American Journal of Enology and Viticulture

J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
American Journal of Enology and Viticulture 論文の概要
(Vol. 60, No. 3 & No. 4, Vol. 61, No. 1)
Enology 関係: 花牟礼研一
(メルシャン株式会社)
奥田 徹・佐藤充克
(山梨大学ワイン科学研究センター)
Viticulture 関係: 本杉日野
(京都府立大学大学院農学研究科)
鈴木俊二・高柳 勉
(山梨大学ワイン科学研究センター)
Vol. 60, No. 3 (2009)
HP-5 を装着した GC-O によって、トータルで 109 個の
A.G. Reynolds and J.E. Vanden Heuvel: Influence of
アロマ成分を、4 つのブランデーサンプル中に検出し
Grapevine Training Systems on Vine Growth and Fruit
た。最も重要なアロマ成分を同定するために、さらに
Composition: A Review. pp. 251-268.
アロマ抽出希釈分析法(AEDA)を用いた。結果では、
[ブドウ整枝システムがブドウ樹の生育と果実組成
エステル類、特にエチルエステルが最も重要なアロマ
に与える影響:総説]
であることが示された。様々なアルコール類、アルデ
ブドウの整枝は樹形の形成に関連する。整枝のタイ
ヒド類、アセタール類、フラン誘導体類、ラクトン類、
プにより総葉面積と光を良好に受ける葉面積のパーセ
フェノール成分も同定された。フレーバー希釈ファク
ントが異なる。
したがって、
ブドウ樹の光合成能力は、
ター(FD)に従うと、最も重要なアロマ成分は、2-メ
その整枝システムに有意に依存し、その葉の光ミクロ
チルプロパノール、3-メチルブタノール、カプロン酸
気象に連動する。整枝は樹冠の光ミクロ気象を変化さ
エチル、エナント酸エチル、カプリル酸エチル、カプ
せるのに加え、果実芽の分化、果房の露出、ブドウ樹
リン酸エチル、β-ダマセノン、trans-β-γ-オクタラクト
の水分状態そして葉の蒸散のような多くの他の変数に
ン(FD≥1024)であった。フーゼル油臭を示す 2-メチ
影響を与えるであろう。ブドウ樹の樹勢と収量のバラ
ルプロパノールや 3-メチルブタノールを除いて、これ
ンスを達成するためのブドウ樹整枝システムの改良は、
らの成分はフルーティで甘く、ココナッツ様アロマに
樹冠の光ミクロ気象の最適化を通して果実成分の改善
寄与した。1,1-ジエトキシエタンや cis-メチル-γ-オクタ
と収量の増加を同時に行うであろう分割された樹冠シ
ラクトンは、
クリーミーでココナッツ様アロマを持ち、
ステムへ導く。したがって、多くの整枝システムは、
2 つのブランデーにおいて重要なアロマ成分(FD
樹冠と果実の向上したミクロ気象を通してワインの品
1024)であった。
質を改善する能力として識別される。
S.J. Owen, M.D. Lafond, P. Bowen, C. Bogdanoff, K. Usher,
Y. Zhao, J. Li, Y. Xu, W. Fan, and W. Jiang: Characterization
and S.R. Abrams: Profiles of Abscisic Acid and Its
of Aroma Compounds of Four Brandies by Aroma Extract
Catabolites in Developing Merlot Grape (Vitis vinifera)
Dilution Analysis. pp. 269-276.
Berries. pp. 277-284.
[アロマ抽出希釈分析法による 4 つのブランデーのア
[メルローブドウ(Vitis vinifera)果粒の生長における
ロマ成分の特徴]
アブシシン酸の特性とその代謝]
2 つの VSOP、2 つの XO ブランデー中のアロマ成分
植物ホルモンであるアブシシン酸(ABA)は、ブド
を分画後、ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメ
ウ果実の生長と成熟に関与するシグナル分子である。
ーター(GC-MS)とガスクロマトグラフィー-オルフ
ブドウ果実の生長における ABA 合成と代謝に関して
ァクトメトリー(GC-O)によって同定した。DB-Wax、
より包括的な理解を得るために、カナダ・ブリティッ
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J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
シュコロンビアの南部 Okanagan Valley の商業用ブド
champinii およびある種の Vitis ハイブリッドは NB と
ウ園に生育するメルローブドウの ABA と代謝特性を
X6 培地に最も高い応答を示した(5%から 12.5%)
。
マルチ反応モニターモードの HPLC-MS/MS を用いて
Vitis vinifera 遺伝子型の中で、メルロー、スーペリア・
測定した。ベレゾーン前の果粒の果皮と果肉は、低か
シードレス、トンプソン・シードレスは、4、8、12 ヵ
ら中程度の濃度の ABA を含んでいる間、これらの組
月の培養齢に関係なく組換え胚ライン(11.6%から
織は高い濃度の ABA 代謝物である dihydrophaseic acid
36%)を生産した。一方、カベルネ・フラン、カベル
(DPA)を含んでいた。このことは、果粒生長の初期
ネ・ソービニヨン、そしてシラーは 4 ヵ月培養齢から
において、多量の ABA が生産され、代謝されること
のみ胚ラインを生産した(4.1%から 16%)
。発芽した
を示している。果肉と果皮においては、ABA の二つの
胚の子葉の摘出が組換え植物体の回収率に及ぼす効果
ピークが見られ、最初はベレゾーンの 2 週間前、次は
は品種によって異なっていた。処理は、Vitis vinifera と
ベレゾーン後期で、その後、ABA は果粒の成熟にとも
Vitis riparia(26.7%から 73.3%)において、植物体の高
なって減少した。果肉と果皮のアブシジン酸グルコー
い回収率をもたらしたのに対して、Vitis champinii と
スエステル(ABA-GE)はベレゾーンの少し前に上昇
Vitis ハイブリッドにおいては、低い回収率であった。
し、ベレゾーン後に減少した。種子の生長においても
組換え植物体は、Vitis champinii、Vitis riparia、Vitis
同様の傾向が観察されたが、ABA と DPA はともに初
rupestris、Vitis vinifera、そして Vitis 種間ハイブリッド
期において高いレベルであり、ABA-GE は成熟まで高
を含むブドウ属の 19 の遺伝型から再生された。PCR
いレベルを維持した。ベレゾーン期の果粒に添加され
と定量的リアルタイム PCR により、選抜された組換え
た ABA は 1 週間の半減期を持ち、結果として DPA 濃
植物体における egfp 組換え遺伝子の存在とコピー数
度が 69%増加した。しかし、これは総 ABA と代謝プ
が確認された。野外で定着した組換えブドウ樹は、非
ールにおける小さな増加のみを構成した。処理は、果
組換えブドウ樹と比べて、普通の栄養および生殖成長
粒の成熟速度、基本的なジュース組成、または果皮と
を示した。成熟植物体組織における安定 GFP(緑色蛍
種子のタンニンには影響しなかったが、果皮のアント
光タンパク質)の発現パターンを、4 年間にわたり、
シアニン含量を、同じ果粒成熟度において 7%増加さ
組換え遺伝子のサイレンシングが示されていないこと
せた。これらの観測結果は、ABA は果粒にほとんど取
を確認するために観察した。
り込まれることなく、代謝もされず、その大部分が表
P. Gago, J.L. Santiago, S. Boso, V. Alonso-Villaverde, M.S.
層に残っていることを示している。
Grando,
and
M.C.
Martínez:
Biodiversity
and
S.A. Dhekney, Z.T. Li, T.W. Zimmerman, and D.J. Gray:
Characterization of Twenty-two Vitis vinifera L. Cultivars in
Factors Influencing Genetic Transformation and Plant
the Northwestern Iberian Peninsula. pp. 293-301.
Regeneration of Vitis. pp. 285-292.
[北西イベリア半島の 22 Vitis vinifera 栽培種の生物多
[ブドウ属の遺伝子組換えと植物体再生に影響する
様性と特徴]
因子]
単一栽培種のみを定植したブドウ園をともなう近
カルス誘導培地、培養プロトコール、胚培養齢、子
代ブドウ栽培実践は、ブドウ樹の多様性の損失の一因
葉摘出処理がブドウ属の組換え胚と植物体ラインの生
となり得る。イベリア半島北部および北西部の特殊な
産に与える影響を研究した。葉または雄しべおよび雌
地理的条件は、この地域を、依然としてブドウ多様性
しべから誘導した胚培養をエンハンスド緑色蛍光タン
の高い保護区にしている。古い伝統的な栽培種の保護
パク質/ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ II
は、遺伝的衰退を減らし、ユニークなワインの生産を
(egfp/npt II)フュージョン遺伝子を含む Agrobacterium
可能にする。スペインの Misión Biológica de Galicia リ
で形質転換した。異なった培地上での組換え胚ライン
サーチセンターにあるブドウ樹コレクションとして
の生産は、遺伝子型依存的であった。Vitis vinifera は、
1993 年から栽培されている、全部で 22 の古いブドウ
DM と X6 培地上で培養した時に、最も多くの組換え
栽培種が、この研究で記述される。表現型と遺伝型の
胚ライン(7.5%から 26%)を生産した。一方、Vitis
多様性は、
生長葉のブドウ形態学的特徴と 10 のマイク
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J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
ロサテライトマーカー(VVS2、VVMD5、VVMD7、
イン生産量とワインの品質のデータ群の両方で、有意
VVMD25、VVMD27、VVMD28、VVMD31、VVMD32、
な打開策が見出された。気候変動とワイン生産量およ
VrZAG62 そして VrZAG79)の分析を通して評価され
び品質の間の相関関係分析では、様々な統計的方法を
た。これらの古い栽培種を記述すること(それらのい
用いて、ワイン生産量の最も重要な要因が、5 月、6
くつかは、今日まで記述されていない)
、そして異名と
月、7 月、8 月の日照時間と 9 月の降雨量であることが
異種同名の問題を解決することは、それらの再利用に
確認された。ワインの品質については、5 月と 9 月の
おいて必要なステップである。
平均気温、降雨量と日照時間が、7 月の降雨量と 8 月
の日照時間に加えてキーとなる役割を果たしている。
9
M. Esteruelas, P. Poinsaut, N. Sieczkowski, S. Manteau, M.F.
月の気候の役割が最も重要で、ワインの品質の重要成
Fort, J.M. Canals, and F. Zamora: Comparison of Methods
分としての Aszú(Botrytis)の形成以降、9 月中の状況
for Estimating Protein Stability in White Wines. pp.
に大きく依存している。結果では、要因分析で得られ
302-311.
