高等学校物理におけるマルチメディア活用の効果に関する研究 -線結び

高等学校物理におけるマルチメディア活用の効果に関する研究
―
線結び式内容分析法を用いた授業評価を通して
教 科教 育 部
―
島田俊明
研究の要約
1
ねらい
情報化の進む社会の中で教育界においてもコンピュータが多く設置されている。広島県下で
も,高等学校の物理の授業でコンピュータをはじめとしたマルチメディア機器を使用した授業
が多く行われるようになってきた。本研究では,線結び式内容分析法を用いた授業評価を行う
ことで,高等学校物理の授業におけるマルチメディア機器の使用についての評価を行い,分か
る授業のためのマルチメディア機器の使用についての在り方を探ることを目的とする。
2
成果の概要
本研究を通して,授業評価をするための有効な方法である線結び式内容分析法を心理状態か
ら分析,視覚化するためのツールを開発することができた。また,線結び式内容分析法を用い
て,授業が分かるための道具としてマルチメディアの活用が重要であることが再認識できた。
さらに,授業においてマルチメディアの使用は生徒の注意を引くこと,授業が分かるためには
マルチメディアの要素として映像が重要であることが分かった。
目
はじめに
Ⅰ 研究の概要
1 研究の目的
2 研究の内容と方法
(1) 研究内容
(2) 研究方法
3 研究計画
Ⅱ 研究の基本的な考え方
1 マルチメディアの定義
2 マルチメディアの普及
3 マルチメディアと教育
(1) 教育におけるマルチメディア
(2) 道具としてのマルチメディア
(3) 高等学校物理とマルチメディア
Ⅲ 線結び式内容分析法
1 線結び式内容分析法とは
2 プログラム開発の目的
Ⅳ 実践授業の実際
1 実践授業1
○広島県立広島観音高等学校
170
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175
次
2 実践授業2
○広島県立廿日市高等学校
3 実践授業3
○広島県立広島工業高等学校
Ⅴ 分析と考察
1 授業実践校全体の分析
(1) 授業に関する線結び式内容分析表から
(2) マルチメディアに関する線結び式内容
分析表から
2 四段階評定尺度法による分析
3 実践校相互の比較による分析
4 考察
Ⅵ 成果と課題
1 研究の成果
2 今後の課題
おわりに
補足
1 線結び式内容分析法の分析ツール開発
について
2 線結び式内容表分析法の活用について
- 169 -
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はじめに
近年の情報化の進展に伴い,社会の中にコンピ
ュータをはじめとする情報機器が多く用いられる
ようになってきた。このような時代の中で,教育
界においても個人が正しく情報を扱い,主体的に
情報を発信したり表現したりする力が必要となっ
てきた。生徒の情報活用能力を育成するための情
報教育について,高等学校段階では,数学,理科,
家庭科にコンピュータ関連の内容を取り入れると
ともに,来年度施行される高等学校新学習指導要
領では,情報化の進展に主体的に対応できる能力
と態度を育てるために教科「情報」が設置され,
必修教科となっている。
これまで情報教育の実施については,その考え
方は数学,理科などの教科の中でコンピュータ活
用と教科内容をクロスさせて習得させるべきか,
情報基礎のように独立した内容で学習させるべき
かという二つの考え方があった。
文部省(現文部科学省)は「ミレニアムプロジ
ェクト」により「教科教育」を中心としたコンピ
ュータ等の情報手段の活用を打ち出した。このよ
うな施策が行われる中,学校にコンピュータの導
入がいっきに進んできたのである。
平成 13 年度文部科学省調査によると,高等学校
においては 86.8%の教員がコンピュータの操作
ができるようになり,34.4%の教員がコンピュー
タで指導できるようになってきた。教員が行って
いるコンピュータの活用を「教科内容が分かる」
ための活用にするための提言が必要となっている。
Ⅰ
1
実践例が少ないこと,授業実践に必要なディジタ
ルコンテンツなどが少ないこと等が考えられる。
しかしこれから条件整備が進めば,マルチメデ
ィアを使用した授業実践は多くなっていくことは
必至である。そのため授業において,マルチメデ
ィアを使用する際のマルチメディア要素の授業に
おける効果や問題点を明らかにしていく必要があ
る。
そこで,高等学校物理の授業においてマルチメ
ディアを活用した授業を行い,線結び式内容分析
法を用いて授業評価を行うことにより,マルチメ
ディア活用の効果について明確にしたいと考えこ
の主題を設定した。
2
研究の内容と方法
(1) 研究内容
○ マルチメディア活用に関する文献研究
○ 線結び式内容分析法による授業評価のための
プログラム作成
○ 研究協力校によるマルチメディア活用の実践
及び分析
○ 授業におけるマルチメディアの活用に対する
提言
(2)
○
○
○
研究方法
文献研究
実践研究
プログラム開発
3
研究計画
研究の概要
研究の目的
「ミレニアムプロジェクト」や「学校インター
ネット」などの施策により,各学校にコンピュー
タをはじめとするマルチメディア機器の導入が
進んでいる。広島県下においても様々な事業によ
り多くの学校にマルチメディア機器が設置され
るようになった。そしてこれらの機器を教師が活
用する場面が増えてきた。しかし,これらマルチ
メディア機器を「教科教育」のなかで活用してい
る例はまだ少ないように思える。その理由として,
- 170 -
○
○
研 究 内 容
研究計画書の作成
文献研究
○
○
○
○
○
第1回研究協力員会議
研究協力校における実践
第2回研究協力員会議
研究のまとめ
報告書作成
期 間
4月
4月〜6月
中旬
6月下旬
7月〜11 月
12 月
12 月〜1月
2月
研究の基本的な考え方
コ
Ⅱ
マルチメディアの定義
ピ
1
ン
文字
数値
生徒・教師
ュ
音声
ー
タ
広辞苑によると,マルチメディアとは「情報を
伝達するメディアが多様になる状態。また,コン
ピュータで映像・音声・文字などのメディアを複
合し一元的に扱うこと。」とされている。
従来のメディアは,新聞,雑誌などの印刷メデ
ィアやラジオ,テレビなどの放送メディアが中心
であった。マルチメディアという言葉は当初,二
つ以上のメディアを組み合わせたものを意味して
いた。たとえばビデオ(映像)とテキスト(活字)
を組み合わせた英語の教材やスライド(映像)に
効果音(音声)を組み合わせた理科の教材などが
マルチメディア教材といわれていた。
一方,経済産業省やコンピュータ業界もそれぞ
れマルチメディアの定義を行っており,様々なマ
ルチメディアの定義がある。
杉原義得(注1)は,マルチメディアを定義する
要素を「デジタル」,「インタラクティブ(双方向
性)」,の二つのポイントに「シームレス」を加え
たものであるとし,これらがうまく機能し合って,
各方面へのマルチメディアが活用されるといって
いる。
① デジタル
音声,文字(テキスト),ビデオ(動画),写真
(静止画),グラフィックス(静止画),アニメー
ション(動画)などの各種メディアをデジタル信
号化し,二つ以上のメディアを組み合わせて入力,
伝達,出力できるもの。
② インタラクティブ
人間と情報端末の間に情報のやり取りがあり,
利用者が主体的に自分の欲しい情報を得られるも
の。
③ シームレス
さまざまな境界がなくなり,融合していくこと。
本研究ではマルチメディアの定義をこれらの文
献をもとに,図1のように文字・数値・音声・映
像(動画)
・静止画などの複数の情報を,コンピュ
ータを通して,生徒や教師が必要に応じて選択し,
インタラクティブに活用できる統合的な手段とと
