 101-200 1,383 191,700 38.2% 201-500 552 159,073 20.8% 50 1 -1000 79 48,655 6.4% 1001-1670 16 22,527 2.0% 計 65,923 1,104,626 235 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 3. 論文格づけ指標としてのインパクト・ ファクター(IF) に至ったのである。この考え方に従い,本稿では論 文の品質指標として,次記のようなIFの加工統計を用 い,日本の雑誌,日本の論文の品質の世界の中での 周知のとおりIFは元来,雑誌重要度の評価指標とし て考案されたもので,翌年夏にJ C Rで公表され,例え ば2009年のIFは,ある雑誌の2008年,2007年の2年間 の掲載論文に対する,2009年の引用索引データベー 位置づけ,趨勢を測定することを試みる。 4. IFを応用した論文品質の測定法と全般的 測定結果 ス収録全論文からの引用数を集計して上記論文数で 割った,論文当たり平均引用回数である。IFに対して 「加重平均I F値」― 前記の統計用データベースから は,学術分野間での論文スタイル,引用習慣の相違 雑誌別年別に全掲載論文数NP jy(ここでjは雑誌,yは から分野別の格差が大きいこと,最近の論文の最近 年次,またC jをj誌の発行国とする)と,そのうちの の引用のみ集計する短期的評価であること,さらに 日本論文数NJ jyが取り出せる。これらに各年次の当該 は年度末に研究者の当年の発表業績について,その 誌のI F,すなわちI F j yを掛け合わせると総引用数的な 掲載誌のIFを単純に加算して個人評価に使うといった 数値が得られ,これを雑誌発行国別に集計してから 「乱用」が見られることなどから,注意喚起や批判, 合計論文数で割って,論文当たりの引用度指標を得 反発もよく聞かれる。 確かに,個別の論文について,その被引用回数に /Σj,y (NP jy ) {ただしC j =米国, y=2009}を計算する。こ よって品質を評定するのは一応正しい方式ではある の実際の数値は1,208,599.1 / 311,661=3.878であった が,そうした個別調査には手間,費用がかかるのみ (後出,図2参照) 。 ならず,引用の観察期間を何年にするかなど,実際 これは論文数を重みとしたIFの加重平均値,雑誌の には課題も多い。しかも,そこで得られた数値は個 規模を反映させたIF応用指標であり,以下「加重平均 別的事象値で,体系的に他と比較可能な指標値には I F値」(I F値と略記)ということにする。これは集計 ならない。一方,年度末における年次的業績評価は 対象の雑誌を統合して一雑誌とみなした統合化IFの体 各機関で昨今特に普及しており,これに使える即応 裁であるが,当年分の論文数を使うので元来のIFとは 的な論文品質指標にはIFしかないと考える。そこで筆 別の値になる。この操作を, 世界全誌(全統計対象誌) 者は,IFを分野を通じて比較可能な値に変換,正規化 全論文,世界全誌日本論文,日本誌全論文(3.6%) , するIDV: Impact Deviation Valueを提案している7)。 日本誌日本論文の他,世界論文数シェア(カッコ内 IFはその算式からわかるとおり,雑誌レベルでの短 236 る。例えば, 2009年の米国誌については, Σj,y(IFjy・NPjy) に表記)における上位3か国である, 米国誌(48.1%) , 期的,速報的指標値であるから,これを個別の論文 英国誌(19.3%) ,オランダ誌(13.6%)と,それら の評価に直結させるのは誤りといえよう。しかしそ を含めた海外誌(96.4%)の各々について行う。 れが掲載論文の平均的引用度を表している限り,そ 「IF指数」― 一方,IF全体が趨勢的に大きくなってき れら論文の間接的評価になっていることも確かであ ていることが明らかになっているので(後出,図2) , る。事実, 『n a t u r e』等有力誌に掲載された論文は, 相互比較可能な値とするため,上記I F値に何らかの そのことをもって高い評価を受ける場合も多い。こ 正規化処理が必要である。そのためここでは,年次 の際,IFを個別論文の引用度ではなく,「格づけ指標」 別に世界全体全論文での数値を基準値の100として と考えればよいのではないか。ただし,分野間格差 指数化することにし,これを「I F指数」と称してお の調整は必須であり,このため筆者は上記I D Vの提案 く。例えば2009年の米国誌における日本論文のI F指 国際的にみた日本の学術論文の質と量の動向分析 表3 主要雑誌発行国別全論文および日本論文のIF指数の推移 表3 主要雑誌発行国別全論文および日本論文のIF指数の推移 発行国別 全論文 日本論文 全論文 米国誌 日本論文 全論文 英国誌 日本論文 全論文 オランダ誌 日本論文 全論文 海外誌 日本論文 全論文 日本誌 日本論文 世界全誌 1994 100.0 73.5 128.8 114.4 97.0 84.8 68.5 71.6 103.1 90.2 29.5 29.2 1995 100.0 72.9 129.3 112.4 95.4 81.9 67.8 67.4 102.9 88.1 30.4 30.2 1996 100.0 72.4 131.5 114.2 94.1 77.5 65.2 65.0 103.0 87.3 29.8 29.8 1997 100.0 74.1 129.6 114.0 102.1 87.3 62.2 61.1 102.8 88.1 30.6 30.5 1998 100.0 75.7 129.5 115.2 102.5 91.5 59.3 57.9 102.7 89.1 31.4 30.0 1999 100.0 77.6 128.4 115.7 102.4 90.8 58.6 59.3 102.5 90.3 32.2 30.7 2000 100.0 77.9 130.5 117.8 101.9 88.6 58.4 58.0 102.7 90.6 32.7 31.7 2001 100.0 79.6 130.8 119.7 98.1 91.0 62.1 60.5 102.6 92.4 30.8 29.7 2002 100.0 79.9 130.6 120.1 96.6 90.0 61.5 61.1 102.6 93.0 31.2 30.4 2003 100.0 81.3 131.1 123.3 98.9 96.7 61.1 60.2 102.5 94.2 31.6 31.3 2004 100.0 83.6 127.5 123.8 98.9 96.8 66.9 64.9 102.5 97.2 32.4 32.2 2005 100.0 84.5 123.9 121.8 105.5 100.6 67.0 65.3 102.3 98.0 34.6 34.5 2006 100.0 84.9 127.0 122.9 98.8 96.9 68.4 67.5 102.3 99.0 34.9 34.5 2007 100.0 84.5 124.2 119.2 103.0 100.8 68.7 67.5 102.2 98.3 36.0 35.8 2008 100.0 86.6 122.4 120.0 102.5 101.4 70.6 69.3 102.0 100.0 38.9 38.4 2009 成長率 100.0 0.0% 87.1 1.3% 121.0 -0.4% 119.5 0.5% 105.2 0.4% 105.2 1.6% 75.6 0.7% 72.3 0.5% 102.1 -0.1% 101.1 1.0% 38.9 1.7% 39.1 1.8% 数は,[Σj,y(IFjy・NJjy)/Σj,y(NJjy)] / [Σk,y(IFky・NPky)/Σ まず日本誌およびその日本論文は1994年から2009 k,y(NPky)] * 100 {ただしCj=米国, Ck=世界全体, y=2009} 年の間に,共に年率1.8%程度の向上を示す。すなわ のように計算し,実際の数値は,[95,268.2 / 24,883] / ち総体的,相対的にIFが高まっていることになり,引 [2,195,690.1 / 685,060]*100=119.5のようになる(表3 用度で評定した論文の品質は着実に向上している。 参照)。 しかし2009年でも40弱の水準であって,世界標準と 本稿では日本論文が年間5件以上掲載されており, は未だ大きな落差がある。一方,海外誌における日 J C RでI Fが与えられている雑誌に限定してこの統計処 本論文の指数は2009年に101となり世界標準を上回る 理を行った。結果として,雑誌数のべ32,993誌,その 段階に達している。つまりIFの高い海外誌により多く 発行国45か国,掲載論文数総計824万7,036件,うち の日本論文が掲載されるようになってきたというこ 日本論文数103万3,047件という規模での計算となっ とを意味し,喜ばしいことであろう。もっとも海外 た。このIF指数の計算結果を示せば表3および図1のと 誌全論文の水準は102であるので,海外誌の社会では おりである。 今一息といった感じではある。 米国誌全論文 140 米国誌日本論文 英国誌全論文 120 英国誌日本論文 海外誌全論文 海外誌日本論文 80 世界誌全論文(100) 60 世界誌日本論文 オランダ誌全論文 40 オランダ誌日本論文 20 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 日本誌全論文 1994 ���� 100 日本誌日本論文 図1 主要雑誌発行国別全論文および日本論文のIF指数の推移(グラフ) 237 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 http://johokanri.jp/ August Journal of Information Processing and Management 米国誌は英国誌や日本誌の引用度の成長にとも タベース収録誌の拡大につれて上昇するという基本 なって総体的にIF指数が低落傾向にあるのは注目され 的メカニズムを持っており,分野間のみならず,年 る。この間米国誌における日本論文の指数も2004年 次間でもIFを単純比較するにはよほどの注意が必要な をピークに低落傾向にあるものの,低落率が小さく, ことがここに確認できる。加えてここには特に昨今 2009年には米国誌標準におおむね追いついた感があ 著者が互いに引用しあって引用度数を増やそうとす る。すなわちIFの高い米国誌への掲載が進展したので る「評価対策」の効果も考えられる。このデータベー ある。英国誌では,全体の指数の伸びの中で日本論 スの規模効果と研究者による引用増強効果を統計的 文はさらに健闘し,2009年には完全にキャッチアッ に分離する方法は今後研究してみたいところである プした。オランダ誌では一時の低迷を脱して2000年 が,本稿では既述の指数化により,両者を含めて全 以降上昇に転じ,日本論文も同一歩調にあるが,そ 体として年次間比較可能な値に変換して検討してい のIF指数は雑誌全体値より低く,しかもその差が広が るわけである。 りつつあるという特異な状況にあることが注目され る。 この図では右肩上がりの傾斜度が世界全体に比べ て米英蘭誌で大きいのが目立ち,これら主要国誌で 5. 雑誌発行国別にみた日本論文の質と量 は論文数増加以上にそれらへの引用の集中度が高 まっている。データベースの収録誌範囲が拡張され れば,既収録の有名誌への引用数は自然に大きくな ここで,発行国別の雑誌掲載論文数と指数化以前 の加重平均I F値の時系列的変動を示すと図2のように るはずである。こうした中で日本誌も論文数の伸び が滞る中で引用度は高まっている。 なる。軌跡の脇の94,00,09は各々 1994年,2000年, 次に論文数についても世界全論文での占有率によ 2009年で年次進行を示す。世界全誌総計の論文数と り正規化して,発行国別の全論文とそのうちの日本 I F値は右肩上がりでともに増大している。I Fはデータ 論文についてI F指数と論文数シェアの推移を示すと ベース収録論文相互間の引用を集計するので,デー 図3のようになる。米国誌は左下がりで論文数シェア, 140 4 09 00 94 00 09 09 94 09 英国誌日本論文 3 09 00 09 100 00 00 94 海外誌日本論文 80 09 0994 94 94 00 1.5 60 オランダ誌日本論文 日本誌 1 00 94 オランダ誌全論文 日本誌日本論文 米国誌 09 09 40 日本誌全論文 英国誌 0.5 00 00 世界全誌 09 0000 94 94 オランダ誌 -0 20 -0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 全掲載論文数 図2 主要雑誌発行国別の論文数と加重平均IF値の推移 図2 主要雑誌発行国別の論文数と加重平均IF値の推移 238 94 00 00 2 英国誌全論文 94 94 09 94 IF指数 加重平均IF値 2.5 00 94 09 09 120 3.5 米国誌全論文 米国誌日本論文 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 世界での論文数シェア 図3 主要雑誌発行国別の全論文と日論文の論文数シェアとIF指数 図3 主要雑誌発行国別の全論文と日本論文の 論文数シェアとIF指数 国際的にみた日本の学術論文の質と量の動向分析 I F指数とも低落している。そこにおける日本論文は, 90 論文数シェアは同様に下がっているものの,IF指数は 80 米国誌全体並みの品質水準に到達したことが確認で 物理 70 きる。英国誌は最近は右肩上がりで質量とも向上し, 上し,英国誌の全体水準に追いついたという状況で, 『nature』はじめ英国有力誌への積極的投稿,掲載が 進んできたものと思われる。オランダ誌では全論文, 94 60 分野別IF指数 その中の日本論文は数は伸び悩みつつもI F指数は向 00 09 00 09 50 94 00 00 94 薬学 09 化学 臨床医学 40 09 94 09 94 材料 09 30 0009 生物 工学 94 00 00 日本論文とも同一歩調の軌跡である。しかし図では 20 読み取り難いが,オランダ誌内での日本論文のシェ アの低下は米英国誌に比べて大きく,先述のIF指数の 相対的な低落と合わせて「オランダ誌離れ」的傾向 が看取される。 94 10 -0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 日本誌日本論文数 図4 日誌の日論文数とその分野別IF指数の推移 図4 日本誌の日本論文数とその分野別IF指数の推移 日本誌は左肩上がりで,論文数シェアが低下する 中で,I F指数は世界平均の30%から40%にまで向上 すなわち質量ともに向上してきているようであるが, したが,依然世界との落差は大きい。ここで日本誌 昨今では品質(IF指数)の方が頭打ち状態にある。こ 全論文と日本論文のみの軌跡がV字形になっており, れは別に指摘した海外流出率の上げ止まり,「日本回 日本誌における国際化の進展がここに表れている。 帰」の進展と軌を一にするものであろう3),4)。 2009年のI F指数は日本論文のみの方が全論文よりも 化学は論文数を減らしつつも2000年頃まで一定の わずかながらも高いから,増加している外国論文は 質を保っていたが,それ以降左下がりとなり,質量 必ずしも日本誌の品質向上に寄与しているようには ともに低落というまさに悲観的状況にある。工学は 見えない。国際化によるIF向上は日本誌の地位向上の 2003年頃に質量とも上昇があったものの,最近では ための1つの戦略で,国際化に注力しているわが国学 以前の水準に逆戻りしてしまった。 会も多いが,その成果はどうか。これについては分 物理は複雑な軌跡になっているが,これにはJJAP - 野別の異同が大きいと思われるので,後ほど検討す Part 2,LettersのJCRでの扱いの混乱も影響している る。 と思われる2)。JJAP-2は2008年に完全分離しJJAP本誌 6. 分野別に見た日本論文の質と量 とともに確実に採録されるようになっている。とも あれ,一時期の消長はあるが,大筋では論文数二千 数百件,IF指数60 ~ 70程度の量と質を保持しており, データベースにおける論文数とI Fには分野間で大 物理は日本誌日本論文の中で最も国際水準に近い分 きな格差がある。この点に鑑み,論文数には絶対値 野であるということが重要であろう。生物学は一時 を使い,I F値については各分野の世界全体値を100と 質量とも低落したものの,ここ数年,IF指数の上昇が する「分野別IF指数」を改めて計算して,論文数の多 見られる。 い分野についてその推移を図示してみた。まず図4は 次に海外誌における日本論文の分野別の状況はど 日本誌の日本論文だけに関するグラフで,臨床医学, うか(図5)。分野別世界平均の100を超える分野も多 物理,化学,工学が論文数で抜きん出ていることが く,I Fの高い海外有力誌への日本論文の「進出」が わかる。その中で臨床医学は基本的に右肩上がり, 見られる。まず軌跡が特徴的なのは化学で逆L字形で 239 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 http://johokanri.jp/ August Journal of Information Processing and Management ある。つまり2000年頃まで国際平均品質で論文数を り,これも雑誌レベルに立ち入っての詳細分析の課 伸ばしてきたが,それ以降論文数は増えずにI F指数 題である。工学と材料科学は右下がりのUターンの形 のみ110程度にまで上昇している。まさに「量から質 状になっており,一時期海外投稿が盛んであったが, への転換」である。単純には,有力誌での採択を目 その分品質が低下したので,論文厳選志向に転換し, 指して論文投稿を研究者自ら厳選するようになった 国際水準の品質に復帰したという格好である。生物 結果と解釈することになるであろう。また日本化学 学は化学に近い軌跡で,近年は論文数一定の中で品 会を含む国際共同編集体制により2006年に発刊され 質が向上し,国際標準に到達したところであるから, たChemistry - An Asian Journalの影響も大きいとの見 掲載先がより有力な雑誌に移行していることになる 方もあり,先述の日本誌日本論文の低迷と合わせて, であろう。 より立ち入った分析が必要である。 物理も大筋逆L字形であるが,ここ数年は左肩上が 7. 日本誌の国際化とIFの動向 りで,論文数が減少する中で,品質が国際水準を超 えた。これは研究者における「論文厳選志向」の非 日本誌の国際的地位向上,端的にはI Fの向上には, 常な強化ということになろうが,これも雑誌レベル より多くの海外論文を集めること, すなわち「国際化」 に立ち入ってより実態的な分析を要する興味深い課 の推進が1つの方策と考えられ,各学会でそうした努 題である。一方論文数最多の臨床医学は水平Uター 力がなされている。そこで全掲載論文の分野別IF指数 ン的軌跡である。すなわち,2000年まで海外誌での を国際化率(外国人論文比率)と対応させて図示し 論文数を増やしてきたが,以後I F指数を以前より若 てみると図6のようである。上記の方策で期待される 干向上させつつも逆戻りの格好ではある。先にふれ のは右肩上がりの軌跡であり,これを最もよく体現 た「日本回帰」と表裏をなす現象で,論文品質の向 しているのが臨床医学である。この16年間に国際化 上は芳しくなく,研究活動自体の低迷という由々し 率は10%から32%に向上すると同時にI F指数も11か き状況にあるようにみえる。昨今確かにそうした実 ら44に上昇した。もっとも,2004年あたりから日本 感はあるといった意見を関係者から聞いたことがあ 人論文数の増加という「日本回帰」現象があり,IFの 80 120 物理 09 70 材料 動植物学 94 工学 94 00 分野別IF指数 00 100 94 09 60 09 94 00 09 00 09 化学 09 0009 94 00 94 94 09 09 物理 分野別IF指数 110 00 分子生 物学 薬学 00 94 90 神経学 生物 09 94 臨床医学 09 40 日本誌全体 09 09 00 工学 00 94 00 00 00 30 94 臨床医学 80 化学 09 09 94 94 00 50 00 94 20 94 70 10 -0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 海外誌日本論文数 図5 海外誌の日論文数とその分野別IF指数の推移 図5 海外誌の日本論文数とその分野別IF指数の推移 240 16,000 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 日本誌国際化率 図6 日誌の国際化率と日誌全論文の分野別IF指数の推移 図6 日本誌の国際化率と日本誌全論文の分野別IF指数の推移 国際的にみた日本の学術論文の質と量の動向分析 上昇が外国論文の牽引によるとはいい難い面があり, も突き合わせながら,趨勢の分析を試みた。日本の 個別論文の引用度調査を要し,今後の課題としたい。 論文は米国誌,英国誌では国際水準に到達しており, ともあれ,国際化とIF向上が同時に実現されている限 そこには研究者による論文厳選化の姿勢も看取され りでは,好ましい状況であるといってよかろう。 る。一方,日本誌の引用度は着実に向上しているも 国際化の進展が最も著しいのは工学で今や40%が のの,世界水準との落差は依然大きい。この間,日 外国論文になっている。もっともI F指数の方には明 本誌の国際化は著しく進展しているが,空洞化が懸 確な向上が読み取れず,国際化の効果はなかったと 念される分野もあり,引用度向上に対する国際化の 見てよいとも思われるが,その検証にはやはり個別 寄与の測定には,分野別の事情にさらに立ち入った 論文の引用度調査を要する。化学は大筋右下がりで, 調査分析を要する。 論文数自体の減少傾向と合わせると,外国論文が増 わが国の学術研究の水準がすでに欧米と対抗する 加する中で日本論文が流出していくという, 「空洞化」 までに進歩,発展したことに疑問はない。しかるに, が懸念される状況にある。物理は動きが単純でない その研究成果の出口としての論文発表媒体を,欧米 が,ここ数年に限れば右肩上がり的傾向が見られ,IF 系学術雑誌に大きく依存するという現状はいかにも の回復と同時に国際化率も上昇しているという情勢 不合理というべきで,その弊害も指摘されてきた。 である。 筆者らの関心は,このような「自国発信率」の低さ ともあれ,全分野合計値で見れば2004年までは国 を改善するにはどうすればよいか,その方策に統計 際化だけが進行する状況であったが,それ以降は国 的指標から有益な知見を与えたいという点にある。 際化と同時に品質も向上するようになっている点に そのためには種々の論点,仮説に即して,統計に切 は留意するべきである。一般に統計データから因果 り込んでゆく必要があり,その中から主要な問題点 関係を検証するのは困難であるが,日本誌における やその解決策があぶり出されてくることを期待して 最近の個別論文の実際の引用数データはN C Rで利用 いる。本稿はその途中経過報告の一端というべきも 可能なので,これを用いて国際化とIFの関連を見るこ ので,この種の問題への関心を喚起し,また何らか とは興味深く,今後の課題と考えたい。 の示唆を与えるところがあれば幸いである。 8. まとめにかえて なお,本調査研究は冒頭に記した国立情報学研究 所「国際学術情報流通基盤整備事業」 (SPARC Japan) の一環として行っているものである。記して関係各 本稿では,I Fを応用した品質測定指標,「I F指数」 位に謝意を表したい。 を編成し,それを雑誌発行国別と分野別に論文数と 参考文献 1) 根岸正光. 研究評価における文献の計量的評価の問題点と研究者の対応. 薬学図書館. 2004, vol. 49, no. 3, p. 176-182. 2) 根岸正光. “日本の学術論文と学術雑誌の位置付けに関する計量的調査分析”. 国立情報学研究所. 2010, 50p. http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/report/pdf/negishi_report_201012.pdf, (accessed 2011-0601). 3) 根岸正光. “日本の学術論文と学術雑誌の位置付けに関する計量的調査分析-日本の論文の『海外流出 241 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management August http://johokanri.jp/ 率』の動向を中心として. 第8回 S P A R C J a p a nセミナー 2010「世界における “日本の論文/日本の学術 誌” のインパクト」”. 国立情報学研究所. 2011, 17p. http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/8/doc2_ negishi_20110203.pdf, (accessed 2011-06-01). 4) 根岸正光. 計量分析による日本の論文の『海外流出率』と学会の『国際化』の動向とその問題点:学術 研究における自給率とは. 情報知識学会誌. 2011, vol. 21, no. 2, p. 197-204. http://www.jstage.jst.go.jp/ article/jsik/21/2/197/_pdf/, (accessed 2011-07-01). 5) Thomson Reuters. “Journal Citation Reports” . Thomson Reuters. http://science.thomsonreuters.jp/ products/jcr/, (accessed 2011-06-01). 6) Thomson Reuters. “National Citation Report” . Thomson Reuters. http://thomsonreuters.com/products_ services/science/science_products/scientific_research/research_evaluation_tools/national_citation_ report/, (accessed 2011-06-01). 7) 根岸正光. 業績評価に向けた正規化インパクト・ファクター,“IDV : Impact Deviation Value”(インパクト・ ファクター偏差値)の提案. 情報知識学会誌. 2010, vol. 20, no. 2, p. 141-148. http://www.jstage.jst.go.jp/ article/jsik/20/2/141/_pdf/, (accessed 2011-06-01). Author Abstract In 2003, the author made a statistical survey on publication of Japanese research papers in overseas journals as of 2000 using Thomson Reuters' citation index databases. As the results showed an overseas drain ratio of 80%, National Institute of Informatics started a program of the recovery. The author has recently made another larger scaled survey to get the time series statistics on the topic from 1994 to 2009. This paper analyzes the statistics from the view points of quality and quantity of Japanese research papers to identify their trends in an international perspective and points out some issues to be further examined. A new unbiased and comparable quality index was devised through a statistical process on the impact factor, which was applied to analyze the trends by country and research field. Key words Japanese journals, Japanese research papers, quality, bibliometrics, impact factor, SPARC Japan 242 子どもたちの知のデータベース『総合百科事典ポプラディア』をつくる 子どもたちの知のデータベース『総合百 科事典ポプラディア』をつくる Editing The Encyclopedia Poplardia, a knowledge database for children 飯田 建1 IIDA Ken1 1 株式会社ポプラ社 ポプラディアネット局(〒160-8565 東京都新宿区大京町22-1)E-mail : [email protected] Tel : 03-3357-2256 1 POPLARDIANET, POPLAR PUBLISHING CO., LTD. (22-1 Daikyo-cho Shinjuku-ku, Tokyo 160-8565) 原稿受理(2011-06-14) 情報管理 54(5), 243-253, doi: 10.1241/johokanri.54.243 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.243) 著者抄録 小中学校の「調べ学習」や「総合的な学習の時間」において,子ども用百科事典は重要な役割を果たす。