オープンイノベーション

オープンイノベーション
日本企業におけるイノベーションの可能性
ヘンリー・チェスボロー
カリフォルニア大学バークレー校
Haas ビジネススクール
Principal Investigator
Meyer Family Fellow
2013 年 3 月
目次
I.
謝辞
II.
概要
III.
オープンイノベーション-定義、原則、インパクト
IV.
オープンイノベーションの例:
ルニア大学バークレー校
V.
JSVIF の背景と目的
VI.
活動内容
VII.
主な議論のトピック
VIII.
結論
IX.
参考資料
A. 参加企業リスト
B. 2012 年 9 月 28 日会議議事録
C. 2012 年 12 月 14 日会議議事録
D. 2013 年 2 月 15 日会議議事録
IBM 、フィリップス、シーメンス TTB、カリフォ
I.
謝辞
この報告書は新エネルギー産業技術開発機構(NEDO)シリコンバレー事務所の依頼に基づい
て作成されたものであり、完成に至るまで多くの方々の協力を得た。このプロジェクトは
NEDO シリコンバレー事務所の小野寺修事務所長のイニシアチブでスタートし、小野寺氏
には今年度を通じてこのプログラムの監督をしていただくと共に、多くの貴重なフィード
バックをいただいた。JETRO サンフランシスコ事務所の岡田所長、在サンフランシスコ日
本国総領事館の桑原領事にもいろいろとご意見を頂戴し、会の発足の際のサポートもいた
だいた。また、会の運営にあたっては NEDO シリコンバレー事務所の岩筋彩氏、ショー
ン・カギヤマ氏にも多くの助力をいただいた。
今年度の 30 人以上の日本企業の米国拠点からの本プロジェクト参加者の方々にも感謝の
意を述べたい。参加企業リストは巻末の Appendix A を参照のこと。このレポートが日々
イノベーションの問題に向き合う皆さんにとって有益なものであることを願う。
最後に、カリフォルニア大学バークレー校 Haas ビジネススクールの博士課程に所属する
Yu Jin Kim 氏にも、計 3 回の会議の議事録の作成と彼女の韓国のイノベーション管理に関
わるインプットをいただいたことをここに感謝する。
※Yu Jin Kim さんによる会議の議事録は、この日本語版の報告書には添付されていません。参考資
料の議事録は NEDO シリコンバレー事務所で作成したものです。
II.
概要
日本企業は 1980 年代、1990 年代と様々な業界で世界のイノベーションをリードしてきた。
電化製品、自動車、造船、消費者製品などの分野で松下電器、トヨタ自動車、三菱、ソニ
ーなどは世界中から畏敬の念を抱かれる対象であった。トヨタ自動車など一部の企業は現
在も業界の最先端を行き、多くの日本企業が非常に強い技術力を維持している一方で、特
に家電製品などの業界においては日本企業が世界のイノベーションに後れを取っている状
況が明らかになっている。これは過去 10 年から 20 年の間に世界で成長したオープンイノ
ベーションの流れの進展、そして日本企業の多くがその流れに素速く反応できなかったこ
とが原因なのではないだろうか。
本報告書ではオープンイノベーションの概要を様々な例と共に紹介し、シリコンバレーに
事務所を有する日本企業一部とのオープンイノベーションに関する議論の結果を報告する。
これらの議論は 2012 年から 2013 年にかけて行われ、30 人以上の日本企業関係者が参加
した。会議は NEDO の出資を受け、JETRO サンフランシスコ事務所と在サンフランシスコ
日本国総領事館からの協力を得て、期間中合計 3 回行われた。この会議に参加した Japan
Silicon Valley Innovation Forum (JSVIF)のメンバーの多くはシリコンバレーで研究所などに投
資をしているが、それを最大限活用できてはいないと感じていた。そこで、日本企業がど
のようにシリコンバレーという場所を活かし、より効果的にオープンイベーションを行う
ことができるかを議論することとなった。これらの議論ではオープンイノベーションの提
唱者であるカリフォルニア大学バークレー校のヘンリー・チェスボロー教授がモデレータ
ーを務めた。
JSVIF メンバーはシリコンバレーを活用してオープンイノベーションを効果的に行うには
自社内の組織的なプロセスを変える必要があると感じている。より早く決断ができる方法
を考えることやシリコンバレー支部と日本本社のコミュニケーションをより効果的に行う
こと、シリコンバレーと日本がより密接かつ円滑に繋がるために新たな仲介組織の構築、
新たな職務権限の付与が必要であることなどが例として挙げられた。いずれも実行するこ
とは簡単ではなく、日本本社幹部からのリーダーシップが必要とされる。しかし幹部の認
識もさることながら、組織全体としてオープンイノベーションが必要であるとのビジョン
が共有されること、そして組織内の既存のプロセスを変えていく必要があるとの認識が得
られることが重要と思われる。
III.
オープンイノベーション:定義、原則、インパクト
オープンイノベーションとは、企業内部のイノベーション関連の活動が製品の製造やサー
ビスの企業内部における開発に繋がり、企業によって販売される伝統的な垂直統合型モデ
ルの対極にあるものと理解してもらうと良い。私はこの垂直統合型モデルをクローズド
(閉鎖された)イノベーションモデルと称する。端的に言うと、オープンイノベーションと
は企業内部のイノベーションを促進するために、意図的に情報や知識を外部から取り入れ
たり、外に発信したりし、外部におけるイノベーションの利用の市場の拡大をはかる、と
いうものである。1
オープンイノベーションはイノベーションを創造するための新しいパラダイムとなった。
企業は自社のイノベーションを推進するために自社内のアイディアだけでなく、外部のア
イディアも取り入れるべきであるし、自社のアイディアの市場化への道は自社のみならず
他社を通じてであっても構わない、ということである。オープンイノベーションの過程で
は企業内部からのアイディアと外部からのアイディアの両方をプラットフォーム、アーキ
テクチャ、システムに組み込んでいく。オープンイノベーションの過程では、ビジネスモ
デルを活用して、これらのアーキテクチャやシステムに必要なものを決めていく。ビジネ
スモデルは内部と外部双方のアイディアを活用し、そこから価値を作り出すと同時に、そ
の価値の一部を自社のものとするための企業内部のメカニズムも明確にしていく。
このオープンイノベーションとクローズドイノベーションの違いを図式化すると図 1 と図
2 のようになる。以下図 1。
The Current Paradigm: A Closed
Innovation System
Science
&
Technology
Base
Research
Investigations
R
© 2004 Henry Chesbrough
1
The
Market
Development
New Products
/Services
D
2
H. Chesbrough, W. Vanhaverbeke and J. West, Open Innovation: Researching a New Paradigm, Oxford
University Press, 2006, p.1. 参照
図 1 はイノベーションのクローズドモデルによるイノベーションプロセスを表したもので
ある。この中ではリサーチは企業内の科学技術部門から始まり、研究過程の中で淘汰され
ていく。そのうちのいくつかは市場に出すという決断を下される。このモデルはプロジェ
クトは企業内部からのみスタートすることが可能で、最終的に出口としては市場に出るこ
としかないため、クローズドプロセスと呼ばれる。AT&T のベル研究所はこの典型的な例
である。多くの注目すべき研究成果を残したが、外部に対して閉ざされていたのは有名で
ある。20 世紀にこのモデルを採用していた例では、他に IBM の TJ Watson 研究所、Xerox
PARC、GE の Schenectady 研究所、Merck,マイクロソフト研究所などがある。(これらの研
究所が過去 10 年間で、劇的にイノベーションモデルの変革を行ってきたことは特筆すべ
きである。)日本などその他の国では、このクローズドモデルが未だに主流である。
以下の図 2 はオープンイノベーションモデルを表したものである。プロジェクトは内部、
外部双方の技術ソースからスタートすることが可能で、新しい技術は様々なステージから
このプロセスに入り込むことができる(外→内部分)。さらに、プロジェクトは様々な方
法で市場に出ることが可能で、自社のセールス・マーケティングを通しての方法の他に、
アウトライセンシングやスピンオフなどが考えられる(内→外部分)。このモデルではイ
ノベーションプロセスの中で、様々な方法でアイディアが外部から入ってくることが可能
で、市場に出て行く方法もまた多様であるため、オープンイノベーションと呼んでいる。
IBM、インテル、フィリップス、ユニリーバ、P&G などはこのオープンイノベーションモ
デルを活用している企業である。
The Open Innovation Paradigm
Licensing
Technology Spin-outs
Internal
Technology
Base
New
Market
Current
Market
External
Technology
Base
Technology
Inlicensing
© 2004 Henry Chesbrough
Other Firm’s
Market
R
Product/Business
Acquisition
CVC
Investing
D
5
オープンイノベーションのコンセプトは学会と産業界に大きな影響を与えた。Google
Scholar によると、過去 10 年で私の著作である「Open Innovation」は学者たちの論文の中
で 5,700 以上引用されている。カリフォルニア大学バークレー校 Haas ビジネススクール
のオープンイノベーションセンターがドイツの Fraunhofer Institute に依頼した調査の結果
から、米国とヨーロッパで 2 億 5000 万ドル以上の売上がある企業の 72%がオープンにノ
ベーションのを活用しているという結果が出ている。日本企業に関してもオープンイノベ
ーションの普及率を測るこの調査は進行中であるが、予備調査では現在日本でオープンイ
ノベーションを活用している企業の割合は欧米と比べるとかなり低いようである。
なぜ、オープンイノベーションに関心が集まり、多くの企業に活用されているのだろうか。
理由の一つとして、R&D 活動を行う企業の構成の変化が挙げられる。以下の National
Science Foundation からの表は R&D 活動の驚くべき変化を表している。1981 年の時点で、
R&D 活動に投資された金額の実に 70.7%が従業員を 25,000 人以上抱える企業によるもの
であった。同年、従業員が 1,000 人以下の企業が総額に占めた割合は 5%以下である。と
ころが、2007 年には 25,000 人以上の規模企業が R&D 投資全体に占める割合は 35%まで
減少し、逆に 1,000 人以下の規模の企業による割合が 24%まで伸びている。つまり、規模
の大きい非常に効率よく運営されている企業でも、他企業による外部 R&D の価値を見過
ごすことはできないということである。
表 1 企業規模別 R&D 投資金額の割合
これらの変化は以下の表 2 のように効果的な R&D 管理を行うための新しい原則を指し示
している。
表 2 クローズドイノベーションとオープンイノベーションの原則比較
クローズドイノベーション原則
最良の人材は自社にいる
オープンイノベーション原則
良い人材のすべてが自社にいるわけで
はない。 社内、社外の優秀な人材と仕
事をしていくべきだ。
R&D から利益を得るためには、自社で
開発し、自社の製品として販売しなけ
ればならない。
外部 R&D も多大な価値を生み出すこと
ができる。内部 R&D も全体価値の一部
を自社の取り分として得るために必要
である。
自社で新しいものを発見できれば、そ
れを一番に市場に出すことができる。
利益を得るためには、自社発の研究で
ある必要はない。
イノベーションを最初に上市した企業
が勝つ。
早く上市するよりも、よりよいビジネ
スモデルを構築することの方が重要で
ある。
業界の中で最も多く、最も良いアイデ
ィアを出すことができれば、勝てる。
企業内部と外部のアイディアの両方を
最大限活用することができれば、勝て
る。
競争相手がそこから利益を得られない
ようにするために、自社の IP を守るべ
きである。
自社の IP が外部に使われることから利
益を得るべきであり、自社のビジネス
モデルの利になるのであれば、他社の
IP を購入するべきである。
IV.
