シニアマンション居住者の生活実態からみる次世代のマンション計画の

シニアマンション居住者の生活実態からみる次世代のマンション計画の在り方に関する研究
200914037 増間 隼人
指導教員 黒木 宏一
1.背景
近年の日本では、高齢化の急激な進行により、「高齢
る複合シニア向けマンションである。
者の住まい」が急増・多様化している。そんな中、定年
人ホーム、7 ~ 11 階が高齢者専用賃貸マンションとなっ
などを期にシニア向けマンションという新たな高齢者向
ている複合シニア向けマンションである。
けの住宅に関心が高まっている。しかしシニア向けマン
[We] 長岡市に立地しており、3 ~ 8 階までの全室が高齢
ションは歴史が浅く、確立した定義付けがなされておら
者専用賃貸マンションである。
ず、国や行政の助成やハード面・ソフト面での明確な基
5. 入居者の暮らしの実態と特性 ( 表 2)
[Sa] 新潟市の中心部で、有料老人ホームが併設されて
[Ad] 長岡市に立地しており、2 ~ 6 階が介護付き有料老
準がなされていないなどの課題が数多く残っている。
2. 目的
本研究では、新潟県内のシニア向けマンションに入居
いて安心だという理由で Sa を選択した入居者が多く、
する高齢者を対象に、シニア向けマンションに対する意
会を増やすなどしているため、外出頻度が非常に高い。
識や価値観、マンションでの暮らしの実態を明らかにし、
しかし Sa は共用スペースが少なく、外出以外の時間は
現在のシニア向けマンションの課題を整理することで、
居室で過ごす時間が多い。
新しい時代のシニアライフとこれからのシニア向けマン
[Ad] 長岡駅に近く、有料老人ホームが併設されていて
ションの在り方を提示することを目的とする。
安心だという理由で、Ad を選択した入居者が多く、外
3. 調査概要
県内のシニア向けマンションの中で、アポイントメン
出頻度も非常に高い。食堂、大浴場の利用率は高いが、
トを取ることができた 3 事例 (Sa.Ad.We)を対象に、事
[We] 長岡市の中心部に立地しているという理由で、We
業主にはマンションのプランやコンセプトなどのハード
を選択した入居者が多く、外出頻度も非常に高い。入居
面について、管理者には、各種サービスなどのソフト面
者同士の親密度が高く、共用スペースでお茶や麻雀など
について、入居者には入居経緯や実際の暮らしぶりなど
を楽しんでおり、現状の生活にとても満足している。
の入居実態について主にヒアリング調査を実施した。
6. 入居者の共用空間の活用
[Sa]1 階に談話室が設置されている。しかし、他に交流
スポーツクラブに通うなど、積極的に外部との交流の機
それ以外の時間は居室で過ごす時間が多い。
4.調査事例の概要 ( 表 1.図 1)
[Sa] 新潟市に立地しており、2 ~ 4 階が有料老人ホーム、
できる場がなく、入居者同士が親しくなるきっかけが少
5 階~ 13 階が分譲型シニア向けマンションとなってい
ないので、談話室で集まっている事は少ない。入居者は
表 1 調査対象事例の概要
施設名
所在地
運営母体
開設年度
権利形態
住戸数
居室面積
支援サービス
共用スペース
Sa
Ad
新潟市
社会福祉法人
2004.3
分譲型
71 戸
1 部屋タイプ
2 部屋タイプ ( 小)
2 部屋タイプ ( 大)
41.67 ㎡ (12.60 坪) 46.17 ㎡ (13.96 坪) 52.38 ㎡ (15.84 坪)
介護支援 ・ 生活家事支援 ・ 食事提供など
談話室
1K
We
長岡市
株式会社
2008.7
賃貸型
35 戸
1K ルーム
1LDK ルーム
36.03 ㎡~ 36.91 ㎡
45.63 ㎡~ 45.78 ㎡
生活相談 ・ 安否確認 ・ 買い物代行など
エントランス ・ スカイダイニング ・ 大浴場 ・ 健康ルーム ・ 屋上庭園
長岡市
株式会社
2004.3
賃貸型
50 戸
1K タイプ
2K タイプ
31.78 ㎡
