【アメリカ法曹協会 死刑事件弁護人の選任及び任務のためのガイドライン】 2003 年 2 月改訂版(以下,ガイドライン部分のみの仮訳) 1.1ガイドラインの目的および射程 A.このガイドラインの目的は,全ての法域において死刑判決あるいは死刑執行に直面 する全ての人に対し,質の高い弁護を確保するために,死刑事件弁護実務に関する 全国的な基準を明示することである。 B.このガイドラインは,依頼者が身体拘束されたときから直ちに適用され,当該法域 において死刑の科刑が可能なあらゆる事件の全ての段階~初期および継続中の捜査, 公判前手続,公判,有罪判決後の再審査,減刑手続およびあらゆる関連訴訟を含む ~に及ぶ。 2.1 死刑事件において質の高い弁護を提供するためのプランの策定および実施 A.各法域においては,このガイドラインにしたがって質の高い弁護活動が提供される ための手段を正式に定める計画(弁護計画)が採用され,かつ実施されなければな らない。 B.弁護計画においては,各法域が,いかなる形式によってガイドラインの各条項を遵 守するかを明確にしなければならない。 C.弁護計画の全ての要素は,死刑事件弁護人が,職務上のスタンダードにしたがい熱 意ある弁護活動を提供できるような条件のもと,政治的影響を受けることなく活動 を遂行することを確保すべく,構築されなければならない。 3.1 責任機関の指定 A.弁護計画においては,本ガイドラインに定める基準にしたがい,以下に責任をもつ 一ないし複数の機関(責任機関)を指定するものとする。 1.当該法域における全ての死刑事件被告人が,質の高い弁護を受けるよう確保する こと,および 2.後記Eに列挙した全ての任務を遂行すること B.責任機関は司法部から独立のものであり,司法部あるいは選挙により選ばれた当局 者ではなく,責任機関自らが個別事件の弁護人を選任するものとする。 C.特定の事件の手続の各段階における責任機関は,次に掲げるもののうちの一とする。 弁護人組織 1. 「弁護人組織」 ,すなわち, a. 死刑事件の第一審における弁護を提供するための,スタッフ弁護士,弁護士(法 曹)組織の構成員,あるいはその双方からなる,法域全体をカバーする事務所, あるいは b. 死刑事件の上訴審/有罪判決後における弁護を提供するための,スタッフ弁護士, 弁護士組織の構成員,あるいはその双方からなる,法域全体をカバーする事務 所, 独立機関 2. 「独立機関」,すなわち,死刑事件弁護に関して定評ある知識と経験をもった刑事 弁護士により運営される団体 D.利益相反 1.いかなる状況であれ,弁護人組織が後記Eに列挙された任務を遂行することが利 益相反にあたる場合には,当該任務は独立機関により遂行されるものとする。司 法部は,こうした相反事態を見極め,これを解決するための効果的なシステムを 実施するものとする。 2.独立機関が責任機関となる場合,当該独立機関で正式な役職に就いている弁護士 は,その任期中,当該法域における死刑事件弁護を行う資格がないものとする。 E.責任機関は,このガイドラインの各条項にしたがい,以下の任務を遂行するものと する。 1.死刑事件被告人の弁護人として選任される資質ある弁護士を開拓し認証すること 2.認証された弁護士の名簿を整え,定期的に公表すること 3.弁護士を認証し,特定の事件に任命する認証基準および手続を整え,定期的に公 表すること 4.被告人が私選弁護人を選任している場合を除いて,全ての事件について,全ての 段階で,被告人を弁護する弁護士を割り当てること 5.死刑事件弁護を行う全ての弁護人の活動をモニターすること 6.定期的に認証弁護士の名簿を見直し,本ガイドラインに則った質の高い弁護を提 供しない弁護人の認証を撤回すること 7.死刑事件弁護を行う弁護士のための特別なトレーニング・プログラムを実施,後 援ないしは承認すること 8.死刑事件弁護を行う弁護士の活動に関する苦情に関して調査のうえ記録をとり, 遅滞なく適切な是正措置をとること 4.1 弁護団およびサポート・サービス A.