『総合百科事 典ポプラディア』全 12 巻は,9 年前に刊行され,このたび改訂された日本で唯一の子ども用百科事典である。 『ポプラディ ア』刊行は,子どもたちの「生きる力」,問題解決力を育てる教育のなかで百科事典を望む声が大きくなっていったこ とを背景としている。『ポプラディア』は五十音順の百科事典である。項目の選定や編集方針をはじめとする製作の過 程について解説し,学校図書館における利用について紹介する。さらにデジタル化およびインターネット版「ポプラディ アネット」の開発,9 年ぶりの改訂について記す。あわせて図書館とインターネットが教育の中で果たしている役割と 課題についても触れる。 キーワード 百科事典,知識,用語,編集,学校図書館,デジタル化,オンライン,データベース,インターネット,情報教育 1. はじめに 典とはどのようなものなのか,その概略と製作の過 程,百科事典が必要な学習について解説する。あわ 人類の英知をわかりやすく解説したデータベース, それが子ども用の百科事典である。子どもたちの学 習の中で,百科事典が大きな役割を果たすようになっ ている。 『総合百科事典ポプラディア』 (以下『ポプラディア』 せて図書館とインターネットが子どもたちの学習の 中で果たす役割と課題についても述べたい。 2. 記録的なヒットとなった百科事典『ポ プラディア』シリーズ と記す)は,現代の日本で唯一の子ども用の百科事 典シリーズである。子どもたちが使っている百科事 シリーズ全体の出発点は,2002年3月に刊行された 243 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 『ポプラディア』全12巻,小学生から中学生を対象と した五十音順の百科事典である。本書は2005年2月に 補遺版『総合百科事典ポプラディア プラス1 -2005 補遺-』を加え,13巻セットとなり,合計約50,000セッ トを販売した。日本全国の小中学校ほとんどすべて で利用されている。この『ポプラディア』を補い, 発展させるものとして,前述の補遺版をはじめ,い くつかのシリーズを刊行した。テーマ別の『ポプラ 図2 『総合百科事典ポプラディア 新訂版』の本文 ディア情報館』(以下『情報館』と記す)シリーズ, インターネット版の「ポプラディアネット」,月刊誌 の『月刊ポプラディア』などである。これらについ で異動し,初版刊行時は製作,宣伝の責任者を務め ては,別章で解説する。 ていた。『ポプラディア』刊行後,本書をデジタル化 初版発行から9年を経た2011年1月,内容を一新し しさまざまに発展させることとなり,編集部に復帰 た『総合百科事典ポプラディア 新訂版』全12巻(以 して,補遺版,月刊誌, 『情報館』シリーズ,デジタ 下『新訂版』と記す)を刊行した(図1)。この『新訂版』 ル版などシリーズ全体の責任者となった。 は,刊行時に10,000セットを超える予約を得,新年 編集が続いている子ども用百科事典の編集長とい 度となった現在も好調に販売成績を伸ばしている。1 う特異な立場であったがゆえに,日本全国の学校, セット約10万円という百科事典が9年間も売れ続け, 公共図書館,教育委員会などで指導的立場にある方々 その新訂版が予約で10,000セット受注するというの に知己を得た。その結果,この数年,年間30 ~ 40回 は,出版界の常識では考えられない実績である。 は,学校の授業で子どもたちに直接『ポプラディア』 ここで筆者と本シリーズとの関わりについて記し の使い方を教えたり,先生方の研究会で講習などを ておきたい。『ポプラディア』の着手時に筆者は編集 行ったりしている。また,書籍,雑誌,インターネッ 担当の一人であり,後述する大きな枠組みをつくる トを統括する立場であったために,図書館関係者と 過程のすべてに関わってきた。編集の作業が進む中 情報教育関係者,双方の方々と交遊いただいた。こ れら現場での経験も本稿の背景となっている。 3. 子ども用百科事典を企画した背景 百科事典というと,平凡社や小学館,ブリタニカ などから刊行された大人用の大部のものを思い浮か べる人も多いだろう。日本には優れた百科事典がた くさんあり,かつて家庭などにも多く販売された。 子ども用においても玉川大学出版部刊のものなど, 多くの百科事典がつくられてきたが, 『ポプラディア』 刊行以前は,しばらく新しいものがつくられていな かった。 図1 『総合百科事典ポプラディア 新訂版』(全12巻) 244 大人用の百科事典は,急速にデジタル化が進み, 子どもたちの知のデータベース『総合百科事典ポプラディア』をつくる 身近なものとなっていった。パッケージソフトとし 4. 製作の過程 てC D - R O MやD V D - R O M版がつくられ,やがてイン ターネット版が開発された。電子辞書にも搭載され 4.1 テーマ別,教科別か,五十音順か ていった。こうしたデジタル化の流れの中で,書籍 あるとき,小社の坂井宏先(現在は社長)が,学 ではなされなかった情報の更新が行われたものが多 校図書館の指導的立場にある先生から「子ども用の い。 百科事典がない」という示唆を受けた。その一言か 子ども用の百科事典は,書籍でもデジタルでも新 ら本プロジェクトはスタートした。 しいものはつくられていなかった。だが,真に百科 百科事典といっても,さまざまなタイプのものが 事典を求めていたのは,子どもたちと学校だったの ある。どのような百科事典をつくるのか,決めてい である。 かなければならない。まず,規模と想定価格を決め 子どもたちの学習は大きく変わりつつある。暗記 た。単冊ではいかにも情報量が少ない。ある程度の して知識を蓄積していく教育から,「生きる力」を身 情報を網羅しようとすると,分冊とせざるを得ない。 につけるための教育へと変化してきている。ここで 子どもたちが取り扱いに困るような大きさにはでき いう「生きる力」とは何か。もちろん学習の基礎と ないので,大きさ,厚さもイメージし,パッケージ なるものは覚えるしかない。しかし,現代の社会を 全体としてはこれくらいの大きさであろう,そして 生き抜いていくには,まだ一度も出会ったことのな それならば,価格としてはこの程度であろう,とい いような問題に日々向き合っていかなければならず, う大まかなことを決めた。 問題を解決する力の方がむしろ重要になる。その問 これと並行して悩んだのが,テーマ別,教科別に 題解決の力を養うために,「調べ学習」や「総合的な するか,五十音順にするかである。編集部は,テー 学習の時間」がある。 マ別を支持する意見が当初多数を占めた。テーマ別 「調べ学習」も「総合的な学習の時間」も,子ど のほうが圧倒的につくりやすいからである。テーマ もたちが主体的に図書資料やインターネットなどを 別であれば,目次をつくり,論を積み上げていくこ 使って調べる学習である。社会科や理科など教科の とができる。章ごとに,見開きごとにつくっていく 単元の中で行われ,与えられたテーマを調べるのが ことができる。用語を解説するうえでも,これは前 「調べ学習」であり,テーマを自ら探すところから始 章で説明済み,として進めることができる。つまり めるのが「総合的な学習の時間」である。調べると 普通の本のつくり方の延長線上でつくることができ いう学習活動の中でその第一歩となるもの,それが るのだ。五十音順となると,その項目単独で理解で 百科事典なのだ。調べ学習が盛んになり,総合的な きるよう原稿を整えなければならない。そして,見 学習の時間をどのように行っていくかが検討される 開き内にあらゆるテーマ,ジャンルの用語が並ぶ。 中で,百科事典を望む声が大きくなっていった。 つまり,すべての原稿ができてからではないと,レ こうした流れのなか『ポプラディア』は企画され, イアウトすらできないということになる。百科事典 こうした学習に応えることができる唯一,最大の資 を初めてつくる編集部としては,これらの事態を恐 料であるがゆえに,これだけのヒットとなったので れた。 ある。 しかし結局は五十音順を選択することになった。 主な理由は2つある。1つは,調べ学習などで求めら れているのは,特定のキーワードに素早くたどり着 くことであろう,ということ。2つ目は子どもたちが 245 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 探そうとするキーワードが,うまく特定の言葉でま とめられたテーマにおさまらないのではないかとい うことである。 目おさめられるかを計算した。 ジャンルごとに絞り込んでいく作業を依頼した専 門家,研究者にはそのままそのジャンルの指導をし 「このキーワードはどの巻で調べればいいだろ ていただいた。また直接の執筆もお願いし,その他 う?」などということを考えさせるようでは使って 多くの研究者,専門家もご紹介いただいた。こうし もらえないのではないか,またそもそも,現在の社 て100人以上の執筆者が一斉に原稿に着手した。 会は複雑化しつつあり,テーマ別におさまりきらな い用語が増えているのではないか,と考えた。解説 4.3 編集の方針と実作業 が必要な用語を適切なテーマに分けて,網羅的に配 原稿執筆の方針として,正しいこと,わかりやす 置することは大変困難なのだ。また,図書館の考え いことは当然のことであるが,読んで楽しいことを 方によるが,テーマ別にすると,それぞれのテーマ 心がけた。知る喜びが得られるよう,まるで物語を ごとの書架に分けて配架される可能性がある。この 読んでいるかのごとくわくわくするものを,という 場合,さらにキーワードにたどり着くことが困難に ことである。 なる。こうして五十音順とすることを決めた。 一般の百科事典の多くは,記名原稿である。各項 目の解説は,執筆者のいわば小論文のようなもので 4.2 項目の選定 次は項目の選定である。これは当時の教科書を調 べることから始めた。 ゆえに執筆者の主義主張があり,項目間に整合性が なくても問題にはならない。数十巻にも及ぶものを 小中学校の全学年,全教科,全出版社の教科書を つくり上げるうえではやむを得ないことであるとと 購入し,そこに掲載されている語のリストをつくっ もに,一般の用をなすものとしては当然のことであ ていったのである。これが選定基準の第一優先順位 る。 となった。これに,数年分の小学生新聞,中学生新聞, しかし本書は,子どもたちが読むものである。で 学年誌を加えていった。さらに,『現代用語の基礎知 きるかぎり客観的で,できるかぎり定説を取り上げ, 識』(自由国民社刊), 『imidas』(集英社刊), 『知恵蔵』 項目間で表記のゆれや,立場の違う解説となること (朝日新聞社刊)など当時の年度版の用語集数年分を 加えた。最後は一般向け百科事典との突き合わせで 246 あり,学説等は,執筆者の判断,責任に任される。 は避けたい。そこで本書では,基本的に無記名とし, 編集部の責任でこれらの調整を図ることにした。 ある。このほか,図鑑など,ジャンルによっては別 「正しく」と「わかりやすく」は必ずしも容易に両 の資料も突き合わせた。こうして縦軸に用語,横軸 立するものではない。「わかりやすく」噛み砕いてい にその語の掲載元をあらわした,膨大な語のリスト くと,科学として「あいまい」な表現となり, 「誤解」 が出来上がった。これを頻度順に並び替えた。頻度 を生むことにもなりかねない。項目解説中に別の用 だけで語の軽重が決まるわけではない。用語をジャ 語が登場するのは当然のことであり,これらを無制 ンルごとに分解し,各ジャンルの専門家とジャンル 限に説明なく使っていけば,執筆は容易になるが, 内での語の過不足を精査した。 読者の理解を遠ざけることとなる。 こうして広く拾い集めた語を絞り込んでいったの こうしたせめぎ合いが,すべての項目で起こった。 である。いくつに絞り込むかもまた悩みの種であっ 専門家の書いた原稿を編集部でリライトし,それを た。語を解説するのに必要なボリュームを,特大,大, また専門家に確認してもらう。お互いが納得できる 中,小に分け,想定したページ数,行数の中で何項 妥協点を繰り返しのやり取りの中で見出していくし 子どもたちの知のデータベース『総合百科事典ポプラディア』をつくる かないのである。 原稿の執筆を行いながら,写真の収集やイラスト, たどり着くかは,大変重要な基礎的スキルであるが, 残念ながら十分指導が行き届いているとは言えな 図表類も作成していった。各項目の必要に応じて作 い。図書館の中で「調べましょう」と言われて,ど 成したのであるが,現実には紙幅の限界もあり,ま の本をどう見てよいかわからず,書架の前をうろう た見開きごとのビジュアル的要素にボリュームの差 ろするだけで1時間が終わってしまったというのは珍 がありすぎるのも好ましくない。しかしすべてを用 しいことではない。分類を理解し,配架のルールを 意し,レイアウトを開始してみないとわからなかっ 学び,書名・著者名・件名といった目録の検索,目 たことも多い。せっかく用意しながらやむを得ず削 次や索引,奥付の理解などの基本的スキルは,繰り 除したものや,逆に追加したものも多数ある。 返し行わないと身につかないものである。 『ポプラ 編集作業を進めながらも,新たな発見による学説 ディア』は,一番便利で役立つ資料であるとともに, の変更や社会の変化などには,当然対応しなければ こうした学習を行っていくうえの第一歩として活用 ならない。こうした変化,進化に対応して,項目の されている。 追加と削除,原稿の修正が校了時ぎりぎりまで続け 一度も手に取ったことのない子どもにとって, 『ポ られた。しかし, 「旧石器遺跡捏造事件」や「アメリ プラディア』は厚くて重くて,なんだか難しそうな カ同時多発テロ事件」は,想定外に広範囲かつ大幅 本に見える。しかし,一度でも手に取った子どもに な内容の見直しを迫る容易ならざる事態であった。 とっては,何か調べるときにまず手を伸ばす大切な なお, 『ポプラディア』シリーズは基本的に,現代 ものとなる。 『新訂版』で約25,000項目あり,索引巻 日本語を現代仮名遣いで書き表している。漢字は, を利用すれば50,000語を検索できる(図3)。「調べた 固有名詞や専門用語などの一部例外を除き,常用漢 らわかった」という喜びが得られる本なのだ。この 字を使っている。また,小学生4年生以上で学習する 成功体験が継続的な調べ学習につながっていく。 漢字にはふりがなをふった。 5. どのように使われているのか? 筆者は『ポプラディア』を通読した小学生2人に出 会った。最初の1人との出会いは強烈だったのでよく 『ポプラディア』が一番多く使われている場は小中 学校の図書館である。社会科など教科の学習の中で, 前述の「調べ学習」が多く行われている。教科書に「図 書館で調べてみよう」とか「インターネットで調べ てみよう」などの指示があるものもあれば,先生方 独自の判断で行われることもある。 「総合的な学習の時間」は,子どもたち自身が自ら テーマを決め,自ら調べ,自らまとめ,発表する学 習である。1年間かけて行われることが多い。『ポプ ラディア』はすべてのジャンルをカバーしているの で,調べる第一歩としてはとても有効な資料として 使われている。 図書館の利用指導の中で,知りたい情報にいかに 図3 『新訂版』の索引 247 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 覚えている。『ポプラディア』の利用方法を指導する の子があんなに楽しそうに発言するのは初めてみた」 授業中,よく発言してくれた子どもなのだが,会話 などと言われた。読書の時間,いつもつまらなそう が噛み合わなくて,もどかしさを感じた。授業のあ にしていた子や,図書館嫌いと思われていた子ども とわかったのだが,彼は私の授業を受けるまで百科 である。彼らの多くが 「本当のことが書かれている本」 事典の本来の利用方法を理解していなかった。彼は に出会ったとき一変する。赤木かん子氏によると, 『ポ 調べることなく,1巻の1行目から最終巻の最後の行 プラディア』は,「本当のことが書かれている本の王 までを読み通していたのである。彼にとって『ポプ 様」なのである。 ラディア』は,知らないことが書いてあり,しかも それがすべて「本当のこと」であるという強烈なエ 6.『月刊ポプラディア』の発行とデジタル 化 ンターテインメントの書だったのだ。2人目も同じよ うな子どもであった。 児童文学評論家の赤木かん子氏は講演の中で,子 最初の『ポプラディア』刊行の直後から,デジタ どもたちの読書傾向を「空想系」と「リアル系」に ル化に着手し(表1) ,それとほぼ同時に『月刊ポプ 分けて考えている,と語る。「空想系」の子どもは, 「も ラディア』 (図4)を刊行した。 のがたり」が好き。「ものがたり」の中で想像をめぐ 『月刊ポプラディア』は,総合学習応援雑誌を謳 らし楽しむことができる。「リアル系」の子どもは「も い,毎号1テーマを詳細に解説するものであった。同 のがたり」を読むのが好きではない。ただし「本当 時に補遺の役目も果たし,毎号新規項目を掲載した。 のことが書かれている本」を読むのは好きなのだと 百科事典の必要性をアピールし,新しい情報を届け いう。 るという役割を担うものであったが,『新訂版』の刊 世の中で「本嫌い」と思われている子どものうち, かなり多くがこの「リアル系」ではないだろうか。 行を機にその役目を果たしたとして,2011年4月号を もって休刊とした。 読書指導を通じて「ものがたり」の本としか出会っ デジタル化はまず2004年12月に『総合百科事典デ ていないがゆえに,「本が嫌い」と思われている子ど ジタルポプラディア2005』として,いったんD V D - もが少なからず存在するのである。 ROMのパッケージソフトで刊行した。その翌年, 『総 筆者が授業をしたクラスで,多くの先生方から, 「あ 合百科事典デジタルポプラディア プラス1 2006』 表1 『ポプラディア』シリーズの歩み 1998年12月 文部科学省が学習指導要領を告示。『ポプラディア』の企画を本格的にスタートさせる 2002年 3月 『総合百科事典ポプラディア』(全12巻)刊行 同書が2002年度の第4回学校図書館出版大賞を受賞する 2003年 9月 『月刊ポプラディア』創刊 2004年12月 『総合百科事典デジタルポプラディア2005』発売 2005年 2月 『総合百科事典ポプラディア プラス1 -2005補遺-』刊行 3月 『ポプラディア情報館』シリーズ刊行開始 4月 『ポプラディア学習帳』シリーズ発売開始〈セイカ(現在のサンスター文具)より〉 11月 2006年11月 『総合百科事典デジタルポプラディア プラス1 2006』発売 『総合百科事典デジタルポプラディア プラス2 VOICE』発売 インターネット版百科事典「ポプラディアネット」サービス開始 2011年 1月 『総合百科事典ポプラディア 新訂版』(全12巻)発売 『ポプラディア情報館』シリーズ7巻を同時発売,全50巻となる 248 子どもたちの知のデータベース『総合百科事典ポプラディア』をつくる 刊行を開始し,2011年1月で全50巻となった。五十音 順では十分学習しきれない体系だった情報をテーマ ごとにまとめたものであり,より詳しい学習ができ るように配慮されている。全50巻で,子どもたちの 学習に必要な範囲をほぼ網羅するものとなっている (図5)。 こうして書籍,雑誌,インターネットと,子ども たちが必要とするすべてのメディアで百科事典を活 用してもらえる態勢が整った。 なおこの間,無料で「ポプラディアネット」の一 部を利用できる「ナビポ」 (http://navipo.jp/) ,その 携帯版「モブポ」 (http://mobpo.jp/)のサービスも 図4 『月刊ポプラディア』2011年2月号 開始した。サンスター文具から 「ポプラディア学習帳」 シリーズも発売されるなど,「ポプラディア」は学習 を,さらに翌々年『総合百科事典デジタルポプラディ ア プラス2 V O I C E』を発売した。いずれもメディ アはDVD-ROMであったが,毎月インターネットで補 ブランドとして大きく育っていった。 7. インターネット版開発の思想 遺情報をダウンロードできるようにした。最後の版 の『VOICE』は,本やノート,鉛筆から手を離さなく インターネットで配信している「ポプラディアネッ ても操作できるようにとの願いから音声認識機能を ト」(図6)は, 『新訂版』 , 『情報館』シリーズと並ぶ, 搭載した。音声認識は急速に進化している分野だと 3つ目の大きな柱の1つである。同じテキストをもと 思うが,筆者はいまだにこれが日本で最も使いやす にスタートしているが,インターネットでなければ い音声認識ソフトであると信じている。 できないことを追求している。 この間,パッケージソフトからインターネット配 デジタル版の特性として検索性に優れているのは 信型への転換も進め,2006年11月,インターネット 言うまでもない。ポプラディア全巻の情報を瞬時に 版の「ポプラディアネット」のサービスを開始した。 全文検索できるのは,紙ではあり得ない感覚である。 これについては次章で述べる。 音声,動画といった紙では表現し得ないものも数多 テーマ別の『情報館』シリーズは,2005年3月から く収載している。五十音順の百科事典は受け継いで 図5 『ポプラディア情報館』シリーズ(全50巻) 249 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 図6 「ポプラディアネット」の項目「イネ」 いるが,多くのリンク機能を活用することによって 館は,同じ本は複数購入したとしても,それぞれに 学習の発展性に優れたものとした。新しい項目を追 別の分類を与え,複数の場所に配架することは基本 加したり,統計情報など新しい情報を追加修正した 的にない。子どもが図書館で有効な本に出会えない りすることも当然行っている。ふりがなの有無を選 のは,この配架のルールを理解していないため,と ぶボタンも用意している。 いうことも多いのだ。 学習の発展性についてもう少し詳しく記したい。 書籍で「イネ」がテーマとなった本があるとする。 を表示して,五十音順の百科事典をテーマ別の資料 この本には,植物としてのイネのことも,農業のこ のように使うこともできるよう配慮している(図7) 。 とも,栽培の歴史のことも,食べ物としての文化の 「イネ」の項目からは,稲作,工芸作物,穀類,被子 こともさまざま書かれている。「生物」 「産業」 「歴史」 植物,穀物へと案内される。各項目には,図書館の 「食」は図書館の中で異なる分野として扱われる。図 250 「ポプラディアネット」では,複数の「関連テーマ」 本も活用してほしいという願いをこめて「日本十進 書館で購入された本は,登録され,装備がなされ, 分類」(N D C)も付与している。「イネ」に対しては, 配架される。このとき,どの分野に配するかは図書 479(被子植物)と616(食用作物)のように複数の 館員,司書が決める。筆者自身,自分が担当した本 分類を付与している。 が思わぬ分類を付与されて驚くことがある。「日本十 「ポプラディアネット」は学校や公共図書館,家庭 進分類法」という大きな基準はあるものの,それを と,さまざまな場で活用されている。当初はI Dとパ もとに決めているのは最終的には個人なのだ。図書 スワードでユーザー管理する形態のみであったが,IP 子どもたちの知のデータベース『総合百科事典ポプラディア』をつくる 「ポプラディアネット」の各項目は,25の大テーマに分類されている。各テーマの後ろに( )であらわさ れている数は,そのテーマに含まれている項目の数。25の大テーマは,さらに中・小テーマに分類されて いる。小テーマは1,400以上に細分化される。 図7 「ポプラディアネット」のテーマ別分類 アドレスで管理する仕組みも用意した。千葉県柏市 などのように,市教育委員会として一括採用する自 治体も増えている。柏市の場合,市内61の小中学校, 6,000台のパソコンから自由に使えるようになってお このように,オンラインデータベースとしての「ポ プラディアネット」の利用は拡大している。 8. 9年を経て新訂版に り,大変有効に活用されている。 ある大手の中学受験進学塾では,数万人の塾生全 『ポプラディア』シリーズ全体を通して蓄積してき 員が家庭学習で「ポプラディアネット」を利用して たものをすべて活かし,2011年1月,『新訂版』を刊 いる。この塾ではカリキュラムの理解度をはかるテ 行した。旧版の発行から9年が経過し,もう補遺版 ストの結果をネット経由で閲覧できるシステムを構 では内容の修正が追いつかなくなっていた。市町村 築していて,問題解説の中の重要語には「ポプラディ 合併,省庁再編や独立行政法人化などの行政改革は アネット」へのリンクを張っているのだ。 わかりやすい例だが,日本も世界も社会が大きく変 251 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 化し,また科学の分野でも,「はやぶさ」など新しい なっている。インターネットの登場によって,子ど 研究成果が次々に生み出されている。こうしたこと もたちが利用できる知の引き出しが増えたのであ に対応して全項目を見直した。その結果,項目数は, る。ただし,インターネットはとても便利なもので 約23,000項目から約25,000項目に。総ページ数も,約 あるが,玉石混交であり,体系づけられていない。 3,000ページから約3,500ページにと増加した。またこ ここが図書館との大きな違いになっている。 の『新訂版』では,『情報館』シリーズに詳しい解説 図書館には,編集者,司書という専門家のフィル のある項目はそのページを掲載し,参照できるよう ターを経た資料が集められており,それは利用者に 工夫した。50巻にも及ぶ専門的書籍への対応づけは, 対する大きな保証になっている。大人はインターネッ 百科事典として世界初の試みである。 トと図書館の利用についてのこの基本的な違いを感 前述のように,9年間にわたって50,000セットも販 売してきたシリーズを改訂して,10,000セットも予 約販売できたということは,それだけ活用され,な 覚的に理解しているが,子どもたちがこれを理解す るのは大変難しい。 また,多くの場合,インターネットで「調べる」 おかつ新しい情報に入れ替える必要があるとの認識 ことは検索エンジンに委ねられるが,子どもたちは がなされているという証左である。すでに,次の補 無批判にその検索結果を受け入れてしまう。検索結 遺版,三訂版についてのご質問も受けており,今後 果の最初の1行目から順にページを開いていき,調べ の展開については十分検討して進めていきたい。 たいことが見つかるとプリントアウトして,学習が 9. 紙もネット版も,図書館もインターネッ トも 終わった気になってしまうのだ。そこに比較や検証 はない。 検索エンジンではピンポイントで,容易に知りた いことにたどり着けることが多いが,その背景とな ここまで述べてきたように, 『ポプラディア』シリー る全体像を見渡すことにはつながらない。図書館な ズには, 「紙」も「ネット」もある。とかく,紙かネッ ら,書架の前に立っただけで,その世界を補足する トか,という議論があるが,こと,子どもたちが学 資料のさまざまなタイトルに目がいく。書架の間を ぶ「知のデータベース」に関しては,この議論はナ さまようだけで,情報の選別,絞り込む作業が無意 ンセンスだと考えている。「紙」も「ネット」も,ど 識に行われている。検索エンジンはこの過程を飛ば ちらも必要なのだ。そう信じてどちらもつくってき し,本でいえばページの該当の行に一気に連れていっ た。 てくれる。しかも近年,検索エンジンはますます進 紙を展開する大事な場としての図書館とインター ネットを対比させて考えてみたい。 図書館は,人類の英知を集積し,それを体系づけ, てくれる。 ネット検索の優位性や情報提供のスピードに,お 手を伸ばせばいつでも利用できるように配架した場 そらく紙はもう二度と追いつくことができない。ま である。われわれは図書館に一歩入った途端,人類 た紙にはコストとスペースが必要となる。個人の選 の英知を一望することができる。紙,印刷という技 択肢としてこの問題は大きい。 術,本というメディアは,とても扱いやすく,便利で, 子どもたちにとって,紙とネット版,図書館とイ 図書館という空間の中で知のデータベースを構築し ンターネットは,比較し,どちらかを選ぶものでは てきた。 ない。どちらにも良いところがあり,苦手なところ インターネットも人類の英知を集めた第二の場と 252 化している。検索のゆらぎに対応し,推測して導い がある。子どもたちには,図書館もインターネット 子どもたちの知のデータベース『総合百科事典ポプラディア』をつくる も正しく利用できるようになってもらいたい。それ 10. おわりに らの特性を理解し,必要なときに,より良いものを 選べるようになればいいのだ。 『ポプラディア』シリーズは,家庭でも図書館でも, 新しく校舎が建築される場合,学校図書館が,そ 冊子でもインターネットでも活用してもらえる日本 の校舎の中心,どの教室からも一番行きやすい場所 語の唯一の子ども用百科事典である。今これに代わ に配置されることが多くなっている。また,図書館 るものはない。大げさに思われるかもしれないが, の隣にコンピューター室が置かれ,2つ合わせて学習 このシリーズをより多く活用してもらうことは,子 センターとして機能するようになっていることも多 どもたちの学習をより豊かにしていくこと,日本の い。一番望ましいのは,この2つの境がなく,鍵もか 未来につながることだと考えている。子どもたちの かっておらず,いつでも子どもたちが自由に利用で 学習を支えるものとして,さらに発展させていかね きる環境にあることだ。子どもたちの情報収集の場 ばならない。 は,いつでも開かれていてほしいと考えている。 次回は,さらに「ポプラディアネット」の先進的 な活用事例を現場の担当者とともに紹介する。あわ せてオンラインデータベースの有効活用も論じたい。 