民間セクターと開発委員会報告書 『起業家精神を解き放つ-ビジネスを貧困対策に生かすには(仮訳)』 「私達は、民間セクターが雇用と所得を創出し、より公平で豊かな社会に資するものであり、開発の仕事の大部分は、 この土台づくりに過ぎないと、これまでの経験から知っている。」 この言葉とともに、コフィ・アナン国連事務総長は、 2003 年 7 月、カナダ首相とメキシコ前大統領を議長に据え、15 人の各界有識者から成る諮問委員会「民間セクターと 開発委員会」を立ち上げました。民間セクターが途上国開発に一層貢献できるようにするため、政府、民間セクター、 国際機関等それぞれのアクターが何をしなければならないのか?この質問に答えるために委員会が 2004 年 3 月に国 連事務総長に提出したのが、本報告書、『起業家精神を解き放つ-ビジネスを貧困対策に生かすには(仮訳)』です。こ の報告書の提言は、2004 年 G8 サミットに出席した世界のリーダーから賞賛を受けました。 民間セクターと開発委員会委員名簿 共同議長 カナダ首相 ポール・マーティン閣下 エール大学グローバリゼーション研究センター所長 前メキシコ大統領 エルネスト・セディジョ 委員 国際通貨基金 前副専務理事 エイパックス・パートナーズ 副会長、創業者 エドアルド・アニナト(チリ) アラン・パトリコフ(米国 ) 前メキシコ外務大臣 ニューヨーク大学政治学・ラテンアメリカ研究名誉教授 ニュー・ワールド・インベストメンツ CEO クワメ・ピアニム(ガーナ) ホルヘ・カスタニェーダ(メキシコ) モザンビーク財務・計画大臣 ミシガン大学ビジネススクール経営学教授 (Harvey C. Fruehauf Professor) ルイサ・ディオゴ(モザンビーク) C.K.プラハラド(米国) ヒューレット・パッカード社 社長兼 CEO シティグループ取締役兼経営執行委員会会長 前米国財務長官 カールトン・フィオリーナ(米国) ロバート・ルービン(米国) マッキンゼー・アンド・カンパニー シニア・パートナー・ワールドワイド ラジャ・グプタ(インド) テレセル・インターナショナル 社長兼会長 モン・ロシェル・ワイナリー所有 ミコ・ルワイータレ(南アフリカ) アレバグループ執行理事会 会長 コジェマ社 社長兼 CEO 国際労働機関(ILO)事務局長 アン・ローベルジョン(フランス) フアン・ソマビア(チリ) スタットオイル ASA 会長 ペルー自由・民主主義研究所 所長 ジャニク・リンドベーク(ノルウェー) エルナンド・デ・ソト(ペルー) ミシガン州立大学 学長 ピーター・マクファーソン(米国) 職務上の委員 委員会特別顧問 国連開発計画(UNDP)総裁 モーリス・ストロング(カナダ) マーク・マロックブラウン(英国) 代理出席者 ヒューレット・パッカード社 法人業務担当上席副社長 シティインシュアランス 社長兼 CEO デブラ・ダン(カールトン・フィオリーナの代理)(米国) マイケル・フローマン (ロバート・ルービンの代理) (米国) 委員会事務局 事務局長 ニッシム・エゼキエル コアチーム ジャン・クルツィーナ、ナヒード・ネンシ、ヤン・リッツ、サーバ・ソブハ 本書の要点 1.公的な領域では、成長の障害となっている法律、規制、 その他の改革を推進する。 「民間セクターと開発委員会」は、民間セクターを発展さ 2.官民協力の領域では、官民当事者間の協力と連携を促進 せるためのいかなるアプローチも自らの手で行うべきもの し、融資、技能の習得、基本的なサービスなどの重要な便宜 と考え、それに伴う政策提言や、開発に資する貯蓄や投資そ を利用しやすくする。 して技術革新も、おもに民間セクターの個人、企業並びに地 3.民間領域では、規模を拡大でき、他の人々が模倣しやす 域社会の手によって行われるものであると考えている。 く、商業的にも持続可能なビジネス・モデルの開発を奨励す る。 民間セクターは、経済成長を促し、雇用の創出や貧しい 人々の所得の向上に貢献することで、貧困を軽減することが 1.公的な領域での活動:促進的な環境をつくる できる。民間セクターはまた、さまざまな製品やサービスを 行動を可能とする環境(促進的な環境)づくりには、一国の 低価格で提供することによって、貧しい人々に力を与えるこ 経済におけるインフォーマル・セクターの割合を減らしてい とができる。 