東燃ゼネラル石油株式会社堺工場 硫黄漏えい事故調査委員会報告書 (概要版) 2012 年 10 月 硫黄漏えい事故調査委員会 1 目次 1 事故調査委員会の目的と構成 ................................................................................... 1 2 硫黄漏えい事故の概要 ............................................................................................. 1 3 発災事業所および発災施設の概要 ............................................................................ 2 3.1 発災事業所の概要 ............................................................................................. 2 3.2 発災施設の概要 ................................................................................................. 3 4 硫黄漏えい事故の状況 ............................................................................................. 3 5 硫黄漏えい事故の発生要因と再発防止対策 .............................................................. 5 5.1 5.1.1 直接要因 .............................................................................................................. 5 5.1.2 間接要因 .............................................................................................................. 5 5.2 6 硫黄漏えい事故の再発防止対策......................................................................... 6 硫黄漏えい事故の通報義務に違反した要因と再発防止に向けての提言 ...................... 7 6.1 石災法による異常現象通報に関する社内体制 ..................................................... 7 6.2 硫黄漏えい事故の通報義務に違反した要因 ........................................................ 8 6.2.1 直接要因 .............................................................................................................. 8 6.2.2 間接要因 .............................................................................................................. 8 6.2.3 職場風土要因 ..................................................................................................... 10 6.3 7 硫黄漏えい事故の発生要因................................................................................ 