オープンイノベーションの例
IBM、フィリップス、シーメンス TTB、カリフォルニア大学バークレー
校(UC バークレー)
オープンイノベーションをより具体的に理解してもらうために、このセクションではオー
プンイノベーションに成功している企業の例を紹介していく。
IBM
最初の例は IBM である。IBM はかつて自社で媒体チップ、ディスクドライバー、コンピュ
ータ・サーバー、メインフレームなどを製造する垂直型構造の企業であった。1992 年、
同社は財政的困難に陥り、従業員 3 万人以上をレイオフし、同社の歴史上初めての外部か
らの CEO である Louis Gerstner を迎えた。
Gerstner 氏が在籍した期間に、IBM では多くの改革が行われたが、そのうちのいくつかは
オープンイノベーションの原則を応用したものであった。IBM は引き続き企業内 R&D に
かなりの資金を投じたが、一方で Java や Linux など外部の技術をどんどん取り入れ始めた。
また、自社の技術をアウトライセンスし、そこからも収益を上げ始める。そして製品ベー
スのビジネスモデルから、サービスベースのビジネスモデルへと転換する。以下図 3。
Figure 1: IBM's Shift from Products to Services
% Revenue from Services
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
今日 IBM Global Service は IBM 全体の収益の半分以上を担っている。次の図(図 4)で、IBM
のオープンイノベーションの枠組みを利用したイノベーション過程を示す。
フィリップス
フィリップスもまた以前は非常に外部に閉ざされたイノベーションプロセスを採用してい
た。2003 年、同社はオランダのアイントホーフェンにあるハイテクキャンパスを開放し
た。周囲に張り巡らされた金網を取り払い、多くの企業をキャンパスに招いたのである。
以下図 5。
結果として、フィリップス社の R&D 部門のスペースは多くの他社と共有され、同社の研
究者が 1,500 人、外部の 70 社からの研究者が 5,500 人以上という環境となった。以下図 6。
シーメンス
Technology to Business(TTB)
シーメンスはドイツに本拠地を置き、従業員 40 万人を抱える巨大企業である。このよう
な大企業がシリコンバレーの小さなベンチャー企業と仕事をするのは非常に難しい。その
問題に気がついたシーメンスは、UC バークレーの近郊にインキュベーターを設立し、シ
ーメンス Technology to Business(TTB)と名付けた。このインキュベーターはシーメンス本社
とシリコンバレーのベンチャー企業コミュニティの間に入り、両社をつなぐ部門となる。
TTB はまずシーメンス本体のビジネスに必要な技術を見いだす。このために TTB はシーメ
ンスの各ビジネスユニット及び本社の中央 R&D 部門と時間をかけて意見交換をする。そ
の後シリコンバレーのベンチャーコミュニティーの中に入っていき、シーメンスに必要な
有望技術を発掘する。
有望な技術が見つかると、TTB はそのベンチャー企業と共同研究開発契約(JDA: Joint
Development Agreement)を結び、研究資金と UC バークレーの近郊のオフィススペースを
提供する。典型的なプロジェクトは 3-4 人の規模でインキュベーターに 6 ヶ月から 1 年滞
在する。シーメンスはこの時点でそのベンチャーの資本投資は行わない。(シーメンスは
コーポレートベンチャー部門があり、そこで投資を行うが、TTB とは別組織となってい
る。)シーメンスはこの TTB から得られた結果に非常に満足しており、米国ボストンと中
国上海に新たな TTP を設置した。
UC バークレー
Intellectual Property and Industry Research Alliances (IPIRA)
オープンイノベーションモデルにおいて、大学は新しいアイディアの主たる源であるため、
非常に重要な役割を担う。しかし大学自体も企業と提携するにあたっては、閉鎖的である
ことが少なくない。大学の研究成果をライセンシングすることで得られる特許使用料を最
大化することにしか興味がない大学も多い。
UC バークレーはそのような従来のモデルから、オープンイノベーションの原則に適合す
るアプローチへと転換した。大学所有の特許のライセンシングを行う Office of Technology
Licensing(OTL)の他に、企業との提携を促すための Industry Alliance Office (IAO)を新設した。
OTL が大学の特許を企業に対してライセンシングする「押し出し型」であるのに対し、
IAO は民間企業を大学に取り込む「引き込み型」のアプローチを取る。企業との提携の一
部は外部に開かれた構造になっており、結果も一般公開される。その他の提携では提携企
業が外部の企業に比して有利にデータや IP にアクセスできるコンソーシアム方式をとっ
ていたり、一つの企業とのみ提携しているプロジェクトも存在する。これらはスポンサー
が付く研究プロジェクトである。以上様々な提携の手法については、以下の図 7 を参照。
この新しいアプローチによって、同校の外部収入は特許収入からなる年間 1000 万ドルか
ら外部寄付金など多様な収入源からなる 7000 万ドルにまで拡大している。特許や、大学
の名前で IP を取得することに固執しすぎなくなったことで、UC バークレーは 600 以上の
提携先を発掘することに成功した。
以上の企業やその他の企業の例を見ると、オープンイノベーションはイノベーションの可
能性を伸ばすことがわかる。では、日本企業にオープンイノベーションが浸透していかな
いのはなぜなのか。この疑問から、Japan Silicon Valley Innovation Forum の議論はスタート
した。
V.
Japan Silicon Valley Innovation Forum の背景
2012 年 2 月、UC バークレーの Haas ビジネススクールを 3 人の日本人が訪問した。NEDO
シリコンバレー事務所の小野寺さんと岩筋さん、在サンフランシスコ日本国総領事館の桑
原さんである。彼らは日本企業がアメリカで直面しているイノベーションについての課題
について話をしに来ていた。Toyota などの企業が世界でも最先端を行き、多くの企業が技
術的に見て優れている一方で、グローバルイノベーションという視点から日本企業を見る
と、特に電子機器業界などで日本勢の力は衰退してきている。シリコンバレーにおける日
本企業のプレゼンスは弱まっており、コーポレートベンチャーキャピタルや R&D 施設、
現地オフィスなどへの投資から期待していたほどの結果は得られていない現状がある。
この問題に取り組むアプローチにはいくつかあったが、話し合いの結果、シリコンバレー
に拠点を置く日本企業から参加を募り、有識者を迎えて自社の体験を交えながらこの問題
について議論するという形が取られることとなった。各企業の経験を比較対照することで、
この問題に対するより深い考察が得られるであろうし、また互いの成功談からも学ぶべき
ところはあるに違いないと考えた。そうして、これら企業の集まりは Japan Silicon Valley
Innovation Forum (JSVIF)と名付けられた。参加企業のリストは Appendix A を参照。
ヘンリー・チェスボロ-教授がこのプロジェクトを率いることに決定。彼は多数のシリコン
バレー企業の研究から生まれたオープンイノベーションの概念の提唱者である。しかしな
がら、今日オープンイノベーションは世界中に存在する様々な規模の異なる業界に存在す
る企業で活用されており、もはやシリコンバレーのモデルではなくなっている。チェスボ
ロ-教授はアメリカ、日本、ヨーロッパのハードディスク業界におけるイノベーション管
理について博士論文も発表している。
最終的にチェスボロ-教授と NEDO シリコンバレー事務所とで、今年度合計 3 回の会議を
計画実行した。第 1 回目はシリコンバレーのホテルで開かれ、第 2 回目はサンノゼに事務
所を構える住友電工の会議室を拝借し、第 3 回目はサニーベールに拠点を持つ富士通米国
研究所に場所を提供していただいた。
次項からはこれらの議論から学んだことを説明していく。それぞれの会議の議事録は巻末
の Appendix B-D を参照のこと。
VI.
活動内容について
2012 年 9 月 28 日、2012 年 12 月 14 日、2013 年 2 月 15 日と合計 3 回の会議が開かれた。
参加企業の多くは電子機器や ICT 分野からであったが、その他の製造業(自動車、化学製
品、消費者製品など)やサービス業社(交通や住宅)、金融サービス会社(JAFCO など)
も招待され参加した。これはイノベーションの様々な側面を議論するためには、できるだ
け多くの異なる業界からの参加者がいた方がよいと判断されたためである。
オープンイノベーションの精神のもと、3 回の会議には外部からの参加者を招いた。彼ら
はそれぞれシリコンバレーのイノベーションについて、独自の立場から有益なインプット
をしてくれた。
German Silicon Valley Accelerator の CEO を務める Dirk Kanngeiser 氏はドイツ政府から資金提
供を受けてシリコンバレーで設立されたアクセレレイターのモデルを紹介。同社ではドイ
ツからのベンチャー企業がシリコンバレーで運営を開始する際に助力する。
UC バークレーの副総長兼 Intellectual Property and Industry Research Alliances 部長である
Carol Mimura 氏はカリフォルニア大学での変わりつつある技術移転のモデルについて紹介。
カリフォルニア大学バークレー校は大学発のベンチャー企業やスピンオフの他にも、多く
の日本企業と提携している。
シーメンス Technology to Business(TTB)のゼネラルマネージャーを務める Chenyang Xu 氏は
小さな企業が持つ将来性のアイディアを開発し、シーメンスのビジネスユニットに取り込
む際の TTB モデルを紹介。同氏はシーメンス内の幹部と密に連携すると共に、シリコンバ
レー関係者や大学との関係作りにも力を注いでいる。
Percipient IP の創立者兼 CEO である Suzanne Harrison 氏はシリコンバレーでの知的資本
(知的財産やその他の無形財産を含む)の管理戦略について紹介。
複数のベンチャー設立経験のある企業家であり、New Venture Partners のベンチャーパー
トナーでもある Bruce Graham 氏はベンチャーキャピタルのモデルについてや投資するベ
ンチャー企業を選択し、共同投資者を選択する際の企業関係及び人間関係の重要性などに
関して議論。日本企業と共同でベンチャー企業に出資した際の成功例と失敗例についても
言及した。
住友商事のコーポレートベンチャーキャピタル部門である Presidio Ventures ディレクター
の Shun Aramaki 氏ベンチャー企業や VC との付き合い方について言及し、ベンチャー企業
と本社(日本の大企業)の間に立ち、双方の時間軸の期待値の調整を行うことが常に大き
な問題点の一つであると述べた。
参加企業をいわゆる伝統的な日本企業に限定しなかったこと、また外部から多くの参加者
を招いたことで、JSVIF は様々な立場からの経験談とそれによって培われた知識を吸収し、
3 回にわたり有益な議論を行うことができた。
VII.
JSVIF における主な議題
前項で説明した 3 回の会議の中で、いくつかの議題があがった。
1. ベンチャー企業との付き合い方
2. ベンチャーと付き合う際の ROI の測り方
3. 大学との付き合い方
4. 大学発の IP と技術移転
5. ベンチャーキャピタルとの付き合い方
6. ビジネスモデルイノベーション
それぞれの議題について、議論の概要を以下に記載する。
1. ベンチャー企業との付き合い方
シリコンバレーと言えば、ベンチャー企業である。ベンチャー企業というのは通常の企業
と異なった性質を有する。まず第一に非常に少数の人員で起業される。技術は非常に重要
な要素であるが、人がベンチャー企業の最重要資産である。第二に、ベンチャー企業は外
部からの資金を獲得するために激しく競争する。資金獲得に成功すれば、通常この規模の
企業では到底達成できないような結果を出すことが可能になる。第三に、ベンチャー企業
は決断を下すのが非常に早い。彼らは次の投資を獲得するまでに到達しなければならない
目標地点というのがはっきりしており、それを非常に限られた時間の中で達成しなければ
ならないため、1-2 ヶ月、あるいはたった 1 週間という短い時間でも彼らにとっては非常
に重要なのである。この速いペースの中で下される決断はいつも正しいとは限らないが、
速いペースの決断により、彼らは状況変化へ適応することができる。彼らは他の企業や団
体とは比べものにならないくらい早く学習する。最後に、ベンチャー企業は大きなリスク
を取ることができ、リスクをとることに前向きである。シリコンバレーの文化は成功には
報酬を与え、失敗にも寛容である。シリコンバレーで成功しているベンチャー企業の幹部
のほとんどは、過去に別のベンチャーを起業し、失敗している。
日本企業がベンチャー企業と付き合う際には、以上のようなベンチャー独特の特徴を念頭
に置いておかなければならない。議論の中で、ベンチャーと付き合う際の課題として日本
企業の決断の遅さを挙げる参加者が多かった。日本企業は通常ベンチャー企業の技術に注
目していて、新たなビジネスモデルの源泉とは考えていない。また、日本企業は失敗に対
する考え方が厳しい結果、日本企業の管理職にある人々は意思決定の際にリスクを回避す
る行動をとりがちであるとされた。ベンチャー企業にとって日本企業が資金提供者として
魅力的に映っている一方、企業内決断プロセスの遅さのために日本企業との付き合いに尻
込みするベンチャー企業も少なくない。
欧米の大企業はイノベーションを促進するため、積極的にベンチャー企業と協業し始めて
いる。共同開発契約を結んだり、知的財産のライセンシングを行ったり、直接投資を行っ
たり、ベンチャーを買収したりする。では、日本企業はどうやってベンチャー企業と効果
的に付き合うことができるだろうか。大企業にとって重要なことの一つは、その企業の事
業領域中どの分野でベンチャーと提携すべきかということである。シーメンスの例でも明
らかなように、スタートアップと直接提携する部署を決め、R&D 部門や様々なビジネスユ
ニットと、関心分野を絞り込むことが重要である。密にコミュニケーションを取り、協業
相手として適切なベンチャー企業を見いだすことも重要である。インターネットでの調査
や業界展示会なども有効ではあるが、ベンチャーキャピタルと関係を築き、企業としての
評判・評価をコミュニティから獲得するというのも優秀なベンチャーについての情報を得
たり、ベンチャーからアプローチを受けるディールフローを増やす際にはとても重要であ
る。
ベンチャー企業と話をする際には、協業の前提条件に合意するために必要な時間を短縮す
るため、ベンチャーとの議論の枠組み、検討事項は秩序立てること、秘密保持契約のテン
プレートを予め用意しておくことも一つの方法である。一旦ベンチャーとの関係が出来れ
ば、R&D 部門だけではなく、ビジネスユニットも参画するべきである。R&D 部門研究者
たちは往々にして商業化の側面に強い関心を示さない傾向にあるため、複数のベンチャー
とのやりとりを同時並行的に行い、それを日本の本社に報告する役割を担う事業開発経験
のある社内起業家などがベンチャーとの間に入ることも有効と思われる。社内で根気強く
頻繁にコミュニケーションをとることもベンチャーと付き合う際には重要である。日本企
業の本社はベンチャーとの付き合い方に関する全般的なポリシーを確立し、それが企業の
中でしっかりと共有される必要があるが、意思決定のスピードを上げるためには、シリコ
ンバレーの拠点の責任者にある程度の権限を与えることが大切である。大企業がベンチャ
ー企業に提供できるものはいろいろとあり、製品開発への出融資や、技術力の提供、(特
に国際的な)市場へのアクセスの提供、そのベンチャーの初めての顧客となること、ベン
チャーの製品へのクレディビリティの付与、ベンチャー自体を買収することなどが例とし
てあげられる。
