農産物取引の基礎知識

農産物取引の基礎知識
目次
第 1 章 農産物取引のポイント ............................................................................................ 1
第 1 節 世界の食糧事情 ............................................................................................ 1
第 2 節 農産物の価格変動 ......................................................................................... 4
第 2 章 とうもろこし・大豆の基礎知識 ..................................................................................... 9
第 1 節 とうもろこし .................................................................................................... 9
第 2 節 大豆 ........................................................................................................ 33
第 3 節 米国政府機関による提供情報と価格変動 .............................................................. 60
第 4 節 穀物流通と穀物取引 ..................................................................................... 77
第 2 章 小豆の基礎知識 ................................................................................................ 81
第 1 節 小豆の商品特性 .......................................................................................... 81
第 2 節 小豆の需給 ................................................................................................ 82
第4章 取引戦略 ........................................................................................................ 92
第 1 節 リスクヘッジ .................................................................................................. 92
第 2 節 買いヘッジと売りヘッジ ...................................................................................... 92
第 3 節 ロールオーバー(ローリング・ヘッジ/スイッチ取引) ....................................................... 98
第 4 節 裁定取引 .................................................................................................. 99
第 5 節 リスク管理と周辺制度の最近の動向 .................................................................... 101
第 6 節 モダン・ポートフォリオ理論 ................................................................................. 106
第5章 東京商品取引所のルール ...................................................................................... 111
第 1 節 取引要綱 ................................................................................................. 111
第 2 節 建玉制限 ................................................................................................. 111
第 3 節 ヘッジ玉の取扱い ......................................................................................... 111
第 4 節 受渡制度 ................................................................................................. 112
第 5 節 EFP取引について ...................................................................................... 112
I
第 1 章 農産物取引のポイント
第 1 節 世界の食糧事情
1.
世界人口と食糧
18 世紀の経済学者であるトマス・マルサスは、著書「人口論」の中で、「人口は幾何級数的に増加するのに対し、食
糧は算術級数的にしか増加しない。」として、何もしなければ世界はいずれ過剰人口による食糧不足に陥るとの警鐘を
鳴らした。近年では、ワールド・ウォッチ研究所のレスター・ブラウン博士が、著書「だれが中国を養うのか? 迫りくる食糧危
機の時代」において、増え続ける世界人口と世界最大の人口大国である中国の食糧需要の増大を踏まえ、将来の食
糧危機の可能性について言及している。
図 1 世界人口、穀物生産量・消費量・期末在庫率
(出所)世界銀行、USDA
人類は常にこのような食糧危機の不安に怯えながらも、「緑の革命」に代表される農業技術の革新や近年の遺伝子
組み換え作物の開発、食糧価格の高騰による増産意欲の促進等により何とか人口成長に見合う食糧増産を実現させ
てきた。図 1 にあるように、1960 年と 2014 年で比較すると、人口(胃袋)が 30 億人から 73 億人と 2.4 倍に増加
しているのに対して、穀物生産量も 8.2 億トンから 24.7 億トンと約 3 倍に増加している。ただし、穀物消費量(緑線)
が人口に比例してほぼ直線的に増加しているのに対し、穀物生産量(赤線)は干ばつや冷害などの気象要因の影響
もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である
1
需給ギャップは期末在庫として表れ、その期末在庫を年間消費量で除した結果である期末在庫率(青線)は 1980
年代の約 36%をピークとして、上下しながらも現在は約 22%なるなど、トレンドとしては低下傾向にある。このことは、
1980 年代以降、全体的には穀物需要が穀物供給を上回っており、不足する分は過去に積み上げた在庫を取り崩し
ながら何とかバランスを保っていることを意味している。(※期末在庫率が 20%とすると、365 日×20%=73 日分の在
庫を抱えていることを意味する。)
それでは、今後も同じような傾向が続くのであろうか。国連は、世界人口予測の中で、2024 年に 80 億人、2038 年
に 90 億人、2056 年には 100 億人を突破するとしており、穀物消費量は確実に増加するものと見込まれる。一方、生
産量については、遺伝子組換え等のバイオテクノロジーの進歩による増産が期待できるものの、経済発展に伴う耕地面
積の減少や頻発する異常気象による自然災害の発生等により不透明感が増しているのも事実である。需給ギャップは
穀物価格に反映されるため、ギャップの変動が大きくなればなるほど価格変動も大きくなってくる。
2.
農産物の成長銘柄:とうもろこし・大豆
穀物生産量は、全体として、人口増加を上回るスピードで増加してきた。しかし、穀物別に見てみると、成長率に大き
な差があることが分かる。
図 2 三大穀物及び大豆の生産量推移
とうもろこし、小麦、コメは、世界三大穀物といわれている。三大穀物のうち、最も生産量が多いのはとうもろこし(約
9.7 億トン)であり、次いで小麦(約 7.3 億トン)、コメ(約 4.7 億トン)の順番となっている。注目すべきはその増加
率であり、1960 年代初頭と 2015 年を比較すると、小麦とコメは約 3 倍と人口の増加率を少し上回るレベルであるが、
とうもろこしは約 4.9 倍と人口の伸びを大きく上回っている。また、油糧種子である大豆の生産量もこの 50 年で大きく増
加しており、1960 年代は僅か 3000 万トンにも満たなかった生産量が、2015 年には 3.2 億トンと 10.7 倍に増加し
ている。この増加率の違いは、コメや小麦が「主食用」として直接摂取されることが多いのに対して、とうもろこしや大豆
2
(正確には、圧搾てして後の大豆ミール)は家畜の「餌」として「飼料用」に用いられることが多いことに由来している。経
済が発展し、所得が増加すると、肉の需要が増加する。一般的に、牛肉 1kg の生産には 7kg、豚肉 1kg には 4kg、
鶏肉 1kg には 2kg の飼料穀物が必要と言われている。1960 年代から 2015 年にかけて、世界人口の増加と発展途
上国の経済発展により、世界の食肉消費量は 5100 万トンから 2.5 億トンに増加したが、この食肉需要を満たすため
に、飼料原料の需要が急拡大し、それに伴ってとうもろこしや大豆の生産量が急増している
東京商品取引所(以下 TOCOM)では、このような農産物の「成長銘柄」である「とうもろこし」と「大豆」の取引
の場を提供している。
図 3 世界食肉消費量
3
第 2 節 農産物の価格変動
1.
価格変動と価格変動要因
一般消費者に農産物価格について尋ねると、「野菜は価格変動が大きい印象があるけれども、主食であるコメや小麦
等の穀物や、納豆の原料である大豆等の価格は安定している」という答えが返ってくることが多い。確かに、スーパーの店
頭で売られている食料品の価格は、生鮮野菜を除いて比較的安定しているように見える。それでは、本当に穀物や大
豆の価格は安定しているのであろうか。
図 4、5 は、とうもろこしと大豆の過去 30 年間の価格推移を示している。我が国は、とうもろこしや大豆の大部分を海
外からの輸入に依存しており、TOCOM は日本に輸入される米国産のとうもろこし及び大豆の指標価格を提供している。
一方、とうもろこしや大豆の世界的な指標価格は、世界最大の産地でもある米国の CBOT が提供している。下図の赤
線は TOCOM における先物価格(期先)、青線は CBOT における先物価格(期近)を表しているが、30 年間の長
期スパンで見てみると、とうもろこし価格はトン当たり 1 万円から 5 万円、大豆は 2 万円から 8 万円の間で大きく変動し
ていることが分かる。
食料は、我々の生活にとって必要不可欠な商品であり、その価格の安定は社会の安定にとって極めて重要であること
から、政府や企業が価格安定のために様々な対応をしていることが価格変動を見えにくくさせているが、実際には食料価
格が大きく変動していることに留意する必要がある。
図 4 とうもろこし価格推移
4
図 5 大豆価格推移
図 4、5 から、とうもろこしや大豆の価格は、天候要因(大干ばつ、長雨等)、需給要因(作付遅延、在庫減少、
豊作)、社会的要因(金融危機等)などが影響して大きく変動していることが分かる。なかでも天候要因は「天候相
場」という言葉があるように、農産物独特の重要な要因であるといえる。
図 6 は、2012 年の米国における大干ばつ発生時における CBOT と TOCOM(当時は東京穀物商品取引所で上
場)のとうもろこし価格の推移である。とうもろこしは、播種が早めに終わると収穫までの全ての段階において天候からの
悪影響を避けることができることから、5 月 10 日までに 75%以上が作付けされることが望ましいとされている。この年は、
春先に非常に良好な天気が続き、作付けも非常に順調で、例年より早めに作付けが完了した。そのため、2012 年は
豊作になる可能性が高いとして、5 月初旬から下旬にかけて価格が大きく下落した。しかし、6 月に入ると、雨が極端に
少なくなり異常な乾燥が進み、米国農務省(以下 USDA)が毎週月曜日に発表する生育状況においても、生育が
悪化している様子が確認されると、6 月の後半から CBOT や TOCOM のとうもろこし価格が連日高騰した。事実、
CBOT では 6 月 21 日(568.5 セント/bu)から 7 月 20 日(820.5 セント/bu)の僅か 1 ヶ月間で 252 セント/bu
(44%)上昇、TOCOM でも 6 月 14 日(21600 円/t)から 7 月 20 日(29660 円/t)の約 1 ヶ月間で 8060
円/t(37%)上昇した。最終的に 2012 年は 1930 年以来の大干ばつという結果となり、CBOT では 843.25 セン
ト/bu、TOCOM では 30300 円/t の高値を示現することとなった。
このように、農産物は天候相場期において、天候次第で短い期間で大きく価格が動くことがある。
5
図 6 とうもろこし価格変動(2012 年天候相場期)
2.
価格変動の大きさ:他商品との比較
農産物は長期間のスパンで見ると大きく動いていることが分かったが、他の商品との比較ではどうであろうか。図 7 は、
貴金属(金)、エネルギー(原油)、農産物(とうもろこし)の価格変動の大きさ(ボラティリティ)を比較したもので
あるが、年度によって違いはあるものの、傾向として農産物は金と原油の中間に位置する「ミドルリスク」の商品であると考
えられる。
図 7 とうもろこし、金、原油のボラティリティ比較
6
3.
季節変動とトレンド
農産物価格の特徴として、季節変動性の存在と、トレンドの分かりやすさが挙げられる。
農産物は、貴金属や原油などと異なり、基本的に一年一作であり、収穫期に大量に供給され、それを保管し、次の収
穫期まで消費するというサイクルを描く。そのため、1 年の中で、収穫期は供給過剰、端境期はモノ不足というように需要
と供給に極端なアンバランスが生じ、このことが農産物価格に季節性をもたらすといわれている。
図 7 は、2014 年の端境期から収穫期における CBOT と TOCOM の大豆価格の推移である。この年は、2012 年の
大干ばつの影響による供給のタイト感が薄れてる一方、高値による作付面積の大幅拡大と良好な天候により 2014 年
産の大豊作が見込まれていた。6 月以降、USDA の生育状況報告において、作柄が良いことが確認されると、6 月から
9 月末の収穫期の初めまでの 3 ヶ月間、価格が一方的に下落し、CBOT では 1502 セント/bu から 910.25 セント/bu
と 591.75 セント(40%)下落し、TOCOM でも 55880 円/t から 45810 円/t まで 10070 円/t(22%)下落し
ている。
しかし、9 月末になって底値をつけると、その後は反転し、飼料需要増加観測等が材料となって 11 月中旬までの 1 ヶ
月半一方的な値上がりを見せ、CBOT では 1075 セント/bu、TOCOM では 55600 円まで切り返した。なお、CBOT
と比較して TOCOM の値上がりが大きかった原因としては、同じ時期に、日銀金融緩和(所謂「黒田バズーカ」)等に
よる急激な円安が重なったことが挙げられる。
図 8 大豆の価格変動(2014 年端境期から収穫期)
4.
限月間の価格関係:新穀と旧穀
農産物が貴金属や原油と大きく異なることとして、同じとうもろこしや大豆であっても、新穀と旧穀のように年産が違えば
別物のように価格が動くことが挙げられる。
とうもろこしの新穀限月は、CBOT では 12 月限以降、TOCOM では 1 月限以降と考えられており、大豆の新穀限月
は、CBOT では 11 月限以降、TOCOM では 12 月限以降と考えられている。
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図 9 新穀と旧穀(4 月末のケース)
とうもろこし
CBOT
TOCOM
5 月限
7 月限
9 月限
12 月限
3 月限
旧穀
5 月限
5 月限
7 月限
9 月限
新穀
7 月限
9 月限
11 月限
1 月限
旧穀
3 月限
新穀
大豆
CBOT
TOCOM
5 月限
7 月限
8 月限
9 月限
11 月限
1 月限
旧穀
6 月限
8 月限
3 月限
5 月限
新穀
10 月限
12 月限
旧穀
2 月限
4 月限
新穀
このような新穀と旧穀の違いは、限月間の価格関係(サヤあるいはスプレッド)にも表れている。
金などの貴金属では、持ち越し費用を反映して、一般的に期近安の期先高(コンタンゴ)になるといわれている。一
方、農産物は、コンタンゴが基本であるものの、収穫期における大量の供給を反映して収穫期直前の限月において逆ザ
ヤになることが多い。図 10 は、2015 年 10 月中旬における CBOT とうもろこしの限月ごとの価格をプロットしたものであ
るが、2015 年産限月は 12 月限から 7 月限までがコンタンゴ、7 月限と 9 月限の間はバックワーデーションになっており、
2016 年産限月の 12 月限から 7 月限にかけて再びコンタンゴの価格関係になっている。
なお、農産物の場合、潤沢な在庫がある場合にはこのようなコンタンゴが生じやすいが、需給が逼迫している状況では
バックワーデーションが生じるなど限月間の価格関係が大きく変わることがあることに注意する必要がある。
農産物市場では、このような限月間の値差を利用して、新穀限月と旧穀限月のスプレッド取引などが行われている。
図 10 とうもろこしの限月間の価格関係(2015 年 10 月のケース)
8
第 2 章 とうもろこし・大豆の基礎知識
第 1 節 とうもろこし
第 1 項 とうもろこしの商品特性
1.
とうもろこしの歴史
とうもろこしはコメ、小麦と並ぶ世界三大穀物の一つである。とうもろこしは「Corn(コーン)」と呼ばれるが、これは米
国、カナダ、オーストラリアなどでの呼び名であり、その他の国では一般に「Maize(メイズ)」と呼ばれている。ちなみに、
「コーン」はイギリスでは小麦のことであり、スコットランドやアイルランドではオーツ麦を指す。
とうもろこしの起源については、中央アメリカや南米のアンデス地域が有力であるといわれている。メキシコでは約 8 万年
前のものと思われるとうもろこしの花粉粒が発掘されており、ニューメキシコの洞窟からは 5600 年前のとうもろこしの穂軸
が発見されている。中央アメリカでは紀元前 3000 年頃には栽培が始まったと考えられており、以来、様々な品種が開発
されていったと考えられている。
西洋諸国へは、1492 年のコロンブス探検隊が西インド諸島で発見してスペインに持ち込み伝わったといわれている。ヨ
ーロッパに持ち込まれたとうもろこしはフランスやイタリアに伝わり、さらにはアフリカにも伝播した、アジアへは、16 世紀には
中国に持ち込まれたといわれており、日本にも 1579 年にポルトガルから長崎に持ち込まれたといわれている。
2.
とうもろこしの品種・用途
(1)
品種
とうもろこしはイネ科の一年生作物である。とうもろこしは、粒の形状や胚乳の性質により品種分類が行われ、代表的
なものは以下の 7 種類である。
品種
特徴・用途
米国産の飼料用とうもろこしの品種である。
デントコーン(馬歯種)
粒の側面が硬質、中央先端が軟質で、成熟すると先端部が窪む。草丈は4メートル程
度になり収穫収量が高く澱粉含有量も高い。主に飼料用途や澱粉用途に用いられる。
粒は完熟しても窪みができず丸みを帯びる。草丈は 1 メートル程度で、粒の外側は硬い
フリントコーン(硬粒種)
角質で虫害を受けにくい。古くから中南米で栽培され、飼料・工業用途のほかメキシコの
トルティーヤ等の食用にも用いられる。
ポップコーン(爆裂種)
スイートコーン(甘味種)
ワキシーコーン(糯種)
ソフトコーン(軟粒種)
ポッドコーン(有桴種)
スナック等の製菓用途に用いられる品種。フリントコーンの変種で粒の大部分が硬質で中
央部に水分を含んだ軟質部があり加熱すると膨張して皮が破られる。
澱粉が少なく糖分が多い。生食用や缶詰用など食用に用いられる。
中国原産で粒の表面がワックスをかけたような外観をしている。澱粉質がアミロペクチンから
成り食品の基材等に用いられる。
フラワーコーンとも称され粒が軟質澱粉から成り柔らかく製粉性が高い。南米高地の在来
種であり食用に用いられる。
粒が頴(エイ)と呼ばれる衣に包まれており虫害に強い。
9
このほかにも、品種改良された特殊品種として「高アミロース品種」や「高リジン品種」などがある。さらに、1996 年以降、
米国を中心に遺伝子組換え品種が導入されると、「除草剤耐性種(例:ラウンドアップレディ)」や「害虫耐性種
(例:BT コーン)」、除草剤耐性と害虫耐性など複数の耐性を兼ね備えた「多重形質(スタック)品種」などの栽培
が急速に広がった。2013 年時点において、米国産とうもろこしの 90%が遺伝子組換え品種であり、特に、複数の耐性
遺伝子が組み込まれた「スタック品種」のシェアが前年の 52%から 71%へと急拡大している。
(2)
用途
とうもろこしの用途は「飼料用途」と「産業用途」に大別される。
飼料用途としては、配合飼料原料や圧ペン飼料として用いられるほか、青刈りしたとうもろこしを発酵させてサイレージと
しても用いられる。
産業用途としては、異性化等の原料やダンボール製造に用いる糊として用いる澱粉の原料、さらに近年ではエタノール
の原料としての利用が急増している。燃料用アルコールであるエタノールは自動車用ガソリンに混ぜて利用され、原油価
格が高騰する中で、米国のエタノール政策の後押しもあり需要が拡大している。
とうもろこし 1 ブッシェル(bu)から生産される「エタノール」と副産物である「ディスティラーズ・ドライド・グレインズ・ウィズ・
ソリュブル(DDGS)」の生産量は以下のとおり。なお、DDGS はとうもろこしと同様に飼料として用いられる。
3.
とうもろこしの生育
とうもろこしの生育期間は約 120 日であり、主要生産地である米国において、以下のような生育過程を経て収穫され
る。
① 播種(Planting)、発芽(Germination)
米国では 4 月中旬から 6 月初旬にかけて作付けが行われる。理想的な発芽のための土壌温度は華氏 60℃
(摂氏 15.5℃)であり、地温が華氏 50℃(摂氏 10℃)以下では発芽しないと言われている。作付けが遅れ
て 6 月以降にずれ込むと、十分成熟しないうちに初秋を迎え、早霜の被害を受ける危険性が高くなるので、5 月
中に作付けを完了することが望ましい。また、米国の農作業は大型機械による大規模な作業であることから、この
時期に雨が多いとぬかるんで機械を畑に入れられない。従って発芽のための水分は欲しいものの、多すぎても障害
になる。とうもろこしは作付け後数日で発芽する。
② タッセリング(Tasseling)
発芽後 4~5 週間は植物としての成長段階で、根、茎、葉を成長させる。その後、6 月初旬から下旬頃にタッセリ
ング(雄花から穂を出すこと)が始まる。
③ シルキング(Silking)
タッセリング初期からさらに 5~6 週間後、時期としては 7 月中旬から 8 月初旬に、とうもろこしの種実部の先端か
10
ら細長い絹のような糸が出てくる。この糸はめしべにあたるもので、一本一本が胚珠につながっており、受粉するとこ
の一本ごとの根元にとうもろこしの穀粒ができる。時期としては 7 月中旬から 8 月初旬である。タッセリングとシルキ
ングが完了して初めて受粉の態勢が整ったことになる。
④ 受粉(Pollination)
雄穂(タッセル)から放出された数百万個の花粉が、6~15 メートル以内にあるめしべ(シルク)に付着して受
粉する。成長段階で最も重要な時期である。とうもろこしにとっては最大のエネルギーを必要とし、十分な水分を要
求する時期である。空中を飛散する花粉がめしべにうまく付着するには、適切な湿度が必要であり、摂氏 38℃以
上の高温になると受粉が失敗しやすい。ただし、一番暑い 7 月中旬から 8 月初旬に当たるので、関係者がもっとも
神経質になる時期である。とうもろこしは受粉期間が極めて短いことが特徴として挙げられる。
⑤ ミルクステージ(Milk Stage)
受粉から 2~3 週間経過すると、穀粒がミルクのような状態になる。この時期に澱粉や蛋白を形成する。8 月中旬
頃から下旬にかけてこの段階を迎える。
⑥ ドウステージ(Dough Stage)
ミルク状の中身が徐々に柔らかい固まりになってゆく過程である。この時期に早霜に襲われると次の生育段階に進
まなくなり、ソフトコーンになってしまう。8 月下旬から 9 月中旬にかけてこの段階を迎える。早霜の危険は 9 月初旬
に多い。
⑦ デントステージ(Dent Stage)
ドウステージから約 3 週間たつと実に窪みができる段階に入る。デントステージもドウステージ同様に固まっていく過
程であるので、基本的には乾燥した天候が望ましい。この段階までくれば霜の被害は軽微である。9 月中旬から
10 月上旬である。
⑧ 成熟期(Mature)
デントステージから約 2 週間でとうもろこしの成熟は完了する。時期的には 10 月上旬から 11 月初めで受粉から
数えると 8~9 週間かかることになる。ただし、成熟しても穀粒の中の水分はまだ高く 20%以上ある。
⑨ 収穫期(Harvest)
成熟後、10 月半ばから 11 月半ばにかけて天候を見ながら収穫のタイミングを図ることになる。この時期の長雨が
もっとも怖い。とうもろこしが倒れると大型のコンバインでは上手く収穫できない。また収穫する段階では水分が
18%以下であることが望ましい。雨が続くと穀粒の乾燥も遅れることになり、水分が高いまま収穫すると高温の乾
燥機にかけたり、保管中の品質の劣化が進むことになり、問題になりやすい。
11
第 2 項 とうもろこしの需給
1.
世界のとうもろこし需給動向
(1) 生産量
とうもろこし生産量は、とうもろこしの飼料需要及び産業用需要の拡大に牽引する形で増加している。
世界のとうもろこし生産量(2013/14 年度)は 9 億 9,142 万トンであり、この約 20 年間で約 1.77 倍に増加し
ている。
世界最大の生産国は米国(3 億 5,127 万トン、世界シェア 35%)、第 2 位中国(2 億 1,849 万トン、同
22%)、第 3 位ブラジル(8,000 万トン、同 8%)、第 4 位EU(6,463 万トン、同 7%)、第 5 位ウクライナ
(3,090 万トン、同 3%)であり、上位 5 カ国で世界生産量の約 75%を占めている。
従前、米国のシェアは不作年を除くと 40%を超えていたが、近年は中国、ブラジル、ウクライナなどの生産拡大により
30%台にまでシェアを落としている。特に、大干ばつに見舞われた 2012/13 年度は、生産量が 2 億 7,383 万トン
(同 32%)と大きく落ち込んだ。
表 1 世界とうもろこし生産量推移
単位:1,000 トン
国名
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
世界合計
824,849
835,536
889,773
870,305
991,416
1,008,676
972,602
米国
331,921
315,618
312,789
273,192
351,272
361,091
344,311
中国
163,974
177,245
192,780
205,614
218,490
215,670
225,000
ブラジル
56,100
57,400
73,000
81,500
80,000
85,000
80,000
EU
59,151
58,272
68,123
58,896
64,630
75,730
57,996
ウクライナ
10,486
11,919
22,838
20,922
30,900
28,450
25,000
アルゼンチン
25,000
25,200
21,000
27,000
26,000
26,500
24,000
メキシコ
20,374
21,058
18,726
21,591
22,880
25,000
23,500
157,843
168,824
180,517
181,590
197,244
191,235
192,795
その他
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(2) 消費量
とうもろこしの消費は、「飼料需要」と「食料・種子・産業用需要」に大別できる。これまでは、食肉需要の増加に伴う
飼料需要に牽引されて消費量は増加してきたが、近年では、米国を中心にエタノール原料としての産業用需要拡大も
相俟って増加している。
世界のとうもろこし消費量(2013/14 年度、輸出量・輸入量乖離修正後)は 9 億 5,346 万トンであり、この約 20
年間で約 1.76 倍に増加している。
世界最大の消費国は米国(2億 9,297 万トン、世界シェア 31%)、第 2 位中国(2 億 1,200 万トン、同
22%)、第 3 位EU(7,650 万トン、同 8%)、第 4 位ブラジル(5,500 万トン、同 6%)、第 5 位メキシコ
(3,170 万トン、同 3%)となっているが、特に中国の増加が著しい。
12
表 2 世界とうもろこし消費量推移
単位:1,000 トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
国名
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
世界合計
826,344
852,254
884,051
865,187
953,456
988,531
980,794
(内飼料用)
(490,776)
(502,350)
(506,757)
(518,653)
(574,343)
(599,676)
(602,486)
米国
280,987
284,549
277,961
262,973
292,965
301,851
302,401
中国
165,000
180,000
188,000
200,000
212,000
217,000
219,000
EU
61,300
64,900
69,500
69,600
76,500
78,500
76,500
ブラジル
47,000
49,500
50,500
52,500
55,000
57,000
59,000
メキシコ
30,200
29,500
29,000
27,000
31,700
34,250
34,000
インド
15,100
18,100
17,200
17,500
19,600
22,000
22,300
日本
16,300
15,700
14,900
14,500
15,100
14,700
14,800
225,762
243,427
251,410
その他
203,678
211,300
220,245
254,178
注:「世界合計」は、世界飼料需要+世界食料・種子・産業用需要+輸出入量差分で算出
「その他」は世界飼料需要と世界食料・種子・産業用需要の合計を基準に算出
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(参考) 世界食肉生産量(牛肉、豚肉、鶏肉、上位 5 カ国)
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(3) 輸出量
世界のとうもろこし輸出量(2013/14 年度)は 1 億3,110 万トンと、この約 20 年間で約 2.0 倍に増加している。
世界最大の輸出国は米国(4,878 万トン、同 37%)、第 2 位ブラジル(2,097 万トン、同 16%)、第 3 位ウ
クライナ(2,000 万トン、世界シェア 15%)、第 4 位アルゼンチン(1,710 万トン、同 13%)となっており、上位 4 カ
13
国で 82%のシェアを有する極めて寡占的な構造となっている。
世界最大の輸出国である米国は、従前、とうもろこしの輸出市場では 80%超のシェアを有する圧倒的な存在であっ
たが、米国の輸出量の停滞・減少とブラジル、アルゼンチン、ウクライナ等の他の生産国の輸出量増加により、その地位が
低下している。特に、大干ばつに見舞われた 2012/13 年度は輸出量が 1,855 万トン(同 19%)と大幅に減少し、
これまで維持してきた首位の座を一時的にブラジルに明け渡して 3 位まで後退した。
表3 世界とうもろこし輸出量推移
単位:1,000 トン
国名
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
世界合計
96,644
91,290
116,899
95,124
131,100
133,040
121,927
米国
50,270
46,508
39,096
18,545
48,783
47,359
46,992
ブラジル
11,599
8,404
24,337
24,948
20,967
29,000
25,000
5,072
5,008
15,157
12,726
20,004
19,800
17,000
16,504
16,349
17,149
18,691
17,102
17,000
14,500
ロシア
427
37
2,027
1,917
4,192
2,900
4,000
インド
1,939
3,526
4,569
4,691
3,871
1,100
2,000
EU
1,569
1,096
3,287
2,193
2,401
4,000
1,000
その他
9,264
10,362
11,277
11,413
13,780
11,881
11,435
ウクライナ
アルゼンチン
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(4) 輸入量
世界のとうもろこし輸入量(2013/14 年度)は 1 億 2,394 万トンと、この約 20 年間で約 1.8 倍に増加している。
世界最大の輸入国(地域)は EU(1,592 万トン、世界シェア 13%)、第 2 位日本(1,512 トン、同 12%)、
第 3 位メキシコ(1,095 万トン、同 9%)、第 4 位韓国(1,041 万トン、同 8%)となっている。なお、日本は国とし
ては依然として世界最大のとうもろこし輸入国である。
表 4 世界とうもろこし輸入量推移
単位:1,000 トン
国名
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
89,865
92,585
100,154
99,772
123,936
121,220
123,312
2,758
7,385
6,113
11,362
15,919
8,600
16,000
15,971
15,648
14,892
14,412
15,121
14,700
14,800
メキシコ
8,298
8,252
11,172
5,676
10,954
11,000
10,500
韓国
8,461
8,107
7,636
8,174
10,406
10,000
10,000
エジプト
5,832
5,803
7,154
5,059
8,726
7,500
8,000
イラン
4,300
3,500
4,000
3,700
5,500
6,000
4,000
44,245
43,890
49,187
51,389
57,310
63,420
60,012
世界合計
EU
日本
その他
14
(出所)USDA, FAS, PSD Online
注目すべきは中国であり、畜産需要の増加により消費量も増加しているため、生産量で不足する場合は、その分を
埋める形で輸入することとなり、今後の動向が注目される。
2.