Author Abstract Encyclopedia for children plays an essential role in the “learning by consulting” curriculum and the “integrated study period” in elementary and junior high schools. The Encyclopedia Poplardia, first published in March 2002 in 12 volumes and recently revised, is the only encyclopedia in Japan designed for children. The publication originates from the needs for such an encyclopedia as is targeted at children, which grew as the school education aimed at nurturing the fortitude to live and the ability to solve problems. The Poplardia employs the longer/shorter entry types, with its content listed in the order of the 50-character kana syllabary. This article looks at how the Poplardia is edited, including how subjects are selected and what the editing policy is, and how it is used in school libraries. It covers the launch of new online service “Poplardia Net” and the first revision in 9 years. It also refers to the roles libraries and the internet play in teaching and learning and some of the challenges to be dealt with. Key words encyclopedia, knowledge, word, editing, school library, digitization, online, database, internet, information education 253 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management August http://johokanri.jp/ エビデンスに基づく医療(EBM)の実践 ガイドライン システマティックレビューおよびメタアナリシ スのための優先的報告項目(PRISMA声明) Practice guideline of evidence-based medicine Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses (the PRISMA statement) 卓 興鋼1 吉田 佳督2 大森 豊緑3 TAKU Kyoko1; YOSHIDA Yoshitoku2; OMORI Toyonori3 1 独立行政法人国立健康・栄養研究所国際産学連携センター生物統計研究室(〒162-8636 東京都新宿区戸山1-23-1) Tel : 03-3203-5721 E-mail : [email protected] 2 名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻(〒466-8550 愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65)Tel : 052-744-1982 E-mail : [email protected] 3 名古屋市立大学大学院医学研究科医療健康政策科学分野(〒467-8601 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1) Tel : 052-853-8517 E-mail : [email protected] 1 Section of Biostatistical Research, Center for International Collaboration and Partnership, National Institute of Health and Nutrition (1-23-1 Toyama Shinjuku-ku, Tokyo 162-8636) 2 Department of Health and Social Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine (65 Tsurumai-cho Showa-ku Nagoya-shi, Aichi 466-8550) 3 Department of Health Care Policy and Management, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences (1 Kawasumi Mizuho-cho Mizuho-ku Nagoya-shi, Aichi 467-8601) 原稿受理(2011-06-08) 情報管理 54(5), 254-266, doi: 10.1241/johokanri.54.254 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.254) 著者抄録 近年,わが国においてもエビデンスに基づく医療(E B M)の提供が求められており,その根拠となる学術論文のシス テマティックレビューおよびメタアナリシスの重要性は,ますます高まっている。システマティックレビュー報告は, 疾病の診断および予後,予防対策などに広く活用されている。これまでいくつかの研究でシステマティックレビュー 報告の質が評価された結果,報告の質は全体的に不十分であった。1996 年,メタアナリシス報告の質を向上させるた めに,国際研究グループが「QUOROM(メタアナリシス報告の質)声明」という指針(guidance)を作成した。さらに, QUOROM の項目等について検討してきた運営委員会は,2009 年 6 月,その改訂版を作成し, 「PRISMA(システマティッ クレビューおよびメタアナリシスのための優先的報告項目)声明」と名づけた。この PRISMA 声明では,システマティッ クレビューの概念および実践面におけるいくつかの発展が見られる。本稿では,著者らがこれまでシステマティック レビューおよびメタアナリシスを行ってきた経験を踏まえ,PRISMA 声明の概要と展望について概説する。 キーワード PRISMA声明,システマティックレビュー,メタアナリシス,ランダム化比較試験,エビデンスに基づく医療 254 エビデンスに基づく医療(EBM)の実践ガイドライン 1. はじめに 4,500 論文発表数 4,024 4,000 近年,患者に良質な医療サービスを提供する手 段として, 「エビデンス(科学的根拠)に基づく医 療(Evidence-Based Medicine: EBM)」の実践が重視 3,735 3,500 3,167 2,870 3,000 2,542 2,500 2,167 2,000 1,630 1,500 Guyattによると,「個々の患者が有する問題点に対し て,医師の専門的技能と利用可能な最良のエビデン 1,000 500 482 371 323 386 429 273 334 596 639 741 849 0 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 20 10 されるようになった1)。E B Mとはその提唱者G o r d o n 1,302 1,087 951 スを合わせて適用しようとする医療」をいう1)。ここ でエビデンスとは,科学的に検証された現象に関す 図1 PubMedにおけるメタアナリシス発表論文数の推移 図1 PubMedにおけるメタアナリシス発表論文数の推移(2011年6月2日検索) (2011年6月2日検索) る情報と解釈できる。当該分野の複数の専門家によ る査読が行われ発表された学術論文は,確かなエビ の消費者庁への申請にあたっては,当該表示に関わ デンスになると言える。特に医療や健康・栄養に関 る関与成分の疾病リスク低減効果が医学的・栄養学 する情報については,ヒトを対象とした研究に基づ 的に確立されたものであることを証するものとして, く学術論文が重要である。ヒトを対象とした研究の 当該関与成分の有効性を検証した論文に関わるメタ エビデンスは,研究のデザインによって信頼性の高 アナリシスの文献を添付することが原則となってい さ(evidence level, エビデンスレベル)が異なる2)。 る5)。 そのうち,質の高いランダム化比較試験(Randomized この20年間でみると,PubMedに収載されている文 Controlled Trial: RCT)を対象としたメタアナリシス 献のうち,メタアナリシスに関するものが年々増え (meta-analysis)による情報は,信頼性の最も高いエ ている(図1)。今後,E B Mの実践に伴い,システマ ビデンスとされている。 例えば,「骨粗鬆症予防と治療ガイドライン2006 年版」3) で評価に使用されているエビデンスの水準 ティックレビューあるいはメタアナリシスによる健 康影響評価が盛んになり,それに関する論文も増え てくると予想される。 (レベル)(表1)や「科学的根拠に基づく糖尿病診療 システマティックレビューおよびメタアナリシス ガイドライン(改訂第2版)」4) で採用されているエ は保健医療分野において,ますます重要になってき ビデンスレベル(表2)においても,R C Tのシステマ ティックレビュー(systematic review)およびメタ 表2 ガイドラインで用いたエビデンス水準表―各研究へ付された水準 表2 糖尿病診療ガイドラインにおけるエビデンスレベル 各研究へ付された水準 アナリシスは,エビデンスレベルが最も高いとされ ている。また,特定保健用食品(疾病リスク低減表示) 表1 エビデンスの基準(レベル) 表1 エビデンスの水準(レベル) I システマティックレビュー / メタアナリシス II 1つ以上のランダム化比較試験による III 非ランダム化比較試験による IV 分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究による) V 記述研究(症例報告や症例集積)による VI 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見 (福井・丹後による「診療ガイドラインの作成の手順ver.4.3」より) 水準(レベル) 該当する臨床研究デザインの種類 1� 水準1の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレ ビューまたはメタアナリシス 1 十分な症例数(全体で400例以上)のランダム化比較試験 2� 水準2の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレ ビューまたはメタアナリシス 2 小規模(全体で400例未満)のランダム化比較試験 2� さらに小規模(全体で50例未満)のランダム化比較試験,クロス オーバー試験(ランダム化を伴う),オープンラベル試験(ランダ ム化を伴う) 3 非ランダム化比較試験,コントロールを伴うコホート研究 4 前後比較試験,コントロールを伴わないコホート研究,症例対 照研究 5 コントロールを伴わない症例集積(10~50例程度) 6 10例未満の症例報告 なお,かっこ内の例数は目安である。 255 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August た。臨床医はシステマティックレビューまたはメタ 書が公表された14)-17)。またP R I S M A声明のW e bサイ アナリシスに関する論文を読むことにより,各々の ト(http://www.prisma-statement.org/)も公開され, 専門的知識を最良の状態に維持できる。また,シス 関連情報を発信している。本稿では,著者らがこれ テマティックレビューおよびメタアナリシスは診療 までメタアナリシス18)-23) を行ってきた経験を踏ま ガイドラインを策定する際の基礎にもなる。他の研 え,PRISMA声明の概要と展望について概説する。 究方法と同様,システマティックレビューの価値は, 何が行われ,どのようなことが見出されたか,さら にその報告の明確性に依存している。また,システ 2. システマティックレビューとメタアナ リシス マティックレビューにおいても研究論文の質にばら つきがあるため,報告されたレビューの長所および 短所に関する読者の評価能力による影響を受ける。 びメタアナリシスは,E B Mの実践に欠かせないもの レビュー報告の質について評価したいくつかの先 である。システマティックレビューとメタアナリシ 行研究がある。M u l r o wは1985年~ 1986年に定評あ スを同じものと考えている研究者もいるが,基本的 る医学雑誌4誌に発表されたレビュー論文50報を調査 にはメタアナリシスはシステマティックレビュー したところ,採用された研究の質的評価など8つの科 の「統計解析」にあたる部分と解釈されている24)。 学的基準をすべて満たした論文は1つも見出せなかっ QUOROM声明からPRISMA声明に名称が変更された理 たと報告している6)。また,Sacksらは,1987年に86 由の1つに,システマティックレビューおよびメタア 報のメタアナリシス論文の妥当性を6領域23項目にお ナリシスの両方を取り込む必要があったことが挙げ 7) いて評価したところ ,6領域すべてが報告されてい られている。システマティックレビューおよびメタ たのは28%に過ぎないなど全体的に報告の質は不十 アナリシスについて記述するための学術用語は本稿 分であったが,1996年時点の評価では多少の改善が ではコクラン・ハンドブック(Cochrane Handbook 認められた8)としている。 for Systematic Reviews of Interventions)の解釈を採 こうしたメタアナリシス報告の不完全な点を改善 用する25)。 するため,「QUOROM(Quality of Reporting of Meta- システマティックレビューは,1つのテーマに関し analyses,メタアナリシス報告の質)声明」と呼ばれ て明確にまとめられたレビュー(総説)であり,体 9) 。このQ U O R O M声明 る指針が1996年に作成された 系的かつ明確な方法を用いて,関連研究の特定,選択, は,27項目のチェックリストとフローチャートで構 および批判的吟味を行い,レビューに採用された研 成されており,ランダム化比較試験(R C T)のメタ 究からデータを収集・解析する研究手法である25)。 アナリシス報告の質の向上を図ることを目的に作成 また,メタアナリシスは,システマティックレビュー された。その後,Q U O R O M声明の修正・拡充に向 の結果を解析・統合する際の統計手法として必ずし けた検討が行われ,2009年6月,新たに「システマ も必須の方法ではないが,研究結果を統合するため ティックレビューおよびメタアナリシスのための優 に非常に有用な統計手法とされている。 先的報告項目(PRISMA声明)」が公表された 10)-13) 。 このP R I S M A声明は,システマティックレビューに 256 前述したように,システマティックレビューおよ システマティックレビューおよびメタアナリシス は,以下のプロセスに沿って行われる。 おける概念的・実践的な発展(3章を参照)に対応 (1)研究テーマの決定:まず,解決しようとする疑 するため,Q U O R O Mを更新したものである。同時 問(仮説等)を解答可能なリサーチ・クエスチョ に,P R I S M A声明の解釈および詳細に関する補足文 ンに置き換えることが大切である。例えば, 「大 エビデンスに基づく医療(EBM)の実践ガイドライン 豆イソフラボンは閉経後の骨密度を改善すると が明らかになったかどうか慎重に結論をまとめ 言われているが,実際に,大豆イソフラボンサ る。結果が示唆する意義および今後の展開につ プリメントが閉経後女性の骨代謝マーカーに影 いて考察する。 響するかどうか?」19)のような質問にする。 (8)定期的更新:定期的に適格性基準に適合する新 (2)研究論文の網羅的な収集および選択:関連論文 たなランダム化比較試験を検索し,新規の研究 を網羅的・体系的に収集する。必要な論文の全 報告を見つけた場合,関連データを抽出すると 文を入手し,精読したうえで取捨選択する。漏 ともに,当該データを含め全体を解析し直し, れなく収集するためには,あらかじめ採用する 結果を定期的に更新する。 ランダム化比較試験の適格性基準(適格性基準 システマティックレビューは,特定の研究課題を の例として:閉経期女性を対象とする。大豆イ 解決するために,あらかじめ設定した適格性基準に ソフラボンサプリメントを服用させ,用量が明 合致するあらゆる実証的根拠(研究論文)を収集・ 確である。プラセボ群との比較または両群とも 統合するものである。バイアスを最小限にするため 非エストロゲン剤と併用している。6つの骨代謝 に体系的(systematic)かつ明確な手法を用いて学術 マーカーのうち,少なくとも1つの結果が報告さ 論文を選択するので,信頼性の高い知見の提示が可 れている。並行群間比較試験またはクロスオー 能となる。その知見に基づき,結論が導かれ,判断 バー比較試験である)19) を設定し,検索式を考 が下される。 案し,米国立医学図書館のMEDLINE等の文献デー タベース検索や,論文の参考文献リスト等から 網羅的に収集する。 (3)各研究のデータ抽出および妥当性の評価:必要 システマティックレビューには,以下のような特 徴がある。 (1)あらかじめ設計した研究の適格性基準とともに, 一連の目的が明記されていること。 なデータを抽出し,各研究の妥当性について批 (2)明確かつ再現性のある方法によること。 判的に吟味(critical appraisal)する。 (3)適格性基準に合致するすべての研究論文を特定 (4)エビデンステーブルへの要約:設計した入力 フォームに必要なデータを簡潔かつ明確に概括 する。 (5)メタアナリシスによる統計学的解析:十分な数 のデータがあれば,メタアナリシスの解析方法, 感度解析やサブグループ解析,メタ回帰分析等 し収集するための体系的な検索によること。 (4)採用された研究論文の妥当性を評価しているこ と。例えば,バイアスリスクの評価などを行っ ていること。 (5)採用された研究論文の特徴および結果を体系的 に統合すること。 の追加的解析を行い,結果をわかりやすく示す。 システマティックレビューの多くは,いくつかの メタアナリシスを行うために十分なデータがな 研究論文の結果を統合するために,メタアナリシス い場合には,各研究結果を体系的かつ偏りなく の手法を用いる。メタアナリシスは,あるテーマに 概括する。 関して過去に行われた研究結果(データ)を統合し (6)結果の解釈:得られた結果を詳細に解釈し,同 解析することにより,影響量(効果の大きさ)を推 様な先行研究結果と一致するかどうか,また結 定する信頼性の高い統計学的手法である。メタアナ 果に関連するメカニズム,研究結果の限界等に リシスは,採用された関連研究論文すべての情報を ついて考察する。 統合するため,個々の研究から得られる情報に比べ, (7)結論:得られた結果に基づき,検証したい疑問 より正確に影響量の推測が提示可能である。また, 257 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 http://johokanri.jp/ August Journal of Information Processing and Management 研究間における科学的根拠がどれだけ一致するか, 前述のコクラン・ハンドブック25)の作成にも関与し もしくは相違するかを調査することが容易になる。 ている。このハンドブックには,システマティック メタアナリシスは,次のような場合に有用とされる。 レビューを行うための基礎的な理論や実施手順,参 (1)いくつかの研究において得られた効果の程度や 考文献が収載されている。さらに,RevMan(Review 方向が一致しない場合。 M a n a g e r)というシステマティックレビューを作成 (2)個々の研究の標本サイズが小さく,有意な効果 を見出せない場合。 する専用ソフト(メタアナリシスも可能)が開発され, ホームページ(http://www.cc-ims.net/revman)で無 (3)大きな標本サイズの研究が経済的,時間的に不 可能な場合。 償提供されている。R e v M a nの最新バージョンは5.1 (2011年3月22日リリース)で,W i n d o w s,L i n u x, しかし,メタアナリシスで複数の研究を量的に統 合して影響量を大きくしても,その後に行われた大 規模試験で背反する結果が出ることもある。そのた め,メタアナリシスの結果解釈には細心の注意が必 M a c O S X搭載のパソコンにインストールして使用可 能である。 3. QUOROMからPRISMAへの発展における 概念的変化 要である。 1970年代に,英国の医学者Archiebald Cochraneは, あらゆる治療法の評価にはランダム化比較試験が必 要であり,世界中で実施されたランダム化比較試験 あること の結果からエビデンスを抽出し,かつそれを定期的 システマティックレビューは,採用された研究論 24) に更新し,広く公表すべきだと力説した 。その後, 文の規模と質に大きく依存する。そのため,システ 英国の国民保健サービス(National Health Services: マティックレビューの過程において当初のレビュー・ N H S)が臨床試験,特にランダム化比較試験の中か プロトコル(研究設計書)を必要に応じて修正しな ら質の高いものを世界中から網羅的に収集し,シス け れ ば な ら な い。P R I S M A声 明( 表3の 項 目5,11, テマティックレビューおよびメタアナリシスに基づ 16,23)は,このような反復過程を反映したものと いて評価し,その結果を提供するという世界的な医 なっている。コクランレビューではすべてプロトコ 療評価プロジェクトを1992年に発足させた。これが ルを要求しているが,システマティックレビュー実 Cochraneの名を冠して名付けられた「コクラン共同 施者のうち,プロトコルの作成から作業を始めたの 計画(The Cochrane Collaboration)」である26)。現在, は10%程度と報告されている。プロトコルが公開さ コクランセンター・支部は,英国,米国,中国をは れていなければ,その変更が適切か否かの判断は困 じめ世界25か国に設置されている。日本には未だに 難である。 設 置 さ れ て い な い が,1994年 に, 津 谷 ら の 有 志 に (2)研究の実施と報告はまったく別のコンセプトで よって,コクラン共同計画の日本への普及を目的と あること して,JANCOC(Japanese Informal Network for the システマティックレビュー研究における実施と報 27)。コクラン 告との違いは,個別の研究報告の評価における実施 共同計画から公表されているコクラン・ライブラリー と報告との違いほど明白ではない。それはシステマ には,主に治療法に関するランダム化比較試験をテー ティックレビューにおける実施と報告が本質的に絡 マ別にまとめて評価した「コクランレビュー」が掲 み合っているからである。例えば,採用された各研 載され,有料で閲覧することが可能である。また, 究論文のバイアスリスクに関する評価が報告されて Cochrane Collaboration)が設立された 258 (1)システマティックレビューの実施は反復過程で エビデンスに基づく医療(EBM)の実践ガイドライン 表3 システマティックレビューまたはメタアナリシスを報告する際の項目チェックリスト セクション・トピック 項目 チェックリスト項目 番号 報告のペー ジ番号 タイトル タイトル 1 研究報告がシステマティックレビューなのか,メタアナリシスなのか,あるいはその両方なの かを特記すること。 要約 構造化抄録 2 場合に応じて,背景,目的,データソース,研究の適格基準,参加者,介入,研究評価と統 合方法,結果,限界,結論ならびに主な発見の意味,システマティックレビューの登録番号 を含む構造化抄録を提供すること。 �論 論拠 3 既知の状況と照らし合わせ,レビューの理論的根拠を記述すること。 目的 4 参加者,介入,比較,成果,および研究デザイン(PICOS)と関連づけて,処理される問題点 に関する明確なステートメントを提供すること。 方法 プロトコルと登録 5 レビューのプロトコルの有無,そのアクセスの可能性とアクセス可能な場所(例えば,Web ア ドレス)を示し,また,入手可能な場合は,登録番号を含む登録情報を提供すること。 適格性基準 6 情報ソース 7 適格性基準とされる研究の特徴(例えば,PICOS,追跡期間の長さ)と報告の特徴(例え ば,検討年数,発表言語,発表状態)を明記し,理論的根拠を与えること。 検索したすべての情報ソース(例えば,データベースと対象期間,追加的研究を特定するた めの研究著者への連絡)ならびに最後検索日を記述すること。 検索 8 少なくとも 1 つのデータベースについて,再現できるように,使用されたすべての制限を含む 研究の選択 9 研究の選択過程(すなわち,スクリーニング,適格性判定,システマティックレビューへの採 データの収集過程 10 研究報告からデータ抽出の方法(例えば,予備的なデータフォーム,独立的に抽出,二重 データ項目 11 データ検索の手がかりとなったすべての変数(例えば,PICOS,研究資金)および行われた 各研究のバイアス危険 12 各研究のバイアス危険を評価する方法(この作業が研究あるいは成果レベルで行われる 完全な電子的検索式を示すこと。 用,また,可能な場合はメタアナリシスへの採用)を述べること。 的に抽出)ならびに調査者よりデータの取得と確認をするあらゆるプロセスを記述すること。 あらゆる仮定と単純化を列挙し,定義すること。 かの明記を含む),また,この情報がすべてのデータの統合にどのように使われるかを記述 すること。 要約指標 13 主な要約指標(例えば,リスク比,平均差)について記述すること。 結果の統合 14 データの処理方法,そして実施されていれば各メタアナリシスにおける一致性指標(例え 研究全般のバイアス危険 15 累積エビデンスに影響しうるあらゆるバイアス危険(例えば,発表バイアス,研究内の選択 追加的な分析 16 追加的な分析方法(例えば,感度あるいはサブグループ解析,メタ回帰)が実施されていれ ば,I 2 統計値)を含め,研究結果の統合方法を記述すること。 的報告)の評価を明記すること。 ば,その方法を説明し,そのうちいずれがあらかじめ指定されたかを示すこと。 結果 研究の選択 17 スクリーニングされ,適格性が評価され,レビューに採用された研究の数を各段階で除外さ 研究の特徴 18 各研究について,データの抽出が行われる手がかりとなった特徴(例えば,研究の規模, 研究内バイアス危険 19 各研究のバイアス危険に関するデータ,また,可能な場合は成果レベルにおけるあらゆる 各研究の結果 20 各研究において検討されたすべての成果(有益あるいは有害)について,(a)各介入群に関 れた理由とともに提示し,理想的にはフローチャートを用いること。 PICOS,追跡期間)を提示するとともに引用を示すこと。 評価を提示すること(項目 12 参照)。 する簡単な要約データおよび(b)効果推定値と信頼区間を提示し,理想的にはフォレストプ ロットを用いること。 結果の統合 21 実施した各メタアナリシスの結果(信頼区間と一致性の指標を含む)を提示すること。 研究全般のバイアス危険 22 研究全般のバイアス危険に関するあらゆる評価の結果を提示する(項目 15 参照)こと。 追加的な分析 23 追加的な分析(例えば,感度あるいはサブグループ解析,メタ回帰)が行われた場合,その 結果を提示する(項目 16 参照)こと。 討論 エビデンスの要約 24 各主要な成果のエビデンスの強さを含む主な知見を要約すること;それらが主要なグルー 限界 25 研究および成果レベルにおける限界(例えばバイアスの危険),さらにレビューレベルにお プ(例えば,医療提供者,利用者および政策決定者)との関連性を検討すること。 ける限界(例えば,特定された研究が完全に検索されていない,報告バイアス)について議 論すること。 結論 26 結果の一般的解釈を他のエビデンスと関連づけて提示するとともに,今後の研究への意味 を示すこと。 資金 資金 27 システマティックレビューの資金源および他のサポート(例えば,データの提供),ならびに システマティックレビューにおける資金提供者の役割について記述すること。 259 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August いないと,そのシステマティックレビューは適切に のバイアスの意味は十分明らかではないが,選択的 実施されていないとみなされる。これに対して,個 報告がシステマティックレビューにおいても生じう 別の研究報告では,ある結果のバイアスリスクに関 ることが確認されている。 する評価が報告されていなくても,その研究が適切 に実施されていないとはみなされない。