た有意な変動が、気候とワイン生産量や品質の間の一
[白ワイン中のタンパク安定性評価方法の比較]
次的相関関係を 2 テストで得られた変動より、より良
いくつかのタンパク安定性テストが提案されてい
く説明できることを示している。実際の 7 収穫年の気
るが、
それらの結果はいつも一定であるわけではなく、
候タイプを、要因分析とクラスター分析の手段を用い
ワインメーカーはベントナイト添加量を決める時に迷
て決定した。結果は、収穫年の気候タイプの分類が、
う。ソービニヨンブランワインで自然に生じるタンパ
ワインの品質における変動よりも、ワイン生産におけ
ク沈殿の化学的組成を、様々なタンパク安定性テスト
る変動をより効果的に説明する。概してこの研究は、
を行った後に得られる沈殿物と比較した。安定性テス
この地域におけるワイン生産量と品質との有意な相関
トの沈殿物の化学的組成、分子排除プロファイル、電
関係と気候変動の特徴と重要性を確認している。その
気泳動プロファイルを、自然に生じる沈殿物と比較し
結果は、その地域におけるワイン生産のため、生産量
た。全ての強制沈殿物は、自然に生じた沈殿物と異な
と品質のアセスメント戦略に役立つ。
る化学的組成を示した。テストのいずれも自然現象の
完全な再現をしていない。緩慢な加熱テストではトー
L. Guérin, D.H. Sutter, A. Demois, M. Chereau, and G.
マチン様タンパクが沈殿せず、エタノールテストでは
Trandafir: Determination of Activity Profiles of the Main
多量のポリサッカライドが沈殿し、いずれのテストも
Commercial Enzyme Preparations Used in Winemaking. pp.
適していない。結果として、急速な加熱テストが、化
322-331.
学的組成の観点から自然の組成に最も似ていて、それ
[ワイン醸造に使用する主な市販酵素製剤の活性プ
ゆえに最も適切な安定性テストに近いことを示唆する。
ロファイルの測定]
結果は、自然のタンパク沈殿物や、異なる安定性テス
ワイン生産のために、フランス市場で利用できる多
トにより得られる沈殿物の化学的組成について、充分
くの酵素製剤がある。酵素活性の評価は製造者や業者
な比較を提供する。
によって実施されている。この研究では、様々な酵素
活性(ペクチン分解、ヘミセルロース分解、セルロー
L. Makra, B. Vitányi, A. Gál, J. Mika, I. Matyasovszky, and
ス分解、グリコシダーゼ活性)を明らかにするための
T. Hirsch: Wine Quantity and Quality Variations in Relation
方法を開発し、
その後 41 個の市販の酵素製剤に適用し
to Climatic Factors in the Tokaj(Hungary) Winegrowing
た。41 個の製剤の酵素的プロファイルを考慮すると、
Region. pp. 312-321.
主な違いは、製剤のラベルに書かれている色抽出、清
[トカイワイン(ハンガリー)の栽培地域における気
澄化、沈降化、圧搾、または多価作用とアロマ遊離に
候的要因に関連するワイン生産量と品質の変動]
含まれる。しかし、その違いは、これら全ての製剤の
ハンガリーのトカイ-ヘジャイアのブドウ園地域に
おけるワイン生産量と品質に関する気候要素の影響を
有効性を考えることなく、定量的というよりは非常に
定性的である。
分析した。Makra テストを適用することによって、ワ
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J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
H.A. Sandler, P.E. Brock II, and J.E. Vanden Heuvel: Effects
のブドウ樹能力は、試験全体を通して、SPC(6.48 m2)
of Three Reflective Mulches on Yield and Fruit
が最も高く、SG(2.93 m2)が最も低かったが、後者は
Composition of Coastal New England Winegrapes. pp.
最も勢力の強い新梢を着けた。葉面積として測定した
332-338.
ブドウ樹能力は、列内間隔が増加するのにともない、
[ニューイングランド沿岸地域のワインブドウの収
直線的に減少した。列のメーターあたりの収量は、1.5
量と果実組成に与える 3 つの反射マルチの効果]
m において 0.9 m の樹間に比べて~20%で減少した。
南ニューイングランドブドウ園において、収量と果
SPC と HW の高い新梢数は、長梢剪定システムの高い
実組成に及ぼすいくつかの反射マルチの効果を評価す
新梢稔性と果房重量によって差し引かれたため、整枝
る 3 つの研究を 2 年間にわたって行った。白色の反射
システム全体を通して、ブドウ樹あたりの収量に有意
織布(WRM)を 2004 年と 2005 年に、シャルドネ、
な差はみられなかった。収穫時のマスト組成は、SPC、
ピノ・ノワール、メルローのブドウ樹の下(除草帯の
HW、 SG の間で類似していたが、DG は、全体に低品
被覆)で試験した。砕いたホンビノス貝の貝殻(QS)
質のブドウを生産した。樹間はブドウ組成に影響しな
と銀色のアルミコートした反射マルチ(SRM)を、2005
かった。結果は、バルベーラを適切に管理した時、長
年と 2006 年にシャルドネ、ピノ・ノワール、メルロー
梢または短梢剪定整枝システムのどちらにおいても、
の下で試験した。ホンビノス貝の貝殻は、2006 年と
収穫物の類似した潜在的および質的発現が達成できる
2007 年にカベルネ・フランとチャンセラーにおいて非
ことを示した。列内 0.9 m の樹間は、すべての整枝シ
処理のコントロールと比較した。WRM は、樹冠に対
ステムにわたって、類似のブドウ品質で、ヘクタール
する光合成アクティブな照射(PAR)の反射を増加さ
あたり 20%高い収量を確保する方法として推奨され
せた。しかし、果実組成に対しては、測定可能な影響
る。
は持たなかった。SRM は樹冠への PAR 反射を改善し
た(コントロールと比べた時)が、樹冠密度、収量、
RESEARCH NOTE:
果実組成に影響しなかった。早期の汚れや破損は SRM
M. Crespan, S. Meneghetti, and S. Cancellier: Identification
の一般的な問題である。除草帯へのホンビノス貝の貝
and Genetic Relationship of the Principal Rootstocks
殻の添加は、土壌のカルシウムレベルを増加させ、結
Cultivated in Italy. pp. 349-356.
果として高い pH をもたらし、Ca:Mg 比を実質的に
[イタリアで栽培されている主要な台木の同定と遺
増加させた。QS は、いくつかの品種と年において、
伝的関係]
樹冠密度、収量、果房数、果房重量、Brix を増加させた。
シンプルシーケンスリピート(SSR)プロフィール
を 27 種のイタリアで最も一般的な台木について作成
F. Bernizzoni, M. Gatti, S. Civardi, and S. Poni: Long-term
した。品種は、それらが最も広く商品化され、それぞ
Performance of Barbera Grown under Different Training
れの品種に対して 1 クローンまたは 1 系統以上をもつ
Systems and Within-Row Vine Spacings. pp. 339-348.
機会を供給するので、3 種を除いて、実用的な目的で
[異なった整枝システムと列内ブドウ樹間隔のもと
選ばれた。植物材料(全体で 86 サンプル)は、主に
で栽培したバルベーラの長期生産力]
CRA-VIT と Nucleo di Premoltiplicazione delle Venezie の
垂直に新梢を誘引した短梢低コルドン(SPC)
、シン
コレクションから供給された。Le Grau du Roi のフラン
グルハイワイヤーコルドン(HW)、シングルギヨー
スコレクションから入手した信頼性の高い参考試料の
(SG)
、垂直スプリットダブルギヨー(DG)として確
使用により、イタリア 157-11C は、しばしば 164-49C
立されている整枝システムの効果を、5 年間
と混乱していることが確認された。台木の対立遺伝子
列内間隔 0.9 m、
(2003‐2007)
にわたり、
列間隔 2.5 m、
をV. vinifera L.の663種の遺伝型のそれらと比較したと
1.2 m、1.5 m で定植した Vitis vinifera L. cv. バルベーラ
ころ、二つのグループにおいてシングル遺伝子座の多
ブドウ樹において試験した。短梢(SPC と HW)シス
型が異なっており、
台木に特異的な対立遺伝子があり、
テムにおいて、計測節あたりの全新梢は SG と DG で
それらは V. vinifera バライティーでは欠失しているこ
記録された値の約 3 倍であり、一方、全葉面積として
とが示された。これらのデータは、親が不明なハイブ
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J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
リッドの有望な起源の同定にとって、
大変有用となる。
した。植物において、F3',5'H はデルフィニジンを基本
とするアントシアニン類の合成を制御し、F3'H は、シ
RESEARCH NOTE:
アニジンを基本とするアントシアニン類を制御するの
A. Garris, P. Cousins, D. Ramming, and A. Baldo: Parentage
で、ブドウ葉は、F3'H によって制御されるシアニジン
Analysis of Freedom Rootstock. pp. 357-361.
合成経路を通して大量のシアニジンを基本とするアン
[フリーダム台木の系統解析]
トシアニン類を蓄積すると推測される。
台木フリーダムは、
2 つの自然受粉した親木
(1613-59
と Dog Ridge 5)の子孫であり、根こぶ線虫耐性の遺伝
RESEARCH NOTE:
資源である。フィロキセラの問題がブドウ園において
M. Pérez-Gilabert, E. Téllez, and F. García-Carmona: Triton
重要性を増しているのにともない、不特定の花粉供与
X-114-aided Extraction and Partial Characterization of
体から Vitis vinifera へフィロキセラ感受性が導入され
β-Galactosidase from Grape Berry Pulp (Vitis vinifera L.).
るリスクが心配される。フリーダムの系統を明らかに
pp. 368-372.
するために、31 種の潜在的な原種の遺伝的特徴を 30
[ブドウ果粒パルプ由来 β-ガラクトシダーゼのトリ
のマイクロサテライトマーカーで分析した。我々は、
トン X-114 抽出と部分的特徴解析]
フリーダムの報告されている両親(1613-59)と祖父母
ブドウ果粒パルプから、非イオン性界面活性剤トリ
(1613C)を確認し、3306C(V. riparia×V. rupestris)
トン X-114 をともなった 2 時間の分解によって、β-ガ
を 1613-59 の花粉親として同定した。Dog Ridge 5 の花
ラクトシダーゼを抽出した。その後の層分離によって
粉親を同定することはできなかった。
フェノール化合物の~75%が除去され、その比活性に
おいて 8 倍に増加した酵素を水性上層に回収できた。
RESEARCH NOTE:
酵素は、o-nitrophenyl β-galactopyranoside を基質として
H. Kobayashi, S. Suzuki, F. Tanzawa, and T. Takayanagi:
反応速度論的特徴を解析した。酵素は酸性側で活性が
Low Expression of Flavonoid 3',5'-Hydroxylase (F3',5'H)
強く、最適 pH は 4.2 であり、その時の Vmax と Km は、
Associated with Cyanidin-based Anthocyanins in Grape
それぞれ 0.009 µmol/min/mg protein と 1.2 mM であっ
Leaf. pp. 362-367.
