恐れすぎず、侮らず!新型インフルエンザ

恐れすぎず、侮らず!新型インフルエンザ
―糖尿病だと重症化しやすいのかという質問に答えます
2009/05/27
Ver1.1
多摩センタークリニックみらい
この間、厚生労働省の見解などで「喘息患者や糖尿病患者では重症化しやすいので特
に注意が必要」という報道がなされ、当院の患者さんからも質問が相次いでいます。
結論から言えば「コントロール良好な糖尿病患者さん」では通常の人たちに比べ重症化
しやすいことはありません。過剰な心配は無用です。
1. 糖尿病だとインフルエンザにかかりやすいのか?
いままでの多くの研究がなされてきましたが、糖尿病患者が特にインフルエンザにか
かりやすいという結論はでていません。ただ血糖値が 250mg/dl をこえると、体の防御
をつかさどる白血球やリンパ球の機能が落ちることは、実験で確かめられています。よ
って HbA1c8%を越えていれば、かかりやすい可能性はないとはいえません。しかし
しかし
コントロールが
コントロールが良好であればまず
良好であればまず一般
であればまず一般の
一般の人たちと同様
たちと同様と
同様と考えられます。
えられます。また国立感染症
研究所の大阪での調査によれば,感染力はそれほど強くなく,一定の年齢以上の方はか
かりにくい可能性があります.
2. 糖尿病だと重症化しやすいか?
HbA1c8
HbA1c8%を越えている場合
えている場合や
場合や、自律神経障害や
自律神経障害や腎不全のある
腎不全のある患者
のある患者さんでは
患者さんでは直接的
さんでは直接的
に重症化しやすい
それ以外の糖尿病患者さんでは一般の人たちとほ
重症化しやすい可能性
しやすい可能性があります。
可能性
ぼ同様と考えられます。季節性インフルエンザでは全体として糖尿病患者の死亡率は一
般の人に比べて 1.5 倍といわれています,これは糖尿病患者の心筋梗塞死亡率 2-3 倍に
比較しても高くありません.また新型インフルエンザの米国の報告では重症化の基礎疾
患に上がってはいますが,より免疫不全や肺や心臓の病気の方が危険性が高いようで,
これらの病気を合併していれば注意が必要です.
むしろインフルエンザ
インフルエンザによって
脱水や栄養障害、感染
インフルエンザによって血糖
によって血糖コントロール
血糖コントロールが悪化して、
コントロール
組織の防御能の低下による悪循環のほうが重要です。インスリン注射をしている方は、
血糖値を見ながら普段の 10-20%増しの量を注射ししっかりと血糖値を下げることが
大切です。まちがっても「たべられないのでインスリンを中止する」ことは行わないで
ください。
(「シックディルール」といいます.
)薬の方もビグアナイドとよばれる薬「メ
トホルミン(メルビン、メデット、ネルビス、グリコランなど)」
「ブホルミン(ジベト
ス)」は中止すべきですが、他の薬は服用していたほうが良いと思います。重症化する
ときには血糖の上昇がまず伴います。血糖値が重症化のよい指標になります。
3. 重症化する際の症状はなにか?
今回の新型インフルエンザはほとんどの場合季節性インフルエンザ程度か,むしろ軽
い症状でおさまるようです。発熱、全身倦怠、咽頭痛、咳、下痢などです。しかし季節
性インフルエンザと異なり「インフルエンザ
インフルエンザ肺炎
インフルエンザ肺炎」を起こしやすいのが特徴のようで、
肺炎
海外ではほとんどの死亡例がこの肺炎によります。この肺炎の症状の特徴は「
「息切れ
息切れ」
「呼吸困難」
「チアノーゼ
「痙攣
呼吸困難」
「チアノーゼ」
チアノーゼ」
「痙攣」
痙攣」などです。このような症状が疑われた場合には緊急
の入院が必要です。前駆症状としては「
「夜寝ているときに
夜寝ているときに息苦
ているときに息苦しくて
息苦しくて眠
しくて眠れないか
れないか。上体
を起こして寝
こして寝ると楽
ると楽か」で判断できます。
しかし糖尿病患者さんでは重症化の指標にもっと便利なものがあります。「血糖値」
です。血糖自己測定している方は、常時血糖値
常時血糖値が
常時血糖値が 350-
350-400mg/dl 以上(
以上(またはケトン
またはケトン
体の陽性)
陽性)が 4 時間以上続くようであれば
時間以上続くようであれば、
くようであれば、まずインフルエンザ
まずインフルエンザが
インフルエンザが重症化しています
重症化しています。
しています。
血糖測定を行っていない方は高血糖の症状すなわち「
「口渇」
「多尿
「頻尿」
口渇」
「多尿」
多尿」
頻尿」の症状がひ
どくなれば、血糖値が悪化している証拠です。糖尿病は食欲が亢進する疾患ですから「食
欲がまったく無
がまったく無い」「吐
「吐き気があって水
があって水も飲めない」
めない」状態も重症化の際の症状です。糖
尿病患者さんのほうが一般の人よりも「重症化」が見つけやすいといっても過言ではあ
りません。インフルエンザ患者が多い地域に旅行した方や,濃厚に接触する方がインフ
ルエンザ症状を訴えた場合できるだけ早く発熱外来を受診することが重要です.なお現
在の基準では「基礎疾患がある人」の感染は原則入院治療となっています.
4. 予防はないか?
一般的な「うがい」「手洗い」などは当然ですが、糖尿病患者さんの一番
一番の
一番の予防はで
予防はで
きるだけ早期
きるだけ早期に
早期に血糖コントロール
血糖コントロールを
コントロールを改善させることです
改善させることです。
させることです。少なくとも HbA1c
8.0%未
満、食後 2 時間血糖値 250mg/dl 未満を流行前に達成しましょう。血糖値 200ml/dl 未
満,すなわち HbA1c 7.0%
7.0%未満であれば
未満であれば一般
であれば一般の
一般の方とあまり変
とあまり変わらないと考
わらないと考えられます。
えられます。
インスリン注射が適応といわれまだ開始していない患者さんはできるだけ早期に変更
しましょう。感染時にもっとも血糖をコントロールしやすく安心なのはインスリン注射
だからです。糖尿病のコントロールのため、「薬」は絶対に中止しないでください(発
熱時のビグアナイドを除く)。このように血糖コントロールのためにも「蔓延」期を除
いてはいままでどおりの定期受診をお勧めします。いまのところ「蔓延」期に備え、10
日分程度は予備の薬を持っていてください。蔓延期には FAX での処方箋発行も一定の
条件下で可能になるようです.
5. 侮らず、必要以上に恐れず!
今回の新型インフルエンザは「弱毒型」で、「インフルエンザ肺炎」などの合併症を
起こさなければ自然に治癒する疾患です。発生地域への旅行など新型インフルエンザの
感染が考えられる方は,現在のところは「発熱相談センター」に相談してください.し
かし一般の発熱などや発熱時の血糖コントロール等ご心配なことの相談は,当然行いま
すので、その際は受診前に当院へ電話でご連絡ください。
その他,個人に合った治療法等,詳細は主治医にご相談ください.また状況に応じて
本稿は改定していきます.
(5/25 Ver1.0,5/27 改訂)