くことも含まれるが、それを実現するには、フォーマルな経 済への移行を可能にする全体的な環境の改善が求められる。 中小企業は雇用創出の原動力となり得るし、革新や起業家 精神を育てる場ともなり得る。しかし、多くの貧しい国で、 a) 途上国政府が取り組むべきこととして: 中小企業は国内の経済構造(エコシステム)の中で周辺に追 ・規制改革を行い、法の支配を強化する。途上国政府は、民 いやられている。中小企業の多くは法制度の枠外で活動して 間セクターの持続可能な開発のために、政策的な取り組みを おり、それによって、インフォーマルな性格の活動が拡大し、 確固たる信念をもって強力に推し進め、人為的な、政治的利 低生産性を引き起こしている。これらの中小企業には、企業 害関係からの制約を取り除くことによって、これらの改革や が存立するうえで基盤となる資金を調達したり長期資本を 強化を力強い経済成長へとつなげていかなければならない。 入手したりする手段がない。 ・経済をフォーマル化する。途上国政府は、ある程度の期間 にわたり、インフォーマルな活動の縮小を図り、民間セクタ 本委員会は、成長と公平な開発を達成する責任はおもに途 上国側にあると考えている。途上国のこのような責任の中に ーの経済構造(エコシステム)の構成を変えていくような、 は、投資に必要な財源の確保を可能にする環境を創り出すこ 環境の整備に重点的に取り組む必要がある。 とも含まれる。 ・民間セクターを政策立案プロセスに組み込む。政府は変革 ガバナンス、マクロ並びにミクロ経済政策、財政、金融制 を進め、中小企業や零細企業の意見も民間セクターの声とし 度、その他の一国の経済環境にかかわる基本的な要素がどの て確実に反映させるようにするために、国内の民間セクター ような状態にあるかは、多くの場合、国内の政策立案者の行 の代表者との真のパートナーシップ(協力関係)を築く必要 動にかかっている。政策立案者が取り組むべき課題は、マク がある。 ロ経済の安定化と民主化の進展を確保し、民間セクターの企 業家精神を解き放ち育成するため、更なる制度的改革に着手 b) 先進国政府が取り組むべきこととして: することである。 ・良好な国際的マクロ経済環境と貿易体制を築く。開発援助 の流れを拡充し、グローバルな貿易体制の改革を進めること によって、途上国の生産者に公平な経済的機会を与えること 本委員会で提案した行動のほとんどは、複数のアクターの は、国内の民間投資の急速な成長を促すうえで不可欠である。 協力を必要としている。政府が政策の転換を進めている場合 は、国際援助機関から直接の支援や関与を受けていることが 多いが、民間セクターが持続可能な開発に対してより積極的 ・国際開発援助機関および二国間開発援助機関の運営戦略を に取り組んでいる場合は、市民社会団体がこの問題に重点的 転換させる。民間セクターの持続可能な発展を促すには、こ に取り組んでいる場合が多い。また、政府が規制改革を実施 れらの援助機関が共同で活動を行う際に、先進国がよりよい している場合は、民間セクターの代表者との直接的な協議が 調整を図り、それによって効率化を図り、途上国政府の行政 なされている場合もある。本書で示す行動のそれぞれにおい への負担を減らす必要がある。 て、今まで以上に幅広い協力の枠組みの中でとらえることが 求められている。そして、貧困を削減するには、さらにいっ ・援助をアンタイド化する。タイド資金を管理する行政ルー そうの協力が必要となる。 ルを変更すれば、技術援助の利用と提供がより効果的になり、 民間セクターの発展を促すことになろう。 私たちは次の 3 つの領域での取り組みを目指している。 1 c) 国際開発援助機関が取り組むべきこととして: 億の人々を対象)が持つニーズを把握し、こうしたニーズに ・モンテレー合意で採択された専門化とパートナーシップに 応える革新的な解決策を創り出すことは、国内的にも国際的 関する勧告を民間セクターの開発活動に適用する。活動が重 にも民間セクターに求められるもう1つの極めて重要な活 複している分野が多く、非生産的であり、緊急な取り組みを 動である。 必要としている。 ・基準(スタンダード)を設定する。民間部門は、コーポレ ・途上国のインフォーマルな活動への対策を講じる。インフ ート・ガバナンス(企業統治)と透明性にはっきり的を絞り、 ォーマル・セクターの構造を調査しようという、先駆的な仕 持続可能な開発への真の取り組みを行う必要がある。 