5 通報義務違反の再発防止に向けての提言..........................................................10 おわりに ..................................................................................................................11 1 1 事故調査委員会の目的と構成 本委員会は、2011 年 6 月 11 日に東燃ゼネラル石油株式会社堺工場で発生した硫黄漏え い事故に関して、第三者による公正な立場から、その要因の究明と再発防止対策について検 討し、また、事故発生時点で石油コンビナート等災害防止法(以下「石災法」という。)による異 常現象通報義務に違反したことに関する要因の究明と再発防止対策について検討する。そし て、それらの成果を基に、安全管理の推進と操業の透明性を高めるための提言を行うことを目 的とする。 本委員会は、4 名の学識経験者からなる委員および関係官庁・機関からのオブザーバーに より構成された。本委員会のメンバーを表 1-1 に示す。 表 1-1 事故調査委員会メンバー 氏名 所属等 委員長 田村 昌三 東京大学 名誉教授 委員 鈴木 和彦 岡山大学 教授 委員 小松原 明哲 早稲田大学 教授 委員 松尾 弁護士(桃尾・松尾・難波法律事務所) オブザーバー 西浦 教之 堺市消防局予防部 危険物保安課長 オブザーバー 尾川 文彦 大阪府政策企画部危機管理室 保安対策課長 オブザーバー 山下 忠司 中部近畿産業保安監督部近畿支部 保安課長 オブザーバー 安田 慎一 高圧ガス保安協会 理事 2 眞 硫黄漏えい事故の概要 東燃ゼネラル石油株式会社堺工場の定期修理中の 2011 年 6 月 11 日 12 時頃、屋外タン ク貯蔵所(TK-703)近傍の出荷ポンプ出口戻り配管に設置されている弁の取外し後のフランジ から溶融硫黄が漏えいしていることが、協力会社員により発見された。連絡を受けた製油部員 により直ちにタンク元弁が閉止され、漏えいは停止した。また、散水冷却措置により漏えい硫黄 は固化し、漏えいの拡大防止が図られた。固化した硫黄は、その大方が同日中に回収除去さ れた。 なお、本件事故が発生した際に直ちに堺市消防局への石災法に基づく異常現象を通報せ ず、その後も実施していない。 この硫黄の漏えい事故に関して、人的被害はなかった。当該タンク貯蔵所の設備にも補修 11 等が必要となる設備被害は発生していない。また、漏えい硫黄による周辺地域への環境被害 も発生しなかった。 6 月 11 日に発生した硫黄の漏えいの状況を以下に示す。 漏えい場所(*1) 堺工場 硫黄貯蔵タンク(TK-703)付属配管部近傍 漏えい物(*1) 危険物第 2 類可燃性固体(品名硫黄)、(TK-703 貯蔵物) 漏えい量(*1) 約 30 トン(TK-703 在槽量の変化より算出) 直接損害額(*1) 約 60 万円、(硫黄単価=200$/トン、為替=90¥/$にて計算) 漏えい範囲 面積=280m2、平均厚み=5~6cm程度 (常温での密度=1920~2070kg/m3) *1: “平成 24 年 7 月 18 日付け堺消危第 922 号「異常現象の通報義務違反等について」へのご回答(第 3 報)”より抜粋 発災事業所および発災施設の概要 3 3.1 発災事業所の概要 東燃ゼネラル石油株式会社堺工場は、敷地面積 77 万m²、従業員数 407 人(2011 年 6 月) で、主要設備として、常圧蒸留装置 156,000 バーレル/日(約 1,000m3/時)、流動接触分解装 置 46,000 バーレル/日(約 300m3/時)の能力を有する製油所である。 東燃ゼネラル石油株式会社では、安全、健康、環境の管理および向上を目指すエクソンモ ービル社統一の完璧操業のマネ ジ メント ・シ ステ ム(Operations Integrity Management System 以下「OIMS」ともいう。)を 1993 年に導入し、また、人の行動に焦点を当てた安全活 動のツールであるロス予防システム(Loss Prevention System 以下「LPS」ともいう。)を 2000 年に導入した。さらに、2008 年からは危険性の高いハイリスク作業に重点を置いた作業 許可監査の取組みを開始する等、安全・防災への取り組みを行っている。 2 3.2 発災施設の概要 東燃ゼネラル石油株式会社堺工場には硫黄回収装置が 2 系統ある。硫黄貯蔵タンク TK-703 と TK-1701 の概要は、次の通りである。 