そのため, システマティックレビューを行う過程において,採 4. QUOROM声明からPRISMA声明への発展 の経緯 用した研究のバイアスリスクに関する評価について 報告することが重要とされている。 (3)研究レベルと結果レベルにおけるバイアスリス 医学雑誌編集者および1名の一般人を含む29名の参加 クの評価 による3日間の会議がカナダのオタワで開かれた。こ システマティックレビューに採用されている研究 のオタワ会議の目的は,QUOROMチェックリストと のバイアスリスクに関する評価は,研究レベルにお フローチャートを必要に応じて修正・拡充すること ける評価(例えば,症例数は十分か?)および研究 であった。 の特徴に由来する結果レベルにおける評価(例えば, 実行委員会は会議前に次のような活動を行った。 データのばらつき)という新たなアプローチの両方 (1)システマティックレビュー報告の質を調査した を必要とする。結果レベルでの評価には,各々の研 研究に関するシステマティックレビュー 究における重要な結果に関わるデータの測定方法を (2)可能性のある方法および他の論文,特にチェッ 判定することにより,データの信頼性と妥当性を評 クリスト項目の修正に関連するものを明らかに 価する作業が含まれる。ある1つの研究を取ってみて するための詳細な文献検索 も,そのエビデンスの質は結果によって違ってくる (3) Q U O R O Mに関する見解(既存のチェックリス 可能性がある。例えば,主な効能・効果の評価(詳 ト項目のメリットを含む)を確認するため,レ しく系統的に測定される可能性が高い)と重大な障 ビュー著者,消費者およびシステマティック 害の評価(おそらく調査者による任意な方法による) レビューやメタアナリシスを受託している組 ではエビデンスの質が異なる。効果の推定がどの程 織( 「国際保健医療テクノロジーアセスメント 度正確に行われているかを評価するためには,こう 機構ネットワーク(International Network of した情報が報告される必要がある。 Agencies for Health Technology Assessment) 」 (4)報告バイアスの重大性 各種の報告バイアス(定められた報告がなされな いことによる偏り)はシステマティックレビューの 実施および解釈に大きな影響を与える。すべての研 究からの選択的報告(例えば,ポジティブな結果が お よ び「 ガ イ ド ラ イ ン 国 際 ネ ッ ト ワ ー ク (Guidelines International Network) 」を含む)に 対する国際的な調査 これらの活動の結果は会議中に公表され,PRISMA 声明のWebサイトにもその要旨が掲載された。 発表されやすいことによる「発表バイアス」)は,最 そして,必要と判断された項目はチェックリスト 近検証された各研究における「結果報告バイアス」 に残されるとともに, 新たな項目が追加された。また, (選択的に偏った結果のみが報告されるバイアス)と いくつかの追加項目については,項目間に関連のあ 28) ,システマティックレビューの実施および る場合,これらを包含しなければならないとされた 結果報告において十分考慮すべきである。システマ 29) 。例えば,そのシステマティックレビューは過去 ティックレビューの実施および報告におけるこれら のレビューを更新したものであるか否かを明示する ともに 260 2005年6月,レビュー著者,方法論学者,臨床医, エビデンスに基づく医療(EBM)の実践ガイドライン とともに,最初のプロトコル手順からの変更点を記 いるが,他の種類の研究(特に介入の評価研究)の 載することが要求された。こうして,QUOROM声明 システマティックレビューを報告する際にも基本的 の21項目のチェックリストにあったいくつかの項目 に活用することができる。また,PRISMA声明は,シ は分割され,またシステマティックレビュー報告の ステマティックレビューの批判的吟味にも有用であ 一貫性を高めるため,可能な限りチェックリスト項 るが,そのチェックリストはシステマティックレ 目が関連づけられ,最終的に27項目に再編された。 ビューの質を評価するものではないことに留意する システマティックレビューの登録はまだ広く 普 及 し て い な い が, 国 際 医 学 雑 誌 編 集 者 委 員 会 必要がある。 新しいP R I S M Aのチェックリストは,Q U O R O M (International Committee of Medical Journal Editors) チェックリストといくつかの細目で相違している。 に参加している雑誌は,透明性を高める方向で努力 表4に 主 な 変 更 箇 所 を 示 す。 先 に 述 べ た よ う に, するとともに,発表する臨床試験の登録を要求して PRISMAチェックリストは,QUOROMチェックリスト 30) 。こうした動きは,同じ問題を扱うレビュー の項目を基に,いくつかの項目を分割・追加すると 数が過大になるリスクを減らし,システマティック ともに,可能な限りチェックリスト項目が相互に関 レビューを更新する際により高い透明性が確保され 連づけられたものである。 いる ることで,システマティックレビューの実施者にも 役立つと考えられる。 また,フローチャートも修正された。ある研究を 採択し,他の研究を除外する理由を提示する前に, レビューチームはまずあらゆる文献を検索しなくて 5. PRISMA声明の概要 はならない。この検索により,いくつかの文献レ コード(該当分野のデータベース)が特定され,こ P R I S M A声明は27項目のチェックリスト(表3)お れらの文献レコードはスクリーニングされ,その適 よび4段階のフローチャート(図2)で構成されてい 格性が評価され,最終的に関連論文数が絞られる。 る。この声明はランダム化比較試験に重点を置いて 1つの論文で多数の研究結果を報告したり,1つの研 究に基づく複数の結果が複数の論文として発表され たりするため,採用される論文の数は研究の数とは 特定 ���������������� データベース検索より特定 された文献レコード数 他の情報源から特定された 追加文献レコード数 必ずしも合致しない。こうした情報をとらえるため, PRISMAのフローチャートではレビュー過程の各段階 における情報が要求されている。 選抜 ����������� 重複が除外された後の文献レコード数 またPRISMA声明に加えて,他の報告ガイドライン で使用されているスタイルに従って,補足的解釈お 選抜されたレコード数 除外されたレコード数 適格性 ������������� 適格性が評価されたすべての 文献数 理由を付して除外された すべての文献数 よび詳細文書が作成されている14)-17)。この文書を 完成するプロセスには,各チェックリスト項目をい かに適正に報告するかが明らかになるよう,多数の 報告例によるデータベースを構築すること,また各 採用 ���������� 質的統合に採用された文献数 チェックリスト項目の採用を支持する複雑な科学的 根拠を確認することが含まれる。これらの文書は, 量的統合に採用された文献数(メタアナリシス) いくつかのグループ会議と各会議参加者による議論 図2 システマティックレビューの各段階における情報の流れ を繰り返した後,追加修正および最終承認のために 図2 システマティックレビューの各段階における情報の流れ 261 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 http://johokanri.jp/ August Journal of Information Processing and Management 表 4 QUOROM チェックリストと PRISMA チェックリストとの本質的な変更箇所(✓は QUOROM あるいは PRISMA にあるトピックを 表4 QUOROM チェックリストとPRISMA チェックリストとの本質的な変更箇所 示す) セクション・トピック および項目 抄録 (✓はQUOROM あるいはPRISMA にあるトピックを示す) QUOROM ✓ PRISMA ✓ コメント QUOROM と PRISMA は著者に抄録の報告を要求するが,PRISMA はフォーマットを特に指定し ない。 序論 目的 ✓ この新項目(4)は,PICO 報告システム(システマティックレビューの参加者[participants],介入 [intervention],比較[comparisons],および成果[outcome(s)]に関する記述),さらに各研究デ ザイン(PICOS)の特徴を用いて,レビューの検証する明確な問題点を記載する。この項目はチ ェックリストの項目 6,11,18 に関連づけられている。 方法 プロトコル ✓ この新項目(5)は,著者にレビューのプロトコルがあるかないか(ある場合はそれをどのように 入手するかも)を要求している。 検索 ✓ ✓ 両方の QUOROM と PRISMA チェックリストには検索の報告箇所があるが,PRISMA は著者に 少なくとも 1 つの詳細な電子的検索式(項目 8)を要求する。このような情報がなければ,著者 の検索が再現できない。 採用 される 各 研 究 ✓ ✓ のバイアス危険に QUOROM の“質的評価”より名称変更された。この項目(12)は,結果セクションにおけるこの情 報の報告(項目 19)に関連づけられている。「成果レベル」評価という新しいコンセプトは紹介さ 関する評価 れた。 研究全般のバイア ✓ ス危険 この新項目(15)は,レビュー中バイアス危険のあらゆる評価を記載するよう著者に要求してい る,例えば採用された研究内における選択的報告バイアス。この項目は結果セクションにおけ るこの情報の報告(項目 22)に関連づけられている。 考察 ✓ ✓ QUOROM と PRISMA 両方のチェックリストが討論セクションを要するが,PRISMA は 3 つの項目 (24-26)を考察に委ねた。PRISMA では,主な限界が明確に記載され,考察が必要とされる。 資金 ✓ この新項目(27)は,システマティックレビューのあらゆる資金源に関する情報を提示するよう著 者に要求している。 全グループに共有されたうえで,最終的にPRISMAの るよう呼びかけるとともに,論文の著者らに対して 普及と実行を支援するための普及小委員会が組織さ はPRISMA声明の原則を受け入れることを推奨してい れた。そのため,これらの文書は,システマティッ る。今後,システマティックレビューおよびメタア クレビューを教える者にとっても有用な情報源にな ナリシスの投稿論文についてはPRISMA声明の原則に ると思われる。 準拠することを要求する学術誌が増えてくると思わ 以上のように,PRISMA声明はQUOROM声明をさら に発展させたものであり,今後,システマティック レビューおよびメタアナリシスを報告する場合には, れる。 6. 結語 PRISMA声明を遵守することが望まれる。また,すで 262 にQUOROM声明を推奨している学術誌はPRISMA声明 国際的にみてもシステマティックレビューに関 に変更するよう呼びかけている。PRISMA声明の作成 する報告の質は未だに最良とは言えない状況であ グループは,他の雑誌がPRISMA声明を支持すること る 31)-36)。300報のシステマティックレビューに関す を希望しており,PRISMA声明のWebサイトへ登録す る最近のレビューによると,発表バイアスの存在お ることで支持が可能となる。的確なシステマティッ よび発表バイアスがシステマティックレビューの結 クレビュー報告の重要性を強調するため,作成グルー 果に及ぼす影響を示す圧倒的な根拠があるにもかか プはPRISMA声明を支持する雑誌がその投稿規定の中 わらず,発表バイアスの可能性に言及している報告 にPRISMA声明を引用,またはPRISMA声明のWebサ はわずかであった35)。また発表バイアスの可能性が イトのアドレスを表記するよう促している。作成グ 評価されていたとしても,そのシステマティックレ ループは編集者組織に対してもPRISMA声明を推奨す ビューの実施者らが発表バイアスを適切に評価ある エビデンスに基づく医療(EBM)の実践ガイドライン いは解釈したという保証はない37)。こうした評価に シスを報告する際には,フローチャートを調整する 関わる記載がなくても,必ずしも評価がなされなかっ 必要がある43)。 たとは言えないが,発表バイアスの可能性の評価に PRISMA声明はシステマティックレビューおよびメ ついて報告することは,システマティックレビュー タアナリシスの国際的な規範とも言えるものである の妥当性に関する1つの指標と考えられる。 ことから,L a n c e tをはじめ主要な学術誌の編集者組 さらに広範な問題に関するシステマティックレ 織はPRISMAを強く推奨している。わが国においても, ビューを実施するために,数多くのアプローチ法が 学術雑誌等にシステマティックレビューおよびメタ 開発されている。例えば,費用対効果38),疾病の診 アナリシスを報告する場合には,PRISMA声明の原則 断39) あるいは予後に関する問題40),遺伝的関連41), に準拠すること,またPRISMA声明のWebサイトへ登 および政策立案42)を調査するためのアプローチが広 録してPRISMA声明を支持することが望まれる。さら く行われている。 に,PRISMA声明を支持する雑誌はその投稿規定の中 P R I S M A声明に含まれるコンセプトおよびトピッ クス全般は,保健医療介入のメリットとリスクにつ にPRISMA声明を引用し,またはPRISMA声明のWeb サイトのアドレスを表記することが望まれる。 いて要約するのみならず,あらゆるシステマティッ PRISMA声明は,他の科学的根拠に基づく試みと同 クレビューに関連している。ただし,必要に応じ 様,常に変化を遂げている文書である。この作成グ て,チェックリストの項目あるいはフローチャート ループは,さらなる改善を図るため,PRISMAのWeb を修正する必要がある。例えば,バイアスリスクの サイトを通じて,特にチェックリストとフローチャー 評価は核心的なコンセプトの1つであるが,診断的レ トについてコメントを求めている。わが国において ビューにおいてリスクの評価に使用される場合は患 も,PRISMAがより多くの研究者らによって活用され 者の代表性や病状の検証のような問題に重点が置か るとともに,利用者からの情報をもとに,PRISMAが れており,この点は介入効果を検証する臨床試験の さらに発展していくことを期待している。 レビューとは異なる。また患者データのメタアナリ 参考文献 1) Evidence-Based Medicine Working Group. 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Author Abstract Systematic reviews and meta-analyses have become increasingly important in health care, especially in the field of evidence-based medicine (EBM). They are also now conducted to investigate diagnostic or prognostic questions, policy making, etc. Several early studies evaluated the quality of review reports, but the results were generally poor. In 1996, to address the suboptimal reporting of meta-analyses, an international group developed a guidance called the QUOROM statement (The Quality of Reporting of Meta-analyses), which focused on the reporting of meta-analyses of randomized controlled trials. In 2009, the managing committee has developed a revision of QUOROM, renamed PRISMA statement (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses), which have been updated to address several conceptual and practical advances in the science of systematic reviews. In this article, we summarized and explained the new PRISMA statement on the basis of our experience of having conducted systematic reviews and meta-analyses. Key words PRISMA statement, systematic review, meta-analysis, randomized controlled trial, evidence-based medicine 266 統計情報活用への招待 連載 統計情報活用への招待 第2回 公的統計の作成ステップ Series: Guide to effective use of statistics Part2: Making of official statistics 浅田 昭司1 ASADA Shoji1 1 データ工房(〒153-0043 東京都目黒区東山1-13-15)E-mail : [email protected] 1 DATA・LABO (1-13-15 Higashiyama Meguro-ku, Tokyo 153-0043) 情報管理 54(5), 267-276, doi: 10.1241/johokanri.54.267 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.267) 1. はじめに る工夫や問題点,課題を実例を通して探る。統計情 報を正しく読み取り効果的に活用するためには,そ わが国の公的統計は,統計としての品質において 世界各国と比べてどの程度のレベルにあるのだろう か。筆者がかつて,主要な公的統計の制作担当者約 60名に,統計調査の方法について取材した際に,同 れらがどのようなステップで作成されているのか, 充分に理解しておく必要がある。 2. 調査の企画 じ質問を投げかけたところ,返事は一様にトップレ ベルにあるとのことであった。農林水産省の「生産 統計の作成は,調査の企画からスタートする。新 農業所得統計」や総務省の「全国消費実態調査報告」 たな調査の場合,調査目的,調査対象,調査事項, のように海外では見られない日本独自のもの,国土 調査時期,調査方法等が検討される。基本的な企画 交通省の「地価公示」のように,一部先進国のみで が練り上がったところで,統計法の承認手続きとし 行われているもの,総務省の「国勢調査」のように て総務省政策統括官(統計基準担当)に調査計画を 諸外国のほとんどが10年に1回の調査であるのに対し 申請して承認を得る。 てわが国は5年に1回と調査の頻度が高いもの,内閣 新たな調査企画の作業の中でも最も時間をかける 府の「産業連関表」や文部科学省の「民間企業の研 のが,調査票の作成と集計方法の詰めである。しか 究活動に関する調査」のように,同様の調査はある し,主要な公的統計は定期的に調査が行われ時系列 ものの精密さにおいて格段の差があるものなど枚挙 データが得られる点が特長なので,新たな調査が企 にいとまがない。 画されることはまれである。時代の変化に合わせて 本シリーズの第2回では,公的統計の主な作成ス 部分的な変更が企画段階において俎上に上る。経済 テップ(図1)を追い,各過程において凝らされてい 産業省の「生産動態統計」の例では,産業構造の変 267 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August も行われているが,公的統計の場合,わが国全体の 調査の企画 数値に拡大推計されているものが多いのが特長であ る。したがって,わが国の市場規模を推定する場合 調査票の作成 調査の実施 (調査票の配布・回収) などで民間企業が大いに活用している。 3.2 標本の抽出方法 標本の抽出方法には下記の種類があり,わが国の 縮図になるようにいくつかの統計技法が駆使されて 調査票の検査・審査 いる。 ・無作為抽出法 ・単純無作為抽出法 調査票の集計 ・系統抽出法 ・層化無作為抽出法 調査結果の発表 - 層化一段無作為抽出法 - 層化二段無作為抽出法 図1 公的統計の作成ステップ - 層化多段無作為抽出法 ・有作為抽出法 化などを反映して,品目の生産動向が著しく変化す 抽出法を大別すると,無作為抽出法と有作為抽出 るため,調査品目について毎年見直しを行い,調査 法に分けられるが,公的統計ではほとんどが無作為 品目を統合したり,新たに設けたりという調整を行っ 抽出であり,有作為抽出は経済産業省の「生産動態 ている。 統計」などごく一部である。有作為抽出法は調査者 企画において統計の有効性や精度を左右するとい の主観的判断が入るため客観性に欠けるとされる。 う点から,特に重要である標本調査について下記に 無作為抽出法はさらに単純無作為抽出法と層化無作 述べる。 為抽出法に分けられる。 3. 標本調査 3.2.1 無作為抽出法 調査する標本を抽出する際に,ほとんどの公的統 3.1 標本調査と全数調査 全数調査,標本調査等,作成方法による統計の種類 268 計では,無作為抽出法が用いられている。無作為抽 出法は,標本をくじ引きのように抽出する方法であ については,本シリーズの第1回をご参照願いたい1)。 る。くじ引きのような確率的な出来事に関しては, 公的統計のほとんどは標本調査であり,全数調査は 確率論など統計数理の理論を当てはめて,標本から 数えるほどしかない。わが国全体の世帯,事業所を 全体の数値を推計したり,推計結果の誤差がどの程 対象にした全数調査が実施できるのは公的統計なら 度のものであるかを評価したりすることができる。 ではのことであり,わが国の貴重な情報資産である。 無作為抽出によってある程度多数の標本を集めると, しかし,多額の費用がかかることから「国勢調査」 「経 推計結果は安定し,精度の高い推計結果が得られる。 済センサス」 「工業統計調査」「商業統計調査」など 無作為抽出法の手順は,標本リストに一連の通し番 その数は限られる。標本調査は,民間企業・団体で 号を付け,その中から,乱数表(0 ~ 9の数字が規則 統計情報活用への招待 性なく並べられ,どの数字も等確率(10分の1)で現 調査区)を抽出する。第2次は調査世帯の抽出で各調 れるように作られた表)などによって得た乱数に従っ 査地点から10世帯を無作為に抽出し,合計約30,000 て,調査対象を選び出すというものである。単純無 世帯を標本としている。なお,各調査地点について 作為抽出は層化をせずに全体からランダムに抽出す 10世帯のうち1世帯は単身世帯の標本である。同省の る方法であり,層化とは同質のグループに分けてそ 「通信利用動向調査」の世帯調査も,都市規模を層化 のグループの中から無作為抽出する方法である。 無作為抽出の1つのバリエーションが系統抽出法で ある。その手順は,最初の起票となる標本は無作為 に選び,以後は等間隔で抽出するものである。経済 基準にした層化二段無作為抽出法である。都市規模 が偏らないようにし,最初に市区町村を抽出し,次 に世帯を住民基本台帳から抽出している。 同省の「家計調査」は層化三段無作為抽出法であり, 産業省の「商業動態統計」のうち, 「卸売業のすべて」 , 三段以上の抽出法は多段抽出法とも呼ばれている。 「従業者20人以上の小売業」, 「自動車小売業のすべて」 市町村の抽出が第1次抽出である。第2次抽出単位が から抽出した「指定商店調査」における抽出に当たっ 調査単位区である。原則として「国勢調査」の隣接 ては系統的標本抽出(等間隔サンプリング)を用い する2調査区を1調査単位区としている。第3次抽出単 ている。都道府県別,セル別に販売額の大きさ順に 位が世帯である。 商店を並べ,コンピューターにより乱数を発生させ, その値を出発点として等間隔に標本抽出している。 三段にすることにより人口密度の高い地域からは 多くの世帯を選ぶ,海沿いの町と山あいの町の両方 をサンプルとする,第2次産業が盛んな場所だけに偏 3.2.2 層化無作為抽出法 層化することによって標本抽出における偏りをよ らないようにするといった抽出を可能としている。 全国の市町村を地理的位置,人口規模や産業特性な り減らすことができるので,全体の縮図を目指す標 どによってできるだけ同じ性質のグループに分け, 本調査の意図に沿っているといえる。調査単位を抽 各グループから1つずつ合計168の調査市町村を抽出 出する際には,市町村とか調査区の特性に関する統 している。なお,「人口密度の高い地域からは多くの 計をもとに,層化して抽出する方法が取られ,同じ 世帯を選ぶ」といった方法を比例割当と呼んでいる。 類のものをグループ化し,その中から一定の比率で 抽出することにより,できるだけバラエティに富ん 3.3 標本数と標本誤差率 だ調査客体を抽出するものである。重複を避け,か 標本調査では,調査対象(標本)が全国の全体(母 つ欠けるところがないように抽出すると言い換えて 集団)の縮図にできるだけ近くなるよう,統計理論 もいい。 に基づいて,無作為抽出などの方法により調査対象 公的統計では,母集団が大きいため,通常二段以 を選定している。また公的統計のうち標本調査を採 上の層化が行われている。世帯調査において,一段 用しているものの多くは,標本理論に基づいて,標 目で都市規模で層化して市区町村を抽出し,次に実 準誤差率が5%以下となるように標本数を設定してい 際に調査客体となる世帯を住民基本台帳から抽出す る。 るといった具合である。総務省の「家計消費状況調 例えば前述の経済産業省「商業動態統計」におけ 査」の場合は,全国の全世帯より層化二段無作為抽 る「指定商店調査」では,業種別,従業者規模別に 出法により標本世帯を選定している。第1次は調査地 標本抽出枠(セル)を設定し,業種ごとに標本の精 点の抽出で,全国を地方別都市階級別に区分(層化) 度が一定範囲(標準誤差率表示5%以下)となるよう し,各区分から調査地点(合計で約3,000の「国勢調査」 に標本数を設定している。 269 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 標本調査では,当然のことながら全数調査をした 結果と仮想して比べると数字にある程度の「ゆれ」 出の平均値があることを指す。 標準誤差は,集計対象の世帯の範囲や収支項目に が生じる。このような「ゆれ」は,「標本誤差」と呼 よって異なるが,対象世帯の少ない世帯区分につい ばれており,その「ゆれ」の幅の大きさを「標準誤 ての集計結果や,購入頻度の少ない品目への支出額 差率」という尺度により表している。 の数字などは,標本誤差が大きくなりがちである。 総務省の「家計調査」の例では,標本設計の基となっ このような数字を見る場合には,標本誤差の影響を ている層化三段無作為抽出法の理論式に基づいて標 少なくするために,1か月分の数字だけでなく複数 準誤差率を定期的に計算し,その数字を「家計調査 の月にわたり平均した数字を利用したり,あるいは, 年報」に掲載して公表している。標準誤差は,無作 他の世帯区分や類似する品目と合算した数字を使用 為標本調査による推計結果値が真の値からどのくら するなど,利用上の工夫が必要である。 い離れているかの幅を示す数値である。無作為抽出 により実施した標本調査では,推計値の前後にそれ なお,標本誤差については次回でもさらに詳細に 取り上げる予定である。 ぞれ標準誤差の2倍の値をとると,真の値は約 95パー セントの確率でこの幅の中にあるといえるという性 3.4 調査区の設定 調査を漏れなく,重複なく,正確に行うためには, 質がある。 「家計調査」のケースでは,表1のように平成21年 調査員の受け持ち区域を明確に区割りしておく必要 の2人以上の世帯の消費支出の標準誤差率は,毎月 がある。このために必要な作業が,調査区の設定で の結果では1.1~1.4%となっており,年平均の結果 ある。 では0.4%となっている。平成21年の全国・全世帯の 「国勢調査」の調査区は,平均的に約50世帯が含ま 1か月あたりの平均消費支出額は291,737円である。 れるように日本全国を区画して作られ,全国に約90 これは,291,737円+291,737円×0.004× ±2である, 万の調査区が設定されている。各調査区に関しては, 289,403円~294,071円の間に,95%の確率で消費支 調査区地図が整備され,境界が明確になっているし, 「国勢調査」の結果によって,各調査区の特性に関す 表1 2人以上の世帯の支出金額の標準誤差率(%) 消費支出の 標準誤差率 集計世帯数 総務省の「事業所・企業統計調査」(平成21年から 平成21年1月 1.3 7,757 は「経済センサス」 )は,1調査区内の企業数がおお 平成21年2月 1.3 7,790 むね30 ~ 40になるよう設定されている。この結果, 平成21年3月 1.3 7,862 全国で調査区は約245,000となる。設定された調査区 平成21年4月 1.4 7,837 平成21年5月 1.2 7,858 は, 「事業所・企業統計調査」をはじめ「商業統計調査」 , 平成21年6月 1.3 7,821 「工業統計調査」など事業所および企業を対象とする 平成21年7月 1.1 7,790 さまざまな統計調査における共通の調査地域単位と 平成21年8月 1.1 7,839 して利用されている。 