弁護計画では,質の高い弁護を提供する弁護チームの構成につき規定しなければな らない。 1.弁護チームは,ガイドライン5.1にのっとった資格のある 2 人以上の弁護士, 調査担当者,量刑(減軽)専門家からなるものとする。 2.弁護チームには,精神的ないし心理的な障がいや問題について識別するべくトレ ーニングを受け経験を積んだ資格のある者が,少なくとも 1 名,含まれていなけ ればならない。 B.弁護計画では,弁護人に対し,手続のあらゆる段階において,質の高い弁護を提供 するために合理的に必要あるいは適切と認められる全ての,専門家によるサービス, 事実調査に関するサービス,その他付随する専門的サービスを提供しなければなら ない。弁護計画では,とりわけ,私選弁護人の依頼者が経済的に余裕のない場合, これらのサービスの提供を確保しなければならない。 1.弁護人は,こうしたサービスについて,政府から独立した専門家から提供を受け る権利を有する。 2.弁護人は,こうしたサービスを提供する者との間のコミュニケーションについて, これらの者に対し私的に費用を払う場合と同程度に,秘密を保持する権利を有する。 5.1 弁護人の資質 A.責任機関は死刑事件弁護人の資質基準を整備し公表しなければならない。この基準 は,依頼者に質の高い弁護を提供するという最重要の目標達成を促進するような方 法で解釈,適用されなければならない。 B.資格基準の策定にあたって,責任機関は,以下の点を保証しなければならない。 1.死刑事件弁護にあたる弁護士は全て, a. 当該法域において実務を行う資格ないし許可を得ていること b. 死刑事件において熱心かつ質の高い弁護を提供する決意を表明していること c. ガイドライン8.1に示すトレーニング基準を満たしていること 2.法域内の全ての死刑事件被告人が質の高い弁護を受けられるだけの弁護人を用意す ること。したがって資格基準においては,以下の点が明らかな,十分な数の弁護士 を含むよう確保すべきである: a. 死刑事件に適用される,関連する州法,連邦法および国際法の手続法・実体法の双 方について十分な知識と理解があること b. 複雑な交渉および訴訟を遂行する技術を備えていること c. 法的な調査・分析・訴訟書類起案の技術を備えていること d. 口頭弁論の技術を備えていること e. 専門家証人の利用,指紋・弾道・病理学・DNA鑑定といった科学的調査に関する 一般的な領域に通じていること, f. 精神状態に関する証拠の調査,準備,プレゼンテーションの技術を備えていること g. 刑を減軽する証拠の調査,準備,プレゼンテーションの技術を備えていること h. 陪審員の選定,証人尋問,冒頭および最終の弁論といった,法廷弁護の要素に関す る技術を備えていること 6.1 仕事量 責任機関は,死刑事件の被告人を弁護する弁護士の仕事量が,このガイドラインにした がい依頼者に質の高い弁護を提供できるレベルに維持されるよう,効果的なメカニズムを 実行するものとする。 7.1 モニタリング;解任 A.責任機関は,依頼者が質の高い弁護を受けるよう確保すべく,全ての弁護人の活動を モニターするものとする。弁護士が質の高い弁護を提供していないという証拠がある 場合には,責任機関は,当該弁護士が現に担当する依頼者そして将来の潜在的依頼者 の利益を守るため,適切な手段をとるものとする。 B.責任機関は,弁護人が質の高い弁護を提供しなかったという苦情が裁判官,依頼者, 弁護士その他の者からなされた場合に,これを調査し,解決するための標準手続を策 定し公表するものとする。 C.責任機関は,死刑事件弁護における弁護人選任にふさわしいと判断された弁護士が, 質の高い弁護を提供する能力を維持することを確保するために,定期的に,これらの 弁護士の名簿を見直すものとする。弁護士が質の高い弁護を提供しなかったという証 拠がある場合には,当該弁護士は以後,弁護人として選任されず,かつ名簿から削除 されなければならない。