米国産とうもろこし需給動向
USDA が提供している米国産とうもろこしに関する統計情報は、重量の単位がブッシェル(bu)、面積の単位がエー
カー(acre)で提供されていることに注意する必要がある。
米国産とうもろこしの単位
重量: 1 ブッシェル(bu) = 25.4012kg、1t=39.367bu
表面積:
4 USDA
World Agricultural
Supply and Demand Estimates Report
1 エーカー(acre)
= 0.4047ha
表5
米国産とうもろこし需給
Corn
とうもろこし
2011/12
2012/13
2013/14
2014/15
2015/16
(見通し)
(予測)
Million Acres(単位:百万エーカー)
Area Planted
作付面積
91.9
97.2
95.4
90.6
88.4
Area Harvested
収穫面積
84
87.4
87.5
83.1
80.7
Bushels (単位:ブッシェル)
Yield per Harvested Acre
単収 bu/acre
147.2
123.4
158.1
171
168
Million Bushels (百万ブッシェル)
Beginning Stocks
期初在庫
Production
Imports
Supply, Total
1,128
989
821
1,232
1,731
生産量
12,360
10,780
13,829
14,216
13,555
輸入量
29
160
36
32
30
13,517
11,929
14,686
15,479
15,316
供給 計
Feed and Residual
飼料・その他
4,557
4,325
5,040
5,317
5,275
Food, Seed & Industrial
食品・種子・産業用
6,428
6,053
6,493
6,566
6,630
内 エタノール、副産物
5,000
4,648
5,124
5,207
5,250
10,985
10,378
11,534
11,883
11,905
1,543
730
1,920
1,864
1,850
12,528
11,108
13,454
13,748
13,755
989
821
1,232
1,731
1,561
Ethanol & by-products
Domestic, Total
国内消費合計
Exports
輸出量
Use, Total
Ending Stocks
需要量 計
期末在庫
(出所)USDA, OCE, WASDE(2015 年 10 月)より作成
(1) 供給
① 作付面積・収穫面積
米国産とうもろこしの作付面積は、1932/33 年度の 1 億 1,302 万エーカー(4,574 万 ha)をピークに 1960 年
代まで減少傾向にあり、その後増加に転じ、2012/13 年度は 9,716 万エーカー(3,932 万 ha)まで拡大したが、
15
2013/14 年度以降は、競合作物である大豆に生産がシフトしたこともあり、再び減少傾向にある。収穫面積は干ばつ
や早霜等で減少することもあるが、それ以外にも、毎年 700 万エーカー程度はサイレージ目的に供されるため、収穫率
は 85%から 92%程度にとどまっている。
図 11:米国産とうもろこし作付面積・収穫面積
(出所)USDA, ERS, Feed Grain Yearbook Tables
② 生産量・単収
米国産とうもろこしの生産量は、一貫して増加傾向にある。2012/13 年度は 1930 年代以来最悪といわれる大干
ばつの影響で 107 億5,511 万ブッシェル(2 億 7,319 万トン)となったが、2014/15 年度には 142 億 1,553 万
bu(3 億 6,109 万トン)を記録し史上最高を更新した。
作付面積が 1926/27 年度と同水準でありながら、生産量が 6 倍に増加した理由は単収の飛躍的な向上にある。
単収は 1926/27 年度に 25.7bu/エーカー(1.61 トン/ha)であったが、2014/15 年度には 170.9bu/エーカー
(10.73 トン/ha)に増加しており、干ばつの影響で大幅に減少した 2012/13 年度でも 123.1bu/エーカー(7.73
トン/ha)を維持している。この要因としては、化学肥料や農薬の開発・使用、農業経営における機械化の進展による
収穫・保管・流通の各段階でのロスの減少、そして遺伝子組換え品種を中心とする種子の改良が挙げられる。
③ 生産地域・州別生産量
米国産とうもろこしの主要産地は、中西部の「コーンベルト」と呼ばれる地域である。コーンベルトとは、USDA の経済調
査局の定める生産地域分類では、イリノイ州、インディアナ州、アイオワ州、ミズーリ州、オハイオ州とされている。ただし、
一般的には、同局が五大湖地域(レイクステイツ)に分類しているミシガン州、ミネソタ州、ウィスコンシン州の一部、北
大平原地域(ノーザンプレイン)に分類しているカンザス州、ネブラスカ州、サウスダコタ州、ノースダコタ州などを含むとさ
れることが多い、
2013 年の州別生産量は、アイオワ州、イリノイ州、ネブラスカ州、ミネソタ州、インディアナ州の順となっており、この 5 州
で全米生産量の約 59%を占めている。
16
表 6 全米及び州別生産量(主要州)
単位:1,000bu
2009
2010
2011
2012
2013
2014
13,091,862
12,446,865
12,359,612
10,780,296
13,828,964
14,215,532
アイオワ州
2,420,600
2,153,250
2,356,400
1,876,900
2,140,200
2,367,400
イリノイ州
2,053,200
1,946,800
1,946,800
1,286,250
2,100,400
2,350,000
ネブラスカ州
1,575,300
1,469,100
1,536,000
1,292,200
1,613,950
1,602,050
ミネソタ州
1,244,100
1,292,100
1,201,200
1,374,450
1,294,260
1,177,800
インディアナ州
933,660
898,040
839,500
596,970
1,031,910
1,084,760
サウスダコタ州
706,680
569,700
653,400
535,300
802,820
787,360
オハイオ州
546,360
533,010
508,760
448,950
649,020
610,720
カンザス州
598,300
581,250
449,400
379,200
504,000
566,200
ウィスコンシン州
448,290
502,200
517,920
399,300
439,350
485,160
ミズーリ州
446,760
369,000
349,980
247,500
435,200
628,680
ノースダコタ州
200,100
248,160
216,300
422,120
396,000
313,720
ミシガン州
309,320
315,000
335,070
317,870
345,650
355,810
テキサス州
254,800
301,600
136,710
201,500
265,200
294,520
ケンタッキー州
189,750
152,520
180,700
104,040
243,100
225,940
アーカンソー州
60,680
57,000
73,840
123,710
161,820
99,110
全米
(出所)USDA, NASS, Crop Production Annual Summary
図 12 米国産とうもろこし生産地域
(出所)USDA, OCE, Major World Crop Areas and Climate Profiles
17
(2) 需要
USDA は、「合計需要(use total)」を「国内消費(Domestic, Total)」と「輸出(Exports)」の 2 項目に大
別し、さらに「国内消費」を、「飼料・その他(Feed and Residual)」と「食品・種子・工業用(Food, Seed &
Industrial)」の 2 分類、さらに 2003/04 年度から「食品・種子・工業用」の内訳項目として、「エタノール及び副産物
(Ethanol & by-products)」を設けてデータを提供している(参照:表 4)
米国産とうもろこしの合計需要は、右肩上がりで増加し、2013/14 年度には 135 億 bu(3 億 3,189 万トン)
を記録したが、大干ばつに見舞われた 2012/13 年度は需要量も 99 億 bu(2 億 5,147 万トン)に落ち込んだ。
2013/14 年度は需要量が再び回復し、2014/15 年度には史上最高の需要量を記録すると予測されている。
増加する需要の牽引役は、従来は「飼料・その他」需要と「輸出」需要であったが、2000 年代半ば以降、エタノールを
中心とする「食品・種子・工業用」需要に移行している。
図 13 米国産とうもろこしの需要推移
(出所)USDA, ERS, Feed Grains Database
① 飼料・その他
米国は、牛肉及び鶏肉生産では世界第一位、豚肉では世界第二位の畜産大国であり、畜産物の餌としての「飼
料・その他」需要は国内消費量の 50%以上のシェアを占める最大の需要用途であった。しかし、2006/07 年にシェア
が 50%を割り込み、2009/10 年には「食品・種子・工業用」に抜かれ、さらに 2010/11 年には「食品・種子・工業
用」の内訳項目である「エタノール及び副産物」に抜かれている。
需要量も、2004/05 年度の 61 億 3,500 万 bu(1 億 5,584 万トン)をピークとして、2012/13 年度は大干ば
つの影響もあり 43 億 1,502 万ブッシェル(1 億 961 万トン)へと減少している。食肉生産量が安定しているにもかか
わらずとうもろこしの飼料需要が減少している要因として、エタノール生産の副産物である DDGS がとうもろこしの飼料需
要の一部を代替したことや、とうもろこしの高値を嫌気して飼料用小麦に需要がシフトしたことなどが挙げられる。
18
② 食品・種子・工業用(含む「エタノール及び副産物」)
「食品・種子・工業用(含む「エタノール及び副産物」)」需要は、「飼料・その他」需要を抜きシェア 50%を超える最
大の需要用途となっている。
需要量は右肩上がりで増加しており、1980/81 年の約 6 億 5,900 万 bu(約 1,675 万トン)から 2012/13 年
には約 64 億 9,350 万 bu(約 1 億 6,494 万トン)と約 30 年間で約 10 倍の規模に拡大している。
USDA は、「食品・種子・工業用」の内訳を、「異性化糖」、「ブドウ糖」、「スターチ」、「燃料用アルコール(エタノー
ル)」、「飲料用・工業用アルコール」、「シリアルその他」、「種子」に 7 分類して、それぞれの使用量を公表している。これ
によれば、1980 年代は「異性化糖」の使用量が急増して最大の使用用途であったが、1990 年代以降はエタノール向
け使用量が急拡大して現在では「食品・種子・工業用」の約 77%のシェアを占めている。2013/14 年は約 51 億 bu
(約 1 億 3,015 万トン)のとうもろこしがエタノールの原料として用いられている。
図 14 米国産とうもろこしの「食品・種子・工業」用需要
(出所)USDA, ERS, Feed Grain Yearbook Tables
③ 輸出
米国産とうもろこしの輸出量は、1970 年代以降、旧ソ連の穀物大量輸入などもあって急増し、1980/81 年度には
2 億 3,911 万 bu(6,073 万トン、世界シェア 76%)を記録するなど、世界とうもろこし輸出市場で圧倒的な地位を
占めていた。2007/08 年度には 2 億 4,374 万 bu(6,191 万トン)と史上最大の輸出量を記録するものの、南米
のブラジルやアルゼンチン、東欧のウクライナなど競合国の輸出増加もあり、世界シェアは 63%にとどまった。これ以降、世
界シェアは減少を続け、2011/12 年度には 50%を割り込んでいる。2012/13 年は大干ばつによる減産と史上最高
値($8.4375/bu)の影響で輸出量が前年比半分以下の 7 億 3,000 万 bu(1,855 万トン、世界シェア 20%)
となり、長く君臨してきた世界最大の輸出国の座を一時的にブラジルに奪われた。2013/14 年度は再び米国が世界最
大のとうもろこし輸出国に返り咲いたが、世界シェアの低下傾向は今後も継続するものと思われる。
19
米国産とうもろこしの最大の輸出相手国は全体の 24%を占める日本である。他にも、メキシコ、韓国、コロンビア、中
国、エジプト、台湾などが主な仕向け先となっている。
図 15 米国産とうもろこしの輸出量と世界シェア
(出所)USDA, FAS, PSD Online
図 16 米国産とうもろこし仕向地別輸出量及びシェア
(出所) USDA, ERS, Feed Outlook: October 2015
20
(3) 期末在庫
米国産とうもろこしの需給のミスマッチは期末在庫に反映される。期末在庫量は豊作で積み上がり、凶作で取り崩され
ることから変動が大きい。1980/81 年度以降、最高は 1986/87 年度の 48 億 8,169 万 bu(1 億 2,400 万トン、
期末在庫率 66%)、最低は 1995/96 年度の 4 億 2,594 万 bu(1,082 万トン、同 5.0%)となっている。大干
ばつに見舞われた 2012/13 年度も 8 億 2,120 万 bu(2,086 万トン、同 7.4%)と低水準になった。その後、豊
作が続いたことにより期末在庫は増加しており、2014/15 年度は 15 億 6123 万 bu(3,966 万トン、同 13%)と
2012/13 年比で倍増が予想されている。
期末在庫率(Stock to use ratio)は期末在庫量を合計需要で除したものであり、期末(8 月末)の在庫が年
間需要の何%をカバーできるか表す指標である。例えば、期末在庫率が 10%とすると、8 月末の在庫は 36.5 日の需
要を賄う計算になる。米国産とうもろこしの期末在庫率の適正水準は 15%から 20%であり、15%を下回ると逼迫状
況と考えられる。
図 17 米国産とうもろこしの期末在庫と期末在庫率
(出所)USDA, FAS, PSD Online
3.
主要生産国のとうもろこし需給動向
(1)
中国
中国は世界第 2 位のとうもろこし生産国であり、2013/14 年度の生産量は 2 億 1,849 万トンである。とうもろこし
増産の背景には、価格面で競合作物である大豆や綿花よりも優位であることや、国内の畜産需要の拡大に伴い飼料
需要が急増していることが挙げられる。主な生産地域は東北部の黒龍江省、吉林省、遼寧省であり、この 3 省で 40%
弱を占めている。その他、北部の河北省、山東省、山西省、河南省などでも多く生産されており、この東北 3 省に北部
4 省を加えた 7 省で約 70%を占める。作付けは 4 月から 5 月にかけて行われ、10 月から 11 月にかけて収穫される。
21
表 7 中国におけるとうもろこしの需給動向
単位:千 ha、千トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
31,180
32,500
33,540
35,030
36,318
37,070
37,850
5.26
5.45
5.75
5.87
6.02
5.82
5.94
51,183
51,302
49,415
59,335
67,570
77,315
81,660
生産量
163,974
177,245
192,780
205,614
218,490
215,670
225,000
輸入量
1,296
979
5,231
2,702
3,277
5,700
3,000
供給 計
216,453
229,526
247,426
267,651
289,337
298,685
309,660
飼料・その他
118,000
128,000
131,000
144,000
154,000
157,000
157,000
47,000
52,000
57,000
56,000
58,000
60,000
62,000
165,000
180,000
188,000
200,000
212,000
217,000
219,000
151
111
91
81
22
25
50
165,151
180,111
188,091
200,081
212,022
217,025
219,050
51,302
49,415
59,335
67,570
77,315
81,660
90,610
31%
27%
32%
34%
36%
38%
41%
収穫面積
単収(MT/ha)
期初在庫
食品・種子・産業用
国内消費 合計
輸出量
需要量 計
期末在庫
期末在庫率
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(2)
ブラジル
ブラジルは世界第 3 位のとうもろこし生産国であり、2013/14 年度の生産量は 8,000 万トンである。以前は国内需
要を満たすための生産であったが、高単収のハイブリッド種子の導入などにより生産量が増加して輸出余力が増し、現在
では米国に次ぐ世界第 2 位のとうもろこし輸出国になっている。ブラジルは、とうもろこしを年 2 回収穫することが可能であ
り、ファーストクロップの作付けは 10 月から 11 月にかけて行われ、翌年の 3 月から 4 月にかけて収穫される(ただし、ブ
ラジル北部では 12 月から 1 月にかけて作付けされて 5 月から 6 月に収穫される)。一方、セカンドクロップは 2 月に作
付けが行われ、6 月から 7 月にかけて収穫される。主な生産地域は、パラナ州、マト・グロッソ州、ミナスジェライス州、リオ
グランドスル州などであり、この 4 州で約 60%を占めている。
22
表 8 ブラジルにおけるとうもろこしの需給動向
単位:千 ha、千トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
12,925
13,800
15,200
15,800
15,800
15,750
15,500
4.34
4.16
4.8
5.16
5.06
5.4
5.16
期初在庫
12,086
9,991
10,278
9,212
14,150
18,972
18,572
生産量
56,100
57,400
73,000
81,500
80,000
85,000
80,000
輸入量
404
791
771
886
789
600
600
供給 計
68,590
68,182
84,049
91,598
94,939
104,572
99,172
飼料・その他
40,000
42,500
43,000
44,500
46,000
48,000
50,000
7,000
7,000
7,500
8,000
9,000
9,000
9,000
国内消費 合計
47,000
49,500
50,500
52,500
55,000
57,000
59,000
輸出量
11,599
8,404
24,337
24,948
20,967
29,000
25,000
需要量 計
58,599
57,904
74,837
77,448
75,967
86,000
84,000
9,991
10,278
9,212
14,150
18,972
18,572
15,172
17%
18%
12%
18%
25%
22%
18%
収穫面積
単収(MT/ha)
食品・種子・産業用
期末在庫
期末在庫率
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(3)
ウクライナ
ウクライナは、EU を除く単一国としては実質的に世界第 4 位のとうもろこし生産国であり、2013/14 年度のとうもろこ
し生産量は 3,090 万トンと、順調に生産量を拡大しており、この背景には、収穫面積が大きく増加したことが挙げられ
る。
国内消費量も増加しているが、生産量の増加に追い付いておらず、余剰分が輸出に振り向けられている。2013/14
年の輸出量は 2,000 万トンを超え、主な仕向け地は中国やエジプトである。
中国は 2012 年にウクライナに 30 億ドルの信用供与をしたが、その際、その返済をとうもろこしの現物で受けることで合
意している。
主な生産地域はドニプロペトロウシク州、チェルニウツィー州、ボルタバ州、チェルカースィ州、オデッサ州などである。作付
けは 4 月頃行われ、10 月頃収穫される。
23
表 9 ウクライナにおけるとうもろこし需給動向
単位:千 ha、千トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
2,089
2,648
3,544
4,370
4,825
4,625
4,000
5.02
4.5
6.44
4.79
6.4
6.15
6.25
937
672
1,121
1,051
1,191
2,453
1,753
生産量
10,486
11,919
22,838
20,922
30,900
28,450
25,000
輸入量
21
38
49
44
66
50
50
11,444
12,629
24,008
22,017
32,157
30,953
26,803
5,000
5,400
6,500
6,800
8,300
8,000
7,000
700
1,100
1,300
1,300
1,400
1,400
1,400
国内消費 合計
5,700
6,500
7,800
8,100
9,700
9,400
8,400
輸出量
5,072
5,008
15,157
12,726
20,004
19,800
17,000
10,772
11,508
22,957
20,826
29,704
29,200
25,400
期末在庫
672
1,121
1,051
1,191
2,453
1,753
1,403
期末在庫率
6%
10%
5%
6%
8%
6%
6%
収穫面積
単収(MT/ha)
期初在庫
供給 計
飼料・その他
食品・種子・産業用
需要量 計
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(4)
アルゼンチン
アルゼンチンは、EU を除く単一国としては実質的に世界第 5 位のとうもろこし生産国であり、2013/14 年度の生産量
は 2,600 万トンである。国内消費量が少なく、生産量の約 66%が輸出されている。主な生産地域はコルドバ州、ブエ
ノスアイレス州、サンタフェ州であり、この 3 州で 80%を超えている。作付けは 9 月から 11 月にかけて行われ、3 月から
5 月にかけて収穫される。
24
表 10 アルゼンチンにおけるとうもろこしの需給動向
単位:千 ha、千トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
3,000
3,750
3,600
4,000
3,400
3,200
3,000
8.33
6.72
5.83
6.75
7.65
8.28
8
880
2,480
4,038
896
1,308
1,408
1,513
生産量
25,000
25,200
21,000
27,000
26,000
26,500
24,000
輸入量
4
7
7
3
2
5
5
25,884
27,687
25,045
27,899
27,310
27,913
25,518
飼料・その他
5,000
5,300
4,800
5,300
5,800
6,100
6,500
食品・種子・産業用
1,900
2,000
2,200
2,600
3,000
3,300
3,500
国内消費 合計
6,900
7,300
7,000
7,900
8,800
9,400
10,000
輸出量
16,504
16,349
17,149
18,691
17,102
17,000
14,500
需要量 計
23,404
23,649
24,149
26,591
25,902
26,400
24,500
2,480
4,038
896
1,308
1,408
1,513
1,018
11%
17%
4%
5%
5%
6%
4%
収穫面積
単収(MT/ha)
期初在庫
供給 計
期末在庫
期末在庫率
(出所)USDA, FAS, PSD Online
4.
日本のとうもろこし需給動向
(1)
供給
日本はとうもろこしのほぼ 100%を外国からの輸入に依存している。年間輸入量は、従来約 1,600 万トン超(内
訳:飼料用 1,200 万トン弱、コーンスターチ用約 330 万トン、その他食品用・工業用 130 万トン)といわれてきた
が、2011 年度以降、飼料用輸入が 1,100 万トンを割り込んだこともあり、2014 年度は約 1,473 万トンまで減少し
ている。国別シェアについて、従来は米国産のシェアが 90%を超えていたが、特に 2012 年度及び 2013 年度は米国
産が大干ばつによる大減産の影響で高値で推移したこともあり、価格的に優位なブラジル、アルゼンチン、ウクライナなど
からの輸入が増加して、2013 年度には 50%にまで減少した。2014 年度は米国産が安値で推移したこともあり、再
び米国産のシェアが増加している。
とうもろこしは「関税割当品目」である。国産いもでん粉の保護を目的として、一定の関税割当数量(枠内)に限り
無税又は低い一次税率を適用し、この数量を超える分(枠外)には高い二次税率が適用されている。コーンスターチ、
コーンフレーク、エチルアルコール、蒸留酒などの製造に使用するとうもろこしの枠内税率は無税であるが、枠外税率は
「50%又は 12 円/kg のうちいずれか高い税率」とされている。
飼料用とうもろこしについては、飼料の低廉かつ安定的供給を図るために、関税定率法第 13 条にもとづき、税関長
の承認を受けた配合飼料工場(承認工場)において一定の規格を満たす配合飼料に使用されるものについては無
税で輸入することができる。 畜産農家の自家配合飼料用途で用いる単体丸粒とうもろこしも、関税割当制度の割当
てを受けた者は割当分について無税で輸入することができる。
25
表 11 日本におけるとうもろこし輸入量
単位:万トン
2009 年度
2010 年度
2011 年度
2012 年度
2013 年度
2014 年度
1,621
1,605
1,531
1,473
1,464
1,473
1,159
1,113
1,085
1,028
1,021
996
スターチ用
310
328
329
310
312
315
その他工業用等
152
164
117
135
131
162
1,522
1,444
1,365
923
737
1,274
ブラジル
38
51
75
373
317
133
アルゼンチン
21
87
44
65
180
8
ウクライナ
33
12
29
78
134
31
6
11
19
35
96
27
1,077
978
931
540
377
819
ブラジル
35
47
67
324
285
125
アルゼンチン
14
68
41
62
168
25
ウクライナ
29
11
28
74
125
7
4
9
17
28
66
20
輸入合計
飼料用
用途別
米国
国別
(全用途)
その他
米国
国別
(飼料用)
その他
(出所)財務省貿易統計
(2)
需要
① 飼料需要
とうもろこしは、飼料用に約 1,000 万トン(輸入量の約 70%)が用いられている。近年、日本の配合・混合飼料の
生産量は 2,300 万トン台で推移しており、主原料であるとうもろこしのシェアは約 45%である。とうもろこし使用量及び
使用比率はとうもろこし価格に左右され、とうもろこし価格が高値になると、代替原料として飼料用小麦や DDGS の使
用量が増加する。
② コーンスターチ用需要
とうもろこしは、コーンスターチ用に約 310 万トンから 330 万トン(輸入量の約 20%)が用いられている。コーンスター
チはとうもろこしから作られるでん粉であり、年間需要は約 250 万トンである。コーンスターチは、異性化液糖などの糖化
原料、ビールや水産練り製品などの食品用、段ボール・製紙・繊維などの工業用、医薬用などの用途で用いられている。
なお、ビール用等の食品用に用いられるコーンスターチの原料には非遺伝子組換えとうもろこしが使用されている。
26
第 3 項 とうもろこしの価格変動要因
図 18
とうもろこしの価格変動要因(概念図)
国内需給
為替
TOCOMとうもろこし価格
内部要因
海上運賃
CBOTとうもろこし価格
テクニカル要因・その他
需給要因
世界需給
・ファンドの動向
米国需給
・チャート
期末在庫
供給
・生産量=収穫面積×単収
作付面積 天候
・輸入
需要
・飼料
・産業用(バイオ燃料)
エタノール
・輸出
1. シカゴのとうもろこし先物価格
とうもろこしの国際的な指標価格はシカゴの CME グループに属するシカゴ商品取引所(CBOT)で形成されている。
したがって、シカゴのとうもろこし先物価格の動向は TOCOM のとうもろこし先物価格にも大きな影響を与えている。
CBOT のとうもろこし先物の限月構成は、3月限、5月限、7 月限、9 月限、12 月限となっており、12 月限が新穀
限月に位置づけられている。一方、TOCOM の限月構成は、1月限、3月限、5月限、7月限、9月限、11月限
であり、1月限が新穀限月に位置づけられている。
CBOT とうもろこし先物価格は、需給要因、天候要因、テクニカル要因などにより変動する。
2. 需給要因
農産物価格は、「需給に始まり需給に終わる」といわれるように、需給バランスが価格の基調を変化させている。
とうもろこしの需要は、人口増加、新興国等の畜産需要拡大、米国のエタノール需要拡大などの要因で増加基調に
ある。供給も、堅調な需要に牽引されて、生産地・生産面積の拡大や遺伝子組換え品種の導入による単収増加によ
って増産基調にある。ただし、需要は安定的な増加傾向にあるのに対して、供給サイドは天候に左右されて大きく変動
するので需給のミスマッチが発生する。需給のミスマッチは在庫の増減に反映され、在庫の増減はとうもろこし価格に直接
的な影響を与える。豊作による需給緩和と在庫増は売りを誘って値下がりし、不作による需給逼迫と在庫減は先高期
待から買いを誘って値上がりする。他方、価格の高騰は需要の抑制と生産者の供給意欲を促し、価格の下落は需要を
27
喚起して生産者の供給意欲を減退させる。このような「価格メカニズム」を通して需給バランスは調整される。
(1)米国の需給
米国は世界最大のとうもろこし生産国・輸出国であり、その動向はとうもろこしの国際需給と国際とうもろこし価格に大
きな影響を与えている。米国のとうもろこし価格は、供給主導の「天候相場」と需要(在庫)主導の「需給相場」に分
けられる。
①天候相場
「天候相場」は、4 月から 9 月までの 6 ヶ月間にわたる「供給主導の相場」である。前年に収穫されたとうもろこしの
在庫状況を踏まえ、その年の生産量を予測しながら将来の供給動向と価格を予想する。この期間は、天候の変化に
一喜一憂して、相場展開は荒くなりやすい。特に、前年が不作で期末在庫率が低下しているときほど、その傾向が強
い。
とうもろこし生産量は、「収穫面積×単収」で計算されるため、その年の生産量を予測するにあたって 2 つの材料に注
目する必要がある。
1)作付面積の動向
作付面積を左右するのは、作付け時の「とうもろこし価格」、「競合農産物との価格関係(とうもろこし・大豆比価
等)」、「天候」である。米国の農家は地力維持を目的とした輪作体系を前提としながらも、収益極大化のためにとう
もろこしを作付けしたがる傾向が強い。種子、肥料、農薬などの投入コストは高いが、単収が多いために、天候に恵ま
れれば生産量増と収入増が期待できるからである
米国中西部のコーンベルトでは、とうもろこしの作付けは 4 月下旬から開始されて 5 月中旬には概ね終了する。この
時期、遅霜や降雨によって作付けが遅れると、生産者は作付けが早いとうもろこしを諦めて大豆にシフトする傾向があ
るので、とうもろこしの作付面積は減少する。ただし、最近では農機具の大型化による作付け能力向上により、短期
間での作付け進捗が可能になったため、以前ほど作付け時の天候は重要視されなくなっている。
USDA は、とうもろこしの作付けに関する情報として、3 月末から 6 月末にかけて「作付意向面積(3 月末)」、「作
付進捗状況」、「確定作付面積(6 月末)」を公表している。
2)単収を左右する作柄確定までの天候の動向
とうもろこしの単収は、遺伝子組換え品種の導入等によって増加したが、依然として天候が与える影響は大きい。例
えば、大干ばつに見舞われた 2012 年の単収は前年の 147.2bu/エーカーから 123.4bu/エーカーへ激減している。
とうもろこしの単収増加・減少の条件は以下のとおりである。
単収増加の条件
単収減少の条件
①作付けが早期に終了すること。
①低温や長雨で作付けが遅れること。
②日照に恵まれて勢いよく草丈が伸び、葉が茂ること。
②日照不足で育ちが悪いこと。
③受粉期(7 月)に十分な降雨があること。
③受粉期(7 月)に雨が降らず高温になること。
④受粉後の成熟期に暖かい日が続くこと。
③ 粉後の成熟期に低温の被害を受けること。
USDA は、とうもろこしの生育ステージごとの情報として、4 月から 11 月末にかけて「生育状況」を公表している。
28
②需給相場
「需給相場」は、とうもろこしや大豆の収穫がピークを迎える 10 月半ばから 4 月の新穀の作付け期までの 6 ヶ月間に
わたる「在庫主導の相場」である。収穫が完了して生産量が固まるので、この時期は、収穫された新穀が 4 月までにど
れだけ「消費」、「輸出」され、その結果「在庫水準」がどのように変動するかが相場展開のポイントとなる。
1)飼料需要
飼料需要には、配合飼料用と畜産農家の自家消費用があるために正確に把握することは難しい。そのため、家畜
の飼養頭数や食肉生産量などから推測することになる。これらの統計情報については、USDA が「肥育牛頭数
(Cattle on Feed、毎月)」、「豚頭数(Hogs and Pigs、3 月、6 月、9 月、12 月)」、「家禽食肉処理数
(Poultry Slaughter、毎月)」を公表している。ただし、とうもろこし価格が高いと、飼料用小麦や DDGS に需要
が置き換わる可能性があることに留意する必要がある。
2)エタノール需要
米国のエタノール政策導入は、世界のとうもろこし市場を構造的に変化させたといわれている。
米国は、安全保障上の観点から、エネルギー自給化政策を推進する目的で「2005 年エネルギー政策法(Energy
policy act of 2005)」を成立させた。これにより、バイオエタノールやバイオディーゼルなどの再生可能燃料の使用を義
務付ける「再生可能燃料基準(RFS)」が設定され、アメリカ国内で販売されるガソリンに含まれるバイオ燃料の使用
量を 2006 年の 40 億ガロン(1,514 万 Kℓ)から 2012 年までに年間 75 億ガロン(2,839 万 Kℓ)まで拡大す
る こ と が 義 務 化 さ れ た 。 そ の 後 、 2007 年 に 成 立 し た 「 2007 年 エ ネ ル ギ ー 自 立 ・ 安 全 保 障 法 ( Energy
Independence and Security Act of 2007)」では、バイオ燃料の使用量を 2015 年には 205 億ガロン(内、
とうもろこしを原料とするエタノールなどの伝統的バイオ燃料は 150 億ガロン)まで拡大することが定められた。
エタノール生産量は、原油価格の高騰もあって順調に拡大しており、2013/14 年には約 141 億ガロン、とうもろこし使
用量も 51 億 bu に達している。
米国のとうもろこし生産量に占めるエタノール需要は、2006 年に輸出需要、2010 年には飼料需要を上回り、現在
では 40%を超える最大の需要用途となっている。2011 年末の税控除廃止後も、原油価格が 60 ドル以上であれば採
算が取れるとの試算もあり、今後のエタノール生産動向が注目される。
エタノール需要拡大に伴い、2007 年以降、とうもろこし価格は高い状態が続いている。エタノール需要の増加は、とう
もろこし価格の下支えになるため、とうもろこし価格を占う上で、米国のエタノール生産量及びとうもろこし使用量を把握
する必要がある。これらの情報は USDA のホームページで確認することが出来る。
(http://www.ers.usda.gov/data-products/us-bioenergy-statistics.aspx)
エタノールの増産の結果、副産物である DDGS の生産量も増加している。Agricultural Marketing Resource
Center の試算によれば、DDGS の生産量は 2009/10 年の 3,883 万トン(とうもろこし換算 10 億 5,100 万ブッ
シェル)から 2012/13 年には 3,951 万トン(同 10 億 8,900 万ブッシェル)に増加しており、その分、とうもろこしの
飼料需要及び輸出用需要が侵食されていることにも留意する必要がある。
3)輸出需要
米国は世界最大のとうもろこし輸出国である。輸出需要は需要項目の大きな構成要素として、長期の動向とそれに
よる米国内在庫の変化という点で注目されている。前年比で見た輸出量の増減や、中国等の大口輸出成約のニュ
ースに価格が反応することもあるので、USDA が公表している「週間輸出検証高」や「週間輸出成約高」を確認する
29
必要がある。
4)在庫動向
全体的なとうもろこし在庫の推移は、USDA が四半期ごとに公表している「全米穀物在庫」で確認できる。8 月末の
期末在庫については、USDA が毎月公表している「世界農産物需給予測」で見通しを確認することができる。
期末在庫を消費量で除した「期末在庫率(Stock to use ratio)」は重要な判断材料であり、とうもろこしは 15%
から 20%が適正水準で、15%を下回ると逼迫状況にあるといわれている。
(2)新興国の需給
世界第 2 位のとうもろこし生産国・消費国である中国の需給動向に注目する必要がある。中国は、とうもろこしの自
給政策を掲げており、国内でも増産を図っているが、旺盛な畜産需要に追いつかず、輸入量が増加している。WTO
協定に基づき、中国が低関税率で輸入できる関税割当枠は 720 万トンであるが、国内価格が輸入価格より高い状
況が続くと、輸入量がこの枠を超える可能性がある。一方、中国で「鳥インフルエンザ」や「口蹄疫」が発生すると、とう
もろこしの飼料需要が減少するので価格下落材料になる。
国際とうもろこし市場における米国の輸出シェアは、近年、南米のブラジルとアルゼンチン、東欧のウクライナが輸出拡
大を受けて低下している。競合国の出現が米国産とうもろこしの輸出量と価格にどのような影響を及ぼすか注目され
る。
(3)日本の需給
日本の配合・混合飼料生産量は安定して推移しているが、とうもろこし使用量は減少傾向にある。とうもろこし価格
が値上がりすると、代替原料である小麦や DDGS に置き換わる傾向にある。
米国産とうもろこしは極めて汎用性が高く、使い勝手が良いとしてユーザーから好まれている。しかし、2012 年の大
干ばつによる価格高騰のようなことが起こると、価格的に優位なブラジル産、アルゼンチン産、ウクライナ産にシェアを奪
われる。
3. 天候要因
とうもろこしは天候に極めてセンシティブな農産物である。生産量を左右する重要な生育ステージである「受粉期」が
約 1 週間と限られており、この間、干ばつに見舞われると深刻なダメージを受ける。とうもろこしの生育を占う上で重要
なポイントは以下のとおり。
① 播種の遅れ
米国では、最も重要な生育ステージである「受粉期」が高温乾燥の 8 月に当たらないよう、また 9 月初旬に発生
することがある早霜に見舞われても被害を軽微に食い止めるよう、播種作業を 5 月 20 日までに終了させることが
望ましいとされている。低温や降雨などで、この日までに作付けが終了しないと、1 日あたり 1bu の割合で潜在単
収能力が低下すると言われている。好天に恵まれて作付けが早く終了した年は豊作になることが多く、逆に低温や
降雨で作付けが遅れた年は不作になることが多い。
② 降水量
とうもろこしは、6 月から 8 月の 3 ヶ月で 300 ミリメートルの降水量が必要といわれており、特に 7 月中旬の「受粉
期」の 1 週間とその前後 1 週間の計 3 週間は一生のうちで最も多くの水分を必要とする。この間は、1 日当たり
1/4 インチ(約 10 ミリメートル)の降水量があることが望ましい。
30
③ 積算温度(GDD)
積算温度(グローイング・ディグリー・デイ)は、気温と生育を関連付ける指標として用いられ、以下の数式から求
められる日々の GDD を累積したものである。とうもろこしが完熟に至るまでの生長に必要な積算温度は品種や場
所によって異なるが、コーンベルトで大体 2,500GDD から 3,000GDD 程度といわれている。
GDD 
Tmax  Tmin
 Tbase
2
Tmax : 最高気温(但し上限華氏86F)
Tmin : 最低気温(但し下限華氏50F)
Tbase : 華氏50F
5. 為替及びフレート
(1)輸入とうもろこし換算価格
(CBOT とうもろこし+C&F プレミアム)×ブッシェル/トン換算×為替×CIF 係数
上記は、日本が米国からとうもろこしを輸入する際の換算式であるが、2015 年 10 月 29 日時点のデータ(下記①~
⑤)を用いると以下のように計算できる。
① CBOT とうもろこし:$3.8/bu
② C&F プレミアム(FOB プレミアム+フレート):$1.46/bu(=$0.7+$0.76)
1.