平成21年9月 1.2 7,847 平成21年10月 1.3 7,846 平成21年11月 1.2 7,822 平成21年12月 1.1 7,870 平成21年平均 0.4 7,828 年月 総務省「平成21年 家計調査年報」 270 る統計が整備されている。 4. 調査票の作成 企画が整った段階で,調査票が作成される。調査 票の設計の良しあしが調査の品質および効率を左右 統計情報活用への招待 するだけに精力を傾けて取り組まれている。調査票 に分類した項目を提示し,どれに該当するかを1日を は個々の被調査者に記入してもらうもので,調査の 通して1本の線でマークしてもらう方式である。記入 意図をくみ取ってもらい,正しく記入してもらうた 者の行動の記録に漏れや重複がないように配慮され めの工夫が凝らされる。充実した調査にしようとす ている。 ると調査事項が増え,逆に被調査者の負担を軽減し 調査によっては,複数のタイプの調査票を用いる ようとすると調査事項を減らさなくてはならず,こ ことがある。総務省の「住宅・土地統計調査」では, の二律背反に調査の企画者は常に悩まされる。調査 平成10年の調査から調査事項に粗密をつけた2種類の の結果,誤った回答が多い項目については次回の調 調査票(調査票甲・調査票乙)を用いている。平成 査から外すこともある。また正確かつ円滑に調査を 20年調査では約350万世帯の7分の1に相当する約50 実施するために,調査票作成後一部を対象として試 万世帯については,調査事項の多い調査表乙を,残 験調査を実施し,その結果を調査の計画に反映させ りの約300万世帯については調査事項の少ない調査票 るケースもある。 甲により調査している。このような調査方法をロン 公的統計の調査制作者約60名へインタビューした ところ,苦心している点として担当者が口をそろえ て指摘したのが「設問の作り方」と後述する「集計 グフォーム・ショートフォーム方式と呼んでいる。 5. 調査の実施 方法」である。 ・回答者への負担を軽減するために,いかに少ない 設問で最大限の回答を引き出すか ・いかにして誰もが答えられるような問い方をする か ・他の公的統計との用語の統一を図りながらいかに してわかりやすい言葉を使うか 調査の実施に先立って,調査のガイドを作成した うえで,ブロック別(幾つかの県の集まり)に都道 府県の担当者に集まってもらい説明会をするケース もある。前年度調査との変更点,記入の間違いが多 い箇所などを説明する。都道府県の担当者は,市区 町村の担当者や調査の指導員に説明をする。総務省 などに苦労している。 の「住宅・土地統計調査」の例では,2種類の調査票 調査票はできるだけ選択式にしたいところだが, を配り分けて調査しなければならない。また,調査 選択肢に抜け落ちている項目はないかなどに神経を のたびに新しい調査事項もある。このため,調査方 使う。 法や調査事項の定義などが都道府県,市町村を通じ 総務省の「社会生活基本調査」では,調査対象日 である2日間の午前0時から午後12時までの時刻別(15 て調査員に正確に伝わるよう詳細なガイド(手引き) を作成している。 分刻み)の生活行動を,「時刻目盛り日記式」調査票 に記入してもらっている。平成2年調査までは,自由 に書かれた行動内容を,総務省で分類しコード付け するアフターコード方式であったが,平成7年調査か ら,あらかじめ行動名が印刷された調査票に線を引 5.1 調査票の配布 調査票の配布と回収においては,主に以下の方法 が用いられている。 ・調査員調査 いてもらうプリコード方式に変えて,被調査者の負 ・訪問面接調査 担を軽減している。記入項目が多いため,記入者に ・訪問留置調査 負担をかけないでしかも正確に記入してもらえるよ う調査票を設計したものである。1日の行動を20種類 ・通信調査 ・郵送調査 271 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management ・オンライン調査 よる販売など,商店かどうかとらえにくいもの,ま ・その他の調査 たは商店であってもどこに調査票の記入を依頼すれ 民間企業や調査研究機関が行っている市場調査で ばよいのかわからないものなどが多く出てきてい は,インターネット調査,ファクシミリ調査,郵送 る。それだけに,これらを正確にとらえるための調 調査,電話調査が多いが,公的統計では,調査員調 査員の技量が調査の精度を左右する。 査の中でも訪問留置調査が多い。訪問留置調査は, 経済産業省の「外資系企業動向調査」は,対象と 調査対象者に調査票を直接届け,調査の趣旨,記入 なる企業に調査票を配布し,対象企業の自計申告に 方法を説明したうえで,対象者の手元に一定期間留 よる郵送調査である。なお,自計とは,自分のこと めておいて記入してもらい,後日回収する方法であ を自分が記入することであり,他計とは,他人のこ る。他に郵送調査やオンラインによるデータ取集を とを記入することである。他計の例としては,調査 行う通信調査が行われている。 員が面接して記入する他,企業の人事課の人が離職 調査員調査は郵送調査に比べて,回収率が高い, 者について記入するケースなどがある。 誤った記入が少ないという長所がある。半面,プラ 総務省の「科学技術研究調査」は調査項目が細か イバシーにかかわる事項では正確な調査結果が得に い専門的な内容が多いために記入者が戸惑い,本省 くいという短所がある。 への問合せが多数に上っている。調査員調査なら調 内閣府の「国民生活選好度調査」は,時系列調査 査員に聞くことになるのだが,郵送調査のため,問 の場合,母集団は,全国に居住する15歳以上80歳未 合せが本省に集中し,その対応に追われる事態が発 満の男女で,標本数は,近年5,000程度である。また, 生する。 回収率は,ほぼ70 ~80%の間で,高い回収率となっ 調査員調査と郵送調査が組み合わされている調査 ている。被調査者の関心が高いテーマであることと, もある。標本調査である経済産業省の 「商業動態統計」 調査員による個別訪問留置法であり,依頼時と回収 は都道府県が調査員を通じて対象商店に調査票の記 時に訪問しているために,郵送調査などに比べて回 入を依頼し,回収する調査員調査と,経済産業省が 収率が高いという結果をもたらしている。 直接対象商店に調査票の記入を依頼し,回収する郵 N H Kの「国民生活時間調査」は,公的統計ではな 送調査の2通りがある。大型小売店とコンビニエンス いが,統計情報研究・参考のために取り上げる。こ ストアは後者の方法でありそれ以外が調査員調査で の統計は昭和35年・40年の調査は,面接調査であっ ある。 た。しかしプライバシー保護の観点から,45年以降 配布回収法による自己記入方式に変えている。 全数調査である経済産業省の「商業統計調査」は, 厚生労働省の「毎月勤労統計調査」では,30人以 上規模の事業所は,事業所の改廃の頻度が多くなく 安定性があり,事務的にも整備されているので,調 都道府県,市区町村経由の調査員調査であり,調査 査事業所を抽出して通信調査を実施している。そし 員が配布した調査票に企業で記入してもらうもので て5~29人規模の事業所は,新設,廃止等の変動が多 ある。200万という膨大な調査であるため,全国すべ く,かつ事務の整備も比較的不十分な小規模事業所 ての商店から漏れなく正確に調査票を記入してもら であることから統計調査員が実地調査をしている。 うことが統計の第一歩となっている。 最近では,商業活動が多様化しており,マンショ 272 http://johokanri.jp/ August 通信調査では,郵便だけでなくオンラインによる データ取集も行われている。平成13年度から「毎勤 ンの一室で行う通信販売,店舗を持たず電話一本で オンラインシステム」による調査票提出を開始し, 配達する商売,無人のコンビニ,インターネットに インターネットを通じて事業所から厚生労働省の 統計情報活用への招待 サーバーに直接データを送れるようにしている。平 では,調査票は,調査員が調査対象日の前日に配布し, 成23年7月時点で,10,000を超える事業所が取り組ん 翌日に回収している。その理由は,設定した調査対 でいる。これは全体の二十数%に相当する。 象日の行動を確実に書いてもらうためである。また, また,経済産業省の「生産動態統計」は,毎月調 調査日の翌日に回収することにより,記入漏れがあっ 査しているが,平成19年10月1日より従来の「生産動 た時に記憶が呼び戻される確率が高くなるからであ 態調査集計システム」を大幅に改正した「新世代シ る。その結果,調査内容の精度が高まる。 ステム」を導入している。従来の概念を大幅に変え, 総務省の「科学技術研究調査報告」は調査票を配 対象事業所からの報告をオンラインで受け取ること 布する際に,前年の調査結果の概要をまとめた小冊 が可能となるなど,集計結果をより迅速に取りまと 子を同封して回収率向上に資している。 められるような工夫が施されているものである。 その他の調査法としては,調査世帯に家計簿をつ けてもらう総務省の「家計調査」 「全国消費実態調査」 , 5.3 調査の精度を高めるうえでの障害 標本設計の段階で想定した標本数を回収できない 調査員が小売店を回って小売価格を調査する総務省 と, 標準誤差率が高くなってしまい, 精度が低くなる。 の「小売物価統計」,不動産鑑定士または不動産鑑定 近年,単身世帯や,共働き世帯の増加に伴い,調 士補による鑑定評価を参考に土地鑑定委員会が価格 査員が何度訪ねても会えない世帯が増加しているほ を判定する国土交通省の「地価公示」,医師,保健師, か,オートロックマンションの増加など,調査員が 看護師,衛生(臨床)検査技師が身体状況を調査し, 世帯と面接することが困難な事例が増加している。 栄養士が栄養摂取状況を調査する厚生労働省の「国 また,近年の防犯意識の高まりから,女性の一人暮 民栄養調査」,ラッシュ時に実際に道路を車で走って らしの世帯では調査員が訪問してもなかなか会って みて旅行速度を測る国土交通省の「道路交通センサ くれない事例も増加しており,正確な調査を行うう ス(全国道路・街路交通情勢調査)」などがある。 えで,調査員の苦労が増えている。 総務省の「社会生活基本調査」の例では, 「国勢調 5.2 調査票の回収 査」のような全数調査と違い,選ばれた調査区の50 総務省の「事業所・企業統計調査」では,調査員は, 世帯の中から,さらに15世帯を対象としているため 担当する地域の事業所を訪問して調査票を配布し, に,隣はやっていないのになぜうちを調査するのだ 記入を依頼するとともに,記入済みの調査票の取集 とか,標本で当たったのならやらないよと拒絶され を行う。調査は10月1日現在の状況が記入される。 ることもある。できるだけ少ない標本数で,全国を 取集した調査票の記入漏れや記入誤りをチェックし, くまなく調査しようとするために起きる問題である。 決められた期日までに指導員または市町村に提出す 景気が悪化すると事業所からの調査への協力度も る。指導員・市町村は,調査票などの調査関係書類 落ちてきて,協力を得るのに調査員が苦労している。 の検査を行う。 総務省の「事業所・企業統計調査」は,経済施策の 厚生労働省の「受療行動調査」における患者への 貴重な資料となるものであり,協力しない事業所が 調査票の配布は,外来患者,入院患者ともに調査員 あると,その事業所が含まれるグループ(例えば経 が行う。記入は待ち時間などの間に患者本人に行っ 営組識別,従業者階級別など)の統計数値が実態を てもらう。自計記入で密封したものを回収する。外 正確に表さなくなってしまう。そのため的確な施策 来患者の場合は,郵送回収のケースもある。 が打てなくなることにもなりかねない。 公的統計ではないがN H Kの「国民生活時間調査」 経済産業省の「生産動態統計調査」の例では,企 273 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 業が不景気で人員削減をしなくてはならない場合に, れた記録)に収録し,省庁に提出される。省庁では, 調査票に記入する係の人を削減することも多々あり, 電磁的記録や調査票の審査を行い,調査結果の最終 正確な調査結果を得にくくする結果をもたらしてい 的な集計を行う。 る。 6. 調査票の検査・審査 内訳と計が異なるといったことはコンピューター で間違いをチェックできるが,記入する欄を間違え たといったことなど目で確認しなければならないこ ともあり,その審査に時間を要する。厚生労働省の 調査票を回収した結果,記入漏れや誤った記入が 「毎月勤労統計調査」では,単位が千円なのに,円で ないかを検査・審査段階で何重にもチェックする。 記入しているといった例がよく見受けられる。コン 電話で確認したり,再訪問して確認する,あるいは ピューターで自動的にミスを発見するのは,1人当た 無効回収として集計から外すなどの方法が取られ りの出勤日数が31日以上であるとか賃金が異常に高 る。調査員,指導員,市区町村,都道府県,総務省 いというようなものだが,先月分のデータが記入さ と調査の各段階で多くの人手と時間を要し何重にも れているとか賞与月に賞与の記入がないものなどは チェックを行う。 目で確認することになる。また,記入漏れが多いな 被調査者の記入の間違いを発見できるかどうかが 調査の精度を保つうえで極めて重要だが,勘に頼る ど記入内容が雑な調査票は,集計の対象から外すな どして,データの精度を高めている。 部分もあり難しいところである。被調査者の記憶が 標本調査ならもっと早く発表までこぎつけられる まだ新しいうちに確認作業をしなければならない。 のではないかという指摘もあるが,標本調査だから 調査現場で,おかしい,桁が間違っているのではな こそ数字にこだわらざるを得ない側面がある。標本 いかなど注意を払うことが求められる。 の中に異常な数値があるとその原因を探り修正す 省庁では,検査・審査のやり方についてのマニュ る。標本調査では,異常な数値が混ざっていると, アルを作成し,市町村,都道府県などに配布しやり 数字が大きくそちらに偏る。経済産業省の「商業動 方を統一している。この項目とこの項目を照らし合 態統計」では,業種別・従業者規模別に特異値(セ わせて,このような数値が出ていると間違いという ル内における平均より極めてかけ離れた販売額を有 ような事柄の例示や間違いやすい個所はどこかなど する商店)の検出を行い,変動係数の縮小化を図っ をガイドしている。 ている。 一般に,調査員の作業を確認,指導員,市町村の 作業を検査,都道府県,省庁の作業を審査と呼ぶこ 7. 調査票の集計 とが多い。 274 調査票に,年齢とか売上高,年次などの数字を世 都道府県から電磁データと調査票を受け取り,省 帯・事業所に記入してもらい,これを直接,OCR(光 庁でコンピューターを使って集計する。コンピュー 学式文字読取装置)で,読み取るケースが多く,読 ター処理で不都合が生じた場合は,個々の調査票を み取れるかどうかの検査を調査員にしてもらわなけ 確認し手入力が施される。例えば,厚生労働省の「患 ればならない。 者調査」では,記入された傷病名をI C Dの符号に分類 都道府県段階での審査が終わると,調査票の内容 する作業をコンピューター処理で行っているが,正 を電磁的記録(電子的方式,磁気的方式,その他の しく記載されていない場合には自動的にマッチング 知覚によっては認識することができない方式で作ら (照合)することができず,手作業で符号化を行って 統計情報活用への招待 いる。I C Dは世界保健機関(W H O)の定める「疾病 8. 調査結果の発表 及び関連保健問題の国際統計分類」である。 どの調査項目をどのような形で集計するかはあら 基幹統計や一般統計調査の結果は,原則として作 かじめ企画段階で決めたとおりに実施される。報告 成した後に速やかにインターネット(政府統計の総 書として紙媒体に印刷されたり,ホームページある 合窓口e - S t a tなど)や冊子形式で公表をすることに いはCD-ROMでも提供されて利用者に供されるので, なっている。 集計方法は利用目的にかなうように図られている。 インターネットでの発表の長所は,冊子体のよう その1つが属性としての集団の特性を把握するもの な印刷過程を経ないので,より早く利用者に提供で で,総務省の「家計調査」では,毎月の家計収支の きること,印刷費などの経費が節約できること,冊 状況を都市規模別,地域別,収入階級別,世帯主年 子体の場合のような部数制限がないこと,情報量を 齢階級別などさまざまな世帯属性別に集計している。 無制限に掲載できること,世界中のどこからでもア 属性別集計は回答者の基本属性別に回答の傾向の クセスできること,数字の転記を即座に間違いなく 違いを見るための基本的な分析法である。基本属性 できるので加工が容易であることなどである。 だけでなく,質問同士を掛け合わせて,質問相互の 一方,冊子体の長所は,紙媒体なので統計の全体 関係を見る質問間クロスもある。調査結果を,原因 と個の関係がつかみやすいことなどである。ページ として考えられる要因ごとに区分して分析できる。 の前後の関係などを読みながら,自分の調べたい内 厚生労働省の「社会医療診療行為別調査」では,医 容に確実にアクセスできる良さがある。 療需要の増加などにより医療費が急増したため,傷 総務省の「家計調査報告」のように,よく利用さ 病面からの分析をする必要が生じ,昭和53年から傷 れる内容を報告書として販売し,細かい内容や膨大 病と診療行為とのクロス集計を行っている。 となる情報量を有する内容はインターネットで発表 調査票をO C Rで読むことにしたことによりさらに するという分担が行われている例もある。インター 細かい分析が可能になった。総務省の「住宅・土地 ネットで公表される内容と冊子体との違いについて 統計調査」では,居住者の人ごとの年齢が把握でき は,第4回以降,個別の統計を解説する中でそれぞれ るので,例えば,新婚期,子育て期,熟年期といっ の特色を紹介する。 た世帯のライフステージごとの居住状況を明らかに できる。 なお,取集された調査票のすべてが集計されると 通常,まず概要版,速報版が発表され,次いで詳 細版,確報が発表される。全数調査である「商業統 計調査」や「工業統計調査」では,速報,そして, は限らない。調査票のうち,集計の目的にかなうも 数分冊の確報,さらに数分冊の二次加工統計,最後 の以外がふるいにかけられて落とされることがあ に統計に基づいてさまざまな角度から解析した解説 る。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本 書が発表されている。国土交通省の「地価公示」は, 調査」の調査方法は,調査票を配布して記入しても 最初官報で発表され,次いで概要版が発表され詳細 らい,後日密封されたものを回収するという方式だ 版が販売される。CD-ROMにより販売しているのは, が,回収されたもののうち夫妻が初婚同士であると 国土交通省の「道路交通センサス(全国道路・街路 いう夫婦のみを集計している。経済産業省の「主要 交通情勢調査) 」などである。 「道路交通センサス」 産業の設備投資計画」で年度間の比較をした表では, は平成11年度調査から,従来の冊子による販売では 両年度の回答欄に回答のあった共通回答企業のみを なく,CD-ROMによる販売に切り替えている。 対象として集計・比較している。 275 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 次回は,調査票を集計する際の「推定・加工」プ ロセスにおける調査の工夫を紹介する予定である。 また本シリーズの第4回以降では,分野別に,企業 においてどのように公的統計が活用されているかに ポイントを置いて主要な統計を解説する。わが国全 体の概況を把握している公的統計は,企業のマーケ ティング活動において,市場規模の推定をする際に, うってつけの情報である。 参考文献 1) 浅田昭司. 統計情報活用への招待 第1回 公的統計の基本. 情報管理. 2011, vol. 54, no. 4, p. 193. 276 リレーエッセー ●インフォプロってなんだ? What I do, study, and think as an information professional ͼϋέίυ̺̽̀̈́ͭȉ জ͈ॽমĭġġ͍ڠĭġġ̷̱̀ࣉ̢ లȁġȁġٝ ijĸ ઐȁܲࡨ ུاڼٛ২ȁഎ़ॲ໐ 情報管理 54(5), 277-278, doi: 10.1241/johokanri.54.277 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.277) 1. はじめに つの索引システムがあり,1つはI B Mのパンチカード 調査業務を担当するようになって随分時間が経過 を利用した索引システムで,カードポジションに農 した。前任者の異動に伴い,研究所の研究企画部門 薬の活性成分の化学構造(部分構造)を表すコード で調査業務を担当することになってから,数十年に と薬効および製剤等の関連情報の索引があり,化合 なる。情報や化学の専門知識を持たなかったため, 物と薬効を効率よく検索することができた。このほ ゼロからのスタートであった。 かに,コードレススキャニングという統制語と非統 振り返ると研究所,本社知的財産部の情報担当, 制語からなるキーワード索引があった。このデータ 知的財産部情報グループと,同じ調査担当と言って ベースはこのほかに,抄録には技術分類が付与され, も業務内容は時代の変化もあり随分と変わってきた。 抄録員の識別もあり,高精度の抄録誌として存在し 研究所時代は調査をしながら,ドキュメンテーショ ていた。高度に加工され当時のドキュメンテーショ ンの基礎に関する文献や化学(農薬),命名法の本や ン技術を駆使して作られたもので,用語も名詞と形 文献をよく読んだ時代だった。それは,化学および 容詞,名詞の単数と複数は意味が使い分けられてい 医農薬という欧米を中心に高度に発達したドキュメ る点に驚かされた。これぞヨーロッパのドキュメン ンテーション技術との出会いの時だった。本社知的 テーションとの出会いだった。 財産部情報担当の時代は調査に分析業務が加わり, 農 薬 分 野 の 特 許 デ ー タ ベ ー ス に は, 同 じ く 現在よく言われている「Patent Information Analyst」 DERWENT社のAGDOC(Chemical Patent Indexのセ としてのスタートの時であった。そして現在,情報 クションC)があった。特許は内容の正確性や必要な グループという組織の運営と調査・分析,図書館運 情報の量という面では文献と性格が異なっている。 営を担当し,管理と実務を両立させている。 化学構造の索引はケミカルフラグメンテーション コードを用いてマーカッシュクレームを検索できる 2. ドキュメンテーションとの出会い ようにしていたため,P E S T D O Cと比較して索引ルー 調査を担当したときに最初に利用したデータベー ルが複雑であった。さらにI P C等の既存の分類に加え スはPESTDOC(その後Derwent Crop Protection File, てDERWENT社独自のダウエントクラス,マニュアル 現在はサービス停止)という,当時英国のDERWENT コードもあり全体には複雑な索引体系であった。特 社が作成していた農薬分野の会員制データベースで 許という情報の性質上,検索漏れは許されないため, あった。農薬分野の研究では,特許も重要だったが, 慎重に検索する必要があった。 同時に文献情報が重要視されていた。PESTDOCには2 この2つの情報源に加えてほぼ同時に使った資料が 277 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August Chemical Abstracts(以下CA)だった。オンライン 案件ごとに調査の方法は違っている。ルーチン化で 検索が始まったころで,化学物質の新規性の調査を きる調査はエンドユーザーにできる仕事で,情報担 中心に利用したが,これが化学物質の命名法との出 当があえてする必要はなくなった。また,個々の調 会いとなった。オンライン検索の習得と同時に印刷 査事例から得られる知識や経験はマニュアルにはな 体CAを利用し,Formula Index,Chemical Substance いものが多くある(これに気がつくかどうか) 。化学, I n d e xをよく使った。C Aという二次資料は1907年か 医薬等の分野では,専門のデータベースや資料が現 ら存在して膨大な量を誇り,これが米国型のドキュ 在も多く存在している。これらは概して高額な利用 メンテーションかと思った。 料金がかかり,利用に当たって高度な知識とスキル が要求される点も大きな特徴である。 3. 分析業務の始まり 本社知的財産部に異動になり,調査・分析および 研究部門の調査担当の指導・教育が業務になった。 5. おわりに 調査業務を行ううえで情報(検索・分析・加工) 経営層向けの調査・分析は,主として戦略指示書に スキルを持ち,扱う情報の性質や意味を知っている 基づき事業戦略に関係するものだった。当時はパテ ことは当然だが,調査の質を上げるうえでは技術分 ントマップの走りのころで電子化されている情報が 野の知識が特に重要だと思う。この仕事は,日々変 少なく,著作権の関係もあり自由に利用できない時 化する事業環境の中での情報収集が基本になる。必 代だった。主にマニュアルでパテントマップを作っ 要と思われる講習会やセミナーには積極的に参加し ていた。このころは,パテントマップで何ができる て,自分の知識を最新のものにする努力をし,わか かを,社内外の方と意見交換した時代だった。また, らないことはその分野の専門家の方のところに足を マップ化のロジックや情報分析の考え方についての 運んで教えてもらった。業界団体,学協会の委員, 文献を中心に読んでいた。先のドキュメンテーショ 役員が回ってきたときには,できるだけ引き受ける ンとは違い,日本の統計処理や情報分析の手法が参 ようにした。外部活動は個人の負担が大きいが,活 考になった。ロジックのパラメーターの取り方とそ 動を通じて社内では得難い経験や財産となるような の意義を考えた。 人との出会いに恵まれた。国内外の多くの方々と知 り合うことができたことは,のちの仕事にも生かさ 4. 情報グループの組織化 専門の異なった研究部門の調査担当を1つの組織に 調査担当にとって一番大事なのはユーザーであ して運営するためには,情報検索のスキルと事業分 る。研究部門にいれば研究者,技術者であり,この 野の知識のほか,業界地図,法規制等多くの事業背 人たちの情報に対する要求,センス,知識が情報担 景となる情報,知識が必要になるが,知財という組 当を育てる原動力になっている。社内という同じ組 織に属していることから,専門性を高めるという自 織に属す利害関係の中で,情報の共有と目的意識の 己啓発の環境が整備されていたのはよかったと思う。 同質性を持って取り組むことが重要である。 社外での研鑽の機会は,特許,化学,医薬等の検索・ 経験を積めば積むほど,奥の深さを痛感させられ 分析・統計処理,図書館等いろいろな業界団体,学 るのがインフォプロの世界ではないだろうか。 「イン 協会,研究会等があり,ある程度(5年位)経験を積 フォプロってなんだ」という根源的な問いには,い んだ時点で,参加を奨励している。 まだに答えることができずにいる。 検索の標準化はある程度までは可能かと思うが, 278 れている。 視点 ●技術戦略マップ 2) 技 術 戦 略マップ 2)マップの作り方 経済産業省産業技術環境局研究開発課 加 藤 二 子 情報管理 54(5), 279-284, doi: 10.1241/johokanri.54.279 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.279) 1. ローリング(改訂) どの程度の確実性があればマップに記載できるレベ ルなのかを見極めることは難しい。また,毎年改訂 前回,経済産業省と独立行政法人 新エネルギー・ するようになると20年後の将来像を変えるようなパ 産業技術総合開発機構(以下,NEDO)で協力して策 ラダイムシフト的発見や成功はそうないことに気づ 定している技術戦略マップについてその意義と経緯 く。 を説明した。技術戦略マップの要はその結果に表れ 2009年に技術戦略マップ(医療機器分野)の改訂 た一つの図表ではなく,それを製作する過程(プロ を終え公表したあたりから,マップ策定に加わった セス)にあるという点,そのマッピングという過程 関係者の中にはぼんやりとした疑問符が点灯してい を実現するため2005年3月に最初のマップが公表され たように思えた。それは医療機器開発の将来像とし て以来,毎年ローリングがなされているという点で て技術戦略マップで描き出す未来図はこのまま同じ ある。 方向でいいものだろうか,というものだった。 では,実際にどのようにしてマップが作られたか, 医療機器分野の技術戦略マップは,経済産業省と 2010年の医療機器分野のマップを例にして説明した NEDOでマップの構想が始まった当初から分野の中に いと思う。 組み込まれており,2005年の第1回から一貫して検討 現在でも技術戦略マップのローリングで多く取り し続けられていた。ところが,2009年の改訂頃から, 入れられているのが,前年までのマップのうち技術 当初から参加している委員や行政関係者の間にも一 的に大きな進捗が予測できる発明や発見が見られた 種の「これ以上やっても無駄感」が漂い出したので 時,そのブレイクスルーを軸に検討し改訂を加える ある。 手法である。例えば,2008年版の創薬・診断分野のロー それは技術戦略マップが20年後の未来を見据える リングでは全体にわたる大きな改訂はなかったもの という大前提の元に議論されていることも理由の一 の,2007年11月の京都大学山中伸弥教授によるヒト つであり,i P S細胞のようなパラダイムシフト的な成 i P S細胞の作製成功というトピックがあった。そのた 功はそうあるものではないという現実もあった。ま め一部創薬に波及すると考えられる項目にi P S細胞の た,より現実的な話として現在使用されている内視 記載を加え,将来予測にも一部の変更を加えた。 