た。β-ガラクトシダーゼは遊離のガラクトースによっ
[ブドウ葉のシアニジンを基本とするアントシアニ
酵素は 65℃
て競合阻害を受け、
Ki は 0.8 mM であった。
ン類と関連した Flavonoid 3',5'-Hydroxylase(F3',5'H)
に最適温度を持っていたが、その温度安定性は、この
の低発現]
温度において非常に低かった。
この研究の目的は、生育中のブドウ(Vitis vinifera L)
葉における、アントシアニン組成とアントシアニン合
TECHNICAL BRIEF
成関連遺伝子の転写特性を明らかにすることである。
S.C. Petrovic: Correlation of Perceived Wine Astringency to
果皮は、生育中にシアニジンを基本とするアントシア
Cyclic Voltammetric Response. pp. 373-378.
ニン類とデルフィニジンを基本とするアントシアニン
[サイクリックボルタメトリー応答に対するワイン
類を蓄積し、そして flavonoid 3',5'-hydroxylase 遺伝子
収斂味の相関]
(F3',5'H)発現のアップレギュレーションを示す。一
赤ワインの収斂味とそのワインのサイクリックボ
方、ブドウ葉では、生育中にシアニジンを基本とする
ルタンメトリー応答との関係を説明する。
フラバン-3-
アントシアニン類を大量に蓄積する。この結果は、生
オールのB 環の酸化から大部分生じるボルタメトリー
育中のブドウ葉における F3',5'H の低発現によって支
電流は、事前に官能評価を行っている一連の赤ワイン
持された。ブドウ葉における F3',5'H の低発現とデルフ
。電気酸化した
の収斂味と有意に相関した(R2=0.68)
ィニジンを基本とするアントシアニン類の低いレベル
ワインフェノール類の重合として生じる、ガラス状炭
は、緑色、黄色、紫色そして黒色の果皮栽培種におい
素電極上での濃度依存的な封止膜形成が、A 環:B 環
て一致している。flavonoid 3',5'-hydroxylase 遺伝子
の酸化電流比をプロットすることによってモニターで
(F3',5'H)の発現は、生育中のブドウ葉において増加
きることを示唆している。この電流比は、収斂味に高
- 134 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
く相関(R2=0.77)し、フロログルシノール分解によ
Vol. 60, No. 4 (2009)
って事前に測定したように、ワイン中のエピカテキン
M.C. Vasconcelos, M. Greven, C.S. Winefield, M.C.T.
やエピガロカテキンのサブユニット濃度の合計に高く
Trought, and V. Raw: The Flowering Process of Vitis
2
相関(R =0.84)した。これらの結果は、収斂味の電
vinifera: A Review. pp. 411-434.
気化学的測定が、ガラス状炭素電極での濃度と封止効
[総説:Vitis viniferaの花芽形成過程]
果に相関することを示している。サンプル調製のため
Vitis viniferaの花芽形成は2シーズンにわたる。巻き
のモデルワインマトリックスにおいて、単純な希釈を
ひげと花序は原基または未分化原基として知られて
利用することで、サイクリックボルタメトリーは、赤
いる共通の起源から発生する。未分化原基の運命は、
ワインの収斂味と分析応答を相関させる努力の中で、
サイトカイニン-ジベレリンのバランスに依存して
確立された分析方法(例えば、タンパク沈殿や液体ク
おり、サイトカイニンは花芽形成を促進し、ジベレリ
ロマトグラフィー)と好適に比較される。
ンはそれを抑制する。高温や光照射は花芽形成の誘導
刺激となる。日長あるいは春化は花芽形成の誘導にあ
TECHNICAL BRIEF
まり関係ない。陰芽における花序原基の発生は、梢の
A. Bosso, M. Guaita, L. Panero, D. Borsa, and R. Follis:
周皮が形成されるおよそ1ヶ月前ごろ、2次、3次分枝
Influence of Two Winemaking Techniques on Polyphenolic
が形成した後に止まる。個々の花が分化する前に花序
Composition and Color of Wines. pp. 379-385.
が更なる分枝を行うとともに、芽は休眠後生育を再開
[ワインのポリフェノール組成と色に対する 2 つのワ
する。萌芽時期の暖かい気候は更なる花序の分化に適
イン醸造技術の影響]
しており、梢に付く房の数を多くする。一方、この時
発酵浸漬中のポリフェノール(アントシアニン類や
期の涼しい気候は、房に付く花の数が多く、梢に付く
フラボノイド類)の抽出や、ラッキング時や熟成 7 ヵ
房の数が少なくなるように分化させる。環境および栽
月後のワインのポリフェノール組成や色に関して、ア
培管理もまた、光合成および栄養条件に直接的あるい
ントシアニン抽出延長(DE)とマスト分離(SM)と
は間接的に影響を及ぼすことによって、花芽形成に影
いう 2 つのワイン醸造技術を試験した。これらの技術
響する。樹冠内への光入射を促進する栽培管理は花芽
は、果皮の果帽に対する機械的操作の頻度や強度を減
分化開始に適しており、一方、遮光につながる栽培管
少させたり、浸漬の最初の数日間、マストへの酸素吸
理は花芽分化の開始という点では不利益になる。植物
収を制限したりすることからなり、つい最近圧搾した
ホルモンを介した遺伝子の制御下で、花の形成は一連
マスト(DE)
、または引き抜き(SM)後、取り組んで
の連続したステップを通し行われる。第一の遺伝子の
いる。ラッキング時にこれらの 2 つの技術で製造した
変化は、花芽分裂組織決定遺伝子の活動を通して、異
ワインは、浸漬の最初の日から開始する空気での数回
なった環境および生育シグナルに反応する、栄養成長
のポンプオーバーを行っている伝統的なワイン醸造技
から花成への変換スイッチである。第二に、花形態形
術によって生産されるワインよりも、色がより多く、
成決定遺伝子の活動を通して、花芽原基は各器官の原
アントシアニン濃度(トータルやモノマー)やトータ
基の輪生に模倣される。第三に、花形態形成決定遺伝
ルポリフェノール濃度(トータルのフラボノイド類、
子は、異なる花の構造を形成する様々な組織を決定す
バニリンと反応性のあるフラバン類、プロアントシア
る下流の効果因子を活性化する。形成された花は両性
ニジン類)がより高かった。これらの違いは、熟成 7
花であり、多くは自家受粉されるが、他家受粉も起こ
ヵ月後にほぼ安定的に維持された。ポリフェノール類
る。受精は雨の多い涼しい気候により妨げられ、乾燥
のより多い抽出は、ブドウ中に自然に存在するペクチ
した暖かい気候により促進される。
ン分解酵素活性の、より良い状況に原因があるようで
あった。アントシアニンの抽出増加率%は、ポリフェ
A.K. Mansfield and Z.M. Vickers: Characterization of the
ノール抽出増加%より低く、収穫年やブドウの組成で
Aroma of Red Frontenac Table Wines by Descriptive
変動した。色の進展は、発酵浸漬中の酸素吸収の程度
Analysis. pp. 435-441.
に影響された。
[記述分析によるFrontenac種の赤ワインのアロマの
- 135 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
特性決定]
同程度であった。Merlotでは苦味とアルコールの焼け
Frontenac(Vitis spp. MN 1047)は低温耐性の赤ワイ
る感覚に有意差は認められなかった。
以上の結果より、
ン用ブドウとして近年導入され、米国中西部の北部地
貯蔵温度と貯蔵時間は、熟成ワインに特徴的な化合物
区で最も多く栽培されている品種である。Frontenacは
の組成に影響を与えるが、
収斂みには影響を与えない。
サクランボ、黒スグリ、プラム、スパイスを主要な香
Cabernet Sauvignonではタンニンの濃度は収斂みに正
りとして持つと言われてきたが、多くのFrontenac種の
の相関(r = 0.882)を示したが、SPPやLPPは両品種と
ワインでこのような特徴が知覚されるのかを決定する
も収斂みとの相関は低かった。
共通官能特性の構成的評価が行われていない。これら
のワインのアロマを表現するための一連の記述子を開
J.F. Harbertson, M.S. Mireles, E.D. Harwood, K.M. Weller,
発するために、市販の6つの製品を用いて、記述分析を
and C.F. Ross: Chemical and Sensory Effects of Saignée,
行った。ブドウに共通の特性を調べるため、ミネソタ
Water Addition, and Extended Maceration on High Brix
州のいろいろなワイナリーから異なる製造法で作られ
Must. pp. 450-460.
たワインを集めた。ワインを特徴づける13の記述子を
[高糖度マストに対するセニエ、加水、かもし延長が
定義した。相関分析をした結果、これらの特性は分離
化学的および官能的特性に与える影響]
し、同じ傾向の物は無かった。13のすべての記述子は
単一圃場から収穫したMerlot(11,209 kg/ha、ワシン
Frontenacワインを表現・区別するために有用である。
トン州コロンビア川地区)
(28 Brix)を用いて5つのワ
イン醸造法を用いてワインを製造した。
(1)高糖度マ
R.R. Villamor, J.F. Harbertson, and C.F. Ross: Influence of
ストを補正するために24.3 Brixまで加水(コントロー
Tannin Concentration, Storage Temperature, and Time on
ル)
、
(2)26.8 Brixまで加水(高エタノール)
、
(3)全
Chemical and Sensory Properties of Cabernet Sauvignon
量に対して16%までセニエ(果汁除去)後、等量の加
and Merlot Wines. pp. 442-449.
水(最終24.1 Brix)
(低セニエ)
、
(4)低セニエ処理後
[Cabernet SauvignonおよびMerlotワインの化学的お
20日間のかもし延長(低セニエ-EM)
、
(5)32%までセ
よび官能的特性に与えるタンニン濃度、貯蔵温度、お
ニエし、24.3 Brixまで加水(高セニエ)
。全ての処理は
よび貯蔵期間の影響]
企業設備の18,972 Lの発酵槽で反復で行った。処理間
Cabernet SauvignonおよびMerlotの若くビン詰めされ
でアントシアニン、ポリマー色素(低分子および高分
たワインの化学的および官能的特性に影響を与えると
子)
、タンニン、全鉄反応性フェノール化合物の違いが
考えられる貯蔵条件について試験を行った。低濃度
みられた。標準的な加水(control)と低セニエ処理で
(400 mg/L以下)および高濃度(800 mg/L以上)のタ
は同程度のタンニン、アントシアニン、ポリマー色素
ンニン濃度のワインを23℃で0日間を基準として、
27℃
の抽出が見られた。アントシアニン、タンニン、高分
または32℃で40、55および70日貯蔵し、化学分析およ
子ポリマー色素の抽出量は多量の果汁を除去した区分
び官能分析を行った。低タンニンおよび高タンニンワ
(高セニエ)とかもしを延長した区分で有意に増加し
インともに、32℃の貯蔵により低分子ポリマー色素
た。これらの結果から果皮や種子から抽出されるタン
(SPP)が有意に増え(p≤0.05)
、アントシアニンは終
ニンの比率はワイン製造の処理によって異なることが
始減少した。この傾向はCabernet Sauvignonで顕著であ
示された。低セニエ-EMでは、他の処理に比べ種子の
った。両品種とも、高タンニンワインは高分子ポリマ
抽出率が上がり、
訓練したパネルによる官能検査では、
ー色素(LPP)が低タンニンワインより有意に多かっ
スムースさに欠け他の処理よりもドライであった。高
た(p≤0.05)
。一般的には、滴定酸度とpHは貯蔵処理
エタノールワインはフレッシュな果実香が有意に失わ
に影響を受けなかった。訓練したパネル(21名)によ
れ、
「熱い」感覚が増加した。
り官能試験をした結果、両品種において高タンニンワ
インでは収斂みが低タンニンワインより強く、この結
J.P. Smith and B.P. Holzapfel: Cumulative Responses of
果は一貫して認められた。
32℃で70日間貯蔵した場合、
Semillon Grapevines to Late Season Perturbation of
苦味が増加したが、アルコールの焼けるような感覚は
Carbohydrate Reserve Status. pp. 461-470.
