テーマ 誘電体の性質 クラス 電気電子工学科3年 実験番号 395 担当 望月

テーマ 誘電体の性質
クラス 電気電子工学科3年
実験番号 395
担当 望月孔
’06.12.14 語句の修正(外形→外径);’06.11.17 語句の修正;‘06.11.13 語句の修正(並行);
修正(ポリエチレンテレフタレート);
‘06.11.1 語句の
’06.10.26 図の追加と tanδの求め方訂正; ’06.10.23 式の修正;’06.10.19
Ne
w
1.目的
平行平板電極間の静電容量が,理論どおりか確認する。
また,各種誘電体には物質に固有な比誘電率を持つことを確認する。
同時に,Qメータの測定原理を理解し,Qメータを使った静電容量測定に習熟する。
2.基礎知識
コンデンサの基本形は,2枚の平板が,接触しないように離れた状態で,平行に設置さ
れることである。このとき,静電容量 C は式(1)で与えられる。
C=
εS
d
[F]
(1)
ただし,各パラメタは次の通りである。
ε: 誘電率。真空中ならばε0= 8.855×10-12 [F/m]
S : 電極の面積 [m2]
d : 電極の間隔 [m]
(1)平行平板コンデンサの静電容量
コンデンサ容量 C と,コンデンサに加わる電圧 V と,コンデンサに溜まる電荷 Q の
関係は,式(2)で定義されている。
C=
Q
V
(2)
一方,電荷と電極の周りの電界の関連は,ガウスの定理により,式(3)で表される。
∑Q
Volume
=
ε
∫ E • dn
(3)
Surface
ただし,各パラメタは次の通りである。
Volume で指定されたΣ記号 : 注目する体積内の電荷を全部積算する
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
1
Surface で指定された積分記号: 注目する体積を囲む表面を積分する
dn : 積分の微小表面積。向きは面に垂直方向
ここで,平行平板コンデンサの電極は近接していることと,両電極に正電荷と負電荷そ
れぞれが同じ数だけ存在する。電極の外側から見ると,両電極の正負の電荷が打ち消しあ
って電荷が無いように見えることから,電極の外側には電界は存在しないものと見なせる。
従って電界は電極間にのみ存在するものとして扱える。これを式(3)に適用すると,電極間
の電界 E と電荷の関係は式(4)に変換できる。
Q=εE S
(4)
電圧と電界の関係を考慮すると,電圧は式(5)で表される。
V=
E×d =
Qd
Q
×d =
εS
εS
(5)
式(5)を式(2)に代入すると,式(1)が得られる。
(2)誘電率
真空中の誘電率は小さいため,真空中で平行平板コンデンサを作っても大きな容量は得
にくい。空気中もほぼ同じである。
ここで,高い誘電率の材料を電極間にはさむことができれば,寸法を変えずに大容量の
コンデンサを作ることができる。なお,材料の誘電率と真空の誘電率ε0との比を比誘電率
εrと呼ぶ。材料の誘電率は,ε=εr×ε0で表される。
山本電気工業のウエブページ(http://www.ydic.co.jp/item/LevelAPsCR.htm)には各物
質の比誘電率がまとめられている。代表的なものを転記する。
物質名
比誘電率(εr)
真空
1
空気
1.000586
アルミナ被膜
6~10
雲母
4.5~7.5
氷
4.2
天然ゴム
2.7~4.0
陶磁器
4.4~7.0
ベークライト
4.5~5.5
ダイヤモンド
16.5
ポリエチレン
2.3~2.4
ポリエチレンテレフタレート
2.9~3
ポリスチレン
2.4~2.6
木材(水分による)
2.0~6.0
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2
(3)誘電正接(tan δ)
電極間に物質を挟むことによって,その誘電率ぶんだけ高い容量を実現できるが,その
物質の性質によって電気的な損失が生じることがある。
物質を電極にはさんで容量を作ったとき(図1(a)),電気的には図 1(b)または図 1(c)で等
価的に表される特性を示す。抵抗が損失の働きをする。
(a)
(b)
(c)
図 1 物質をはさんだ容量と,その電気的な等価回路