FOB プレミアム:$0.7/bu
2.
フレート:$30/メトリックトン=$0.76/bu(=$30÷39.367bu)
③ ブッシェル/トン換算:39.367 (1bu=25.4kg)
④ 為替:121 円
⑤ CIF 係数(保険等):1.05
輸入換算価格:($3.8+$1.46)×39.367×121 円×1.05=26,318 円/トン
なお、上記の輸入とうもろこし換算式において、CBOT とうもろこし価格以外の諸条件が一定だとすると、CBOT とうも
ろこし価格の 10 セントの値上がりは、約 500 円/トンの値上がり要因になる。
(2)為替
とうもろこしの国際取引はドル建てで行われているため、ドル安になると米国産とうもろこしの価格競争力が増して米国
産とうもろこしに対する需要が強まり、ドル建てとうもろこし価格の上昇要因となる。
一方、とうもろこしを輸入する日本から見ると、ドル安(円高)は円建てとうもろこし価格の下落要因となる。TOCOM
のとうもろこし先物価格は円建てで取引されているため、他の条件に大きな変化がなければ、ドル安(円高)は価格下
落要因、ドル高(円安)は価格上昇要因になる。
なお、上記(1)の輸入とうもろこし換算式において、為替以外の諸条件が一定だと仮定すると、1 円の円安は約
218 円/トンの値上がり要因になる。
31
(3)フレート
日本は、輸入の多くを米国に依存している。米国から日本へはパナマックス型と呼ばれる 5 万 5000 トン級の本船とハ
ンディマックスと呼ばれる 4 万 8000 トン級の本船でとうもろこしが運ばれる。このフレート(運賃)が高くなると TOCOM
のとうもろこし先物価格にとって上昇要因となる。
なお、上記(1)の輸入とうもろこし換算式において、フレート以外の諸条件が一定だとすると、1 ドルのフレートの値上
がりは約 127 円/トンの値上がり要因になる。
6. 投資ファンドの動向
株式や債券等の伝統的投資資産と異なるリターンを生むオルタナティブ投資の運用先として商品先物市場にも投資
資金が配分されている。商品市場で運用するファンドには、商品投資顧問業者(CTA)、ヘッジファンド、商品インデッ
クスファンドなどがあり、とうもろこし先物市場にもこれらのファンド資金が流入している。
2006 年から 2008 年にかけてエネルギー価格や食糧価格が急上昇した際に注目を集めたのが商品インデックスファン
ドである。商品インデックスファンドは、債券や株式の価格変動とは独立してインフレ・リスクをヘッジできる運用資産として
運用規模を拡大し、2008 年には主要な農産物先物市場の建玉の 25%から 35%を占めたといわれている。商品イン
デックスファンドが参照する主要な商品インデックスと各商品インデックスにおけるとうもろこしの直近の組入れ比率は表 12
のとおりである
表 12 主要商品インデックスと CBOT とうもろこし組入れ比率
主要商品インデックス
とうもろこし組入れ比率
S&P GSCI Commodity Index
3.42%
Thomson Reuters/Jefferies CRB Index
6.0%
Dow Jones-UBS Commodity Index
7.1958200%
Rogers International Commodity Index
4.75%
商品インデックスファンドの運用リターンは、『スポットリターン(原資産である先物価格の価格変動から生じるリターン。
商品インデックスファンドは基本的に「買い」を行うので、価格が上がれば益、下がれば損になる)』、『ロールリターン(限
月をロールオーバーする際に、限月間の価格差から生じるリターン。順鞘は損、逆鞘は益)』、『T-Bill リターン(証拠金
として用いた資金以外の預託資金を米国債で運用することによって得られるリターン)』、の 3 つの源泉から構成される。
商品インデックスファンドは、投資金額が大きいことに加え、長期に亘って建玉を保有する傾向があり、とうもろこしの価格
形成において無視できない存在である。
CBOT のとうもろこし市場におけるこれらのファンドの動向は、CFTC の建玉明細報告(COT)で入手することができ
る。
32
第 2 節 大豆
第 1 項 大豆の商品特性
1. 大豆の歴史
(1)大豆の起源
大豆の起源は非常に古く、中国東北部からロシアのアムール川流域が原産地とされている。中国では 2600 年前の書
物に大豆が登場しており、諸説はあるものの、4000 年以上前から栽培が始まったといわれている。日本には、朝鮮半島
を経て、縄文時代には伝来したと考えられおり、古事記にも「五穀豊穣」の「五穀(稲・麦・粟・小豆、大豆)」の一つと
して記載されているなど、稲作と一緒になって田んぼの畦で栽培されてきた長い歴史がある。
大豆の欧米への伝播には日本が密接に関係しており、ヨーロッパ人にとっての大豆及び大豆食品の歴史は、フィレンツ
ェの商人で「世界周遊記」を書いたフランチェスコ・カルレッティが 1597 年に日本の長崎を訪れた際に「味噌」について記
述したのが記録に残っている限り最も古いといわれている。また 1613 年にはイギリス国王ジェームズ一世の使節として徳
川家康宛の書簡を携えて来日したイギリス東インド会社艦隊司令官ジョン・セーリスも日本の「豆腐」について記録を残
している。実際にヨーロッパに伝わったのは大豆よりも先に大豆食品で、最初に輸入された大豆食品は 1670 年にオラン
ダ人がフランスのルイ 14 世のために日本から持ち込んだ「醤油」だといわれている。一方、大豆そのものがヨーロッパに伝わ
ったのは 18 世紀初頭で、1730 年代にはオランダやフランスで栽培の記録が残っている。
米国に大豆が伝わったのには諸説があり、1804 年に帆船の重石(バラスト)として袋詰め大豆が使われて米国に持
ち込まれたのが最初だという話もある。米国が世界最大の大豆生産国として名乗りを上げるようになったのは、1930 年
代から 40 年代であり、第二次世界大戦が勃発して食用油の輸入が止まってしまったため、食用油の原料として急速に
栽培が広まった。1930 年から 1942 年の 12 年間で、大豆の世界生産量に占める米国のシェアは 3%から 46.5%に
急拡大し、1942 年以降は中国を抜いて世界最大の大豆生産国として君臨している。
(2) 大豆市場の構造変化
第二次世界大戦後、世界的な人口増に伴う食肉需要の増加に伴い、高蛋白の飼料原料である大豆ミールが注目
され、米国での大豆生産は急拡大していく。しかし、1970 年代になると米国だけでは世界の大豆需要を賄い切れなく
なり、これに関連するエポックメイキング的な出来事が、1973 年のニクソン大統領による「大豆輸出禁止措置」である。
1972 年秋以降、世界的な大豆の不作やアンチョビの不漁等により大豆価格が値上がりし、1973 年には、1月に4ド
ルだった大豆の先物価格が6月後半には 12.12 ドルになるなどわずか半年で3倍になった。これを受け、米国は国内
需要を満たすことと国内の飼料価格及び食品価格の抑制を最優先に考え、6月に大豆輸出禁止措置を発表した。こ
のことは日本をはじめ大豆輸入国に大きな衝撃を与え、特に、日本は当時約 340 万トンの大豆を輸入し、その9割以
上を米国に依存していたことから、大豆食品業界は大混乱に陥った。この禁輸措置は9月には解除されたが、このことは、
大豆の大輸入国である日本に対して特定の国だけに大事な大豆を依存することの怖さを認識させることとなり、その後、
大豆調達の分散化、多様化が叫ばれるようになった。
南米、特にブラジル・アルゼンチンはこの20年間で大豆の一大生産地として急成長を遂げているが、その歴史は古く
ない。ブラジルが注目を浴びるようになったのは、1970 年代後半に突然中国を抜いて世界第二位の生産国に躍り出て
からである。このブラジルの急激な成長の背景には、1973 年の米国による大豆輸出禁止措置があり、日本も深く関わっ
33
ている。ブラジルは、今でこそ大豆を含む農産物の大生産国・輸出国だが、1970 年代前半までは農産物の純輸入国
だった。そのため、農地拡大はブラジルにとっても悲願であり、そこで注目されたのが「セラード」と呼ばれるサバンナ地帯であ
った。この場所は土壌が農業に適さず、肉牛生産のための放牧が行われている程度であったが、開発にあたって日本が
技術的な援助を行い、大豆生産を促した。この理由としては、日本は 1973 年の米国による大豆輸出禁止措置で調
達先多様化の必要性を痛感していたからに他ならない。なお、アルゼンチンでも 1970 年代半ばから生産量が拡大して
いる。
米国は 1942 年以来(1947 年を除く)世界最大の大豆生産国の地位を維持してきたが、近年、ブラジルに追い上
げられている。2002/03 年にブラジルとアルゼンチンの南米 2 カ国の大豆生産量が米国を追い抜き、その後輸出量でも
南米 2 カ国が米国を抜いている。
一方、消費の面でも、従前、米国が世界最大の消費国であったが、2008/09 年に中国が世界最大の大豆消費国
となり、以降。その差は拡大している。また、ブラジルとアルゼンチンの南米 2 カ国の合計消費量も 2002/03 年に米国を
上回っている。
このように、大豆市場は生産、消費の両面で大きく構造が変化している。
2. 大豆の品種・用途
(1)品種
大豆はマメ科の一年草で、品種は植物学的に茎の生育習性によって「無限伸張型」と「有限伸張型」に分類される。
「無限伸張型」は原生種の性質に近く、大豆原産地である中国東北部や米国などで栽培されているもので、下から順
番に花を咲かせながら茎が伸びていき、やがて先端が衰えて止まる。「有限伸張型」は日本などで栽培されてもので、下
に花が咲くとやがて茎の先端にも花がついて茎の伸張が止まる。
大豆の品種群はさらに、粒の色(黄色、緑色、茶色、黒色)、粒の大きさ、ヘソ(種子と莢の連結部分)の色(白
目、黒目、茶目等)、葉型、早生晩生の別などにより多くの品種に分類されている。
1996 年以降、米国を中心に遺伝子組換え品種が導入されると、生産コスト削減と単収向上が図れるとして、除草
剤耐性品種(例:ラウンドアップレディ)の栽培が急速に広がった。大豆はとうもろこしよりも遺伝子組換え品種の導入
スピードが速く、2000 年にはとうもろこしより 5 年早く作付比率が 50%を超え、2012 年には 93%になっている。一方
で、日本やヨーロッパでは遺伝子組換え品種の安全性に対する懸念が根強く、日本の食品メーカーは食品用大豆には
非遺伝子組換え大豆を用いている。
(2)大豆の特性と用途
大豆は、水分含有率 13%ベースで蛋白質が約 35%、油分が約 19%、炭水化物が約 28%、灰分が約 5%含ま
れている。
大豆の用途は、主に「食品用」、「大豆ミール」、「大豆油」の 3 つに分けられる。大豆は、日本人にとって豆腐、納豆、
味噌、醤油の原料としての「食品用」のイメージが強いが、世界的には、「大豆油」と「大豆ミール(大豆粕)」の原料と
しての位置付けが強い。
飼料原料は、配合飼料における割合が大きいものは主原料、少ないものは副原料と呼ばれている。主原料の代表格
はとうもろこしであり、副原料の代表格が大豆ミールである。大豆ミールは、蛋白組成分が約 44%の「ロープロ」と約
48%の「ハイプロ」に分けられる。日本はロープロ主体であるが、米国ではハイプロ主体である。
大豆油は、大部分がてんぷら油やサラダ油、あるいはマヨネーズやマーガリンなどの原料としての食品用に用いられるが、
その他にも塗料や潤滑油、印刷インク、バイオディーゼルなどの工業用にも用いられる。競合する植物油としては、パーム
34
油、菜種油、綿実油などが挙げられる。
大豆 1 ブッシェル(bu)を圧搾して生産される「大豆ミール(ハイプロ)」と「大豆油」の生産量は以下のとおり。
3. 大豆の生育
大豆は主要生産地である米国において以下のような生育過程を経て収穫されるが、大豆は作付地帯が北はカナダ国
境から南はメキシコ国境と広く、品種も多いことから生育期間は地域や品種によって 3 ヶ月から 5 ヶ月と大きく異なること
に留意する必要がある。
大豆は、植物学的には光周期性の高い作物であり、開花や着莢(さや)が昼の長さ(日照時間)で決定されると
いう特性を持つ。生育状況に関わらず、秋の訪れとともに成長が止まる。大豆の生育は以下の通り、大きく4段階に分
類できる。
① 播種(Planting)、発芽・出芽(Germination and Emergence )
米国では、5 月から 6 月上旬にかけて、とうもろこしより 10 日ほど遅れて作付けが行われる。地温が華氏 50℃
(摂氏 10℃)以下では発芽はきわめて不良になるので、華氏 55℃(摂氏 12.7℃)から 60℃(摂氏
15.5℃)になるのを待って作付けが開始される。気温や土壌水分に左右されるが、作付け後、5 日から 20 日
程度で発芽する。
② 開花期(Flowering 又は Blooming)
発芽から約 1 ヶ月後、7 月から 8 月前半にかけて開花が始まる。無限伸張型の品種が多い米国の場合、主茎
下位から上に向かって次々と枝分かれした節の付け根に花が咲き、その後、受粉する。積算温度が重要なとうも
ろこしとは異なり、大豆は光周期感受性の強い作物であり、夜の時間の長さ(暗期)が開花に影響を与える。
③ 着莢期(Setting Pods)
8 月から 9 月初旬にかけては着莢期と呼ばれ、大豆生育の中で最もデリケートな時期である。莢の伸張は開花・
受粉後 5 日目頃から始まり、20 日目頃に最大の長さになって結実期に移り、子実が成長する。着莢から結実が
進むこの期間は登熟期と呼ばれ、光合成が活発に行われるため、十分な降雨があって土中の水分・養分が豊富
に供給されることが望ましく、気温も日中が華氏 80 度台(摂氏 26.7 度から 31.7 度)、夜間が 60 度台(摂
氏 15.6 度から 20.1 度)、平均で 75 度(摂氏 23.9 度)が理想的といわれる。
④ 落葉期(Dropping Leaves)、収穫期(Harvest)
子実の成長が終盤に差し掛かると、葉や莢が黄変して落葉が始まり成熟期を迎える。その後、莢の色は茶色に
変色し、早ければ 9 月中頃から収穫が始まる。
大豆は完熟すると莢が割れて実が落ちてしまうので、とうもろこしより先に収穫が行われ、そのピークは 10 月前半
35
である。
なお、急速に生産量が増加しているブラジルやアルゼンチンは、北米に位置するアメリカとは季節が逆になるため生育
シーズンも 6 ヶ月ずれることになる。播種期は 10 月から 12 月、開花・着莢期は 1 月から 2 月、収穫期は 3 月から 5
月になる。
36
第 2 項 大豆の需給
1. 世界の大豆需給動向
(1)生産量
世界の大豆生産量は、旺盛な飼料需要(大豆ミール)と可食油需要(大豆油)に牽引される形で増加している。
世界の大豆生産量(2013/14 年度)は、2 億 8,315 万トンであり、この 20 数年間で約 2.4 倍に増加している。
世界最大の生産国は米国(9,139 万トン、世界シェア 32%)、第 2 位ブラジルで(8,670 万トン、同 31%)、第
3 位アルゼンチン(5,350 万トン、同 19%)、第 4 位中国(1,220 万トン、同 4%)であり、上位 4 カ国で世界生
産量の約 86%を占めている。
米国のシェアは、1990 年代までは 50%超、2000 年代初頭は 40%超であったが、南米のブラジルとアルゼンチンの
生産量拡大により低下している。特に、大干ばつに見舞われた 2012/13 年は、生産量が 8,279 万トンまで落ち込み、
ブラジルに僅差まで迫られたが、2013/14 年以降は再び米国が引き離して世界最大の大豆生産国の地位を維持して
いる。
表 13 世界大豆生産量推移
単位:1,000 トン
国名
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
260,555
264,345
240,427
268,824
283,145
318,947
320,492
米国
91,470
90,663
84,291
82,791
91,389
106,878
105,806
ブラジル
69,000
75,300
66,500
82,000
86,700
96,200
100,000
アルゼンチン
54,500
49,000
40,100
49,300
53,500
60,800
57,000
中国
14,980
15,080
14,485
13,050
12,200
12,350
11,500
インド
9,700
10,100
11,700
12,200
9,500
9,000
11,000
パラグアイ
6,462
7,128
4,043
8,202
8,190
8,100
8,800
カナダ
3,581
4,445
4,467
5,086
5,359
6,049
5,950
10,862
12,629
14,841
16,195
16,307
19,570
20,436
世界合計
その他
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(2)消費量
① 大豆の消費量
大豆の消費は、大豆ミールと大豆油を生産する「圧搾需要」が中心であり、「食品需要」、「圧ぺん用の飼料需要」は
相対的に少ないため、大豆消費量の動向を占う上で、大豆ミールと大豆油の需給動向が鍵となる。大豆ミールは、世
界人口増加と食肉需要の増加に伴い飼料需要が増加しており、これに牽引される形で大豆消費量は増加傾向にあ
る。
世界の大豆消費量(2013/14 年度)は 2 億 7,525 万トンと、この約 20 年間で約 2.3 倍に増加している。世界
最大の消費国は中国(8,030 万トン、世界シェア 29%)、第 2 位米国(5,009 万トン、同 18%)、第 3 位アル
37
ゼンチン(4,057 万トン、同 15%)、第 4 位ブラジル(3,986 万トン、同 14%)であり、上位 4 カ国で 77%を占
めている。中国は、国内の圧搾需要が急増した結果、2000/01 年度にブラジル、2008/09 度に米国を抜き、それ以
降、世界最大の大豆消費国の地位を維持している。
表 14 世界大豆消費量推移
単位:1,000 トン
国名
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
238,479
251,255
258,625
261,676
275,253
297,892
310,467
中国
59,380
65,900
72,070
76,180
80,300
86,050
91,700
米国
50,724
48,351
48,786
48,550
50,088
54,907
54,690
アルゼンチン
36,007
39,444
38,186
36,551
40,571
45,002
46,600
ブラジル
36,550
39,230
40,983
38,185
39,861
42,600
42,770
EU
13,487
13,296
13,255
13,892
14,196
14,820
15,530
インド
9,170
10,720
11,300
11,750
9,850
8,900
10,575
ロシア
2,005
2,225
2,380
2,485
3,420
4,250
4,500
その他
31,156
32,089
31,665
34,083
36,967
41,363
44,102
世界合計
(出所)USDA, FAS, PSD Online
② 大豆ミールの需給動向
大豆 1bu(60 ポンド)を圧搾すると、44 ポンド(20kg)の大豆ミール(ハイプロ)が生産される。
2012/13 年度の世界の大豆ミール需給動向は表 15 のとおり。
表 15 世界の大豆ミール需給動向(2013/14 年)
単位:1,000 トン
生産量
世界合計
消費量
189,372 世界合計
輸出量
186,307 世界合計
輸入量
60,027 世界合計
57,857
18,175
中国
54,531 中国
52,534 アルゼンチン
24,972 EU
米国
36,909 EU
28,442 ブラジル
13,948 インドネシア
3,983
ブラジル
28,540 米国
26,804 米国
10,474 ベトナム
3,342
アルゼンチン
27,892 ブラジル
14,650 インド
2,742 イラン
2,683
EU
10,614 メキシコ
4,675 パラグアイ
2,504 タイ
2,665
4,200 中国
2,017 フィリピン
2,337
インド
その他
6,640 ベトナム
24,246 その他
55,002 その他
3,370 その他
24,672
(出所)USDA, FAS, PSD Online
1) 生産量
世界の大豆ミール生産量(2013/14 年度)は 1 億 8,937 万トンであり、中国、米国、ブラジル、アルゼンチンの上
38
位4カ国で約 78%を占めている。
中国の生産量拡大は著しく、1990/91 年度は僅か約 300 万トンであったのが、2009/10 年度には米国を抜いて
世界最大の大豆ミール生産国になっている。なお、米国と南米2カ国は自国で生産した大豆から大豆ミールを生産する
「生産地型」であるのに対し、中国は輸入大豆から大豆ミールを生産する「消費地・輸入地型」である。
2) 消費量
世界の大豆ミール消費量(2013/14 年)は 1 億 8,631 万トンであり、中国、EU、米国、ブラジルの上位 4 カ国
(地域)で約 66%を占めている。
大豆ミールの国内生産量に占める国内消費量の比率は、中国が約 96%、米国が約 73%、ブラジルが約 51%であ
るのに対して、アルゼンチンは 8%と極端に低い。
3) 輸出量・輸入量
世界の大豆ミール輸出量(2013/14 年)は 6,003 万トンであり、アルゼンチン、ブラジル、米国の上位 3 カ国で
82%を占めている。アルゼンチンは国内生産量の 90%を輸出に振り向けている。
一方、世界の大豆ミール輸入量は 5,786 万トンであり、EU、インドネシア、ベトナムが上位 3 カ国を占めている。EU
がそのうち 31%のシェア有している。
③大豆油の需給動向
1)生産量
大豆 1bu(60 ポンド)を圧搾すると、11 ポンド(5kg)の大豆油が生産される。
2012/13 年度の世界の大豆油需給動向は表 16 のとおり。
表 16 大豆油需給動向(2012/13 年度)
単位:1,000 トン
生産量
消費量
輸出量
輸入量
世界合計
44,983 世界合計
45,284 世界合計
9,387 世界合計
9,350
中国
12,335 中国
13,657 アルゼンチン
4,087 インド
1,830
米国
9,131 米国
8,599 ブラジル
1,378 中国
1,353
ブラジル
7,070 ブラジル
5,705 米国
851 アルジェリア
625
アルゼンチン
6,785 インド
3,300 EU
771 イラン
551
EU
2,553 アルゼンチン
2,729 パラグアイ
650 モロッコ
446
インド
1,478 EU
1,970 ロシア
332 バングラディシュ
442
その他
5,631 その他
9,324 その他
1,318 その他
4,103
(出所)USDA, FAS, PSD Online
1) 生産量
世界の大豆油生産量(2013/14 年度)は 4,498 万トンであり、中国、米国、ブラジル、アルゼンチンの上位4カ国
で約 78%を占めている。大豆ミールと同様、中国の生産量の伸びが突出している。
2)消費量
世界の大豆油消費量(2013/14 年度)は 4,528 万トンであり、中国、米国、ブラジル、インド、アルゼンチンの上
位5カ国で 75%を占めている。中国の消費量は生産量の伸びと同様に突出している。アルゼンチンは、大豆ミールをほ
39
ぼ全量輸出しているのに対し、大豆油は生産量の約 3 割をバイオディーゼル用として国内消費に回している。
3)輸出量・輸入量
世界の大豆油輸出量(2013/13 年度)は 939 万トンであり、アルゼンチン、ブラジルの上位2カ国で約 58%を占
めている。
一方、世界の大豆油輸入量は 935 万トンであり、インド、中国、アルジェリア、イラン、モロッコの上位5カ国で約 51%
を占めている。中国は大豆ミールは自給しているが、同時に生産される大豆油は不足しており、その不足分を輸入で補
っている。
(3) 輸出量
世界の大豆輸出量(2013/14 年度)は 1 億 1,257 万トンと、この約 20 年間で約 3.5 倍に増加している。世
界最大の輸出国はブラジルで(4,683 万トン、世界シェア 42%)、第 2 位米国(4,457 万トン、同 40%)、第 3
位アルゼンチン(784 万トン、同 7%)となっており、上位 3 カ国で 89%以上のシェアを有する寡占的な構造となって
いる。
従来、大豆輸出市場では、米国がシェア 80%超と圧倒的な地位を有していたが、近年、ブラジル等の輸出拡大によ
りその地位が低下している。米国が大干ばつに見舞われた 2012/13 年度に、ブラジルが世界最大の大豆輸出国になっ
たが、それ以降もブラジルが世界最大の輸出国の地位を維持すると予想されている。
表 17 世界大豆輸出量推移
単位:1,000 トン
国名
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
世界合計
91,440
91,702
92,187
100,812
112,571
126,051
126,769
ブラジル
28,578
29,951
36,257
41,904
46,829
51,112
56,450
米国
40,798
40,959
37,186
36,129
44,574
50,169
45,586
アルゼンチン
13,088
9,205
7,368
7,738
7,842
9,600
9,750
パラグアイ
4,070
5,226
3,574
5,518
4,800
4,375
4,600
カナダ
2,247
2,943
2,933
3,470
3,470
3,850
3,850
ウルグアイ
1,940
1,820
2,607
3,527
3,185
3,230
3,230
ウクライナ
263
989
1,338
1,323
1,261
2,422
2,000
その他
456
609
924
1203
610
1293
1303
(出所)USDA, FAS, PSD Online
(4)輸入量
世界の大豆輸入量(2013/14 年度)は 1 億 1,128 万トンと初めて 1 億トンを超え、この約 20 年間で約 3.9 倍
に増加している。世界最大の輸入国は中国(7,036 万トン、世界シェア 63%)、第 2 位 EU(1,299 万トン、同
12%)、第 3 位メキシコ(384 万トン、同 3%)、第 4 位日本(289 万トン、同 3%)となっている。中国以外の
国の輸入量がほぼ横ばいで推移していることから、世界大豆輸入量の増加分はほぼ中国の輸入量増加分に相当する
と考えられる。2013/14 年以降も、中国は輸入量を大幅に増加させると見込まれている。
40
表 18 世界大豆輸入量推移
単位:1,000 トン
国名
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
世界合計
86,863
88,781
93,469
95,926
111,284
120,196
123,916
中国
50,338
52,339
59,231
59,865
70,364
77,000
79,000
EU
12,683
12,472
12,070
12,538
12,985
13,550
13,600
メキシコ
3,523
3,498
3,606
3,409
3,842
4,025
4,050
日本
3,401
2,917
2,759
2,830
2,894
2,950
2,900
台湾
2,469
2,454
2,285
2,286
2,335
2,380
2,380
インドネシア
1,620
1,898
1,922
1,795
2,241
2,075
2,300
トルコ
1,648
1,351
1,057
1,249
1,608
2,100
2,300
11,181
11,852
10,539
11,954
15,015
16,116
17,386
その他
(出所)USDA, FAS, PSD Online
図 19 大豆、大豆ミール、大豆油需給相関図(2013/14 年度)
世界大豆需給
米国
ブラジル
アルゼンチン
中国
EU
メキシコ
日本
その他
生産量
輸出量
輸入量
消費量
万トン
0
4,000
8,000
12,000
16,000
20,000
24,000
28,000
世界大豆ミール需給
中国
米国
ブラジル
アルゼンチン
EU
インドネシア
タイ
その他
生産量
輸出量
輸出量
輸入量
輸入量
消費量
消費量
4.
