大学と地域によるまちづくりへの参加 岡山大学・文部科学省留学生拠点整備事業を一例に 岩淵 泰(岡山大学地域総合研究センター ) 本発表では、岡山大学で採択された文部科学省留学生拠点整備事業を一例に、大学と地域による学生の まちづくり支援が、日本人学生と留学生の教育作用だけではなく、大学と地域のコラボレーション・ガバ ナンスの強化に向かっていることを明らかにする。 現在、大学は、少子高齢化やグローバル・ランキング競争の対応に追われ、更に、大学が社会の要請に 十分に応えていないという『大学の危機』の中にある。しかしながら、世界の大学改革を調べてみると、 大学は国から地域との連携を深めることによって、地域振興の要となっている。 例えば、創造都市論を唱えるリチャード・フロリダは、大学がクリエイティブ・ハブとなり、コミュニ ティへの技術、能力、寛容性へ好影響を与えているとする1。また、具体的な都市を挙げると、フランス・ ストラスブール市では、『ストラスブールは学生を愛している』キャンペーンを行い、産官学による学生 支援政策を通じて国や企業からの投資を受け入れている2。即ち、グローバルな視点からは、大学と地域の 互恵関係は、持続可能な社会のモデルとして位置づけられているのである。 岡山大学では、2011年度以降、地域総合研究センターの開設、まちなかキャンパスの開講、文部科学省 留学生拠点整備事業など、大学と地域のまちづくりの姿勢を鮮明にしている。 文部科学省留学生拠点整備事業は、留学生を通じた大学と地域の協働のまちづくりを検討する上での重 要な試金石となっている。岡山のプログラムでは、『若者が地域と対話するまち』を掲げ、留学生が岡山 を知り、岡山のまちづくりを体験することで、岡山の親善友好大使を産官学で育成することを目的として いる。これを支えるのは、岡山県、岡山市、倉敷市、岡山商工会議所、岡山経済同友会などで結成された 岡山留学生のまちづくりコンソーシアムであり、今ままでは同じテーブルでの議論が少なかった独立した 団体であったといえる。しかし、コンソーシアムの特徴とは、若者が住みやすいまちについての熟議を重 ねて、まちづくりの意思決定過程に参加の機会を重視していることである。 まちづくりコンソーシアムの結成以来、岡山市のESD(Education for sustainable development)への支 援、ストラスブール副市長を招いて学都シンポジウムなどを開催しているが、留学生を通じた大学と地域 の交流による特徴的な事例を二つ挙げる。 【留学生の目から見た東日本大震災】 2013年1月に留学生3名を含めた8名が、南三陸町と気仙沼市を訪れ、震災時の外国人の生活について の聞取調査を行った。2月には、東北視察を行った留学生が、岡山は本当に安心で安全なまちなのかとい う問題提起を行い、岡山市防災課が、市の取り組みや今後の課題について提案を行った。留学生は、ESD-J の会合でも、事例発表を行い、岡山と東北と世界を結ぶ役割を担った。 【オカヤマ・ウェルカム・ピクニック】 1Richard Florida, Gary Gates, creative economy,2006 Brian Knudsen, Kevin Stolarick, The university and the 2http://www.etudiants.strasbourg.eu/ 新しく岡山で生活をする若者たちを岡山全体で歓迎するオカヤマ・ウェルカム・ピクニックを開催した。 準備段階で、岡山県と岡山市と共に外国人向けの後楽園、岡山城、カルチャーゾーンを巡るまちあるきコ ースを考え、岡山の情報をつめたウェルカムバックを作成した。参加者は100名程であったが、ピクニ ック終了後、岡山の魅力について学生と地域の人々が議論を行った。 これら活動は、コンソーシアムで成果と課題の共有を行っており、岡山モデルでは以下のことが明らか になってきた。 (1)大学が留学生を獲得する時代から、大学と都市が若者の生活を支援する時代への変化 (2)地域の創造性と寛容性を高めるために、留学生を含めた若者と大学の力の必要 (3)留学生の活動が、大学と地域の国際化に不可欠 岡山では大学と地域がまちづくりをすることで、人がまちを育て、まちが人を育てる循環構造を生み出さ れ、その結節点が留学生の暮らしにある。地方都市がグローバルな社会に対応すればするほど、産官学を 通じたコラボレーション・ガバナンスが強化されることになる。
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