- 136 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
[シーズン後半での炭水化物貯蔵状態の変化に対す
その生成の検出、定性、影響を与える要因の特定には
るセミヨンの累積反応]
電子常磁性共鳴(EPR)スピントラップ法を用いた。
オーストラリア、ニューサウスウェルズの温暖な内
全ての実験及び処理において、1-hydroxyethyl radicalの
陸部2箇所の4地点において、成熟開始時の摘房あるい
スピンアダクトだけが検出され、Fenton反応(ヒドロ
は収穫時での完全除葉に対する炭水化物貯蔵、シーズ
キシルラジカルの生成とこれに続くエタノールの酸
ン内の成長および次シーズンでの生育を検討した。2
化)がワインの酸化における主要なルートであること
シーズン連続した早期の摘房は、木質部での減少に対
が示唆された。鉄、銅およびこれら両方を赤ワインに
し、根の非構造性炭水化物を増加し、結果として、房
添加した場合、スピンアダクトが著しく増え、極微量
を収穫時まで付けておいた3シーズン目の収量は60%
の金属がワインの酸化の触媒に必須であることが示さ
まで増加した。対して、収穫時の除葉は非構造性炭水
れた。亜硫酸を過剰に含む白ワインへカテキンを添加
化物の濃度を減少させ、除葉処理した次シーズンの収
した場合、ラジカル生成の初期速度は変化しなかった
量は22%、2シーズン後の収量は50%まで減少した。早
が、実験の後半において助酸化(prooxidative)的であ
期の摘房で得られた高収量は、萌芽から収穫間の炭水
った。
亜硫酸は濃度依存的にラジカル生成を阻害した。
化物貯蔵量の枯渇と相関が認められ、収穫後まで貯蔵
量の回復は起こらなかった。しかしながら、除葉によ
M.S. Cabeza, M.G. Merín, M.C. Martín, D.C. Sabaté, M.C.
る低収量のブドウ樹においては、果実の成熟前に炭水
Audisio, and V.I. Morata de Ambrosini: Effect of a
化物貯蔵量が回復した。これらの結果は、成熟した果
Pectinase-Surfactin Preparation on Extraction of Pigments
実の炭素要求および収穫後の光同化能は、前シーズン
and Total Polyphenol from Malbec Grape Skins. pp.
の炭素レベルに対する炭水化物貯蔵量の回復を限定す
477-483.
ることが出来ることを示唆する。試験地点における永
[Malbecブドウ果皮からの色素および全ポリフェノ
年組織中の非構造性炭水化物量の著しい違いや花芽形
ール抽出におけるペクチナーゼ- Surfactin処理の影
成、栄養成長の状況の相違は、水分欠乏によるものと
響]
思われた。炭水化物貯蔵と果実および梢の生育との相
Malbecブドウ果皮の短時間かもし期間中に、Bacillus
関関係は、環境要因あるいは栽培要因によりブドウ樹
sp. SC-H由来のペクチナーゼを作用させ、アントシア
は乱されると、炭水化物を同化し、貯蔵能により決め
ニン類、他の色素類、全ポリフェノール類を抽出した
られた量まで炭水化物を回復するフィードバック制御
場合について、Bacillus subtilis C4由来のsurfactinの添加
機構が存在することを示唆する。
効果を調べた。発酵前抽出として、エタノールを含ま
ない抽出液で、
果肉および種子を含まない果皮を2時間
R.J. Elias, M.L. Andersen, L.H. Skibsted, and A.L.
抽出した。色調は三刺激比色分析計、従来のインデッ
Waterhouse: Key Factors Affecting Radical Formation in
クス(カラーインデックス、色調、全ポリフェノール
Wine Studied by Spin Trapping and EPR Spectroscopy. pp.
濃度)とHPLCによるアントシアニン類の分析で測定
471-476.
した。カラーインデックスは通常の分析では2.878 ±
[スピントラップおよびEPRスペクトル分析による
0.281であったが、ペクチナーゼに0.095% surfactinを加
ワイン中のラジカル生成に影響を与える主要因子決
えた場合5.500 ± 0.107へ、ペクチナーゼに0.286%
定]
surfactinを加えた場合は6.036 ± 1.013へと増加した。全
ワインの非酵素的酸化は官能特性に大きな影響を
ポリフェノール濃度は、通常の抽出では555.77 ± 5.00
与え、従って品質に影響する。長い間ワインの酸化に
mg GAE/Lであったが、前述の条件ではそれぞれ769.71
関する研究が行われてきたが、ごく最近になって、ワ
± 38.21 mg GAE/Lと769.05 ± 8.40 mg GAE/Lへと増加し
イン熟成中のラジカル中間体の役割が重要視されるよ
た。アントシアニン関連物質(特に赤ワインの色を決
うになった。本研究ではフリーラジカルの生成および
定する主要な色素であるmalvidin誘導体)はブドウ果
抑制に対する種々のワイン成分の影響を検討した。実
皮から速やかに遊離した。酵素処理および酵素処理+
際のワインの系で生成する主要なラジカル種に対して、
surfactin 処理により、Malvidin-3-glucosideは10%およ
- 137 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
び15%、malvidin-3-acetyl-glucosideはそれぞれ21%およ
て影響を受けるようである。
び29%、それぞれ増加した。色差計の分析では、赤色
色素は通常の抽出より向上し、抽出液は濃く、より鮮
K. Fujita, M. Shimazaki, T. Furiya, T. Takayanagi, and S.
明な色調となり、surfactin濃度が高い場合に最高値とな
Suzuki: Genetic Variation among Koshu (Vitis vinifera L.)
った。ブドウ果皮の短期抽出の場合、酵素とsurfactin
Accessions Generated by Retrotransposon Insertion into
の同時使用は、インデックスとアントシアニン濃度を
Genome. pp. 490-496.
促進した。しかし、全果粒やワイン製造条件での効果
[ゲノム内へのレトロトランスポゾン挿入により生
についても実験する必要がある。ワイン製造のための
じた甲州ブドウ樹間の遺伝的相違]
新規な技術として、赤ワインのかもしにおけるペクチ
甲州ブドウは日本に土着した品種であり、日本では
ナーゼ- surfactin複合使用を提唱するには、さらに実験
白ワイン醸造用品種として栽培される。収量、果実形
が必要である。
質、形態的特徴、そして遺伝的相違による甲州ブドウ
樹の分類は機能的になされていない。我々は、栽培地
A. Nogales, J. Luque, V. Estaún, A. Camprubí, F.
の異なる甲州ブドウ樹間に遺伝的相違が存在すること
Garcia-Figueres, and C. Calvet: Differential Growth of
を こ こ に 報 告 す る 。 inter-retrotransposon amplified
Mycorrhizal Field-Inoculated Grapevine Rootstocks in Two
polymorphism(IRAP)法のため、8種類のレトロエレ
Replant Soils. pp. 484-489.
メントを選択し、16種のレトロトランスポゾン特異的
[連作土壌2箇所における菌根菌接種ブドウ台木の異
PCRプライマーを作製した。136のプライマー組み合わ
なる成長]
せにより、731のPCR増幅バンドを得た。そのうち、24
スペイン北東部の地中海近辺の連作土壌2箇所にお
のプライマー組み合わせから増幅された35のPCR増幅
いて、カベルネ・ソーヴィニヨンを接ぎ木した台木
バンドで甲州ブドウ樹間に差が認められた。同じブド
161-49 Couderc (Vitis riparia Michx.×Vitis berlandieri
ウ樹から継いだブドウ樹では、そのような差は認めら
Planch.) お よ び 140 Ruggeri (Vitis rupestris L. × V.
れなかった。この方法により得られたPCR増幅バンド
berlandieri)の菌根菌接種の評価を行った。1番目の土壌
パターンを解析した結果、調査した甲州ブドウ樹は3
(ブドウ畑1)は10年間鋤き込みを行ってきた。2番目
つの遺伝的グループに分類されるようであった。この
の土壌(ブドウ畑2)は新しい植栽の前に1年間栽培さ
結果は、甲州ブドウ樹間には遺伝的な違いが存在し、
れ、ならたけ病Armillaria mellea (Vahl:Fr.) P. Kummに
その相違はゲノム内のレトロトランスポゾン挿入の違
犯されていた。植栽の前に土壌に存在する菌根菌の数
いにより生じることを示している。
は、ブドウ畑1で土壌100 mL中1であり、ブドウ畑2で
は検出されなかった。各台木の半分のブドウ樹にアー
J.R. Úrbez-Torres, P. Adams, J. Kamas, and W.D. Gubler:
バスキュラー菌根菌Glomus intraradices Schenck and
Identification, Incidence, and Pathogenicity of Fungal
Smith (BEG 72)を接種した。ブドウ畑2において、G.
Species Associated with Grapevine Dieback in Texas. pp.
intraradicesがコロニー形成を行うThymus vulgaris L.(タ
497-507.