弁護士事務所の組織的欠陥が原因で質の高い弁護を提供しな かったという証拠がある場合には,当該事務所は以後,選任を受けないものとする。 D.弁護士ないし弁護士事務所が以後選任を受ける資格がなくなるという最終的な決定を 行う前に,責任機関は,こうした措置が検討されていることを書面で告知し,当該弁 護士ないし弁護士事務所に対し,書面で回答する機会を与えなければならない。 E.このガイドラインにしたがい名簿から削除された弁護士ないし弁護士事務所は,例外 的な場合に限り名簿に復帰できるものとする。 F.責任機関は,弁護人の熱心な弁護活動が,このガイドライン7.1による制裁の根拠 とされ,あるいは制裁の脅威とされることのないよう,ガイドライン2.1(C)と の一貫性をもって実施されるよう確保するものとする。 8.1 トレーニング A.責任機関は,弁護団の全ての構成員に対する効果的なトレーニング,専門性の向上, 継続教育のための財源を提供するものとする。 B.選任を受ける資格を得ようとする弁護士は,責任機関により承認された,死刑事件弁 護の総合トレーニング・プログラムを修了しなければならない。プログラムは,以下 の領域におけるプレゼンテーションおよびトレーニングを含むものとする。ただし, 以下に限られるものではない。 1.関連する州,連邦,国際法 2.弁論および申立ての実務 3.有罪/無罪および量刑に関する公判前の調査,準備,セオリー構築 4.陪審員の選任 5.専門家の利用を含む公判の準備およびプレゼンテーション 6.死刑事件弁護に特有の倫理的考慮 7.有罪判決後の審査のための記録の保管・提供の準備 8.依頼者およびその家族と弁護人の関係 9.州および連邦裁判所における有罪判決後の訴訟 10.科学的証拠のプレゼンテーションおよび科学的証拠に対する反証,精神保健その 他関連する科学捜査,生物化学の領域における発展について 11.犯行時 18 歳未満で犯した罪により訴追された者の弁護に特有の事項 C.選任名簿への継続搭載を希望する弁護士は,少なくとも 2 年に 1 回,責任機関によっ て承認され,死刑事件弁護に焦点を当てた特別のトレーニング・プラグラムに参加し, これを修了しなければならない。 D.弁護計画においては,弁護団に参加する資格を得ようとする全ての非弁護士が,その 専門領域に適切な継続的専門教育を受けられるよう確保するものとする。 9.1 資金提供および費用 A.弁護計画においては,弁護団および弁護人により選定された外部専門家により行われ る,このガイドラインにおいて定義されるところの質の高い弁護にかかる全ての費用 について資金を提供するよう,確保しなければならない。 B.死刑事件の弁護人は,質の高い弁護の提供に相応の,また死刑事件に内在する極めて 大きな責任を考慮した額の費用を受けるものとする。 1.金額固定型の報酬,費用の上限の設定,一括払い契約は死刑事件においては不適当 である。 2.刑事弁護人団体に雇用されている弁護士は,当該法域の検察官事務所の給与水準に 見合った給与水準にしたがい費用を受けるものとする。 3.選任された弁護士は,法廷の内外を区別することなく,実際に費やした時間と行っ た弁護活動に対して,当該法域で類似の活動に対し弁護士に支払われる基準に見合 った費用を,時間(時給)計算で受けるものとする。 C.非弁護士の弁護団構成員は,質の高い弁護の提供に相応の,および死刑事件訴訟に関 し弁護人を援助するために必要な専門技術を考慮した額の費用を受けるものとする。 1.刑事弁護人団体に雇用されている調査員は,当該法域の検察官事務所の給与水準に 見合った給与水準にしたがい費用を受けるものとする。 2.刑事弁護人団体に雇用されている減軽のスペシャリスト及び専門家は,民間の同等 の専門家サービスに対する給与水準に見合った給与水準にしたがい支払いを受ける ものとする。 3.私選弁護人を援助する弁護団構成員は,類似のサービスに対して当該法域で私選弁 護人が支払う一般的な基準に見合った時間給により,法廷内で行ったサービスと法 廷外で行ったサービスとを区別することなく,実際に要した時間及びサービスにつ いて完全に支払いを受けるものとする。