らえる。
映像
静止画
ディジタル
図1
2
インタラクティブ
本研究におけるマルチメディアの定義
マルチメディアの普及
マルチメディアの発達において,重要な役割を
果たしたプロジェクトは,アメリカのクリントン
政権ゴア副大統領が打ち出した「情報スーパーハ
イウェイ構想」であるとされている。これは 2015
年までに全米の家庭やオフィス,学校,病院,図
書館などを光ファイバー網で結び,ディジタル化
した画像,音声,文字などを双方向に通信できる
ようにする基盤を作り上げる計画である。
日本では,故小渕元総理が「情報化」「高齢化」
「環境対応」などの重要分野について,ミレニア
ムプロジェクトとして,技術革新を基本に据えた
政策を提唱した。
「情報化」の中でも「教育の情報
化」はミレニアムプロジェクトの中心的な政策と
されている。その概要は次のとおりである。
ア 教育課程について
○ 小中高等学校の各教科や「総合的な学習の時
間」にコンピュータや情報ネットワークを活用
する。
○ 平成 14 年度から中学校の技術・家庭科で「情
報とコンピュータ」を必修化する。
○ 平成 15 年度から,高等学校の普通教科として
「情報」を新設し必修化する。
イ ハード面について
○ 平成 17 年度までにすべての小中高等学校の
- 171 -
各普通教室に2台,特別教室に6台の割合でコ
ンピュータを整備する。
○ 小学校において,コンピュータ教室のコンピ
ュータの数を増やす。
○ 平成13 年度までに全公立学校をインターネッ
トに接続し,平成17 年度までにすべての教室で
インターネットを活用できるようにする。
ウ ソフト面について
○ 学校の授業等で活用できるようなコンテンツ
の開発・普及を図る。そのためのモデル提供や
ノウハウの蓄積を進める。
○ 平成17 年度までに,学校教育や生涯学習に関
する情報について,全国各地から有益な検索が
でき,また各種の教育用コンテンツを検索・ダ
ウンロードできるポータルサイト等の教育情報
ナショナルセンター機能を整備する。
このミレニアムプロジェクトや,文部省(現文
部科学省)と通商産業省(現経済産業省)のe−
スクエアプロジェクト,及び通信・放送機構(文
部科学省・総務省連携プロジェクト)の学校イン
ターネット1「先進的教育用ネットワークモデル
地域事業」,学校インターネット2「マルチメディ
ア活用学校間連携推進事業」,学校インターネット
3「次世代ITを活用した未来型教育研究開発事
業」などにより学校には多くのマルチメディア機
器が設置されるようになってきた。
また,文部省(当時)はミレニアムプロジェク
トの目的について,ミレニアムプロジェクトの概
要において,コンピュータやインターネットなど
の「新しい道具」を使うことによって,これまで
行ってきた「教科書」を用いた「各教科の授業」
をすべての子どもにとって「分かるもの」にする
ということであるとしている。つまり「コンピュ
ータの使い方を学ぶ」とか「総合的な学習の時間
にコンピュータ等を使う」といった側面は平成 11
年度までに既に可能になったことであり,コンピ
ュータやインターネットを使うことの目的は,す
べての子どもたちが日々の授業が理解できるよう
にするためであると考えられる。
3
マルチメディアと教育
(1) 教育におけるマルチメディア
情報化社会への変化が教育にどのような影響を
及ぼすかについて,平成8年7月の中央教育審議
会答申において,マルチメディアの教育利用との
関連について,
「 マルチメディアなど情報化が進展
する中で,知識・情報にアクセスすることが容易
となり,入手した知識・情報を使ってもっと価値
ある新しいものを生み出す創造性が強く求められ
るようになっている。」と記述され,学校において
も情報や情報機器を主体的に選択し,マルチメデ
ィアを活用する能力を育成していくことが重要視
されている。
文部科学省の平成14 年度予算事業の「IT教育
深化・定着プロジェクト」に関連し,
「初等中等教
育におけるIT活用の推進に関する検討会議」に
おいて,家野等(注2)は理科におけるIT活用につ
いて
○ スタンドアロンは,従来からの活用法で,教
材提示用ツール,観察実験用ツール,児童・生
徒の発表用ツールとして活用できる。教材提示
用ツールは,理科では直接観察できない現象が
たくさんあり,効果があがっている。
○ 教室内ネットワークによる活用は,教材・資
料を共有できる。学習経過や成果をサーバにあ
げることで,過程や成果の共有もリアルタイム
にすることができる。
○ 校内ネットワークによる活用。理科の範囲を
少し広げ野外に出かけたり,学級間で情報交換
したり,校内データベースに蓄積していくこと
もできる。
○ 地域イントラネットによる活用。学校間の資
料・データの共有。
○ インターネットによる活用。さらに広げた活
動で自分たちの成果を発信することもできる。
と報告している。
高等学校(平成11 年3月)の学習指導要領総則
には教育課程の実施等に当たって配慮すべき事項
として,各教科・科目等の指導に当たっては,
「生
徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの
情報手段を積極的に活用できるようにするための
学習活動の充実に努めるとともに,視聴覚教材や
教育機器などの教材・教具の適切な活用を図るこ
と。」と示されている。(注3)
(2) 道具としてのマルチメディア
佐伯胖は道具の定義として,
○ 道具は人間の代用物ではないし,人間に「か
くあるべし」とか「こうすべきだ」という価値
判断の基準を示すものであってはならない(非
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規範性)。
○ 道具は人が何かの作業を達成しようとしたと
き,その達成を支援する手段として有効に機能
してくれるものでなければならない(手段性)。
○ 道具はしばらく使っているうちに「使ってい
る」という意識がなくなり,それを使って実行
している作業そのものに集中できるものでなけ
ればならない(透明性)。
の3点を挙げた上で,コンピュータはこれらの要
素を満たす道具と考えられると述べている。(注4)
コンピュータをはじめとするマルチメディア機
器は,いまだそれらを使用すること,またはそれ
らの機器の使用法や使用技術の習得に目的が置か
れている現状がうかがえる。高等学校において平
成15 年度から教科「情報」が導入され,これらの
目的は各教科において指導していく必要はなくな
っていくものと思われる。このようにコンピュー
タは教科指導の中で,その教科における授業の目
的である「授業内容が分かる。」ための道具として,
使用されることの必要性がクローズアップされる
ようになってきた。
(3) 高等学校物理とマルチメディア
高等学校物理に関連しては高等学校学習指導要
領解説理科編,物理Ⅰの内容の構成とその取り扱
いにおいて,
「コンピュータや情報通信ネットワー
クを活用するに当たっては,情報の収集・検索・
計測・制御・結果の集計・処理など,探求活動の
有用な道具として活用するよう配慮する。」(注5)
とされている。
高等学校物理においてコンピュータは,様々な
センサーを用いて計測・制御したデータを処理し,
表計算ソフト等により集計,グラフ化するといっ
た方法で以前からよく使われていた。最近ではデ
ィジタルカメラの性能が著しく向上し,記録タイ
マーやストロボ撮影のかわりに,ディジタルカメ
ラの連写機能を使用して連続写真を撮り,分析す
る方法も報告されている。また,現実の事象に対
し数学的なモデルを作り,パラメータ等を変化さ
せることによって,モデルと実際のものとの類似
点,相違点を明らかにするといったシミュレーシ