図 1(b)において,容量 Cs に加わる電圧を VC と置くと,抵抗に加わる電圧 Vr は,
Vr = RS×( jωCS )×VC
(6)
である。VC と Vr には 90 度の位相差があり,その比率を誘電正接と呼ぶ。
tanδ = |Vr/VC|
=
RS×(ωCS )
(7)
誘電正接を用いて図 1(b)のインピーダンスZSを表現すると,式(8)になる。
ZS
=
RS +
1/( j ω CS ) = ( j tanδ + 1)/( j ω CS )
(8)
コンデンサは理想的には損失をしない素子であり,抵抗成分が無視できるような材料が
容量に適している。従ってコンデンサに使われる誘電材料は抵抗RSも誘電正接も小さい。
誘電正接は周波数の関数でもあり一言では表現しにくいが,容量の材料として使う材料の
場合は 0.01 以下が普通である。
図 1(c)において,容量 Cs に流れる電流を IC と置くと,抵抗に流れる電流 Ir は,
Ir =
1
1
×IC
×
RP j ω C P
(9)
である。Ic と Ir には 90 度の位相差があり,その比率も同様に誘電正接として定義され
る。
tanδ= |Ir/IC|
= 1/{ RP×(ωCP ) }
(10)
誘電正接を用いて図 1(c)を表現すると,式(11)のようになる。
ZP = 1/{1/RS + jωCS }= 1/{ (-j tanδ +1)・( j ω CS )} (11)
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3
表現方法が直列であろうが並列であろうがコンデンサは理想的には損失をしない素子で
あり,抵抗成分が無視できるような材料が容量に適している。並列抵抗と解釈した場合,
並列抵抗 RP は大きい値である。
容量に対して,直列抵抗を仮定した式(6),(7),(8)も,並列抵抗を仮定した式(9),(10),(11)も,
小さなtanδをもつ材料の場合に考える等価回路である。いずれも回路的には等価であり,
CSとCPは同じ値である。ただし,RSとRPは大きく異なる。どちらの等価回路を使うか迷う
かもしれないが,どちらも等価であるため,解析のときに使いやすいほうを選定すればよ
い。
(4)Qメータ
Qメータは,共振回路の性質を利用して,コイルの Q 値,実効インダクタンス,実効抵
抗,分布容量およびコンデンサの容量,損失,インピーダンスを測定するものである。
図 2 Q メータ主要部品のブロック図
Qメータの主要部品を図 2 に示す。ここで,L,C,Rによる直列共振回路があったとする。
(C=CS,理想的なコイルならRL=0,R=RS)この回路に一定振幅の電圧 V0 を印加し,
容量の両端に現れる電圧VCを測定すると,その比率は式(12)で表される。
|VC/V0|=
1
jωC
1 ⎞
⎛
R + j ⎜ ωL −
⎟
ωC ⎠
⎝
(12)
式(12)の最大値は,共振周波数
ω0 = 1
LC
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
(13)
4
という条件の下で得られる。
Qメータは,可変周波数発振機と容量と共振回路が一体化している。容量専用の端子が
測定器上部に設けられ,測定器の内部容量CINTと並列に,外部容量CEXTを追加することが
できる。これを式(12)に当てはめるならば,C = CINT + CEXT である。Qメータには目盛
が設けられ,CINT の値やQ値を読み取ることができる。
Qメータで容量値を測定する手順を簡単に説明する。もしも,C = CINT1 + CEXT1 の容
量で共振状態が得られていたとする。ここで外部部容量の値がCEXT2 に変化したとき,共振
条件が満たされるように調整した内部容量の値がCINT2 だったとする。いずれの場合も,共
振の条件は変わらないため,CINT1 + CEXT1= CINT2 + CEXT2 である。したがって,外部
容量の変化ΔC = CEXT2 - CEXT1 は,ΔC = CINT1 - CINT2 で求めることできる。
Qメータの tanδを測定する手順を簡単に説明する。
容量値測定式(12)の最大値をQと言う。
Q=|VC/V0|(MAX)=