0
5,000
10,000
36,000
世界大豆油需給
中国
EU
生産量
万トン
32,000
15,000
20,000
25,000
万トン 0
米国
インド
2,000
ブラジル
アルジェリア
4,000
アルゼンチン
その他
6,000
米国産大豆需給動向
USDA が提供している米国産大豆に関する統計情報は、重量がブッシェル(bu)、面積がエーカー(acre)で提
41
供されていることに注意する必要がある。
大豆に関する重量、面積換算
重量:1 ブッシェル(bu)= 27.2kg、1 トン=36.7437bu
面積:1 エーカー(acre)=0.4047ha
表 19 米国産大豆の需給
Soybean
大豆
2011/12
2012/13
2013/14
2014/15
2015/16
(見通し)
(予測)
Million Acres(単位:百万エーカー)
Area Planted
作付面積
75
77.2
76.8
83.3
84.3
Area Harvested
収穫面積
73.8
76.2
76.3
82.6
83.5
Bushels (単位:ブッシェル)
Yield per Harvested Acre
単収 bu/acre
41.9
39.8
44
47.5
47.1
Million Bushels (百万ブッシェル)
Beginning Stocks
期初在庫
215
169
141
92
210
Production
生産量
3,094
3,034
3358
3927
3935
Imports
輸入量
16
41
72
33
30
供給 計
3,325
3,243
3,570
4,052
4,175
Crushings
圧搾量
1,703
1,689
1,734
1,875
1,870
Exports
輸出量
1,365
1,317
1,638
1,843
1,725
Seed
種子用
90
89
97
97
92
Residual
その他
-2
8
10
46
38
3,155
3,103
3,478
3,861
3,725
169
141
92
191
450
Supply, Total
Use, Total
Ending Stocks
需要量 計
期末在庫
(出所)USDA, OCE, WASDE(2015 年 10 月)より作成
(1)
供給
① 作付面積・収穫面積
米国産大豆の作付面積は、1960 年代から 70 年代にかけて約 3 倍になり、7,000 万エーカー(約 2,833 万 ha)
に達した。その後、80 年代に停滞して 6,000 万エーカー(2,429 万 ha)を割り込んだが、90 年代から 2000 年代
にかけて再び増加し、2009/10 年には史上最高の 7,745 万エーカー(3,143 万 ha)に達した。2014/15 年には
史上最高の 8,370 万エーカー(3387 万 ha)に到達すると予測されている。大豆は、とうもろこしのようにサイレージ目的
で青刈りされることがないため、作付面積占める収穫面積の割合は約 98%と高い。
42
図 20 米国産大豆作付面積・収穫面積
(出所)USDA, ERS, Oil Crops Yearbook Table
② 生産量・単収
米国産大豆の生産量は、2009/10 年度に史上最高の 33 億 6,093 万 bu(9,147 万トン)を記録している。
2012/13 年度は 1930 年代以来最悪といわれる大干ばつの影響で減産となったが、作付面積が高水準であったこと
から 30 億 4,200 万 bu(8,279 万トン)と 30 億 bu 台を維持した。2014/15 年には史上最高の 39
億 2,700 万 bu(1 億 689 万トン)に到達すると予測されている。
単収は、1990 年代に遺伝子組換え品種が普及してからは 40bu/エーカー近辺で推移しており、2009/10 年度に
は史上最高の 44bu/エーカー(2.96 トン/ha)を記録した。2012/13 年度は大干ばつの影響により 39.8bu/エー
カー(2.68 トン/ha)に減少したが、とうもろこしよりも単収の減少率は小さい。2014/15 年には史上最高の
47.5bu/エーカー(3.19 トン)を記録すると予測されている。
③ 生産地域・州別生産量
米国産大豆の生産地域は、北はカナダ国境から南はメキシコ国境までと非常に広く、なかでも中西部の「コーンベルト」
と重なる「ビーンベルト」と呼ばれる地域が主要産地になっている。生産量はアイオワ州、イリノイ州、ミネソタ州、インディア
ナ州となっており、この 4 州で全米の 43%を占めている。
43
表 20
全米及び州別生産量(主要州)
単位:1,000bu
2009
全米
2010
2011
2012
2013
2014
3,359,011
3,329,181
3,093,524
3,042,044
3,357,984
3,968,823
イリノイ州
430,100
466,075
423,225
383,990
474,000
547,680
アイオワ州
486,030
496,230
475,345
418,950
420,875
505,730
ミネソタ州
284,800
328,950
274,560
304,500
278,040
305,340
インディアナ州
266,560
258,505
240,695
225,280
267,285
307,440
ネブラスカ州
259,420
267,750
261,360
207,085
255,195
288,900
オハイオ州
221,970
220,320
217,920
206,550
222,255
254,100
ミズーリ州
230,550
210,405
190,165
158,100
201,960
260,400
サウスダコタ州
175,980
157,320
150,590
143,960
185,490
229,950
ノースダコタ州
116,100
138,380
114,840
163,185
141,215
202,515
アーカンソー州
122,625
110,250
126,280
137,025
140,940
160,500
カンザス州
160,600
138,125
101,520
87,860
130,980
142,560
ミシシッピー州
77,140
76,230
70,200
87,750
91,540
114,400
ミシガン州
79,600
88,740
85,360
85,570
85,440
92,020
ケンタッキー州
47,610
68,160
47,260
58,800
83,000
84,000
(出所)USDA, NASS, Crop Production Annual Summary
図 21 米国産大豆生産地域
44
(出所)USDA, OCE, Major World Crop Areas and Climate Profiles
(2)
需要
USDA は、「合計需要(use total)」を「圧搾(Crushing)」、「輸出(Exports)」、「種子(Seed)」、「その
他(Residual)」に 4 分類してデータを提供している。
米国産大豆の合計需要は、右肩上がりで増加し、2009/10 年度には 33 億 6,300 万 bu(9,152 万トン)を記
録した。しかし、大干ばつに見舞われた 2012/13 年度は需要量も 31 億 1,100 万 bu(8,468 万トン)に落ち込ん
だ。
最大の需要項目は「大豆ミール」と「大豆油」を生産するための圧搾需要であり、合計需要の 50%から 60%を占めて
いる。輸出需要は 35%から 46%を占めているが、2007/08 年度以降、圧搾需要減・輸出需要増により、現在では
ほぼ拮抗している。
図 22 米国産大豆の需要推移
(出所)USDA, ERS, Oil Crops Yearbook Table
① 圧搾
圧搾とは、大豆から大豆ミールと大豆油を生産する工程を意味する。昔は大豆を潰して大豆油を抽出していたが、今
はヘキサンを利用した化学的抽出法が用いられている。米国における圧搾数量の月間統計データは、全米油糧種子加
工業者協会(NOPA)が毎月 15 日に Thomson Reuters 社を通じて提供している。
2013/14 年度の圧搾量は 17 億 3,400 万ブッシェル(4,719 万トン)である。圧搾動向を占う指標としては、製
品価格(大豆油及び大豆ミール)と原料価格(大豆)の差から大豆圧搾工場の粗利益を計る「圧搾マージン
(Gross processing margin, GPM)」がある。ただし、圧搾マージンは圧搾工場ごとに異なるため、全米の全体的
な GPM の指標として、CBOT の大豆先物価格、大豆ミール先物価格、大豆油先物価格を利用して算出された「ボー
ド・マージン」が利用される。
45
GPM が圧搾コストを上回れば、圧搾工場は圧搾量を増やすので、その分大豆の国内需要が増加する。一般的に、
GPM の損益分岐点は 40 セント/bu といわれている。
(参考)圧搾マージン(GPM)の算出方法
1. 前提
・ 1bu(60 ポンド=27.2kg)の大豆を圧搾すると、11 ポンド(5kg)の大豆油と 44 ポンド(20kg)の大豆ミ
ール(ハイプロ)が生産される。
2. 単位の統一(大豆油と大豆ミールの価格をドル/bu に換算)
①大豆(セント/bu)
:換算の必要なし
②大豆油(セント/ポンド)
:11 ポンド×大豆油価格
③大豆ミール(ドル/ショートトン)
:44 ポンド(ハイプロ)/2000 ポンド×大豆ミール価格
=0.022×大豆ミール価格
※ 1 ショートトン=2,000 ポンド=0.907 トン
3. 圧搾マージン(GPM)の計算
GPM=(大豆ミール価格×0.022+大豆油価格×11)-大豆価格
4. 具体例(ボードマージン)
①シカゴ大豆価格(11 月限)
②シカゴ大豆油価格(12 月限)
:$12.4325/bu
:$0.4568/ポンド
③シカゴ大豆ミール価格(12 月限) :$366/ショートトン
・ 単位換算
①シカゴ大豆価格(11 月限)
②シカゴ大豆油価格(12 月限)
:換算の必要なし
:11 ポンド×$0.4568/ポンド=$5.0248 ル
③シカゴ大豆ミール価格(12 月限) :0.022×$366/ショートトン=$8.052 ル
GPM=($5.0248 ル+$8.052)-$12.4325=$0.6443
1)米国における大豆ミールの需給動向
大豆ミールは、配合飼料において、蛋白原料とアミノ酸を提供する副原料の代表格として欠かせない飼料原料である。
大豆ミールには、植物蛋白の組成分が約 44%(ロープロ)と約 48%(ハイプロ)のものがあるが、米国では一般的に
ハイプロを用いている。米国産大豆ミールの需給動向は表 21 のとおり。
米国産大豆ミールの生産量(2013/14 年度)は 4,103 万ショートトン(約 3,691 万トン)で、需要のうち飼料
需要を中心とした国内需要が 3,155 万ショートトン(約 2,080 万トン)、輸出需要が 974 万ショートトン(約 1,047
万トン)であり、EU、メキシコ、フィリピン等へ輸出されている。
世界大豆ミール輸出市場に占める米国産大豆ミールのシェアも 17%程度と、1990 年代の平均 20%超と比較して
低下している。
46
表 21 米国産大豆ミールの需給
Soybean Meal
大豆ミール
2011/12
2012/13
2013/14
2014/15
2015/16
(見通し)
(予測)
Thousand Short tons(単位:1000 ショートトン)
Beginning Stocks
期初在庫
235
302
350
300
275
Production
生産量
41,707
39,251
41,025
39,875
40685
Imports
輸入量
160
180
216
245
383
供給 計
42,101
39,732
41,591
40,420
41343
Domestic Disappearance
国内消費量
30,640
30,301
31,548
28,969
29547
Exports
輸出量
11,160
9,081
9,743
11,176
11546
需要 計
41,800
39,382
41,291
40,145
41093
302
350
300
275
250
Supply, Total
Use, Total
Ending Stocks
期末在庫
(出所)USDA, OCE, WASDE(2015 年 10 月)より作成
2)米国における大豆油の需給状況
大豆油は、米国における植物油生産量の約 70%を占めている。米国産大豆油の需給動向は表 22 のとおり。
米国産大豆油の生産量(2013/14 年度)は 197 億ポンド(913 万トン)であり、その内 134 億ポンド(632
万トン)が食料・飼料・その他工業用、48 億ポンド(227 万トン)はバイオディーゼル用に用いられている。バイオディー
ゼル需要急増の背景には、「2005 年エネルギー政策法(Energy policy act of 2005)」及び 2007 年に成立し
た「2007 年エネルギー自立・安全保障法(Energy Independence and Security Act of 2007)」によってバイ
オ燃料の使用量拡大が定められたことがある。 輸出量は 20 億ポンド(90 万トン)近辺で推移している。世界大豆
油輸出市場に占める米国産大豆油のシェアは 1990 年代の平均 16%から直近では 9%と低下傾向にある。
表 22 米国産大豆油需給
Soybean Oil
大豆油
2011/12
2012/13
2013/14
2014/15
2015/16
(見通し)
(予測)
Million Pounds(100 万ポンド)
Beginning Stocks
期初在庫
Production 4/
Imports
Supply, Total
Domestic Disappearance
Biodiesel 3/
Food, Feed & other Industrial
Exports
Use, Total
Ending stocks
2,861
3,406
2,425
2,540
1,705
生産量
19,615
18,888
19,740
19,820
20,130
輸入量
103
159
149
196
165
供給 計
22,578
22,453
22,314
22,555
22,000
国内消費量
15,814
16,795
18,310
18,687
18,958
1,680
2,737
4,870
4,689
5,010
14,134
14,058
13,440
13,998
13,948
3,359
3,233
1,464
2,164
1,877
19,173
20,028
19,774
20,850
20,835
3,406
2,425
2,540
1,705
1,165
バイオディーゼル
食品・飼料・その他
輸出量
需要 計
期末在庫
(出所)USDA, OCE, WASDE(2015 年 10 月)より作成
47
② 輸出
米国産大豆の輸出量は増加傾向にあり、2010/11 年度には史上最高の 15 億ブッシェル(4,096 万トン)を記録
している。需要合計に占める割合も、最近では 42%前後になるまで増加している。
輸出量の増加にもかかわらず、世界の大豆輸出市場に占める米国産大豆の地位は、南米大豆の輸出拡大によって
低下している。1970 年代に 90%を超えていたシェアは、2012/13 年度には 36%まで低下し,
世界最大の大豆輸出国の首位の座をわずかの差で維持したが、2013/14 年度にはブラジルに逆転され、首位の座を
明け渡すものと見られている。
2012/13 年度の米国産大豆の仕向け先は、中国(59%)、メキシコ(7%)、日本(5%)、インドネシア
(4%)などである。
図 23 米国産大豆輸出量と世界シェア
(出所)USDA, FAS, PSD Online
5.
主要生産国・消費国の大豆需給動向
(1)
中国
中国は、第二次世界大戦までは世界最大の大豆生産国であったが、2013/14 年度の生産量は 1,220 万トンと世
界第4位である。主な生産地域は旧満州地域である黒龍江省、遼寧省、吉林省の「東北三省」で、特に黒龍江省は
40%強のシェアを有している。中国産大豆の多くは豆腐等の食品用に供されており、約 965 万トンの食品需要がある。
中国は、世界最大の大豆消費国・輸入国として世界の大豆需要に大きな影響を与えている。中国は、1995/96
年度までは大豆の純輸出国であったが、WTO 加盟を控えて、1996 年に大豆輸入を許可制から関税割当制に移行
すると大豆輸入が急増し、2001 年に WTO に加盟して関税割当制を撤廃すると輸入に拍車がかかった。中国の大豆
輸入量は、1995/96 年の 79 万 5,000 トンと比較すると、約 20 年で約 90 倍の規模に膨らんでおり、ほぼ 100%を
米国、ブラジル、アルゼンチンの 3 カ国から輸入している。中国の大豆輸入急増の原因としては、畜産需要・水産需要の
増加に伴う大豆ミールの飼料需要の拡大と、可食油である大豆油需要の拡大が挙げられる。中国は、大豆ミール需要
48
を全量国内生産で賄い、余剰分の約 201 万トンを日本をはじめ海外に輸出している。一方、植物油生産の中で最大
の 40%超のシェアを有する大豆油は、生産量が増加しているものの国内需要全体を賄うには足りず、毎年 130 万トン
から 150 万トン程度をアルゼンチンなどから輸入している。
表 23 中国の大豆需給
単位:1000 トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
収穫面積
9,190
8,516
7,889
7,172
6,850
6,800
6,400
期初在庫
7,455
13,209
14,538
15,909
12,378
14,427
17,552
生産量
14,980
15,080
14,485
13,050
12,200
12,350
11,500
輸入量
50,338
52,339
59,231
59,865
70,364
77,000
79,000
供給 計
72,773
80,628
88,254
88,824
94,942
103,777
108,052
圧搾量
48,830
55,000
60,970
64,950
68,850
74,200
79,500
食品用
8,850
9,100
9,300
9,450
9,650
10,000
10,350
飼料用
1,700
1,800
1,800
1,780
1,800
1,850
1,850
59,380
65,900
72,070
76,180
80,300
86,050
91,700
184
190
275
266
215
175
200
需要量 計
59,564
66,090
72,345
76,446
80,515
86,225
91,900
期末在庫
13,209
14,538
15,909
12,378
14,427
17,552
16,152
22%
22%
22%
16%
18%
20%
18%
国内消費 合計
輸出量
期末在庫率
(出所)USDA, FAS, PSD Online から作成
(2)
ブラジル
ブラジルは米国に次ぐ世界第 2 位の大豆生産国である。ブラジルは南半球に位置するため、大豆の生育時期は北半
球の米国とは正反対で、米国の収穫期である 10 月から 12 月が播種期にあたり、重要な生育ステージは 1 月、収穫
期は米国の端境期である 3 月から 4 月が収穫期にあたる。主な生産地域は、マット・グロッソ州、パラナ州、リオグランド
スル州、ゴイアス州、マット・グランドスル州、などであり、この 5 州で約 70%を占めている。
ブラジルは、2012/13 年度の大豆輸出量が 4,190 万トンになり、大干ばつで生産量が減少した米国を抜いて世界
最大の大豆輸出国になった。ブラジル産大豆の仕向け先は中国、スペイン、タイとなっている。主な輸出港はブラジル南
東部に位置するサントス港、パラナグア港、リオ・グランデ港である。
ブラジルは、生産地が内陸部の中西部へ拡大しており、生産地から輸送港までの輸送インフラに問題を抱えている。米
国と異なり、輸送の多くをトラックに依存しているため、輸送コストが高い。加えて、港湾インフラの未整備により、荷積み
の遅延等の問題も発生している。
ブラジルの 2013/14 年の大豆圧搾量は 3,686 万トンであり、2,854 万トンの大豆ミールと 707 万トンの大豆油が
生産されている。生産された大豆ミールの半分弱は輸出され、残りの半分は国内消費されている。一方、大豆油は生
産量の約 19%が輸出され、残りが国内消費されるが、国内需要のうち約 60%強は食用、残りの 40%弱はバイオディ
ーゼル等の産業用に用いられている。
49
表 24 ブラジルの大豆需給
単位:1000 トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
収穫面積
23,500
24,200
25,000
27,700
30,100
32,100
33,300
期初在庫
13,434
17,480
23,636
13,024
15,330
15,945
18,708
生産量
69,000
75,300
66,500
82,000
86,700
96,200
100,000
輸入量
174
37
128
395
605
275
250
供給 計
82,608
92,817
90,264
95,419
102,635
112,420
118,958
圧搾量
33,700
36,330
38,083
35,235
36,861
39,500
39,550
食品用
0
0
0
0
0
0
0
飼料用
2,850
2,900
2,900
2,950
3,000
3,100
3,220
国内消費 合計
36,550
39,230
40,983
38,185
39,861
42,600
42,770
輸出量
28,578
29,951
36,257
41,904
46,829
51,112
56,450
需要量 計
65,128
69,181
77,240
80,089
86,690
93,712
99,220
期末在庫
17,480
23,636
13,024
15,330
15,945
18,708
19,738
27%
34%
17%
19%
18%
20%
20%
期末在庫率
(出所)USDA, FAS, PSD Online から作成
(3)
アルゼンチン
アルゼンチンは、ブラジルと同様に 1970 年代の大豆価格の高騰を契機として飛躍的な発展を遂げている。特に、
1990 年代に誕生したメネム政権が大豆及び大豆製品を含む農産加工品の輸出税と農業投入財の輸入税を引き
下げてから大豆生産量が飛躍的に拡大した。現在では、米国、ブラジルに次ぐ世界第 3 位の大豆生産国であり、
2009/10 年度は史上最高の 5,450 万トンの大豆を生産しているが、2014/15 年度はその記録を更新するものと
予想されている。
アルゼンチンは南半球に位置するため、大豆の生育時期は北半球の米国とは正反対で、作付期が 11 月から 12
月、収穫期は 4 月から 5 月である。主な生産地域は、コルドバ州、ブエノスアイレス州、サンタフェ州の 3 州であり、この
3 州で約 80%を占めている。
2013/14 年度、アルゼンチンは、米国、ブラジルに次ぐ世界第 3 位の大豆輸出国であるが、生産量の大部分は圧
搾を中心とした国内消費に回される、生産量に占める輸出量の割合は 15%弱と低い。
アルゼンチンは、大豆ミール及び大豆油の生産国としては世界第 4 位であるが、輸出国としては世界最大である。ア
ルゼンチンは、大豆ミール生産量の約 90%を輸出しているのに対し、大豆油は生産量の約 60%を輸出、残りを国内
消費(バイオディーゼル向け)に回している。
50
表 25 アルゼンチンの大豆需給
単位:1000 トン
2014/15
2015/16
(見通し)
(予想)
2009/10
2010/11
2011/12
2012/13
2013/14
収穫面積
18,600
18,300
17,577
19,750
19,400
19,300
20,000
期初在庫
15,633
21,039
21,403
15,949
20,962
26,050
32,250
生産量
54,500
49,000
40,100
49,300
53,500
60,800
57,000
輸入量
1
13
0
2
1
2
2
供給 計
70,134
70,052
61,503
65,251
74,463
86,852
89,252
圧搾量
34,127
37,614
35,886
33,611
36,173
40,000
41,500
1,880
1,830
2,300
2,940
4,398
5,002
5,100
国内消費 合計
36,007
39,444
38,186
36,551
40,571
45,002
46,600
輸出量
13,088
9,205
7,368
7,738
7,842
9,600
9,750
需要量 計
49,095
48,649
45,554
44,289
48,413
54,602
56,350
期末在庫
21,039
21,403
15,949
20,962
26,050
32,250
32,902
43%
44%
35%
47%
54%
59%
58%
食品用
飼料用
期末在庫率
(出所)USDA, FAS, PSD Online から作成
6.
日本の大豆需給動向
(1)
供給
日本は大豆の 90%以上を輸入に依存している。国内生産量は 20 万トン台前半で安定的に推移しているものの、
輸入量は 2003 年の 517 万トンから 2014 年は 282 万トンと、製油用大豆を中心にほぼ半減している。
輸入大豆の国別シェアは、米国産が従来の 80%超から 65%まで低下しており、代わって、製油用を中心にブラジル
産が 10%から 21%、食品用を中心にカナダ産が 3%から 14%に拡大している。
表 26 日本の大豆需給
2009 年
需
要
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
2014 年
製油用
2,485
2,473
2,067
1,935
1,911
1,912
食品用
993
976
950
932
936
942
飼料用
115
113
106
108
104
98
0
0
0
0
0
0
3,593
3,562
3,123
2,975
2,951
3,032
262
230
223
219
236
200
3,390
3,456
2,831
2,727
2,762
2,828
▲68
▲69
▲57
▲55
▲55
▲57
3,584
3,617
2,997
2,891
2,943
2,971
223
234
166
182
143
192
輸出
需要計
国内生産量
供
輸入
給
ロス(▲)
供給計
期末在庫
51
(出所)我が国の油脂事情、財務省貿易統計、農水省作物統計、農水省油糧生産実績調査
図 24 日本の大豆輸入量推移
(出所)財務省貿易統計
(2)
需要
① 製油用需要
大豆の国内圧搾量は、2006 年の約 298 万トンから 2014 年の 192 万トンと大幅に減少している。これに伴い、大
豆ミール生産量も 226 万トンから 150 万トン、大豆油生産量も 58 万トンから 38 万トンへ大幅に減少している。
大豆油生産量の減少要因としては、国内製油がオイルバリューの高い菜種へシフトしたことや競合油脂であるパーム油
輸入が増加したことなどが挙げられる。
大豆ミールは、飼料需要が旺盛なため、国内生産量の減少分をインド、中国、米国、ブラジル、アルゼンチンからの輸
入で補っている。大豆ミール輸入量は、2009 年に国内生産量を初めて上回り、それ以降も輸入量が国内生産量を上
回る状態が続いている。
② 食品用需要
大豆の食品用需要も減少しており、現在では 100 万トンを割り込んでいる。ただし、製油用のように代替原料がある
わけではないので減少幅は比較的小幅にとどまっている。製油用には、遺伝子組換え大豆・遺伝子組換え不分別大豆
が用いられているが、食品用には非遺伝子組換え大豆が用いられている。
国産大豆はほぼ全量が食品用に用いられており、輸入大豆ではカナダ産のシェアが高い。従来シェアが高かった米国
産と中国産のシェアは減少傾向にあり、南米産は僅か 1%にとどまっている。
用途としては、豆腐・油揚げ用が 50%以上を占め、次いで納豆用、味噌用となっている。食品用大豆には様々な種
類があり、用途ごとに使用される品種が異なっている。
52
表 27 日本における油糧生産実績
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2,802,284
2,485,203
2,473,480
2,067,428
1,935,352
1,911,070
1,992,314
542,335
476,936
467,707
401,455
376,484
379,640
392,112
50,781
35,597
18,314
19,820
23,568
39,495
9,327
中国
26,422
22,054
9,091
5,168
9,153
24,199
1
台湾
3,848
4,261
3,974
6,266
7,860
7,405
4,277
米国
10,197
7,210
4,661
3,012
2,600
2,633
3,140
マレーシア
4,511
950
105
953
1,368
2,001
1,298
その他
5,803
1,122
483
4,421
2,587
3,257
611
国内生産量
2,137,250
1,879,804
1,867,882
1,584,103
1,462,309
1,446,279
1,501,441
輸入量
1,682,004
1,914,810
2,186,075
2,204,493
2,108,599
1,758,334
1,752,816
インド
902,711
647,949
817,435
1,298,524
792,653
561,650
111,492
中国
289,423
687,269
780,246
245,762
672,795
544,069
979,594
242
42,734
71,811
195,908
202,978
207,924
121,056
453,246
410,161
428,443
376,556
288,437
204,276
225,002
8,136
81,183
40,387
39,963
112,141
93,684
16,327
28,246
45,514
47,753
47,780
39,595
146,731
299,345
大豆国内圧搾量
国内生産量
輸入量
大
豆
油
大
豆
ミ
ー
ル
ブラジル
米国
アルゼンチン
その他
(出所)農林水産省 油糧生産実績、貿易統計
図 25 日本における食品用大豆の輸入シェア・用途
(出所)大豆油糧日報、貿易統計
53
第 3 項 大豆の価格変動要因
図 26:大豆の価格変動要因(概念図)
為替
国内需給
東京大豆価格
内部要因
海上運賃
シカゴ大豆価格
テクニカル要因・その他
需給要因
世界需給
米国需給
・ファンドの動向
・チャート
期末在庫
供給
・生産量=収穫面積×単収
作付面積 天候
・輸入
需要
・大豆ミール(飼料)
・大豆油
・食品用大豆
・バイオ・ディーゼル
・輸出
1. シカゴの大豆先物価格
大豆の国際的な指標価格はシカゴの CME グループに属するシカゴ商品取引所(CBOT)で形成されている。したが
って、シカゴの大豆先物価格の動向は TOCOM の一般大豆先物価格にも大きな影響を与えている。
CBOT の大豆先物の限月構成は、1 月限、3 月限、5 月限、7 月限、8 月限、9 月限、11月限となっており、11
月限が新穀限月に位置づけられている。一方、TOCOM の限月構成は、2 月限、4 月限、6 月限、8 月限、10 月限、
12 月限であり、12 月限が新穀限月に位置づけられている。
CBOT 大豆先物価格自体は、需給要因、天候要因、テクニカル要因などの影響を受けて変動する。
2. 需給要因
農産物価格は、「需給に始まり需給に終わる」といわれるように、需給バランスが穀物価格の基調を変化させている。
大豆の需要は、人口増加、新興国等の畜産需要及び大豆油需要拡大などの要因により増加基調にある。供給も、
堅調な需要増加に牽引されて、生産地・生産面積の拡大や遺伝子組換え品種の導入による単収増もあって増産基
調にある。ただし、需要は安定的な増加傾向にあるのに対して、供給は天候に左右されて大きく変動するので需給のミ
スマッチが発生する。需給のミスマッチは在庫の増減に反映され、在庫の増減は大豆価格に直接的な影響を与える。豊
作による需給緩和と在庫増は売りを誘って値下がりし、不作による需給逼迫と在庫減は先高期待から買いを誘って値
上がりする。他方、価格の高騰は需要の抑制と生産者の供給意欲を促し、価格の下落は需要を喚起して生産者の供
給意欲を減退させる。このような「価格メカニズム」を通して需給バランスは調整される。
54
(1)米国の需給
米国は世界最大の大豆生産国・輸出国(2012/13 年度を除く)であり、その動向は大豆の国際需給と国際大豆
価格に大きな影響を与えている。米国の大豆価格は、供給主導の「天候相場」と需要(在庫)主導の「需給相場」に
分けられる。
①天候相場
「天候相場」は、4 月から 9 月までの 6 ヶ月間にわたる「供給主導の相場」である。前年に収穫された大豆の在庫状況
を踏まえ、その年の生産量を予測しながら将来の供給動向と価格を予想する。この期間は、天候の変化に一喜一憂し
て、相場展開は荒くなりやすい。特に、前年が不作で在庫率が低下しているときほど、その傾向が強い。
大豆の生産量は「収穫面積×単収」で計算されるため、その年の生産量を予測するにあたって 2 つの材料に注目する
必要がある。
1)作付面積の動向
作付面積を左右するのは、作付け時の「大豆価格」、「競合農産物との価格関係(とうもろこし・大豆比価等)」、
「天候」である。米国の農家は地力維持を目的とした輪作体系を前提としながらも、収益極大化のためにとうもろこし
を作付したがる傾向が強い。種子、肥料、農薬などの投入コストは高いが、単収が多いために、天候に恵まれれば生
産量増と収入増が期待できるからである。この結果、とうもろこしの作付面積増加は大豆の作付面積の減少要因に
なる。
米国中西部では、大豆の作付けは 5 月から 6 月上旬にかけて、とうもろこしより 10 日ほど遅れて開始される。この
時期、遅霜や降雨によってとうもろこしの作付けが難しくなると、生産者はとうもろこしを諦めて大豆にシフトする傾向が
あるので、大豆の作付面積は増加する。ただし、最近では農機具の大型化による作付け能力向上により、短期間で
の作付け進捗が可能になったため、以前ほど作付け時の天候は重要視されなくなっている。
USDA は、大豆の作付けに関する情報として、3 月末から 6 月末にかけて「作付意向面積(3 月末)」、「作付進
捗状況」、「確定作付面積(6 月末)」を公表している。
2)単収を左右する作柄確定までの天候の動向
大豆の単収は、遺伝子組換え品種の導入によって増加したが、依然として天候が与える影響は大きい。単収増
加・減少の条件は以下のとおり。
USDA は、大豆の生育ステージごとの情報として、4 月から 11 月末にかけて「生育状況」を公表している。
単収増加の条件
単収減少の条件
①作付けが早期に終了すること。
①低温や長雨で作付けが遅れること。
②日照に恵まれて勢いよく草丈が伸び、葉が茂ること。
②日照不足で育ちが悪いこと。
③開花・着サヤ期(8 月)に十分な降雨があるjこと。
③開花・着サヤ期(8 月)に雨が降らず高温になること。
④開花・着サヤ後の結実期に暖かい日が続くこと。
③ 花・着サヤ後の結実期に低温の被害を受けること。
②需給相場
「需給相場」は、大豆やとうもろこしの収穫がピークを迎える 10 月半ばから 4 月の新穀の作付期までの 6 ヶ月間にわた
55
る「在庫主導の相場」である。収穫が完了して生産量が固まるので、この時期は、収穫された新穀が 4 月までにどれだけ
「消費」、「輸出」され、その結果「在庫水準」がどのように変動するかが相場展開のポイントとなる。
1)圧搾需要
米国は中国に次ぐ世界第二位の大豆消費国である。大豆の主な消費用途は圧搾である。圧搾量は大豆ミールの
飼料需要、大豆油の食用需要及びバイオディーゼル需要に左右され、そのデータを全米油糧種子加工協会
(NOPA)が毎月のデータをホームページで公表していたが、2013 年 2 月からトムソン・ロイター社が有料で提供して
いる(http://commoditiesupdates.thomsonreuters.com/nopa/)。
2)輸出需要
米国はブラジルに次ぐ世界第二位の大豆輸出国である。輸出需要は圧搾需要と並ぶ需要項目の大きな構成要
素として、長期の動向とそれによる米国内在庫の変化という点で非常に注目されている。前年比で見た輸出量の増
減や、世界最大の大豆輸入国・消費国である中国向けの大口輸出成約のニュースに価格が反応することもあるので、
USDA が公表している「週間輸出検証高」や「週間輸出成約高」を確認する必要がある。
3)在庫動向
全体的な大豆在庫の推移は、USDA が四半期ごとに公表している「全米穀物在庫」で確認できる。8 月末の期末在
庫については、USDA が毎月公表している「世界農産物需給予測」で見通しを確認することができる。
期末在庫を消費量で除した「期末在庫率(Stock to use ratio)」は重要な判断材料であり、大豆は 10%から
15%が適正水準で、10%を下回ると逼迫状況にあるといわれている。
(2)中国の需給
中国は、大豆ミール需要の増加と大豆油需要の増加に牽引されて、2008/09 年に米国を抜いて世界最大の大豆
消費国となった。中国は、自給政策を掲げるとうもろこしとは異なり、大豆の自給を諦めたため輸入量が増加している。
中国は、大豆の輸入を米国、ブラジル、アルゼンチンの 3 カ国にほぼ 100%依存しており、中国の輸入動向が大豆価格
に与える影響は大きい。
また、中国は国内の食用油高騰への対応等で、大豆の国家備蓄放出を行うことがあり、このようなニュースが流れると
大豆価格の下落要因になる。
(3)南米の需給
南半球に位置する南米は、北半球の米国とは生育サイクルが逆になるため、米国の出来秋以降の需給相場期が南
米にとっての天候相場期にあたる。世界の大豆需要が拡大する中で、南米のブラジルとアルゼンチンを合わせた大豆生
産量と輸出量は、世界全体の約 50%に相当することから、南米の天候相場期における天候と作柄に関する情報が価
格に影響を与える。
また、ブラジルでは、輸送インフラ及び港湾インフラの未整備による荷積みの遅延等の問題が発生しており、これらのニュ
ースは大豆価格の上昇要因になる。
(3)日本の需給
日本の大豆需要は減少している。特に、製油用需要は国内圧搾量が 200 万トンを下回るまで減少している。また、
米国産のシェアが低下する一方でブラジル産のシェアが増加している。
56
食品用大豆は依然として 90 万トン強あるが、ほぼ全量が非遺伝子組換え大豆が用いられている。
3. 天候要因
大豆の生育を占う上で重要なポイントは以下のとおり。
① 作付け時の長雨
作付け時に低温多雨型の天気が続くと、作付け作業がはかどらず、その後の生育日数を制約することになる。作
付けが遅れると発芽が遅れ、着莢数も減少し、単収の低下につながる。農家は、開花期が夏場の高温・乾燥を
避けるよう、とうもろこしと同様に作付けを早める傾向にある。
② 夏場の気温・降水量
大豆の最も重要な生育ステージである 7 月から 8 月にかけての「開花・着莢期」に高温・乾燥の干ばつに見舞わ
れると、ストレスによって開花・受粉が阻害され、落花現象がおこり着莢不良を招いて単収が低下する。特に 8 月
の降水量は単収に大きな影響を与える。
③ 秋の早霜と収穫時の長雨