定期的な請求及び支払は可能とされるべき である。 D.異常に時間がかかった事案あるいは例外的な事案においては追加費用が支払われるも のとする。 E.弁護人および弁護団構成員は,合理性のある付随する費用支出について全て弁償を受 けるものとする。 10.1 弁護活動の基準の確立 A.責任機関は,死刑事件における全ての弁護人に対する弁護活動の基準を確立するもの とする。 B.弁護活動の基準は,全ての弁護人が,本ガイドラインにしたがい,質の高い弁護を提 供することを確保すべく定められなければならない。責任機関は,弁護人の資質ある いは活動について評価を行う際にこの基準を参照しなければならない。 C.弁護活動の基準は,本ガイドラインに定められた特定の基準を含むものとする。ただ しこれに限られるものではない。 10.2 弁護活動の基準の適用可能性 弁護人は,当該法域において法律上死刑の科刑が可能であるかぎり,本ガイドラインに したがって質の高い弁護活動を提供するものとする。 10.3 仕事量に関する弁護人の義務 死刑事件において弁護をする弁護人は,本ガイドラインにしたがい質の高い弁護を依頼 者人に提供するために必要な程度に,その事件量を制限するものとする。 10.4 弁護団 A.死刑事件を担当する弁護士を指名するにあたっては,責任機関は,主任弁護人1名お よび1名以上の弁護人を指名するものとする。責任機関は,通常,他の弁護人を指名 する前に,主任弁護人の意見を聴くものとする。 B.主任弁護人は,弁護団の活動に総合的に責任を負うものとし,本ガイドライン及び職 業上の基準にしたがい任務の割り振り,指示,監督を遂行するものとする。 1.前記により,主任弁護人は以下の場合をのぞき,他の弁護団構成員に対し,本ガイ ドラインにより科せられた任務を委譲することができる。 a. ガイドラインが明文で「主任弁護人」に課す任務,あるいは b. ガイドラインが明文で「全ての弁護人」ないし「全ての弁護団構成員」に課す任務 C.指名の後,可能な限りすみやかに,主任弁護人は以下によって弁護団を招集するもの とする。 1.責任機関と弁護人の人数および陣容につき協議すること 2.本ガイドラインにしたがった責任機関の基準にしたがい,かつ必要な範囲で他の弁 護人と協議のうえ,弁護士以外の弁護団構成員を選定し適切な契約を,以下を含む ことにより締結すること: a. 少なくとも量刑減軽の専門家 1 名と 事実調査担当者 1 名 b. 精神的ないし心理的障がいや問題のスクリーニングについてトレーニングと経験 を持った資質のある者 1 名 c. そのほか質の高い弁護を提供するために必要な者 D.弁護人は,全ての段階において,依頼者のため,質の高い弁護を提供するために必要 なあらゆる資源を要求するものとする。そうした資源の提供が拒否された場合には, 弁護人はその問題がさらに審査される場合に備えて,適切に記録をとるものとする。 10.5 依頼者との関係 A.弁護人は,全ての段階において,依頼者との信頼関係を構築するあらゆる努力を行う べきであり,依頼者との緊密な接触を維持すべきである。 B. 1.例外的状況を除き,依頼者との面接は,当初の弁護人が事件に参加した後 24 時間以 内に行われるべきである。 2.事件に参加した後すみやかに,当初の弁護人は,依頼者の自己負罪拒否特権の保護, 有効な弁護を受ける権利,弁護人・依頼者間の秘匿特権の維持そのほか類似の保障 措置に対する権利に関し,適切な方法によって依頼者および政府の双方と連絡を取 るべきである。 3.全ての段階において,弁護人は,依頼者および政府に対して,これらの点に関し, 必要に応じ,重ねての助言を行うべきである。 C.全ての段階において,弁護人は,事件に重要な影響を与えることが合理的に期待され る全ての事項について,依頼者とのインタラクティヴな対話を継続すべきである。す なわち例えば, 1.事実に関する調査の進展と見通し,及び,依頼者がそれに対してどのような助力を なしうるか 2.