イム)およびLavandula officinalis Mill.(ラベンダー)
[テキサスで確認されたブドウ立ち枯れ病と相関す
を2列植える前に、菌根菌を土壌にも接種した。ブドウ
るカビの同定、発生率および病原性]
畑1の140 Ruggeriの生育には、植栽後19ヵ月経った2年
ブドウの胴枯れおよび立ち枯れはテキサスのブド
目の生育シーズン末に直接土壌接種による有益な影響
ウ畑でよく確認される。しかし、テキサスでブドウの
が認められた。接種を行った161-49 Coudercのバイオマ
胴枯れを引き起こす病原体の同定報告はなされていな
スはブドウ畑2で増加したが、ブドウ畑1では増加しな
い。2007年から2008年の間に、テキサスの45のブドウ
かった。菌根菌を有する植物を先に植栽することによ
畑から胴枯れの初期症状を示す試料を回収し、カビの
り、連作土壌の菌根菌の能力は高まった。アーバスキ
同定を行った。Lasiodiplodia theobromae、Botryosphaeria
ュラー菌根菌接種に対するブドウ樹の反応は、ブドウ
dothidea 、Neofusicoccum parvum 、Diplodia seriata 、
畑の内在的状態や、台木の種類、植栽後の期間によっ
Diplodia corticola、Phomopsis viticola、Eutypella vitis、
- 138 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
Diatrypella sp.、Truncatella sp.、Pestalotiopsis uvicola、
ハク酸/mol GABAであった。ブドウ果汁中の初期濃度
Pestalotiopsis sp.の11種のカビがブドウ胴枯れ病を示す
に依存し、50%以上のコハク酸がGABA由来と考えら
試料から分離され、形態的特徴およびリボゾーマル
れた。この結果は、GABAの代謝に関する新規な知見
DNA配列(ITS1-5.8S-ITS2領域)から同定された。
を与えるものであり、ワインの酸度の制御性を向上さ
Botryosphaeriaceae spp.はテキサスのブドウ立ち枯れか
せる可能性がある。
ら最も分離されたカビであり、次はPestalotiopsis spp.、
P. viticola、Diatrypaceae spp.であった。実験室の条件下
P.C.S. Leão, S. Riaz, R. Graziani, G.S. Dangl, S.Y. Motoike,
において、レッドグローブ、カベルネ・ソーヴィニヨ
and M.A. Walker: Characterization of a Brazilian Grape
ンのリグニン化した梢にカビを接種することにより、
Germplasm Collection Using Microsatellite Markers. pp.
すべての種の病原性を検定した。L. theobromaeおよび
517-524.
N. parvumは、維管束に形成された壊死部分の大きさお
[マイクロサテライトマーカーを用いたブラジルの
よび再分離率にもとづき、最も病原性が高かいと判断
ブドウ生殖質コレクションの特徴]
された。L. theobromaeおよびN. parvumの病原性に次ぐ
7つのSSR遺伝子座、VVS2、VVMD5、VVMD7、
P. viticolaは成熟した梢内でコロニー形成を行い、維管
VVMD27、VVMD31、VrZAG62およびVrZAG79を用
束の壊死を引き起こした。E. vitisおよびDiatrypella sp.
いて、ブラジルのEmbrapa Semi-Áridoで保存している
もまた少なくともブドウ樹に対する病原性を有してい
221のブドウ生殖質コレクションを検定した。
これらの
た。これらすべての種はテキサスのブドウでは新しく
うち、187のブドウは3つのグループに分類できる対立
報告された病原菌である。さらに、ブドウ樹とD.
遺伝子座を持っていた。グループ1は、正確に同定でき
corticolaの関係も報告する。
る86のブドウから構成されていた。
グループ2は正確に
は明らかではないが、参考とする品種に適合した30の
B. Bach, F.X. Sauvage, S. Dequin, and C. Camarasa: Role
ブドウから構成された。グループ3は、如何なる参考品
of γ-Aminobutyric Acid as a Source of Nitrogen and
種にも適合しない71のブドウから構成された。グルー
Succinate in Wine. pp. 508-516.
プ3は、
国際的に有効な参考品種に適合しない11のブド
[ワインの窒素およびコハク酸源としてのγ-アミノ酪
ウと、参考となるものが存在しない60のブドウから構
酸(GABA)の役割]
成された。グループ3のSSR遺伝子座は、参考品種とし
Saccharomyces cerevisiaeは非タンパク性のアミノ酸
て役に立つかもしれない。
グループ3に属する19のブド
であり、ブドウ果汁中に存在する窒素源の一つである
ウで報告されている親品種のSSR遺伝子座を検討した
γ-アミノ酪酸(GABA)を資化することが可能である。
結果、6つのブドウは正しいことが確認された。これら
ワイン製造における酵母の発酵機序および副生成物生
の結果は、重要なブラジル品種のグループ確認用とし
成の観点から本アミノ酸の効果について研究した。
て、今後役に立つであろう。
GABAのマスト中の濃度は、ブドウの品種差、年、地
理的な違いにより、2~580 mg/Lの違いがある。γ-アミ
A.M. Vargas, M.T. de Andrés, J. Borrego, and J. Ibáñez:
ノ酸濃度は、果汁中の資化性窒素の20%以上になると
Pedigrees of Fifty Table-Grape Cultivars. pp. 525-532.
考えられる。市販のワイン酵母は、ワイン発酵の際、
[テーブルブドウ50品種の系統]
外因性のGABAを資化する能力を十分に有している。
優れたテーブルブドウの起源に関する情報は育種
窒素が律速になる場合は、γ-アミノ酸の資化率は酵母
を行う上で必要である。25個の核マイクロサテライト
の成長、発酵速度、グリセロールの生成に伴って増加
遺伝子座と5個の葉緑体マイクロサテライト遺伝子座
した。本結果より、マストの窒素含量とは関係なく、
にもとづき、テーブルブドウの親子鑑定を行った。50
GABAはワインのコハク酸源となることが示された。
品種の系統関係を分析し、必要ならば、形態学的分析
発酵中、コハク酸は還元的および酸化的なTCA回路に
も行った。葉緑体遺伝子座は大半の交雑を明らかにで
より糖から主として生産される。GABAからのコハク
きた一方、尤度比は推定された交雑において高い信頼
酸の生成率は、酵母の遺伝的機能により0.75~1 molコ
性を示した。19の新しい系統、例えばCircé、Imperial
- 139 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
Roja、Misket Vratchanskii、Mistress Hall、Pizzutello Nero
pp. 537-541.
は、高く隔離された地理的条件から品種として提案さ
[シャルドネワインにおいてEthyl Carbamate(EC)
れている。Delizia di Vaprio、Madeleine Angevineを含む
生成を抑制するためのワイン酵母株のDUR3遺伝子の
以前に報告された13品種の系統内では、間違いも確認
機能発現]
された。これら13品種の片親もまた同定された。残り
アルコール発酵中、Saccharomyces cerevisiaeはアルギ
の18品種では、
以前提唱された系統関係が確認された。
ニンをオルニチンと尿素へ代謝する。尿素はワイン酵
Muscat of Alexandria、Afus Ali、Muscat Hamburg、
母により代謝可能であるが、ブドウマスト中に良い窒
Chasselasはこれらの50品種の中で最も頻出する親であ
素源があれば、尿素の取り込みおよび代謝のための遺
った。
伝子の転写抑制がかかる。結果として、尿素は細胞外
に排出され、ワイン中のエタノールと反応し、発がん
RESEARCH NOTE:
性 の EC を 生 成 す る 。 ワ イ ン 酵 母 UC Davis 522
M.W. Fidelibus, L.P. Christensen, D.A. Golino, N.L. Sweet,
(Montrachet)
のDUR1,2遺伝子を構成的に発現すると、
and K.A. Cathline: Yield Components and Fruit
シャルドネワイン中でのEC濃度を89%減少させる。非
Composition of Five Barbera Grapevine Selections in the
尿素分解性酵母によって発酵中のブドウマストに分泌
San Joaquin Valley, California. pp. 533-536.
される尿素を再吸着するために、S. cerevisiae PGK1の
[カリフォルニア州サンホアキンバレーにおける5つ
プロモーターと終結シグナルによる制御化でDUR3遺
のバルベーラ系統の収量構成要素および果実成分]
伝子を構成発現させ、このカセットをS. cerevisiae株522
カリフォルニア州フレスノにおいて、カリフォルニ
のTRP1座に組込んだ。尿素取込み株522DUR3はシャル
ア大学デイビス校Foundation Plant Services(FPS)から
ドネワインにおいてECを81%下げ、高濃度尿素含有マ
提供されたバルベーラ(Vitis vinifera)系統の評価を行
ストにおいて、尿素分解型株22DUR1,2の約4倍効果的に
った。2000年夏に、バルベーラ系統FRP02、FRP03、
ECを削減した。
FRP04、FRP05、FRP06のポッド苗木を植栽し、2003
年から2006年までの間、果実収量と成分を年次ごとに
TECHNICAL BRIEF:
分析した。FRP02は果実成分、収量構成要素という点
M.D. Wheatley, E.A.R. Tattersall, R.L. Tillett, and G.R.
では、他の系統と同じであったが、果粒重量は他の系
Cramer:
統に比べ、10-25%重かった。FRP02の大きな果粒は房
Recirculating
をコンパクトにした一方で、白かび病の発生率が他の
Hydroponic Grapevine Culture. pp. 542-549.
系統に比べ2から3倍高くなる年もあった。FRP02、
[長期生存可能なブドウ水耕栽培のためのハイドロ
FRP05は同じ親木から得られたものであり、同じよう
ボールおよび循環型灌水システム]
An
Expanded
Drip
Clay
System for
Pebble,
Continuous
Viable
Long-Term
通気溶液栽培で1ヵ月以上ブドウ樹を栽培した結果、
な分析結果であった。それら系統の果実成分は他の系
統とも類似していたが、試験した系統の中で最も収量
栄養欠乏症状が認められた。溶液中の病原体あるいは
が高く、白かび病に対する感受性も中程度であった。
栄養分濃度に関する問題を取り除いた後、我々は、酸
FRP04は、試験を行った4年間のうち2年間で収量が低
素の拡散が限られているために、根が低酸素状態に陥
かったことを除けば、FRP03、FRP05と同様な分析結
ると仮説を立てた。正確な栄養分調整、水ポテンシャ
果を示した。FRP06は全く異なっており、早熟、小さ
ル、十分に排水される土壌を提供可能な循環型灌水シ
い果粒、低収量、剪定枝量比での収量の低さ、白かび
ステムを設計した。循環型灌水システムで37日間栽培
病に対する低感受性を示した。
したカベルネ・ソーヴィニヨン2年苗は生育旺盛であり、
健全であった。対して、通気溶液栽培で育てたブドウ
RESEARCH NOTE:
樹は元気がなく、葉に栄養欠乏症状と根の劣変が認め
M.S. Dahabieh, J.I. Husnik, and H.J.J. van Vuuren:
られた。通気溶液栽培の光合成、光化学系IIの機能、
Functional Expression of the DUR3 Gene in a Wine Yeast
気孔伝導度は、循環型灌水システムに比べ減少した。
Strain to Minimize Ethyl Carbamate in Chardonnay Wine.
低 酸 素 状 態 で 誘 導 さ れ る 2 つ の 遺 伝 子 、 alcohol
- 140 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
dehydrogenase IIおよび-amylaseの転写産物量は、通気
ANOVA の結果、色調、色度、滴定酸度が地域により
溶液栽培で6日後にゆっくりと上昇したが、
循環型灌水
異なった。2006 年産ワインは色調、色度、エタノール
システムではこれら遺伝子産物量の増加は認められな
含有量が異なった。以上のデータから、ナイアガラ半
かった。これらの結果は、木質の根を持つ成熟したブ
島内のサブ・アベラシオンにて、化学分析と官能評価で、
ドウ樹は、通気溶液栽培ではゆっくりと且つ慢性的に
ワインの相違を示すことが可能であることが示された。
低酸素ストレスを受けることを示唆する。対して、循
環型灌水システムで育てられたブドウ樹には低酸素症
J. Langlois, J. Ballester, E. Campo, C. Dacremont, and D.
状は認められなかった。このように、循環型灌水シス
Peyron: Combining Olfactory and Gustatory Clues in the
テムはグリーンハウス内でブドウ樹を長期的に栽培す
Judgment of Aging Potential of Red Wine by Wine
るためのシステムであり、十分に排水される土壌によ
Professionals. pp. 15-22.