8 月末から 9 月初旬の早霜は大豆の生育を阻害し、未熟粒のままでの刈り取りを余儀なくされるリスクを伴う。ま
た、収穫時に雨が続くと、収穫ロスの発生や品質の低下につながる。
3. バイオディーゼル需要
とうもろこしのエタノール需要ほど目立たないが、大豆にもバイオディーゼル需要がある。エタノールはガソリンと混合される
のに対し、バイオディーゼルは石油ディーゼルと混合される。
米国は、安全保障上の観点から、エネルギー自給化政策を推進する目的で「2005 年エネルギー政策法(Energy
policy act of 2005)」を成立させた。これにより、バイオエタノールやバイオディーゼルなどの再生可能燃料の使用を義
務付ける「再生可能燃料基準(RFS)」が設定された。現在では、米国における大豆油消費量の約 27%はバイオデ
ィーゼル向けに消費されている。
また、米国以外でも、南米のブラジル及びアルゼンチンにおいて、バイオディーゼルの生産量が増加している。
4. 為替及びフレート
(1)輸入大豆換算価格
(CBOT 大豆+C&F プレミアム)×ブッシェル/トン換算×為替×CIF 係数
上記は、日本が米国から大豆を輸入する際の換算式であるが、2015 年 10 月 29 日時点のデータ(下記①から
⑤)を用いると以下のように計算できる。
① CBOT 大豆:$8.82/bu
② C&F プレミアム(FOB プレミアム+フレート):$1.52/bu(=$0.82+$0.7)
・
FOB プレミアム :$0.7/bu
・
フレート :$30/トン=$0.82/bu(=$30÷36.7454bu)
③ ブッシェル/トン換算 : 36.7454 (1bu=27.2155kg)
④ 為替:121 円
57
⑤
CIF 係数(保険等):1.05
輸入換算価格:($8.82+$1.52)×36.7454×121 円×1.05=48,272 円/トン
なお、この輸入大豆換算式において、CBOT 大豆価格以外の諸条件が一定だとすると、CBOT 大豆価格の 10 セン
トの値上がりは、約 467 円/トンの値上がり要因になる。
(2)為替
大豆の国際取引はドル建てで行われているため、ドル安になると米国産大豆の価格競争力が増して米国産大豆に対
する需要が強まりドル建て大豆価格の上昇要因となる。
一方、大豆を輸入する日本から見ると、ドル安(円高)は円建て価格の下落要因となる。TOCOM の一般大豆先
物価格は円建てで取引されているため、他の条件に大きな変化がなければ、円建て大豆価格にとってドル安(円高)
は価格下落要因、ドル高(円安)は価格上昇要因になる。
なお、上記(1)の輸入大豆換算式において、為替以外の諸条件が一定だと仮定すると、1 円の円安は約 399 円/
トンの値上がり要因になる。
(3)フレート
日本は、輸入の多くを米国に依存している。米国から日本へはパナマックス型と呼ばれる 5 万 5000 トン級の本船とハ
ンディマックスと呼ばれる 4 万 8000 トン級の本船で大豆が運ばれる。この運賃が高くなると TOCOM のとうもろこし価格
にとって上昇要因となる。
なお、上記(1)の輸入大豆換算式において、フレート以外の諸条件が一定だとすると、1 ドル/トンのフレートの値上
がりは約 127 円/トンの値上がり要因になる。
5. 投資ファンドの動向
株式や債券等の伝統的投資資産と異なるリターンを生むオルタナティブ投資の運用先として商品先物市場にも投資
資金が配分されている。商品先物取引で運用するファンドには、商品投資顧問業者(CTA)、ヘッジファンド、商品イ
ンデックスファンドなどがあり、大豆市場にもこれらのファンド資金が流入している。
2006 年から 2008 年にかけてエネルギー価格や食糧価格が急上昇した際に注目を集めたのが商品インデックスファン
ドである。商品インデックスファンドは、債券や株式の価格変動とは独立して、インフレ・リスクをヘッジできる運用資産とし
て急速に認知され、運用規模の拡大に伴い、2008 年には主要な農産物先物市場の建玉の 25%から 35%を占めて
いたといわれている。商品インデックスファンドがベースとする主要な商品インデックスとしては、S&P GSCI Commodity
Index、Thomson Reuters/Jefferies CRB Commodity Index、Dow Jones-UBS Commodity Index、
Rogers International Commodity Index などがあり、それぞれ、インデックスに組み込む商品数やその組入れ比率
が異なっている。各商品インデックスにおける大豆の直近の組入れ比率は以下のとおり。
58
表 28 主要商品インデックスと大豆組入れ比率
主要商品インデックス
大豆組入れ比率
S&P GSCI Commodity Index
2.85%
Thomson Reuters/Jefferies CRB Index
6.0%
Dow Jones-UBS Commodity Index
5.6839430%
Rogers International Commodity Index
3.50%
商品インデックスファンドの運用リターンは、『スポットリターン(原資産である先物価格の価格変動から生じるリターン。
商品インデックスファンドは基本的に「買い」を行うので、価格が上がれば益、下がれば損になる)』、『ロールリターン(限
月をロールオーバーする際に、限月間の価格差から生じるリターン。順鞘は損、逆鞘は益)』、『T-Bill リターン(証拠金
として用いた資金以外の預託資金を米国債で運用することによって得られるリターン)』、の 3 つの源泉から構成される。
商品インデックスファンドは、投資金額が大きいことに加え、長期に亘って建玉を保有する傾向があり、大豆の価格形成
において無視できない存在である。
CBOT の大豆市場におけるこれらのファンドの動向は、CFTC の建玉明細報告(COT)で入手することができる。
59
第 3 節 米国政府機関による提供情報と価格変動
第 1 項 米国農務省(USDA)報告と価格変動
穀物相場は、「需給に始まり需給に終わる」といわれる。需給予測は様々な調査機関からも公表されているが、情報
量と迅速度の両面で、USDA の報告書に勝るものはない。USDA の統計情報は膨大であり、とうもろこしや大豆の生育
ステージを含めて毎月のように様々な情報が提供されるが、相場にインパクトを与える重要性が高い情報として以下の報
告が挙げられる。
表 29:USDA の重要報告
公表データ名
1
2
3
4
5
6
7
重要度
世界需給予測(WASDE)
全米穀物在庫(Grain Stocks)
★★★
★★★★
作付意向面積(Prospective Planting)
最終確定面積(Acreage)
生育状況(Crop Progress)
輸出成約高(Export Sales)
輸出検証高(Grain Inspection)
★★★★
★★★★
★★★
★★
★★
発表頻度
毎月 10 日頃
年4回
1 月中旬,3 月末,6 月末,9 月末
年 1 回、3 月末
年 1 回、6 月末
4 月~11 月、毎週月曜
毎週木曜、必要に応じて随時
毎週火曜
表 30:とうもろこしの生育ステージと USDA の重要情報発表時期
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月 11 月 12 月
播種・発芽
タッセリング
シルキング
受粉
米国
ミルク
ドウ
デント
成熟
収穫
世界需給予測 ●
● ▲ ●
●
全米穀物在庫 ●
●
作付意向面積
●
●
●
●
●
最終確定面積
生育状況
●
●
●
●
●
●
作付進捗率
収穫進捗率
作況
輸出成約高
毎週木曜日、必要に応じて随時
輸出検証高
毎週月曜日
60
●
表 31:大豆の生育ステージと USDA の重要情報発表時期
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月 11 月 12 月
播種発芽
開花
米国
着莢
収穫
播種・発芽
開花
ブラジル
着莢
収穫
世界需給予測 ●
● ▲ ●
●
全米穀物在庫 ●
●
作付意向面積
●
●
●
●
●
●
●
最終確定面積
●
●
●
●
作付進捗率
生育状況
●
収穫進捗率
作況
輸出成約高
毎週木曜日、必要に応じて随時
輸出検証高
毎週月曜日
1. 世界需給予測(WASDE、World Agricultural Supply and Demand Estimates)
発表機関:World Agricultural Outlook Board (世界農業需給予測委員会、WAOB)
URL :http://www.usda.gov/oce/commodity/wasde/
発表頻度:月次
発表日 :毎月 10 日(休日の関係で 2、3 日ずれることがある)
原則として毎月 10 日に発表。世界及び米国の小麦、とうもろこし、大豆、大豆粕、大豆油、粗粒穀物、コメ、砂糖、
畜産物、綿花などの最新予測が掲載されており、統計の信頼性が高いので、世界中の市場関係者が注目している。5
月の世界農産物需給予測からは、その年に収穫予定の新穀の需給予測が公表される。この 5 月以外にも、特に以下
の月の情報が重要である。
月
1月
5月
7月
8月
9月
10 月
11 月
内容
前年の秋収穫された穀物の最終確定生産高が発表される。
新穀の需給予測が発表され、単収の傾向値が示される。(3 月発表の作付意向面積に基づく生
産予測)
6 月発表の確定面積に基づく生産予測が発表になる。
とうもろこしの受粉が終わるので、とうもろこしのおおよその生産高の見通しがつけられる。
とうもろこしの受粉期と登熟期が終わり、大豆の開花・着莢の時期が終盤に差しかかるので、実際
の単収に近い生産見通しが示される。
とうもろこしや大豆の収穫が進み、実際の単収が生産見通しに反映される。
とうもろこしや大豆の収穫が概ね終了しているため、かなり正確な生産見通しが発表される
61
生産量は面積に単収を乗じて計算することが出来る。USDA による、とうもろこしや大豆の生産量見通しに用いられ
る面積や単収は以下の通り・
【面積】

5 月と 6 月の予測では 3 月末に公表された作付意向面積が基礎。

7 月以降は 6 月末に公表された最終確定面積が基礎。
【単収】

5 月から 7 月までは机上計算モデルを使った単収見通しが用いられる。

8 月以降は中西部の主要生産州での実地調査の結果に基づく単収が用いられる。
2. 全米穀物在庫(Grain Stocks)
発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1 079
発表頻度:年 4 回(1 月、3 月、6 月、9 月)
発表日 :1 月中旬、3 月末、6 月末、9 月末
USDA は、とうもろこし、大豆、小麦等の全米穀物在庫を年 4 回(1 月、3 月、6 月、9 月)発表している。これは、
3 月、6 月、9 月、12 月の各月の前半 2 週間に、それぞれの月の 1 日現在の生産者在庫及び非生産者在庫に関し
て行った調査結果をまとめたものである。3 月、6 月、9 月はそれぞれ月末に発表しているが、12 月の在庫は月末が年
末年始に重なることから 1 月に発表している。
この調査において、とうもろこしや大豆は 9 月、小麦は 6 月の全米穀物在庫が前穀物年度の期末在庫の確定値、つ
まり当穀物年度の期初在庫となる。
全米穀物在庫は四半期という節目での在庫確認であり、生産者の販売状況や消費動向の目安となる重要な役割
を果たす。
3. 作付意向面積(Prospective planting)
発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=113 6
発表頻度:年 1 回
発表日 :毎年 3 月末
USDA は 3 月末にとうもろこし、大豆、小麦、コメ、綿花等についての生産者の作付け意向面積を発表する。これは、
3 月初めに全米各地の 8 万 3500 戸以上の生産者に対して行った、3 月 1 日時点の生産者の作付け意向面積調
査をまとめたもので、その後の生産者の作付け変更の参考になる。
注意すべきは、作付意向面積と実際の作付面積は 4 月中旬から 5 月末までの作付け期の天候と価格関係によって
変わる可能性があることである。4 月に好天が続き、作付けが順調に進んでいるところへとうもろこし価格の上昇が加われ
ばとうもろこしの作付けが増加する。逆に 4 月中旬から 5 月上旬まで長雨に見舞われて作付けが遅れているところへ大
豆価格の上昇が重なれば、単収低下リスクの大きいとうもろこしの作付けを諦め大豆に転換する動きが出てくる。
この 3 月末の作付け意向面積の発表を受けて、4月から本格的な天候相場が始まる。
4. 最終確定面積(Acreage)
62
発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1 000
発表頻度:年 1 回
発表日 :毎年 6 月末
USDA は、6 月末に、とうもろこし、大豆、小麦、コメ、綿花等の作付面積について最終確定面積を発表する。これは、
6 月前半 2 週間において、調査官が全米約 9900 箇所、7 万戸以上の生産者に対して行った調査結果をまとめたも
のである。4 月以降の天候及び価格変動により、3 月末の作付け意向面積に対してどの程度の乖離が生じたのかが注
目される。
最終確定作付面積に対する収穫面積の比率を収穫率と呼ぶ。一般に米国における収穫率は、とうもろこしが
92.0%、大豆が 98.6%、小麦が 84.4%程度である。最終確定作付面積がわかれば、収穫率を乗じることにより収
穫面積を予想することが出来る。そして、この予想収穫面積に予想単収を乗じることで予想生産量を算出することがで
きる。なお、USDA の世界農産物需給予測では、5 月及び 6 月は作付意向面積を基に予想生産量を算出するが、7
月以降の需給予測はこの最終確定面積を基にして算出される。
5. 生育状況(Crop Progress)
発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1 048
発表頻度:毎週(ただし、生育期である 4 月から 11 月まで)
発表日 :毎週月曜日
USDA は 4 月から 11 月末まで 8 カ月余りにわたって、毎週月曜日にとうもろこしや大豆等の作付進捗率、開花率、
収穫率等のデータのほか、作況(5 段階評価)や土中水分等を発表している。
(1)作付け進捗率(Corn Planted、Soybean Planted)
USDA は、とうもろこしについては 4 月中旬から 6 月中旬まで、大豆については 5 月上旬から 6 月下旬までの毎週月
曜日に、主要生産州における発表日前日(日曜日)時点の作付け進捗率を発表する。
とうもろこしは平年であれば 5 月 10 日までに 75%以上が作付けされることが望ましいとされており、5 月 11 日以降に
作付けされるとうもろこしは1日遅れるごとに単収が少しずつ減少するといわれている。播種が早めに終わると収穫までの
全ての段階において天候からの悪影響を避けることができる。大豆は 5 月 25 日までに 85%以上作付けが終了すること
が望ましいとされている。
作付進捗率の発表に続いて発芽率(Corn Emerged、Soybean Emerged)も発表される。作付け終了後の
気温が高く、土中水分が多いときは発芽率が高くなり、逆に気温が低く土壌が乾燥しているときは発芽率が低くなる。
63
図 27 作付進捗状況と単収(とうもろこし)
進捗率(%)
100
作付進捗状況と単収(とうもろこし)
bu/エーカー
200
6月4週
6月3週
80
180
6月2週
6月1週
5月5週
60
160
5月4週
5月3週
5月2週
40
140
5月1週
4月4週
20
120
4月3週
4月2週
4月1週
0
100
2010
2011
2012
2013
2014
単収
2015
図 28 作付進捗状況と単収(大豆)
進捗率(%)
100
作付進捗状況と単収(大豆)
bu/エーカー
50
6月4週
6月3週
80
48
6月2週
6月1週
5月5週
60
46
5月4週
5月3週
5月2週
40
44
5月1週
4月4週
20
42
4月3週
4月2週
4月1週
0
40
2010
2011
2012
2013
2014
単収
2015
(2)収穫進捗率(Corn Harvested、Soybean Harvested)
とうもろこしは 8 月下旬、大豆は 9 月上旬から、収穫進捗率(Corn Harvested)が発表される。
アメリカ最南部では 8 月半ばから少しずつとうもろこしや大豆の収穫が始まるが、中西部の穀倉地帯で大豆の収穫作
業が本格化するのは 9 月 20 日以降で、10 月半ばには概ね終了し、とうもろこしは 10 月 5 日以降に収穫作業が本
格化して、11 月半ばまでに概ね終了する。
米国の生産者は大豆の収穫をとうもろこしに優先させる。大豆は収穫期に鞘が乾燥し過ぎると弾けて豆が地面にこぼ
64
れ落ちて収量が落ちるのに対し、とうもろこしは 1 週間や 2 週間収穫作業が遅れても収量が減少する心配がないからで
ある。
(3)作況(Corn Condition、Soybean Condition)
とうもろこしは作付け終了後の 6 月上旬から 10 月下旬、大豆は 6 月中旬から 10 月上旬にかけて発表日の前日
(日曜日)時点の作況指数が発表される。
作柄を「大変良い(Excellent)」、「良い(Good)」、「普通(Fair)」、「悪い(Poor)」、「大変悪い(Very
Poor)」の5段階に分けて評価し、それぞれが全体でどれくらいの割合になっているかを表すもので、「大変良い」と「良
い」を合計して 60%を上回るときは豊作になることが多く、「悪い」と「大変悪い」を合計して 35%を超えるときは不作に
なる傾向がある。ただし、作況は作柄のおおよその目安を示すに過ぎず、必ずしも予想収量と密接な関係があるわけで
はない。
6.輸出動向
とうもろこし、大豆ともに輸出動向が「週間輸出検証高」及び「週間輸出成約高」として USDA から発表されている。
輸出は需要の大きな項目の一つであり、長期の動向とそれによる米国内在庫の変化という点で非常に注目されている。
(1)輸出成約高(U.S. Export Sales Reports)
米国の輸出業者には輸出成約の報告が義務付けられており、虚偽報告には罰則規定もあるので信頼度は高い。ま
た万が一、輸出禁止措置が発動された場合、登録済みであれば、既契約の保護(損失補填を含め)の対象となるメ
リットがある。
輸出成約高報告には、大口成約だけを対象とした日次ベースのものと、大口、小口を問わず過去 1 週間の全ての輸
出成約を対象とした週間ベースのものがある。
① 大口成約高(デイリー)
発表機関:Foreign Agricultural Service (海外農業局、FSA)
URL: http://www.fas.usda.gov/newsroom
発表頻度:大口成約があった都度
発表日 :報告日の翌営業日の朝 9 時
同一輸出業者が、同一仕向地の輸出について、穀類では 10 万トン、製品では 2 万トンを超える成約をした場合、
大口成約として 24 時間以内の報告が義務付けられている。15 時までに報告された大口成約は翌営業日の 9 時に海
外農業局のホームページの「ニュースルーム」で公表される。
②週間輸出成約高(ウィークリー)
発表機関:Foreign Agricultural Service (海外農業局、FSA)
URL: http://www.fas.usda.gov/export-sales/esrd1.asp
発表頻度:毎週
発表日 :毎週木曜日
毎週木曜日に、先々週の金曜日から先週木曜日までの1週間の全ての輸出成約高が、商品(銘柄)ごと、穀物
65
年度ごと、仕向地別、新規契約、キャンセル量、成約残高・既船積の区分付きで公表される。輸出進捗の先行指標と
して利用される
図 29 輸出成約高と USDA 発表輸出量
輸出成約高とUSDA発表輸出量
(とうもろこし)
千トン
60,000
14年週間成約高(右軸)
14年成約高累計(左軸)
13年週間成約高(右軸)
USDA7月発表値
13年成約高累計(左軸)
千トン
4,500
4,000
50,000
3,500
3,000
40,000
2,500
30,000
2,000
1,500
20,000
1,000
500
10,000
0
0
4-Sep
(500)
4-Oct
4-Nov
4-Dec
4-Jan
4-Feb 4-Mar
4-Apr
4-May
4-Jun
4-Jul
4-Aug
(2)輸出検証高(Grain Inspected for export)
発表機関:Agricultural Marketing Service (農業マーケティングサービス、AMS)
URL: http://www.ams.usda.gov/mnreports/wa_gr101.txt
発表頻度:毎週
発表日 :毎週月曜日
毎週月曜日に、先々週金曜日から先週木曜日までの1週間の輸出検査数量(実質的な輸出数量)が発表され
る。米国からの農産物輸出には、法律で最終輸出時点での品質と重量の検査が義務付けられており、商品ごとの集計
が公表されている。個々の銘柄別に、船積地域別、仕向地別に発表されるので、輸出市場や現物市場の動きを把握
するのに不可欠な資料である。足元の輸出量、積み込み占有度を図る指標として利用される。
7. 週間天候及び作柄報告(Weekly Weather and Crop Bulletin、WWCB)
発表機関:米国商務省、農務省、米国海洋大気庁
URL: http://www.usda.gov/oce/weather/pubs/Weekly/Wwcb/
発表頻度:毎週
発表日 :毎週火曜日
66
天候推移と土壌水分などの生育環境に関する全米各州の詳細が「週間天候及び作柄報告」として毎週火曜日に公
表される。世界各地の天候推移が含まれるほか、月次での総括報告もある。
USDA から需給統計の数字が公表されると、それらを見た市場の参加者が穀物需給の方向性をつかむことで穀物相
場は動き出す。しかし、実際にとうもろこし価格や大豆価格を大きく動かすドライバーとなっているのは USDA の発表数字
そのものよりも、「USDA 発表数値に対する事前予想と USDA が発表した数値の乖離」、即ち「予想と実際の乖離」とい
える。
特に、世界需給予測(期末在庫等)、全米穀物在庫、作付意向面積、最終確定面積等の重要情報については、
USDA の発表の数日前に、Informa 社などの民間調査会社や投資銀行、穀物商社系商品取引会社等のアナリスト
が独自の調査に基づき事前予想を行い、ロイターやブルームバーグなどの通信社がそれらのアナリスト予測を集計したもの
を公表している。また、 2014 年 11 月からは、日本においても商品先物取引業者各社の農産物アナリストによって構
成される「農産物アナリストの会」が同様の事前予想を開始し、日本商品先物振興協会のホームページにおいて公表し
ている。
図 30:ブルームバーグにおけるアナリスト事前予想
図 31:「農産物アナリストの会」による事前予想:日本商品先物振興協会 HP
https://www.jcfia.gr.jp/shouhin/agri_forecast/
67
このような事前予想を通じて相場のコンセンサスが形成されるが、事前予想と USDA の発表数字に大きな乖離が見ら
れる場合、CBOT や TOCOM で大きな価格変動が発生する可能性がある。したがって、全米穀物在庫の発表日(年
4回、1 月中旬、3 月末、6 月末、9 月末)、作付意向面積の発表日(年1回、3月末)、最終確定面積の発表
日(年1回、6月末)、世界需給予測の発表日(毎月 10 日頃)などは普段よりも価格が大きく動く可能性が高
い。
全米穀物在庫は年 4 回発表されるが、1 月の発表日は世界需給予測、3 月の発表日は作付意向面積、6 月の
発表日は最終確定面積の発表日とも重なることもあって、過去の例を見ても大きな価格変動が見られる傾向がある。
下表は、全米穀物在庫発表日における CBOT と TOCOM のとうもろこしの価格変動(前日比)を示したものだか、
2010 年 1 月から 2015 年 9 月の 20 回の発表のうち、CBOT のとうもろこしでは中心限月である期近限月において
7回のストップ高・安が発生しており、TOCOM においても、中心限月である期先限月では 1000 円を超える価格変動
が5回も発生している。
また、3月と6月の全米穀物在庫発表については他にも注意すべき点がある。全米穀物在庫は、前年の秋に収穫さ
れたとうもろこしや大豆、即ち旧穀がどのように消費されて残っているかを表しているため、期近限月の価格に大きな影響
を与える。一方、同時に発表される作付意向面積(3 月)や最終確定面積(6 月)は、まだ収穫されていない新穀
限月(とうもろこし:CBOT12 月限、TOCOM1 月限、大豆:CBOT11 月限、TOCOM12 月限)の価格に影響を
与える。もちろん、新穀限月の価格も足元の在庫の影響を受けるものの、2012 年6月のとうもろこしのように、時として、
期近限月は足元の需給逼迫を反映して値上がりしているにもかかわらず、新穀限月は作付面積の増加(将来の供給
増加)が嫌気されて値下がりすることもある。
表 32 全米穀物在庫の発表日と価格変動(とうもろこし)
全米穀物在庫(とうもろこし、百万bu)
発表日(現地)
USDA発表値
事前予想平均
CBOTとうもろこし(セント/bu)
乖離
(実際-予想)
取引日
期近
(前日比)
新穀(12月限)
(前日比)
2010年12月1日分
2011年3月1日分
2011/1/12
2011/3/31
10,040
6,523
10,063
-23
12.00
-165
2011/1/12
2011/3/31
24.00
6,688
30.00
30.00
2011年6月1日分
2011/6/30
3,670
3,290
380
2011/6/30
-69.00
2011年9月1日分
2011/9/30
1,128
942
186
2011/9/30
-40.00
2011年12月1日分
2012/1/12
9,642
9,439
203
2012/1/12
2012年3月1日分
2012/3/30
6,023
6,164
-141
2012年6月1日分
2012/6/29
3,148
3,168
2012年9月1日分
2012/9/28
989
2012年12月1日分
2013/1/11
8,033
2013年3月1日分
2013/3/28
5,400
4,995
2013年6月1日分
2013/6/28
2,766
2013年9月1日分
2013/9/30
821
2013年12月1日分
2014/1/10
10,426
2014年3月1日分
2014/3/31
7,006
2014年6月1日分
2014/6/30
3,854
TOCOMとうもろこし(前日比、円/t)
取引日
期近
(前日比)
期先
(前日比)
2011/1/13
2011/4/1
300
550
2,310
1,490
-30.00
2011/7/1
-1,620
-1,930
-17.75
2011/10/3
-570
-1,160
-40.00
-21.50
2012/1/13
850
-640
2012/3/30
40.00
16.00
2012/4/2
1,060
560
-20
2012/6/29
20.50
2.50
2012/7/2
420
370
1,145
-156
2012/9/28
40.00
21.75
2012/10/1
2,000
1,240
8,219
-186
2013/1/11
10.00
-7.00
2013/1/15
1,000
210
405
2013/3/28
-40.00
-32.50
2013/3/29
-1,980
-1,270
2,862
-96
2013/6/28
12.00
-27.50
2013/7/1
-950
-940
694
127
2013/9/30
-12.50
-11.25
2013/10/1
-270
-250
10,764
-338
2014/1/10
20.75
17.00
2014/1/14
150
340
7,098
-92
2014/3/31
10.00
11.00
2014/4/1
980
630
3,723
131
2014/6/30
-18.75
-22.00
2014/7/1
-1,010
-920
-280
2014年9月1日分
2014/9/30
1,236
1,191
45
2014/9/30
-5.00
-4.00
2014/10/1
-290
2014年12月1日分
2015/1/12
11,203
11,138
65
2015/1/12
1.75
4.50
2015/1/13
0
490
2015年3月1日分
2015/3/31
7,745
7,609
136
2015/3/31
-18.25
-17.50
2015/4/1
-1,000
-770
2015年6月1日分
2015/6/30
4,447
4,557
-110
2015/6/30
30.75
29.25
2015/7/1
1,150
950
2015年9月1日分
2015/9/30
1,731
1,739
-8
2015/9/30
-1.25
1.25
2015/10/1
1,230
-40
世界需給報告も同時に発表
作付意向面積も同時に発表
最終確定作付面積も同時に発表
68
表 33 作付意向面積の発表日と価格変動(とうもろこし)
作付意向面積(とうもろこし、百万エーカー)
発表日(現地)
USDA発表値
事前予想平均
CBOTとうもろこし(セント/bu)
乖離
(実際-予想)
取引日
期近
(前日比)
TOCOMとうもろこし(前日比、円/t)
新穀(12月限)
(前日比)
期近
(前日比)
取引日
期先
(前日比)
2011年3月1日分
2011/3/31
92,178
91,751
427
2011/3/31
30.00
30.00
2011/4/1
2,310
2012年3月1日分
2012/3/30
95,864
94,673
1,191
2012/3/30
40.00
16.00
2012/4/2
1,060
1,490
560
2013年3月1日分
2013/3/28
97,282
97,339
-57
2013/3/28
-40.00
-32.50
2013/3/29
-1,980
-1,270
2014年3月1日分
2014/3/31
91,691
93,000
-1,309
2014/3/31
10.00
11.00
2014/4/1
980
630
2015年3月1日分
2015/3/31
89,199
88,834
365
2015/3/31
-18.25
-17.50
2015/4/1
-1,000
-770
表 34 作付意向面積の発表日と価格変動(とうもろこし)
最終確定面積(とうもろこし、百万エーカー)
発表日(現地)
USDA発表値
CBOTとうもろこし(セント/bu)
事前予想平均
乖離
(実際-予想)
取引日
期近
(前日比)
新穀(12月限)
(前日比)
TOCOMとうもろこし(前日比、円/t)
取引日
期近
(前日比)
期先
(前日比)
2011年6月1日分
2011/6/30
92,282
90,629
1,653
2011/6/30
-69.00
-30.00
2011/7/1
-1,620
2012年6月1日分
2012/6/29
96,405
95,878
527
2012/6/29
20.50
2.50
2012/7/2
420
-1,930
370
2013年6月1日分
2013/6/28
97,379
95,431
1,948
2013/6/28
12.00
-27.50
2013/7/1
-950
-940
2014年6月1日分
2014/6/30
91,641
91,709
-68
2014/6/30
-18.75
-22.00
2014/7/1
-1,010
-920
2015年6月1日分
2015/6/30
88,897
89,136
-239
2015/6/30
30.75
29.25
2015/7/1
1,150
950
表 35 全米穀物在庫の発表日と価格変動(大豆)
全米穀物在庫(大豆、百万bu)
発表日(現地)
USDA発表値
CBOT大豆(セント/bu)
事前予想平均
乖離
(実際-予想)
取引日
期近
(前日比)
TOCOM一般大豆(円/t)
新穀(12月限)
(前日比)
取引日
期近
(前日比)
期先
(前日比)
2010年12月1日分
2011/1/12
2,277
2,336
-59
2011/1/12
58.50
35.00
2011/1/13
360
980
2011年3月1日分
2011/3/31
1,249
1,291
-42
2011/3/31
38.25
31.50
2011/4/1
690
1,270
2011年6月1日分
2011/6/30
619
592
27
2011/6/30
-28.00
-29.00
2011/7/1
-930
-530
2011年9月1日分
2011/9/30
215
224
-9
2011/9/30
-51.00
-51.00
2011/10/3
-1,700
-1,600
2011年12月1日分
2012/1/12
2,366
2,319
47
2012/1/12
-19.00
-16.00
2012/1/13
-500
-380
2012年3月1日分
2012/3/30
1,372
1,375
-3
2012/3/30
47.50
53.25
2012/4/2
700
1,680
2012年6月1日分
2012/6/29
667
635
32
2012/6/29
46.75
24.25
2012/7/2
650
760
2012年9月1日分
2012/9/28
169
130
39
2012/9/28
30.25
30.25
2012/10/1
2,990
670
2012年12月1日分
2013/1/11
1,966
1,981
-15
2013/1/11
7.25
-15.75
2013/1/15
-1,190
710
2013年3月1日分
2013/3/28
999
948
51
2013/3/28
-49.00
-26.75
2013/3/29
-160
-600
2013年6月1日分
2013/6/28
435
448
-13
2013/6/28
16.00
-23.25
2013/7/1
-50
0
2013年9月1日分
2013/9/30
141
127
14
2013/9/30
-37.00
-37.00
2013/10/1
-1,800
-420
2013年12月1日分
2014/1/10
2,148
2,158
-10
2014/1/10
7.50
-1.25
2014/1/14
1,530
-300
2014年3月1日分
2014/3/31
992
987
5
2014/3/31
27.50
-3.25
2014/4/1
-1,490
660
2014年6月1日分
2014/6/30
405
382
23
2014/6/30
-31.5
-70.75
2014/7/1
-400
-1,560
-630
2014年9月1日分
2014/9/30
92
131
-39
2014/9/30
-10.25
-10.25
2014/10/1
-3,580
2014年12月1日分
2015/1/12
2,524
2,599
-75
2015/1/12
-38.00
-25.75
2015/1/13
1,650
-90
2015年3月1日分
2015/3/31
1,334
1,348
-14
2015/3/31
5.50
6.00
2015/4/1
-10
310
2015年6月1日分
2015/6/30
625
679
-54
2015/6/30
-12.25
57.25
2015/7/1
870
1,290
2015年9月1日分
2015/9/30
191
208
-17
2015/9/30
7.75
6.00
2015/10/1
-600
860
世界需給報告も同時に発表
作付意向面積も同時に発表
最終確定作付面積も同時に発表
69
表 36 作付意向面積の発表日と価格変動(大豆)
作付意向面積(大豆、百万エーカー)
発表日(現地)
USDA発表値
CBOT大豆(セント/bu)
乖離
事前予想平均
(実際-予想)
取引日
期近
(前日比)
TOCOM一般大豆(円/t)
新穀(12月限)
(前日比)
取引日
期近
(前日比)
期先
(前日比)
2011年3月1日分
2011/3/31
76,609
76,786
-177
2011/3/31
38.25
31.50
2011/4/1
690
1,270
2012年3月1日分
2012/3/30
73,902
75,414
-1,512
2012/3/30
47.50
53.25
2012/4/2
700
1,680
2013年3月1日分
2013/3/28
77,126
78,351
-1,225
2013/3/28
-49.00
-26.75
2013/3/29
-160
-600
2014年3月1日分
2014/3/31
81,493
81,162
331
2014/3/31
27.50
-3.25
2014/4/1
-1,490
660
2015年3月1日分
2015/3/31
84,635
85,949
-1,314
2015/3/31
5.50
6.00
2015/4/1
-10
310
表 37 作付意向面積の発表日と価格変動(大豆)
最終確定面積(大豆、百万エーカー)
発表日(現地)
USDA発表値
CBOT大豆(セント/bu)
乖離
事前予想平均
(実際-予想)
取引日
期近
(前日比)
TOCOM一般大豆(円/t)
新穀(12月限)
(前日比)
取引日
期近
(前日比)
期先
(前日比)
2011年6月1日分
2011/6/30
75,208
76,487
-1,279
2011/6/30
-28.00
-29.00
2011/7/1
-930
-530
2012年6月1日分
2012/6/29
76,080
75,377
703
2012/6/29
46.75
24.25
2012/7/2
650
760
2013年6月1日分
2013/6/28
77,728
75,377
2,351
2013/6/28
16.00
-23.25
2013/7/1
-50
0
2014年6月1日分
2014/6/30
84,839
82,213
2,626
2014/6/30
-31.5
-70.75
2014/7/1
-400
-1,560
2015年6月1日分
2015/6/30
85,139
85,332
-193
2015/6/30
-12.25
57.25
2015/7/1
870
1,290
世界需給予測は、原則として毎月 10 日に発表されるが、それに先立ち、ブルームバーグやロイター、「農産物アナリス
トの会」などから、それぞれの穀物年度ごとの「期末在庫」に関する事前予想が発表される。なお、「期末在庫」を予想す
るに当たっては、供給面(作付面積、単収、期初在庫等)及び需要面(とうもろこしの場合:飼料用、燃料用エタノ
ール用、輸出)の各項目を分析する必要がある。
このような事前予想と USDA の実際の発表数字に乖離があった場合、相場が大きく動くことがある。例えば、下の表
は 2015 年 8 月 12 日発表されたとうもろこしの世界需給予測であるが、2015/2016 産(新穀)の期末在庫予測
量は、単収の増加に伴う生産量の増加と輸出量の減少が飼料需要及びエタノール需要の増加を大幅に上回ったことに
より 7 月発表値(1599 百万 bu)に比べて 8 月発表値(1713 百万 bu)は大幅に増加(+114 百万 bu)し
た。一方、事前予想は、ブルームバーグが 1449 百万 bu、ロイターが 1424 百万 bu、農産物アナリストの会が 1567
百万 bu といずれも 7 月発表値比で下方修正されるというものであったため、USDA による期末在庫量の増加は大きな
サプライズとなって CBOT で前日比約 19 セント、TOCOM で 790 円と大幅な価格下落となった。
70
2013/14 2014/15 Est.