1 L
R C
(14)
もしも,コイルが理想素子だとし,回路内の抵抗が誘電体の抵抗のみだったならば,共
振回路はL,CS,RSから作られることになる。これを式(14)にあてはめれば,式(15)が得ら
れる。
Q=
1
RS
ω0 C S
L
=
CS
tan δ
ω0 CS L
1
L
=
=
tan δ
tan δ
CS
(15)
この式をもとに変形すれば RSの値を求めることが出来る。結論は式(16)である:
RS=
ω L
L
1 L
=
= 0
Q
Q CS
Q LC S
(16)
式(16)は重要である。もともとRSの値は式(7)から求めることが出来たが,そのためには
tanδ(=Q-1) と共振周波数 ω0 と容量 CS が判明している必要があった。ところが共振回
路に入っている容量は C = CINT + CEXT であり,一度の測定ではCEXT(またはCINT +
CEXT)を求めることは出来ないからである。
(5)Qメータ用誘電率測定器
「Qメータ用誘電率測定器」は,対向する円形電極を主な構成物とした治具(じぐ、Jig)
である。円形電極の間隔はマイクロメータで調整でき,最大 10mm まで広げることが出来
る。誘電体を挟む冶具は,電気的には,図 3 の等価回路として解釈できる。
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
5
図 3 冶具の電気的な等価回路
ただし,各パラメタは次の通りである。
CJS : 冶具の,円形電極以外の部分の金属部分等で作られる寄生容量(浮遊容量)
CJP : 円形電極の容量
RJP : 円形電極にはさまれた物質の誘電正接からなる損失分
また,CJP や RJP は式(17)や式(18)のように考えることが出来る。
CJP =
εS
[F]
d
1
1
RJP =
⋅
[F]
tan δ ω C JP
(17)
(18)
ただし,RJP に流れる電流は通常は無視できるため,δ を特別考慮しないときには RJP は
無いものとして扱ってかまわない。なお,各パラメタは次の通りである。
ε: 円形電極にはさまれた物体の誘電率。一般的に,ε=εrε0
δ : 円形電極にはさまれた物体の誘電正接
S : 電極の面積 [m2]:直径 38mm
d : 電極の間隔 [m]:マイクロメータで 0.01mm の精度で調整できる。
(6)Qメータと誘電正接
Qメータは,コイルの端子から加わる入力電圧と容量の両端に現れる出力電圧の比率を
メータの針で示すものである。「(4)Qメータ」の式(15)で説明したように,Q値を測定する
ことは,そのまま tanδ を測定することと同じである。
ただし,式(15)では抵抗成分は誘電体からのみ得られるものと仮定したが,実際にはコイ
ルなどにも抵抗成分が含まれている。そのことを踏まえたうえで,共振回路の構造を考察
すると,実験手順(3)に示した方法によって誘電正接を計算できる。
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6
3.実験
実験に必要な器具は,以下の通りである。
a. Qメータ
b. Qメータ用リアクタンスセット
c. 円筒形コンデンサ
d. 「Qメータ用誘電率測定器」
e. 各種材料(誘電率測定の実験用)
(1)同心同軸コンデンサを使った、比誘電率の精密な測定
原理:
a. 同心同軸コンデンサは,外側電極の内径r1=6.75mm,内側電極の外形r2=5.98mm,
長さL=120mmの構造であり,電極間にはポリエチレンテレフタレートが入ってい
る。このコンデンサには余計な支持が無いので,このコンデンサを設置したときと
抜いたときの差から,このコンデンサの正味の容量を測定できる。なお,こうした
コンデンサの理論的な静電容量Cは
C =
2πεL
ln (r1 r2 )
(19)
で求められる。
手順:
b. Qメータの電源を入れる。
c. Qメータ用リアクタンスセットの 250μH のリアクタンスを取り出して,Qメータ
の L 用端子にセットする。
d. 同心同軸コンデンサを,Qメータの C 用端子にセットする。
e. QメータのCINTを 22pFにする。ここでは 22pFをCINT1と呼ぶことにする。
f.