貯蔵所の名称 屋外タンク貯蔵所、TK-703 屋外タンク貯蔵所、TK-1701 危険物第 2 類、硫黄 危険物第 2 類、硫黄 1,100(トン) 4,993(トン) 11,000 倍 49,930 倍 直径 10,520mm X 直径 16,310mm X 高さ 7,650mm 高さ 14,630mm 種別、品名 取扱い数量と 危険物指定数量の倍数 タンクサイズ 当時、硫黄貯蔵タンク TK-1701 は開放整備中であり、硫黄の貯蔵は、TK-703 のみで行っ ており、6 月 9 日の状態では、207.5 トンの硫黄が貯蔵されていた。硫黄の受入れ、払出しは停 止されていたが、硫黄貯蔵タンク TK-703 本体および関連配管への加温用スチーム供給は継 続されていた。 4 硫黄漏えい事故の状況 硫黄サービスの配管、弁は二重構造になっており、内側に硫黄、外側にスチームを通して 加温している。弁を取り外すため、事前に配管の加温用スチームを停止し、配管の内部にある 硫黄を固化させた。一方、硫黄貯蔵タンク(TK-703)の加温は継続していた。整備のために取り 外す弁は、防油堤外側からの距離が 1.2m であり、加温領域からの伝熱が起こりやすい位置 にあった。 固化した硫黄を溶融させる熱は、TK-703 系から供給されたと考え、想定図を基に硫黄が漏 えいに至った経緯を説明する。 3 (1) 6 月 7 日午前、弁取外し時の状態 海上出荷 TK-1701 ピンク色=溶融硫黄 黄色=固化硫黄 弁取外し。 周辺の硫黄は 固化していた TK-703 ストレーナー 防油堤 図 4-1 6 月 7 日、弁取外し時の状況 事前に、配管の加温用スチームは停止されていた。また、弁の保温材も除去されていた。さ らに、同日にスチーム系統の工事が予定されていたため、硫黄貯蔵タンク(TK-703)のスチー ム加温も停止していた。これらにより冷却が進み、弁を取り外した時には硫黄は固化していた。 弁を取り外した後の開放部については閉止板の設置が行われず、雨養生のシートを被せたの みであった。 スチーム系統の工事は当日午後に終了したので、硫黄貯蔵タンク(TK-703)のスチーム加 温が再開された。 (2) 6 月 11 日 12 時頃、硫黄の漏えいが起こった時の状態 海上出荷 TK-1701 加温用スチームが 復旧したと 想定される区域 加温用スチームが 停止されていた区域 ピンク色=溶融硫黄 黄色=固化硫黄 STM TK-703 STM ストレーナー 漏えい 防油堤 図 4-2 6 月 11 日 12 時頃、硫黄の漏えいが起こった時の状況 4 弁取外し部は、閉止板が取り付けられておらず、固化した硫黄で漏えいを防止していた。硫 黄貯蔵タンク(TK-703)のスチーム加温が継続されていたため、この熱が開放部まで伝わり、 固化していた硫黄を溶融したことにより、硫黄の漏えいを引き起こした。 硫黄漏えい事故の発生要因と再発防止対策 5 5.1 5.1.1 硫黄漏えい事故の発生要因 直接要因 本件事故の直接要因として、エネルギー源である硫黄貯蔵タンク(TK-703)からの縁切りが 行われていなかったことおよび開放部に閉止板が設置されていなかったことが挙げられる。 社内規程類の適用状況の調査結果から判断すると、製油 1 課ユーティリティーグループが 、硫黄の固化を縁切りとみなせるとの誤った認識により、漏えいのリスクは低いものと考え、プ ロセス開放作業許可規則を省略したことは誤りであった。また、複数日にわたり開放部を放置 したことは作業許可規則に違反するものであった。 5.1.2 (1) 間接要因 硫黄の漏えいの可能性への油断 聞取り調査によると、溶融硫黄は外気へ出ると固化するので、ガソリン、灯・軽油のような危 険物第 4 類(引火性液体)より拡散範囲も小さく危険性が高くないという誤った認識が一部で見 られた。硫黄は、消防法で定められた危険物第 2 類(可燃性固体)である。万一、燃焼した場合 は毒性のある二酸化硫黄が発生するので、適切に取扱う必要があるとの認識が不足していた と思われる。 (2) 「メジャーTA」に起因する要因 1) 「メジャーTA」の区域に関する不適切な認識 2011 年はメジャーTA であったが、「TA 区域」の定義が明確でなく、十分に周知されていな かった。その結果、「TA 区域」について、製油担当課以外の部署では、「運転が停止されていて 、工事ができる区域」という誤った解釈がされやすいし、本件事故のように、弁を外したままにし ても危険は無いと判断されたおそれがある。 5 TA 作業許可証における情報の不足 2) 製油 1 課ユーティリティーグループでは、弁整備は当日中に終了し、復旧されると思い込ん で閉止板を設置しなかった。しかし、漏えい事故は弁取外し 4 日後の 6 月 11 日に起こった。