く似た条件で、非生物的ストレス負荷試験や根のサン
[ワイン専門家による嗅覚と味覚を合併した赤ワイ
プリングが容易であるという優位性を有している。
ンの潜在熟成能の評価]
ヴァン・ド・ギャルドとは、熟成しておいしくなる
Vol. 61, No.1 (2010)
ワインという概念であるが、ヴァン・ド・ギャルドの
J.H. Rezaei and A.G. Reynolds: Characterization of Niagara
要因として比較的重要な、嗅覚と味覚情報を決定する
Peninsula Cabernet franc Wines by Sensory Analysis. pp.
ことを目的とした。最初に、若いワインの潜在熟成能
1-14.
の評価に寄与する嗅覚情報を調べた。ブルゴーニュの
[ナイアガラ半島のカベルネフラン・ワインの官能評
専門家は鼻先で感じる(orthonasal)香りと全体として
価による特徴]
の評価により、2005 年ワインを 26 の赤ワイン・カテ
ナイアガラ半島のカベルネフランについて、2005 年
ゴリーに分けた。次に、潜在的熟成能を有するワイン
に 9 種および 2006 年に 8 種のワインを試釀し、
その違
として感じられる香りについて調べた。専門家により
いが、ナイアガラ地区の原産地呼称システムを支持す
潜在熟成能のあるワインとされた 26 種の赤ワインに
るか調べた。訓練された 12 名の審査員にて、6 種の香
ついて、
記述的評価の熟練者により香りを記述させた。
味(赤果実、ブラックチェリー、黒すぐり、黒胡椒、
そして、鼻先官能評価を特異的香りとして、特徴付け
ピーマン、サヤマメ)と 3 種のマウスフィール(収斂
た。最後に、潜在熟成能に香りと一緒に貢献する、味
味、苦味、酸味)および色の強度について評価した。
とマウスフィールについて調べた。熟練官能記述パネ
データは分散分析(ANOVA)
、主成分分析(PCA)
、
ルはワインの味(甘味、酸味、苦味)およびマウスフ
判別分析にて解析した。官能データの ANOVA では、
ィール(アルコールと収斂味)も評価した。結果は、
全ての官能特性について、
地域による相違が示された。
専門家の潜在熟成能に関する判定に対し、香りは幾つ
2005 年産ワインについて、Ch. Des Charmes(CDC)
、
かの傾向(ヒント)を提供した。この嗅覚傾向は、幾
Henry of Pelham(HOP)
、および Hernder 地区のワイン
つかのワインの潜在的熟成能を評価するのに十分であ
は、ANOVA で最も高い赤果実の香味を示した。
ったが、全てのワインは評価できなかった。嗅覚評価
Lakeshore、ナイアガラ河地区(Harbour、Reif、George、
から、潜在熟成能のあるワインは木質的、カラメル、
Buis)のワインは、大河に近く、冷涼な気候のため、
焦げた香り及びプルーンの香りを持つ傾向が示された。
ピーマン、サヤマメの香味が高かった。2006 年産ワイ
味とマウスフィールも、潜在熟成能の専門家判定に傾
ンは、黒胡椒香を除き、全ての官能特性が異なった。
向を提供した。全体的評価で、潜在熟成能のある赤ワ
PCA の結果、HOP と CDC 地域のワインは、赤果実、
インは、収斂味が高く、酸度が低かった。以上、専門
黒すぐり、ブラックチェリーの香味、および黒胡椒の
家は嗅覚と味覚を合体させ、潜在熟成能を評価してい
味が強かった。一方、Hernder、Morrison、George 地区
ることが示された。ヴァン・ド・ギャルドには、広範
のワインはサヤマメの香味が強かった。Buis のワイン
囲の複雑な官能的特徴(色、香り、味、マウスフィー
は産地がオンタリオ湖に近く、冷涼であることから、
ル)が関与している。
ピーマンの香味が高かった。2005 年産ワイン分析値の
- 141 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
E. Chorti1, S. Guidoni, A. Ferrandino, and V.
処理で最も低く(22.1 mg/L)なった。更に、ゲヴュル
Novello: Effect of Different Cluster Sunlight Exposure
ツトラミナーの活性炭処理では、高級アルコール濃度
Levels on Ripening and Anthocyanin Accumulation in
が高くなった。
小麦グルテン処理では 1-ヘキサノール、
Nebbiolo Grapes. pp. 23-30.
3-メチル-1-酢酸ブタノールおよび 2-メチル-1-ブタノ
[異なる果房日射条件がネッビオーロの成熟とアン
ール濃度が有意に減少した。ベンゼンエタノールは
トシアニン蓄積に及ぼす影響]
Sparkalloid、小麦グルテン、ベントナイト処理で有意
ネッビオーロの成熟期の果皮アントシアニン蓄積
に低かった。逆に、ベンゼンエタノールはアイシング
における日射と温度の影響を調査した。
2006 年と 2007
ラス処理(85.2 mg/L)と活性炭処理(74.7 mg/L)で最
年にプラスチックネットと除葉により 5 種類の着果部
も高かった。ゲヴュルツトラミナーのベントナイト処
位(Fruit-zone)への光照射条件を設定した。遮光処理
理では、2-酢酸フェネチルとリナロールが最も低かっ
は着果~ベレゾーン、着果~収穫、ベレゾーン~収穫
た。両品種のワインにて、訓練していないパネルで、
の 3 つの期間を設けた。着果部位への遮光は 1 樹当た
デュオ-トリオ試験で処理による変化を評価したとこ
り収量と果房重に影響を与えなかった。前半の着果部
ろ、危険率は> 0.05 で有意差は認められなかった。本
位遮光は果粒発育を若干遅延させたが収穫期の果粒サ
研究にて、ファイニング剤はワインに化学的・官能的
イズを低下させることはなかった。着果部位遮光は可
影響を与えることが証明され、ワインの品質を維持す
溶性固形物およびアントシアニン蓄積を減少させた。
るためには、最適なファイニング剤の選択が重要であ
概して果実への遮光は 3-水酸化アントシアニン濃度を
ることが示された。
減少させ、3,5-水酸化アントシアニンを増加させた。
着果部位の除葉は果粒の発達の遅延を引き起こしたが、
S. Meillon, V. Dugas, C. Urbano, and P. Schlich: Preference
収穫時の果粒サイズ、果房重、収量には影響を与えな
and Acceptability of Partially Dealcoholized White and Red
かった。過剰な日射は日焼け傷害を引き起こし、可溶
Wines by Consumers and Professionals. pp. 42-52.
性固形物とアントシアニン蓄積量の増加をもたらさな
[部分脱アルコール赤および白ワインの消費者およ
かった。
び専門家の好みと受容度]
ワインの部分的脱アルコールの消費者評価と受容度
M. Sanborn, C.G. Edwards, and C.F. Ross: Impact of Fining
への影響を調べた。白ワイン 2 種(シャルドネとソー
on Chemical and Sensory Properties of Washington State
ビニヨンブラン)および赤ワイン 2 種(メルローとシ
Chardonnay and Gewürztraminer Wines. pp. 31-41.
ラー)について、ブドウ品種により 3 段階のアルコー
[ワシントン州シャルドネとゲヴュルツトラミナー・
ル濃度(14%から 10%)になるように、逆浸透膜を使
ワインのファイニングが化学的・官能的性質に及ぼす
用し、部分的に脱アルコールした。79 名のフランス人
影響]
消費者がワインを評価した。最初に、ブラインドで評
ファイニングがワシントン州白ワインに及ぼす化学
価し、次に情報を与えてから評価した。35 名のフラン
的、
官能的影響を調べた。
ファイニングされていない、
ス人専門家も同じワインをブラインドで評価し、非公
市販ワインのシャルドネとゲヴュルツトラミナーをベ
式の 10 の記述子について強度を評価した。
ワイン専門
ントナイト(1000 mg/L)
、アイシングラス(60 mg/L)
、
家は、低アルコールワインを官能的に好きではなかっ
Sparkalloid(360 mg/L)
、活性炭(450 mg/L)
、全乳(500
た。一方、消費者の好みは明確ではなく、強い区分け
mg/L)
、あるいは小麦グルテン(400 mg/L)で処理し
が出来なかった。経験のある消費者の好みは、ワイン
た。ドデカン酸エチルはシャルドネの処理で有意に異
専門家と同様であり、低アルコールワインを好まなか
なった唯一の揮発性化合物で、対照が 0.031 mg/L と最
った。ワイン専門家は、低アルコールワインを、ホッ
も高く、ベントナイト処理で 0.017 mg/L と最も低かっ
トさが足りなく、甘く、味の持続性があり、標準ワイ
た。逆に、ゲヴュルツトラミナーでは処理により、多
ンよりバランスされていると評価した。脱アルコール
くの揮発性化合物が有意に異なった。酢酸エチルは活
の情報を一度与えると、消費者の好みは変わり、消費
性炭処理で有意に最も高く(25.4 mg/L)
、Sparkalloid
者によって、情報が否定的あるいは肯定的に強調され
- 142 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
た。以上より、官能評価や商品の好みについて、情報
ついて果粒サイズ、変形率または柔軟性、着色、果房
供与の重要性が明らかとなった。
重、および可溶性固形物における変動性を各要素の相
関係数を計算することで調査した。変動性は果実発育
E. Aguera, M. Bes, A. Roy, C. Camarasa, and J.-M.
の初期で最も高く、収穫期までにかなり減少した。収
Sablayrolles:
during
穫時の果粒径の変動性は CF で 11%程度であり、変形
Fermentation to Obtain Reduced-Alcohol Wines. pp. 53-60.