Qメータの発振周波数を調整し,針の振れが最大になるようにする。そして,次の
値を記録しておく:
◎発振周波数
◎内部容量CINT(この値をCINT1とおく。e.にて CINT1=22pF に調整済のはず)
◎Q値(この値を Q1 とおく。(Q1 は,のちにtanδを求めるのに用いる))
電源投入直後は安定しないことがあるので,多少時間をかけて調整すると良い。前
もって電源を入れておくのもひとつのやり方である。なお,以後の一連の測定の間
は発振周波数は変化させない。
g. 同心同軸コンデンサをQメータから外す。
h. QメータのCINT を調整して針の振れが最大になるようにする。そして,次の値を
記録しておく:
◎内部容量CINT(この値をCINT2とおく)
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
7
◎Q値(この値を Q2 とおく。(Q2 は,のちにtanδを求めるのに用いる))
i.
同心同軸コンデンサの容量は,C =CINT2-CINT1 という計算で得られる。この値は,
ポリエチレンテレフタレートが入ったものである。
j.
ポリエチレンテレフタレートが入らない場合の同心同軸コンデンサの容量は,式
(19)で求めることが出来る。
k. i.の結果と j.の結果の割り算から,ポリエチレンテレフタレートの比誘電率が求ま
る。
l.
手順f.の共振回路は,図 2 の図に対応する。
手順f.で求めたQ1を式(16)に当てはめると,抵抗値を計算できる。ここで求めた抵
抗値(式(16)でいうRS)は,図 2 のRL+RS のことであるある。
m. 手順h.の共振回路は,図 2 で言えば,RS=0 とした回路のことである。なぜなら,
手順h.の共振回路においてコンデンサは内部コンデンサのみであり,内部コンデン
サは空気コンデンサなので損失分がないからである。
手順h.で求めたQ2を式(16)に当てはめると,抵抗値を計算できる。ここで求めた抵
抗値(式(16)でいうRS)は,図 2 のRL のことであるある。
n. 手順l.で求めた抵抗値と手順m.で求めた抵抗値の差から,同心同軸コンデンサを作
る誘電体(ポリエチレンテレフタレート)の抵抗成分が求まる。なお,ここで得ら
れた抵抗成分は,図 2 の RS のことである。
o. 手順 m.で求めた抵抗成分を式(7)に当てはめれば,同心同軸コンデンサを作る誘電
体(ポリエチレンテレフタレート)の tanδが求まる。
(2)平行平板コンデンサの容量値が電極の間隔に反比例するか確認
手順:
a. 「Qメータ用誘電率測定器」のマイクロメータを回転させ,電極間隔を 0mm とする
際のマイクロメータの読みを求め,表1の①欄に記載する。
また,表1の②欄を完成させる。
なお,マイクロメータを回転するときは軽く操作すること。力を入れると故障の原因
になる。
b. 「Qメータ用誘電率測定器」の電極間隔を 0.20mm に設定し,Qメーターの C 用端
子にセットする。
c. Qメータ用リアクタンスセットの 250μH のリアクタンスを取り出して,Qメータの
L 用端子にセットする。
d. Qメータの電源を入れる。(※ f. 内の説明を参照のこと)
e. QメータのCINTを 22pFにする。
f.
Qメータの発振周波数を調整し,針の振れが最大になるようにする。電源投入直後は
安定しないことがあるので,多少時間をかけて調整すると良い。前もって電源を入れ
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
8
ておくのもひとつのやり方である。なお,以後の一連の測定の間は発振周波数は変化
させない。
――以後繰り返しの測定に入る。
g. 「Qメータ用誘電率測定器」の電極間隔を 0.40, 0.8, 1.00, 2.00, 4.00, 8.00 mm のい
ずれかに設定する。
h. QメータのCINT を調整して針の振れが最大になるようにし,CINT の値を表1の③欄
に記載する。
――この繰り返しが済んだら次の処理に進む。
――以後はデータ整理であり,表 1 を見ながら電卓(または筆算)で計算。
i.
④の値は原理上測定不可能であるが,この実験結果をまとめるために重要な値である。
なぜならば,④が分かれば,が,もしも測定できたとすれば,電極間隔が無限大であ
れば式(1)より平行平板コンデンサの容量CJPの項は 0 になり,その結果④の欄に入る
値は共振の容量Cと治具の寄生容量CJP の差である。
これの値を推定するには,CINT(8)とCINT(4)に着目する。
それぞれの値は,
CINT(8) = C-CJS-CJP = C-CJS-
CINT(4)
=
C-CJS-
εS
4
=
εS
(20)
8
C-CJS-2*
εS
8
(21)
と表される。この両式から,
④= C-CJS = 2×CINT(8)-CINT(4)
(22)
という計算によって④を推定できる。
j.