こ の誤解の原因の1つとして、TA 作業許可証がある。 一般に、TA 工事は事前に工程や工事詳細が決定され、装置内の可燃物等が完全にパー ジされた状態で工事が行われるので、工事手続きの一元管理化のため、TA 時のみ使用される 作業許可証を使用していた。この TA 作業許可証(火無し工事)は、1 件 1 行程度の情報を記載 し、工程は記載されていない。これが、誤解を生じた原因の 1 つと考えられる。 (3) 工程内容の相互理解とコミュニケーションの不足 1) 工程期間の理解の相違 一般に、TA 工事は 5 か月前には工事の作業工程を確定するが、この硫黄漏えい事故を起 こした弁の整備工事は、TA の 1 か月前の 4 月に追加された工事である。期間限定工事に認定 され、工程も事前に作成されたと思われるが、数多くの TA 工事項目の中に埋もれて情報が製 油課ユーティリティーグループ工事担当者まで周知されず、当該工事の工程期間が 1 日である との誤解が生じていた。 製油部門の TA 準備の不備 2) 製油 1 課ユーティリティーグループ内で、この工事のための必要な準備が行われていなか った可能性がある。 本件に関しては、硫黄を固化させれば縁切りと見なすことができ、硫黄の漏えいは起こらな いとの誤った認識により、一連の作業が省かれた可能性が高い。 5.2 硫黄漏えい事故の再発防止対策 (1) 工場の安全管理の強化 1) TA 工事項目に対する製油課内の準備文書を明確にする 例えば、TA 検討チーム(保全部門、製油部門および工事監督者)では、TA 時の限定工事項 目表を作成している。この表に製油部門の情報として、製油部門の準備状況等の情報を共有 化することが改善策として考えられる。 ① 製油部門で作成する手順書の要否(準備完了・未了が分かるようにする。) 6 ② プロセス開放作業チェックリストの要否(準備完了・未了が分かるようにする。) ③ 開放に伴い必要となる仕切り板、閉止板(サイズ、枚数を記載する。) TA 時、内容物をパージしていない工事区域では通常の作業許可証を使用する 2) 内容物をパージしていない区域の工事は、TA タイミングであっても、通常の作業許可証を 利用することを推奨する。 基準の曖昧さをなくす 3) 「作業許可規則」は、1 シフト以内の作業でも仕切り板を設置するよう変更する。 「プロセス開放作業許可規則」を、すべてのプロセス開放作業に適用するよう改訂する。 (2) 安全知識レベルの向上 1) 硫黄の危険性、特性に関する十分な再教育を行う 2) プロセス開放のためのゼロエネルギー状態の達成を徹底させる 3) 相互理解とコミュニケーションの重要性を徹底させる 例えば、従業員フォーラムや製油部のシフト単位での勉強会の場を活用し、上記の安全知 識レベルの向上を図る。 硫黄漏えい事故の通報義務に違反した要因と再発防止に向けての提言 6 堺工場では硫黄の漏えい事故後直ちに堺市消防局へ通報せず、翌年 7 月匿名通報によっ て明らかになるまで本社においても把握されていない。以下に通報されなかった要因について 、本委員会の見解を述べる。 6.1 石災法による異常現象通報に関する社内体制 通報義務は、石災法第 23 条第 1 項に基づくものである。また、堺工場では同法に従って「 自衛防災規程」を定め、異常現象が発生した場合、当日勤務する「防災管理者等通報義務者」 が直ちに堺市消防局に通報を行うことと規定している。防災管理者は原則として工場長であり 、工場長が職務を行えない場合は、定められた承継順位にしたがって副防災管理者がその職 務を代行するとされている。さらに、夜間、休日は直課長(副防災管理者)がその責任と権限の もとで行うと定められている。また、自衛防災規程の下位規定である緊急対策規則には、異常 7 現象を発見し、または通知を受けた者は、上位者に報告することの定めがある。このような自 衛防災体制は、TA 時においても通常の操業時と同様であり、特例的に変更されることはない。 なお、事故当日は土曜日で、工場の休日であった。また、当時、堺工場は大規模定期修理( メジャーTA)の最中であった。工場長は休日であり、製油部長および製油副部長は各々業務 のため工場に出勤していた。 6.2 6.2.1 硫黄漏えい事故の通報義務に違反した要因 直接要因 本委員会は、次のような要因によって、当時堺工場では異常現象の通報が直ちになされな かったと推定する。 