Corn
95.4
87.5
90.6
83.1
Yield per Harvested Acre
158.1
171
Beginning Stocks
Production
Imports
Supply, Total
Feed and Residual
Food, Seed & Industrial 2/
Ethanol & by-products 3/
Domestic, Total
Exports
Use, Total
Ending Stocks
Avg. Farm Price ($/bu) 4/
821
13829
36
14686
5030
6503
5134
11534
1920
13454
1232
4.46
1232
14216
30
15477
5300
6555
5200
11855
1850
13705
1772
3.65 - 3.75
Area Planted
Area Harvested
2015/16 Proj.
2015/16 Proj.
Jul(7月発表値) Aug(8月発表値)
Million Acres
88.9 *
88.9 作付面積
81.1 *
81.1 収穫面積
Bushels
166.8 *
168.8 単収
Million Bushels
1779
1772 期所在庫
13530
13686 生産量
25
30 輸入量
15334
15488 供給合計
5275
5300 飼料その他
6585
6625 食品・種子・産業用
5225
5250 エタノール
11860
11925 国内需要合計
1875
1850 輸出
13735
13775 需要合計
1599 ⇒ 1713 期末在庫
3.45 - 4.05
3.35 - 3.95 平均農家価格
表 38 世界需給予測における「期末在庫」の事前予想と発表後の価格変動
CBOTとうもろこし(セント/bu)
USDA
7月発表値
ブルームバーグ
ロイター
農産物アナリストの会
1599
事前予想 USDA
(平均) 8月発表値
1449
1424
1567
取引日
1713 2015/8/12
期近 (前日比)
-19.25
新穀(12月
限) (前日
比)
TOCOMとうもろこし(円/t)
取引日
-19.50 2015/8/13
期近 期先 (前日比)
(前日比)
830
-790
※8 月は、単収がそれまでの机上計算モデルによる予想値から実地調査に基づく調査結果の数値に変更されるため、
上記のように大幅に生産量や期末在庫量が変わることがある。
71
第 2 項 米国商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告と価格変動
1.
CFTC 建玉明細報告(Commitments of Traders report)
( http://www.cftc.gov/marketreports/commitmentsoftraders/index.htm )
発表機関:米国商品先物取引委員会(U.S. Commodity Futures Trading Commission、CFTC)
発表時期:毎週金曜日
商品価格は需給バランスに大きな影響を受けるが、短期的には需給要因以外の内部要因で動くことがある。その際に
注目されるのが、米国商品先物取引委員会(CFTC)が発表する「Commitments of Traders(COT、建玉明
細報告)」である。
米国では、取引参加者が先物あるいはオプションの少なくとも 1 限月において CFTC が規定する建玉報告枚数(とう
もろこし:250 枚、大豆:150 枚、粗糖:500 枚)以上の大口建玉を保有している場合は、その取引参加者が保
有している当該商品についての全建玉枚数を日々の取引終了時に CFTC に報告することになっている。
CFTC では、この大口建玉報告について、火曜日時点の報告内容を集計して COT として週 1 回(原則金曜日)
公表している。
なお、農産物については、現在3種類の COT が公表されている。
(1)伝統的な COT(Legacy Report)
従来から公表されている COT。「非当業者(Non-Commercial)」「当業者(Commercial)」、「報告不要者
(Nonreportable Postions)」の 3 つのカテゴリーに分類されている。
(2)COT 補足版(COT-Supplemental Report、CIT Report)
2007 年 1 月 5 日以降、商品インデックスファンドの実態を把握する目的で、とうもろこしや大豆などの農産物 12 商
72
品について公表しているもの。伝統的な COT の項目において、「当業者」に分類されていた「インデックストレーダー
(Index Trader)」を除いて別分類にしている。
分類項目
非当業者
説明
当業者、インデックストレーダー以外の大口投機家
農産物、畜産物の生産、加工、販売を行う現物業者、金融機関など保有する現
当業者
物のためのヘッジを行っている者
商品ファンド、年金基金、商品指数連動型の長期的運用を行う機関投資家、
インデックストレーダー
OTC 商品インデックスなどにおいて、年金基金などの買いに対して売りポジションを持
ち、そのヘッジのために先物市場で買いポジションを保有するスワップディーラー(ただ
し、商品インデックス取引を主に行っていないトレーダーは含まれない)
報告不要者
報告を要しない者
(3)COT 非集計版(Disaggregated COT)
2009 年 9 月 4 日以降、商品先物市場の透明性向上を目的とし、伝統的な COT の「当業者」から「スワップディー
ラー」を除いて別分類にしている。「生産者/販売業者/加工業者/ユーザー」、「スワップディーラー」、「マネージドマネー」、
「その他の報告者」、「報告不要者」の 5 つのカテゴリーに分類されている。
分類項目
説明
生産者/販売業者/加工業者
主な業として、現物の生産、加工、梱包、流通に従事し、これらの事業活動に付随
/ユーザー
するリスクを先物市場でヘッジまたは管理する者
コモディティ・スワップ取引に従事し、そのスワップ取引に付随するリスクを先物市場で
スワップディーラー
ヘッジまたは管理する者。スワップディーラーのカウンターパーティーは、ヘッジファンドの
ような投機家や現物取引から生じるリスクを管理する当業者などがある。
マネージドマネー
登録された CTA、CPO、または CFTC が確認している未登録ファンド。これらのトレー
ダーは、顧客の代理として組織的に先物取引の実行及び管理をしている。
その他の報告者
上記の 3 つの分類に属さない報告者
報告不要者
報告を要しない者
73
2.
CFTC 建玉明細報告と価格変動
COT は ト レ ー ダ ー が 注 視 し て い る 指 標 の 一 つ で あ り 、 従 来 の 「 伝 統 的 な COT 」 で は 、 非 当 業 者
(Non-Commercial)の建玉動向が注目されていた。非当業者は現物の受渡しがなく、いずれ手仕舞われることに
なるため、非当業者の「買い越し(ネットロング)ポジション」が過剰になると相場が天井を示して下落に転じ、「売り越し
(ネットショート)ポジション」が過剰になると相場が底を打って上昇に転じる可能性が高いと見られていた。
その後、インデックスファンドの市場に与える影響力が重視されるようになると、「COT 補足版」の中のインデックスファン
ドの建玉動向が注視されるようになった。
現在では、最も情報量が多い「COT 非集計版」を利用するトレーダーが多く、各分類項目における買建玉及び売建
玉の状況を確認している。なかでも、各分類項目のネット建玉(買い建玉-売り建玉)のうち、プロのトレーダーである
「マネージドマネー」のネット建玉動向は、相場の先行きを占う材料としてよく用いられている。
図 32 COT 非集計版における各分類項目の建玉状況(CBOT とうもろこし)
74
図 33 COT 非集計版におけるマネージドマネーのネット建玉と CBOT とうもろこし価格
図 34 COT 非集計版における各分類項目の建玉状況(CBOT 大豆)
75
図 35 COT 非集計版におけるマネージドマネーのネット建玉と CBOT 大豆価格
76
第 4 節 穀物流通と穀物取引
第 1 項 アメリカの穀物流通
1. アメリカの穀物流通
アメリカの農家は、収穫された穀物を近隣のカントリー・エレベーター(産地倉庫)に販売する。買い付けられた穀物は、
その後集散地にあるターミナル・エレベーターやリバー・エレベーターを経て、輸出港にあるエクスポート・エレベーターに運び
込まれて本船に積み込まれる。
穀物の輸送手段として、農場から近隣のカントリー・エレベーター、穀物加工工場、フィードロットなどへの短距離輸送に
は大型トラックなどが用いられる。一方、ターミナル・エレベーターやリバー・エレベーターからエクスポート・エレベーターなどへ
の長距離輸送には主に貨車とバージ(艀)が利用されている。
ミシシッピー河口の大穀物輸出基地であるルイジアナ州ニューオーリンズへはミシシッピー川の水運を利用して穀物をバ
ージ単位にまとめて運搬している。アメリカの西部太平洋岸のポートランド、カラマ、タコマ、シアトルにも穀物の輸出基地
があり、大量の穀物が日本、韓国、台湾、中国などへ積み出されている。この場合、穀物はユニット・トレイン(1 貨車
100 トン、110 両編成)と呼ばれる列車で中西部の穀倉地帯からロッキー山脈を越えて太平洋岸まで運ばれていく。
穀物の輸送は「規模の利益」を得ることが容易なので、輸送量が大量になればトン当たりの輸送コストはそれだけ安上
がりになる。
2. 海上輸送
ミシシッピー川の河口に位置するニューオーリンズのエクスポート・エレベーターで本船(穀物の海上輸送のほとんどは、
パナマックス型と呼ばれる 5 万 5000 トン級の本船とハンディマックスと呼ばれる 4 万 8000 トン級の本船が利用される)
に積み込まれた穀物は、メキシコ湾を南下してパナマ運河を通り、太平洋を横断して日本へ到着する。ニューオーリンズ
から日本までの航海日数は約 33 日である。
アメリカ西部太平洋岸のポートランドを出航した大型船もベーリング海を渡り、アリューシャン列島沿いを南下して日本
へ到着する。ポートランドから日本までの航海日数は約 17 日である。
ブラジルのサントス港で船積みされたとうもろこしは、大西洋を横切って東へ進み、喜望峰を回ってインド洋に入る。イン
ド洋を横断してマラッカ海峡を通過し、南シナ海を北上して日本へ到着する。航海日数は 42 日程度である。
アルゼンチンのブエノスアイレス港でとうもろこしを積み込んだ本船は、多くはブラジル大豆と同じ航路を通って日本へ到
着する。しかし、たまにマゼラン海峡を抜けて太平洋へ入り、太平洋を北上して日本へ到着することもある。その場合の航
海日数は 45 日程度である。
日本から南米までは距離が遠いため、海上運賃が値上がりすると価格競争力が失われやすいという問題点がある。
3. 海上運賃
日本向けの穀物の海上輸送の主力はパナマックス型の本船である。この型の本船の運賃は 2014 年 10 月には、ニュ
77
ーオーリンズ・日本間がトン当たり 46 ドルになっている。(ロングトンも用いられることがある。1 ロングトン=2240 ポンド、
1 ロングトン=1.016 メトリックトン)
海上運賃は 2002 年くらいまではおおむね 20 ドルから 24 ドルくらいの範囲であったが、中国の鉄鋼生産が急増による
原料の鉄鉱石と石炭輸入の急増により、船腹需給がタイトになり、2003 年春に 30 ドルを超えてから急速に値上がりし
始め 2007 年 10 月には 135 ドルと史上空前の値上がりを記録した。その後は、リーマンショックに伴う世界的な景気後
退による需要不振と船腹の供給過剰から値下がりした。
4. 穀物輸出の担い手
アメリカと世界の穀物輸出の担い手は穀物メジャーと呼ばれる大手穀物商社である。大手穀物商社は年間を通じて
農家から穀物を集荷、輸送し、価格競争力のある価格で世界市場へ供給している。世界の穀物取引は大手穀物商
社による寡占化が進んでいる。代表的な大手穀物商社にはカーギル、ADM、バンゲ、ルイ・ドレファスなどがある。大手穀
物商社は全米に穀物集荷網を張り巡らしている。その集荷網を通して穀物を集荷し、輸送し、販売し、輸出に回してい
る。大手穀物商社は世界中に販売拠点を持っており、これらの拠点を通して穀物を輸出している。なお、日本への輸送
については、総合商社や全農によって行われている。
大手穀物商社は穀物事業のほか、穀物加工事業や畜産業へ進出して経営の多角化を推し進めており、現在ではカ
ーギル、ADM、バンゲなどは世界的な搾油業者に成長している。なお、カーギルは全米屈指の製粉・畜産業者であり、
ADM は全米最大のエタノール製造業者でもある。
大手穀物商社は、1990 年代以降、大豆生産量が急拡大している南米に積極的な投資を開始した。輸出エレベー
ターを買収したり、建設したりしているだけではなく、生産地で集荷網を拡張し、地元企業と戦略的同盟を結ぶなどして
大豆の供給力を飛躍的に高めている。2000 年代以降、中国が世界最大の大豆輸入国になり、南米は中国向け大
豆の供給基地になっている。
なお、日本の総合商社も、アメリカの穀物商社の買収を行ったり、南米で穀物集荷網を拡大するなど存在感を高めて
いる。
78
第 2 項 穀物取引の実際
1. ベーシス価格とフラット価格
穀物取引ではある地点における現物価格を表現する方法が二つある。一つはフラット価格で現物価格を「$3.50/bu
(ブッシェル)」のように絶対価格で表現する方法であり、もう一つはベーシス価格で現物価格を「CBOT とうもろこし先
物 3 月限価格($3.00/bu)より$0.50/bu オーバー」のように「基準となる先物価格±α」として先物価格との価格差
で表現する方法である。
この現物価格と先物価格の価格差であるαはベーシスと呼ばれており、品質格差(等級格差等)、空間的格差(あ
る場所から先物市場で指定された受渡場所までの輸送コスト)、時間的格差(現在から先物市場で指定された受渡
日までに要する保管料及び金融費用)などが織り込まれている.米国では,各地のフラット価格、ベーシス価格、ベー
シスなどの情報が USDA や大学などから発表されており、農業関係者は経営判断の材料に利用している。
現物価格(フラット価格)-先物価格=ベーシス
現物価格(フラット価格)=先物価格+ベーシス
現物価格(フラット価格):$3.50/bu
分解
先物価格:CBOT とうもろこし先物 3 月限価格($3.00/bu)
ベーシス:$0.50/bu
ベーシス価格:CBOT とうもろこし先物 3 月限価格よりも$0.50/bu 上
($0.50/bu over CBOT March Corn futures)
2. 穀物取引と価格決定
米国の穀物取引において、集荷流通部門は厳しい集荷競争と価格リスクに晒されているため、農協や穀物商社など
の集荷流通業者は農産物先物市場を積極的に利用して価格リスクをヘッジするとともに、常に一定のマージンが確保で
きるように価格決定についても先物部分とベーシス部分を意識したオペレーションを行っている.
(1)フラット価格での集荷及び販売の例
生産地の集荷流通業者は、農家から穀物を確定価格で買い付けると直ちに買い付けた穀物に等しい量の先物を売
って値下がりリスクをヘッジする。このヘッジ行為はフラット価格を先物部分とベーシス部分に分解されたベーシス価格に変
換することにもなる。なお、このような生産地でのベーシスのことを「生産地ベーシス」と呼ぶ.
集荷流通業者が買い付けた穀物を顧客である加工業者にフラット価格で販売する場合も、その時点の先物価格と
販売先への輸送コストや販売マージンを加味した「販売ベーシス」を念頭に価格決定を行う。そして,実際に販売した時
に、買い付け時に売りヘッジしていた先物売りポジションを買い戻してヘッジを解除する。このようなオペレーションによる集
荷流通業者の利益は,販売時のフラット価格と買い付け時のフラット価格の差額に先物取引の損益を加えた額となる
が,これは「販売ベーシス」と「生産地ベーシス」の差額に等しくなる.
79
表 39.集荷流通業者の確定価格による集荷及び販売の例
農家
11/15
現物
売:$3.15/bu
集荷流通業者
現物
買:$3.15/bu
加工業者
先物
ベーシス
売:$3.35/bu
生:-$0.20/bu
売:$3.05/bu
11/25
損益
損:-$0.10/bu
現物
買:$3.05/bu
買:$3.00/bu
販:+$0.05/bu
益:+$0.35/bu
計:+$0.25/bu
(2)ベーシス契約での集荷及び販売の例
集荷流通業者は,買い付け先である農家と販売先である加工業者の双方とベーシス契約を締結してベーシス取引
を行うこともできる。
例えば、11 月 1 日に集荷流通業者は農家と加工業者の双方との間で「11 月中に CBOT とうもろこし先物 12 月
限を用いて指値するベーシス契約」を締結し,それぞれ生産地ベーシス(-$0.20/bu)と販売ベーシス(+
$0.05/bu)を決定したとする.11 月 15 日になって先に加工業者の方からその時点の先物価格である$3.00/bu で
指値するよう指示があり、「販売ベーシス」を加えた$3.05/bu で販売価格を確定した。同時に、集荷流通業者は農家
から買い付ける価格が将来値上がりするリスクに備えて「買いヘッジ」を行い先物買いポジションを持った。その後、11 月
25 日になって先物価格が$3.35/bu に値上がりしたので農家から指値の指示があり,「生産地ベーシス」を加えた
$3.15/bu で買い付け価格を確定すると同時に先物の買いポジションを転売してヘッジを解除した。この場合、買い付け
価格よりも販売価格の方が安くなるが、先物取引の利益を加えることでトータルでは$0.35/bu、すなわち「販売ベーシ
ス」と「生産地ベーシス」の差額を利益として手に入れることができる。つまり、ベーシス取引を締結し、販売ベーシスが生
産地ベーシスを上回っている限り、その後の先物価格がどのように変化しようとも(従って実際の買い付け価格や販売価
格がどうなろうと)必ず利益を確保することができる。
表 40.集荷流通業者のベーシス価格による集荷及び販売の例
農家
現物
集荷流通業者
現物
先物
11/1
損益
ベーシス
販:+$0.05/bu
生:-$0.20/bu
買:$3.00/bu
11/15
11/25
加工業者
←値決め指示
売:$3.05/bu
値決め指示→
売:$3.15/bu
現物
買:$3.05
売:$3.35/bu
買:$3.15/bu
損:-$0.10/bu
益:+$0.35/bu
計:+$0.25/bu
このように,米国の農産物流通において一般的であるベーシス取引は,全ての取引当事者が基礎となる先物部分と
取引条件によって異なるベーシス部分に価格を分解することによって明快な価格決定を可能にしており,価格決定の時
期を取引先に自由に選択させるオプションを与える便宜を図りながらも,価格リスクは先物市場でヘッジして価格動向に
関係なく「販売ベーシス」と「生産地ベーシス」の差額を利益として確保できるという利点がある。
80
第 2 章 小豆の基礎知識
第 1 節 小豆の商品特性
1. 小豆の概要
小豆は「アズキ」または「ショウズ」と呼ばれ、縄文時代の遺跡からも種子が発見されるなど古くから食用に供されてきた。
また、大豆と同様に「古事記」に出てくる「五穀」の一つとして、日本人の生活と密接に結びついており、小豆の赤い色に
は神秘的な力が宿ると信じられていたことにより、伝統的に神事に供され、邪気を払う厄除け・魔除けに用いられてきた。
小豆は餡子の原料というイメージが強い商品であるが、一般庶民の食物として普及するようになったのは、砂糖が普及
するようになった江戸時代以降といわれている。それ以降、その独特の風味が愛され、羊羹などの和菓子の原料として用
いられている。
2. 小豆の種類及び品種
小豆は、「普通小豆」、「大納言小豆」、「その他の小豆」の3種類に分類される。それぞれの種類の特徴及び用途は
以下のとおり。
表 1 小豆の種類
種類
普通小豆
大納言小豆
その他の小豆
特徴
用途
市場に出回る標準品の小豆
製餡、和菓子、菓子パン、しるこ、ゆで小
豆、赤飯
大粒で煮ても皮が破れにくい特徴を持つ特定の
甘納豆、粒餡の原料
品種群で価格的にも高級な小豆
白小豆や黒小豆などがあるが生産量は限られ
特殊な餡の原料
ており市場ではほとんど出回らない
(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会
小豆は豆類の中では環境の影響を受けやすい作物であり、小豆の品種には、積算温度が一定に達すると開花が始ま
る「感温性」が高い品種と、日の長さが一定以下に短くなってから開花が始まる「(短日)感光性」の高い品種がある。
小豆は日本全国で栽培されているが、北海道や東北北部で栽培されている品種は感温性が高く、本州で栽培されて
いる品種は短日感光性が高い。
小豆は、品質、収量、天候、土質などへの適応のために品種改良が加えられてきた。普通小豆の主な品種と、その特
徴は以下のとおり。
81
表 2 小豆の主な品種
品種名
特徴
サホロショウズ
早生、良質、土壌病害抵抗性なし
きたろまん
早生、耐冷性、多収、落葉病・萎凋病抵抗性あり
エリモショウズ
中生、耐冷性、多収、良質、土壌病害抵抗性なし
きたのおとめ
中生、耐冷性、良質、落葉病・萎凋病抵抗性あり
しゅまり
中生、良質、落葉病・萎凋病・茎疫病抵抗性あり
きたあすか
中生、多収、落葉病・茎疫病抵抗性あり
(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会
日本に輸入されている中国産小豆の出回り量は、天津小豆や東北小豆が多いが、その品種には、天津紅小豆、唐
山紅小豆、宝清紅小豆など多数存在する。
3. 小豆の生育
小豆の生育期間は 5 月下旬から 9 月下旬までの約 4 ヶ月であり、その生育過程は、「播種期」、「出芽期」、「生長
期」、「開花期」、「莢伸張期」、「成熟期」に分けられる。
図 1 小豆の生育ステージ
(出所)ホクレン農業協同組合連合会(http://www.mame.hokuren.or.jp/azuki/index01.html)
第 2 節 小豆の需給
1. 小豆の需給概観
小豆の年間供給量(期首在庫、国産出回り、輸入量の合計)は、年ごとのバラツキが大きく、H17 豆年度(2005
年度)から H26 豆年度(2014 年度)の 10 年間では、11 万 800 トンから 13 万 3700 トンの間で推移している。
供給量の内訳は、在庫が 2 万 3200 トンから 4 万 4600 トン、国内出回り量が 4 万 9500 トンから 8 万 800 トン、
82
輸入量が 1 万 9100 トンから 2 万 8300 トンとなっている。消費量は H17 豆年度(2005 年度)から H26 豆年度
(2014 年度)まで 8 万トン台で推移している。国内需要量で比較すると、小豆の市場規模は食品用大豆(国内
需要量約 94 万トン)の約 14%に相当する。
表 3 小豆需給実績(豆年度:前年 10 月~9 月、単位:トン)
豆年度
期初在庫
国産出回り
輸入量
供給計
消費量
輸出量
期末在庫
需要計
H17(2005)
23,200
80,800
21,200
125,200
84,900
0
40,300
125,200
H18(2006)
40,300
68,500
23,400
132,200
87,600
0
44,600
132,200
H19(2007)
44,600
54,800
27,900
127,300
84,100
0
43,200
127,300
H20(2008)
43,200
58,400
27,500
129,100
84,500
0
44,600
129,100
H21(2009)
44,600
62,300
22,400
129,300
85,500
0
43,800
129,300
H22(2010)
43,800
49,500
19,100
112,400
80,500
0
31,900
112,400
H23(2011)
31,900
55,800
23,100
110,800
82,000
0
28,800
110,800
H24(2012)
28,800
57,200
25,600
111,600
80,800
0
30,800
111,600
H25(2013)
30,800
64,000
27,000
121,800
83,900
0
37,900
121,800
H26(2014)
37,900
67,500
28,300
133,700
84,000
0
49,700
133,700
(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会
2. 生産
小豆は日本全国で生産されているが、北海道が約 82%のシェアを有している。
小豆の作付面積は、かつては全国で 40000ha、北海道で 30000ha を超えることもあったが、現在では全国で約 3
万 2000ha、北海道で約 2 万 6300ha となっている。
小豆の生産量(収穫量)は、単収の変動が大きいこともあってブレも大きく、H17 豆年度(2005 年度)から H26
豆年度(2014 年度)では、全国で約 5 万 2800 トンから 7 万 8900 トン、北海道で約 4 万 6500 トンから 7 万
2100 トンとなっている。北海道の振興局別では十勝地区が最も小豆の生産量が多く、北海道全体の 3 分の 2 のシェ
アを有している。
表 4 小豆の作付面積・単収・収穫量
作付面積(ha)、単収(kg/10a)
収穫量(トン)
単収
全国
北海道
全国
単収
北海道
H17(2005)
38,300
206
28,200
247
78,900
69,600
33,000
9,380
H18(2006)
32,200
198
22,800
246
63,900
56,000
29,600
6,530
H19(2007)
32,700
201
23,800
244
65,600
58,100
32,104
6,799
H20(2008)
32,100
216
23,400
262
69,300
61,300
33,675
6,917
H21(2009)
31,700
167
23,500
198
52,800
46,500
27,331
4,744
H22(2010)
30,700
179
23,200
210
54,900
48,700
28,600
4,590
H23(2011)
30,600
196
23,800
227
60,000
54,000
33,200
3,730
H24(2012)
30,700
222
24,400
258
68,200
63,000
41,256
4,441
H25(2013)
32,300
211
26,200
243
68,000
63,700
41,515
4,569
H26(2014)
32,000
240
26,300
274
76,800
72,100
48,736
4,889
83
北海道全体
(十勝)
(上川)
(出所)特定作物統計調査、農林水産省、 麦類・豆類・雑穀便覧、北海道庁農政部生産振興局農産振興課
雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会
3. 輸入
(1)輸入制度
小豆の輸入は「関税割当制度」の下で行われている。関税割当制度とは、昭和 36 年度の貿易自由化に際し、国内
産業に対する急激な衝撃を緩和して、自由化を円滑に推進するための激変緩和措置として導入された制度であり、一
定の輸入数量の枠内に限り無税又は低税率(一時税率)を適用して国内の需要者に安価な輸入品の供給を確保
する一方、この枠を超える輸入分については高関税(二次税率)を適用することによって国内生産者の保護を図る仕
組みである。従って、低税率である一次税率の適用を受ける数量は、原則として、国内需要見込数量から国内生産見
込数量を控除した数量を基準として、国際市況その他を勘案して国が定めることとなっている。
小豆についての関税割当数量は、年 2 回、上期分(4 月~9 月)と下期分(10 月~3 月)がそれぞれ 4 月の第
一営業日と 10 月の第一営業日に発表されている。
表 5 小豆の期別関税割当数量
年度・期
単位:トン
一般枠
年度・期
一般枠
一般枠合計
H16 下期
14,700
H17 上期
6,400
21,100
H17 下期
11,000
H18 上期
12,300
23,300
H18 下期
12,900
H19 上期
15,000
27,900
H19 下期
13,400
H20 上期
14,100
27,500
H20 下期
11,400
H21 上期
11,200
22,600
H21 下期
10,200
H22 上期
9,800
20,000
H22 下期
10,800
H23 上期
12,300
23,100
H23 下期
13,200
H24 上期
12,400
25,600
H24 下期
14,400
H25 上期
12,600
27,000
H25 下期
14,400
H26 上期
13,300
27,700
(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会
(2)小豆の輸入量及び輸入先
小豆は、関税割当制度との関係もあり、基本的に国内生産量で不足する分が輸入されている。輸入先としては中国
が最も多い。カナダ産小豆は、もともと日本から種子が持ち込まれ、五大湖周辺のオンタリオ州で契約栽培されており、
近年ではカナダからの輸入が増加している。中国やカナダなどから日本へは、現在約 2 万 7500 トンが輸入されており、
かつては 3 万トンを超える輸入量があったものの、近年は 3 万トン以下で推移している。このように小豆の輸入量が減少
している要因としては、消費そのものの減少のほか、「加糖餡」や「冷凍豆」など主に中国から製品輸入される競合品の
存在が挙げられる。なお、「加糖餡」はデフレを背景に安い製品が求められたこと等の理由で輸入量は増加傾向にあった
が、2008 年に発生した冷凍餃子事件による消費者の不安が高まったことなどを背景に大きく減少している。
84
図 2 小豆の輸入量推移
(出所)貿易統計、財務省
表 6 加糖餡、冷凍豆輸入量
単位:トン
豆年度
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
H26
(2006)
(2007)
(2008)
(2009)
(2010)
(2011)
(2012)
(2013)
(2014)
71,068
加糖餡輸入量(1)
93,048
92,350
81,507
67,551
72,374
76,867
74,285
73,568
冷凍豆輸入量(2)
9,056
9,405
8,243
7,833
7,654
6,376
6,711
6,834
5,806
35,544
35,486
31,291
26,434
27,952
28,810
28,118
27,940
26,592
乾豆換算
(1)÷3+(2)÷2
(出所)貿易統計 財務省(HS コード:加糖餡(2005.51-190)、冷凍豆(2004.90-212))
(3)中国の小豆生産量・輸出量
中国は世界最大の小豆生産国・輸出国である。ここ数年の作付面積は約 15 万 ha、生産量は約 25 万トン、平均
単収は 170 キロ/10a、輸出量は約 5 万トンである。過去 10 年間の推移で見ると、いずれも減少傾向にあり、ピーク
時の 2002 年と比較すると、作付面積は約 50%、生産量は約 35%、輸出量は約 40%減少している。小豆の国内
市況が低迷し、収益面で他の農産物に劣ったことが農家の小豆作付け意欲を減退させたことが理由といわれている。
中国では、日本と同様に国内各地で小豆が生産されるが、主要産地は東北、華北、西北、東部で、作付面積及び
生産量が多いのは黒龍江省、内蒙古、江蘇省、陝西省及び安徽省などである。
85
図 3 中国産小豆の作付面積、生産量、輸出量
(出所)中国雑豆研究報告、中国の雑豆需給と対外貿易、東京大学社会科学研究科
表 7 中国省別小豆生産量
2000 年
地域
生産量
1
黒龍江省
11.9 万 t
2
吉林省
3
2005 年
地域
生産量
34%
黒龍江省
11.7 万 t
3.5 万 t
10%
吉林省
江蘇省
3.2 万 t
9%
4
雲南省