ョンの授業における使用については,その現象が
連続的に起こり,動きを止めることが難しいこと
から,波動分野において以前からよく行われてい
た。
表1に物理教育におけるマルチメディア機器の
活用例を杉本良一の分類(注6)を参考にまとめる。
表1
分類
実験・
計測
シミュレーシ
ョン
インターネッ
ト
情報検
索
補助教
材
実験デ
ータ処理
発表・
報告
TV会
議
物理におけるマルチメディア機器の活用例
活用例
時間,質量,温度,照度,電圧,電流,
等の測定,制御
振り子の運動等の力学分野,干渉等波
動分野,仮想実験
教材の情報交換,電子メール利用によ
る情報交換,問い合わせ,情報検索
CD‑ROM 教材による問題検索,物理教
具の検索
動画(ビデオ画像,アニメーション等
を利用),静止画による
表計算,グラフ作成ソフトを用いた実
験データの集計,計算処理,グラフ化
文書作成,プレゼンテーションソフト
の利用
遠隔講義,仮想教室
評 価 ツ 概念地図の作成,ポートフォリオ評価
ール
等
ド リ ル 公式の記憶学習,基本問題の徹底演習
学習
広島県においても,これらの実践はされている
が,先に述べたような「新しい道具」としてのマ
ルチメディアの活用については,まだ報告例が少
ない。プロジェクター,タッチパネルディスプレ
イなどのマルチメディア機器を,コンピュータを
通して,高等学校物理の授業で使用することで,
効果が上がると考えられる。
本研究は3校の研究協力員の先生方によって,
それぞれの研究協力校の実態に応じたマルチメデ
ィア機器,授業内容で授業実践を行い,その効果
について,線結び式内容分析法等を用いて評価を
試みるものである。
Ⅲ
線結び式内容分析法
1
線結び式内容分析法とは
線結び式内容分析法は東京工業大学坂元昂(現
メディア教育開発センター所長)が開発した授業
- 173 -
表2
線結び式内容分析表
授業に関するアンケート
気づき
心理状態
属性
1,説明が
1,やさしかったので
1,できた
2, マルチメディアの活用が
2,むずかしかったので
2,できなかった
3,学習の目的が
3,多かったので
3,わかった
4,質問が
4,少なかったので
4,わからなかった
5,説明の仕方が
5,速かったので
5,楽しかった
6,はげましが
6,遅かったので
6,楽しくなかった
7,注意が
7,ていねいだったので
7,満足だった
8,先生中心の学習が
8,雑だったので
8,不満だった
9,生徒中心の学習が
9,分かりやすかったので
9,やる気があった
10,板書が
10,分かりにくかったので
10,やる気がなかった
11,あったので
11,うれしかった
12,なかったので
12,うれしくなかった
13,おもしろかったので
13,好きだった
14,おもしろくなかったので
14,きらいだった
15,明確であったので
15,夢中だった
16,明確でなかったので
16,あきあきした
内容分析法である。
教師は,表2のように調査したい内容を「気づ
き」
「属性」
「心理状態(知識・情緒・意欲)」に分
け,それぞれについて調査項目を入れた線結び式
内容分析表を作成する。調査実施時に児童生徒に
分析表を配布し,児童生徒は自分の意見をそれぞ
れ該当項目から選び,
「気づき」,
「属性」及び「心
理状態」をそれぞれ線で結んで評価するものであ
る。
線結び内容分析法は,時間と手間をかけず,授
業の内容分析を行い,授業の改善点を見いだすた
めの方法として開発された評価方法である。この
表3
方法は,項目を線で結ぶだけであるから,自由記
述法のようにあいまいな意見もなく,生徒の意見
の量にも差がでにくい利点がある。さらに評価対
象が始めから記入してあり,生徒各自が持ってい
る表現能力にほとんど影響を受けることがないの
で,生徒自身の心理的,物理的負担も少ないと考
えられる。線結び式内容分析法の特徴については
表3にまとめる。
しかし,実際の調査では,線を引かせて分析し
ようとすると,線がどことどこを結んでいるかあ
いまいになることもあり,また,回収後の作業を
より簡単にするために,次の表4のようなカード
に番号を記入させ回収する方法をとる。また,線
線結び式内容分析法の特徴
表 4
○
授業直後に 10 分程度の時間で生徒の情報
を収集できる。
○ 授業の特性と生徒の認知・感情・意欲など
の関係がつかみやすい。
○ 調査対象全体の傾向を知ることができる。
○ 結果を視覚的に表すことができるので授
業の傾向が一目で分かる。
(
気づきの番号
- 174 -
内 容 分 析 法 回 答 カ ー ド
)に関するアンケート
属性の番号
心理状態の番号
の数は何本でもよいが,時間的な制約などを考慮
すると3本〜5本くらいが望ましいとされている。
また,線結び式内容分析法は,プレテスト,ポ
ストテストを行い,検証授業前後の変容を調べる
こともできる。さらに,個の生徒の変容を分析す
ることも可能である。個の生徒の変容を分析する
場合は,線を引く数を増やしてもよいが,選択肢
に順序付けが必要となるので,強く意識するもの
から選択させるよう配慮することが必要であろう。
本研究においては,授業におけるマルチメディ
ア教材の効果について考えることを目的としてい
るので,クラス全体の傾向をとらえる必要がある。
そのため表4のカードを用い,基本的に線の数は
3本とすることとした。
2
プログラム開発の目的
線結び式内容分析法は,視覚的にその評価がと
らえられるところに最も大きな特徴がある。しか
し,生徒から集めた情報は場合によってはデータ
数が多くなり,その処理に時間がかかりすぎると
ころに問題点がある。そこで,生徒から前述のカ
ードにより収集したデータを数値データとし,そ
の入力のみで,結果を自動的に視覚化させるツー
ルのプログラム作成を行った。
これにより,教師のデータ整理の時間を大幅に
短縮することができ,分析に時間をかけることが
できるようになる。その結果,生徒が行った評価
を次回以降の指導に生かすことが容易になってく
る。
授業主題「シミュレーションを用いて運動量保存
の法則,はねかえり係数を理解させる。」
1 科目 物理ⅠB(3単位)
2 対象学年 第2学年 28 名
3 単元名 運動量とエネルギー,運動量の保存
4 主題設定の理由
運動量保存則・はねかえり係数の式を用いた実
験は,実際に行うことが困難であり,生徒はなか
なか理解を深めることができない。そこで,今回,
パソコンを利用したシミュレーションを行うこと
により,運動量保存則・はねかえり係数に関して,
生徒の理解を深めるためにこの主題を設定した。
5 指導目標
運動量保存則・はねかえり係数の式を用いた問
題が解けるようになる。
6 指導計画(全 5 時間)
第1時:運動量保存の法則の学習
第2時:運動量保存則(合体)の実験
第3時:はねかえり係数についての学習
第4時:運動量保存則・はねかえり係数に関す
るシミュレーション(本時)
第5時:問題演習
7 本時のねらい
シミュレーションをとおして,運動量保存則・
はねかえり係数に関する理解を深める。
8 使用したソフト
大日本図書のホームページの物理IB実験シミ
ュレーション(球の衝突と運動量保存則:図2)
である。
http://www.dainippon‑tosho.co.jp/rika/kokoP/
chpt12/chpt12.html
このツールの詳細については本論後段に補
足として記述しているので参照されたい。
Ⅳ
実践授業の実際
実践授業については県立の高等学校3校で実施
した。以下に実践授業の概要を述べる。
1
実践授業1
図2
広島県立広島観音高等学校
- 175 -
観音高校で用いたソフト
観音高校の実践授業の学習指導案
学習内容
導
入
運動量保存則,はねかえり
係数の復習