2. ベンチャーと付き合う際の ROI の測り方
日本だけでなく、大企業の中ではイノベーションの投資利益率(ROI)を測ることは当然のこ
ととされている。しかしながら、フォーラムの議論の中でベンチャー企業と付き合う際に
はこの ROI に対する考え方では難しいとの話が出た。ベンチャー企業というのは概してス
タートしたばかりで規模も非常に小さく、企業活動を測れるような数字がそもそもほとん
ど存在しない。市場の可能性に関する詳細な情報にこだわり、情報収集に時間をかけすぎ
ると、ベンチャー企業には望まれるような情報を集めるための人も時間もないし、企業側
の決断を長い間待っていることも出来ないため、せっかくの提携の機会を逃してしまうこ
とになる。より具体的な情報やデータにこだわり ROI を詳細に測ろうとすることで、未開
発の市場であるブルーオーシャンに入り込む代わりに、既に協業相手が非常に多いレッド
オーシャンへと引きずられていくことになる。これでは、新市場を開拓するためにベンチ
ャーと協業するという目的自体が否定されてしまう。
それよりも、ベンチャーキャピタルがするようにプロセスにマイルストーンを設置し、達
成するたびに資金を提供するというかたちをとる方が有益ではないかと思われる。(詳し
くは 5.ベンチャーとの付き合い方を参照)ベンチャーキャピタルは通常最初の投資を行
う際には決断の期限を決め、それまでに集中して社内で議論を行う。このようにして、ベ
ンチャーキャピタルは決断に時間がかかりすぎたせいで投資の機会を失うということがな
いようにしている。また、ベンチャー企業の価値の中で人材が持つ重要性についても言及
された。良い技術や製品があることは必要条件だが、買収するかしないかとなった場合に
は、中心人物がベンチャーに残るかどうかが決定の大きなポイントとなる。
3. 大学との付き合い方
大学はシリコンバレーのイノベーションにおいて、近年益々重要な役割を担うようになっ
てきている。オープンイノベーションにとって技術や人材の流動性は一つの鍵となる要素
であるため、大学という場所はオープンイノベーションの過程において核の一つとなる場
所なのである。シリコンバレーでは大企業でも企業内で長期的な研究を行うことはほとん
どない。その代わりに大学が長期研究活動や非連続的イノベーションの源泉として見なさ
れており、企業は新しい発見を大学で見出し、大学から企業に技術移転し、そしてその技
術の商業化を行うことに注目している。大学は具体的な技術の開発場所としてでだけでな
く、将来の技術動向の指標としても企業にとっては有益である。一流大学には様々な研究
者や学部があり、外部との交流も密に行っているため、一企業では持ち得ない先見性を持
ち得る。企業に対し、長期的な目標に対する視点やアドバイスを受けるため、様々な分野
から 3 人から 5 人の一流の科学者や研究者を集めた科学諮問委員会を設置するのも有益で
あるというのがチェスボロー教授の見解である。
大学との付き合いはサプライヤーとの付き合いとは随分違う。大学と仕事をする際には、
非常に明確な目標と目的を設定しなければならない。明確な目標を設定し、そこに到達す
るまでの過程を定期的にモニターする必要がある一方で、大学との関係は長期的な視野に
立って構築していく必要がある。また、企業内に大学との仕事を専門にする人材(研究過
程を理解できるので出来れば博士号を持つ人材が望ましい)を置く必要がある。そのよう
な特別の人材の他に、企業は大学と企業の文化の違いを間に立って調整するような部門を
作ることも検討すべきで、シーメンスの TTB はこのモデルの例である。一つの定まったコ
ンタクトポイントがあることで大学側は企業とのやりとりが格段にしやすくなる。確立さ
れた秘密保持やコンプライアンスの枠組みなども関係を良好に保つには有益である。これ
らに時間をかけすぎると法務部門のせいでせっかくの提携の機会を妨げてしまうことにな
りかねない。リスクを減らす、という目的で行われるこれらの活動が、ビジネスチャンス
を逃すという別のリスクをはらんでいるわけである。議論の中で出た興味深い点としては、
付き合う大学を分類し、いわゆる一流大学とは長期研究プロジェクトで協力し、地元の大
学とは短期間の研究プロジェクトや、より製品開発に近いレベルでの協力体制を取るとい
うのもあった。
最終的には人材が最も重要なポイントとなる。大学から企業の中へと研究者を招待する、
またはその逆というのも流動性を向上し、オープンイノベーションを促進する上で役立つ
ようだ。多くの企業内研究者は出身大学とのつながりを継続する。これらのつながりは活
用できるし、大いに活用されるべきである。夏期に大学の教授を企業内に迎えたり、逆に
社内の研究者を大学に送り込み、共同研究を行ったり、授業を行わせたりする企業もある。
大学院生も大学と企業とをつなぎ、大学から企業へとアイディアを移転するための潤滑油
として重要である。大学は新しい技術が出てくる場所であるとともに、企業にとって新し
い人材を見つける場所でもある。一流大学との関係を築くための投資を考える際には、こ
れらの要素も考慮されるべきである。例えばサムスンは米国で修士課程、博士課程に在籍
する韓国の学生を、サムスンに入社するかどうかに関係なく常にモニターしている。
4. 知的財産と大学からの技術移転について
知的財産の管理は多くの企業にとって重要な課題となりつつある。知的財産全体の価値の
90%は全体の 10%の特許に属している。つまり、ほとんどの特許は維持に必要な費用分
の価値もないということになる。Suzan Harrison 氏は知的財産管理の方法には 5 つのレベ
ルがあるという。第 1 レベルは自社の製品戦略が他社からマイナスの影響を受けないよう
に特許を申請し、自社の知的財産を守るというレベル。第 2 レベルは知的財産のコストを
管理するレベル。第 3 レベルは自社が使っていない知的財産を社外に提供し、そこから収
入を得るレベル。第 4 レベルは各知的財産を維持することの利点と欠点を考慮し、知的財
産をポートフォリオとして管理するレベル。第 5 レベルは知的財産に関する企業の方針と、
R&D の方針と事業戦略とを融合させているレベル。米国においても第 4、第 5 レベルに達
している企業はごく少数であるが、企業が「インベンション(発明)」だけでなく「イノベ
ーション」プロセス全体を見通し、オープンイノベーションから利益を得るためには、知
的財産管理に関してこれらのレベルの活動が必要だと言われている。
大学と提携する際には、知的財産の管理が必須となる。長い間大学は自校発の研究から得
られるライセンス料による収入を拡大することに意識を集中してきた。未だにそうしてい
る大学も多い中で、UC バークレーなど一部の大学は企業との提携方法を変化させてきて
いる。知的財産や技術移転には一つで万能のやり方というのは存在しない。提携の方針に
は極めてオープンなものから拘束性の高いものまであり、前出の図 7 にあるように、資金
提供にも大学に寄付として提供するといったものから具体的な成果に関する研究契約まで
いろいろあり、そこから得られる結果もまた随分と変わってくる。
企業は大学と知的財産に関して提携する際の目標をはっきりと定めておく必要がある。通
常は大学での研究に対し、完全な所有権を持ち、研究のあらゆる側面をコントロールしよ
うとするのが一般的である。そのようなやり方が効果的である場合もあるが、多くの場合
にはすべてをコントロールしようとせず、一歩下がった立場にいる方が企業としての目標
をより効率よく達成できるようになる可能性がある。
企業によっては、技術の利用権(非独占)を得られる場合には、その技術の権利を大学に帰
属させた方が良い場合もある。他企業の参入が、新市場構築に貢献することがあるからで
ある。あるいは競合しない企業とコンソーシアムを組み、R&D コストを分担して負担する
などの方法もある。また、大学との提携による活動が公に発表されれば、他企業が特許を
申請することが出来なくなるため、特許のために経費をかけずに自社の利益を守ることが
できる場合もある。企業の中には未だに単独で研究プロジェクトに資金を提供するところ
もあるが、これらの様々な大学との提携の仕方には異なる知的財産権に関する考え方や、
技術移転に関する経済的な見方がある。また知的財産権に加え、企業では研究プロジェク
トで提携した研究者とその結果に商業的価値をつけるためにはどうすればよいかについて、
別途コンサルティングを結ぶことも多い。
5. ベンチャーキャピタルとの付き合い方
このテーマは JSVIF の会議の中で数回にわたって議論に出たものである。コーポレートベ
ンチャーキャピタルについて、ベンチャーキャピタル(VC)と提携しての社内起業について
の他、一般的に VC とどう付き合うかについても話し合った。詳細は Appendix の議事録を
参照のこと。
VC と効率よく付き合うためには、VC と話をする前に付き合いの目的を明確にし、社内の
コミュニケーションをしっかりと確立しておくことが重要である。企業方針の中で VC と
の協業によって事業戦略の中のどの戦略目的を達成したいのかが理解されていなければな
らない。このような理解は具体的な投資案件が持ち上がった際に、VC と協議して決断す
るプロセスをできるだけ早くするためには必要不可欠である。また VC がどのように投資
の決断をしているかを知っておくことも有用である。VC は投資をした後上手く資金を回
収できそうな案件 (Fundable Deals) に関心があるのであって、技術や製品に惹かれて決断
をするのではない。これはまず技術や製品に興味を持つところからスタートする日本企業
の R&D とは大きく異なる。VC での決断は、まずリミテッド・パートナー(LP)とジェネラ
ル・パートナー(GP)を区別するところから始まる。LP は投資のために資金を提供する。優
遇税制に関係する理由のため、LP はどの案件に資金を提供するかの決断を下す権限はな
い。GP が案件を決める責任を負っており、決断の権利も持っている。
通常は GP が集まり、一週間に 1 回程度ミーティングを行う。この会議で資金を求めてい
るベンチャー企業からの案件を話し合う。特別なルールがある場合もあるが、大抵は多数
決で決断が行われるので、過半数以上の GP が賛成した案件は資金提供を受けられること
になる。GP 全員一致での決断を義務付けている VC も存在する。どの場合でも、決断のプ
ロセスは非常に早く数週間単位で行われ、一旦決断されればそれが翻ることはない。
企業は VC のように資金を動かすことはないし、組織としてそうすることが適当でもない。
しかし、もし VC と共に投資活動を行いたいということであれば、VC のプロセスに順応で
きるよう社内の財務プロセスを変える必要がある。JAFCO Ventures や Presidio Ventures
(住友商事傘下)は自社の投資プロセスを改革してきた。しかしたとえそうして改革をし
たとしても、VC 市場の中にはインターネット関連の企業やアプリケーションを作る企業
など、日本の投資家にとって参画するにはペースが速すぎる部分も存在する。
VC を活用するもう一つの方法は、スピンオフに VC から投資を受けることである。スピン
オフを出す親企業側は通常自分達に知的財産が帰属することを望み、スピンオフ企業を自
分達で管理していこうとする。一般的に報酬などは親企業の方が良いため、技術者の多く
はスピンオフで出て行くことに後ろ向きである。スピンオフに投資をするかを検討する
VC の立場から見ると、重要なのは 1)知的財産がスピンオフに帰属すること、2)親企業が
スピンオフを管理しようとしないこと、3) 親企業でスピンアウトする技術/製品に関わる
キーメンバーが、スピンアウト企業に参加していることの 3 点である。チェスボロ-教授
による Xerox から出た 35 のスピンオフを題材とした研究では、Xerox からの資金が多けれ
ば多いほど、スピンオフの取締役の中に外部 VC からの人材が少なければ少ないほど、ス
ピンオフの成長は遅くなったという結果が出ている。
日本企業がシリコンバレーにある VC にとって有用なパートナーになりうることを認識す
ることで、JSVIF のメンバーは大きな機会を手にできる。VC にとって利益を得る方法とい
うのは、投資をした企業が株主公開をするか、ある企業がその投資先を買収するかのどち
らかである。近年は買収による利益の回収がほとんどで、株式公開によるものはあまりな
い。日本企業は、この買収を行う企業として VC にとって非常に魅力的である。VC から資
金提供を受けているベンチャー企業と協業するために最初から企業として投資をする必要
はなく、共同研究開発契約を結んだり、早期顧客となる旨を記載した基本合意書を発行し
たり、技術共有同意書を発行したりすることで、ベンチャー企業によって開発される多数
の貴重な技術の情報(加えて次項にあるビジネスモデルに関する情報)を得ることが可能
になる。大企業はベンチャー企業にとって信頼性を高めるためには非常によい顧客候補で
あり、協業パートナーでもある。また大企業は VC に対し、様々な領域において価値のあ
る見識を提供することができる。IBM はこのように VC と付き合っている。
6. ビジネスモデルイノベーション
チェスボロ-教授はビジネスモデルイノベーションは技術イノベーションと同様に重要で
あると指摘している。しかし日本企業を含め多くの大企業は技術開発のためのプロセス形
成や予算の立案は有するものの、ビジネスモデルを作るための社内プロセスは持っていな
い。シリコンバレーのベンチャー企業によって生み出されたビジネスの価値の多くは、技
術自体だけでなく、彼らが技術を価値につなげるためのビジネスモデルを探すことに前向
きであるところからきている。例を挙げると Google はインターネットから効果的に情報
を得るために開発されたサーチエンジンとして 14 番目のものであった。もともとのビジ
ネスモデルはあまり良くなかった。2000 年には Yahoo が Google を 1000 万ドルで買収す
る話が持ち上がり、Yahoo 側が断ったとの逸話もある。Google が事業として成功したのは、
AdWords や AdSense によるキーワードオークションのビジネスモデルができた後のことで
ある。
ビジネスモデルイノベーションは社内の多くの部門に関わる問題であるため、JSVIF の参
加企業のような大企業にとっては難しい問題である。すべての関連部署に関して状況を把
握し、ビジネスモデルイノベーションを進める権限を持った人間はいない。また現状成功
しているビジネスモデルを持っている企業にとって、別のビジネスモデルを模索すること
は、現存のビジネスモデルを危険にさらす可能性があるために難しい。しかし、Business
Model Canvas などのように現存のビジネスモデルを見直し、新しいビジネスモデルを模索
するためのツールも存在する。
JSVIF 参加企業の数社(味の素、ヤマト運輸、東京ガス、大和ハウス、ダイキン工業、オ
ムロン、住友電工)が、会議の際にビジネスモデルキャンバスを使って現状のビジネスモ
デルや新しいビジネスモデルについて発表を行った。味の素は自社の調味料、食品、アミ
ノ酸事業から今後病院や医療関係者との協力が不可欠となる栄養食品や医療関係の事業へ
多角化していく展望について発表した。ヤマト運輸は社員からビジネスモデルイノベーシ
ョンのアイディアを得ていると話し、ビジネスモデルイノベーションに関しては柔軟性の
高いサービス業者に有利なのではないかと述べた。小包の宅配サービスから始め、ヤマト
運輸では自社の宅配インフラを活かし、電化製品やその他の製品の修理サービスを提供す
る新事業が進められている。ダイキン工業は修理サービスのネットワークを活用し、24
時間 365 日自社の製品に問題があった際には迅速に修理サービスを提供することを競争の
源泉としている。中国でも同様のビジネスモデルで成功しており、米国でも米国の空調メ
ーカーの買収を通し、同様のビジネスモデルで事業展開を目指している。
しかし JSVIF 参加企業の中で新しい有望な技術のために新たなビジネスモデルを模索する
ための社内プロセスを持っていたり、ベンチャー企業をビジネスモデルの源泉として積極
的に利用している企業はいなかった。これは、新しい顧客を獲得するために無料である程
度のサービスを提供するフリーミアムモデルなどに代表されるように、ビジネスモデルイ
ノベーションを事業の核と見なしているシリコンバレーのベンチャー企業や VC との付き
合いを検討する際には、重要なポイントとなる。
VIII.