2.5 万 t
5
河北省
全国
シェア
2012 年
地域
生産量
33%
黒龍江省
8.2 万 t
30%
6.0 万 t
17%
内蒙古
4.0 万 t
15%
内蒙古
4.3 万 t
12%
江蘇省
2.2 万 t
8%
7%
遼寧省
2.3 万 t
7%
陝西省
1.7 万 t
6%
1.8 万 t
5%
江蘇省
2.1 万 t
6%
安徽省
1.3 万 t
5%
34.5 万 t
100%
35.3 万 t
100%
27.4 万 t
100%
全国
シェア
全国
シェア
(出所)中国雑豆研究報告、中国の雑豆需給と対外貿易、東京大学社会科学研究科
4. 流通・消費
(1)小豆の流通
国産小豆は産地で収穫後、農協や産地問屋が買い付け、豆の選別・調整を経て農産物検査法に基づく検査を受
検する。その後、東京など消費地の消費地問屋に販売され、トラックやコンテナで出荷されて消費地の倉庫に保管され
86
る。消費地問屋は製餡業者等の実需家に販売し、その製品が消費者の元に届けられる。
輸入小豆も、横浜港や神戸港で水揚げされ、通関後に輸入業者から消費地問屋に販売される。なお、小豆加工メ
ーカーの場合は輸入会社から直接仕入れることも多い。また、輸入業者から問屋や加工メーカーに販売される際には必
要に応じ豆の選別・調製が行われる。(参考:(公財)日本豆類協会ホームページ)
(2)消費
小豆の消費量は減少傾向にあり、近年では約 8.4 万トンと、ピークであった平成 4 豆年度の約 12 万トンと比較する
と 7 割程度の規模となっている。もっとも、製品輸入される「加糖餡」や「冷凍豆」を乾豆換算(加糖餡は 3 分の 1、冷
凍豆は 2 分の 1)した数量を加えると約 11 万トン程度を維持していると考えられる。
小豆の用途別消費は、「製餡用」が約 68.9%、「甘納豆等菓子類用」が約 12.8%、「煮豆用」が約 2.4%、「その
他」が 15.9%と推定されているが、需要の大宗を占める「製餡用」需要は製品輸入される「加糖餡」と競合している。
第 3 節 小豆の価格変動要因
図 4 小豆の価格変動要因(概念図)
TOCOM小豆価格 [普通小豆]
需給要因
テクニカル要因・その他
・投資家の動向
期末在庫
・チャート
供給
北海道の:
・生産量=作付面積×単収
・天候
・輸入(中国、カナダ等)
関税割当数量(4月,10月)
需要
・製餡
加糖餡
・甘納豆等菓子類
・煮豆
1. 天候要因
小豆は生産の大部分が北海道で行われているため、北海道の天気に注意する必要がある。北海道の気候について
は、気象庁札幌管区気象台が、以下のような予報を出しており参考にすることができる。
(参考:http://www.jma-net.go.jp/sapporo/)
87
予報種類
発表時期
暖候期予報
毎年 2 月 25 日
3 ヶ月予報
毎月 25 日頃 14 時
1 ヶ月予報
毎週木曜日 14 時 30 分
週間天気予報
毎日 11 時と 17 時の 2 回
小豆の生育期間は 5 月下旬から 9 月下旬までの約 4 ヶ月であるが、この間が「小豆の天候相場期」といえる。
この期間で注意すべきは「気温」と「降霜」である。夏場、特に 7 月の低温と日照不足は単収の低下につながる。降霜
については、出芽期の晩霜と成熟期の早霜に注意が必要である。出芽期の晩霜は生長点を凍死させ、秋の成熟期の
早霜は小豆の成熟を止めてしまう。下表は十勝における小豆の生育過程と降霜時期を示しているが、冷害による凶作
年であった 2003 年は、出芽期(6/7)と晩霜(6/7)が重なったこともあり、開花始(8/1)や成熟期(10/6)が、
当該年を含む 10 カ年平均や翌年以降と比較しても遅くなっている。
表 8 十勝における小豆の生育過程と降霜
()は平成 6~15
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
H26
年の10ヵ年平均
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
播種期 (5/24)
5/23
5/24
5/28
5/22
5/21
5/24
5/23
5/24
5/23
出芽期 (6/8)
6/13
6/11
6/12
6/10
6/12
6/8
6/6
6/6
6/5
開花始 (7/25)
7/27
7/26
7/27
7/28
7/19
7/20
7/24
7/21
7/18
成熟期 (9/23)
9/22
9/20
9/23
9/27
8/31
9/13
9/13
9/13
9/12
晩霜
5/25
5/28
5/12
5/16
5/18
6/1
5/13
5/8
5/8
初霜
10/14
10/14
10/13
10/10
10/18
10/2
10/9
10/19
10/7
降霜
(出所)北海道立十勝農業試験場作況調査成績、気象庁帯広測候所、
雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会
2. 需給要因
(1) 国内生産量
小豆の国内生産量は作付面積と単収によって決まる。小豆の作付面積については、8 月末に北海道の作付面積、9
月中に全国の作付面積が農林水産省の「特定作物統計調査」において発表される。
(参考:http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokutei_sakumotu/)
小豆の単収を判断する材料としては天候及び作況(生育状況)があるが、作況(生育状況)については、北海道
農政部が「農作物の生育状況」として、5 月 15 日から 10 月 15 日までの間、月 2 回、1 日と 15 日の状況をそれぞ
れ 2~3 営業日後に発表している。
(参考:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/gjf/seiiku/index.html)
なお収穫量について、以前は 9 月に予想収穫面積が発表されていたが、現在では、収穫年の翌年 2 月に農林水産
省の「特定作物統計調査」において発表される。
88
図 5 小豆の生育状況
(出所)北海道庁農政部
(2) 輸入量
小豆は関税割当品目であり、低い一次税率の適用を受ける数量(関税割当数量)は、農林水産省の「関税割当公
表(数量公表)」により、上期分が 4 月 1 日、下期分が 10 月 1 日にとして発表され、その後「関税割当てを受けた
者」については、上記分は 6 月、下期分は 12 月に発表される。
(参考:http://www.maff.go.jp/j/kokusai/boueki/triff/index.html)
なお、実際に輸入された小豆の数量および価額は、「財務省貿易統計」で確認することができる。
(参考:http://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm)
(3) 競合品の輸入量
小豆の消費の 70%弱を占める製餡需要は、中国等から輸入される「加糖餡」等と競合する。小豆製品の消費量が
一定の場合、価格的に安い加糖餡の輸入量が増加すれば小豆の消費量は減少することとなる。加糖餡の輸入量は
「財務省貿易統計」で確認することができる。
(4) 在庫
国内産小豆の収穫後は、在庫量の変動によって価格が変動する「需給相場」に入る。在庫量は、TOCOM や大阪
堂島商品取引所が毎月 1 回第 5 営業日に公表している「小豆指定倉庫在庫」が一つの判断材料になる。これにより、
国内産小豆と中国産小豆それぞれについて、取引所の受渡場所になっている指定倉庫の在庫の動き(前月末在庫、
入庫、出庫、当月末在庫)を知ることができる。
(参考:http://www.tocom.or.jp/jp/souba/kurani/azuki_redbean.html)
89
(参考:http://ode.or.jp/yoko/zaiko.html)
図 6 小豆指定倉庫在庫
(出所)TOCOM HP
2. その他の要因
TOCOM では、標準品である国内産(北海道産)小豆以外にも、受渡供用品である中国産小豆を 6000 円
/30kg 値引きする条件で受渡しが可能である旨を格付表で定めている。したがって、小豆先物価格が仮に 12300 円
/30kg とすると、売方が中国産小豆を受渡しに供する場合には 6000 円引きの 6300 円/30kg で渡すことになる。国
内産小豆が不作見通しなどにより仮に 15000 円/30kg に値上がりしたとすると、中国産小豆も 6000 円引きの 9000
円/kg で渡せることになるが、輸入採算との関係で、中国産小豆の価格が 9000 円/kg 以下であった場合には、先物
市場で中国産小豆を渡ししたほうが有利であるとして中国産小豆の受渡しが多く行われる。その結果、小豆先物価格
も割安な中国産小豆に引っ張られて、「中国産小豆の輸入価格+格付表で定める格差(6000 円)」に鞘寄せする
ことになる。逆に、国内産小豆が値下がりして 10000 円/30kg になった場合、6000 円の格差を減じると中国産小豆
を受渡しする際の価格は 4000 円/30kg になるが、この価格では輸入採算との関係で割が合わないとなると、中国産
小豆が受渡しに供されることはなく、先物価格は国内産小豆の価格を基準に価格形成が行われることになる。
このように、小豆先物価格は、需給要因に加え、国内産小豆価格と中国産小豆の輸入価格、それに格付表で定め
た格差が勘案されて価格形成が行われるという特徴がある。
なお、平成 26 年(2014 年)産からは、カナダ産小豆を受渡供用品に加えており。その格差は国産に対して 5000
円の値引きとすることを格付表で定めている。
90
図 7 小豆現物価格と先物価格
(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会
91
第4章 取引戦略
第 1 節 リスクヘッジ
企業は事業活動を継続していく上で様々なリスクを抱えている。例えば、原材料の調達や製品売却の際の価格変
動リスク、資金調達・運用のリスクなど、企業活動の側面には多様なリスクが存在する。
リスクヘッジとは、このようなリスクを回避することである。例えば価格変動リスクについては、先物市場を利用して将来の
価格変動から生じる不確定要素を排除することが可能である。リスクヘッジ機能は、先物市場における最も重要な役割
の一つである。企業はリスクヘッジを行うことにより、将来の価格変動から生じるリスクを回避し、利益の確保を図ることが
できる。また、受け入れたくないリスクを回避することにより本業に資源を集中させることもできる。
商品先物市場におけるヘッジ取引は主に、生産リスク(原材料の購入価格の変動リスク)や販売リスク(製品の販
売価格の変動リスク)を回避するために行われている。
*ヘッジ(Hedge=保険つなぎ)
第 2 節 買いヘッジと売りヘッジ
現物市場と先物市場の価格連動性を利用して、双方の市場で反対の取引を行うことにより、互いの利益と損失を
相殺するのがヘッジ取引である。つまり、現物取引で損失が発生する場合には、先物取引の利益でその損失を相殺させ
るというポジションをつくる取引である。
基本的なヘッジ取引には、将来の購入のため値上がりに備える「買いヘッジ」と、将来の売却のため値下がりに備える
「売りヘッジ」の 2 種類がある。
第 1 項 買いヘッジ(ロング・ヘッジ=Long Hedge)
将来のある時点で原材料の購入を予定しており、今後の価格変動に係りなく現在の価格に近い価格で原材料を購
入したい場合に用いるのが買いヘッジである。
<買いヘッジの例>
飼料メーカーである A 社は、12 月時点において、6 ヶ月後の 6 月に飼料用に用いる大豆 1,000t を購入する計画
がある。12 月時点の現物価格(45,000 円/t、税抜き)であり、6 ヵ月後もこの値段で購入できれば利益は充分に確
保できるが、大幅に上昇すると採算が採れなくなる可能性もある。
そこで、A 社は 6 ヵ月後に大豆価格が値下がりして、その分、コスト低減による収益増加が図れる可能性を犠牲にして
も、大豆の値上がりによる採算割れ(損失)を回避することが望ましいと考え、大豆先物市場で 6 ヶ月後の 6 月限
(46,000 円/t)の取引を利用してリスクヘッジを行うことにした。
<ケース 1>
92
① A 社は一般大豆先物 6 月限(46,000 円/t)で 40 枚(25t/枚×40 枚=1,000t)買い建てた。
その後、南米が天候不順で生産量が減少したことや、中国が旺盛な大豆ミール需要を背景に大量に大豆を買い付け
たことを受けて大豆需給が逼迫し、大豆現物価格は上昇して、6 月の大豆現物価格は、52,000 円/t(税抜き)に
値上がりした。現物価格と先物価格は連動するという前提で、大豆先物価格も 53,000 円/tになり、買建玉を手仕
舞った。
② 先物取引の利益: 700 万円=(53,000 円/t-46,000 円/t)×25t×40 枚
③ 大豆の購入費用: 5,200 万円=52,000 円/t×1,000t
④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,500 万円=5,200 万円-700 万円
つまり、A 社は当初の計画通り、1tあたり 45,000 円で大豆を仕入れることができたことになる。
<ケース 2>
反対に、南米の豊作により、6 ヶ月後の大豆現物価格が 42,000 円/t に値下がりしたとする。現物価格と先物価格
は連動するという前提で、大豆先物価格も 43,000 円/t になったとする。
② 先物取引の損失: ▲300 万円=(43,000 円/t-46,000 円/t)×25t×40 枚
③ 一方、現物の購入費用: 4,200 万円=42,000 円/t×1,000t
④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,500 万円=4,200 万円-(▲300 万円)
つまり、この場合も A 社は計画通リ 1tあたり 45,000 円で大豆を仕入れることができた。
<ケース 1>、<ケース 2>の結果、A 社はヘッジ取引により購入費用を 1t あたり 45,000 円で価格を固定できたとい
うことになる。
ここで、当初の時点で A 社は大豆を購入して保管しておくという選択肢よりも、先物取引を利用した方が有利である
点に注目したい。
もし、当初の時点で大豆を購入していれば、購入価格は 1t あたり 45,000 円で、その他にも金利や保管費用までも
負担することになり、さらに、6 ヶ月後までその商品が不要であれば、保有することにより生じる便益(コンビニエンス・イー
ルド)の価値もないからである。
第 2 項 売りヘッジ(ショート・ヘッジ=Short Hedge)
将来のある時点で商品の売却を予定しており、今後の価格変動に係りなく現在の価格で商品を売却 したい場合に
用いるのが売りヘッジである。現在保有している商品の価値が下がることに対する、価格下落リスクを避けるためにも使用
される。
<売りヘッジの例(1):価格下落リスクのヘッジ>
小豆の問屋である B 社は、製餡会社との間で、(ア)3 ヶ月後に小豆 24t(800 袋、袋=30kg)を売却する、
(イ)価格については 3 ヵ月後の現物価格の時価とする、販売契約を結んだ。
93
現在の小豆現物価格は 12,500 円/袋であり、この価格を基準にすれば、B 社は 3 ヶ月後の小豆現物価格が現在よ
り 1,000 円/袋上昇すれば収益が 80 万円(1,000 円/袋×800 袋)増加し、逆 1,000 円/下落すれば収益が
80 万円減少することになる。
そこで、B 社は値下がりによる収益の減少を回避するために、小豆先物取引を利用して、リスクヘッジを行うことにした。
<ケース 1>
① B 社は小豆先物市場で 3 ヶ月後の限月(12,700 円/袋)で 10 枚(1 枚あたり 80 袋、24t)売り建てた。
3 ヶ月後、B 社の懸念通り小豆価格が 12,000 円/袋に値下がりしたとする。現物価格と先物価格は連動するという
前提で、先物価格も 12,200 円/袋になったとする。
② 先物取引で得られる利益: 40 万円=(12,200 円/袋-12,700 円/袋)×80 袋×(-10 枚)
③ 現物売却の収益: 960 万円=12,000 円/袋)×800 袋
④ 先物取引とあわせた収益: 1,000 万円=40 万円+960 万円
つまり、B社は当初の計画通り、800 袋の小豆を 1 袋あたり 12,500 円で販売できたことになる。
<ケース 2>
反対に、小豆現物価格が 3 ヶ月後に 13,000 円/袋に値上がりしたとする。現物価格と先物価格は連動する前提で、
小豆先物価格も 13,200 円/袋になったとする。
② 先物取引の損失: ▲40 万円=(13,200 円/袋-12,700 円/袋)×80 袋×(-10 枚)
③ 現物売却の収益: 1,040 万円=13,000 円/袋×800 袋
④ 先物取引とあわせた収益: 1,000 万円=1,040 万円+(▲40 万円)
つまり、この場合も B 社は 1 袋あたり 12,500 円/袋で小豆を売却することができたことになる。
<ケース 1>、<ケース 2>の結果、B 社はヘッジ取引により売却価格を 1 袋あたり 12,500 円/袋で販売価格を固定
できたことになる。
今までの例でみたように、ヘッジ取引によって価格変動リスクを回避して、将来の現物取引に伴う利益を確保すること
ができるが、反対に利益増大の機会も失うことにもなる。しかし、ヘッジ取引の目的は、将来の不確実性を取り除き利益
を確保するということであるから、その目的が満たされている点を評価するべきである。
<売りヘッジの例(2)現物の売却リスクと価格下落リスクの両方をヘッジ>
C商社は、顧客である飼料メーカーD社から 40,000 トンのとうもろこし、搾油メーカーE社から 12,000 トンの大豆の
注文を受けた。C商社は、とうもろこしと大豆の合計 52,000 トンを輸入するにあたって、パナマックス(積載量約
55,000 トン)の船を傭船することとなるが、傭船料は積載重量に関わらず同一料金である。C商社は、トンあたりの傭
船料を引き下げるために、取りあえず余っている 3,000 トン分のスペースを埋める目的で、販売先の決まっていない
3,000 トンの大豆も購入して一緒に輸入することとした。なお、C商社はこの合計 55,000 トンのとうもろこしと大豆につ
いては、CBOT を利用して値決めを行っており、為替についても為替予約を済ましていることとする。
94
現在の大豆価格は 45,000 円/t である。アメリカから日本への輸送期間は約 33 日あるが、この間、販売先の決まっ
ていない 3,000 トンの大豆の買い手が見つかり、価格も現在の価格以上で売却できれば十分採算が合うが、買い手が
見つからなかったり、買い手が見つかったとしても大豆価格が下落して現在の値段を大きく下回ったりする採算が合わなく
なる。
そこで、C商社は、(ア)販売先の決まっていない 3,000 トンの大豆を日本に輸入した後に販売先が見つからないリス
クと、(イ)輸送期間中に大豆価格が値下がりするリスク、の 2 つのリスクを回避するために、大豆先物市場で 2 ヶ月後
の限月(46,000 円/t)の取引を利用してリスクヘッジを行うことにした。
①
C商社は大豆先物市場で 2 ヶ月後の限月(46,000 円/t)を 120 枚(1 枚あたり 25t、3000t)
売り建てた。
日本への輸送期間中、3,000 トンのうち 1,000 トンの大豆の販売先が見つかった。しかし、大豆価格は下落してい
て 44,000 円/t で決まった。この結果、1,000 トン分の大豆については先物市場でヘッジしておく必要が無くなったので、
40 枚分の売建玉(25t/枚、1,000 トン)を手仕舞った。なお、現物価格と先物価格は連動するという前提で、先物
価格も 45,000 円/t になったとする。
② 先物取引で得られる利益: 100 万円=(45,000 円/t-46,000 円/t)×25t×(-40 枚)
③ 現物売却の収益: 4,400 万円=44,000 円/t×1,000t
④ 先物取引とあわせた収益: 4,500 万円=4,400 万円 + 100 万円
つまり、C商社は 1,000t 分について 45,000 円/t で大豆を売却したことになる。
その後、残りの 2,000 トンについては、最後まで販売先を見つけることができなかったので、日本で荷下ろしした後、大
豆先物市場で現物受渡しを行うことにした。このとき、大豆現物価格はさらに値下がりしていて 43,000 円/t になってお
り、大豆先物市場の納会値段(受渡値段)も 44,000 円/t になったとする。
⑤ 先物市場での値洗い差損益と受渡代金の合計; 9,200 万円
・値洗い差益:
400 万円=(44,000 円/t-46,000 円/t)×25t×(-80 枚)
・受渡代金(税別): 8,800 万円=44,000 円/t×25t×80 枚
つまり、C 商社は、残りの 2,000 トンについては 46,000 円/t で大豆を売却したことになる。
このように、売却先が決まっていない場合でも、先物市場で売りヘッジした後に、現物受渡しを行うことによって、価格下
落リスクだけでなく、現物の売却リスクもヘッジすることができる。
第 3 項 ベーシスリスク(Basis risk)
これまで、先物市場でのヘッジ活動により、「先物の利益(+)=現物の損失(-)」あるいは「先物の損失(-)
=現物の利益(+)」が成り立つため、価格変動リスクを回避することが可能であると説明してきたが、これは、現物価
格と先物価格がヘッジ期間を通じて完全にパラレルに変動する、即ち、現物価格と先物価格の差が一定のときにのみ成
り立つことであり、実際には、そのようなことは稀で、「先物利益(+)<現物損失(-)」や「先物損失(-)>現
95
物利益(+)」などのような関係が生じ、必ずしもヘッジによって現物価格の価格変動リスクを 100%回避することがで
きるわけではない。
現物価格と先物価格の差は「ベーシス」と呼ばれ、このベーシスの変動により当初想定していたヘッジ効果が享受でき
なくなるリスクのことを「ベーシスリスク」という。(ただし、逆に、ベーシスの変動により想定外の利益を得ることもある。)
ベーシス=現物価格 ― 先物価格
同一商品でありながら、現物価格と先物価格に差が生じる理由としては、先物市場は契約条件が定型化・標準化さ
れているのに対し、現物市場では契約によって契約条件が様々であることなどが挙げられる。したがって、現物価格と先
物価格の差である「ベーシス」には、
① 品質等級の価格差(例:1 等と 2 等の価格差)
② 荷姿等の違いによる格差(例:袋詰めとバラ積みの格差)
③ 空間的な格差(例:生産地と消費地の運賃格差)
④ 時間的な格差(例:現在と先物市場での受渡日までの期間にかかる保管料)
⑤ 地域ごとの需給要因から生じる保有便益(コンビニエンス・イールド)(例:消費地における過大な在庫等)
などが反映されており、その結果としてベーシスはプラスにもマイナスにもなる。
このような「ベーシスリスク」が存在するにもかかわらず、先物取引は有効なリスクヘッジ手段であると評価されている。そ
の理由は、価格水準の変動の大きさよりもベーシスの変動の大きさのほうがはるかに小さいからである。つまり、先物市場
でヘッジをするということは、大きな価格変動リスクを相対的に小さなベーシスリスクに置き換えることを意味している。
(1)ベーシスの強含み・弱含み
ベーシスは変動するが、「現物価格が先物価格に対して相対的に上昇するとき(=ベーシスのプラス幅が拡大するか
マイナス幅が縮小すること)」を「ベーシスが強含む」といい、逆に「現物価格が先物価格に対して相対的に下落するとき
(=ベーシスのマイナス幅が拡大するかプラス幅が縮小すること)」を「ベーシスが弱含む」という。
ベーシスの強含み・弱含み
ベーシスが強含む
・ ベーシスのブラス幅が拡大
【ベーシス】
ベーシスが弱含む
200
・ ベーシスのマイナス幅が拡大
100
・ ベーシスのプラス幅が縮小
・ ベーシスのマイナス幅が縮小
0
-100
-200
現物価格が先物価格に対して
相対的に上昇(強含み)
現物価格が先物価格に対して
相対的に下落(弱含み)
96
(2)「ベーシス買い・ベーシス売り」とベーシスの変動による損益
「ベーシス買い(Buy basis 又は Long Basis)」とは、ヘッジ活動において、新たに売りヘッジを開始したり、買いヘッ
ジを終了したりするために「現物買い・先物売り」を行うことをいう。
「ベーシス売り(Sell basis 又は short basis)」とは、ヘッジ活動において、新たに買いヘッジを開始したり、売りヘッ
ジを終了したりするために「現物売り・先物買い」を行うことをいう。
「ベーシス売り」を行ったときの「売りベーシス」と、「ベーシス買い」を行ったときの「買いベーシス」の差がベーシスの変動に
よる損益になる。
(3)ベーシスとヘッジ損益
最初に「ベーシス買い」を行った売りヘッジャーにとっては、「ベーシスが強含む(現物価格が先物価格に対して相対的
に上昇)」とベーシス変動による利益が生じ、逆に「ベーシスが弱含む(現物価格が先物価格に対して相対的に下
落)」とベーシス変動により損失が生じる。
最初に「ベーシス売り」を行った買いヘッジャーにとっては、「ベーシスが弱含む」」とベーシス変動による利益が生じ、逆に
「ベーシスが強含む」とベーシス変動により損失が生じるになる。
(例:ベーシスの弱含み、売りヘッジャー)
現物
先物
ベーシス変動
ベーシス分類
6/1
(買)12,000 円
(売)12,200 円
▲200 円(買いベーシス)
ベーシス買い
8/2
(売)11,000 円
(買)11,600 円
▲600 円(売りベーシス)
ベーシス売り
損益
▲1,000 円
+600 円
▲400 円(=▲600 円-▲200 円)
(売りベーシス-買いベーシス)
▲400 円
(例:ベーシスの強含み、売りヘッジャー)
現物
先物
ベーシス変動
ベーシス分類
6/1
(買)12,000 円
(売)12,200 円
▲200 円(買いベーシス)
ベーシス買い
8/2
(売)11,000 円
(買)11,000 円
0 円(売りベーシス)
ベーシス売り
損益
▲1,000 円
+1,200 円
200 円(=0 円-▲200 円)
(売りベーシス-買いベーシス)
+200 円
(例:ベーシスの弱含み、買いヘッジャー)
現物
先物
ベーシス変動
ベーシス分類
6/1
(売)12,000 円
(買)12,200 円
▲200 円(売りベーシス)
ベーシス売り
8/2
(買)11,000 円
(売)11,400 円
▲400 円(買いベーシス)
ベーシス買い
損益
1,000 円
▲800 円
+200 円(=▲200 円-▲400 円)
(売りベーシス-買いベーシス)
+200 円
97
(例:ベーシスの強含み、買いヘッジャー)
現物
先物
ベーシス変動
ベーシス分類
6/1
(売)12,000 円
(買)12,200 円
▲200 円(売りベーシス)
ベーシス売り
8/2
(買)11,000 円
(売)11,000 円
0 円(買いベーシス)
ベーシス買い
損益
1,000 円
▲1,200 円
▲200 円(=▲200 円-0円)
(売りベーシス-買いベーシス)
▲200 円
(4) ベーシスリスクの例
①第 1 項買いヘッジの例で、飼料メーカーである A 社が 12 月時点の現物価格(45,000 円/t、税抜き)に対して大
豆先物市場で 6 ヶ月後の 6 月限(46,000 円/t)を 40 枚買い建てた。
その後、大豆現物価格が上昇して 6 月時点では 7,000 円/t 値上がりして 52,000 円/tになったのに対し、大豆先
物価格は 6,000 円/t だけ値上がりして 52,000 円/tになったとする。
ベーシスは、「▲1,000 円」から「0 円」に強含んだため、買いヘッジャーとして最初にベーシス売りをした A 社にとっては、
ベーシス変動によって損失が発生することになる。
現物
先物
ベーシス変動
ベーシス分類
12/1
(売)45,000 円/t
(買)46,000 円/t
▲1,000 円/t(売りベーシス)
ベーシス売り
6/1
(買)52,000 円/t
(売)52,000 円/t
0 円/t(買いベーシス)
ベーシス買い
▲7,000 円/t
6,000 円/t
損益
▲1,000 円/t(=▲1,000 円/t-0円/t)
▲1、000 円/t
(売りベーシス-買いベーシス)
② 先物取引で得られる利益: 600 万円=(52,000 円/t-46,000 円/t)×25t×40 枚
③ 大豆の購入費用: 5,200 万円=52,000 円/t×1,000t
④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,600 万円=5,200 万円-600 万円
A 社は当初の 12 月時点の現物価格(45,000 円/t)よりも条件が 1,000 円が悪い 46,000 円/tで大豆を仕
入れたことになる。ただし、この場合でも、ヘッジをしないで仕入価格が 52,000 円/t になるリスクは回避できたことにな
る。
第 3 節 ロールオーバー(ローリング・ヘッジ/スイッチ取引)
第 1 項 ロールオーバーは
ヘッジャーがヘッジの期間を延長するために行う取引のことをロールオーバーあるいはローリング・ヘッジまたはスイッチ取
引とよんでいる。
98
ロールオーバーは、ヘッジャーの行うヘッジ対象期間が長期間の場合、先物市場の流動性が乏しい市場や 6 ヶ月以
上先の限月の設計がない市場が多いことから、短期間の流動性の高い限月を複数回乗り換えて決済期限を繰り延べ
ることで、長期間のリスクヘッジと同じ効果を得ることを目的とする。一旦建てたある限月のヘッジ・ポジションを手仕舞いし、
目標価格確保が可能と思われる期先の限月へもう一度同様のポジションを建て直すもので、期先の限月に取引の評価
損益を繰り延べし、かつ、現物ポジションを動かさずに、先物ポジションを入れ替えるコストだけで、新しいヘッジ・ポジション
を組成することができる。
第 2 項 ロールオーバーの例-小豆先物市場で買いヘッジ
小豆問屋が TOCOM の小豆先物市場を利用して、長期間の小豆の値上がりリスクをローリング・ヘッジする。
12,000 円/袋
12,500 円/袋
1 月限
買い
仕切
ロールオーバー
12,700 円/袋
2 月限
買い
①1 月限を 1 枚買建てし、約定価格は 12,000 円/袋であった。
②1 月になり、スポット価格と同じ 12,500 円/袋で手仕舞いし、同時に 2 月限を 1 枚買建てる。このときの約定価格
は 12,700 円/袋であった。
③この時点での買いヘッジによる 1 枚分の調達コストは、12,200 円/袋(=12,700 円/袋-(12,500 円/袋-
12,000 円/袋)
第 4 節 裁定取引
裁定取引(アービトラージ:Arbitrage)とは、ある 2 つ以上の市場価格の間に一定の関係が存在するとの仮定の
もとに、一定の関係から大きく逸脱した価格が形成されていると判断し、かつ将来的にその関係と整合的な価格水準に
収束することが予想される場合に、相対的に高いほうを売って、安いほうを買うことで利益を上げようとする取引のことであ
る。
とうもろこしや大豆市場において活発に行われる裁定取引としては、異地点間(場所の違いによる)裁定取引(ロケ
99
ーション・アービトラージ)、異時点間裁定取引(タイム・アービトラージ)が挙げられる。以下では、これらについて詳しく
解説する。
第 1 項 キャッシュ・アンド・キャリー・アービトラージ
現物市場と先物市場のミスプライスを利用する戦略。一般的には、現物の購入・保有と先物の売りを組み合わせて
行う。
(例)
輸入地の先物価格である東京とうもろこし・大豆先物価格と、輸出地の先物価格であるシカゴとうもろこし・大豆先物
価格にフレートなどのプレミアムを加えて円換算した輸入現物価格を比較して、東京とうもろこし・大豆先物価格が割高
である場合には、現物を調達して輸入現物価格を確定すると同時に東京とうもろこし・大豆先物を売ることによって無リ
スクで利益を上げる機会を得ることができる。
第 2 項 ロケーション・アービトラージ(Location Arbitrage)