いったん④が計算されたなら,④とCINT(8)の引き算により,CJP(8)が求められる。以下
同様である。これにより欄⑤を埋めることができる。
k. 式(22)は,別の電極間隔の組み合わせでも計算できる。同様にして計算を進め,欄⑥
を埋めることができる。なお,学生実験の時間内の場合,学生によって組み合わせを
変えることが望ましい。
l.
欄⑤と欄⑥の値をグラフ 1(両対数グラフ)にプロットしてみよう。もしも傾き-1
の直線上にのったならば,式(1)が実験的に確認できたことになる。もしも完全な直線
上に無い場合に,その原因を正しく推定できれば更に良い。
m. 以上の結果は,考察課題としても設定されている。
この指導書の残り部分では,この実験によって式(1)の正しさが実験的にも確認されたも
のとして説明する。
(3)物質には固有の比誘電率があることの確認
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
9
☆今回の実験では,周波数 1MHz のときの比誘電率,誘電正接を即手するものとする。
手順:
a. Qメータの発振周波数を 1MHz にする。
b. 「Qメータ用誘電率測定器」の電極間に,比誘電率を測定したい物体を挿入する。
c. マイクロメータを回転させ,物体を電極で軽くはさむ。
※マイクロメータは軽く回転させること。力を入れると故障の原因になる。
d. ◎電極間隔の記録(マイクロメータから読み取る。この値をd1とおく)
e. QメータのL端子に入れるリアクタンス,内部容量,発振周波数を調整し,針の振れ
を最大にする。そして,以下の項目を記録しておく:
◎発振周波数(これは 1MHzのはず)
◎リアクタンス
◎Q値(この値を Q1 とおく。
(Q1 は,実験(5)で物質のtanδを求めるのに用いる)
)
なお,精度の高い測定をしたいならば,このときは内部容量は小さめが良い。
f.
マイクロメータを操作して,電極間を広げて,物体を外す。
g. マイクロメータを操作して,針の振れを最大にする。このときの以下の値も記録して
おく:
◎Q値(この値を Q2 とおく。
(Q2 は,実験(5)で物質のtanδを求めるのに用いる)
)
◎電極間隔(この値をd2とおく)
※内部容量の値は絶対に変化させないこと
h. ここで得られた電極間隔をグラフ 1 と照らし合わせれば,現在の容量C2が求まる。な
お,手順d.でQ1を求めたときの容量C1はC2と同じ値である。
――
i.
d1/d2 が,比誘電率である。
(23)
――
j.
別の物体の場合も,手順 a. ~ 手順 h. により比誘電率を測定できる。それぞれの学
生が順番で別の物質を,Qメータで測定するように。
例:マイカ,紙,ポリエチレンテレフタレート,マイカ2枚,紙3枚 など
(4)物質には固有の比誘電率があることの確認(別の手順)
☆今回の実験では,周波数 1MHz のときの比誘電率,誘電正接を即手するものとする。
手順:
a. Qメータの発振周波数を 1MHz にする。
b. 「Qメータ用誘電率測定器」の電極間に,比誘電率を測定したい物体を挿入する。
c. マイクロメータを回転させ,物体を電極で軽くはさむ。
※マイクロメータは軽く回転させること。力を入れると故障の原因になる。
d. ◎電極間隔記録(マイクロメータから読み取る。この値をd1とおく)
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
10
e. QメータのL端子に入れるリアクタンス,内部容量,発振周波数を調整し,針の振れ
を最大にする。そして,以下の項目を記録しておく:
◎発振周波数(これは 1MHzのはず)
◎リアクタンス
◎内部容量 CINT(この値をCINT1とおく)
◎Q値(この値を Q1 とおく。(Q1 は,(5)で物質のtanδを求めるのに用いる))
なお,精度の高い測定をしたいならば,このときは内部容量は小さめが良い。
f.