結論
日本は現在も科学技術面で優れた世界第 3 位の経済規模を持つ国である。にもかかわらず
JSVIF の参加企業は日本の外の市場でのイノベーションに自信を持てずにいるようだ。こ
れは過去 40 年間日本企業が世界市場で収めてきた数々の成功によるものかもしれない。
これまでそれぞれの業界で日本企業のリーダーシップ推し進めてきた企業内プロセスやビ
ジネスモデルが、今は通用しなくなっているようだからである。技術的な成功や新しい発
明は必ずしもイノベーションを起こし、利益を約束するものではない。JSVIF の参加企業
は自社の階層的で官僚的な意志決定のあり方と社内で新しいビジネスモデルを試行する機
会がほとんどないことを議論の中で述べていた。企業の社長であっても「サラリーマン
CEO」と呼ばれ、重要な決断の際には役員の総意による決定を強いられるのが現実のよう
だ。
シリコンバレーのイノベーションのプロセスは日本の大企業のそれとはあらゆる側面にお
いて異なっている。これはシリコンバレーの起業家が日本企業の人々よりも優秀であると
いうわけではない。しかしながらシリコンバレーの起業家はリスクを取ることを恐れず、
日本企業が通常必要とするよりも圧倒的に少ない情報を元に素速く決断を下す。オープン
イノベーションのパラダイムは、一対一(peer-to-peer)のコミュニケーションを基本とし、
日本企業では一般的でない素速い決断のプロセスを必要とする。前述のように、日本企業
はシリコンバレーの企業や VC に対して提供できるものを沢山持っている。しかし、強力
だが動きの遅い日本本社と非常に速いペースで動くシリコンバレーの間に立つ中間組織が
必要である。この二つの世界の橋渡しとなる社内起業家も必要となる。両方の世界を行き
来し、事業として成功させるためには両方の世界の人とつながりを持つ必要がある。また、
日本企業はビジネスモデルイノベーションの重要性も見直し、このためには社内の部門や
機能をまたがった試行が必要となることを理解しなければならない。ベンチャー企業や
VC と効率よく付き合っていくことは、必須のスキルとなる。シリコンバレーだけでなく、
日本や世界で一流大学との協力も増やすことで、日本のイノベーションを広げていく機会
も広がるだろう。
以上のことは日本企業にとって実行可能ではあるが、企業のトップレベルがオープンイノ
ベーションシステムの有用性を十分に理解し、揺るぎない決意のもとリーダーシップを取
っていく必要がある。NEDO や JETRO など政府関係機関がこのプロセスを支援することは
できるが、変革を成し遂げるために何よりも必要なのは、企業トップレベルからの強いリ
ーダーシップなのである。
Appendix A
参加企業リスト
アルファベット順
Ajinomoto North America, Inc.
AGC America, Inc.
Asahi Kasei America, Inc.
Daikin Industries
Daiwa House
Fujitsu Laboratories of America
Hitachi America, Ltd.
Innovation Core SEI
Itoen North America, Inc.
JAFCO Ventures
Konica Minolta Laboratory USA, Inc.
Mitsubishi Electric US, Inc.
Obayashi Corporation
Omron Management Center of America, Inc.
Panasonic Venture Group
Tokyo Gas Co., Ltd.
Toyota InfoTechnology Center, USA, Inc.
Yamato Transport U.S.A., Inc.
Appendix B
Preliminary Meeting Agenda
Japan Silicon Valley Innovation Forum
Embassy Suites Hotel, Santa Clara, CA
Friday, September 28, 2012
8:30am
Registration
9:00am
Welcome: Professor Henry Chesbrough, Osamu Onodera - Review of the Program.
9:15am
Speed Dating – an “icebreaker” Session - highly rated session
Objective: to give members a chance to engage in short conversations with one another.
9:45am
Introduction to Open Innovation – Professor Henry Chesbrough
Q&A to follow the Presentation
10:30am
Break
11:00am
How to Work with Startups
12:30pm
Professor Chesbrough will introduce the topic with selected US examples
Panel of participants:
Mr. Morishita, General Manager of Asahi Kasei,
Mr. Josyula, Director of Business Development of Fujitsu
Mr. Dirk Kanngiesser, CEO of German Silicon Valley Accelerator
The group will develop a list of challenges to be addressed
Lunch
1:30pm
Breakout Groups – Working with Startups
3:00pm
Professor Chesbrough, Onodera-san, and Okada-san or Kuwahara-san and Iwasuji-san will
lead small discussion groups
Each group will report back to the whole group
Break
3:30pm
Measuring ROI of Working with Startups
4:30pm
5:30pm
6:00pm
Panel of Participants:
Mr. Masuoka, Senior Director of Hitachi
Mr. Sugaya, General Partner of Jafco
Mr. Sugimoto, General Manager of Asahi Glass
Extending Marketing and Innovation Outside Japan to Global Markets
Panel of Participants:
Mr. Katayama, President of Sumitomo Electric
Mr.Kakuno, Territory Manager of Itoen
Mr .Higahsisaka, Duputy General Manager of Mitsubishi Electric
Feedback on the Meeting
Preview of Questionnaire to complete in preparation for next meeting
Departure
Japan Silicon Valley Innovation Forum Sep.28, 2012
1. Introduction to Open Innovation
 クローズドイノベーション
研究開発から商品化、市場まで自社で行われる垂直型の技術革新。
 クローズドイノベーションを支える思想
o 新しいものを開発できれば、その市場も見つかるはずである。
o 新しいものを最初に開発すれば、その権利は自分に帰属する。
→ 一時的に合法な独占状態となる
o 新しいものをビジネスにするためにこの先必要になる技術はどんなものか予想が
できる。
o 最良の人材は自社にいる。
o 典型事例としては IBM の Watson 研究所(ニューヨーク州)、AT&T の Bell 研究所(ニ
ュージャージー州)
 時代と共に変化したこと
o 経験豊富な人材の流動化
o 有能な大学の研究室の増加
Ex. 現スタンフォード大学の学長は過去に 3 回の起業経験を持つ。現在 Google,
Cisco のボードメンバーも務めている。
o アメリカが握っていた技術主導権の消滅
→アメリカ以外の国々がアメリカに追いついてきている
o 寡占状態だった市場の衰退
o ベンチャーキャピタルの著しい成長
→一兆ドル規模の市場
1
o
1980 年代に大企業をメインに行われていた R&D だが、近年は大企業自体が少なく
なり、中小企業での R&D も盛んである。
→ すべての優秀な人材が自社にいるわけではない時代になった。
 オープンイノベーション
企業内部と企業外部のアイディアを結合し、価値を作り出す。自社内にあるギャップを埋
める。自社のビジネスにおいて外部からアイディアを取り入れるのと同時に、自社のアイ
ディアも外部に発信していく。
2
オープンイノベーションの論理
 多くのアイディアが広く配信されており、有用な知識を独占することはできない。
 チェス思考だけでなくポーカー思考も必要である1。
 研究を管理するためには IP を管理しなければならない。
 世界中の優秀な人々が自社のために働いているわけではない。
o 新しいイノベーションとは?