事が現在進行中であるが、この調査の対象範囲を広げるため に世界全体が努力することで、大きな利益がもたらされるだ b) 市民社会と労働団体が取り組むべきこととして: ろう。 本委員会は、市民社会や労働団体が、今後も開発課題に対し 批判的な目を持って監視し、またミレニアム開発目標(MDGs) 2.官民協力の領域での活動:手を組んで革新に取り組む を達成し、貧しい人々の生活の質の向上を図るうえでの、新 本委員会は、基本的サービスを提供するための、投資、技能 たな手法の推進者であると同時に支援者であり続けなけれ 育成、および官民パートナーシップ(協力関係)の構築にお ばならないと考える。 いては、官民の一致した協力が必要であると確信している。 ・制度全体の説明責任をより強く求める。持続的な開発とい ・資金調達において幅広い選択肢が持てるようにする。私た う概念の推進にあたって、主導的な力を発揮しているのが市 ちが描いているのは、規制する側(政府監督機関)と民間金 民社会であるが、それと同時に、説明責任を高めることも中 融機関の実務能力の育成を伴う、国内金融市場の継続的な発 核的な任務の1つであり、これを強化していく必要がある。 展である。 ・共通の目標を達成するために、新しい連携と協力関係(パ ・実務能力と知識の向上を支援する。実務能力の育成には、 ートナーシップ)を築く。市民社会団体は、社会の底辺の人々 官民の主導的立場にある人々への能力向上プログラムから、 に最も身近な存在である。と同時にまた、多くの場合、問題 零細事業者の訓練、政府機関と労働組合の共同の労働者技能 の解決のために新しい技術をいち早く試みようとする先駆 向上事業までさまざまなものが含まれる。 者である。 ・基本的サービス、とくにエネルギーと水の持続的な提供を 今後への期待 可能にする。本委員会は、公的サービス提供機関、多国籍企 今後のさらなる前進のために、本委員会は、民間セクター 業、国内の企業がパートナーシップを築くための、新しいモ の開発に対するフォローアップを国連が支援するよう提言 デルを開発する必要があると考えている。 する。民間セクター育成についての年次進捗報告書を作成す ることは、本委員会の提言全体の中でもとくに重要な点であ 3.民間領域での活動:能力と資源を活用する り、本書で指摘する多くの課題への取り組みを保障すること 本委員会は、民間部門、中でも各国内の大企業および多国籍 になろう。 「民間セクターと開発委員会」は、各国の変革を促進する 企業が、経済開発の加速と貧困の軽減に自らが貢献できる、 とともに、政府や民間セクターが利用可能な資源を追加し、 ということを認識すべきであると考える。 変革に向けた事業の実施を迅速に開始するためのツールを a) 民間セクターが取り組むべきこととして: 提供するものであり、このために、着手可能な第一歩として ・民間がイニシアティブを取って開発への努力を行う。私た 一連の取り組みをとりまとめているところである。この取り ちは、民間セクターが、その知識や専門性、そして、資源や 組みはまず、本報告書を読んで頂いた今後パートナーとなる 民間内での協力体制を通じて開発に貢献できるという、非常 であろう国々の、協力的な態度を引き出すきっかけとなるこ に大きな潜在能力を有していると確信している。 とを意図している。「一緒にやりましょう!」──これが皆 様に向けた私たちのメッセージである。 ・多国籍企業や国内の大企業との連携を深め、中小企業を育 てる。途上国において、異なるタイプの企業間が連携するこ とは、国内企業が市場、資金調達、技能やノウハウにアクセ スするうえでの効果的な手段となる。 国連開発計画(UNDP)東京事務所 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 5-53-70 UN ハウス8F Tel. 03-5467-7451 / Fax. 03-5467-4753 http://www.undp.or.jp ・社会構造の底辺に位置する市場が持つビジネスチャンスを 追求する。社会構造の底辺の市場(年収 1500 ドル未満の 40 2
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