現在のあるいは将来生じうる法律上の問題 3.弁護側のセオリーの進展状況 4.事件のプレゼンテーション 5.合意による処分(agreed-upon disposition)の可能性 6.訴訟手続の期限および事件に関連した出来事の進行見込み 7.依頼者と矯正機関・仮釈放機関その他の政府機関(例:刑務所の医療提供者あるい は州の精神科医など)との関係における関連問題 10.6 外国籍被告人を弁護する場合の追加的義務 A.あらゆる段階の弁護人は,外国政府が依頼者を自国民だとみなす可能性を見極めるた めの適切な努力をしなければならない。 B.前任の弁護人がすでに行った場合を除き,外国籍者を弁護する場合には, 1.直ちに,依頼者に対して,領事と連絡をとる権利について助言し,かつ, 2.領事部門と接触することについて依頼者の同意を得る。同意を得た後,弁護人は直 ちに領事部門と接触し,依頼者が身体拘束されていることを知らせる。 a. 依頼者の同意が得られない場合には,その状況に応じて,弁護人による専門的な判 断を行うこと。 10.7 調査活動 A. あらゆる段階の弁護人は,有罪・無罪および量刑の双方の点に関して,徹底した, かつ独自の調査活動を行う義務を負う。 1.依頼者が,嫌疑を受けている犯罪について認めていようと,いかなる供述をしてい ようと,圧倒的な証拠が有罪を示していようとも,依頼者が有罪・無罪に関する証 拠は収集せず,あるいは提出すべきでないと述べた場合であろうとも,有罪・無罪 に関する調査は実施されるべきである。 2.依頼者が量刑に関する証拠は収集せず,あるいは提出すべきでないと述べた場合で あっても,量刑に関する調査は実施されるべきである。 B. 1.あらゆる段階の弁護人は,依頼者に対して,それ以前の全ての局面でなされた弁護 活動を,十分に吟味する義務を負う。この義務には,最低限,元弁護人および弁護 団メンバーとの面接,元弁護人の資料の吟味が含まれる。 2.あらゆる段階の弁護人は,独自に,手続に関する公的な記録が完全なものであるこ とを確認し,必要に応じて補足を行う義務を負う。 10.8 法律的主張の義務 A.あらゆる段階の弁護人は,このガイドラインに従い専門的判断を行いつつ, 1.主張できる可能性のある全ての法的主張について考慮し,かつ, 2.そのような主張を行うべきか否かに関する結論に達する前に,各々の可能性のある 主張の根拠について徹底した調査を行い,かつ, 3.各主張について以下の見地からの評価を行うべきである。 a. 死刑の法的および実務上の特殊性 b. 有罪とされ死刑判決が科された場合には,有罪判決後の全ての可能な救済手段がほ ぼ追求されるであろうこと c. 後日,政府が“当該主張は放棄された” , “履行されなかった”, “尽くされていない”, あるいは“失われた” ,と争うことに対し,依頼者の権利を守ることの重要性 d. その他,当該主張を行うことによる専門的見地からみた適切なコストとそれによる 利益 B. 特定の法的主張を行うことを決めた場合,弁護人は, 1.依頼者の事件における特定の事実および状況,および当該法域で適用される法にあ わせたプレゼンテーションを行い,可能な限り力強く主張を行い,かつ, 2.当該主張と関連する全ての法的手続について完全に記録がとられるよう確保するべ きである。 C.全ての段階の弁護人は,以下の点が依頼者にとって有利となりうることを考慮に留め ておくべきである。 1.ある法的主張の根拠につき,最近になって弁護人が知り,あるいは利用できる状態 となった場合,その法的主張を行うこと 2.すでに行われた主張について,さらなる事実あるいは法律上の情報をもって補強す ること 10.9.1 合意に基づく処分(agreed-upon disposition)を追求する義務 略 10.9.2 有罪答弁 略 10.10.1 公判準備全般 ガイドライン10.7により課せられた調査活動によりもたらされた情報により,公判 における弁護人は,弁護側のセオリーを組み立てるべきである。