以前は技術中心で製品の開発を自社で自社の技術者が行うものであったが、現在
は商品化までを見据え、ビジネスモデルの構築や内部と外部の人材の統合、技術
者だけでなく社内の人材全体が関わるものである。
 Proctor & Gamble の精神
o P&G 社の例
P&G 社は以前非常に閉鎖的な会社であったが、2000 年の財務危機 (株価が当時 4
ヶ月で半額まで下落) をきっかけに改革を行った。既存のブランドに問題はなか
ったが、新しい商品が少なく、成長率が低下したため、オープンイノベーション
へ踏み切った。
例) ユニチャーム社のウェーブという製品技術に目をつけた P&G は、同社と提携
し Swiffer Duster という商品を米国で開発、販売。
2005 年 8 月の時点で株価は下落前の価格に回復。現在の CEO A.G. Lafley は今後
P&G のイノベーションの 50%は外部から持ち込むつもりだと言っている。
o Philips 社の例
Philips 社は従来の中央研究所を根本的に再編成。昔は鉄格子に囲まれた閉鎖的な工
セキュリティの研究所だったが、今はパートナーの研究所やインキュベーション
o
施設などが併設されるオープンな研究所である。
 Corporate R&D への示唆
o 企業内 R&D はもう古いのだろうか。
→ 企業内 R&D にも依然として役割はあるが、オープンイノベーションによって
成果を強化することができる。しかし、内部研究に集中するのではなく、外の研
究も見るという新しい視点が必要。外部と自社を繋げ、協力していく新しい役割
を担う。 自社と他社の資源を融合させるという新しいスキルが必要となる。
o ベンチャーから学べる点は多い。
→ 代替技術、代替市場やタイプⅡエラー2の可能性を観察する機会となりうる、
など。
1
チェスは三手五手先を予測しながら、自分の持っている駒の価値を把握しつつ、保守的に時間をかけて戦略を展開してい
く。それに対しポーカーは手の内にあるカードの価値もわからない中で次の手を決断し、リスクを取る。ゲームの流れに合
わせて素速く戦略を変え、勝負する必要がある。スタートアップはポーカープレーヤーで大企業はチェスプレーヤーであ
るという比喩がある。
2
タイプⅠエラーとは製品開発をしたが、市場がなかったという誤り(False Positive)、タイプⅡエラーとは市場がないと考え、
製品開発をしない誤り(False Negative)のこと。
3
o
企業内 R&D において、ビジネスモデルを考慮することはオープンイノベーション
を実践する上で非常に重要である。
2. Working with start ups
2.1. パネルによる自己紹介
2.1.1.A 社
ベンチャーとのつきあいがうまくいったケース。A 社がエンジニアを派遣、分析など共同作
業の間にかかる費用もカバーした。その見返りとしてプロセスが成功した場合には好条件でのラ
イセンスを要求。A 社のエンジニアとベンチャー会社のエンジニアの相性が良かったという点も
重要。逆に上手く行かなかったケース。同様にエンジニアを派遣したが日本のベンチャーの社長
(創立者兼 CEO)と関係悪化。信頼関係を築けなかった。
2.1.2. B 社
うまく行ったケースは医療記録の電子版をオンラインで統合するサービスの開発。B 社の特
許とイリノイのベンチャーの特許で相互補完できた。うまく行かなかったケースはベンチャーの
持っている特許に本部が興味を示さなかった場合。IP は B 社にとって利益を上げるツールでは
なく、会社を守るためのものであるという考え方である。うまく行かなかったもう一つのケース
は B 社が持っているサーチの特権を使って、インドの防衛企業と提携を構築するも、本部から
ストップがかかった。
2.1.3. German Silicon Valley Accelerator Dirk Kanngiesser さん
ドイツはすり合わせ型産業得意としており、方向性が明確であれば強みを発揮する。ソフトの
世界で大成しているのは SAP くらいであり、他から学ぼうという話になった。3 年間で 50 のベ
ンチャーがシリコンバレーに 3-6 ヶ月来るのを支援。ドイツ・テレコムなどはすばらしい技術を
保有、6 つのスピンオフを設立。
大企業がスピンオフする場合、IP の扱いが難しい。スピンオフの株主としての立場、元々の特許
の持ち主としての立場があるが、IP はベンチャーに帰属するのが望ましい。企業側に IP が帰属
すると企業の利益が優先となり、ベンチャー自身の成長のインセンティブが下がってしまう。ベ
ンチャーに IP を帰属させ、ベンチャーを優先事項とすることで最終的に企業に利益が戻ってく
る。
2.2.ディスカッション
シーメンスの CVC では戦略的投資に集中しており、ポートフォリオには重きを置いていな
い。外部の技術者にオフィスを使うのを許可し、シーメンスの技術者の経験もシェアし、ビジネ
ス面でもサポートをする。
4
大企業のスケジュール感とベンチャーのスケジュール感は随分異なる。大企業では意志決定
をするのに数ヶ月かかるのは当たり前と考えるが、ベンチャーにとって数ヶ月は死活問題。そこ
から発生する問題は多々ある。
人材と技術、インテリジェンスの流動性はイノベーションにとって極めて重要。大学の教授
や研究者に夏休み中企業で働く機会を与えたり、サバティカルを利用して企業で研究を行っても
らう、あるいは企業が大学に研究者を派遣するというのも一手か。
ブレイクアウトセッションでのトピック
a.
b.
c.
d.
e.
f.
g.
h.
i.
j.
k.
l.
意志決定のスピードを上げるには
NHI (Not Invented Here)
ベンチャーにとっての Exit 基準
経営のスキルセット
ベンチャーと協業する際のマネジメント
ベンチャーで最適の人材
CVC における戦略的価値と財務リターン
イノベーションのファイナンス(Valley of Death をどのように越えるか)
ベンチャーのステージ別 R&D/CVC のアプローチ(CVC は筆頭投資家となるべきか)
ベンチャースカウトのためのヒットリスト
有望なベンチャーにどうやって近づくか
VC とのつきあい方
2.3.ブレイクアウトセッション
2.3.1. 第 1 グループ(NEDO 小野寺所長)
 どのようにしていい提携先のベンチャーを見つけるか。
-インタネットのキーワード検索
-Trade Show など
-VC 経由
-日本の事業部からの問い合わせ
-個人的なネットワーク
 一旦関係を作った後どう維持するか。情報は Give and Take が原則。
 関係を深める方法としては JDA(共同開発協定)などがある。
 ベンチャーと自社の IP をシェアするのは不可能に近い(1社)
 当初から両者でどのような IP を持ち寄り、何を作るかを明確にすれば可能(他社)。各
自、自分が持っている IP を共同開発時に明確にし、それぞれについては各自が IP を保持。
5
共同で開発されたものについては共同。お互いに Non-exclusive な License を3年やるとか
条件を決めればよい。
 ベンチャーとのこのような合意を円滑化するためには Template を用意しておくのも一案。
一から本部法務部で議論をすると平気で半年~1年かかったりする。Template があれば2
ヶ月程度で出来る。Template は大学用、Supplier 用、など若干内容が異なる。
 米では CEO が決定者で意思決定が早いが、日本ではコンセンサスが必要で社長が決めても
決まらない。Compliance 上も取締役会に諮る必要があり、そのためには決済のための文書
が必要という話になって、不要なデータをたくさん用意する必要が生じる。
 事業部との戦略のすりあわせが重要。
 大学と共同研究を行う際に、Gift にするか Grant にするかによって Overhead が変わること
に注意する必要。Gift であれば Overhead は低い(10%以下)が、大学として成果を出す
義務はない。Grant であれば Overhead は高い(50%?)が、大学として成果を出す義務が
生じる。 先生との信頼関係によって Grant にするかどうかを判断すればいい。
 会社によっては本社に相談をせずに一定程度の金額(100K?400K?)を出せる。この金額
で大学・ベンチャーとの関係を構築していくことになる。
 大学に Visiting Scholar として人を送り出す方法もある。
 JDA については第一ステップでは 100K~500K を使って実用化できるかを見る。第二ステ
ップからは出費も大きくなるので本部の参画が必要。本部の了承を得るのは、第一ステッ
プに入る前の場合もあるし、第一ステップの結果が出てからのこともある。ビジネスに移
行していく段階で、ビジネス開発の人が必要になることが多い。
 日本の企業は概してベンチャーをビジネスモデルの源泉とは考えず、技術の源泉と考えて
いる(概ね首肯)。理由としては、ベンチャーをそのままの形で統合して、ストックオプ
ションなどを与えるなどの柔軟性を持って対応することが困難だから。
 大企業とつきあうことはベンチャーにとって、セールスチャネルになり、Credibility を与
えることになるので、その点は大企業側のチップであることを認識する必要。
 スケジュール感覚はベンチャーと大企業の事業戦略との間で違う。企業は通常5~7年の
中期計画、2年程度の短期計画があるので、その事業戦略の中にはまるかどうかが一つの
課題。
 日本の企業の中の研究者は事業化に概して関心を持っていない。したがって、企業外のベ
ンチャー・大学の研究者、企業内の研究者をリンクさせるだけでは不十分。事業化へとつ
なげるビジネス開発担当者が必要。
 米国の問題を解決するために製品開発をするためにどこで開発をするかが問題になること
あり。本来ローカル R&D 機能を持つのが理想だが、現在では、日本の R&D に開発ニーズ
6
を送付し、開発をしてもらう形。時間がかかる。折衷案として、小さい5~10人程度の
Localization のためのチームを作ったりすることもある。
2.3.2. 第 2 グループ(JETRO
岡田所長)
1. Shorter Decision Process~意思決定に必要な時間の問題
 大企業側から見れば当然意思決定に当たっては技術情報や財務情報の詳細が必要
 一方でベンチャー企業側から十分な情報を得られないことが問題
 必要な情報を適切なタイミングで入手できなければ「縁が無かった」と諦めるのも一案
 一方で、大企業とベンチャー企業の主観的な時間軸にはギャップがあることは事実で、例
えば大企業は 3 カ月許容するがベンチャー企業の許容範囲は 1 カ月ということが往々にし
てあるわけで、このような場合を想定して、直感的に「良い案件」と確信するなら、案件
組成の早い段階で、本社の「C」なりこれに近いレベルの二人以上の幹部に話をして「ア
ライアンス・チーム」に引き込むように努力することが一案
2. Skill Sets for Management~経営に必要なスキル
 ベンチャー企業側の幹部(CEO)に必要なのは、経営ドメインとする分野の技術への通暁、
ビジネスの経験、マネジメントの経験
 大企業側のインターフェイスも機能しなければならないが、ベンチャー企業側の CEO が相
応以上の人材であることは成功に向けた必要条件
 米国では、ベンチャーキャピタルの関与によって、不適格だと見なされた CEO は素早くす
げ替えられるが、これが機能しない日本のベンチャー企業のガバナンスは大きな課題
3. IP Management + Start-ups~IP マネジメントとスタートアップ企業
 大企業側にとって最大の懸念は「コンタミネーション」の問題
 NDA 締結時に当該案件に関与する者を明確にするリストを添付してファイアーウオール
を設定するものの、大企業の研究所では、当該 NDA に関与する者が把握できている範囲
外で類似の研究を行っている場合もあり、たまたまファイアーウオールの外側で NDA に
違反することなく類似の発明が行われた場合でも、侵害訴訟の場でファイアーウオール
から情報が漏れなかったことを挙証するのは困難
 この点に関する一つの参考事例は研究機関と複数の企業が構成する研究コンソシアムに
おける知財の取り扱いに関する取り決めで、研究の開始前に様々な場合を想定した中身
で合意に至るには相当な時間と労力を要するが、いったん合意した後は活動の展開が楽
 個別企業間の NDA についても様々な場合を想定した詳細な中身を含む雛型を作ることに
よって多くの課題について事前に解決の方向性を示しておくことが一案
4. Corporate R&D vs.CVC by Stage of Venture~CVC がターゲットとすべきベンチャー
7


大企業にとってもベンチャー企業にとっても技術の真偽の検証が出来ていない場合には
アライアンスを形成することの意義は乏しいし形成も困難、ただし、大学などの研究に
関するコミュニティも関与している場合には、研究活動推進の条件が整っているので、
アライアンスの形成には大きな意義
大企業にとっては、既に技術の真偽の検証が済んでおり、経営的にもある程度進展した
ステージ B や C に白羽の矢を立てることが一番の狙い目
5. How to Reach Start-ups to Work-with~ふさわしいベンチャーの見つけ方





まず、ターゲットとするドメインにおけるベンチャー企業を取り巻くネットワーキング
やピッチコンテストなど諸々の活動状況をマッピングすること
次にこれらの活動にプライオリティを付けて幅広く参加すること
自らフォーラムなどを主催することも一案
また、ベンチャーキャピタルのコミュニティとの日常的な情報交換の場を持つのも双方
にとって大変有益
さらに、買収や共同研究の実績を示しつつ、ベンチャーにとって連携し甲斐がある CVC
であるという評判を高めていくことも必要
6. その他

予定された論点以外に、駐在員の任期の問題について意見交換
o 会社によっては 2 年サイクルのローテーションを実施、これは可能な限り多くの
社員に海外経験を積ませるとの狙いもあるが、取組の継続性の面で課題が多いこ
とも事実
o この点からは現地で採用したタレントの活用が不可欠になるが、これを推進して
一定以上の成果を挙げている会社も存在
o 今後に向けての課題はグルーバルな視点の中で各国の研究開発拠点の相互がフラ
ットかつインターアクティブな関係性を築くこと
o この観点からは、米国で仕込んだ研究ネタを一旦日本に戻して開発活動にインプ
ットして製品にした後に再び米国に戻すというサイクルには迂遠過ぎるきらいあ
り
2.3.3. 第 3 グループ(Innovation Core SEI
片山さん)
1.意志決定にかかる時間の短縮

日本企業は責任問題に関わるので Yes も No もはっきり言わないことが多々ある。ベンチ
ャーの技術や製品に関心は示すが、実際に契約をするまでに長時間かかるのが典型。時
間をかけて決定をするのが必ずしも良くないわけではないが、ハイテク産業などの業界
では時間をかけるのが命取りになる場合がある。
8







日本企業と比べて中国企業、韓国企業は非常に決断が早い。時は金なりの考え。
日本の場合はベンチャーと協業の話が出るとまずはリサーチ部門に話が行き、そこから
長時間動かない。対して決断が早い企業(中国、韓国、アメリカなど)では話を企業に
持ち込んだ人材が VP レベルに話を持って行き、VP レベルが興味を示せばそこから CEO
に話を持ち込み、即決断。
日本企業ではサラリーマン CEO が一般的なため、リスクを取ることを極端に嫌う。CEO
になる前にリスクを取った実績があると、CEO になることが難しくなるため、役員クラ
スでも誰も決断をしたがらない。対してアメリカでは CEO はリスクを取らないこと、決
断をしないことがリスクであるという考え方が一般的である。CEO が決断できるかでき
ないか、が意志決定にかかる時間の短縮が可能かどうかの最重要ポイントである。