鏡,MRIやCTなどの医療機器の延長を議論しただけで このように,大局的な技術動向の観点の中に将来 は真に革新的な(つまり,人々のマインドや社会構 にわたり影響を及ぼす技術の芽を見いだすことも委 造までを変えるような)機器は生まれ得ないだろう 員会の検討の中では求められるものであるが,技術 という考えが,委員会でも盛んに発言されるように や科学は一日にして生み出されるものではないので, なっていた。 279 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August そこで,2009年の技術戦略マップローリング作業 ていた人の中からごく一部だけを残し,後は委員長 が終了してまだ日が浅いうちに,委員に来年のマッ を含め全員入れ替えることにした。それと同時に, プについてのアンケートをとり,今後のマップの舵 10名弱の委員会ではおそらく汲みきれない現在の医 取りを再考することにした。アンケートの結果は想 療機器を取り巻く状況を正確に把握し,さらに将来 定した通り,声の大小はあるにせよ,現状を是とす への新規技術や展望をつなげていくため,25以上の る改訂が行き詰まりの状況を迎えていることを示し 個人,組織,団体へのヒアリングを委員会の開催と た。 同時に実施した。 先ほど2010年の技術戦略マップにプランがない, 2. マップを大きく変える時 ということを書いたがそれでも政策に結びつけられ るようなアウトプットの足がかりがまったく考えら 2010年の技術戦略マップ(医療機器分野)は経済 れなかったわけではなく,当初委員への就任を依頼 産業省の関係課(研究開発課と医療・福祉機器産業室) するため関係者を訪問している際には,ぼんやりと, とN E D Oでアンケートの結果を元に検討を行い,5年 革新的な「医療」機器とは何であろうかということ ぶりの大改訂を行うことにした。つまり,これまで を軸に検討する旨を説明していた。ところが,話す 積み上げてきたマップを否定することはないものの, 先々でどうもその前提自体が陳腐化してきているの いったん検討の軸を自由にするためにマップを白紙 ではないかということに気づかされる場面に多く遭 状態に戻してから検討を開始することにした。 遇した。 とは言っても行政側にも「新しいこのような世界 その気づきの過程がまさに技術戦略マップの策定 観にすべき」という確たるプランがあったわけでは の真価であることをここでは強調しておきたい。 ない。よく審議会など行政側が準備する資料には行 「マップよりマッピング」こそが技術戦略マップの 政の思惑を汲んだものが準備されるという話がある 骨頂であり,行政関係者の思惑を超えたところから が,この技術戦略マップの改訂に当たっては,委員 新しい未来像がまさに描き出されようとした瞬間で やヒアリング先の有識者の世界がそのまま形となっ あった。 て現れることの方が多いと思われる。見方を変えて その気づきの内容とは,一言で言えば旧来の医療 言えば,全員手探り状態で20年後の未来像を書き出 機器マップは病気と診断された時点をスタートとし さなければならないという,想像力と自由な発想を たシックケア,ディジーズケアの概念の中での技術 駆使した作業が半年ほど続けられることになった。 開発に始終していたものであるが,多く関係者に問 えば問うほどそのスタート地点が間違っているので 3. 委員の入れ替えと関係者へのヒアリング はないかというものであった。そしてその気づきは, 関係者へのヒアリングを実施している間により強固 2010年の医療機器分野を白紙に戻すことを決めて から,最初に行ったのは委員の人選と,関係者への なものとなり,2010年医療機器分野のマップの大き なメッセージとなって現れてきた。 相当数に上るヒアリングの実施決定であった。これ はどの分野でも共通して言えることであるが,委員 4. 作業 会に検討人員としての委員の出入りがなければ,内 280 容も毎年ほぼ同じ方向で固まってしまう。そこで 具体的な作業は,委員会とそれに付随したワーキ 2010年の大改訂を始める前に,これまで委員を務め ンググループでの検討,ヒアリングを同時に行いな 視点 ●技術戦略マップ 2) がら事務局を中心に導入シナリオ,技術マップ,技 となる2030年の明るい未来像(2030年のくらしと医 術ロードマップをほぼ同時並行的に作成していくと 療機器)を作成した(図3)。 いうかなり労力を費やすものであった。 まず冒頭,さまざまな背景を有する委員と行政, 図1と図2は当初は1枚となる予定であった。ところ が議論の過程でどうしてもこの両者を対比させなけ 事務局が向き合ったのは「私たちは,2030年にどの れば意味がないということとなり,図1の示す現在の ような未来を迎えていたいか。その時に医療機器は 医療を取り巻く図,図2で示す20年後の医療を取り巻 どのようにそれをサポートするか」という命題を検 く図となった。解説の際にはこの2枚を常に並べ,前 討することであった。 述のシックケアからヘルスケアへのマインドへ移行 これは現状の医療機器を漫然と頭の中で描きなが していく様子を説明している。例えば,現状の医療 ら検討をしていた旧来の検討方式と大きく異なり, では家庭において可能な計測が体重であったり,体 委員や行政一人一人の哲学的な部分にまで踏み込む 温であったり,それらもせっかく測っても診療所等 のでアイデアの段階から具体的な作業方針へと収束 の次のステップで共有されることはなく,データが する気配はなかった。例えば臨床医の立場から参加 バラバラに置かれている状況であるのに対し,図2で されている委員は,臨床サイドからの必要性を,医 示す20年後の像では常時計測できる生体情報の種類 療機器産業の立場で参加されている委員からは,日 の拡大だけでなく,「それらのデータを駆使して健康 本人のみならずアジアへの展開を見据えた未来を なまま病気にならない将来図」が明確になっている。 語っていただいた。このブレインストーミングは決 して収束することがないが,互いがどのような認識 5. マップよりマッピング を有しているか共有する点において非常に重要で あったと思う。 今回は2010年医療機器分野のケースを参考に,マッ 次の作業は,各自が思い描いている将来像と現状 ピングの過程をたどってみた。これが企業単位であっ をつなぐための線を作っていくことであった。委員 ても国際的なコンソーシアム等の場になったにして には2030年の医療やヘルスケアを取り巻く明るい将 も,さまざまなアイデアを有する関係者で将来像を 来像を念頭に置きつつも,今まさにクリアされるべ 描いてみることは,現在の技術をいかに伸ばしてい き問題として何があるかを検討してもらった。さま くかだけでなく,自分たちがどのような未来にした ざまな課題が考えられたが,「今,人々が何に困って いのかということを再確認するうえでも役に立つと いるか」という点で代表的疾患(がん,循環器疾患, 思われる。 代謝疾患,精神疾患)が浮上した。そこで,作業へ すでにさまざまな分野でマップの類いが作成され の取りかかりとして,それらの課題がどのような技 ていたにしても,それを眺めて終わるだけでなく, 術によっていつ頃までにクリアされるのかといった ぜひ自らの手で新しいマップを作る試みをされるよ 難しい課題について検討してもらった。 うおすすめしたい。たとえそれが漠然としたところ 案を作っては検討し改訂し,時には検討軸を大き からスタートしたにしても,悲観することなく新し く変えるために案を最初から作り直すという作業工 い軸の策定に積極的に関わる人々とアイデアを交換 程を経て,技術戦略マップの3本柱である「導入シナ し合えば,その作業過程でマップの目的の半分は達 リオ」, 「技術マップ(図1,図2)」, 「技術ロードマップ」 成されているのではないかと思う。 は徐々に完成した。そして2010年の3月,最後の作業 281 282 日常生活・在宅 図1 医療機器分野の技術マップ(1/2)現状の俯瞰 高機能病院 <リハビリ支援機器> <機能代替治療機器> 地域中核病院 ◆診断・治療(救急含む) ◆地域医療の支援 地域診療所 ◆プライマリケア 日常生活・在宅 ○電気刺激療法 高機能病院 ●人工骨・人工関節 ◆高度先端医療 ◆研究・開発,新しい医療の創造 ◆人材の育成 ■人工血管 ■人工心臓 ■ペースメーカー,除細動器 ■○評価測定機器 ◆健康維持・増進,発症予防 ◆予後のマネジメント ◆在宅ケア ■○運動療法機器 ●人工心肺装置 <機能代替治療機器(体外式)> ◎人工透析装置 ■○寝返り補助器具,歩行補助器具,介護者呼び出し装置等 ●在宅モニタリング機器 ◎インスリンポンプ ●在宅酸素療法 <在宅診断・治療機器> ★地域連携支援システム ▲放射線治療 (X線,粒子線,小線源放射線) ・高度変調放射線治療(IMRT) ・画像誘導放射線治療(IGRT) ●レーザー・光線力学療法(PDT) ●手術支援マニピュレータ August ★医療支援システム・ ネットワーク ・ヒューマンエラー防止 ・現場負荷軽減・効率化 ・情報蓄積・DB化・知識化 ・連携・情報共有 ●予後のマネジメント ・予後の最適なマネジメント ・QOL改善・早期再発の発見 ・在宅ケアの拡大 ・日常生活の支援 ●機能代替治療 ・身体機能の代替・補助 ■脳動脈瘤塞栓コイル ■ステント,ステントグラフト ■カテーテル・ガイドワイヤー ・アテレクトミー ・カテーテルアブレーション ・経皮経管弁置換術 <高度治療機器> ●カプセル内視鏡 ●光機能イメージング ●SPECT,PET,PET-CT ■血管内画像診断 (IVUS,OCT等) ●MRI ●分子イメージング ●CT <高度診断機器> ■血管造影 ●一般X線 ●内視鏡 ■◎眼底カメラ ●超音波 ★診断インフォマティクス ★遠隔画像診断 支援システム/サービス ★電子カルテシステム ★画像管理システム ★在宅医療支援システム ★健康モニタリングシステム ★健診・保健指導 ★健康支援システム/サービス 支援システム/サービス ●診断・治療の一体化 ●治療の低侵襲化・最適化 ・低侵襲治療のための画像診断・ 画像誘導 ・治療中の病変部位の質的診断 ・低侵襲標的治療 ・治療精度の高度化 ●診断の早期化・精密化 ・健診の高度化 ・病態の定量化 ・確定診断の精密化・効率化 地域中核病院 ● :複数疾患,その他 ※疾患別 技術ロードマップ ▲ :がん ■ :循環器疾患 との対応 <生体計測機器> ◎ :代謝疾患 ●生化学検査 ○ :神経疾患 ○神経学的検査 ●体質検査 (血圧計,血糖計,心電計等) (血液検査,バイオマーカー等) (遺伝子検査等) (脳波検査,腰椎穿刺検査,筋電図検査等) 地域診療所 (社会) ◆生活習慣病の増加 ◆医療保険制度の疲弊と財政危機 ◆超高齢社会に向けたサービスと技術の模索 (医療) ◆臨床現場の疲弊 ◆提供体制・人材・技術の偏在 ◆システム開発・運用における標準インターフェースの欠如 ◆情報共有・連携基盤の整備の遅れ (産業) ◆国内で上市が困難な制度環境 ◆治療機器の輸入超過 ◆異業種参入が困難 ●健康維持・増進,発症予防 <健康機器,家庭用医療機器> ・発症リスクの評価・予見 ●家庭用医療機器 ●健康測定機器(体脂肪計等) ・健康状況計測 (血圧計等) ●運動測定機器 ・健診の最適化 ・発症後の健康状況計測 ●家庭用運動器具 (活動量計等) ●生体計測機器 現在の課題 Journal of Information Processing and Management 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 http://johokanri.jp/ 日常生活・在宅 地域診療所 地域中核病院 ◎イメージング技術やバイオマーカーによる 糖尿病性合併症のリスク評価・進行予測 ★効率化とヒューマンエラー防 ★地域連携の支援 (リハ・介護連携含む) ★データ蓄積・分析・活 ※システム化・DB化・ネットワーク化による 情報共有と連携,診療の電子的支援 ▲■外科的治療・放射線治療・薬 ▲小型化・自動化・高スループット化 剤治療・光技術等の利点を統合し が進んだ放射線治療 た超低侵襲治療 ■カテーテルによる血管・心筋 ■生体吸収ステント 再生や刺激伝導系の再建 ■カテーテルを利用した再生医療技術 ●テーラーメード血液浄化システム <高度治療機器> ※同時診断・治療技術 ■侵襲・被曝・造影剤が 不要な3D血管描出 ●超早期発見と短時間の超低侵襲治療 ★医療への最適な ●精密な治療計画,治療シミュレーション ▲カプセル内視鏡に <治療機器> アクセスコントロール, よる診断・治療 ▲■小型の診断・治療一体機器 ●病巣探索・質的診断と同時の ▲内視鏡やマニピュレータ等 救急救命支援 (内視鏡・超音波等) オンサイト病変部精密治療 によるマイクロ・サージェリー ▲■開創のない治療による日帰り ●治療プロセスや効果の可視化 治療・早期退院・早期社会復帰 ★診断・治療技術 の均てん化 <高度診断機器> ▲マンモPET ▲3D画像によるバーチャル内視鏡 ▲○◎形態画像と機能画像の ▲○高感度・特異的な ▲■CADによる診断効率化支援 同時イメージング(例・MRS) 分子イメージング ○f-MRIによる脳神経 の機能イメージング ■▲がんや血管プラークの性状診断, ●遺伝子情報・生理活性情報・代謝等 の多次元・リアルタイム可視化 病状定量化,病態進行の予測 ★診療情報の統合的な管理支援 ★常時無拘束モニタリングと データに基づく健康支援 ★運用性の高い個人ID管理 <診断機器> (例・皮膚の微量ガス等) 高機能病院 :複数疾患,その他 :がん :循環器疾患 :代謝疾患 :神経疾患 日常生活・在宅 地域診療所 ◆プライマリケアと医療連携の起点 ◆地域の疾病予防と在宅ケア インテリジェント・インスリン療法 ・診療情報の共有・連携 ◆日常生活に溶け込む予防の技術とサービス ・蓄積情報の医療・社会への還元 ◆治療後の日常を見守る技術とネットワーク ・医療と患者・国民のつながりの 双方向化 ★医療を支えるIT・NW基盤 ◆迅速・高精度な診断・治療(救急含む) ◆診断や治療のパワーセンター化 ◆地域医療のバックアップ 地域中核病院 ◆高度先端医療・難病の治療 ◆研究・開発,新しい医療の創造 ◆人材の教育・育成 高機能病院 用,社会への還元 ●長寿時代の体にやさしい ★在宅チーム診療の支援 ★在宅ケア・見守り 機能代替・補助治療 <在宅診断・治療機器> ★インプラントのリモート <機能代替治療機器> ■生体発電機能を持つ長寿命な ・生体との共生,機能回復促進 ▲がん転移メカニズムに基づく再発・転移 モニタリング・メンテナンス ●携帯できる高性能な小型診断・ ペースメーカー等のインプラント ○■センシングと連動するリー ・生体情報のセンシングと の早期発見・早期治療(微小センサー等) 治療機器(超音波等) ドレスの電気刺激デバイス インテリジェント調節・治療機能 ○■身体機能や日常生活を支援・補助 ■カテーテルで挿入できる <リハビリ支援機器> ●医療と患者がつながる ●組織再生を促す 生体親和 補助人工心臓 するブレインマシンインターフェース ●場所を問わない日常生活 予後のマネジメント ●リハビリ効果や回復の客観的 性・分化誘導性の高い材料 ○脳神経疾患発症前の予防的治療 でのリハビリ管理技術 ・リハビリ効果の定量化 評価技術,状況に応じた とEBMに基づく生活指導 ・治療後の日常を見守る ■○脳活動・神経活動等を 個別メニューの生成と配信 ◎ウェアラブル ◎多人数を同時管理できる 機器とネットワーク 活用するリハビリ機器 人工透析装置 ●治療介入の最小化 ●患者本位の低侵襲治療 方法の選択 ・超低侵襲治療技術 ・同時診断治療技術の確立 ・体質・生活を考慮した超低侵襲治療 ・標的化による治療精度の向上 ●治療介入を最小化する 超早期・精密診断 ●地域施設の診断機能 の連携・融合 ・簡便・高精度・低コストなスクリーニング ・同時多数の疾病予兆の検出 ・超低侵襲・無侵襲・無被曝 ・簡素化・低コスト化・自動化 発症リスクの評価や個別対策メニュー, IT・NWを活用した医療への適切な誘導 ● ▲ ■ ◎ ○ (社会) ◆ライフスタイルに溶け込む予防の技術 ◆健康に過ごすことができる長寿社会の実現と患者QOLの向上 (医療) ◆無拘束・超低侵襲の診断・治療新技術の迅速な普及 ◆ITによる高品質・低コストな医療 ◆蓄積情報の価値化,医療・社会への還元 (産業) ◆医療機器の国際競争力・国内自給率の向上 ◆機器・IT技術・サービス融合市場の拡大 ●健康増進,発症予防の ※疾患別 <健康機器、家庭用医療機器> 機器・技術・サービス 技術ロードマップ ◎■常時無拘束・無侵襲のモニタリング技術を ○行動から神経精神疾患の兆候を ・病気を防ぐ知識と技術 との対応 活用する生活習慣病等の予防指導/サービス 検出するセンサー/サービス ・ライフスタイルに溶け込む 常時生体モニタリング <生体計測機器> ※健康・予防用途への ●健康・医療リテラシーの向上支援 ○脳神経疾患の血液バイオマーカー ・個人の体質・生活に応じた (教育,コンサルテーション,治療選択支援) 検査・診断技術の活用 ◎■▲簡易・効率的な リスク評価と早期発見技術 ●バイタル,遺伝子情報,画像情報を融合した スクリーニング/モニタリング (発症前スクリーニング) 2030年の姿 視点 ●技術戦略マップ 2) 図2 医療機器分野の技術マップ(2/2)2030年の姿 283 284 図3 2030年のくらしと医療機器 高度な画像診断機器 ・マルチモダリティ ・形態・機能の同時 イメージング ・性状診断や危険度 予測 カテーテルで挿入 できる超小型の 補助人工心臓 病院の医師が遠隔で 救急現場を サポート! 難病治療の 研究と開発 小さながんは 1日で治ります。 安心して ください。 埋込型 インプラントを 遠隔で常時 モニタリング・リモート メンテナンス 地域の診療所 治療もできる 自走式・半自動の 多機能内視鏡 アルツハイマー病の 血液検査や発症を 予防する生活指導。 診療所向けの小型診断・ 治療機器が進化・普及。 様々な情報に接続 できるコンシェルジュロボ 腕時計型 地域のプライマリケア モバイル端末で ライフログを記録。 様々な健康データ も蓄積される。 カプセル内視鏡をはじめ、 往診にも便利な小型機器。 在宅の予後を診療所 がモニタリングするなど、 家庭と双方向の コミュニケーション。 退院後、 家庭での予後を 診療所がモニタ リング・サポート。 安心! 通院回数も 激減! 回復は 順調です。 家庭 診療記録を 施設間で共有 できるしくみ。 透析装置もウェアラブル化。 (透析液を身にまとう) 職域、学校、地域のデータ連携 が進み、保健指導が予防の 効果を上げる。 地域の保健センター 電子黒板 健康教育の充実。 予防の知識が定着。 感染症を チェックできる 健康診断も技術で エントランス 効率化・高精度化。生活 習慣病の早期発見・重症化 阻止に寄与。 ・自動の呼吸確保や 心臓マッサージ。 ・救急への 自動連絡。 常時血糖モニタリングと 一体型の超小型 インスリンポンプ。 オフィス街 筋電や神経活動 をセンシングして 日常動作を アシスト! 骨折治療後の 歩行を支援する装置。 健康維持や 運動も社員の 任務…。 ICカードで社員の 健康管理。社員食堂の ランチメニューも自動で カロリー管理できる。 学校・公共施設 身体の仕組み⑱ 将来病気に ならないために 海外から旅行者が 医療ツーリズムに 訪れる。 医療機器の輸出が好調! 治療機器の 国内自給率も高まる。 再生医療材料の生産とデリバリー。 感染症 チェックゲート 公共施設には 多機能 AEDが設置される。 健康・予防サービスとの 双方向コミュニケーション。 医療への適切・最適な誘導 やアクセス最適化に 大活躍! 機器・IT 技術・サービスが融合する予防ビジネス。 超高齢社会の産業として世界のモデルに。 人の動作やセンサー情報を もとに快適な環境を自動調 節する住宅。 トイレやバスで 健康チェック。 小型化が進んだ 在宅用の 透析装置。 健康・医療情報は遺伝子情報を 含めて個人が管理する。 匿名化・蓄積されたデータが 有効に活用される。 健康データを 管理・活用する ビジネスも拡大。 港・空港 August 生体発電 機能による長寿命な 人工臓器。 生体に働きかけて 生体と一体化する 人工材料。 がんの早期 発見と日帰りの 放射線治療や 内視鏡手術。 正しく楽しい健康 づくり。1つの機器で 血圧・心拍・心電図・ 運動強度などが計測 でき、効果的な運動 をサポート。 地域診療所の 診断や治療も 遠隔でサポート! 診断・治療機能を持つ プレホスピタルチェア。 救急現場 応急措置。 必要に応じて病院医師が 遠隔でサポート。 2030年のくらしと医療機器 診療情報の共有が進む。 地域の医療を バックアップ! 通信・アラート 機能付きバイタル センサーによる日々の 健康チェックや見守り。 大学病院・高機能病院 地域の病院 研究と人材育成、 新しい医療の創造 Journal of Information Processing and Management 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 http://johokanri.jp/ レポート紹介 ●Recent report 2 0 11 年 米 国 図 書 館 の 現 況 アメリカ 図 書 館 協 会 の 報 告 エグゼクティブ・サマリー The states of America's libraries, 2011: A report from the American Libraries Association: Executive summary. American Libraries, Special Issue. 2011. 情報管理 54(5), 285-289, doi: 10.1241/johokanri.54.285 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.285) 失業者と起業家にとっての重要な情報源 大不況は終わったかもしれないが,苦境に立つ国 民の求職や起業を支援する図書館の重要な役割に終 わりはない。 を,国民の誰に対しても無償で情報提供する公平な 場所として,その民主性を高く評価しているという ことである。 成人の31%(および高齢者の38%)は,図書館を 本レポート「2011年米国図書館の現況」は,図書 税金によるサービスの中でトップと見ている。全体 館界のこうした動向を詳述する。この動向は,アメ では,図書館サービスで最も高く評価されているの リカ図書館協会(American Library Association: ALA) は,教育と生涯学習の促進に役立つ無料の情報やプ の委託を受けHarris Interactives社のオムニバス電話 ログラムの提供に関するものである。91%(前年比 調査の一環として,全米を対象に行った調査(対象: 5ポイント増)は,図書館による学校や仕事への情報 米国成人1,012名,実施時期:1月)に報告されている。 提供を特に重視している。 この調査では,図書館利用数は前年よりも数パー ほぼすべての国民(93%)は,無料の図書館サー セント増加している。これは,米国の起業家精神と ビスは重要だと考えている。だが,2010年には,一 その精神を育む図書館の役割の証しである。 部の州や地方の予算削減派の議員は,図書館を格好 調査対象者の65%が過去1年間に図書館を訪れてお の的と見なした。図書館の予算やサービスの削減・ り,男性より女性(特に働く女性,働く母親,18~ 縮小については,2010年と2011年初頭に数多くの報 54歳の女性)の方が図書館を訪れた割合がかなり高 道がなされた。米国の市長らは2010年11月,地域図 い(58% v s . 72%)。全体では,調査対象者の58%が 書館の開館時間や職員,サービスは,公園や庭園の 図書館カードを持っている。その中でも最大グルー 保全とサービスに次いで2番目の大幅予算削減対象だ プはやはり女性であり,中でも働く女性と働く母親 とした。 が多数を占める。また,大卒と世帯収入100,000ドル ミ シ ガ ン 州 の ト ロ イ 公 共 図 書 館(T r o y P u b l i c 以上の人々も図書館カード所有グループの中で多数 Library)は特に目立つ事例である。2010年11月,同 を占める。 館の10年ミレッジ法案が否決された注1)。これは過去 Harris調査で明らかになったのは,米国民は図書館 1年間で2度目の否決である(今回の否決は,ミシガ 注)本稿はThe states of America's libraries, 2011: A report from the American Libraries Association: Executive summary(American Libraries, Special Issue. Available from <http://www.ala.org/ala/newspresscenter/mediapresscenter/americaslibraries2011/ execsummary.cfm>)を編集事務局で翻訳したものである。著作権はアメリカ図書館協会に帰属する。なおThe states of America's libraries, 2011の全文は下記サイトから閲覧できる。http://www.ala.org/ala/newspresscenter/mediapresscenter/ americaslibraries2011/state_of_americas_libraries_report_2011.pdf 285 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August ン州の103の公共図書館が,州法による補助金320万 りリテラシーの高い社会の創造に向けた公共事業に ドルの交付を勝ち取ろうと努力している時だった)。 対して図書館が及ぼす効果をアピールした。 2月,トロイ市では,図書館への財政支援問題が再度 持ち上がったが,市長と市議会議員は,未使用経費 の中で市が図書館運営用に支出可能な170万ドルを挙 その対極として,Fox TVの系列局が2010年6月28日, 「図書館は必要か,税金の無駄遣いか?」と題する番 組を放映した。 げた決議について,議論さえしようとしなかった。 F o x T Vはフィラデルフィアでその解答を見つけた また,市議会は,1ミル(1,000分の1ドル)の増税で はずである。ペンシルベニア大学F e l s政治学研究所 図書館サービスを継続させるという別の選択肢につ (Fels Institute of Government)が実施した調査が, いても議決しなかった。 同館の3分館体制は6月30日に終了する予定である。 図書館サービスへの投資収益は十分コストに見合う ということを証明したからである。 別の調査でも,19州が2010年度から2011年度にか この経済効果調査は,図書館は2010年度に3,000万 けて公共図書館向けの財源を削減しており,半数以 ドル相当以上の経済効果を市にもたらし,事業の発 上が削減幅を10%以上としている。また,州レベル 展や雇用に対して特に大きな効果があったと結論づ の削減に輪をかけて,地域レベルでも削減されるこ ける。 「フィラデルフィア公共図書館(Free Library of とが多いことがわかった。図書館支援者は,大部分 Philadelphia: FLP)で入手した資料がなかったら,推 の公共図書館がサービスを続けて,職探し・お話の 定8,600件の事業を起業あるいは維持し,発展させる 時間・読書クラブなどで来館する何百万人もの人々 ことができなかっただろう」とした大変印象的な結 に便宜を図ることができるよう支援した。 果も出ている。直接的な経済効果は約400万ドルであ 連邦政府からの景気刺激資金がなくなるのは時 る。 間の問題であり,全米州予算担当官協会(N a t i o n a l 「今まで,図書館が提供している支援を具体的な金 Association of State Budget Officers: NASBO)は「2012 額で知る方法はなかった。この画期的な調査で,図 年は崖っぷち」と呼んだ。 書館サービスを数値化し,図書館が非常に素晴らし い地域の情報源で,フィラデルフィア市にとって重 図書館は健全な経済的投資である 一部の人々は図書館の価値について疑問を呈して いるが,図書館は新たな支持者を多数味方につけて いる。 「図書館は財源闘争で敗れつつあるようだ。その一 要な経済的原動力であるという確かな証しを示すこ とができた」とFLP館長のSiobhan A. Reardonは述べ る。 また,納税者の圧倒的多数の87%は事業歳入法案 を支持し,図書館へ税を委ねた。 因として,インターネットで素速く情報へアクセス できる時代に図書館はやや時代遅れだという間違っ た考え方がある」「この思い込みは,わが国で重要な 財源に関し,2010年の財源削減策の及ぼした影響 公共資産ネットワークをダメにする恐れがある」と は,学校図書館によってさまざまである。大多数の Scott Turow氏はHuffington Postに寄稿した。 学区は大幅削減から辛うじて免れることができたが, ALA会長Roberta Stevens氏は,国内の多数の著名 特に高貧困地域の学校図書館では,情報資源費や蔵 作家に対し,公共広告や論説記事などを通して図書 書規模が大幅に縮小された。全体では,学校の情報 館の価値を宣伝するよう呼びかけた。また,1年を通 資源費は,前年比9%以上減少した。 してマスコミのインタビューを受け,就職支援やよ 286 小をもって大をなす学校図書館と大学図書館 ALAに属するアメリカ学校図書館協会(American レポート紹介 ●Recent report Association of School Librarians: AASL)が実施した年 ならないと認識し始めている。 次調査によれば,学校図書館職員の合計就労時間は 2010年には,大学図書館の新・改・増築プロジェ 減少しており,2010年は前年より1週間当たり平均2.4 クト20件以上が完了し,そこでは情報管理・情報技 時間短縮している。合計就労時間が最も大幅に短縮 術・学生中心の環境を一体化した図書館スペースの したのは,北東部と中西部である。 