シミュレーションソフト
の使い方の習得
指導上の留意点
運動量保存則・はねかえり係
評価の観点
備考・準備物
・興味・関心
プリントの配布
・衝突現象に対する
パソコン(各パソ
数の式を書かせる。
シミュレーションソフトの2
物体の衝突速度,はねかえり係
興味・関心
コンへのプログラム
数を変化させる操作方法等を説
・パソコンの操作方
のインストールは事
明する。
法の理解
前にすませておく)
教科書例題をシミュレー
ションソフトで解答させる。
はねかえり係数0の場合
についての考察
展
開
はねかえり係数1の場合
・自分で考えた意見
はねかえり係数0
規則性を見つけさせ,はねかえ
を他の生徒に伝える
の場合,衝突後どう
り係数0の意味を考察させる。
(技能・表現)
なるのかいくつかの
シミュレーションソフトのは
章で答えさせる。
ねかえり係数を1に設定してい
いくつかの例を行
①質量比が同じときに成り
るかどうか確認する。(机間指
い,法則を見つけさ
立つ法則の推測
導)
身近な運動量についての
考察
め
て,シミュレーションを行い,
の考察
立つ法則の推測
と
・科学的な思考
例を行い,簡単な文
②質量比3:1のときに成り
ま
はねかえり係数を0に設定し
せる。
解答は,できるだけ変数を使
って表すように指示する。
アメリカンフットボール,サ
ッカーなどでは,体重の大き方
体重が軽い場合,速度比を
が有利であると言われている。
大きくしないと勝てないこ
なぜかを問題をとおして考えさ
とを気付かせる。
せる。
・運動量保存に対す
る知識・理解
・身近な物理現象に
対する興味・関心
その他の自由に検索した
JAVAを使った,シミュレ
・物理的な事物・現
シミュレーションソフトを
ーションソフトをいくつか紹介
象に対する興味・関
用いて,様々な物理現象につ
する。
心
いて調べる。
・情報活用能力
9.授業実践者の感想
○初めて授業でシミュレーションソフトを用いて
行った。生徒はいつもの授業と比べて,よく取り
組んでいたので,次回も何かコンピュータを用い
た授業を行いたいと思っている。
○生徒は大変興味をもって,熱心に取り組んでい
た。
○インターネットを使ってのソフト検索では,こ
ちらは指示をあまりしていないが,自分でソフト
を見つけては,シミュレーションを行っていた。
○自分でソフトの開発をしたい。
( 今回は一次元衝
突しかできなかったため,二次元の衝突について
- 176 -
写真
観音高校の実践授業の様子
廿日市高校の実践授業の学習指導案
学習内容
導 音の周波数分析の簡単な例を提示する。
指導上の留意点
身近な音から考えさせる。
評価の観点
備考(準備物等)
・波動現象に
解説のプリント
具体的な例を示して,生徒が自ら気付 つ い て の 興
いていくように進める。
入
インターネッ トを使っ た情 報収集の
簡単な説明。
実際に検索を生徒にさせる。
味・関心
フリーソフトの著作権について,注意
する。
に1台使用
生徒の操作が円滑に進むよう机間支 ・情報収集に
対する意欲
させる。
・音と波形の
して使用させる。
キーワードの選び方について指導す だせる(科学 を用意する。
的な思考)
ダウンロードしたソフトの解凍はさ
せない。
開
間までに持参する。
と
イルのあるところ
ネット上のこのソフトの解説サイト
を生徒に提示する。
ネット上には,様々な解析ソフトがあ
り,簡単な方法で手に入ることを紹介す
るとともに,利用に当たって注意すべき
点も教える。
め
解析ソフトの入
ったFDを配る。
配ったFDを回
収する。
必要なFD等は
各自で用意する。
wave ファイルで収集させる。
も調べたい。)
○運動量保存則の実験(合体)を行っているが,
あまりいい結果がでない。シミュレーションの方
が生徒は分かりやすかったと感じる。
2
示す。
解凍の方法は簡単に話をする。
を示して,各自で自由に使ってみる。
自分の興味を もってい る音 を次の時
サイトの URL を
PC内の音ファ
wave ファイルであることを留意する。
ま
「 Wavespectra」
関 係 を 見 い という FFT ソフト
イルを使って,この解析ソフトの使い方 る。
に慣れさせる。
教師用パソコン
画面をプロジェク
ターで映す。
用意した解析 ソフトを FD から起動
パソコン内に あるいろ いろ な音ファ
ンプル
パソコンは2人
指示した解析 ソフトを ダウ ンロード 援を行う。
展
分析する音のサ
興味・関心をもち探究する意欲を喚起するととも
に,これまでに学習した「波の性質」を体験とし
て自分のものとする。また,高度の分析手法を通
して,探究の方法を身に付け,科学技術への関心
と自然現象への探究心を育てる。
実践授業2
広島県立廿日市高等学校
授業主題「音への興味・関心を高める教材開発へ
の一つの試み−周波数分析の利用−」
1 科目 物理Ⅱ(3単位)
2 対象学年 第3学年 2クラス 66 名
3 単元名 波動に関する探究活動
4 主題設定の理由
音は人間生活の中で身の回りに満ちあふれてい
る存在である。なにげなく聞き,発している音に
- 177 -
写真
廿日市高校で使用したツール
5 指導目標
○インターネットを利用して,情報収集や必要な
分析手法を入手する。
○音の分析方法の一つである「周波数分析」のツ
ール(FFT)を体験する。
○自ら集めた音を上記ツールを利用して分析して
みる。
6 指導計画(全2時間)
第一時(本時)
:インターネットを使って周波数
分析のためのツールを入手し,その概要を知る。
サンプル音を使ってツールに慣れる。
第二時:様々な音を周波数分析することにより,
どんなことが分かるかを学習する。
7 本時のねらい
インターネットを使った情報収集と入手したツ
ールの使い方を知る。
8 使用教室及び準備物
情報処理教室,パソコン20 台,データフロッピ
ー,プロジェクター
写真
3
廿日市高校の実践授業の様子
ンピュータシミュレーションを活用した授業を行
うことにより,生徒の波動に対する興味・関心を
高め,波動現象に対する理解を深めたいと考えた。
5 指導目標
我々の身の回りにある様々な波動現象と授業で
習得した理論的な波動の説明についてコンピュー
タシミュレーションを通して結び付け,生徒の波
動分野の苦手意識を払拭し,理解の習得を図る。
6.指導計画(全1時間)
本時は,波動分野のまとめとして特設の時間を
設けて授業を行う。授業で用いたシミュレーショ
ンソフトはインターネット上からダウンロードし
て用いる。(図4)
観察するシミュレーションは以下の①〜⑥
①ホイへンスの原理による平面波のでき方につい
て
②ホイヘンスの原理による球面波のでき方につい
て
③ホイヘンスの原理による波の回折について
④ホイヘンスの原理による波の屈折・波の反射に
ついて
⑤共振・共鳴,弦定常波及び管定常波について
⑥ドップラー効果について
7 本時のねらい
コンピュータを使用した授業を通して,波動現
象に対する興味・関心を高め,理解の徹底を図る。
8 使用教室及び準備物
物理教室において,パソコン画面をプロジェク
ターでスクリーンに投影する。
(1) 今回使用したソフト
北村俊樹『たまきち
s
Home Page 』
http://www.bekkoame.ne.jp/ kitamula/
otoundo.htm からダウンロードした。
実践授業3
広島県立広島工業高等学校
授業主題 波動の理解を図る教材−コンピュータ
シミュレーションを用いて−
1 科目 物理ⅠB(3単位)
2 実施学年 建築科 3年 39 名
3 単元名 波動
4 主題設定の理由
高等学校の物理の授業において,波動は生徒が
理解しにくい単元である。学習のまとめとしてコ
- 178 -
図4
広島工業高校で用いたソフト