マイクロメータを操作して,電極間を広げて,物体を外し,改めて c. で記録した値
にマイクロメータを戻す。
g. ここで得られた電極間隔をグラフ 1 と照らし合わせれば,現在の容量C2が求まる。
C2は空気を誘電体としたときの静電容量である。
h. 内部容量を操作して,針の振れを最大にする。このときの以下の値を記録しておく:
◎内部容量 CINT(この値をCINT2とおく)
◎Q値(この値を Q2 とおく。(Q2 は,(5)で物質のtanδを求めるのに用いる))
――
i.
CINT1-CINT2は誘電体の有無によって変わる容量である。
CX = C2 +
CINT2 - CINT1 は誘電体が存在した場合の容量である。
CX/C2 が比誘電率である。
(24)
――
j.
別の物体の場合も,手順 a. ~ 手順 h. により比誘電率を測定できる。
(5)物質には固有の誘電正接があることの確認
☆今回の実験では,周波数 1MHz のときの比誘電率,誘電正接を即手するものとする。
考え方:
この実験では,共振回路として図 4 の構成を仮定する。
手順:
a. Qメータの発振周波数を 1MHz にする。
b. 実験(3)「 物質には固有な比誘電率があることの確認」と同時に実施すると実験の
手間がかからない。
――最初に図 4 上段の図の共振回路を考える
c. 実験(3)手順d. の測定は,容量として誘電体が入っている。この場合,共振回路に
入っている全抵抗をRS‘ とおくならば、 RS‘ =RL+RSは式(16)を利用して求めるこ
とができる。
RS‘
=ω0L/Q1
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
(25)
11
上段の図:コンデンサ群として,抵抗直列を仮定。これによりRLとRSを簡単に扱える
中段の図:コンデンサ群として,抵抗並列に変換
下段の図:コンデンサ群として,各成分に分解。最終的に求めるのはCJPとRJPである
図中,RLはコイルを作るケーブルの抵抗成分である
図4
d. 実験(3)手順f. の測定では,誘電体が除かれている。したがって,この場合,共振
回路に入っている容量は空気をはさんだものである。空気は損失分をほとんど無視
できるため,この測定では共振回路に入っている抵抗の値はRL+0 = RL と考える
ことが出来る。RL も同様に式(16)から求めることができる。
RL
=ω0L/Q2
(26)
e. 以上の式(25)と式(26) で計算した2つの抵抗の差が,誘電体に起因する抵抗値 RS
である。
RS = RS‘ - RL=ω0L(Q2-Q1)/(Q1 Q2)
(27)
――続いて図 4 中段の図に変換する。
f.
RSとRPは,式(6)~(8)と,式(9)~(11)を使って変換することが出来る。
RP =RJP =1/{ tanδ×(ω0CP ) }=1/{ RS×(ω0CS )2 }
(28)
g. 一方,共振条件が保たれていることから式(13)が成り立つため,
CS = CP = CINT + CJS + CJP = 1/(L ω02)
(29)
――最後に図 4 下段の図に変換する。
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
12
h. 図 4 のCJPとしては,実験(3)手順 g.で求めたC1 または実験(4)手順 h. で求めたCX
を用いる。一方,RJP は式(29)で求め。以上の 2 項を,式(7)に代入する。
tanδ=1/{RJP×(ω0CX) } ={1/(CX Lω02)}×(Q2-Q1)/Q1 Q2
(30)
4.課題
注意:必ず1週間以内に提出すること。
(1)同心同軸コンデンサを使った、比誘電率の精密な測定
a. 実験結果を示しなさい。
b. 比誘電率を求めなさい。
c. tanδを求めなさい。
(2)平行平板コンデンサの容量値が電極の間隔に反比例するか確認
a. 手順に従って,実験を行う。
b. 可能ならば,④の推定にすべての組合せを考え,それぞれのデータをグラフ用紙上
にプロットする。最低でも,2つ以上の組合せでデータ処理すること。
c. 平行平板コンデンサの理論式による理論線をグラフ用紙上に記入する。
d. 以上の結果を比較検討しなさい。
(3)(4)物質には固有の比誘電率があることの確認(含:別手順)