東京とうもろこし・大豆先物市場とシカゴとうもろこし・大豆先物市場、の価格関係に着目して、理論値に比べ、相対
的に高いほうを売り、相対的に安いほうを買い、理論水準に価格が収斂したときに反対売買をすることで利益を上げるオ
ペレーションをロケーション・アービトラージと呼ぶ。
図 1 TOCOM とうもろこしと CBOT とうもろこしのスプレッド推移
TOCOM、CBOTとうもろこし(2015年7月限)価格比較
円/t
スプレッド(TOCOM-CBOT)
CBOTとうもろこし(円換算)
円/t
TOCOMとうもろこし
28000
10000
9000
26000
8000
24000
7000
6000
22000
5000
20000
4000
3000
18000
2000
16000
1000
14000
0
7
8
9
10
11
12
1
2014
2
3
4
2015
(データ)Bloomberg
100
5
6
第 3 項 タイム・アービトラージ(Time Arbitrage)
基本的には先物価格が現物価格から計算した理論値から乖離したときに、相対的に高いほうを売って、安いほうを
買うことで、将来、理論値に収束すれば利益をあげることができる。現物と先物の値差をベーシス、あるいはサヤと呼ぶ。
この現物と先物とのベーシスに着目した裁定取引をタイム・アービトラージという。現物に対して先物が高い場合を順ザヤ
またはコンタンゴといい、逆に先物が安い場合を逆ザヤ、バックワーデーションあるいはディスカウントという。また、先物の納
会日までの期間と先物価格の関係をグラフに描いたときの曲線をフォワード・カーブといい、期間によるフォワード・カーブの
形状のことを期間構造という。
また、理論値に収束するまでの期間がどのくらいかは判断がつかないことが多く、長期にわたり理論値からの乖離が継続
し、相場の好転が見られない状況で手仕舞いしなければならないこともあるため、裁定取引といえどもある程度のリスクは
存在することは認識しておかなければならない。
第 5 節 リスク管理と周辺制度の最近の動向
企業は取引先の信用リスクや訴訟などのリーガル・リスクあるいは為替や金利変動といった市場リスク、天変地異によ
る災害リスクなど、様々なリスクに直面している。リスク管理という言葉が聞かれるようになって久しいが、どういったリスクを
対象とするかで、リスク管理の手法も異なる。商品先物市場に関係するリスクとは前述の市場リスクの中の商品価格の
変動リスクや市場自体の流動性リスク、あるいは取引の相手方の信用リスクなどであろう。これらのリスクを管理するサービ
スを我々商品先物業界では当業者に対し、提供しているのである。この中で特に当業者として関心のあるのは価格変
動リスクとそのヘッジの場としての商品先物市場である。
昨今、リスク管理の視点から、先物市場を取り巻く周辺制度が急激に変化している。これらの環境変化から一層、商
品先物に対する当業者のリスク管理ニーズが高まる可能性が大きいため、この点について以下で整理して説明する。
101
第 1 項 会社法と金融商品取引法の施行
会社法は、商法の一部と有限会社法等を改正し、これらを引き継ぐ形で 2006 年 5 月 1 日に施行された法律であ
る。会社法では、企業規模や業種を問わず「株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定
める体制(いわゆる「内部統制」)の整備」に関わる事項が取締役会の専決事項として新たに盛り込まれ、さらに会社
法上の「大会社(資本金 5 億円以上もしくは負債総額 200 億円以上の株式会社)」では、「内部統制システム」の
構築が義務付けられている。さらに、この内部統制システムの具体的内容の一つとして「損失の危険の管理に関する規
程その他の体制」が会社法施行規則で規定されている。つまり、これからは大会社に分類されればリスク管理体制を構
築しなければならないことになる。
また、金融商品取引法では、上場会社に対し、経営者による内部統制報告書の作成と公認会計士による監査を義
務付けており、内部統制の状況を開示し、第 3 者のチェックを受けなければならないことになっている。会社法と金融商
品取引法のこれらの規程が適用されるのは 2008 年 4 月 1 日より開始される事業年度からとなっており、リスク管理に
対する体制の整備とその開示並びにその適正性の確保が求められる時代になってきたのである。
例として、企業が取扱っているアルミニウムの価格の変動についてのリスク管理に係わる内部統制について考えてみよう。
これからはアルミニウム価格の変動リスクに係わる内部統制の不備が原因で、アルミニウム価格の変動によって多額の損
失が発生した場合は、会社法上の内部統制構築義務違反となる可能性があり、株主代表訴訟の対象となる。
第 2 項 棚卸資産の評価基準の変更
さらに時期を同じくして、在庫の評価に関する会計上の取り扱いが変更される。つまり、これまでは原材料の調達にあ
たり、著しく時価が下がり、かつ回復の見込みがない場合を除き、原則として取得時の原価で在庫である原材料を評価
すればよかったが、2008 年 4 月 1 日より開始される事業年度から、通常の販売目的で保有する棚卸資産は、期末に
おける正味売却価額(時価から売却にかかわる諸経費を控除した額)が取得原価より下落している場合、当該正味
売却価額で評価しなければならなくなる。この会計上の取り扱いの変更は、前に説明した会社法や金融商品取引法の
施行と一見無関係に見えるが、実は経営上は極めて関係がある。なぜなら、これまでは在庫に含み損が発生していても、
取得時の価格で評価すればよかったため、損失として表面に出てくることはなかったが、今後は価格が下がっている場合
は時価(正確には「正味売却価額」)で評価するため、損失が表面化することになる。即ち、これまでであれば、意図
するかしないかは別として、決算上の数値をある程度調整することができたが、今後は在庫の評価損失が表面化し易い
環境になる。こうした環境変化により、価格変動に対するリスク管理に関する内部統制の整備について、先に述べた経
営者の責任にこれまで以上に目が向けられることにつながるわけである。つまりリスク管理に対する内部統制を整備してい
るか否かが結果としてより明確に経営成績に表れるようになり、それに対して投資家の目にも付き易くなるということである。
こうした環境変化により、自社で扱っている商品の価格変動リスクに対するリスクヘッジの場である先物市場に対する当
業者のニーズが高まることが期待される。
具体的な数値例でこの点を確認する。ある商品を仕入れて販売している流通業者を例にとる。期初 棚卸として評価
額 100 円の商品 1 個の在庫が存在したとする。今期、新しく商品 1 個を仕入れたが、200 円/個に値上りしていた。
一方、売上げについては、仕入値の上昇を反映して販売価格を 300 円/個として 1 個販売した。期末在庫は 1 個で
あるが、期末時点では商品は 100 円/個に値下がりしていたとする。
この例について、会計上の利益を求めたのが、図「会計方針による在庫評価の違い」である。仕入高や在庫の評価方
法によって会計上の利益が違ってくるが、在庫に評価損がある場合、新ルールが適用されることで、より利益が保守的に
102
計上されていることになり、より実態に近い姿になっていることがわかる。
・(旧)原価法(*1) 取得した原価で在庫を評価する会計処理方法
(含み損益が発生する)
・(新)原価法
通常の販売目的で保有する棚卸資産について、収益の低下による簿価切り下げを行う会計処
理方法
(含み損は発生しない)
◆仕入と売上の対応による会計方針の種類
・先入先出法
先に仕入れたものから順に販売していくという前提に基づく会計処理方法
・後入先出法(*2)後に仕入れたものから先に販売していくという前提に基づく会計処理方法
・個別法
仕入れた商品ごとに着目し、販売されたか否かを判定する会計処理方法
・総平均法
一定期間の総仕入に対し、平均単価を求め、総販売を対応させる会計処理方法
・売価還元法
値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求め
た金額を期末棚卸資産の価額とする会計処理方法
*1:2008 年 4 月 1 日以降に開始される事業年度から廃止。
*2:2010 年 4 月 1 日以降に開始される事業年度から廃止。
第 3 項 ヘッジ会計とリスクヘッジ
ヘッジ会計とはヘッジは実施したら、それで終わりというものではない。ヘッジの結果を会計処理し、財務報告し、それに
基づき納税が行われて、はじめてヘッジに係わる一連の手続きが完了したことになる。つまり、ヘッジを実行した後の会計
処理も、ヘッジの極めて重要な一部分を構成しているのである。
103
折角ヘッジしたのに、会計上の取り扱いとしてはヘッジをしていないように扱われてしまうのではヘッジの効用も薄れてし
まう。そこで重要となるのがヘッジ会計である。
ヘッジ会計とは「ヘッジの手段として用いられた取引とヘッジ対象との間の会計上の損益認識時期のずれを調整する会
計処理」をいう。ヘッジ会計は現在のところ「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第 10 号)に規定されてお
り、2000 年 4 月 1 日以降開始された会計年度より適用が認められた比較的新しい制度である。現在の税制は企業
会計基準を前提としているため、ヘッジに係わる会計処理が適切に行われなければ、たとえヘッジを行ったとしても、ヘッジ
対象の損益とヘッジ取引による損益とは別のものとして切り離され、両者の損益は相殺されることなく税金を徴収されてし
まう。さらに会計上の数字が悪化すると、クレジット・リスクが高まり資金調達で不利になるなど、会計上の取り扱いは企
業実態にも影響が及ぶことになる。
1.
へッジ会計の具体例
それではヘッジ会計の具体例を見てみよう。3 月末を決算期とする飼料会社の A 社は 3 月 1 日時点で、夏場にあわ
せてとうもろこし先物取引で飼料原料の価格変動リスクのヘッジを行うことにした。3 月 1 日においてとうもろこしの現物価
格は 20,000 円/t であり、A 社は同日、先物市場で 7 月限の灯油先物を 20,000 円/t で 1 万 t 分のポジションを
買い建てた。その後、3 月末の決算期末時点では、とうもろこしの先物価格と現物価格はともに 21,000 円/t に値上が
りしていたとする。
このときの先物取引の評価益は 1,000 円/t×1 万 t =1,000 万円となる。しかし、これはあくまで来期 7 月のとうも
ろこし購入に対するヘッジ取引に伴う評価益である。一方、現物価格は 1,000 円/kl 値上がりしているが、実際には仕
入は発生していないため、現物取引では損益は 3 月時点で発生していない。このため、A 社としては、先物取引の評価
益を当期の利益とはせずに、現物取引が行われる来期の 7 月まで繰り延べることとしたい。このとき先物取引により発生
している利益 1,000 万円を来期の利益として繰り延べる会計上の手続きがヘッジ会計である。
ヘッジ取引とはそもそも、ヘッジ対象の損益をヘッジ手段の損益と相殺することで、損益を固定化することに意義がある。
したがって、ヘッジがうまく機能している場合は、ヘッジ終了時点でヘッジ対象の損益はヘッジ手段の損益で相殺される。
しかし、仮にヘッジ会計が認められなければ、ヘッジの途中で決算期をむかえると課税が行われることにより、税金分だけ
損益にずれが生じることになる。
この例で、ヘッジ会計が適用されれば、先物取引から発生する利益は、現物取引の損失によって相殺されるため、課
税は原則として発生しない。しかし仮にヘッジ会計が認められず、3 月末時点でヘッジ手段である先物取引の評価益
1,000 万円について、税率 50%で課税された場合を考える。3 月以降相場の変動がないとすると、7 月時点で、実際
の現物仕入価格は 21,000 円/t となり、ヘッジ対象である現物取引は 1,000 円/t のマイナスが発生していることになる。
一方、ヘッジ手段である先物取引では、3 月時点で 1,000 万円の利益に対し、既に 500 万円が税金として徴収され
ているので、先物取引についての税引き後利益は 500 万円となる。ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を通算すると、税金
の 500 万円分がマイナスとなってしまう。
104
2.
ヘッジ会計の対象となる取引
「金融商品に関する会計基準」によれば、ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象は、①「相場変動等による損失の可能
性がある資産又は負債で相場変動等が評価に反映されていないもの」、②「相場変 動等が評価に反映されているが
評価差額が損益として処理されないもの」、③「資産又は負債に係るキャッシュ・フローが固定され、その変動が回避され
るもの」と規定されている。
たとえば上記①の例としては、取得原価で評価されているガソリンや灯油などの商品在庫が挙げられる。持ち合い株式
などの有価証券は①の例であり、防衛省への入札による固定価格での軽油の売買契約は②の例にあたる。
また、ここで想定されているのは、現存する資産・負債だけでなく、「予定取引」により発生が見込まれる資産又は負債
も含まれる。この「予定取引」とは、「未履行の確定契約および契約は成立していないが、取引予定時期、取引予定物
件、取引予定量、取引予定価額等の主要な取引条件が合理的に予測可能であり、それが実行される可能性が極め
て高い取引」をいう。したがって、受注生産・受注販売だけでなく、見込み生産・見込み販売も対象となり得る。
3.
ヘッジ会計の適用要件
ヘッジ会計を適用することで、結果として利益の繰延べが可能となる。したがって、ヘッジ会計がその趣旨に反して適用
されると、利益操作による納税の回避が可能になるばかりか、財務諸表の利用者である投資家の判断を誤らせることに
なる。このため、ヘッジ会計の適用は厳格に審査され、事前と事後の要件を満たさなければならないことになっている。
事前要件とはヘッジ取引を行う前に満たしておくべき要件である。具体的には、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に
従ったものであることが、取引時に、次の①、②のいずれかによって客観的に認められることとされている。即ち、①「当該
105
取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが文書により確認できること」、または②「企業のリスク管理方針に
関して明確な内部規定および内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること」のい
ずれかが事前に確認されている必要がある。
事後要件は、「ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が、高い程度で相殺される状態、又はヘッ
ジ対象のキャッシュ・フローが固定され、その変動が回避される状態が、引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効
果が定期的に確認されていること」とされている。
4.
ベーシスリスクとヘッジ会計の関係
事後要件としてのヘッジ有効性の判定は、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ
対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、
両者の変動額等を基礎にして判断する。両者の変動額の比率がおおむね 80%から 125%の範囲内にあれば、ヘッジ
対象とヘッジ手段との間に高い相関関係があると認められ、ヘッジ会計の適用が認められる。ここでいうヘッジ対象とヘッジ
手段の価格変動の差とは、ベーシスリスクのことである。したがって、ヘッジ会計の適用にあたっては、ベーシスリスクの大き
さが判断基準となる
5.
ヘッジ会計制度とリスク管理
ヘッジ会計は利益操作に悪用される危険性があるので、その適用は厳格に判定しなければならない。しかし、あまりに
厳格に過ぎると、ヘッジ会計が適用されずに、企業活動の最終成果である会計上の利益がヘッジ行為とは無関係に評
価されてしまい、企業のリスク管理に対する意欲を減退させる危険性がある。このようにヘッジ会計は諸刃の剣で、誤って
利用された場合の弊害が大きいものの、適正に利用された場合のメリットも大きく、企業におけるヘッジに対する姿勢やリ
スク管理の定着に重要な意味を持っている。特にリスク管理を前提とした経営が求められる世界的規模での自由競争
時代において、ヘッジ会計制度の充実は喫緊の課題である。
第 6 節 モダン・ポートフォリオ理論
「ポートフォリオ」(portfolio)は、一般には「書類カバン」や「携帯書類入れ」をさす言葉だが、経済・金融分野では、
株券などの有価証券を入れる書類カバンから転じて「資産構成」「資産の組み合わせ」などの意味で使われている。
伝統的な投資理論におけるポートフォリオの概念でも「一つの籠にすべての卵を盛らない」など経験的理解は古くからあ
ったが、分散投資の効果が数学的に証明され、リスクとリターンを定量化してコンピュータプログラムで計算可能なものにな
ったのは、1952 年、シカゴ大学の大学院生だったハリー・マコービッツ(Harry Markowitz)が著した博士論文「ポート
フォリオセレクション:分散投資理論」が最初だった。
マコービッツがこの論文で提唱した「平均・分散アプローチ」と「ポートフォリオの最適化」は、その後、シャープが考案した
資本資産価格理論(CAPM 理論)などを経て、1990 年代にほぼ完成し、それまでのポートフォリオ理論に対して「モダ
ン・ポートフォリオ理論(MPT)」と呼ばれるようになった。マコービッツはこの業績が認められ、1990 年に、同じシカゴ大
学のマートン・ミラー、スタンフォード大学のウィリアム・シャープと共にノーベル経済学賞を受賞した。
ポートフォリオ・セレクション(資産の組み合わせ)の考え方
106
(1) 相関関係とリスクの計測
ポートフォリオを組む理由の第一は、一つの投資の成績が振るわなくても、別の投資がそれをカバーできるほど高いリター
ンを上げることができれば運用成績の振れが小さくでき、全体の収益も確保されることにある。そのためには、互いに相関
のない投資商品のポートフォリオを組成することがリスクを軽減する手段の一つになるというのが、MPT のまず画期的な点
だった。
仮に、「ハイリスク、ハイリターン」の資産 A と「ローリスク、ローリターン」の資産 B を組み合わせたとする。両者がまったく同
じ値動きをすれば、ポートフォリオの期待リターンは資産 A と資産 B の中間になる。
しかし、MPT では、もし資産 A と資産 B の値動きとリターンの連動性(相関)が低ければ、理論上、ポートフォリオ全
体のリスクは低くなるとしている。
相関関係を読み取るポイントは、資産のリターンが同じ方向に動く傾向にあるか、逆の方向に動く傾向が強いかにある。
お互いのプラスとマイナスを打ち消すように逆の方向に動く傾向にある投資対象を「相関が低い」という。
例えば投資対象 A と B の過去 5 年間のリターン(収益)を比べて見る。
<投資対象 A と B の過去 5 年間の収益推移>
1年
2年
3年
4年
5年
平均
標準偏差
資産 A
60
80
40
-20
20
36
38.47
資産 B
-10
-5
60
60
60
33
37.01
50
75
100
40
80
69
24.08
A+B 合成
それぞれをみると、両者ともリターンの平均値からの散らばり具合を表わす標準偏差が大きい反面、リターンは1年目
で B が-10であるのに対して A は60、4年目は逆に B が60、A が-20となるなど、両者の連動性(相関)
は低い。しかし両者を合成してみると、リターンの振れは小さくなり、標準偏差も小さくなっている。
このことから、ポートフォリオによるリスクコントロールに重要な役割を果たすのが、投資対象間の相関関係であることが分
かる。この連動性の度合いを示す相関係数は+1から-1までの範囲にあり、相関係数が+1であればまったく同一の
パターンで変動する(一方が 1%値上がりすれば、もう一方も 1%値上がりする)。-1であれば、まったく逆に動き、0
であれば 2 つのデータの変動の間には何の関係もない。
安全資産(国債や預貯金の利子)での運用と、上記の資産Aと資産Bのリスク資産を組み合わせた場合の期待
収益率とリスクの関係は下図の曲線上の点で表わされる。
107
注目されるのは、この曲線上に資産 B よりも収益率が高く、リスクが小さな点 D が存在することである。このことから、
AとBの組み合わせによっては、B以下のリスクにすることができるということになる。
このポートフォリオにおいて、投資家がなるべくリスクを低くし、利益を大きくしたいと思うなら、安全資産の点Fから曲線に
引いた接線との交点(点E)における保有比率が最適なAとBの保有比率となる。
MPT に基づいて、リスク・リターンの異なる投資対象を組み入れたポートフォリオの効果を最大にする組み合わせ比率
を求めることができる。そして、リスクが最小でリターンが大きい組み合わせの範囲(上図では曲線上の点 D より右上の部
分)を有効フロンティアと呼んでいる。
有効フロンティアを作成するためには、投資対象ごとに収益のヒストリカルデータから期待リターン、リスク(分散・標準偏
差)を求め、相関係数と期待リターンに基づいて、ポートフォリオにおける各投資対象の組み入れ比率を変えていく。
これを元に、期待リターンに対してリスクが最小となるポートフォリオを組んだ時のリスク・リターンを示す有効フロンティアの
曲線を作成することで、リスクを小さくして、リターンを最大にするポートフォリオを構成することができる。ちなみに、MPT は
現在では、株や商品ばかりでなく、不動産投資や生命保険などのビジネスにも応用されている。
次に、商品と伝統的資産(株、債券)の相関係数を具体的に見てみよう。サンプルは 2002 年 1 月 4 日から
2012 年 12 月 28 日までの国内市場のデータである。これを見ると、とうもろこし、ゴム、金ともに日経 225、為替、JGB
(日本国債)との相関が低いことがわかる。
108
<商品と伝統的資産の相関係数>
日経 225
JGB
ドル円
とうもろこし
ゴム
日経 225
1.00
JGB
0.32
1.00
ドル円
0.35
0.22
1.00
とうもろこし
0.32
0.11
0.27
1.00
ゴム
0.40
0.14
0.24
0.41
1.00
金
0.27
0.08
0.24
0.38
0.37
109
金
1.00
<コラム>
◆商品投資とモダン・ポートフォリオ理論◆
商品先物市場は、伝統的な投資に対する分散投資の対象として位置づけられる。
米国の商品先物市場で、MPT が初めて注目されたのは 1983 年、ジョン・リントナーが、マコービッツの理論を用いて、
株式と債券のポートフォリオに原油や貴金属、穀物などの商品先物市場に投資する商品ファンド(Managed
Futures)を加えることで収益が安定するという論文を発表してからだといわれている。
実際に米国で作られた商品ファンドの第一号は、1949 年にリチャード・ドンシャンが設立した公募型ファンド「フューチャ
ーズ・インク」だとされているが、リントナーが論文を発表するまでの商品ファンドは、理論的な裏付けに欠けており、運用金
額もごくわずかだった。
しかし、リントナーの論文発表以後、商品ファンドの運用マネージャー(Commodity Pool Operator:CPO)たち
が、その成績を分析する資料の中に、株式や債券などの伝統的な運用資産価格と原油や貴金属、穀物などの商品価
格との非相関関係を示した数字や、伝統的なポートフォリオの中に、商品を加えた時のリスクとリターンを MPT を使って検
証したグラフなどを加えたことで、州や大学、企業の年金基金なども注目し始め、特に米国株式市場が大暴落した
1987 年 10 月のブラックマンデー以降、その運用金額は 86 年の約 20 億ドルから 93 年には約 226 億ドルへと急速
に拡大した。
運用総額の 5%から 10%の証拠金で取引できる先物取引は、もともと商品から生まれた。天候の異常や輸送・生産コ
ストの変動など様々なリスクがあることから、将来の一定の時点で幾らになっているか分からない商品価格を、現時点で
売り買いする商品先物取引は一種の保険の役割を果たしている。その取引相手として、積極的にリスクを引き受けようと
する多数の投機家の存在は必要だが、機能そのものは、その商品に関わる生産者や加工業者、販売業者などにとって
価格の安定化に役立つものであると理解されてもいる。
しかし、株式市場では、先物取引の対象となっているのが個々の株式でなく指数の売買であることから、少ない証拠
金で取引できる先物取引が増えすぎると、現物の需給関係に大きな影響を与えると危惧する声は、株価指数先物を
世界に先駆けて始めた米国でも当初から少なくなかった。とりわけ裁定取引(アービトラージ)は、現物市場では先物
市場とは反対の売買を伴うことから、現物市場に大きな影響を与えるとの見方が多かった。そのため、ブラックマンデーは、
一方で、先物市場が現物市場の暴落に拍車をかけたという「先物罪悪論」も生んだのだが、その一方で、商品ファンドは
高い運用成績を継続したために、改めて商品と他の金融資産との非相関関係を裏付ける契機にもなったのである。
商品ファンド資金を商品先物市場で実際に運用する商品投資顧問(Commodity Trading Advisor:CTA)
の数も、82 年の 117 社から 80 年代後半には 600 社、90 年代中盤には 1600 社へと増加した。
CTA たちは、90 年代後半に入ると、運用資産が拡大したために、米国の商品先物市場ばかりでなく、世界中の
様々な金融・商品の先物市場でも取引するようになり、ヘッジファンドを名乗ることも多くなった。これに伴い、米国の商品
ファンド協会(Managed Futures Association:MFA)も、名称を「マネージド・ファンド協会」(Managed Fund
Association:MFA)に改称。同協会がまとめている商品ファンドの成績も統計上、ヘッジファンドに組み込まれるよう
になった。ヘッジファンド全体の運用金額は、2012 年末には 2 兆 2,500 億ドル(Hedge Fund Research 社調べ)
と推計されている。
110
第5章
東京商品取引所のルール
第 1 節 取引要綱
取引要綱には、当社で上場している商品について、品質・種類、数量、受渡し条件等が記載されている。
商品
URL
とうもろこし
http://www.tocom.or.jp/jp/guide/youkou/corn.html
一般大豆
http://www.tocom.or.jp/jp/guide/youkou/soybean.html
小豆
http://www.tocom.or.jp/jp/guide/youkou/azuki_redbean.html
第 2 節 建玉制限
建玉制限は、取引参加者が保有できる建玉数量の上限を売建玉又は買建玉のそれぞれについて定めている。建玉
制限の数量は、TOCOM の取引参加者の自己と委託者及び海外顧客に分けて設定している。なお、委託者及び海
外顧客は、当業者、投資信託等、マーケット・メーカー又はそれ以外の者に区分され、それぞれ建玉可能な数量が異な
っている。ただし、小豆のみ、これら区分のほか、「当業者」の区分があり別の建玉制限が設定されている。また、小豆に
ついては、取引参加者や当業者等が、既存限月の繰越しによって通常の建玉数量を超えることとなった場合の措置等
がとうもろこしや一般大豆と異なっているので注意が必要である。
参照規定
農産物・砂糖市場管理細則
URL
http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/16_nousannbutusatou
_shijyoukannrisaisoku_20150108.pdf
第 3 節 ヘッジ玉の取扱い
ヘッジ玉については、現物商品等の取引等によって生じる価格変動リスクを回避又は軽減することを目的として、通常
の建玉制限を超過する取引を予定しているなどの場合に、現物取引の契約書等を当社へ提出して、当社が承認すれ
ば、承認した枚数をヘッジ玉として、通常の建玉制限以上の建玉を認める制度である。
ただし、とうもろこし、一般大豆、小豆については、それ以外の上場商品と異なり、建玉数量の制限を超える部分の受
渡しを行うことができないので注意する必要がある。
参照規定
URL
農産物・砂糖市場ヘッジ玉取
http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/63_nousanbutsusatou
扱要領
_shijyohejjigyoku_toriatsukaiyouryou_140331.pdf.pdf
111
第 4 節 受渡制度
現物先物取引では、当月限の建玉について納会日までに差金決済を行わず、売り・買いの建玉を保有した場合、
現物の受渡しを行うことになる。農産物・砂糖市場の場合、この受渡しを「基本受渡」といい、この他に、大豆については、
受渡しに柔軟性を持たせた制度として「申告受渡制度」や「受渡条件調整制度」が導入されている。
参照ページ:http://www.tocom.or.jp/jp/guide/seido/agriculturalproduct_sugar.html
参照規定
農産物・砂糖受渡細則
URL
http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/nousanbutsusatou_uk
ewatashisaisoku.pdf
農産物・砂糖受渡細則取扱
http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/nousanbutsusatou_uk
要領
ewatashi_saisoku_toriatsukaiyouryou_160201.pdf
農産物・砂糖申告受渡実施
http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/51_nousanbutsusatou
要領
_shinkokuukewatashi_jisshiyouryou_140331.pdf
農産物・砂糖受渡条件調整
http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/52_nousanbutsusatou
実施要領
_ukewatashi_jyoukentyousei_jisshiyouryou_140331.pdf.pdf
第 5 節 EFP取引について
大量のヘッジ・ポジションを建てたり、解消したりする場合、先物市場に大量の売り注文や買い注文を入れると、自らの
注文発注によって価格が不利な方向に動いてしまうことがある。
そこで現物取引が背後にあるといった一定の条件の下に、先物の買いと売りを個別競争売買を介さずに、取引所へ
申出て、その承認をもって先物取引を成立させることが認められており、このように現物取引の契約を結んだ売り方と買い
方が、同一価格の先物の買いと売りを個別競争売買を介さずに成立させる取引を、EFP 取引(Exchange of
Futures for Physicals)と呼ぶ。
また、スワップ契約(現物取引の売買契約における変動価格と固定価格の交換)を締結した当事者が、EFP 取引
と同様の手法で、スワップのポジションとの交換で先物の約定を成立させることも認められて おり、これは EFS 取引
(Exchange of Futures for Swaps)と呼ばれる。
参照ページ:http://www.tocom.or.jp/jp/guide/nyumon/tougyou/efp02.html
参照規定
URL
EFP取引及びEFS取引
http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/25_EFP_EFStorihikijissi
実施細則
saisoku_20150420.pdf
※EFP・EFS 取引については、TOCOM 「業務規程」第 32~35 条も参照のこと。
112