改善が実現した。しかし全米の大学図書館は,予算 2009年より開館時間が短縮したにもかかわらず, 削減とリストラによって生まれた「新たな常識」 (new 2010年に学校図書館職員が教育指導に費やした平均 n o r m a l)に今もなお取り組んでいる。国内の大学図 時間は増加し続けた。 書館の40%以上が予算削減を発表し,その多くは情 学校図書館の図書数は2.6%減少したが,蔵書規模 報資源費と人件費の削減を計画していた。 は横ばいだった。 2010年 の 調 査 で は, 定 期 刊 行 物, 視 聴 覚 資 料 の 所蔵規模に目立った変化はないことも明らかになっ 技術上の課題(および機会) デジタル革命は進展を続け,図書館員は対応に苦 た。学校では図書館外にコンピューターが多数あり, 労しているが,この革命は,すべての利用者のニー ネットワークを通じて図書館サービスにアクセスし ズをこれまで以上に効果的に満たすべく新理念や新 ている。また,学校図書館で契約しているデータベー 技術,新スペースを取り入れた,将来の図書館サー スへの遠隔アクセスも増加している。 ビスの姿を予感させる。ある意味,過去10年間(あ 他方,多くの大学図書館は予算削減とリストラに るいは昨年)の技術進歩は, 図書館界をして「図書館」 直面し,情報資源費と人件費の削減を計画している。 とは何か―あるアナリストは「20世紀の近代図書館 だが,大学図書館は,主として資料を所蔵するため を特徴づけているのは場所柄,サービス感,コミュ の場所から,協力,連携,学習のために不可欠な施 ニティー感」と言ったが―を再考せしめている。 設へと進化し続けている。驚異的な数値を紹介する 目下の問題点としては次のようなものがある。物 と,典型的な1週間における大学図書館の利用件数は 理的スペース面での図書館ニーズの変化。図書, 雑誌, 以下の通りである。データベース検索3,100万件以上, データベースの状態。情報の組織化・保存・流通方法。 レファレンスサービス対応46.9万件以上,学生・教 学校などの環境における最善の情報リテラシー向上 員21.9万人以上が参加したグループ発表会1.2万件以 策。 上。図書館W e bサイトへのアクセス数7億2,200万件 各種サービスの提供において図書館員が引き続き 以上,O P A Cへのアクセス数4億7,900万件以上であっ 重要な役割を果たすということには疑問はない。 「環 た。 境は変わっても,ナビゲーターとしてのニーズは残 大学図書館の電子的遠隔利用者が増加したため, 図書館の物理的機能だけではなく,もう1つの機能, るだろう」と前出のアナリストは述べる。 博物館・図書館サービス機構(Institute of Museum すなわち急速に拡大する研究の機会を学生が最大限 and Library Services: IMLS)は図書館の役割の進化を 活用できるように支援する機能を果たすことが難し 認識し,図書館,博物館,市民団体の指導者が各界 くなっている。実際,学生は情報過多に苦労してい の学習ニーズを評価し,ニーズを満たすことができ るようであり,彼らが研究をスムーズに行う能力を るように支援する全米キャンペーンを2010 ~ 2011年 伸ばせるよう支援をすることが,大学図書館員の最 に実施した。このキャンペーン「学習のための連携 も重要な役割の1つである。出版社も,デジタル情報 を構築しよう」 (Making the Learning Connection)は, を管理し,発見しやすくして価値を付加しなければ 21世紀のスキル―多数のメディアからの情報過多を 287 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 批判的に考える能力を含むスキル―の向上を促すだ ルメディアツールの中でトップを占めるが,あ ろうとIMLSの理事長代理Marsha L. Semmel氏は語る。 る回答者が言うように,これらもまた「利用者 実際,図書館は21世紀に入り,着実に進歩してい によって有効性が決まるものである」 。 る。例は以下のとおり。 ・公共図書館におけるコンピューターの利用増加 が続く。 検閲との闘いが続いており,禁書週間(2010年9月 ・公共図書館における無線インターネットの利用 25日~ 10月2日)には,多数の人々が禁書や不良図書 率は85%に迫っている。このうちの約3分の2が を閲覧した。ALA知的自由部(Office for Intellectual 無線アクセスを館外に拡大している。 F r e e d o m : O I F)が毎年まとめる「不良図書上位10 ・電子書籍は,ほぼすべての大学図書館と3分の2 冊」(Top Ten List of Frequently Challenged Books) 以上の公共図書館が提供している。大部分の図 の上位に挙げられているのは次に示す書籍である: 書館では,電子書籍が貸出資料に占める割合は 「タンゴが生まれて家族は3羽」 (A n d Ta n g o M a k e s 小さいが,最も急増している領域である。 Three,著者:Peter Parnell & Justin Richardson) , 「は ・3月には,Harper Collins社が同社の電子書籍を みだしインディアンのホントにホントの物語」 (T h e 26回以上図書館から貸し出すことを禁止すると Absolutely True Diary of a Part-Time Indian,著者: 発表し,再購入されない電子書籍の図書館での Sherman Alexie) 。この種の図書の中で毎年「お気に 利用は,1年間程度に限定される可能性を提起し 入り」とされるAldous Huxleyの「すばらしい新世界」 た。広く利用されている電子書籍の将来をめぐ (Brave New World)は第3位であった。この作品は, る論争が始まったのはこのときである。ALA会長 1932年の出版以来,ずっと自称検閲官の神経を逆な Roberta Stevens氏は次のように述べた。「人々が でしている。 動揺したのにはそれなりの理由がある。図書館 空港にボディースキャナーが設置され,データベー の予算は,低迷状態だとしか言いようがない。 スがハッキングされ,一部のオンラインサービスの 電子書籍の利用は急増中だ。他の出版社もこの 利用者情報の漏洩などが生じる時代において,O I Fは モデルをマネするかもしれないという深刻な懸 「プライバシー権利保護週間」 (Choose Privacy Week) 念がある」。 を開始した。これは,全米における教育・アウトリー ・図書館は,ソーシャルメディアやWeb 2.0アプリ チ活動であり,図書館に各コミュニティーでのプラ ケーション・ツールを熱心に活用し,利用者と イバシー問題に関する話し合いを主催するよう促す の連携や,プログラムやサービスの売り込みを ものである。米国憲法修正第1条(First Amendment) 図っている。図書館管理者,図書館員,その他 の権利を守るためのALAと図書館界の取り組みとして の職員を対象とした調査では,回答者の90%以 は,全米各地での禁書に関する議論への参加や,ALA 上が,図書館サービスの売り込み促進にWeb 2.0 シカゴ本部での幹部による「コーランの音読」 (Qur'an のツールが重要であるとしている。ソーシャル read-out)―2010年9月11日にフロリダ州の小さな教 ネットワークとブログは共に最もよく活用され 会の牧師がコーランのコピーを焼却しようとしたこ ており,多数の図書館が,写真共有ツールやオ とに危機感を募らせた行動―などがある。 ンラインビデオも継続利用している。 288 その他 図書館専門職は,少数民族・人種グループの人々 ・フェイスブック,ツイッター,ブログ用ツールは, に気軽に会い,また,サービスが不十分なこれら 図書館が活用しているWeb 2.0ツールとソーシャ の人々へのアウトリーチ活動を強化するため,積 レポート紹介 ●Recent report 極 的 な 取 り 組 み を 続 け て い る。 例 え ば,2010年 に 館サービス法」(Museum and Library Services Act) は,ALAのスペクトル奨学金プログラム(Spectrum を通過させ,オバマ大統領がこれに署名した。この Scholarship Program)により少数グループへ75件の 法律は,「図書館サービスおよび技術法」(L i b r a r y 奨学金を支給し,図書館学修士号を取得する支援を Service and Technology Act: LSTA)を含むもので, 行った。 IMLSの全プログラムを再承認している。LSTAは図書 別のアウトリーチ活動では,2009年から2010年, 館のみを対象とした唯一の連邦プログラムである。 ALA会長Camila Alire氏が「家庭内リテラシー能力向 あらゆる種類の図書館で,技術の急速な進歩が続 上運動」 (Family Literacy Focus)を展開した。この く。図書館員は, ほぼ分単位で拡大・変化するソーシャ 運動は,民族的に多様な地域の家族が共に読書や学 ルネットワーキングに後れをとらないよう,またこ 習を行うように働きかけた取り組みである。 れを活用すべく奮闘しており,それなりの成果をお 図書館への財政支援については,連邦議会で党派 さめている。 争いがあった。2010年12月,議会は「博物館・図書 本文の注 注1) (訳者注)ミレッジ(millage)とは,評価額の1,000分の1の税率をいう。ここでは,library millageを 指し,住民の所有する財産の評価額(課税標準額)に税率(millage rate)を乗じて算出した額を徴収 し,地域の公共図書館の運営に充てる目的税。例えば,評価額50,000ドル,時価100,000ドル,税率1.6 millsの場合,年税額は80ドル。税率改正は住民投票により行う。新税率はその適用期間が定められる。 289 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 講演会:震災後におけるsaveMLAKの活動について 日 程 2 0 1 1 年 7月1 2日( 火 ) 1 5: 0 0∼ 16 : 30 場 所 東 京 都 立中央図 書 館 4 階 多目的ホール( 東 京 都 港 区 ) 主 催 東京都図書館協会 講 師 岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役/プロデューサー) 情報管理 54(5), 290-290, doi: 10.1241/johokanri.54.290 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.290) saveMLAKとは,博物館・美術館(Museum) ,図 書館(Library),文書館(Archives),公民館(Kominkan) の被災状況の把握・救援を目的とする活動である。 その成り立ちと活動実態について聴く機会を得た。 てではない。間接支援・情報支援も重要である。 被災情報の収集のほかに一例を挙げると「専門技 能ボランティア(プロボノ)」の派遣仲介という仕事 saveMLAKの始まりは,3月11日,東日本大震災当 がある。例えば,倒れた書棚に本を戻す作業は,分 日の岡本氏のつぶやきだった。「ライブラリーサービ 類のわかる司書に任せるとよい。司書を大学図書館 スはいまなにができるか考えようぜ」。翌日早くも図 に派遣するといった仲介,受援者と支援者の連絡調 書館の被災・救援情報サイトs a v e l i b r a r yを立ち上げ 整をsaveMLAKは行っている。 る。その後,savemuseum,savearchivesの立ち上げ 「御用聞き」によって, 「すべきこと」を知って支 が続く。さらにsavekominkanが加わってsaveMLAK 援することが重要であり,「できること」を押しつけ が誕生する(http://savemlak.jp/)。このMLAK連携は, てはいけない,という。善意による本の送付が役に 「社会における文化施設の連携」であり「文化的セー フティーネット」ととらえられる。 saveMLAKの最大の実績は,MLAK施設の所在情報・ 被災情報の把握と保存であろう。すでに約13,000施 立つどころか悩みの種となったりする。でも,課題 図書ならたくさん欲しい。そんな現実を伝えるのも saveMLAKの役目だ。また,避難所担当となった現地 図書館員の話を「ただ聴くこと」も大事だという。 設の所在情報,約500施設の被災情報を把握してい 最後に「次期激甚被災地としての平時の備え」に る。情報収集にはTwitter,情報共有にはWikiと,ソー ついて具体的な提言がなされた。危機管理論では不 シャルメディアを活用する一方で,全国の各都市に 十分,最悪の事態のなかでいかに事業を継続するか 集まって都市間をSkypeで結び,会議を開催する。ネッ を考える「事業継続計画(B C P)」の話や対向支援関 トで完結せず,顔の見える活動を大切にしていると 係の確立など,迫力ある有意義な講演であった。 いう。 なお,主催団体の東京都図書館協会は,日本図書 「はっきり言って,できることはほとんどない」と 館協会加入の東京地区会員が自動的に登録される組 岡本氏は講演のなかで何度か明言した。被災地に数 織である。日本図書館協会の会員外の方でも,年会 多く足を運んだ上での言葉である。それでも何かし 費500円を支払えば会員になれる。事務局は都立中央 たい。ではどうするのか。「大切なのは,自分の働い 図書館企画経営課内(Tel : 03-3442-8451) 。 ている場で,何ができるか考えること。そして,少 しでも何か活動すること」と岡本氏は言う。がれき 290 を片付けるのも大事だが,直接的な支援だけがすべ ( 『情報管理』編集事務局) JSTサービス紹介 ●J-GLOBALがβ1.5へバージョンアップ J-GLOBALがβ1.5へバージョンアップ 機関情報,特許情報の拡充や特許と文献の引用・被引用リンクの実現 独立行政法人科学技術振興機構 知識基盤情報部 植松 利晃 情報管理 54(5), 291-295, doi: 10.1241/johokanri.54.291 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.291) 1. はじめに 中心には位置づけておらず,研究者や機関の情報を 中心にその業績情報としての特許や論文,それらを (独)科学技術振興機構(J S T)では,学術論文誌等 取り巻く用語や資料情報,またファンディング機関 を収集し,論文を一意に示す書誌情報に加えて,そ としてJ S Tが支援したものを中心とした研究課題情 の内容の把握や検索を助ける抄録や索引情報を付与 報など,これらを統合的に登載した「科学技術総合 した「J S T文献データベース」を長年提供してきた。 リンクセンター」という位置づけで展開している。 現在,この「J S T文献データベース」をベースとした J-GLOBALの登載コンテンツは研究開発に関連し,共 JSTが提供するサービスがJDreamII1)とJ-GLOBAL2)で 通に出現する「キー」となるような情報(これを基 ある。 本情報と呼ぶ)を対象としており,また,それぞれ J D r e a mⅡは1976年にサービスが開始されたJ O I S の基本情報間をリンクでつないでいる。言い換えれ (JICST On-line Information System)の流れを汲んだ ば,ある文献に着目し,その著者名をキーに研究者 有償の文献検索サービスである。検索機能が充実し の情報にたどり着き,その研究者名をキーに出願し ており,的確な集合を作成することができるため, た特許にたどり着いたりと,それぞれの関係性をリ 情報検索のプロフェッショナルを中心に,ここ数年 ンクでたどり,アイデアや発想を導き出す支援を行っ はエンドユーザでもある研究者・技術者への利用拡 てくれるサービス,ということもできる。 大が図られている。 今回,J - G L O B A Lは2009年3月の試行版一般公開 一方のJ - G L O B A Lは2009年3月に開始された新しい (β1.0)から5度目のバージョンアップ4)を迎え,β サービス3) で,文献情報については書誌情報のみの 1.5として上記で述べた基本情報同士のつながりの強 登載であるが,研究者情報や特許情報とともに,無 化に資する情報の追加登載を実施した。以下では, 料で提供されている。その利用対象者は研究者・技 J-GLOBALβ1.5のバージョンアップ内容について紹介 術者はもちろんのこと,それらに加えて産学連携従 する。 事者や技術上の課題を抱えている中小企業の経営者, またG o o g l eなどの検索エンジンを多用する学生など 2. 特許引用リンクの充実 これまでJDreamⅡのような有償サービスの対象にな りにくかった層を新たに開拓し,科学技術情報利用 対象基本情報【特許・文献】 の裾野の拡大を図ってきた。 今回の目玉といってもいい拡充である。特許情報 J - G L O B A Lでは文献検索のみの利用をサービスの には出願人がその特許を出願するにあたって参考に 291 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August した特許,特許以外の情報(非特許情報),特許庁審 これまでJ-GLOBALでは「大学・研究所」という基 査官が審査の過程で参考にした特許,非特許情報が 本情報として,R e a Dシステムで持っている研究機関 ある。ここでは,前者を出願人引用,後者を審査官 情報を登載してきたが,これは大学や国立研究所, 引用とする。 公設試験研究機関が多く,民間企業の情報がほとん J - G L O B A Lでは2009年12月にリリースしたβ1.1で ど入っていないことが課題となっていた。 特許庁発行の整理標準化データから抽出した出願人 今回,株式会社ランドスケイプが提供する企業情 引用や審査官引用の情報を登載し,また,審査官引 5)の提供を受け,民間企業を 報データベース「L B C」 用の特許については,同定処理をして,リンクを実 中心に約28万件の機関情報をJ-GLOBALの基本情報と 現した。 して登載した。これにより,文献の著者所属機関や 今回のβ1.5ではこれらの引用情報の登載に加えて, 特許の要約や請求項といった本文中で引用(ここで 特許の出願人などで出現する機関名称と機関情報と をこれまで以上に紐づけることができた。 は本文中引用とする)されている特許や非特許情報 登載した機関情報には機関名称や所在地,電話番 の表記を抽出したデータベースの提供を受け,これ 号,業種などといった基本的な情報に加えて,上場 に書誌マッチング機能を独自開発し,J S T文献データ 企業については証券コードや有価証券報告書ナン ベースに登載の文献とマッチした引用について,登 バー(E D I N E Tコード)も新たに登載した。これらの 載し,引用,被引用の双方向のリンクを実現した。 情報は外部サイトとの連携の際のキーとなる場合も その他にも,β1.1で実現した審査官引用特許以外の, あり,連携の可能性が広がった。 審査官引用非特許,出願人引用特許と非特許,本文 中引用特許などについてもマッチングを行い,リン クを実現した(図1)。 また,登載に伴い,これまで「大学・研究所」と していた基本情報名称を「機関」に変更した。 4. 特許公報の追加 3. 機関データの拡充 対象基本情報【特許】 対象基本情報【機関】 J-GLOBALはこれまで特許情報については,公開特 J - G L O B A Lが多様なサイトと連携するためには, 許公報,公表特許公報,再公表特許公報を対象に登 ネット上で流通している共通のキーとなる情報を多 載してきた。今回,これらに加えて,特許公報を追 く登載していることが望ましい。 加登載した。特許公報は特許庁審査官の審査を通過 特許引用文献リンク 文献被引用特許リンク 図1 特許引用リンク・文献被引用リンク例 292 図1 特許引用リンク・文献被引用リンク例 JSTサービス紹介 ●J-GLOBALがβ1.5へバージョンアップ して特許権が成立した特許内容が記載された公報で ・検索機能 ある。 ・絞り込み支援機能 公開特許公報とは記載内容が異なるため,同一特 許を重複排除していない。そのため,同じ特許が公 ・詳細表示機能 ・WebAPI機能 開公報や特許公報として個別に表示される場合があ 5.1 検索機能 る。 他の公報と同様,特許庁にて電子化されたものが 分類名称もしくは分類コードでの検索をサポート する。検索にあたってはあらかじめ分類名称や分類 登載対象である。 コードを知っておく必要があるが,ヘルプページに 5. 分類コードの登載 は分類コードや分類名称を調べるための支援ツール が用意される。 対象基本情報【文献】 J S T文献データベースでは,個々の論文に対して主 5.2 絞り込み支援機能 題分析を行い,内容を的確に示すJ S Tシソーラス等に 文献の検索結果に対して,分類コードが付与され よるキーワード付与を行っている。また,加えてそ ている文献をカウントし,出現頻度の高い順に表示 の文献に適した,JSTが独自に定義したJST分類コード する。表示にあたっては,名称の他に分類コードも も付与している。 表示する(図2) 。前述の表1に示したように分類コー J S T分類コードは6つの階層に区分しており,第1階 ドの上位階層で分野の違いがわかるため,分野が大 層は表1に示すように,25項目となっている。階層が きく異なる分類コードが共出現するような文献の発 深くなるにつれてより細かい分類となり,第4階層以 見にも役立つ。 下では3,000以上の項目に分かれている。 J - G L O B A Lではこの分類コードを登載するととも に,それに伴い次の各機能の拡張を行った。 表1 JST分類コード(第1階層) 表1 JST分類コード(第1階層) A 科学技術一般領域 N 電気工学 B 物理学 P 熱工学,応用熱力学 C 基礎化学 Q 機械工学 D 宇宙・地球の科学 R 建設工学 E 生物科学 S 環境工学 F 農林水産 T 運輸交通工学 G 医学 U 鉱山工学 H 工学一般領域 V I システム・制御工学 W 金属工学 J 情報工学 X K 経営工学 Y 化学工業 L エネルギー工学 Z その他の工業 M 原子力工学 人文・社会科学 化学工学 図2 分類コード絞り込み支援表示の例 図2 293 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August タや固有の識別子をあらかじめ受け取って,直接外 部サイトの詳細ページへリンクするなどがある。 今回,この外部サイトへのリンクについて,詳細 図3 分類コード詳細画面の例 画面の外部リンク表示エリア内のリンクを文字列か ら,サイトを示すアイコンの表示とし,視認性の向 図3 分類コード詳細画面の例 5.3 詳細表示機能 詳細表示画面上では,分類名称とともに分類コー ドを表示する。分類コードの横には虫眼鏡アイコン 上を図った(図4)。 7. おわりに を表示する。これをクリックすることで,当該分類 コードを検索語とした文献検索が行えるようになっ 今回のβ1.5へのバージョンアップでは,J-GLOBAL で実現しようとしている,さまざまな知をつなぐた ている(図3) 。 めに必要な基本情報の拡充をメインとした。分類コー 6. 外部リンクアイコン化 ドの登載により当該論文が関わる分野がわかり,特 定の分野に注目した探し方ができるようになった。 対象基本情報【全て】 特に絞り込み支援機能が使えることで,異なる分野 J - G L O B A Lのコンセプトの1つとして,多様なサイ 同士が共出現する文献を見つけるなど,意外な知の ト同士をつなぐリンクセンターの役割がある。外 発見の可能性が見えてくる。また,機関情報の拡充 部サイトからJ - G L O B A Lへのアクセス流入について では外部サイトとの連携がより強化されることが期 は,G o o g l e等検索エンジンの検索結果などの他に 待される。 J-GLOBAL WebAPI6)が組み込まれたサイトからのア 今回のバージョンアップの目玉である特許引用リ クセスなどがある。また,最近ではT w i t t e rなどを代 ンクの充実では,特許と学術論文との関係性を明ら 表とするソーシャルメディアで当該基本情報を参照 かにした。特に,本文中引用により,整理標準化デー して「つぶやく」ケースも目立ってきている。 タからは読み取れないさらに多くの特許と学術論文 J-GLOBALから外部サイトへのアクセス流出につい の関係性も見えてくることができる。当該特許がど ては,登載している基本情報の各種項目をキーに検 のような特許や非特許情報を参考に出願されたかを 索クエリーを投げるリンクであったり,リンクデー 見せ,そして実際にリンクを張ることで,J-GLOBAL 図4 外部リンクのアイコン化 図4 外部リンクのアイコン化 294 JSTサービス紹介 ●J-GLOBALがβ1.5へバージョンアップ が目指しているシームレスな情報間の渡り歩きへ一 歩前進することができた。 いう事実を表示するに留めた。 今後の課題として,本文中引用された非特許情報 近年,特許に引用されている論文等の数に着目し には書籍や一般雑誌,J I S規格など学術論文以外にも た「サイエンスリンケージ」に関する研究7),8) や可 さまざまなものが含まれていることが確認されてい 視化の試み9),10) が進められているが,J S Tでは学術 る。これらについてもそれぞれの情報を持つサイト 論文の特許における被引用に焦点を当て,論文から へのリンクなど,つなぐ仕組みとしてのJ-GLOBALの 見た特許出願に与えるインパクトといった観点での 役割が期待される。 「テクノロジーリンケージ」に着目しており,アカデ JSTでは今後,J-GLOBALの本格版に向けて,これま ミアから産業界へのインパクトを示す指標になりう での試行版でチャレンジしたさまざまな機能を総括 るのではと推察している。この場合,当該論文がど し,われわれが想定していた利用と実際の使われ方 のような理由(肯定的もしくは否定的)で引用され のギャップを理解し,足りない機能やコンテンツの たのかといった引用事由も重要な情報となるが,今 充実に向けてさらに取り組んでいきたい。 回のJ-GLOBALでは事由の如何を問わず引用されたと 参考文献 1) 科学技術振興機構. JDreamⅡ. http://jdream2.jst.go.jp/, (accessed 2011-06-08). 2) 科学技術振興機構. J-GLOBAL. http://jglobal.jst.go.jp/, (accessed 2011-06-08). 3) 松邑勝治, 黒沢努, 関根基樹, 矢口学, 植松利晃, 加藤治.「J-GLOBAL」試行版(β版)の構築と今後の展望. 情報管理. 2009, vol. 52, no. 3, p. 150-157. 4) 植松利晃. J-GLOBAL試行版 新機能と今後の方向性. 情報管理. 2010, vol. 53, no. 6, p. 327-335. 5) ランドスケイプ. “企業情報データベース” . ランドスケイプ. http://www.landscape.co.jp/dbc.html, (accessed 2011-06-08). 6) 科学技術振興機構. “お知らせ(Ver 1.2) WebAPI提供について”. J-GLOBAL. http://jglobal.jst.go.jp/footer. php?page=webapi, (accessed 2011-06-08). 7) 玉田俊平太, 児玉文雄, 玄場公規. 重点4分野におけるサイエンスリンケージの計測(上): サイエンスリン ケージ-その意義と計測法-. 情報管理. 2004, vol. 47, no. 6, p. 393-400. 8) 玉田俊平太, 児玉文雄, 玄場公規. 重点4分野におけるサイエンスリンケージの計測(下): -そのインプリ ケーションと限界-. 情報管理. 2004, vol. 47, no. 7, p. 455-462. 9) 治部眞里, 小林義英, 落合圭, 橋本定幸, 塩尻栄美子, 山崎雅和, 栗原正昭, 浜中寿, 坂内悟, 國谷実. サイエン スリンケージによるJST事業成果分析(上) 国別・機関別の分析. 情報管理. 2010, vol. 52, no. 10, p. 601609. 10) 落合圭, 小林義英, 橋本定幸, 塩尻栄美子, 山崎雅和, 栗原正昭, 浜中寿, 坂内悟, 國谷実, 治部眞里. サイエン スリンケージによるJST事業成果分析(下) 可視化の具体的手法. 情報管理. 2010, vol. 52, no. 11, p. 651659. 295 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August バゼル山本登紀子 (ハワイ大学マノア校図書館アジアコレクション部) 「裏話」を知って「表」を見る 情報管理 54(5), 296-299, doi: 10.1241/johokanri.54.296 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.296) 日本について研究する米国の大学院生に例えば辞 典などの参考リソースを教える際,その辞典の特徴 を理解し,複数のリソースを活用し得られた情報を 吟味する大切さを伝えるように努力している。ただ, うまく学生の興味を刺激し,知らない単語を辞書で 引く以上の「辞書を読む」ところまでの面白さにま で手助けできる授業を作り上げるのは簡単なことで はない。どんな例やエピソードを授業に盛り込むべ きか,いかに彼らの知的探究心を育てることができ るかを常に思案する。加えて,教える立場の自分も 発見の楽しみを味わいたいと思う。そんな時,辞典 http://www.lifeisart.co.jp/index.html という「表」の部分だけを取り上げるのではなく, 書としての特徴を考えたり,他の辞典と比較したり その辞典がどのような背景から編まれたのか,編者 することをつい怠ってしまいがちである。