弁護人は,有罪・無罪お よび量刑の双方に関して効果的なセオリーを追求し,かつ,矛盾が最小限となるよう努め るべきである。 10.10.2 陪審員の選任 A.弁護人は,他の刑事事件の陪審員選任手続に対してとりうる忌避(とくに人種やジェ ンダーによる偏見に関するもの)に加えて,死刑事件の陪審員選任において,忌避の 法的根拠となる手続が行われたか否かを考慮すべきである。こうした忌避には,大陪 審,大陪審リーダーの選任,さらに小陪審の候補者の選定に対する忌避も含まれ得る。 B.弁護人は,陪審員候補者の死刑に関する信念についての“死刑適格” (death qualification) をめぐる諸手続を含めて,陪審員候補者に対する質問および忌避に関する判例に通じ るべきである。弁護人は以下の技術に長けているべきである:(1)陪審員候補者が, 当該事件の個別的事情にかかわらず,被告人が謀殺において有罪となり,あるいは死 刑を科され得ると判断された場合には,自動的に死刑を科するであろうことを明らか にすること, (2)陪審員候補者が,減軽事由となる証拠について意味のある考慮を行 うことができないこと, (3)当初,死刑への反対を示したために陪審員から除外され そうな候補者(が選任される可能性)を回復させること。 C.弁護人は,陪審員選任手続に関する専門家の援助を受けることを考慮すべきである。 10・11 量刑に関する弁護活動 A.ガイドライン10.7(A)に規定されているとおり,あらゆる段階における弁護人 は,量刑に影響を与える事項について調査を行い,刑の減軽を支える事情あるいは検 察官による加重事由に反論する事情を追求する継続的任務を負う。 B.公判段階での弁護人は,依頼者との間で,可能性のある(死刑に対する)代替刑,お よび量刑段階における戦略と,有罪・無罪を判断する段階における戦略との関係につ いて,事件の早い段階において協議すべきである。 C.量刑段階に先立ち,公判弁護人は,依頼者との間で,当該法域における一定の量刑手 続について協議し,且つ,依頼者に量刑段階の準備のためにとられているステップに ついて知らせるべきである。 D.あらゆる段階における弁護人は,量刑判断ないし審査を行う機関(ないし官職)に提 出しようとする量刑に関する情報の内容及び目的,減軽のためのプレゼンテーション が功を奏し得る手段,検察官による加重事情に対抗する戦略について,依頼者と協議 すべきである。 E.弁護人は,依頼者に量刑判断ないし審査を行う機関(ないし官職)に対して供述を行 わせることによって起こりうる結果について考慮し,かつ依頼者と協議すべきである。 F.量刑に関してどのような証人ないし証拠を用意すべきか決するにあたり,担当弁護人 は,下記の各点を含む事項を考慮すべきである。 1.依頼者が胎内にあるときから量刑判断の時点に至るまでの人生,成長過程に通じた 証人,あるいはこれに関する証拠。これらの証人ないし証拠は,依頼者に対して刑 が科されようとしている犯罪の説明に役立ち,検察官の提出証拠に反論しあるいは これを説明することが可能であり,依頼者の人生の積極的な側面を示すものであり, そのほか,死刑より軽い刑を支持するものである。 2.例えば学校や軍の記録のような書類のほか,専門家ないし非専門家の証人。すなわ ち,犯罪に対する依頼者の有責性について説明しあるいはそれを軽減する精神的・ 情緒的状態および生活史に医学,心理学,社会学,文化そのほかの観点からの洞察 を加える証人;あるいは,依頼者の社会復帰能力や刑務所での適応能力について有 利な意見を述べる証人;可能性のある治療プラグラムについて説明できる証人;そ のほか死刑より軽い刑罰を支持し,かつ/または検察官提出証拠に反論し,あるい はこれを説明できる証人,である。 3.死刑に代わるものとして適用可能な刑罰,および/または,当該代替刑が遂行され る条件について証言することのできる証人 4.依頼者の処刑が,依頼者の家族および最愛の者に与える有害的影響について証言で きる証人 5.