通報に関する教育訓練の不徹底 (1) 聞取り調査では、全員が油やガスの危険性を強く認識し、従来からこれらが少量漏えいした だけでも消防に通報してきたとしている一方、硫黄の漏えい事象については固化した硫黄の危 険性がそれほど高くないので通報しなくてもよいという不適切な理解・解釈に至った可能性がう かがえた。このように従業員が正しく認識していなかった背景には、教育訓練の不徹底がある と考える。 通報の役割分担が不明確であった (2) 今回の硫黄の漏えいについては危険性がそれほど大きくないとの認識があったこと、休日 に直課長以上の管理職が出勤していたため緊急対策規則の「報告」についての理解が通報義 務との関係であいまいになった可能性があり、このため通報の役割分担が曖昧となった。 事故情報が環境安全部に入らなかった (3) 製油部の関係者が硫黄の危険性がそれほど大きくないと判断し、当日中に大部分の硫黄 が回収清掃されたことから、電話等で環境安全部員に相談することもなかった。専門知識を有 する環境安全部に情報が入らなかったことも、事故当時、通報に対する是正措置が取り得な かった要因と言える。 6.2.2 間接要因 硫黄漏えい事故を通報する機会となる情報の共有の場はあったが、それらをいかしきれず 8 、事故情報が製油部を超えて他部門と共有されなかった。 (1) 事故当日の TA 全体会議で事故報告がされなかった TA 全体会議は、TA 期間中毎日 15 分間開かれる比較的短時間の会議であることから、TA 全体に関わる重要な問題や優先課題が報告され、硫黄の漏えい事故は報告されなかった可 能性が高い。聞取り調査でも、誰も TA 全体会議で当日の硫黄漏えいの事故について報告を 聞いた者はいなかった。 (2) 硫黄の漏えい情報が適切に社内報告されなかった 事故やロスが発生した場合に作成することとなっている社内報告書が作成されていなかっ た。聞取り調査では、通報しなかったので社内報告の作成、提出は必要ないという意識が覗え た。TA 終了後の TA 報告書等にも硫黄漏えいの記載はない。また、工場長へも異常現象として の報告は行われていない。 OIMS によるアセスメント(監査)では、「法令遵守」や「事故あるいは潜在的事故の報告」に ついて監査システムが確立しており、硫黄漏えい後の 11 月に OIMS に基づく工場の内部アセ スメントが実施された。しかし、上述のように硫黄漏えいに関する情報がなかったため、この事 象は発見されなかった。 (3) 本件事故後の製油 1 課内での硫黄の漏えいに関する話題へのフォローアップが十分で なかった (4) 産廃コスト承認の際にも硫黄漏えい事象としては確認されなかった (5) 安全衛生委員会でフォローアップが確実に行われなかった 7 月度の安全衛生委員会において、労働者側委員から TA の安全対策に関する改善点を話 題にする中で硫黄の漏えいの件にも言及があった。委員会ではこれを日頃からの職場内での コミュニケーション不足の問題と捉え、職場内で後日対応することとされた。8 月度委員会で再 度確認されたが工場側担当委員欠席のため回答されず、9 月度委員会以降は議題に上らなく なった。結果として、安全衛生委員会としてフォローアップが確実に行われなかった。 9 6.2.3 職場風土要因 本委員会の委員は、堺工場の各階層の従業員と委員だけの懇談会を開催し、背景となる 職場風土要因についても検討した。 臨機応変、自由闊達の風土に負の側面がある可能性 (1) 堺工場の臨機応変、自由闊達という職場の雰囲気は、一般的には悪い風土ではないが、 一人一人の規範意識が希薄な場合、安全管理上ネガティブなものに転化する可能性がある。 検証する必要があろう。 会社の基本理念が共有されていない可能性 (2) 工場に掲げられている安全操業等の「会社方針」は、内容は大変よいものであるが、分かり 易いとはいえない。会社の基本理念が工場の管理側と現場従業員の間で共有されているか検 証する必要があろう。 6.3 通報義務違反の再発防止に向けての提言 以上から、本委員会として、再発防止のための提言を述べる。 (1) 教育訓練によるルールと手順、役割と責任の周知徹底 1) 法令に基づき異常現象として通報すべき事象、対象物質の周知徹底と教育を強化する 。 2) 再教育計画の立案、実施について、各々担当責任者を明確にし、規程化する。 3) 環境安全部等専門家による通報に関する教育、防災教育を実施する。 (2) 通報体制の明確化 1) 通報役割分担の明確化: 異常現象や事故発生時の通報担当部署の長は平日および 休日・夜間を問わず直課長とし、安全上の判断は現場に任せ、その判断の是非を問わ ない等、現場の判断を尊重することを明確にする。