(5)物質には固有の誘電正接(tanδ)があることの確認
a. 実験結果を表にまとめなさい。
b. 各誘電体の特徴について比較検討しなさい。
c. 誤差の原因を検討しなさい。
d. 手順(3)で比誘電率が測定できることを式(1)から説明しなさい。
誘電体Qメータ_指導書 20061214.doc
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表 1:「平行平板コンデンサの容量値が電極の間隔に反比例するか確認」の実験のデータ収
集・データ処理用
電極間隔
マイクロメー
CINT
CJP
CJP
タの読み
(実測値)
(※2 の推定)
(※3 の推定)
(pF)
(pF)
(pF)
―
―
―
=C-CJS-CJP
ただし,C は共振
の容量
(mm)
(mm)
0
①
0.20
CINT(02)=22
CJP(02)=
CJP(02)=
0.40
CINT(04)=
CJP(04)=
CJP(04)=
0.80
CINT(08)=
CJP(08)=
CJP(08)=
1.00
CINT(1)=
CJP(1)=
CJP(1)=
2.00
CINT(2)=
CJP(2)=
CJP(2)=
4.00
CINT(4)=
CJP(4)=
CJP(4)=
8.00
CINT(8)=
CJP(8)=
CJP(8)=
無限大
④= C-CJS
?無限大
0
(推定による)
②
③
④
⑤
0
⑥
※1 マイクロメータを回転するときは軽く操作すること。力を入れると故障の原因になる。
※2 式(22)により,④= C-CJS = 2×CINT(8)-CINT(4)という計算によって④を推定できる。
※3 ※2 と同様の推定を,CINT(4)とCINT(2)の組み合わせや,それ以外の組み合わせでも求め
ることができる。実験の授業時間内では学生ごとに別の組み合わせで計算しよう。
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注意:このグラフ用紙は実験の際のデータ処理に使うことを想定して用意したものです。
提出するレポートでは,文房具屋さんで売っている青い罫線のグラフ用紙を用いるか,自
分でエクセルでデータ処理をするものと考えています。
1000
100
10
1
0.1
0.1
1
10
100
グラフ 1
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この指導書で使われている代表的な記号の解説:
C
一般的な容量
C
一般的なLCR共振回路の容量(式(12))
CEXT
Qメータの外部容量
CINT
Qメータの内部容量
CINT(x)
Qメータの内部容量。ただし平行平板コンデンサの間隔がxだった場合の値
CP
誘電体をはさんだ一般的なコンデンサだが,並列に抵抗があると考えたもの
CS
誘電体をはさんだ一般的なコンデンサだが,直列に抵抗があると考えたもの
CJS
冶具の寄生容量(浮遊容量)
CJP
冶具の平行平板コンデンサ容量
d
一般的な平行平板コンデンサの面間隔
δ
位相角
E
電磁気学的な一般的な電界
ε
誘電率
ε0
真空の誘電率
εr
比誘電率
Ic
CPとRPが並列するコンデンサにおいて,容量に流れる電流
Ir
CPとRPが並列するコンデンサにおいて,抵抗に流れる電流
L
一般的なLCR共振回路のコイル(式(12))
dn
一般的な面ベクトル
Q
一般的なコンデンサに溜まる電荷
R
一般的なLCR共振回路の抵抗(式(12))
RJP
冶具の平行平板コンデンサの並列抵抗成分
RP
誘電体をはさんだ一般的なコンデンサだが,並列すると考えられる抵抗
RS
誘電体をはさんだ一般的なコンデンサだが,直列すると考えられる抵抗
S
一般的な平行平板コンデンサの面積
V
一般的なコンデンサの電極間電圧
V0
一般的な共振回路の供給する一定振幅の電圧
VC
一般的な共振回路の容量の両端に現れる電圧
Vc
CSとRSが直列するコンデンサにおいて,容量に加わる電圧
Vr
CSとRSが直列するコンデンサにおいて,抵抗に加わる電圧
ω
角周波数
ω0
共振角周波数
ZP
CPとRPが並列するコンデンサのインピーダンス
ZS
CSとRSが直列するコンデンサのインピーダンス
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