2型糖尿病における 骨代謝と骨脆弱性の病態

2 2 型糖尿病における骨代謝と骨脆弱性の病態
特 集 糖尿病と骨粗鬆症:糖尿病がもたらす骨脆弱性の理解と管理に向けて
2
特 集 糖尿病と骨粗鬆症:糖尿病がもたらす骨脆弱性の理解と管理に向けて
骨強度
2 型糖尿病における
=
骨密度
+
骨質
骨質を構成する因子
・構造特性
骨形態
骨微細構造
・材質特性
骨基質(コラーゲン)
骨代謝回転
石灰化
微細骨折
骨代謝と骨脆弱性の病態
山本昌弘 1),杉本利嗣 2)
骨強度の定義と骨質の構成因子
図1
1)島根大学 医学部 内科学講座 内科学第一
2)島根大学 医学部 内科学講座 内科学第一 教授
相対
研究
1948 年,Albright により,長期に血糖コントロールが不良の糖尿病患者では骨粗鬆症に至ることが報告され
た.その後 2 型糖尿病の骨密度に関する報告は一貫性がなかったが,メタ解析などにより,骨密度から推定さ
れる以上に大腿骨近位部骨折や椎体骨折リスクが高く
となった
3-5)
1-4)
,骨密度では骨強度の推定が困難であることが明らか
6)
.骨強度は骨密度と骨質から成り立つため ,2 型糖尿病患者の骨脆弱性は骨質低下によると考え
られている.本稿では,臨床的に解明された,2 型糖尿病における骨質低下による骨脆弱性亢進の病態について
概説する.
(95 %Cl)
Heath H
1980
Meyer HE
, 1993
Forsen L
1999
Ivers RQ
2001
Nicodemus KK
2001
Schwartz AV
2001
Ottenbacher KJ
2002
de Liefde II
2005
Vestergaard P
2005
Holmberg AH
2006
Ahmed LA
2006
Janghorbani M
2006
0.8(0.6∼1.02)
9.2(3.4∼24.9)
1.8(1.1∼2.9)
0.6(0.2∼2.2)
1.7(1.2∼2.4)
1.8(1.2∼2.7)
1.5(1.0∼2.3)
1.3(0.8∼2.3)
1.4(1.2∼1.6)
4.0(1.7∼9.4)
1.9(1.02∼3.5)
2.2(1.8∼2.7)
全体
1.7(1.3∼2.2)
0.1
1
2
5
10
15 20
相対
骨粗鬆症の疾患概念の変遷
図 2 2 型糖尿病の大腿骨近位部骨折リスク
(文献 2 改変)
メタ解析により,2 型糖尿病患者では,大腿骨近位部骨折の相対リスクが対照群より 1.7 倍
(95 % CI 1.3 〜 2.2)
高い.
2 型糖尿病の骨粗鬆症の特徴
表1
1991 年の骨粗鬆症のコンセンサス会議において「骨粗鬆
メタ解析により,2 型糖尿病では大腿骨近位部骨折リス
症は,低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし,骨
クが高いことが明らかにされた
の脆弱性が増大し,骨折の危険性が増加する疾患」と定
者の大腿骨近位部,椎体における,年齢を考慮した骨密
7)
1, 2)
(
図2
).2 型糖尿病患
えられていた.しかしその後のステロイド骨粗鬆症の骨折
齢相応よりも高値であった (
リスクの特徴や,骨吸収抑制骨粗鬆症治療薬の臨床成績
腿骨近位部骨折リスクは対照群の 0.77 倍と推定されたが,
の知見から,2000 年の米国国立衛生研究所(NIH)コンセ
実際に観察された骨折リスクは 1.38 倍と高く,2 型糖尿
ンサス会議において,骨密度を中心とする考え方が次の
病患者では,骨密度で推定される以上に骨強度が低下し
ように改変された.骨粗鬆症は骨強度の低下を特徴とす
ていることが示された.筆者らは,2 型糖尿病患者の椎体
る骨折リスクが増大しやすくなる骨格疾患で,骨強度は骨
骨折リスクを横断的に検討したところ,腰椎,大腿骨頸
密度と骨質の 2 つの要因からなり,前者が 70 %,後者が
部および橈骨遠位 1/3 端のいずれの部位においても,骨密
6)
30 %の骨強度を説明すると定義された (
図1
)
.また骨
1)
表1
).この値から,大
度は対照群より有意に高値であるにもかかわらず(
図3
)
,
3)
質は,構造特性と材質特性から成り立ち,前者は骨形態
椎体骨折の相対リスクが高いことを報告した .この椎体
と骨微細構造が,後者は骨基質,骨代謝回転,骨組織の
骨折の有無に対する骨密度によるカットオフ値は,どの骨
石灰化および微細骨折の集積の要素から構成されている.
密度測定部位を用いても対照群より高く,かつ検査の感
20 ● 月刊糖尿病 2012/3 Vol.4 No.3
予測される骨折リスク
実際の骨折リスク
0.27 ± 0.01
0.77
1.38(1.25 ~ 1.53)
椎体
0.41 ± 0.01
( )
は 95 % CI を示す.
A
対照
2 型糖尿病
B
(g/cm2)
1.3
(g/cm2)
*
1.1
1.0
1.2
0.9
0.7
*p<0.05
*
1.1
*
0.8
*
0.6
骨密度
度 Z スコアはそれぞれ 0.27 ± 0.01,0.41 ± 0.01 であり,年
骨密度 Z スコア
大腿骨近位部
骨密度
義され ,骨強度の大部分が骨量により規定されると考
2 型糖尿病における骨密度と大腿骨近位部骨折リスク
(文献 1 改変)
1.0
*
0.9
*
0.8
0.5
0.7
0.4
0.6
腰椎
大腿骨頸部 橈骨遠位 1/3
腰椎
大腿骨頸部 橈骨遠位 1/3
図 3 対照群と 2 型糖尿病群における骨密度の比較
(文献 3 より作成)
2 型糖尿病群では,男女ともいずれの部位でも,骨密度は対照群より有意に高値である.
A:女性/ B:男性
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