率はコンコードで 38%ほどであった。CF の果房重の
[低アルコールワインを得るための発酵中のアルコ
変動性は 45%で、コンコードにおける可溶性固形物の
ール部分除去]
変動性は 14%に達した。果粒径、変形率および着色の
Partial
Removal
of
Ethanol
近年、
低アルコール・ワインの要求が増大している。
変動性はコンコードで CF より高かったが、可溶性固
低アルコール化には、ワインのアルコール抽出、マス
形物と果房重の変動性は CF で高かった。個々の果房
トの糖濃度の減少など、様々な技術が知られている。
内では、果房の下部 1/3 からの果粒は上部 1/3 からの
発酵中のエタノール抽出について、実用性と潜在的重
果粒に比べかなり可溶性固形物含量が高かった。これ
要性を調べた。100 L のパイロットスケールの発酵に
らの結果は、ブドウ園内で成熟の均一性の改善、収穫
て、
減圧蒸留または炭酸ガスと一緒に除去する方法
(ス
前の予備調査計画の最適化、およびジュースまたはワ
トリッピング)で、発酵の中間点で 2%のアルコール
イン生産のための果房に最高品質の果実のみの選抜を
を除去した。酵母にとってストレスの多い方法である
望む栽培者に価値がある。
が、発酵経過にネガティブな影響はなかった。逆に、
阻害物除去のためと考えられるが、
発酵速度は上昇し、
V. Komar, E. Vigne, G. Demangeat, O. Lemaire, and M.
発酵は簡単に終了した。発酵中の 2%アルコール除去
Fuchs: Comparative Performance of Virus-Infected Vitis
は、酵母の酸化還元代謝(グリセロール、酢酸)や香
vinifera cv. Savagnin rose Grafted onto Three Rootstocks.
気分子に由来する最終化合物濃度に影響した。両処理
pp. 68-73.
は、揮発性物質の濃度を低下(フーゼルアルコール
[3種類の台木に接ぎ木したウイルス感染したサヴァ
25%、エステル類 45%)させたが、これは、その後の
ニャン・ロゼ(Savagnin rose)の相対的生産力]
発酵で補うことができた。従って、対照と比べ最終的
3種類のVitis vinifera 品種サヴァニャンのクローンと
な濃度は、逆にグリセロールが 19%、イソブタノール
台木の感染状態が樹勢、収量および果実品質に及ぼす
が 32%増加した。更に、脱アルコールあり、なしで官
複合的影響について1999年から2004年にかけて圃場で
能評価に有意差はなかった。但し、若干、ネガティブ
の反復実験を行った。サヴァニャン クローン 511は
なストリッピングによる影響があった。発酵中に、ス
Grapevine leafroll-associated virus 1 (GLRaV-1) 、
トリッピングまたは減圧蒸留にて 2%のエタノールを
Grapevine virus A (GVA)、
Rupestris stem pitting-associated
除去する方法は、製品の官能品質を低下させずにワイ
virus (RSPaV)、vein mosaic、および vein necrosis (virus
ンのアルコール含有量を低下させる有望な手段である。
combination 1)に感染し、クローン 511A は RSPaV、
vein mosaic、および vein necrosis (virus combination 2)
V. Pagay, and L. Cheng: Variability in Berry Maturation of
に感染しており、クローン 511B は健全であった。全
Concord and Cabernet franc in a Cool Climate. pp. 61-67.
体的に見て感染状態と台木(Vitis rupestris、Kober 5BB、
[冷涼気候下でのコンコードとカベルネ・フランの果
161-49 Couderc)の間でサヴァニャン・ロゼの3種のク
粒成熟における変動性]
ローンのブドウ栽培上の生産能力における有意な相互
果実の成熟における変動性がその成分組成と最終
作用は認められなかった。これらの知見はvirus
的な品質に影響を及ぼす。試験は 2006 年と 2007 年に
combination 1と2に感染した穂木の栄養成長および生
ニューヨーク州フィンガーレイクの 2 か所の栽培園で
産能力と台木Kober 5BB、V. rupestrisと161-49 Couderc
商業的に重要な赤色ブドウ品種コンコードとカベル
におけるKober stem-grooving と rupestris stem-pitting
ネ・フラン(CF)における生物学的変動性の程度を評
syndromesに対する感受性の間に関連性がないことを
価するために行われた。ブドウ樹、果房および果粒に
意味する。それにもかかわらず、virus combination 1は6
- 143 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
年連続で樹勢を19%~23%、収量を42%~54%低下さ
モロッコのサンプル全体の遺伝的多様性は地中海周辺
せたが、いっぽう、virus combination 2は生長と生産力
の他の地域からの栽培ブドウにおいて報告されている
に 大 き な 影 響 を 与 え な か っ た 。 い ず れ の virus
ものに匹敵した。分析したサンプルにおいて優勢な葉
combinationも果汁の可溶性固形物あるいは滴定酸に有
緑体タイプは A と C で、V. vinifera の分布する西と東
意な影響を及ぼさなかった。
の地域で高率で検出された。モロッコでの収集系統と
他のブドウ品種における報告との比較は多数の異名同
A. Palliotti, O. Silvestroni, and D. Petoumenou: Seasonal
品種の存在を示し、特にモロッコとスペインで栽培さ
Patterns of Growth Rate and Morphophysiological Features
れる品種の間で顕著であり、このことは両地域の相互
in Green Organs of Cabernet Sauvignon Grapevines. pp.
交流の長い歴史を推定させた。モロッコのサンプル内
74-82.
での遺伝的関係の分析は栽培系統と野生サンプルを区
[カベルネ・ソ-ビニヨンの緑色組織における生長速
別した。野生サンプルは V. vinifera ssp. sylvestris (Gmelin)
度と形態生理学的特徴の季節パターン]
Hegi の自然集団の残存系統を示すと考えられる葉緑
ブドウの茎、花序、および果粒の光合成と呼吸につい
体タイプ A、あるいは栽培品種に由来する系統、すな
てよく知ることがソース/シンク率の役割の理解と樹
わち栽培ブドウ同士の自然交雑によって生じた古い品
冠の炭素バランスのモデル化に役立つと思われる。気
種を代表すると考えられる葉緑体タイプC を保有して
孔と葉緑体の特徴と相対生長速度、絶対生長速度、ク
いた。全体として結果はモロッコにおける栽培および
ロロフィル濃度、クロロフィル蛍光および二酸化炭素
野生ブドウの多様な遺伝的起源を示し、栽培および野
交換の季節的進展について圃場で育成しているカベル
生ブドウ遺伝資源のさらなる収集と特徴づけの必要性
ネ・ソ-ビニヨンにおいて調査した。開花期では、花と
を強調している。
茎は主要な葉よりそれぞれ3倍および30倍低い気孔密
度であった。花序と果粒の葉緑体と異なり、茎の葉緑
J.I.S. Hurtado, N.L. De Lerma, J. Moreno, and R.A.
体は明瞭なグラナを持ち、大きなデンプン粒を含んで
Peinado: Effect of Thermal Treatment and Oak Chips on the
いた。生長中の茎、花序および緑色果粒は良好な葉緑
Volatile Composition of Pedro Ximénez Sweet Wines. pp.
体の機能と Fv/Fm 収率が最大に近い(0.70-0.80)高い光
91-95.
化学反応効率という特徴を示した。高い成長速度の期
[加熱処理とオークチップのペドロヒメネス・スイー
間には、果粒と茎の呼吸速度は光条件と暗黒条件のい
トワインの揮発成分への影響]
ずれにおいても高かった。光条件下では花序、果粒お
全体的な酸化熟成期間を短縮するため、若い、甘口
よび茎における光合成の主要な役割は呼吸による二酸
のペドロヒメネス・ワインを 65℃で 10、20、30 日間
化炭素の再同化であった。生育シーズンを通して茎、
処理した。熟成したペドロヒメネス・ワインの典型的
花および果粒は大気中の二酸化炭素固定は行っていな
アロマ記述子に関連した揮発性アロマ化合物を
かった。光条件では、これらの組織は呼吸で生産され
GC/MS にて定量した。加熱処理中に、フルフラール誘
た二酸化炭素の 64%まで同化し、このことはブドウ樹
導体、ジヒドロマルトール、2,3-ジヒドロ-3,5-ジヒドロ
の炭素バランスに大きな貢献をすることができる。
-6-メチル-4H-ピラン-4-オンなど、メイラード反応生成
物が増加した。一方、2-メトキシ-4-ビニルフェノール
L.H. Zinelabidine, A. Haddioui, G. Bravo, R. Arroyo-García,
など、他の物質は減少した。オークチップを含むワイ
and J.M. Martínez Zapater: Genetic Origins of Cultivated
ンは、オークとバニラのアロマが増加した。以上、ペ
and Wild Grapevines from Morocco. pp. 83-90.
ドロヒメネス・ワインの加熱処理は、酸化熟成期間を
[モロッコの栽培および野生ブドウの遺伝的起源]
短縮する有効な手段と思われ、生産コストも下がると
遺伝資源コレクションおよび圃場で栽培されてい
考えられる。
たものと野生状態で発見された植物体からなるモロッ
コのブドウ(Vitis vinifera L.)収集物遺伝子型の分析に
D. Esmenjaud, C. Van Ghelder, R. Voisin, L. Bordenave, S.
核および葉緑体マイクロサテライト遺伝子座を用いた。
Decroocq, A. Bouquet, and N. Ollat: Host Suitability of Vitis
- 144 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
and Vitis-Muscadinia Material to the Nematode Xiphinema
[無病徴のブドウ繁殖材料における2種類のnested
index over One to Four Years. pp. 96-101.
PCR法によるAgrobacterium vitisの指標づけ]
[Vitis属とVitis-Muscadinia属間雑種における4年にわ
ブドウ癌腫の原因となるAgrobacterium vitisは苗木繁
たる土壌センチュウXiphinema index に対する宿主適
殖材料に体系的に感染し、腫瘍誘導条件に至るまで無
合性]
病徴でいる。無病徴のブドウ組織から抽出した総DNA
オオハリセンチュウXiphinema indexは世界中のブド
中にA. vitisを検出することのできる感度が高く、特異
ウ園においてブドウ樹の段階的樹勢低下を引き起こす
的診断ツールを2種類設定した。染色体遺伝子pehAと
ブドウファンリーフウイルス(GFLV)を特異的に伝
Tiプラスミド由来のvirAを標的とした2つの既存の標
搬する。センチュウ抵抗性台木は社会的非難を受けて
準PCR検定法から始め、2つのnested PCR検定法を開発
いる殺センチュウ剤に対する代替手段となりうる。
した。これらの検定法は単純でしかし効率的なDNA抽
我々は2つの独立した実験において制御環境下で40の
出と組み合わせることで感度が上昇した。供試した組
ブドウ属およびVitis-Muscadinia属間雑種におけるX.
織(台木の枝または幹、根、緑枝、葉)の種類、組織
index のisofemale line(採集された1匹の雌個体の子孫
の生理的状態
(休眠期の材料あるいは成長期の材料)
、
の兄弟姉妹交配を続けることで得られる系統)Fréjus
あるいは当然それらと関連している細菌群集の組成な
に対する宿主適合性(繁殖率、RF)の評価について報
どにかかわらず、結果はnested PCR法が無病徴ブドウ
告する。実験1では、培養または挿し木から育成した17
組織に存在するA. vitis DNAの検出において標準PCR
系統について1から3年後に、4系統は4年後も評価を行
法より2~5倍以上の効率を示した。全体の結果から、
った。センチュウは対照の台木であるV. rupestris du Lot
病原体の存在が明らかとなった2つのサンプルの1つは
と V. riparia Gloire de Montpellierでそれぞれ、初期と後
A. vitisの腫瘍形成系統に感染していることが明らかと
半に増殖した。Vitis-Muscadinia属間雑種の中では、1
なり、病気の蔓延の危険を強調している。
および3年後にVRH8624で高いRFを示し、いっぽう
VRH8771およびNC35-50では1に近いRFとなった。セ
P.E. Rolshausen, J.R. Úrbez-Torres, S. Rooney-Latham, A.