写真,ビデオ,物(たとえばトロフィー,芸術作品,軍の勲章など) ,依頼者を人間 的に,あるいは肯定的に描きだす文書,たとえば受賞事実を証明するもの,好意的 な新聞記事,推薦状 G.量刑に関してどのようなプレゼンテーションを行うか決するにあたり,弁護人は,弁 護活動のいかなる部分についても,検察官による, (死刑方向に)加重する認めがたい 証拠の提出に道を開く可能性につき考慮しなければならない。弁護人は,こうした点 を考慮し,量刑に関する審理が可能な限り抑制されないよう確保すべく,あらゆる適 切な手段(例えば,偏見防止申立て(motion in limine:偏見をもった質問ないし陳述に 対して保護命令をなすよう求めて陪審による審理の開始前または後になされる書面に よる申立て) )を遂行すべきであり,将来の異議申立てのため完全に記録をとるべきで ある。 H.公判段階での弁護人は,出来る限り早期に,検察官が死刑判決を得るために,どのよ うな加重事由に依拠するか,そのためにどのような証拠を提出するかを見極めるべき である。当該法域にこうした事由の通知に関する規則がある場合には,あらゆる段階 における弁護人は,規則に反する行為について異議を出し,こうした規則が不適切な ものである場合には,あらゆる段階の弁護人は,当該規則の妥当性について異議を申 し立てるべきである。 I.あらゆる段階の弁護人は,刑を加重する証拠の全部または一部について,不適切であ る,不正確である,誤解を招くものである,あるいは証拠能力がないことを理由とし て,適切な異議申し立てが可能かどうか,慎重に考慮すべきである。 J.事件のいかなる段階であろうと,検察官が,政府側の証人に依頼者のインタビューを させる許可を与えられた場合には,弁護人は, 1.以下の点を慎重に考慮すべきである。 a. 当該インタビューあるいはインタビュー実施条件に対して,いかなる法的異議申立 てを適切になし得るのか,及び, b. 依頼者が協力し,あるいは協力しない結果として考えられる法的および戦略上の問 題点 2.依頼者がこうしたインタビューにおいてなす供述はいかなるものであれ重要である ことを依頼者に確実に理解させ,かつ, 3.インタビューに立ち会うべきである。 K.公判段階の弁護人は,陪審員が確実に全ての関連する減軽証拠を考慮し,採用できる ような説示及び評決形式を求めるべきである。公判弁護人は,憲法に抵触するような, あるいは不正確であったり混乱を招いたりするような説示や評決形式に異議を出すべ きであり,これに代わる説示を提示すべきである。有罪判決後の弁護人は,徹底的な 事実調査と法的な議論を通じて,これらの点を追求すべきである。 L.あらゆる段階の弁護人は,なぜ,当該依頼者に対して死刑がふさわしくないのかを論 じるため,全ての適切な機会を利用すべきである。 10.12 公式の判決前調査報告書 A.いかなる段階であれ,公式の判決前調査報告書ないし類似の文書が裁判所に提出され ようとしている場合には,弁護人は,報告書の準備,提出,真実性の確認を律する手 続に通じておくべきである。加えて,弁護人は, 1.報告書の準備が選択的なものである場合には,報告書が作成されるべきとの要請が 持つ戦略的意味合いについて考慮すべきである。 2.報告書作成者に,依頼者に有利な情報を提供すべきである。この点において,弁護 人は,依頼者が報告書作成者と話をするべきか否かを考慮すべきである。仮にそう すべきと判断する場合には,弁護人は,予め依頼者とインタビューについての協議 を行い,かつインタビューに立ち会うべきである。 3.完成した報告書を見直すべきである。 4.依頼者を害する可能性のある不適切な,不正確な,ないし誤解を招くような記述が 確実に削除されるよう適切な措置をとるべきである。 5.弁護側にとって,報告書のなかに不適切な,不正確な,ないし誤解を招くような記 述があると考えられる場合には,依頼者の利益を維持し保護するための措置をとる こと 10.13 後任弁護士の活動を促進するための任務 職業上の規範に従い,現に弁護団の一員であり,あるいは一員であった全ての者は,依 頼者の利益を保護する継続的義務を負い,後任の弁護人に十分に協力するべきである。