33.75 ㎡
生活相談 ・ 安否確認 ・ 一時的な家事援助 ・ 買い物代行など
食堂 ・ 大浴場 ・ カルチャールーム ・ 麻雀、 カラオケルーム
麻雀 ・ カラオケルーム
1K
1DK
1DK
エントランス
①
1DK 1DK 1DK 1DK 1DK
ダイニング
1K
EV
事務室
平面図及び
共用スペースの活用
1LDK
談話室
②
1LDK
⑦
食堂
③
2F プラン
1K
1LDK
1K
スカイラウンジ
多目的スペース
カルチャールーム
⑧
7 ~ 11F プラン
EV
住戸
ロビー
④
住戸
談話室 1F
EV
EV
4 階屋根
5 ~ 9F プラン
⑥
⑤
1K
住戸
住戸
住戸
住戸
住戸
スカイダイニング 12F
3 ・ 4F プラン
①椅子が設置してあり、 帰宅した入居者が休憩しながら他の入居者と ③入居者のほとんどがここで食事をする。 座席が決まっており、 他の ⑤多くの入居者が食堂を利用。 イベントの際にも交流あり。
入居者とは世間話をする。 音楽鑑賞会などの各種イベントもここで開催。⑥ヒアリングに行った際、 4 人で雀卓を囲んでいた。
話したりと交流あり。
⑦浴場の使用率は 70%程。 ここでも挨拶や世間話などの交流あり。
②Sa の交流の場。 入居者が自由に使用でき、 その他イベントの開催 ④映画鑑賞の際はテレビを使って行う。 入居者同士で集まって、 手 ⑧居室の近くにあり、 日常的に入居者同士で集まってお茶などを楽しん
場所や食堂として利用されている。
芸などをしていることもある。
でいる。
もっと気軽に集まれて、会話できる空間を望んでいる。
ため、日用品店、飲食店などの様々な商業施設が立地し
[Ad]12 階に食堂と大浴場が設置されている。食堂は入
ている。そのため、入居者は毎日のように徒歩で、日用
居者のおよそ 60%が三食の食事をとる際に利用してい
品の買い物や外食をするため、外出頻度が非常に高い。
る。交流は世間話しをする程度である。大浴場も入居者
[Ad] 入居者の多くは自立しており、周辺には、長岡駅
のほとんどが使用しているが、交流は世間話をする程度
やスーパーなどの多くの商業施設が立ち並んでいるた
である。Ad の入居者の共用空間の使用率は高いが、入
め、入居者は毎日のように徒歩で外出している。
居者同士が親しくなるケースは少ない。これは Ad の入
[We] 入居者の多くは自立しており、周辺にはスーパー
居者が、一定の距離感をもって他の入居者と接したいと
などの多くの商業施設が立ち並んでいるため、入居者は
いう、入居者の他者との関わり方に対する意識による。
毎日のように徒歩で外出している。また、親しくなった
[We] 多数の共用空間が存在する。食堂やカラオケルー
他の入居者と共に外出するなど、外出頻度は非常に高い。
ムは入居者が自由に使用することができ、入居者同士が
このように 3 事例とも都市の中心部に立地しているた
お互い誘い合って、お茶やカラオケなどを楽しんでいる。
め、入居者の外出頻度が全事例で非常に高くなっている。
カルチャールームは居室の目の前にあり、入居者が気軽
に訪れることができるため、ここで他の入居者と親しく
8.まとめ
シニア向けマンションの入居者の多くは自立してお
なることができ、スタッフも交え、入居者同士で毎日の
り、その健康な体を維持するために、会話と身体を動か
ようにお茶やお話を楽しんでいる。このことは、他の地
すことに特に気を付けている。We のように、多様の共
域から転居してきた入居者にとって、新しい知人をつく
用スペースを設置する事や、居室付近に共用スペースを
る機会となり、円滑なマンション暮らしのスタートに繋
設置することにより入居者同士の交流が促進され、入居
がっている。このように We には様々な種類の共用スペー
者同士の親密度が高くなる。また、都市部に立地させる
スが設置されており、入居者同士が親しくなれる場面や
ことにより、入居者が徒歩でどこにでも行くことができ
機会が多く存在するので We の入居者の親密度は高い。