広島工業高校の実践授業の学習指導案
学習内容
本時の目標を生徒に明示する。
指導上の留意点
評価の観点
インターネッ トを利用した こと
準備物等
パソコン,
シミュレーション①〜⑥の説明をする。 のある生徒,物理のサイトを開いた
プロジェク
パソコンの操作はすべて教師が行い,生 ことのある生徒の数を把握する。
ター,スク
入 徒はその様子を自由にメモをとりながら観
映像が見えに くい生徒がい る場 ・メモをとっている リーン
察する。
合,座席等の配慮をする。
か
授業感想メ
導
モの配布
インターネットに接続し,
「物理」
「教育」 ◎画面が表示されたときの生徒の
黒板に以前
「小中高」をキーワードに目的のWebペ 様子を特にチェックする。
板書した波
ージを開く。
◎動画が動き始めたときの生徒の ・物理的な事物・現 動 図 を 簡 単
①について
様子を特にチェックする。(以下, 象に関する興味・関 に 書 い て お
質問:ホイエンスの原理を利用した作図の ⑥まで同じ)
仕方を覚えているか。
心があるか
く。
分かりにくい場合には,すぐに②
シミュレーションの観察をする,作図の に進む。
速度を少しずつ速くしていく。
②について
・ホイヘンスの原理
シミュレーションの観察をする,作図の
から実際の平面波
速度を少しずつ速くしていく。
③について
を想起できるか(科
3次元であり,2次元で学んでき 学的な思考)
シミュレーションの観察をする,スリッ た生徒がとまどうと予想され,薄目
展 トの幅を少しずつ大きくしていく。
で見ること,3次元であることを伝
開 ④⑤について
える。◎チェック
シミュレーションの観察をする,入射角
を少しずつ大きくしていく。
作図の速度を速くせず,媒質の境 ・反射,屈折に関し
界面付近での反射・屈折の原理を, て 媒 質 の 違 い に よ
授業を振り返りながら
再度説明 り入射角と反射角,
する。◎チェック
⑥について
屈折角の関係をと
音源の速度の 変化に対する ,前 ら え る こ と が で き
シミュレーションの観察をする,音源の 方・後方における波長の変化を視覚 る か ( 科 学 的 な 思
速度を少しずつ速くしていく。
的にとらえやすいかどうかを中心 考)
質問:音源の前方・後方での振動数の大き に質問する。
さを計算させる。
簡単に計算
授業ではあま り板書しなか った ・質問に対する回答 し た 結 果 を
円形波によるシミュレーションで がされているか(表 板 書 し て お
あることも伝える。
現)
・公式が使えるか
(知識,理解)
ま
と
め
インターネット上には物理に関する多く
以前の授業中 に理解しにく かっ ・物理的な事物・現
のサイトがあるので,自宅や学校での自由 た生徒に質問すること。
研究の中で活用すること。
アンケートをとる。
象に関する興味・関
机間指導で,質問に対応し,自由 心,探究しようとす
な意見が出せるよう配慮する。
- 179 -
る意欲
く。
(2) コンピュータの画面を投影した大きさはスク
リーン幅 200(cm)×200(cm)
8 感想
(1) 各質問に対する生徒の反応(一部抜粋)
○動きがあるので分かりやすい。イメージしやす
かった。
○授業中に10 分程度でも取り入れたらおもしろい
かも,でも,ダウンロードが遅すぎるので待つの
がたいぎい。
○自分で調べたい。音声が入ったものはないの?
○先生が教えながらする方が楽でいいし,分かり
やすい。
(2) 授業実践者の感想
今回は,北村さんのシミュレーションが分かり
やすく,細かな数値も表記してあり,かつ変数が
多くあったため,様々な複雑な動きも視覚的にと
らえられ自分の勉強にもなった。生徒の反応も,
チェック(学習指導案の◎印部分)時のすべてに
おいて「ホー」という歓声が上がった。ソフトの
すばらしさもあるが,単元の最後にまとめとして
行う今回のような形態は生徒にとって楽しいもの
であったようだ。それは,インターネットを開い
て投影したときに,この単元の授業中にはあまり
興味を示さなかった生徒も興味ありげに見続けて
いたことからも分かる。
しかし,そのような生徒に,
「分かりづらかった
ところが分かるようになったか?」と聞くと,
「分
かったような,分からんような,でも楽しかった
し,分かりやすいとは思う」というあいまいな意
見が多い。おそらくインターネットで分からせる
ことよりも,インターネットを利用して理解を深
める授業形態の方が本校の生徒にはなじむのでな
いかと思われる。
表については,観音高校,廿日市高校は上位3項
目を選択,広島工業高校は10 項目まで選択するこ
とを可として実施した。
1
授業実践校全体の分析
(1) 授業に関する線結び式内容分析表から
はじめに,生徒が回答したアンケートから生徒
個々について,上位3個のみデータを抽出した。
次に,授業実践を行った3校のデータを統合し,
線結び式内容分析法で分析を試みた。図5は開発
した分析ツールにより上位15%以上の生徒が選択
した場合赤の実線(紙面上では灰色になってい
る。)で,13%以上が黒の実線,10%以上が黒の破
線で線を引いたものである。これをみると生徒の
図5
授業に関する分析表
生徒が選んだ項目の割合
7%
Ⅴ
分析と考察
3%
10%
1%
高等学校物理の授業におけるマルチメディア使
用の効果について調べるために,先に開発した線
結び式内容分析表の分析ツールを用いて分析を行
った。
実践授業はいずれの実践校も,事後調査のみと
し,線結び式内容分析表の授業に関するアンケー
トとマルチメディアに関するアンケートの2種類
及び,マルチメディアに関する四段階評定尺度法
によるアンケートを実施した。線結び式内容分析
- 180 -
30%
2%
10%
2%
15%
マルチメディアの使
用に関する項目
20%
1
図6
2
3
4
5
6
7
8
9
10
生徒が選択した項目の割合(凡例の数字は表 4
の「気づき」の番号に相当する。)
授業に関する意識は「教師の説明」
「マルチメディ
アの使用」
「生徒中心の学習」が上位の 3 項目とな
っていることが分かる。10 項目ある選択肢の中か
ら,
「マルチメディアの使用」について着目し選択
した生徒は,図6のように 20%に達し,授業の中
で,マルチメディアを使用することに対して注意
を向けていることが分かる。
図7
いて調べるために開発したツールの心理―気づき
のツールを用いて分析を行った。図8は心理状態
「わかった」を選択した生徒について抽出した線
結び式内容分析表である。この図を見ると授業が
分かるための必要な要素として生徒がもっとも重
要であると考えているのは,教師の「説明」であ
ることがうかがえる。加えて「説明」は「分かり
やすく」「ていねい」である必要がある。
図9は,心理状態に関する分析の「楽しかった」
について調べたものである。生徒が楽しかったと
感じるための必要な気づきは「マルチメディアの
使用」と「生徒中心の学習」であることが分かる。
特に「マルチメディア」はその使用が「あったの
で」を選択した生徒数が多いことから,授業に用
いられること自体を生徒は「楽しい」と感じるこ
とが分かる。
マルチメディアの使用に関する分析
次に,
「マルチメディアの使用」を選択した生徒
について分析を行う。図7をみると「マルチメデ
ィアの使用」は「あったので」
「楽しかった」,
「少
なかったので」
「不満だった」という意見の生徒数
が多いことが分かる。このことから生徒は授業に
おけるマルチメディアの使用をもっと望んでいる
と考えられる。
次に授業が分かるための必要な要素は何かにつ
図9
心理状態「楽しかった」の分析
また,「楽しい」と感じる要素の中に「生徒中
心の学習」も多くあることが分かるが,これは今
回実践授業を行ったうちの2校は生徒自身がコン