なお、担当部署は、当該通報後、事 業の実施を統括管理する者に連絡し、連絡を受けた事業の統括管理者は、災害の発生 または拡大の防止のために必要な措置を講じる等の社内体制を明確にする。 2) 責任体制の確立: 工場長不在時の副防災管理者に対しては、責任を担うことについて 意識付けを行うことが大切である。そのため、工場長不在時に工場長を代行する副防災 管理者について再度役割分担を明確にする。 10 (3) 異常現象の確実な通報を監査する体制の強化 異常現象の通報の実施に関し定期的に監査する仕組みを構築する。また異常現象等に係 る報告事案が漏れなく適切に工場内で扱われるように既存の仕組みを強化する。 (4) 経営姿勢のあり方 今回の一連の事態は堺工場で起こったものではあるが、会社全体で受け止め、経営姿勢 に問題はなかったかという反省も必要である。石油精製業における安全や環境に関わる哲学 を本社経営陣が改めて認識し、会社の安全方針やそのための仕組みの意義や精神を全社員 に対して現場目線で教育し、形に流れない管理、規程運用の徹底等の経営姿勢が大変重要 である。 1) 本社主導で「安全、法令遵守が何よりも優先する」という経営方針を再度周知徹底し、さ らに効果を上げる。 2) 通報する意識を徹底するため、直課長その他現場の通報実施者の判断の適否を問題 にしないという経営姿勢を本社主導で確立する。 3) 本社が防災管理者や副防災管理者に対する教育・研修に関与する等、工場の管理側 および現場従業員に対する教育・研修の徹底に積極的に関与する。 4) 本社は、工場における責任体制の確立、通報に関するチェック体制の確立について、工 場に対して積極的に適切なアドバイスを与え、工場従業員の理解を促すことが必要であ る。 7 おわりに 今回の硫黄漏えい事故は、消防法で定められている危険物第2類可燃性固体である「硫黄 」という物質に対する間違った認識、縁切り方法における過去の成功体験等による当該運転部 門の誤った社内ルールの解釈と運用に基づく工事方法により引き起こされた。人的被害、物的 被害および環境被害は無かったものとはいえ、東燃ゼネラル石油株式会社は本件事故を真摯 に捉え、社内ルールにおいて定められている通り、 「プロセスを開放するのであれば、ゼロエ ネルギー状態を確保する」という基本思想について、従業員に再教育し、誤った解釈と運用が なされないように徹底されたい。また、全社的に硫黄を含む危険物に関する正しい理解が得ら 11 れるよう十分に教育を行い、再発防止に努めることを提言する。さらに、今回の事故は定期修 理時に発生しているが、定期修理工事といえども内容物が残っている設備に対する工事管理 体制の強化についても検討されたい。 石油コンビナート等災害防止法で定められている「異常現象の通報」に関しては、その硫黄 の危険性や特性に関する誤った認識に加え、複数の上司が関与したため、社内規程上定めら れている本来の通報担当部署の責任者が的確な判断をせず、責任の所在が曖昧となった。こ のため、通報義務を果たせない事態を引き起こした。今後、異常現象通報に関する社内規程 を厳格に運用するとともに、「迷ったら通報する」という意識を現場で徹底させるため、会社経営 者は、たとえ結果的に異常現象通報の必要がなかったという場合でも通報者の判断の適否を 問題にしないという姿勢を徹底すべきである。また、通報が適切に行われたかをチェックするた め担当部門を外側から監査する方法のさらなる強化も検討されたい。さらに、委員会による聞 取り調査においては、通報すべきであったと感じた運転員も確認されているが、上司への報告 は事故の情報だけに止まっており、通報要否等についてもオープンに話し合える雰囲気、風通 しのよい組織風土の醸成についても東燃ゼネラル石油株式会社は配慮されたい。 堺工場では、工場の安全を確保するために、完璧操業のためのマネジメント・システム (OIMS)を十数年前から導入し運用しているが、今回の事故を教訓として、同システムの現場 における実効性をさらに向上させるための努力や工夫を継続し、工場の安全を維持・向上させ ることを期待する。 調査委員会活動にご協力をいただき、ご尽力をいただいた関係各位に謝意を表するととも に、本報告書が今後の産業保安や安全文化の向上の参考になれば幸いである。 2012 年 10 月 東燃ゼネラル石油株式会社堺工場 硫黄漏えい事故調査委員会 委員長 12 田村昌三
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