アロマターゼ阻害剤服用時の 骨粗鬆症対策について教えてください。 埼玉医科大学国際医療センター 臨床腫瘍科・腫瘍内科 准教授 佐治重衡 ▼ エストロゲンの低下は骨密度や骨代謝に影響を与えます。 生活動作能力が低下し、約10%は1 年以内に死亡するとさ 閉経後患者に対するアロマターゼ阻害剤の投与は、閉経状 れています 2)。 「骨強度」 は骨密度と骨質の二つの要因からな 態に加えさらに局所のエストロゲン産生を抑制することによ り、骨密度は骨強度のほぼ 70%を説明し、残りの30%の説 り骨密度を低下させ、骨代謝にも影響を及ぼします。これらに 明要因は 骨質 です (図1) 。これには、骨微細構造、骨代謝 より発生する骨粗鬆症への対処は診療上重要な問題です。 回転、微細損傷の集積、骨組織のミネラル化などの骨の生化 ■骨粗鬆症とは? 学的性質によって規定されている部分が含まれます。 骨粗鬆症は、2000年のNIH (米国立衛生研究所) コンセンサ ■骨粗鬆症の診断 ス会議で「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しや 骨粗鬆症の診断の流れを図2に示します。注意点は、脆 すくなる骨格疾患」 と定義されています 。2004年に日本で 弱性骨折がある場合、骨密度*が YAM (young adult mean) 報告された全国調査では、骨粗鬆症による大腿骨頸部骨折 の80%未満ですでに骨粗鬆症の診断になることです。骨質 は年間に12万件を超えると推定され、このうち約30%は日常 の評価基準として、BAPなどの骨形成マーカーや血清・尿中 1) NTXなどの骨吸収マーカーがあります。これらの骨代謝マー 図1 骨強度に及ぼす骨 密度と骨質の関係 (2000年NIHコンセンサス会 議のステートメントより改変) 70% 骨強度 = 骨密度 * ・BMD *BMD:bone mineral density + 30% カーは治療薬の選択に迷う場合や、ビスホスホネート製剤の 骨質 ような骨吸収抑制剤を使用する時に測定されます。 ・微細構造 ・骨代謝回転 ・微小骨折 ・石灰化 図2 骨密度の測定と骨密度値による骨粗鬆症診断の流れ ■骨粗鬆症の治療 骨粗鬆症の診断がつけば治療を開始します。前述のとお り、アロマターゼ阻害剤内服は骨密度低下のリスクとなります ので、骨量減少の診断や脆弱性骨折がある時点で治療を開 始してよいと考えられます。治療は食事指導、運動指導な 骨密度の測定 ① 二重エックス線吸収法(DXA) を用いる。 ② 測定部位は以下の優先順位 1)腰椎:L1〜4を測定し、評価可能な椎体を計測し平均値を算出する。 骨折椎体、硬化性変化などアーチファクトのある椎体は除く。 2)大腿骨近位部:トータル、頸部、転子部のいずれの領域でもよい。 3)橈骨:非利き腕の遠位33% 部を用いる。骨折既往があれば反対側で計測する。 どで、薬物療法としては、カルシウム製剤、女性ホルモン製 剤、活性型ビタミンD 3 製剤、ビタミンK 2 製剤、ビスホスホネー ト製剤、ラロキシフェン塩酸塩、カルシトニン製剤、イプリフ ラボンなど多種にわたりますが、併用相互作用も考慮して 一般診療で使用しやすい処方を表に示します。 脆弱性骨折*なし 正 常 :YAMの80% 以上(Tスコア −2.0SD 以上) 骨量減少:YAMの70〜80%(Tスコア −2.0SD 未満) 骨粗鬆症:YAMの70% 未満(Tスコア −2.5SD 未満) が、大動脈石灰化や変形性脊椎症による骨棘形成がアーチ 脆弱性骨折 あり ファクトとなり測定に影響します。このため65歳以上の高齢者 骨粗鬆症:YAMの80% 未満(Tスコア −2.0SD 未満) では、大腿骨近位部や橈骨を使用することもあります。大腿 * *脆弱性骨折とは、骨密度低下を原因として軽微な外力で発症した非外傷性骨折。軽微な外力と は、立った姿勢からの転倒か、 それ以下の外力を指す。骨折部位は脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端、 その他。スクリーニングとしては胸腰椎の側面エックス線写真を確認する。 (原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)3)をもとに 独自に作成) 表 アロマターゼ阻害剤使用中の骨粗鬆症治療薬処方例 第一選択 ビスホスホネート製剤(以下のうちいずれかを推奨) ・アレンドロネート (35mg製剤、週1回服用) ・リセドロネート (17.5mg製剤、週1回服用) 第二選択 ビスホスホネート製剤が投与できない場合活性型ビタミ ンD3 製剤(0.25μg、1日1回、夕食後服用を推奨) 備 考 4 *骨密度は腰椎でのDXA法 による測定が第 1 選択です 乳癌診療 70歳以上では併用も勧められる。 L-アスパラギン酸カルシウム(200mg製剤、1-2錠、1日3 回) などは適宜追加。 TIPS & TRAPS 骨近位部は日本人では再現性が低いこと、橈骨は薬物治療 への感度が低いことが短所とされています。 DXA法(dual X-ray absorptiometry)二重エックス線吸収法 2種の異なるエネルギーのエックス線を照射し、骨と軟部組織の吸収率の差 により骨密度を測定する。いずれの部位でも5〜10分間で迅速に、1〜3% 程度の誤差で精度よく測定できる。 参考文献 1)Osteoporosis prevention,diagnosis,and therapy.NIH Consensus Statement 17(1) :1-45,2000 2)Committee for Osteoporosis Treatment of The Japanese Orthopaedic Associ:1-5,2004 ation.J Orthop Sci 9(1) 3)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編.骨粗鬆症の予防と治療ガイド ライン (2006年版) ,ライフサイエンス出版,東京,2006
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