るため、自らの健康促進、そして充実したシニアライフ
このように Ad、We よりも共用スペースの少ない Sa の
を送る事ができる。このように共用スペースの多様性、
入居者は、気軽に皆が集まれる共用スペースを望んでお
都市中心部への立地が、入居者のシニアライフの向上に
り、We のように多様で、各フロアに入居者が気軽に集
必要不可欠である。また、分譲型では事業者が多くの居
まれる共用スペースが存在することによって入居者同士
室の数を確保するために共用空間を削る傾向にあるが、
の親密度が高まるとともに、マンションの暮らしをより
より豊かなマンション生活を実現するためには、分譲型
充実させることに繋がる。
でも賃貸型のように、共用空間を確保することが望まし
7.入居者の周辺施設の活用
[Sa] 入居者の多くは自立しており、新潟駅周辺である
い。そして、介護サービス施設の併設により、入居者の
生活により一層の安心感を与えることができる。
Ad
Sa
郵便局
徒歩 10 分
徒歩 10 分
イトーヨーカドー
徒歩3分
Sa
長岡郵便局
原信
こだま薬局
伊勢丹
小学校
We
ウオロク
Ad
長岡郵便局
長岡駅
健康市場
アオーレ長岡
平潟神社
新潟駅
イトーヨーカドー
We
徒歩5分
坂之上小学校
長岡駅
平潟神社
徒歩5分
アオーレ長岡
100m 200m
100m 200m
100m 200m
対象事例の位置を示す
入居者が徒歩で行く場所を示す
図 1 各事例の周辺環境
表 2 ヒアリング対象者の入居実態と特性
年齢
Sa(5名 )
Ad(4名 )
89歳/ 83歳/ 96歳/ 87歳/ 76 歳
86歳/ 86歳/ 81歳/ 81 歳
男性4名
性別
女性5名
外出頻度
ほぼ毎日外出
共用スペースの使用
体操やイベントの際に談話室を使用。 それ以外はあまり
談話室の使用はない。
施設サービスの使用
日常的に生活相談や管理人に電球の交換などをしてもらう。
マンション内での交流
親しい入居者同士で居室の行き来あり。 談話室ではイベン
トの際などに交流あり。
マンション外での交流
スポーツクラブや各自で老人会などに参加。
イベント
食事会・ 体操会など。
食事
外出場所
当該マンションの選択理由
欲しいスペース
○
×
○
△
○
×
ほとんどが自炊を行っている。
新潟駅・ 伊勢丹・ 健康市場・ スポーツクラブ・ 飲食店など。
駅から非常に近く、 交通の便が非常に良い。 老人ホームが併設さ
れており、 いざという時も安心だから。
入居者が気軽に会話できるスペース。
ほぼ毎日外出
大浴場やスカイラウンジで世間話をする程度。
スタッフに生活相談や買い物代行など。
食堂でや大浴場主に入居者同士で交流をしているが、居
室の行き来はない。
今朝白荘に行って囲碁などをしている入居者もいるが、マ
ンション外での交流は少ない。
ハーモニカ、 大正琴演奏会・ フラダンスを食堂で不定期
開催。
We(4名 )
81歳/ 76歳/ 89歳/ 77 歳
○
△
○
×
×
△
朝、 夕はほぼ皆が食堂を利用。
男性1名・女性3名
週4 回程度外出
5 名ほどで日常的に共用スペースでお茶をしている。麻雀
カラオケルーム・ 浴場を使用。
生活介護員に生活相談や買い物代行など。
入居者同士の部屋を行き来、 共用スペースや麻雀、カラ
オケルームで日常的に交流。
近隣の友人との交流があったりするが、 少ない。
週1回コーラス・体 操・ 書道。 不定期で映画上映・大道
芸・ 演奏会などを共用スペースで開催。
ほぼ皆が3 食食堂を利用。
○
○
○
○
×
○
健康のために徒歩で原信・ こだま薬局・ 駅の喫茶店など。
ウオロク・ イトーヨーカドー・ 駅のスーパーと本屋など。
駅に近く老人ホームも併設されており、 いざという時も安心だから。
駅に近く、 町の中心部に位置しているため。
医療施設や気軽に集まれる共用の談話室。
現状でとても満足。
○: 良い or 多い △: 普通 × 悪い or 少ない