ピュータによる入力を行っているので,その作業
を「生徒中心の学習」ととらえていると考えられ
る。しかし,広島工業高校については,プロジェ
クターによる演示のみであることから,詳しくは
学校ごとの分析が必要であると考えられる。
図8
心理状態「わかった」の分析
(2) マルチメディアに関する線結び式内容分析表から
図 10 はマルチメディアに関する内容分析表によ
る分析結果である。
これから生徒のマルチメディアに関する注意は
「映像」「動画」に向けられていることが分かる。
- 181 -
これをみると,前述の内容を裏付けるように授業
が「分かる」ためには,映像が分かりやすいこと,
文字が多くないこと,さらに動画が丁寧であるこ
とが必要であることが分かった。しかし,分析表
に赤線がないことから,今回の実践授業では,
「分
かる」ためにマルチメディアは大きな効果を示し
ていないことも分かる。
図 10 マルチメディアに関する内容分析表
また,
「音声」の使用の少なさに不満を持っている
生徒が多いことが分かる。
次にそれぞれの項目について分析を試みる。
図 11 は気づき「映像」から属性,心理状態への
線引きを示した内容分析表である。まず,「映像」
についてみてみると,1から11 の属性ほとんどに
向け線が引かれていることが分かる。このことは
「映像」については生徒の感じ方によってその評
価が大きく異なる要素で,一義的に「映像」のあ
るべき姿を決めにくいことを示している。
図 11
図 12
心理状態「わかった」からの分析
さらに授業に関する線結び式内容分析表におけ
る調査で,心理状態「できた」
「わかった」を選択
した生徒と「できなかった」
「わからなかった」を
選択した生徒に分け,それぞれのグループについ
てマルチメディアに関する線結び式内容分析表の
分析を行った。図13 の左側は授業に関するアンケ
ートで「できた」
「わかった」を選択した生徒の内
容分析表,右側は「できなかった」
「わからなかっ
た」を選択した生徒の内容分析表である。
「映像」からの分析
また,
「属性」の中でも「やさしかったので」
「わ
かった」,
「 むずかしかったので」
「 わからなかった」
につながる意見が多く,
「映像」が授業の理解につ
ながる大きな要素であると考えられる。
図 12 はマルチメディアに関する線結び式内容
分析表の心理状態からの分析を示したものである。
- 182 -
図 13
授業に関する内容分析用から分析したマル
チメディアの関する内容分析表
これを見ると,両者とも項目の選び方はよく似
ている。このことから,授業が理解できる生徒と
理解できなかった生徒のマルチメディアの使用に
対する気づきと属性の選択項目には差がないこと
が分かる。しかし,その選択数の割合を見ると,
授業を理解した生徒は音声がなかったり少なかっ
たりしたことをあげている割合が多く,選択した
心理状態を見てみると,授業が理解できた生徒は
音声が少なかったことに不満を感じていることが
分かった。
次にマルチメディア使用の楽しさを調べるため
にツールを用いて分析を行った。図14 は,心理状
態「楽しかった」から分析を行ったものである。
表5
四段階評定尺度法によるアンケート項目
設 問
質
番 号
問
内
容
1
画像の大きさは適切だった
2
画面の画像が見やすかった
3
画面の表示文字はよく見えた
4
音量は適切だった
5
動画があったほうがよい
6
文字はもっと多いほうがよい
7
画面の色はもっと多いほうがよい
8
写真がもっとあった方がよい
9
音声はもっとあった方がよい
10
今日の授業は楽しかった
11
コンピュータを使った授業がもっとしたい
3点,「どちらかといえばそう思わない」を2点,
「そう思わない」を1点として,実践校ごとにア
ンケート項目と平均点の関係を表したグラフであ
る。
平均値のグラフ
4.00
3.00
図 14
2.00
心理状態「楽しかった」からの分析
1.00
設問1
これを見ると,
「映像」と「動画」が「あったので」
「楽しかった」という意見がもっとも多くなって
いる。つまり,楽しい授業のためには「映像」と
「動画」の存在が大きな要因となっていることが
分かる。また,
「動画が」
「分かりやすかったので」
「楽しかった」という意見の割合が多く,「動画」
の「分かりやすさ」が楽しさを導く要素になって
いることが見いだせた。
2
四段階評定尺度法による分析
四段階評定尺度法による分析を行うために表5
で示した項目によりアンケート調査を行った。
(調
査3)
図 15 は前述のアンケートの回答について,「そ
う思う」を4点,
「どちらかといえばそう思う」を
設問2
設問3
観音高校
図 15
設問4
設問5
設問6
廿日市高校
設問7
設問8
設問9
設問10
設問11
広島工業高校
四段階評定尺度法によるアンケートの平均値
この図を見ると広島工業高校の設問1から設問
4を除いてほぼ同じ形状をしていることが分かる。
設問1から設問4及び設問10 は実践された授業の
方法,内容にかかわるものである。しかしその他
の設問は生徒のマルチメディアに対する意識を表
すものとも考えられ,生徒の授業に対するマルチ
メディア使用に対する希望とも考えられる。すな
わち物理の授業におけるマルチメディアの使用に
対して生徒は動画,画面の色,写真及び音声は豊
富に使用すべきであるが,文字は少ない方がよい
と考えていることが分かった。特に動画について
は各実践校ともほぼ全員があったほうがよいと答
え,動画が授業におけるマルチメディア使用の必
- 183 -
須条件といってもよい。
表7
3
実践校相互の比較による分析
表6
調査3に対する実践校相互の有意差
1
2
3
4
観音- 廿日市
5
6
7
8
*
廿日市- 広島工業 *** *** *** ***
*
広島工業- 観音
**
*** *** *** ***
観音高校
廿日市高校
広島工業高校
シミュレーション
シミュレーション
シミュレーション
全体画像
なし
スクリーン大
スクリーン小
使用ソフ
使用教科書
インターネット その場でインタ
ト
準拠
からダウンロー ーネットからダ
形態
図15 の設問1から設問3における広島工業高校
の平均値は他の実践校に比べて有意(表6参照,
***は 0.1%未満,**は1%未満,*は5%未満の
危険率で有意差があることを示している。)に低い
値を示している。
各実践授業の内容比較
ドしたもの
ウンロード
音声
なし
あり
なし
文字
小
小
小
写真
なし
なし
なし
9
10
11
動画
あり
あり
あり
**
*
**
個人入力
任意
あり
なし
*
自由検索
あり
あり
なし
***
プリント使用
書き込み式
参照用
なし
物理の授業 今回が初め
以前に使用し
今回が初めて
におけるコ て
たことあり
(アンケートの
**
*
表7の各実践授業の内容比較を見ると広島工業
高校は実践授業でのスクリーンは2m四方の大き
さで,生徒個人ごとに使用できるパソコン及び
CRT はない。これが他の2校との大きな差をもた
らしたものと考えられるが,観音高校がスクリー
ンを使用していないことを考慮すると,画像につ
いてはスクリーンを用いることが必ずしも見えや
すいとはいえないことが分かる。
県内の学校においてスクリーンを利用した研究
授業等が行われているが,プロジェクターとスク
リーンを利用した授業形態では今のところ,教室
内を暗くしないと見えにくいので,暗くする必要
がある。室内を暗くすると生徒の集中力や思考力
は途切れがちになるという傾向があり,また暗く
したり明るくしたりする作業を繰り返すことで,
生徒の作業を中断させることになる。そのため,
コンピュータ使用が,先に述べた道具の定義の3