この辞書 の意図するものは何なのか,知っておくと便利な情 が重宝されている1つの要因は,言葉そのものの意味 報など,実際にその辞書作りに携わった人物が明か だけでなく百科事典的情報が簡潔に提供されている す「裏話」を知ることで「表」の部分がより面白くなっ からと言われるが,本書はその辺の詳しい背景を明 ていく。そんな知識を深めてくれる本を紹介したい。 らかにしてくれる。 いずる 著者は『広辞苑』の生みの親,新村出 の次男であ 『「広辞苑」物語-辞典の権威の背景』新村猛 芸術生活社,1970年(絶版) る。『広辞苑』第2版が完成した40年以上も前の発刊 であるが,著者自身がその編纂に携わった直後であ り,また新村出が発刊の2年前に亡くなったこともあ 296 本校の学生が使う電子辞書に必ず入っているのが り,臨場感あふれる辞書編纂の実情が語られている。 『広辞苑』である。手軽にアクセスできるこの辞典が 新村出は上田万年に教えを受けた文学者で大槻文彦 勉強の入り口になっていると言えるかもしれない。 の意思を継いで『大言海』の編纂を手がけ,近代辞 『広辞苑』と言えば出版社にして「1100万人の読者を 書の誕生期を生きた。大辞書の編纂を夢見て果たす 持つ国民的辞書」と言わせる半世紀以上のロングセ ことができなかったが,新村出の日本語への執着と ラーの辞書である。まずは『広辞苑』を引いて,が 辞書への理想は現在の『広辞苑』に引き継がれており, 当たり前になってしまい,編纂された時の背景や辞 言葉がどのように配列され,書き直されて『広辞苑』 この本!おすすめします ●「裏話」を知って「表」を見る に反映されているかを具体的な事例から学べるのは 紹介をする際によく用いる「この大辞典には5万語の ありがたい。 親字が収録され…」云々とは違った授業への導入方 さらに,編纂者の理想と出版という商業事情,そ 法はないか,と思案している時に出会ったのが諸橋 の中で繰り広げられる出版人との関係が見えてく の弟子で大漢和辞典編纂に人生を懸けた鎌田正の自 る。新村出は,大辞典編纂を国家的事業として進め 叙伝だった。前半は少壮年時代を振り返った思い出, たかった夢は結局達成できなかったが,岡書院を営 恩師と仰ぐ諸橋との出会い,漢学者への道,東京高 む出版人岡茂雄の誠心と信念に動かされて「不本意 等師範学校での教育者としての生活がエピソードを ながら」中型辞書編纂を引き受けることになる。本 交えて語られており,著者の信念・哲学が形成され 書からこの事業が向かい合った現実,当時の歴史的 ていく様子を知ることができる。後半は著者が諸橋 事情がからみ戦前・戦中・戦後における辞典作りの とまた恩師亡き後の意思を継いで第2版まで編纂し続 苦難を知ることができる。またそれは,この時代の けた『大漢和辞典』との60年もの苦楽の軌跡である。 日本の出版界の苦闘にもつながるのである。資金事 およそ漢文には疎い私にとってうれしいのは,鎌田 情から『辞苑』が岡書院ではなく博文館から出版され, が諸橋を語り,恩師とのやりとりを読み進めるうち それを継ぐ『広辞苑』が岩波書店から発刊されるこ に,『大漢和』の編纂動機,諸橋の漢和辞典に込める とになった背景からは辞書作りそのものの苦労に加 信念,『大漢和』編纂の骨格に自然に引き込まれてい え,編者と出版人との関係,そして日本における出 くこと。東京大空襲で原稿がすべて焼失した話は有 版という事業を垣間見ることができる。 名であるが,実際にそこに居合わせた当事者の記述 からは,信念を貫く人間の不屈な精神が重みをもっ 『大漢和辞典と我が九十年』鎌田正 大修館書店,2001年,2,625円(税込) て伝わってくる。また僭越な言い方で恐縮だが,こ れまで大博士に対する畏敬の念だけを持っていた私 も,鎌田の尊敬と愛情あふれる恩師への記述から諸 橋博士の優しいお人柄に触れることができたような 気がする。 さてここでも出版人とのドラマが展開される。ま だ無名であった大修館の鈴木一平社長は「使って便 利な」 「真似のできない」 「後世まで残る」ような「一 冊もの」の漢和辞典出版を目指し,1年以上かけて諸 橋博士を説得しこの事業を始めた。35年後に全13巻 の刊行を終えるまで,一冊ものが多巻となり,戦争 あり,誤信による鎌田の死亡説あり,異なる分野で http://plaza.taishukan.co.jp/shop/product/detail/30420 各々活躍していた鈴木一平の3人の息子が出版業に転 職し,この大事業存続を可能にしたりと,辞典作り 漢字の世界で絶大なる権威を持つ諸橋轍次の『大 の実録歴史ドラマが繰り広げられる。辞書の使い方 漢和辞典』。1955年版の13巻,1989年版15巻を米国 だけでなくこの日本精神と出版文化は絶対に学生た の学生が使う機会は多くはないが,この大辞典の知 ちに伝えるぞ,と決心を新たにした。 識はしっかり学んでほしいと思いつつ,私自身正直 言ってこの辞典の規模に圧倒されてしまう。辞書の 297 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 『国語辞典はこうして作る-理想の辞書をめざ ることを工夫すべし,と誓った。 して』松井栄一 港の人,2005年,2,310円(税込) 『出版社大全』塩澤実信 論創社,2003年,5,250円(税込) http://www.minatonohito.jp/products/050_01.html http://www.ronso.co.jp/index.html 辞典作りに携わってきた人が語る辞書編纂の「裏 298 話」の3冊目は『日本国語大辞典(日国)』の編集委 最後のオススメが出版社120社の「裏話」を集めた 員松井栄一の本。30年ぶりに第2版が出版された後に 866頁の本。私の愛読書兼参考書である。北米では学 第1版出版直前の1970年から1994年ごろまでに雑誌・ 術専門書の大部分は大学出版局と限られた専門の出 学術誌に発表した辞書に関する論考をまとめたもの 版社が発刊している。つまり英語の学術書を選書す である。ありがたいのは1つ1つの言葉・例が具体的 る時は,それらにターゲットを絞っておけばかなり に解説してある非常に実践的なもので,しかもその の水準の本を蒐集することができるが,日本語書籍 言葉や例が後の『日国』でどのように扱われたかの の選書はそうはいかない。日本には江戸時代から続 後日談がそれぞれについていること。勝手至極で恐 く出版社からつい最近独立して1人で創業したという 縮だが「これ,授業で使える!」ものばかり。『日国』 ものまで,多岐にわたる出版者が多種の専門書を発 と言えば,100万にも及ぶ他には類を見ない用例数を 刊している奥深い出版文化が存在する。しかも創業 誇る辞書である。なぜそこまで多くの用例にこだわ 者は多くの場合,日本の教育・知的文化への強い信 るのか,近代文献からの引用に問題があるのはなぜ 念・哲学・覚悟があって出版人となり,その精神が か,どうして底本をはっきりさせる必要があるのか 出版社に引き継がれ出版物に反映されている。さら 等々, 『大日本国語辞典』の編纂者の一人祖父松井簡 に,出版人と著者には密な関係が育まれていて,そ 治以来3代にわたって辞書・言葉とともに生きてきた こから特徴ある専門書が創作され水準が保たれた出 著者のこだわりを学ぶことができる。加えて本書に 版物が発刊されていることが多い。 は,著者が言葉・用例を探すこと,辞書を作ること 本書は出版社(者) ・出版業界に詳しい著者が『日 が心底好きで楽しんでいる様子が各所に自然に表れ 販通信』に10年間連載した出版社の横顔をまとめた ていて読む者を魅了する。 ものである。「当事者の証言で記述」し「読ませる出 「国語辞典に親しむ」の章で示されている「辞書を 版社事典」を目指したとあるが, まさに一社一社の「裏 読み」「辞書を通して考える」習慣を学生たちに伝え 話」が面白く,読み応えがあり,出版人の哲学・出 この本!おすすめします ●「裏話」を知って「表」を見る 版姿勢を学ぶことができる。本書が紹介する「裏話」 から書籍と出版者の「顔」が浮かび上がり深みが加 わり,多次元から本を楽しませてくれること,そし て日本の出版文化史の面白さを授業に活かしたいと 思う。 執筆者略歴 バゼル山本 登紀子(ばぜるやまもと ときこ) ハワイ大学マノア校図書館アジアコレクション部日本 研究専門司書 静岡県島田市出身。東京女子大学英米文学科卒業。 1982年州立南イリノイ大学カーボンデール校言語学修士 課程卒業。1986年より野村総合研究所ワシントンDC支店 勤務。その間地元カソリック大学にて図書館情報学修士 号取得。1996年までリサーチライブラリアンとして同研 究所に勤務。1996年6月よりアメリカン大学ワシントン DC図書館でビジネス・レファレンスライブラリアンとし て勤務。1999年1月より州立ハワイ大学マノア校図書館勤 務。1999年6月より現職。 299 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 情報管理 54(5), 300-303, doi: 10.1241/johokanri.54.300 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.300) Googleが英国図書館の蔵書をデジタル化 British-Library-and-Google-to-make-250-000-booksavailable-to-all-4fc.aspx)(accessed 2011-07-12). 6月20日,英国図書館(British Library)とGoogleは パートナーシップを結び,英国図書館の蔵書のデジ 研究図書館と出版社が国際ILLをめぐって対立 タル化プロジェクトを発表した。デジタル化される のは,英国図書館が所蔵する1億5,000万点を超える資 国際ILLとドキュメント・デリバリーに携わる権利を 料の中から,1700年から1870年に作成された印刷図 めぐって,研究図書館と学術出版社との間に戦いが 書,パンフレット,定期刊行物など,著作権の切れ 始まろうとしている。Elsevier社,Wiley社,Springer た資料25万点で,合計すると4,000万頁を超える。デ 社など大手S T M出版社を含む,21か国,110の出版 ジタル化されたコンテンツのファイルの1つは英国図 社が加盟する,国際STM出版社協会(International 書館のデジタル・アーカイブに永久保存されるほか, A s s o c i a t i o n o f S c i e n t i f i c , Te c h n i c a l & M e d i c a l Googleもファイルを保管する。コンテンツはGoogle Publishers: STM)は,ドキュメント・デリバリー・サー B o o k sと英国図書館のW e bサイトから無料公開され, ビスに関する声明を6月8日に発表した。デジタル環 非営利目的に限り自由に利用することが可能とな 境下で,図書館は極めて限定された状況において出 る。両サイトに加え,EuropeanaやEuropean Digital 版社の許可を得た場合にのみ,ドキュメント・デリバ L i b r a r yからのアクセスが計画されているほか,将来 リー,特にジャーナル論文のデリバリーを行うこと 的には,共同デジタルリポジトリであるHathiTrustに ができるというもので,次のように主張している。 参加する可能性も示唆されている。デジタル化のコ ・ 国境を越えるデリバリーは,出版社との直接交 ストは全額Googleが負担する。英国図書館Strategic 渉による任意のライセンスによって管理される Partnerships and LicensingのヘッドであるSimon Bell べきである。 氏によれば,デジタル化に当たっては未だどこから ・ エンドユーザーへの直接的なデジタル・デリバ もデジタル化されていない資料を優先するため,そ リーは,権利者によって管理・調整されることが のリストを作成することから始めなければならず, 一番良い。 プロジェクトの遂行には3年程度かかると思われる。 英国図書館はコレクションのデジタル化のために, 近年民間セクターとの協力を推進しており,今回の 渡すことのみ許されるべきである。 ・ 図書館は,個々人へのデリバリーは「私的・非 パートナーシップは,M i c r o s o f tと協同で行った19 営利利用」目的であることを保証するために, 世紀の図書65,000点のデジタル化,新聞コレクショ 適切な注意を行うべきである。 ン4,000万頁のデジタル化のためのbrightsolid社との 300 ・ 図書館は,来館者にその場でプリントコピーを 北米研究図書館協会(A s s o c i a t i o n o f R e s e a r c h パートナーシップに続くものである。 Libraries: ARL)は,国内の研究図書館が,国際ILLと (http://pressandpolicy.bl.uk/Press-Releases/The- ドキュメント・デリバリーに携わり,法の要件を満た 情報界のトピックス ●Topics of the information community すという条件の下で,著作権下にある著作物を外国 し,図書館界に大きな衝撃を与えた(本誌v o l . 54, に送る権利を有することを再確認する報告書を6月に no. 1の本欄で既報) 。その直後から電子書籍マーケッ 発表した。また,A R Lは会員に対し,米国著作権法 トに対する包括的対応を検討してきた米国図書館協 108条によって授与されたI L Lの権利を奪い取るよう 会(American Library Association: ALA)情報技術政 なライセンス契約を結ばないよう忠告している。 策局(Office for Information Technology Policy: OITP) 世界200のコンソーシアムが参加する国際図書館コ は,6月に開催された年次大会中に,HarperCollins社 ンソーシアム連合(International Coalition of Library を電子書籍作業部会のビジネス会議に招き,貸出問 Consortia: ICOLC)も,国際STM出版社協会を批判す 題の解決に向けて率直な対話を行い,声明を発表し る声明を6月22日に発表した。STMの勧告は,ILL活動 た。その中で,Bonnie Tijerina作業部会議長は,ALA のための著作権除外規定と矛盾するとして,S T Mの の会員から送られてくる質問に答えるために設けら 挙げた主張1つ1つに対し,以下のように反論してい れたFAQへの回答に,HarperCollins社が協力すること る。 を明らかにした。発表されたFA Qの第一陣には,公 ・ 国境を越えるデリバリーは,現在の著作権法に よって十分かつ適切に管理されている。 共図書館から寄せられた電子書籍リーダーについて の基本的な質問からライセンスに関する具体的な質 ・ エンドユーザーへの直接的なデジタル・ドキュ 問まで,興味深い36項目が含まれており,今後は学 メント・デリバリーはエンドユーザーの図書館や 校図書館や大学図書館からの質問にも対処すること コミュニティーによって最も良く調整される。 になっている。HarperCollins社からは出版社の観点 ・ 現在の著作権法は,受け取るドキュメントは私 が提供される。なおFA Qによれば,米国で電子書籍 的・非営利利用であることを確認するために, を提供している公共図書館の数は,2年前の38%から 利用者に適切な負担を負わせている。 急増し,2011年には3分の2に上る。残り3分の1の公 ・ 図書館は来館者にはその場で,デジタル・印刷 共図書館の60%は2年以内に電子書籍の導入を計画中 を問わずいかなるフォーマットでも論文を渡す である。 ことができる。 (http://americanlibrariesmagazine.org/news/ala/ (http://www.libraryjournal.com/lj/newslettersn american-library-association-e-books-taskforce- ewsletterbucketljxpress/891002-441/research_ continues-open-dialogue-harpercollins)(accessed libraries_publishers_stake_out.html.csp)(http://www. 2011-07-12). libraryjournal.com/lj/newslettersnewsletterbucketac ademicnewswire/891083-440/coalition_of_library_ 電子書籍を一元的に管理 consortia_joins.html.csp)(http://www.library.yale. edu/consortia/2011-stm-ill.htm)(accessed 2011-0712). 米国図書館協会が電子書籍貸出についての話 し合い継続 電子書籍は現在,電子書籍ストアごとに購入した コンテンツの管理が行われており,複数のストアを 利用した場合にはそれぞれのストアで管理しなけれ ばならない。そこで,電子書籍の利便性向上を目指 して,ソフトウェアやサービスが検討されてきてい る。 今年2月H a r p e r C o l l i n s社が自社の電子書籍につい インプレスと大日本印刷は7月7日,読者の電子書 て,図書館による貸出回数を26回に制限すると発表 籍読書環境を一元化するソフトウェア「オープン本 301 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August 棚(仮称) 」を発表した。「オープン本棚」では,文 「Google Health」を終了すると発表した。 「Google 書フォーマットやビューワが異なる複数の電子書籍 Health」は2008年5月にサービス開始。医療機関や薬 販売サイトで購入した電子書籍を一元管理できる。 局などと提携し,ユーザーが自分の医療・健康関連 しおりやアンダーラインなど,読者が指定した情報 情報を一元管理できるようにすることを目指してい も統一して扱うことが可能。G o o g l eのモバイルO S た。G o o g l eによれば,テクノロジーに関心のある患 「Android」用のベータ版を9月に公開予定で,その後 者や医療従事者など一部のユーザーグループには利 はAppleのモバイルOS「iOS」やWindowsなどにも対 用されていたものの,多くのユーザーによって日常 応する。オープンな電子書籍流通の環境整備を目指 的な健康管理に利用されるところまで幅広く普及さ すため,無償で提供予定としている。 せることができなかったという。サービスは2012年1 一方,電子書籍サービスを提供する紀伊國屋書店, 月で終了するが,ユーザーのデータは2013年1月まで ソニー,パナソニック,楽天は6月13日,各社の電子 保存する。Googleはユーザーに対し,期限までにデー 書籍端末・ストアを相互接続することで合意したこ タをダウンロードし,Microsoftの「HealthVault」な とを発表した。2011年後半から相互接続可能な環境 どほかのサービスに移行することを勧めている。 の構築を目指す。同時に,ユーザーがさまざまな電 (http://googleblog.blogspot.com/2011/06/update- 子書籍ストアから購入したコンテンツを,自ら一元 on-google-health-and-google.html)(accessed 2011- 的に管理できるようにするという。 07-12). (http://www.impressrd.jp/news/110705/ openhondana)(http://www.sony.co.jp/SonyInfo/ 東日本大震災関連 News/Press/201106/11-0613/)(accessed 2011-07-12). Google,「画像で検索」機能を開始 (1)Google,ストリートビューで被災地を記録 Googleは7月8日, 「ストリートビュー」の技術を活 用して,東日本大震災の被災地の状況を記録・保存し, G o o g l eは6月14日,検索キーワードの代わりに画 公開するプロジェクトを発表した。世界中の科学者 像そのもので検索する新機能「Search by Image」 (画 や研究者だけでなく,一般の人々に地震や津波が引 像で検索)を発表した。画像検索ページ(i m a g e s . き起こす被害を伝えるとともに,震災の記憶の風化 google.com)の検索枠に,コンピューター内または を防ぐことを目指す。G o o g l eは,ストリートビュー インターネット上の画像ファイルを指定するか,画 での被災地撮影を早い段階から議論しながらも,被 像ファイルを直接ドラッグ&ドロップすることによ 災者の心情などを考慮し, 「時期の選択が困難だった」 り,類似の画像のほか,背景になっているランドマー としている。しかし,地元自治体やボランティア, クや絵画に関するコンテンツが表示される。 医療関係者,研究者の後押しがあり,今回のプロジェ (http://googleblog.blogspot.com/2011/06/knocking- クト開始に踏み切った。撮影対象地域は東北地方か down-barriers-to-knowledge.html)(accessed 2011- ら北関東の主要都市および海岸地域で,3 ~ 6か月か 07-12). けて撮影する。このプロジェクトについて,宮城県 Google,オンライン医療サービスを終了へ 気仙沼市の菅原市長は「震災で手を差し伸べてもらっ た世界中の方々に, 「自分が支援した市はこうなのだ」 と知ってもらい,5年後,10年後にストリートビュー G o o g l eは6月24日, オ ン ラ イ ン 医 療 サ ー ビ ス 302 でもう一度撮影してもらい,「このように復興できて 情報界のトピックス ●Topics of the information community きているのだ」と感じてもらいたい」とコメントし その背景として,景気の影響に加えて,出願人が特 ている。 許出願を厳選する傾向にあることを挙げている。日 (2)東日本大震災でのクラウドサービス無償提供の 状況 本のPCT出願(特許協力条約に基づく国際出願)は約 32,000件で,2003年以降,米国に次ぐ世界第2位を維 情 報 処 理 推 進 機 構(I P A) は6月20日, 東 日 本 大 持している。一方,中国の2010年のP C T出願は前年 震災での緊急支援に活用されたクラウドサービスの 比56%増の約12,000件で,韓国を抜いて世界第4位と 事例をW e b上で公開した。公開されたのは「東日本 なった。 大震災に際して提供されたクラウドサービスの事例 (http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/ 集」。事例は目的別に大きく分けて,1)「情報供給・ nenpou2011_index.htm)(accessed 2011-07-12). 流通基盤」(安否情報や支援者と被災者間の情報流通 など),2)「被災者救援活動の情報インフラ」 (被災 電子書籍利用,中国が積極的 者・避難所の情報把握,救援物資の集積・配布シス テム,ボランティア管理・派遣コントロール),3) 「行 G M Oジャパンマーケットインテリジェンスは6月 政情報提供サイトの拡張」(政府,自治体サイトのミ 29日,日本,韓国,中国,台湾で実施した「読書行 ラーサイトなど),4)「被災企業等の緊急情報発信・ 動と電子書籍端末の利用意向に関する調査」の結果 業務処理」(メールサーバーの代替,グループウェア・ を発表した。これによると,電子書籍コンテンツの Web会議等の提供など)がある。これらのほとんどが, 利用に関しては,4か国の中で特に中国が積極的で, クラウドサービス事業者から無償提供されたクラウ 9割近くが電子書籍の利用に前向きな姿勢を示した。 ド上のサービスで実現している。I P Aは同時に,災害 一方,日本は4か国の中で最も電子書籍コンテンツ の復旧・復興におけるクラウドサービス利用に関す の利用に消極的であることがわかった。またオンラ る解説・参考資料を公開している。 インブックストアで書籍を購入している人の割合は, (http://googlejapan.blogspot.com/2011/07/blog- 最も高い韓国で80%だったのに対して,日本は53% post.html)(http://www.ipa.go.jp/security/cloud/ と最も低かった。またオンラインブックストアを利 cloud_sinsai_R1.html)(accessed 2011-07-12). 用するメリットとして「大幅な値引き」を挙げた人 2010年の特許出願件数は横ばい の割合は,日本以外の3か国では8割超だったのに対 し,日本だけが4割と大幅に少なかった。同調査は 2011年1月から4月にかけて,14歳から49歳の携帯電 特 許 庁 は6月30日,「 特 許 行 政 年 次 報 告 書2011年 話所有者4,000名(4か国合計)を対象に実施された。 版」を発表した。同報告書によると,2010年の特許 (http://www.gmo-jmi.jp/jp/news/ebooks/ 出願件数は,前年比1.1%減の約345,000件となった。 ebooks_20110629.pdf)(accessed 2011-07-12). 303 情報管理 JOHO KANRI 2011 vol.54 no.5 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ August ■本格的な夏がやってまいりました。節電対応で クーラーの使用も制限されるこの夏,環境省ではア ロハシャツで勤務することが認められ,話題になっ ています。涼しい服でこの夏を乗り切りたいもので す。 ■今号も,多様な記事をお届けいたします。子ども 用百科事典『ポプラディア』の記事は,小中学生向 けの百科事典の話です。子どもにわかるように説明 するというのは大人に説明するより難しいと常日頃 感じていましたが,前提なしにある言葉の意味を限 られた文字数で説明するとなると,これはもう大変 な仕事です。結果的に大人にも十分役立つ百科事典 になっているというのが,使ってみての実感です。 ■『情報管理』誌は以前から「おもちゃ箱」のよう だと言われてきました。開けてみないと何が出てく るかわからない,多様な記事が載っている「おもちゃ 箱」。開けてドキドキ,読んで新たな知見が得られ る「おもちゃ箱」を目指したいと思います。 ■研究成果のご投稿をお考えの方に申し上げます。 ご自分の研究も含め,その領域をわかりやすく記述 する総合報告を期待しております。また,話題の領 域,先端技術の平易な解説も歓迎いたします。そし て前にも申し上げましたが,こんな記事が読みたい というリクエストも大歓迎です。ご意見,ご希望を お寄せください。 ■6月23日に行われた大賀典雄元ソニー社長の「お 別れの会」の話をラジオで聞きました。ご遺族代表 の挨拶でご子息が大賀氏の人生,生活と仕事のスタ イルについて話され,終わると会場から異例の拍手 がわき起こったそうです。「言葉の力」を感じた, とジャーナリストの小林和男氏が語っていました。 言葉の力を信じたいと思います。 (KM) 『情報管理』誌では,国の内外から広く投稿原稿を受け付けています。日ごろのご研鑽の成果を執筆 されて,本誌に発表されることをお待ちしております。 □次号予定 ●デジタル・インクルージョンを支えるDAISYとEPUB ●慶應義塾大学における電子学術書利用実験プロジェクト:実験から見えてきたもの ●オンライン百科事典「ポプラディアネット」:学校における活用事例 ●標準化フォーマットに基づく大学情報の公開:アメリカ州立大学団体の試行から ●統計情報活用への招待:第3回 公的統計の推定・加工のテクニック 情報 管理 JOHO KANRI Journal of Information Processing and Management 科学技術振興機構 vol.54 no.5 August 2011 ●編集委員会 <委員長>水野充(科学技術振興機構) <編集委員> 小河邦雄 (大正製薬㈱) ・気谷陽子 (筑波大学附属図書館) ・ 小林良子(㈱日本能率協会総合研究所)・清水美都子(㈶ 日本特許情報機構)・青山幸太・安部耕造・飯田創治・木 村美実子・國岡崇生・栗本達児・黒田明子・佐藤恵子・土 屋江里・火口正芳・日高真子・矢口学・余頃祐介(以上科 学技術振興機構) 2011年8月1日発行(月刊) 年間購読定価 本体 ¥13,650(税込) 1部定価 本体 ¥1,260(税込) 編集・発行 独立行政法人 科学技術振興機構 〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3 「情報管理」編集事務局 Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8470 E-mail: joho-kan jst.go.jp http://johokanri.jp/ Published monthly by Japan Science and Technology Agency (JST) JOHO KANRI Editorial Office, JST, P.O.Box 2, Kojimachi Tokyo 102-8666 JAPAN ・本誌に落丁・乱丁がありました節は,まことに恐れ入りますが,最寄りの情報提供部または各支所宛に現品をご返送下 さい。送料は当機構の負担で,お取り替えいたします。勝手ながら現品送付のない場合は,お取り替えいたしかねます。 ・未着事故などのご連絡は発行後2か月以内にお願いします。以後は原則としてお受けできません。 © Japan Science and Technology Agency 2011 無断転載を禁ず 304
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