こ の義務には以下の点が含まれるが,これらに限定されるものではない。 A.訴訟に関する重要な進展状況が全て後任弁護人に伝わるように事件の記録を保持する こと B.弁護活動の全側面に関する情報とともに,依頼者のファイルを後任弁護人に提供する こと C.後任弁護人との間で,将来的に法律上および事実上の調査対象となりうる分野につい て共有すること D.後任弁護人が選択し得る,職業的見地に照らし適切な戦略に協力すること 10.14 有罪判決後の公判弁護人の義務 A.公判段階の弁護人は,依頼者にとって選択可能な州・連邦の全ての有罪判決後の手続 に通じるべきである。公判弁護人は,死刑判決に続いて生じうる手続について,依頼 者と協議すべきである。 B.公判弁護人は,上訴の申立て,再審理の申立てなど,依頼者が死刑判決後に救済を得 る可能性を最大限にする措置を全てとるべきである。 C.公判弁護人は,後任の弁護人は事件に着手するまで,あるいは公判弁護人としての弁 護活動が正式に終了するまで,依頼者のために活動することをやめてはならない。そ の時点まで,ガイドライン10.15.1は全て適用される。 D.公判弁護人は,依頼者が確実に後任の弁護人を出来る限り早期に得られるよう,あら ゆる適切な活動を行うべきである。 10.15.1 有罪判決後の弁護人の義務 A.有罪判決後のいかなる段階であれ,死刑事件の弁護活動を行う弁護人は,当該法域に おける,死刑執行日を指定し,それを通知する手続に通じるべきである。有罪判決後 の弁護人は,死刑執行の停止を求めるためのあらゆる手続に完全に通じるべきである。 B.死刑執行日が指定された場合には,弁護人は,執行停止を確保するためのあらゆる適 切な手段を講じ,あらゆる場面を通じてそのための努力を遂行すべきである。 C.有罪判決後の弁護人は,以前に提起されたか否かを問わず,過度に制限的な手続規則 に対する異議を含め,質の高い死刑事件弁護に適用される基準のもと,やる価値のあ る全ての問題点について,訴訟提起を追求すべきである。弁護人は,事後的な再審査 が可能な方法により,問題点を提起するための,専門的見地に照らし適切なあらゆる 努力をするべきである。 D.直接的攻撃による上訴(direct appeal)を担当する弁護人の義務には,連邦最高裁に 裁量上訴を行うことが含まれるべきである。上訴審での弁護人に裁量上訴を行う意思 がない場合には,当該弁護人は,もし後任弁護人が明らかであればその弁護人,およ び責任機関に対し,直ちに通知をすべきである。 E.有罪判決後の弁護人は,このガイドラインにより課せられた全ての義務を完全に遂行 するべきである。その義務には以下の事項を含む。 1.訴訟の進展状況について依頼者と密接な接触を保つこと,および 2.依頼者の法的地位に影響を与える,依頼者の精神的,身体的,情緒的な状態につい て絶えずモニターすること 3.将来の進展可能性に照らして,前任の弁護士がとったケースセオリーを修正するこ とが望ましいかどうか,不断に見直すこと 4.事件の全ての側面について精力的な調査を継続すること 10.15.2 恩赦手続を担当する弁護人の義務 A.恩赦手続を担当する弁護人は,その申請の手続および実質的内容に通じているべきで る。 B.恩赦手続の弁護人は,ガイドライン10.7にしたがい調査を実施すべきである。 C.恩赦手続の弁護人は,当該依頼者,事件および法域の特性に適合するように弁護を行 い,可能な限り時期を得た,説得的な態様で恩赦申請がなされるよう確保すべきであ る。 D.恩赦手続の弁護人は,依頼者の申請を検討する過程が,実体的および手続的に正当で あるよう確保すべきであり,仮に正当でない場合には,適切な改善策を追求すべきで ある。
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