点目とコンピュータ使用がかけ離れてしまうこと
になる。
分かるための道具として今後,コンピュータの
使用は必要不可欠なものとなっていくことは疑う
余地がない。しかし,そのためにはマルチメディ
アの要素の一つである映像または動画の使用が大
切であることはすでに述べた。であるならば,映
像や動画を生徒に示すための視聴覚機器は非常に
重要な要素となる。
物理におけるマルチメディア使用は今回の3校
とも取り上げたように,日常的に使用するのはシ
ミュレーションが主体になっていくと考えられる。
そのためには,生徒個人が入力できるコンピュー
ンピュータ
趣旨を説明後授
使用
業)
タが必要であり,ミレニアムプロジェクトにより
一人一台の使用が可能となっていく。任意の入力
を可能とし,マルチメディアを授業が分かるため
の道具とするためには,物理における使用は特に
一人一台の配備が望まれる。
写真
二人一台使用の授業の様子
図 16 は四段階評定尺度法による調査において,
マルチメディアの要素である動画,文字,画面の
色,写真及び音声について各学校ごとの調査項目
の得点を平均し,比較したグラフである。
この図の特徴的な項目は音声であろう。表5か
ら音声については観音高校だけが他校に較べて有
- 184 -
4
実践校のマルチメディア使用に対する評価
動画
4
3.5
3
2.5
音声
文字
2
1.5
写真
観音高校
色
廿日市高校
広島工業高校
図 16 実践校ごとのマルチメディア使用
に対する評価
意にその得点が低い。表 6 から観音高校は音声使
用がないにもかかわらず,音声があったほうがよ
いという意見が少ないことが分かる。三校の授業
内容を比較しても,廿日市高校は波動分野,特に
音に対する授業内容で音声の使用もあった。また,
広島工業高校は音声のないシミュレーションであ
った。そして観音高校の授業は運動量保存につい
てのシミュレーションであり,授業において音声
が必要かどうかについては,その授業内容による
ことが分かる。つまり,授業におけるマルチメデ
ィアの音声は,必ず使ったほうがよいというわけ
ではなく,その授業内容に応じて使用するかどう
か判断することが望ましい。
また,設問10 の「今日の授業は楽しかった」及
び設問11 の「コンピュータ使った授業をもっとし
たい」とマルチメディアとの関連を調べるために
設問10 及び設問11 を目的変数,設問1から9を説
明変数として重回帰分析を行った。すると,設問
10 に対しては設問2の「画面の画像がみやすかっ
た」が設問 11 に対しては設問3の「画面の表示文
字がよく見えた」5%未満の危険率で有意な変数
となることが分かった。
つまり,授業が楽しかったかどうかとマルチメ
ディアについては画像の見やすさが大きな要素を
占め,
「 コンピュータを使った授業がもっとしたい
か」については画面の文字が大きな要素を占めて
いると考えられる。ただし,この分析は説明変数
が限られているので,もっと多くの説明変数から
分析を行えばより詳しい分析となるであろう。
考察
今回の実践授業は,日常的にマルチメディアを
使用していない高等学校での授業である。マルチ
メディア機器の使用は当然生徒の興味を引くもの
であると考えられるが,授業についての線結び式
内容分析法による分析から生徒は,分かることを
第一の目的として授業を受けていることが分かっ
た。生徒は教師に分かりやすい説明を求めている。
一方,調査3において,質問項目「今日の授業
は楽しかった」と「コンピュータを使った授業を
もっとしたい」の回答には高い相関があった。生
徒は授業においてコンピュータを使用することを
望んでいるし,コンピュータを使用した授業は楽
しいと感じている。すなわち,生徒もコンピュー
タを中心としたマルチメディア機器を授業が分か
るための道具として必要としていると考えられる。
Ⅵ
1
○
成果と課題
研究の成果
線結び式内容分析法を視覚的に分析するため
のツールが開発できた。
また,今回の研究を通して以下のことが明らか
になった。
○ 生徒は,授業のなかでマルチメディアの使用
に注意を向け,マルチメディアの使用を多く望
んでいること。
○ 生徒は,マルチメディアを使用した授業,さ
らに生徒自身がマルチメディア使った生徒中心
の授業を楽しいと感じている。特に,動画の分
かりやすさが授業の楽しさに対して重要である
こと。
○ 生徒のマルチメディアに関する関心は映像や
動画に向けられており,授業が分かるためには
映像の分かりやすさが,また文字数が多くない
必要があること。
○ 授業を理解できた生徒群はさらに音声の使用
を求め,授業が理解できなかった生徒群は音声
の使用を多く求めていないこと。
○ 物理の授業に対して生徒は,動画,色,写真
は多くあった方がよいが,音声については授業
内容に応じて判断する必要があること。
- 185 -
○
授業の際,生徒に画像を提示する手段として,
スクリーンを用いることは必ずしも必要とはい
えず,生徒一人一人が見えるような映像機器が
必要であり,一人一人が入力できるような設備
が必要であること。
○ 特に,音声についてはその単元の目的を踏ま
え必要に応じて使用することが望ましいこと。
2
また,様々なマルチメディア機器それぞれにつ
いて,教育における効果,問題点を探る研究を進
めていきたい。
さらに,今回の研究を踏まえ,物理の授業で使
用し,生徒が物理(理科)が分かるような,また
好きになるようなディジタルコンテンツの作成を
行い,県下で作製されているコンテンツと併せて
教育センターから発信していきたい。
今後の課題
今回の実践授業では,3校ともシミュレーショ
ンによる授業であった。シミュレーションの危険
性について杉本(注7)は「変数のコントロールが
容易で,実験の省力化ができる一方,変数のコン
トロールが容易に変えられるという錯覚をもたら
したり,リアルな現象は単純ではなく,明らかに
されていないモデルや,仮定を用いている場合が
あることである。これらの欠陥を補うためには,
シミュレーションで用いたモデルは極めて単純化
されたものであることを児童生徒に自覚させる必
要がある。」と述べている。高等学校物理が扱う現
象は,実際の自然界において起こる現象を理想化
したものである。生徒が現実と仮想現実(バーチ
ャルリアリティ)との区別をなくしてしまわない
よう,常に教師は注意を払う必要がある。今後,
教材としてのシミュレーションの効果と問題点に
ついて明らかにしていきたい。
また,情報機器,通信網の発達により,今後は
インタラクティブな使用法がさらに増加していく
と考えられる。具体的には,双方向通信を利用し
た,科学博物館や大学との遠隔授業や他の学校と
の共同実験などである。今回の広島工業高校の実
践授業において,インターネットのダウンロード
の時間がかかりすぎ,生徒の思考を妨げたとの報
告があった。マルチメディアの使用において教師
はその機器,動作環境の状況をよく把握した上で,
授業に望まなければならない。加えて,タッチパ
ネルディスプレイなどの視聴覚機器が様々な施策
によって学校に導入されつつある。スクリーンを
利用した授業方法には,いくつかの問題点が指摘
されており,これらの視聴覚機器は,スクリーン
の欠点をいくらか改善できる要素を持ったもので
ある。今後,各学校においてそれらの視聴覚機器が
積極的に使用されていくだろう。マルチメディア
が授業を分かるための道具として使用されるため
に何が必要か明らかにしていきたい。
おわりに
教師は,マルチメディアを使用することを目的
としてはならない。マルチメディアが生徒の理解
度を高める効果があるとは必ずしも言えないとい
う報告もある。マルチメディアをどの場面で,ど
う使うかが重要になってくるのである。尾崎春樹
は,マルチメディアを授業に有効に生かすために