ンチュウ抵抗性台木候補であるRPG1(=VRH 8771 x
Eskalen, R.J. Smith, and W.D. Gubler:
Vitis属台木140Ru)および属間交雑のVRH 97-99-79は1
Pruning Wound Susceptibility and Protection Against Fungi
年目より4年目でRFが有意に高くなり、このことはセ
Associated with Grapevine Trunk Diseases. pp. 113-119.
ンチュウが植物の抵抗性要素に漸進的な適応をするこ
[ブドウ主幹病害に関連する菌に対する剪定傷の感
とを示唆する。ほとんどのVitis属系統は1年目および3
受性の評価と防御]
Evaluation of
年目いずれにおいても高いRFを示した。
低いRFが観察
主幹病害は世界中のほぼすべてのレーズン、生食お
された残りの系統では、根の発達が悪く、その結果と
よびワインブドウ生産地区においてブドウ園の寿命と
してセンチュウが宿主に食入するために根に接近する
生産性を制限している。これらの病害を引き起こす菌
ことが困難なためだと思われた。実験2ではVitis属23
は最初に剪定傷から感染する。これらの病害を制御す
系統において3年目で評価したところ、低いRFと根の
る一つの方法は剪定傷を殺菌剤施用により防御するこ
発達不良を示した2-3の系統を除いて高いRFを示した。
とであるが、それには登録資材の数が限定されている
以上のようにいくつかのマスカディンブドウ由来の属
こと、それらの資材が分類的に関連性のない多数の微
間雑種は他の地理的起源から得たセンチュウで確かめ
生物を制御することの困難さ、傷が感受性を持つ期間
なくてはならないがセンチュウ抵抗性の供給源となり
すべてを防御する資材という難題、防御資材を手作業
そうである。
で施用することの困難さと費用という問題がある。
我々の目標は主幹病害に関連する様々な菌に対するブ
F. Peduto, G. Marchi, and G. Surico: Indexing
Grapevine
て適用する場合に選択した殺菌剤におけるこれらの菌
Propagation Material by Two Nested PCRAssays. pp.
の制御に対する効力の評価を行うことである。この研
102-112.
究はカリフォルニア州ソノマ郡とコルサ郡にある2つ
Agrobacterium
vitis
in
Asymptomatic
ドウ樹の剪定傷の感受性を比較し、剪定傷防御剤とし
- 145 -
J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
のブドウ園において2年にわたり行った。Eutypa lata、
すると、ブドウ病害カビ分生子の発芽段階に対し、死
Botryosphaeria dothidea 、Diplodia seriata 、Dothiorella
滅率の向上が認められた。
viticola 、 Lasodiplodia theobromae 、 Phaeomoniella
chlamydospora、Pleurostomophora richardsiae、Togninia
RESEARCH NOTE:
minima、および Phaeoacremonium parasiticumの9種の
C. Adams, and H.J.J. van Vuuren: Effect of Timing of
病原菌を試験した。結果はこれらの菌による剪定傷で
Diammonium Phosphate Addition to Fermenting Grape
の感染率は異なることが示された。Botryosphaeriaceae
Must on the Production of Ethyl Carbamate in Wine. pp.
科の種が最も感染性が強く、T. minima、P. parasiticum、
125-129.
P. richardsiae、および E. lataは感染性が小さく、P.
[マスト発酵における燐酸二アンモニウム添加タイ
chlamydosporaは中程度の感染性であった。4種類の殺
ミングとカルバミン酸エチルの生成]
菌剤1% Topsin M(トップジンM)、Biopaste(5% boric
ブドウマストには、スタックを防ぐため、しばしば
acid in a wound-sealingpaste)、 1% Cabrio EG(カルビ
燐酸二アンモニウム(DAP)が添加される。マストへ
オ)、 および Garrison(ガリソン)を試験した。結果
の DAP の添加時期が、ワインのカルバミン酸エチル
はこれらの資材ですべての範囲の菌を有効に制御する
(EC)生成量に大きく影響する。EC 生成は使用酵母
ことの困難さを強調するものであったが、トップジン
によっても大きく異なる。発酵初期に DAP を添加す
Mが全体を通して最も効果を持つ資材であった。
ると、Pasteur Red は EC 生成量が少ない。一方、522
では発酵後期に DAP を添加すると、EC 生成量が少な
RESEARCH NOTE:
い。EC1118 では、DAP の添加時期で EC の生成量に
J.Y. Takemoto, M. Bensaci, A.J. De Lucca, T.E. Cleveland,
影響が少ない。代謝的に強化された酵母株、Pasteur
N.R. Gandhi, and V.P. Skebba: Inhibition of Fungi from
RedEC-、500 EC-、EC1118 EC-は構成的に DUR1,2 を発現
Diseased Grape by Syringomycin E-Rhamnolipid Mixture.
するが、これらの株は DAP の添加時期によらず、EC
pp. 120-124.
生成量が顕著に少なかった。
[シリンゴマイシン E-ラムノシドによる病害ブドウ
RESEARCH NOTE:
由来カビの阻害]
ブドウのカビによる疾病は、ワインの収量と官能評
D.L. Hammons, S.K. Kurtural, and D.A. Potter: Japanese
価を落とす。従って、より効果的なカビ抑制手段が求
Beetle Defoliation Reduces Primary Bud Cold Hardiness
められる。新規リポペプチド抗カビ剤の病害抑制効果
during Vineyard Establishment. pp. 130-134.
の評価を目的とした。ラムノリピド(RL)とリポデプ
[マメコガネによる除葉はブドウ園開設期における
シノナペプチドであるシリンゴマイシン E(SRE)の
主芽の耐寒性を低下させる]
混合物は、ルイジアナのブドウ園で重篤に感染したブ
昆虫による除葉が若齢ブドウ樹の冬の耐寒性を低
ドウ果実および茎より分離したカビに対し、SRE 単独
下させると考えられるが、そのような効果は圃場で生
より阻害活性が高かった。試験したカビは Aspergillus
育するブドウ樹においてこれまでに定量されたことは
japonicus, Cladosporium cladosporioides 、 Curvularia
ない。
マメコガネ
(JB)
の除葉によるノートン
(Norton)
、
branchyspora、Greeneria uvicola、Nigrospora sphaerica、
シャンブルサン(Chambourcin)および カベルネ・ソー
Trichoderma sp.、Penicillium sclerotiorum、P. thomii であ
ビニヨンの厳冬期における主芽の耐寒性に対する影響
った。これらのカビの発芽分生子の 50%阻害濃度は、
をブドウ園の定植時の最初の2年間調査した。
初年度は
SRE 単独で 0.75~3 M であり、
SRE + RL では 0.75~1
新梢長および周皮の褐色化に及ぼす効果について晩秋
M であった。非発芽分生子では C. brachyspora だけが、
まで調査した。複数の除葉レベルとする3つの処理、す
SRE 単独または SRE + RL で 50%死滅(< 1 M SRE)
なわち殺虫剤カルバリル(carbaryl)をJBの飛来期間(6
を示した。RL 単独では発芽または非発芽分生子に効
月中旬から8月中旬)に7日ごとあるいは14日ごと散布
果はなかった。以上より、SRE は抗カビスペクトルが
する区、および殺虫剤無処理区を設定した。休眠枝切
広く、強力な抗カビ活性を示した。また、RL と併用
り枝について2月に制御条件下での凍結ストレスを与
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J. ASEV Jpn., Vol. 21, No. 3 (2010)
え、主芽が50%致死する温度(LT50)を品種と処理区
い。ブドウ果皮からβ-ガラクトシダーゼを抽出し部分
の間で比較した。3品種すべてJBによる除葉は同じレ
精製する簡便な方法を提案した。この酵素の反応速度
ベルに維持され、農薬散布7日ごと、14日ごと、散布な
特性は他の果実のβ-ガラクトシダーゼのそれに匹敵す
しでそれぞれ軽度(3-8%)、中程度(13-26%)、強
る。この方法はトリトンX-114(非イオン系界面活性
度(38-48%)の範囲となった。ノートンとシャンブル
剤)の果皮成分の可溶化により酵素を遊離させる、ほ
サンの主芽は2年ともにカベルネ・ソ-ビニヨンより耐
とんどのフェノール物質と疎水性たんぱく質を除去す
寒性が強かった(LT50が低かった)。無散布区におけ
るという二つの効果により、比活性を56倍に上昇させ
るJBによる除葉は1年あるいは両年における3品種の
た。提案した方法はブドウ果粒成熟期間にこの酵素の
耐寒性を有意に低下させた。
特に2週ごとの散布区での
容易な抽出と部分精製をするために有効であると考え
ブドウ樹の耐寒性の対するJBによる除葉の悪影響を
られる。
軽減する効果は1週ごとの散布区と同程度であった。
除
葉は1年目の樹の新梢長を低下させ、
生育期後半の早い
TECHNICAL BRIEF:
段階での生長停止が関係していると思われる。これま
T. Preszler, T.M. Schmit, and J.E. Vanden Heuvel: A Model
では報告されていなかったJBによる傷害がブドウ幼
to Establish Economically Sustainable Cluster-Thinning
樹の耐寒性を低下させる可能性は、JBがより強い打撃
Practices. pp. 140-146.
を与える重大なブドウ害虫として憂慮される。
[経済的に持続性のある摘房法を確立するモデル]
摘房はブドウ樹の着果負担を軽減し、ワインの品質
RESEARCH NOTE:
を左右する可溶性固形物のような成熟パラメーターを
M. Pérez-Gilabert, E. Téllez, F. García-Carmona: Extraction
高める。しばしば圃場では何らかの特殊性もなく実行
and Partial Purification of β-Galactosidase from Grape
され、その実用性は生産コストの増大と収量の損失と
Berry Skin (Vitis vinifera L.) with Triton X-114. pp.
いう理由で疑問視される。一般的に利用できる収量と
135-139.
コストのデータを、ブドウ品質と支払意志額調査にお
[トリトンX-114によるブドウ(Vitis vinifera L.)果皮
ける推測したパラメーターに結び付ける新しい分析方
からのβ-ガラクトシダーゼの抽出と部分的精製]
法を導入した。結果は生産者が正確で定量的な意思決
モナストル(Monastrell)ブドウ果皮はガラクトース
を高い比率で含有し、β-ガラクトシダーゼ活性が低い
定の枠組みの中で最適の収量と価格を算出することが
できる注文に合わせた経営モデルとなる。
と思われる。この酵素の特性はほとんど知られていな
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