決断のスピードを上げるためにはその企業にとって何が必要かを常にアップデートして
把握している必要がある。それができていなければベンチャーとの話が来たときに、そ
の技術や製品が企業にとって必要か、有益かのジャッジに時間がかかる。本気で棚卸し
をすることの重要性。一方で足りないもののリストを作ることは弱みを見せることとと
らえられ、避けられる傾向有り。
投資先、投資をする対象の「旬」を逃さないこと
役員の決裁がいらないように Fund を作って投資を行うというのも有りか。
イノベーション促進部隊に VP レベル以上の人間がいることが重要。シリコンバレーに進
出している自動車、機械、電機メーカー日系企業は大体 VP レベル駐在している。
2.ベンチャーにどうやって近づくか


まずは VC から情報を得る。その後人のつながりを築いていく。最終的には向こうからや
ってくるのが理想。
本部に持ち込む案件は年間 1-2 件。企業の役員会がクライアントという形なので、事業部
がほしいものをほしいときに持って行けるかどうかが鍵となる。「旬」かどうかが重要。
社内ネットワークを駆使して、何が「旬」かを把握することが SV 支部にとって重要なタ
スクである。
Internal Marketing、根回しの重要性

インターネットからでも十分情報は得られる。

2.4.全体ディスカッション


ベンチャーへのアクセスを広げる上で VC との関係を築くことは重要である。
オープンイノベーションを推進する部門に役員メンバーを置くことで、イノベーション
展開のための体系作りができないか(Chief Innovation Officer)。CEO を目指している役員は
決断スピードが遅くなるので、元 CEO をイノベーション推進のトップに置くのも一案か。
知識を得るには人を動かす必要有り。Kaiser は Innovation Center をつくり、Kaiser の施設
内にベンチャーを呼び込んでいる。
9
3. Measuring ROI
3.1. パネルによる自己紹介
3.1.1. C 社
ベンチャーの価値を算出できる場合には、決断をすることが難しくないので、スムーズ
に行くが、そうでない場合にはリサーチや決断に時間がかかり、社内で議論をしている
うちにベンチャーが待てないという結果になりがちである。本社にはそのベンチャーと
協業することによってどのくらいの時間と資金を節約できるか、財政的なリターンの予
測、ベンチャー側が提示している条件などについて情報を送る。ベンチャーの最大の価
値は次の製品にあるので、人材が鍵。人材が残るかどうかが再大のポイントである。
3.1.2. D 社
ベンチャーは基本的に収入がないので、企業価値を計るのは極めて難しい。よって ROI
を測るのも難しい。その会社の未来に対して投資するという姿勢が必要で、通常決断の
決め手となるのはそのベンチャーを動かしている「人」である。良い技術や製品がある
というのは前提条件として。いつ意志決定をするかは最初に決める。パートナーで徹底
的に議論して多数決で決定。
3.1.3. E 社
E 社は 1995 年から投資を開始しているが、最初の 10 年間はうまくいかなかった。ベン
チャーへの投資のコンセプトとしては Strategic, synergetic, synchronous (internal &
external)の3つ。Equity 投資のみ、Equity 投資+JD(Joint Development) あるいは JD のみ
の 3 種類の提携の仕方がある。E 社としては JD のみ、Equity + JD が望ましく Equity 投資
のみは避けたい。ベンチャーの技術を取り入れることにより、コストダウン、より早く
市場に出られること、新しいビジネスや製品を作り出せることなどに価値があるとの考
え。JD の場合にはベンチャーの技術を E 社のみと共有する方向を目指す。
3.2. ディスカッション
ベンチャーを買収した際に、その人材をいかに保持していくかは非常に大切なポイントであ
る。買収によって将来開発されるであろう技術も取り入れたと言うことになるので、技術者
やマネジメントなどが外に出てしまえば、買収によって得られた価値は下落する。ベンチャ
ーで仕事をしていた人間にとって、大企業で働くことは物事が動くスピードが遅かったり、
意志決定に関わる人々が多数いるためストレスになることが多い。そのような人事面でも気
を配っていく必要がある。
JD 投資をして製品の中にベンチャーの技術を取り入れる場合、その製品の何%をベンチャー
の技術が貢献したものだと計算するかは非常に難しい問題である。ROI を測る上で、重要な
ポイントではあるが、はっきりとした換算方式はないので、事前に数字として見ることが困
難である。
10
4.International Marketing
4.1.パネル自己紹介
4.1.1. F 社
この先 5 年ほど F 社の売上の 25%程度はインフラ関連から見込む。自動車との協業による部分
も大きい。その中で R&D からの収入を大きく延ばそうとする計画があるが、具体的実現策は
現在のところなし。SV 事務所の分析によると R&D から製品化の失敗はマーケティング不足に
よるところが大きい。新しい技術を本社に紹介しても、反応は「他社はどう動いているのか」
「現在の市場のサイズはどうなのか」など。新しい市場を生み出すブルーオーシャンストラテ
ジーではなく、本社は未だレッドオーシャンストラテジーを引きずっているため、イノベーテ
ィブな動きを取るのが非常に難しい状況である。
4.1.2. G 社
G 社はアメリカでスーパーなどの市場を開拓済み。新しい市場を見つけるべく、シリコンバレ
ー企業のマイクロキッチンに目をつけた。セールスの規模はスーパーに比べて劣るものの、基
本的には企業が費用をまかなうため、社員からの反応がよい。それが SNS などで広まり、マー
ケティングへと繋がっている。シリコンバレーのエンジニアのイベントなどでブースをだし、
実際に周辺企業で働いている人たちと話をし、各企業のカフェテリアマネジャーに取り次いで
もらうことで、少しずつ顧客を増やしている。
4.1.3.
H社
市場開拓で難しいのはアメリカの技術標準を話し合う場に入り込めないことである。現在市
場シェアを持つ企業は内々で新しい標準についてランチミーティング等で話し合い、標準認
可を申請する段階でもう試作品を作っている状況。その事前ミーティングに加わることがで
きないため、商品開発でどうしても後れを取ってしまう。
4.2.ディスカッション
イノベーションを考える上でブルーオーシャンストラテジーは重要。しかし、日本企業の本
社はレッドオーシャン的な考えを捨てることができない。イノベーションを求めると言いつ
つ、古いビジネスストラテジーにこだわり、市場の大きさや競争相手などに意識を集中させ
ているいう矛盾がイノベーションを妨げている。
11
Appendix C
Preliminary Meeting Agenda
Japan Silicon Valley Innovation Forum
Sumitomo Electric, 2355 Zanker Road, San Jose, CA 95131
Friday, December 14, 2012
8:30am
Registration
9:00am
Welcome: Professor Henry Chesbrough, Osamu Onodera - Review of the Program.
9:15am
Introductions – Participants will go around the table to introduce themselves to each other.
Objective: to give members a chance to engage in short conversations with one another.
9:45am
University Technology Transfer and IP Management – Professor Henry Chesbrough
This will provide an overview to the key concepts we will cover during the day’s program. Q&A to follow the
Presentation
10:30am
Break
11:00am
Best Practices in University Technology Transfer - Panel
Dr. Carol Mimura, Asst. Vice Chancellor, IP and Industry Research Alliances, UC Berkeley
Chenyang Xu, General Manager, Siemens Technology-to-Business, Berkeley
Rich Friedrich, Director of Open Innovation, HP Labs
12:30pm Lunch
1:30pm
Breakout Groups – Transferring University Technology
Professor Chesbrough, Onodera-san, Okada-san, and Kuwahara-san will lead small discussion groups
Each group will report back to the whole group
3:00pm
3:30pm
Break
Managing IP to Promote Innovation
Suzanne Harrison, Founder and CEO, Percipient IP
4:30pm
General Discussion – Effective and Ineffective Practices in Managing IP for Innovation
5:30pm
Feedback on the Meeting etc.
Presentation on the result of previous survey
Setting the dates for informal follow-up session in Japanese and the third meeting
Discussion on the topics for the next meeting
Report to be published in March
Discussion on a potential meeting next May or July
Departure
6:00pm
JSVIF 第 2 回会議議事録
1. 大学と技術移転、IP 管理についての導入
チェスボロ-先生によるプレゼンテーション
1.1.
IP とは
Intellectual Property (以下 IP) とは特許、企業秘密、著作権、登録商標などの保護され
ている知的財産のこと。
1.2.
IP の価値
上の図を見ると、IP 全体の価値の 90%程度が IP 全体の 10%程度によって占められて
いることがわかる。非常に価値の高い IP が少数あり、あまり価値のない IP が多数存在
する(ただし研究開発部隊の士気維持など有意義な点があることには要留意)。IP の半
数は、登録の更新費用分の価値もないとされる。10 年間更新され続ける特許は全体の
半数、法律上保護されうる最長期間の 20 年間特許の更新がされ続けるのは全体の 3 分
の 1 程度である。スタンフォード大学教授の Mark Lemley によると登録されている特許
のうち、法廷で争われているものや使用料を受け取っているものは全体のたった 5%。
それ以外は収益に貢献することのない、ただ存在するだけの状態である。
1986 年にフランス、ドイツ、イギリスの 100 万以上の特許に関する調査を行った
Ariel Pakes によると、これらの半数は$2,189 以下の価値しかなく、特許全体の 90%が
$25,000 以下の価値しかないとのこと。1990 年の Mark Schankerman による調査では、製
薬特許の価値の平均は$4,313、化学特許では$4,969、機械特許では$15,120、電子機器特
許では$19,837 となっている。これに対し、特許申請自体にかかる費用は弁護士、書類、
更新費用など含め$10,000 から$30,000 である。特許の価値と申請費用を比較すると、や
はりすべての特許が必ずしも申請に値するわけではないようだ。
大学別にエンジニアリングの所有特許とその価値について見てみると、マサチューセ
ッツ工科大学(MIT)が突出して保有ライセンスの数とそれによる収入が多く、米国内の特
許の数と平均的な価値は他大学と比べても非常に高いことがわかる。
その他の大学の例を見ると、ライセンスによる収入や特許による収入に著しい差が見ら
れる。
IP 管理
IP についての研究は弁護士の目線からや経済学の目線からいろいろと研究がなされて
いるが、IP 管理に関する調査/研究はまだ多くはない。
一口に特許と言っても、前述したようにどの特許も同等に価値があるというわけでは
ない。ある企業/大学などに帰属する特許について考えると、3 つの種類があると思われ
る。
1.3.
一つ目は事業の核となる特許、二つ目は重要な特許、三つ目はそれ以外の特許である。
事業の核を担う特許に関しては慎重に保護する必要があるが、重要な特許に関しては、
相手を選んで共有することでその企業にとっての利益となる場合もある。その他の特許
に関しては、広く共有することが可能である。IBM は業界のイノベーションを促進する
ため、自社の特許を寄付することがよく知られている。
1.4.
大学と IP
1980 年に制定された Bayh-Dole 法により、政府からの資金援助を受けた研究成果によ
って生まれた特許はその開発者、大学や企業、非営利団体などに帰属することが認めら
れた。大学での研究は時として産業界に大きな影響を与えることがある。遺伝子組み換
え方法の基本特許として広く知られる Cohen Boyer 特許もその一つである。この研究に
は総額 2 万 5500 万ドルが使われ、250 億ドル以上のバイオ産業の創設に繋がっている。
他方、このような動きを警戒し、あえて研究成果を公表してしまうという動きもある。
Merck は人間ゲノムの解析をした際にはこれを公表し、特許化しにくいようにした。
IP に関して何を公開し、何を公開しないでおくかのバランスを取ることが重要である。
企業と大学の関係を例に取ると、Gift として贈呈される資金を元に研究を行う場合には
IP の公開性は高く、下図の右に行くに従い、必要な資金が多くなり、IP は公開されなく
なる。
イノベーションと IP 戦略
イノベーションに至るまでの IP 戦略としては研究の段階で成果を論文として発表す
ることで、IP の登録申請をせずに、競争相手が同じ研究対象に対して IP 登録をするこ
とを防いだり、IMEC や UC バークレーが実践しているように研究コンソーシアムを組む
1.5.
ということも考えられる。また、IBM の半導体研究のように、研究の過程をビジネスモ
デルとして考えることも可能。複数の企業が集まって資金を提供し、研究の成果が出た
暁には参加企業はそこから生まれた IP に対して使用量を支払う必要をなくす。資金提
供を行っていない企業がラインセンスをする場合には、使用量を課すようにする。
また、研究所では常に人材の流動とそれに伴う IP の流出が問題になる。中国のある
研究所では一つの研究ラボでは限られた範囲の研究開発しか行わず、研究ラボ同士の交
流を制限することにより、研究開発の対象の全体が見えないようになっている。このよ
うな対策を取ることにより、ラボから人材が流出しても、研究対象の全体像が外に流出
することがない。
Open Innovation を進めた結果、販売が上昇、新製品開発成功というので 0.3 点あり。
どこの会社か?そこにプレゼンしてもらってはどうか?