は,
「先生の指導力と,授業に役立つ,優れたコン
テンツが必要」であり,さらに「生徒に具体的イ
メージをつかませるような短いコンテンツがたく
さん必要で,このコンテンツが授業に溶け込むよ
うに使われて初めてコンピュータがスムーズに授
業に使われたといえる。」と述べている。(注8) 高
等学校の物理においても,マルチメディアは授業
をより分かりやすくするための「道具」であるこ
とを忘れてはならないと思う。
来年度から,高等学校において新学習指導要領
による授業が実施される。新学習指導要領では新
教科「情報」が導入され,情報機器の基本的取扱
いを習得させる。このことからも教科科目,物理
におけるマルチメディアの使用はますます,分か
る授業を創造していくための「道具」として重要
になると考えられる。この研究がその際の一助に
なれば幸いである。
最後に,本研究を進めるに当たり,御多用な中
にもかかわらず御指導,御助言をいただきました
広島大学大学院教育学研究科の前原俊信先生,ま
た研究協力員及び実践協力校の皆様に心から感謝
申し上げる。
- 186 -
【研究指導者】
広島大学大学院教育学研究科
【研究協力校及び研究協力員】
広島観音高等学校
廿日市高等学校
広島工業高等学校
教授
前原
俊信
教諭
教諭
教諭
棟田
森本
西本
陽
和義
仁
【引用文献】
(注1) 杉原義得『図解マルチメディア』中経出版 1994 p.12
(注2) 家野等『マルチメディア新聞』教育家庭新聞社 2002 年5月4日
(注3) 文部省『高等学校学習指導要領』大蔵省印刷局 平成 11 年 p.12
(注4) 佐伯胖『新・コンピュータと教育』岩波書店 1997 p.34
(注5) 文部省『高等学校学習指導要領解説 理科編理数編』文部省 平成 11 年 p.77
(注6) 理科教育研究会『変わる理科教育の基礎と展望』東洋館出版社 2002 p.93
(注7) 上掲書(注6) p.97
(注8) 尾崎春樹「ミレニアム後の風景」『視聴覚教育』622 号 2001 p.20
【参考文献】
(1) 広島県立教育センター『授業に取り入れよう!コンピュータ活用の工夫』 平成 14 年
(2) 高知県教育委員会『授業評価システム』 平成9年
(3) 鹿児島総合教育センター研究紀要 平成 10 年
(4) 日本理科教育研究学会編『キーワードから探るこれからの理科教育』東洋館出版社 1999
補足
1 結び引き内容分析法の分析ツール開発について
線結び式内容分析法は「気づき」と「属性」
,
「属性」
と「心理状態」を結び付けるものである。それゆえ,
「気
づき」に関するデータと「属性」に関するデータ,属性
に関するデータと心理状態に関するデータの組に分けて
処理する必要がある。そこで,アンケートにより得られ
たデータをそれぞれ2桁整数でできた三つのグループに
分かれた数値であると考える。そう考えることにより,
生徒から得たデータを6桁の数値データとし,その後上
4桁と下4桁の数値データとして処理することにした。
一度6桁の数値とする利点は,生徒の三つのデータを一
つのデータとして扱うことができるので,後で様々な分
析に使うことができることである。
次にそれぞれの数値を「気づき」と「属性」
,
「属性」
と「心理状態」のマトリックスにして,その「気づき」
の選択番号に対する
「属性」
の選択番号の度数を調べる。
この操作については,先に処理したデータを表計算ソフ
トに組み込まれている関数(countif 関数)を使用して
行う。ここからの分析は組み込まれている関数では処理
できないので,プログラムを作成し,マクロを利用して
処理することとする。線の太さ,種類を決めるために画
面上で分析する割合を任意に設定する。その割合に応じ
て,前述のマトリックス表からそれに適した数値の項目
を抽出し,画面上に線を引いていく。このマクロを実行
した結果図を図 17 に示す。
図 17 結果図
製作したマクロは「気づき」と「属性」
,
「心理状態」
をそのデータ数に応じて単純に線を引いていくので,そ
の因果関係が明らかにならない。たとえば,図 17 の場合
「説明が」
「多かったので」
「楽しかった」のか,
「生徒中
心の学習が」
「多かったので」
「楽しかった」のかを判断
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することはできない。そこで,改良型ツールとしてマク
ロ2を作成した。一つの「気づき」のみを使用者が自由
に抽出でき,その「気づき」に対する「属性」
,
「心理状
態」を示すことができるようにした。その結果,先のマ
クロでは行えなかったそれぞれの因果関係を示すことが
できるようになった。また,各「気づき」に対して肯定
的な意見と否定的な意見の割合を表計算ソフトの関数を
使うことにより計算し,それぞれの割合を表にするとと
もにグラフ化も行った。この表と線結び式内容分析表と
を併用することにより,よりそれぞれの効果の分析に関
して深い考察が行えると考えた。しかし,
「気づき」から
線を引いて分析していくこれまでのプログラムでは,生
徒の「心理状態」が分かりにくい欠点があることが分か
った。そこで,図 18 のように「心理状態」から「属性」
,
「気づき」へと線引きを行うサブルーチンを作製した。
これにより,生徒の「心理状態」を引き起こす要因とな
っている「気づき」を見いだすことができるようになっ
た。図 19 にフローチャートを示す。
理状態」
のそれぞれの項目数を 10 項目以下にすることが
望ましい。
今回の研究でも 11 項目目以降の選択肢を選ん
だ生徒数は少なく,生徒は上位項目から選択する傾向が
あるのでないかと考えられる。また,特に一番上位に位
置している項目を選択する傾向が強く,どの調査におい
ても一番多い選択数になっている。この傾向はどのよう
な教育調査においてもみられることである。これを解決
するためには,生徒は選択項目の位置を適宜入れ替えて
調査を行うなどの工夫が必要であろう。これらのことを
注意して,県内の各教育現場において,授業評価の一つ
の方法として線結び式内容分析法による評価を今回開発
した分析ツールを用いて行い,授業改善を行う一助とし
ていただくことができれば幸いである。
なお,本分析ツールは広島県立教育センターの Web ペ
ージからダウンロードすることができる。
開始
項目選択数入力
設定割合による項目数分割比の決定
分析項目番号等の入力
設定項目から属性への線引き
図 18 心理状態からの分析
属性から心理状態への線引き
2 線結び式内容分析法の活用について
線結び式内容分析法は,生徒の表現能力によらず,生
徒の意識を表すのに有効な方法である。今回開発したツ
ールにより,任意の「気づき」から「属性」
,
「心理状態」
を調べることが可能になった。また,
「心理状態」からの
線引きを可能にしたことにより,どの「気づき」がどう
いう「属性」を持ち,その「心理状態」に達するのか分
かるようになった。このツールを用いて,様々な評価が
行えるようになるであろう。
しかし今回使用した分析表の「気づき」
,
「属性」及び
「心理状態」の選択肢の数は多く,生徒にとっても判断
しにくい項目もあったようである。また,選択肢が多す
ぎると調査後の分析も行いにくい。教師各人が授業評価
の目的を明らかにした上で,
「気づき」
,
「属性」及び「心
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内容分析表の表示
No
印刷は必要か
Yes
内容分析表の印刷
終 了
図 19 フローチャート
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