2. 大学と技術移転 パネルセッション
2.1.UC Berkeley, Office of Intellectual Property & Industrial Research Alliances (IPIRA)
IPIRA は UC バークレーと研究パートナーとなる企業向けの窓口となるオフィス。2004
年から活動している。
IPIRA では大学と企業の間で長年行われてきた技術移転 (Technology Transfer) に対し、
革新的なアプローチを持っている。大学発の技術を外部に提供するという従来の技術移
転ではなく、企業との関係を深め、共同研究のパートナーとなり、企業側から技術を大
学へ移転することも行う。IPIRA 内には二つのオフィスがあり、一つは大学発の技術を
外に出す(Push 型)ための Office of Technology Licensing (OTL)、もう一つは企業を大学に
取り入れる(Pull 型)のための Industry Alliances Office (IAO)である。二つのオフィスを合
わせて 15 名程度の職員がいる。
現在は 600 社以上の企業と関係を結んでおり、この Pull 型を取り入れたことによって
特許関連の年間収入は以前の 10M から、Grant などで年間 70M に増加している。IP 申
請に固執することを辞めたことで、大学の評判も広まり、企業とのネットワークも確立
することができた。企業との関係については、特許の出願を行うことを目的とするので
はなく(否定するわけではないが)、結果を公表することを目的とする。しっかり公表
がされれば特許対象とならないので、企業の Defensive 戦略には見合う。
企業との新しい形のコラボレーションの大きな動きとしてあるのがコンソーシアム方
式。AMP(Algorithms, Machines and People)ラボはその一つ。12 社ほどで共同出資したプ
ログラム。自由な発想でいろいろな議論ができる。新たに NSF からのグラントももらい、
分野横断的な研究が行われている。
これらの動きはまだ大きくはなっていないが、UCSF、UCLA などいくつかの大学がそ
ういう方向に動きつつある。
2.2.Siemens, Technology-to-Business (TTB)
バークレー市にあるシーメンスの Technology-to-Business は大学や起業家、研究所など
から革新的な技術を取り入れ、ビジネスを行う。企業に投資を行ったり、技術のライセ
ンシングをしたりと様々な方法で新しい技術をビジネスに結びつける。
シーメンスは世界中に 37 万人の従業員がいるが、それでも全て中でやるのは適切と
は考えていない。従来の何でもできる研究所(Blue Sky Lab)を社内施設として作るとい
うモデルはうまく行かなくなっている。シーメンスでは Matching Model なんかも試した
が、現在は複層的な考え方。TTB では職員の報酬制度が非常に重要だと考えられていて、
いくつのプロジェクトを結び付けたかなどいくつかの基準がある。3年契約だが、①ベ
ース、②ボーナス、③Project Exit Incentive を3年毎に評価を行う。
事業を行う際には、正しい問題設定を行うことの方が重要。問題を外に開示して、競
争にさらす。どのように契約を結ぶかは難しいが、年間 1000 件の技術を審査し、100
件程度を Due Diligence に付し、実際には数件しか市場には至らない。
大学との提携は大きく3つのレベルに分けられる。①まず従来型の個々の実用技術の
深化がある。②次に事業部ないし研究所が支払っている長期的な戦略関係などがある。
これらはどちらかというと地元の大学と密接に関係を持って行うべき関係である。これ
とは別に③本部が支払う Top Level の大学との戦略的提携。③は世界的にトップ20に
入る大学と結ぶ必要がある。これは情報量が圧倒的に違うからである。自分の関心分野
のトップ20を調べた上で訪問をして、Best Fit を探すといい。重要なのは特許などで
はなく人だ。現在シーメンスは MIT と UC バークレーとエネルギー、IT でそういう関係
にあり、年間3M ドルほど拠出。
3. ブレイクアウトセッション
3.1.第一グループ
シーメンスのように大学との提携のための部署があるという参加企業は無し。R&D 部
門の誰かがある大学との関係を維持する、というような個別対応が主流の様子。大学の
教授とのブレインストーミングなどはやっている。関係構築の点から見ると、サムソン
は米国の各大学に行っている韓国人留学生をモニターして、一人の人が優秀な人材を探
し、巡回している。そのような活動をしている企業はいない。大学からインターンを受
け付けることによって、大学教授との関係を築いているという参加企業もあった。
研究者を大学に送り込むといったことはしているが、やはり自前主義が横行。大学と
関係を構築するが、何を得ることを目的とするかは明確ではない。基本的には個々の事
業部などが関係を構築。大学派遣も辞める事例が目立ってきたため最近少なくなってい
る。大学に行ったり、競争相手に行ったり。大学の場合、本来ネットワークが広がった
という見方もできるが、やはり Family を出て行ったという感じが強い。
VC の視点から見ると、大学との協働はベンチャーとの協働、オープンソースとの協
働などと競合関係にある。個々の事業につき ROI を考えるため、判断が非常に遅いとい
う問題がある。日本の企業との協働については、誰が判断権限者なのかが不明確であり、
意思決定に6ヶ月から1年かかる。これと比較すると中国・韓国企業は早い。VC は投
資を決定する際に5年、10年、20年先のビジョンを持っていて、3年後にリターン
を得ることを目標に投資。大学だけではなく広く網を張って情報収集を行う。Peer to
peer の関係なので、情報を相互に提供する Give and Take というのが基本。日本も協働
は多いが、基本的に日本企業、企業系列はピラミッド構造。ピラミッド構造では、情報、
リスクは下から上に一方的に流れていく。Peer to peer では情報をお互いにシェアする
のが原則なので、慣れていない。
日本の本部は NDA、Compliance を気にする。法務部門は関係を構築することのリスク
のみを強調。これにより関係構築のスピード、事業開発のスピードが遅れるリスクはま
ったく考えていない。
3.2.第二グループ
当フォーラム参加企業のすべてが大学との提携をしているわけではないが、いくつか
の企業から経験も含めて提携の方法に関して話があった。大学との提携には共同研究
(長期的な研究を続け画期的な技術を生み出す目的のものや、安全性や技術標準に関わ
るものなど)や研究のための資金援助、基礎研究プロジェクトへの参加、あるいは人材
育成のために米国の一流大学へ研究者を送るなどの方法が考えられる。
業種によってどの程度大学との提携が重要かというのは異なる。物質科学の世界では
大学と良好な関係を長期間保つのは非常に重要であり、企業内の R&D 部門と大学との
密接なコミュニケーションは必要不可欠である。一方事業開発部門と大学との提携とな
ると、企業の事業開発部が窓口となり、比較的短期間の協力体制となる。
参加企業の多くは、米国の一流大学との提携は各企業にとって視野を広げる上でも非
常に有益であるとの印象を持っている。また日本の大学がリスクを取ることに対して非
常に消極的であるのに対し、米国の大学ではリスクを取ることが奨励されているという
点もあがった。
コンソーシアムを組む、というのも提携の形として考えられるが、これは先進的な米
国の大学が相手であってもなかなか難しい。UC バークレー、MIT、スタンフォードなど
ごく限られた大学のみが成功している。また、米国大学の関係者は日本の大学の関係者
と比べて、企業との提携に対して非常に積極的であるとの意見もあった。
4. イノベーションを促進する IP 管理
4.1. Percipience
Percipience はいくつかの企業(Dow、Dupont、P&G ほか)とグループを作り、知的財
産の管理方法の改善を模索している。知的財産は、法的財産とビジネス財産の両方の側
面を持っており、全ての特許が同価値ではない。管理方法を変えることにより価値をあ
げることが可能である。特許は金融上のオプションと同様に考えるべきもの。オプショ
ンは状況によって価値が出たり(In the money)、無価値であったりする。特許を取る
ことにはリスクもあれば、リターンもある。IP 管理のレベルが上がれば、あらゆる特
許・知的財産につき、技術についてのオプションと考え、特許戦略を事業戦略と密接に
リンクさせながら管理をしていくことになる。
IP 管理のレベルは大きく 5 つに分けられる。
第一レベルは、自社の地位を確保するため特許取得しようという Defensive な考え方。
第二レベルは、特許管理に金がかかりすぎる、と考え始める。やみくもに特許をとるの
ではなく、コストを管理して取り組む考え方。全企業の 80%は第一・第二レベル。第三
レベルは、IP コストを管理するだけでなく、IP を最大限有効活用しようという考え方。
第四レベルは、IP によって得られる機会を最大限に活用しようという考え方。ここま
でできる企業は10%程度。IP を保有/維持するリスクとその見返りの兼ね合いを考慮
する。インベンションとイノベーションの関係を理解し、オープンイノベーションを行
うのはこのレベルから。
第五レベルは、積極的に未来を開拓していこうという立場。IP をビジネス財産として
管理する。継続的に IP 戦略を練り、自社の特許ポートフォリオと特許申請が企業経営
に密接に結びつく。技術を分析するといろいろな未来の可能性がある。実際には一つし
か未来はないが、10年後にありうる未来としていくつかの可能性がある。その可能性
の全体像を Envelope とする。研究開発部門、特許部門、事業部門、それぞれの部署にお
いて、重なるが、若干異なる未来像を持っている。通常これらは相互に交流をしない。
IP 管理を効果的に行うためにはある程度の資金が必要となるため、IP 戦略には通常トッ
プレベルの関与が不可欠である。
自社が発明型企業(Invention)なのか、イノベーション型企業なのか、どこに競争優
位があるのかを自覚することが必要。新しい技術を開発し、新しい製品を作ることが得
意な発明型企業(Dolbee, Qualcom, Tesla など)もいれば、フォローして効率的に製品を
量産・供給する量産型企業もいる。P&G は量産型企業であり、技術開発ではなく外から
ライセンスをもらい、むしろ事業実施に競争優位がある企業。IP 戦略を有効に行ってい
る企業としては、P&G、Philips、IBM などがあげられる。
特許が売られるようになっている。NPE(Non Practicing Entity)による特許の積極取
得・行使が問題になっている(市場規模は 10 億ドルともいわれている)。しかし特許
の所有権の移転を見ると、約 15%程度しか売られていない。経済学的にどのようにこの
ような傾向を止めるかが課題。NPE による特許取得を妨げるために、事業会社で協働し
て購入する動きも活発化している1。例えば、Kodak が自社の特許を売り出しており、
Google と Apple は協力してそれらの特許を購入し、NPE による被害を防ごうとしている。
ITC Section337 による輸入差止めは非常に有力な特許行使方法となっている。非常に不
透明性が高くなっており、問題。
1
http://en.wikipedia.org/wiki/Defensive_patent_aggregation
Appendix D
Japan Silicon Valley Innovation Forum
Fujitsu Laboratories of America,1240 E. Arques Ave. Sunnyvale, CA 94085
Friday, February 15th, 2012
8:30am
Registration
9:00am
Welcome: Mr. Hiroshi Haruki, President & CEO, Fujitsu Management Services of America
Professor Henry Chesbrough, Osamu Onodera - Review of the Program.
Introductions – Participants will go around the table to introduce themselves to each other.
9:15am
Objective: to give members a chance to engage in short conversations with one another.
9:30am
How to work with VC
Bruce Graham, Venture Partner, New Venture Partners
Tsunesaburo Sugaya, General Partner, JAFCO
Shun Aramaki, Director, Presidio Ventures
Surya Josyula, Director of Business Development, Fujitsu
Henry Chesbrough, UC Berkeley, Moderator
10:45am
Break
11:15am Business Model Innovation
Presentation by Dr. Chesbrough
- Why are business models important?
- What are typical barriers to business model innovation?
- What are tools to address these barriers?
12:15am Lunch
1:15pm
Business Model Canvas
In this session, we will examine different business models of Japanese companies in a variety of
industries. Perhaps you will see something innovative from a different industry that might inspire a
new business model in your industry.
Ryuichi Mihara, Venture Partner at Mitsui&Co Global Investment, Ajinomoto
Shogo Ikegami, Regional Sales Manager, Yamato Transport
Toshiya Okamura, Residential Sales Planning Department Manager, Tokyo Gas
2:45pm
Break
3:15pm
Breakout session: Experience in Business Model Innovation
Breaking into 2-3 groups, discuss the questions below.
- What is your company’s business model(s)?
- What is your experience in business model innovation?
- What is your experience in working with small companies/spin outs to drive business model innovation?
4:45pm
Feedback on breakout session
5:15pm
Meeting in May
Discuss about the topics, speakers, promotion of the event, date & venue etc.
Departure
6:00pm
JSVIF 第 3 回会議議事録
2013 年 2 月 15 日、JSVIF 第 3 回会議が Fujitsu Laboratories of America にて行われた。VC
とのつきあい方とビジネスモデルイノベーションをトピックとし、議論を行った。詳細は
以下。
1. VC とのつきあい方
1.1. VC サイドの意見
New Venture Partners の Bruce Graham 氏はいわゆる A ステージ (シード
ステージ) のプロジェクトに資金を出すことが多い。プロジェクトステ
ージに関しては以下参照。
Initiate a venture
project
Work together with
VCs
A
Contact with startups
B
C
投資案件を選定する際に見るポイントは技術そのものというよりも、その
製品のコンセプトが良いか、将来的にどのように投資が回収できるかとい
うこと。VC としては Fundable Deals1を探す。スピンアウトに関しても
Fundable Deal であるかどうかが重要。また、スピンアウトに投資する場合
には1) 知的財産がスピンアウト企業に帰属していること、2) 親企業
がスピンアウト企業をコントロールしようとしないこと、3) 親企業で
スピンアウトする技術/製品に関わるキーメンバーが、スピンアウト企業
に参加していることが VC 側から見て重要であると述べた。 投資する対
象としてはソーシャルメディアの技術などでなく、5 年 10 年とより長く
製品として市場に残れるもの(shelf Life の長いもの)を探す。困難な点
としてあげていたのは、非常に速いペースで動く VC とどちらかというと
物事がゆっくりと進む研究所の歯車の合わせ方。
Presidio Ventures の Shun Aramaki 氏は Graham 氏とは異なり、B ステー
ジ (プロトタイプステージ) や C ステージ(エンジニアステージ)のプ
ロジェクトに投資をすることが多いという。こちらも投資の決断には技術
を見ると言うよりもビジネスとしての価値、持続可能性、将来的な投資の
還元に焦点を当てるとのこと。難しい点としては、やはり VC と投資先
(ベンチャー企業など)のタイムラインの差を上げた。特にベンチャー企
1
Fundable Deals とは、投資をした後上手くその資金が回収できそうな投資案件のこと。ベンチャー
企業の持つ技術やサービスの内容は VC にとって Fundable Deals であるかどうかに比べ重要ではな
い。
業に関しては、2 年 3 年の長さでタイムラインを設定するのは不可能に近
いため、投資する側とされる側が事前にタイムラインに関して同意してお
くことが非常に重要であると述べた。
1.2. 企業側の意見
参加企業の中には企業内から出てきた技術をスピンオフしようとした際
の経験談なども話された。結局そのスピンオフは成功しなかったが、理由
として同社の開発エンジニアにその立ち上げを任せたことが大きかったの
ではないかと話していた。エンジニアは技術に関しては詳しいがビジネス
に関してはあまり理解していない。先の VC からの話でもあったように、
良い技術があるのは前提として、そこにビジネスとしての価値をどのよう
につけていくかが重要である。良い技術があっても、それをビジネスへと
発展させることができる適切な人材が不可欠である。また大企業からスピ
ンオフが出る場合には IP に関する問題が常について回る。スピンオフに
投資をする VC としては IP はそのベンチャーに帰属するのが条件というと
ころが多いが、大企業にとって IP を手放すのは難しいことが多い。
また、大企業に属するエンジニアがスピンオフにチャレンジすることの
アドバンテージが少ないという話もあった。失敗した場合のリスクを考え
ると、スピンオフに値する技術が開発できたとしても、踏み切らないエン
ジニアが多いとのこと。
1.3. VC と有益な関係を築くには
企業内で生まれた新しい技術をスピンオフで市場に出すのは投資として
有望であるが、その際の VC との仕事の仕方には注意点がある。一つ目は
VC にある程度の権限を持たせること。日本企業の場合にはスピンオフと
いえども技術開発を行った起業が関与し続けることが多く、そうすると
VC が動きにくくなるというのが現状のようである。チェスボロ-先生の研
究によると、Xerox 社から立ち上がった 35 のプロジェクトを観察すると
Xerox からの資金への関与が大きければ大きいほど、外部 VC から役員会
への参加が少なければ少ないほど、そのプロジェクトが利益を生み出すス
ピードが遅くなったという。企業がスピンオフに対して権限を持ち続けよ
うとすることは、結果的にそのプロジェクトの成長を妨げる結果となるた
め、できるだけ VC に権限を与えることが重要である。
日本企業の中では CVC はあまり成功しないといわれているが、Fujitsu
は 1937 年に富士電機から生まれたスピンオフであり、その富士電機はも
ともとシーメンスと古川電機のジョイントベンチャーだった企業である。
Fujitsu はその後 Fanuc という工場自動化を行う企業をスピンオフしている。
VC とのつきあい方を考える際に、なぜ VC が企業と付き合おうと思うか
について考えてみる必要がある。VC の収入源は主に大企業によるベンチ
ャーの買収であるので、企業は将来 VC が投資したベンチャーを売る相手
になり得る。株式上場も収入を有無手段の一つであるが、最近は上場する
ケースは減ってきている。VC は投資を回収するのに長けており、投資を
行っている業界に関して非常に多くの情報を持っているが、大企業のよう
に 5 年 10 年先を見据えているわけではない。企業が持っている将来を予
測する力、技術に関する深い知識は VC に提供できる大きなメリットであ
る。
企業側の話を聞くと VC と付き合う際には短期的に、情報を提供するあ
るいはされるということが多いようだが、VC と付き合うことで築かれる
社会関係資本は企業の発展にとって非常に重要であるため、彼らと長期的
に対等に付き合うにはどうしたら良いかを考える必要がある。そのために
は Give & Take の精神が非常に重要であり、自社の経験や知識をシェア
することが重要である。IBM は VC と密なネットワークを持つことで有名
だが、直接投資を行っているわけではない。IBM は時間をかけて VC とコ
ミュニケ-ションをとり、いわゆる社会関係資本を築くことに時間と労力
を使っている。
2. ビジネスモデルイノベーション
2.1. チェスボロ-先生によるプレゼンテーション
ビジネスモデルを構築する手順
o 市場を見つける
o その市場にどのような価値を提供できるのかをはっきり
させ、(この情報は外には出さない)その特質/属性に焦
点を当てる。
o 商品を提供するのに必要なバリューチェーンを規定する
(この時点で提携が必要な企業などにある程度の情報を
開示する)。
o どのように収益を上げるかを考える(製品を売るのであ
ればそのマージン、サービスを提供するのであればその
申し込み費用など)
o 以上の手順で構築したモデルを持続していくためのバリ
ューネットワークを作る(例:スマートフォンというバリ
ューネットワークには多くのプラットフォームや技術が
入っている)
ビジネスモデルを作る際には多くの部署が関連してくる。R&D,マーケ
ティング、事業部、財務など。企業内で一つのビジネスモデルを構築する
のにどのように協力体制を作ることができるかは非常に重要。新しいビジ
ネスモデルを導入しようとするとバリューネットワーク内で対立が起こる
可能性もある。例えば、従来自動車ビジネスでは車の販売という最初の利
益の出し方があり、その後その車のメンテナンスを定期的に行う必要があ
るので、そこでさらに収益を上げるというビジネスモデルが確立していた
が、電気自動車が参入したことで、従来の定期メンテナンスからの収益が
見込めなくなるため、電気自動車の販売に対して自動車メーカーが尻込み
するということが起こった。
ビジネスモデルを描くツールとして Alex Osterwalder による Business
Model Canvas とうのが紹介された。これはビジネスモデルの構築/分析/評
価/改良などのために、ビジネスモデル全体をビジュアライズするテンプ
レートである。詳細は以下参照。
o
o
o
o
o
Value Proposition: 顧客にどのような価値を提供できるか、顧客が
持つどのような問題を解決できるか
Customer Relationships: 顧客との関係。一回きりの販売、継続的
なサービスの費用など。
Customer Segment: 市場はどこか、顧客層はどこか。
Channel: 製品やサービスをどの販路で販売/提供するか
Key Activities: 収益を上げるための活動。製品を売るのであれば
生産活動、コンサルティングサービスであれば顧客の問題解決な
ど
Key Resources: 特許、人材、資金など。
Key Partnerships: 提携する相手。アライアンスや JV など形式は
様々
o Cost Structure: コスト構造。固定費、変動費を含む。
o Revenue Stream: どのように収益を上げるのか。
このキャンバスは民間企業のみに使われるわけではなく、非営利団体や
政府の活動などにも応用することができる。Revenue Stream には関係機関、
団体などとの関係を築くことで得られる政治的サポートなども含めること
ができる。
このキャンバスを部署毎に作成してみることで、社内で行っている一つ
のビジネスがそれぞれの部署でどのように認識されているかを確認するこ
とができるので、それを受けて企業全体でどのようなビジネスモデルを追
求するべきかを議論するのも社内コミュニケーションの活性化になって良
いのではないか。。
o
o
日本企業は技術イノベーションに長けているが、実は近年このタイプの
イノベーションが新たな利益を生み出すことが少なくなってきている。変
わって価値を持つのがビジネスモデルイノベーションである。Google とい
う会社はもともと OEM サーチエンジンを提供する会社であった。それを
Yahoo などの会社が採用し、その技術に対して支払いをしていた。2001 年
に Yahoo に Google を 1000 万ドルで買収するチャンスがあったが、当時
Google はその他にもいくつかある OEM サーチエンジンをいう製品を売っ
ている会社だったため Yahoo は買収に踏み切らなかった。ところが、その
後 Google は全く同じ技術を使い、広告を効果的に出したかった企業に対
しサーチ用のキーワードのオークションを開始する。ビジネスモデルを変
えて、収益の上げ方を全く新しいものにしたのである。現在の Google の
企業としての価値は計り知れない。
ビジネスモデル改革はどこから生まれるのか、と考えると、可能性はい
ろいろなところにある。新しいビジネスモデルを試し、失敗することでさ
らに新しいものが生まれたり、社内起業家が新しいモデルを生み出すこと
もある。競合相手やビジネスパートナーから学ぶこともある。同じ業界で
VC から投資を受けているベンチャー企業のビジネスモデルも参考になる
ことが多い。
2.2.ブレイクアウトセッション
各参加企業もそれぞれのビジネスモデルについて発表を行った。例を挙
げると Daikin 工業は自社の商業用空調システム(レストラン、コンビニ、
病院など)のビジネスモデルについて言及。この分野でもっとも重要なこ
とは、空調システムが故障/停止しないことであり、顧客がもっとも懸念
しているこの点を解決すべく、Daikin は24時間修理保証サービスという
のを提供している。同社が提供したシステムに故障があれば、連絡を受け
て24時間以内に修理サービスが受けられるというもの。このビジネスモ
デルでキーポイントとなるのは修理サービスの委託先である。日本や中国
ではこのキーパートナーとの関係がしっかりしていることが、このビジネ
スモデルが成功した大きな理由の一つであるとのこと。 以上のモデルを
ビジネスモデルキャンバスに描き込むと以下のようになる。
2.3.ビジネスモデルに関する議論
ビジネスモデルイノベーションはベンチャー企業と大企業が行う場合、
相違点が多々ある。ビジネスモデルを変えることでベンチャー企業の場合
にはリスクもリターンも高く、規模も小さいのでオーナーによって変革が
行われ、資産のレバレッジもない。一方大企業の場合にはコアビジネスに
悪影響が出てはいけないので、低リスクで行うのが基本。改革も多くの人
たちの手によって行われ、資産レバレッジも重要。
企業内の経験談からは新しいビジネスモデルは企業階層の下の方から生
まれてくることも多いとの話があった。経営陣ではなく、サービス会社で
あれば実際にサービスを顧客に提供している立場の社員、メーカーであれ
ば実際に製品を顧客に売っている人の立場からビジネスモデルを考えるこ
とでより顧客に直接響くモデルが生まれてくるようだ。Samsung は毎年新
入社員の中から優秀な人事を選び、彼らに社長の前で新しいビジネスモデ
ルの提案をさせるという。まだ他の社員に比べれば企業内の事情をよく知
らないが、外部の人間に比べれば企業を理解しているという立場の若い社
員が自由に発想するため、長年勤めている人間が思いつかないような切り
口でプレゼンが行われる。
近年大企業でもベンチャーでも“freemium (free + premium) ”というビ
ジネスモデルをよく聞く。社会人のためのネットワーキングウェブサイト
の LinkedIn などがその例。基本のサービスは無料で提供するが、さらにグ
レードの高いサービスは登録料やサービス料が必要となる。LinkedIn など
はシステムで顧客から上手く収益を上げているが、実際には無料のサービ
スから有料のものへ移行しない顧客のケースも多々あるため、顧客行動を
よく観察する必要がある。開発したサービスや製品を一定期間無料で提供
し、ある程度利用者が増えたところで有料化するというモデルもあるが、
その場合バリューチェーンの中でその製品の価値が確立されていなければ、
顧客が付いてこない可能性が非常に高いので、注意が必要である。
ビジネスモデルイノベーションを考えたとき、本社が基本的にすべてを
コントロールしようとする日本の大企業の体質は、イノベーションの実現
を妨げる可能性があるのではないか。R&D、セールス、マーケティングな
どの中央集権型でビジネスモデルを考えると、企業の下の階層からの声も
入りにくく、変革が起こりにくい。役員層に新しいビジネスモデルを納得
させるのにも非常に長い時間がかかる。また、日本企業の場合は現在の顧
客を非常に大切にし、結果として新しい顧客層に目が向かないという傾向
がある。Fuji フィルムは主力のフィルムビジネスが将来的に有望でないこ
とに気がつき医療関係など新しいビジネス、ビジネスモデルの開発に踏み
切ったことで現在も存続しているが、同じ業界の Kodak はフィルムビジネ
スにこだわり続けたことで最終的には倒産する結果となった。長い目で企
業の将来を見つめ、必要な改革を行っていくことが重要である。